特許第5945194号(P5945194)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5945194
(24)【登録日】2016年6月3日
(45)【発行日】2016年7月5日
(54)【発明の名称】電動圧縮機
(51)【国際特許分類】
   F04C 23/02 20060101AFI20160621BHJP
   F04B 39/00 20060101ALI20160621BHJP
   F04B 39/12 20060101ALI20160621BHJP
   F04C 29/00 20060101ALI20160621BHJP
【FI】
   F04C23/02 K
   F04B39/00 106E
   F04B39/12 J
   F04C29/00 B
   F04C29/00 T
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-185620(P2012-185620)
(22)【出願日】2012年8月24日
(65)【公開番号】特開2014-43793(P2014-43793A)
(43)【公開日】2014年3月13日
【審査請求日】2015年7月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】500309126
【氏名又は名称】株式会社ヴァレオジャパン
(74)【代理人】
【識別番号】110000545
【氏名又は名称】特許業務法人大貫小竹国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】出口 裕展
(72)【発明者】
【氏名】岡倉 裕暁
(72)【発明者】
【氏名】安立 秀博
(72)【発明者】
【氏名】神宮 直樹
【審査官】 後藤 泰輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−343438(JP,A)
【文献】 特開2002−235669(JP,A)
【文献】 特開2009−290995(JP,A)
【文献】 特開2008−2420(JP,A)
【文献】 実開昭57−118638(JP,U)
【文献】 特開2012−120262(JP,A)
【文献】 特開2006−112276(JP,A)
【文献】 特開2006−274972(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0135523(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 23/02,29/00
F04B 39/00,39/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、このハウジング内に、圧縮機構と、この圧縮機構を駆動する電動機とを備え、前記電動機は、前記ハウジング内に固定されたステータと、駆動軸に固装されて前記ステータの内側に回転可能に配置されたロータとを具備する電動圧縮機において、
前記ハウジングは、前記ステータが内部に固定される第1のハウジング部材と、前記第1のハウジング部材の軸方向の一端側に組み付けられる第2のハウジング部材とを少なくとも備え、
前記第2のハウジング部材に前記ステータの軸方向の移動を規制する移動規制部が設けられていることを特徴とする電動圧縮機。
【請求項2】
前記第2のハウジングと前記ステータとの間の空間には、電装部品が配設され、前記移動規制部と前記ステータとの軸方向の距離は、前記ステータと前記電装部品との軸方向の距離より短く設定されていることを特徴とする請求項1記載の電動圧縮機。
【請求項3】
前記移動規制部は、前記第1のハウジング部材と前記第2のハウジング部材とを締結するボルトが螺合する前記第2のハウジング部材に形成されたボス部であることを特徴とする請求項1又は2記載の電動圧縮機。
【請求項4】
前記移動規制部と前記ステータとの間には、弾性部材が設けられることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の電動圧縮機。
【請求項5】
前記ステータの外周面には、前記第1のハウジング部材と前記第2のハウジング部材とを締結するボルトを挿通させるための凹部が形成され、
前記凹部と前記ボルトとの間隙には、弾性部材が設けられていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の電動圧縮機。
【請求項6】
