【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用 1.一般社団法人表面技術協会・関西支部事務局が平成23年11月29日に発行した、第13回 関西表面技術フォーラム 要旨集(抜粋)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年度独立行政法人科学技術振興機構、研究成果展開事業、研究成果最適展開支援プログラム、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
金、銀、銅、パラジウム、ロジウム、白金、イリジウム、ルテニウム、及びオスミウムの群から選択される少なくとも1種の元素を含む金属廃棄物と、シリコンとを、フッ化物イオンを含む溶液に混合することによりシリコン含有混合溶液とする混合工程と、
前記シリコン含有混合溶液内において、前記シリコン上に、前記元素からなる金属を析出させる析出工程と、
前記元素からなる金属を回収する回収工程を含む、
金属の回収方法。
金、銀、銅、パラジウム、ロジウム、白金、イリジウム、ルテニウム、及びオスミウムの群から選択される少なくとも1種の元素を含む金属廃棄物を混合したフッ化物イオンを含む溶液を導入し、シリコンを収容したシリコン収容部に前記溶液を流通させる流通工程と、
前記シリコン収容部内において、前記シリコン上に、前記元素からなる金属を析出させる析出工程と、
前記元素からなる金属を回収する回収工程を含む、
金属の回収方法。
フッ化物イオンを含む溶液中に、金、銀、銅、パラジウム、ロジウム、白金、イリジウム、ルテニウム、及びオスミウムの群から選択される少なくとも1種の元素を含む金属廃棄物と、シリコンとを混合させる収容槽内において、前記シリコン上に、前記元素からなる金属を析出させる混合・析出部と、
前記元素からなる金属を回収する回収部とを備える、
金属の回収装置。
金、銀、銅、パラジウム、ロジウム、白金、イリジウム、ルテニウム、及びオスミウムの群から選択される少なくとも1種の元素を含む金属廃棄物を混合したフッ化物イオンを含む溶液を導入し、シリコンを収容したシリコン収容部に前記溶液を流通させる流通手段と、
前記シリコン収容部内において前記シリコン上に析出させた前記元素からなる金属を、回収する回収部とを備える、
金属の回収装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の通り、貴金属の回収方法に関する幾つかの技術が開示され、各種の産業分野において広く利用されている。例えば、使用済み触媒から白金族金属を溶解抽出する場合には、まず、外気を遮断できる密閉容器中において無機酸及び酸化剤を廃触媒とともに封入する。次に、該無機酸の濃度を上昇させる工程が行われ、その後、60℃から180℃の温度で加熱抽出する方法が開示されている(特許文献1)。
【0006】
上述の方法は、高温の状態を保持するためや圧力状態を調節するために、あるいは、電気エネルギーを利用するために比較的高価な装置を必要とする。従って、設備の小型化や設備コストの低減には限界がある。一方、イオン交換樹脂精製法や使用済みシリカからの焼成回収法には、複雑な回収工程が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の少なくとも1つの技術課題を解決することにより、金属廃液から高効率かつ低コストで金属を回収する技術の更なる向上に大きく貢献するものである。発明者は、主に半導体分野で利用されるところの「めっき法」によるシリコン表面に金属膜を形成する技術について研究を行ってきた(特許文献2)。その研究の過程において、フッ化水素酸を含む貴金属塩水溶液にシリコンを浸漬すると、溶液中のフッ化物イオンによるシリコンの溶解と同時に金属が還元されることによって、シリコン上に貴金属粒子が形成されることを報告している。(非特許文献1)
【0008】
前述の現象は、上述のとおり、半導体分野に代表される先端技術分野における複合材料を製造するための開発研究の過程で得られた知見であったものの、このような、処理溶液中における貴金属イオン濃度の減少と同時にシリコン表面上に貴金属粒子が形成される現象について、「貴金属のリサイクル」という他の産業分野への応用を指向して、発明者はさらに研究と分析を重ねた。
【0009】
その結果、フッ化水素酸を含む貴金属塩水溶液にシリコンを浸漬すると、該溶液中の貴金属濃度が低下するだけでなく、残渣から貴金属を粉末状態で回収することができることが確認された。さらに研究を進めると、このときの貴金属の回収速度は、シリコン粉末の小粒径化及び/又はフッ化水素酸の濃度の増加とともに上昇することが明らかとなった。また、これまでは、いわば先端技術分野に適用する複合材料のための研究開発であったために、ある1つの特定金属とシリコンとの複合材料の製造が指向されていた。しかしながら、前述の特異な現象は、単一種の金属イオンの存在下のみならず、複数種の金属イオンが存在する溶液中であっても、いわゆる貴金属と呼ばれる金属を含む、ある特定の金属を確度高く、選択的に析出させることが可能であることを発明者は突き止めた。本発明は、上述の知見に基づいて創出された。
【0010】
本発明の1つの金属の回収方法は、金、銀、銅、パラジウム、ロジウム、白金、イリジウム、ルテニウム、及びオスミウムの群から選択される少なくとも1種の元素を含む金属廃棄物と、シリコンとを、フッ化物イオンを含む溶液に混合することによりシリコン含有混合溶液とする混合工程を有する。そして、前述のシリコン含有混合溶液内において、前述のシリコン上に、前述の元素からなる金属を析出させる析出工程を有する。さらに、前述の元素からなる金属を回収する回収工程を含む。
【0011】
この金属の回収方法によれば、上述の特定の金属群から選択される少なくとも1種の元素を含む金属廃棄物と、シリコンとを、フッ化物イオンを含む溶液に混合することにより、前述のシリコン含有混合溶液内において、そのシリコン上に、前述の各元素からなる金属粒子を無電解置換析出によって形成させることができる。従って、この金属の回収方法は極めて簡便な方法であるため、前述の各元素からなる金属を、効率よく、かつエネルギーの消費量を低く抑えて、固体粉末として回収することができる。さらに、この金属の回収方法を採用すれば、前述の各元素からなる金属のイオンとその他の金属(例えば、コバルト、ニッケル、鉄)のイオンとが混在する溶液中においても、前述の各元素からなる金属のみを回収することができる点は特筆に値する。従って、この金属の回収方法によって、いわゆる金属廃液から、高効率に、簡便かつ低コストで前述の各元素からなる金属を確度高く選択的に回収することができる。
