(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
印刷層(B)が、低融点熱可塑性樹脂層(A)に隣接する模様印刷層(B1)、及び、低融点熱可塑性樹脂層(A)の反対側にあるベタ印刷層(B2)からなる請求項1記載の断熱紙製容器用多層シート。
印刷層(B)と、発泡可能な低融点熱可塑性樹脂層(C)、紙製基材(D)及び熱可塑性樹脂層(E)とを備える多層シートの印刷層(B)の表面に、低融点熱可塑性樹脂を溶融被覆して低融点熱可塑性樹脂層(A)を形成する工程を含む、請求項1乃至9のいずれか1項に記載の断熱紙製容器用多層シートの製造方法。
紙製基材(D)及び熱可塑性樹脂層(E)を備える多層シートの、紙製基材(D)の熱可塑性樹脂層(E)の反対側の表面に、発泡可能な低融点熱可塑性樹脂層(C)を形成する工程を含む請求項10または11記載の断熱紙製容器用多層シートの製造方法。
バリア層(F)を、紙製基材(D)または熱可塑性樹脂層(E)の一方または両方と接着により積層する工程を含むことにより、紙製基材(D)と熱可塑性樹脂層(E)との間に、バリア層(F)を備えるものとする請求項10乃至12のいずれか1項に記載の断熱紙製容器用多層シートの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の断熱紙製容器用多層シートは、低融点熱可塑性樹脂層(A)、印刷層(B)、発泡可能な低融点熱可塑性樹脂層(C)、紙製基材(D)及び熱可塑性樹脂層(E)を備える断熱紙製容器用多層シートであり、
図1に示すように、該断熱紙製容器用多層シートから形成される胴部材または底部材を備える断熱紙製容器を製造することができる。また、該断熱紙製容器用多層シートから形成される胴部材は、例えば、
図2に示すように、低融点熱可塑性樹脂層(A)、印刷層(B)、発泡可能な低融点熱可塑性樹脂層(C)、紙製基材(D)及び熱可塑性樹脂層(E)を、この順に備える断熱紙製容器用多層シートから形成される胴部材である。
【0028】
1.紙製基材(D)
本発明の断熱紙製容器用多層シートが備える紙製基材(D)は、特に制限がなく、一般に、断熱紙製容器に使用される紙製基材を使用することができる。例えば、木材パルプ紙、レーヨン紙、合成パルプ紙、合成繊維紙、無機繊維紙、無機粉体紙などを使用することができ、更に、木材パルプ紙としては、上質紙、クラフト紙、晒クラフト紙、段ボール原紙、白板紙、グラシン紙、和紙等を使用することができ、塗工紙(コート紙)でも非塗工紙でもよい。木材パルプ紙の表面にポリエチレン樹脂をコーティングしたポリラミ紙を使用することもできる。剛性及び強度の観点から、いわゆるカップ原紙(「コップ原紙」ともいう。)が、特に好ましく使用される。
【0029】
紙製基材(D)の坪量は、30〜600g/m
2の範囲が好ましく、より好ましくは100〜500g/m
2、更に好ましくは150〜400g/m
2の範囲である。紙製基材の坪量が小さすぎると、断熱紙製容器用多層シート及びそれから形成される断熱紙製容器の耐熱性や強度が不足することがあり、坪量が大きすぎると、断熱紙製容器用多層シートの加工適性が悪くなることがある。紙製基材(D)の厚みは、通常50μm〜2mmの範囲であり、好ましくは100μm〜1.5mm、より好ましくは150〜800μm、更に好ましくは200〜600μmの範囲である。
【0030】
本発明の断熱紙製容器用多層シートが備える紙製基材(D)の含水率は、好ましくは2〜15質量%、より好ましくは4〜13質量%、更に好ましくは5〜10質量%の範囲内である。紙製基材(D)の含水率が低すぎると、該紙製基材(D)に含有されている水分の蒸発により、発泡可能な低融点熱可塑性樹脂層(C)の発泡が不十分となったり、発泡むらが生じたりしやすくなることがある。紙製基材(D)の含水率が高すぎると、得られる断熱紙製容器用多層シートの強度が低下して成形加工性が低下することに加えて、過発泡や発泡セルの破裂が生じやすくなることがある。紙製基材(D)の含水率は、温度及び湿度を含む環境条件を制御して調湿することにより、所望の水準に保持することができる。紙製基材(D)の含水率は、絶乾水分測定法によって測定することができる。
【0031】
2.熱可塑性樹脂層(E)
本発明の断熱紙製容器用多層シートが備える熱可塑性樹脂層(E)は、特に限定されず、通常断熱紙製容器に使用される熱可塑性樹脂から形成することができる。例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィンを挙げることができる。また、ポリオレフィン以外の熱可塑性樹脂として、ポリアミド、ポリアセタール、ポリフェニレンスルフィド、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂及びポリカーボネート等を挙げることができる。これらの熱可塑性樹脂の中でも、ポリオレフィンが好ましい。
【0032】
熱可塑性樹脂層(E)を形成する熱可塑性樹脂は、後述する発泡可能な低融点熱可塑性樹脂層(C)を形成する熱可塑性樹脂、及び、低融点熱可塑性樹脂層(A)を形成する熱可塑性樹脂の融点に比べて、好ましくは5℃以上、より好ましくは8℃以上、更に好ましくは10℃以上高い融点を有する熱可塑性樹脂である。〔したがって、熱可塑性樹脂層(E)を「高融点熱可塑性樹脂層(E)」と、熱可塑性樹脂層(E)を形成する熱可塑性樹脂を「高融点熱可塑性樹脂」ということがある。〕前記の融点の差の上限値は、特に限定されないが、通常50℃、多くの場合40℃である。融点の差が小さすぎると、紙製基材(D)に含有されている水分の蒸発により、発泡可能な低融点熱可塑性樹脂層(C)の発泡を行う工程で、熱可塑性樹脂層(E)を形成する高融点熱可塑性樹脂が溶融して、該熱可塑性樹脂層(E)を通して水蒸気が拡散したり、高融点熱可塑性樹脂の一部が発泡しり、または発泡可能な低融点熱可塑性樹脂層(C)の発泡が不十分となったりすることがある。
【0033】
したがって、熱可塑性樹脂層(E)を形成する熱可塑性樹脂としては、中密度ポリエチレン(MDPE)及び高密度ポリエチレン(HDPE)またはそれらの混合物が好ましく、押出加工性や断熱紙製容器開口部のシール安定性などの観点からMDPEがより好ましい。本発明の熱可塑性樹脂層(E)を形成する熱可塑性樹脂として使用するMDPEの密度は、通常930〜941kg/m
3の範囲内にあり、HDPEの密度は、通常942〜970kg/m
3の範囲内にある。MDPEまたはHDPEは、コモノマーとして少量のα−オレフィンを共重合させて得たものであってもよい。該α−オレフィンとしては、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン等が代表的なものである。MDPEまたはHDPEの融点は、通常120〜135℃、好ましくは122〜135℃、より好ましくは123〜135℃の範囲内にある。MDPE及びHDPEの密度は、JIS K 6748−1981に従って測定した値である。融点は、特に断りのない限り、常法に従って示差走査熱量計(DSC)を用いて測定したとき、最高吸熱ピーク温度(Tm)として検知される温度である。MDPEまたはHDPEのメルトフローレイト(MFR;ASTM D1238により測定)は、3〜15g/10分の範囲内であることが好ましく、より好ましくは5〜12g/10分の範囲内である。
【0034】
熱可塑性樹脂層(E)を形成する熱可塑性樹脂は、所望により、顔料(酸化チタン、炭酸カルシウム、クレー、タルク、シリカ等)、帯電防止剤、耐ブロッキング剤(アクリルビーズ、ガラスビーズ、シリカ等)、紫外線吸収剤などの通常使用される添加剤を含有することができる。
【0035】
熱可塑性樹脂層(E)の厚みは、紙製基材(D)に含有されている水分の蒸発により、発泡可能な低融点熱可塑性樹脂層(C)の発泡を行う工程において、蒸発水分の逸散を防止することができる厚みであるとともに、得られる断熱紙製容器用多層シートから形成される断熱紙製容器の内壁面側に配置される(内面層)場合には、熱湯などの加熱液体の浸透を防止できる厚みであれば、特に限定されない。熱可塑性樹脂層(E)の厚みは、好ましくは15〜60μm、より好ましくは20〜50μmの範囲内である。
【0036】
3.発泡可能な低融点熱可塑性樹脂層(C)
本発明の断熱紙製容器用多層シートが備える発泡可能な低融点熱可塑性樹脂層(C)は、紙製基材(D)に含有されている水分の蒸発により、発泡して、断熱紙製容器用多層シートから形成される断熱紙製容器の断熱層となるものである。発泡可能な低融点熱可塑性樹脂層(C)を形成する熱可塑性樹脂としては、紙製基材(D)に含有されている水分の蒸発により、発泡することが可能であれば、特に限定されず、通常断熱紙製容器の断熱層を形成するために使用される熱可塑性樹脂を使用することができるが、紙製基材(D)に含有されている水分の蒸発により、発泡することの容易さの観点から、ポリオレフィンが好ましい。ポリオレフィンとしては、例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィンを挙げることができ、これらを単独でまたは組み合わせて使用することができる。特に好ましくは、LDPEまたはLLDPEを単独でまたは組み合わせて使用することができる。また、所望により、ポリオレフィン以外の他の熱可塑性樹脂を混合して使用することができる。発泡可能な低融点熱可塑性樹脂層(C)を形成する熱可塑性樹脂の組成を変更することにより、発泡可能な低融点熱可塑性樹脂層(C)の発泡を制御したり、その結果、最終的に形成される断熱紙製容器の表面の平滑性を調整したりすることができることがある。