前記ステータの軸方向の端部であって、前記第2のハウジング部材とは反対側の端部は、前記第1のハウジング部材に設けられた段差部に当接していることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の電動圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハウジング内に、圧縮機構とこの圧縮機構を駆動する電動機とを備えた電動圧縮機に関し、特に、ハウジング内に収容された電動機のステータの移動を規制する機構を備えた電動圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
電動圧縮機は、ハウジング内に、圧縮機構と、この圧縮機構を駆動する電動機とを収容して構成されるが、電動機を構成するステータをハウジングに固定する場合には、ハウジングの内径をステータコアの外径よりも僅かに小さく形成し、ハウジングを高温状態にすることで熱膨張させ、この熱膨張したハウジング内に常温のステータを嵌入させ、その後、ハウジングを常温に戻すことでハウジングを収縮させてステータをハウジングに固定する、いわゆる焼き嵌めが採用されている(特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9―287585号公報
【特許文献2】特開2011−196244号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ステータコアは、磁性材である鉄系材料が用いられ、これに対して、ハウジングは、軽量化のためにアルミ系材料が用いられており、熱膨張係数に大きな差がある。このため、ステータコアをハウジングに焼き嵌めによって固定する上述した構成においては、車両の運転状況によって電動圧縮機が高温になった場合に、ハウジングのステータコアに対する保持力が低下し、ステータコアがハウジングに対して移動し、コネクタ等の電装部品やボビン等の絶縁部材がステータやハウジングに接触し、破損する可能性があった。
【0005】
本発明は、係る事情に鑑みてなされたものであり、高温時にハウジングのステータに対する保持力が低下した場合でも、ステータの移動を規制し、コネクタ等の電装部品やボビン等の絶縁部材の破損を防止することが可能な電動圧縮機を提供することを主たる課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を達成するために、本発明に係る電動圧縮機は、ハウジングと、このハウジング内に、圧縮機構と、この圧縮機構を駆動する電動機とを備え、前記電動機は、前記ハウジング内に固定されたステータと、駆動軸に固装されて前記ステータの内側に回転可能に配置されたロータとを具備する構成において、 前記ハウジングは、前記ステータが内部に固定される第1のハウジング部材と、前記第1のハウジング部材の軸方向の一端側に組み付けられる第2のハウジング部材とを少なくとも備え、前記第2のハウジング部材に前記ステータの軸方向の移動を規制する移動規制部が設けられていることを特徴としている。
【0007】
したがって、高温時にハウジングのステータに対する保持力が低下し、ステータが軸方向に移動しようとした場合でも、第2のハウジング部材に設けられた移動規制部によりステータの軸方向の移動が規制され、コネクタ等の電装部品やボビン等の絶縁部材がステータやハウジングと接触することを回避することが可能となる。
【0008】
特に、前記第2のハウジングと前記ステータとの間の空間に電装部品が配設される場合には、前記移動規制部と前記ステータとの軸方向の距離は、前記ステータと前記電装部品との軸方向の距離より短く設定することが好ましい。
このような構成とすることで、ハウジングのステータに対する保持力が低下してステータが軸方向に移動しても、ステータが電装部品に当たるよりも先に移動規制部材に当たるので、電装部品との接触を回避でき、電装部品を保護することが可能となる(電装部品の破損を回避することが可能となる)。
【0009】
ここで、上述した移動規制部は、前記第1のハウジング部材と前記第2のハウジング部材とを締結するボルトが螺合する前記第2のハウジング部材に形成されたボス部で構成するようにするとよい。
このような構成によれば、既存の構成を利用して移動規制部が構成されるので、移動規制部を設けるスペースが不要となる。
【0010】
また、前記移動規制部と前記ステータとの間には、弾性部材を設けるようにしてもよい。
このような構成によれば、ハウジングのステータに対する保持力が低下しても、ステータの軸方向の移動や振動を弾性部材により効果的に抑えることが可能となる。
【0011】
