(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1の基板本体の傾斜面に形成された透過位相遅延膜による位相遅延量Aおよび前記第2の基板本体の傾斜面に形成された透過位相遅延膜による位相遅延量Bは、それぞれ当該光学部品による全位相遅延量の1/2である請求項1〜3のいずれか一項に記載の光学部品。
前記第1および第2の基板本体には、底角が前記傾斜角度であり、かつ断面二等辺三角突起形状をなす一対の傾斜面が周期的に設けられている請求項1〜5のいずれか一項に記載の光学部品。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献2に記載の位相遅延基板には、基板本体の脆弱性の点から、かかる位相遅延基板の製造時に基板本体同士を圧接させることが困難であるとともに、前記基板同士を光学用接着剤で貼り合わせた場合には、当該光学用接着剤へのレーザ光の吸収によって発熱が生じることがあるという欠点がある。
【0007】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑み、複雑な光軸の調整を行なわなくても小さい空間で所望の偏光状態に変換することができ、構造が簡易である光学部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の光学部品は、赤外レーザ光を透過させて当該赤外レーザ光の
偏光状態を変換する光学部品であって、
赤外レーザ光を透過し、当該赤外レーザ光に対する屈折率が2〜4である板状部材からなり、赤外レーザ光が入射する入射面と、前記入射面に対して所定の傾斜角度で傾斜した傾斜面とを有する第1の基板本体と、
前記板状
部材からなり、赤外レーザ光が出射する出射面と、前記出射面に対して前記所定の傾斜角度で傾斜した傾斜面とを有する第2の基板本体と、
前記第1および第2の基板本体双方の傾斜面に形成され、赤外レーザ光の位相を遅延させる透過位相遅延膜と、
前記入射面および出射面双方に形成され、垂直入射する赤外レーザ光の反射を防止する反射防止膜と、
を備え、
前記傾斜角度は、式(I):
n(λ)×sinθ(λ)=1×sin(x) (I)
(式中、λは前記赤外レーザ光の波長、n(λ)は前記赤外レーザ光に対する前記板状部材の屈折率、xは、前記
傾斜角度が第1の基板本体の傾斜角度である場合、当該第1の基板本体の透過位相遅延膜が形成される傾斜面での赤外レーザ光の
出射角
を示し、前記傾斜角度が第2の基板本体の傾斜角度である場合、当該第2の基板本体の透過位相遅延膜が形成される傾斜面での赤外レーザ光の入射角を示す)
にしたがって求められる基板本体における前記赤外レーザ光の屈折角θ(λ)と同じ角度であり、
前記第1および第2の基板本体双方の傾斜面に形成された透過位相遅延膜同士が間隙を介して対向し、かつ前記入射面と出射面とが互いに平行になるように配置されていることを特徴とする。
【0009】
前記構成が採用された光学部品によれば、前記傾斜面に形成された前記透過位相遅延膜同士が間隙を介して互いに対向し、かつ入射面と出射面とが互いに平行になっているので、赤外レーザ光を垂直入射させ、位相遅延を発生させて赤外レーザ光を所望の偏光状態の赤外レーザ光に変換することができ、しかも当該赤外レーザ光のビームずれを抑制することができる。また、前記構成が採用された光学部品では、透過位相遅延膜において、わずかな透過率ずれが生じた場合であっても、発生する微弱な反射光が両傾斜面に形成された透過位相遅延膜間の間隙内で反射されて外周へと散逸するため、製造誤差に対する裕度が高い。さらに、前記構成が採用された光学部品は、基板本体を構成する板状部材及び基板本体の表面に成膜される赤外光学多層膜を構成する材料それぞれの赤外波長域における吸収係数は極めて低いので、高出力の赤外レーザ光の偏光状態の変換に用いることができる。また、前記入射面および出射面双方に、垂直入射する赤外レーザ光の反射を防止する反射防止膜が形成されている。したがって、前記構成が採用された光学部品によれば、垂直入射する赤外レーザ光が基板本体の入射面で反射することを防止することができるので、赤外レーザ光を効率よく当該光学部品に透過させることができ、赤外レーザ光のロスを抑制することができる。
【0010】
