特許第5945284号(P5945284)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5945284ゲルの膨潤によって引き起こされる変形を防ぐためのスラブゲルカセットの寸法安定化法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5945284
(24)【登録日】2016年6月3日
(45)【発行日】2016年7月5日
(54)【発明の名称】ゲルの膨潤によって引き起こされる変形を防ぐためのスラブゲルカセットの寸法安定化法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/447 20060101AFI20160621BHJP
【FI】
   G01N27/447 315E
【請求項の数】18
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-555606(P2013-555606)
(86)(22)【出願日】2012年2月24日
(65)【公表番号】特表2014-506681(P2014-506681A)
(43)【公表日】2014年3月17日
(86)【国際出願番号】US2012026557
(87)【国際公開番号】WO2012116297
(87)【国際公開日】20120830
【審査請求日】2015年2月17日
(31)【優先権主張番号】61/446,347
(32)【優先日】2011年2月24日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/588,830
(32)【優先日】2012年1月20日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507190880
【氏名又は名称】バイオ−ラッド ラボラトリーズ インコーポレーティッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100114889
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 義弘
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】パナットーニ コーリー
(72)【発明者】
【氏名】レーサム マシュー
(72)【発明者】
【氏名】キンメル カーラ
(72)【発明者】
【氏名】ウォーカー ジョン
【審査官】 佐々木 龍
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭55−000025(JP,U)
【文献】 特表2009−508138(JP,A)
【文献】 特開平09−043196(JP,A)
【文献】 特開平08−158087(JP,A)
【文献】 特表2002−536661(JP,A)
【文献】 特開平04−231490(JP,A)
【文献】 特開平05−026845(JP,A)
【文献】 特開平06−229983(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/447
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前面、背面、および長手方向端部を有する平坦なバー、
該長手方向端部に沿った歯状の突起部の列、
該前面から前方に突出している第一フック手段、ならびに
該背面から後方に突出している第二フック手段
を含む、電気泳動スラブゲルが平行で平坦な注型プレートの間で注型される際に該ゲルに試料ウェルの列を形成するために該プレートの対の間へ挿入するための装置であって、該第一および第二フック手段が、該歯状突起部が該注型プレートの間にある状態で該注型プレートをお互いから一定の距離をおいてお互いに平行に保つための形状である、装置。
【請求項2】
第一フック手段および第二フック手段のうちの一方が、前面に平行でありかつ該前面から均等に間隔をあけて配置されたタブの列である、請求項1記載の装置。
【請求項3】
第一フック手段が、前面に平行でありかつ該前面から均等に間隔をあけて配置された第一のタブの列であり、第二フック手段が、背面に平行でありかつ該背面から均等に間隔をあけて配置された第二のタブの列である、請求項1記載の装置。
【請求項4】
前面および背面が鉛直である場合、第二フック手段が第一フック手段よりも高い、請求項1記載の装置。
【請求項5】
(a) 対向する上端部および下端部と対向する側端部とを有する空洞を画定するゲルエンクロージャの矩形の平板形状の空洞に、ゲル形成モノマー溶液を配置する工程であって、該ゲルエンクロージャは、第一および第二の平坦なプラスチックプレートと、該プラスチックプレート間に事前選択された幅の間隙を有する該空洞の該側端部に沿って該プラスチックプレートを一緒に固定するための一又は複数の仕切りを含む、前記配置する工程;
(b) 該ゲルを形成するように該モノマー溶液を重合させる工程;ならびに
(c) (b)の前、間、または後において、請求項1の装置を該エンクロージャに取り付け、スラブモノマー溶液または該ゲルによって該空洞の内側で発生する圧力によって生じる該プラスチックプレートに対する任意の外側方向の力に対抗するために該プラスチックプレートに力をかける工程
を含む、電気泳動のための試料ウェルを有するスラブゲルを注型するための方法。
【請求項6】
対向する上端部および下端部と対向する側端部とを有する矩形の平板形状の空洞を画定し、第一および第二の平坦なプラスチックプレートと、該プラスチックプレート間に事前選択された幅の間隙を有する状態で該プレートを該空洞の該側端部に沿って一緒に固定するための手段とを含む、ゲルエンクロージャ、ならびに
該プラスチックプレートを該上端部に沿って動かないように保つための該ゲルエンクロージャ上の手段、または該ゲルエンクロージャに取り付け可能な手段であって、それにより、スラブゲルが該空洞内に存在して該プラスチックプレートに対して外側方向の力を加える場合に該空洞の内側で発生する圧力に曝露される際に、該上端部に沿って該事前選択された幅を維持し、長手方向端部を有する平坦なバーと該長手方向端部に沿った歯状の突起部の列とを含むウェル形成挿入体を含み、該突起部が平板形状の空洞の内側に嵌合するサイズである、手段
