(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ステンレス鋼、銅、チタン、ニッケル、およびそれらを主成分とした合金から選ばれる少なくとも1種を含有する被加工材の金属加工に用いられる、請求項1に記載の金属加工油組成物。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0013】
本発明の実施形態に係る金属加工油組成物は、粘度指数が70以上115以下、硫黄分が100質量ppm以上2000質量ppm以下の鉱油である基油と、エステル、アルコール及びリン化合物から選ばれる少なくとも1種と、を含有する。
【0014】
鉱油としては、原油を常圧蒸留および減圧蒸留して得られた潤滑油留分に対して、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理等の1種もしくは2種以上の精製手段を適宜組み合わせて適用して得られるパラフィン系またはナフテン系の鉱油のうち、粘度指数及び硫黄分が上記の範囲内のものを挙げることができる。
【0015】
鉱油の粘度指数は、70以上であり、好ましくは75以上、より好ましくは80以上、更に好ましくは85である。また、鉱油の粘度指数は115以下であり、好ましくは113以下、より好ましくは110以下、更に好ましくは108以下である。粘度指数が上記下限値未満であると、低速時の加工において油膜が最適値よりも厚くなり、荷重の上昇などの原因となる。また、圧延加工の場合はオイルピットの増加による加工材の表面光沢が低下する。一方、粘度指数が上記上限値を超えると、低速時の加工において油膜の形成が不十分となり、焼き付きなどの問題が生じる。なお、本発明でいう粘度指数とは、JIS K 2283−1993に準拠して測定された粘度指数を意味する。
【0016】
鉱油の硫黄分は、鉱油全量を基準として、100ppm以上であり、好ましくは200ppm以上、より好ましくは300ppm以上、さらに好ましくは350ppm以上である。また、鉱油の硫黄分は、鉱油全量を基準として、2000ppm以下であり、好ましくは1700ppm以下、より好ましくは1200ppm以下、更に好ましくは1000ppm以下である。硫黄分が少なすぎると加工性向上効果が不十分となり、多すぎると臭気により作業性に問題が生じる恐れがある。
【0017】
鉱油の粘度は、特に限定されないが、40℃における動粘度は、2mm
2/s以上が好ましく、3mm
2/s以上がより好ましく、4mm
2/s以上がさらにより好ましく、5mm
2/s以上が最も好ましい。また、40℃における動粘度は、50mm
2/s以下が好ましく、30mm
2/s以下がより好ましく、20mm
2/s以下がさらにより好ましく、10mm
2/s以下が最も好ましい。
【0018】
鉱油のパラフィン分は、特に限定されないが、鉱油全量を基準として、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上、更に好ましくは35質量%以上である。また、ナフテン分は、特に限定されないが、鉱油全量を基準として、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上、更に好ましくは20質量%以上である。また、ナフテン分は、鉱油全量を基準として、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下、更に好ましくは65質量%以下である。また、芳香族分は、特に限定されないが、鉱油全量を基準として、好ましくは25質量%以下、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは15質量%以下である。
【0019】
本実施形態に係る金属加工油組成物における基油は、上記の鉱油のみからなるものであってもよいが、油脂、合成油、又はこれらの2種以上を前記鉱油と併用して用いることができる。
【0020】
油脂としては、牛脂、豚脂、大豆油、菜種油、米ぬか油、ヤシ油、パーム油、パーム核油、あるいはこれらの水素添加物などが挙げられる。
【0021】
合成油としては、例えば、ポリα−オレフィン(エチレン−プロピレン共重合体、ポリブテン、1−オクテンオリゴマー、1−デセンオリゴマー、およびこれらの水素化物など)、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、モノエステル(ブチルステアレート、オクチルラウレート)、ジエステル(ジトリデシルグルタレート、ジ−2−エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジ−2−エチルヘキシルセパケートなど)、ポリエステル(トリメリット酸エステルなど)、ポリオールエステル(トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール−2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネートなど)、ポリオキシアルキレングリコール、ポリフェニルエーテル、ジアルキルジフェニルエーテル、リン酸エステル(トリクレジルフォスフェートなど)、含フッ素化合物(パーフルオロポリエーテル、フッ素化ポリオレフィンなど)及びシリコーン油などを挙げることができる。
【0022】
本実施形態に係る金属加工油組成物は、上記の基油に加えて、エステル、アルコール及びりん系極圧剤から選ばれる少なくとも1種を含有する。これらは潤滑性向上剤としての機能を有する。なお、基油及び潤滑性向上剤としてそれぞれエステル又はリン酸エステルを用いる場合、基油及び潤滑性向上剤としてはそれぞれ異なる種類のものが用いられる。潤滑油向上剤として好ましいエステル及びリン化合物については後述する。
