特許第5945267号(P5945267)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5945267有機ケイ素ゾルの急速縮合によって得られるハイブリッド材料の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5945267
(24)【登録日】2016年6月3日
(45)【発行日】2016年7月5日
(54)【発明の名称】有機ケイ素ゾルの急速縮合によって得られるハイブリッド材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 77/38 20060101AFI20160621BHJP
【FI】
   C08G77/38
【請求項の数】24
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-504244(P2013-504244)
(86)(22)【出願日】2011年4月12日
(65)【公表番号】特表2013-523986(P2013-523986A)
(43)【公表日】2013年6月17日
(86)【国際出願番号】EP2011055720
(87)【国際公開番号】WO2011128338
(87)【国際公開日】20111020
【審査請求日】2014年1月14日
(31)【優先権主張番号】10305377.3
(32)【優先日】2010年4月12日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】508019311
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ クロード ベルナール リヨン 1
(73)【特許権者】
【識別番号】305023584
【氏名又は名称】サントル・ナシオナル・ド・ラ・ルシェルシュ・シアンティフィック
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE
(73)【特許権者】
【識別番号】512263223
【氏名又は名称】エフオーアイ スウェディッシュ ディフェンス リサーチ エイジェンシー
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シャピュ, フレデリック
(72)【発明者】
【氏名】パローラ, ステファン
(72)【発明者】
【氏名】ロペス, セザール
(72)【発明者】
【氏名】シャトー, ドニ
(72)【発明者】
【氏名】デロシュ, セドリック
【審査官】 山村 周平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−332197(JP,A)
【文献】 特開2000−345037(JP,A)
【文献】 特表2001−509122(JP,A)
【文献】 特開2006−342341(JP,A)
【文献】 特開2005−146221(JP,A)
【文献】 特開平04−246465(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/096494(WO,A1)
【文献】 Junfang Guo,Lianshe Fu,Huanrong Li,Youxuan Zheng,Qingguo Meng,Shubin Wang,Fengyi Liu,Jun Wang,Hongjie Zhang,Preparation and luminescence properties of ormosil hybrid materials doped with Tb(Tfacac)3phen complex via a sol-gel process,Materials Letters,2003年,vol57,p3899-3903
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 77/00−77/62
C08L 83/00−83/16
C08K 3/00−13/08
C01B 33/00−33/193
C09K 9/00−9/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の一連のステップ:
a)少なくとも1種の有機溶媒中で中性の有機ケイ素ゾルを調製するステップ、
b)前記中性の有機ケイ素ゾル中にドープ剤を混ぜて、ドープされたゾルを形成するステップ、
c)前記ドープされたゾル中に、次ステップのゾルのゲル化を活性化させる促進剤を混ぜるステップ、
d)前記ゾルを縮合させて、架橋されたゲルを得るステップ、及び、
e)前記ゲルを乾燥して、安定なドープされたゲルを形成するステップ
を含む有機−無機ハイブリッド材料の製造方法。
【請求項2】
ステップd)における前記ゾルのゲル化時間は1時間をえないことを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
ステップa)で得られた前記ゾルの縮合率は0.65以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記ドープ剤が添加される、ステップa)で得られた前記有機ケイ素ゾルは、20重量%を超える固形分含量を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記ドープされたゾルは、前記ドープ剤が沈殿することなく、安定で均一であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記有機溶媒は、前記方法を実施するために選択した温度及び圧力の条件下で前記ドープ剤が沈殿することなく、前記ドープされたゾルが安定で均一になるように選択されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
