特許第5945271号(P5945271)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5945271ニッキング酵素を用いたヘリカーゼ依存性等温増幅
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5945271
(24)【登録日】2016年6月3日
(45)【発行日】2016年7月5日
(54)【発明の名称】ニッキング酵素を用いたヘリカーゼ依存性等温増幅
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20160621BHJP
   C12Q 1/68 20060101ALI20160621BHJP
【FI】
   C12N15/00 A
   C12Q1/68 AZNA
【請求項の数】13
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2013-524446(P2013-524446)
(86)(22)【出願日】2011年8月16日
(65)【公表番号】特表2013-535225(P2013-535225A)
(43)【公表日】2013年9月12日
(86)【国際出願番号】EP2011064114
(87)【国際公開番号】WO2012022755
(87)【国際公開日】20120223
【審査請求日】2014年6月19日
(31)【優先権主張番号】61/374,506
(32)【優先日】2010年8月17日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】10173094.3
(32)【優先日】2010年8月17日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】599072611
【氏名又は名称】キアゲン ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】コルフハーゲ クリスチャン
(72)【発明者】
【氏名】グロースハウザー ゲルト
(72)【発明者】
【氏名】ロートマン トーマス
(72)【発明者】
【氏名】ヒンメルライヒ ラルフ
【審査官】 小石 真弓
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−192195(JP,A)
【文献】 特表2006−500028(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/091111(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0017453(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/
C12Q
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳型核酸を増幅するための方法であって、
前記方法は、ニッキング・エンドヌクレアーゼの存在下で、ヘリカーゼを用いる増幅(HDA)反応を用いて、前記鋳型核酸を増幅することを含み、
前記鋳型核酸が前記ニッキング・エンドヌクレアーゼによって認識される配列を含むか、又は前記ニッキング・エンドヌクレアーゼによって認識される配列が前記HDA反応中に前記鋳型核酸内に導入され、前記HDA反応は好熱性HDA(tHDA)であり、前記ニッキング・エンドヌクレアーゼによって認識される配列が、前記ニッキング・エンドヌクレアーゼによって認識される配列を含むオリゴヌクレオチド・プライマーを用いて、前記鋳型核酸に導入され、かつ前記増幅される1又は2以上の配列が少なくとも70bpの長さを有し、かつ400bpより短い、
方法。
【請求項2】
前記ニッキング・エンドヌクレアーゼによって認識される配列を含むプライマーが、前記鋳型核酸にハイブリダイズしない5’タグ配列を含み、かつ前記ニッキング・エンドヌクレアーゼによって認識される配列が前記タグ配列に存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記鋳型核酸が、二本鎖鋳型核酸である、請求項1〜2の何れか1項に記載の方法。
【請求項4】
ヘリカーゼが、スーパーファミリーIヘリカーゼ、スーパーファミリーIIヘリカーゼ、スーパーファミリーIIIヘリカーゼ、dnaB様スーパーファミリー由来のヘリカーゼ、並びにrho様スーパーファミリー由来のヘリカーゼからなる群から選択される、請求項1〜3の何れか1項に記載の方法。
【請求項5】
ポリメラーゼが、Bst DNAポリメラーゼ、パイロファージ(PyroPhage)ポリメラーゼ、ディスプレスエース(DisplaceAce)ポリメラーゼ、及びベント(Vent)(exo-)ポリメラーゼからなる群から選択される、請求項1〜4の何れか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記ニッキング・エンドヌクレアーゼが、Nb.BsmI、Nt.BstNBI、Nt.CviPII、Nb.BbvCI、Nb.BsrDI、Nb.BtsI、Nt.BsmAI、Nt.BbvCI、Nt.BspQI、及びNt.AlwIからなる群から選択される、請求項1〜5の何れか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記HDA増幅反応が、50℃を超える温度で実施される、請求項1〜6の何れか1項に記載の方法。
【請求項8】
さらに、最初の熱変性工程を含む、請求項1〜7の何れか1項に記載の方法。
【請求項9】
さらに、増幅産物を検出する工程を含む、請求項1〜8の何れか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記増幅産物が、ゲル電気泳動、インターカレーター色素、又は特異的オリゴヌクレオチド・プローブを用いて検出される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
ニッキング・エンドヌクレアーゼ、
ヘリカーゼ、及び
DNAポリメラーゼ
を含む、請求項1〜10の何れか1項に記載の方法で用いるためのキット。
【請求項12】
衝剤、及び/又は
dNTP、及び/又は
(d)ATP、及び/又は
グネシウム塩、及び/又は
NaCl、及び/又は
Kcl
をさらに含む、請求項11に記載のキット。
【請求項13】
核酸配列を増幅し、かつ任意に検出するための、請求項1から10の何れか1項に記載の方法又は請求項11又は12の何れか1項に記載のキットの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物学及び化学の分野、特に分子生物学の分野に関連する。より具体的には、本発明は、核酸増幅のための方法及びキットに関する。
【背景技術】
【0002】
核酸増幅は、研究、診断、法医学、医学、食品科学、及び農業において広く用いられている。「ポイント・オブ・ケア検査」(“Point of Care Testing”;POCT)は、患者ケア現場での又はその近傍での診断検査、即ち、例えば民営医療機関、小規模病院、薬局、或いはさらに野外、又は事故若しくはその他医療緊急事態の現場、又は救急車内でさえ実施され得る分散(de-centralized)検査に関する。ポイント・オブ・ケア診断は、迅速かつ簡易な試験を必要とする。従って、核酸に基づく検出法の場合、既に確立されているが、時間がかかるPCRに基づく方法に対して、迅速な等温増幅技術が、近年、ますます重要になってきている。PCRは、DNA等の二本鎖核酸の2つの鎖を分離するために、熱サイクリングを必要とする。対照的に、例えば等温増幅法はサーモサイクラーを必要としない。
【0003】