を含む、電気泳動スラブゲルを注型するための機器であって、
(i) 平坦なバーが前面および背面を有し、かつプラスチックプレートを上端部に沿って動かないように保つための手段が、該前面から前方に突出している第一フック手段と該背面から後方に突出している第二フック手段とを含み、該第一および第二フック手段が、それぞれ、第一および第二プラスチックプレートに掛止するための形状であるか、または
(ii) プラスチックプレートを上端部に沿って動かないように保つための手段が、ウェル形成挿入体に脱着可能に連結することができる取り付け部品を含み、該取り付け部品が該ウェル形成挿入体に連結される場合に、第一フック手段が第一プラスチックプレートに掛止してかつ第二フック手段が第二プラスチックプレートに掛止するような方向を向いている第一および第二フック手段を該取り付け部品が含むか、または
(iii) プラスチックプレートを上端部に沿って動かないように保つための手段が、ウェル形成挿入体およびプレートのうちの一方の上にある第一突出部と、該突出部に面する位置で該ウェル形成挿入体および該プレートのうちの他方の上にあり、かつ該第一突出部の輪郭に対して相補的な輪郭を有する第一凹みと、第二突出部と、相補的な輪郭の第二凹みとを含み、該第一突出部および該第一凹みが該ウェル形成挿入体の一方の側部を該プラスチックプレートの一方に固定し、かつ該第二突出部および該第二凹みが該ウェル形成挿入体の反対側の側部を該プラスチックプレートの他方に固定する、
機器
【請求項7】
平坦なバーが前面および背面を有し、かつプラスチックプレートを上端部に沿って動かないように保つための手段が、該前面から前方に突出している第一フック手段と該背面から後方に突出している第二フック手段とを含み、該第一および第二フック手段が、それぞれ、第一および第二プラスチックプレートに掛止するための形状である、請求項6記載の機器。
【請求項8】
プラスチックプレートを上端部に沿って動かないように保つための手段が、ウェル形成挿入体に脱着可能に連結することができる取り付け部品を含み、該取り付け部品が該ウェル形成挿入体に連結される場合に、第一フック手段が第一プラスチックプレートに掛止してかつ第二フック手段が第二プラスチックプレートに掛止するような方向を向いている第一および第二フック手段を該取り付け部品が含む、請求項6記載の機器。
【請求項9】
第一フック手段および第二フック手段のうちの一方が、歯状突起部の列に平行なタブの列である、請求項7または8記載の機器。
【請求項10】
第一フック手段が、歯状突起部の列に平行な第一のタブの列であり、かつ第二フック手段が、歯状突起部の列に平行な第二のタブの列である、請求項7または8記載の機器。
【請求項11】
第一および第二プラスチックプレートが上端部を有し、かつ該第一および第二プラスチックプレートが鉛直である場合に、該第二プラスチックプレートの該上端部が該第一プラスチックプレートの該上端部よりも高く、かつ第二フック手段が第一フック手段よりも高い、請求項7または8記載の機器。
【請求項12】
プラスチックプレートを上端部に沿って動かないように保つための手段が、ウェル形成挿入体およびプレートのうちの一方の上にある第一突出部と、該突出部に面する位置で該ウェル形成挿入体および該プレートのうちの他方の上にあり、かつ該第一突出部の輪郭に対して相補的な輪郭を有する第一凹みと、第二突出部と、相補的な輪郭の第二凹みとを含み、該第一突出部および該第一凹みが該ウェル形成挿入体の一方の側部を該プラスチックプレートの一方に固定し、かつ該第二突出部および該第二凹みが該ウェル形成挿入体の反対側の側部を該プラスチックプレートの他方に固定する、請求項6記載の機器。
【請求項13】
突出部が畝であり、かつ凹みが溝であり、すべてが台形の輪郭を有する、請求項12記載の機器。
【請求項14】
(a) ゲル形成モノマー溶液を、開口側部を有する平板形状の空洞内に配置する工程であって、該空洞が、第一および第二の平坦なプラスチックプレート間に事前選択された幅の間隙を有する第一および第二プラスチックプレートを含むエンクロージャ内にある、工程;
(b) スラブゲルを形成するように該モノマー溶液を重合させる工程;ならびに
(c) (b)の間または後のいずれかにおいて、スラブモノマー溶液または該ゲルによって該空洞の内側で発生する圧力によって生じる該プラスチックプレートに対する任意の外側方向の力に対抗するために該プラスチックプレートに力をかける工程
を含む、電気泳動のための試料ウェルを有するスラブゲルを注型するための方法であって、工程(b)の前にウェル形成挿入体を平板形状の空洞の開口側部に挿入する工程をさらに含み、該ウェル形成挿入体が、長手方向端部を有する平坦なバーと、該長手方向端部に沿った、該平板形状の空洞の内側に嵌合するサイズの歯状突起部の列とを含み、
(i) 平坦なバーが、前面と、背面と、該前面から前方に突出している第一フック手段と、該背面から後方に突出している第二フック手段とを有し、工程(c)が、該第一フック手段が第一プラスチックプレートに掛止してかつ該第二フックが第二プラスチックプレートに掛止するようにウェル形成挿入体を挿入する工程を含むか、または
(ii) 平坦なバーが、前面と、背面と、該前面およびプレートのうちの一方の上にある第一突出部と、該第一突出部に面する位置で該前面および該プレートのうちの他方の上にあり、かつ該第一突出部とインターロックする輪郭を有する第一凹みと、該背面および該プレートのうちの一方の上にある第二突出部と、該第二突出部に面する位置で該背面および該プレートのうちの他方の上にあり、かつ該第二突出部とインターロックする輪郭を有する第二凹みとを有するか、または
(iii) ウェル形成挿入体が前記のように挿入される場合に第一フック手段が第一プラスチックプレートに掛止してかつ第二フック手段が第二プラスチックプレートに掛止するような方向を向いている第一および第二フック手段を含む取り付け部品を該ウェル形成挿入体に連結する工程をさらに含む、
方法
【請求項15】
平坦なバーが、前面と、背面と、該前面から前方に突出している第一フック手段と、該背面から後方に突出している第二フック手段とを有し、工程(c)が、該第一フック手段が第一プラスチックプレートに掛止してかつ該第二フックが第二プラスチックプレートに掛止するようにウェル形成挿入体を挿入する工程を含む、請求項14記載の方法。