なお、ハウジングのステータに対する保持力が低下すると、軸方向のみならず、周方向にも移動することになるが、このような不都合は、前記ステータの外周面に、前記第1のハウジング部材と前記第2のハウジング部材とを締結するボルトを挿通させるための凹部を形成し、この凹部と前記ボルトとの間隙に、弾性部材を設けることで対応するとよい。
【0012】
また、前記ステータの軸方向の端部であって、前記第2のハウジング部材とは反対側の端部は、前記第1のハウジング部材に設けられた段差部に当接するようにステータをハウジングに組み付けるとよい。
このような構成においては、ハウジングのステータに対する保持力が低下しても、ステータは、第2ハウジング側へしかずれることがないため、軸方向の片側(第2のハウジング部材側)だけの移動規制を管理すればいいことなり、ステータの移動規制管理が容易となる。
【発明の効果】
【0013】
以上述べたように、本発明によれば、ステータが固定される第1のハウジング部材と軸方向で組み付けられる第2のハウジング部材に、ステータの軸方向の移動を規制する移動規制部を設けたので、ハウジングのステータに対する保持力が低下しても、ステータの軸方向の移動を規制することが可能となる。
このため、コネクタ等の電装部品やボビン等の絶縁部材がステータやハウジングと接触して破損することを防止することが可能となる。
【0014】
また、移動規制部として、第1のハウジング部材と第2のハウジング部材とを締結するボルトが螺合するボス部を用いることで、既存のハウジング構成を利用することが可能となる。このため、移動規制部を設けるために新たなスペースが不要となり、圧縮機の大型化を避けることが可能となる。
【0015】
さらに、移動規制部とステータとの間に弾性部材を配設することで、ステータの軸方向の移動や振動を効果的に抑えることが可能となる。
【0016】
なお、ステータの外周面に第1のハウジング部材と第2のハウジング部材とを締結するボルトを挿通させる凹部を設け、この凹部とボルトとの間に弾性部材を設けることで、ステータの周方向の移動も規制できるので、ハウジングのステータに対する保持力が低下しても周方向に位置ずれして電装部品や絶縁部材を破損する不都合がなくなる。
【0017】
また、ステータをハウジングに組み付けるにあたり、ステータの軸方向の端部であって、第2のハウジング部材とは反対側の端部を、第1のハウジング部材に設けられた段差部に当接させることで、ステータの軸方向の片側(第2のハウジング部材側)だけの移動規制を管理すればいいので、ステータの移動規制管理を容易に行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、本発明に係る電動圧縮機の構成例を示す断面図である、
図2図2(a)は、図1の電動圧縮機のA−A線で切断した断面図であり、図2(b)は、図1の電動圧縮機のB−B線から見たインバータ収容ハウジング部材の端面図である。
図3図3は、ステータの外周面に締結ボルトを挿通させる凹部を設け、この凹部とボルトとの間に弾性部材を設けた構成を示す図である。
図4図4(a)は、移動規制部を締結ボルトが螺合するボス部で構成し、ステータのボビンをボス部に先に当接させることでコネクタを保護する構成を示す図であり、図4(b)は、図4(a)においてボス部33とボビン28との間にさらに弾性部材36を介在させた構成を示す図である。
図5図5(a)は、移動規制部を締結ボルトが螺合するボス部で構成し、ステータを構成するステータコアをボス部に先に当接させることでコネクタを保護する構成を示す図であり、図5(b)は、図5(a)においてボス部33とステータコア24との間にさらに弾性部材36を介在させた構成を示す図である。
図6図6(a)は、移動規制部を締結ボルトが螺合するボス部よりステータ側に形成された段部で構成し、ステータを構成するステータコアを段部に先に当接させることでステータのボビンを保護する構成を示す図であり、図6(b)は、図6(a)においてステータコア24と段部37との間にさらに弾性部材36を介在させた構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る電動圧縮機の構成例について、図面を参照しながら説明する。
【0020】
図1及び図2において、冷媒を作動流体とする冷凍サイクルに適した電動圧縮機1が示されている。この電動圧縮機1は、アルミ合金で構成されたハウジング2内に、図中右方において圧縮機構3を配設し、また、図中左側において圧縮機構を駆動する電動機4を配設している。尚、図1において、図中左側を電動圧縮機の前方、図中右側を電動圧縮機の後方としている。
【0021】