最もよく知られた等温増幅法の1つとして、所謂ヘリカーゼ依存性増幅(Helicase Dependent Amplification; HDA)がある[例えば、ビンセント(Vincent)ら(2004),エンボ・レポーツ(EMBO reports)5(8):795−800;ジョン(Jeong)ら(2009),セルラー・アンド・モレキュラー・ライフ・サイエンシーズ(Cell.Mol.Life Sci)66:3325−3336;WO−A2 2004/027025;WO−A2 2006/074334に記載されており、これら全ては本明細書において援用される。]。HDAは、加熱又は熱サイクリングさえ必要無しに、二本鎖核酸、特にDNAを巻き戻し出来る、ヘリカーゼの能力に基づくものである。HDAにおいては、DNAポリメラーゼ及び適切なオリゴヌクレオチド・プライマーを用いて、分離されたDNA鎖が複製される。従って、HDAは、天然の複製フォーク機構を模倣する。HDAは、ATP、二価マグネシウムイオン及びdNTPの存在を必要とする。HDAに基づく方法の幾つかは、置換された(displaced)DNA鎖をコーティングするため、一本鎖結合タンパク質(SSB)をさらに利用する。原理的には、HDA法は、用いる酵素に応じて、熱不安定性反応又は熱安定性反応で実施され得る。熱不安定性HDA反応は、典型的には、25℃から50℃の間、好ましくは37℃から42℃の間の温度で実施される。一方、熱安定性HDA又は好熱性HDA(tHDA)反応は、50℃を超える、典型的には60℃から70℃の間の温度で実施される。
【0004】
HDA反応は、2つのプライマーによって定義される標的配列を選択的に増幅する。HDAは、PCRにおけるように熱ではなく、ヘリカーゼ酵素を用いて、二本鎖核酸の2つの鎖を分離する。従って、HDAは、熱サイクリングの必要無しに、単一の温度で実施され得る。従来の標準的HDA反応の工程が図1に示されいるが、第一の工程において、二本鎖核酸がヘリカーゼによって巻き戻され、(部分的に)一本鎖である配列が生じる。この後、プライマーが一本鎖領域に結合する。工程2において、ポリメラーゼが相補鎖を合成する。最終的に、ヘリカーゼ及びポリメラーゼは一緒に作用し、鋳型の増幅を生じる(工程3)。
【0005】
その他等温増幅には、制限酵素を用いてDNAの非修飾鎖をニッキングすること、並びにエキソヌクレアーゼ欠損DNAポリメラーゼの作用を介してニックの3’末端を伸長し、下流DNA鎖を置換することに基づく、鎖置換増幅(SDA)が含まれる。
【0006】
さらに別の等温増幅として、DNAリガーゼを用いて鋳型DNAの2つの末端を連結させることによって生成した環状ssDNA鋳型に直鎖ssDNAがアニールされる、ローリングサークル増幅(RCA)がある。続いて、DNAポリメラーゼを用いて、アニールさせたプライマーを伸長させ、相補鋳型配列のタンデムに連結されたコピーが生成される。RCA及びSDAはどちらも、最初の熱変性工程を必要とする。
【0007】
その他等温増幅には、例えばニッキング酵素増幅反応(Nicking Enzyme Amplification Reaction;NEAR)並びに関連する指数関数的増幅反応(Exponential Amplification Reaction;EXPAR)が含まれ、これらはどちらも、短い二本鎖鋳型配列の増幅のために、ニッキング酵素及びポリメラーゼを使用する[例えば、バン・ネス(van Ness)ら(2003),米国科学アカデミー紀要(Proc.Natl.Acad.Sci.)100(8):4504−4509;US−A1 2003/0082590;WO−A2 2004/022701;WO−A2 2009/012246;WO−A2 2004/067726に記載されており、これらは全て本明細書において援用される。]。
【0008】
しかしながら、上述した等温増幅法は全て、複雑な反応プロトコルを必要とし、比較的時間がかかり、及び/又は比較的短い鋳型配列に限定されるものである。
【発明の概要】
【0009】
本発明は、先行技術のこれらの限界を克服する、核酸、好ましくは二本鎖核酸の増幅のための改良法を提供する。本発明の方法は、修正HDA法に基づく。提供される方法は、従来のtHDAよりも迅速であり、かつ信頼性のある特異性を同時に有する。NEAR及びEXPARの如き方法と比較して、本発明の方法は、より長い鋳型核酸を増幅出来る。
【0010】
本発明は、ニッキング・エンドヌクレアーゼの存在下で実施される、HDA増幅法に関する。従って、本発明の場合には、鋳型核酸は、ヘリカーゼ、適切なポリメラーゼ、及びニッキング・エンドヌクレアーゼの存在下で増幅される。
【0011】
特に、本発明は、鋳型核酸、特にDNAを増幅するための方法であって、
前記方法は、ニッキング・エンドヌクレアーゼの存在下で、ヘリカーゼ依存性増幅(HDA)反応、特に高熱性HDA(tHDA)を用いて、前記鋳型核酸を増幅することを含み、
前記鋳型核酸が前記ニッキング・エンドヌクレアーゼによって認識される配列を含むか、又は前記ニッキング・エンドヌクレアーゼによって認識される配列が前記HDA反応中に前記鋳型核酸内に導入される、方法に関する。
【0012】
前記ニッキング・エンドヌクレアーゼによって認識される配列は、前記ニッキング・エンドヌクレアーゼによって認識される配列を含むオリゴヌクレオチド・プライマーを用いて、前記鋳型核酸に導入され得る。このプライマーは、鋳型核酸にハイブリダイズしないが、前記ニッキング・エンドヌクレアーゼによって認識される配列又はその一部を含む、5’タグ配列を含んでもよい。
【0013】
本発明は、さらに、
−ニッキング・エンドヌクレアーゼ、
−ヘリカーゼ、及び
−DNAポリメラーゼ
を含む、核酸を増幅するためのキットに関する。
【0014】
本発明の方法及びキットを、核酸増幅において用いられ得るだけでなく、核酸の検出及び/又は定量のためも用いられ得る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、先行技術による標準的なtHDA反応であり、例えばバイオヘリックス/ニュー・イングランド・バイオラボ(biohelix/New England Biolabs)から市販されており、即ちニッキング・エンドヌクレアーゼを欠くtHDA反応のスキームを示す。
図2-1】図2は、タグ化プライマーを用いた、本発明のニッキングtHDAの特定の実施形態による反応スキームを説明するものである。
図2-2】図2は、タグ化プライマーを用いた、本発明のニッキングtHDAの特定の実施形態による反応スキームを説明するものである。
図3図3は、非タグ化プライマーを用いた、本発明のニッキングtHDAの特定の実施形態による反応スキームを説明するものである。
図4図4は、チューブスキャナ(Tube Scanner)における、実施例1由来の様々なリアルタイム(ニッキング)tHDA反応の結果(増幅プロット)を示す。図4に示されるものは、経時的な蛍光強度の生データである。
図5-1】図5は、実施例1の増幅産物の融解曲線を示す。A)標準的tHDA。
図5-2】図5は、実施例1の増幅産物の融解曲線を示す。B)Nb.BsmI無しのニッキングtHDA。
図5-3】図5は、実施例1の増幅産物の融解曲線を示す。C)Nb.BsmI有りのニッキングtHDA。
図6図6は、実施例1の個々の反応混合物の増幅及び電気泳動後のポリアクリルアミドゲルを示す。A)染色前のゲル、B)EtBrを用いた染色後のゲル。C)ゲル上の個々のバンドB1からB5の内容もまた、図6B1〜6B5に図示されている。
図7図7は、用いたプライマーと共に実施例2の標的DNAの配列を示す。
図8図8は、ニッキング・エンドヌクレアーゼの濃度に対する反応速度の依存性を示す。アンプリコンのシグナルが検出可能になるまでの時間であって、バックグラウンド・シグナルを有意に超える時間を分で示す。より低い濃度のニッキング・エンドヌクレアーゼの存在下では、シグナルは、ニッキング・エンドヌクレアーゼを含まない反応より約5分早く検出され、反応がより迅速であることが示された。
図9図9は、標準的tHDA、即ち如何なるニッキング・エンドヌクレアーゼも伴わないtHDAの増幅曲線(経時蛍光)を示す。3つの曲線がcDNA鋳型の存在下で測定されたものであり、2つの曲線がcDNA鋳型の非存在下で測定されたものである。