有機溶媒は、ケトン類、テトラヒドロフラン、クロロホルム、ジクロロメタン、アミド類、及び、それらの混合物から選択されることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記ドープ剤は前記有機溶媒に可溶であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記ドープ剤は、前記材料に光学的、機械的、触媒的又は磁気的特性を付与する有機、有機金属又は無機種から選択されることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記ドープ剤は、ピロメテン597、1,4,8,11,15,18,22,25−オクタブトキシフタロシアニン、2,11,20,29−テトラ−tert−ブチル−2,3−ナフタロシアニン、白金(II)錯体、ナフタロシアニン、ランタニド錯体、金属若しくは金属酸化物ナノ粒子から選択されることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項11】
前記促進剤は、2−(トリメトキシシリル)エチル−2−ピリジン、トリメトキシシリルプロピルジエチレントリアミン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)、3−イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、3−チオシアナトプロピルトリエトキシシラン、アミノフェニルトリメトキシシラン、N−メチルアミノプロピルトリメトキシシラン、3−(2−イミダゾリン−1−イル)プロピルトリエトキシシラン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン、ドデシルアミン、アミノプロピルトリメトキシシラン(APTMS)、N−メチルAPTMS、N,N−ジメチルAPTMS、及び、N−メチルピロリドンから選択されることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項12】
ステップb)で使用される前記中性の有機ケイ素ゾルは水が除かれており、これは、H NMRによって水に相当するピークがないことにより確認されることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項13】
前記ゲル化は20〜100℃の温度範囲で行われることを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項14】
前記ゲル化は、次の乾燥ステップ中の温度より低い温度で行われることを特徴とする請求項1〜13のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項15】
存在する前記溶媒は、ゲル化ステップd)の後に除去されることを特徴とする請求項1〜14のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項16】
ステップc)で混ぜる前記促進剤の濃度は0.02mM〜1mMの範囲であることを特徴とする請求項1〜15のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項17】
前記ドープされたゾル中の前記ドープ剤の濃度は0.7モル/L(ゾル)以上の高濃度であることを特徴とする請求項1〜16のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項18】
シリカ網目構造で構成された有機−無機ハイブリッド材料であって、少なくとも1種のドープ剤を該ハイブリッド材料の30質量%以上含む有機−無機ハイブリッド材料であって、前記ドープ剤はフォトクロミック物質及び光制限物質から選択され、さらに
前記ドープ剤はシロキサン結合で官能基化されていない
ことを特徴とする有機−無機ハイブリッド材料。
【請求項19】
前記ドープ剤を前記ハイブリッド材料の40質量%以上含むことを特徴とする請求項18に記載の有機−無機ハイブリッド材料。
【請求項20】
前記ドープ剤は凝集していないことを特徴とする請求項18または19に記載の有機−無機ハイブリッド材料。
【請求項21】
前記ドープ剤は、白金(II)錯体であることを特徴とする請求項18〜20のいずれか1項に記載の有機−無機ハイブリッド材料。
【請求項22】
前記材料は、塊状モノリス材料であることを特徴とする請求項18〜21のいずれか1項に記載の有機−無機ハイブリッド材料。
【請求項23】
前記材料は、キセロゲル若しくはエーロゲル、又は、薄膜であることを特徴とする請求項18〜21のいずれか1項に記載の有機−無機ハイブリッド材料。
【請求項24】
前記ドープ剤は前記材料中に均一に分布していることを特徴とする請求項18〜23のいずれか1項に記載の有機−無機ハイブリッド材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機−無機ハイブリッド材料の分野に関する。より正確には、本発明は、ゾル−ゲル法によるハイブリッド材料の製造方法、及び、含まれる分子種の濃度を非常に高くすることが可能なハイブリッド材料に関する。
【背景技術】