【請求項16】
平坦なバーが、前面と、背面と、該前面およびプレートのうちの一方の上にある第一突出部と、該第一突出部に面する位置で該前面および該プレートのうちの他方の上にあり、かつ該第一突出部とインターロックする輪郭を有する第一凹みと、該背面および該プレートのうちの一方の上にある第二突出部と、該第二突出部に面する位置で該背面および該プレートのうちの他方の上にあり、かつ該第二突出部とインターロックする輪郭を有する第二凹みとを有する、請求項14記載の方法。
【請求項17】
ウェル形成挿入体が前記のように挿入される場合に第一フック手段が第一プラスチックプレートに掛止してかつ第二フック手段が第二プラスチックプレートに掛止するような方向を向いている第一および第二フック手段を含む取り付け部品を該ウェル形成挿入体に連結する工程をさらに含む、請求項14記載の方法。
【請求項18】
(a) ゲル形成モノマー溶液を、開口側部を有する平板形状の空洞内に配置する工程であって、該空洞が、第一および第二の平坦なプラスチックプレート間に事前選択された幅の間隙を有する第一および第二プラスチックプレートを含むエンクロージャ内にある、工程;
(b) スラブゲルを形成するように該モノマー溶液を重合させる工程;ならびに
(c) (b)の間または後のいずれかにおいて、大気圧よりも低い圧力を該空洞にかけて、該大気圧よりも低い圧力を維持するために該エンクロージャを密封する工程
を含む、電気泳動のための試料ウェルを有するスラブゲルを注型するための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2011年2月24日に出願された米国特許仮出願第61/446,347号、2012年1月20日に出願された米国特許仮出願第61/588,830号の恩典を主張するものである。このような両仮出願の内容は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
【0002】
1.本発明の分野
本発明は、スラブゲルにおいて実施される電気泳動の分野に属する。特に、本発明は、スラブゲルが、エンクロージャ内でその中に保持されて、しばしば使える状態になるまでその中で緩衝液中に保存される、スラブゲルカセットに関する。
【背景技術】
【0003】
本発明の背景
2.先行技術の説明
スラブゲルおよびそれが注型されるカセット(すなわち、平坦プレートエンクロージャ)が、梱包または貯蔵目的で緩衝液に浸漬される場合、当該ゲルは、時間経過と共に水を吸収する傾向を有する。この水の取り込みはゲルの膨潤を引き起こし、当該膨潤は、ゲルがカセットのプレートに圧力を加える原因となる。当該圧力は、プレートが外側に撓む原因となり、ゲルの孔径はゲルの端部と比較して中心においてより大きくなる。試料が、ゲル上に充填され、電気泳動が実施される場合、孔径におけるこの変動は、溶質バンドがゲルの中心において、より速く試料から移動する原因となり、「スマイリング」効果として知られるバンドの形状に対する効果を生じ、これは、バンドがゲルを通って、より長い距離を移動するほど増加する。これは、ゲルの読み取りを困難にし、再現性および精度を低下させる。
【0004】
特に変形を受けやすいカセットは、平坦プレートの一方または両方がプラスチック、多くの場合厚さ約2.0mm以下のプラスチックで作製されているものである。プレートの一方または両方がガラスで作製されているカセットも利用可能であるが、両方のプレートがプラスチックであるカセットは、プレートそれ自体の製造の容易さ、および、典型的には音波溶接によって、空洞の厚さを固定する適切なスペーサーを伴ってプレートをそれらの端部に沿ってお互いに封着する容易さを含む、ある特定の利点を提供する。カセットが中に配置され、ゲルの長さに沿って電位を印加するための電極および適切な電気的接続を含む電気泳動「セル」は、多くの場合、特定のサイズのカセットのために設計されており、これが、カセット壁の厚さに上限を課す。多くのカセットは、この理由からも変形を受けやすい。
【0005】
スラブゲルカセットにおいて生じる別の問題は、ゲル上へ試料を充填するために使用されるゲルの上端部に沿ったウェルの形成に関連するものである。これらのウェルは、バーの長手方向の一端部に沿って歯状の突起部、すなわち「歯」を有するバーである、「コーム」として一般的に知られるウェル形成挿入体の使用によって形成される。当該コームは、重合反応が進行するときにウェルを形成するために、歯が空洞中へと延びた状態で、ゲルの注型(重合)の前にカセット上に配置される。理想的には、最終的なゲルが、隣接する歯の間を上方に広がるが、個々の歯の前部または後部とカセット壁との間の領域には広がらないように、各歯の厚さは、ゲルの平坦プレート間の間隙の幅に等しい厚さである。該領域のゲル物質は、カセットからコームを取り外してウェルを露出させるのを困難にし得る。しかしながら、実際の使用では、これらの領域におけるゲル物質の回避は達成するのが困難であり、これらの領域が広いほど回避はより困難となる。コームも、典型的には、その表面での重合を抑制する材料で作製され、したがって、重合したゲルがコームに付着するのを防ぐ。ゲルの付着は、ゲルにおいてウェルを隔てるパーティションに損傷を与えることなくコームを取り外すのを困難にするため、このことは重要である。コーム材料も、コームの歯とカセットプレートとの間のスペースでの重合を抑制するが、これらのスペースが広い場合、または規格外のコームが使用される場合、あるいはそうではなくコームが予想より薄い場合には、重合を抑制する能力が失われる傾向にある。これらのスペースにおける重合は、過剰な重合触媒が存在する場合、またはモノマー溶液中に高濃度で銅が存在する場合にも生じ得る。これらのスペースにおけるゲル物質の形成は、「水かき形成(webbing)」として知られており、試料の充填に影響を及ぼす。
【0006】
