(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5945462
(24)【登録日】2016年6月3日
(45)【発行日】2016年7月5日
(54)【発明の名称】柔軟性と保水性に優れた不織布およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 5/26 20060101AFI20160621BHJP
D04H 3/14 20120101ALI20160621BHJP
D04H 1/728 20120101ALI20160621BHJP
D04H 3/011 20120101ALI20160621BHJP
D01D 5/04 20060101ALI20160621BHJP
D06M 17/00 20060101ALI20160621BHJP
【FI】
B32B5/26ZBP
D04H3/14
D04H1/728
D04H3/011
D01D5/04
D06M17/00 B
【請求項の数】8
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-140536(P2012-140536)
(22)【出願日】2012年6月22日
(65)【公開番号】特開2014-4705(P2014-4705A)
(43)【公開日】2014年1月16日
【審査請求日】2015年3月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080609
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 正孝
(72)【発明者】
【氏名】福井 三由紀
(72)【発明者】
【氏名】景山 由佳子
(72)【発明者】
【氏名】佐竹 真
(72)【発明者】
【氏名】兼子 博章
【審査官】
岸 進
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2006/022430(WO,A1)
【文献】
特開昭64−077603(JP,A)
【文献】
特開2004−263344(JP,A)
【文献】
特開2004−238749(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
D04H 1/00−18/04
D01D 1/00−13/02
D01F 1/00− 6/96
D01F 9/00− 9/04
D06M17/00−17/10
A61L15/00−33/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族ポリエステルの長繊維からなり且つ嵩密度が150から200kg/m3である繊維構造体層(A)と、脂肪族ポリエステルの長繊維からなり且つ嵩密度が5から30kg/m3である繊維構造体層(B)とが連続的に複合化された構造からなる長繊維不織布の複数枚を、部分的に熱融着して積層してなる積層不織布。
【請求項2】
脂肪族ポリエステルが、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリジオキサノン、乳酸−グリコール酸共重合体、乳酸−カプロラクトン共重合体、およびそれらを主成分とする共重合体よりなる群から選択された一つ以上である、請求項1に記載の積層不織布。
【請求項3】
長繊維の平均繊維径が0.5から10μmである請求項1または2に記載の積層不織布。
【請求項4】
長繊維が脂肪族ポリエステルに対してリン脂質を0.1から10重量%含有する請求項1から3のいずれかに記載の積層不織布。
【請求項5】
リン脂質がホスファチジルコリンまたはホスファチジルエタノールアミンである請求項4に記載の積層不織布。
【請求項6】
リン脂質がジラウロイルホスファチジルコリンである請求項4に記載の積層不織布。
【請求項7】
リン脂質がジオレオイルホスファチジルエタノールアミンである請求項4に記載の積層不織布。
【請求項8】
エレクトロスピニング法において、捕集電極が絶縁体で被覆されており、繊維構造体層(A)を30kV以下の電圧を印加して作製する工程、繊維構造体層(B)を35kV以上の電圧を印加して作製する工程、および前記工程を経て得られた長繊維不織布の複数枚を部分的に熱融着する工程を含む、請求項1から7のいずれかに記載の積層不織布の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性ポリマー