前記第1および第2の基板本体それぞれの傾斜面の周縁には、前記間隙を保つための熱伝導性の良い材料のスペーサが設けられていることが好ましい。前記構成が採用された光学部品によれば、赤外レーザ光の透過に伴って当該光学部品で発生する熱を、前記スペーサを介して外部に発散させることができるので、速やかに光学部品を冷却することができる。また、前記構成が採用された光学部品においては、前記間隙が外部環境から隔絶された状態とすることができるので、間隙は高い清浄状態が保たれ、前記傾斜面に形成された透過位相遅延膜の表面は、使用環境の影響を受けにくい。したがって、前記構成が採用された光学部品は、長期にわたって良好な光学品質を維持することができることから、長寿命が期待できる。
【0011】
前記
第1の基板本体の透過位相遅延膜が形成される傾斜面での赤外レーザ光の
出射角
および前記第2の基板本体の透過位相遅延膜が形成される傾斜面での赤外レーザ光の入射角は、光学部品の基板本体を構成する板状部材の材質、基板本体の大きさによって異なるが、
それぞれ、40°〜60°であることが好ましい。
出射角および入射角は、基板本体の使用赤外波長での屈折率に深く関係しており、傾斜角(基板本体の屈折角)によって異なるが、基板本体を透過する赤外レーザ光の光路長を低減して吸収ロスを低くするためには、
出射角および入射角を上記の範囲とすることが好ましい。
【0012】
前記第1の基板本体の傾斜面に形成された透過位相遅延膜による位相遅延量Aおよび前記第2の基板本体の傾斜面に形成された透過位相遅延膜による位相遅延量Bは、それぞれ当該光学部品による全位相遅延量の1/2であってもよい。前記構成が採用された光学部品は、同一の基板本体に同一の透過位相遅延膜を形成させればよく、光学部品の製造に際して別途異なる透過位相遅延膜を基板本体に形成させる必要がないことから、より工業生産性に優れる。
【0013】
また、前記位相遅延量Aと前記位相遅延量Bとが互いに異なり、前記位相遅延量Aと前記位相遅延量Bとの和が当該光学部品による全位相遅延量であってもよい。前記構成が採用された光学部品は、種々の位相遅延量に対応する光学部品を製造することができるという製造上の利点を有する。
【0014】
前記第1および第2の基板本体には、底角が前記傾斜角度であり、かつ断面二等辺三角突起形状をなす一対の傾斜面が周期的に設けられていてもよい。前記構成が採用された光学部品によれば、第1及び第2の基板本体の厚さを薄くすることができるので、赤外レーザ光の進行方向において、よりコンパクト化することができるという利点を有する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の光学部品は、複雑な光軸の調整を行なわなくても小さい空間で所望の偏光状態に変換することができ、構造が簡易である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[実施形態1に係る光学部品]
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の光学部品の実施形態を詳細に説明する。以下の図面においては、光学部品を構成する透過位相遅延膜、反射防止膜およびスペーサをわかりやすく説明するために、寸法を適宜誇張して描いている。
なお、赤外レーザ光を用いる加工においては、直線偏光を円偏光に変換するときに用いられる典型的な位相遅延量がλ/4(90°)であることから、以下においては、位相遅延量をλ/4に設定した光学部品を例示するが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。また、光学部品を構成する透過位相遅延膜が形成される傾斜面での赤外レーザ光の出射角および入射角は、それぞれ45°としている。
【0018】
図1は、本発明の一実施形態(実施形態1)に係る光学部品を示す断面説明図、
図2は、本発明の実施形態1に係る光学部品の基板素子を示す断面説明図である。
図1に示される光学部品1は、一対の基板素子5,6とホルダー7とを備えている。かかる光学部品1では、基板素子5,6は、同一の基板素子であり、基板素子5,6それぞれの位相遅延量が互いに同じとされている。したがって、一対の基板素子5,6それぞれの位相遅延量がλ/8とされており、基板素子5,6の組み合わせにより、全体として位相遅延量がλ/4(90°)となるように設定されている。このように、基板素子5,6は、同一のものであり、光学部品1の製造に際して別途異なる基板素子を製造する必要がないことから、本実施形態1に係る光学部品1は、工業生産性に優れる。
【0019】