電気泳動ゲルの注型における使用のために設計されたコームの開示は、以下の米国特許:Sugimotoら(Fuji Photo Film Co., Ltd.) US 4,883,577,1989年11月28日(特許文献1);Bambeckら US 4,909,918, 1990年3月20日(特許文献2);Chuら(Bio-Rad Laboratories, Inc.) US 5,073,246, 1991年12月17日(特許文献3);Bettencourtら(Bio-Rad Laboratories, Inc.) US 5,164,065, 1992年11月17日(特許文献4);Chuら(Bio-Rad Laboratories, Inc.) US 5,284,565, 1994年2月8日(特許文献5);Steinerら(Pharmacia Biotech) US 5,843,295, 1998年12月1日(特許文献6);Selbyら(The Perkin-Elmer Corporation) US 5,993,628 (1999年11月30日) (特許文献7);Scott (C.B.S. Scientific Co., Inc.) US 6,139,709, 2000年10月31日(特許文献8);Latham (Bio-Rad Laboratories, Inc.) US 7,588,673 B2, 2009年9月15日(特許文献9);およびPerezら(Bio-Rad Laboratories, Inc.) US 7,658,827 B2, 2010年2月9日(特許文献10)に見られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】US 4,883,577
【特許文献2】US 4,909,918
【特許文献3】US 5,073,246
【特許文献4】US 5,164,065
【特許文献5】US 5,284,565
【特許文献6】US 5,843,295
【特許文献7】US 5,993,628
【特許文献8】US 6,139,709
【特許文献9】US 7,588,673
【特許文献10】US 7,658,827
【発明の概要】
【0008】
本開示の概要
上記において列挙した様々な問題に対処するための方法および構造について、以下において説明する。これらの説明におけるスラブゲルは、プラスチック壁で囲まれた当業界において「カセット」と呼ばれるゲルエンクロージャの内部の平板形状の空洞内に保持される。当該空洞は、ゲルを注型するためのモノマー溶液を導入することができる少なくとも1つの開口側部を有する。エンクロージャの構造、またはエンクロージャに連結されるか、さもなければエンクロージャと共に使用される部品の構造は、ゲルを注型および貯蔵している間、空洞の幅、すなわち、2つのプラスチックプレート間の間隙幅に上限寸法を課すのに役立つ。貯蔵の際には、ゲルおよびカセットは、典型的には貯蔵緩衝液と接触した状態に維持され、これが、膨潤問題を悪化させる。上限寸法が空洞幅に課せられることにより、ゲルの膨潤によって空洞の内側で発生した圧力により空洞が拡張する傾向が相殺され、プレート間の間隙幅の増加が完全に抑制または妨げられる。この結果を達成する構造上の特徴は、プラスチックプレート自体、コーム、プレートとコームの両方、またはプレートもしくはコームのどちらか一方の上に取り付けられるかもしくは概して一緒に用いられるさらなる構成要素に属し得る。寸法安定性を達成するための代替手段は、モノマー溶液が空洞内に配置された後、またはゲルが注型された直後に、ゲル空洞内の圧力を下げて、電気泳動実験においてカセットが使用される短期間前まで当該減圧レベルを維持することである。
【0009】
ゲルの膨潤を相殺してそれによりカセットプレートが外側に撓むのを防ぐための、本明細書において開示される様々な構造上の特徴に含まれるのは、カセットへの、またはカセットと共に使用されるコームへの脱着可能な取り付け部品、試料が導入されおよび試料ウェルが存在するゲル上端部に沿って間隙幅を固定する特徴(脱着可能かまたはそうでない)、ならびに電気泳動の際の試料溶質の移動の方向の下流に位置する、ゲル下端部に沿って間隙幅を固定する特徴(脱着可能かまたはそうでない)である。
【0010】
コームの使用に関連する本発明のこれらの態様では、カセット内の電気泳動ゲルに試料ウェルの列を形成するその機能を果たすことに加えて、ゲルの膨潤傾向がプレートに加えられる圧力の原因となる場合にカセットプレートが外側へ撓むのも防ぐコームが、本明細書において開示される。本発明のある特定の態様において、コームは、その歯に加えて、その前面および背面の両方から延びるフック様の突起部を有し、当該突起部は、プレートの上端部においてカセットの2つのプレートとそれぞれ係合する。これらの突起部は、プレートがこれらの端部およびこれらの端部に近接する領域において外側方向に撓むのを防ぐ。当該フック様突起部は、フック状の輪郭または任意の他の形状もしくは輪郭、例えばプレートに係合してそれらが撓みに抵抗するのに役立つような、例えば平坦なタブなどを有する。当該コームは、各側にわずか1つのフック様突起部を有し得るか、またはいずれか一方の側に複数の突起部を有し得る。最良の結果は、概して、当該突起部が、プレートの上端部の中央かまたは各プレートのセンターラインの近くに対称な配置で中央の両側に上端部に沿った位置に係合する場合に達成されるであろう。各側部において、プレートの上端部の長さの一部をその側部に固定するのに十分に幅広い、単一の突起部が使用され得るか、または複数の突起部が、プレートの幅に沿って支持を生じるのに十分に間隔をあけて、コームの所定の側部に具備され得る。コームのどちらかの側部における、コームに沿って等間隔に配置される複数の突起部は、カセットプレートを平行に維持して撓むのを防ぐためのさらにより大きな保証を提供するであろう。当該設計のある特定の態様では、特定のカセットに適応するための他の特徴を備える。異なる高さのプレートを有するカセットの場合、例えば、コームの片側上のフック様の突起部は、カセットプレートの異なる高さに適合するように、もう一方の側のフック様の突起部よりも高いであろう。
【0011】
本発明の他のある特定の態様において、コームおよびカセットは、それらの表面上に、単にコームを挿入および除去することによって容易に係合および脱係合されるインターロック性の特徴を有する。当該インターロックは、一方の表面上にある特徴、例えばタブ、ノブ、または畝などの輪郭と、もう一方の表面上にある相補的な溝の輪郭とによって達成することができ、各輪郭は、合わせて押し付けるかもしくは嵌め込むことによって、または一方を他方の内側へと摺動することによって、当該特徴を係合させる。