である脂肪族ポリエステルからなり、嵩密度が厚み方向に連続的に変化している不織布の複数枚を、部分的に熱融着して積層した積層不織布に関する。本発明の積層不織布は、柔軟性と保水性とを備えている。
【背景技術】
【0002】
柔軟性の高い不織布を作製する手段として、繊維径を小さくすることが知られており、極細繊維からなる不織布を作製する方法としてエレクトロスピニング法が知られている。エレクトロスピニング法では極細繊維が2次元的に広がった形で紡糸されるため、紡糸後に改めて加工する必要がないという利点がある。特許文献1ではエレクトロスピニング法で繊維径を小さくすることによって柔軟性を向上させた例が示されている。しかしエレクトロスピニング法では比較的繊維密度の高い薄膜状の不織布が得られやすく、嵩高い不織布が得られた例はない。
また不織布に柔軟性を付与する方法として、起毛加工、ニードルパンチ加工といった後加工法や複合繊維を開繊させて極細繊維不織布とすることにより柔軟性を付与する方法が知られている。特許文献2にはニードルパンチ加工やウォータージェットパンチ加工を施して長繊維を絡合させることにより、不織布表面に嵩高さと柔らかい風合いを付与する方法が記載されている。特許文献3には熱可塑性複合連続繊維の繊維束において、所定の単糸繊度、全繊度、顕在捲縮数、繊維束密度及び開繊密度比を満たすことにより、該繊維束から開繊工程を経て均一で嵩高い、風合いに優れたウェブを提供する方法が記載されている。しかし、これらの方法では製造工程が増えるため、製造コストが増加し、生産性が低下する。
【0003】
また、融点の異なるポリマーからなる複合繊維の低融点ポリマーのみを硬化させることで柔軟性不織布を作製する方法が知られている。特許文献4にはポリ乳酸系重合体とポリ乳酸系重合体よりも低い融点を有するポリオレフィン系重合体を、ポリ乳酸系重合体が芯部を形成し、ポリオレフィン系重合体が鞘部を形成してなる芯鞘型複合長繊維とすることで柔軟性と機械的強度を合わせ持った不織布が得られると記載されている。しかし生分解性ポリマー単独で、後加工を施すことなく柔軟な不織布を作製する方法は知られていない。
一方、不織布の保水性を高める方法として吸水性成分を含有させる方法が知られている。特許文献5には保湿成分としてグリセリン等の水溶性成分を塗布する方法が記載されているが、このような添加剤なしに保水性を高める方法は知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−56047号公報
【特許文献2】特開2006−104603号公報
【特許文献3】特開2008−63712号公報
【特許文献4】特開2009−22747号公報
【特許文献5】特開2008−208492号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、後加工を施すことなく、その構造から柔軟性と保水性を発揮する生分解性ポリマー
である脂肪族ポリエステルからなる長繊維不織布の積層体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
脂肪族ポリエステルの長繊維からなり且つ嵩密度が150から200kg/m
3である繊維構造体層(A)と、
脂肪族ポリエステルの長繊維からなり且つ嵩密度が5から30kg/m
3である繊維構造体層(B)とが連続的に複合化された構造からなる長繊維不織布の複数枚を、部分的に熱融着して積層してなる積層不織布である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の積層不織布は、柔軟性と保水性に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明で用いる生分解性ポリマ
ーは、例えばポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリジオキサノン、乳酸−グリコール酸共重合体、乳酸−カプロラクトン共重合体、ポリグリセロールセバシン酸、ポリヒドロキシアルカン酸、ポリブチレンサクシネートなどの脂肪族ポリエステル
である。好ましくはポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸−グリコール酸共重合体などの脂肪族ポリエステルであり、さらに好ましくはポリ乳酸、乳酸−グリコール酸共重合体である。いずれの生分解性ポリマーも疎水性ポリマーであるため、ポリマーそのものは保水性を保有していない。そのため、本発明では、ポリマーの性質による保水ではなく、構造による保水である。よって、いずれの生分解性ポリマーでも同様の保水性を達成することができる。