【0023】
潤滑性向上剤としてのエステルを構成するアルコールは、1価アルコールでも多価アルコールでもよい。また、当該エステルを構成するカルボン酸は一塩基酸でも多塩基酸であってもよい。
【0024】
1価アルコールとしては、通常炭素数1〜24のものが用いられ、このようなアルコールとしては直鎖のものでも分岐のものでもよい。炭素数1〜24のアルコールとしては、具体的には例えば、メタノール、エタノール、直鎖状又は分岐状のプロパノール、直鎖状又は分岐状のブタノール、直鎖状又は分岐状のオクタノール、直鎖状又は分岐状のノナノール、直鎖状又は分岐状のデカノール、直鎖状又は分岐状のウンデカノール、直鎖状又は分岐状のドデカノール、直鎖状又は分岐状のトリデカノール、直鎖状又は分岐状のテトラデカノール、直鎖状又は分岐状のペンタデカノール、直鎖状又は分岐状のヘキサデカノール、直鎖状又は分岐状のヘプタデカノール、直鎖状又は分岐状のオクタデカノール、直鎖状又は分岐状のノナデカノール、直鎖状又は分岐状のエイコサノール、直鎖状又は分岐状のヘンエイコサノール、直鎖状又は分岐状のトリコサノール、直鎖状又は分岐状のテトラコサノール及びこれらの混合物が挙げられる。
【0025】
また、多価アルコールとしては、通常2〜10価、好ましくは2〜6価のものが用いられる。2〜10価多価アルコールとしては、具体的には例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール(エチレングリコールの3〜15量体)、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール(プロピレングリコールの3〜15量体)、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2−メチル−1,2−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,3−ペンタンジオール、1,4−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール等の2価アルコール;グリセリン、ポリグリセリン(グリセリンの2〜8量体、例えばジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン)、トリメチロールアルカン(トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタンなど)及びこれらの2〜8量体、ペンタエリスリトール及びこれらの2〜4量体、1,2,4−ブタントリオール、1,3,5−ペンタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,3,4−ブタンテトロール、ソルビトール、ソルビタン、ソルビトールグリセリン縮合物、アドニトール、アラビトール、キシリトール、マンニトールなどの多価アルコール;キシロース、アラビノース、リボース、ラムノース、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、ソルボース、セロビオース、マルトース、イソマルトース、トレハロース、スクロースなどの糖類、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0026】
これらの中でも特に、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール(エチレングリコールの3〜10量体)、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール(プロピレングリコールの3〜10量体)、1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,2−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、トリメチロールアルカン(トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタンなど)及びこれらの2〜4量体、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、1,2,4−ブタントリオール、1,3,5−ペンタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,3,4−ブタンテトロール、ソルビトール、ソルビタン、ソルビトールグリセリン縮合物、アドニトール、アラビトール、キシリトール、マンニトールなどの2〜6価の多価アルコール及びこれらの混合物等がより好ましい。さらに好ましくは、エチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビタン、及びこれらの混合物等である。
【0027】