【0037】
発泡可能な低融点熱可塑性樹脂層(C)を形成する熱可塑性樹脂としては、発泡性の観点から、融点が80〜120℃の範囲にある熱可塑性樹脂が好ましく、より好ましくは81〜117℃、更に好ましくは82〜115℃の範囲である。低融点の熱可塑性樹脂の中でも、発泡性に優れる点で、先に述べたようにポリオレフィンが好ましく、LDPE、LLDPE、またはそれの混合物が特に好ましい。本発明で特に好ましく使用されるLDPEまたはLLDPEの密度は、通常910〜929kg/m
3、好ましくは911〜925kg/m
3の範囲内である。LDPEまたはLLDPEの融点は、好ましくは98〜120℃、より好ましくは100〜118℃、更に好ましくは102〜115℃の範囲内である。融点は、示差走査熱量計(DSC)により、最高吸熱ピーク温度として測定される値である。LDPEまたはLLDPEのメルトフローレイト(ASTM D1238により測定)は、5〜20g/10分の範囲内であることが好ましく、より好ましくは8〜17g/10分の範囲内である。
【0038】
なお、発泡可能な低融点熱可塑性樹脂層(C)とは、前記した熱可塑性樹脂層(E)を形成する熱可塑性樹脂と比較して、より融点が低い熱可塑性樹脂から形成されているという趣旨で、発泡可能な低融点熱可塑性樹脂層(C)と称するものである。すなわち、前記したように、発泡可能な低融点熱可塑性樹脂層(C)を形成する熱可塑性樹脂の融点は、熱可塑性樹脂層(E)を形成する熱可塑性樹脂(高融点熱可塑性樹脂)に比べて、好ましくは5℃以下、より好ましくは8℃以下、更に好ましくは10℃以下低い融点を有する熱可塑性樹脂である。また前記したように、融点の差の上限値は、特に限定されないが、通常50℃、多くの場合40℃である。
【0039】
発泡可能な低融点熱可塑性樹脂層(C)の厚みは、通常10〜100μm、好ましくは20〜80μmの範囲内である。また、発泡可能な低融点熱可塑性樹脂層(C)の発泡後の厚みは、断熱性や保温性などの観点から、通常100〜2,000μm、好ましくは400〜1,800μm、より好ましくは600〜1,500μmの範囲内である。
【0040】
発泡可能な低融点熱可塑性樹脂層(C)を形成する熱可塑性樹脂は、所望により、顔料(酸化チタン、炭酸カルシウム、クレー、タルク、シリカ等)、帯電防止剤、耐ブロッキング剤(アクリルビーズ、ガラスビーズ、シリカ等)、紫外線吸収剤などの通常使用される添加剤を含有することができる。
【0041】
4.印刷層(B)
本発明の断熱紙製容器用多層シートが備える印刷層(B)は、最終的に得られる断熱紙製容器に、美麗な外観イメージや商品としての識別性を与えるために使用される。従来、断熱紙製容器においては、印刷層を、紙製基材と断熱層〔本発明における発泡可能な低融点熱可塑性樹脂層(C)に相当する。〕との間に配置することもあったが、その場合、断熱層は発泡した熱可塑性樹脂層からなるので、透明性が少なく、印刷層が鮮明にみえないこともあった。本発明においては、印刷層(B)が、前記の発泡可能な低融点熱可塑性樹脂層(C)の上面に形成されるので、最終的に得られる断熱紙製容器は、外面から印刷層(B)を鮮明に認識することができ、外観イメージや識別性の向上に有効である。
【0042】
印刷層(B)は、特に限定されず、文字、模様、絵などを形成したものでもよいし、単なる着色層やいわゆる隠蔽層でもよい。例えば、本発明の断熱紙製容器用多層シートが、断熱紙製容器の底部材を形成するためのものである場合は、印刷層(B)を隠蔽層として形成して差し支えないことが多い。また、印刷層(B)が、後に詳述する低融点熱可塑性樹脂層(A)に隣接する模様印刷層(B1)、及び、低融点熱可塑性樹脂層(A)の反対側にあるベタ印刷層(B2)からなるものであることが好ましく、これにより模様印刷層(B1)に形成した文字、模様、絵などが一層鮮明にみえるようになるので、本発明の断熱紙製容器用多層シートが、断熱紙製容器の胴部材を形成するためのものである場合、特に望ましい態様となる。
【0043】
〔ベタ印刷層(B2)〕
発泡可能な低融点熱可塑性樹脂層(C)に隣接するベタ印刷層(B2)は、発泡可能な低融点熱可塑性樹脂層(C)のほぼ全面を覆う印刷層であり、白色インク、着色インクまたは透明なインクをベタ印刷して形成することができ、単色印刷でも多色印刷でもよい。ベタ印刷層(B2)を、隠蔽層とする場合は、白色インクまたは着色インクを使用することが通常であり、模様印刷層(B1)に形成した文字、模様、絵などが一層鮮明にみえるようになることから、白色インクを使用して形成するベタ印刷層(B2)が好ましいことが多い。ベタ印刷層(B2)を形成するインクとしては、発泡性のインクを使用し、発泡したベタ印刷層(B2)としてもよく、その場合、ベタ印刷層(B2)の一部を発泡したベタ印刷層(B2)としてもよい。なお、従来の断熱紙製容器用多層シートにおいては、前記した発泡可能な低融点熱可塑性樹脂層(C)をヒートシール層として利用するために、ベタ印刷層(B2)の形成を、ヒートシール部を除くように行う必要があった。しかし、本発明においては、発泡可能な低融点熱可塑性樹脂層(C)をヒートシール層として利用する必要がないので、ベタ印刷層(B2)の形成が容易である。
【0044】
〔模様印刷層(B1)〕
印刷層(B)において、発泡可能な低融点熱可塑性樹脂層(C)の反対側にある模様印刷層(B1)は、前記のベタ印刷層(B2)の上面にあり、文字、模様、絵など、断熱紙製容器の外面からみえる広義の模様が形成されているものである。例えば商品名、絵柄、説明、記号等の表示や意匠表示を行うことができ、単色印刷でも多色印刷でもよい。模様印刷層(B1)に形成される文字、模様、絵などは、適宜のインクを使用して形成することができる。模様印刷層(B1)を形成するために使用するインクとしては、発泡剤を含有する発泡性のインク、または、発泡抑制剤を含有する発泡抑制性のインクを使用してもよく、紙製基材(D)等に模様が形成されている場合は、その模様に同調するように、模様印刷層(B1)を設けてもよい。なお、先に述べたように従来の断熱紙製容器用多層シートにおいては、模様印刷層(B1)の形成を、ヒートシール部を除くように行う必要があったが、本発明においては、所望により、模様印刷層(B1)をヒートシール部の近傍まで施すことも容易にできる。
【0045】
印刷層(B)、好ましくはベタ印刷層(B2)及び模様印刷層(B1)を形成するために使用するインクは、特に限定されず、水性インク、油性インク、昇華性インクなどを使用することができる。なお、従来、食品用の断熱紙製容器を形成するための断熱紙製容器用多層シートにおいては、インク中の有機溶剤の残留性に対する懸念から、水性インクまたは昇華性インクを使用することが好ましいとされることがあった。本発明の断熱紙製容器用多層シートは、後述するとおり、印刷層(B)の上面に低融点熱可塑性樹脂層(A)を備えるので、油性インクを使用しても差し支えないことが多い。また、ベタ印刷層(B2)が隠蔽層である場合は、酸化チタン等の白色顔料その他の顔料を含有してよいことはいうまでもない。
【0046】
印刷層(B)の形成方法は、特に限定されず、グラビア印刷、ロール印刷、スプレー印刷、スクリーン印刷、フレキソ印刷その他の通常の印刷方法を採用することができるが、印刷仕上がり、加工適性、加工速度などの点でグラビア印刷により形成される印刷層(B)が好ましい。印刷層(B)が、前記のベタ印刷層(B2)及び模様印刷層(B1)からなる場合、ベタ印刷層(B2)と模様印刷層(B1)とを、異なる方法で形成してもよい。
【0047】
印刷層(B)の厚みは、特に限定されず、通常0.01〜200μm、好ましくは0.05〜150μm、より好ましくは0.1〜100μmの範囲とすればよい。印刷層(B)が、前記のベタ印刷層(B2)及び模様印刷層(B1)からなる場合、ベタ印刷層(B2)と模様印刷層(B1)との厚みの比率は、特に限定されないが、通常1:10〜10:1、好ましくは2:8〜8:2の範囲である。
【0048】
5.低融点熱可塑性樹脂層(A)
本発明の断熱紙製容器用多層シートは、低融点熱可塑性樹脂層(A)が、前記の印刷層(B)の上面に形成される点に特徴を有する。本発明の断熱紙製容器用多層シートが備える低融点熱可塑性樹脂層(A)は、前記の印刷層(B)の上面に形成されて、該印刷層(B)を保護するともに、断熱紙製容器用多層シート及び最終的に形成される断熱紙製容器の表面を平滑なものとする機能を有するものであり、更に通常はヒートシール層の機能を有するものとすることもできる。さらに、低融点熱可塑性樹脂層(A)は、通常、断熱紙製容器用多層シートから形成される部材を備える断熱紙製容器の最表面層(外面層)となるので、断熱紙製容器の内容物を摂取するために口をつけたり、持ち運びのために手指でつかんだりするものであるため、衛生性の観点から、有害な成分を含有しないことはもちろん、耐溶剤性を有することが求められることが多い。
【0049】
なお、低融点熱可塑性樹脂層(A)とは、前記した熱可塑性樹脂層(E)を形成する熱可塑性樹脂と比較して、より融点が低い熱可塑性樹脂から形成されているという趣旨で、低融点熱可塑性樹脂層(A)と称するものである。前記したように、低融点熱可塑性樹脂層(A)を形成する熱可塑性樹脂の融点は、熱可塑性樹脂層(E)を形成する熱可塑性樹脂(高融点熱可塑性樹脂)に比べて、好ましくは5℃以下、より好ましくは8℃以以下、更に好ましくは10℃以以下低い融点を有する熱可塑性樹脂である。また前記したように、融点の差の上限値は、特に限定されないが、通常50℃、多くの場合40℃である。