【0002】
低温プロセス(ソフト化学)を用いた無機ガラスの製造方法は、従来のガラス製造法の極めて興味深い代替法といわれている。その方法はハイブリッドマトリクスを製造するのに非常に適している。これらのハイブリッド材料は、有機部分と共存する無機部分を含む。有機部分はキセロゲルの合成、特に乾燥ステップ中のキセロゲルの合成に役立つ。このアプローチは数十年前から知られており、過去20年間この分野で徹底的な研究が行われている。低温プロセスの別の利点は、得られたハイブリッド材料に多官能性を付与することができる機能性分子系又はナノ材料等の感熱性ドープ剤をガラス状マトリクス中に容易に混ぜることができる点である。このハイブリッドマトリクス及びドープ剤の間の相互作用は有機部分の性質とその濃度によって制御される。ドープされたキセロゲルの特性はこれらの相互作用の強さによって影響を受け得る。
【0003】
シリカ系材料は、良好な温度特性と機械的特性を併せ持つことから好適なホストマトリクスである。さらに、シリカ系材料は多くの用途において使用することができる興味深い光学特性を示す。従って、シリカ系ゲルの高分子網目構造中に活性種を捕捉することにより、光学及び光電子工学用途の多くの種類の材料が開発されてきた。ゾル−ゲル法を用いてゲスト−ホスト系を製造する方法として2つの方法が開発されている。まず1つは、ゲスト系とシリカ主鎖の間で強力な相互作用を伴わずに単にマトリクス中に活性種を分散させる方法である。もう1つのアプローチでは、ゲスト活性ユニットがシリカ網目構造と強く結合している(非特許文献1)。最初の方法の主な欠点は、多少極性を有したSiO系ゲルやキセロゲル中のゲスト系(有機若しくは有機金属分子、無機ナノ材料)の溶解度が低い場合が多い点である。それ故、シリカ主鎖への分子種の化学的共有結合グラフト化は、分子種の濃度を0.1〜0.5M又はそれ以上の範囲へと大きく高めるのに適することがある。
【0004】
ドープ剤の結合は、有機分子骨格内のトリアルコキシシリル基を介して行うことができる。このトリアルコキシシリル基は、ゾル−ゲルプロセス中に加水分解されてからケイ素アルコキシドと共縮合される。非特許文献2において、本願発明の発明者らは、周辺の芳香環上にシロキサン官能基を有するジ(アリールエチルニル)ジホスフィンPt(II)錯体を原料としたガラス材料のゾル−ゲル法による製造法を記載した。同時に、その網目構造に疎水性を付与するアルキル基で置換されたアルコキシドを用いたマトリクスの改質を行って、二系間の適合性を改善することもできる。それでもやはり、グラフト化は機能性ドープ剤に構造的変化をもたらす場合がある。また、多くの場合、ドープ剤の化学作用は複雑なままである。
【0005】
両方のアプローチにおける別の一般的な技術的問題は、マトリクスに亀裂が発生するのを防ぐために非常にゆっくりと行う必要がある乾燥ステップの制御に関するものである。そのため様々な解決法が開発されている。その一つとして添加剤、例えばホルムアルデヒトを使用し、ゲルの中実相と多孔質相の超微細構造を制御することが提案されている。ゾル−ゲル由来のモノリス(monolith:単一体、一体物)のゲル化、エージング、乾燥及び緻密化を、亀裂を生じさせずに、数十日かかるところを数十時間という時間で素早く行うことができる(特許文献1)。しかしながら、これは、副生成物が存在することになる結果、最終材料に不純物が混入することを意味する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第4,851,150号明細書
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Adv.Mater.,2003,15(23),1969
【非特許文献2】Adv.Funct.Mater.2009,19,235−241
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、上述したような先行技術の欠点を解決することにある。具体的には、本発明は、ドープ剤の濃度が非常に高いハイブリッドモノリシック材料の製造を可能とするゾル−ゲル法を用いた新しい方法を提案するものである。本発明の方法は、フィルム、繊維又は粉末の製造方法に転用することもでき、また分散系及びグラフト系の双方に適合させることができる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記実情を鑑み、本発明は、以下の一連のステップ:
a)少なくとも1種の有機溶媒中で中性の有機ケイ素ゾルを調製するステップ、
b)上記中性の有機ケイ素ゾル中にドープ剤を混ぜて、ドープされたゾルを形成するステップ、
c)上記ドープされたゾル中に、次ステップのゾルのゲル化を活性化させる促進剤を混ぜるステップ、
d)上記ゾルを縮合させて、架橋されたゲルを得るステップ、及び、
e)上記ゲルを乾燥して、安定なドープされたゲルを形成するステップ
を含む有機−無機ハイブリッド材料の製造方法に関する。
【0010】
本発明によれば、促進剤を使用することを考えると、ゲル化は非常に速く、例えば2〜3秒以内に起こらねばならない。上記ゲル化時間(ステップd)の持続時間)は1時間を超えてはならないことが好ましい。このように縮合反応の反応速度が早いことによって、浸透性の無機網目構造が急速に成長する。結果として、固体状態に導くステップd)は、ゾルの急速で顕著な縮合が起こるステップとなり、高度に架橋されたゲルが形成される。このように、ゲル化時間が短いということは縮合率が高いということであり、この場合、ドープ種の分配の「動きを止め」、高濃度のゾルであってもドープ種の凝集が抑えられる。