ハウジング2は、圧縮機構3を駆動する電動機4を収容する電動機収容ハウジング部材2a(第1のハウジング部材に相当)と、この電動機収容ハウジング部材2aの軸方向の一端側(前端側)に組み付けられ、電動機4を駆動制御する制御回路とインバータが一体となった駆動回路を搭載した図示しない基板を収容するインバータ収容ハウジング部材2b(第2のハウジング部材に相当)と、電動機収容ハウジング部材2aの軸方向の他端側に組み付けられ、圧縮機構3を収容する圧縮機構収容ハウジング部材2cとを有して構成され、電動機収容ハウジング部材2aとインバータ収容ハウジング部材2bとは締結ボルト5によって軸方向に締結され、また、電動機収容ハウジング部材2aと圧縮機構収容ハウジング部材2cとは、締結ボルト6によって軸方向に締結されている。
【0022】
インバータ収容ハウジング部材2bの電動機収容ハウジング部材2aと対峙する側には、軸支部8aが一体に形成された仕切壁8が設けられ、また、電動機収容ハウジング部材2aの圧縮機構収容ハウジング部材2cと対峙する側には、軸支部9aが一体に形成された仕切壁9が設けられ、これら仕切壁8,9の軸支部8a,9aに駆動軸10がベアリング11,12を介して回転可能に支持されている。この電動機収容ハウジング部材2aとインバータ収容ハウジング部材2bとに形成された仕切壁8,9により、ハウジング2の内部が、後方から、圧縮機構3を収納する圧縮機構収容空間(図示せず)、電動機4を収納する電動機収容空間13a、及びインバータ回路基板を収容するインバータ収容空間13bに画成されている。
尚、この例では、インバータ収容空間13bは、インバータ収容ハウジング部材2bの開口端を蓋体14で閉塞することにより形成されている。
【0023】
圧縮機構3は、例えば、固定スクロール部材とこれに対向配置された旋回スクロール部材とを有するそれ自体周知のスクロールタイプのものであり、ハウジングに固定された円板状の端板と、この端板の外縁に沿って全周に亘って設けられると共に前方に向かって立設された円筒状の外周壁と、その外周壁の内側において前記端板から前方に向かって延設された渦巻状の渦巻壁とを有する固定スクロール部材と、円板状の端板と、この端板から後方に向かって立設された渦巻状の渦巻壁とを有し、端板の背面に形成されたボス部に、駆動軸10の後端部に設けられた偏心軸が連結され、駆動軸10の軸心を中心として公転運動可能に支持されている旋回スクロール部材とを備え、これら固定スクロール部材と旋回スクロール部材とを、それぞれの渦巻壁を互いに噛み合わせ、固定スクロール部材の端板及び渦巻壁と旋回スクロール部材の端板及び渦巻壁とによって囲まれた空間で圧縮室を画成したものである。
【0024】
固定スクロール部材の外周壁と旋回スクロール部材の渦巻壁の最外周部との間には、後述する吸入ポート30から導入された冷媒を電動機収容空間13aを介して吸入する冷媒流入口が形成され、また、圧縮機構3の固定スクロール部材の端板の略中央には、圧縮室で圧縮された冷媒ガスを吐出する吐出口が形成されている。
【0025】
したがって、後述するロータ22が回転して駆動軸10が回転すると、旋回スクロール部材が駆動軸10の軸心の周りを公転し、圧縮室が両スクロール部材の渦巻壁の外周側から中心側へ容積を徐々に小さくしつつ移動して冷媒ガスを圧縮し、この圧縮された冷媒ガスを固定スクロール部材の端板に形成された吐出口から吐出するようにしている。
【0026】
これに対して、ハウジング2内の仕切壁9より前方の部分に形成された電動機収容空間13aには、電動機4を構成するステータ21とロータ22とが収容されている。ステータ21は、鉄系素材で構成された円筒状をなすステータコア24とこのステータコア24のティースに巻回されたコイル25(図2(a)において破線で示す)とコイル25の軸方向端部(コイルエンド)に取り付けられたインシュレータボビン28(以下、ボビンと言う)で構成され、ハウジング2(電動機収容ハウジング部材2a)の内周面に固定されている。また、駆動軸10には、ステータ21の内側において、マグネットが収容されたロータ22が固装されている。このロータ22が、ステータ21によって形成される回転磁力により回転され、駆動軸10を回転するようになっている。
【0027】
そして、電動機収容空間13aに臨むハウジング2(電動機収容ハウジング部材2a)の外周壁には、冷媒ガスを吸入する吸入ポート30が形成され、冷媒(被圧縮流体)をこの吸入ポート30を介して電動機収容空間13aに導入し、この電動機収容空間13aを通して前記圧縮機構3へ導くようにしている。
【0028】
