(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第1の実施の形態)
図2は第1の実施の形態に関する画像形成装置1の構成図である。画像形成装置1は、用紙搬送路2へ用紙Mを搬送する用紙搬送手段としての用紙搬送部4、記録光露光部材としてのLEDヘッド3、記録光に応じたトナー像を形成するトナー像形成部5、用紙M上にトナーを定着させる定着器6からなる。そして、用紙搬送路2上の用紙位置を検出する書出しセンサ8を備える。用紙搬送路2には、用紙搬送順に書出しセンサ8、トナー像形成部5、定着器6と配置されている。LEDヘッド3はトナー像形成部5に隣接して配置されている。
【0013】
後述する印刷制御部100が印刷要求を受けると、用紙搬送部4によって画像形成のタイミングに合わせて用紙Mをトナー像形成部5へ搬送する。LEDヘッド3は印刷情報に応じた記録光をトナー像形成部5へ照射し、トナー像形成部5は照射された記録光に応じたトナー像を用紙M上に形成する。その後用紙搬送部4によって定着器6へ用紙Mが搬送されると、定着器6の熱と圧力によって用紙M上のトナー像が定着された後に排出される。
【0014】
図1は第1の実施の形態に関する画像形成装置1のブロック図である。印刷制御部100には、LEDヘッド3、トナー像形成部電源7、搬送モータ電源17、定着モータ電源20、書出しセンサ8、排出センサ9、定着ローラサーミスタ62、加圧ローラサーミスタ65及びヒータ電源16が接続されている。更に、トナー像形成部電源7とトナー像形成部5とが接続され、搬送モータ電源17と用紙搬送モータ18とが接続されている。更に、もう一方の定着モータ電源20と定着器モータ21とが接続され、ヒータ電源16と定着器6の定着ヒータ61が接続されている。
【0015】
印刷制御部100は、各部を制御することによって、印刷動作を制御する。LEDヘッド3は、記録信号に基づいて記録光をトナー像形成部5としての感光ドラムに向けて露光する。トナー像形成部5は記録光に応じたトナー像をその表面に形成する。トナー像形成部電源7はトナー像形成部5に電圧を印加する。用紙搬送モータ18は、搬送モータ電源17から供給される電力により回転し用紙Mを搬送する。定着器モータ21は、定着モータ電源20から供給される電力により回転し定着器6の後述する定着ローラ64を回転させる。
【0016】
更に、書出しセンサ8は用紙搬送路2上に設けられ用紙Mの搬送位置を検出する。定着器6は、後述するように定着手段としての定着ローラ64を加熱する定着ヒータ61が内蔵され、加圧手段としての加圧ローラ63とともに用紙M上のトナー像を用紙Mに定着させる。ヒータ電源16は定着ヒータ61へ電力を供給する。第1温度検知手段としての定着ローラサーミスタ62は、定着器6の定着ローラ64の情報としての温度を検知する。そして、第2温度検知手段としての加圧ローラサーミスタ65は、定着器6の加圧ローラ63の情報としての温度を検知する。
【0017】
また、印刷制御部100は、モータ制御部101、速度設定部102、温度検知部103、加熱制御部104、比較部105及び温度差計算部106を内蔵する。まず、モータ制御部101は、用紙搬送モータ18及び定着器モータ21の動作を制御するために、搬送モータ電源17及び定着モータ電源20に供給する電力を制御する。モータ制御部101は、次に説明する速度設定部102が設定する回転速度Vに基づいて、搬送モータ電源17及び定着モータ電源20に供給する電力を制御する。
【0018】
速度設定部102は、画像形成装置1の動作条件に合わせた最適な定着器モータ21の回転速度Vを制御する。具体的には、速度設定部102は、後述する定着ローラ64及び加圧ローラ63の情報としての温度差ΔT0に応じて、定着ローラ64の通紙開始までの定着器モータ21の回転速度Vを印刷速度Vprnに設定する(S104、S111)。そして、速度設定部102は後述する第2回転速度としての最適通紙前回転速度VAを算出する(S107)。更に、速度設定部102は、算出した最適通紙前回転速度VAを用いて、定着器モータ21の回転速度Vを最適通紙前回転速度VAに設定する(S109)。
