(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5945304
(24)【登録日】2016年6月3日
(45)【発行日】2016年7月5日
(54)【発明の名称】締付工具
(51)【国際特許分類】
B25B 23/144 20060101AFI20160621BHJP
【FI】
B25B23/144
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-167731(P2014-167731)
(22)【出願日】2014年8月20日
(65)【公開番号】特開2016-43427(P2016-43427A)
(43)【公開日】2016年4月4日
【審査請求日】2015年6月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000151690
【氏名又は名称】株式会社東日製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100067541
【弁理士】
【氏名又は名称】岸田 正行
(74)【代理人】
【識別番号】100103506
【弁理士】
【氏名又は名称】高野 弘晋
(72)【発明者】
【氏名】横山 哲也
(72)【発明者】
【氏名】山本 康弘
(72)【発明者】
【氏名】緒方 智博
(72)【発明者】
【氏名】高久 悟次
【審査官】
亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−283455(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2007/0062310(US,A1)
【文献】
特開2002−054999(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2002/0152849(US,A1)
【文献】
特開2007−253322(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25B 23/00 − 23/144
B25B 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
締付トルクが設定トルク値に達してトルクリミッターが作動すると、トルクリミッター作動検知部が出力する検知信号を取得した電子回路部から締付完了信号を出力する締付工具であって、
操作者が締付作業の際に把持する把持部が後端部に設けられたハンドル部と、
前記ハンドル部の前端部に設けられたヘッド部と、
前記電子回路部を覆うケースと、
前記ケースの外面に取り付けられており、光エネルギーを電気エネルギーに変換し、少なくとも前記トルクリミッターの作動時に、前記電子回路部に給電する光電変換素子と、
前記光電変換素子が生成した電力のうち、前記電子回路部で使用されない余剰電力を蓄電する蓄電部と、を有し、
前記ケースは、前記ハンドル部の外面であって、前記把持部よりも前記ヘッド部側の領域に取り付けられていることを特徴とする締付工具。
【請求項2】
締付トルクが設定トルク値に達してトルクリミッターが作動すると、トルクリミッター作動検知部が出力する検知信号を取得した電子回路部から締付完了信号を出力する締付工具であって、
少なくとも前記トルクリミッターの作動時に、前記電子回路部に給電する発電部を有し、
前記発電部は、ヨークの一対の磁極に与えるN極とS極の磁極を磁極切り替え手段により切り替えることで、前記ヨークに巻回した誘導コイルから起電力を発生させる電磁誘導方式であって、前記トルクリミッターの作動時における機械的な動作を利用して、前記磁極切り替え手段の切り替え駆動を行うことを特徴とする締付工具。
【請求項3】
締付トルクが設定トルク値に達してトルクリミッターが作動すると、トルクリミッター作動検知部が出力する検知信号を取得した電子回路部から締付完了信号を出力する締付工具であって、
少なくとも前記トルクリミッターの作動時に、前記電子回路部に給電する発電部を有し、
前記発電部は、機械エネルギーを電気エネルギーに変換する圧電素子であって、前記トルクリミッターの作動時における機械的な動作を利用して、前記圧電素子に衝撃を与えることを特徴とする締付工具。
【請求項4】