【0012】
[本発明1001]
開口側部を有する平板形状の空洞を画定し、第一および第二の平坦なプラスチックプレートと、該プラスチックプレート間に事前選択された幅の間隙を有する状態で該プレートを一緒に固定するための手段とを含む、ゲルエンクロージャ、ならびに
スラブゲルが該空洞内に保持されて該プラスチックプレートに対して外側方向の力を加える場合に、該空洞の内側で発生する圧力に対抗して該事前選択された幅を維持するための脱着可能な手段
を含む、電気泳動スラブゲルを注型するための機器。
[本発明1002]
事前選択された幅を維持するための脱着可能な手段が、ゲルエンクロージャの周りに脱着可能に配置されかつプラスチックプレートの外側表面に接触する外側エンクロージャを含み、該外側エンクロージャが、該ゲルエンクロージャの該プラスチックプレートよりも実質的により高い剛性を有する、本発明1001の機器。
[本発明1003]
事前選択された幅を維持するための脱着可能な手段が、積み重ねられたゲルエンクロージャの最も外側のプラスチックプレートの外側表面に接触しながら該積み重ねられたゲルエンクロージャを収容する外側エンクロージャを含み、該外側エンクロージャが、該ゲルエンクロージャのプラスチックプレートよりも実質的により高い剛性を有する、本発明1001の機器。
[本発明1004]
外側エンクロージャが収縮ラップである、本発明1001または1002の機器。
[本発明1005]
外側エンクロージャが硬質なボックスである、本発明1001または1002の機器。
[本発明1006]
長手方向端部を有する平坦なバーと該長手方向端部に沿った歯状の突起部の列とを含むウェル形成挿入体をさらに含む機器であって、該突起部が平板形状の空洞の内側に嵌合するサイズである、本発明1001の機器。
[本発明1007]
対向する上端部および下端部と対向する側端部とを有する矩形の平板形状の空洞を画定し、第一および第二の平坦なプラスチックプレートと、該プラスチックプレート間に事前選択された幅の間隙を有する状態で該プレートを該空洞の該側端部に沿って一緒に固定するための手段とを含む、ゲルエンクロージャ、ならびに
該プラスチックプレートを該上端部に沿って動かないように保つための該ゲルエンクロージャ上の手段、または該ゲルエンクロージャに取り付け可能な手段であって、それにより、スラブゲルが該空洞内に存在して該プラスチックプレートに対して外側方向の力を加える場合に該空洞の内側で発生する圧力に曝露される際に、該上端部に沿って該事前選択された幅を維持する、手段
を含む、電気泳動スラブゲルを注型するための機器。
[本発明1008]
長手方向端部を有する平坦なバーと該長手方向端部に沿った歯状の突起部の列とを含むウェル形成挿入体をさらに含む機器であって、該突起部が平板形状の空洞の内側に嵌合するサイズである、本発明1007の機器。
[本発明1009]
平坦なバーが前面および背面を有し、かつプラスチックプレートを上端部に沿って動かないように保つための手段が、該前面から前方に突出している第一フック手段と該背面から後方に突出している第二フック手段とを含み、該第一および第二フック手段が、それぞれ、第一および第二プラスチックプレートに掛止するための形状である、本発明1008の機器。
[本発明1010]
プラスチックプレートを上端部に沿って動かないように保つための手段が、ウェル形成挿入体に脱着可能に連結することができる取り付け部品を含み、該取り付け部品が該ウェル形成挿入体に連結される場合に、第一フック手段が第一プラスチックプレートに掛止してかつ第二フック手段が第二プラスチックプレートに掛止するような方向を向いている第一および第二フック手段を該取り付け部品が含む、本発明1008の機器。
[本発明1011]
第一フック手段および第二フック手段のうちの一方が、歯状突起部の列に平行なタブの列である、本発明1009または1010の機器。
[本発明1012]
第一フック手段が、歯状突起部の列に平行な第一のタブの列であり、かつ第二フック手段が、歯状突起部の列に平行な第二のタブの列である、本発明1009または1010の機器。
[本発明1013]
第一および第二プラスチックプレートが上端部を有し、かつ該第一および第二プラスチックプレートが鉛直である場合に、該第二プラスチックプレートの該上端部が該第一プラスチックプレートの該上端部よりも高く、かつ第二フック手段が第一フック手段よりも高い、本発明1009または1010の機器。
[本発明1014]
プラスチックプレートを上端部に沿って動かないように保つための手段が、ウェル形成挿入体およびプレートのうちの一方の上にある第一突出部と、該突出部に面する位置で該ウェル形成挿入体および該プレートのうちの他方の上にあり、かつ該第一突出部の輪郭に対して相補的な輪郭を有する第一凹みと、第二突出部と、相補的な輪郭の第二凹みとを含み、該第一突出部および該第一凹みが該ウェル形成挿入体の一方の側部を該プラスチックプレートの一方に固定し、かつ該第二突出部および該第二凹みが該ウェル形成挿入体の反対側の側部を該プラスチックプレートの他方に固定する、本発明1008の機器。
[本発明1015]
突出部が畝であり、かつ凹みが溝であり、すべてが台形の輪郭を有する、本発明1009の機器。
[本発明1016]
前面、背面、および長手方向端部を有する平坦なバー、
該長手方向端部に沿った歯状の突起部の列、
該前面から前方に突出している第一フック手段、ならびに
該背面から後方に突出している第二フック手段
を含む、電気泳動スラブゲルが平行で平坦な注型プレートの間で注型される際に該ゲルに試料ウェルの列を形成するために該プレートの対の間へ挿入するための装置であって、該第一および第二フック手段が、該歯状突起部が該注型プレートの間にある状態で該注型プレートをお互いから一定の距離をおいてお互いに平行に保つための形状である、装置。
[本発明1017]
第一フック手段および第二フック手段のうちの一方が、前面に平行でありかつ該前面から均等に間隔をあけて配置されたタブの列である、本発明1016の装置。
[本発明1018]
第一フック手段が、前面に平行でありかつ該前面から均等に間隔をあけて配置された第一のタブの列であり、第二フック手段が、背面に平行でありかつ該背面から均等に間隔をあけて配置された第二のタブの列である、本発明1016の装置。