前記ステータコア24は、ハウジング2(電動機収容ハウジング部材2a)に焼嵌めによって固定されると共に、軸方向の位置がハウジング2(電動機収容ハウジング部材2a)に形成された段差部26に挿入端(ステータコア24の圧縮機構収容ハウジング部材2c側の端部)を当接させて位置決め固定されている。
【0029】
ステータ21のハウジング2(電動機収容ハウジング部材2a)への固定は、ハウジング2(電動機収容ハウジング部材2a)の内周面に、周方向の異なる位置で駆動軸10の軸方向に沿って延設された複数のステータ保持部27を形成し、この複数のステータ保持部27に焼き嵌めによって行われる。
ステータ保持部27は、ハウジング2(電動機収容ハウジング部材2a)の内周壁を内側に膨出させてステータコア24の外周面に所定の周方向巾で当接させるようにしているもので、ハウジング2(電動機収容ハウジング部材2a)の内周面に周方向で略等間隔に複数(例えば、6つ)形成されている。このような複数のステータ保持部27の内接円の径をステータコア24の外径よりも僅かに小さく形成し(ステータコア24の外形をハウジング2のステータ保持部27の内接円の径よりも僅かに大きく形成し)、ハウジング2を高温状態にして熱膨張させ、そこに常温のステータ21をステータコア24の挿入端がハウジング2の段差部26に当接するまで挿入し、その状態でハウジング2を常温に戻すことで収縮させてステータ21をステータ保持部27に密着固定させるようにしている。
なお、前記ステータコア24の軸方向を位置決めするハウジング2の内壁に形成された段差部26は、ほぼ全周に亘って連続的に形成するようにしても、周方向に部分的に複数設けるようにしてもよい。
【0030】
そして、ステータ21の外周面であって、ステータ保持部27で圧接されていない部分には、図3にも示されるように、ステータコア24の外周面を窪ませて前記締結ボルト5を挿通させる軸方向に延設された凹部31が形成されている。この凹部31は、図2(a)に示されるように、周方向に等間隔に複数(この例では6箇所)形成されている。
【0031】
各凹部31に挿通される締結ボルト5は、圧縮機構収容ハウジング部材2cの側から仕切壁9に形成された通孔32を介して凹部31に挿入され、この凹部31を挿通してインバータ収容ハウジング部材2bに形成されたボス部33のネジ孔34に螺合させている。
また、各凹部31の内周面と締結ボルト5との間隙には、弾性部材35が介在されている。
【0032】
インバータ収容ハウジング部材2bの背部は、図2(b)にも示されるように、ステータ21と対向する部分に肉抜きが施され、その内周壁に前記ボス部33が一体に形成されている。ボス部33は、前記凹部31に対応させて周方向に等間隔に複数(この例では6箇所)形成され、ステータ21と対峙する面を駆動軸10に対して略垂直としている。このボス部33は、ステータ21の軸方向の移動を規制する移動規制部を構成しており、ステータ21との位置関係は、後述のように設定されている。
また、ステータ21とインバータ収容ハウジング部材2bの仕切壁8との間の空間には、ステータ21とインバータ回路基板とを電気的に接続するコネクタ(クラスターソケット)29等の電装部品が配設され、この例においては、コネクタ29は、ステータ21のボビン28と軸方向で対向する位置に配設されている。
【実施例1】
【0033】
図4(a)にも示されるように、ステータ21の軸方向端部に設けられたボビン28は、ボス部33と軸方向で対向するように設けられ、ボビン28とコネクタ29との軸方向の距離Aは、ボビン28とボス部33との軸方向の距離Bよりも大きく(A>B)設定されている。
【0034】
したがって、電動圧縮機1が高温時において、ステータコア24とハウジング2との熱膨張差によりハウジング2のステータ21に対する保持力が低下し、軸方向(インバータ収容ハウジング部材2b方向)に移動する場合でも、ボビン28がコネクタ29に当接するよりも先にボビン28がボス部33に当接することとなり、コネクタ29が破損する恐れを無くすことが可能となる。
【0035】
このように、ボス部33を移動規制部として用いることで、コネクタ29がステータ21と接触して破損することを防止でき、また、移動規制部として、ボス部33を用いることで、既存のハウジング構成を利用することが可能となり、移動規制部を設けるために新たなスペースが不要となり、圧縮機の大型化を避けることが可能となる。
【0036】
また、ステータの外周面に形成された凹部31に締結ボルト5を挿通させ、この凹部31と締結ボルト5との間隙に、弾性部材35が設けられているので、ハウジング2のステータ21に対する保持力が低下した場合でも、ステータ21の周方向の移動をも効果的に抑えることが可能となる。