締付トルクが設定トルク値に達してトルクリミッターが作動すると、トルクリミッター作動検知部が出力する検知信号を取得した電子回路部から締付完了信号を出力する締付工具であって、
少なくとも前記トルクリミッターの作動時に、前記電子回路部に給電する発電部を有し、
前記発電部は、温度差を電気エネルギーに変換する熱電変換素子であって、操作者が締付作業の際に把持する把持部に設けたことを特徴とする締付工具。
【請求項5】
前記トルクリミッターの作動時における機械的な動作は、操作者が把持し、締付方向に沿って移動する第1部材と、締結部材に一体的に接続する第2部材との間の動作であることを特徴とする請求項2または3に記載の締付工具。
【請求項6】
前記発電部で発電した余剰電力を蓄電する蓄電部を有することを特徴とする請求項2から5のいずれか1つに記載の締付工具。
【請求項7】
前記トルクリミッター作動検知部は、前記電子回路部に実装され、前記ヘッド部に対して前記ハンドル部が締付方向に移動したときに、前記ヘッド部に固定されたピンによって作動するスイッチであることを特徴とする請求項1に記載の締付工具。
【請求項8】
前記締付工具は、トルクレンチまたはトルクドライバーであることを特徴とする請求項1から7のいずれか1つに記載の締付工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電装置を搭載したトルクレンチ等の締付工具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子回路を搭載したトルクレンチ等の締付工具において、ボルト等の締結部材を締め付ける際、締付トルクが設定トルク値に達すると、締め付けトルク値等のデータを無線送信し、当該締結部材の締め付けが終了したことを報知するようにしたものが提供されている(特許文献1)。
【0003】
このような締付工具には、無線送信部を含む電子回路に対する電源供給を行う電源電池(バッテリー)が交換可能に装備される。
【0004】
締付工具の供給電源をバッテリーとする場合、バッテリーの残量が少ない状態で使用を開始した場合、使用の途中でバッテリー切れとなっているのに気付かずに使用するおそれがある。この場合、締付データが送信されなくなる。
【0005】
また、バッテリー残量がなくなった場合、あるいはバッテリー残量が少なくなった場合には、バッテリーの交換作業を要し、あるいは充電のために充電ケーブルを接続するといった作業を要する。このような作業は、例えば機械の組み立て工場等において日常のメンテナンスの一環として行われている。
【0006】
一方、バッテリーの交換方式の締付工具にあっては、電池接点を要するため、接触不良を招きやすく、特にトルクレンチにあっては使用時に大きな衝撃が加わるため、電池接点の不具合等を招きやすい。また、充電式バッテリーを電源とする締付工具にあっては、充電用ジャックの破損、充電ケーブルの断線が避けられない。
【0007】
したがって、電源部をバッテリー方式とする締付工具にあっては、日常のメンテナンス管理が重要となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−307670号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、電池を不要として日常のメインテナンスフリーを実現しつつ、電子回路への給電を可能とするトルクレンチ等の締付工具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明の課題を解決する締付工具の構成は、締付トルクが設定トルク値に達してトルクリミッターが作動すると、トルクリミッター作動検知部が出力する検知信号を取得した電子回路部から締付完了信号を出力する締付工具であって、少なくとも前記トルクリミッターの作動時に、前記電子回路部に給電する発電部を有することを特徴とする。
(2)上記(1)の構成において、
締付工具は、操作者が締付作業の際に把持する把持部が後端部に設けられたハンドル部と、前記ハンドル部の前端部に設けられたヘッド部と、前記電子回路部を覆うケースと、前記ケースの外面に取り付けられており、光エネルギーを電気エネルギーに変換する
、前記発電部としての光電変換素子
と、光電変換素子が生成した電力のうち、前記電子回路部で使用されない余剰電力を蓄電する蓄電部
とを有する。
