特許第5945201号(P5945201)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5945201防錆塗装方法、駐車設備の新設方法及び改修方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5945201
(24)【登録日】2016年6月3日
(45)【発行日】2016年7月5日
(54)【発明の名称】防錆塗装方法、駐車設備の新設方法及び改修方法
(51)【国際特許分類】
   B05D 3/12 20060101AFI20160621BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20160621BHJP
   E04H 6/42 20060101ALI20160621BHJP
【FI】
   B05D3/12 Z
   B05D7/24 301F
   E04H6/42 Z
【請求項の数】10
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2012-210595(P2012-210595)
(22)【出願日】2012年9月25日
(65)【公開番号】特開2013-252511(P2013-252511A)
(43)【公開日】2013年12月19日
【審査請求日】2015年4月22日
(31)【優先権主張番号】特願2011-216023(P2011-216023)
(32)【優先日】2011年9月30日
(33)【優先権主張国】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 発行者 一般社団法人 日本建築学会 刊行物名 日本建築学会大会学術講演梗概集、第1005−1006頁 発行年月日 平成24年7月20日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003322
【氏名又は名称】大日本塗料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087594
【弁理士】
【氏名又は名称】福村 直樹
(72)【発明者】
【氏名】桑原 幹雄
(72)【発明者】
【氏名】清村 康之
(72)【発明者】
【氏名】眞鍋 育功
(72)【発明者】
【氏名】根本 隆史
【審査官】 細井 龍史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−259519(JP,A)
【文献】 特許第5612667(JP,B2)
【文献】 特開2010−131897(JP,A)
【文献】 特開昭63−066266(JP,A)
【文献】 特開2008−297463(JP,A)
【文献】 特開2005−036024(JP,A)
【文献】 特開平11−128137(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 1/00−7/26
E04H 6/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駐車設備の躯体に、耐食性に優れる水系防錆塗料を塗布し乾燥する前に、メラミン系樹脂の多孔質体を用いる脱脂処理又はメラミン系樹脂の多孔質体で研摩する研磨処理を行うことを特徴とする駐車設備の防錆塗装方法。
【請求項2】
前記水系防錆塗料は、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ビニル系樹脂及びシリコーン系樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂と防錆剤とを含有することを特徴とする請求項1に記載の駐車設備の防錆塗装方法。
【請求項3】
前記水系防錆塗料は、1液型塗料又は2液型塗料であることを特徴とする請求項1又は2に記載の駐車設備の防錆塗装方法。
【請求項4】
前記躯体に塗布された前記水系防錆塗料の上に上塗水系塗料を塗布し乾燥することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の駐車設備の防錆塗装方法。
【請求項5】
前記上塗水系塗料は、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ビニル系樹脂、シリコーン系樹脂及びフッ素系樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂と顔料とを含有することを特徴とする請求項4に記載の駐車設備の防錆塗装方法。
【請求項6】
前記躯体に前記水系防錆塗料を塗布する前に水系ジンクリッチ塗料を塗布して乾燥し、前記躯体に塗布された前記水系防錆塗料の上に前記フッ素系樹脂及び前記顔料を含有する前記上塗水系塗料を塗布し乾燥することを特徴とする請求項5に記載の駐車設備の防錆塗装方法。
【請求項7】
前記上塗水系塗料は、1液型塗料又は2液型塗料であることを特徴とする請求項4〜6のいずれか1項に記載の駐車設備の防錆塗装方法。
【請求項8】
前記躯体を組み立てた後に、請求項1〜7のいずれか1項に記載の駐車設備の防錆塗装方法によって前記躯体に前記水系防錆塗料を塗布し乾燥することを特徴とする駐車設備の新設方法。
【請求項9】
既存の駐車設備の躯体に請求項1〜7のいずれか1項に記載の駐車設備の防錆塗装方法によって前記水系防錆塗料を塗布し乾燥することを特徴とする駐車設備の改修方法。
【請求項10】
前記水系防錆塗料の塗布前に前記躯体を前処理(前記脱脂処理及び前記研磨処理を除く。)することを特徴とする請求項に記載の駐車設備の改修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、防錆塗装方法、駐車設備の新設方法及び改修方法に関し、さらに詳しくは、耐食性及び密着性に優れた塗膜を安全衛生面及び環境保全を達成しつつも優れた乾燥性及び高い作業性で塗布形成できる駐車設備の防錆塗装方法、新設方法及び改修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、立体駐車場等の駐車設備の補修や改修工事では、駐車設備の躯体、特に自動車のタイヤが接する床面に腐食による発錆があり、他にも機械油やタイヤ艶だし剤のシリコーン化合物等が付着しているため、付着性や成膜性に優れた有機溶剤系塗料で仕上げられてきた。このような有機溶剤系塗料で駐車設備の補修等を行う技術として例えば特許文献1が挙げられる。具体的には、特許文献1には「有機溶剤を含有するエポキシ樹脂系防錆塗料である『サビタイト(商品名、大同塗料株式会社)』をタイヤスペース鋼鈑床面に塗布する防錆方法」が記載されている(0019欄及び0020欄等)。
【0003】
