(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5945205
(24)【登録日】2016年6月3日
(45)【発行日】2016年7月5日
(54)【発明の名称】試料分析装置
(51)【国際特許分類】
G01N 23/225 20060101AFI20160621BHJP
G01N 23/223 20060101ALI20160621BHJP
【FI】
G01N23/225 312
G01N23/223
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-220107(P2012-220107)
(22)【出願日】2012年10月2日
(65)【公開番号】特開2014-71092(P2014-71092A)
(43)【公開日】2014年4月21日
【審査請求日】2015年6月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004271
【氏名又は名称】日本電子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】木下 真吾
【審査官】
越柴 洋哉
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−127995(JP,A)
【文献】
特開2011−145238(JP,A)
【文献】
特開2011−153858(JP,A)
【文献】
特開昭51−119289(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00−23/227
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料上で一次線を走査し、これにより試料から発生する信号を検出して試料の元素分析を行う試料分析装置において、分析対象の複数元素における三元素の濃度情報に基づき形成される三元散布図の平面に対して交差する軸に、他の二元素の濃度情報を付与してなる立体グラフを作成する手段を有することを特徴とする試料分析装置。
【請求項2】
前記軸は、前記三元散布図の平面に対して直交する軸であることを特徴とする請求項1記載の試料分析装置。
【請求項3】
前記一次線は電子線であり、前記信号は特性X線であることを特徴とする請求項1又は2記載の試料分析装置。
【請求項4】
前記一次線はX線であり、前記信号は蛍光X線であることを特徴とする請求項1又は2記載の試料分析装置。
【請求項5】
前記立体グラフを表示する表示手段を有することを特徴とする請求項1乃至4何れか記載の試料分析装置。
【請求項6】
前記表示手段により表示された立体グラフが、空間座標軸に沿って回転可能とされていることを特徴とする請求項5記載の試料分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料に電子線等の一次線を照射し、これにより試料から発生する特性X線等の信号を検出して試料の元素分析を行う試料分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)等の試料分析装置においては、一次線となる電子線を試料に照射し、これにより試料から発生する特性X線の検出を行うことにより、試料表面に存在する元素の組成分析(元素分析)を行うことができる。
【0003】
この場合、電子線を試料上で走査することにより、組成元素についての面分析(二次元分布測定)を行うこともできる。
【0004】
このような面分析においては、検出された特性X線の強度と予め求めておいた質量濃度との関係に基づき、分析対象となる各元素の濃度マップを得ることができる。また、各元素の濃度比の分布を求めることにより、試料に含まれる化合物を特定するための相分析を行うこともできる。
【0005】
分析対象元素の中で三種の元素(三元素)を指定した場合、得られた各元素の濃度分布データに基づいて三元散布図グラフ内にデータをプロットし、三元散布図として三種の元素の濃度比の分布を表わすことができる。この三元散布図においてプロットされている情報は、試料に含まれている化合物等を特定するための情報となりうる。
【0006】
このような三元散布図の例は、例えば、特許文献1の
図6に示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−125952号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来技術における三元散布図では、指定された三元素についての濃度分布のみを表わすことできる。