また、潤滑性向上剤としてのエステルを構成する一塩基酸としては、通常炭素数6〜24の脂肪酸で、直鎖のものでも分岐のものでも良く、また飽和のものでも不飽和のものでも良い。具体的には例えば、直鎖状又は分岐状のヘキサン酸、直鎖状又は分岐状のオクタン酸、直鎖状又は分岐状のノナン酸、直鎖状又は分岐状のデカン酸、直鎖状又は分岐状のウンデカン酸、直鎖状又は分岐状のドデカン酸、直鎖状又は分岐状のトリデカン酸、直鎖状又は分岐状のテトラデカン酸、直鎖状又は分岐状のペンタデカン酸、直鎖状又は分岐状のヘキサデカン酸、直鎖状又は分岐状のオクタデカン酸、直鎖状又は分岐状のヒドロキシオクタデカン酸、直鎖状又は分岐状のノナデカン酸、直鎖状又は分岐状のエイコサン酸、直鎖状又は分岐状のヘンエイコサン酸、直鎖状又は分岐状のドコサン酸、直鎖状又は分岐状のトリコサン酸、直鎖状又は分岐状のテトラコサン酸などの飽和脂肪酸;直鎖状又は分岐状のヘキセン酸、直鎖状又は分岐状のヘプテン酸、直鎖状又は分岐状のオクテン酸、直鎖状又は分岐状のノネン酸、直鎖状又は分岐状のデセン酸、直鎖状又は分岐状のウンデセン酸、直鎖状又は分岐状のドデセン酸、直鎖状又は分岐状のトリデセン酸、直鎖状又は分岐状のテトラデセン酸、直鎖状又は分岐状のペンタデセン酸、直鎖状又は分岐状のヘキサデセン酸、直鎖状又は分岐状のオクタデセン酸、直鎖状又は分岐状のヒドロキシオクタデセン酸、直鎖状又は分岐状のノナデセン酸、直鎖状又は分岐状のエイコセン酸、直鎖状又は分岐状のヘンエイコセン酸、直鎖状又は分岐状のドコセン酸、直鎖状又は分岐状のトリコセン酸、直鎖状又は分岐状のテトラコセン酸などの不飽和脂肪酸、及びこれらの混合物が挙げられる。これらの中でも、特に炭素数8〜20の飽和脂肪酸、炭素数8〜20の不飽和脂肪酸、及びこれらの混合物が好ましい。
【0028】
潤滑性向上剤としてのエステルを構成する多塩基酸としては、炭素数2〜16の二塩基酸及びトリメリト酸等が挙げられる。炭素数2〜16の二塩基酸としては、直鎖のものでも分岐のものでも良く、また飽和のものでも不飽和のものでも良い。具体的には例えば、エタン二酸、プロパン二酸、直鎖状又は分岐状のブタン二酸、直鎖状又は分岐状のペンタン二酸、直鎖状又は分岐状のヘキサン二酸、直鎖状又は分岐状のオクタン二酸、直鎖状又は分岐状のノナン二酸、直鎖状又は分岐状のデカン二酸、直鎖状又は分岐状のウンデカン二酸、直鎖状又は分岐状のドデカン二酸、直鎖状又は分岐状のトリデカン二酸、直鎖状又は分岐状のテトラデカン二酸、直鎖状又は分岐状のヘプタデカン二酸、直鎖状又は分岐状のヘキサデカン二酸;直鎖状又は分岐状のヘキセン二酸、直鎖状又は分岐状のオクテン二酸、直鎖状又は分岐状のノネン二酸、直鎖状又は分岐状のデセン二酸、直鎖状又は分岐状のウンデセン二酸、直鎖状又は分岐状のドデセン二酸、直鎖状又は分岐状のトリデセン二酸、直鎖状又は分岐状のテトラデセン二酸、直鎖状又は分岐状のヘプタデセン二酸、直鎖状又は分岐状のヘキサデセン二酸;及びこれらの混合物が挙げられる。
【0029】
本実施形態においては、任意のアルコールとカルボン酸の組み合わせによるエステルが使用可能であり、特に限定されるものではない。具体的には、下記(i)〜(vii)に示すエステルを好ましく使用することができる。
(i)一価アルコールと一塩基酸とのエステル
(ii)多価アルコールと一塩基酸とのエステル
(iii)一価アルコールと多塩基酸とのエステル
(iv)多価アルコールと多塩基酸とのエステル
(v)一価アルコール及び多価アルコールの混合アルコールと多塩基酸とのエステル
(vi)多価アルコールと一塩基酸及び多塩基酸の混合カルボン酸とのエステル
(vii)一価アルコール及び多価アルコールの混合アルコールと一塩基酸及び多塩基酸の混合カルボン酸とのエステル。
【0030】
なお、アルコール成分として多価アルコールを用いた場合、そのエステルは、多価アルコール中の水酸基全てがエステル化された完全エステルであってもよく、また、水酸基の一部がエステル化されず水酸基のままで残っている部分エステルであってもよい。また、カルボン酸成分として多塩基酸を用いた場合、そのエステルは、多塩基酸中のカルボキシル基全てがエステル化された完全エステルでもよく、カルボキシル基の一部がエステル化されずカルボキシル基のままで残っている部分エステルであってもよい。
【0031】
潤滑性向上剤としてのエステルとしては、上記した何れのものも使用可能であるが、この中でもより加工性に優れる点から、(i)一価アルコールと一塩基酸とのエステルと、(iii)一価アルコールと多塩基酸とのエステルが好ましく、(i)一価アルコールと一塩基酸とのエステルがより好ましく、(i)一価アルコールと一塩基酸とのエステルと(iii)一価アルコールと多塩基酸とのエステルを併用することが最も好ましい。
【0032】
本実施形態において好ましく用いられる(i)一価アルコールと一塩基酸とのエステルの合計炭素数には特に制限はないが、合計炭素数の下限値が7以上のエステルが好ましく、9以上のエステルがより好ましく、11以上のエステルが最も好ましい。また、合計炭素数の上限値が28以下のエステルが好ましく、26以下のエステルがより好ましく、24以下のエステルが最も好ましい。前記一価アルコールの炭素数には特に制限はないが、炭素数1〜10が好ましく、炭素数1〜8がより好ましく、炭素数1〜6がさらにより好ましく、炭素数1〜4が最も好ましい。前記一塩基酸の炭素数には特に制限はないが、炭素数6〜22が好ましく、炭素数8〜20がより好ましく、炭素数10〜18が最も好ましい。なお、前記合計炭素数、前記アルコールの炭素数及び前記一塩基酸の炭素数のそれぞれが前記上限値を超えると、ステインや腐食の発生を増大させるおそれが大きくなる、冬季において流動性を失い扱いが困難になるおそれが大きくなる、あるいは潤滑油基油への溶解性が低下して析出するおそれが大きくなるなどの傾向がある。また、前記合計炭素数、前記アルコールの炭素数及び前記一塩基酸の炭素数のそれぞれが下限値未満であると、潤滑性が不十分となる傾向にあり、また、臭気により作業環境が悪化するおそれがある。
【0033】
本実施形態において好ましく用いられる(iii)一価アルコールと多塩基酸とのエステルの形態は特に制限されないが、下記一般式(1)で表されるジエステル、又はトリメリット酸のエステルであることが好ましい。