このような有機溶剤系塗料中には、トルエン等の芳香族系溶剤、酢酸ブチル等のエステル系溶剤、ブタノール等のアルコール系溶剤、メチルエチルケトン等のケトン系溶剤、エチレングリコールモノブチルエーテル等のグリコールエーテル系溶剤、シクロヘキサノン等の脂環式炭化水素系溶剤、他に脂肪族及び芳香族炭化水素の混合物等が含有されている。これらの有機溶剤の多くは、労働安全衛生法の有機溶剤中毒予防規則に該当するものであり、施工中の作業者への曝露による健康被害が懸念される。また、有機溶剤の多くは、揮発性有機化合物であり、大気中に放出された後、窒素酸化物とともに太陽光からの紫外線の作用を受けて、有害な光化学オキシダントを生成するほか、粒子化して浮遊粒子状物質にも変化するため、大気汚染の悪化が懸念される。そして、駐車設備の多くは、市街地に設置されており、補修及び改修工事で有機溶剤系塗料が施工された場合には、有機溶剤の刺激臭や悪臭が周辺に放出され、通行人や近隣住民の体調を悪化させる危険性があり、また、飲食店等では食欲の低下等を起こす懸念もある。このように従来の有機溶剤系塗料を駐車設備に利用するに当たっては、施工中や施工後に発生する臭気等による安全衛生面及び施工中や施工後に揮発する有機溶剤による環境保全に解決すべき課題があった。
【0004】
また、別の視点からみると、駐車設備は場合によっては街中では風通しの悪い状態に設置されるため塗布する(常乾)塗料の乾燥性及び作業性も要求されることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−259519号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この発明は、耐食性及び密着性に優れた塗膜を、安全衛生面及び環境保全を達成しつつも優れた乾燥性及び高い作業性で塗布形成できる駐車設備の防錆塗装方法、新設方法及び改修方法を提供すること、を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の発明者らは、前記課題を解決するために種々検討を行った結果、有機溶剤系塗料の組成等を改良しても、また有機溶剤系塗料を無溶剤系塗料に代替しても前記課題を一挙に解決するには至らなかったものの、有機溶剤系塗料を水系防錆塗料に代替すると、作業者や近隣住民への悪影響を大幅に低減できるうえ大気汚染防止にも極めて有用で安全衛生面及び環境保全の問題を解決できると共に優れた乾燥性及び高い作業性で耐食性に優れた塗膜を躯体に塗布形成でき、前記課題を解決できることを見出した。
【0009】
すなわち、前記課題を解決するための第1の手段として、
請求項1は、駐車設備の躯体に、耐食性に優れる水系防錆塗料を塗布し乾燥する前に、メラミン系樹脂の多孔質体を用いる脱脂処理又はメラミン系樹脂の多孔質体で研摩する研磨処理を行うことを特徴とする駐車設備の防錆塗装方法であり、
請求項2は、前記水系防錆塗料は、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ビニル系樹脂及びシリコーン系樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂と防錆剤とを含有することを特徴とする請求項1に記載の駐車設備の防錆塗装方法であり、
請求項3は、前記水系防錆塗料は、1液型塗料又は2液型塗料であることを特徴とする請求項1又は2に記載の駐車設備の防錆塗装方法であり、
請求項4は、前記躯体に塗布された前記水系防錆塗料の上に上塗水系塗料を塗布し乾燥することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の駐車設備の防錆塗装方法であり、
請求項5は、前記上塗水系塗料は、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ビニル系樹脂、シリコーン系樹脂及びフッ素系樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂と顔料とを含有することを特徴とする請求項4に記載の駐車設備の防錆塗装方法である。
請求項6は、前記躯体に前記水系防錆塗料を塗布する前に水系ジンクリッチ塗料を塗布して乾燥し、前記躯体に塗布された前記水系防錆塗料の上に前記フッ素系樹脂及び前記顔料を含有する前記上塗水系塗料を塗布し乾燥することを特徴とする請求項5に記載の駐車設備の防錆塗装方法であり、
請求項7は、前記上塗水系塗料は、1液型塗料又は2液型塗料であることを特徴とする請求項4〜6のいずれか1項に記載の駐車設備の防錆塗装方法である。
【0010】
また、前記課題を解決するための第2の手段として、
請求項8は、前記躯体を組み立てた後に、請求項1〜7のいずれか1項に記載の駐車設備の防錆塗装方法によって前記躯体に前記水系防錆塗料を塗布し乾燥することを特徴とする駐車設備の新設方法であり
請求項は、既存の駐車設備の躯体に請求項1〜7のいずれか1項に記載の駐車設備の防錆塗装方法によって前記水系防錆塗料を塗布し乾燥することを特徴とする駐車設備の改修方法であり、
請求項10は、前記水系防錆塗料の塗布前に前記躯体を前処理(前記脱脂処理及び前記研磨処理を除く。)することを特徴とする請求項に記載の駐車設備の改修方法である
【発明の効果】
【0011】
この発明に係る駐車設備の防錆塗装方法は駐車設備の躯体に耐食性を発揮する水系防錆塗料を塗布し乾燥することを特徴とするから、施工中又は施行後の作業者への有機溶剤の曝露を極めて低減することができ、また周辺環境に有機溶剤の刺激臭や悪臭を放散することも無く、さらに揮発性有機化合物の大気環境への放出を大幅に低減できることにより、安全衛生面及び環境保全を実現できる。また、この発明に係る駐車設備の防錆塗装方法は同様に前記水系防錆塗料を塗布し乾燥することを特徴とするから、優れた乾燥性及び高い作業性で耐食性に優れた塗膜を躯体に塗布形成できる。また、この発明に係る駐車設備の防錆塗装方法は、前記水系防錆塗料を塗布し乾燥する前に、メラミン系樹脂の多孔質体を用いる脱脂処理又はメラミン系樹脂の多孔質体で研摩する研磨処理を行うから、躯体表面に塗布された水系防錆塗料のはじき現象を防止して躯体表面に密着性の高い塗膜を形成することができる。したがって、この発明によれば、耐食性及び密着性に優れた塗膜を、安全衛生面及び環境保全を達成しつつも優れた乾燥性及び高い作業性で塗布形成できる駐車設備の防錆塗装方法、新設方法及び改修方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
この発明は、駐車設備の躯体に耐食性を発揮する水系防錆塗料を塗布し乾燥することを特徴とする。ここで、駐車設備は、自動車を駐車させる設備であればよく、例えば、立体駐車場、平置き駐車場、地下駐車場、機械式駐車場等が挙げられる。この発明において水系防錆塗料が塗布される箇所(塗場とも称される。)は駐車設備の躯体のうち少なくとも自動車のタイヤが接する床面であればよく、それ以外の躯体の表面も含まれる。なお、この発明において、駐車設備の躯体は特に防錆が要求される鋼鈑で組み立てられているのがよい。
【0014】