【0019】
温度検知部103は、定着ローラサーミスタ62と加圧ローラサーミスタ65から定着ローラ64及び加圧ローラ63の表面温度を検知する。そして、温度差計算部106は後述する定着ローラ64及び加圧ローラ63の温度差ΔT0を計算する。加熱制御部104は、定着器6を設定温度としての印刷可能温度範囲内に加熱制御するためにヒータ電源16を制御する。即ち、加熱制御部104は、定着器6の定着ローラサーミスタ62で検知した温度があらかじめ決定しておいた印刷可能温度範囲内であるかを判断する。判断の結果、加熱制御部104は、ヒータ電源16から定着ヒータ61への電力供給を停止することで定着ローラ64の温度を低下させるか又はヒータ電源16から定着ヒータ61への電力供給を行うことで定着ローラ64の温度を上昇させる。比較部105は印刷制御部100の制御により、各種情報を比較する。
【0020】
図3は第1の実施の形態に関する定着器6の構成を示す説明図である。定着器6は、用紙Mに熱を供給し更に搬送するための定着ローラ64、前記定着ローラ64を加熱する加熱手段としての定着ヒータ61、加圧手段としての加圧ローラ63、定着ローラ64の表面温度を検知する第1温度検知手段としての定着ローラサーミスタ62、加圧ローラ63の表面温度を検知する第2温度検知手段としての加圧ローラサーミスタ65からなる。
【0021】
定着ローラ64は円筒状に形成され、円筒状芯金の内部に定着ヒータ61が配される。定着ローラ64に対向して配置され、用紙Mに圧力を与える加圧ローラ63が圧接されることによりニップ部を形成する。定着ローラ64及び加圧ローラ63が矢印R及びR´の方向に回転することにより、このニップ部に未定着トナー像を形成した用紙Mを通紙する。定着ヒータ61はヒータ電源16に接続され、ヒータ電源16は印刷制御部100に接続される。更に、定着ローラサーミスタ62及び加圧ローラサーミスタ65は印刷制御部100に接続される。そして、印刷制御部100の温度差計算部106は、定着ローラサーミスタ62及び加圧ローラサーミスタ65から検知された表面温度から、定着ローラ64及び加圧ローラ63の温度差ΔT0を計算する。
【0022】
図4は第1の実施の形態に関する定着器6の断面を示す説明図である。同図(a)は定着器6の縦断面図であり、同図(b)は定着器6の長手方向中央部でのA−A´断面図であり、同図(c)は定着器6の長手方向端部でのB−B´断面図である。定着器6は、定着ローラ64及び加圧ローラ63の回転支持部材としてのボールベアリング66、前述した定着器モータ21からの駆動力を定着ローラ64へ伝達する駆動力伝達手段としてのギヤ67を備える。
【0023】
定着ローラ64は加圧ローラ63と接触してニップ部を形成する。定着ヒータ61は定着ローラ64の内部に非接触に設置される。定着ローラサーミスタ62は定着ローラ64の表面に接触し、加圧ローラサーミスタ65は加圧ローラ63の表面に接触している。
ただし、定着ヒータ61は定着ローラ64に接触して設置してもよい。更に、定着ローラサーミスタ62及び加圧ローラサーミスタ65は、定着ローラ64及び加圧ローラ63の表面を非接触で設置してもよい。
【0024】
ボールベアリング66は定着ローラ64及び加圧ローラ63の両端に接続されている。ギヤ67は定着ローラ64の片側端部に接続されている。定着ローラ64は、外形が30mmで、鉄製の素管によって構成されている基体としての芯金と、この芯金を被覆するシリコンゴム製の厚さ1mmの弾性層を有している。基体としての芯金はその両端でボールベアリングを介して回転可能に支持部材へ保持されており、更に片側に駆動伝達機構としてのギヤ67と接続される。ギヤ67が前述した定着器モータ21からの駆動力により回転駆動されることで定着ローラ64が回転駆動される。