【0050】
また、前記した低融点熱可塑性樹脂層(A)を形成する熱可塑性樹脂と発泡可能な低融点熱可塑性樹脂層(C)を形成する熱可塑性樹脂との融点の差が5℃未満であることが好ましく、より好ましくは4℃以下、更に好ましくは3.5℃以下、特に好ましくは3℃以下であり、実質的に融点の差がないことが最も好ましい。低融点熱可塑性樹脂層(A)を形成する熱可塑性樹脂と発泡可能な低融点熱可塑性樹脂層(C)を形成する熱可塑性樹脂との融点の差が5℃以上であると、断熱紙製容器用多層シートを加熱して、紙製基材(D)に含有されている水分の蒸発により、発泡可能な低融点熱可塑性樹脂層(C)の発泡を行う工程において、低融点熱可塑性樹脂層(A)が軟化しにくく粘性が大きいため、発泡可能な低融点熱可塑性樹脂層(C)の発泡が抑制されて、所望の発泡層の厚みが得られないという問題が生じることがある。
【0051】
したがって、低融点熱可塑性樹脂層(A)は、前記した機能を有するものである限り特に限定されず、通常断熱紙製容器において使用される熱可塑性樹脂を使用することができるが、低融点熱可塑性樹脂層(A)を形成する熱可塑性樹脂と発泡可能な低融点熱可塑性樹脂層(C)を形成する熱可塑性樹脂とは、異なる熱可塑性樹脂であってもよく、例えば、同一種類に属する異なる熱可塑性樹脂や異なる銘柄品であってもよい。
【0052】
低融点熱可塑性樹脂層(A)を形成する熱可塑性樹脂としては、断熱紙製容器の表面を平滑としたり、ヒートシール層とすることの容易さの観点から、ポリオレフィンが好ましい。ポリオレフィンとしては、例えば、前記したLDPE、LLDPE、VLDPE、MDPE、HDPE、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィンを挙げることができ、これらを単独でまたは組み合わせて使用することができる。特に好ましくは、LDPEまたはLLDPEを単独でまたは組み合わせて使用することができる。また、所望により、ポリオレフィン以外の他の熱可塑性樹脂を混合して使用することができる。低融点熱可塑性樹脂層(A)を形成する熱可塑性樹脂の組成を変更することにより、最終的に形成される断熱紙製容器の表面の平滑性を調整したりすることができることがある。先に述べたように、低融点熱可塑性樹脂層(A)を形成するポリオレフィンと発泡可能な低融点熱可塑性樹脂層(C)を形成するポリオレフィンとは、異なる銘柄品に当たるポリオレフィンであってもよい。
【0053】
低融点熱可塑性樹脂層(A)を形成する熱可塑性樹脂の融点は、80〜120℃の範囲であることが好ましく、より好ましくは81〜117℃、更に好ましくは82〜115℃の範囲である。先に述べたようにポリオレフィンが特に好ましく、LDPE、またはLDPEとLLDPEの混合物が最も好ましい。本発明で使用するLDPEまたはLLDPEの密度は、通常910〜929kg/m
3、好ましくは911〜925kg/m
3の範囲内である。LDPEまたはLLDPEの融点は、好ましくは98〜120℃、より好ましくは100〜118℃、更に好ましくは102〜115℃の範囲内である。LDPEまたはLLDPEのメルトフローレイト(ASTM D1238により測定)は、5〜20g/10分の範囲内であることが好ましく、より好ましくは8〜17g/10分の範囲内である。
【0054】
低融点熱可塑性樹脂層(A)を形成する熱可塑性樹脂は、所望により、顔料または充填剤、艶消し剤、帯電防止剤、耐ブロッキング剤、紫外線吸収剤などの通常使用される添加剤を含有することができる。それらの含有量は、添加剤の種類により最適の範囲を選択すればよく、低融点熱可塑性樹脂層(A)を形成する熱可塑性樹脂100質量部に対して、0.001〜30質量部の範囲であり、多くの場合0.01〜20質量部の範囲である。
【0055】
〔艶消し剤〕
特に所望する場合には、低融点熱可塑性樹脂層(A)を、艶消し剤を含有する熱可塑性樹脂から形成されるものとすることにより、断熱紙製容器用多層シート及び最終的に形成される断熱紙製容器の表面を、光沢があるものではなく、艶消し状(マット状)の好ましい外観を有するものとすることもでき、この場合、容器表面のテカリ感を防止することもできる。艶消し剤としては、シリカ、酸化チタン、炭酸カルシウム、クレー、タルク等の無機粉体のほか、超高分子量ポリエチレン粉末等の樹脂粉体など、通常使用される艶消し剤を使用することができ、好ましくはシリカである。その含有量は、低融点熱可塑性樹脂層(A)を形成する熱可塑性樹脂100質量部に対して、0.001〜10質量部の範囲であり、多くの場合0.01〜5質量部の範囲である。
【0056】
低融点熱可塑性樹脂層(A)の厚みは、通常1〜50μm、好ましくは3〜40μm、より好ましくは5〜30μmの範囲内である。
【0057】
6.バリア層(F)
本発明の断熱紙製容器用多層シートは、該容器用多層シートから形成した部材を備える容器に対して、外部から侵入する水蒸気や酸素を遮断するガスバリア性や、内容物の香味成分を容器外に散逸させないフレーバーバリア性を付与するために、バリア層(F)を更に備えるものとすることができる。
【0058】
バリア層(F)としては、アルミニウム箔等の金属薄膜、酸化アルミニウムや二酸化ケイ素等の無機酸化物薄膜、バリア性樹脂フィルム、金属または無機酸化物蒸着フィルム、及びこれらの複合体などを使用することができるが、電子レンジ加熱特性の観点から、金属蒸着フィルムや金属薄膜の使用は、望ましくないことがある。本発明の断熱紙製容器用多層シートが備えるバリア層(F)は、バリア性樹脂フィルムまたは無機酸化物蒸着フィルムが好ましい。バリア性樹脂フィルムとしては、ポリアミド(MXDナイロン等)、塩化ビニリデン(共)重合体、エチレン・ビニルアルコール共重合体(いわゆるEVOH)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、及びアクリル酸系バリア性樹脂等のフィルムなどが挙げられる。また、無機酸化物蒸着フィルムとしては、酸化アルミニウム蒸着PETフィルムや二酸化ケイ素蒸着PETフィルム等が挙げられ、複合体としては、アクリル酸系バリア性樹脂コートPETフィルム等が挙げられる。ガスバリア性、フレーバーバリア性及び加工適性のバランスを考慮すると、PETフィルム、酸化アルミニウム蒸着PETフィルムまたはアクリル酸系バリア性樹脂コートPETフィルムが好ましい。バリア性樹脂フィルムまたは無機酸化物蒸着フィルムとしては、押出成形フィルムを使用してもよいし、塗工によって形成したフィルムを使用してもよい。
【0059】
断熱紙製容器用多層シートにおいて、バリア層(F)の位置は特に限定されないが、紙製基材(D)中に含まれている水分が蒸発し、加熱蒸発した水分によって発泡可能な低融点熱可塑性樹脂層(C)が発泡することを妨げない観点から、紙製基材(D)と熱可塑性樹脂層(E)との間に、バリア層(F)を備えることが好ましい。断熱紙製容器用多層シートが、紙製基材(D)と熱可塑性樹脂層(E)との間に、バリア層(F)を備えるものである場合、該バリア層(F)は、紙製基材(D)または熱可塑性樹脂層(E)の一方または両方と接着により積層されたものであってもよい。
【0060】
バリア層(F)の厚みは、特に限定されないが、通常0.01〜50μm、好ましくは0.05〜40μm、より好ましくは0.1〜30μmの範囲である。
【0061】
バリア層(F)を備える断熱紙製容器用多層シートは、断熱性紙製容器の胴部材及び底部材のいずれにも形成することができるが、特に、バリア層(F)を備える断熱紙製容器用多層シートから形成される胴部材を備える断熱紙製容器とすることが好ましい。また、バリア層(F)を備える断熱紙製容器用多層シートから形成される底部材を更に備える断熱紙製容器は、バリア性が一層向上するのでより好ましい。
【0062】
7.接着剤層
本発明の断熱紙製容器用多層シートは、必要に応じて、それぞれの層の間に、接着剤から形成される接着剤層を備えてもよいが、該容器用多層シートから形成した部材を備える容器に充填した食品を加熱調理するに際して、有機溶剤が揮発するおそれなどがあることから、接着剤の使用が好ましくないこともある。使用できる接着剤としては、カルボキシル基、酸無水物基、水酸基、カルボニル基、グリシジル基(エポキシ基)、イソシアネート基、アミノ基、イミド基、ウレタン基などの官能基を有する接着性樹脂等が好ましい。例えば、無水マレイン酸変性ポリエチレン等の無水カルボン酸変性ポリオレフィン、グリシジル基含有エチレン共重合体、熱可塑性ポリウレタン、ポリアミド・アイオノマー、ポリアクリルイミド、酸変性線状低密度ポリエチレンなどの接着性樹脂を挙げることができ、これらの接着性樹脂を単独で、または、LDPEやMDPE、HDPEとブレンドして使用することができる。
【0063】
接着剤層の各々の厚みは、接着の機能を果たすことができ、かつ、断熱紙製容器用多層シートの効果を損ねることがない限り、特に限定されないが、通常0.01〜20μm、好ましくは0.02〜18μm、より好ましくは0.05〜16μmの範囲である。接着剤層は、塗布や共押出などによって形成することができる。
【0064】
8.その他の層
本発明の断熱紙製容器用多層シートは、必要に応じて、更に他の層を備えるものとすることができる。例えば、印刷層(B)を形成する面、すなわち、発泡可能な低融点熱可塑性樹脂層(C)の上面に、顔料とバインダーを含有するインキ受理層などを備えることができる。これらのその他の層の厚みは、断熱紙製容器用多層シートの効果を損ねることがない限り、特に限定されないが、通常0.01〜200μm、好ましくは0.02〜150μm、より好ましくは0.03〜100μm、多くの場合0.05〜50μmの範囲である。