図10図10は、0.1Uのニッキング・エンドヌクレアーゼ、Nt.BstNBIの存在下のtHDA増幅曲線を示す。3つの曲線がcDNA鋳型の存在下で測定されたものであり、2つの曲線がcDNA鋳型の非存在下で測定されたものである。
図11図11は、ニッキング・エンドヌクレアーゼ、Nt.BstNBIを伴わない標準的tHDA後の融解曲線解析を示す。融解曲線解析は、図9に示す反応を用いて実施した。3つの曲線がcDNA鋳型の存在下で測定されたものであり、2つの曲線がcDNA鋳型の非存在下で測定されたものである。
図12図12は、0.1Uのニッキング・エンドヌクレアーゼ、Nt.BstNBIの存在下における、標準的tHDA後の融解曲線解析を示す。融解曲線解析は、図10に示す反応を用いて実施した。3つの曲線がcDNA鋳型の存在下で測定されたものであり、2つの曲線がcDNA鋳型の非存在下で測定されたものである。
図13図13は、ニッキング・エンドヌクレアーゼの存在に対する、反応速度の依存性を図示する。アンプリコンのシグナルが検出可能になるまでの時間であって、バックグラウンド・シグナルを有意に超える時間を分で示す。ニッキング・エンドヌクレアーゼの存在下では、シグナルは、ニッキング・エンドヌクレアーゼを含まない反応より約6分早く検出されており、反応がより迅速であることを示す。
図14図14は、ナイセリア・ゴノレア(Neisseria gonorrhoeae;淋菌)ゲノムのポリン遺伝子の一部に関連する、実施例1のアンプリコンの一方の鎖の配列を図示する。プライマー及びプローブのハイブリダイズ領域が示されている。(A)は標準的tHDAであり、(B)はタグ化プライマーを用いた、本発明の方法によるニッキングtHDAであって、下線はNb.BsmIの認識配列であり、タグ化プライマーによって導入される配列がイタリック体で示されている。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、核酸、特にDNAの増幅、及び任意に検出のための方法及びキットを提供する。本発明の方法は、ヘリカーゼ依存性増幅(HDA)反応に基づく。しかしながら、先行技術のHDA反応とは異なり、本発明による増幅反応では、ニッキング・エンドヌクレアーゼが存在する。従って、本発明のキットは、また、ニッキング・エンドヌクレアーゼも含む。本発明の方法は、本明細書において、「ニッキングHDA」とも称され得る。
【0017】
本発明による方法及びキットは、短いDNA配列、好ましくは400bp未満、より好ましくは200bp未満、さらにより好ましくは150bp以下、最も好ましくは70bpから120bpの間の配列の増幅及び検出に特に有用である。典型的には、本発明の方法及びキットを用いて、二本鎖核酸を増幅するか又は検出する。しかしながら、実体的なHDAに基づく増幅が開始する前に、一本鎖核酸が、ポリメラーゼを用いて核酸二重鎖、即ち二本鎖鋳型に転写される限り、そのような一本鎖核酸もまた、増幅及び検出することが出来る。
【0018】
特に、本発明は、鋳型核酸を増幅するための方法であって、
前記方法は、ニッキング・エンドヌクレアーゼの存在下で、ヘリカーゼ依存性増幅(HDA)反応を用いて、前記鋳型核酸を増幅することを含み、
前記鋳型核酸が前記ニッキング・エンドヌクレアーゼによって認識される配列を含むか、又は前記ニッキング・エンドヌクレアーゼによって認識される配列が前記HDA反応中に前記鋳型核酸内に導入される、
方法に関する。
【0019】
方法及びキットは、様々な鋳型核酸、好ましくは二本鎖核酸に用いることが出来る。典型的には、本発明のキット及び方法を用いて、DNAが増幅及び/又は検出される。従って、本発明の場合、鋳型核酸は、好ましくは二本鎖核酸であり、より好ましくはDNAである。
【0020】
増幅又は検出され得る配列は、例えば、直鎖又は環状DNA中に存在するものであってもよい。DNAは、例えば、ゲノムDNA、例えば微生物ゲノムDNA、ウイルスDNA、プラスミドDNA及びcDNAから選択されてもよい。鋳型は、RNA、特にmRNAから逆転写されてもよい。
【0021】
本発明の場合、「dsDNA」及び「DNA」二重鎖は二本鎖DNAに関連し、「ssDNA」は一本鎖DNAに関連し、「dsRNA」は二本鎖RNAに関連し、かつ「ssRNA」は一本鎖RNAに関連する。
【0022】
dsRNA又はDNA/RNAハイブリッドの如きその他核酸もまた、本発明のキット及び方法を用いて増幅することが出来る。HDAの前に、逆転写又はインビトロ転写の如きその他酵素工程を実施し、処理可能な核酸を形成してもよい。
【0023】
本発明は、増幅しようとする鋳型核酸中に、ニッキング・エンドヌクレアーゼによって認識される配列が存在することを必要とする。増幅しようとする全ての標的配列が、このようなニッキング・エンドヌクレアーゼ認識配列を含む訳ではないため、適切なプライマーによって、このような配列が導入され得る。
【0024】
従って、本発明の方法の好ましい実施形態においては、ニッキング・エンドヌクレアーゼによって認識される配列が、ニッキング・エンドヌクレアーゼによって認識される配列を含むオリゴヌクレオチド・プライマーを用いて、鋳型核酸に導入される。
【0025】
特定の実施形態においては、ニッキング・エンドヌクレアーゼによって認識される配列を含むプライマーは、鋳型核酸にハイブリダイズしない5’タグ配列を含み、かつニッキング・エンドヌクレアーゼによって認識される配列が前記タグ配列に存在する。このようなプライマーは、本明細書において、「タグ化プライマー」と称され、これに対応する実施形態が図2に模式的に図示されている。
【0026】
また、変異プライマー、即ち元の鋳型配列に100%相補的ではないプライマーを用いることにより、ニッキング・エンドヌクレアーゼの適切な認識配列を導入してもよい。
【0027】
本発明のHDA反応は、好ましくは好熱性HDA(tHDA)であり、即ち用いられる酵素は、前記方法の温度で熱安定性である。熱安定性酵素は、典型的には、熱安定性生物に由来する酵素である。従って、本発明の方法は、好ましくは、60℃を超える、より好ましくは60℃から70℃の間、さらにより好ましくは、60℃から65℃の間、最も好ましくは約64℃から約65℃の温度で実施される。前記温度は、例えば水槽、加熱ブロック、インキュベーター又はサーモサイクラーを用いて維持し得る。
【0028】
本発明の方法は、一般的に、等温法であり、これは、前記方法が、例えばPCRのように温度サイクリングの必要無しに、単一温度で実施されることを意味する。しかしながら、本発明の特定の実施形態においては、実際の一定反応温度で反応を実施する前に、典型的には90℃を超える、好ましくは約95℃の高温による熱変性工程が含まれてもよい。単一温度で実施される「一工程」プロトコルに対して、これを、以下、「二工程」反応と称する。特定の状況下では、二工程プロトコルが、より高い感度を生じ得る。従って、本発明の場合、二工程プロトコルが好ましい。
【0029】
原理的には、本発明によるニッキングHDA法においては、鋳型核酸は、ヘリカーゼ、ポリメラーゼ、ニッキング酵素、並びに適切なフォワード・オリゴヌクレオチド・プライマー及びリバース・オリゴヌクレオチド・プライマーの存在下でインキュベートされる。さらに、増幅反応のため、dNTP、ATP又はdATP及びマグネシウムイオンの如きさらなる試薬が存在する必要がある。反応混合物は、好ましくはまた緩衝剤、並びにNaCl及び/又はKClの如き塩も含む。
【0030】
個々の酵素及び試薬は、増幅開始前に一緒に添加してもよいし、又は順に添加してもよい。幾つかの特定の実施形態においては、ニッキング・エンドヌクレアーゼは、その他の成分を添加した後に添加される。2工程プロトコルの好ましい実施形態においては、最初の熱変性工程の後に酵素が添加される。
【0031】
「プライマー」と云う用語は、標的核酸上の一本鎖領域に結合し、標的核酸のポリメラーゼ依存性複製を促進することが可能な一本鎖核酸を指す。本発明の場合、1又は2以上のプライマーが鋳型核酸に対して添加される。1つのプライマーを用いると線形増幅に繋がるのに対し、2又は3以上のプライマーを用いると指数関数的増幅が生じる。
【0032】