基板素子5は、基板本体11と、赤外レーザ光の位相を遅延させる透過位相遅延膜13と、垂直入射する赤外レーザ光の反射を防止する反射防止膜15とからなる。また、基板素子6は、基板本体12と、赤外レーザ光の位相を遅延させる透過位相遅延膜14と、垂直入射する赤外レーザ光の反射を防止する反射防止膜16とからなる。
なお、本明細書においては、便宜上、赤外レーザ光の入射側に配置されるものを基板素子5、赤外レーザ光の出射側に配置されるものを基板素子6としている。
【0020】
基板本体11は、赤外レーザ光が入射する入射面11aと、入射面11aに対して所定の傾斜角度θ(λ)で傾斜した傾斜面11bとを有している。基板本体12は、赤外レーザ光が出射する出射面12aと、出射面12aに対して前記傾斜角度θ(λ)で傾斜した傾斜面12bとを有している(
図1および2参照)。基板本体11,12は、赤外レーザ光を透過し、当該赤外レーザ光に対する屈折率が2〜4である板状部材からなり、断面三角形状とされている。本実施形態1では、基板本体11,12は、円板状に形成されている。
なお、本発明においては、光学部品の製造を容易にするとともに光学部品の強度を向上させる観点から、基板本体11,12は、
図3に示されるように、短円柱状の基部を有していてもよい。
本実施形態1に係る光学部品では、前記板状部材を構成する材料として、セレン化亜鉛が用いられている。
なお、本発明においては、板状
部材を構成する材料は、赤外レーザ光を透過し、当該赤外レーザ光に対する屈折率が2〜4である材料であればよい。前記板状部材を構成する材料としては、例えば、硫化亜鉛、セレン化亜鉛、シリコン、ゲルマニウムなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの材料なかでは、出力の高い赤外レーザ波長における吸収係数が極めて小さいことが求められることから、本発明においては、セレン化亜鉛が好ましく、化学気相堆積セレン化亜鉛がより好ましい。
【0021】
基板本体11,12において、傾斜面の傾斜角度は、
図3に示されるように、式(I):
n(λ)×sinθ(λ)=1×sin(x) (I)
(式中、λは前記赤外レーザ光の波長、n(λ)は前記赤外レーザ光に対する前記板状部材の屈折率、xは、前記
傾斜角度が基板本体11の傾斜角度である場合、当該基板本体11の透過位相遅延膜が形成される傾斜面での赤外レーザ光の
出射角
を示し、前記傾斜角度が基板本体12の傾斜角度である場合、当該基板本体12の透過位相遅延膜が形成される傾斜面での赤外レーザ光の入射角を示す)
にしたがって求められる基板本体11,12における前記赤外レーザ光の屈折角θ(λ)と同じ角度である。
ここで、式(I)において、λは、偏光状態を変換する対象となる赤外レーザ光の波長である。赤外レーザ光としては、例えば、炭酸ガスレーザ光などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。前記赤外レーザ光の波長は、通常、概ね1000〜12000nmである。前記赤外レーザ光のうち、炭酸ガスレーザ光の波長は、通常、9300nmから10600nmである。
また、式(I)において、n(λ)は、前記赤外レーザ光に対する前記板状部材の屈折率である。本実施形態1では、屈折率n(λ)は、2.40〜2.41とされているが、本発明においては、かかる屈折率n(λ)は、通常、前記板状部材を構成する材料に依存する。
さらに、式(I)において、xは、前記
傾斜角度が基板本体11の傾斜角度である場合、当該基板本体11の透過位相遅延膜が形成される傾斜面での赤外レーザ光の
出射角
を示し、前記傾斜角度が基板本体12の傾斜角度である場合、当該基板本体12の透過位相遅延膜が形成される傾斜面での赤外レーザ光の入射角を示す。本実施形態1では、赤外レーザ光の
出射角
および入射角は、
それぞれ、前述のように、45°とされているが、本発明においては、基板本体11,12の製造上許容される厚さおよび強度を確保するのに十分な範囲内とすることができる
出射角
および入射角となるように適宜設定することができる。
出射角
および入射角は、透過位相遅延膜13を構成する後述の高屈折率層および低屈折率層の層数を低減させるとともに、基板素子5,6の最大厚さを小さくして光学部品1をよりコンパクト化させる観点から、通常、好ましくは40〜60°、より好ましくは40〜50°である。
なお、上述した
出射角
および入射角の範囲は、基板素子5,6の材質、大きさなどによって異なる。例えば、後述する一般的な大きさでは、基板素子5,6の材質がセレン化亜鉛である場合の
出射角