[本発明1019]
前面および背面が鉛直である場合、第二フック手段が第一フック手段よりも高い、本発明1016の装置。
[本発明1020]
(a)ゲル形成モノマー溶液を、開口側部を有する平板形状の空洞内に配置する工程であって、該空洞が、第一および第二の平坦なプラスチックプレート間に事前選択された幅の間隙を有する第一および第二プラスチックプレートを含むエンクロージャ内にある、工程;
(b)スラブゲルを形成するように該モノマー溶液を重合させる工程;ならびに
(c)(b)の間または後のいずれかにおいて、スラブモノマー溶液または該ゲルによって該空洞の内側で発生する圧力によって生じる該プラスチックプレートに対する任意の外側方向の力に対抗するために該プラスチックプレートに力をかける工程
を含む、電気泳動のための試料ウェルを有するスラブゲルを注型するための方法。
[本発明1021]
工程(c)が、ゲルエンクロージャを、プラスチックプレートの外側表面に接触しかつ該プラスチックプレートよりも実質的により硬質である外側エンクロージャ内に配置する工程を含む、本発明1020の方法。
[本発明1022]
工程(c)が、積み重ねられたゲルエンクロージャを、該積み重ねられたゲルエンクロージャの最も外側のプラスチックプレートの外側表面に接触しかつ該プラスチックプレートよりも実質的により硬質である外側エンクロージャ内に配置する工程を含む、本発明1020の方法。
[本発明1023]
外側エンクロージャが収縮ラップである、本発明1021または1022の方法。
[本発明1024]
外側エンクロージャが硬質なボックスである、本発明1021または1022の方法。
[本発明1025]
工程(c)が、プラスチックプレートの外側表面上の、空洞の開口側部に近接する位置でプラスチックプレートを係合する工程を含む、本発明1020の方法。
[本発明1026]
工程(b)の前にウェル形成挿入体を平板形状の空洞の開口側部に挿入する工程をさらに含む方法であって、該ウェル形成挿入体が、長手方向端部を有する平坦なバーと、該長手方向端部に沿った、該平板形状の空洞の内側に嵌合するサイズの歯状突起部の列とを含む、本発明1020の方法。
[本発明1027]
平坦なバーが、前面と、背面と、該前面から前方に突出している第一フック手段と、該背面から後方に突出している第二フック手段とを有し、工程(c)が、該第一フック手段が第一プラスチックプレートに掛止してかつ該第二フックが第二プラスチックプレートに掛止するようにウェル形成挿入体を挿入する工程を含む、本発明1026の方法。
[本発明1028]
平坦なバーが、前面と、背面と、該前面およびプレートのうちの一方の上にある第一突出部と、該第一突出部に面する位置で該前面および該プレートのうちの他方の上にあり、かつ該第一突出部とインターロックする輪郭を有する第一凹みと、該背面および該プレートのうちの一方の上にある第二突出部と、該第二突出部に面する位置で該背面および該プレートのうちの他方の上にあり、かつ該第二突出部とインターロックする輪郭を有する第二凹みとを有する、本発明1026の方法。
[本発明1029]
ウェル形成挿入体が前記のように挿入される場合に第一フック手段が第一プラスチックプレートに掛止してかつ第二フック手段が第二プラスチックプレートに掛止するような方向を向いている第一および第二フック手段を含む取り付け部品を該ウェル形成挿入体に連結する工程をさらに含む、本発明1026の方法。
[本発明1030]
(a)ゲル形成モノマー溶液を、開口側部を有する平板形状の空洞内に配置する工程であって、該空洞が、第一および第二の平坦なプラスチックプレート間に事前選択された幅の間隙を有する第一および第二プラスチックプレートを含むエンクロージャ内にある、工程;
(b)スラブゲルを形成するように該モノマー溶液を重合させる工程;ならびに
(c)(b)の間または後のいずれかにおいて、大気圧よりも低い圧力を該空洞にかけて、該大気圧よりも低い圧力を維持するために該エンクロージャを密封する工程
を含む、電気泳動のための試料ウェルを有するスラブゲルを注型するための方法。
他の特徴および変形例は、当業者には明らであろうし、いくつかについては下記に示し説明する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】接触部分を露出させるためにお互いに離されている、本発明の一態様の例示としてのコームとスラブゲルカセットとの組み合わせの斜視図。
図2図1のコームの正面図。
図3図1のコームの上面図。
図4図1のコームの端面図。
図5図4と同じコームの図であるが、カセットの前部プレートおよび後部プレート上の適切な位置に示されている図。
図6図1のコームに対する代替案として一緒に機能するコームおよび取り付け部品の端面図。
図7】カセット上の適切な位置にある図6のコームおよび取り付け部品の端面図。
図8】本発明のさらなる態様の例示としての、上述の図とは異なるコームおよびスラブゲルカセットの組み合わせの斜視図。当該コームおよびカセットは、接触部分を露出させるためにお互いに離されている。
図9図8の線9-9に沿った、図8のコームおよびカセットの断面図。
図10】お互いに離された、スラブゲルカセットと外側強化エンクロージャとの組み合わせの斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
選択された態様の詳細な説明
特許請求の範囲によって包含される装置および方法は、本明細書において、様々な態様および実施が可能であるが、全体的な本発明の十分な理解は、特定の態様の説明から容易に得られるであろう。そのような態様のいくつかについて、以下において説明し、それらの一部を図に示す。
【0015】
