(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5945209
(24)【登録日】2016年6月3日
(45)【発行日】2016年7月5日
(54)【発明の名称】円筒状ケース及び円筒状ケースの製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 70/06 20060101AFI20160621BHJP
B29C 70/10 20060101ALI20160621BHJP
F02C 7/00 20060101ALI20160621BHJP
F01D 25/24 20060101ALI20160621BHJP
B29K 105/08 20060101ALN20160621BHJP
B29L 31/30 20060101ALN20160621BHJP
【FI】
B29C67/14 P
B29C67/14 X
F02C7/00 D
F02C7/00 E
F01D25/24 D
F01D25/24 R
F01D25/24 N
B29K105:08
B29L31:30
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-235354(P2012-235354)
(22)【出願日】2012年10月25日
(65)【公開番号】特開2014-84812(P2014-84812A)
(43)【公開日】2014年5月12日
【審査請求日】2015年5月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(73)【特許権者】
【識別番号】500302552
【氏名又は名称】株式会社IHIエアロスペース
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【弁理士】
【氏名又は名称】長門 侃二
(74)【代理人】
【識別番号】100118267
【弁理士】
【氏名又は名称】越前 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】村上 務
(72)【発明者】
【氏名】奥村 郁夫
(72)【発明者】
【氏名】重成 有
(72)【発明者】
【氏名】原田 敬
(72)【発明者】
【氏名】段 祐輔
【審査官】
鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−144757(JP,A)
【文献】
特開2009−107337(JP,A)
【文献】
特開2006−177364(JP,A)
【文献】
特開2011−98524(JP,A)
【文献】
特開2011−2069(JP,A)
【文献】
特開2006−69166(JP,A)
【文献】
特開2006−97759(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 70/06
B29C 70/00−70/68
F01D 25/24
F02C 7/00
B29K 105/08
B29L 31/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維に熱硬化性樹脂を含浸させた複合材料から成る円筒状ケースであって、
円筒状を成すケース本体と、
前記ケース本体の外周面上において周方向に沿って環状に配置された外向きフランジを備え、
前記外向きフランジは、前記ケース本体の外周面に接着される接着層と、この接着層上において前記ケース本体の周方向に配置される断面三角形状の土台層と、この土台層の一方の斜面から該一方の斜面側における前記接着層上に積層される脚層及び前記土台層の一方の斜面から遠心方向に立ち上がる壁層を一体で有する一方のフランジ構成層と、前記接着層と連続し且つ前記土台層の他方の斜面から該他方の斜面側における前記接着層上に積層される脚層及び前記土台層の他方の斜面から遠心方向に立ち上がって前記一方のフランジ構成層の壁層と重なり合う壁層を一体で有する他方のフランジ構成層を具備し、
前記土台層は、強化繊維を束ねて成るロービングを含むロービング層を積層して成り、
前記脚層及び前記壁層を一体で有する一方のフランジ構成層と、前記接着層,前記脚層及び前記壁層を一体で有する他方のフランジ構成層は、いずれも前記ケース本体の軸心方向に対する配向角が±15〜75°の2軸の強化繊維帯から成るノンクリンプ構造の2軸織物を含む複数の2軸織物層を積層して成っている
ことを特徴とする円筒状ケース。
【請求項2】
前記ケース本体の外周面及び前記外向きフランジにおける前記両フランジ構成層の各壁層がいずれも強化繊維に熱硬化性樹脂を含浸させた複合材料から成る保護層で被覆されている請求項1に記載の円筒状ケース。
【請求項3】
航空機用ジェットエンジンのファンブレードを覆うファンケースとして用いられる請求項1又は2に記載の円筒状ケース。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の円筒状ケースの製造方法であって、
