特許第5945484号(P5945484)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5945484
(24)【登録日】2016年6月3日
(45)【発行日】2016年7月5日
(54)【発明の名称】車両用変速機
(51)【国際特許分類】
   F16H 3/089 20060101AFI20160621BHJP
   F16D 11/10 20060101ALI20160621BHJP
【FI】
   F16H3/089
   F16D11/10 C
【請求項の数】5
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2012-206908(P2012-206908)
(22)【出願日】2012年9月20日
(65)【公開番号】特開2014-62565(P2014-62565A)
(43)【公開日】2014年4月10日
【審査請求日】2015年9月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】592058315
【氏名又は名称】アイシン・エーアイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】特許業務法人プロスペック特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】枡井 勇樹
(72)【発明者】
【氏名】丹波 俊夫
【審査官】 塚本 英隆
(56)【参考文献】
【文献】 特表2008−531948(JP,A)
【文献】 特表2009−536713(JP,A)
【文献】 特開2012−127471(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0179024(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 3/089
F16D 11/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の駆動源の駆動出力軸と前記車両の駆動輪とを結ぶ動力伝達系統に介装され、複数の変速段を有する車両用変速機であって、
前記駆動出力軸との間で動力伝達系統が形成される入力軸と、
前記駆動輪との間で動力伝達系統が形成される出力軸と、
それぞれが前記入力軸又は前記出力軸に同軸的且つ相対回転不能に設けられるとともに、前記複数の変速段のそれぞれに対応する複数の固定ギヤと、
それぞれが前記入力軸又は前記出力軸に同軸的且つ相対回転可能に設けられるとともに、前記複数の変速段のそれぞれに対応し、且つ対応する変速段の前記固定ギヤと常時噛合する複数の遊転ギヤと、
を備え、
前記複数の遊転ギヤは、
前記複数の変速段のうちの低速側変速段及び高速側変速段につき、前記低速側変速段の前記固定ギヤに常時噛合する第1遊転ギヤと、前記高速側変速段の前記固定ギヤに常時噛合する第2遊転ギヤと、
を含み、
当該車両用変速機は更に、
前記入力軸及び前記出力軸のうち前記第1遊転ギヤ及び前記第2遊転ギヤの双方が設けられている軸にそれぞれ同軸的且つ相対回転可能に設けられた第1係合部材及び第2係合部材と、
前記第1遊転ギヤ及び前記第1係合部材を連結する連結位置と、前記第1遊転ギヤ及び前記第1係合部材を連結しない非連結位置とに移動可能な第1可動部材と、
前記第2遊転ギヤ及び前記第2係合部材を連結する連結位置と、前記第2遊転ギヤ及び前記第2係合部材を連結しない非連結位置とに移動可能な第2可動部材と、
前記軸に対する前記第1係合部材及び前記第2係合部材のそれぞれの回転トルクの伝達状態を設定可能なクラッチ機構と、
前記第1可動部材及び前記第2可動部材のそれぞれを当該可動部材の前記連結位置又は前記非連結位置に駆動するための駆動装置と、
を含み、
前記クラッチ機構は、
前記第1係合部材と前記第2係合部材との間に、前記軸に同軸的に、且つ前記第1係合部材に対して相対回転可能に設けられた第1クラッチプレートと、
前記第1クラッチプレートと前記第2係合部材との間に、前記軸に同軸的に、且つ前記第2係合部材及び前記第1クラッチプレートのそれぞれに対して相対回転可能に設けられた第2クラッチプレートと、
前記第1クラッチプレート及び前記第2クラッチプレートの相対回転に応じて、前記第1係合部材及び前記第1クラッチプレートを相対回転不能に連結する第1の係合位置と、前記第1クラッチプレート及び前記第2クラッチプレートを相対回転不能に連結する第2の係合位置とに設定可能な第1係合片と、
前記第1クラッチプレート及び前記第2クラッチプレートの相対回転に応じて、前記第2係合部材及び前記第2クラッチプレートを相対回転不能に連結する第1の係合位置と、前記第1クラッチプレート及び前記第2クラッチプレートを相対回転不能に連結する第2の係合位置とに設定可能な第2係合片と、
を含み、
前記駆動装置によって前記第1可動部材が当該第1可動部材の前記連結位置に駆動され、且つ前記第2可動部材が当該第2可動部材の前記非連結位置に駆動されるとともに、前記クラッチ機構によって前記第1係合片及び前記第2係合片がいずれも当該係合片の前記第1の係合位置に設定された低速モードと、
前記駆動装置によって前記第1可動部材が当該第1可動部材の前記非連結位置に駆動され、且つ前記第2可動部材が当該第2可動部材の前記連結位置に駆動されるとともに、前記クラッチ機構によって前記第1係合片及び前記第2係合片がいずれも当該係合片の前記第1の係合位置に設定された高速モードと、
前記低速モードと前記高速モードとの間で、前記駆動装置によって前記第1可動部材及び前記第2可動部材がそれぞれ当該可動部材の前記連結位置に駆動されるとともに、前記クラッチ機構によって前記第1係合部材の回転トルクが前記第1係合片を介して前記第1クラッチプレートに伝達され、且つ前記第2係合部材の回転トルクが前記第2係合片を介して前記第2クラッチプレートに伝達されることで前記第1クラッチプレート及び第2クラッチプレートの相対回転が生じ、これにより前記第1係合片及び前記第2係合片の一方の設定位置が当該係合片の前記第1の係合位置から前記第2の係合位置に切り替わる中間モードと、のうちのいずれかのモードを選択的に達成する、車両用変速機。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用変速機であって、
前記クラッチ機構は、
前記第1係合片及び前記第2係合片をそれぞれ当該係合片の前記第2の係合位置から前記第1の係合位置に向けて常時に弾性付勢する第1の弾性部材と、
前記第1係合片が当該第1係合片の前記第1の係合位置にあるとき、前記第1係合部材及び前記第1クラッチプレートの相対回転に伴って互いに当接する前記第1係合片と前記第1係合部材との間に生じる荷重を、前記第1係合片を当該第1係合片の前記第2の係合位置に向けて付勢する荷重に変換するための第1の当接構造と、
前記第2係合片が当該第2係合片の前記第1の係合位置にあるとき、前記第2係合部材及び前記第2クラッチプレートの相対回転に伴って互いに当接する前記第2係合片と前記第2係合部材との間に生じる荷重を、前記第2係合片を当該第2係合片の前記第2の係合位置に向けて付勢する荷重に変換するための第2の当接構造と、
を含み、
前記中間モードでは、前記第1係合片及び前記第2係合片の一方を、前記第1の当接構造又は前記第2の当接構造によって、前記第1の弾性部材の弾性付勢力に抗して当該係合片の前記第1の係合位置から前記第2の係合位置に向けて付勢する、車両用変速機。
【請求項3】
請求項2に記載の車両用変速機であって、
第1の当接構造は、前記第1係合片と前記第1係合部材との当接部位に前記第1係合部材及び前記第1クラッチプレートの相対回転方向に対して傾斜状に延在する第1傾斜面を含み、
第2の当接構造は、前記第2係合片と前記第2係合部材との当接部位に前記第2係合部材及び前記第2クラッチプレートの相対回転方向に対して傾斜状に延在する第2傾斜面を含む、車両用変速機。
【請求項4】
請求項1から3のうちのいずれか一項に記載の車両用変速機であって、
前記クラッチ機構は、
前記第1クラッチプレート及び前記第2クラッチプレートのそれぞれを前記軸に相対回転可能に連結し、当該クラッチプレートを前記軸の軸周り方向に常時に弾性付勢する第2の弾性部材を含む、車両用変速機。
【請求項5】
請求項1から4のうちのいずれか一項に記載の車両用変速機であって、
前記第1可動部材にそれぞれ割り当てられた1速用の遊転ギヤ及び3速用の遊転ギヤと、
前記第2可動部材にそれぞれ割り当てられた2速用の遊転ギヤ及び4速用の遊転ギヤと、
を含み、