前記ケースは、前記ハンドル部の外面であって、前記把持部よりも前記ヘッド部側の領域に取り付けられている。
(3)上記(1)の構成において、前記発電部は、ヨークの一対の磁極に与えるN極とS極の磁極を磁極切り替え手段により切り替えることで、前記ヨークに巻回した誘導コイルから起電力を発生させる電磁誘導方式であって、前記トルクリミッターの作動時における機械的な動作を利用して、前記磁極切り替え手段の切り替え駆動を行う。
(4)上記(1)の構成において、前記発電部は、機械エネルギーを電気エネルギーに変換する圧電素子であって、前記トルクリミッターの作動時における機械的な動作を利用して、前記圧電素子に衝撃を与える。
(5)上記(1)の構成において、前記発電部は、温度差を電気エネルギーに変換する熱電変換素子であって、操作者が締付作業の際に把持する把持部に設けた。
(6)上記(3),(4)の構成において、前記トルクリミッターの作動時における機械的な動作は、操作者が把持し、締付方向に沿って移動する第1部材と、締結部材に一体的に接続する第2部材との間の動作である。
(7)上記(3)〜(6)のいずれかの構成において、前記発電部で発電した余剰電力を蓄電する蓄電部を有する。
(8)上記(1)の構成において、前記トルクリミッター作動検知部は、前記電子回路部に実装され、前記ヘッド部に対して前記ハンドル部が締付方向に移動したときに、前記ヘッド部に固定されたピンによって作動するスイッチである。
(
9)上記(
1)〜(
8)のいずれかの構成において、前記締付工具は、トルクレンチまたはトルクドライバーである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、バッテリーや外部電源からの電力供給が不要となり、トルクレンチやトルクドライバーなどの締付工具に対する日常のメンテナンス管理が大幅に軽減される。特に、電池の接点不良、充電ジャックの破損、充電ンケーブルの断線が無くなる。
【0012】
また、バッテリーの不要に伴い、従来バッテリーを収納していた電子回路のケースを小型化することが可能となり、トルクレンチ等の締付工具のコンパクト化を図ることができる。
【0013】
請求項
1に係る発明では、工場内の照明光でも電力の供給が可能となる。
【0014】
請求項
2、3に係る発明では、トルクリミッターの作動を利用して発電部の駆動を行える。このため、締付完了の際に電力が発生し、電子回路に給電できるので、締付完了信号の出力に支障をきたすことがない。
【0015】
請求項
4に係る発明によれば、操作者の熱エネルギーを有効に利用して発電を行うことができる。
【0016】
請求項
5に係る発明によれば、トグル機構などを利用することができる。
【0017】
請求項
1、6に係る発明によれば、発電部にトラブルが生じる緊急時において、蓄電部の電力により電子回路部を駆動することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の第1の実施形態を示すトルクレンチの概略図で、(A)は上面図、(B)は正面図、(C)はトルクリミッターの概略図である。
【
図2】
図1に示すトルクレンチの発電部と電子回路との回路ブロック図。
【
図3】本発明の第2の実施形態を示すトルクレンチの概略図で、(A)は上面図、(B)は正面図、(C)はトルクリミッターの概略図である。
【
図4】
図3に示すトルクレンチの発電部と電子回路との回路ブロック図。
【
図6】本発明の第3の実施形態を示すトルクレンチの概略図で、(A)は上面図、(B)は正面図、(C)はトルクリミッターの概略図である。
【
図7】
図6に示すトルクレンチの発電部と電子回路との回路ブロック図。
【
図8】本発明の第4の実施形態を示すトルクレンチの概略図で、(A)は上面図、(B)は正面図である。
【
図9】
図8に示すトルクレンチの発電部と電子回路との回路ブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を図面に示す実施形態に基づいて説明する。
第1の実施形態
図1は本発明の締結工具をトルクレンチに適用した第1の実施形態を示し、(A)は上面図、(B)は正面図、(C)はトルクリミッターの概略図、
図2は
図1に示すトルクレンチの発電部と電子回路との回路ブロック図である。
【0020】