【0012】
また、本発明のもう1つの金属の回収方法は、金、銀、銅、パラジウム、ロジウム、白金、イリジウム、ルテニウム、及びオスミウムの群から選択される少なくとも1種の元素を含む金属廃棄物を混合したフッ化物イオンを含む溶液を導入し、シリコンを収容したシリコン収容部に流通させる流通工程を有する。そして、前述のシリコン収容部内において、前述のシリコン上に、前述の元素からなる金属を析出させる析出工程を有する。さらに、前述の元素からなる金属を回収する回収工程を含む。
【0013】
この金属の回収方法によれば、上述の特定の金属群から選択される少なくとも1種の元素を含む金属廃棄物を混合したフッ化物イオンを含む溶液を導入し、シリコンを収容したシリコン収容部に流通させることにより、前述のシリコン収容部内において、そのシリコン上に、前述の各元素からなる金属粒子を無電解置換析出によって形成させることができる。従って、この金属の回収方法は極めて簡便な方法であるため、前述の各元素からなる金属を、効率よく、かつエネルギーの消費量を低く抑えて、固体粉末として回収することができる。さらに、この金属の回収方法によれば、前述のフッ化物イオンを含む溶液を、前述のシリコン収容部内に連続的に流通させることができる。さらに、この金属の回収方法を採用すれば、前述の各元素からなる金属のイオンとその他の金属(例えば、コバルト、ニッケル、鉄)のイオンとが混在する溶液を流通させた場合であっても、前述の各元素からなる金属のみを回収することができる点は特筆に値する。従って、この金属の回収方法によって、いわゆる金属廃液から、高効率に、簡便かつ低コストで前述の各元素からなる金属を確度高く選択的に回収することができる。
【0014】
また、本発明の1つの複合材料は、シリコンに、金、銀、銅、パラジウム、ロジウム、白金、イリジウム、ルテニウム、及びオスミウムの群から選択される少なくとも2種の元素を含む金属が付着している複合材料である。
【0015】
この複合材料によれば、シリコンと、上述の特定の金属群から選択される少なくとも2種の元素を含む金属との複合材料が形成される。このような特異な複合材料は、特定の金属の回収に大いに寄与するものである。
【0016】
また、本発明のもう1つの複合材料は、フッ化物イオンを含む溶液中のシリコン上に、金、銀、銅、パラジウム、ロジウム、白金、イリジウム、ルテニウム、及びオスミウムの群から選択される少なくとも2種の元素を含む金属が析出している複合材料である。
【0017】
この複合材料は、フッ化物イオンを含む溶液中に形成される、上述の特定の金属群から選択される少なくとも2種の元素を含む金属廃棄物とシリコンとの複合材料である。このように、フッ化物イオンを含む溶液を用いて形成される特異な複合材料は、特定の金属の回収に大いに寄与するものである。
【0018】
また、本発明の1つの金属の回収装置は、フッ化物イオンを含む溶液中に、金、銀、銅、パラジウム、ロジウム、白金、イリジウム、ルテニウム、及びオスミウムの群から選択される少なくとも1種の元素を含む金属廃棄物と、シリコンとを混合させる収容槽内を備え、さらに、前述の収容槽内において、前述のシリコン上に、前述の元素からなる金属を析出させる混合・析出部を有する。そしてさらに、前述の元素からなる金属を回収する回収部とを備える。
【0019】
この金属の回収装置によれば、フッ化物イオンを含む溶液中に、上述の特定の金属群から選択される少なくとも1種の元素を含む金属廃棄物と、シリコンとを混合させる収容槽内において、そのシリコン上に、前述の各元素からなる金属粒子を無電解置換析出によって形成させることができる。従って、極めて簡便に、前述の各元素からなる金属を、効率よく、かつエネルギーの消費量を低く抑えて、固体粉末として回収することができる。さらに、この金属の回収装置によれば、前述の各元素からなる金属のイオンとその他の金属(例えば、コバルト、ニッケル、鉄)のイオンとが混在する溶液中においても、前述の各元素からなる金属のみを回収することができる点は特筆に値する。従って、この金属の回収装置によって、いわゆる金属廃液から、高効率に、簡便かつ低コストで前述の各元素からなる金属を確度高く選択的に回収することができる。
【0020】
また、本発明のもう1つの金属の回収装置は、金、銀、銅、パラジウム、ロジウム、白金、イリジウム、ルテニウム、及びオスミウムの群から選択される少なくとも1種の元素を含む金属廃棄物を混合したフッ化物イオンを含む溶液を導入し、シリコンを収容したシリコン収容部に流通させる流通手段を備える。さらに、前述のシリコン収容部内におい
て前述のシリコン上に析出させた前述の元素からなる金属を
、回収する回収部とを備える。
【0021】
この金属の回収装置によれば、上述の特定の金属群から選択される少なくとも1種の元素を含む金属廃棄物を混合したフッ化物イオンを含む溶液を導入し、シリコンを収容したシリコン収容部に流通させることにより、前述のシリコン収容部内において、そのシリコン上に、前述の各元素からなる金属粒子を無電解置換析出によって形成させることができる。従って、極めて簡便に、前述の各元素からなる金属を、効率よく、かつエネルギーの消費量を低く抑えて、固体粉末として回収することができる。さらに、この金属の回収装置によれば、前述のフッ化物イオンを含む溶液を、前述のシリコン収容部内に連続的に流通させることができる。さらに、この金属の回収装置によれば、前述の各元素からなる金属のイオンとその他の金属(例えば、コバルト、ニッケル、鉄)のイオンとが混在する溶液を流通させた場合であっても、前述の各元素からなる金属のみを回収することができる点は特筆に値する。従って、この金属の回収装置によって、いわゆる金属廃液から、高効率に、簡便かつ低コストで前述の各元素からなる金属を確度高く選択的に回収することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の1つの金属の回収方法及び本発明の1つの金属の回収装置によれば、上述の、金、銀、銅、パラジウム、ロジウム、白金、イリジウム、ルテニウム、及びオスミウムの群から選択される少なくとも1種の元素を含む金属廃棄物と、シリコンとを、フッ化物イオンを含む溶液に混合することにより得られるシリコン含有混合溶液内において、そのシリコン上に、前述の各元素からなる金属粒子を無電解置換析出によって形成させることができる。従って、この金属の回収方法及びこの金属の回収装置によれば、前述の各元素からなる金属を、効率よく、かつエネルギーの消費量を低く抑えて、固体粉末として回収することができる。さらに、この金属の回収方法及びこの金属の回収装置を採用すれば、前述の各元素からなる金属のイオンとその他の金属(例えば、コバルト、ニッケル、鉄)のイオンとが混在する溶液中においても、前述の各元素からなる金属のみを回収することができる。従って、この金属の回収方法によって、いわゆる金属廃液から、高効率に、簡便かつ低コストで前述の各元素からなる金属を確度高く選択的に回収することができる。