駐車設備の躯体、特に使用されている駐車設備の躯体は、後述する水系防錆塗料を塗布する前に前処理されるのが、水系防錆塗料が硬化してなる塗膜が躯体表面に強固に付着する点で好ましい。前処理としては、躯体表面に付着している油分若しくはタイヤ艶出し剤のシリコーン成分等を水系洗浄剤で除去する脱脂処理、タイヤ艶出し剤のシリコーン等を旧塗膜の表面層と共に研磨除去する研摩処理、錆び及び剥離が発生している脆弱な旧塗膜や腐食生成物を動力工具等で除去する除去処理、錆び及び剥離の発生のない健全な旧塗膜表面を手工具や動力工具でサンディングするサンディング処理等が挙げられる。なお、旧塗装面が健全な状態にある場合には旧塗装面に後述する水系防錆塗料を塗布することができる。
【0015】
ここで、研摩処理、除去処理及びサンディング処理は、下地の表面に数μmの傷を付けることを目的とするので、下地の目粗し処理と称されることがある。これらの処理は、それぞれ、定法に従って実施することができ、通常、駐車設備を改修する場合には実施され、新設する場合には実施されないこともある。これらの処理は、錆び及び剥離が発生している場合には塗装膜全体を除去するのがよい。
【0016】
このような前処理のうち、少なくともメラミン系樹脂の多孔質体を用いる脱脂処理及びメラミン系樹脂の多孔質体で研摩する研磨処理を行う。前処理としてこれらの脱脂処理又は研磨処理を選択すると、溶剤等が必要であっても水を前提とし、有機溶剤等は不要であるから高い安全衛生面及び環境保全を図ることができ、後述する水系防錆塗料による効果をより効果的なものとすることができる。また、これらの脱脂処理又は研磨処理を選択すると、エンジンオイル等の鉱物油に加えて通常除去しにくい躯体表面に付着したシリコーンオイル等も効果的に除去でき、躯体表面に塗布された水系防錆塗料のはじき現象を防止して躯体表面に付着性の高い塗膜を形成できる。
【0017】
これら脱脂処理又は研磨処理で用いるメラミン系樹脂の多孔質体は、メラミン系樹脂で多孔質構造に形成されている。メラミン系樹脂は、メラミン系化合物とホルムアルデヒドとを縮合重合して得られる樹脂であって、例えば、メラミンとホルムアルデヒドとを縮合重合して得られるメラミン樹脂、グアナミンとホルムアルデヒドとを縮合重合して得られるメラミン樹脂等が挙げられる。グアナミンは炭素数1〜6のアルキル基、置換基を有していてもよい芳香族基等を有していてもよい。
【0018】
多孔質体は、3次元網目状の多孔質構造を有しており、具体的には、メラミン系樹脂の繊維からなる網目骨格の多孔質構造、好ましくは前記繊維が鋭利な状態の多孔質構造を有している。このような多孔質構造を有していると、躯体表面に付着したシリコーンオイル等を効果的に除去できる。このような多孔質構造を有する多孔質体は、例えば、以下の特性等を有しているのが好ましい。
【0019】
3次元網目状の多孔質構造における骨格の断面形状が円形、楕円形又は多角形であるのが好ましく、楕円形又は多角形であるのが特に好ましい。3次元網目状の多孔質構造における骨格の太さは5〜10μmであるのが好ましく、多孔質体の孔径は30〜150μmであるのが好ましい。骨格の太さは多孔質体を電子顕微鏡で観察した写真から測定でき、孔径は多孔質体を電子顕微鏡で観察した写真から円相当径として測定できる。
【0020】
多孔質体の気孔率は0.1%以上であるのが好ましく、多孔質体の密度は6〜50kg/mであるのが好ましく、多孔質体の引張強度は50〜700kPaであるのが好ましく、多孔質体の破断伸びは0.1〜20N/cmであるのが好ましい。
【0021】
このように、多孔質体が前記断面形状及び/又は前記範囲の少なくとも1つの特性又は物性を有していると、躯体の表面に付着しているシリコーンオイル等を効果的に除去できるうえ、躯体の表面形状によく追従して平坦な表面だけでなく複雑な形状であってもシリコーンオイル等を除去できる。また、躯体の表面を下地目粗しもでき、水系防錆塗料の塗膜を躯体の表面に高い密着力で密着させることもできる。
【0022】
このようなメラミン系樹脂の多孔質体は、下記条件で製造することもでき、市販品、例えば、商品名「激落ち君」(レック株式会社製)、商品名「お掃除消しゴム」(アズマ工業株式会社製)等を使用することもできる。
<製造方法>
メラミン系化合物とホルムアルデヒドとをアルカリ条件下で縮合させたメチロールメラミンを加熱することにより、多孔質構造を有するメラミン系樹脂の多孔質体を製造できる。
【0023】
前記水系防錆塗料は、耐食性に優れる塗料であって、少なくとも樹脂と防錆剤と水と所望により各種添加剤とを含有し、硬化すると耐食性等を発揮する塗膜を形成する。
【0024】
ところで、立体駐車場等の駐車設備、特に自動車のタイヤが圧接する床面に形成される塗装には耐食性はもちろん自動車を駐車するうえでの特有の課題がある。例えば、塗膜が駐車設備の躯体表面に高い密着性で密着形成されタイヤに転着しない特性、すなわち塗膜の躯体への高い密着性が挙げられる。また立体駐車場等の駐車設備は通常屋外に露出した状態に設置されるため、塗膜の耐湿性及び耐候性も要求される。
【0025】
この発明に係る水系防錆塗料において、水系防錆塗料に含有される樹脂としては、特に限定されないが、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ビニル系樹脂及びシリコーン系樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂を含有しているのが好ましい。水系防錆塗料がこのような樹脂の少なくとも1種を含有していると、耐食性に加えて駐車設備に特有の課題を解決できる塗膜を形成でき、これらの樹脂は所望の特性、すなわち解決しようとする駐車設備に特有の課題に応じて適宜の樹脂が選択される。例えば、水系防錆塗料の塗膜に、耐食性に加えて躯体との高い密着性が特に要求される場合には少なくとも1種の前記樹脂が選択され、耐食性に加えて躯体とのより一層高い密着性が特に要求される場合にはエポキシ系樹脂が選択され、耐食性に加えて耐候性及び/又は耐湿性が特に要求される場合には前記群よりウレタン系やシリコーン系樹脂が選択される。
【0026】
この発明に係る水系防錆塗料において、これらの樹脂は複数種含有されていてもよく、通常高分子量でエマルジョンタイプであるのが水によく分散するうえ強靭な塗膜が形成できる点で好ましい。
【0027】
アクリル系樹脂は、(メタ)アクリルモノマーを構成単位とする樹脂であればよく、例えば、構成モノマーとして、(メタ)アクリル酸のアルキルエステルであるのが好ましく、このエステルにおけるアルキル基は炭素数1〜10が好ましく、1〜8が特に好ましい。このような構成モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸i−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸i−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル等の少なくとも1種を含有している。また、アクリル系樹脂は各種変性樹脂を用いることができる。このアクリル樹脂は水への分散性に優れる点でアクリルエマルジョンを使用することが好ましい。