および入射角は、40°〜50°が好ましい。それに対し、基板素子5,6の材質がゲルマニウムである場合の
出射角
および入射角は、40°〜60とすることが好ましい。ゲルマニウムの赤外レーザ光の波長域(1000〜12000nm)での屈折率は、約4.0であり、基板素子5,6の材質がセレン化亜鉛である場合に比べて屈折率が大きくなるので、上記式(I)で
x=45°、n(λ)=4.0に代入して算出される傾斜角θ(λ)は約10°となり、傾斜角を小さくしても、基板素子5,6の材質がセレン化亜鉛である場合より薄い基板素子の厚さで、同様の効果を得ることができる。したがって、より一層のコンパクト化が期待できる。
【0022】
本実施形態1において、基板本体11,12の直径は、光学部品1の用途などに応じて適宜設定することができる。かかる基板本体11,12の直径は、レーザビーム径にも依存するが、通常のレーザ光学部品では、38.1〜63.5mmの範囲の直径が適用される。
また、基板本体11,12の厚さは、基板本体11,12の直径、用いられる赤外レーザ光の波長などに応じて適宜設定することができる。なお、本明細書において、基板本体11,12の厚さは、式(II):
基板本体11,12の厚さd1
=基板本体11,12の直径D1×tanθ(λ) (II)
にしたがって求めることができる(
図2参照)。
本実施形態1において、例えば、基板本体11,12の直径が38.1mmまたは50.8mmであり、用いられる赤外レーザ光の波長λが9300nmまたは10600nmである場合、前記赤外レーザ光に対する前記板状部材の屈折率n(λ)、傾斜角度θ(λ)および基板本体11,12の厚さは、それぞれ表1に示される値となる。
【0024】
このように、光学部品1によれば、透過位相遅延膜を形成させる傾斜面の傾斜角度が式(I)を満たすθ(λ)とされているので、位相遅延を発生させて赤外レーザ光を所望の偏光状態を変換することができ、しかも偏光状態が変換された赤外レーザ光のビームずれを抑制することができる。
【0025】
透過位相遅延膜13は、傾斜面11bに形成されており、透過位相遅延膜14は、傾斜面12bに形成されている。
本実施形態1では、透過位相遅延膜13,14は、用いられる赤外レーザ光の波長が10600nmである場合、
図4および表2に示されるように、基板本体(
図4中、12参照)上に、赤外レーザ光を透過し、かつ当該赤外レーザ光の吸収係数が小さい高屈折率膜材料であるセレン化亜鉛からなる高屈折層(
図4中、14a,14c,14e,14g参照)と、赤外レーザ光を透過し、かつ当該赤外レーザ光の吸収係数が小さい低屈折率膜材料であるフッ化トリウムからなる低屈折層(
図4中、14b,14d,14f,14h参照)とが交互に積層された多層構造を有する多層膜とすることができる。
【0027】
なお、本発明において、透過位相遅延膜13,14は、赤外レーザ光を透過し、かつ当該赤外レーザ光の吸収係数が小さい膜材料からなるものであればよい。本発明において、透過位相遅延膜13,14は、光学部品1のコンパクト化の観点から、前記高屈折率膜材料からなる高屈折率層と前記低屈折膜材料からなる低屈折率層とから構成される多層膜であることが好ましい。前記高屈折率膜材料としては、前述のセレン化亜鉛に加え、例えば、ゲルマニウム、硫化亜鉛、テルル化亜鉛、テルル化鉛などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。また、前記低屈折率膜材料としては、前述のフッ化トリウムに加え、例えば、フッ化バリウム、フッ化イットリウム、フッ化イッテルビウム、フッ化アルミニウム、フッ化サマリウム、フッ化プラセオジウムなどのフッ化物やアルカリ土類金属フッ化物、希土類金属フッ化物などを適当な重量比で混合して溶融し生成された固溶体などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。前記固溶体としては、例えば、セラック社製、商品名:IRXなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
かかる透過位相遅延膜13,14は、例えば、参考文献〔マックレオド(H.A.Macleod)、「スィン・フィルム・オプティカル・フィルターズ第2版(Thin Film Optical Filters,2nd ed.)」(1986年発行)〕に記載の光学薄膜理論などにしたがって設計することができる。
ここで、本実施形態1のように前記多層構造を有する透過位相遅延膜13,14では、その等方性から、p偏光の光路とs偏光の光路とは、スネル屈折則にしたがい、同じである。