【0025】
定着器モータ21(
図1参照)は例えばパルスモータが使用される。本実施の形態の定着器モータ21では制御用パルス発生器をモータ部に備えている。この定着器モータ21は、モータ回転用の電源を供給し、速度に応じた周波数のクロック信号を印刷制御部100から供給するとその速度に応じた回転速度Vで回転する機能を持つ。具体的には、第1回転速度と、第1回転速度よりも高速である第2回転速度である。そのため、印刷制御部100は供給するクロック周波数を制御することで定着器モータ21の回転速度Vを制御することができる。加圧ローラ63は、ばね等の図示しない弾性体により、定着ローラ64を圧接する向きに押し付けられている。加圧ローラ63は定着ローラ64に当接しており、これによりニップ部が形成されている。そのため定着ローラ64が回転すると、連れ回りにより加圧ローラ63も回転する。
【0026】
定着ローラサーミスタ62、加圧ローラサーミスタ65はともに温度に応じて自身の抵抗値が変化する素子である。印刷制御部100の温度検知部103はその抵抗値を検知することにより、定着ローラサーミスタ62、加圧ローラサーミスタ65の温度を検知する。定着ローラサーミスタ62は定着ローラ64の表面に接触しており、同様に加圧ローラサーミスタ65は加圧ローラ63の表面に接触している。前述した温度検知部103は以上により各サーミスタの出力を検知することで、定着ローラ64及び加圧ローラ63の温度を検出することができる。本実施の形態では温度の増加に従って抵抗値が減少する特性の素子を用いている。
【0027】
定着ヒータ61は商用電源からの電力を供給すると発熱する発熱体であり、例えばハロゲンヒータを使用する。定着ヒータ61へ印加される電圧は例えば100Vであり、定着ヒータ61の出力は例えば800Wとする。定着ローラ64の構成部材は熱容量を持っていて、かつその熱容量が比較的大きいので、その内面から表面の間で熱の伝達遅れが発生する。そのため、定着ヒータ61が発熱を開始して定着ローラ64の芯金の加熱を開始してから、定着ローラ64の表面温度が上昇するまでには時間的な遅れが生じる。
【0028】
以下本実施の形態に関する定着器6の動作を
図1、
図5を用いて説明する。印刷制御部100の加熱制御部104は印刷要求がない場合(待機状態)では、印刷要求が発生した場合にすぐに印刷できるように、定着器6の温度を良好に定着可能な温度(例えば195℃)に制御しておく。このとき定着ローラ64は停止させた状態である。
【0029】
印刷制御部100は印刷要求を受けると、定着器6の温度が印刷可能か否かの判定を行う。印刷可能であると判断した場合は、画像形成のタイミングに合わせて、搬送モータ電源17から用紙搬送モータ18へ電力を供給することで、用紙搬送部4による用紙搬送を開始する。印刷制御部100は、印刷可能ではないと判断した場合は、定着器6の温度が定着可能温度になるまで用紙搬送を行わない。こうして用紙Mを用紙搬送路2上のトナー像形成部5へ向けて搬送する。LEDヘッド3は印刷情報に応じた記録光をトナー像形成部5へ照射し、トナー像形成部5は照射された記録光に応じたトナー像を用紙M上に形成する。その後用紙搬送部4によって定着器6へ用紙Mが搬送されると、定着器6の熱と圧力によって用紙M上のトナー像が定着された後に排出される。
【0030】
加熱制御部104による定着器6の温度制御について説明する。加熱制御部104は定着器6の定着ローラサーミスタ62で検知した温度があらかじめ決定しておいた印刷可能温度範囲内であるかを判断する。範囲内であれば、印刷制御部100のモータ制御部101は、用紙搬送モータ18を動作させるために、搬送モータ電源17に電力を供給する。これにより用紙Mの搬送を開始する。
【0031】