【0028】
ウレタン系樹脂は、ポリオール及びポリイソシアネートを構成単位とする樹脂であればよい。例えば、ポリオールは、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール等の少なくとも1種を含有していればよく、ポリイソシアネートは脂肪族ポリイソシアネートが好ましく、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、水添トリレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、水添メチレンジフェニルジイソシアネート等の少なくとも1種を含有している。また、ウレタン系樹脂は各種変性樹脂を用いることができる。このウレタン樹脂は水への分散性に優れる点でウレタンエマルジョンを使用することが好ましい。
【0029】
エポキシ系樹脂は、エポキシ化合物を構成単位とする樹脂であればよく、例えば、構成モノマーとして、ビスフェノールAやビスフェノールF、ビスフェノールAD、ビスフェノールZ等の少なくとも1種とグリシジルエーテル類を反応させたものが好ましい。また、エポキシ系樹脂は各種変性樹脂を用いることができる。このエポキシ系樹脂は水への分散性に優れる点でエポキシエマルジョンを使用することが好ましい。
【0030】
ビニル系樹脂は、炭素−炭素不飽和結合を有する化合物((メタ)アクリルモノマー等の(メタ)アクリル系化合物を除く。)を構成単位とする樹脂であればよく、例えば、構成モノマーとして、塩化ビニル、酢酸ビニル、スチレン、アクリロニトリル等の少なくとも1種を含有している。また、ビニル系樹脂は各種変性樹脂を用いることができる。このビニル系樹脂は水への分散性に優れる点でビニル系エマルジョンを使用することが好ましい。
【0031】
シリコーン系樹脂は、アルキルシリケートの部分加水分解縮合物あるいはその変性物が挙げられる。
【0032】
このような部分加水分解縮合物として、例えば、一般式RnSi(OR4−n
〔式中、Rは炭素数1〜8の有機基であり、Rは炭素数1〜5のアルキル基であり、nは0又は1である。〕で示されるアルキルシリケートの加水分解縮合物が好適に挙げられる。上記式において、Rとしての有機基としては、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ビニル基等が挙げられる。ここで、アルキル基としては、直鎖でも分岐したものでもよい。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等のアルキル基が挙げられる。好ましいアルキル基は炭素数が1〜4個のものである。シクロアルキル基としては、例えば、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等が好適に挙げられる。アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。上記各官能基は任意に置換基を有してもよい。このような置換基としては、例えば、ハロゲン原子(例えば、塩素原子、臭素原子、フッ素原子等)、(メタ)アクリロイル基、アミノ基、メルカプト基、グリシドキシ基、エポキシ基、脂環式基等が挙げられる。Rとしてのアルキル基としては直鎖でも分岐したものでもよい。このようなアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基等が挙げられ、好ましいアルキル基は炭素数が1〜2個のものである。
【0033】
このようなアルキルシリケートの具体例としては、テトラメチルシリケート、テトラエチルシリケート、テトラ−n−プロピルシリケート、テトラ−i−プロピルシリケート、テトラ−n−ブチルシリケートなどのnが0の場合のアルキルシリケート;メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、i−プロピルトリメトキシシラン、i−プロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリルオキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、3,4−エポキシシクロヘキシルエチルトリメトキシシラン、3,4−エポキシシクロヘキシルエチルトリエトキシシランなどの、nが1の場合のアルキルシリケート等が挙げられる。これらは単独又は2種以上組み合わせて用いてもよい。またシリコーン系樹脂は各種変性樹脂を用いることができる。このシリコーン系樹脂は水への分散性に優れる点でシリコーン系エマルジョンを使用することが好ましい。
【0034】
これらの樹脂は、水系防錆塗料の全質量に対して1〜80質量%含有されているのが好ましく、5〜60質量%含有されているのが特に好ましい。
【0035】
水系防錆塗料は、樹脂に加えて防錆剤を含有している。防錆剤としては、酸化亜鉛、リン酸亜鉛、リン酸カルシウム、リン酸アルミニウム(縮合リン酸アルミニウムを含む。)、久郷、モリブデン酸アルミニウム等が挙げられる。これらの防錆剤は水系防錆塗料の全質量に対して1〜60質量%含有されているのが好ましく、5〜40質量%含有されているのが特に好ましい。
【0036】
水系防錆塗料は、前記成分の他に、硬化剤、顔料、溶媒、分散剤、沈降防止剤、たれ防止剤、消泡剤、レベリング剤、防カビ剤、抗菌剤等の添加剤を含有することができる。前記顔料としては、着色顔料、体質顔料等がある。前記溶媒は臭気等の問題が生じない程度の含有量であれば有機溶剤であってもよいが、この発明の目的をよく達成できる点で有機溶媒を含有しないことが好ましい。硬化剤は水系防錆塗料に含有される樹脂の種類に応じて適宜の化合物が選択される。分散剤、沈降防止剤、たれ防止剤、消泡剤、レベリング剤、防カビ剤及び抗菌剤等は水系塗料に通常用いられる各種化合物が挙げられ、その含有量はこの発明の目的を損なわない範囲で適宜に設定される。
【0037】
前記樹脂と防錆剤と水と所望により各種添加剤とを含有する水系防錆塗料は固形分濃度が5〜90質量%であるのが好ましく、10〜70質量%であるのが特に好ましい。固形分濃度が前記範囲内にあると塗膜になった場合、十分な物理的強度が得られる。
【0038】
水系防錆塗料は、前記成分をすべて含む1液型塗料であってもよく、2液型塗料であってもよい。2液型塗料とする場合には、前記樹脂を含む主剤成分としての第1液と硬化剤成分を含む第2液との2液で、これら2液全体で前記成分をすべて含むように構成される。2液型塗料はこれら2液を使用する前に混合する。
【0039】
