【実施例】
【0047】
以下に実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0048】
[実験例1]
ペプチド1:Lys-Ser-Cys(C
2H
5)-Aka (配列番号1;Lys-Ser-Cys-Ala)を用意した。
2番目のアミノ酸残基はセリン残基であり、3番目のアミノ酸残基はシステインにエチル基が導入されたものであり、4番目のアミノ酸残基は蛍光基アクリドン骨格を有するアラニン残基である。アミノ酸残基システインへのエチル基の導入は、エチルブロマイドを用いて行うことができる。また、上記ペプチド1:Lys-Ser-Cys(C
2H
5)-Akaにおける “Aka”は、蛍光基アクリドン骨格を有するアラニン残基を便宜的に表したものである。
【0049】
別途、ペプチド1の重水素置換体であるペプチド2:Lys-Ser-Cys(C
2D
5)-Aka(配列番号2;Lys-Ser-Cys-Ala)を用意した。
2番目のアミノ酸残基はセリン残基であり、3番目のアミノ酸残基はシステインにD5エチル基が導入されたものであり、4番目のアミノ酸残基は蛍光基アクリドン骨格を有するアラニン残基である。アミノ酸残基システインへのD5エチル基の導入は、D5エチルブロマイドを用いて行うことができる。また、上記ペプチド2:Lys-Ser-Cys(C
2D
5) -Akaにおける “Aka”は、蛍光基アクリドン骨格を有するアラニン残基を便宜的に表したものである。
【0050】
ペプチド1とペプチド2とを当量混合し、MALDI-TOF-MSを用いて質量分析を行った。得られたマススペクトルを
図1に示す。
図1に示されるように、ペプチド1とペプチド2とのピーク(m/z 628.58, 633.61)は、5.03Daの質量差をもって同じ強度で検出された。つまり、ペプチド1とペプチド2とのイオン化効率が同じであることを確認した。
図1においては、便宜的に、ペプチド1を[Lys-Xaa-Cys(C
2H
5)-Aka]、ペプチド2を[Lys-Xaa-Cys(C
2D
5)-Aka]と表記している。ペプチド中のシステイン残基を安定同位体によって標識しておくと、NEXTA反応効率をMSにて定量する際に、内部標準物質として使用することができる(重原子標識法)。
【0051】
[実験例2]
ペプチド1に含フッ素アミノ酸を導入した。具体的には、ペプチド1について、下記の組成を有する反応溶液(濃度はいずれも終濃度を表す。)を調製し、37 ℃、60分間インキュベートした。
【0052】
<反応溶液組成>
A液(終濃度での組成が、10mM MgCl
2、1mM Spermidine、50mM Hepes緩衝液(pH 7.6))の10倍希釈液と、B液(終濃度での組成が、2.5mM ATP、20mM KCl、2mM DTT)の10倍希釈液との混合液中、以下の成分を含む。
【0053】
ペプチド1(Lys-Ser-Cys(C
2H
5)-Aka) 7.3μM
E.Coli由来フェニルアラニンtRNA(tRNA
Phe) 8.0μM
フェニルアラニルtRNA合成酵素(PheRS)変異体(aA294G) 0.66μM
[
18F]フルオロメチル−L−チロシン(feTyr) 1.0mM
0.20μMロイシル/フェニルアラニルtRNAタンパク質転移酵素 3.8nM
【0054】
反応溶液に終濃度が3%になるようにトリフルオロ酢酸水溶液を投入し、ZipTip処理を行った。回収物に、使用したペプチド1と同量のペプチド2(ペプチド1におけるXaaとペプチド2におけるXaaとは同じアミノ酸残基(セリン残基)である。)を混合し、得られた混合物をMALDI-TOF-MSを用いて質量分析した。ペプチド2のピーク強度に対する、ペプチド2の強度とペプチド1(すなわち上記反応の未反応物)の強度との差の比を反応効率として求めた。その結果を