「ヘリカーゼ」と云う用語は、本明細書において、二本鎖核酸を酵素的に巻き戻し可能な任意の酵素を指す。例えば、ヘリカーゼは、全ての生物において、かつ複製、組換え、修復、転写、翻訳及びRNAスプライシングの如き核酸を伴う全てのプロセスに見出される酵素である[コーンバーグ(Kornberg)及びベーカー(Baker)、「DNA複製(DNA Replication)」、W.H.フリーマン・アンド・カンパニー(W.H.Freeman and Company)(第2版(1992))、特にチャプター11]。5’から3’方向に、又は反対に3’から5’方向に、DNA又はRNAに沿って移動する、任意のヘリカーゼが本発明の本実施形態において用いられ得る。これには、原核生物、ウイルス、古細菌、及び真核生物から得られるヘリカーゼ、又は天然に存在する酵素の組換え型、並びに前記特定の活性を有するアナログ又は誘導体が含まれる。コーンバーグ及びベーカーによって、彼らの本、「DNA複製」、W.H.フリーマン・アンド・カンパニー(第2版(1992))のチャプター11に記載される天然に存在するDNAヘリカーゼの例には、エシェリキア・コリ(E.coli)ヘリカーゼI、II、III及びIV、Rep、DnaB、PriA、PcrA、T4 Gp41ヘリカーゼ、T4 Ddaヘリカーゼ、T7 Gp4ヘリカーゼ、SV40ラージT抗原、酵母(yeast)RADが含まれる。HDAにおいて有用であり得るさらなるヘリカーゼには、RecQヘリカーゼ[ハーモン(Harmon)及びコワルチコウスキー(Kowalczykowski),ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(J.Biol,Chem.)276:232−243(2001)]、T.テングコンゲンシス及びT.サーモフィルス由来の熱安定性UvrDヘリカーゼ[コリンズ(Collins)及びマッカーシー(McCarthy),エクストリーモファイルズ(Extremophiles.)7:35−41.(2003)]、T.アクアティクス由来の熱安定性DnaBヘリカーゼ[カプラン(Kaplan)及びスタイツ(Steitz),ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(J. Biol. Chem.)274: 6889−6897(1999)]、並びに古細菌及び真核生物由来のMCMヘリカーゼ[グレインジ(Grainge)ら,ヌクレイック・アシッズ・リサーチ(Nucleic Acids Res.)31:4888−4898(2003)]が含まれる。
【0033】
一般的に5’から3’方向に複製するヘリカーゼの例は、T7 Gp4ヘリカーゼ、DnaBヘリカーゼ及びRhoヘリカーゼであるのに対し、3’から5’方向に複製するヘリカーゼの例には、UvrDヘリカーゼ、PcrA、Rep、HCVのNS3 RNAヘリカーゼが含まれる。
【0034】
ヘリカーゼは、補因子、即ちヘリカーゼ巻き戻し活性に必要な小分子物質を必要とし得る。ヘリカーゼ補因子には、ヌクレオシド三リン酸(NTP)及びデオキシヌクレオシド三リン酸(dNTP)及びマグネシウム(又はその他二価カチオン)が含まれる。例えば、ATP(アデノシン三リン酸)が、0.1から100mMの範囲で、好ましくは1から10mMの範囲で(例えば3mMで)、UvrDヘリカーゼの補因子として用いられ得る。同様に、dTTP(デオキシチミジン三リン酸)が、1から10mMの範囲で(例えば3mMで)、T7 Gp4Bヘリカーゼの補因子として用いられ得る。
【0035】
本発明の幾つかの実施形態においては、特に非好熱性HDAに関して、ヘリカーゼ活性を促進するために、トポイソメラーゼの如きさらなるタンパク質、又は一本鎖DNA結合タンパク質(single-stranded DNA binding protein;SSB)の如き補助タンパク質が反応に存在してもよい。ヘリカーゼは、一本鎖結合タンパク質(SSB)の存在下で、向上した活性を示す。これらの状況において、SSBの選択は、一般的に、特定のタンパク質に限定されない。一本鎖結合タンパク質の例は、T4遺伝子32タンパク質、エシェリキア・コリ(E. coli)SSB、T7 gp2.5 SSB、ファージ・ファイ29 SSB[コーンバーグ及びベーカー、前記(1992)]、並びに前述のものの切断型がある。熱安定性ヘリカーゼを用いる場合、1又は2以上のSSB又はその他補助タンパク質の存在は任意である。
【0036】
HDA及びtHDAに用いるための、ヘリカーゼ及びヘリカーゼを含む調製物は、EP−B1 1 539 979、特にセクション[0039]から[0066]に、より詳細に記載されている。
【0037】
本発明によるニッキングHDA増幅反応は、好ましくは、50℃を超える、好ましくは50℃から70℃の間、より好ましくは60℃から65℃の間の温度で実施される。
【0038】
本発明の場合、ヘリカーゼは、異なるファミリーのヘリカーゼ由来であってもよい。ヘリカーゼは、好ましくは、スーパーファミリーIヘリカーゼ、スーパーファミリーIIヘリカーゼ、スーパーファミリーIIIヘリカーゼ、dnaB様スーパーファミリー由来のヘリカーゼ又はRho様スーパーファミリー由来のヘリカーゼからなる群から選択される。ヘリカーゼは、中温性生物又は熱耐性生物に由来するものであってもよい。ヘリカーゼは、遺伝子操作されていてもよいし、又は化学修飾されていてもよい。スーパーファミリーIヘリカーゼには、例えば、dda、pcrA、F−プラスミドtraIタンパク質ヘリカーゼ及びUvrDが含まれる。スーパーファミリーIIヘリカーゼには、例えばrecQ及びNS3ヘリカーゼが含まれる。スーパーファミリーIIIヘリカーゼには、例えばAAV repヘリカーゼが含まれる。dnaB様スーパーファミリー由来のヘリカーゼには、例えばT7ファージヘリカーゼが含まれる。本発明の方法及びキットの場合、ヘリカーゼが熱安定性ヘリカーゼであることが好ましい。熱安定性Tte−UvrDヘリカーゼが好ましい。
【0039】
長HDA(long HAD)反応においては、トポイソメラーゼを用い、HDAが長い標的アンプリコンを増幅する能力を増加させることも出来る。非常に長い直鎖DNA二重鎖をヘリカーゼによって分離する場合、トポイソメラーゼの旋回(弛緩)機能がねじれを取り除き、巻き過ぎた状態を回避する[コーンバーグ及びベーカー、前記(1992)]。例えば、エシェリキア・コリ(E. coli)のトポイソメラーゼI[ファーメンタス(Fermentas)、リトアニア・ビリニュス]を用い、一方のDNA鎖内にニックを導入することによって、負の超らせん構造をとったDNAを弛緩させることも出来る。これに対して、エシェリキア・コリ(E. coli)のDNAジャイレース(トポイソメラーゼII)は、一過性の二本鎖中断をDNAに導入し、DNA鎖が互いに通り抜けるのを可能にする[コーンバーグ及びベーカー、前記(1992)]。
【0040】
原理的には、所望の反応温度において、活性がある、つまり遊離3’−OH末端を伸長させることが出来る、あらゆるポリメラーゼが選択され得る。また、プルーフリーディング機能、エンドヌクレアーゼ活性、鎖置換活性及び/又は逆転写酵素活性の如きさらなる機能を有するポリメラーゼも、本発明の場合、用いられ得る。ポリメラーゼは、処理能力及び鎖置換活性に基づいて、HDAのために選択する。融解及びプライマーとのハイブリダイゼーションに続いて、核酸を重合工程に供する。増幅しようとする核酸がDNAである場合、DNAポリメラーゼを選択する。最初の標的がRNAである場合、最初に逆転写酵素を用い、RNA標的をcDNA分子にコピーし、次いで、選択したDNAポリメラーゼによって、HDAにおいてcDNAをさらに増幅する。DNAポリメラーゼは、標的核酸に作用し、4つのdNTPの存在下で核酸鋳型にハイブリダイズしたプライマーを伸長させ、核酸鋳型上のヌクレオチド配列に相補的なプライマー伸張産物を形成する。
【0041】
DNAポリメラーゼは、5’−3’エキソヌクレアーゼ活性を欠き、かつ3’−5’エキソヌクレアーゼ活性を任意に欠いていてもよい、ポリメラーゼの群から選択される。
【0042】