金型上にシート状の前記他方のフランジ構成層の接着層部分を積層して前記接着層を形成する工程と、
前記金型上に積層したシート状の前記他方のフランジ構成層における前記接着層上に断面三角形状の前記土台層を形成する工程と、
前記土台層の一方の斜面から前記他方のフランジ構成層における該一方の斜面側に位置する前記接着層上にシート状の前記一方のフランジ構成層の脚層部分を積層して前記脚層を形成する工程と、
前記一方のフランジ構成層の壁層部分を前記土台層の一方の斜面上において立ち上げて前記壁層を形成する工程と、
前記他方のフランジ構成層の前記接着層に連続する部分を前記土台層の他方の斜面側で折り返し、この折り返した部分を前記接着層から前記土台層の他方の斜面上に重ねて該他方のフランジ構成層の前記脚層を形成すると共に、前記土台層の他方の斜面上において立ち上げて前記壁層を形成して前記一方のフランジ構成層の壁層と重なり合わせる工程と、
前記他方のフランジ構成層側に受圧型をセットして、バッギングした状態で加熱加圧して前記織物層の各強化繊維に含浸させた熱硬化性樹脂を硬化させる加熱加圧工程と、を経て前記外向きフランジを形成した後、
前記金型から離型させた前記外向きフランジを前記強化繊維に熱硬化性樹脂を含浸させた複合材料から成る円筒状の前記ケース本体の外周面に接着する
ことを特徴とする円筒状ケースの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、航空機用ジェットエンジンのファンブレードを覆うファンケースとして用いられる円筒状ケース及び円筒状ケースの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、上記した航空機用ジェットエンジンのファンブレードを覆うファンケースには、軽量であること、及び、高強度を有していることが求められ、これらの要求を満たすべく、ファンケースの素材として強化繊維と熱硬化性樹脂との複合材料を適用する試みが成されている。
【0003】
上記ファンケースにおいて、ファンブレードを覆う円筒状を成すケース本体の中間部分には、例えば、ギヤボックス等の構造体が装着されたり、設計次第ではジェットエンジンを翼に連結するための構造体やジェットエンジンの推力を機体に伝達するための構造体の一部に成り得たりする外向きフランジが周方向に沿って環状に配置されるが、この外向きフランジの素材にも、ケース本体と同様にして炭素繊維等の強化繊維とエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂との複合材料が採用され始めている。
【0004】
この複合材料が採用された外向きフランジとしては、例えば、特許文献1に記載されたものがある。この外向きフランジは、ケース本体の周方向に沿う環状のフランジ本体部分を成すフランジ本体層と、フランジ本体層を両側から支えつつケース本体の外周面上に固定する付着支持層を備えており、フランジ本体層及び付着支持層は、いずれも炭素繊維等の強化繊維から成る織物を含む複数の織物層を積層して形成されている。
【0005】
上記した外向きフランジをケース本体の外周面上に形成してファンケース(円筒状ケース)を製造するに際しては、まず、織物層を複数重ねて積層体を成形し、この積層体を加熱することにより織物層に予め含浸させた熱硬化性樹脂を硬化させてフランジ本体層を形成する。
【0006】
次いで、強化繊維と熱硬化性樹脂との複合材料より成るケース本体の外周面上に、フランジ本体層を周方向に沿って配置し、このフランジ本体層の両側において複数の織物層を積層して付着支持層として成形した後、付着支持層を加熱してフランジ本体層と同じく硬化させることで、フランジ本体層をケース本体の外周面上に固定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−144757号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、上記したファンケースでは、外向きフランジをケース本体の外周面上において形成するに際して、ケース本体の外周面上にフランジ本体層を周方向に沿って配置した状態で、このフランジ本体層の両側に付着支持層を成形するようにしているので、フランジ本体層の基端部分とこの部分を覆う付着支持層との間に隙間が生じる可能性があるという問題を有しており、この問題を解決することが従来の課題となっている。
【0009】