図2に示す。反応効率は49%であった。
【0055】
[実験例3〜20]
ペプチド1における2番目のアミノ酸残基(セリン残基)を、セリン残基及びシステイン残基以外の18種の天然アミノ酸残基にそれぞれ変更した各ペプチド[Lys-Xaa-Cys(C
2H
5)-Aka]を用意した。ここで、”Xaa” は、便宜的に、セリン残基及びシステイン残基以外の18種の天然アミノ酸残基を表している。
ペプチド3:Lys-Ala-Cys(C
2H
5)-Aka(配列番号3;Lys-Ala-Cys-Ala)
ペプチド5:Lys-Asp-Cys(C
2H
5)-Aka(配列番号5;Lys-Asp-Cys-Ala)
ペプチド7:Lys-Glu-Cys(C
2H
5)-Aka(配列番号7;Lys-Glu-Cys-Ala)
ペプチド9:Lys-Phe-Cys(C
2H
5)-Aka(配列番号9;Lys-Phe-Cys-Ala)
ペプチド11:Lys-Gly-Cys(C
2H
5)-Aka(配列番号11;Lys-Gly-Cys-Ala)
ペプチド13:Lys-His-Cys(C
2H
5)-Aka(配列番号13;Lys-His-Cys-Ala)
ペプチド15:Lys-Ile-Cys(C
2H
5)-Aka(配列番号15;Lys-Ile-Cys-Ala)
ペプチド17:Lys-Lys-Cys(C
2H
5)-Aka(配列番号17;Lys-Lys-Cys-Ala)
ペプチド19:Lys-Leu-Cys(C
2H
5)-Aka(配列番号19;Lys-Leu-Cys-Ala)
ペプチド21:Lys-Met-Cys(C
2H
5)-Aka(配列番号21;Lys-Met-Cys-Ala)
ペプチド23:Lys-Asn-Cys(C
2H
5)-Aka(配列番号23;Lys-Asn-Cys-Ala)
ペプチド25:Lys-Pro-Cys(C
2H
5)-Aka(配列番号25;Lys-Pro-Cys-Ala)
ペプチド27:Lys-Gln-Cys(C
2H
5)-Aka(配列番号27;Lys-Gln-Cys-Ala)
ペプチド29:Lys-Arg-Cys(C
2H
5)-Aka(配列番号29;Lys-Arg-Cys-Ala)
ペプチド31:Lys-Thr-Cys(C
2H
5)-Aka(配列番号31;Lys-Thr-Cys-Ala)
ペプチド33:Lys-Val-Cys(C
2H
5)-Aka(配列番号33;Lys-Val-Cys-Ala)
ペプチド35:Lys-Trp-Cys(C
2H
5)-Aka(配列番号35;Lys-Trp-Cys-Ala)
ペプチド37:Lys-Tyr-Cys(C
2H
5)-Aka(配列番号37;Lys-Tyr-Cys-Ala)
3番目のアミノ酸残基はシステインにエチル基が導入されたものであり、4番目のアミノ酸残基は蛍光基アクリドン骨格を有するアラニン残基である。
【0056】
別途、ペプチド2における2番目のアミノ酸残基(セリン残基)を、セリン残基及びシステイン残基以外の18種の天然アミノ酸残基にそれぞれ変更した各ペプチド[Lys-Xaa-Cys(C
2D
5)-Aka]を用意した。ここで、”Xaa” は、便宜的に、セリン残基及びシステイン残基以外の18種の天然アミノ酸残基を表している。
ペプチド4:Lys-Ala-Cys(C
2D
5)-Aka(配列番号4;Lys-Ala-Cys-Ala)
ペプチド6:Lys-Asp-Cys(C
2D
5)-Aka(配列番号6;Lys-Asp-Cys-Ala)
ペプチド8:Lys-Glu-Cys(C
2D
5)-Aka(配列番号8;Lys-Glu-Cys-Ala)
ペプチド10:Lys-Phe-Cys(C
2D