R
1−O−CO−(CH
2)
n−CO−O−R
2 (1)
[式中、R
1及びR
2は同一でも異なっていてもよく、それぞれ炭化水素基を示し、nは4〜8の整数を示す。]
【0034】
一般式(1)中のR
1及びR
2はそれぞれ炭化水素基を示すが、かかる炭化水素基の炭素数は3〜10であることが好ましい。なお、炭化水素基の炭素数が3未満であると、潤滑性の向上効果が期待できなくなるおそれがあり、また、臭気により作業環境が悪化するおそれがある。また、炭化水素基の炭素数が10を超えると、ステインや腐食の発生を増大させるおそれが大きくなる、冬季において流動性を失い扱いが困難になるおそれが大きくなる、潤滑油基油への溶解性が低下して析出するおそれが大きくなるなどの傾向がある。
【0035】
一般式(1)中のR
1及びR
2で示される炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキルシクロアルキル基、アルキルフェニル基、フェニルアルキル基等が挙げられ、特にアルキル基が好ましい。
【0036】
R
1、R
2がアルキル基である場合、当該アルキル基は直鎖アルキル基又は分岐アルキル基のいずれであってもよく、また、同一分子中に直鎖アルキル基と分岐アルキル基が混在していてもよいが、分岐アルキル基が好ましい。
【0037】
R
1及びR
2で示されるアルキル基としては、具体的には例えば、直鎖又は分岐のプロピル基、直鎖又は分岐のブチル基、直鎖又は分岐のペンチル基、直鎖又は分岐のヘキシル基、直鎖又は分岐のヘプチル基、直鎖又は分岐のオクチル基、直鎖又は分岐のノニル基、直鎖又は分岐のデシル基等を挙げることができる。
【0038】
また、一般式(1)中のnは4〜8の整数を示す。なお、nが8を超えると、ステインや腐食の発生を増大させるおそれが大きくなる、冬季において流動性を失い扱いが困難になるおそれが大きくなる、潤滑油基油への溶解性が低下して析出するおそれが大きくなるなどの傾向がある。また、nが4未満であると、潤滑性の向上効果が期待できなくなるおそれがある、臭気により作業環境が悪化するなどの傾向がある。更に、原料の入手のしやすさ、及び価格の点からnが4又は6であるジエステルが特に好ましい。
【0039】
上記一般式(1)で表されるジエステルは任意の方法で得られるが、例えば炭素数6〜10(炭素数6から順に、アジピン酸、ピメリン酸、コルク酸、アゼライン酸、セバシン酸)の直鎖飽和ジカルボン酸又はその誘導体と炭素数3〜10のアルコールとをエステル化させる方法などが例示される。
【0040】
また、エステルがトリメリット酸と1価アルコールとのエステルである場合、当該1価アルコールの炭素数は特に制限はないが、炭素数1〜10が好ましく、炭素数1〜8がより好ましく、炭素数1〜6がさらに好ましく、炭素数1〜4が最も好ましい。なお、1価アルコールの炭素数が10を超えると、ステインや腐食の発生を増大させるおそれが大きくなる、冬季において流動性を失い扱いが困難になるおそれが大きくなる、潤滑油基油への溶解性が低下して析出するおそれが大きくなるなどの傾向がある。トリメリット酸のエステルは、部分エステル(モノエステル又はジエステル)でも完全エステル(トリエステル)でもよい。
【0041】
潤滑性向上剤として用いられるエステルの特に好ましい例としては、具体的には、ラウリン酸メチル、ラウリン酸ブチル、ステアリン酸メチル、ステアリン酸ブチル、オレイン酸メチル、オレイン酸ブチル、並びにアジピン酸と炭素数4〜10のアルコールとのジエステルが挙げられる。
【0042】
また、潤滑性向上剤として用いられるアルコールとしては、上記エステルの説明において例示された1価アルコール及び多価アルコールが挙げられ、中でも1価アルコール及び2価アルコールが好ましく、1価アルコールを単独で用いるか、あるいは1価アルコールと2価アルコールとを併用することがより好ましい。また、2価アルコールとしては、分子内にエーテル結合を有するものが好ましい。
【0043】
1価アルコール及び2価アルコールの炭素数は、好ましくは6以上、より好ましくは7以上、更に好ましくは8以上、特に好ましくは9以上である。なお、1価アルコール及び2価アルコールの炭素数が6未満であると、潤滑性が不十分となる傾向にあり、また、臭気により作業環境が悪化するおそれがある。また、1価アルコール及び2価アルコールの炭素数は、好ましくは20以下、より好ましくは18以下である。アルコールは直鎖であっても分岐であっても良く、飽和でも不飽和でもよい。なお、1価アルコール及び2価アルコールの炭素数が20を超えると、ステインや腐食の発生を増大させるおそれが大きくなる、冬季において流動性を失い扱いが困難になるおそれが大きくなる、潤滑油基油への溶解性が低下して析出するおそれが大きくなるなどの傾向がある。
【0044】
潤滑性向上剤として用いられるアルコールの特に好ましい例としては、具体的には、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、パルミチルアルコール、オレイルアルコール、分岐で飽和のC12からC16のアルコール。エチレングリコールの5〜9量体、プロピレングリコールの2〜6量体、並びにこれらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0045】
潤滑性向上剤として上記のエステル、アルコールの含有量は、組成物全量基準で2〜50質量%であることが好ましい。すなわち、当該含有量は、潤滑性向上効果の点から、好ましく3質量%以上であり、より好ましくは5質量%以上である。また、含有量が多過ぎるとステインや腐食の発生を増大させる可能性がある等の点から、当該含有量は、好ましくは45質量%以下であり、より好ましくは40質量%以下である。