トルクレンチ1は、筒形状のハンドル部11と、角軸部12aを有するヘッド部12と、トグル機構のトルクリミッター13と、電子回路14と、電子回路14を覆う基板ケース15と、通信アンテナ16と、光発電部17とを有する。ハンドル部11の後端部にはグリップ部Gが設けられ、操作者はこのグリップ部Gの所定位置を握って締付操作を行う。
【0021】
トルクレンチ1は、ハンドル部(第1部材)11の前端部にヘッド部(第2部材)12のレバー部12bが差し込まれ、支軸12cを介してヘッド部12をハンドル部11に揺動自在に取り付ける。ヘッド部12の角軸部12aには不図示のソケットが装着され、前記ソケットがボルト等の締結部材に嵌合される。
【0022】
電子回路14の基板14aは、ハンドル部11の外周面に固定される。基板14aには、トルクリミッター作動検知スイッチ100が実装される。また、基板14aには、光発電部17で発電した電力を所定電圧に変換する電力変換部101と、電力変換部101で変換された電力に基づいて電子回路14の全体を制御するCPUなどのプロセッサー102、通信部103を実装し、通信部
103に通信アンテナ16が接続される。なお、電力変換部101で電力変換した余剰電力は、二次電池またはキャパシタなどの蓄電部104にチャージして、光発電部17の故障時における緊急電源としてもよい。
【0023】
プロセッサー
102は、トルクリミッター作動検知スイッチ100から作動検知信号を取得すると、締結完了信号を通信部103に出力する。通信部103は、通信アンテナ16を介して、無線により不図示の管理装置に締結完了信号を送信する。
【0024】
光発電部17は、電子回路14の駆動電源をなす。光発電部は、光エネルギーを電気エネルギーに変換するソーラーセル等の光発電素子を例えば基板ケース15の上面に取り付けた構成とすることができる。光発電素子は、屋内の照明でも発電可能な特性を備え、例えば置時計などの電源として用いられるものを例示できる。
【0025】
トルクリミッター13は、レバー部12bと、トグルレスト13aと、トグルレスト13aとの間に連結されたトグル13bと、トグルレスト13aをヘッド部12側に向けて付勢するトルク値調整バネ13cと、トルク値調整バネ13cの後端側に当接し、軸方向に移動可能な不図示のトルク値調整部材とを有する。
【0026】
図1(c)はトルクリミッター13の非作動状態を示し、ハンドル部11を握って矢印F方向に力を加えると、ハンドル部11からトグルレスト13a、トグル13b、レバー部12b、角軸部12aに締付力が伝達され、ボルト等の締結部材に対して締め付けが行われる。締付トルクが設定トルク値に達すると、ヘッド部12は回転せず、ハンドル部11が支軸12cを中心に回転を始める。そうすると、トグル13bにはハンドル
部11の軸方向に沿って、トルク値調整バネ13cの付勢力に抗する分力が作用し、トグルレスト13aが後方に移動してトグル動作
が行われる。その際、トグルレスト13aとレバー部12bとの剛体的な連結が解除され、ハンドル部11の内周面がレバー部12bに衝突する。この一連の動作により、ユーザは締結部材を設定トルク値で締め付けたことを認識する。
【0027】
ハンドル部11には、長穴部11aが形成され、レバー部12bに植設したトグル作動検知ピン13dが長穴部11aを貫通し、基板14aに設けたトルクリミッター作動検知スイッチ100を作動可能とする。
【0028】
本実施形態によれば、光発電部17は、工場などの屋内において、照明光を受光していると発電する。したがって、締結部材の締め付けトルクが設定トルクとなり、トルクリミッター作動検知スイッチ100の作動時において、電子回路14は給電されている。このため、電子回路14は、締付完了信号を送信することができる。
【0029】
本実施形態において、トルクリミッター作動検知スイッチ100を含め、機械的な構成のトルクリミッター13の作動を検出してプロセッサー102に締付完了信号を出力する。しかし、本発明は締付完了信号の検出をこのような機械的な構成に限定されるものではない。例えば、
図3に示すように、レバー部12bにひずみゲージ105を貼り付け、締付トルク値を測定可能とした構成において、設定トルク値に達した時の特徴的な出力を検出し、これを締付完了信号とすることもできる。また、基板14aに角速度センサを実装し、トルクリミッター13が作動した時に生じるハンドル部11の特徴的な回転動作を角速度センサが検出し、これを締付完了信号とすることもできる。