本発明は、上記した従来の課題に着目してなされたもので、例えば、強化繊維と熱硬化性樹脂との複合材料を素材として成り、環状の外向きフランジを有するファンケースである場合において、この外向きフランジの部分における高い構造強度を確保することが可能である円筒状ケース及び円筒状ケースの製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した目的を達成するべく、本発明の請求項1に係る発明は、強化繊維に熱硬化性樹脂を含浸させた複合材料から成る円筒状ケースであって、円筒状を成すケース本体と、前記ケース本体の外周面上において周方向に沿って環状に配置された外向きフランジを備え、前記外向きフランジは、前記ケース本体の外周面に接着される接着層と、この接着層上において前記ケース本体の周方向に配置される断面三角形状の土台層と、この土台層の一方の斜面から該一方の斜面側における前記接着層上に積層される脚層及び前記土台層の一方の斜面から遠心方向に立ち上がる壁層を一体で有する一方のフランジ構成層と、前記接着層と連続し且つ前記土台層の他方の斜面から該他方の斜面側における前記接着層上に積層される脚層及び前記土台層の他方の斜面から遠心方向に立ち上がって前記一方のフランジ構成層の壁層と重なり合う壁層を一体で有する他方のフランジ構成層を具備し、前記土台層は、強化繊維を束ねて成るロービングを含むロービング層を積層して成り、前記脚層及び前記壁層を一体で有する一方のフランジ構成層と、前記接着層,前記脚層及び前記壁層を一体で有する他方のフランジ構成層は、いずれも前記ケース本体の軸心方向に対する配向角が±15〜75°の2軸の強化繊維帯から成るノンクリンプ構造の2軸織物を含む複数の2軸織物層を積層して成っている構成としたことを特徴としており、この構成の円筒状ケースを前述した従来の課題を解決するための手段としている。
【0011】
本発明の請求項2に係る円筒状ケースは、前記ケース本体の外周面及び前記外向きフランジにおける前記両フランジ構成層の各壁層がいずれも強化繊維に熱硬化性樹脂を含浸させた複合材料から成る保護層で被覆されている構成としている。
【0012】
本発明の請求項3に係る円筒状ケースは、航空機用ジェットエンジンのファンブレードを覆うファンケースとして用いられる構成としている。
【0013】
一方、本発明の請求項4に係る発明は請求項1〜3のいずれかに記載の円筒状ケースの製造方法であって、金型上にシート状の前記他方のフランジ構成層の接着層部分を積層して前記接着層を形成する工程と、前記金型上に積層したシート状の前記他方のフランジ構成層における前記接着層上に断面三角形状の前記土台層を形成する工程と、前記土台層の一方の斜面から前記他方のフランジ構成層における該一方の斜面側に位置する前記接着層上にシート状の前記一方のフランジ構成層の脚層部分を積層して前記脚層を形成する工程と、前記一方のフランジ構成層の壁層部分を前記土台層の一方の斜面上において立ち上げて前記壁層を形成する工程と、前記他方のフランジ構成層の前記接着層に連続する部分を前記土台層の他方の斜面側で折り返し、この折り返した部分を前記接着層から前記土台層の他方の斜面上に重ねて該他方のフランジ構成層の前記脚層を形成すると共に、前記土台層の他方の斜面上において立ち上げて前記壁層を形成して前記一方のフランジ構成層の壁層と重なり合わせる工程と、前記他方のフランジ構成層側に受圧型をセットして、バッギングした状態で加熱加圧して前記織物層の各強化繊維に含浸させた熱硬化性樹脂を硬化させる加熱加圧工程と、を経て前記外向きフランジを形成した後、前記金型から離型させた前記外向きフランジを前記強化繊維に熱硬化性樹脂を含浸させた複合材料から成る円筒状の前記ケース本体の外周面に接着する構成としており、この構成の円筒状ケースの製造方法を前述した従来の課題を解決するための手段としている。
【0014】
本発明に係る円筒状ケース及び円筒状ケースの製造方法において、ケース本体及び外向きフランジを構成する複合材料の強化繊維には、例えば、炭素繊維,ガラス繊維,有機繊維(アラミド,PBO,ポリエステル,ポリエチレン),アルミナ繊維,炭化ケイ素繊維を用いることができ、マトリックスとして、熱硬化性樹脂には、例えば、ポリエステル樹脂,エポキシ樹脂,ビニルエステル樹脂,フェノール樹脂,ビスマレイミド樹脂,オキサゾリン樹脂,メラミン樹脂を用いることができる。
【0015】
本発明に係る円筒状ケースにおいて、外向きフランジを構成する一方のフランジ構成層及び他方のフランジ構成層が、いずれも炭素繊維等の強化繊維束から成るノンクリンプ構造を成す2軸織物を含む複数の2軸織物層を積層して形成されているので、ノンクリンプ構造の特徴である伸縮性が発揮されて外向きフランジの製造時におけるフランジ構成層の各折り返しが、皺や繊維の蛇行を生じさせることなく成されることとなる。
【0016】
また、本発明に係る円筒状ケースにおいて、外向きフランジの製造に際して、一方のフランジ構成層及び他方のフランジ構成層の両フランジ構成層の各脚層が、接着層上に積層された土台層の両斜面上及び接着層上に積層するようにしていると共に、両フランジ構成層の各壁層が、いずれも土台層の両斜面上で立ち上がるようにしているので、両フランジ構成層と土台層との間に隙間が生じる可能性がほとんどなくなり、その結果、外向きフランジの部分において、高い構造強度が確保されることとなる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る円筒状ケースでは、環状の外向きフランジを有するファンケースである場合において、この外向きフランジの部分における高い構造強度を確保することが可能であるという非常に優れた効果がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施例によるファンケースを採用した航空機用ジェットエンジンの概略断面説明図である。