一方、p偏光成分の層媒質i(層を構成する材料)における実効屈折率は、式(III):
n(λ)
pi=n(λ)i/cosθ(λ)i (III)
(式中、n(λ)およびθ(λ)は前記と同様である)
にしたがって求められる値であり、s偏光成分の層媒質i(層を構成する材料)における実効屈折率は、式(IV):
n(λ)
si=n(λ)i×cosθ(λ)i(IV)
(式中、n(λ)およびθ(λ)は前記と同様である)
にしたがって求められる値であり、両者は異なる値となる。
したがって、本実施形態1のように前記多層構造を有する透過位相遅延膜13,14では、p偏光成分およびs偏光成分それぞれの光学長が互いに異なることから、p偏光とs偏光との位相遅延が発現する。
また、本実施形態1のように前記多層構造を有する透過位相遅延膜13,14を構成する各層の物理厚さは、光学薄膜計算ソフトなどを用い、位相遅延量が所望値となる最適化計算処理を行なうことによって算出することができる。また、所望の位相遅延量および所望の透過率の2つを同時に満たすようにするためには、光学薄膜計算ソフトなどを用い、これらの所望の位相遅延量および所望の透過率を、それぞれ目標値に設定して最適化計算を行なえばよい。
【0028】
反射防止膜15は、入射面11aに形成されており、反射防止膜16は、出射面12aに形成されている。本実施形態1では、反射防止膜15,16は、光学部品1において、基板本体11,12の外側から順に、前記高屈折率膜材料であるセレン化亜鉛(波長10600nmの赤外レーザ光の屈折率2.403)からなる第1層(厚さ230nm)と、前記低屈折率膜材料であるフッ化トリウム(波長10600nmの赤外レーザ光の屈折率1.35)からなる第2層(厚さ1046nm)とから構成されている。かかる反射防止膜15によって垂直入射する赤外レーザ光が基板本体11の入射面11aで反射することを防止することができるので、赤外レーザ光を効率よく光学部品1に透過させることができ、赤外レーザ光のロスを抑制することができる。
【0029】
なお、本発明においては、反射防止膜15,16を構成する材料は、前記セレン化亜鉛およびフッ化トリウムを用いる代わりに、用いられる赤外レーザ光の波長などに応じて前記高屈折率膜材料および低屈折率材料の中から適宜選択し、用いることができる。また、かかる反射防止膜15,16は、例えば、マックレオド(H.A.Macleod)、「スィン・フィルム・オプティカル・フィルターズ第2版(Thin Film Optical Filters,2nd ed.」(1986年発行)に記載の光学薄膜理論などにしたがって設計することができる。
本発明において、反射防止膜15,16は、光学部品1のコンパクト化の観点から、前記高屈折率膜材料からなる高屈折率層と前記低屈折膜材料からなる低屈折率層とから構成される多層膜であることが好ましい。
反射防止膜15,16の厚さは、用いられる赤外レーザ光の波長などに応じて適宜決定することができる。
【0030】
本実施形態1に係る光学部品1においては、基板素子5,6は、基板本体11の傾斜面11bに形成された透過位相遅延膜13と、基板本体12の傾斜面12bに形成された透過位相遅延膜14との間にスペーサ17を介して間隙Gが設けられるように配置される(
図1および5参照)。
スペーサ17は、熱伝導性が良い熱伝導材料の環状のシート材、例えば、アルミ、ステンレスなどの金属製の環状のシート材、可撓性に富む非金属製の無機材料製の環状のシート材などからなり、前記間隙Gを保つために、前記傾斜面11b,12bの周縁に設けられている。このように、本実施形態1に係る光学部品1によれば、熱伝導材料製のスペーサ17を介して間隙を設けることにより、赤外レーザ光の透過に伴って当該光学部品で発生する熱を、スペーサ17を介して外部に散逸させることができることから、速やかに光学部品を冷却することができる。
また、スペーサ17が前記傾斜面11b,12bの周縁に設けられ、間隙Gが外部環境から隔絶された状態とされているので、間隙Gは高い清浄状態が保たれ、傾斜面11b,12bに形成された透過位相遅延膜13,14の表面は、使用環境の影響を受けにくくなっている。したがって、本実施形態1に係る光学部品1によれば、長期にわたって良好な光学品質を維持することができ、長寿命が期待できる。
なお、本発明においては、熱伝導材料は、約15〜400(W・m
-1・K