前記駆動装置によって前記第1可動部材との連結に係る前記第1遊転ギヤとして前記1速用の遊転ギヤ又は前記3速用の遊転ギヤが選択され、且つ前記第2可動部材との連結に係る前記第2遊転ギヤとして前記2速用の遊転ギヤ又は前記4速用の遊転ギヤが選択される、車両用変速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
特表2009−536713号公報(特許文献1)及び特表2010−510464号公報(特許文献2)には、車両用変速機の一例が開示されている。この変速機では、低速側のギヤに設けられた第1被係合部材(駆動構造体)に係合可能な一方の係合部材(係合要素セット)と、高速側のギヤに設けられた第2被係合部材(駆動構造体)に係合可能な他方の係合部材(係合要素セット)が用いられており、これら2つの係合部材(係合要素セット)のそれぞれが、各係合部材に専用の駆動部材(フォーク及びフォークシャフト)及びアクチュエータによって軸方向に独立して駆動されるように構成されている。本構成によれば、各係合部材の駆動をアクチュエータによって制御することで、一方の係合部材が第1被係合部材に係合した低速側の変速段から、他方の係合部材が第2被係合部材に係合した高速側の変速段への変更(加速シフト)を瞬時に行うことが可能であり、これによりトルクの途切れのない変速、所謂「シームレスシフト」を達成することができる。また、このシームレスシフトを達成するために、高速側の被係合部材と低速側の被係合部材の双方に1つの係合部材が同時に係合した状態、所謂「二重係合状態(二重噛み合い状態)」が一時的に形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2009−536713号公報
【特許文献2】特表2010−510464号公報
【発明の概要】
【0004】
ところで、上記特許文献1及び2に記載のような変速機では、前述の二重係合状態が形成されるため、低速側の変速段と高速側の変速段との間での円滑なシームレスシフトが阻害される可能性がある。
【0005】
そこで本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、その目的の一つは、低速側の変速段と高速側の変速段との間でシームレスシフトを行う機構を含む車両用変速機において、シームレスシフトの円滑化を図るのに有効な技術を提供することを目的としている。
【0006】
この目的を達成するために、本発明に係る車両用変速機は、車両の駆動源の駆動出力軸と車両の駆動輪とを結ぶ動力伝達系統に介装され、複数の変速段を有する変速機であって、入力軸、出力軸、複数の固定ギヤ、複数の遊転ギヤ、第1係合部材、第2係合部材、第1可動部材、第2可動部材、クラッチ機構及び駆動装置を備えている。
【0007】
入力軸は、駆動出力軸との間で動力伝達系統が形成される軸である。出力軸は、駆動輪との間で動力伝達系統が形成される軸である。複数の固定ギヤは、それぞれが入力軸又は出力軸に同軸的且つ相対回転不能に設けられるとともに、複数の変速段のそれぞれに対応するギヤである。複数の遊転ギヤは、それぞれが入力軸又は出力軸に同軸的且つ相対回転可能に設けられるとともに、複数の変速段のそれぞれに対応し、且つ対応する変速段の固定ギヤと常時噛合するギヤである。これら複数の遊転ギヤは、複数の変速段のうちの低速側変速段及び高速側変速段につき、低速側変速段の固定ギヤに常時噛合する第1遊転ギヤと、高速側変速段の固定ギヤに常時噛合する第2遊転ギヤとを含む。この場合、第2遊転ギヤは第1遊転ギヤよりも高速用の遊転ギヤであればよい。例えば第1遊転ギヤが1速用の遊転ギヤである場合に、第2遊転ギヤを2速用の遊転ギヤ、3速用の遊転ギヤ、4速用の遊転ギヤ等の複数から適宜に選択することができる。
【0008】
第1係合部材及び第2係合部材はいずれも、入力軸及び出力軸のうち第1遊転ギヤ及び第2遊転ギヤの双方が設けられている軸に同軸的且つ相対回転可能に設けられている。この場合、入力軸のみに第1遊転ギヤ及び第2遊転ギヤが設けられている場合には入力軸のみに第1係合部材及び第2係合部材を設け、出力軸のみに第1遊転ギヤ及び第2遊転ギヤが設けられている場合には出力軸のみに第1係合部材及び第2係合部材を設け、入力軸及び出力軸の双方に第1遊転ギヤ及び第2遊転ギヤが設けられている場合には入力軸及び出力軸の双方に第1係合部材及び第2係合部材を設けることができる。
第1可動部材は、第1遊転ギヤ及び第1係合部材を連結する連結位置と、第1遊転ギヤ及び第1係合部材を連結しない非連結位置とに移動可能である。同様に、第2可動部材は、第2遊転ギヤ及び第2係合部材を連結する連結位置と、第2遊転ギヤ及び第2係合部材を連結しない非連結位置とに移動可能である。
クラッチ機構は、前記軸に対する第1係合部材及び第2係合部材のそれぞれの回転トルクの伝達状態を設定可能である。
駆動装置は、第1可動部材及び第2可動部材のそれぞれを当該可動部材の連結位置又は非連結位置に駆動するための装置である。
【0009】
特にクラッチ機構は、第1クラッチプレート、第2クラッチプレート、第1係合片及び第2係合片を含む。第1クラッチプレートは、第1係合部材と第2係合部材との間に、前記軸に同軸的に、且つ第1係合部材に対して相対回転可能に設けられている。第2クラッチプレートは、第1クラッチプレートと第2係合部材との間に、前記軸に同軸的に、且つ第2係合部材及び第1クラッチプレートのそれぞれに対して相対回転可能に設けられている。第1係合片は、第1クラッチプレート及び第2クラッチプレートの相対回転に応じて、第1係合部材及び第1クラッチプレートを相対回転不能に連結する第1の係合位置と、第1クラッチプレート及び第2クラッチプレートを相対回転不能に連結する第2の係合位置とに設定可能である。第2係合片は、第1クラッチプレート及び第2クラッチプレートの相対回転に応じて、第2係合部材及び第2クラッチプレートを相対回転不能に連結する第1の係合位置と、第1クラッチプレート及び第2クラッチプレートを相対回転不能に連結する第2の係合位置とに設定可能である。
【0010】
この車両用変速機では、低速モード、高速モード及び中間モードのうちのいずれかのモードが選択的に達成される。
【0011】
低速モードでは、駆動装置によって第1可動部材が当該第1可動部材の連結位置に駆動され、且つ第2可動部材が当該第2可動部材の非連結位置に駆動されるとともに、クラッチ機構によって第1係合片及び第2係合片がいずれも当該係合片の第1の係合位置に設定される。これにより第1遊転ギヤの回転トルクが第1可動部材、第1係合部材、第1係合片及び第1クラッチプレートを介して前記軸に伝達される。
【0012】
高速モードでは、駆動装置によって第1可動部材が当該第1可動部材の非連結位置に駆動され、且つ第2可動部材が当該第2可動部材の連結位置に駆動されるとともに、クラッチ機構によって第1係合片及び第2係合片がいずれも当該係合片の第1の係合位置に設定される。これにより第2遊転ギヤの回転トルクが第2可動部材、第2係合部材、第2係合片及び第2クラッチプレートを介して前記軸に伝達される。
【0013】
低速モードと高速モードとの間の中間モードでは、駆動装置によって第1可動部材及び第2可動部材がそれぞれ当該可動部材の連結位置に駆動されるとともに、クラッチ機構によって第1係合部材の回転トルクが第1係合片を介して第1クラッチプレートに伝達され、且つ第2係合部材の回転トルクが第2係合片を介して第2クラッチプレートに伝達されることで第1クラッチプレート及び第2クラッチプレートの相対回転が生じ、これにより第1係合片及び第2係合片の一方の設定位置が当該係合片の第1の係合位置から第2の係合位置に切り替わる。この場合、例えば第1係合片が第2の係合位置に設定されると、第1クラッチプレート及び第2クラッチプレートが一体状に回転する一方で、第1クラッチプレートに対する第1係合部材の相対回転が可能になる。従って、前記軸に対する第1係合部材の回転トルクの伝達が遮断された高速モードが形成される。同様に、例えば第2係合片が第2の係合位置に設定されると、第1クラッチプレート及び第2クラッチプレートが一体状に回転する一方で、第2クラッチプレートに対する第2係合部材の相対回転が可能になる。従って、前記軸に対する第2係合部材の回転トルクの伝達が遮断された低速モードが形成される。
【0014】
上記構成の車両用変速機によれば、車両用変速機が低速モードから中間モードを経て高速モードへと制御されることによって、或いは高速モードから中間モードを経て低速モードへと制御されることによって、トルクの途切れのない変速(シームレスシフト)が達成される。特に、中間モードにおいて第1クラッチプレート及び第2クラッチプレートの相対回転に応じて、前記軸に対する第1係合部材又は第2係合部材の回転トルクの遮断を行うことができる。このため、低速側の変速段と高速側の変速段との間でのシームレスシフトの円滑化を図ることができる。