【0046】
また、潤滑性向上剤として用いられるリン化合物としては、具体的には例えば、リン酸エステル、酸性リン酸エステル、酸性リン酸エステルのアミン塩、塩素化リン酸エステル、亜リン酸エステル及びフォスフォロチオネート、下記一般式(2)又は(3)で表されるリン化合物の金属塩等が挙げられる。これらのリン化合物は、リン酸、亜リン酸又はチオリン酸とアルカノール、ポリエーテル型アルコールとのエステルあるいはその誘導体が挙げられる。
【0047】
【化1】
[式(2)中、X
1、X
2及びX
3は同一でも異なっていてもよく、それぞれ酸素原子又は硫黄原子を表し、X
1、X
2又はX
3の少なくとも2つは酸素原子であり、R
3、R
4、及びR
5は同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素基を表す。]
【0048】
【化2】
[式(2)中、X
4、X
5、X
6及びX
7は同一でも異なっていてもよく、それぞれ酸素原子又は硫黄原子を表し、X
4、X
5、X
6又はX
7の少なくとも3つは酸素原子であり、R
6、R
7及びR
8は同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素基を表す。]
【0049】
より具体的には、リン酸エステルとしては、トリブチルホスフェート、トリペンチルホスフェート、トリヘキシルホスフェート、トリヘプチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリノニルホスフェート、トリデシルホスフェート、トリウンデシルホスフェート、トリドデシルホスフェート、トリトリデシルホスフェート、トリテトラデシルホスフェート、トリペンタデシルホスフェート、トリヘキサデシルホスフェート、トリヘプタデシルホスフェート、トリオクタデシルホスフェート、トリオレイルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェート等;
酸性リン酸エステルとしては、モノブチルアシッドホスフェート、モノペンチルアシッドホスフェート、モノヘキシルアシッドホスフェート、モノヘプチルアシッドホスフェート、モノオクチルアシッドホスフェート、モノノニルアシッドホスフェート、モノデシルアシッドホスフェート、モノウンデシルアシッドホスフェート、モノドデシルアシッドホスフェート、モノトリデシルアシッドホスフェート、モノテトラデシルアシッドホスフェート、モノペンタデシルアシッドホスフェート、モノヘキサデシルアシッドホスフェート、モノヘプタデシルアシッドホスフェート、モノオクタデシルアシッドホスフェート、モノオレイルアシッドホスフェート、ジブチルアシッドホスフェート、ジペンチルアシッドホスフェート、ジヘキシルアシッドホスフェート、ジヘプチルアシッドホスフェート、ジオクチルアシッドホスフェート、ジノニルアシッドホスフェート、ジデシルアシッドホスフェート、ジウンデシルアシッドホスフェート、ジドデシルアシッドホスフェート、ジトリデシルアシッドホスフェート、ジテトラデシルアシッドホスフェート、ジペンタデシルアシッドホスフェート、ジヘキサデシルアシッドホスフェート、ジヘプタデシルアシッドホスフェート、ジオクタデシルアシッドホスフェート、ジオレイルアシッドホスフェート等;
酸性リン酸エステルのアミン塩としては、前記酸性リン酸エステルのメチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジヘプチルアミン、ジオクチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリペンチルアミン、トリヘキシルアミン、トリヘプチルアミン、トリオクチルアミン等のアミンとの塩等;
塩素化リン酸エステルとしては、トリス・ジクロロプロピルホスフェート、トリス・クロロエチルホスフェート、トリス・クロロフェニルホスフェート、ポリオキシアルキレン・ビス[ジ(クロロアルキル)]ホスフェート等;
亜リン酸エステルとしては、ジブチルホスファイト、ジペンチルホスファイト、ジヘキシルホスファイト、ジヘプチルホスファイト、ジオクチルホスファイト、ジノニルホスファイト、ジデシルホスファイト、ジウンデシルホスファイト、ジドデシルホスファイト、ジオレイルホスファイト、ジフェニルホスファイト、ジクレジルホスファイト、トリブチルホスファイト、トリペンチルホスファイト、トリヘキシルホスファイト、トリヘプチルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリノニルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリウンデシルホスファイト、トリドデシルホスファイト、トリオレイルホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリクレジルホスファイト等;