【0011】
本発明の別の目的は、シリカ網目構造で構成されたハイブリッド材料であって、少なくとも1種のドープ剤を該ハイブリッド材料の30質量%、好ましくは40質量%以上含むハイブリッド材料に関する。
【0012】
本発明の別の目的は、シリカ網目構造で構成されたハイブリッド材料であって、少なくとも1種の準不溶性ドープ剤を含むハイブリッド材料に関する。マトリクス中の上記ドープ剤の最終濃度は、従来法で製造されたマトリクス中の飽和濃度よりもはるかに高い。なお、典型的な飽和濃度は約10−5モル/Lである。
【0013】
本発明は、本発明の上記製造方法によって得られる上記材料にも関する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明において、「有機ケイ素ゾル」という語はオルガノアルコキシシラン単量体の水解物をいう。オルガノアルコキシシラン単量体のアルコキシ基(その式(I)は後で述べる)は部分的又は完全に加水分解され、シラノール基(Si−OH)に変換される。
【0015】
「有機ケイ素ゾル」は「中性」と記載してあるが、これは、洗浄するか、あるいは適切な濃度の塩基を添加することによって遊離酸が除去又は部分的に除去されているからである。特に、有機ケイ素ゾルのpHは、ドープ剤を混ぜる時には6.5〜7.5の範囲に属する。
【0016】
「ドープ剤」という語は、材料に特定の性質、例えば光学的、機械的、触媒的又は磁気的特性を付与する機能性物質をいう。フォトクロミック物質や光制限物質(optical power limiting agent)はそのようなドープ剤の例である。ドープ剤は、有機、有機金属又は無機の分子種及び無機ナノ材料から選択される。混ぜる有機又は有機金属ドープ剤の溶解度は、ゾルに相溶性のあるゾル用に選択された溶媒中で充分に高くなければならない。有機又は有機金属ドープ剤を完全に溶解させるために、溶媒をゾルに補充する場合もある。ゾルの温度を上げた場合もそれと同じ効果が期待できる。互いに異なる溶解度を示すドープ剤であったとしても、この方法を用いればドープ剤の混合物を容易に得ることができる。
【0017】
各ケイ素種T、T及びT(‘T’中の上付き文字“n”はケイ素原子を取り囲む橋かけ酸素(OSi)の数を示す)から構成されるゾルの縮合率Tcは次の式で定義することができる。
Tc=[0.5(面積T)+1.0(面積T)+1.5(面積T)]/1.5
(式中、Si29 NMRスペクトルにおけるT種のピーク下の面積)。本発明に係る方法の有利な変法では、ドープ剤が添加される、ステップa)で得られた有機ケイ素ゾルは、0.65以上の大きな縮合率を有している。特に、このゾルは0.75〜0.95の範囲、好ましくは0.75〜0.85の範囲、より好ましくは0.85〜0.95の範囲の縮合率を有している。上記ゾルの縮合率がそのように高ければ、ゲル化は非常に速く効率的に行われる。そのような場合には、材料の増粘に相当するゲル化では、縮合率の増加は非常に少なくなる。従ってより極性の低いマトリクスが得られる。シラノール基の濃度が低いと、ドープ剤とシリカ網目構造の相溶性が増す。また、ゾルの縮合率が高いと、ゲル化の最終段階での水の放出が少なくなり、水を含まない材料を調製することができる。
【0018】
本発明の第1の変法によれば、本発明において使用される有機ケイ素ゾルは国際公開第00/35818号に従って調製される。この場合、有機ケイ素前駆体の加水分解は、大過剰の水を用いて行われる。その後、水解物を濃縮し、相分離(水相と有機ケイ素相)が生じるまで静置する。上記ゾルは、回収されて処理された有機ケイ素相に相当し、非常に低い含水量を示す。また、有機ケイ素ゾルは高い縮合率を示し、その縮合率は0.65以上である。このゾルは、さらに乾燥して疎水性溶媒中に再分散させてもよい。より正確には、有機ケイ素ゾルは以下のように調製してもよい。
a1)下記式:
Si(OR4−n (I)
(式中、
基は、同一又は異なって、アルキル基、アリール基、ビニル基又はHを表し、
基は、同一又は異なって、H又はアルキル基を表し、
nは1又は2であり、R基の1つがHであればnは2である)
を有する有機ケイ素単量体前駆体を少なくとも1種含むアルコキシド前駆体の初期体積Vsiに対して加水分解を行う。ここで加水分解は、例えば以下の量:
[xHO/xSi]≧8
(式中、xHO及びxSiはそれぞれHO及びSiのモル数を表す)
の水を用い、さらに以下のような可能量:
0≦[xSolvent/xSi]≦8
(式中、xSolventは溶媒のモル数を表す)
の有機溶媒を用いて、以下の条件:
[xHO/xSi]=20の場合にはxSolvent=0
で行われ、これによりアルコキシド前駆体の水解物を得る;
a2)初期体積Vsiに対して実質的にそれ以下の体積にまで水解物を濃縮する(水と溶媒の留去);
a3)濃縮された水解物を明らかな相分離が起こるまで、即ち水相と有機ケイ素相が得られるまでエージングする;
a4)有機ケイ素相を回収し、溶媒中に分散させる;
a5)必要であれば、溶媒相中の有機ケイ素ゾルを乾燥し、必要であれば、有機溶媒を、ドープ剤を混ぜた時に安定で均一なドープされたゾルとするのに非常に適した別の溶媒に置換する。
【0019】
ある実施形態によれば、用いられる単量体(I)において、Rは、メチル、エチル若しくはフェニル基、又は、置換されたフェニル基、好ましくは無極性基及びビニル基から選択される1若しくは数個の基で置換されたフェニル基を表し、Rは炭素数1〜7のアルキル基を表し、nは1又は2、好ましくはR基がいずれもHでない場合に1である。