印刷可能温度範囲とは用紙Mへトナーを定着させることができる温度範囲であり、下限温度としてのT1と上限温度としてのT2を持つ。T1は例えば175℃であり、T2は例えば205℃である。上限温度T2よりも高い温度であった場合は、加熱制御部104はヒータ電源16から定着ヒータ61への電力供給を停止して定着ローラ64の温度を低下させる(以下、これをクールダウンと言う)。下限温度T1よりも低い温度であった場合は、加熱制御部104はヒータ電源16から定着ヒータ61への電力供給を行うことで定着ローラ64の温度を上昇させる(以下、これをウォームアップと言う)。以上のようにして、加熱制御部104が定着ローラ64の温度を印刷可能温度範囲内に制御することで、用紙Mに適切な熱を与えて定着不良の発生を防止している。
【0032】
次に本実施の形態での定着器モータ21の回転速度Vの制御方法について説明する。
図5は第1の実施の形態に関する定着器モータ21の回転速度Vの制御動作を示すフローチャートである。本図を用いて動作を説明する。
S101:印刷制御部100は、図示しない上位コントローラからの印刷要求の有無を検知し、印刷要求を検知した場合は印刷開始処理であるステップ102へ移行する。
S102:印刷制御部100の温度検知部103は、定着ローラ64の温度と加圧ローラ63の温度を検出する。ここでは検出した温度をそれぞれTup0、Tlw0とする。このとき、定着器6の温度が定着可能温度であるときは、ステップ103へ移行するが定着器6の温度が定着可能温度でない場合は、定着器6の温度が定着可能温度になるまでウォームアップ動作を行い、定着器6の温度が定着可能温度になったらステップ103へ移行する。
【0033】
S103:印刷制御部100の温度差計算部106は、温度検知部103が検出したTup0、Tlw0を用いて、現在の定着ローラ64及び加圧ローラ63の温度差ΔT0を以下の式から算出する。
ΔT0=Tup0−Tlw0
S104:印刷制御部100は、図示しない上位コントローラからの印刷要求より、指示された印刷速度を抽出する。ここでは、指示された印刷速度をVprnとする。そして、印刷制御部100の速度設定部102は、定着器モータ21の回転速度Vを第1回転速度としての印刷速度Vprnに設定する。
【0034】
S105:次に印刷制御部100は、定着器モータ21の回転速度Vの変更を行う必要があるか判断するために、回転速度変更判定温度差ΔTthを選択する。
ΔTth[Vprn]
これは、通紙開始までの定着器モータ21の回転速度Vを変更する必要があるかないかを判断するための定着ローラ64及び加圧ローラ63との温度差である。この回転速度変更判定温度差ΔTthは印刷速度に応じてそれぞれ設定される値であり、実験から求められる値である。
例えば ΔTth[200mm/s]=50℃
ΔTth[125mm/s]=100℃
ΔTth[ 50mm/s]=150℃ である。
【0035】
ここで、
図6、
図7を用いて上記の回転速度変更判定温度差ΔTthの求め方を説明する。
図6は第1の実施の形態に関する上下温度差ΔT0と回転後の表面温度変化量Dの関係を示す説明図である。上下温度差ΔT0[℃]とは、定着ローラ64及び加圧ローラ63との温度差(以下、上下温度差ΔT0という)である。回転後の表面温度変化量D[℃]とは、待機状態から回転を開始した後の所定時間での定着ローラ64の表面温度変化量Dである。本図は印刷速度を変えた場合の関係も示している。
【0036】
上下温度差ΔT0が大きい場合とは定着ローラ64及び加圧ローラ63との温度差が大きい場合を示している。例えば、定着ローラ64は195℃、加圧ローラ63は95℃及び上下温度差ΔT0は100℃である。その状態で定着ローラ64の回転を開始させると、温度の高い定着ローラ64から温度の低い加圧ローラ63へ熱が移動し、温度差が大きいために単位時間当たりの熱の移動量が大きくなる。つまり高温である定着ローラ64の温度は大きく低下する。
【0037】
これとは反対に上下温度差ΔT0が小さい場合は、例えば定着ローラ64は195℃、加圧ローラ63は150℃及び上下温度差ΔT0は45℃である。単位時間当たりの熱の移動量が小さくなるため、高温である定着ローラ64の温度低下は小さくなる。即ち、上下温度差ΔT0と定着ローラ64の回転後温度変化量Dのマイナス値が比例関係にある。