適切なDNAポリメラーゼの例には、エシェリキア・コリ(E. coli)DNAポリメラーゼIのエキソヌクレアーゼ欠損クレノウ・フラグメント[ニュー・イングランド・バイオラボ社(マサチューセッツ州ビバリー)] 、エキソヌクレアーゼ欠損T7 DNAポリメラーゼ[シーケナーゼ(Sequenase);USB(オハイオ州クリーブランド)] 、エシェリキア・コリ(E. coli)DNAポリメラーゼIのクレノウ・フラグメント[ ニュー・イングランド・バイオラボ社(マサチューセッツ州ビバリー)] 、Bst DNAポリメラーゼのラージ・フラグメント[ニュー・イングランド・バイオラボ社(マサチューセッツ州ビバリー)]、クレンタック(KlenTaq)DNAポリメラーゼ[ABペプチド(AB Peptides)、(ミズーリ州セントルイス)]、T5 DNAポリメラーゼ(米国特許第5,716,819号)、及びPol III DNAポリメラーゼ(米国特許第6,555,349号)が含まれる。エシェリキア・コリ(E. coli)DNAポリメラーゼIのエキソヌクレアーゼ欠損クレノウ・フラグメント、Bst DNAポリメラーゼのラージ・フラグメント、及びシーケナーゼの如き、鎖置換活性を有するDNAポリメラーゼは、本発明の場合に好ましい。T7ポリメラーゼは、Taqポリメラーゼより有意に低い、3.5×105のエラー率を有する、高忠実度ポリメラーゼである[ケハボン(Keohavong)及びシリー(Thilly),米国科学アカデミー紀要(Proc.Natl.Acad.Sci.USA)86,9253−9257(1989)]。しかしながら、T7ポリメラーゼは熱安定性ではないので、熱サイクリングを必要とする増幅系で用いるのには最適ではない。等温で実施可能なHDAにおいては、T7シーケナーゼが、DNA増幅のための好ましいポリメラーゼの1つである。
【0043】
本発明の方法及びキットの場合、ポリメラーゼは、好ましくは熱安定性ポリメラーゼである。好ましくは、ポリメラーゼは、Bst DNAポリメラーゼ、パイロファージ(PyroPhage)ポリメラーゼ、ディスプレスエース(DisplaceAce)ポリメラーゼ及びベント(Vent)(エキソ−;exo-)ポリメラーゼからなる群から選択される。それほどエキソヌクレアーゼ活性を有さないポリメラーゼが好ましい。
【0044】
一般に、HDA及びニッキングHDAに用いるのに適当なプライマーは、例えば10ヌクレオチドを超え、かつ50ヌクレオチドより少ない長さを有する、短い合成オリゴヌクレオチドである。オリゴヌクレオチド・プライマーの設計は、文字列(string)に基づくアラインメント・スコア、融解温度、プライマー長、及びGC含量等の多様なパラメータを伴う[カンプケ(Kampke)ら,バイオインフォマティクス(Bioinformatics)17:214−225(2003)]。プライマーを設計する際、重要なファクターの1つは、標的断片内に、増幅しようとする核酸分子に特異的な配列を選択することである。その他の重要なファクターは、HDA反応のためのプライマーの融解温度を決定することである。プライマーの融解温度は、そのオリゴヌクレオチドの長さ及びGC含量によって決定される。好ましくは、プライマーの融解温度は、ハイブリダイゼーション及び増幅が生じる温度の範囲内である。例えば、エシェリキア・コリ(E. coli)UvrDヘリカーゼ調製物を用いる際に、ハイブリダイゼーション及び増幅の温度を37℃に設定するならば、この反応のために設計されるプライマー対の融解温度は、約30℃〜50℃の間の範囲でなければならない。ハイブリダイゼーション及び増幅の温度が60℃ならば、この反応のために設計されるプライマー対の融解温度は、55℃〜70℃の間、好ましくは55℃〜65℃の間の範囲でなければならない。反応温度より遥かに高い融解温度を有するプライマーは、非特異的副反応を生じる可能性もあるので、あまり好ましくない。HDA反応のための最適なプライマーを選択するため、様々な融解温度を有するプライマーセットを、平行アッセイにおいて試験してもよい。プライマー設計に関するさらなる情報は、カンプケ(Kampke)ら,バイオインフォマティクス(Bioinformatics)17:214−225(2003)に記載される。各プライマーは、標的核酸の各末端にハイブリダイズし、標的ヌクレオチド配列を鋳型として用いてポリメラーゼによって3’から5’方向に伸長され得る。ハイブリダイゼーションの条件は、「分子クローニング及び実験室マニュアル(Molecular Cloning and Laboratory Manual)」第2版、サムブルック(Sambrook)、リッチ(Rich)及びマニアティス(Maniatis)監修、コールドスプリングハーバー(Cold Spring Harbor)(2003)に記載される通り標準的なものである。特異的増幅を達成するためには、相同プライマー又は完全にマッチしたプライマーが好ましい。しかしながら、プライマーは、5’末端に、標的ヌクレオチド配列(単数又は複数)に非相補的な配列を含んでもよい。或いは、プライマーは、標的核酸に正確に相補的でないヌクレオチド又は配列を全体に含有してもよい。プライマーは、所定の温度で、プライマーと鋳型との結合によって特異的ハイブリダイゼーションを達成し得る限り、類似プライマーであってもよく、或いはHDAに用いるための非特異的プライマー又はユニバーサル・プライマーであってもよい。
【0045】
プライマーには、デオキシリボヌクレオチド塩基A、T、G若しくはC、並びに/又は1又は2以上のリボヌクレオチド塩基、A、C、U、G、並びに/又は1又は2以上の修飾ヌクレオチド(デオキシリボヌクレオチド又はリボヌクレオチド)の何れかを含んでよいが、修飾は核酸に対するプライマーのハイブリダイゼーション、又はプライマーの伸長、又は二本鎖分子の変性を妨げない。プライマーを、ホスホロチオエート若しくはメチルホスホネートの如き化学基、又は非ヌクレオチドリンカーで修飾し、プライマーの性能を強化したり、或いは増幅産物の特性解析を容易にしてもよい。
【0046】
増幅産物を検出するために、プライマーは、蛍光標識又は化学発光標識、及びビオチン化の如き修飾を施してもよい。その他標識法には、放射性同位体、発色基(クロモフォア)、並びに直接検出可能でないが、特異的結合パートナー、例えばそれぞれアビジン及び抗体の標識型との反応によって、容易に検出可能である、ビオチン又はハプテンの如きリガンドが含まれる。本明細書に記載されるプライマーは、当業者に知られる方法によって調製されてもよい(例えば、米国特許第6,214,587号を参照されたい)。幾つかの実施形態においては、一方は標的配列の5’境界にハイブリダイズし、かつもう一方は標的の3’境界にハイブリダイズする、2つの配列特異的プライマーの対を、本発明の方法で用い、標的配列の指数関数的増幅を達成する。このアプローチは、リー(Lee)ら[ジャーナル・オブ・モケキュラー・バイオロジー(J.Mol.Biol.)316:19−34(2002)]のものからは容易に区別可能である。多重反応において、異なる検出タグを用いて、複数の標的を同時に増幅するために、単一のHDA反応において、複数のプライマー対を利用してもよい。多重化は、SNP解析において、並びに、病原体を検出する際に、一般的に用いられる[ジェシング(Jessing)ら,ジャーナル・オブ・クリニカル・マイクロバイオロジー(J.Clin.Microbiol.)41:4095−4100(2003)]。
【0047】
tHDAプライマーは、例えば、プライマークエスト(PrimerQuest)プログラム(http://www.idtdna.com/Scitools/Applications/Primerquest/Advanced.aspx)又はプライマー3プログラム(http://frodo.wi.mit.edu/cgi−bin/primer3/primer3_www.cgi)を用いて設計することが出来る。
【0048】
本明細書において、「ニッキング」は、ニッキングを行う酵素によって認識される、ヌクレオチド配列に対して特定の位置における、完全二本鎖核酸分子、又は部分的二本鎖核酸分子の二本鎖部分の、一方の鎖のみの切断を指す。核酸がニッキングされる特定の位置を「ニッキング部位」と称する。