この発明は駐車設備の躯体に前記水系防錆塗料を塗布し乾燥する。この発明においては、まず水系防錆塗料を準備する。特に水系防錆塗料が2液型塗料である場合には2液を混合して塗料とする。この発明においては、次いで、所望により、水系防錆塗料を塗布する前に前記した躯体の前処理を行う。このようにして水系防錆塗料の準備及び躯体の前処理が完了したら躯体に水系防錆塗料を塗布する。水系防錆塗料の躯体への塗布は、通常の塗布手段を採用することができ、具体的には、刷毛、エアースプレー、エアレススプレー、ローラー等の手段が挙げられるが、各種スプレーで塗布することが一般的である。水系防錆塗料は例えば乾燥膜厚が10〜500μmになるように塗装され、1回で塗布されてもよく、複数回例えば2〜4回で塗布されてもよい。複数回で水系防錆塗料が塗布されると塗膜が良好な耐久性を発揮する。このとき、既に塗布された水系防錆塗料に重ね塗りされる水系防錆塗料は既に塗布された水系防錆塗料が硬化した状態で塗布されても、未硬化でウェット状態で塗布されてもよい。
【0040】
この発明において、水系防錆塗料を塗布した後に水系防錆塗料を乾燥する。水系防錆塗料の乾燥は、水系防錆塗料に含まれる水又は水及び溶媒が揮発する条件で実施されればよく、例えば20〜25℃程度の常温で1〜48時間放置する。
【0041】
このようにして水系防錆塗料の水又は水及び溶媒が揮発して躯体の表面に塗膜が形成される。形成された塗膜は優れた耐食性を有しており、水系防錆塗料に含有される樹脂に応じて耐食性に加えて躯体への高い密着性、耐湿性及び耐候性の少なくとも1つの特性を有している。したがって、この発明によれば、駐車設備に、耐食性に加えて躯体への密着性、耐湿性及び/又は耐候性に優れた塗膜を安全衛生面及び環境保全を達成しつつも優れた乾燥性及び高い作業性で塗布形成できる。この発明によれば、駐車設備の躯体に水系防錆塗料を塗布し乾燥することによって、駐車設備の躯体が未使用すなわち新たに組み立てられた場合には駐車設備を新設でき、駐車設備の躯体がすでに使用されている場合には駐車設備を改修できる。
【0042】
この発明においては、所望により水系防錆塗料の塗膜に上塗水系塗料が塗布され、乾燥される。この上塗水系塗料は、水系防錆塗料の特性を補強する上塗水系塗料、又は、水系防錆塗料が発揮しえない特性を発揮する上塗水系塗料であり、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ビニル系樹脂、シリコーン系樹脂及びフッ素系樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂と顔料を含有している。この上塗水系塗料は、必要により、前記顔料とは別に前記特性を発揮する公知の添加剤、例えば耐食性を発揮するための防錆剤、耐候性を発揮するための樹脂(この発明に係る水系防錆塗料に含有される前記樹脂を除く。)等を含有していてもよい。この上塗水系塗料は顔料を含有している点で水系防錆塗料と区別され、場合によっては防錆剤を含有していない点で水系防錆塗料と区別される。
【0043】
上塗水系塗料に含有される樹脂は、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ビニル系樹脂、シリコーン系樹脂及びフッ素系樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂であればよく、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ビニル系樹脂及びシリコーン系樹脂それぞれは水系防錆塗料に含有される各樹脂と基本的に同様である。
【0044】
フッ素系樹脂は、フッ素原子を含むオレフィンを重合して得られる樹脂であって、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、エチレン・四フッ化エチレン共重合体(ETFE)等が挙げられる。
【0045】
上塗水系塗料に含有される樹脂は、前記したように所望の特性によって適宜の樹脂が選択される。例えば、上塗水系塗料の塗膜により一層高い密着性が特に要求される場合にはエポキシ系樹脂が選択され、同様に耐候性及び/又は耐湿性が特に要求される場合には前記群よりウレタン系又はシリコーン系樹脂が選択され、同様に耐候性及び/又は耐汚染性が特に要求される場合には前記群よりフッ素系樹脂が選択される。特に水系防錆塗料の樹脂としてエポキシ系樹脂を選択する場合には上塗水系塗料の樹脂としてはウレタン系樹脂、アクリル系樹脂又はフッ素系樹脂が好適に選択され、水系防錆塗料の樹脂としてアクリル系やビニル系樹脂を選択する場合には上塗水系塗料の樹脂としてはウレタン系やシリコーン系樹脂が好適に選択される。
【0046】
これらの樹脂は、上塗水系塗料の全質量に対して1〜80質量%含有されているのが好ましく、5〜60質量%含有されているのが特に好ましい。
【0047】
上塗水系塗料に含有される顔料は、各種塗料に用いられる公知の顔料を特に制限されることなく用いることができ、例えば、酸化チタン、黄色酸化鉄、カーボンブラック等が挙げられる。顔料は、各種塗料に一般的に適用される含有量で含有されていればよく、例えば、上塗水系塗料の全質量に対して0質量部を超え50質量%以下含有されているのが好ましく、10〜30質量%含有されているのが特に好ましい。
【0048】
この上塗水系塗料は仕上水系塗料と称することもでき、好ましくは水系防錆塗料が乾燥してなる塗膜の上に、水系防錆塗料と基本的に同様にして塗布、乾燥される。この上塗水系塗料は、前記成分をすべて含む1液型塗料であってもよく、2液型塗料であってもよい。2液型塗料とする場合には、前記樹脂を含む主剤成分としての第1液と硬化剤成分を含む第2液との2液で、これら2液全体で前記成分をすべて含むように構成される。2液型塗料はこれら2液を使用する前に混合する。
【0049】
このようにして上塗水系塗料の水又は水及び溶媒が揮発して水系防錆塗料が乾燥してなる塗膜の表面に仕上げ塗膜が形成される。形成された仕上げ塗膜は水系防錆塗料の塗膜への密着性、耐湿性、耐候性及び耐食性等の少なくとも1つの特性を有している。したがって、この発明によれば、駐車設備に、耐食性に加えて密着性、耐湿性及び/又は耐候性に優れた塗膜を安全衛生面及び環境保全を達成しつつも優れた乾燥性及び高い作業性で塗布形成できる。この発明によれば、駐車設備の躯体に水系防錆塗料及び上塗水系塗料を順次塗布し乾燥することによって、駐車設備の躯体が未使用すなわち新たに組み立てられた場合には駐車設備を新設でき、駐車設備の躯体がすでに使用されている場合には駐車設備を改修できる。
【0050】