【0038】
更に、定着ローラ64の回転速度Vが変化すると上記の表面温度変化量Dが変化する。即ち、回転速度Vが高速になると、温度の高い定着ローラ64と温度の低い加圧ローラ63とが接触する頻度が高まり、その結果、定着ローラ64の熱がより頻繁に加圧ローラ63へと移動する。そのため同じ上下温度差ΔT0では、回転速度Vが高速になるほど単位時間当たりの熱の移動量が多くなり(熱が奪われやすくなり)、温度の高い定着ローラ64の温度低下が大きくなる。回転速度Vが低速であると定着ローラ64から加圧ローラ63に移動する熱が移動しにくくなる。
【0039】
図7は第1の実施の形態に関する上下温度差ΔT0、回転後の表面温度変化量D、投入熱量P、通紙開始時蓄熱量Qの関係から回転速度変更判定温度差ΔTthを示す説明図である。投入熱量P[W]とは、回転開始から用紙Mが定着器6に到達するまでに加熱制御部104により定着ローラ64へ投入される熱量である。即ち、回転後の表面温度変化量Dのとき、定着するための所定の温度にするのに必要な投入熱量Pである。通紙開始時蓄熱量Q[J]とは、通紙開始時点において定着ローラ64に蓄えられている熱量である。回転速度変更判定温度差ΔTthは後述する。印刷速度が低速の場合を用いて説明するが、回転速度Vが高速の場合でも同様である。
【0040】
上下温度差ΔT0が大きい場合では
図6において説明した通り、回転を開始した後の所定時間での定着ローラ64の表面温度変化量Dがマイナスに大きくなる。加熱制御部104は、定着ローラ64の温度が設定温度としての印刷可能温度範囲となるように定着ヒータ61への電力供給を行うことで投入熱量Pを多くする。そのため、前記回転後の表面温度変化量Dの低下が大きい場合は、より多く発熱させることとなる。図示のように、回転後の表面温度変化量Dと投入熱量Pは比例関係にある。ここで定着ローラ64の構成部材の熱容量と熱抵抗のため、投入熱量Pが多いほど定着ローラ64の内部に蓄積される通紙開始時蓄熱量Qが多くなる。図示のように、投入熱量Pと通紙開始時蓄熱量Qの関係も比例関係にある。
【0041】
反対に、上下温度差ΔT0が小さい場合では同様にして、回転後の表面温度変化量Dが小さくなる。加熱制御部104は、定着ヒータ61の投入熱量Pを少なくする。その結果、定着ローラ64の内部の通紙開始時蓄熱量Qが小さくなる。以上を総合すると、回転を開始する時点の上下温度差ΔT0によって、定着ローラ64の通紙開始時の蓄熱量Qが変化することとなる。即ち、上下温度差ΔT0が大きいと通紙開始時蓄熱量Qが多くなり、上下温度差ΔT0が小さいと通紙開始時蓄熱量Qが小さくなる。
【0042】
通紙を開始すると、高温の(例えば180℃)定着ローラ64と、低温の(例えば25℃)用紙Mとがニップ部にて接触する。両者の温度差が大きいために高温の定着ローラ64から用紙Mへ非常に多くの熱が移動する、つまり定着ローラ64の熱が非常に多く奪われるので、その表面温度が急激に低下しようとする。
このとき、定着ローラ64の通紙開始時蓄熱量Qが小さい場合では、用紙Mに熱が移動するとその蓄熱量Qが小さいため定着ローラ64の内部から表面に供給する熱量が小さくなり、表面温度は急激に低下する。このとき加熱制御部104は定着ローラ64の表面温度が低下したことを検知して定着ヒータ61の発熱量を急激に上昇させるが、定着ローラ64の熱伝達遅れがあるために、その熱量が定着ローラ64の表面に到達するまで、表面温度が低下し続ける。そのため温度低下が大きくなる。
【0043】
これに対し、通紙開始時の定着ローラ64の蓄熱量Qが多い場合は、用紙Mに熱が奪われると同時に定着ローラ64の内部に蓄熱した熱が表面に供給されるため、表面温度の低下は小さくなる。