-1)程度の熱伝導率を有する材料であればよい。前記熱伝導材料としては、例えば、ステンレス鋼、アルミニウムなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
スペーサ17の厚さ(すなわち間隙の大きさ)dAsは、本実施形態1に係る光学部品1によって偏光状態を変換する赤外レーザ光のビームずれ量の許容範囲などに応じて適宜設定することができる。スペーサ17の厚さ(すなわち間隙の大きさ)dAsは、通常、ビームずれを抑制する観点から、好ましくは1mm以下、より好ましくは0.5mm以下、製造の容易性およびスペーサ17のハンドリングの観点から、好ましくは0.05mm以上である。
【0031】
ホルダー7は、基板素子5,6を幅方向および径方向に位置決めして保持する保持部材である。ホルダー7の内径および内側の幅方向高さは、基板素子5,6の直径(最大外径)、基板素子5,6を対向させたときの幅方向高さなどに応じて適宜設定することができる。ホルダー7を構成する材料としては、例えば、アルミ合金などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0032】
本実施形態1において、波長10600nmの赤外レーザ光を入射面11aに形成された反射防止膜15側から基板素子5に垂直入射させた場合、
図3に示されるように、傾斜面11bに形成された透過位相遅延膜13から出射する赤外レーザ光は、傾斜面11bに垂直である線Pに対して45°屈折している。そして、基板素子5から出射した赤外レーザ光は、間隙Gを通り、対向する基板素子6の傾斜面12bから入射する(
図5参照)。
本実施形態1に係る光学部品1では、基板素子5,6の傾斜面11b,12bに形成された透過位相遅延膜13,14同士が間隙Gを介して互いに対向し、かつ入射面11aと出射面12aとが互いに平行になっているので、赤外レーザ光を垂直入射させ、位相遅延を発生させて赤外レーザ光を所望の偏光状態の赤外レーザ光に変換することができる。また、透過位相遅延膜13において、わずかなビームずれが生じた場合であっても、発生する微弱な反射光は、両傾斜面に形成された透過位相遅延膜13,14間の間隙G内で反射されて外周へと散逸するため、製造誤差に対する裕度が高くなっている。
【0033】
[実施形態2に係る光学部品]
図6(a)は本発明の実施形態2に係る光学部品の基板素子を示す要部断面説明図、(b)は前記基板素子の基板本体を示す部分説明図である。
本実施形態2に係る光学部品は、傾斜面11b,12bそれぞれが、
図6に示されるように、底角が前記傾斜角度θ(λ)とされ、周期的に設けられた断面二等辺三角突起形状をなす一対の傾斜面11b1,11b2および前記と同様の断面二等辺三角突起形状をなす一対の傾斜面12b1,12b2とされている点で、実施形態1に係る光学部品1と異なっている。なお、
図6(b)において、基板本体12中の実線は谷部、破線は山部を示す。
かかる実施形態2に係る光学部品では、基板素子8の基板本体11および基板素子9の基板本体12それぞれに、
図6に示されるように、底角が前記傾斜角度θ(λ)である断面二等辺三角突起形状をなす一対の傾斜面11b1,11b2および前記と同様の断面二等辺三角突起形状をなす一対の傾斜面12b1,12b2が周期長Lとなるように設けられている(
図6参照)。
また、一対の傾斜面11b1,11b2および一対の傾斜面12b1,12b2それぞれには、透過位相遅延膜13,14が形成されている。
本実施形態2に係る光学部品では、一対の傾斜面11b1,11b2および一対の傾斜面12b1,12b2それぞれの高さd2は、式(V):
高さd2=(L/2)×tanθ(λ) (V)
(式中、Lは周期長を示し、基板本体11,12の直径D2よりも小さい値であり、θ(λ)は前記と同様である)
で表わされる。したがって、本実施形態2に係る光学部品の基板本体11,12の直径D2が前記実施形態1に係る基板本体11,12の直径D1と同じであると仮定すると、一対の傾斜面11b1,11b2および一対の傾斜面12b1,12b2それぞれの高さd2は、前記実施形態1に係る光学部品の傾斜面11b,12bの高さd1よりも小さくすることができる(
図2および6参照)。
本実施形態2に係る光学部品においては、例えば、周期長Lを10mm、13mm、15mmまたは20mmに設定した場合、一対の傾斜面11b1,11b2および一対の傾斜面12b1,12b2それぞれの高さd2は、式(V)にしたがい、表3のように設定することができるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0035】