【0020】
式(I)を有する特に好ましい有機ケイ素前駆体の中でも、次のものが挙げられる:メチルトリメトキシシラン(MTMOS)、メチルトリエトキシシラン(MTEOS)、エチルトリエトキシシラン(ETEOS)、ジメチルジメトキシシラン(DMDMOS)、ジメチルジエトキシシラン(DMDEOS)、ジエトキシメチルシラン(HMDEOS)、フェニルトリエトキシシラン(PTEOS)及びビニルトリエトキシシラン(VTEOS)。好ましい実施形態においては、式(I)の単量体前駆体は、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン及びそれらの混合物から選択される。より詳細な記載は国際公開第00/35818号を参照することができる。
【0021】
本発明の第2の変法によれば、国際公開第94/25406号の方法に従って調製された有機ケイ素ゾルを処理することにより、ゾルを中和し、その縮合率を高めることで、高い縮合率を有する中性有機ケイ素ゾルが調製される。上記処理は、中性若しくは塩基性の水溶液を用いて、又は、有機ケイ素ゾルを縮合率が0.5を超えるまで加熱することによって行ってもよい。縮合率はNMR分光分析を用いて測定することができる。既に述べたように、処理後に得られた有機ケイ素相を回収し、適当な溶媒に分散させてもよい。得られたゾルを乾燥して疎水性溶媒中に再分散させ、本方法の残りの過程で使用できるゾルとしてもよい。この第2の変法においては、国際公開第94/25406号に説明されるように、有機溶媒又は有機溶媒の混合物に溶解させた1種又は数種のオルガノアルコキシシランの加水分解をpHが3以下の酸性水溶液を用いて行う。蒸留によって有機溶媒及び残存アルコールの除去並びに溶液の濃縮を行うことにより、上記ゾルが得られる。
【0022】
高い縮合率を有する低含水量の中性有機ケイ素ゾルを調製するための本発明の第3の変法においては、ケイ素アルコキシドとpHが4未満の酸性水溶液の混合物を60℃より高い温度で加熱する。加熱処理によって加水分解とともに縮合も促進される。加水分解は、例えば以下の量:
[xHO/xSi]≧6
(式中、xHO及びxSiはそれぞれHO及びSiのモル数を表す)
の水を用い、さらに以下のような可能量:
0≦[xSolvent/xSi]≦8
(式中、xSolventは溶媒のモル数を表す)
の有機溶媒を用いて行う。
【0023】
1種のアルコールを溶媒として用いる場合、アルコール含有量が高くなるほど、縮合率は低くなる(処理温度及び時間が同じ場合)。さらに、無溶剤条件の場合、含水量が低くなるほど、縮合率は低くなる(処理温度及び時間が同じ場合)。同じ縮合率であれば、加水分解ステップ中に生じるアルコールを留去することによって、加熱処理時間が減る。有機ケイ素相は、高粘度のゾルが得られるまで減圧下で溶媒を除去することにより単離することができる。既に述べたように、有機ケイ素相は適当な溶媒中に分散させてもよい。得られたゾルを乾燥して適当な溶媒、例えば疎水性溶媒中に再分散させて、使用可能なゾルとしてもよい。
【0024】
ステップb)で使用される有機ケイ素ゾルは、好適な溶媒中で直接得てもよく、あるいは、アセトン又は2−ブタノン等のケトン類、テトラヒドロフラン、クロロホルム、ジクロロメタン、DMF等のアミド類、及び、それらの混合物等から選択される少なくとも1種の溶媒中で可溶化してもよい。この溶媒は、本方法を実施するために選択した温度及び圧力の条件下でドープ剤が沈殿することなく、ドープされたゾルが安定で均一になるように選択されるのが有利である。ドープ剤が有機又は有機金属物質である場合、上記溶媒は、本方法を実施するために選択した温度及び圧力の条件下でドープ剤が溶解するように選択されることとなる。
【0025】
必要であれば、ゾル中の水、酸素及び残存する有機溶媒の量を制御してもよい。中性の有機ケイ素ゾルの調製のために用いられるプロセスがどのようなものであっても、その固形分含量が20wt%を超えるのが有利である。このゾルの特性は、キセロゲルの収縮を減らし、ゲル化時間を減らし、ドープ剤を閉じ込めるのに充分なものとするのに役立つ。
【0026】
ドープ剤が水に不溶の場合に含水率を減らすことは興味深い。この場合には、中性の有機ケイ素ゾルの水の量は、好ましくは1質量%未満である。本発明の別の実施形態においては、水が除かれた中性の有機ケイ素ゾルを用い、これは、H NMRによって水に相当するピークがないことにより確認される。含水量を減らす必要がある場合、有機ケイ素ゾルを調製するために用いられるプロセスがどのようなものであっても、回収した有機ケイ素相に対して、(1)大気圧において100℃を超える沸点を有する溶媒を添加するか、若しくは、水と共沸混合物を形成する溶媒(例えば、沸点79.6℃の2−ブタノン等)を添加して、その溶媒を留去する、又は、(2)疎水性溶媒で抽出し、乾燥剤(例えばMgSO等)を用いる、といういずれかの方法によって上記第1の変法で述べた乾燥ステップa5)を行うのが好ましい。沸点が100℃を超える溶媒を使用する場合、その溶媒を除去するためにゾルを比較的高い温度で処理することとなるが、これによりゾルの変質が大きくなる(縮合率が高くなりすぎる、ゲル化が速すぎる)という欠点が生じ得る。共沸蒸留によって温度を下げることができ、これは、繰り返し蒸留を行なったがゾル中の含水量が相対的に大きいままの場合でも適用できる。従って、沸点が80℃以下の疎水性溶媒を用いた抽出により乾燥することが好ましい。水の除去は、MgSOのような乾燥剤の添加によって改善される。酢酸エチル又はジエチルエーテルを溶媒として使用するのが好ましい。推奨される乾燥方法は、ジエチルエーテルで抽出した後、乾燥剤で処理する方法である。しかしながら、この方法は、ろ過で乾燥剤を除去し、エーテルを別の溶媒で置換することを意味するものである。実際、ジエチルエーテルはゾルとしてその後使用するのに適した溶媒ではない。上記ゾルはやや極性があり、ジエチルエーテルにはほとんど溶解しない。ジエチルエーテルは、より高い沸点を有するとともに有機ケイ素種の溶解度も高い溶媒に容易に置換することができる。従って、ジエチルエーテルを減圧下で部分的に(ゾルの溶解度の限界まで)留去し、置換溶媒を過剰に(例えばVsiの2倍量)添加し、次に体積がVsiとなるまで留去する。この後半の操作は、ゾル中に存在する全ジエチルエーテルを留去するために2回行うのが好ましい。