【0023】
また、本発明の1つの複合材料によれば、シリコンと、上述の特定の金属群から選択される少なくとも2種の元素を含む金属との複合材料が形成される。このような特異な複合材料は、特定の金属の回収に大いに寄与するものである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の実施形態を、添付する図面に基づいて詳細に述べる。尚、この説明に際し、全図にわたり、特に言及がない限り、共通する部分には共通する参照符号が付されている。また、図中、本実施形態の要素は必ずしもスケール通りに示されていない。また、各図面を見やすくするために、一部の符号が省略され得る。
【0026】
<第1の実施形態>
図1は、本実施形態における金属の回収装置100の構成を示す概略図である。また、
図2は、本実施形態における、シリコンに白金が付着している複合材料を示す走査電子顕微鏡(以下、SEMという)写真である。また、
図3は、
図2のうち、析出した白金粒子を拡大したSEM写真である。
【0027】
本実施形態の金属の回収装置100は、例えば、都市鉱山や工業製品の製造過程の廃液等から得られた金属廃液を収容する収容槽10において、その金属廃液から特定の金属を析出させる混合・析出部20と、その特定の金属を回収する回収部30とを備える。
【0028】
本実施形態における金属の回収方法は、次のとおりである。本実施形態では、
図1に示すように、混合・析出部20の一部を構成する、金属廃液で充たされた収容槽10内に、フッ化水素酸12及び板状又は粒状のシリコン14を導入する混合工程により、シリコン含有混合溶液を作る。その上で、シリコン含有混合溶液を撹拌する。その結果として得られるシリコン14上に析出した金属を、回収部30において回収する。
【0029】
より具体的には、まず、混合工程において、収容槽10内に、濃度15mmol/dm
3(以下、mol/dm
3をMと表す。)以上150mM以下のフッ化水素酸12を含む、濃度0.5mMのヘキサクロロ白金(IV)酸(H
2PtCl
6)水溶液を導入した後、後述する、板状のシリコン14、又は粒子径が異なる粒状のシリコン14(0.35M相当量)を、収容槽10内に導入する。その後、シリコン14が浸漬されたシリコン含有混合溶液を、1分間〜6分間、回転速度350rpmで撹拌する。その後、回収工程において、シリコン14上に析出した白金を回収部30において回収する。ここで、上記の各処理は、混合・析出部20が備える、収容槽10の温度及び圧力を制御する図示しない制御部によって、室温(25℃)、及び常圧(1気圧)下で行うことができる。なお、前述の制御部を設けない場合であっても、特に加熱又は冷却処理や、加圧又は減圧処理を行わなければ、上記の各処理は、実質的に室温(25℃)、及び常圧(1気圧)下で行われ得る。
【0030】
図2及び
図3に示すように、本実施形態では、フッ化水素酸12を含む白金塩水溶液内にシリコン14を浸漬させたシリコン含有混合溶液内において、シリコン14上に黒色の白金粉末が生じたことによって複合材料102が形成された結果、シリコン含有混合溶液中の白金濃度が低下した。これは、PtCl
62−イオンが還元されて、白金粉末が析出したことを示している。後述する表1に示すように、例えば、濃度が150mMのフッ化水素酸12を含む濃度0.5mMのヘキサクロロ白金(IV)酸(H
2PtCl
6)水溶液に、粒子径が0.15mm以下の粒状のシリコン14を5分間浸漬した場合の白金の回収率は、99%であった。なお、
図2及び
図3で示される結果は、混合・析出部20における液体の温度を室温(25℃)に安定化させるために、市販の恒温水循環装置を用いて行われた結果である。
【0031】
本実施形態における金属の回収率については、上述のシリコン含有混合溶液をろ過した後、ICP発光分光分析法を用いてろ液中の金属濃度(本実施形態では、白金濃度)を測定することにより計算した。なお、本実施形態におけるICP発光分光分析装置は、エスアイアイ・ナノテクノロジー社製(型式、SPS7800)であった。また、処理前後の白金濃度(又は白金濃度に体積を乗じた物質量)の変化から、代表的には以下の計算式に基づいて白金の回収率を求めた。なお、以下のいずれの実施形態における回収率も、本実施形態と同様の計算式によって算出されているため、重複する説明を省略する。
【0033】
(実施例1)
<ICP発光分光分析による分析結果(1)>
表1は、浸漬するシリコン14の板の大きさ又は粒子の粒子径と、白金の回収率との関係を示している。濃度150mMのフッ化水素酸12を含む0.5mMヘキサクロロ白金(IV)酸(H
2PtCl
6)水溶液に、5分間、表1に示す異なる形態又は大きさのシリコン14(0.35M相当量)を浸漬させたときの白金の回収率を、ICP発光分光分析法を用いて求めた。なお、上述と同様に、処理時間中においては、回転速度350rpmでシリコン含有混合溶液を撹拌した。
【表1】
【0034】
その結果、シリコン14が粒状の場合であって、その粒子径が1mm以下の場合の回収率は18%であったが、その粒子径が0.15mm以下、及び0.045mm以下の場合の回収率が、処理開始からわずか5分〜15分間で、99.95%以上、換言すれば、残存する白金イオン濃度が0.05ppm以下となることが確認された。一方、シリコン14が板状の場合であって、その大きさ(縦×横×厚み)が10mm×10mm×0.7mmの単結晶シリコン基板を用いた場合の白金の回収率は1%であった。以上の結果は、シリコン14の表面積が大きくなるにつれて、白金の回収速度が顕著に増加することを示していると考えられる。