【0009】
しかしながら、より詳細な試料情報を得るためには、三元素についての濃度情報に加えて、当該三元素以外の元素についての濃度情報を同時に参照したい場合がある。
【0010】
本発明は、このような点に鑑みてなされたものであり、三元素の濃度比分布を表わす三元散布図について三次元空間上の奥行き方向に追加の軸を設け、該軸に他の二元素の濃度情報を付与することにより、当該三元素間での濃度分布と当該二元素の濃度との関係を一つの立体グラフ上で把握可能とする試料分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明における試料分析装置は、試料上で一次線を走査し、これにより試料から発生する信号を検出して試料の元素分析を行う試料分析装置において、分析対象の複数元素における三元素の濃度情報に基づき形成される三元散布図の平面に対して交差する軸に、他の二元素の濃度情報を付与してなる立体グラフを作成する手段を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明においては、分析対象の複数元素における三元素の濃度情報に基づき形成される三元散布図の平面に対して交差する軸に、他の二元素の濃度情報を付与してなる立体グラフが作成される。
【0013】
よって、分析を行うオペレータは、当該立体グラフを目視にて確認することにより、当該三元素間での濃度情報と当該二元素間での濃度情報との関係を一つの立体グラフ上で視覚的に把握することができ、試料分析をする上で有用な情報を即座に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明における試料分析装置を示す概略構成図である。
【
図2】分析対象元素の指定を行うための画像を示す図である。
【
図3】元素分析により得られた三元散布図を示す図である。
【
図4】元素分析により得られた立体グラフを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明における試料分析装置について説明する。
【0016】
図1は、本発明における試料分析装置を示す概略構成図である。この実施例において、当該試料分析装置は、電子プローブマイクロアナライザの構成を備えている。
【0017】
同図において、電子源である電子銃1から放出された電子線18は、集束レンズ2及び対物レンズ3により試料6上で電子プローブとして集束される。このようにして集束された電子線(集束電子線)18が照射された試料6からは、試料表面の構成元素に応じた特性X線19が発生する。この特性X線19は、分光素子9によって分光され、X線検出器10により検出される。試料6の面分析を行うためには、電子線走査器4による偏向作用により、集束電子線18を試料6上で二次元的に走査する。
【0018】
ここで、試料6上で集束電子線18が照射される位置と分光素子9とX線検出器10とは常にローランド円上に位置している。分光素子9は、分光素子制御装置11による駆動制御によって、分析対象元素に応じた分光位置に移動される。これにより、分析対象元素に対応する各分光位置において、分光素子9による特性X線19の分光が行われる。
【0019】
各分光位置において、X線検出器10で検出されたX線信号は、X線信号処理装置12により所定の処理が施された後、制御演算処理装置15に送られる。
【0020】
このとき、各分光位置において分光素子9を固定しておき、上述のごとく集束電子線18を試料6上で二次元的に走査することにより、対応する分析対象元素についての試料6の面分析を行うことができる。なお、集束電子線18の試料6上での二次元走査は、集束電子線18の照射位置を固定しておき、この状態で試料ステージ7の二次元移動により行うこともできる。
【0021】
X線信号処理装置12から当該処理後のX線信号を受けた制御演算処理装置15は、集束電子線18の走査を実行した際の走査信号と当該X線信号とに基づき、分析対象元素についての面分析データを作成する。すなわち、制御演算処理装置15は、分析対象元素に関して予め求めておいた質量濃度とX線強度との関係に基づいて、各元素の濃度マップを作成する。さらに、制御演算処理装置15は、後述する立体グラフの作成を行う。
【0022】
なお、本装置の電子光学系を構成する電子銃1、集束レンズ2、対物レンズ3及び電子線走査器4は、電子光学系制御装置8に接続されている。電子光学系制御装置8は、インターフェース14を介して制御演算処理装置15に接続されている。これにより、電子銃1、集束レンズ2、対物レンズ3及び電子線走査器4は、電子光学系制御装置8を介して、制御演算処理装置15により駆動制御される。