【0065】
9.断熱紙製容器用多層シート
本発明の断熱紙製容器用多層シートは、例えば、
図2に断面を示すような低融点熱可塑性樹脂層(A)、印刷層(B)、発泡可能な低融点熱可塑性樹脂層(C)、紙製基材(D)及び熱可塑性樹脂層(E)を、この順に備えることを特徴とする断熱紙製容器用多層シートであり、所望により、更に紙製基材(D)と熱可塑性樹脂層(E)との間に、バリア層(F)を備える断熱紙製容器用多層シートである。先に述べたように、低融点熱可塑性樹脂層(A)、発泡可能な低融点熱可塑性樹脂層(C)及び熱可塑性樹脂層(E)を形成する樹脂が、ポリオレフィンであることが好ましい。
【0066】
本発明の断熱紙製容器用多層シートの大きさは、製造可能であり、かつ、断熱紙製容器を形成するのに適合する限り特に限定されない。また、長尺体であってもよいし、所定の大きさの四角形等の多角形、円(完全円または部分)、楕円、扇状その他の形状のものでもよい。本発明の断熱紙製容器用多層シートの全体厚みは、通常50μm〜2mm、好ましくは100μm〜1.5mm、より好ましくは150μm〜1mm、更に好ましくは200〜700μmの範囲から適宜選定することができる。断熱紙製容器用多層シートの厚みは、断面写真を利用して測定する(断熱紙製容器用多層シートの各層の厚みについても同様である。)。
【0067】
〔低温ヒートシール性〕
低融点熱可塑性樹脂層(A)を備える本発明の断熱紙製容器用多層シートは、低温ヒートシール性に優れており、低融点熱可塑性樹脂層(A)を備えない断熱紙製容器用多層シートより低温でヒートシールを行うことができる。すなわち、本発明の断熱紙製容器用多層シートは、同一の加熱時間(例えば、1〜3秒間から選択する。)及び同一のヒートシール加圧条件(例えば、1kN)でヒートシールを行って所定のシール強度を得ようとする場合、低融点熱可塑性樹脂層(A)を備えない断熱紙製容器用多層シートより、通常15℃以上、好ましくは20℃以上、より好ましくは22℃以上低い温度でヒートシールを行うことができる。本発明の断熱紙製容器用多層シートは、低温ヒートシール性に優れている結果、断熱紙製容器を形成するために実施するヒートシールに要する時間を短縮することができるので、断熱紙製容器の生産性が向上する。
【0068】
断熱紙製容器用多層シートのヒートシール性は、該断熱紙製容器用多層シートを加熱発泡させて調製した断熱紙製多層シートを試料として、以下1)〜3)の方法により測定し評価することができる。すなわち、
<試料の調製>
幅150mm×長さ150mmの正方形に裁断した断熱紙製容器用多層シートを、東京理化機械株式会社製の送風定温乾燥機ウインディーオーブンWFO−601SD型(ターンテーブル設置タイプ)を使用して、前記の多層シートを、発泡可能な低融点熱可塑性合成樹脂層(C)を上面にして、ターンテーブルに載せ、温度130℃で5分間加熱発泡させることにより、ヒートシール性評価用試料を調製する。
<ヒートシール性の測定>
1)試料である断熱紙製多層シートの熱可塑性樹脂層(E)と低融点熱可塑性樹脂層(A)とを、ヒートシーラーを使用し、幅10mm長さ50mmのシールバーを使用して、設定温度でシール圧力1kNで2秒間ヒートシールを行った後、引張試験機を使用して、後述の条件(以下、「材料破壊条件」ということがある。)で引張試験を行い材料破壊が発生する温度(以下、「材料破壊温度」ということがある。)を測定する。
2)対照として、低融点熱可塑性樹脂層(A)を備えない断熱紙製容器用多層シート(以下、「対照シート」ということがある。)から調製した断熱紙製多層シートを使用して、1)と同じ条件でヒートシールを行った後、前記の材料破壊条件で引張試験を行い、対照シートの材料破壊温度を測定する。その際、低融点熱可塑性樹脂層(A)を備えない対照シートは、常法に従い、ヒートシールを行う箇所には印刷層(B)を形成していないので、発泡可能な低融点熱可塑性樹脂層(C)(既に発泡している。)が露出しており、該露出した発泡可能な低融点熱可塑性樹脂層(C)と熱可塑性樹脂層(E)とをヒートシールする。
3)試料である断熱紙製多層シートの材料破壊温度と対照シートから調製した断熱紙製多層シートの材料破壊温度との差(以下、「ヒートシール温度差」ということがある。)に基づいて、以下の基準に従い、低温ヒートシール性を評価する。
本発明の断熱紙製容器用多層シートは、評価がAであり、更に該ヒートシール温度差が、好ましくは20℃以上、より好ましくは22℃以上である低温でヒートシールを行うことができる。
<材料破壊条件>
試料の大きさ: 幅15mm長さ50mm(ヒートシール部に沿って矩形に切り出す。)
チャック間距離: 25mm
引張速度: 200mm/分
引き剥がし形態: 180度剥離
<低温ヒートシール性の評価基準>
A: ヒートシール温度差が15℃以上である(より低温でヒートシールすることができる。)。
B: ヒートシール温度差が5℃以上15℃未満である(やや低温でヒートシールすることができる。)。
C: ヒートシール温度差が5℃未満または対照シートより材料破壊温度が高い。
【0069】
本発明の断熱紙製容器用多層シートが低温ヒートシール性に優れる理由は必ずしも明確ではないが、低融点熱可塑性樹脂層(A)を備えない断熱紙製容器用多層シート(対照シート)においては、発泡可能な低融点熱可塑性樹脂層(C)に形成した印刷層(B)を乾燥させるために実施する加熱(通常100〜120℃の温度である。)を行う際に、印刷層(B)を形成するのに先立って発泡可能な低融点熱可塑性樹脂層(C)に対して施される表面処理(コロナ放電処理やアンカーコート剤塗布等)の影響により、ヒートシール層となる該発泡可能な低融点熱可塑性樹脂層(C)が酸化され、熱可塑性樹脂層(E)とのヒートシール強度が低下するので、より高い温度でヒートシールを実施しないと所要のヒートシール強度が得られないものと推察される。一方、本発明の断熱紙製容器用多層シートにおいては、低融点熱可塑性樹脂層(A)には、前記の表面処理の影響は作用しないので、より低い温度でヒートシールを実施しても所要のヒートシール強度を得ることができるものと推察される。
【0070】
なお、本発明の断熱紙製容器用多層シートは、所望によっては、低融点熱可塑性樹脂層(A)、印刷層(B)、熱可塑性樹脂層(E)、紙製基材(D)及び発泡可能な低融点熱可塑性樹脂層(C)を、この順に備えることを特徴とする断熱紙製容器用多層シートであってもよい。所望により、更に紙製基材(D)と熱可塑性樹脂層(E)との間に、バリア層(F)を備えることもできる。この断熱紙製容器用多層シートは、印刷層(B)の上面に低融点熱可塑性樹脂層(A)を備えるものであることにより、印刷面が保護され、印刷が鮮明で表面が美麗で、かつ耐傷性及び衛生性に優れる断熱紙製容器を形成することができる点で、既に述べたと断熱紙製容器用多層シートと同様の効果が奏されるともに、印刷層(B)が、通常平滑である熱可塑性樹脂層(E)の上面に形成されているものであることにより、印刷層(B)の美粧性がより優れると評価される場合があり、また、発泡可能な低融点熱可塑性樹脂層(C)の上面に印刷層(B)を形成する必要性がないことから、該発泡可能な低融点熱可塑性樹脂層(C)の発泡倍率をより高いものとして設計することが可能となることがある。先に述べたように、低融点熱可塑性樹脂層(A)、発泡可能な低融点熱可塑性樹脂層(C)及び熱可塑性樹脂層(E)を形成する樹脂が、ポリオレフィンであることが好ましい。
【0071】
10.断熱紙製容器用多層シートの製造方法
本発明の断熱紙製容器用多層シートの製造方法は、低融点熱可塑性樹脂層(A)と、印刷層(B)、発泡可能な低融点熱可塑性樹脂層(C)、紙製基材(D)及び熱可塑性樹脂層(E)とを備える断熱紙製容器用多層シートを得ることができる限り、特に限定されない。本発明の断熱紙製容器用多層シートは、通常の容器用多層シートを製造する際に使用する積層方法、例えば、接着剤を使用して積層を行うウエットラミネーション法、サンドイッチラミネーション法、ドライラミネーション法、サーマルラミネーション法、無溶剤型ラミネーション法や、樹脂の溶融被覆により積層を行う押出ラミネーション法、共押出ラミネーション法、インフレーション法、共押出インフレーション法等により製造することができる。製造効率の良好さ、特に接着剤の乾燥工程が不要であることから、樹脂の溶融被覆を利用する製造方法が好ましく採用される。
【0072】
例えば、印刷層(B)と、発泡可能な低融点熱可塑性樹脂層(C)、紙製基材(D)及び熱可塑性樹脂層(E)とを備える多層シートの印刷層(B)の表面に、低融点熱可塑性樹脂を溶融被覆して低融点熱可塑性樹脂層(A)を形成する工程を含むことを特徴とする断熱紙製容器用多層シートの製造方法が、好ましく採用される。発泡可能な低融点熱可塑性樹脂層(C)、紙製基材(D)及び熱可塑性樹脂層(E)は、この順に積層されていることがより好ましい。すなわち、印刷層(B)と、発泡可能な低融点熱可塑性樹脂層(C)、紙製基材(D)及び熱可塑性樹脂層(E)をこの順に備える多層シートとから形成される多層のシートの印刷層(B)の表面に、低融点熱可塑性樹脂を溶融被覆して低融点熱可塑性樹脂層(A)を形成する工程を含む断熱紙製容器用多層シートの製造方法が、より好ましい。
【0073】