【0035】
(実施例2)
<ICP発光分光分析による分析結果(2)>
次に、
図4は、フッ化水素酸12の濃度と白金の回収率との関係を示している。
図4に示す異なる濃度のフッ化水素酸を含む0.5mMヘキサクロロ白金(IV)酸(H
2PtCl
6)水溶液中に、粒子径が0.045mm以下の粒状のシリコン14(0.35M相当量)を浸漬させた場合のシリコン含有混合溶液における白金の回収率の経時変化を、ICP発光分光分析法を用いて測定した。
【0036】
その結果、フッ化水素酸濃度が30mMでは、10分後に回収率が95%以上に達し、その濃度が50mMでは4分後に回収率が95%以上に達した。さらに、その濃度が150mMでは、2分後に回収率が95%以上に達した。以上の結果は、フッ化水素酸濃度が高くなるにつれて回収速度が増加することを示している。一方、シリコン14を浸漬することによって、フッ化水素酸濃度が低い場合であっても、ある程度の時間を掛けることによって白金を高い回収率で回収できることが明らかとなった。例えば、フッ化水素酸濃度が15mMである場合であっても、処理開始から60分経過後には、回収率は87%に到達することが確認されている。
【0037】
上述したとおり、本実施形態の回収方法は、極めて簡便な方法であるため、前述の各元素からなる金属を、効率よく、かつエネルギーの消費量を低く抑えて、固体粉末として回収することができる。すなわち、この金属の回収方法によって、いわゆる金属廃液から高効率に、簡便かつ低コストで前述の各元素からなる金属を確度高く回収することができる。
【0038】
<第1の実施形態の変形例>
本実施形態は、回収対象金属が白金の代わりに金(Au)である点で、第1の実施形態と異なる。また、本実施形態の金属の回収方法及び金属の回収装置は、第1の実施形態における、各溶液の濃度等が以下に述べる濃度等に変更されている点を除き、第1の実施形態の金属の回収方法及び金属の回収装置100と同じである。従って、第1の実施形態と重複する説明は省略されうる。
【0039】
図5は、第1実施形態の変形例の1つである、シリコン14に金が付着している複合材料202を示すSEM写真である。また、
図6は、
図5のうち、主として析出した金粒子を拡大したSEM写真である。本実施形態の金属の回収方法においても、第1実施形態の効果と同等の効果が奏される。
【0040】
本実施形態では、濃度が150mMのフッ化水素酸12を含む1mMのテトラクロロ金(III)酸(HAuCl
4)水溶液に、粒子径0.15mm以下の粒子状のシリコン14(0.35M相当量)を浸漬させたシリコン含有混合溶液を作る。その後、シリコン14が浸漬されたシリコン含有混合溶液を、1分間〜10分間、回転速度200rpmで撹拌する。その後、シリコン14上に析出した金(Au)を回収部30において回収する。なお、上記の各処理は、室温(25℃)、及び常圧(1気圧)下で行われた。
【0041】
図5及び
図6に示すように、本実施形態では、フッ化水素酸12を含む金塩水溶液内にシリコン14を浸漬させたシリコン含有混合溶液内において、シリコン14上に金粉末が生じたことによって複合材料202が形成された結果、シリコン含有混合溶液中の金濃度が低下した。これは、AuCl
4−イオンが還元されて、金粉末が析出したことを示している。後述する
図7に示すように、例えば、濃度が150mMフッ化水素酸12を含む濃度1mMのテトラクロロ金(III)酸(HAuCl
4)水溶液に、粒子径が0.15mm以下の粒状のシリコン14を5分間浸漬した場合の金(Au)の回収率は、99%であった。
【0042】
<第1の実施形態のその他の変形例>
ところで、第1実施形態及びその変形例における回収対象の金属は、白金又は金であったが、上述の各実施形態の回収対象の金属はこれらに限定されない。例えば、回収対象の金属が、銀、銅、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、及びオスミウムの群から選択される1種であっても、上述の各実施形態の効果と同等の効果又は少なくとも一部の効果が奏され得る。
【0043】
1つの具体的な例を以下に説明する。なお、本実施形態の金属の回収方法及び金属の回収装置は、第1の実施形態における、各溶液のイオン及び濃度等が以下に述べるイオン及び濃度等に変更されている点を除き、第1の実施形態の金属の回収方法及び金属の回収装置100と同じである。従って、第1の実施形態と重複する説明は省略されうる。
【0044】
この変形例では、まず、収容槽10内に、濃度15mM以上630mM以下のフッ化水素酸12を含む濃度0.5mM〜35mMの単一の各金属塩水溶液(それぞれが、AgNO
3,PdCl
2,RhCl
3,CuCl
2)に、35mM〜360mM相当量の粒子径が0.15mm以下の粒状のシリコン14を導入することにより、シリコン含有混合溶液を作る。その上で、シリコン含有混合溶液を、1分間〜15分間、回転速度200rpmで撹拌する。その後、シリコン14上に析出した各金属を回収部30において回収する。なお、上記の各処理は、室温(25℃)、及び常圧(1気圧)下で行われた。
【0045】
図7は、この変形例の一例として示す、各単一金属塩溶液からの金属回収率の経時変化を示す図である。この変形例においては、金属塩の濃度が1mMであり、フッ化水素酸12の濃度が150mMであった。また、シリコン14の粒子径は0.15mm以下であり、シリコン14の導入量は、200mM相当量であった。
図7に示すように、フッ化水素酸12を含む各金属塩水溶液内にシリコン14を浸漬させたシリコン含有混合溶液内において、シリコン14上に回収対象の各金属粉末が生じたことによって複合材料が形成されたことが確認された。処理開始から約10分後には、単一の各金属塩溶液からの金属の回収率が、ほぼすべての金属において90%を超えていた。加えて、白金とロジウムを除く各金属の回収率が、処理開始から約3分後という短時間経過後において、回収率が95%を超えていたことは特筆に値する。なお、
図7では処理時間が10分までの結果が示されているが、処理開始から20分が経過すると、図中の全ての金属塩の回収率が99%を超えたことが確認されている。
【0046】
また、
図7における、「Pt