フォスフォロチオネートとしては、トリブチルフォスフォロチオネート、トリペンチルフォスフォロチオネート、トリヘキシルフォスフォロチオネート、トリヘプチルフォスフォロチオネート、トリオクチルフォスフォロチオネート、トリノニルフォスフォロチオネート、トリデシルフォスフォロチオネート、トリウンデシルフォスフォロチオネート、トリドデシルフォスフォロチオネート、トリトリデシルフォスフォロチオネート、トリテトラデシルフォスフォロチオネート、トリペンタデシルフォスフォロチオネート、トリヘキサデシルフォスフォロチオネート、トリヘプタデシルフォスフォロチオネート、トリオクタデシルフォスフォロチオネート、トリオレイルフォスフォロチオネート、トリフェニルフォスフォロチオネート、トリクレジルフォスフォロチオネート、トリキシレニルフォスフォロチオネート、クレジルジフェニルフォスフォロチオネート、キシレニルジフェニルフォスフォロチオネート、トリス(n−プロピルフェニル)フォスフォロチオネート、トリス(イソプロピルフェニル)フォスフォロチオネート、トリス(n−ブチルフェニル)フォスフォロチオネート、トリス(イソブチルフェニル)フォスフォロチオネート、トリス(s−ブチルフェニル)フォスフォロチオネート、トリス(t−ブチルフェニル)フォスフォロチオネート等、
が挙げられる。
【0050】
また、上記一般式(2)又は(3)で表されるリン化合物の金属塩に関し、式中のR
31〜R
7で表される炭素数1〜30の炭化水素基としては、具体的には、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキルシクロアルキル基、アリール基、アルキルアリール基、アリールアルキル基等が挙げられる。
【0051】
上記アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基等のアルキル基(これらアルキル基は直鎖状でも分枝状でもよい)が挙げられる。
【0052】
上記シクロアルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等の炭素数5〜7のシクロアルキル基を挙げることができる。また上記アルキルシクロアルキル基としては、例えば、メチルシクロペンチル基、ジメチルシクロペンチル基、メチルエチルシクロペンチル基、ジエチルシクロペンチル基、メチルシクロヘキシル基、ジメチルシクロヘキシル基、メチルエチルシクロヘキシル基、ジエチルシクロヘキシル基、メチルシクロヘプチル基、ジメチルシクロヘプチル基、メチルエチルシクロヘプチル基、ジエチルシクロヘプチル基等の炭素数6〜11のアルキルシクロアルキル基(アルキル基のシクロアルキル基への置換位置も任意である)が挙げられる。
【0053】
上記アルケニル基としては、例えば、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基等のアルケニル基(これらアルケニル基は直鎖状でも分枝状でもよく、また二重結合の位置も任意である)が挙げられる。
【0054】
上記アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基等のアリール基を挙げることができる。また上記アルキルアリール基としては、例えば、トリル基、キシリル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、ペンチルフェニル基、ヘキシルフェニル基、ヘプチルフェニル基、オクチルフェニル基、ノニルフェニル基、デシルフェニル基、ウンデシルフェニル基、ドデシルフェニル基等の炭素数7〜18のアルキルアリール基(アルキル基は直鎖状でも分枝状でもよく、またアリール基への置換位置も任意である)が挙げられる。
【0055】
上記アリールアルキル基としては、例えばベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、フェニルブチル基、フェニルペンチル基、フェニルヘキシル基等の炭素数7〜12のアリールアルキル基(これらアルキル基は直鎖状でも分枝状でもよい)が挙げられる。
【0056】
R
3〜R
8で表される炭素数1〜30の炭化水素基は、炭素数1〜30のアルキル基又は炭素数6〜24のアリール基であることが好ましく、更に好ましくは炭素数3〜18のアルキル基、更に好ましくは炭素数4〜12のアルキル基である。
【0057】
R
3、R
4及びR
5は同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子又は上記炭化水素基を表すが、R
3、R
4及びR
5のうち、1〜3個が上記炭化水素基であることが好ましく、1〜2個が上記炭化水素基であることがより好ましく、2個が上記炭化水素基であることがさらに好ましい。
【0058】
また、R
6、R
7及びR
8は同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子又は上記炭化水素基を表すが、R
6、R
7及びR
8のうち、1〜3個が上記炭化水素基であることが好ましく、1〜2個が上記炭化水素基であることがより好ましく、2個が上記炭化水素基であることがさらに好ましい。
【0059】
一般式(2)で表されるリン化合物において、X
1〜X
3のうちの少なくとも2つは酸素原子であることが必要であるが、X
1〜X
3の全てが酸素原子であることが好ましい。
【0060】
また、一般式(3)で表されるリン化合物において、X
4〜X
7のうちの少なくとも3つは酸素原子であることが必要であるが、X
4〜X
7の全てが酸素原子であることが好ましい。
【0061】
一般式(2)で表されるリン化合物としては、例えば、亜リン酸、モノチオ亜リン酸;上記炭素数1〜30の炭化水素基を1つ有する亜リン酸モノエステル、モノチオ亜リン酸モノエステル;上記炭素数1〜30の炭化水素基を2つ有する亜リン酸ジエステル、モノチオ亜リン酸ジエステル;上記炭素数1〜30の炭化水素基を3つ有する亜リン酸トリエステル、モノチオ亜リン酸トリエステル;及びこれらの混合物が挙げられる。これらの中でも、亜リン酸モノエステル、亜リン酸ジエステルが好ましく、亜リン酸ジエステルがより好ましい。