【0049】
「ニッキング・エンドヌクレアーゼ」とは、完全に又は部分的に二本鎖である核酸分子の特定のヌクレオチド配列を認識し、かつ認識配列に対して特定の位置で、核酸分子の一方の鎖のみを切断する酵素である。「ニッキング・エンドヌクレアーゼ」は、本明細書において、完全に又は部分的に二本鎖である核酸分子のヌクレオチド配列を認識し、かつ認識配列に対して特定の位置で、核酸分子の一方の鎖のみを切断するエンドヌクレアーゼを指す。制限エンドヌクレアーゼは、典型的には、天然ヌクレオチドのみで構成されるヌクレオチド配列を認識し、かつ前記ヌクレオチド配列を含有する、完全に又は部分的に二本鎖である核酸の一方の鎖のみを切断する。
【0050】
本発明記載の方法及びキットの場合には、ニッキング・エンドヌクレアーゼは、好ましくは、熱安定性ニッキング・エンドヌクレアーゼである。ニッキング・エンドヌクレアーゼは、例えばニュー・イングランド・バイオラボ(NEB)等から市販されている。好ましくは、ニッキング・エンドヌクレアーゼは、Nb.BsmI、Nt.BstNBI、Nt.CviPII、Nb.BbvCI、Nb.BsrDI、Nb.BtsI、Nt.BsmAI、Nt.BbvCI、Nt.BspQI及びNt.AlwIからなる群から選択される。Nb.BsmI及びNt.BstNBIが特に好ましいニッキング・エンドヌクレアーゼである。例えば遺伝子操作標準的制限エンドヌクレアーゼによって得られるニッキング・エンドヌクレアーゼもまた、本発明の場合において用いることが出来る。Nb.BsmIは、二本鎖DNA基質上のDNAの一方の鎖のみを切断するニッキング・エンドヌクレアーゼであり、前記酵素は、配列5’−GAATGC−3’を認識し、5’−G/CATTC−3’のようにスラッシュによって示される通り、相補鎖上で切断する。Nt.BstNBIは、二本鎖DNA基質上のDNAの一方の鎖のみを切断する、部位特異的エンドヌクレアーゼであり、前記酵素は、認識配列5’−GAGTC−3’の3’側を4塩基超えた単一鎖切断を触媒する。
【0051】
本発明で用いる反応温度に応じて、その温度で活性である、適切なニッキング・エンドヌクレアーゼを選択する。
【0052】
「タグ配列を含むプライマー」(「タグ化プライマー」)の場合、「ニッキング・エンドヌクレアーゼによって認識される配列」(「ニッキング・エンドヌクレアーゼ認識配列」)は、タグ配列中に完全又は部分的にあってもよい。切断部位はまた、タグ配列中にあってもよいし、或いは1又は数塩基対(bp)上流又は下流にあってもよい。切断部位(「ニッキング部位」)は、示す認識配列と同じ鎖上にあってもよいし、又はもう一方の鎖上にあってもよい。
【0053】
本発明の方法は、一実施形態において、以下の工程を含むように記載され得る:
(i)二本鎖鋳型核酸を提供すること、
(ii)鋳型核酸を、二本鎖鋳型核酸を巻き戻すためのヘリカーゼと接触させ、少なくとも部分的に一本鎖である鋳型核酸を形成すること、
(iii)工程(ii)の一本鎖鋳型にハイブリダイズさせるためのオリゴヌクレオチド・プライマーを添加すること、但し、少なくとも1つのオリゴヌクレオチド・プライマーがニッキング・エンドヌクレアーゼによって認識される配列を含む、
(iv)ポリメラーゼを用いて、一本鎖鋳型核酸に相補的であるオリゴヌクレオチド・プライマーの伸長産物を合成し、二本鎖鋳型核酸を形成すること、
(v)工程(iv)で合成した二本鎖鋳型核酸を、鋳型核酸中にニックを導入するためのニッキング・エンドヌクレアーゼと接触させること、
(vi)工程(v)の鋳型核酸を、二本鎖鋳型核酸を巻き戻すためのヘリカーゼと接触させ、少なくとも部分的に一本鎖である鋳型核酸を形成すること、
(vii)工程(vi)の一本鎖鋳型にハイブリダイズさせるためオリゴヌクレオチド・プライマーを添加すること、
(viii)ポリメラーゼを用いて、一本鎖鋳型核酸に相補的である、オリゴヌクレオチド・プライマーの伸長産物を合成し、二本鎖鋳型核酸を形成すること、
(ix)必要に応じて、工程(v)から(viii)を反復し、鋳型核酸を増幅すること。
【0054】
一本鎖鋳型核酸を増幅しようとする場合、例えば逆転写又はインビトロ転写によって、前記鋳型核酸を二本鎖核酸に転写しなければならない。
【0055】
本発明の方法の特定の実施形態においては、ニッキング・エンドヌクレアーゼによって認識される、オリゴヌクレオチド・プライマーの配列は、鋳型核酸にハイブリダイズしない5’タグ配列に存在し、かつ前記方法は、工程(iv)及び(v)の間に、以下の工程をさらに含む:
(a)工程(iv)の鋳型核酸を、二本鎖鋳型核酸を巻き戻すためのヘリカーゼと接触させ、少なくとも部分的に一本鎖である鋳型核酸を形成すること、
(b)工程(a)の一本鎖鋳型にハイブリダイズさせるためオリゴヌクレオチド・プライマーを添加すること、
(c)ポリメラーゼを用いて、一本鎖鋳型核酸に相補的である、オリゴヌクレオチド・プライマーの伸長産物を合成し、二本鎖鋳型核酸を形成すること。
【0056】
図2には、タグ化プライマーを用いた、DNAに対するニッキングtHDA反応の経過が模式的に示されているが、工程Aでは、dsDNA(「標的DNA」、「鋳型DNA」)を、ヘリカーゼによって巻き戻し、プライマー対が一本鎖DNAに結合する。プライマーの一方は、鋳型DNAにハイブリダイズしない5’タグ配列を有する。DNAポリメラーゼは、プライマーから始まる相補鎖の合成を開始する。工程Bでは、2つの二本鎖産物DNAが形成され、即ち、非タグ化プライマーに基づく産物1は鋳型DNAに相当し、工程Aにおける反応に再び進入し、産物1’はタグ配列を含み、ヘリカーゼによって巻き戻される。工程Cでは、産物1’の相補鎖がDNAポリメラーゼによって合成される。工程Dでは、一方の鎖が産物1’を生じ、工程Cにおける反応に再び進入し、もう一方の鎖は、機能するニッキング部位及びニッキング酵素認識配列を有するタグ配列を含む産物2を導く。工程Eでは、産物2の一方の鎖がニッキング部位で切断され、もう一方の末端からヘリカーゼによって巻き戻される。DNAポリメラーゼは、切断部位で3’末端を伸長し、鎖を置換する[「鎖置換増幅」(SDA)]。プライマーは、もう一方の鎖に結合し、DNAポリメラーゼによって伸長される。工程Fでは、プライマー伸張は2つの産物を生じ、産物3はタグ配列を含み、産物3’はタグ配列を含まない。産物3は、再び、ニッキング部位で切断され、相補鎖が合成される。産物3’は、ヘリカーゼによって巻き戻される。工程G1では、産物3の増幅によって、工程G1に再び進入する産物3、及び工程G2に進入する産物3’が導かれる。工程G2では、両方のssDNA鎖に対する相補鎖が合成され、それぞれ、工程E及びG2の反応に再び進入する、産物2及び3’が生じる。反応全体で、産物3の集積が導かれる。ハイブリダイゼーションプローブ、例えば増幅産物の逆鎖に相補的なものを用いて、産物を検出することが出来る。
【0057】
図3には、非タグ化プライマーを用いた、DNAに対するニッキングtHDA反応の経過が模式的に示されているが、工程Aでは、少なくとも1つのプライマー、DNAポリメラーゼ、ヘリカーゼ及びニッキング・エンドヌクレアーゼを含む反応混合物をdsDNAに添加する。プライマーは、ニッキング・エンドヌクレアーゼの認識配列を含む。dsDNAは、ヘリカーゼによって巻き戻され、プライマーが一本鎖にハイブリダイズし、伸長される。ニッキング・エンドヌクレアーゼ認識部位が一方の鎖に導入される。工程Bでは、生じたdsDNAがニッキング・エンドヌクレアーゼによって切断される。工程Cでは、ヘリカーゼはdsDNAを巻き戻し、古いプライマー又は新規に結合したプライマーのいずれかが、DNAポリメラーゼによって3’末端で伸長される。
【0058】
以下において、一工程及び二工程のDNAニッキングtHDA反応に関する、典型的であるが、単なる例であり、かつこれらに限定されないプロトコルについて要約する。
【0059】
二工程tHDAプロトコル