2+」は、テトラクロロ白金(II)酸カリウム(K
2PtCl
4)を金属塩とした場合の結果を示している。
図7に示す結果から、価数が、例えばヘキサクロロ白金(IV)酸(H
2PtCl
6)のような4価ではなく、2価の金属塩であっても、十分な回収率が得られることが示された。従って、本実施形態によれば、水溶液のイオンの価数によらず、高い回収率が得られることも特筆に値する。
【0047】
また、
図7とは別に行われたオスミウム、ルテニウム、及びイリジウムを対象とする実施例によれば、それぞれについて以下の結果が得られた。
【0048】
まず、ルテニウムにおいては、収容槽10内に、濃度150mMのフッ化水素酸12を含む濃度1mMの塩化ルテニウム(RuCl
3)水溶液に、0.35M相当量の粒子径が0.15mm以下の粒状のシリコン14を導入することにより、シリコン含有混合溶液を作る。その上で、シリコン含有混合溶液を、20分間、回転速度200rpmで撹拌する。その後、シリコン14上に析出した各金属を回収部30において回収する。なお、上記の各処理は、室温(25℃)、及び常圧(1気圧)下で行われた。そして、上述の各工程を経た結果、回収率は27%であった。なお、この実施例では、処理開始から20分までの結果が示されているが、処理時間を長くすることにより、その回収率が上昇することは、他の金属元素の例と同じである。
【0049】
次に、オスミウムにおいては、収容槽10内に、濃度150mMのフッ化水素酸12を含む濃度0.4mMのヘキサクロロオスミウム(IV)酸カリウム(K
2OsCl
6)水溶液に、0.35M相当量の粒子径が0.15mm以下の粒状のシリコン14を導入することにより、シリコン含有混合溶液を作る。その上で、シリコン含有混合溶液を、20分間、回転速度200rpmで撹拌する。その後、シリコン14上に析出した各金属を回収部30において回収する。なお、上記の各処理は、室温(25℃)、及び常圧(1気圧)下で行われた。そして、上述の各工程を経た結果、回収率は76%であった。なお、この実施例では、処理開始から20分までの結果が示されているが、処理時間を長くすることにより、その回収率が上昇することは、他の金属元素の例と同じである。
【0050】
また、イリジウムにおいては、収容槽10内に、濃度150mMのフッ化水素酸12を含む濃度1mMのヘキサクロロイリジウム(IV)酸カリウム(K
2IrCl
6)水溶液に、0.35M相当量の粒子径が0.15mm以下の粒状のシリコン14を導入することにより、シリコン含有混合溶液を作る。その上で、シリコン含有混合溶液を、20分間、回転速度200rpmで撹拌する。その後、シリコン14上に析出した各金属を回収部30において回収する。なお、上記の各処理は、室温(25℃)、及び常圧(1気圧)下で行われた。そして、上述の各工程を経た結果、この例においても、水溶液の色が褐色から無色に変化することが確認できたため、回収が可能であることが分かった。
【0052】
本実施形態の金属の回収方法及び金属の回収装置は、第1の実施形態における、金属塩溶液の濃度が高濃度に変更されている点、及びフッ化水素酸12とシリコン14の添加量が変更されている点を除き、第1の実施形態の金属の回収方法及び金属の回収装置100と同じである。従って、第1の実施形態と重複する説明は省略されうる。
【0053】
本実施形態では、まず、収容槽10内に、濃度210mM以上630mM以下のフッ化水素酸12を含む、濃度35mMのヘキサクロロ白金(IV)酸(H
2PtCl
6)水溶液内に、粒子径が0.045mm以下であって、35mM〜1400mM相当量の粒状のシリコン14を、収容槽10内に導入する。その後、シリコン14が浸漬されたシリコン含有混合溶液を、24時間〜114時間、回転速度50rpmで撹拌する。その後、シリコン14上に析出した白金を回収部30において回収する。なお、上記の各処理は、室温(25℃)、及び常圧(1気圧)下で行われた。
【0054】
本実施形態においても、フッ化水素酸12を含む白金塩水溶液内にシリコン14を浸漬させたシリコン含有混合溶液内において、シリコン14上に黒色の白金粉末が生じたことによって複合材料が形成された結果、シリコン含有混合溶液中の白金濃度が低下した。後述する表2に示すように、例えば、濃度630mMのフッ化水素酸12を含む濃度35mM(7000ppm相当)のヘキサクロロ白金(IV)酸(H
2PtCl
6)水溶液に、粒子径が0.045mm以下の粒状のシリコン14を1時間浸漬した場合の白金の残存濃度は、0.2ppmであった。なお、本実施形態を含め、いずれの実施形態においても、濃度の単位(ppm)は、ICP発光分光分析による分析結果に基づく数値である。
【0055】
一般に、フッ化水素酸を含む金属塩水溶液(便宜上、以下の化学式[化1]及び[化2]についてのみ、金属を「Me」と表す。以下同じ。)内に、シリコン(Siと表す。以下同じ。)14を浸漬すると、下記の化学反応式に示すように、該溶液中のフッ化物イオン(F
−と表す。以下同じ。)によるシリコン14の溶解と同時に金属(Me)が還元される無電解置換析出によって金属微粒子が形成されると考えられる。
【0056】
【化1】
ここで、金属が白金の場合には、以下の化学式で示される。
【0057】
【化2】
従って、白金を回収するために必要なシリコンとフッ化水素酸(HFと表す。以下同じ。)の物質量比は、理論上、以下のとおりである。
Pt:Si:HF=1:1:6
【0058】
従って、例えば、210mMフッ化水素酸12を含む濃度35mMのヘキサクロロ白金(IV)酸(H
2PtCl
6)混合溶液内に、粒子径が0.045mm以下であって、35mM相当量の粒状のシリコン14を浸漬させた場合の、各物質量比は、Pt:Si:HF=1:1:6となる。表2は、このときのシリコン含有混合溶液を回転速度50rpmで撹拌し、所定時間後の該溶液中に残存する白金イオン濃度を測定した結果を示している。
【0060】
表2に示すように、各物質量比をPt:Si:HF=1:1:6とした場合、処理時間が42時間のときの残存白金イオン濃度は、5200ppm(回収率は35%)であり、その処理時間が114時間のときの残存白金イオン濃度は、4800ppm(回収率は40%)であった。
【0061】