【0015】
本発明に係る更なる形態の車両用変速機では、クラッチ機構は、第1の弾性部材と、第1の当接面構造と、第2の当接構造と、を含むのが好ましい。
第1の弾性部材は、第1係合片及び第2係合片をそれぞれ当該係合片の第2の係合位置から第1の係合位置に向けて常時に弾性付勢する機能を果たす。この第1の弾性部材を1又は複数の弾性要素によって構成することができる。
第1の当接構造は、第1係合片が当該第1係合片の第1の係合位置にあるとき、第1係合部材及び第1クラッチプレートの相対回転に伴って互いに当接する第1係合片と第1係合部材との間に生じる荷重を、第1係合片を当該第1係合片の第2の係合位置に向けて付勢する荷重に変換する機能を果たす。同様に、第2の当接構造は、第2係合片が当該第2係合片の第1の係合位置にあるとき、第2係合部材及び第2クラッチプレートの相対回転に伴って互いに当接する第2係合片と第2係合部材との間に生じる荷重を、第2係合片を当該第2係合片の第2の係合位置に向けて付勢する荷重に変換する機能を果たす。中間モードでは、第1係合片及び第2係合片の一方を、第1の当接構造又は第2の当接構造によって、第1の弾性部材の弾性付勢力に抗して当該係合片の第1の係合位置から第2の係合位置に向けて付勢する。
これにより、第1係合部材及び第1クラッチプレートの相対回転や、第2係合部材及び第2クラッチプレートの相対回転を利用して、第1係合片や第2係合片の設定位置を第1の係合位置から第2の係合位置に切り替えるための付勢力を発生させることができ合理的である。
【0016】
本発明に係る更なる形態の車両用変速機では、第1の当接構造は、第1係合片と第1係合部材との当接部位に第1係合部材及び第1クラッチプレートの相対回転方向に対して傾斜状に延在する第1傾斜面を含むのが好ましい。この傾斜面を第1係合片及び第1係合部材の少なくとも一方に設けることができる。また、第2の当接構造は、第2係合片と第2係合部材との当接部位に第2係合部材及び第2クラッチプレートの相対回転方向に対して傾斜状に延在する第2傾斜面を含むのが好ましい。この傾斜面を第2係合片及び第2係合部材の少なくとも一方に設けることができる。
これにより、第1係合片や第2係合片の設定位置を第1の係合位置から第2の係合位置に切り替えるための付勢力を発生させる構造に、第1係合片及び第1係合部材の当接部位に設けた傾斜面や、第2係合片及び第2係合部材の当接部位に設けた傾斜面を利用することができる。
【0017】
本発明に係る更なる形態の車両用変速機では、クラッチ機構は、第1クラッチプレート及び第2クラッチプレートのそれぞれを前記軸に相対回転可能に連結し、当該クラッチプレートを前記軸の軸周り方向に常時に弾性付勢する第2の弾性部材を含むのが好ましい。この第2の弾性部材を1又は複数の弾性要素によって構成することができる。この場合、前記軸に対する第1クラッチプレート及び第2クラッチプレートのそれぞれの相対回転位置の位置決めを第2の弾性部材によって簡単に行うことができる。
【0018】
本発明に係る更なる形態の車両用変速機は、第1可動部材にそれぞれ割り当てられた1速用の遊転ギヤ及び3速用の遊転ギヤと、第2可動部材にそれぞれ割り当てられた2速用の遊転ギヤ及び4速用の遊転ギヤと、を含むのが好ましい。この場合、駆動装置によって第1可動部材との連結に係る第1遊転ギヤとして1速用の遊転ギヤ又は3速用の遊転ギヤが選択され、且つ第2可動部材との連結に係る第2遊転ギヤとして2速用の遊転ギヤ又は4速用の遊転ギヤが選択される。この場合、例えば1速用の遊転ギヤ及び第1係合部材の連結と、2速用の遊転ギヤ及び第2係合部材の連結とを1つの可動部材が兼務するのを防止することができる。これにより、引用文献1,2について前述したような二重係合状態が形成されることがなく、例えば駆動装置が停止した場合であっても車両用変速機が二重係合状態で停止すること自体が発生しない。従って、例えば駆動装置が停止した場合に、車両用変速機が1速や2速で固定された場合であっても、車両用変速機を継続して使用することができる。また、第1可動部材が1速用の遊転ギヤ及び3速用の遊転ギヤに共用され、また第2可動部材が2速用の遊転ギヤ及び4速用の遊転ギヤに共用されるため、シームレスシフトを達成するための要素の部品点数を削減することができる。その結果、車両用変速機に関する組み付け工数、重量、コスト等を抑えることが可能になる。
【発明の効果】
【0019】
以上のように、本発明によれば、低速側の変速段と高速側の変速段との間でシームレスシフトを行う機構を含む車両用変速機において、シームレスシフトの円滑化を図るのに有効な技術を提供することが可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施形態に係る変速機T/Mの概略構成を示す図である。
図2図1中の動力伝達機構101を模式的に示す図である。
図3図2中の動力伝達機構101の領域Cの構成を示す図である。
図4図3中の第1第1係合片174の斜視図である。
図5図3中の第2第1係合片184の斜視図である。
図6図2中の動力伝達機構101のA−A断面を示す図である。
図7図2中の動力伝達機構101のB−B断面を示す図である。
図8図2において変速機T/Mの変速段が1速の場合を示す図である。
図9図3において変速機T/Mの変速段が1速の場合を示す図である。
図10図6において変速機T/Mの変速段が1速の場合を示す図である。
図11図7において変速機T/Mの変速段が1速の場合を示す図である。
図12図2において変速機T/Mの変速段が1速から2速に操作される過程を示す図である。
図13図3において変速機T/Mの変速段が1速から2速に操作される過程を示す図である。
図14図3において変速機T/Mの変速段が1速から2速に操作される過程を示す図である。
図15図6において変速機T/Mの変速段が1速から2速に操作される過程を示す図である。
図16図7において変速機T/Mの変速段が1速から2速に操作される過程を示す図である。
図17図2において変速機T/Mの変速段が2速の場合を示す図である。
図18図3において変速機T/Mの変速段が2速の場合を示す図である。
図19図6において変速機T/Mの変速段が2速の場合を示す図である。
図20図7において変速機T/Mの変速段が2速の場合を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る車両用変速機について図面を参照しつつ説明する。本発明の実施形態に係る(車両用)変速機T/Mは、車両の駆動源であるエンジンの駆動出力軸と車両の駆動輪とを結ぶ動力伝達系統に介装され、典型的には車両前進用の複数の変速段と車両後進用の1つの変速段とを備える。本明細書では、車両前進用の4つ変速段(1速(1st)〜4速(4th))の動力伝達構造についてのみ説明する。なお、変速段の数は必要に応じて適宜に変更可能であり、相対的に高速側の変速段と相対的に低速側の変速段とを有する変速機に本発明を適用することができる。
【0022】
図1に示すように、変速機T/Mは、入力軸A2及び出力軸A3を備えている。変速機T/Mの入力軸A2は、クラッチC/D及びフライホイールF/Wを介して、エンジンE/Gの駆動出力軸A1に接続されている。この入力軸A2とエンジンE/Gの駆動出力軸A1との間で動力伝達系統が形成される。この入力軸A2が本発明の「入力軸」に相当する。変速機T/Mの出力軸A3は、ディファレンシャルD/Fを介して車両の駆動輪D/Wに接続されている。この出力軸A3と駆動輪D/Wとの間で動力伝達系統が形成される。この出力軸A3が本発明の「出力軸」に相当する。
【0023】
クラッチC/Dは、変速機T/Mの入力軸A2に一体回転するように設けられた周知の構成の1つを有する摩擦クラッチディスクである。より具体的には、エンジンE/Gの駆動出力軸A1に一体回転するように設けられたフライホイールF/Wに対して、クラッチC/D(より正確には、クラッチディスク)が互いに向き合うように同軸的に配置されている。フライホイールF/Wに対するクラッチC/D(より正確には、クラッチディスク)の軸方向の位置が調整可能になっている。クラッチC/Dの軸方向位置は、クラッチアクチュエータACT1により調整される。なお、このクラッチC/Dは、運転者によって操作されるクラッチペダルを備えていない。
【0024】
