(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5945280
(24)【登録日】2016年6月3日
(45)【発行日】2016年7月5日
(54)【発明の名称】キトサンを使用した音響建築材
(51)【国際特許分類】
E04B 1/86 20060101AFI20160621BHJP
【FI】
E04B1/86 C
【請求項の数】9
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-547505(P2013-547505)
(86)(22)【出願日】2011年12月9日
(65)【公表番号】特表2014-505811(P2014-505811A)
(43)【公表日】2014年3月6日
(86)【国際出願番号】US2011064148
(87)【国際公開番号】WO2012091883
(87)【国際公開日】20120705
【審査請求日】2014年11月25日
(31)【優先権主張番号】61/427,643
(32)【優先日】2010年12月28日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】13/294,200
(32)【優先日】2011年11月11日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】512127109
【氏名又は名称】ユーエスジー・インテリアズ・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】特許業務法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】エンリケ・エル・アウバラン
【審査官】
新井 夕起子
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第01/094700(WO,A1)
【文献】
国際公開第00/017121(WO,A1)
【文献】
特開2002−088696(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04C 2/00 − 2/54
E04B 1/74 − 1/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維、充填材、結合剤、及びスラリー成分と相互作用するための水性スラリーにわたって均一に分散されたキトサンを含む成分の水性スラリーから形成された天井タイルであり、
前記繊維が、鉱物ウール、ガラス繊維及びセルロース繊維からなる群から選択され、前記充填材がパーライト、炭酸カルシウム、粘土及びスタッコからなる群から選択され、前記結合剤がデンプン及びラテックスからなる群から選択され、
前記水性スラリーから形成された前記天井タイルは、前記キトサンを除いた同じスラリー成分から同様に形成された天井タイルと比べて、少なくとも前記結合剤と相互作用する前記キトサンによって構造的に強化されることを特徴とする音響建築用天井タイル。
【請求項2】
前記キトサンが、前記キトサンを除いた同じスラリー成分から同様に形成された天井タイルと比べて、MORを含む物理的性質が高められた天井タイルを生じるように前記スラリー成分と相互作用することを特徴とする請求項1に記載の音響建築用天井タイル。
【請求項3】
前記キトサンが、前記水性スラリー中の固体の全重量に基づいて1重量%〜6重量%の量で存在することを特徴とする請求項1に記載の音響建築用天井タイル。
【請求項4】
前記キトサンが、前記スラリーへの添加のために酸溶液に溶解されることを特徴とする請求項1に記載の音響建築用天井タイル。
【請求項5】
前記スラリーが、許容可能な物理的性質を維持するために添加されたキトサンの量に応じて減少された量の結合剤、および前記減少された量の結合剤に応じて増加された量のセルロース繊維のリサイクル材料を含むことによって、前記タイルの脱工業/再利用リサイクル材料の含有量が増加することを特徴とする請求項1に記載の音響建築用天井タイル。
【請求項6】
前記許容可能な物理的性質がMOR及び硬度を含むことを特徴とする請求項5に記載の音響建築用天井タイル。
【請求項7】
前記キトサンが、前記キトサンを除いた同じスラリー成分から同様に形成された天井タイルと比べて、増加された量の水を前記天井タイルから除くための脱水の間に、前記スラリー成分と相互作用することを特徴とする請求項1に記載の音響建築用天井タイル。
【請求項8】
前記天井タイルが重量ベースで
5%〜65%の繊維、
3%〜12%の結合剤、及び
1%〜6%のキトサン
を含む組成を有することを特徴とする請求項1に記載の音響建築用天井タイル。
【請求項9】
鉱物繊維、充填材、結合剤及び水性スラリーの全体にわたって均一に分散されたキトサンを含む成分の水性スラリーの乾燥製品を含む音響建築材であって、
前記キトサンは前記スラリー成分と相互作用し、それにより、前記音響建築材が、前記キトサンを除いた同じスラリー成分の同様に形成された音響建築材と比べて、少なくとも前記結合剤と相互作用する前記キトサンによって構造的に強化されることを特徴とする音響建築材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2010年12月28日に出願された米国仮特許出願第61/427,643号の優先権を主張する。
【0002】
本発明の技術分野は音響建築材又は繊維ボード、及びその製造方法に関するものであり、より具体的には、ボード構造体の中に均一に分散されたキトサンを含む繊維ボードに関する。