(変形例に係る光学部品)
前記実施形態1および2に係る光学部品においては、基板素子5,6は、同一の基板素子であり、基板素子5,6それぞれの位相遅延量が互いに同じとされ、いずれもλ/8とされているが、本発明においては、一対の基板素子それぞれの位相遅延量が互いに異なるように設計されていてもよい。
【0036】
(光学部品の製造方法)
つぎに、添付図面を参照しつつ、本発明の光学部品の製造方法の実施形態をより詳細に説明する。以下、実施形態1に係る光学部品1の製造方法を例に挙げて説明する。
図7は、本発明の実施形態1に係る光学部品の製造方法の手順を示す工程図である。なお、
図7では、光学部品を構成する透過位相遅延膜、反射防止膜およびスペーサをわかりやすく説明するために、寸法を適宜誇張して描いている。
【0037】
まず、赤外レーザ光を透過し、当該赤外レーザ光に対する屈折率が2〜4である材料からなる円板状部材Wから、傾斜面11b(12b)を有する基板本体11(12)を得る(
図7(a)参照)。かかる基板本体11(12)は、例えば、光学部品に用いる素材から基板本体11(12)に対応する中間素材を切り出した後、一般的には、研削加工、切削加工、研磨加工などを中間素材に施すことなどによって形成させることができる。
【0038】
つぎに、基板本体11(12)の傾斜面11b(12b)に透過位相遅延膜13,14を形成させる(
図7(b)参照)。透過位相遅延膜13,14の形成は、例えば、傾斜面11b(12b)の表面に透過位相遅延膜13,14を構成する各層を積層することなどによって形成させることができる。前記傾斜面11b(12b)の表面への透過位相遅延膜13,14を構成する各層の積層は、例えば、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、スパッタ法、イオンビーム蒸着法などにより行なうことができるが、本発明は、かかる手法のみによって限定されるものではない。
【0039】
つぎに、基板本体11の入射面11aおよび基板本体12の出射面12aに反射防止膜15(16)を形成させ、基板素子5,6を得る(
図7(c)参照)。反射防止膜15(16)の形成は、例えば、入射面11a,出射面12aの表面に反射防止膜15,16を構成する各層を積層することなどによって形成させることができる。前記入射面11a,出射面12aの表面への反射防止膜15(16)を構成する各層の積層は、例えば、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、スパッタ法、イオンビーム蒸着法などにより行なうことができるが、本発明は、かかる手法のみによって限定されるものではない。
【0040】
その後、基板素子5の透過位相遅延膜13と、基板素子6の透過位相遅延膜14とをスペーサ17を介して向かい合わせて間隙Gを設け、ホルダー7でこれら基板素子5,6を保持することにより、光学部品1が得られる(
図7(d)参照)。
【0041】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は、かかる実施例に限定されるものではない。
【0042】
(実施例1)
図4および表2に示される透過位相遅延膜13,14の光学特性を検証した。赤外レーザ光の波長と
図4および表2に示される透過位相遅延膜13,14の透過率との関係、赤外レーザ光の波長と前記透過位相遅延膜13,14の透過位相遅延量との関係、赤外レーザ光の入射角と前記透過位相遅延膜13,14の透過率との関係および赤外レーザ光の入射角と前記透過位相遅延膜13,14の透過位相遅延量との関係を調べた。
【0043】
赤外レーザ光の波長と透過率との関係を
図8、赤外レーザ光の波長と位相遅延量との関係を
図9、赤外レーザ光の入射角と透過率との関係を
図10、赤外レーザ光の入射角と位相遅延量との関係を
図11に示す。
図8および
図10において、(A)はs偏光成分の透過率およびp偏光成分の透過率の平均値、(B)はs偏光成分の透過率、(C)はp偏光成分の透過率を示す。
【0044】
図8および
図9に示された結果に基づき、赤外レーザ光の波長が10600nm近傍域(波長:10600±10nm)であるときの透過位相遅延膜13,14の透過率および位相遅延量を計算したところ、平均透過率が99.6%以上であり、位相遅延量が44.4±0.4°であることがわかる。また、
図10および