【0027】
ステップb)では、1種又は数種のドープ剤をゾルに添加する。本発明で使用されるドープ剤は、上述したAdv.Funct.Mater.2009に記載されるようなシロキサン基で官能基化されたドープ剤に相当しないものが有利である。その量は、最終材料中の濃度が所望の濃度に達するように選択される。溶媒はドープ剤との相溶性に基づいて選択される。溶媒は、安定で均一、かつ、沈殿を生じないドーピングゾルとなるように選択される。挿入したドープ剤はやや親有機性ではあるが、ゾル用に選択される溶媒はこのドープ剤の性質を広げるものである。溶媒はゾルとの混和性に関して選択されるのが有利である。ドープ剤は有機又は有機金属物質の場合、溶媒に溶解することが好ましい。ゾル中のドープ剤の溶解度を高めるために、溶媒を添加したり、最初の溶媒を別の溶媒に置換したりすることもできる。ゾルとドープ剤は一緒に混合される。得られた混合物を、ドープされたゾルが透明になるまで撹拌する。ドープ剤の溶解度を高めるために温度と圧力を高くしてもよい。例えば、30〜200℃の範囲の温度と、大気圧(Patm)〜200barの範囲の圧力を用いることができる。温度と圧力は、撹拌後に透明なゾルとなるように選択される。本発明によれば、ドープされたゾル中のドープ剤の濃度は0.7モル/L(ゾル)以上の高濃度であることを特徴とし得る。
【0028】
得られるドープされたゾルは、ドープ剤が沈殿することなく、安定で均一である。本発明によれば、ドープ剤は可変の特性を呈するものであってもよい。ドープ剤は低極性、疎水性又は親水性であってもよい。
【0029】
ピロメテン597、1,4,8,11,15,18,22,25−オクタブトキシフタロシアニン、2,11,20,29−テトラ−tert−ブチル−2,3−ナフタロシアニン、アセチリド等の白金錯体、ナフタロシアニン、ユウロピウム錯体等のランタニド錯体等といった有機若しくは有機金属分子、金属若しくは金属酸化物ナノ粒子(Ag、Au)が特に興味深い。特定の実施形態においては、得られるハイブリッド材料中に含まれるドープ剤は、上記材料に光制限特性を付与するよう選択されるのが好ましい。例えば、ドープ剤は白金(II)錯体又はナフタロシアニンから選択することができる。アセチリドは使用できる白金(II)錯体の例である。従って、これらの場合において、得られる材料は非線形光学材料であり、例えば、レーザーの攻撃から光学センサを保護するために有用である。触媒用途には、金属(例えばNi、Co、Pt若しくはPd等)又は酸化物(例えばTiO等)のナノ粒子を材料中に混ぜることができる。
【0030】
ゾル中にドープ剤を完全に溶解させた後、ドープされたゾル中に促進剤を素早く混ぜる。例えば、上記促進剤はドープ剤を投入した後1時間内に加えられる。上記促進剤は塩基性であり、この促進剤により次のステップd)中に網目構造の縮合が急速に進む。上記促進剤は、例えば、2−(トリメトキシシリル)エチル−2−ピリジン、トリメトキシシリルプロピルジエチレントリアミン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)、3−イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、3−チオシアナトプロピルトリエトキシシラン、アミノフェニルトリメトキシシラン、N−メチルアミノプロピルトリメトキシシラン、3−(2−イミダゾリン−1−イル)プロピルトリエトキシシラン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン、ドデシルアミン、アミノプロピルトリメトキシシラン(APTMS)、N−メチルAPTMS、N,N−ジメチルAPTMS、及び、N−メチルピロリドンから選択することができる。促進剤の量は、乾燥して溶媒を除去する前のゲルが所望の架橋率に達するのに十分な量である。特に、ステップc)で混ぜる上記促進剤の濃度は0.02mM〜1mMの範囲、例えば約0.2mMである。上記促進剤の濃度は、促進剤/ケイ素のモル比が0.002〜0.2の範囲となる濃度が好ましい。例えば、固形分含量が30%を超える場合にゾル1g当たりの促進剤の量が2μLを超える量とするのがよい。
【0031】
本発明によれば、上記促進剤は、熱塩基や光塩基(Polycat SA1/10、オキシム−ウレタン基を有する分子)のような誘発された塩基(triggered base)から選択してもよい。
【0032】
国際公開第2004/092820号に記載の方法とは異なり、本発明の方法はカルバゾール誘導体を用いずに実施されるため、得られる有機−無機ハイブリッド材料はカルバゾール誘導体を全く含んでいない。
【0033】