【背景技術】
【0003】
音響建築材又は繊維ボードは、建築業界で周知のように、天井タイル、天井パネル、壁パネル、又は壁タイルの形を取ることができる。これらのボードは繊維、充填材、及び結合剤のスラリーから作製される。
【0004】
これらのボードは、典型的には当業者において公知のように水縮充加工法(water felting process)においてスラリーを用いて作製される。繊維、充填材、結合剤、及び他の成分の分散体を脱水式フォードリニア(Fourdrinier)成形機械のような移動する多孔性の支持体の上に流す。分散体はまず重力で、次に真空吸引によって脱水される。湿った基礎マットを乾燥し、乾燥した基材は所定のサイズに切断され、場合によっては上塗りされて、繊維ボードパネル又はタイルを作製する。
【0005】
キトサン又はポリ−D−グルコサミンは、甲殻類の外骨格やある種の菌類の細胞壁の構成要素であるキチンのアセチル基が除かれた形として市販されている。キトサンはセルロースと同様にカチオン系高分子である。キトサンは血液凝固を促進させることが知られており、絆創膏に使用されてきた。キトサンは殺生剤であり、抗菌および抗カビ活性を高める特別の性質を有している。キトサンは重金属の水濾過において、凝集剤としても使用される。キトサンはまたホルムアルデヒドや臭気を吸収することが示されている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
キトサンは、スラリー配合物の中に直接導入されることができる繊維ボードへの多機能添加剤であることが見出された。キトサンは酸の中に溶解され、希薄溶液としてスラリーに直接添加される。このようにして、キトサンは製造プロセスを実質的に変更することなくボード構造体の中に均一に分散される。
【0007】
繊維ボード構造体においてキトサンを使用することによって、得られる製品において多くの利点をもたらすことが可能になる。例えば、約10重量%未満のキトサン濃度は、結合剤の量の減少を可能にするのに十分な構造的補強を提供する。このことは、結合剤は繊維ボード組成物の中で高価な成分であることから、コスト削減をもたらすことになる。
【0008】
キトサンをボード構造体の中に導入することの更なる利点は、成分の結合を高めて貢献し、またリサイクル含有量を増加させることが可能になることである。即ち、結合剤の量を減少させることができ、またリサイクルセルロースの量を増加して使用することができる。
【0009】
最も驚くべきことに、キトサンをボード構造体に導入させることによって、ボード構造体を形成する際にその構造体からの脱水又は水の除去を向上させ、乾燥条件を減少させることも見出した。縮充加工法において、オーブン乾燥工程前のボード構造体からの水除去が向上し、要求される乾燥量が減少される。本発明によるキトサンを含むボード構造体の加工において、オーブン乾燥の前の脱水工程において除去される水の量が増加するので、最終的なオーブン乾燥工程での除去すべき水の量が減少する。減少したオーブン乾燥条件により、エネルギー及びコストが節約される。
【0010】
キトサンの殺生特性は天井および壁での用途に直接有用である。これらの特性は高湿度、凝縮、あるいは他の湿気源がタイルを濡らす可能性のある天井タイルへの適用において特に有益である。かかる高湿度環境は、浮遊移動により堆積し得る望ましくない微生物およびカビの生育に好都合である。
【0011】
キトサンのホルムアルデヒド吸収能力は、プロセスおよび製品の両方のホルムアルデヒドレベルを減少させると考えられる。キトサンの臭気吸収特性は製品用途において特に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以上述べてきたように、キトサンは音響建築材又は繊維ボードに多機能添加剤として好ましい特性を提供することが見出された。便宜上、本発明においては、特に吊り天井で使用され得る天井タイルについて以下記述する。
【0013】
本明細書で対象となる天井タイルは、通常、鉱物ウール又はガラス繊維のような鉱物性繊維及びセルロース繊維のような有機繊維である基材繊維を含む。充填材は通常パーライト、粘土、炭酸カルシウム、又はスタッコ石膏である。結合剤は典型的にはデンプン、ラテックス、又は同様の材料である。これらの材料又は成分は典型的には水性スラリー中で混合され、上述の縮充加工法において処理される。
【0014】
典型的な組成において、繊維及び充填材成分が主要な成分を構成する。しかしながら、広範な種々の成分を使用することができる。例えば、下記の表は典型的な天井及び壁組成をまとめたものである。ここで留意すべきことは、組成は以下の表に掲げた繊維、充填材、又は結合剤について1つ以上の例示的な種類を含んでもよいということである。本明細書中でパーセントは注釈や文脈で示されない限り、固体に基づいた重量パーセントである。
【0016】
これらの繊維、充填材、及び結合剤成分は公知の方法で約3%〜6%の固体のレベルで水性スラリー中で混合される。キトサンは酸性水溶液中に溶解し、前記スラリー中に均一に混合される。例えば、粉状又はチップ状のキトサンは酢酸溶液中に2〜4容積%で溶解し、スラリーに添加することができる。このキトサン溶液は、スラリーに含まれる固体に基づいて1%〜6%の範囲の最終製品の重量ベースの量を与える量で添加される。
【0017】