ポリ乳酸を用いる場合、ポリマーを構成するモノマーには、L−乳酸、D−乳酸があるが、特に制限はない。またポリマーの光学純度や分子量、L体とD体の組成比や配列には特に制限はないが、好ましくはL体の多いポリマーがよく、ポリL乳酸とポリD乳酸のステレオコンプレックスを用いてもよい。
【0009】
本発明で用いる
脂肪族ポリエステル(以下生分解性ポリマー
または単にポリマーということもある)は高純度であることが好ましく、とりわけポリマー中に含まれる添加剤や可塑剤、残存触媒、残存モノマー、成型加工に用いた残留溶媒などの残留物は少ないほうが好ましい。特に医療に用いる場合は、安全性の基準値未満に抑えることが求められる。
また、本発明で用いる生分解性ポリマーの重量平均分子量としては、1×10
3〜5×10
6が好ましく、より好ましくは1×10
4〜1×10
6、さらに好ましくは5×10
4〜5×10
5である。またポリマーの末端構造やポリマーを重合する触媒は任意に選択できる。
本発明の積層不織布を構成する繊維には、所期の目的を損なわない範囲で他のポリマーや他の化合物を混合してもよい。例えばポリマー共重合、ポリマーブレンド、化合物混合である。
【0010】
本発明の積層不織布はリン脂質を含有してもよい。リン脂質はポリマー重量に対して0.1〜10重量%含有することができる。リン脂質の含有量が0.1重量%より少ないと、生分解性ポリマーの疎水性性質のため濡性が好ましくなく、10重量%よりも多いと、繊維構造体自体の耐久性が低下するため好ましくない。好ましい含有量は0.2〜5重量%であり、さらに好ましくは0.3〜3重量%である。
かかるリン脂質は動物組織から抽出したものでも人工的に合成したものでもよく、例えばホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロールなどが挙げられる。これらから1種類を選択してもよいし、2種類以上の混合物で用いてもよい。好ましくはホスファチジルコリンまたはホスファチジルエタノールアミンであり、さらに好ましくはジラウロイルホスファチジルコリンまたはジオレオイルホスファチジルエタノールアミンである。
【0011】
本発明の積層不織布は長繊維よりなり、紡糸から不織布への加工にいたるプロセスの中で、繊維を切断する工程を加えずに形成される。繊維長は300mm以上が好ましい。
こうした長繊維を得る方法のひとつがエレクトロスピニング法である。エレクトロスピニング法は、ポリマーを溶媒に溶解させた溶液に高電圧を印加することで、電極上に繊維成形体を得る方法である。
【0012】
本発明の不織布の平均繊維径は好ましくは0.5から10μmであの、より好ましくは3から5μmである。0.5μmよりも小さいか10μmよりも大きいと、それを積層不織布にして医療用品として用いた場合に良好な特性が得られない。なお、繊維径とは繊維断面の直径を表す。繊維断面の形状は円形に限らず、楕円形や異形になることもありうる。楕円形の場合の繊維径とは、その長軸方向の長さと短軸方向の長さの平均をその繊維径として算出する。また、繊維断面が円形でも楕円形でもないときには円または楕円に近似して繊維径を算出する。
【0013】
本発明の積層不織布を構成する不織布を得る方法の一例を説明する。エレクトロスピニング法において、捕集電極を絶縁体で被覆し、30kV以下の電圧を印加して紡糸することにより嵩密度が150から200kg/m
3である繊維構造体層(A)を得て、その上に35kV以上の高電圧を印加して紡糸することにより、嵩密度が5から30kg/m
3である繊維構造体層(B)が連続的に複合化された不織布を得ることができる。紡糸の際の電極間距離は10〜50cm、吐出速度は3〜20ml/hが好ましい。
なお、ここでいう「連続」とは、繊維構造体層(A)と(B)をそれぞれ作製して積層するのではなく、製造途中での条件変更により一工程で(A)と(B)の積層体相当の構造を作製するなどして、繊維構造体層(A)と(B)との間に、嵩密度が変化すること以外の不連続性がない状態をいう。そして、後工程で積層したような不連続性がない構造であることを明確化するため、本発明で用いる不織布の層状構造をつくることを「複合化」と表現している。これに対し、後述する熱融着による積層は一般的意味の積層である。
【0014】
柔軟性と保水性の二つの特徴を保持するためには、繊維構造体層(B)のような疎な構造が重要となる。柔軟性と保水性を上げるためには、嵩密度を低下させることが重要となるが、嵩密度を低下させると不織布の構造保持力に欠け、毛羽立ちやすくなるため取扱性が低下する。本発明では、嵩密度が150から200kg/m