【0062】
また、一般式(3)で表されるリン化合物としては、例えば、リン酸、モノチオリン酸;上記炭素数1〜30の炭化水素基を1つ有するリン酸モノエステル、モノチオリン酸モノエステル;上記炭素数1〜30の炭化水素基を2つ有するリン酸ジエステル、モノチオリン酸ジエステル;上記炭素数1〜30の炭化水素基を3つ有するリン酸トリエステル、モノチオリン酸トリエステル;及びこれらの混合物が挙げられる。これらの中でも、リン酸モノエステル、リン酸ジエステルが好ましく、リン酸ジエステルがより好ましい。
【0063】
一般式(2)又は(3)で表されるリン化合物の金属塩としては、当該リン化合物の酸性水素の一部又は全部を金属塩基で中和した塩が挙げられる。かかる金属塩基としては、金属酸化物、金属水酸化物、金属炭酸塩、金属塩化物等が挙げられ、その金属としては、具体的には、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム等のアルカリ金属、カルシウム、マグネシウム、バリウム等のアルカリ土類金属、亜鉛、銅、鉄、鉛、ニッケル、銀、マンガン等の重金属等が挙げられる。これらの中ではカルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属及び亜鉛が好ましい。
【0064】
上記リン化合物の金属塩は、金属の価数やリン化合物のOH基あるいはSH基の数に応じその構造が異なり、従ってその構造については何ら限定されないが、例えば、酸化亜鉛1molとリン酸ジエステル(OH基が1つ)2molを反応させた場合、下記式(4)で表される構造の化合物が主成分として得られると考えられるが、ポリマー化した分子も存在していると考えられる。
【0065】
【化3】
[式(4)中、RはR
1〜R
7と同一の定義内容を示す。]
【0066】
また、例えば、酸化亜鉛1molとリン酸モノエステル(OH基が2つ)1molとを反応させた場合、下記式(5)で表される構造の化合物が主成分として得られると考えられるが、ポリマー化した分子も存在していると考えられる。
【0067】
【化4】
[式(5)中、RはR
1〜R
7と同一の定義内容を示す。]
【0068】
また、これらの2種以上の混合物も使用できる。
【0069】
本実施形態においては、上記リン化合物の中でも、より高い潤滑性の向上効果が得られることから、リン酸エステル、酸性リン酸エステル、及び酸性リン酸エステルのアミン塩が好ましい。リン及び/又は硫黄を含むものが好ましいが、特にリンを含むものが好ましい。具体的には、トリクレジルホスフェート、トリラウリルホスフェート、トリラウリルホスファイト、トリオレイルホスファイト、ジラウリルホスファイト、ジラウリルハイドロゲンホスファイト、ラウリン酸ホスフェート、が挙げられる。
【0070】
リン化合物の含有量は任意であるが、潤滑性の向上の点から、金属加工油組成物全量基準で、0.005質量%以上であることが好ましく、0.01質量%以上であることがより好ましく、0.05質量%以上であることがさらにより好ましい。また、異常摩耗の防止の点から、当該含有量は、金属加工油組成物全量基準で、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることがさらにより好ましい。
【0071】
本実施形態においては、エステル、アルコール、並びにリン化合物のうちの1種を単独で用いてもよく、また、2種以上を組み合わせてもよい。特にリン化合物は、エステル及び/又はアルコールと併用することが好ましい。
【0072】
本実施形態に係る金属加工組成物は、潤滑性向上剤としてカルボン酸を更に含有していてもよい。カルボン酸としては、一塩基酸でも多塩基酸でも良い。具体的には例えば、上記エステルの説明において例示された一塩基酸及び多塩基酸が挙げられる。これらの中でも、より加工性に優れる点から一塩基酸が好ましい。
【0073】
潤滑性向上剤として用いられるカルボン酸の炭素数は、より潤滑性向上効果に優れる点から、好ましくは6以上、より好ましくは8以上、更に好ましくは10以上である。また、ステインや腐食の発生を抑制する点から、カルボン酸の炭素数は、好ましくは20以下、より好ましくは18以下、更に好ましくは16以下である。
【0074】
潤滑性向上剤として用いられるカルボン酸の特に好ましい例としては、具体的には、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸及びオレイン酸が挙げられる。
【0075】
本実施形態に係る金属加工油組成物は、潤滑性向上剤として硫黄を含有する極圧剤(硫黄系極圧剤)を更に含有していてもよい。硫黄系極圧剤としては、ジハイドロカルビルポリサルファイド、硫化エステル、硫化鉱油、ジチオリン酸亜鉛化合物、ジチオカルバミン酸亜鉛化合物、ジチオリン酸モリブデン化合物及びジチオカルバミン酸モリブデンが好ましく用いられる。特にジハイドロカルビルポリサルファイド及び硫化エステルからなる群より選ばれる少なくとも1種を用いると、潤滑性の向上効果が一層高水準で得られるので好ましい。
【0076】
本実施形態に係る金属加工油組成物は、さらにその優れた効果を向上させるために、必要に応じて、酸化防止剤、さび止め剤、腐食防止剤、消泡剤などを、単独でまたは2種以上組み合わせて更に添加してもよい。
【0077】
酸化防止剤としては、2,6−ジターシャリーブチル−p−クレゾール(DBPC)等のフェノール系化合物、フェニル−α−ナフチルアミンなどの芳香族アミン、およびジアルキルジチオリン酸亜鉛等の有機金属化合物が例示できる。
【0078】