この発明においては、所望により、水系防錆塗料の塗膜の下に、換言すると、水系防錆塗料を塗布する前に、水系ジンクリッチ塗料が塗布され、乾燥される。この水系ジンクリッチ塗料は、金属亜鉛末又は亜鉛合金末を通常60〜95質量%含有する塗料であればよく、水溶性又は水分散性の結合剤、その他の添加剤、及び水を含有している。結合剤は、水溶性又は水分散性を有していればよく、例えば、エポキシ系樹脂、アミド系樹脂、アミン系樹脂、ウレタン系樹脂、アルキド系樹脂、フッ素系樹脂の有機系結合剤、アルキルシリケート、エチルシリケート、ブチルシリケート等の無機系結合剤が挙げられる。結合剤の含有量は少ないのがよく、例えば、1〜30質量%であるのがよい。その他の添加剤としては、通常のジンクリッチ塗料に用いられる体質顔料、着色顔料、タレ止め剤、色別れ防止剤、分散剤、沈殿防止剤、消泡剤等が挙げられる。これらの含有量は少ないのがよく、例えば、0〜10質量%であるのがよい。このような水系ジンクリッチ塗料の一例として、例えば、特開平07−133442号公報似記載された「カルボキシ基を含有する水性ウレタン樹脂を結合剤とするジンクリッチ塗料」が挙げられる。
【0051】
この水系ジンクリッチ塗料は、駐車設備の躯体に、所望により前処理した後であって水系防錆塗料を塗布する前に、水系防錆塗料と基本的に同様にして塗布、乾燥される。
【0052】
このようにして水系ジンクリッチ塗料の水又は水及び溶媒が揮発して水系ジンクリッチ塗料が乾燥してなる塗膜が形成される。水系ジンクリッチ塗料の塗膜は金属亜鉛末又は亜鉛合金末を含有しているから、駐車設備の躯体に対する水系防錆塗料による防食効果を補強できる。特に、駐車設備の躯体に水系ジンクリッチ塗料、水系防錆塗料及びフッ素系樹脂を含有する上塗水系塗料をこの順で塗布して硬化すると、駐車設備の躯体に対する防食効果をより一層長期間にわたって発揮させることができる。また、この水系ジンクリッチ塗料は水を含有し、有機溶媒を実質的に含有していないから、水系防錆塗料による安全衛生面及び環境保全を損なうことがない。したがって、この発明によれば、駐車設備に、躯体への密着性、耐湿性及び/又は耐候性に加えてより一層長期間にわたって発揮される耐食性に優れた塗膜を安全衛生面及び環境保全を達成しつつも優れた乾燥性及び高い作業性で塗布形成できる。この発明によれば、駐車設備の躯体に水系ジンクリッチ塗料、水系防錆塗料及び上塗水系塗料を順次塗布し乾燥することによって、駐車設備の躯体が未使用すなわち新たに組み立てられた場合には駐車設備を新設でき、駐車設備の躯体がすでに使用されている場合には駐車設備を改修できる。
【実施例】
【0053】
以下、この発明を実施例及び比較例により具体的に説明する。以下に示す実施例は、この発明の一例を示すものであり、この発明は以下の実施例によって限定されるものではない。なお、実施例中の「部」や「%」は、特に断らない限り、質量基準で示す。
【0054】
参考例1)
<試験板作製方法>
サンドブラスト板(150mm×70mm×t3.2mm、軟鋼板)に水系防錆塗料として下記組成の2液型水系エポキシ樹脂塗料を乾燥膜厚が約50μmになるように1回で塗装し、塗装後、温度23℃に保たれた恒温室内で24時間乾燥させた。
<2液型水系エポキシ樹脂塗料>
第一液:商品名「エピコート828」(ジャパン・エポキシレジン社製)、防錆成分「リン酸カルシウム」、溶剤「水」、樹脂濃度30質量%、固形分濃度60質量%
第二液:商品名「変性ポリアミン樹脂FXI−919」(富士化成工業社製)、溶剤「水」、固形分濃度50質量%、第一液との混合割合(質量比) 第一液:第二液=3:1
【0055】
このようにして形成した水系防錆塗料の塗膜上に上塗水系塗料として下記組成の2液型水系ポリウレタン樹脂塗料を乾燥膜厚が約30μmになるように2回で塗装し、塗装後、温度23℃に保たれた恒温室内で48時間乾燥させた。このようにしてサンドブラスト板上にエポキシ系樹脂を含有する水系防錆塗料の塗膜及びポリウレタン樹脂を含有する上塗水系塗料の塗膜をこの順で形成した参考例1の試験板を作製した。
<2液型水系ポリウレタン樹脂塗料>
第一液:「自家製アクリルポリオール樹脂」(大日本塗料株式会社製)、溶剤「水」、顔料「酸化チタン」、樹脂濃度30質量%、固形分濃度50質量%
第二液:「イソホロンジイソシアネート」、固形分濃度100質量%、第一液との混合割合(質量比) 第一液:第二液=4:1
【0056】
(比較例1)
前記2液型水系エポキシ樹脂塗料を有機溶剤系防錆塗料として下記組成の2液型有機溶剤系エポキシ樹脂系塗料に変更し、かつ上塗有機溶剤系塗料として前記組成の2液型水系ポリウレタン樹脂塗料を下記組成の2液型有機溶剤系ポリウレタン樹脂系塗料に変更したこと以外は参考例1と基本的に同様にして比較例1の試験板を作製した。
<2液型有機溶剤系エポキシ樹脂系塗料>
第一液:商品名「エピコート1001」(ジャパン・エポキシレジン社製)、防錆成分「リン酸カルシウム」、有機溶剤「トルエン」、樹脂濃度30質量%、固形分濃度60質量%
第二液:商品名「ポリアミドアミン TXK−659」(富士化成工業社製)、有機溶剤「キシレン」、固形分濃度60質量%、第一液との混合割合(質量比) 第一液:第二液=4:1
<2液型有機溶剤系ポリウレタン樹脂系塗料>
第一液:「自家製エポキシポリオール樹脂」(大日本塗料株式会社製)、有機溶剤「トルエン」、顔料「酸化チタン」、樹脂濃度30質量%、固形分濃度50質量%
第二液:「トリレンジイソシアネート」、固形分濃度100質量%、第一液との混合割合(質量比) 第一液:第二液=4:1
【0057】
(耐食性試験)
作製した参考例1及び比較例1の試験板それぞれをJIS K 5600−7−1(塗料一般試験方法−第7部:塗膜の長期耐久性−第1節:耐中性塩水噴霧性)に従い、700時間の評価を行った。結果を下記第1表に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
第1表に示されるように、防錆剤を含有しない2液型水系ポリウレタン樹脂塗料を塗布乾燥してなる仕上げ塗膜を有する参考例1の試験板は耐食性に優れていたことから、この仕上げ塗膜のない試験板、すなわちサンドブラスト板に水系防錆塗料である2液型水系エポキシ樹脂塗料を塗布乾燥してなる塗膜を有する試験板であっても参考例1と同様に耐食性に優れることが理解できる。
【0060】
(付着性試験)
作製した参考例1及び比較例1の試験板それぞれを24時間、水道水に浸漬した後水道水から取り出して1時間放置し、その後、JIS K 5600−5−6(塗料一般試験方法−第5部:塗膜の機械的性質−第6節:付着性(クロスカット法))に従って行い評価した。結果を下記第2表に示す。なお、本願出願人らはこの付着性試験が塗膜の躯体への密着性の評価に代用できることを確認している。
【0061】
【表2】
【0062】
(耐湿性)
上記のように作製した参考例1及び比較例1の試験片を50℃で98%RH以上の恒温恒湿槽に120時間放置後、上記クロスカット法試験と同様に評価した。結果を下記第3表に示す。
【0063】
(耐候性)
上記のように作製した参考例1及び比較例1の試験片をサンシャインウエザロメーターによって促進耐候性試験を行い、1000時間後の塗膜外観の変化を試験前の塗膜状態と比較し評価した。結果を下記第3表に示す。
【0064】
【表3】
【0065】