【0023】
また、分光素子9の駆動を行う分光素子制御装置11、及び試料ステージ7の駆動を行う試料ステージ制御装置13も同様に、インターフェース14を介して制御演算処理装置15に接続されている。これにより、分光素子9及び試料ステージ7は、それぞれ分光素子制御装置11及び試料ステージ制御装置13を介して、制御演算処理装置15により駆動制御される。
【0024】
さらに、制御演算処理装置15には、表示装置16及び入力装置17が接続されている。表示装置16は、LCD(液晶ディスプレー)等の表示素子を備えており、本発明における分析結果等の表示を行う。また、入力装置17は、キーボード等のキーデバイス及びマウス等のポインティングデバイスを備えており、本装置のオペレータにより制御演算処理装置15に対して入力操作が実行できるものである。なお、図中の5は、光学顕微鏡である。
【0025】
以上が、本発明における試料分析装置の構成である。次に、本分析装置の動作について説明する。
【0026】
本発明の試料分析装置においては、同一の試料6に関し、三元素についての濃度情報に加えて、該三元素以外の二元素についての濃度情報が付与された立体グラフの作成を行う。よって、分析対象元素としては、合計五種以上の元素がオペレータにより指定されることとなる。
【0027】
本実施例としては、説明を簡単にするため、五種の元素が分析対象としてオペレータにより指定される例とする。ここでは、一つの具体例として、試料6がカンラン石[(Mg
1-XFe
X)
2SiO
4]を含むカンラン岩からなり、分析対象元素としてアルミニウム(Al)、シリコン(Si)、カルシウム(Ca)、鉄(Fe)及びマグネシウム(Mg)の五元素が指定される例について述べる。なお、当該分析対象元素において、アルミニウム、シリコン及びカルシウムが上記三元素に相当し、鉄及びマグネシウムが上記二元素に相当する例とする。
【0028】
まず、表示装置16には、
図2に示すように、分析対象元素の指定を行うための画像(ウインドウ)が表示されている。当該画像においては、分析対象元素として、A元素〜E元素の五種の元素が指定可能とされている。ここで、A元素、B元素及びC元素は、上記三元素に対応し、D元素及びE元素は上記二元素(追加二元素)に対応する。なお、本試料分析においては、試料6の相分析が可能である。
【0029】
オペレータは、入力装置17を操作することにより、A元素としてアルミニウム、B元素としてシリコン、C元素としてカルシウム、D元素として鉄、E元素としてマグネシウムの各元素記号を、それぞれ対応する枠内に入力する。これにより、分析対象となる五元素の指定が行われる。
【0030】
次に、オペレータは、入力装置17の操作を行うことにより、本装置による分析実行開始の指示を行う。
【0031】
当該指示を受けて、本分析装置は、試料6に関し、上記各元素についての濃度分析を実行する。この場合、当該分析装置内においては、制御演算処理装置15による駆動制御に
より、分光素子9が上記各元素に対応する分光位置に順次移動していく。このとき、各分光位置で分光素子9を一旦停止(固定)させる。
【0032】
それぞれの分光位置に分光結晶6が位置した状態で試料6上での集束電子線18の走査を行い、これにより試料6から発生する特性X線19を分光素子9により分光してX線検出器10により検出する。X線検出器10からのX線信号は、X線信号処理装置12を経由して制御演算処理装置15に送られる。
【0033】
制御演算処理装置15は、集束電子線18の走査を実行した際の走査信号と当該X線信号とに基づき、そのときの分光位置に対応する元素についての面分析データを作成する。すなわち、制御演算処理装置15は、当該元素に関して予め求めておいた質量濃度とX線強度との関係に基づいて、当該走査エリア内での各測定ポイントにおける該元素の濃度データを得る。これにより、元素A〜元素Eについての各測定ポイントにおける濃度データが取得される。
【0034】
さらに、制御演算処理装置15は、各測定ポイントにおいて、三元素に対応する元素A〜元素Cについて、当該三元素間での各元素の濃度比を算出する。また、制御演算処理装置15は、各測定ポイントにおいて、二元素に対応する元素D及び元素Eについて、当該二元素間における各元素の濃度比を算出する。
【0035】
ここで、
図3に、上記三元素における各元素の濃度比を表わす散布図の例を示す。