3である繊維構造体層(A)を複合化させていることから、繊維構造体層(B)の構造保持力の低下が補われ、さらには毛羽立ちが抑えられている。繊維構造体層(A)と(B)のそれぞれの嵩密度は、(A)では150から200kg/m
3である。150kg/m
3以下では構造保持が難しく、200kg/m
3以上では自己支持性が高くなり、柔軟性が得られない。一方、(B)は5から30kg/m
3である。5kg/m
3以下では水分を保持した際に構造保持が難しく、30kg/m
3以上では柔軟性が得られない。
繊維構造体層(A)と(B)のそれぞれの厚みは、(A)では5から30μmであることが好ましい。5μm以下では構造保持が難しく、30μm以上では自己支持性が高くなり柔軟性が得られない。一方、(B)は200から1000μmであることが好ましい。200μm以下では保水性に乏しく、1000μm以上では積層後の柔軟性が低下する。
【0015】
部分的熱融着の方法は特に限定されるものではないが、熱した金型等を押し付ける方法が好ましい。熱融着は、十分に融着することができればシート片面のみの処理であっても両面からの処理であってもよい。熱融着に用いる金型等の温度は用いた生分解性ポリマーのガラス転移点より10℃以上、好ましくは30℃以上高い温度条件である。熱融着温度が用いた生分解性ポリマーのガラス転移点より10℃以上高温でない場合、シート裏面もしくは内部まで熱が伝わらず、本発明の積層不織布を製造することができない。
熱融着面積は5から20%、好ましくは5から10%である。5%以下では積層構造の維持が困難であり、20%以上では嵩高さと柔軟性を欠くものとなる。
積層枚数は好ましくは3から10枚、より好ましくは3から5枚である。2枚以下であると保水量が不十分となり易く、11枚以上であると柔軟性が低下する傾向を示す。
【0016】
本発明の不織布は保水性に優れており、医療用品として体内で使用する際に体液や血液が保持される。本発明の積層不織布の保水率は1200から2200重量%、好ましくは1500から2200重量%である。
シート状不織布の柔軟性は、剛軟性で測定することができる。具体的には、JIS L1096 8.19.2 B法(スライド法)などを用いて測定することができる。剛軟度は2.0mN・cm以下であることが好ましく、より好ましくは1.5mN・cm以下である。2.0mN・cm以上であると不織布は柔軟性に欠け、表面が凹凸な組織表面への追従性に欠けるので好ましくない。
【0017】
本発明の積層不織布の表面に、さらに綿状の繊維構造物を積層することや、綿状構造物を本発明の不織布ではさんでサンドイッチ構造にするなどの加工は、所期の目的を損ねない範囲で任意に実施しうる。
本発明の積層不織布やそれを構成する長繊維には、医療応用において抗血栓性を付与するためのコーティング処理、あるいは抗体や生理活性物質で表面をコーティングすることも任意に実施できる。このときのコーティング方法や処理条件、その処理に用いる化学薬品は、繊維の構造を極端に破壊せず、本発明の目的を損なわない範囲で任意に選択できる。
【0018】
本発明の積層不織布を構成する繊維内部にも任意に薬剤を含ませることができる。エレクトロスピニング法で成型する場合は、揮発性溶媒に可溶であり、溶解によりその生理活性を損なわないものであれば、使用する薬剤に特に制限はない。かかる薬剤の具体例としては、タクロリムスもしくはその類縁体、スタチン系、またはタキサン系抗癌剤が例示できる。また、揮発性溶媒中において活性を維持できるものであれば、タンパク質製剤、核酸医薬であってもよい。また、薬剤以外でも、金属、多糖、脂肪酸、界面活性剤、揮発性溶媒耐性微生物を含んでいてもよい。
本発明の積層不織布は医療用品、とりわけ臓器表面や創傷部位の保護材、被覆材、シール材として、人工硬膜、癒着防止材、止血材などに好適に用いられる。
【実施例】
【0019】
以下の実施例において、保水率、柔軟性は次のようにして求めた。
【0020】
保水率:1cm×1cm角の試料を切り取り、試料に5μLずつ水を含浸させ、含水量を求めた。
保水率(重量%)=(W2−W1)/W1×100
W1:初期試料重量 W2:含水時試料重量
柔軟性:(JIS−L−1906 8.19.2 B法)スライド法で、試験片の大きさを1cm×7.5cmとして剛軟度測定を行った。
【0021】
実施例1