1.鋳型DNA、並びにフォワード・プライマー及びリバース・プライマーを、dNTP、dATP又はATP、マグネシウムイオン(例えば硫酸マグネシウム、MgSO4として)、トリスHCl(Tris HCl)の如き緩衝剤、並びにNaCl及び/又はKClの如き塩を含む適切な水性反応緩衝液に添加する。反応容器として、例えば微量遠心分離機型のものを用いてもよい。
2.反応混合物を変性温度まで加熱し(例えば95℃で例えば2分間)、任意に4℃に冷却するか又は氷上に置き、次いで短時間、実際の反応温度にする(例えば64℃又は65℃で例えば1から3分間)。次いで、任意に、反応混合物を氷上又は4℃に置く。
3.酵素、即ちヘリカーゼ、DNAポリメラーゼ及びニッキング酵素を反応混合物に添加する。例えば短時間のボルテックスによって又はピペッティングによって、反応混合物を穏やかに混合してもよい。適切な緩衝液中で酵素を予め混合してもよい。
4.反応混合物を適切な時間、例えば60〜90分間、好ましくは60〜75分間、反応温度で、例えば64℃又は65℃でインキュベートする。
【0060】
一工程tHDAプロトコル
一工程プロトコルについては、二工程プロトコルの工程2をスキップする。工程1の後、直接、工程3に進む。
【0061】
本発明の方法のための典型的な緩衝液条件は、以下の通りである:
−トリス(Tris):5〜100mM、好ましくは10mM
−pH7.5〜9.5、好ましくはpH8.8
−KCl:0〜50mM、好ましくは5mM
−MgSO4:1〜6mM、好ましくは3.5mM
−NaCl:0〜100mM、好ましくは40mM
−dNTP:0.1〜1mM、好ましくは0.4mM
−(d)ATP(即ちdATP及び/又はATP):1〜7mM、好ましくは3mM
−プライマー(フォワード):0.02〜1.5μM、好ましくは0.1μM
−プライマー(リバース):0.02〜1.5μM、好ましくは0.1μM
−ニッキング・エンドヌクレアーゼ:0.01〜10U/反応、好ましくは0.5〜3U/反応(25μL反応)
−ポリメラーゼ:0.3〜3U/μL、好ましくは0.6〜2U/μL
−ヘリカーゼ:1〜100ng/μL、好ましくは3〜20ng/μL
【0062】
任意に、ベタインを、好ましくは100〜2000mM、好ましくは700〜1200mMの濃度で添加してもよい。
【0063】
しかしながら、これらは、単なる例示の条件であり、前記条件は、用いられる特定の酵素、鋳型及び/又はプライマー配列又は温度の如き他のパラメータに応じて調整され得る。
【0064】
特定の実施形態においては、本発明の方法は、増幅産物を検出する工程をさらに含む。増幅産物は、例えば、ゲル電気泳動、インターカレーター色素、又は特異的オリゴヌクレオチド・プローブを用いて検出し得る。
【0065】
増幅された核酸産物を、エチジウムブロミド染色、並びに放射標識、蛍光標識、及び酵素からなる群から選択される標識による増幅配列の検出を含む、様々な方法によって、検出してもよい。例えば、HDA増幅産物を、ヘアピン構造中、3’末端近傍にフルオロフォアを含むよう設計されたオリゴヌクレオチドである蛍光標識ラックス(LUX)商標プライマー(インビトロジェン社、カリフォルニア州カールスバッド)を用いて、リアルタイムで検出してもよい。この立体配置は、本質的に、分離した消光部分なしに、蛍光消光能を与える。プライマーが二本鎖増幅産物に取り込まれると、フルオロフォアは脱消光され、蛍光シグナルの有意な増加を生じる。
【0066】
オリゴヌクレオチド・プローブは、好ましくは、典型的には共有結合した、蛍光標識、即ち蛍光色素を含む。
【0067】
特に、蛍光標識プローブを、FAM、VIC、NED、フルオレセイン、FITC、IRD−700/800、CY3、CY5、CY3.5、CY5.5、HEX、TET、TAMRA、JOE、ROX、ボディピィTMR(BODIPY TMR)、オレゴン・グリーン、ローダミン・グリーン、ローダミン・レッド、テキサス・レッド、ヤキマ・イエロー、アレクサ・フロー(Alexa Fluor)、及びPETからなる群から選択される色素で標識されてもよい。
【0068】
適切なハイブリダイゼーションプローブには、ライトサイクラー(LightCycler)プローブ(ロシェ(Roche))、タックマン(TaqMan)プローブ(ロシェ)、分子ビーコン、スコーピオン(Scorpion)プライマー、サンライズ(Sunrise)プライマー、ラックス(LUX)プライマー、及びアンプリフルオロ(Amplifluore)プライマーが含まれる。本発明の場合には、タックマンプローブが好ましい。
【0069】
本発明はまた、
−ニッキング・エンドヌクレアーゼ、
−ヘリカーゼ、及び
−DNAポリメラーゼ
を含む、核酸を増幅するためのキットにも関する。
【0070】
本発明の方法に関しては、キットのヘリカーゼは、好ましくは、dda、pcrA、F−プラスミドtraIタンパク質ヘリカーゼ及びUvrDの如きスーパーファミリーIヘリカーゼ、recQ及びNS3−ヘリカーゼの如きスーパーファミリーIIヘリカーゼ、AAV repヘリカーゼの如きスーパーファミリーIIIヘリカーゼ、T7ファージヘリカーゼの如きdnaB様スーパーファミリー由来のヘリカーゼ、並びにrho様スーパーファミリー由来のヘリカーゼからなる群から選択される。ヘリカーゼが熱安定性ヘリカーゼであることが好ましい。熱安定性Tte−UvrDヘリカーゼが特に好ましい。
【0071】
キットのポリメラーゼは、好ましくは、Bst DNAポリメラーゼ、パイロファージ(PyroPhage)ポリメラーゼ、ディスプレスエース(Displaceace)ポリメラーゼ、及びベント(Exo-)ポリメラーゼからなる群から選択される。
【0072】
キットのニッキング・エンドヌクレアーゼは、好ましくは、Nb.BsmI、Nt.BstNBI、Nt.CviPII、Nb.BbvCI、Nb.BsrDI、Nb.BtsI、Nt.BsmAI、Nt.BbvCI、Nt.BspQI、及びNt.AlwIからなる群から選択される。
【0073】
本発明のキットはさらに
−トリス(Tris)の如き緩衝剤、及び/又は
−dNTP、及び/又は
−(d)ATP、及び/又は
−リン酸マグネシウムの如きマグネシウム塩、及び/又は
−NaCl、及び/又は
−KCl
を含んでもよい。
【0074】
本発明のキットはまた、トポイソメラーゼ及び/又はSSBも含んでもよい。
【0075】
キットの個々の要素は、1又は2以上の容器中に存在してもよい。2又は3以上の要素が、例えば、1つの容器、例えば反応チューブ又はバイアル中に共に存在してもよい。緩衝剤、塩、dNTP及び存在する場合(d)ATPは、好ましくは予め混合された溶液中にある存在する。キットはまた、マニュアルも含んでもよい。
【0076】
本発明はさらに、核酸の増幅及び/又は検出のための、本発明による方法及びキットの使用に関する。前記方法及びキットは、例えば、微生物、ウイルス、病原体、ヒトゲノムDNA、cDNA等の検出に用いられ得る。核酸を検出する試料は、例えば、臨床試料(例えば、血液、血漿、血清及び尿の如き体液)であってもよいし、或いは環境、植物、動物由来、家畜由来、食品又は犯罪現場由来であってもよい。方法及びキットは、例えば、専用実験室で、ポイント・オブ・ケアで、又は野外で用いられ得る。核酸は、増幅前に試料から精製及び/又は単離されてもよいし、或いはこれらは試料中で直接増幅及び/又は検出されてもよい。
【0077】
以下の実施例は、本発明の特定の実施形態を説明するものであるが、それらに限定されない。
【実施例】
【0078】
実施例1:タグ化プライマーを用いたニッキングtHDA
本実施例において、それぞれ、標準的tHDA及び本発明記載のニッキングtHDA法を用いて、ナイセリア・ゴノレア(Neisseria gonorrhoeae)ゲノムのポリン遺伝子由来の配列(配列番号1)を増幅し、かつ検出した。
5'ATTTGTTCCGAGTCAAAACAGCAAGTCCGCCTATACGCCTGCTACTTTCACGCTGGAAAGTAATCAGATGAAACCAGTTCCG-3'
【0079】
a)材料:
【表1】
Tm:融解温度;標準的tHDA:プライマーPorA F5及びProA R5、プローブPorA5_VD5 FAM(6−FAM及びBHQ1で標識);ニッキングtHDA:プライマーPorA F5及びProA NS、プローブPorA5_VD5 FAM(6−FAM及びBHQ1で標識)