ドープ剤と促進剤の両方がゾル中に存在する場合、ゲル化が即座に起こる。このゲル化は、ゾル中に残存するシラノール基の縮合によって起こる。例えば、上記ゲル化は20〜100℃の温度範囲、好ましくは70〜80℃の温度範囲で行われる。特に、上記ゲル化は20〜50℃の温度範囲、例えば室温(20〜25℃)又は室温より僅かに高い温度(30〜50℃)で行うことができる。上記ゲル化は、次の乾燥ステップ中の温度より低い温度で行われることが好ましい。大抵の場合、ゲル化のため、上記ゾルは加熱下又は加熱しないで型枠中へと注がれる。上記ゲル化は溶媒の蒸発を防止するために閉鎖した容器内で行うことができ、この場合有利である。加熱を行えばドープ剤の溶解度を改善することができるが、ゲル化中の溶媒の消失を避ける又は最小限にするために温度を制御する必要がある。上記ゲル化は、溶媒が消失しないように行うか、又は、促進剤の添加前に存在する溶媒の5%未満に相当する僅かな消失量に抑えるよう行うことが好ましい。
【0034】
上記ゲル化に相当するエージングステップは非常に速く、ほんの数分しかからない場合もあり、例えば10分未満又は1時間未満である。これは、従来技術では一般的に数日必要だったことを考えればかなり短い。本発明によれば、上記促進剤を素早く添加することによって超急速縮合が引き起こされ、これにより乾燥ステップ及び溶媒の除去の前に材料の動きを止め、ドープ剤の拡散を阻止する。本発明によれば、存在する溶媒(特にゾルの有機溶媒)は、このゲル化ステップd)の後に除去されるのが好ましい。溶媒は乾燥ステップe)中に除去され、ゲル化ステップ中には除去されない。この点が先行技術に記載された方法とは異なる(国際公開第94/25406号、国際公開第00/35818号、Zieba R.ら,Advanced Functional Materials 19,2,2009,235、Parola S.ら,Proceeding of the spie−the international Society for Optical Engineering spie−the international society for optical engineering US−vol 6401,2006,64010D−1頁及びvol 5934,2005,593404−1頁)。先行技術では、ゲル化は、ゆっくりとした乾燥プロセス中に数日間かけて起こっている。
【0035】
最後のステップでは、結果として得られた材料を乾燥する。例えば、80℃からドープ剤の分解温度(典型的には200℃)未満の温度までの温度範囲で1〜48時間乾燥を行うことができる。
【0036】
本発明の方法においては、(上述した各種方法とは異なり)溶媒はゲル化前に除去されないため重要である。所定量の縮合促進剤(例えばアミノ−アルコキシシラン等)を添加した後、室温(又は室温より僅かに高い温度)等においてゲル化が数分以内、あわよくば数秒以内に起こる。このステップでは、ドープ剤の分配の動きが止められる。ドープ剤の移動性は極めて減少し、その結果、エージングステップ中のドープ剤の沈殿は避けられる。高度に架橋されたゲルの網目構造は、ドープ剤の各分子を互いに効果的に分離する。次に、溶媒が乾燥ステップ中に、一般的にはオーブン内で、好ましくはゲル化温度より高い温度で、ゲルから除去される。乾燥は、小さい試料だと数時間、大きい試料だと数日間かかる。ドープ剤はポリマー網目構造中に強く捕捉されているため、溶媒の除去を行ってもドープ剤の分布は変わらない。キセロゲル中のドープ剤の濃度は極めて重要になり得る。ゲルはポリプロピレン製の型枠内で得ることができる。充填した型枠は、その後オーブン内に置かれてゲルの乾燥が行われる。
【0037】
得られたハイブリッド材料は、1種又は数種のドープ剤で機能化されている。本発明の方法により、ドープ剤を非常に高い濃度で含むことができる。特に、光制限用途の場合には、ドープ剤の濃度は30質量%を超えてもよく、好ましくは40質量%を超えてもよい。本発明によって、ドープ剤を凝集させずにその分散を制御しながら、ドープ剤の有効積載量(payload)が極めて高い材料を製造することができる。上記ドープ剤は材料中に均一に分布している。材料の均質性は、分光学的方法や熱分析(例えばDSC等)を用いることにより証明される。ドープ剤の量は、最大で材料の50質量%となる場合もある。本発明の方法では、ドープ剤の濃度が高くても、ドープ剤の沈殿が避けられる。
【0038】
本発明により製造されるハイブリッド材料は非常に均一であり、多孔質又は緻密なモノリス、フィルム及び粉体として成形することができる。ホスト剤間の相互作用は、濃度と急速縮合を制御することで容易に調整することができ、必要であれば、有効積載量が高い場合であっても、相互作用のない状態とすることができる。従って、50質量%を超える濃度をドープ剤の均一な分散体で得ることができるが、他にそのような材料を製造できる方法は存在しない。本発明によれば濃度に制限はなく、溶媒中への溶解度が非常に低い化学種の場合でも同じである。実際、閉鎖した容器を用いれば、上記方法を、ドープ剤を溶解させる(溶解度定数を上昇させる)ことが可能な温度及び圧力で進められる場合もあり、また即座の縮合によってドープ剤が均一に分散した状態でマトリクスをゲル化できる。従って、常温及び常圧状態で飽和液に比べて最大で4倍の濃度を達成することもできる。冷却した後は、ドープ剤がもはやマトリクス中で移動できないため、最終の固体中では分散状態が保たれる。
【0039】
本発明のハイブリッド材料は、キセロゲル若しくはエーロゲル等の塊状モノリス材料、又は、薄膜として得ることができる。上記材料の用途は様々であり、混ぜるドープ剤の性質によって決定される。光制限デバイス(レーザーからの保護)又は他の光学デバイス(レンズ、窓、ガラス、レーザー、センサ、メモリ等)の用途や、触媒担体の用途を挙げることができる。