【
図2】
図1のファンケースの外向きフランジ部分における拡大断面説明図(a)及び外向きフランジに採用される2軸織物の一部を破断して示す部分平面説明図(b)である。
【
図3】
図1に示したファンケースの製造方法における外向きフランジの成形開始から成形終了までの工程説明図(a)〜(e)である。
【
図4】
図1に示したファンケースの製造方法における外向きフランジに対する保護用複合材料の取り付けから加熱加圧までを示す工程説明図(a)〜(c)である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を図面に基づいて説明する。
図1〜
図4は本発明に係る円筒状ケースの一実施例を示しており、この実施例では、本発明に係る筒状ケースが航空機用ジェットエンジンのファンケースである場合を例に挙げて説明する。
【0020】
図1に示すように、航空機用ジェットエンジン1は、前方(図示左方)から取り入れた空気を複数のファンブレードを有するファン2で圧縮機3に送り込み、この圧縮機3で圧縮された空気に燃料を噴射して燃焼室4で燃焼させ、これで生じる高温ガスの膨張により高圧タービン5及び低圧タービン6を回転させるようになっている。
【0021】
ファン2の複数のファンブレードを覆うファンケース9は、円筒状を成すケース本体9Cと、このケース本体9Cの外周面9a上において周方向に沿って環状に配置された外向きフランジ10を備えている。ケース本体9Cの前端部(図示左端部)には、エンジンカウル7と連結可能な環状の外向きフランジ9Fが形成されていると共に、後端部(図示右端部)には、エンジンナセル8と連結可能な環状の外向きフランジ9Rが形成されており、外向きフランジ10は、ケース本体9Cの外周面9a上においてセグメント化された状態で配置されている。
【0022】
ファンケース9のケース本体9C及び外向きフランジ10は、いずれも炭素繊維等の強化繊維にエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を含浸させた複合材料から成っている。
【0023】
この場合、
図2(a)に示すように、外向きフランジ10は、ケース本体9Cの外周面9aに接着される接着層11cと、この接着層11c上においてケース本体9Cの周方向に配置される断面三角形状の土台層12を具備している。
【0024】
また、外向きフランジ10は、土台層12の一方の斜面(
図2(a)右方斜面)12aからこの一方の斜面12a側における接着層11c上に積層される脚層13a及び土台層12の一方の斜面12aから遠心方向(図示上方向)に立ち上がる壁層13bを一体で有する一方のフランジ構成層13を具備している。
【0025】
さらに、外向きフランジ10は、接着層11cと連続し且つ土台層12の他方の斜面(
図2(a)左方斜面)12bからこの他方の斜面12b側における接着層11c上に積層される脚層11a及び土台層12の他方の斜面12bから遠心方向(図示上方向)に立ち上がって一方のフランジ構成層13の壁層13bと重なり合う壁層11bを一体で有する他方のフランジ構成層11を具備している。
【0026】
この実施例において、土台層12は、炭素繊維等の強化繊維を束ねて成るロービング(繊維束)を含むロービング層を積層して成っている。なお、土台層12の構成材料はロービングに限定されるものではなく、クロス(織物)やノンクリンプファブリック等の材料を用いることができる。
【0027】
一方、脚層13a及び壁層13bを一体で有する一方のフランジ構成層13と、接着層11c,脚層11a及び壁層11bを一体で有する他方のフランジ構成層11は、いずれも複数の2軸織物層を積層して形成されており、この2軸織物層は、
図2(b)に示すように、炭素繊維等の強化繊維帯15a,15bから成る2軸織物15を含んでいる。
【0028】
この2軸織物15は、2軸の強化繊維帯15a,15bから成るノンクリンプ構造を成すものであって、2軸の強化繊維帯15a,15bのケース本体9Cの軸心CL方向に対する配向角は、±15〜75°に設定されるようになっており、この実施例において、
図2(b)の拡大円内に示すように、配向角は、±45°に設定されている。なお、
図2(b)において破線で示した部位はステッチ糸である。
【0029】
ここで、2軸の強化繊維帯15a,15bの軸心CL方向に対する配向角の絶対値が15°未満である場合には、強度及び剛性を確保することが難しいので好ましくなく、一方、2軸の強化繊維帯15a,15bの軸心CL方向に対する配向角の絶対値が75°を超える場合には、製造過程において皺や繊維の蛇行が生じる虞があるのでやはり好ましくない。
【0030】