【0080】
【表2】
反応混合物:
2.5μL 10×アニーリング緩衝液
0.2μL 5M NaCl
0.4μL 25mM dNTP混合物
0.75μL 100mM dATP
1μL 100mM MgSO4
10×アニーリング緩衝液:
100mM KCl
200mM トリス(Tris)/HCl pH8.8
【0081】
【表3】
電気泳動用の12%ポリアクリルアミドゲル:
12mL 30%アクリルアミド/ビスアクリルアミド29:1
3mL TBE
13mL H2
150μL 10% APS
40μL TEMED
【0082】
a)方法:
−22μLのプレミックス1を8×PCRストリップ内にピペットで投入した。
−PCRサイクラー中、95℃で2分間の変性工程、その後、4℃で直ちに冷却。
−次いでストリップをチューブ・スキャナ(ESE GmbH)中、65℃で1分間インキュベーションした。
−各3μLのプレミックス2をストリップの蓋にピペットで添加し、前記蓋でしめた後、遠心分離した。
−反応混合物を振盪によって混合し、再び遠心分離し、そしてチューブ・スキャナに入れた。
−次いで、チューブを65℃で60分間インキュベートし、蛍光を30秒ごとに読み取った。
−続いて、各10μLの反応をロータージーン(RotorGene)チューブ内に移し、ロータージーンQ[キアゲン社(QIAGEN GmbH)]を用いて融解曲線を測定した(55〜95℃、0.5℃増分、5秒間保持)。
−各4μLの反応を12%ポリアクリルアミドゲル(70分間、140V)に投入した。
【0083】
c)結果
I)リアルタイム(ニッキング)tHDA:
図4は、チューブ・スキャナでの異なるリアルタイム(ニッキング)tHDA反応の結果(増幅プロット)を示す。経時的蛍光強度の生データを示す。
−全ての非鋳型コントロール反応(non-template control reaction;NTC)は、非特異的増幅を示さなかった。
−標準的tHDAに関する増幅曲線は、約15分の上昇(take−off)ポイントを有した。
−Nb.BsmIを含まない(w/o)ニッキングtHDAに関する増幅曲線は、24分の上昇ポイントを有し、他の2つの曲線と比較すると、かなり小さい傾斜を有した。
−Nb.BsmIを含む(w/)ニッキングtHDAに関する増幅曲線は、約11分の上昇ポイントを有した。
【0084】
II)融解曲線:
図5は、増幅産物の融解曲線を示す。A)標準的tHDA、B)Nb.BsmIを含まないニッキングtHDA、C)Nb.BsmIを含むニッキングtHDA。
【0085】
標的(鋳型)DNAを含む全ての反応に関して、融解温度(Tm)によって、特異的増幅産物を同定してもよい。全てのNTC反応において、検出可能な増幅産物は観察されなかった。
【0086】
III)ポリアクリルアミドゲル:
図6は、増幅及び電気泳動後の各反応混合物のポリアクリルアミドゲルを示す。A)染色前のゲル、B)EtBrでの染色後のゲル。ゲル上の核バンドB1〜B5の内容が、また、図6B1〜6B5で模式的に図示されている。
【0087】
レーン1:ナイセリア・ゴノレアgDNA標準的tHDA。
レーン2:NTC標準的tHDA。
レーン3:Nb.BsmIを含まないナイセリア・ゴノレアgDNAニッキングtHDA
レーン4:Nb.BsmIを含まないNTCニッキングtHDA。
レーン5:Nb.BsmIを含むナイセリア・ゴノレアgDNAニッキングtHDA。
レーン6:Nb.BsmIを含むNTCニッキングtHDA。
L:10bpラダー(サイズマーカー)。
【0088】
未染色ゲル上のバンド(図6A)は、蛍光標識プローブによる。これらのバンドは、プライマー及びニッキング・エンドヌクレアーゼの最初の量に対する産物の予期される依存性を示している(B1〜B3)。
【0089】
染色されたゲル上では、dsDNA増幅産物(B4、B5)、並びに未染色ゲル上でもまた視認される、プローブとのハイブリダイゼーション産物(B1〜B3)に関して、顕著なバンドが視認出来る。全てのNTC反応もまたバンドを示すが、この検出様式(プローブとssDNA逆鎖との特異的ハイブリダイゼーション)では、非特異的な配列であるため、チューブ・スキャナ又はTm解析における偽陽性シグナルは生じなかった。全てのNTC反応はまた、非染色ゲル中で、プローブとハイブリダイゼーションの指標となるバンドを示さなかった。
【0090】
実施例2:非タグ化プライマーを用いたニッキングtHDA
a)標的配列
標的配列(配列番号6)は、ヒトp53遺伝子のmRNAに由来し、かつ配列NM001126114のヌクレオチド残基322〜395を含む。
【0091】
ニッキング・エンドヌクレアーゼによって認識される配列を含むプライマーの設計のため、リバース・プライマーHDA−TP53revの元の配列を修正し、プライマー配列HDA−TP53rev7を作製した。これにより、酵素Nt.BstNBIのための認識配列を導入した(図7を参照されたい)。
【0092】
【表4】
【0093】
b)ヒトcDNAからのp53の増幅
材料:
この反応のため、ヒトRNAをcDNAに転写した。tHDA反応のため、10ng RNA由来のcDNAを用いた。反応を、表5に概略する緩衝液(反応混合物)中で行った。
【0094】
【表5】
【0095】
反応混合物を氷上でセットアップし、続いてリアルタイムPCRサイクラー中で65℃で60分間行った。
【0096】
結果:
図8は、ニッキング・エンドヌクレアーゼの濃度に対する反応速度の依存性を図示する。アンプリコンのシグナルが検出可能になる、即ちバックグラウンド・シグナルより有意に高くなるまでの時間を分で示す。より低い濃度のニッキング・エンドヌクレアーゼの存在下では、シグナルは、ニッキング・エンドヌクレアーゼを含まない反応に関するより約5分早く検出されており、反応がより迅速であることを示す。
【0097】
図9は、標準的tHDA、即ちいかなるニッキング・エンドヌクレアーゼも伴わないtHDAの増幅曲線(経時的蛍光)を示す。3つの曲線は、cDNA鋳型の存在下で測定され、2つの曲線は、cDNA鋳型の非存在下で測定されている。
【0098】
図10は、0.1Uのニッキング・エンドヌクレアーゼ、Nt.BstNBIの存在下でのtHDAの増幅曲線を示す。3つの曲線は、cDNA鋳型の存在下で測定され、2つの曲線は、cDNA鋳型の非存在下で測定されている。
【0099】
図11は、ニッキング・エンドヌクレアーゼ、Nt.BstNBIを伴わない標準的tHDA後の融解曲線解析を示す。図9に示す反応を用いて、融解曲線解析を行った。3つの曲線は、cDNA鋳型の存在下で測定され、2つの曲線は、cDNA鋳型の非存在下で測定されている。
【0100】
図12は、0.1Uのニッキング・エンドヌクレアーゼ、Nt.BstNBIの存在下での標準的tHDA後の融解曲線解析を示す。図10に示す反応を用いて、融解曲線解析を行った。3つの曲線は、cDNA鋳型の存在下で測定され、2つの曲線は、cDNA鋳型の非存在下で測定されている。
【0101】
c)ヒトゲノムDNA(gDNA)からのp53の増幅
100ngのヒトゲノムDNAをこの反応に用い、95℃加熱工程で変性した。表6に概略するような反応緩衝液中で反応を行った。
【0102】
【表6】
【0103】
反応混合物を氷上でセットアップし、続いてリアルタイムPCRサイクラー中で65℃で60分間行った。
【0104】
結果:
図13は、ニッキング・エンドヌクレアーゼの存在に対する、反応速度の依存性を図示する。アンプリコンのシグナルが検出可能になる、即ちバックグラウンド・シグナルより有意に高くなるまでの時間を分で示す。ニッキング・エンドヌクレアーゼの存在下では、シグナルは、ニッキング・エンドヌクレアーゼを含まない反応に関するより約6分早く検出されており、反応がより迅速であることを示す。
図1
図2-1】
図2-2】
図3
図4
図5-1】
図5-2】
図5-3】
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]