一方、大変興味深いことに、各物質量比を、Pt:Si:HF=1:2:12とすると、処理開始から24時間後の残存白金イオン濃度が、250ppm(回収率は97%)にまで低減されていた。さらに、各物質比を、Pt:Si:HF=1:40:18とすると、処理開始からわずか1時間後に、残存白金イオン濃度が、0.2ppm(回収率は99.9%)にまで低下していることが明らかとなった。
【0062】
従って、白金イオン濃度に対して、添加するシリコン14及びフッ化水素酸12の物質量比を過剰にすることは、仮に初期の白金イオン濃度が高くても、極めて短時間に、効率よく白金を回収することが分かった。特に、表2に示すように、化学反応式から推定される物質量比である、白金(1)に対するシリコンの比(1)、及びフッ化水素酸の比(6)に対して、シリコン及びフッ化水素酸をいずれも2倍以上、収容槽10内に導入することは、白金の回収効率を高める観点から、好適な一態様である。さらに言えば、化学反応式から推定される物質量比である、白金(1)に対するシリコンの比(1)、及びフッ化水素酸の比(6)に対して、シリコンを40倍以上、及びフッ化水素酸を3倍以上、収容槽10内に導入することは、白金の回収効率を飛躍的に高めることが出来るため、好適な一態様である。
【0063】
(実施例3)
本実施例においては、白金塩の初期濃度が低い場合と高い場合における、反応前後の白金イオン濃度の変化を説明する。まず、濃度150mMのフッ化水素酸12を含む、比較的低い濃度である濃度0.5mM(111ppm相当)のヘキサクロロ白金(IV)酸(H
2PtCl
6)水溶液に、粒子径が0.045mm以下の粒状のシリコン14を15分間浸漬させた場合の白金イオンの残存濃度は、0.02ppmであった。次に、濃度630mMのフッ化水素酸12を含む、かなり高濃度である濃度35mM(8500ppm相当)のヘキサクロロ白金(IV)酸(H
2PtCl
6)水溶液に、粒子径が0.045mm以下の粒状のシリコン14を1時間浸漬させた場合の白金イオンの残存濃度は、0.2ppmであった。
【0064】
以上のとおり、上述の各実施形態では、金属塩溶液の濃度が、1000ppmを超える高濃度から、10ppmの低濃度まで、実質的に同じ方法、同じ装置を用いて処理することが可能であることが分かる。また、シリコン含有混合溶液中に残留する金属濃度は、最も有利な条件では0.1ppm以下(より具体的には0.05ppm以下)にまで到達し得るため、極めて高効率な回収が可能である。すなわち、上述の各実施形態によれば、極めて簡便な方法で、広範囲な濃度の金属廃液から金属を固体粉末として、効率よく、かつ低コストで確度高く回収することができる。
【0065】
<第3の実施形態>
さらに、回収対象の金属が、金、白金、銀、銅、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、及びオスミウムの群から選択される少なくとも2種類であっても、上述の各実施形態の効果と同等の効果又は少なくとも一部の効果が奏され得る。
【0066】
1つの具体的な例を以下に説明する。なお、本実施形態の回収装置200においては、第1実施形態における混合・析出部20が、混合・析出部220に変更されている。また、第1実施形態における混合・析出部内の収容槽10が、収容槽210に変更されている。加えて、第1実施形態における回収部30が、回収部230に変更されている。本実施形態の回収装置200は、上述の各点を除いて、第1の実施形態の回収装置100と同じ構成を備えている。従って、第1の実施形態と重複する説明は省略されうる。
【0067】
図8は、本実施形態における金属の回収装置200の構成を示す概略図である。また、
図9は、本実施形態における、シリコン14に、金、銅、パラジウム、及び白金の群から選択される少なくとも2種の元素を含む金属が付着している複合材料302を示すSEM写真である。また、
図10は、
図9における析出した金属粒子を拡大したSEM写真である。
【0068】
具体的には、混合工程において、収容槽210内に、濃度が15mM以上630mM以下のフッ化水素酸を含む濃度0.5mM〜35mMの金属塩混合水溶液(H
2PtCl
6,HAuCl
4,PdCl
2,CuCl
2,NiSO
4,CoSO
4,FeSO
4の混合水溶液)を導入した後、35mM〜360mM相当量の、粒子径が0.15mm以下の粒状のシリコン14を浸漬させたシリコン含有混合溶液を作る。その後、シリコン14が浸漬されたシリコン含有混合溶液を、1分間〜15分間、回転速度200rpmで撹拌する。その後、回収工程において、シリコン14上に析出した金属を回収部30において回収する。なお、上記の各処理は、室温(25℃)、及び常圧(1気圧)下で行われた。
【0069】
図9及び
図10に示すように、本実施形態では、フッ化水素酸12を含む各金属塩水溶液内にシリコン14を浸漬させたシリコン含有混合溶液内において、シリコン14上に各金属粉末が生じたことによって複合材料302が形成された結果、シリコン含有混合溶液中の金属濃度が低下した。これは、一部の金属塩イオンが還元されて、金属粉末が析出したことを示している。
【0070】
ここで、例えば、
図11に示すように、濃度150mMフッ化水素酸12を含む濃度1mM各金属塩水溶液(H
2PtCl
6,HAuCl
4,PdCl
2,CuCl
2,NiSO
4,CoSO
4,FeSO
4の混合水溶液)内に、粒子径が0.15mm以下であって、0.2M相当量の粒状のシリコン14を浸漬した場合に、金(Au)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、銅(Cu)の回収率は、処理開始から15分後に80%を超えていた。加えて、金(Au)とパラジウム(Pd)の回収率が、処理開始から約5分後という短時間経過後において、回収率が90%を超えていたことは特筆に値する。
【0071】
一方、大変興味深いことに、シリコン含有混合溶液内の、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、鉄(Fe)に関する残存金属イオン濃度がほとんど変化しなかった。すなわち、金属塩混合溶液からは、金(Au)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、銅(Cu)のみが選択的に回収されることが明らかとなった。
【0072】