さらに、前記の印刷層(B)と、発泡可能な低融点熱可塑性樹脂層(C)、紙製基材(D)及び熱可塑性樹脂層(E)とを備える多層シートを得るために、発泡可能な低融点熱可塑性樹脂層(C)、紙製基材(D)及び熱可塑性樹脂層(E)をこの順に備える多層シートの表面に、印刷層(B)を形成する工程を含む断熱紙製容器用多層シートの製造方法が、より好ましく採用される。なお、先に述べたように、印刷層(B)、特にベタ印刷層(B2)の形成を、ヒートシール部を除くように行う必要がないことから、印刷層(B)、特にベタ印刷層(B2)の形成が容易であり、効率性と経済性に優れるという効果が奏される。
【0074】
さらにまた、前記の発泡可能な低融点熱可塑性樹脂層(C)、紙製基材(D)及び熱可塑性樹脂層(E)をこの順に備える多層シートを得るために、紙製基材(D)及び熱可塑性樹脂層(E)を備える多層シートの、紙製基材(D)の熱可塑性樹脂層(E)の反対側の表面に、発泡可能な低融点熱可塑性樹脂層(C)を形成する工程を含む断熱紙製容器用多層シートの製造方法が、特に好ましく採用される。
【0075】
本発明の断熱紙製容器用多層シートが、バリア層(F)を備えるものであるときは、バリア層(F)を、紙製基材(D)または熱可塑性樹脂層(E)の一方または両方と接着により積層する工程を含むことにより、紙製基材(D)と熱可塑性樹脂層(E)との間に、バリア層(F)を備えるものとする断熱紙製容器用多層シートの製造方法であることが、好ましい。
【0076】
また、積層を行う際には、積層される層同士の接着性を向上させるために、積層される層の一方または両方の表面に対して、コロナ処理、オゾン処理またはフレーム処理等の慣用の表面処理や、ポリエチレンイミン系、ポリブタジエン系、有機チタン系等のアンカーコーティング剤の塗布による表面処理を行うことが好ましい。特に、紙製基材(D)の表面に対して前記の表面処理を行うことが好ましいことが多い。
【0077】
本発明の断熱紙製容器用多層シートの大きさは、先に述べたように特に限定されないが、通常幅10〜200cmであり、製造の容易さや取扱いの便宜の観点から、好ましくは幅30〜180cm、より好ましくは幅50〜150cmの長尺体として製造することができ、所望により所定の形状に裁断または打抜き加工を行うことにより製造することもできる。
【0078】
11.断熱紙製容器及び断熱紙製容器の製造方法
本発明の断熱紙製容器は、前記の断熱紙製容器用多層シートから形成される部材を備える断熱紙製容器であり、より具体的には、特に、前記の断熱紙製容器用多層シートから形成される胴部材または底部材を備える
図1に示すような断熱紙製容器である。
【0079】
本発明の断熱紙製容器は、前記の断熱紙製容器用多層シートから形成される胴部材または底部材等の部材を備える断熱紙製容器であることにより、熱可塑性樹脂層、紙製基材、発泡可能な低融点熱可塑性樹脂層及び印刷層を備える断熱紙製容器であって、印刷が鮮明で表面が美麗であり、かつ耐傷性及び衛生性に優れる断熱紙製容器が提供される。
【0080】
胴部材及び底部材を備える断熱紙製容器としては、略円筒状または略円錐台状の胴部材と、該胴部材と接合された底部材とを備える断熱紙製容器が知られている。こうした断熱紙製容器は、それ自体広く知られたものであり、通常、胴部材の上端は外側に巻かれ、胴部材の下端は内側に折り返されている。一方、底部材の周縁は外側に屈曲しており、胴部材の下端の折り返し部分と、底部材の周縁の屈曲部分とが接合されている。胴部材及び/または底部材には、各種印刷を施しておくことができる。例えば、本発明の断熱紙製容器用多層シートから形成される胴部材及び本発明の断熱紙製容器用多層シートから形成される底部材を備える断熱紙製容器である場合においては、胴部材及び底部材の両方が印刷層(B)を備えることから、胴部材及び底部材の両方に印刷が施された断熱紙製容器である。
【0081】
胴部材及び底部材を備える断熱紙製容器、例えば略円筒状の胴部材と略円形状の底部材とからなるカップ状の断熱紙製容器を製造する方法としては、それ自体広く知られた容器の製造方法を採用することができる。例えば、以下のような容器の製造方法である。すなわち、あらかじめ形成した広幅(例えば、幅1000mm程度)の容器用多層シートの原反を、印刷位置に合わせてライン取りスリットし、次いで、パンチング機(打ち抜き機)を使用して、印刷したカットマークに合わせて扇状にブランクカットを行う。続いて、容器成形機を使用して、ブランクカットしたシート材の両端部を接合して胴部材を形成し、該胴部材の下端部を所定の形状に折り曲げ、また、別途形成した略円形状の底部材の周縁部を所定の形状に折り曲げ、接合部を熱板等で加熱圧着により接合して容器を得ることができる。胴部材を形成するシート材(容器用多層シートの原反)と、底部材を形成するシート材(容器用多層シートの原反)とは、同一のシート材を使用してもよいし、層構成及び/または組成を異にするシート材を使用してもよい。
【0082】
本発明の断熱紙製容器は、好ましくは、本発明の断熱紙製容器用多層シートから形成される胴部材または底部材を備える断熱紙製容器である。すなわち、本発明の断熱紙製容器としては、1)本発明の断熱紙製容器用多層シートから形成される胴部材と本発明の断熱紙製容器用多層シートから形成される底部材とを備える断熱紙製容器、2)本発明の断熱紙製容器用多層シートから形成される胴部材と、その他の底部材とを備える断熱紙製容器、または3)本発明の断熱紙製容器用多層シートから形成される底部材と、その他の胴部材とを備える断熱紙製容器のいずれでもよい。特に好ましくは、1)本発明の断熱紙製容器用多層シートから形成される胴部材と本発明の断熱紙製容器用多層シートから形成される底部材とを備える断熱紙製容器である。
【0083】
例えば、
図2に示すような低融点熱可塑性樹脂層(A)、印刷層(B)、発泡可能な低融点熱可塑性樹脂層(C)、紙製基材(D)及び熱可塑性樹脂層(E)を、この順に備える本発明の断熱紙製容器用多層シートから形成される部材を備える本発明の断熱紙製容器は、紙製容器用多層シートを用いて紙製容器を製造するために採用される、前記したような通常の方法によって得ることができる。すなわち、例えば、本発明の断熱紙製容器用多層シートを、必要に応じて所定の切り欠きや切り込みを形成した後、絞り加工したり折り曲げ加工したり、更に必要により更に接着工程を加えたりすることによって容器の形状として、断熱紙製容器を製造することができる。
【0084】
好ましくは、低融点熱可塑性樹脂層(A)、印刷層(B)、発泡可能な低融点熱可塑性樹脂層(C)、紙製基材(D)及び熱可塑性樹脂層(E)を、この順に備える本発明の断熱紙製容器用多層シートの端部をヒートシールする工程を含む、前記の断熱紙製容器用多層シートから形成される部材、特に、胴部材または底部材を備える断熱紙製容器の製造方法である。
【0085】
例えば、本発明の断熱紙製容器用多層シートの低融点熱可塑性樹脂層(A)を、ヒートシール性を有するヒートシール層とし、断熱紙製容器の胴部材の展開形状(例えば、扇形)に裁断した断熱紙製容器用多層シートを、断熱紙製容器の胴部材の形状(略円錐台の側面の形状等)に熱可塑性樹脂層(E)が内面となるように変形(マンドレルに巻き付ける等の方法によることができる。)した後、断熱紙製容器用多層シートの一方の端部にある前記の低融点熱可塑性樹脂層(A)からなるヒートシール層を、断熱紙製容器用多層シートの他方の端部にある熱可塑性樹脂層(E)に重ね合わせて加熱加圧することにより、前記のヒートシール層を溶融させることによって、断熱紙製容器の胴部材を得ることができる。
【0086】
また、略円状に裁断した本発明の断熱紙製容器用多層シートを断熱紙製容器の底部材とすることができる。その際、胴部材とする本発明の断熱紙製容器用多層シートと、底部材とする本発明の断熱紙製容器用多層シートとは、同一の構成のものでも、一部の構成を異にするものでもよい。次いで、底部材である本発明の断熱紙製容器用多層シートの低融点熱可塑性樹脂層(A)を、前記した断熱紙製容器の胴部材の内面に位置する熱可塑性樹脂層(E)と重ね合わせて加熱加圧することにより、前記のヒートシール層を溶融させることによって、胴部材と底部材とを接合して、容器形状の組立体を得ることができる。なお、所望によっては、底部材である本発明の断熱紙製容器用多層シートの熱可塑性樹脂層(E)を、前記した断熱紙製容器の胴部材の内面に位置する熱可塑性樹脂層(E)と重ね合わせて加熱加圧してヒートシールを行い、胴部材と底部材とを接合して、容器形状の組立体を得ることもできる。断熱紙製容器を水密性を有するものとするために、底部材と胴部材との接合部を、常法に従って巻き重ねることが好ましい。
【0087】
続いて、得られた容器形状の組立体を、オーブン、ヒーター、熱風送風機等の加熱装置を使用して、紙製基材(D)に含有される水分を蒸発膨張させることができる温度に加熱し、発泡可能な熱可塑性樹脂層(C)を発泡させることにより、断熱紙製容器の断熱層を形成して、本発明の断熱紙製容器を製造することができる。なお、所望によっては、容器形状の組立体を加熱して、発泡可能な熱可塑性樹脂層(C)を発泡させることに代えて、断熱紙製容器用多層シートから形成される胴部材及び/または底部材を、それぞれ別個に加熱することにより、発泡可能な熱可塑性樹脂層(C)を発泡させることもできる。
【0088】
12.断熱紙製容器の性能評価
本発明の断熱紙製容器は、印刷が鮮明で表面が美麗であり、かつ耐傷性及び衛生性に優れる断熱紙製容器である。具体的には、光沢が優れ、耐溶剤性及び耐傷性が優れ、美粧性が優れる断熱紙製容器であり、それぞれ以下の方法によって測定した特性により評価することができる。