【0037】
なお、上述の構成においては、ボビン28とボス部33との間の間隔をボビン28とコネクタ29との間隔よりも狭くすることで、ステータ21の軸方向の移動をボビン28がボス部33に当接するまでの範囲に規制するようにしたものであるが、図4(b)に示すように、ボス部33とボビン28との間に弾性部材36を介在させるようにしてもよく、このような構成とすることで、ハウジング2のステータ21に対する保持力が低下した場合でも、ステータ21の軸方向の移動や振動を効果的に抑えることが可能となる。
【0038】
さらに、上述の例では、ステータ21の他端(ステータの電動機収容ハウジング部材2aへの挿入端)が段差部26に当接されて固定されているので、ハウジグ2のステータ21に対する保持力が低下した際には、ステータ21は、インバータ収容ハウジング部材2b側へしか移動することがなく、ステータ21とボス部33との間の寸法を調整するだけで、ステータ21の軸方向の移動規制を管理することが可能となるので、ステータ21の移動規制管理を容易に行うことが可能となる。
【実施例2】
【0039】
図5(a)に、ステータ21の軸方向の移動規制を管理する他の構成例が示されている。
この例においては、ステータ21の軸方向において、ボス部33ステータコア24に対峙させ、このボス部33とステータコア24との軸方向の間隔Bを、ボビン28とコネクタ29との軸方向の間隔Aよりも小さく設定するようにしている。
なお、他の構成例は前記構成例と同様であるので、同一箇所に同一符号を付して説明を省略する。
【0040】
このような例においても、ステータコア24とハウジング2との熱膨張差によりハウジング2のステータ21(ステータコア24)に対する保持力が低下し、ステータ21が軸方向(インバータ収容ハウジング部材2b方向)に移動する場合でも、ボビン28がコネクタ29に当接するよりも先にステータコア24がボス部33に当接することになり、コネクタ29が破損する恐れを無くすことが可能となる。
【0041】
また、このような構成において、図5(b)に示されるように、ボス部33とステータコア24との間に弾性部材36を介在させることで、ハウジング2のステータ21に対する保持力が低下した場合でも、ステータ21の軸方向の移動や振動を効果的に抑えることが可能となる。また、他の作用効果についても、前記構成例と同様である。
【実施例3】
【0042】
図6(a)に、ステータ21の軸方向の移動規制を管理するさらに他の構成例が示されている。
この例においては、ステータ21の軸方向において、ボビン28の一部がボス部33と対峙する場合において、ボス部33よりステータ側となるインバータ収容ハウジング部材2bの内周壁に軸方向でステータコア24と対峙する段部37を形成し、ステータコア24と段部37との軸方向の距離Dをボビン28とボス部33との軸方向の距離Cより小さく設定するようにしている。したがって、この例では、段部37が移動規制部として構成されている。
なお、他の構成例は前記構成例と同様であるので、同一箇所に同一符号を付して説明を省略する。
【0043】
このような例においては、ステータコア24とハウジング2との熱膨張差によりハウジング2のステータ21(ステータコア24)に対する保持力が低下し、ステータ21が軸方向(インバータ収容ハウジング部材2b方向)に移動する場合には、ボビン28がボス部33に当接するよりも先にステータコア24が段部37に当接することとなり、絶縁部材であるボビン28が破損する恐れを無くすことが可能となる。
【0044】
このような構成においても、図6(b)に示されるように、ステータコア24と段部37との間に弾性部材36を介在させることで、ハウジング2のステータ21に対する保持力が低下した場合でも、ステータ21の軸方向の移動や振動を効果的に抑えることが可能となる。また、他の作用効果についても、前記構成例と同様である。
【0045】
なお、上述した構成は、適宜組み合わせて用いるようにしてもよく、例えば、図4の構成において、図6に示される構成をさらに設け、ステータコア24と段部37とを最も先に当接させることで、コネクタ29とボビン28の両方を保護するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0046】
1 電動圧縮機
2 ハウジング
2a 電動機収容ハウジング部材
2b インバータ収容ハウジング部材
3 圧縮機構
4 電動機
5 締結ボルト
21 ステータ
22 ロータ
24 ステータコア
28 ボビン
29 コネクタ
33 ボス部
35,36 弾性部材
37 段部
図1
図2
図3
図4
図5
図6