なお、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、銀、及びオスミウムについては、具体的な測定結果を示していないが、これらの金属についても、シリコン含有混合溶液中のフッ化物イオンによるシリコン14の溶解と同時に金属(M)が還元される無電解置換析出によって前述の各金属微粒子が形成されるため、本実施形態と同様の効果が奏され得る。
【0073】
上述したとおり、本実施形態の回収方法は、極めて簡便な方法であるため、前述の各元素からなる金属を、効率よく、かつエネルギーの消費量を低く抑えて、固体粉末として回収することができる。さらに、この金属の回収方法を採用すれば、前述の各元素からなる金属のイオンとその他の金属(例えば、コバルト、ニッケル、鉄)のイオンとが混在する溶液中においても、前述の各元素からなる金属のみを回収することができる点は特筆に値する。従って、この金属の回収方法によって、いわゆる金属廃液から、高効率に、簡便かつ低コストで前述の各元素からなる金属を確度高く選択的に回収することができる。
【0074】
<第3の実施形態の変形例>
本実施形態の金属の回収方法は、金属塩混合溶液の濃度が高濃度に変更されている点、及びフッ化水素酸とシリコンの添加量が変更されている点を除き、第3の実施形態の金属の回収方法及び金属の回収装置200と同じである。従って、第3の実施形態と重複する説明は省略されうる。
【0075】
本実施形態では、濃度210mM以上630mM以下のフッ化水素酸12を含む濃度35mMのヘキサクロロ白金(IV)酸(H
2PtCl
6)と濃度170mMの硫酸ニッケル(II)・6水和物(NiSO
4・
6H
2O)との混合溶液中に、粒子径が0.045mm以下の粒状であって、70mM相当量のシリコン14を浸漬させたシリコン含有混合溶液を作る。その後、シリコン14が浸漬されたシリコン含有混合溶液を、24時間〜120時間、回転速度50rpmで撹拌する。その後、シリコン14上に析出した金属を回収部30において回収する。なお、上記の各処理は、室温(25℃)、及び常圧(1気圧)下で行われた。
【0076】
本実施形態では、フッ化水素酸12を含む35mMのヘキサクロロ白金(IV)酸(H
2PtCl
6)と170mMの硫酸ニッケル(II)・6水和物(NiSO
4・6H
2O)との混合溶液内にシリコン14を浸漬させたシリコン含有混合溶液内において、シリコン14上に白金粉末が生じたことによって複合材料が形成された。その結果、表3に示すように、シリコン含有混合溶液中の白金濃度が低下した。代表的には、例えば、濃度が420mMフッ化水素酸を含む35mM(約7000ppm相当)のヘキサクロロ白金(IV)酸(H
2PtCl
6)水溶液と170mMの硫酸ニッケル(II)・6水和物(NiSO
4・6H
2O)との混合溶液内に、粒子径が0.045mm以下の粒状のシリコン14を24時間浸漬した場合の白金の残存濃度は110ppmであった。また、白金の回収率は98.5%であった。
【0077】
なお、本実施形態では、各物質量比は、Pt:Si:HF=1:2:9又は、Pt:Si:HF=1:2:12であった。表3に示すように、特にフッ化水素酸12を多く導入するほど、白金の回収率が向上することが確認される。一方、ニッケルについては、溶液中の残存ニッケルイオン濃度はほとんど変化しなかった。すなわち、金属塩混合溶液からは、白金のみが選択的に回収されることが示された。なお、処理後のニッケル濃度が上昇しているのは、白金濃度の低下とそれに伴う遊離塩化物イオン濃度の上昇などによる発光強度の変化が原因であると考えられる。
【0079】
ところで、第1乃至第3の実施形態においては、金、銀、銅、パラジウム、ロジウム、白金、イリジウム、ルテニウム、及びオスミウムの群から選択される少なくとも1種の元素からなる金属が析出したシリコンが回収されるまでの工程を説明している。そこで、
その元素からなる金属を析出させたシリコンから、最終的にシリコンを除いた各金属を回収する工程について以下に説明する。
【0080】
シリコンと、シリコン上に析出した金、銀、銅、パラジウム、ロジウム、白金、イリジウム、ルテニウム、及びオスミウムの群から選択される少なくとも1種の元素からなる金属との複合材料を、例えばアルカリ溶液(水酸化カリウム水溶液や水酸化ナトリウム水溶液)中に接触させる(代表的には、浸漬させる)。そうすると、シリコンが溶解するために、前述の1種又は2種以上の金属を回収することができる。なお、前述の工程において、該アルカリ溶液を加熱することは好適な一態様である。
【0081】
また、特に、回収する対象となる金属が、白金(Pt)及び/又は金(Au)の場合は、上述のアルカリ溶液の代わりに、フッ化水素酸と硝酸との混合液を採用することができる。
【0082】
図12は、フッ化水素酸と硝酸との混合液を用いて回収された白金(Pt)の一例を示すSEM写真である。また、
図13は、フッ化水素酸と硝酸との混合液を用いて回収された白金(Pt)のエネルギー分散型蛍光X線分析装置(EDX)による測定結果である。フッ化水素酸と硝酸との混合液を用いて回収された
図12に示す金属粉末を、エネルギー分散型蛍光X線分析装置(EDX)を用いて測定した結果、
図13に示すように、シリコン(Si)と考えられるピークが示す比率は実質的に装置の検出限界以下であると考えられる比率であったため、実質的に白金(Pt)に起因するピークのみが観察された。従って、上述の各溶液に浸漬等することにより、金、銀、銅、パラジウム、ロジウム、白金、イリジウム、ルテニウム、及びオスミウムの群から選択される1種又は2種以上の元素からなる金属を回収することが可能である。
【0083】
<第4の実施形態>
本実施形態では、上述の各実施形態とは異なる態様の金属の回収方法及び金属の回収装置300を示す。本実施形態の金属の回収装置300は、金属廃液とフッ化水素酸312とを混合した、フッ化物イオンを含む溶液を導入するとともに、板状、塊状、または粒状のシリコンを収容したシリコン収容部340にフッ化物イオンを含む溶液を流通させる流通手段350(例えば、フッ化物イオンを含む溶液を流通させる配管とポンプ)を備えている。さらに、本実施形態の金属の回収装置300は、シリコン収容部340内において、フッ化物イオンを含む溶液を流通させることによってシリコン上に析出させた特定の金属を回収する、回収部330を備える。なお、該特定の金属を析出させるシリコンの表面積を増加させるために、塊状または粒状のシリコンを収容したシリコン収容部340を備えることが好ましい。