変速機T/Mは、複数の固定ギヤ(「駆動ギヤ」ともいう)G1i、G2i、G3i、G4iと、複数の遊転ギヤ(「被動ギヤ」ともいう)G1o、G2o、G3o、G4oを備えている。複数の固定ギヤG1i、G2i、G3i、G4iは、それぞれが入力軸A2に同軸的且つ相対回転不能に、且つそれぞれが入力軸A2の軸方向に相対移動不能に固定されるとともに、それぞれが前進用の複数の変速段のそれぞれに対応している。具体的には、これらの固定ギヤG1i、G2i、G3i、G4iがそれぞれ、1速、2速、3速、4速に対応している。これらの固定ギヤG1i、G2i、G3i、G4iが本発明の「固定ギヤ」に相当する。複数の遊転ギヤG1o、G2o、G3o、G4oは、それぞれが出力軸A3に同軸的且つ相対回転可能に設けられ、且つそれぞれが前進用の複数の変速段のそれぞれに対応するとともに、それぞれが対応する変速段の固定ギヤと常時噛合している。具体的には、これらの遊転ギヤG1o、G2o、G3o、G4oがそれぞれ、1速、2速、3速、4速に対応している。これらの遊転ギヤG1o、G2o、G3o、G4oが本発明の「遊転ギヤ」に相当し、以下の説明では、特に遊転ギヤG1o及び遊転ギヤG2oがそれぞれ本発明の「第1遊転ギヤ」及び「第2遊転ギヤ」に相当する。
【0025】
変速機T/Mは、動力伝達機構101を含み、変速段の変更・設定は、変速機アクチュエータACT2を用いて、動力伝達機構101を作動させることによって実行される。変速段を変更することで、減速比(出力軸A3の回転速度に対する入力軸A2の回転速度の割合)が調整される。
【0026】
制御装置102は、アクセル開度センサS1、シフト位置センサS2、ブレーキセンサS3及び電子制御ユニットECUを備えている。アクセル開度センサS1は、アクセルペダルAPの操作量(アクセル開度)を検出するセンサである。シフト位置センサS2は、シフトレバーSFの位置を検出するセンサである。ブレーキセンサS3連結部材レーキペダルBPの操作の有無を検出するセンサである。電子制御ユニットECUは、上述のセンサS1〜S3、並びにその他のセンサ等からの情報等に基づいて、上述のアクチュエータACT1,ACT2を制御することで、C/Dのクラッチストローク(従って、クラッチトルク)、及び、変速機T/Mの変速段を制御する。また、この電子制御ユニットECUは、エンジンE/Gの燃料噴射量(スロットル弁の開度)を制御することで、エンジンE/Gの駆動出力軸A1の回転トルク(「駆動トルク」ともいう)を制御する。
【0027】
図2図7を参照しつつ動力伝達機構101の構造について説明する。
【0028】
図2に示す動力伝達機構101は、変速機T/Mの出力軸A3の軸上に、1速及び3速の変速段に対応した第1の動力伝達機構101aと、2速及び4速の変速段に対応した第2の動力伝達機構101bと、を備え、特にニュートラル状態として示されている。
【0029】
第1の動力伝達機構101aは、遊転ギヤG1o、遊転ギヤG3o、第1被連結部材110、第3被連結部材130、第1係合部材150、第1連結部材154、第1可動部材155、第1フォークシャフト156、第1クラッチプレート170を含む。
【0030】
第1係合部材150は、出力軸A3の軸周に同軸的且つ相対回転可能に配置されている。遊転ギヤG1o,G3oはいずれも、第1係合部材150に対して、軸方向X1,X2の移動が阻止されており、且つ軸周り方向Y1,Y2の相対回転が可能になっている。この第1係合部材150が本発明の「第1係合部材」に相当する。
【0031】
第1被連結部材110は、遊転ギヤG1oのうち遊転ギヤG3oとの対向部位に固定されている。具体的には、この第1被連結部材110がスプライン嵌合によって遊転ギヤG1oに圧入されている。従って、この第1被連結部材110は、遊転ギヤG1oと共に軸周り方向Y1,Y2に回転することができる。
【0032】
第3被連結部材130は、遊転ギヤG3oのうち遊転ギヤG1oとの対向部位に固定されている。具体的には、この第3被連結部材130がスプライン嵌合によって遊転ギヤG3oに圧入されている。従って、この第3被連結部材130は、遊転ギヤG3oと共に軸周り方向Y1,Y2に回転することができる。
【0033】
第1連結部材154は、第1被連結部材110と第3被連結部材130との間において、第1係合部材150に固定されている。従って、この第1連結部材154は、出力軸A3に対して、第1係合部材150と共に軸周り方向Y1,Y2に回転することができる。
【0034】
第1可動部材155は、第1連結部材154と共に軸周り方向Y1,Y2に回転可能であり、且つ軸方向X1,X2に相対移動可能となるように、第1連結部材154に係合している。この第1可動部材155が本発明の「第1可動部材」に相当する。この第1可動部材155は、上述の電子制御ユニットECUで制御されたアクチュエータACT2によって駆動される第1フォークシャフト156に連結されており、この第1フォークシャフト156の動作に伴って、軸方向X1,X2に関して少なくとも以下の3つの設定位置に移動可能である。ニュートラルの設定位置は、第1可動部材155が第1連結部材154のみに係合し、この第1連結部材154が第1被連結部材110や第3被連結部材130に連結されない非連結位置である。この設定位置では、遊転ギヤG1o,G3oの回転トルクが第1係合部材150に伝達されない。第1の設定位置は、1速シフト操作によって第1可動部材155が第1連結部材154及び第1被連結部材110を連結する連結位置である。この設定位置では、遊転ギヤG1oの回転トルクを第1係合部材150に伝達することができる。第2の設定位置は、3速シフト操作によって第1可動部材155が第1連結部材154及び第3被連結部材130を連結する連結位置である。この設定位置では、遊転ギヤG3oの回転トルクを第1係合部材150に伝達することができる。この場合、第1可動部材155に1速用の遊転ギヤG1o及び3速用の遊転ギヤG3oがそれぞれ割り当てられている。アクチュエータACT2及び第1フォークシャフト156は、第1可動部材155を前述の非連結位置又は連結位置に駆動するための駆動装置を構成している。この駆動装置によって、第1可動部材155との連結に係る第1遊転ギヤとして1速用の遊転ギヤG1o又は3速用の遊転ギヤG3oが選択される。
【0035】
第2の動力伝達機構101bは、遊転ギヤG2o、遊転ギヤG4o、第2被連結部材120、第4被連結部材140、第2係合部材160、第2連結部材164、第2可動部材165、第2フォークシャフト166、第2クラッチプレート180を含む。
【0036】
第2係合部材160は、出力軸A3の軸周に同軸的且つ相対回転可能に配置されている。遊転ギヤG2o,G4oはいずれも、第2係合部材160に対して、軸方向X1,X2の移動が阻止されており、且つ軸周り方向Y1,Y2の相対回転が可能になっている。この第2係合部材160が本発明の「第2係合部材」に相当する。
【0037】
第2被連結部材120は、遊転ギヤG2oのうち遊転ギヤG4oとの対向部位に固定されている。具体的には、この第2被連結部材120がスプライン嵌合によって遊転ギヤG2oに圧入されている。従って、この第2被連結部材120は、遊転ギヤG2oと共に軸周り方向Y1,Y2に回転することができる。
【0038】
第4被連結部材140は、遊転ギヤG4oのうち遊転ギヤG2oとの対向部位に固定されている。具体的には、この第4被連結部材140がスプライン嵌合によって遊転ギヤG4oに圧入されている。従って、この第4被連結部材140は、遊転ギヤG4oと共に軸周り方向Y1,Y2に回転することができる。
【0039】
第2連結部材164は、第2被連結部材120と第4被連結部材140との間において、第2係合部材160に固定されている。従って、この第2連結部材164は、出力軸A3に対して、第2係合部材160と共に軸周り方向Y1,Y2に回転することができる。
【0040】
第2可動部材165は、第2連結部材164と共に軸周り方向Y1,Y2に回転可能であり、且つ軸方向X1,X2に相対移動可能となるように、第2連結部材164に係合している。この第2可動部材165が本発明の「第2可動部材」に相当する。この第2可動部材165は、上述の電子制御ユニットECUで制御されたアクチュエータACT2によって駆動される第2フォークシャフト166に連結されており、この第1フォークシャフト166の動作に伴って、軸方向X1,X2に関して少なくとも以下の3つの設定位置に移動可能である。ニュートラルの設定位置は、第2可動部材165が第2連結部材164のみに係合し、この第2連結部材164が第2被連結部材120や第4被連結部材140に連結されない非連結位置である。この設定位置では、遊転ギヤG2o,G4oの回転トルクが第2係合部材160に伝達されない。第1の設定位置は、2速シフト操作によって第2可動部材165が第2連結部材164及び第2被連結部材120を連結する連結位置である。この設定位置では、遊転ギヤG2oの回転トルクを第2係合部材160に伝達することができる。第2の設定位置は、4速シフト操作によって第2可動部材165が第2連結部材164及び第4被連結部材140を連結する連結位置である。この設定位置では、遊転ギヤG4oの回転トルクを第2係合部材160に伝達することができる。この場合、この場合、第2可動部材165に2速用の遊転ギヤG2o及び4速用の遊転ギヤG4oがそれぞれ割り当てられている。アクチュエータACT2及び第2フォークシャフト166は、第2可動部材165を前述の非連結位置又は連結位置に駆動するための駆動装置を構成している。この駆動装置によって、第2可動部材165との連結に係る第2遊転ギヤとして2速用の遊転ギヤG2o又は4速用の遊転ギヤG4oが選択される。