さらにまた、ケース本体9Cの外周面9aと、外向きフランジ10における両フランジ構成層11,13の各壁層11b,13bは、いずれもガラス繊維等の強化繊維にエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を含浸させた複合材料より成る保護層14(外周面9a上の保護層は省略)で被覆されている。この保護層14は、例えば、外向きフランジ10の成形後における機械加工時には切削代としての役割を果たし、電食防止材としての役割も担っている。加えて、完成品である外向きフランジ10を取り扱う際の保護層としての役割も担っている。
【0031】
そこで、上記したファンケース9の製造にあたって、外向きフランジ10を製造するに際しては、
図3(a)に示すように、まず、金型20上及びこの金型20の端部に面一状態で配置したスペーサS上に、シート状の他方のフランジ構成層(11)を積層して、金型20上に接着層11cを形成する。
【0032】
次いで、
図3(b)に示すように、金型20上に形成した接着層11c上に断面三角形状の土台層12を形成する。
【0033】
次に、
図3(c)に示すように、土台層12の一方の斜面12aからこの一方の斜面12a側に位置する接着層11c上にシート状の一方のフランジ構成層(13)の脚層部分を積層して脚層13aを形成するのに続いて、
図3(d)に示すように、一方のフランジ構成層13の壁層部分を土台層12の一方の斜面12a上において立ち上げて壁層13bを形成する。
【0034】
そして、スペーサS上に位置する他方のフランジ構成層11の接着層11cに連続する部分を、
図3(e)に示すように、土台層12の他方の斜面12b側で折り返し、この折り返した部分を接着層11cから土台層12の他方の斜面12b上に重ねて他方のフランジ構成層11の脚層11aを形成すると共に、土台層12の他方の斜面12b上において立ち上げて壁層11bを形成して、一方のフランジ構成層13の壁層13bに重ね合わせる。
【0035】
この後、
図4(a)に示すように、金型20からスペーサSを離間させると共に、ガラス繊維等の強化繊維にエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を含浸させた複合材料より成る保護層14により、両フランジ構成層11,13の互いに重なり合う壁層11b,13bをそれぞれ被覆する。
【0036】
次に、
図4(b)に示すように、他方のフランジ構成層11側に受圧型20Fをセットするのに続いて、
図4(c)に示すように、両フランジ構成層11,13及び土台層12の全体をナイロンフィルムBで覆い、ナイロンフィルムB内部の真空引きを行いながら、オートクレーブにより加熱加圧することで、各層11〜13の強化繊維に含浸させた熱硬化性樹脂を硬化させて外向きフランジ10を形成する。
【0037】
そして、強化繊維に熱硬化性樹脂を含浸させた複合材料から成る円筒状のケース本体9Cの外周面9aに対して、金型20から離型させた外向きフランジ10を接着により取り付けて固定する。
【0038】
上記したように、この実施例のファンケース9では、外向きフランジ10を構成する一方のフランジ構成層13及び他方のフランジ構成層11が、いずれも炭素繊維等の強化繊維束15a,15bから成るノンクリンプ構造を成す2軸織物15を含む複数の2軸織物層を積層して形成されているので、ノンクリンプ構造の特徴である伸縮性が発揮されて外向きフランジ10の成形時におけるフランジ構成層11,13の各折り返しが、皺や繊維の蛇行を生じさせることなく成されることとなる。
【0039】
また、この実施例のファンケース9では、外向きフランジ10の製造に際して、一方のフランジ構成層13の脚層13aが、接着層11c上に積層された土台層12の一方の斜面12aからこの一方の斜面12a側に位置する接着層11c上に積層するようにしていると共に、一方のフランジ構成層13の壁層13bが、土台層12の一方の斜面12a上で立ち上がるようにしている。
【0040】
加えて、他方のフランジ構成層11の脚層11aも、土台層12の他方の斜面12bからこの他方の斜面12b側に位置する接着層11c上に積層するようにしていると共に、他方のフランジ構成層11の壁層11bが、土台層12の他方の斜面12b上で立ち上がるようにしているので、両フランジ構成層11,13と土台層12との間に隙間が生じる可能性はほとんど皆無になり、したがって、外向きフランジ10の部分における高い構造強度が確保されることとなる。
【0041】
本発明に係る円筒状ケース及び円筒状ケースの製造方法の構成は、上記した実施例に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0042】
1 航空機用ジェットエンジン
9 ファンケース
9C ケース本体
9a ケース本体の外周面
10 外向きフランジ
11 他のフランジ構成層
11a 他のフランジ構成層の脚層
11b 他のフランジ構成層の壁層
11c 接着層(他のフランジ構成層)
12 土台層
12a 土台層の一方の斜面
12b 土台層の他方の斜面
13 一方のフランジ構成層
13a 一方のフランジ構成層の脚層
13b 一方のフランジ構成層の壁層
14 保護層
15 2軸織物
15a,15b 2軸の強化繊維帯
20 金型
20F 受圧型
CL 軸心