【0030】
第2の実施形態
図3、
図4および
図5は第2の実施形態を示す。
【0031】
図3は本発明の締結工具をトルクレンチに適用した第2の実施形態を示し、(A)は上面図、(B)は正面図、(C)はトルクリミッターの概略図、
図4は
図3に示すトルクレンチの発電部と電子回路との回路ブロック図、
図5は電磁誘導発電部の発電原理を説明する図である。
【0032】
第2の実施形態は、発電部として電磁誘導発電部18を設けた点が第1の実施形態と異なる。なお、
図3および
図4において、
図1および
図2に示した部材と同じ部材には同じ符号を付してその説明を省略する。
【0033】
電磁誘導発電部18は、ハンドル部11に固定されている基板14aに取り付けられる。レバー部12bに設けたトグル作動検知ピン13dと、ハンドル部11は、トルクリミッター13の作動時において相対移動する。
【0034】
本実施形態では、トルクリミッター13の作動時におけるトグル作動検知ピン13dと基板14aとの相対移動により、電磁誘導発電部18の発電を行う。
【0035】
図5に示すように、電磁誘導発電部18は、ヨーク181と、誘導コイル184と、ロータ185と、第1永久磁石板186と、第2永久磁石板187を有する。ヨーク181は、不図示の固定部材に固定され、誘導コイル184が巻回される。ロータ185は、前記固定部材に回転自在に軸支され、第1永久磁石板186と第2永久磁石板187が対向してロータ185に固定される。
【0036】
第1永久磁石板186は両端部の磁極がともにN極に着磁される。第2永久磁石板187は両端部の磁極がともにS極に着磁される。
【0037】
ヨーク181の対向する第1磁極部182と第2磁極部183とを跨ぐように、第1永久磁石板186と第2永久磁石板187が配置される。本実施形態において、第2永久磁石板187をバネ188により付勢し、ロータ185を時計回り方向にバネ付勢する。また、トグル作動検知ピン13dは、第1永久磁石板
186と当接する。
【0038】
図5(A)はトルクリミッター13の非作動状態を示し、第1磁極部182には第2永久磁石板187のS極が当接し、第2磁極部183には第1永久磁石板186のN極が当接する。その際、トグル作動検知ピン13dとヨーク12との距離をL1とする。
【0039】
図5(B)はトルクリミッター13の作動状態を示し、第1磁極部182には第1永久磁石板186のN極が当接し、第2磁極部183には第2永久磁石板187のS極が当接する。その際、トグル作動検知ピン13dとヨーク12との距離をL2とする。トルクリミッター13の作動により、トグル作動検知ピン13dとヨーク181との相対的な距離L2(L2<L1)は短くなるので、第1永久磁石板186がトグル作動検知ピン13dと当接しながら反時計回り方向に回転し、第1磁極部182に対する磁極がS極からN極に、第2磁極部183に対する磁極がN極からS極に切り替わる。トルクリミッター13の作動を体感した操作者は、トルクレンチ1の締付力を弱めるため、トルクリミッター13も元の
図3(C)に示す状態に復帰する。その際、トグル作動検知ピン13dとヨーク181とは、
図5(A)に示す位置に相対移動する。その際、前述した磁極の切り替えが行われる
。この磁極の切り替わりにより、誘導コイル184を流れる電流の向きが反転し、電磁誘導による起電力(+V、−V)が発生する。そして、電子回路14に起電力を給電する。
【0040】
本実施形態のトルクレンチ1において、締付トルクが設定トルク値に達すると、締付完了信号を出力できれば良い。すなわち、本実施形態では締結部材の締め付け中に電力の供給ができないが、締付完了と同時に電磁誘導発電部18が発電を行うことができるので、何らの支障もない。
【0041】
なお、発電部として電磁誘導発電部18に代えて、ステッピングモータ等のモータを発電機として使用することも可能である。
【0042】
第3の実施形態
図6および
図7は第3の実施形態を示す。
【0043】
図6は本発明の締結工具をトルクレンチに適用した第3の実施形態を示し、(A)は上面図、(B)は正面図、(C)はトルクリミッターの概略図、
図7は
図6に示すトルクレンチの発電部と電子回路との回路ブロック図である。
【0044】