【0041】
図2中のC領域の構成については図3図7が参照される。
【0042】
図3に示すように、第1係合部材150は、軸方向X1,X2に延在する筒状の筒状部151と、この筒状部151の一方の端部から軸方向X1,X2と直交する方向に延在する円板状の鍔部152とを備えている。同様に、第2係合部材160は、軸方向X1,X2に延在する筒状の筒状部161と、この筒状部161の一方の端部から軸方向X1,X2と直交する方向に延在する円板状の鍔部162とを備えている。
【0043】
動力伝達機構101のクラッチ機構103は、出力軸A3に対する第1係合部材150及び第2係合部材160のそれぞれの回転トルクの伝達状態を設定可能であり、第1クラッチプレート170、第2クラッチプレート180、第1係合片174、第2係合片184、コイルスプリング178,188を含む。このクラッチ機構103は、第1係合部材150が出力軸A3に係合した係合状態と第1係合部材150が出力軸A3に係合しない非係合状態とに設定可能であり、且つ第2係合部材160が出力軸A3に係合した係合状態と第2係合部材160が出力軸A3に係合しない非係合状態とに設定可能である。このクラッチ機構103が本発明の「クラッチ機構」に相当する。
【0044】
第1クラッチプレート170及び第2クラッチプレート180はいずれも円板状に構成されており、第1係合部材150の鍔部152と第2係合部材160の鍔部162との間に介装されている。詳細については後述するが、これら第1クラッチプレート170及び第2クラッチプレート180はそれぞれ出力軸A3の軸周面から突出する突部に係合している。
【0045】
第1クラッチプレート170は、第1係合部材150と第2係合部材160との間に、出力軸Aの軸周に同軸的に、且つ第1係合部材150に対して相対回転可能に設けられている。この第1クラッチプレート170が本発明の「第1クラッチプレート」に相当する。第2クラッチプレート180は、第1クラッチプレート170と第2係合部材160との間に、出力軸Aの軸周に同軸的に、且つ第2係合部材160及び第1クラッチプレート170のそれぞれに対して相対回転可能に設けられている。この第2クラッチプレート180が本発明の「第2クラッチプレート」に相当する。
【0046】
第1係合片174は、第1クラッチプレート170及び第2クラッチプレート180の相対回転に応じて、第1係合部材及150及び第1クラッチプレート170を相対回転不能に連結する第1の係合位置と、第1クラッチプレート170及び第2クラッチプレート180を相対回転不能に連結する第2の係合位置とに設定可能な係合片(「係合キー」ともいう)として構成されている。即ち、第1クラッチプレート170及び第2クラッチプレート180の軸周り方向Y1,Y2の相対回転位置が変化することによって、第1係合片174が第1の係合位置と第2の係合位置とに切り替わる。本実施の形態では、この第1係合片174が2つ設けられている。第1係合片174が第1の係合位置に設定されると、第1クラッチプレート170及び第2クラッチプレート180の連結が解除される。一方で、第1係合片174が第2の係合位置に設定されると、第1係合部材及150及び第1クラッチプレート170の連結が解除される。この第1係合片174が発明の「第1係合片」に相当する。
【0047】
第1係合片174を上述の第1の係合位置に設定するために、第1クラッチプレート170に保持穴173が設けられている。この保持穴173は、第1クラッチプレート170に対する第1係合片174の軸周り方向Y1,Y2の移動を規制し、且つ軸方向X1,X2のスライド移動を許容するように、第1係合片174を保持する。この場合、保持穴173に第1係合片174が挿入された状態で両者の間に微小隙間が形成されるように、保持穴173及び第1係合片174の寸法が設定されるのが好ましい。これにより、保持穴173内での第1係合片174の軸方向X1,X2の動作が円滑になる。また、第1係合部材150の鍔部152には、第1係合片174の先端部176の挿入を可能とする凹部153が設けられている。この凹部153には、第1係合片174の先端部176に設けられた傾斜面176aとの対向部材に、当該傾斜面176aに沿って延在する傾斜面153aが設けられている。
【0048】
第1係合片174を上述の第2の係合位置に設定するために、第2クラッチプレート180には第1係合片174の本体部175の挿入を可能とする凹部187が設けられている。この場合、凹部187に第1係合片174の本体部175が挿入された状態で両者の間に微小隙間が形成されるように、凹部187及び第1係合片174の寸法が設定されるのが好ましい。これにより、凹部187内での第1係合片174の軸方向X1,X2の動作が円滑になる。また、凹部187にはコイルスプリング188が収容されている。このコイルスプリング188は、保持穴173に保持された第1係合片174を第2の係合位置から第1の係合位置に向けて軸方向X1に常時に弾性付勢する機能を果たす。従って、このコイルスプリング188は、第1係合片174を上述の第1の係合位置に設定する手助けをする。このコイルスプリング188が本発明の「第1の弾性部材」に相当する。なお、このコイルスプリング188をコイルスプリング以外の1又は複数の弾性要素によって構成することもできる。また、凹部153及び凹部187の少なくとも一方が貫通状の穴として構成されてもよい。
【0049】
同様に第2係合片184は、第1クラッチプレート170及び第2クラッチプレート180の相対回転に応じて、第2係合部材及160及び第2クラッチプレート180を相対回転不能に連結する第1の係合位置と、第1クラッチプレート170及び第2クラッチプレート180を相対回転不能に連結する第2の係合位置とに設定可能な係合片(「係合キー」ともいう)として構成されている。即ち、第1クラッチプレート170及び第2クラッチプレート180の軸周り方向Y1,Y2の相対回転位置が変化することによって、第2係合片184が第1の係合位置と第2の係合位置とに切り替わる。本実施の形態では、この第2係合片184が2つ設けられている。第2係合片184が第1の係合位置に設定されると、第1クラッチプレート170及び第2クラッチプレート180の連結が解除される。一方で、第2係合片184が第2の係合位置に設定されると、第2係合部材及160及び第2クラッチプレート180の連結が解除される。この第2係合片184が発明の「第2係合片」に相当する。
【0050】
第2係合片184を上述の第1の係合位置に設定するために、第2クラッチプレート180に保持穴183が設けられている。この保持穴183は、第2クラッチプレート180に対する第2係合片184の軸周り方向Y1,Y2の移動を規制し、且つ軸方向X1,X2のスライド移動を許容するように、第2係合片184を保持する。この場合、保持穴183に第2係合片184が挿入された状態で両者の間に微小隙間が形成されるように、保持穴183及び第2係合片184の寸法が設定されるのが好ましい。これにより、保持穴183内での第2係合片184の軸方向X1,X2の動作が円滑になる。また、第2係合部材160の鍔部162には、第2係合片184の先端部186の挿入を可能とする凹部163が設けられている。この凹部163には、第2係合片184の先端部186に設けられた傾斜面186aとの対向部材に、当該傾斜面186aに沿って延在する傾斜面163aが設けられている。
【0051】