5)-Aka(配列番号10;Lys-Phe-Cys-Ala)
ペプチド12:Lys-Gly-Cys(C
2D
5)-Aka(配列番号12;Lys-Gly-Cys-Ala)
ペプチド14:Lys-His-Cys(C
2D
5)-Aka(配列番号14;Lys-His-Cys-Ala)
ペプチド16:Lys-Ile-Cys(C
2D
5)-Aka(配列番号16;Lys-Ile-Cys-Ala)
ペプチド18:Lys-Lys-Cys(C
2D
5)-Aka(配列番号18;Lys-Lys-Cys-Ala)
ペプチド20:Lys-Leu-Cys(C
2D
5)-Aka(配列番号20;Lys-Leu-Cys-Ala)
ペプチド22:Lys-Met-Cys(C
2D
5)-Aka(配列番号22;Lys-Met-Cys-Ala)
ペプチド24:Lys-Asn-Cys(C
2D
5)-Aka(配列番号24;Lys-Asn-Cys-Ala)
ペプチド26:Lys-Pro-Cys(C
2D
5)-Aka(配列番号26;Lys-Pro-Cys-Ala)
ペプチド28:Lys-Gln-Cys(C
2D
5)-Aka(配列番号28;Lys-Gln-Cys-Ala)
ペプチド30:Lys-Arg-Cys(C
2D
5)-Aka(配列番号30;Lys-Arg-Cys-Ala)
ペプチド32:Lys-Thr-Cys(C
2D
5)-Aka(配列番号32;Lys-Thr-Cys-Ala)
ペプチド34:Lys-Val-Cys(C
2D
5)-Aka(配列番号34;Lys-Val-Cys-Ala)
ペプチド36:Lys-Trp-Cys(C
2D
5)-Aka(配列番号36;Lys-Trp-Cys-Ala)
ペプチド38:Lys-Tyr-Cys(C
2D
5)-Aka(配列番号38;Lys-Tyr-Cys-Ala)
3番目のアミノ酸残基はシステインにD5エチル基が導入されたものであり、4番目のアミノ酸残基は蛍光基アクリドン骨格を有するアラニン残基である。
【0057】
上記の実験例2と同様にして、ペプチド1,2の代わりに、2番目のアミノ酸残基”Xaa”が互いに同じアミノ酸残基であるペプチド3,4; ペプチド5,6; ペプチド7,8; ペプチド9,10; ペプチド11,12; ペプチド13,14; ペプチド15,16; ペプチド17,18; ペプチド19,20; ペプチド21,22; ペプチド23,24; ペプチド25,26; ペプチド27,28; ペプチド29,30; ペプチド31,32; ペプチド33,34; ペプチド35,36; ペプチド37,38をそれぞれ用いて、重水素置換されていない各ペプチド3,5,7,9,11,13,15,17,19,21,23,25,27,29,31,33,35,37への含フッ素アミノ酸の導入の反応効率を求めた。それらの結果を
図2に示す。
【0058】
図2に示されるように、”Xaa”がセリンやスレオニンである場合に高い反応効率が示された。また、ヒスチジン、フェニルアラニン及びトリプトファンのように疎水性の高い側鎖を有するアミノ酸である場合は反応効率が13〜17%と低いが、疎水性の側鎖を有するアミノ酸の中でも水酸基を含むチロシンの場合は反応効率が25%と比較的高い。このことから、”Xaa”が側鎖に水酸基を含む場合(特に好ましくは通常の水酸基を含む場合)に高い反応効率が達成される傾向が確認された。
【0059】
さらに、”Xaa”が負電荷を持つアスパラギン酸やグルタミン酸の場合は反応効率が19〜21と低いが、正電荷を持つアルギニンやリジンの場合は反応効率が33〜40%と高い(ヒスチジンも正電荷を持つが、上述のように疎水性が高いため反応効率は低い)。このことから、”Xaa”が親水性であり且つ正電荷を有する場合に高い反応効率が達成される傾向が確認された。