【実施例】
【0040】
以下の実施例は本発明の例示である。
【0041】
(実施例1)
本実施例は、高い縮合率を有しかつ含水量の少ない有機ケイ素ゾルを調製するために使用される一般的な手順を説明する。加水分解は、HO/Si=20という大過剰の水を用いて無溶剤条件で行う。
1)100mlのMTEOS(メチルトリエトキシシラン)をシュレンク管内に注ぐ。
2)180mlのHO pH=3.8(HCl)を激しく撹拌しながら添加する。
3)混合物を15〜16時間撹拌する。
4)初期体積になるまで、減圧下でアルコールを除去する。
5)デカンテーションが起こるまでゾルを4℃に保つ。
6)水相を除去する。
7)120〜150mlのジエチルエーテルを添加する。
8)シュレンク管の底部の水相を除去する。
9)残存する水分子を取り除くためにMgSOを添加する。
10)MgSOをろ過して取り除く。
11)減圧下でエーテルを除去する。
12)蒸留THFを添加する。
13)上記ゾルを最終固形分含量が40wt%になるまで蒸発させる。
縮合率をNMR分光分析で測定すると約0.8である。
【0042】
(実施例2)
有機ケイ素ゾルを実施例1に記載の手順に従って調製する。
以下の白金系発色団:trans−ジ(アリールアルキニル)ジホスフィン白金(II)系錯体:
【0043】
【化1】
【0044】
の132mgをTHF(0.8mL)に溶解させ、穏やかに加熱(45℃)して溶解度を高めた状態の上記ゾルに添加する。この混合物を5分間撹拌し、45μmフィルターを通してテフロン(登録商標)型枠中にろ過する。固形分含量が30%のゾル1gにAPTES45μLを添加すると網目構造の急速縮合が引き起こされる。このゲルは数分後には形成される。ゲル化後、充填されたテフロン(登録商標)型枠を閉鎖し、45℃の乾燥器内に置く。このゲルを45℃で48時間、次に100℃で48時間ゆっくりと乾燥する。400mMの濃度(30〜40質量%)の材料が製造される。
【0045】
以下のドープ剤について同じ手順を用いて材料を製造した:tert−ブチルフェノール、界面活性剤(P123)、イオン性液体(ブチル−3−メチルイミダゾリウムクロリド)、ランタニド錯体、1,4,8,11,15,18,22,25−オクタブトキシフタロシアニン、2,11,20,29−テトラ−tert−ブチル−2,3−ナフタロシアニン、1−,ピロメテン597、金属ナノ粒子(Au、Ag)。
【0046】
(実施例3)
有機ケイ素ゾルを実施例1に記載の手順に従って調製し、ピロメテン597(下記式)がドープされたキセロゲルを製造する。
【0047】
【化2】
【0048】
1gのゾル(固形分含量30%)をテフロン(登録商標)型枠内に量り取る。次に15mgのピロメテン597をそのゾル中に添加する。発色団のピロメテン597分子を完全に溶解させるには、少量のTHF(0.3mL)を添加するとともに穏やかに加熱(45℃)することが必要である。得られたドープされたゾルに45μLのAPTESを投入する。充填したテフロン(登録商標)型枠を閉鎖し、45℃の乾燥器内に置く。乾燥器内に型枠を入れて数分後にゲル化が起こる。72時間の乾燥後、透明で光沢の出るドープされたキセロゲルが得られる。
【0049】
(実施例4)
有機ケイ素ゾルを実施例1に記載の手順に従って調製する。1,4,8,11,15,18,22,25−オクタブトキシフタロシアニンのTHF溶液(1mM)を調製する。1gのゾル(固形分含量30%)をテフロン(登録商標)型枠内に量り取る。100μLの上記フタロシアニン溶液を0.3mLの蒸留THFと共に添加する。得られたドープされたゾルに45μLのAPTESを投入する。充填したテフロン(登録商標)型枠を閉鎖し、45℃の乾燥器内に置く。乾燥器内に型枠を入れて数分後にゲル化が起こる。48時間の乾燥後、緑色の透明で光沢の出るドープされたキセロゲルが得られる。
型枠を乾燥器内に入れる前にAPTESを添加しないこと以外は同様のアプローチを用いて、ドープされたゲルを製造した。数日間の乾燥後、沈殿物を伴うドープされたキセロゲルが得られた。
【0050】
2,11,20,29−テトラ−tert−ブチル−2,3−ナフタロシアニンの場合でも同じ結果がみられた。
【0051】
(実施例5)
有機ケイ素ゾルを、本明細書で説明した第3の変法に従って調製する。xHO/xSi=20の酸性水(pH=3.8、HCl)(250mL)を、MTEOS(110.7mL)とGLYMO(3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン)(30.7mL)の混合物中に添加する。得られた溶液を100℃で数時間加熱する。冷却後、放出されたアルコールと一部の水を減圧下で除去する。MgSOを乾燥剤としてゾルの乾燥を行う。THFを最終溶媒として使用する。ゾルの固形分含量は約30%である。以下の白金系発色団をドープ剤として用いる。
【0052】
【化3】
【0053】
1gのゾル(固形分含量30%)をテフロン(登録商標)型枠内に量り取る。次に16.3mgの発色団をそのゾル中に添加する。その後、発色団分子を完全に溶解させるには、穏やかに加熱(45℃)することが必要である。得られたドープされたゾルに45μLのAPTESを投入する。充填したテフロン(登録商標)型枠を閉鎖し、45℃の乾燥器内に置く。乾燥器内に型枠を入れて数分後にゲル化が起こる。72時間の乾燥後、透明で光沢の出るドープされたキセロゲルが得られる。