【0084】
本実施形態における金属の回収方法は、次のとおりである。本実施形態では、
図14に示すように、例えば、都市鉱山や工業製品の製造過程の廃液等から得られた金属廃液を収容する収容槽310内に、濃度150mMのフッ化水素酸312を混合した、いわばフッ化物イオンを含む溶液が作られる。なお、本実施形態においては、金、銀、銅、パラジウム、ロジウム、白金、イリジウム、ルテニウム、及びオスミウムの群から選択される少なくとも1種の元素、より本実施形態に特有の状況としては少なくとも2種の元素を含む金属廃棄物がフッ化物イオンを含む溶液に溶解している。
【0085】
次に、流通工程において、流通手段350により、例えば、粒子径1mm以下の粒状のシリコンを収容したシリコン収容部340にフッ化物イオンを含む溶液を流通させる。その結果、シリコン上に金属が析出することになる。そして、フッ化物イオンを含む溶液の流通を開始してから60分後に、シリコン上に析出した金属を回収部330において回収する回収工程が行われる。なお、シリコン収容部340の内部の緻密さによっては、流通手段360による加圧を利用することも好適な一態様である。
【0086】
なお、十分なシリコンの量を準備すれば、前述の60分を大きく超える時間経過後にシリコン上に析出した金属を回収部330において回収する回収工程が行われても良い。また、十分なシリコンの量を準備した場合であって、金属塩の濃度がある程度低い場合には、シリコン収容部340をいわばカートリッジとして新たなシリコン収容部340と交換可能に備えた金属の回収装置も好適な一態様である。そうすれば、シリコン上に析出した金属を収容するシリコン収容部340を、例えば、回収部330を備える工場等に移送してから、該金属の回収とシリコンの再充填を行うことも可能となる。
【0087】
また、本実施形態においても、シリコンと、シリコン上に析出した金、銀、銅、パラジウム、ロジウム、白金、イリジウム、ルテニウム、及びオスミウムの群から選択される少なくとも1種の元素からなる金属との複合材料から、上述のアルカリ溶液、又はフッ化水素酸と硝酸との混合液を用いてシリコンを溶解させることにより除去することが可能である。従って、本実施形態においても、前述の1種又は2種以上の金属を回収することができる。なお、前述の工程において、該アルカリ溶液を加熱することは好適な一態様である。
【0088】
ここで、本実施形態においては、金、銀、銅、パラジウム、ロジウム、白金、イリジウム、ルテニウム、及びオスミウムの群から選択される少なくとも1種の元素、より好適には少なくとも2種の元素が、シリコン収容部340内において、シリコン上に析出している。従って、そのシリコンを含む複合材料を回収部30において回収することにより、前述の各元素を回収することが可能となる。ここで、上記の各処理は、流通手段350が備える、シリコン収容部340の温度及び圧力を制御する図示しない制御部によって、室温(25℃)、及び常圧(1気圧)下で行われた。なお、前述の制御部を設けない場合であっても、特に加熱又は冷却処理や、加圧又は減圧処理を行わなければ、上記の各処理は、実質的に室温(25℃)、及び常圧(1気圧)下で行われ得る。
【0089】
上述のとおり、本実施形態の回収方法は、極めて簡便な方法であるため、前述の各元素からなる金属を、効率よく、かつエネルギーの消費量を低く抑えて、固体粉末として回収することができる。さらに、この金属の回収方法によれば、前述のフッ化物イオンを含む溶液を、前述のシリコン収容部内に連続的に流通させることができる。従って、この金属の回収方法によって、いわゆる金属廃液から、高効率に、簡便かつ低コストで前述の各元素からなる金属を確度高く選択的に回収することができる。
【0091】
ところで、上述の第1乃至第3の実施形態では、シリコン含有混合溶液の撹拌が行われているが、この撹拌が行われない場合であっても、上述の各実施形態の少なとも一部の効果が奏され得る。但し、金属の回収効率の向上の観点から、シリコン含有混合溶液の撹拌が行われることが好適な一態様である。
【0092】
また、上述の第1乃至第3の実施形態では、板状又は粒状のシリコン14が用いられていたが、シリコン14の形態はこれらに限定されない。例えば、塊状のシリコンが粒状のシリコンに代わって用いられた場合であっても、上述の各実施形態と同様の、又は少なくとも一部の効果が奏され得る。特に、十分に粉砕されて形成された塊状のシリコンは、たとえ不揃いの形状であったとしてもその表面積が十分に広くなるため、粒状のシリコンと同等の効果が奏され得る。むしろ、廃材(例えば、シリコンを用いて半導体デバイスを製造する際のシリコンの切断又は研磨時に生じる削りかす)となったシリコンの有効活用の一例として、塊状のシリコンを上述の各実施形態に適用することは、好適な一態様といえる。従って、上述の第1乃至第4の実施形態のいずれの場合であっても、シリコンの形状にこだわらず、従来の半導体分野を含む先端技術分野において要求される観点が異なる点は特筆に値する。加えて、フッ化水素酸も、半導体産業などで使用された後の廃液を、上述の第1乃至第4の実施形態において利用することが可能である。
【0093】
さらに、上述の各実施形態では、「フッ化物イオンを含む溶液」とは、最終的に「溶液」となっていれば良く、フッ化水素酸(HF)に限定されない。例えば、固体のフッ化ナトリウム(NaF)を金属塩水溶液に加えた場合であっても、pH調整を適宜行うことにより、上述の各実施形態と同様の、又は少なくとも一部の効果が奏され得る
【0094】
また、上述の各実施形態では、室温、常圧下において、各処理が行われていたが、処理条件は、これらに限定されない。各処理層10,210、あるいはシリコン収容部340を加熱しつつ、上述の各実施形態の処理が行われても良い。あるいは、加圧下において上述の各実施形態の処理が行われても良い。しかしながら、既に述べたとおり、室温、常圧下において上述の各実施形態の処理が行われることは、簡便かつ低コストで特定の金属を回収する観点から、非常に好適な態様である。
【0095】
なお、上述の各実施形態の開示は、それらの実施形態の説明のために記載したものであって、本発明を限定するために記載したものではない。加えて、各実施形態の他の組み合わせを含む本発明の範囲内に存在する変形例もまた、特許請求の範囲に含まれるものである。