【0089】
〔断熱紙製容器の光沢度〕
本発明の断熱紙製容器用多層シートから形成される部材を備える断熱紙製容器は、光沢度が優れる。断熱紙製容器の光沢度は、断熱紙製容器から幅10cm×長さ10cmの大きさに試料を切り出して、平板上に載置し、光沢計を使用して、入射角及び反射角をともに60°として、長さ方向及び幅方向について測定を行う。なお、長さ方向とは、断熱紙製容器用多層シートを製造するときの長さ方向を意味し、幅方向とは、該長さ方向の直交方向を意味する。光沢度の測定箇所としては、有色印刷がされていない白地部分5箇所について測定を行い、n=5の平均値を断熱紙製容器の光沢度とする(単位:%)。試料としては、光沢度の測定値のばらつきを回避するために、断熱紙製容器の代替物、例えば、先に述べたヒートシール性評価用試料(断熱紙製多層シート)を使用して,測定を行ってもよい。本発明の断熱紙製容器は、光沢度が、長さ方向及び幅方向のいずれについても10%以上であり、好ましくは13%以上、より好ましくは16%以上のものである。なお、従来の断熱紙製容器は、光沢度が10%未満であった。
【0090】
〔断熱紙製容器の耐溶剤性〕
本発明の断熱紙製容器用多層シートから形成される部材を備える断熱紙製容器は、耐薬品性に優れる。断熱紙製容器の耐薬品性は、メチルエチルケトン、酢酸エチル、エタノール及びトルエンの4種類の溶剤について評価することができる。具体的には、断熱紙製容器から赤色の印刷がされている箇所を含む幅10cm×長さ10cmの大きさに試料を切り出して、平板上に載置し、赤色の印刷がされている箇所の外表面に、それぞれの溶剤を注射器を使用して1滴滴下し、10秒間経過後に、赤色印刷部の表面を目視で観察して、それぞれの溶剤に対する耐溶剤性を評価する。評価基準は以下のとおりとし、本発明の断熱紙製容器は、耐溶剤性の評価がAである。
<評価基準>
評価A: 表面に溶剤の滲みがなく、溶剤による絵柄・文字の損傷がなく、かつ、表面光沢に変化がない。
評価B: 表面に溶剤の滲みが僅かにあり、溶剤による絵柄・文字の損傷が僅かに認められる。
評価C: 赤色印刷のインキが溶け落ち、絵柄・文字の損傷が認められる。
【0091】
〔断熱紙製容器の耐傷性〕
本発明の断熱紙製容器用多層シートから形成される部材を備える断熱紙製容器は、耐傷性に優れ、表面が傷つきにくい。断熱紙製容器の耐傷性は、断熱紙製容器から幅10cm×長さ20cmの大きさに試料を切り出して平板上に載置し、評価者10名が、断熱紙製容器の外表面に黒色ボールペンで、長さ約10cmの直線を描くときの線の引きやすさを、各評価者が、所定の基準に従って評価した結果に基づき、過半数の評価者の評価結果を、断熱紙製容器の耐傷性とする。評価基準は以下のとおりとし、本発明の断熱紙製容器は、耐傷性の評価がAである。
<評価基準>
評価A: ペン先の滑りがよく、表面に全く傷がつかず、絵柄・文字の損傷がない。
評価B: ペン先がやや滑りにくく引っかかり、表面に僅かに傷がつき、絵柄・文字の損傷が僅かに認められる。
評価C: ペン先が滑りにくいまたはペン先が食い込んで引っかかり線が書けない。大きな力を加えて線を引くと、表面に著しく傷がつき、絵柄・文字の損傷が著しい。
【0092】
〔断熱紙製容器の美粧性〕
本発明の断熱紙製容器用多層シートから形成される部材を備える断熱紙製容器は、美粧性に優れる。断熱紙製容器の美粧性は、文字及び色の鮮明度によって評価することができる。具体的には、評価者10名による対比試験により、断熱紙製容器の文字及び色の鮮明度によって評価する。すなわち、本発明の断熱紙製容器と、対照として用いる低融点熱可塑性樹脂層(A)を備えない断熱紙製容器用多層シートから形成される部材を備える断熱紙製容器(以下「対照容器」ということがある。)とを、蛍光灯下に机上に近接して並べて置き、50cm離れた位置から、目視により比較評価した結果に基づき、過半数の評価者の評価結果を、断熱紙製容器の文字及び色の鮮明度の評価とする。断熱紙製容器の文字及び色の鮮明度の評価基準は以下のとおりであり、断熱紙製容器の文字及び色の鮮明度の評価がAであれば、断熱紙製容器の美粧性をAと評価し、他方、文字及び色の鮮明度の評価がBであれば、断熱紙製容器の美粧性をBと評価する。本発明の断熱紙製容器は、美粧性の評価がAである。
<文字及び色の鮮明度の評価基準>
評価A: 対照容器に較べて、文字及び色がより鮮明に見える。
評価B: 対照容器の方が、文字及び色がより鮮明に見える。
【実施例】
【0093】
以下、実施例及び比較例をあげて、本発明についてより具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。断熱紙製容器の特性等は、以下の方法によって測定した。
【0094】
〔断熱紙製容器の光沢度〕
断熱紙製容器の光沢度は、断熱紙製容器の代替物として、幅150mm×長さ150mmの正方形に裁断した断熱紙製容器用多層シートを、東京理化機械株式会社製の送風定温乾燥機ウインディーオーブンWFO−601SD型(ターンテーブル設置タイプ)を使用して、前記の多層シートを、発泡可能な低融点熱可塑性合成樹脂層(C)を上面にしてターンテーブルに載せ、温度130℃で5分間加熱発泡させることにより調製した光沢度評価用試料シート(断熱紙製多層シート)を使用して測定した。すなわち、前記の光沢度評価用試料シート(断熱紙製多層シート)から幅100mm×長さ100mmの大きさに試料を切り出して、平板上に載置し、光沢計を使用して、入射角及び反射角をともに60°として、長さ方向及び幅方向について測定を行った。光沢度の測定箇所としては、有色印刷がされていない白地部分5箇所について測定を行い、n=5の平均値を断熱紙製容器の光沢度とした。
【0095】
〔断熱紙製容器の耐溶剤性〕
断熱紙製容器の耐薬品性は、メチルエチルケトン、酢酸エチル、エタノール及びトルエンの4種類の溶剤について評価した。具体的には、断熱紙製容器から赤色の印刷がされている箇所を含む幅10cm×長さ10cmの大きさに試料を切り出して、平板上に載置し、赤色の印刷がされている箇所の外表面に、それぞれの溶剤を注射器を使用して1滴滴下し、10秒間経過後に、赤色印刷部の表面を目視で観察して、それぞれの溶剤に対する耐溶剤性を評価した。評価基準は以下のとおりとした。
<評価基準>
評価A: 表面に溶剤の滲みがなく、溶剤による絵柄・文字の損傷がなく、かつ、表面光沢に変化がない。
評価B: 表面に溶剤の滲みが僅かにあり、溶剤による絵柄・文字の損傷が僅かに認められる。
評価C: 赤色印刷のインキが溶け落ち、絵柄・文字の損傷が認められる。
【0096】
〔断熱紙製容器の耐傷性〕
断熱紙製容器の耐傷性は、断熱紙製容器から幅10cm×長さ20cmの大きさに試料を切り出して平板上に載置し、評価者10名が、断熱紙製容器の外表面に黒色ボールペンで、長さ約10cmの直線を描くときの線の引きやすさを、各評価者が、以下の基準に従って評価した結果に基づき、過半数の評価者の評価結果を、断熱紙製容器の耐傷性とした。
<評価基準>
評価A: ペン先の滑りがよく、表面に全く傷がつかず、絵柄・文字の損傷がない。
評価B: ペン先がやや滑りにくく引っかかり、表面に僅かに傷がつき、絵柄・文字の損傷が僅かに認められる。
評価C: ペン先が滑りにくいまたはペン先が食い込んで引っかかり線が書けない。大きな力を加えて線を引くと、表面に著しく傷がつき、絵柄・文字の損傷が著しい。
【0097】
〔断熱紙製容器の美粧性〕
断熱紙製容器の美粧性は、評価者10名による対比試験により、断熱紙製容器の文字及び色の鮮明度によって評価した。具体的には、断熱紙製容器と、対照例容器として、低融点熱可塑性樹脂層(A)を備えない断熱紙製容器用多層シートから形成される後述の比較例1の断熱紙製容器(「対照容器」に相当する。)とを、蛍光灯下に机上に1cm離して並べて置き、50cm離れた位置から、目視により比較評価した結果に基づき、過半数の評価者の評価結果を、断熱紙製容器の文字及び色の鮮明度の評価とした。評価基準は以下のとおりとした。断熱紙製容器の文字及び色の鮮明度の評価がAであれば、断熱紙製容器の美粧性をAと評価し、他方、文字及び色の鮮明度の評価がBであれば、断熱紙製容器の美粧性をBと評価した。
<文字及び色の鮮明度の評価基準>
評価A: 対照容器に較べて、文字及び色がより鮮明に見える。
評価B: 対照容器の方が、文字及び色がより鮮明に見える。
【0098】
〔断熱紙製容器用多層シートのヒートシール性〕
断熱紙製容器用多層シートのヒートシール性は、前記の光沢度評価用試料シート(断熱紙製多層シート)を試料として、以下1)〜3)の方法により測定し評価した。
<ヒートシール性の測定>
1)試料である断熱紙製多層シートの熱可塑性樹脂層(E)と低融点熱可塑性樹脂層(A)とを、ヒートシーラーとしてテスター産業株式会社製のTP−701−Gヒートシーラー(熱傾斜式)を使用し、幅10mm長さ50mmのシールバーを使用して、設定温度でシール圧力1kNで2秒間ヒートシールを行った後、引張試験機として株式会社エー・アンド・デイ製のSTA1150を使用して、後述の材料破壊条件で引張試験を行い、材料破壊温度を測定した。
2)対照シートとして、後述の比較例1の断熱紙製容器を形成するために使用した低融点熱可塑性樹脂層(A)を備えない断熱紙製容器用多層シートから調製した断熱紙製多層シートを使用して、1)と同じ条件でヒートシールを行った後、前記の材料破壊条件で引張試験を行い、対照シートの材料破壊温度を測定した。その際、低融点熱可塑性樹脂層(A)を備えない対照シートは、常法に従い、ヒートシールを行う箇所には印刷層(B)を形成していないので、発泡可能な低融点熱可塑性樹脂層(C)(既に発泡している。)が露出しており、該露出した発泡可能な低融点熱可塑性樹脂層(C)と熱可塑性樹脂層(E)とをヒートシールした。