温度低下が大きくなると定着に必要な熱量を用紙Mに与えることができなくなるため、定着不良が発生する。そのため、定着不良を防止するためには所定以上の蓄熱量Qが必要となり、そのためには投入熱量PA以上の熱量が必要であり、更にそのためには回転後表面温度変化量DA以上の温度低下が必要となる(この蓄熱量Qを最適蓄熱量QAとする)。
【0044】
ここで回転後表面温度変化量DAとなるために必要な条件は、
図6で説明したように印刷時の定着ローラ64の回転速度V(以下これを印刷速度という)によって異なる。回転速度Vが高速の場合(VH)と回転速度Vが低速の場合(VL)について分けて説明する。
同図の回転速度Vが高速の場合(VH)は、まず、上下温度差ΔT0が前記回転速度変更判定温度差ΔTth[VH]よりも大きい条件では、当該印刷速度Vでも最適蓄熱量QA以上の蓄熱量Qが得られるため、回転速度Vをより高速にして蓄熱量Qを増やす必要はない。
【0045】
ところが、同図においてΔTth[VH]で示す回転速度変更判定温度差以下の条件では、印刷速度をより高速にして蓄熱量Qを増やす必要がある。この印刷速度(回転速度)を変える必要があるか否かを切り分ける上下温度差ΔT0を回転速度変更判定温度差といい、速度VHでの回転速度変更判定温度差をΔTth[VH]と表示する。同様に図から回転速度Vが低速の場合(VL)は、回転速度変更判定温度差ΔTth[VL]となるが、
ΔTth[VH]<ΔTth[VL]となっており、回転速度Vによってその値が異なることが分かる。
【0046】
これは回転速度Vが低速の場合は、高速の場合よりも、同じ上下温度差ΔT0の場合でも回転速度Vを上昇させる必要があることを示している。回転速度Vが低速の場合は加圧ローラ63への熱の移動が少ないため、同じ上下温度差ΔT0で蓄熱量Qを増やすにはより高速に回転させる必要があることによる。
以上のようにして、印刷速度(回転速度)に応じた回転速度変更判定温度差ΔTth[Vprn]を求めることができる。
【0047】
S106:印刷制御部100は比較部105に対し、温度差計算部106が算出した上下温度差ΔT0と印刷制御部100が選択した回転速度変更判定温度差ΔTthとを比較するよう指示する。印刷制御部100は比較部105の比較の結果が、
ΔT0≦ΔTth である場合、即ち、上下温度差ΔT0が回転速度変更判定温度差ΔTth以下の場合は、通紙前の回転速度Vを第1回転速度に対して、第1回転速度よりも高速である第2回転速度に変更する(ステップ107、109)。
ΔT0>ΔTth である場合、即ち、上下温度差ΔT0が回転速度変更判定温度差ΔTthを超える場合は、通紙前の回転速度Vを変更しない(ステップ112)。
【0048】
S107:速度設定部102は以下の式により第2回転速度としての最適通紙前回転速度VAを算出する。
VA=A×ΔT0+B
ここで、係数A及びBは実験より求められる値であり、例えばA=−1.5、B=275である。そして、係数Bは上下温度差ΔT0から最適通紙前回転速度VAを算出するために必要な係数であり、実験から求められる値である。例えば以下の数値となる。
Vprn=VL=50mm/s、ΔT0=100℃の場合では、ΔTth[50mm/s]=150℃なのでステップ106より通紙前の回転速度Vを変更する必要があり、その最適通紙前回転速度VAはステップ107より、
VA=―1.5×100+275=125mm/sとなる。
【0049】
上記の算出式の求め方を、
図8を用いて説明する。
図8は第1の実施の形態に関する最適通紙前回転速度VAの算出方法を示す説明図である。同図を用いて前記算出方法を説明する。同図は最適蓄熱量QAが得られる条件での、上下温度差ΔT0と最適通紙前回転速度VAとの関係を示す図である。これは
図7においてDAとなる上下温度差ΔT0を速度毎に求め、上下温度差ΔT0と前記最適通紙前回転速度VAの関係を表しており、この関係を数式化したものである。同図より、上下温度差ΔT0が小さいほど最適通紙前回転速度VAが高速となることが明らかとなる。
【0050】