キトサン中に存在する親水性基であるOH基やNH基が、キトサンの均一な分散を高め、また、繊維と充填材スラリー成分との完全な浸透及び/又は接触を高めるものと考えられる。また、カチオンとして電荷を帯びたキトサンは、デンプンと相互作用すると考えられる。さらに、キトサンはタイルの他の繊維成分と絡み合い及び/又はそうでなければ相互に作用し合って繊維状構造を形成し、タイルの物理的な性質の変化を許容範囲内に収めつつ結合剤の量を削減可能ならしめる構造的な補強を提供するように思われる。
【0018】
以上述べたように、天井タイルなどのボード構造体へのキトサンの添加は、オーブンによる乾燥の前に構造体が形成されるに従ってその構造体によって保持される水分量を減少させる。縮充加工法は、オーブン乾燥前の水分除去のために、自然な排水や、ボードの真空及び/又はロール圧縮の適用を含んでもよい。本発明によるキトサンの使用は、一つ又はそれ以上の前記のオーブン乾燥前工程の使用により、水分除去を向上させることに効果的であることが見出された。従って、本発明によるキトサンを含むボードは、キトサン添加を除いて同じ組成を有する同様に形成されたボード構造体と比べて、オーブン乾燥前の水分をより少なく含む。
【実施例】
【0019】
以下に示す例は、タイルのコアに対応するボードの比較であり、外側塗装、空孔、又は他の仕上げ処理を含まない。ボード組成は鉱物ウール、リサイクル新聞紙、コーンスターチ、炭酸カルシウム、パーライト、及び凝集剤を含む。好ましい音響的、強度的、及びその他の性質をもたらすためには、コーンスターチの量は好ましくは約8重量%であることが実験的に決定されている。本明細書において、キトサンの結合及び強化特性を証明するため、ボード組成を変更して種々の量のキトサンおよび減少した量のスターチを導入した。
【0020】
作製したボードに含まれる成分の絶対量を下記の表1に報告する。
【0021】
【表2】
【0022】
ボード1はキトサン無添加でスターチの典型的な量によるコントロールを示す。ボード2〜5は、量を増加したキトサンと、量を削減した結合剤であるスターチを含む。
【0023】
ボード1〜5の各種成分の重量%を表2に示す。
【0024】
【表3】
【0025】
ボード1〜5について試験を行い、その結果を下記表3に示す。表3で報告された試験結果を判定するのに、以下の試験手順を使用した。
【0026】
破壊係数に関するMOR試験は3点曲げテストによる。本明細書における試験手順は、あらかじめ組み立てられた建築用音響タイル又はレイイン式天井パネルの強度特性に関するASTM C 367標準試験法と同様のものである。硬度試験は設置時又は設置後に発生し得る天井タイルの押し込みに抵抗する能力を示す。本明細書で使用される2インチ球硬度試験は、あらかじめ組み立てられた建築用タイル又はレイイン式天井パネルの強度特性に関するASTM C 367標準試験法と同様のものである。
【0027】
【表4】
【0028】
ボード1と2の比較は、増加するMOR、破壊荷重、硬度の結果によって示されるように、強度と硬度が高められていることを示す。この比較は、ボード2において、キトサンが添加された同じような結合剤量を含む。従って、キトサンはこれらの物理的性質を高める。
【0029】
ボード2及び3における結合剤の量は、それぞれ1%及び2%減少されている。結合剤の減少は、キトサンの添加によって十分に補償されていない。従って、ボード3と4は僅かに強度が下まわり、より柔らかいが、物理的性質についての値は許容範囲内である。本明細書で使用される場合、許容できる物理的性質とは、試験された物理的性質についての値が、キトサンの添加を除き同じ成分を用いて同様に形成された天井タイルによってもたらされた値の少なくとも約95%と等しいことを意味する。
【0030】
僅かに下まわる特性値が得られ得るとしても、より高価なデンプン成分の量がボード2及び3の構造体において減少されることは注目すべきである。更に、減少されたデンプン含有量に代えてリサイクル新聞紙の量を増加することができ、それによりタイルのリサイクル及び脱工業/再利用の含有量の増加をもたらすことができる。
【0031】
ボード5はコントロール値に比べて強度と硬度が5%より多く低下していることが特徴的である。かかる低下は、現状においては、許容される物理的性質値を超えているとみなされる。ここでも、減少されたデンプン含有量に代えてリサイクル新聞紙の量を増加することができ、それによりタイルのリサイクル及び脱工業/再利用の含有量の増加をもたらすことができる。
【0032】
ボード1〜5について、騒音低下についての試験を行い、より具体的にはENRC即ち推定騒音減少係数(estimated noise reduction coefficient)、を求めた。ENRC試験はインピーダンス管法による音響材料のインピーダンス及び吸音についてのASTM C 384標準試験法に基づく。この試験は吸音について予測するために用いられる。試験結果は同じように作製されたサンプルの比較のみであり、例えば本明細書において、ボードは更なる表面仕上げや最終処理を含んでいないことに留意すべきである。
【0033】
試験結果を以下の表4に示す。
【表5】
【0034】
表4に示されるように、キトサンの使用はENRCに悪影響を及ぼさず、この性質の許容されない低下をもたらすことなく、キトサンの利点を達成することができる。
【0035】
本開示は例示であり、本開示に含まれる教示の公平な範囲からの逸脱なしに、詳細を加え、修正し、又は削除による種々の変更がなされ得ることは自明である。従って、本発明は、添付の特許請求の範囲が必然的に限定する程度を除いて、本開示の具体的な詳細に限定されない。