第2係合片184を上述の第2の係合位置に設定するために、第1クラッチプレート170には第2係合片184の本体部185の挿入を可能とする凹部177が設けられている。この場合、凹部177に第2係合片184の本体部185が挿入された状態で両者の間に微小隙間が形成されるように、凹部177及び第1係合片184の寸法が設定されるのが好ましい。これにより、凹部177内での第2係合片184の軸方向X1,X2の動作が円滑になる。また、凹部177にはコイルスプリング178が収容されている。このコイルスプリング178は、保持穴183に保持された第2係合片184を第2の係合位置から第1の係合位置に向けて軸方向X2に常時に弾性付勢する機能を果たす。従って、このコイルスプリング178は、第2係合片184を上述の第1の係合位置に設定する手助けをする。このコイルスプリング178が本発明の「第1の弾性部材」に相当する。なお、このコイルスプリング178をコイルスプリング以外の1又は複数の弾性要素によって構成することもできる。また、凹部163及び凹部177の少なくとも一方が貫通状の穴として構成されてもよい。
【0052】
図4に示すように、上記の第1係合片174は、D−D線断面が方形の本体部175と、D−D線断面が本体部175から軸方向X1に漸減状に突出して設けられた先端部176と、を備えている。先端部176には、鍔部152の凹部153に設けられた傾斜面153aに対向する傾斜面176aが設けられており、この傾斜面176aが傾斜面153aと略平行に延在している。また、この第1係合片174には、軸周り方向Y1,Y2に関し傾斜面176aと対向する水平面175aが設けられている。この水平面175aは、例えば軸周り方向Y1に直交して延在する。
【0053】
図5に示すように、上記の第2係合片184は、E−E線断面が方形の本体部185と、E−E線断面が本体部185から軸方向X2に漸減状に突出して設けられた先端部186と、を備えている。先端部186には、鍔部162の凹部163に設けられた傾斜面163aに対向する傾斜面186aが設けられており、この傾斜面186aが傾斜面163aと略平行に延在している。また、この第1係合片184には、軸周り方向Y1,Y2に関し傾斜面186aと対向する水平面185aが設けられている。この水平面185aは、例えば軸周り方向Y1に直交して延在する。
【0054】
図6に示すように、第1クラッチプレート170は、出力軸A3が挿入される挿入空間に向けて突出する複数(本実施例では4つ)の突起172を備えている。これらの突起172は、軸周り方向Y1,Y2に関して等間隔で配置されている。一方で、出力軸A3は、その軸周面190から第1クラッチプレート170の挿入空間に向けて突出する複数(本実施例では4つ)の突部191を備えている。これらの突部191は、軸周り方向Y1,Y2に関して等間隔で配置されている。特に、第1クラッチプレート170の4つの突起172の先端面によって規定される径d1と、出力軸A3の軸周面190によって規定される径d2とが概ね合致している。また、出力軸A3の4つの突部191の先端面によって規定される径d3と、第1クラッチプレート170の内周面171によって規定される径d4とが概ね合致している。これにより、突起172と突部191との間には、第1クラッチプレート170及び出力軸A3の軸周り方向Y1,Y2の相対回転を可能とする隙間170aが形成される。
【0055】
1つの突起172と1つの突部191との間にコイルスプリング192が介装されている。このコイルスプリング192は、第1クラッチプレート170を出力軸A3に相対回転可能に連結し、第1クラッチプレート170を出力軸A3の軸周り方向Y1,Y2に常時に弾性付勢する機能を果たす。このコイルスプリング192が本発明の「第2の弾性部材」に相当する。このコイルスプリング192をコイルスプリング以外の1又は複数の弾性要素によって構成することもできる。これにより、出力軸A3に対する第1クラッチプレート170の相対回転位置の位置決めをコイルスプリング192によって簡単に行うことができる。
【0056】
本実施の形態の第1クラッチプレート170には、保持穴173及び凹部177がそれぞれ2つずつ設けられている。例えば、第1の保持穴173から軸周り方向Y1に90°の位置に第2の凹部177が配置され、更に軸周り方向Y1に90°の位置に第2の保持穴173が配置され、更に軸周り方向Y1に90°の位置に第2の凹部177が配置されている。
【0057】
図7に示すように、第2クラッチプレート180は、出力軸A3が挿入される挿入空間に向けて突出する複数(本実施例では4つ)の突起182を備えている。これらの突起182は、軸周り方向Y1,Y2に関して等間隔で配置されており、第1クラッチプレート170の突起172と同一の形状を有する。従って、第2クラッチプレート180の4つの突起182の先端面によって規定される径d1と、出力軸A3の軸周面190によって規定される径d2とが概ね合致している。また、出力軸A3の4つの突部191の先端面によって規定される径d3と、第2クラッチプレート180の内周面181によって規定される径d4とが概ね合致している。これにより、突起182と突部191との間には、第2クラッチプレート180及び出力軸A3の軸周り方向Y1,Y2の相対回転を可能とする隙間180aが形成される。
【0058】
1つの突起182と1つの突部191との間にコイルスプリング193が介装されている。このコイルスプリング193は、第2クラッチプレート180を出力軸A3に相対回転可能に連結し、第2クラッチプレート180を出力軸A3の軸周り方向Y1,Y2に常時に弾性付勢する機能を果たす。このコイルスプリング193が本発明の「第2の弾性部材」に相当する。このコイルスプリング193をコイルスプリング以外の1又は複数の弾性要素によって構成することもできる。これにより、出力軸A3に対する第2クラッチプレート180の相対回転位置の位置決めをコイルスプリング193によって簡単に行うことができる。
【0059】
本実施の形態の第2クラッチプレート180には、保持穴183及び凹部187がそれぞれ2つずつ設けられている。例えば、第1の保持穴183から軸周り方向Y1に30°の位置に第2の凹部187が配置され、更に軸周り方向Y1に150°の位置に第2の保持穴183が配置され、更に軸周り方向Y1に30°の位置に第2の凹部187が配置されている。
【0060】
以下、上記構成の動力伝達機構101の制御態様、特には変速機T/Mの変速段が1速にシフト操作された後、更に1速から2速に変速段が変更される際の制御態様を、図8図20を参照しつつ説明する。この制御は、制御装置102の電子制御ユニットECUが変速機アクチュエータACT2を制御することによって遂行される。これにより、少なくとも下記の低速モード、高速モード及び中間モードのうちのいずれかのモードが選択的に達成される。なお、これらの図面では、遊転ギヤG2oが遊転ギヤG1oの回転速速度に対して2倍の回転速度で回転するように、遊転ギヤG1oと遊転ギヤG2oとのギヤ比が設定されている場合を想定している。
【0061】
(低速モード)
図8図15には、動力伝達機構101の低速モードが示されている。変速機T/Mが図2に示すニュートラル状態から1速に変更された場合には、第1可動部材155は、変速機アクチュエータACT2(フォークシャフト156)によって前述の第1の設定位置(連結位置)に設定される。具体的には、図8に示すように、変速機アクチュエータACT2によってフォークシャフト156が軸方向X1に駆動されると、第1可動部材155は軸方向X1に駆動されて第1被連結部材110に係合する(「噛み合う」ともいう)。一方で、第2可動部材165は、変速機アクチュエータACT2(フォークシャフト166)によって前述のニュートラルの設定位置(非連結位置)に維持される。これにより、第1連結部材154は、遊転ギヤG1oと共に軸周り方向Y1,Y2に回転することができる。その結果、遊転ギヤG1oの回転トルクは、第1可動部材155を介して第1連結部材154に伝達され、更にこの第1連結部材154に固定されている第1係合部材150に伝達される。従って、第1係合部材150は、例えば軸周り方向Y1に回転する。
【0062】
この場合、図10及び図11が参照される、第1クラッチプレート170及び第2クラッチプレート180の相対回転位置によれば、第1クラッチプレート170の保持穴173と第2クラッチプレート180の凹部187の位置が合致していない。一方で、第2クラッチプレート180の保持穴183と第1クラッチプレート170の凹部177の位置は合致しているものの、第2係合片184はコイルスプリング178の軸方向X2の弾性付勢力にしたがって第1の係合位置に保持されている。これにより、第1係合片174及び第2係合片184がいずれもクラッチ機構103によって当該係合片の第1の係合位置に設定されている。即ち、第1クラッチプレート170及び第2クラッチプレート180は直接的には連結されていない。
【0063】