図11に示された結果に基づき、赤外レーザ光の波長が10600nmであり、かつ間隙Gでの入射角が45°±2°であるときの透過位相遅延膜13,14の透過率および位相遅延量を計算したところ、平均透過率が99.65+1.0/−0.4%であり、位相遅延量が44.48±1.5°であることがわかる。
これらの結果から、
図4および表2に示される透過位相遅延膜13,14は、表4に示される光学特性を有しており、透過率及び透過位相遅延量は、赤外レーザ光に対して要求される十分な値(標準的な透過率:98.0%以上および標準的な透過位相遅延量:45±3°)であることがわかる。なお、表中、「平均」とは、s偏光の透過率とp偏光の透過率との平均値を示す。
【0046】
(実施例2)
図4および表2に示される透過位相遅延膜13,14を有する基板素子5,6からなる光学部品1の光学特性を検証した。
光学部品1の透過率は、位相遅延量がλ/8である透過位相遅延膜13,14と、反射防止膜15,16とを有していることから、反射防止膜での透過率と透過位相遅延膜での透過率との積によって光学部品1としての平均透過率は試算できる。したがって、反射防止膜での透過率が99.99%であり、透過位相遅延膜での透過率が99.65%である場合、(0.9999×0.9965)
2=0.993となり、光学部品1における赤外レーザ光の透過率は99.3%と算出される。
【0047】
一方、反射防止膜では、赤外レーザ光が垂直入射するため、位相遅延量は0であることから、光学部品1の位相遅延量は、透過位相遅延膜の値のみに依存する。したがって、透過位相遅延膜での位相遅延量の和から、光学部品1の位相遅延量は、44.48+44.48=88.96°であると算出される。
【0048】
基板素子5,6における形状的製造誤差として考えられる傾斜面の傾斜角度の誤差と透過位相遅延膜での入射角(出射角)の設定値(45°)からのずれの関係が光学特性に大きな影響を及ぼすかどうかを検証した。
スネルの屈折則での赤外レーザ光の大気中での屈折角θ
0の微小角度変化Δθ
0と基板本体内での屈折角θ
λの微小角度変化Δθ
λとの関係は、Δθ
0/Δθ
λ=n
λ・cosθ
λ/cosθ
0で表わされ、3.25と算出される。そこで、基板本体の傾斜面の傾斜角度と間隙Gでの入射角(出射角)との関係を
図12に示す。
【0049】
図12に示された結果から、位相遅延量を設計値の±0.5°以内とする場合、傾斜角度は、例えば、当該傾斜角度の設計値を17.11°としたときには±0.2°以内の精度となるようにすれば、十分な光学特性を有する光学部品が得られることがわかる。
【0050】
(実施例3)
実施形態1に係る光学部品1では、透過位相遅延膜間に大気媒質の間隙Gが設けられている。そこで、
図5に示されるように、赤外レーザ光が基板本体11内から出射して基板本体12内へと入射する場合において、間隙Gの大きさを1mm以下とし、当該間隙Gを屈折率n=1の空気膜として捉えた場合において、当該空気膜での干渉による光学特性への影響を検証した。
【0051】
間隙Gの大きさを0.05mm、0.1mm、0.5mmまたは1mmとし、波長10600nmの赤外レーザ光を用いた場合における平均透過率、位相遅延量およびビームずれを検証した。その結果を表5に示す。
【0053】
表5に示された結果から、間隙Gが小さいほど、ビームずれを小さくすることができることがわかる。
【0054】
(実施例4)
表6に示される12層からなる位相遅延量λ/4(90°)の透過位相遅延膜を設計し、波長10600nmの赤外レーザ光を用いたときの透過率および位相遅延量を検証した。なお、透過位相遅延膜として、位相遅延量の正確性を重視したもの(透過位相遅延膜A)、透過率の高さを重視したもの(透過位相遅延膜B)ならびに位相遅延量の正確性と透過率の高さの両方をバランスよく兼ね備えるもの(透過位相遅延膜C)を設計した。
【0055】
表6に12層からなる位相遅延量λ/4(90°)の透過位相遅延膜の構成、波長10600nmの赤外レーザ光を用いたときの透過率および位相遅延量を示す。なお、表6中、Aは位相遅延量の正確性を重視したもの(透過位相遅延膜A)、Bは透過率の高さを重視したもの(透過位相遅延膜B)、Cは位相遅延量の正確性と透過率の高さの両方をバランスよく兼ね備えるもの(透過位相遅延膜C)を示す。
【0057】
また、表2に示される透過位相遅延膜を有する基板素子と、表6に示される透過位相遅延膜を有する基板素子とをスペーサを介して間隙を設けて配置するとともにホルダーで保持することにより、全位相遅延量が3λ/8の光学部品を得ることができる。