なお、参考例1において、前記付着性試験とは異なる「躯体への密着性」評価及び「安全衛生面及び環境保全」評価については後述する参考例3及び4で評価し、その効果を確認した。
【0066】
参考例2)
駐車設備のひとつであるターンテーブル(屋外設置、鉄鋼製)の改修工事においてこの発明の水系防錆塗料で塗り替えを実施した。具体的には、下地調整として、水系洗浄剤(界面活性剤成分含有)でエンジンオイル等の油分を脱脂し、脆弱な旧塗膜や腐食生成物を動力工具で除去した。なお、健全な旧塗膜表面は、水系防錆塗料の付着性を確保するため、手工具や動力工具でサンディング処理した。下地調整が終了後、水系防錆塗料として下記組成の1液型水系エポキシ樹脂系塗料を乾燥膜厚が30μmになるように1回で塗装して一日放置した。
<1液型水系エポキシ樹脂系塗料>
樹脂「ウォーターゾール」(DIC社製)、防錆顔料「リン酸カルシウム」、溶剤「水」、樹脂濃度30質量%、固形分濃度60質量%
【0067】
このようにして形成した水系防錆塗料の塗膜上に上塗水系塗料として下記組成の1液型水系アクリル樹脂系塗料を乾燥膜厚が30μmになるように2回で塗装して、ターンテーブルの改修を完了した。
<1液型水系アクリル樹脂系塗料>
商品名「自家製化アクリルエマルジョン」(大日本塗料株式会社製)、顔料「酸化チタン」、耐候性添加剤「紫外線吸収剤」、溶剤「水」、樹脂濃度30質量%、固形分濃度55質量%
【0068】
(タイヤによる耐剥離・摩耗性)
このターンテーブルの塗膜における、車輌タイヤによる剥離や摩耗の程度を上記比較例1の有機溶剤系塗料を塗装した部分と比較し、塗膜外観を目視により以下のようにして評価した。この評価は改修後のターンテーブルを使用開始約半年後に行った。その結果を下記第4表に示す。
【0069】
【表4】
【0070】
この結果から本願発明の水系防錆塗料を硬化した塗膜は躯体への密着性が高いことが分かった。また参考例2の水系防錆塗料は、強靱なエマルジョン塗膜を形成するため、比較例1の有機溶剤系の塗膜より車輌タイヤによる摩耗状態が少なかったと思われる。
【0071】
参考例2についても参考例1と基本的に同様にして耐湿性及び耐候性を評価したところ参考例1の試験片と同様の傾向が確認できた。
【0072】
参考例3)
機械式駐車設備のひとつである多段式駐車設備(屋外設置)のパレット(鉄鋼製)の改修工事においてこの発明の水系防錆塗料で塗り替えを実施した。具体的には、参考例2と同様にしてパレットを下地調整した後に水系防錆塗料として上記参考例1と同じ2液型水系エポキシ樹脂塗料を乾燥膜厚約50μmになるように1回で塗装して一日放置した。
【0073】
このようにして形成した水系防錆塗料の塗膜上に上塗水系塗料として上記参考例1と同じ2液型水系ポリウレタン樹脂塗料を乾燥膜厚が30μmになるように2回で塗装して、温度25℃で乾燥させて、多段式駐車設備を改修した。
【0074】
(比較例2)
参考例2と同様にしてパレットを下地調整した後に有機溶剤系防錆塗料として下記組成の1液型湿気硬化型ポリウレタン樹脂系塗料を乾燥膜厚約50μmになるように1回で塗装して一日放置した。
<1液型湿気硬化型ポリウレタン樹脂系塗料>
商品名「スミジュール」(住友バイエルウレタン社製)、防錆顔料「亜鉛末」、有機溶剤「キシレン」、樹脂濃度30質量%、固形分濃度55質量%
【0075】
このようにして形成した水系防錆塗料の塗膜上に上塗有機溶剤系塗料として下記組成の2液型ポリウレタン樹脂系塗料を乾燥膜厚が30μmになるように2回で塗装して、温度25℃で乾燥させて、多段式駐車設備を改修した。
<2液型ポリウレタン樹脂系塗料>
第一液:「自家製ポリエステルポリオール樹脂」(大日本塗料株式会社製)、有機溶剤「トルエン」、顔料「酸化チタン」、樹脂濃度30質量%、固形分濃度55質量%
第二液:「イソホロンジイソシアネート」、固形分濃度100質量%、第一液との混合割合(質量比) 第一液:第二液=4:1
【0076】
(臭気測定)
このようにして改修された多段式駐車設備において、参考例3の水系防錆塗料と比較例2の有機溶剤系防錆塗料との塗装中の雰囲気の臭気を計測した。装置は新コスモス電機製のポータブル型ニオイセンサを用いた。本装置はニオイの強弱をデジタル表示できるものである。これにより、揮発性有機化合物の放散量の程度が把握可能である。測定した結果を下記第5表に示す。臭気成分の種類にもよるが、通常の有機溶剤であれば測定された値がおよそ500以下であると、一般的に市街地であっても安全衛生面及び環境保全に十分に配慮できる。
【0077】
【表5】
【0078】
参考例4)
機械式駐車設備のひとつである地下式駐車設備(屋内設置、鉄鋼製)の改修工事において、この発明の水系塗料で塗り替えを実施した。具体的には、参考例2と同様にして地下式駐車設備の床面を下地調整した後に水系防錆塗料として上記参考例1と同じ2液型水系エポキシ樹脂塗料を乾燥膜厚約50μmになるように1回で塗装して一日放置した。
【0079】
このようにして形成した水系防錆塗料の塗膜上に上塗水系塗料として上記参考例1と同じ2液型水系ポリウレタン樹脂塗料を乾燥膜厚が30μmになるように2回で塗装して、温度25℃で乾燥させて、地下式駐車設備の改修を完了した。
【0080】
(臭気官能評価)
参考例4の水系防錆塗料及び上塗水系塗料の塗装中の雰囲気を、2液型水系エポキシ樹脂塗料及び2液型水系ポリウレタン樹脂塗料それぞれについて、官能評価を実施した。評価者は、塗装業者1名、駐車設備メーカー3名、塗料メーカー営業担当1名の合計5名で実施した。その結果を下記第6表及び第7表に示す。
【0081】
【表6】
【0082】
【表7】
【0083】
(躯体への密着性評価)
参考例2〜4及び比較例2で改修した各駐車設備の状態を使用開始約半年後に確認した結果を下記第8表に示す。
【0084】
【表8】
【0085】
以上のように、駐車設備の多くは、市街地にあり、従来からの有機溶剤系塗料では刺激臭や異臭の問題があり、改修工事が実施できていない設備もある。それらは設備の老朽化が激しく、腐食も進み、鋼板が欠落しているものまである。また美観も悪い。これに対して、この発明によれば、水系防錆塗料で施工することにより、塗装中、塗装後に刺激臭や異臭を放つことなく、この発明の方法は安全衛生面及び環境保全面に配慮された耐食性を付与できる表面処理方法である。
【0086】
参考例5)
【0087】
サンドブラスト板(150mm×70mm×t3.2mm、軟鋼板)に下記組成の1液型水系ジンクリッチ塗料を乾燥膜厚が約50μmになるように1回で塗装し、塗装後、温度23℃に保たれた恒温室内で24時間乾燥させた。
<水系ジンクリッチ塗料>
商品名「水性ゼッタールEP−2 HB」(大日本塗料株式会社製)、亜鉛末成分「亜鉛」、結合剤「ポリアミドアミン」、溶剤「水」、消泡剤(サンノプコ株式会社製)、亜鉛末濃度75質量%、結合剤濃度25質量%、固形分濃度85質量%
【0088】
このようにして形成した水系ジンクリッチ塗料の塗膜上に水系防錆塗料として下記組成の2液型水系エポキシ樹脂塗料を乾燥膜厚が約50μmになるように1回で塗装し、塗装後、温度23℃に保たれた恒温室内で24時間乾燥させた。