第1係合片174が第1係合部材150の凹部153と第1クラッチプレート170の保持穴173の双方に係合しているため、第1係合部材150の軸周り方向Y1の回転トルクはこの第1係合片174を介して第1クラッチプレート170に伝達される。このとき、第1係合片174の水平面175aと第1係合部材150の凹部153内の水平面とが互いに当接する。従って、第1係合部材150及び第1クラッチプレート170の相対回転に伴って互いに当接する第1係合片174と第1係合部材150との間に生じる荷重は、第1係合片174を軸周り方向Y1のみに付勢する荷重に変換され、第1係合片174は軸方向X2には付勢されない。これにより、第1クラッチプレート170は出力軸A3に対して軸周り方向Y1に遊転ギヤG1oと同一の回転速度ωで回転するが、特に図10が参照されるように、この第1クラッチプレート170の各突起172は、この突起172に対応するコイルスプリング192を押し縮めつつ隙間170aを移動し当該突部191を軸周り方向Y1に付勢する状態を形成する。
【0064】
その結果、第1係合部材150はクラッチ機構103によって当該第1係合部材150が出力軸A3に係合した係合状態に設定され、出力軸A3は第1クラッチプレート170と共に軸周り方向Y1に遊転ギヤG1oと同一の回転速度ωで回転する。かくして、図9中の動力伝達経路PT1によって、第1係合部材150の回転トルクが第1クラッチプレート170を経て出力軸A3に伝達され、1速の減速比を有する動力伝達系統が形成される。この低速モードが本発明の「低速モード」に相当する。
【0065】
更に、図9及び図11が参照されるように、軸周り方向Y1に回転するこの出力軸A3の回転トルクは第2クラッチプレート180に伝達される。具体的には、図11が参照されるように、出力軸A3が第2クラッチプレート180に対して軸周り方向Y1に回転することによって、出力軸A3の各突部191は、コイルスプリング193の弾性付勢力に抗してこのコイルスプリング193を引っ張りつつこの突部191に対応する突起182に当接するまで隙間180aを移動し当該突起182を軸周り方向Y1に付勢する状態を形成する。その結果、第2クラッチプレート180は出力軸A3と共に軸周り方向Y1に遊転ギヤG1oと同一の回転速度ωで回転する。また、特に図9が参照されるように、第1係合片184が第2係合部材160の凹部163と第2クラッチプレート180の保持穴183の双方に係合しているため、第2クラッチプレート180の軸周り方向Y1の回転トルクはこの第1係合片184を介して第2係合部材160に伝達される。かくして、図9中の動力伝達経路PT2によって、出力軸A3の回転トルクが第2クラッチプレート180を経て第2係合部材160に伝達される。
【0066】
(中間モード)
図12図16には、低速モードと高速モードとの間で、変速機T/Mが1速から2速に変更される過程の状態である、動力伝達機構101の中間モード(「遷移モード」ともいう)が示されている。この場合、第2可動部材165は、図8に示す低速モードから、変速機アクチュエータACT2(フォークシャフト166)によって前述の第1の設定位置(連結位置)に設定される。具体的には、図12に示すように、変速機アクチュエータACT2によってフォークシャフト166が軸方向X1に駆動されると、第2可動部材165は軸方向X1に駆動されて第2被連結部材120に係合する(「噛み合う」ともいう)。第1可動部材155が既に連結位置に駆動されているため、第1可動部材155及び第2可動部材165の双方がそれぞれの連結位置に設定された状態が形成される。このとき、第2連結部材164は、遊転ギヤG2oと共に軸周り方向Y1,Y2に回転することができる。その結果、遊転ギヤG2oの回転トルクは、第2可動部材165を介して第2連結部材164に伝達され、更にこの第2連結部材164に固定されている第2係合部材160に伝達される。従って、第2係合部材160は、例えば軸周り方向Y1に回転する。
【0067】
この場合、第1係合片184が第2係合部材160の凹部163と第2クラッチプレート180の保持穴183の双方に係合しているため、第2係合部材160の軸周り方向Y1の回転トルクはこの第1係合片184を介して第2クラッチプレート180に伝達される。このとき、第2係合片184の水平面185aと第2係合部材160の凹部163内の水平面とが互いに当接する。従って、第2係合部材160及び第2クラッチプレート180の相対回転に伴って互いに当接する第2係合片184と第2係合部材160との間に生じる荷重は、第2係合片184を軸周り方向Y1のみに付勢する荷重に変換され、第2係合片184は軸方向X1には付勢されない。かくして、図13中の動力伝達経路PT3によって、第2係合部材160の回転トルクが第2クラッチプレート180に伝達される。一方で、低速モード時に既に形成されている動力伝達経路PT1によって、第1係合部材150の回転トルクが第1クラッチプレート170に伝達される。
【0068】
このとき、遊転ギヤG2o及び第2係合部材160の回転速度は2ωから出力軸A3と同一の回転速度ωに半減し、更に遊転ギヤG1o及び第1係合部材150の回転速度は1速と2速のギヤ比に従って、ωから(1/2)×ωに半減する。この回転速度の差によって、第1クラッチプレート170及び第2クラッチプレート180の相対回転が生じる。具体的には、軸周り方向Y1に関し第2クラッチプレート180が相対的に加速される一方で、第1クラッチプレート170が相対的に減速される。従って、図14が参照されるように、第1係合片174は、第1の係合位置にあるとき、その傾斜面176aが第1係合部材150の傾斜面153aによって軸方向X2に付勢される。即ち、第1係合部材150及び第1クラッチプレート170の相対回転に伴って互いに当接する第1係合片174の傾斜面176aと第1係合部材150の傾斜面153aとの間に生じる荷重は、傾斜面176a及び傾斜面153aの当接構造(本発明の「第1の当接構造」)によって、その一部が第1係合片174を第2の係合位置に向けて軸方向X2に付勢する荷重に変換される。この場合、傾斜面176a及び傾斜面153aはいずれも、第1係合片174と第1係合部材150との当接部位において、第1係合部材150及び第1クラッチプレート170の相対回転方向(軸周り方向Y1,Y2)に対して傾斜状に延在する傾斜面であり、本発明の「第1傾斜面」を構成している。なお、傾斜面176a及び傾斜面153aのいずれか一方を水平面に変更した場合でも、第1係合片174を軸方向X2に付勢する同様の効果を得ることができる。また図15及び図16が参照される、第1クラッチプレート170及び第2クラッチプレート180の相対回転位置によれば、第1クラッチプレート170の保持穴173と第2クラッチプレート180の凹部187の位置が合致している。
【0069】
その結果、図14が参照されるように、第1係合片174は、第1係合部材150の凹部153との係合が解除され(凹部153から弾き出され)、本体部175がコイルスプリング188の弾性付勢力に抗して第2クラッチプレート180の凹部187に押し込まれる。従って、第1係合片174の設定位置がコイルスプリング188の弾性付勢力に抗して第1の係合位置から第2の係合位置に切り替わり、第1係合部材150と第1クラッチプレート170の連結が解除される。かくして、第1係合部材150はクラッチ機構103によって出力軸A3に対して非係合状態に設定され、出力軸A3と第1係合部材150との間に形成されていた回転トルクの動力伝達経路が遮断される。
【0070】
(高速モード)
図17図20には、動力伝達機構101の高速モードが示されている。この場合、第1可動部材155は、図12に示す中間モードから、変速機アクチュエータACT2(フォークシャフト156)によって前述のニュートラルの設定位置(非連結位置)に設定される。具体的には、図17に示すように、変速機アクチュエータACT2によってフォークシャフト156が軸方向X2に駆動されると、第1可動部材155は軸方向X1に駆動されて第1被連結部材110との係合が解除される。一方で、第2可動部材165は、変速機アクチュエータACT2(フォークシャフト166)によって前述の第1の設定位置(連結位置)に維持される。これにより、第1連結部材154は、遊転ギヤG1oと共に軸周り方向Y1,Y2に回転することができなくなる。その結果、遊転ギヤG1oの回転トルクは、第1可動部材155を介して第1連結部材154に伝達されない。従って、第1係合部材150は、例えば軸周り方向Y1に回転しない。
【0071】