上述のように、そのような態様の1つは、カセットのプラスチックプレートの上端部に係合するための特徴を備える特別な構造のコームである。図1は、カセット内でのゲルの注型の後に、コーム11が取り外されたスラブゲルカセット12の上方に描かれたコーム11を表している。コーム11およびカセット12の両方は、それらが使用されている際にそうであるように、鉛直方向を向いている。カセット12は、2つのフラットプレートから形成されており、プレートの一方は、前部プレート13であり、もう一方は後部プレート14であり、これらはスペーサー15、16によってこれらの両側端部において封着ならびに間隔をあけて配置されている。当該両スペーサー、およびプレートを連結し、それらをそれらの端部に沿って封着するための方法は、当技術分野において公知であり、概してカセットおよびスラブゲルエンクロージャにとって従来的である。スペーサー15、16は、2つのプレートの間に間隙を設け、当該間隙は、ゲル空洞を形成し、当該空洞の上側および下側の境界は、ゲルの上端および底端をそれぞれ上側および下側緩衝液を介して陰極および陽極に曝露するために、開口されている。ゲルの上端部と接触している上側緩衝液の保持を容易にするために、スラブゲルカセットでは一般的であるように、後部プレート14は前部プレート13より高くなっている。後部プレートの上端部17はアーチ形であり、その一方で、前部プレートの上端部18は水平に真っ直ぐである。ゲルは、破線で示されており、その上端部に沿って、試料ウェルとしての役割を果たす一連の矩形の窪み19を有しており、隣接するウェルは、ゲルの一部として注型されるパーティション21によって隔てられている。従来の方法において、試料ウェルは、コーム11の歯22によって形成される。図示された歯の個数、したがって、試料ウェルの個数は12個であるが、これは一例に過ぎず、当該個数は幅広く変えることができる。
【0016】
コーム11は、カセットの後部プレート14のアーチ形の上端部17に一致するアーチ形の上端部24を有するバー23である。6個のタブ25の列は、前部のフック様突起部としての役割を果たすために、当該バーの前面26から前方に、前面26に対して平行に延びており、かつ前面26から均等に間隔をあけて配置されている。同様に、2個のタブ27は、後部のフック様突起部としての役割を果たすために、当該バーの背面(見えない)から後方に、背面に対して平行に延びており、かつ背面から均等に間隔をあけて配置されている。当該コームは、図2中の正面図において、ならびに図3中の上面図においても示されている。背面28は、図3に示されている。
【0017】
コームの端面図が図4に示されている。前部タブ25と後部タブ27との間の高さの差が、図4ではより明確に視認できる。8個のタブのそれぞれは、平坦であり、かつコームの前面26および背面27に対して平行である。このように、当該タブは、カセットの2つのプレートを収容するための間隙29、30を残す。図5は、前部プレート13および後部プレート14が示された状態で、カセット上の適切な位置にあるコームを示している。
【0018】
図1〜5のコームの変形例が、図6および7に示されている。この変形例において、コームおよびフックの組み合わせは、2つの部品に分割されており、図6では別々に示されており、図7では一緒にカセット上の適切な位置に示されている。下方に延びる歯32を有するコーム31自体は、第一部品を構成し、前部タブ34および後部タブ35を有する取り付け部品33は、第二部品を構成する。取り付け部品33は、タブ34、35がコームの前面および背面の下方に延びた状態で、コーム31の上部に載り、当該タブ34、35は、コームおよびカセットの両方を収容するのに十分に広く間隔をあけて配置されている。図7に、コーム31、取り付け部品33、およびカセット36の上端部が、組み立てられた状態で示されている。
【0019】
コームは、成形可能な材料または機械加工可能な材料で作製することができ、そのような材料の例は、ポリカーボネート、アクリル樹脂、およびポリテトラフルオロエチレンである。間隙29、30は、密着嵌合だが、摩擦嵌合ではなくむしろ緩嵌合を形成するようなサイズである。適切な嵌合は、プレート13、14の上端部に被せるようにタブを手動で配置でき、かつゲルが注型された後にはコームを取り外せるように、十分に緩いであろう。ただし、当該嵌合は、膨潤ゲル由来の圧力でのプレートの著しい撓みを防ぐのに十分な密着嵌合である。
【0020】
前述の図のコームとカセットとの組み合わせに対するさらなる代替案が、図8および9に示されている。図1のように、図8は、スラブゲルカセット42の上方に描かれたコーム41を表しており、当該コームは、ゲル形成溶液がゲルへと重合される前に当該スラブゲルカセット中へと下げられる。コームの外側端部43、44は、カセット42の側面側部に載るような形状であり、特にこの例では、スペーサーの上端45、46の上に載り、その一方で、コームの歯47は、スペーサーと前部および後部プレート49、50との間のゲル空洞中へと延びる。前部プレートおよび後部プレートのそれぞれは、内側に面している表面上に溝51、52、53、54を有しており、コーム41は、断面が溝51、52、53、54に対して相補的な輪郭を有する畝55、56、57、58を有しており、それらのコーム表面上の位置は、溝の位置にちょうど面している。コームがカセットへと下げられると、畝が溝の中へと溝に沿って摺動され、歯47は畝および溝の下方へと延びるであろう。この結果は、溝の開口端の外に摺動することによって以外で、さねが溝から出るのを防ぐアンダーカットを有するさねはぎ構造である。畝および溝は、歯より高い位置で終わっており、したがって、平坦な前面および背面を有するように、空洞中でゲルを注型することができる。図9の断面図に示されているように、畝および溝は台形の輪郭を有しており、それにより、それらがインターロックされ、それによってカセットの前部プレート49と後部プレート50との間の距離が固定され、ゲルがそれらの間で膨潤したときに、これらのプレートが上端部に沿って外側に撓むのを防ぐ。
【0021】
2つの畝(またはアンダーカットを有するさね)は、対応する溝がカセットのプレート上の相補的な位置を占めるように、コームの各表面上に配置されるが、個数および配置は変えることができ、ならびに個数および配置は、それらがプレートの外側への撓みを防ぐ限り重要ではない。コームの各側部における単一の畝と、カセットの各プレート上における対応して配置された単一の溝は、各側部における3対以上の畝および溝の対で成し得るのと同じ結果を達成し得る。必ずしも両側部に同じ個数が必要なわけではない。さらなる代替案として、畝または他の突出部がカセットプレート上にありかつ溝がコーム上にあってもよい。台形の輪郭も、インターロック機能を果たす他の任意の輪郭に換えることができる。インターロック性の輪郭は、概して、当業者に容易に明らかとなるであろう。