図3の例においては、当該走査エリア内での各測定ポイントの中で、所定の3箇所の測定ポイント(測定データ点)a,b,cが抽出され、これら3つの測定ポイントについて、元素A(Al)、元素B(Si)及び元素C(Ca)の各濃度比が表されている(同図内の表を参照)。同図中の下に位置する散布図は、この場合の三元散布図に相当する。
【0036】
本発明においては、制御演算処理装置15が、
図3に示す三元素(元素A〜元素C)についての濃度情報を表わす三元散布図に対して、さらに二元素(元素D及び元素E)についての濃度情報が付加された立体グラフを作成する。
【0037】
このときの立体グラフの例を
図4に示す。同図に示された立体グラフは、元素A(Al)、元素B(Si)及び元素C(Ca)を頂点とする三角形からなる三元散布図に対して、その立体空間内で、三元散布図の平面に直交する方向に軸を追加している。そして、該軸の軸上において、二元素(元素D及び元素E)間での元素の濃度情報が付与されている。すなわち、該軸の上方向を元素D(Fe)の濃度が大きい方向に設定し、該軸の下方向を元素E(Mg)の濃度が大きい方向に設定している。
【0038】
当該立体グラフは、制御演算処理装置15において作成され、表示装置16により表示される。
【0039】
図4の立体グラフにおいては、上記測定ポイントa,b,cに対応する濃度分布データのプロット位置は、同図に示すa,b,cの各黒丸(●)の位置となる。当該立体グラフ内でのプロットをオペレータが目視にて確認することにより、上記三元素についての濃度情報に加えて、鉄とマグネシウムとの両者の相対的な濃度比の情報も一目でわかる。これにより、当該三元素間での濃度情報に加えて、鉄とマグネシウムとの間での濃度比の中で、鉄リッチとなる分析データあるいはマグネシウムリッチとなる分析データがどのように分布しているかが即座にわかることとなる。
【0040】
ここで、本実施例のごとく鉱物(カンラン石[(Mg
1-XFe
X)
2SiO
4])を含む試料6が分析の対象とされている場合、追加される二元素として鉄(Fe)とマグネシウム(Mg)を指定して、両元素間での濃度比を求めることにより、当該鉱物の温度上での形成条件・形成過程を知る手掛かりとなりうる。
【0041】
なお、本発明の変形例として、上記により作成・表示された立体グラフをオペレータの操作により空間座標軸に沿って回転した後の状態を表示することも可能である。
【0042】
図5は、このような例を示すである。同図中の左側にある立体グラフを、Z軸に平行な回転軸を中心として回転(X−Y回転)させることにより、同図中の右側にある立体グラフとして表示することができる。
【0043】
さらに、当該右側にある立体グラフを、X軸に平行な回転軸を中心として回転(Z−Y回転)させることにより、同図中の下側にある立体グラフとして表示することもできる。
【0044】
なお、上記の例では、三元分布図に付加される軸を、当該散布図の平面に直交する軸として説明したが、これに限定されることはない。すなわち、三元分布図に付加される軸を、当該直交する軸とせずに、当該散布図の平面に対して任意の角度で交差する軸とすることもできる。
【0045】
このように、本発明における試料分析装置は、試料6上で一次線(電子線)18を走査し、これにより試料6から発生する信号(特性X線)19を検出して試料6の元素分析を行う装置において、分析対象の複数元素における三元素の濃度情報に基づき形成される三元散布図の平面に対して交差する軸に、他の二元素の濃度情報を付与してなる立体グラフを作成する手段(制御演算処理装置)15を有する。この場合、当該軸は、当該三元散布図の平面に対して直交する軸とすることができる。
【0046】
さらに、本試料分析装置は、当該立体グラフを表示する表示手段(表示装置)16を備える。ここで、表示される立体グラフを、空間座標軸に沿って回転可能とすることもできる。
【0047】
なお、本発明は、蛍光X線分析の分野においても適用可能であり、一次線をX線とし、検出対象の信号を試料からの蛍光X線とすることもできる。
【0048】
本発明においては、多元素を含む試料の元素分析において、三元素の濃度比と別の二元素の濃度比との関連を一つの立体グラフ上で視覚的に表すことができ、オペレータに対して、試料に含まれる化合物等の特定のためのより有用な情報を提供することができる。
【符号の説明】
【0049】
1…電子銃、2…集束レンズ、3…対物レンズ、4…電子線走査器、5…光学顕微鏡、6…試料、7…試料ステージ、8…電子光学系制御装置、9…分光素子、10…X線検出器、11…分光素子制御装置、12…X線信号処理装置、13…試料ステージ制御装置、14…インターフェース、15…制御演算処理装置、16…表示装置、17…入力装置、18…電子線(一次線)、19…特性X線(検出対象信号)