さび止め剤としては、オレイン酸などの脂肪酸の塩、ジノニルナフタレンスルホネートなどのスルホン酸塩、ソルビタンモノオレエートなどの多価アルコールの部分エステル、アミンおよびその誘導体、リン酸エステルおよびその誘導体が例示できる。
【0079】
腐食防止剤としては、ベンゾトリアゾールなどが挙げられる。
【0080】
消泡剤としては、シリコーン系のものなどが挙げられる。
【0081】
これらの添加剤の合計含有量は、通常15質量%以下、好ましくは10質量%以下(いずれも金属加工油組成物全量基準)であることが望ましい。
【0082】
また、本実施形態に係る金属加工油組成物は、水を更に含有してもよい。この場合、本実施形態に係る金属加工油組成物は、水を連続層とし、当該連続層に油成分が微細に分散してエマルションを形成した乳化状態;水が油成分に溶解している可溶化状態;あるいは強撹拌により水と油成分とを混合した懸濁状態のいずれで使用してもよい。
【0083】
本実施形態に係る金属加工油組成物が水を含有する場合、水としては、水道水、工業用水、イオン交換水、蒸留水などが使用可能で、硬水であるか軟水であるかを問わない。
【0084】
本実施形態に係る金属加工油組成物の動粘度は特に限定されないが、40℃における動粘度の下限は1mm
2/sであることが好ましく、2mm
2/sであることがより好ましく、3mm
2/sであることが最も好ましい。また、40℃における動粘度の上限は50mm
2/sであることが好ましく30mm
2/sであることがより好ましく、20mm
2/sであることが最も好ましい。
なお、金属加工油組成物の40℃における動粘度が1mm
2/s未満であると、加工性が不十分となる傾向にある。また、当該動粘度が50mm
2/sを超えると、過潤滑となり加工中に工具のスリップが生じる恐れがあることから好ましくない。
【0085】
本実施形態に係る金属加工油組成物が使用される金属加工としては、例えば、圧延加工(熱間圧延及び冷間圧延を含む)、絞り加工、しごき加工、引き抜き加工、プレス加工、鍛造加工(熱間鍛造を含む)、切削・研削加工、などが挙げられるが、特に冷間圧延加工に用いるのが好ましい。また、これらの金属加工に用いられる被加工物の材質は特に制限されず、例えば、鉄、ステンレス、アルミニウム又はその合金、ニッケル又はその合金、クロム又はその合金、銅又はその合金、亜鉛又はその合金、チタン又はその合金などが挙げられるが、ステンレス、銅又はその合金、チタン又はその合金、ニッケル又はその合金、およびJIS H 4000で規定されるアルミニウムの5000番台、6000番台、7000番台、8000番台が好ましく、ステンレス、銅又はその合金、チタン又はその合金、ニッケル又はその合金がより好ましい。
【実施例】
【0086】
以下、実施例および比較例に基づき本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0087】
[実施例1〜
10、12〜16、18〜38、参考例11、17、比較例1〜17]
実施例1〜
10、12〜16、18〜38、参考例11、17および比較例1〜17においては、それぞれ以下に示す基油および添加剤を用いて、表2〜9に示す組成を有する金属加工油組成物を調製した。
【0088】
[基油]
基油の性状を表1に示す。
【0089】
【表1】
【0090】
[添加剤]
B1:ラウリルアルコール
B2:C12〜C14分岐アルコール
B3:ステアリン酸ブチル
B4:アジピン酸ジイソノニル
B5:トリクレジルホスフェート
B6:ジラウリルハイドロゲンホスファイト
B7:オレイン酸
B8:硫化エステル
【0091】
次に、実施例1〜
10、12〜16、18〜38、参考例11、17および比較例1〜17の潤滑油組成物を試料油として用い、以下の評価試験を実施した。用いた試験材は以下のとおりである。
(試験材)
1:JIS SUS304材(厚さ0.25mm、幅50mm)
2:JIS SUS430材(厚さ0.25mm、幅50mm)
3:純銅(厚さ0.3mm、幅50mm)
4:黄銅(銅70%、亜鉛30%)(厚さ0.3mm、幅50mm)
5:純チタン(厚さ0.23mm、幅43mm)
6:ニッケル合金(ニッケル60%、鉄40%)(厚さ0.27mm、幅47mm)
【0092】
[加工性]
上記の圧延材料及び試料油を用い、径51mmのワークロールを用い、圧延速度25m/minで圧延を行い、圧下率を10%から徐々に上げて、焼き付きなどの表面損傷が発生し始める圧下率を限界圧下率(%)として測定した。
焼き付きの確認は、目視で判定できないものは光学顕微鏡(400倍)を用いて、板表面を観察して行った。得られた結果を表2〜9に示す。
【0093】
[表面品質]
上記の圧延材料及び試料油を用い、圧下率15%、圧延速度25m/min、で圧延した材料の下ロールと接した面を画像解析し、オイルピット占有面積率(%)を計測した。加工性試験条件を、圧下率15%、圧延速度10m/minで圧延したものと比較し、オイルピット占有面積率の増加が5%未満のものをA、5%以上のものをBと評価した。得られた結果を表2〜9に示す。
【0094】
[臭気]
300mlビーカに試料油を50g取り30℃に加温し、10人の被験者により試料油の臭気の判定を行った。「臭気が気になる」を3点、「臭気がやや気になる」を2点、「臭気がほとんど気にならない」を1点、「臭気が気にならない」を0点とし、10人分の平均を求め、1点未満をA、1点以上をBと評価した。得られた結果を表2〜9に示す。
【0095】
【表2】
【0096】
【表3】
【0097】
【表4】
【0098】
【表5】
【0099】
【表6】
【0100】
【表7】
【0101】
【表8】
【0102】
【表9】