3)試料である断熱紙製容器用多層シートの材料破壊温度と対照シートの材料破壊温度とのヒートシール温度差に基づいて、以下の基準に従い、低温ヒートシール性を評価した。
<材料破壊条件>
試料の大きさ: 幅15mm長さ50mm(ヒートシール部に沿って矩形に切り出した。)
チャック間距離: 25mm
引張速度: 200mm/分
引き剥がし形態: 180度剥離
<低温ヒートシール性の評価基準>
A: ヒートシール温度差が15℃以上である(より低温でヒートシールすることができる。)。
B: ヒートシール温度差が5℃以上15℃未満である(やや低温でヒートシールすることができる。)。
C: ヒートシール温度差が5℃未満または対照シートより材料破壊温度が高い。
【0099】
[実施例1]
〔熱可塑性樹脂層(E)の形成〕
紙製基材(D)として、日本製紙株式会社製の幅1060mmのコップ原紙(坪量300g/m
2、厚み335μm、含水率6〜9質量%)を原紙ロールから巻き出した。該紙製基材(D)の上面に、Tダイを備える押出ラミネーター(住友重機械モダン株式会社製、口径115mm)を使用して、中密度ポリエチレン(東ソー株式会社製。密度940kg/m
3、融点133℃、MFR6.5g/10分。以下、「MDPE」ということがある。)を押出温度300〜350℃で押し出して、紙製基材(D)を覆うように層状に広げた後、表面温度20℃の冷却ロールと表面温度30℃の圧着ロールの間を通過させて冷却することにより、厚み40μmの熱可塑性樹脂層(E)を形成した。
【0100】
〔発泡可能な低融点熱可塑性樹脂層(C)の形成〕
紙製基材(D)の熱可塑性樹脂層(E)と反対側の表面に、Tダイを備える押出ラミネーター(住友重機械モダン株式会社製、口径90mm)を使用して、低密度ポリエチレン(東ソー株式会社製。密度918kg/m
3、融点103℃、MFR15g/10分。以下、「LDPE−1」ということがある。)を押出温度300〜350℃で押し出して、紙製基材(D)を覆うように層状に広げた後、表面温度20℃の冷却ロールと表面温度30℃の圧着ロールの間を通過させて冷却することにより、厚み50μmの発泡可能な低融点熱可塑性樹脂層(C)を形成した。
【0101】
〔印刷層(B)の形成〕
印刷層(B)との接着力を高めるために、前記の発泡可能な低融点熱可塑性樹脂層(C)の上面をコロナ放電処理した後、グラビア印刷機(富士機械工業株式会社製、7色刷仕様)を使用して、白ベタ印刷インク〔東洋インキ株式会社製、プライムカップ(登録商標)63C白〕を乾燥後塗布量2.5g/m
2となるように塗布して、厚み2.5μmのベタ印刷層(B2)を形成した。次いで、前記のグラビア印刷機を使用して赤色インク〔東洋インキ株式会社製、プライムカップ(登録商標)3S〕を乾燥後塗布量0.375g/m
2となるように模様状に塗布して、厚み2.5μmの模様印刷層(B1)を形成することにより、ベタ印刷層(B2)及び模様印刷層(B1)からなる印刷層(B)を形成した。
【0102】
〔低融点熱可塑性樹脂層(A)の形成〕
前記の印刷層(B)の模様印刷層(B1)の上面に、Tダイを備える押出ラミネーター(住友重機械モダン株式会社製、口径90mm)を使用して、前記のLDPE−1を押出温度300〜350℃で押し出して、印刷層(B)を覆うように層状に広げた後、表面温度20℃の冷却ロールと表面温度30℃の圧着ロールの間を通過させて冷却することにより、厚み15μmの低融点熱可塑性樹脂層(A)を形成することにより、断熱紙製容器用多層シートを製造した。製造された低融点熱可塑性樹脂層(A)、印刷層(B)、発泡可能な低融点熱可塑性樹脂層(C)、紙製基材(D)及び熱可塑性樹脂層(E)を、この順に備える断熱紙製容器用多層シートについて、材料破壊温度を測定することによりヒートシール性を評価した。
【0103】
〔胴部材の形成〕
得られた断熱紙製容器用多層シートを容器の胴部材の展開形状に相当する扇状に打ち抜いて、断熱紙製容器の胴部材を得た。
【0104】
〔ヒートシール〕
得られた断熱紙製容器の胴部材を丸めて両側端部を幅10mmで重ね〔一方の側端部の低融点熱可塑性樹脂層(A)と他方の側端部の熱可塑性樹脂層(E)とが当接する。〕、テスター産業株式会社製のTP−701−Gヒートシーラー(熱傾斜式)を使用して、温度185℃、シール圧力1kNで2秒間ヒートシールすることにより、略円錐台状の断熱紙製容器の胴部を形成した。次いで、形成した胴部を、別途形成した円状の断熱紙製容器の底部材〔前記で得られた断熱紙製容器用多層シートにおいて、印刷層(B)がベタ印刷層(B2)のみから形成されるものに相当する。〕の周縁部とをヒートシールし、また、該ヒートシール部を巻き込むことにより容器形状の組立体を得た。
【0105】
〔断熱紙製容器の形成〕
得られた容器形状の組立体を、温度130℃の加熱炉に入れて、5分間加熱することにより、紙製基材(D)に含有される水分を蒸発させて、発泡可能な低融点熱可塑性樹脂層(C)を発泡させて断熱紙製容器を製造した。製造した断熱紙製容器について、光沢度、耐溶剤性、耐傷性と、美粧性を測定し評価した。それらの結果を、断熱紙製容器用多層シートのヒートシール性の評価結果と併せて、表1に示す。
【0106】
[比較例1](対照シート及び対照容器の製造)
低融点熱可塑性樹脂層(A)の形成を行わなかったことを除いて、実施例1と同様にして、低融点熱可塑性樹脂層(A)を備えない断熱紙製容器用多層シートを製造し、対照シートとした。なお、発泡可能な低融点熱可塑性樹脂層(C)のヒートシール部として利用する箇所には、印刷層(B)を形成しなかった。続いて、この対照シートを容器の胴部材の展開形状に相当する扇状に打ち抜いて、断熱紙製容器の胴部材を得た後、実施例1と同様にして、容器形状の組立体を得た。なお、底部材は、実施例1において使用したのと同じ底部材を使用した。次いで、実施例1と同様にして、発泡可能な低融点熱可塑性樹脂層(C)を発泡させて断熱紙製容器を製造して、対照容器とした。製造した対照容器について、光沢度、耐溶剤性、耐傷性を測定し評価し、また、美粧性の評価の基準とした。それらの結果を、対照シートのヒートシール性の評価結果と併せて、表1に示す。
【0107】
[実施例2]
Tダイを備える押出ラミネーターへのLDPE−1の供給量及び押出速度を変更することにより、厚み20μmの低融点熱可塑性樹脂層(A)を形成したことを除いて、実施例1と同様にして、低融点熱可塑性樹脂層(A)、印刷層(B)、発泡可能な低融点熱可塑性樹脂層(C)、紙製基材(D)及び熱可塑性樹脂層(E)を、この順に備える断熱紙製容器用多層シートを製造した。続いて、この断熱紙製容器用多層シートを扇状に打ち抜いて、断熱紙製容器の胴部材を得た後、実施例1と同様にして、容器形状の組立体を得た。なお、底部材は、実施例1において使用したのと同じ底部材を使用した。次いで、実施例1と同様にして、発泡可能な低融点熱可塑性樹脂層(C)を発泡させて断熱紙製容器を製造した。製造した断熱紙製容器について、光沢度、耐溶剤性、耐傷性と、美粧性を測定し評価した。それらの結果を、断熱紙製容器用多層シートのヒートシール性の評価結果と併せて、表1に示す。
【0108】
[実施例3]
Tダイを備える押出ラミネーターへのLDPE−1の供給量及び押出速度を変更することにより、厚み30μmの発泡可能な低融点熱可塑性樹脂層(C)を形成したことを除いて、実施例1と同様にして、低融点熱可塑性樹脂層(A)、印刷層(B)、発泡可能な低融点熱可塑性樹脂層(C)、紙製基材(D)及び熱可塑性樹脂層(E)を、この順に備える断熱紙製容器用多層シートを製造した。続いて、この断熱紙製容器用多層シートを扇状に打ち抜いて、断熱紙製容器の胴部材を得た後、実施例1と同様にして、断熱紙製容器を製造した。製造した断熱紙製容器について、光沢度、耐溶剤性、耐傷性と、美粧性を測定し評価した。それらの結果を、断熱紙製容器用多層シートのヒートシール性の評価結果と併せて、表1に示す。
【0109】
[実施例4]
Tダイを備える押出ラミネーターへのLDPE−1の供給量及び押出速度を変更することにより、厚み70μmの発泡可能な低融点熱可塑性樹脂層(C)を形成したことを除いて、実施例1と同様にして、低融点熱可塑性樹脂層(A)、印刷層(B)、発泡可能な低融点熱可塑性樹脂層(C)、紙製基材(D)及び熱可塑性樹脂層(E)を、この順に備える断熱紙製容器用多層シートを製造した。続いて、この断熱紙製容器用多層シートを扇状に打ち抜いて、断熱紙製容器の胴部材を得た後、実施例1と同様にして、断熱紙製容器を製造した。製造した断熱紙製容器について、光沢度、耐溶剤性、耐傷性と、美粧性を測定し評価した。それらの結果を、断熱紙製容器用多層シートのヒートシール性の評価結果と併せて、表1に示す。
【0110】
[実施例5]
紙製基材(D)として、坪量320g/m
2のコップ原紙(厚み357μm、含水率6〜9質量%)を使用したことを除いて、実施例3と同様にして、低融点熱可塑性樹脂層(A)、印刷層(B)、発泡可能な低融点熱可塑性樹脂層(C)、紙製基材(D)及び熱可塑性樹脂層(E)を、この順に備える断熱紙製容器用多層シートを製造した。続いて、この断熱紙製容器用多層シートを扇状に打ち抜いて、断熱紙製容器の胴部材を得た後、実施例3と同様にして、断熱紙製容器を製造した。製造した断熱紙製容器について、光沢度、耐溶剤性、耐傷性と、美粧性を測定し評価した。それらの結果を、断熱紙製容器用多層シートのヒートシール性の評価結果と併せて、表1に示す。