第3の実施形態は、発電部として機械エネルギーを電気エネルギーに変換する機械―電気エネルギー変換発電部19を設けた点が第2の実施形態と異なる。なお、
図6および
図7において、
図1および
図2に示した部材と同じ部材には同じ符号を付してその説明を省略する。
【0045】
機械―電気エネルギー変換発電部(圧電素子)19は、機械エネルギーを電気エネルギーに変換する圧電素子(ピエゾ素子)を利用して発電を行う。圧電素子19は、圧電素子に外力を加えて歪を生じさせると起電力を発生する。圧電素子19は、ハンドル部11に固定されている基板14aに取り付けられる。レバー部12bに設けたトグル作動検知ピン13dと、ハンドル部11は、トルクリミッター13の作動時において相対移動する。
【0046】
そこで、圧電素子19に外力を加える手段として、本実施形態ではトグル作動検知ピン13dを用いる。
【0047】
第2の実施形態と同様に、トルクリミッター13の作動時に、トグル作動検知ピン13dと基板14aに固定される圧電素子19は相対的に移動する。すなわち、基板14aに固定された圧電素子19は、トルクリミッター13の作動時に、瞬間的にトグル作動検知ピン13dに衝突する。その際、圧電素子19は起電力を発生し、電子回路14に給電する。そして、トルクリミッター13の作動に伴う締付完了信号を出力する。
【0048】
本実施形態のトルクレンチは、第2の実施形態と同様に、トルクリミッター13の作動時に電子回路14に給電し、締付完了信号が出力できれば良い。したがって、トルクリミッター13の作動時に生じる一回の衝撃力で圧電素子19に生じる起電力でも十分に電子回路14を駆動でき、締付完了信号を出力することができる。
【0049】
なお、圧電素子19を基板14aに固定しているが、ハンドル部11に直接圧電素子19を固定しても良い。また、圧電素子19が衝突する相手側はトグル作動検知ピン13dとしているが、ヘッド部13のレバー部
12bに直接衝突するようにしても良い。
【0050】
第4の実施形態
図8は本発明の第4の実施形態を示すトルクレンチの概略図で、(A)は上面図、(B)は正面図である。
図9は
図8に示すトルクレンチの発電部と電子回路との回路ブロック図である。
【0051】
第4の実施形態は、発電部として温度差発電部(ペルチェ素子)20を設けた点が第1の実施形態と異なる。なお、
図8および
図9において、
図1および
図2に示した部材と同じ部材には同じ符号を付してその説明を省略する。
【0052】
本実施形態において、温度差発電部20は、温度差を電気エネルギーに変換するペルチェ素子等の熱電変換素子を利用したもので、ペルチェ素子20をトルクレンチ1のグリップ部Gに埋設する。グリップ部Gは、作業者が締付作業の際に把持するもので、手力線G1に合わせて把持する。ペルチェ素子20は、少なくとも手力線G1の位置に配置される。グリップ部Gの手力線G1を作業者が握ると、ペルチェ素子20の表面が作業者の手で温められ、金属製のハンドル部11に接する反対面との間に温度さが生じ、起電力が発生する。この起電力は、操作者がグリップ部Gを握っている間において発生する。
【0053】
したがって、トルクリミッター13が作動する際において、温度差発電部20は確実に起電力を発生し、電子回路14を駆動する。このため、電子回路14は、トルクリミッター13の作動時に締付完了信号を出力する。
【0054】
上記した各実施形態は、電源電池を装備せず、発電部で発電した電力を用いて電子回路を駆動する構成としているため、電池残量のチェックや電池交換等の日常のメンテナンスが不要となる。また、電池の接触端子、充電器が不要となるので、接触不良、充電プラグの故障、充電ケーブルの断線といった問題から解放される。
【0055】
なお、上記した各実施形態は、締付工具としてトルクレンチを例にして説明したが、本発明はトルクドライバーにも適用することができる。
【符号の説明】
【0056】
1 トルクレンチ
11 ハンドル部(第1部材)
12 ヘッド部(第2部材)
13 トルクリミッター
14 電子回路
15 基板ケース
16 通信アンテナ
17 光発電部
18 電磁誘導発電部
19 機械―電気エネルギー変換発電部
20 温度差発電部
100 トルクリミッター作動検知スイッチ
101 電力変換部
102 プロセッサー
103 通信部
104 蓄電部
105 ひずみゲージ