この場合、図19及び図20が参照される、第1クラッチプレート170及び第2クラッチプレート180の相対回転位置によれば、保持穴173及び凹部153の位置が合致するまで、第1クラッチプレート170が第1係合部材150に対して相対回転すると、第1クラッチプレート170の保持穴173に保持されている第1係合片174は、コイルスプリング188の軸方向X1の弾性付勢力にしたがって第2の係合位置から先端部176が凹部153に係合した第1の係合位置に復帰する。一方で、第2クラッチプレート180の保持穴183に保持されている第2係合片184は第1の係合位置に維持される。従って、第2係合部材160はクラッチ機構103によって当該第2係合部材160が出力軸A3に係合した係合状態に維持され、出力軸A3は第2クラッチプレート180と共に軸周り方向Y1に遊転ギヤG2oと同一の回転速度ωで回転する。かくして、図18中の動力伝達経路PT3によって、第2係合部材160の回転トルクが第2クラッチプレート180を経て出力軸A3に伝達され、2速の減速比を有する動力伝達系統が形成される。この高速モードが本発明の「高速モード」に相当する。
【0072】
なお具体的に図示しないものの、2速から1速への変速段の変更(減速シフト)については、前述のクラッチ機構103を用いることによって、1速から2速への変速段の変更(加速シフト)と同様のシームレスシフトを達成することができる。例えば2速から1速へ変速段を変更する過程の中間モードについて一部説明すると、図18中の第2係合片184は、第1の係合位置にあるとき、その傾斜面186aが第2係合部材160の傾斜面163aによって軸方向X1に付勢される。即ち、第2係合部材160及び第2クラッチプレート180の相対回転に伴って互いに当接する第2係合片184の傾斜面186aと第2係合部材160の傾斜面163aとの間に生じる荷重は、傾斜面186a及び傾斜面163aの当接構造(本発明の「第2の当接構造」)によって、その一部が第2係合片184を第2の係合位置に向けて軸方向X1に付勢する荷重に変換される。この場合、傾斜面186a及び傾斜面163aはいずれも、第2係合片184と第2係合部材160との当接部位において、第2係合部材160及び第2クラッチプレート180の相対回転方向(軸周り方向Y1,Y2)に対して傾斜状に延在する傾斜面であり、本発明の「第2傾斜面」を構成している。なお、傾斜面186a及び傾斜面163aのいずれか一方を水平面に変更した場合でも、第2係合片184を軸方向X1に付勢する同様の効果を得ることができる。その結果、第1係合片174の設定位置がコイルスプリング178の弾性付勢力に抗して第1の係合位置から第2の係合位置に切り替わり、第2係合部材160と第2クラッチプレート180の連結が解除される。かくして、第2係合部材160はクラッチ機構103によって出力軸A3に対して非係合状態に設定され、出力軸A3と第2係合部材160との間に形成されていた回転トルクの動力伝達経路が遮断される。
【0073】
上記構成の動力伝達機構101によれば、低速モードから中間モードを経て高速モードへと制御されることによって、或いは高速モードから中間モードを経て低速モードへと制御されることによって、トルクの途切れのない変速(シームレスシフト)が達成される。特に、中間モードにおいて第1クラッチプレート170及び第2クラッチプレート180の相対回転に応じて、出力軸A3に対する第1係合部材又は第2係合部材の回転トルクの遮断を行うことができる。このため、低速側の変速段と高速側の変速段との間でのシームレスシフトの円滑化を図ることができる。
【0074】
また、第1係合部材150及び第1クラッチプレート170の相対回転や、第2係合部材160及び第2クラッチプレート180の相対回転を利用して、第1係合片や第2係合片の設定位置を第1の係合位置から第2の係合位置に切り替えるための付勢力を発生させることができ合理的である。
【0075】
また、第1係合片174や第2係合片184の設定位置を第1の係合位置から第2の係合位置に切り替えるための付勢力を発生させる構造に、第1係合片174及び第1係合部材150の当接部位に設けた傾斜面や、第2係合片184及び第2係合部材160の当接部位に設けた傾斜面を利用することができる。
【0076】
また、駆動装置によって第1可動部材155との連結に係る第1遊転ギヤとして1速用の遊転ギヤG1o又は3速用の遊転ギヤG3oが選択され、且つ第2可動部材165との連結に係る第2遊転ギヤとして2速用の遊転ギヤG2o又は4速用の遊転ギヤG4oが選択されため、例えば1速用の遊転ギヤG1o及び第1係合部材150の連結と、2速用の遊転ギヤG2o及び第2係合部材160の連結とを1つの可動部材が兼務するのを防止することができる。これにより、引用文献1,2について前述したような二重係合状態が形成されることがなく、例えば駆動装置が停止した場合であっても変速機T/Mが二重係合状態で停止すること自体が発生しない。従って、例えば駆動装置が停止した場合に、変速機T/Mが1速や2速で固定された場合であっても、変速機T/Mを継続して使用することができる。また、第1可動部材155が1速用の遊転ギヤG1o及び3速用の遊転ギヤG3oに共用され、また第2可動部材165が2速用の遊転ギヤG2o及び4速用の遊転ギヤG4oに共用されるため、シームレスシフトを達成するための要素の部品点数を削減することができる。その結果、変速機T/Mに関する組み付け工数、重量、コスト等を抑えることが可能になる。
【0077】
本発明は、上記の典型的な実施形態のみに限定されるものではなく、種々の応用や変形が考えられる。例えば、上記実施の形態を応用した次の各形態を実施することもできる。
【0078】
上記の実施形態では、第1係合片174や第2係合片184を第1の係合位置から第2の係合位置に向けて付勢する付勢手段に、第1係合片174及び第1係合部材150の当接部位に設けた傾斜面や、第2係合片184及び第2係合部材160の当接部位に設けた傾斜面を利用する場合について記載したが、本発明では傾斜面以外の手段によって前記付勢手段を構成してもよい。例えば、電気駆動式のアクチュエータ等を用いることもできる。
【0079】
上記の実施形態では、動力伝達機構101を出力軸A3に設ける場合について記載したが、本発明では、動力伝達機構101に相当する機構をそれぞれ入力軸A2及び出力軸A3の少なくとも一方に設けることができる。即ち、所定の遊動ギヤが設けられている軸に対して、本発明の動力伝達機構を適用することができる。
【0080】
上記の実施形態では、一例として1速と2速との間で変速が行われる動力伝達機構について記載したが、本発明では、相対的に低速の変速段と相対的に高速側の変速段とを適宜に組み合わせることができる。例えば1速と3速との間で変速が行われる動力伝達機構や、2速と4速との間で変速が行われる動力伝達機構に本発明を適用することもできる。
【符号の説明】
【0081】
T/M…変速機、C/D…クラッチ、D/F…ディファレンシャル、D/W…駆動輪、E/G…エンジン、F/W…フライホイール、A1…駆動出力軸、A2…入力軸、A3…出力軸、ACT1…クラッチアクチュエータ、ACT2…変速機アクチュエータ、AP…アクセルペダル、BP…ブレーキペダル、SL…シフトレバー、ECU…電子制御ユニット、G1i、G2i、G3i、G4i…固定ギヤ、G1o、G2o、G3o、G4o…遊転ギヤ、S1…アクセル開度センサ、S2…シフト位置センサ、S3…ブレーキセンサ、101…動力伝達機構、101a…第1の動力伝達機構、101b…第2の動力伝達機構、102…制御装置、103…クラッチ機構、110…第1被連結部材、120…第2被連結部材、130…第3被連結部材、140…第4被連結部材、150…第1係合部材、151…筒状部、152…鍔部、153…凹部、153a…傾斜面、154…第1連結部材、155…第1可動部材、156…第1フォークシャフト、160…第2係合部材、161…筒状部、162…鍔部、163…凹部、163a…傾斜面、164…第2連結部材、165…第2可動部材、166…第2フォークシャフト、170…第1クラッチプレート、170a…隙間、171…内周面、172…突起、173…保持穴、174…第1係合片、175…本体部、175a…水平面、176…先端部、176a…傾斜面、177…凹部、178…コイルスプリング、180…第2クラッチプレート、180a…隙間、181…内周面、182…突起、183…保持穴、184…第1係合片、185…本体部、185a…水平面、186…先端部、186a…傾斜面、187…凹部、188…コイルスプリング、190…軸周面、191…突部、192…コイルスプリング、193…コイルスプリング
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20