【0111】
[実施例6]
紙製基材(D)として、実施例5で使用したコップ原紙を使用したことを除いて、実施例1と同様にして、低融点熱可塑性樹脂層(A)、印刷層(B)、発泡可能な低融点熱可塑性樹脂層(C)、紙製基材(D)及び熱可塑性樹脂層(E)を、この順に備える断熱紙製容器用多層シートを製造した。続いて、この断熱紙製容器用多層シートを扇状に打ち抜いて、断熱紙製容器の胴部材を得た後、実施例1と同様にして、断熱紙製容器を製造した。製造した断熱紙製容器について、光沢度、耐溶剤性、耐傷性と、美粧性を測定し評価した。それらの結果を、断熱紙製容器用多層シートのヒートシール性の評価結果と併せて、表1に示す。
【0112】
[実施例7]
紙製基材(D)として、実施例5で使用したコップ原紙を使用したことを除いて、実施例4と同様にして、低融点熱可塑性樹脂層(A)、印刷層(B)、発泡可能な低融点熱可塑性樹脂層(C)、紙製基材(D)及び熱可塑性樹脂層(E)を、この順に備える断熱紙製容器用多層シートを製造した。続いて、この断熱紙製容器用多層シートを扇状に打ち抜いて、断熱紙製容器の胴部材を得た後、実施例4と同様にして、断熱紙製容器を製造した。製造した断熱紙製容器について、光沢度、耐溶剤性、耐傷性と、美粧性を測定し評価した。それらの結果を、断熱紙製容器用多層シートのヒートシール性の評価結果と併せて、表1に示す。
【0113】
[実施例8]
低融点熱可塑性樹脂層(A)を、低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン株式会社製。密度918kg/m
3、融点106℃、MFR14g/10分。以下、「LDPE−2」ということがある。)を押出温度300〜350℃で押し出して形成したことを除いて、実施例1と同様にして、低融点熱可塑性樹脂層(A)、印刷層(B)、発泡可能な低融点熱可塑性樹脂層(C)、紙製基材(D)及び熱可塑性樹脂層(E)を、この順に備える断熱紙製容器用多層シートを製造した。続いて、この断熱紙製容器用多層シートを扇状に打ち抜いて、断熱紙製容器の胴部材を得た後、実施例1と同様にして、断熱紙製容器を製造した。製造した断熱紙製容器について、光沢度、耐溶剤性、耐傷性と、美粧性を測定し評価した。それらの結果を、断熱紙製容器用多層シートのヒートシール性の評価結果と併せて、表1に示す。
【0114】
[実施例9]
低融点熱可塑性樹脂層(A)を、前記のLDPE−1とエチレン・α−オレフィン共重合体〔東ソー株式会社製のニポロン(登録商標)−LY15A。密度912kg/m
3、融点103℃、MFR15.0g/10分。以下、「LLDPE」ということがある。〕とからなる組成物(質量比80:20。以下、「LLDPE混合」ということがある。)を、押出温度300〜350℃で押し出して形成したことを除いて、実施例1と同様にして、低融点熱可塑性樹脂層(A)、印刷層(B)、発泡可能な低融点熱可塑性樹脂層(C)、紙製基材(D)及び熱可塑性樹脂層(E)を、この順に備える断熱紙製容器用多層シートを製造した。続いて、この断熱紙製容器用多層シートを扇状に打ち抜いて、断熱紙製容器の胴部材を得た後、実施例1と同様にして、断熱紙製容器を製造した。製造した断熱紙製容器について、光沢度、耐溶剤性、耐傷性と、美粧性を測定し評価した。それらの結果を、断熱紙製容器用多層シートのヒートシール性の評価結果と併せて、表1に示す。
【0115】
[実施例10]
発泡可能な低融点熱可塑性樹脂層(C)を、前記のLDPE−1と前記のLLDPEとからなる組成物(質量比80:20の「LLDPE混合」)を、押出温度300〜350℃で押し出して形成したことを除いて、実施例9と同様にして、低融点熱可塑性樹脂層(A)、印刷層(B)、発泡可能な低融点熱可塑性樹脂層(C)、紙製基材(D)及び熱可塑性樹脂層(E)を、この順に備える断熱紙製容器用多層シートを製造した。続いて、この断熱紙製容器用多層シートを扇状に打ち抜いて、断熱紙製容器の胴部材を得た後、実施例9と同様にして、断熱紙製容器を製造した。製造した断熱紙製容器について、光沢度、耐溶剤性、耐傷性と、美粧性を測定し評価した。それらの結果を、断熱紙製容器用多層シートのヒートシール性の評価結果と併せて、表1に示す。
【0116】
[実施例11]
紙製基材(D)として、実施例5で使用したコップ原紙を使用したことを除いて、実施例8と同様にして、低融点熱可塑性樹脂層(A)、印刷層(B)、発泡可能な低融点熱可塑性樹脂層(C)、紙製基材(D)及び熱可塑性樹脂層(E)を、この順に備える断熱紙製容器用多層シートを製造した。続いて、この断熱紙製容器用多層シートを扇状に打ち抜いて、断熱紙製容器の胴部材を得た後、実施例8と同様にして、断熱紙製容器を製造した。製造した断熱紙製容器について、光沢度、耐溶剤性、耐傷性と、美粧性を測定し評価した。それらの結果を、断熱紙製容器用多層シートのヒートシール性の評価結果と併せて、表1に示す。
【0117】
[実施例12]
バリア層(F)として、厚み12μmの酸化アルミニウム蒸着PETフィルム(東レ株式会社製。以下、「蒸着PET」ということがある。)を使用し、その両面に無水マレイン酸変性ポリエチレンからなる接着剤層〔三井化学株式会社製、アドマー(登録商標)NE827、融点124℃〕をそれぞれ厚み15μmとなるように共押出して形成した後、紙製基材(D)と接着した。次いで、紙製基材(D)と接着により積層されたバリア層(F)の紙製基材(D)と反対側の表面に、熱可塑性樹脂層(E)を形成したことを除いて、実施例1と同様にして、低融点熱可塑性樹脂層(A)、印刷層(B)、発泡可能な低融点熱可塑性樹脂層(C)、紙製基材(D)、接着剤層、バリア層(F)、接着剤層及び熱可塑性樹脂層(E)を、この順に備える断熱紙製容器用多層シートを製造した。続いて、この断熱紙製容器用多層シートを扇状に打ち抜いて、断熱紙製容器の胴部材を得た後、実施例1と同様にして、断熱紙製容器を製造した。製造した断熱紙製容器について、光沢度、耐溶剤性、耐傷性と、美粧性を測定し評価した。それらの結果を、断熱紙製容器用多層シートのヒートシール性の評価結果と併せて、表1に示す。
【0118】
[実施例13]
バリア層(F)として、厚み12μmのアクリル酸系バリア性樹脂コートPETフィルム〔株式会社クレハ製、ベセーラ(登録商標)ET−14R。以下、「アクリルコート」ということがある。〕を使用したことを除いて、実施例12と同様にして、低融点熱可塑性樹脂層(A)、印刷層(B)、発泡可能な低融点熱可塑性樹脂層(C)、紙製基材(D)、接着剤層、バリア層(F)、接着剤層及び熱可塑性樹脂層(E)を、この順に備える断熱紙製容器用多層シートを製造した。続いて、この断熱紙製容器用多層シートを扇状に打ち抜いて、断熱紙製容器の胴部材を得た後、実施例12と同様にして、断熱紙製容器を製造した。製造した断熱紙製容器について、光沢度、耐溶剤性、耐傷性と、美粧性を測定し評価した。それらの結果を、断熱紙製容器用多層シートのヒートシール性の評価結果と併せて、表1に示す。
【0119】
【表1】
【0120】
表1から、低融点熱可塑性樹脂層(A)、印刷層(B)〔具体的には、模様印刷層(B1)及びベタ印刷層(B2)からなる〕、発泡可能な低融点熱可塑性樹脂層(C)、紙製基材(D)及び熱可塑性樹脂層(E)を、この順に備える実施例1〜11の断熱紙製容器用多層シートは、ヒートシール性に優れたものであり、また、これらの断熱紙製容器用多層シートから形成される部材を備える断熱紙製容器は、いずれも光沢度、耐溶剤性、耐傷性及び美粧性に優れるものであることが分かった。
【0121】
さらに、低融点熱可塑性樹脂層(A)、印刷層(B)、発泡可能な低融点熱可塑性樹脂層(C)、紙製基材(D)及び熱可塑性樹脂層(E)を、この順に備えるともに、紙製基材(D)と熱可塑性樹脂層(E)との間に、バリア層(F)を備える実施例12、13の断熱紙製容器用多層シートは、ヒートシール性に優れたものであり、また、これらの断熱紙製容器用多層シートから形成される部材を備えるバリア性の断熱紙製容器は、いずれも光沢度、耐溶剤性、耐傷性及び美粧性に優れるものであることが分かった。
【0122】
これに対し、低融点熱可塑性樹脂層(A)を備えない比較例1の断熱紙製容器用多層シートは、本発明の断熱紙製容器用多層シートと比較すると、ヒートシール性が劣るものであり、また、該断熱紙製容器用多層シートから形成される部材を備える断熱紙製容器は、本発明の断熱紙製容器と比較すると、光沢度、耐溶剤性、耐傷性及び美粧性に劣るものであることが分かった。
【0123】
[実施例14]
印刷層(B)との接着力を高めるために、前記の熱可塑性樹脂層(E)の上面をコロナ放電処理した後、厚み2.5μmのベタ印刷層(B2)を形成し、次いで、厚み2.5μmの模様印刷層(B1)を形成することにより、ベタ印刷層(B2)及び模様印刷層(B1)からなる印刷層(B)を形成したことを除いて、実施例1と同様にして、低融点熱可塑性樹脂層(A)、印刷層(B)、熱可塑性樹脂層(E)、紙製基材(D)及び発泡可能な低融点熱可塑性樹脂層(C)を、この順に備える断熱紙製容器用多層シートを製造した。続いて、この断熱紙製容器用多層シートを容器の胴部材の展開形状に相当する扇状に打ち抜いて、断熱紙製容器の胴部材を得た後、実施例1と同様にして、断熱紙製容器を製造した。得られた断熱紙製容器用多層シートは、ヒートシール性に優れたものであり、また、これらの断熱紙製容器用多層シートから形成される部材を備える断熱紙製容器は、いずれも光沢度、耐溶剤性、耐傷性及び美粧性に優れるものであった。