<2液型水系エポキシ樹脂塗料>
第一液:商品名「エピコート828」(ジャパン・エポキシレジン社製)、防錆成分「リン酸カルシウム」、溶剤「水」、樹脂濃度30質量%、固形分濃度60質量%
第二液:商品名「変性ポリアミン樹脂FXI−919」(富士化成工業社製)、溶剤「水」、固形分濃度50質量%、第一液との混合割合(質量比) 第一液:第二液=3:1
【0089】
このようにして形成した水系防錆塗料の塗膜上に上塗水系塗料として下記組成の1液型水系フッ素樹脂塗料を乾燥膜厚が約30μmになるように2回で塗装し、塗装後、温度23℃に保たれた恒温室内で48時間乾燥させた。このようにしてサンドブラスト板上に亜鉛末を含有する水系ジンクリッチ塗料の塗膜、エポキシ系樹脂を含有する水系防錆塗料の塗膜及びフッ素樹脂を含有する上塗水系塗料の塗膜をこの順で形成した参考例5の試験板を作製した。
<1液型水系フッ素樹脂塗料>
商品名「DNTビューフッソ」(大日本塗料株式会社製)、フッ素樹脂「ルミフロン」(旭硝子株式会社製)、溶剤「水」、顔料「酸化チタン等」、フッ素樹脂濃度5質量%、固形分濃度12質量%
【0090】
(耐食性試験)
作製した参考例5及び比較対象として参考例1の試験板それぞれをJIS K 5600−7−1(塗料一般試験方法−第7部:塗膜の長期耐久性−第1節:耐中性塩水噴霧性)に従い、700時間の評価を行った。その結果、参考例1の試験板は前記の通り700時間経過後であってもふくれ、はがれ、われは認められなかったのに対して、参考例5の試験板はより長期間である900時間経過後であってもふくれ、はがれ、われは認められなかった。このように、水系防錆塗料の下層に水系ジンクリッチ塗料の塗膜を形成し、かつ水系防錆塗料の上層に水系フッ素樹脂塗料の塗膜を形成すると、水系防錆塗料による優れた耐食性をより一層長期間にわたって発揮させることができることが理解できる。
【0091】
(実施例6)
サンドブラスト板(150mm×70mm×t3.2mm、軟鋼板)の表面を研磨紙P280で研磨処理した後にシリコーングリース(商品名「シリコングリス」、竹中エンジニアリング株式会社製)を塗布厚が約2μmとなるように摺り込んで、駐車設備の通常使用によるシリコーン化合物の付着量を遥かに超える被検体を作製した。
【0092】
この被検体の表面でメラミン系樹脂の多孔質体(商品名「お掃除消しゴム」、アズマ工業株式会社製)を水に湿らせた後に雑巾掛けの要領で摺動させて脱脂処理をした。その後、被検体の表面に水系防錆塗料として下記組成を有する1液型水系ポリウレタン樹脂塗料を乾燥膜厚が約25μmになるように1回で塗装し、塗装後、温度23℃に保たれた恒温室内で24時間乾燥させた。
<1液型水系ポリウレタン塗料>
商品名「DNTビューウレタン」、大日本塗料株式会社製、一液反応硬化形水系塗料、防錆剤「縮合リン酸アルミニウム」(テイカ株式会社製)、溶剤「水」、樹脂濃度30質量%、固形分濃度35質量%
【0093】
このようにして、被検体の表面に水系防錆塗料である1液型水系ポリウレタン樹脂塗料の塗膜を形成して、実施例6の試験板を作製した。
【0094】
(比較例3)
メラミン系樹脂の多孔質体での脱脂処理に代えて、実施例6で作製した被検体の表面を水系洗浄剤(商品名「グランダクリーナー312」の5%希釈液、ミリオン化学株式会社製)で「公共建築工事標準仕様書」に記載の「鉄鋼面の素地ごしらえC種」の条件で脱脂処理したこと以外は実施例6と基本的に同様にして比較例3の試験板を作製した。
【0095】
(剥離試験)
実施例6及び比較例3の試験板を作製して3日経過後にカッターナイフで素地に到達するクロスカットを入れ、クロスカット部にセロハンテープ(登録商標)を貼着させた後に剥離して、1液型水系ポリウレタン樹脂塗料の塗膜が被検体から剥離するか否かを確認した。その結果、駐車設備の通常使用によるシリコーン化合物の付着量を遥かに超える被検体を用いた過酷試験において、比較例3ではクロスカット部分の大部分の塗膜が剥離したものの、実施例6ではクロスカット部分の塗膜は剥離しなかった。なお、比較例3においても過酷試験でなければ塗膜の密着性が優れることは前記の通りである。
【0096】
ところで、実施例6において、メラミン系樹脂の多孔質体を水に湿らせなかった場合には実用上問題にならない程度のごく軽微な剥離を確認でき、また実施例6で作製した被検体の表面を何らの処理をすることなく1液型水系ポリウレタン樹脂塗料を塗布した場合にはクロスカット部分全体が剥離したことを確認した。
【0097】
実施例6の試験板は、参考例1等と同様に耐食性に優れていた。
【0098】
(実施例7)
機械式駐車設備の既存のものである多段式駐車設備(屋外設置)のパレット(鉄鋼製)の改修工事において、シリコーン化合物が大量に付着しているパレット表面でメラミン系樹脂の多孔質体(商品名「激落ち君」、レック株式会社製)をそのまま、又は、水に湿らせた後に雑巾掛けの要領で摺動させて、パレット表面を脱脂処理した。その後、被検体の表面に実施例6と同様の1液型水系ポリウレタン樹脂塗料を乾燥膜厚が約25μmになるように1回で塗装し、塗装後、温度25℃で24時間乾燥させ、多段式駐車設備を改修した。
【0099】
(比較例4)
メラミン系樹脂の多孔質体での脱脂処理に代えて下記脱脂処理等をしたこと以外は実施例7と基本的に同様にして比較例4−1〜4−5の試験板それぞれを作製した。
比較例4−1:有機溶剤(ノルマルヘキサン50質量%、キシレン30質量%及びイソプロピルアルコール20質量%)での脱脂処理
比較例4−2:比較例3で使用した水系洗浄剤での脱脂処理
比較例4−3:不織布研磨材(商品名「スコッチブライト」、住友3M株式会社製、P320相当)でのケレン処理
比較例4−4:ウエス(乾燥済み)での拭き取り処理
比較例4−5:脱脂処理未実施
【0100】
(はじき評価)
実施例7及び比較例4−1〜4−5において1液型水系ポリウレタン樹脂塗料を塗布したときに1液型水系ポリウレタン樹脂塗料がはじかれるか否かを目視で評価した。その結果、実施例7においてはメラミン系樹脂の多孔質体をそのまま用いても、また水に湿らせて用いても、1液型水系ポリウレタン樹脂塗料ははじかれることなく塗布されていた。また比較例4のうち、有機溶剤で脱脂処理した場合(比較例4−1)及び不織布研磨材で脱脂処理した場合(比較例4−3)には1液型水系ポリウレタン樹脂塗料ははじかれなかったが、水系洗浄剤で脱脂処理した場合(比較例4−2)、ウエスのみで拭き取り処理した場合(比較例4−4)、脱脂処理を実施しなかった場合(比較例4−5)は1液型水系ポリウレタン樹脂塗料ははじかれていた。
【0101】
(剥離試験)
実施例6と同様にして剥離試験を実施したところ、実施例7の試験片はいずれも剥離しなかったのに対して、比較例4−1〜4−5の試験片はいずれも剥離した。なお、実施例7の試験板はいずれも参考例1等と同様に耐食性に優れていた。