【0022】
プラスチックプレートが外側に撓むのを防ぐための他の選択肢は、プレート自体の構造に属するものである。そのような選択肢の1つは、慣習的に使用されているプラスチックよりも硬質な複合材料を使用することである。先行技術において最も一般的に使用されるプラスチックはポリカーボネートであり、上述したように、これらのプレートの一方または両方のプレートあたりの厚さは、典型的には、2.0mm未満、最も一般的には約1.8mm〜約1.9mmである。より高い剛性は、実質的に、より厚いプレート、例えば約3.0mm以上、または約3.0mm〜約10.0mm、または約3.0mm〜約5.0mmのプレートなどを使用することによって達成することができる。別の選択肢は、強化プラスチック、例えばガラス充填プラスチックなどを使用することである。その例は、約10%〜約30%のガラスを含有するガラス充填ポリカーボネートシートであり、当該シートの厚さは、非充填プラスチックで形成されたカセットの厚さより、幾分、例えば1.0mm〜3.00mmまたはそれ以上厚い。第三の選択肢は、構造強化のためにリブを付けられたプラスチックプレートを使用することである。プレート外側表面上のリブ、好ましくはカセット空洞の開口端部に対して平行に延びるリブは、プレートが外側に撓む任意の傾向を低減するか排除し得る。任意の個数のそのようなリブを使用することができ、お互いに平行な2つ以上のリブは、特に有効であり得る。2つのプレート間において内部を支持するリブも使用することができる。そのようなリブは、電極緩衝液へのアクセスを可能にするためにウェブ間に開口部を有する、ゲル空洞の上端部、底端部、またはその両方に沿って間隔をあけて配置されたウェブの形態を取り得る。
【0023】
さらなる選択肢は、カセットを形成するプラスチックプレートの外側表面に取り付けられるかまたは別の方法で圧力を加えるような外部ケージ、バー、クランプ、プレートなどの使用に関連するものである。これらの外部固定具は、ゲルの注型の間、貯蔵および出荷の間、またはその両方の際に適切な位置に取り付けるか、適用するか、または保持させることができ、かつ電気泳動実験においてカセットを使用する前にすぐに取り外すことができる。両方のカセットプレートの外壁に接触しながらカセットに被さるように摺動させるかまたは他の方法により配置することができ、かつカセットを使用する前に容易に取り外すことができるような、硬質な材料、例えば、金属、木材、極厚プラスチックなどのボックス、グリッド、またはケージを使用することができる。図10は、カセット62の上方に描かれたそのようなボックス61を表している。ボックス61は中空であり、かつ上部および底部が開口していて、使用者または製造者が当該ボックスをカセットに被せるように摺動することを可能にする。ボックスの中空の中央部63は、カセットの2つの平坦なプラスチックプレートに接触するように長くかつ狭く、当該ボックスの壁は、カセットの平坦なプレートの任意の外側への撓みを防ぐのに十分に硬質である。同様の結果は、収縮ラップタイプのエンクロージャ、すなわち、最初にラップを伸張させるために加熱し、カセットに被せて配置した後、当該ラップを元の拡張されていない状態に戻らせるために再加熱することで、カセットを密閉するような厚いプラスチックフィルムによっても達成することができる。
【0024】
さらなる選択肢は、ゲルが注型されてカセットが保存される条件に関連するものである。ゲルは、例えば、大気圧よりも低い圧力下で注型することができ、ならびに、ゲルが大気圧よりも低い圧力下にある状態で、気密性エンクロージャ中に密封することができる。あるいは、ゲルを大気圧で注型し、次いで、大気圧よりも低い圧力まで圧力を下げた後に密封することもできる。どちらの場合でも、密封は、ゲルの著しい膨潤が生じる前の任意の時に行うことができる。次いで、密封された後のカセットは、大気圧下で貯蔵することができる。密封されたカセットを囲む大気圧と、密封物の内側における大気圧よりも低い圧力との圧力差が、ゲルの膨潤によるカセット内での任意の圧力上昇を相殺するであろう。当該気密性エンクロージャは、カセットに被せるように収縮包装することができる。好適な、大気圧よりも低い圧力は、約10psi(絶対圧)(69キロパスカル)以下、または約0.5psi〜約10psi(3.5〜69キロパスカル)、または約0.5psi〜約5psi(3.5〜35キロパスカル)である。
【0025】
外側方向へのプレートの撓みは、プレートの底端部において、すなわち、試料が充填される端部の反対側の端部においても防ぐことができる。この領域におけるカセットの撓みおよび反りは、カセットの上部付近の撓みと同じ理由から生じることがあり、とりわけ、ゲルを下側緩衝液に曝露するためにカセットの底部が開口されている場合に生じ得る。上端部またはその付近での撓みを減じるか排除する手段は、フック様突起部を有するコームを除いて、下端部またはその付近での撓みを防ぐためにも適用することができる。
【0026】
本明細書に添付の特許請求の範囲において、用語「1つの(「a」または「an」)」は、「1つまたは複数」を意味することが意図される。用語「含む(「comprise」)」およびその変形、例えば、「含む(「comprises」)」および「含む(「comprising」)」などは、工程または要素の列挙の前にある場合、さらなる工程または要素の追加が任意でありかつ排除されないことを意味することが意図される。本明細書で引用される全ての特許、特許出願、および他の刊行文献は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。本明細書において引用された任意の参考資料または一般的な任意の先行技術と、本明細書の明確な教示との間における任意の矛盾は、本明細書における教示を優先して解決されることが意図される。このことは、単語または語句に対する当技術分野において理解されている定義と、当該単語または語句に対して本明細書において明確に提供された定義との間における任意の矛盾を包含する。
図1
図2
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