0.4重量%のホスファチジルコリンジラウロイルを添加したポリ乳酸(重量平均分子量13万3千、PURAC)11重量部を、79重量部のジクロロメタンと10重量部のエタノールに溶解し、均一な溶液を得た。これを用いてエレクトロスピニング法で紡糸し、シート状の不織布を調製した。噴出ノズルの内径は0.8mm、噴出ノズルから陰極平板までの距離は35cm、吐出速度は10ml/h、湿度31%であった。陰極平板には絶縁体として、縦糸がレーヨンであり横糸がポリエステルである編み布を貼付した。印加電圧は紡糸開始時は23kVとし、3分後に45kVに変更した。得られた不織布の繊維の繊維径は4.4μmであった。また、その不織布の疎構造の嵩密度は16kg/m
3、厚みは425μm、密構造の嵩密度は172kg/m
3、厚みは11μmであった。この不織布を部分的熱融着により4枚積層した。熱融着には100℃に熱した金型を用い、片面のみ処理した。融着面積は9%とした。得られた積層不織布の目付けは2.5mg/cm
2、保水率は1600重量%、柔軟性は0.96mN・cmであった。
【0022】
実施例2
0.4重量%のホスファチジルコリンジラウロイルを添加したポリ乳酸(重量平均分子量13万3千、PURAC)11重量部を、79重量部のジクロロメタンと10重量部のエタノールに溶解し、均一な溶液を得た。これを用いてエレクトロスピニング法で紡糸し、シート状の不織布を調製した。噴出ノズルの内径は0.8mm、噴出ノズルから陰極平板までの距離は35cm、吐出速度は6ml/h、湿度26%であった。陰極平板には絶縁体として、縦糸がレーヨンであり横糸がポリエステルである編み布を貼付した。印加電圧は紡糸開始時は23kVとし、3分後に45kVに変更した。得られた不織布の繊維の繊維径は3.3μmであった。また、その不織布の疎構造の嵩密度は13kg/m
3、厚みは650μm、密構造の嵩密度は158kg/m
3、厚みは17μmであった。この不織布を部分的熱融着により3枚積層した。熱融着には100℃に熱した金型を用い、片面のみ処理した。融着面積は9%とした。得られた積層不織布の目付けは2.8mg/cm
2、保水率は2075重量%、柔軟性は0.96mN・cmであった。
【0023】
実施例3
0.4重量%のホスファチジルコリンジラウロイルを添加した乳酸−グリコール酸共重合体(重量平均分子量12万6千、モル比=50/50、PURAC)12重量部を、88重量部のジクロロメタンに溶解し、均一な溶液を得た。これを用いてエレクトロスピニング法で紡糸し、シート状の不織布を調製した。噴出ノズルの内径は0.8mm、噴出ノズルから陰極平板までの距離は30cm、吐出速度は10ml/h、湿度11%であった。陰極平板には絶縁体として、縦糸がレーヨンであり横糸がポリエステルである編み布を貼付した。印加電圧は23kVとし、3分後に45kVに変更した。得られた不織布の繊維の繊維径は5.2μmであった。その不織布の疎構造の嵩密度は18kg/m
3、厚みは833μm、密構造の嵩密度は152kg/m
3、厚みは14.5μmであった。この不織布を部分的熱融着により2枚積層した。熱融着には100℃に熱した金型を用い、片面のみ処理した。融着面積は9%とした。得られた積層不織布の目付けは3.9mg/cm
2、保水率は1282重量%、柔軟性は1.24mN・cmであった。
【0024】
比較例1
0.4重量%のホスファチジルコリンジラウロイルを添加したポリ乳酸(重量平均分子量13万3千、PURAC)11重量部を、79重量部のジクロロメタンと10重量部のエタノールに溶解し、均一な溶液を得た。これを用いてエレクトロスピニング法で紡糸し、シート状の不織布を調製した。噴出ノズルの内径は0.8mm、噴出ノズルから陰極平板までの距離は35cm、吐出速度は6ml/h、湿度22%であった。陰極平板には絶縁体として、縦糸がレーヨンであり横糸がポリエステルである編み布を貼付した。印加電圧は23kVとした。得られた不織布の繊維の繊維径は4.1μm、不織布の嵩密度は121kg/m
3、厚みは105μmであった。この不織布を部分的熱融着により3枚積層した。熱融着には100℃に熱した金型を用い、片面のみ処理した。融着面積は9%とした。得られた積層不織布の目付けは4.0mg/cm
2、保水率は750重量%、柔軟性は7.55mN・cmであった。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明の積層不織布は疎な部分構造を有しているために柔軟性が高く、表面が凹凸な組織表面への追従性が高い。また、保水性も兼ね備えており、医療用品、とりわけ臓器表面や創傷部位の保護材、被覆材として有用である。