次に、最適通紙前回転速度VAの算出方法について説明する。例えば、上下温度差ΔT0が
図7中のdTAで、かつ印刷速度が低速VLの場合を考える。このとき温度差ΔT0は、判定値ΔTth[VL]よりも小さいために高速で回転させて蓄熱量を増やす必要がある。そのときに必要な回転速度Vは中速VMである。低速VLより高い中速VMで回転させることで、最適蓄熱量QAを得ることができることがわかる。これは
図8の関係で算出式にdTAを代入すると得られる。
【0051】
S108:用紙Mが定着器6に到達するまでの時間を用紙搬送位置と印刷速度から算出し、その時間をTarriveとする。印刷制御部100は比較部105に対し、その時間Tarriveと所定時間Tconstとを比較するよう指示する。印刷制御部100は、Tarrive≦Tconstとなった場合にステップ109を実行する。
ここでTconstとは、回転速度Vを高速に変更して温度が低下した後に、温度が回転速度変更時点の温度に回復するまでの時間であり、回転速度Vに寄らず定着器構成部材の熱特性で決定される値であり、例えば3.0秒である。本ステップでは、印刷速度が低速の場合でも通紙開始時に最適な蓄熱量が保持されるように、回転速度Vを変更する変更タイミングを印刷速度に応じて異ならせている。
【0052】
以下その理由を説明する。印刷速度Vprnが高速の場合と低速の場合とでは用紙搬送部4による用紙Mの搬送の開始から定着器6での通紙開始までの時間が異なり、高速の方が前記時間は短くなる。そのため特に印刷速度が低速の場合に高速の場合と同じ変更タイミングで回転速度変更を行うと、通紙開始までに温度が上昇(回復)してしまい、より設定温度に近づくために投入熱量が減少し、結果として通紙開始時の定着ローラ64の蓄熱量が低下してしまう。
【0053】
そこで、回転速度Vを変更する変更タイミングを印刷速度Vprnに応じて異ならせる。即ち、速度設定部102は用紙Mの搬送位置と印刷速度Vprnから、定着器6での通紙開始時よりTconstだけ前の時点で、回転速度Vを第2回転速度としての最適通紙前回転速度VAに変更する。
S109:次に速度設定部102は、最適通紙前回転速度VAの算出結果を用いて、モータ制御部101にて定着器モータ21の回転速度Vを第2回転速度としての最適通紙前回転速度VAに変更する。
S110:印刷制御部100は、書出しセンサ8の出力から用紙Mが定着器6へ到達したか否かを判断する。これは、以下のような処理によって実現できる。
【0054】
書出しセンサ8の出力変化を検出して書出しセンサ8の位置に用紙Mの先端が到達したことを検知すると、時間の計測を開始する。書出しセンサ8と定着器6との間の用紙搬送距離は決まっているため、その距離を用紙搬送速度で除算することで、書出しセンサ8の位置から定着器6の位置に到達するための時間が算出される。前記用紙Mの先端が書出しセンサ8に到達してからの経過時間を計測することで、定着器6への用紙到達を判断することができる。
【0055】
S111:用紙先端が定着器6へ到達したことを検出すると、速度設定部102は定着器モータ21の回転速度Vを第1回転速度としての印刷速度Vprnに切り替える。
V=Vprn
なお、用紙先端が定着器6へ到達したとき、速度設定部102が回転速度Vを印刷速度Vprnに変更することとしたが、これに限らない。即ち、ステップ110において、用紙Mが定着器6に到達する所定時間前を判断し、その後、回転速度Vを印刷速度Vprnに変更することとしてもよい。これは、前述のように用紙搬送時間が算出されているため、多少の誤差を含むので実際の制御を考慮するためである。
S112:その後、印刷制御部100は印刷処理を行う。
【0056】
以上の一連の処理を行うことで、上下温度差ΔT0が小さく、かつ印刷速度が異なる場合においても、必要な蓄熱量Qを定着ローラ64に与えることができるため、通紙開始後の定着ローラ64の過度の温度低下を防止することができる。よって、定着不良の発生を防止することができる。
【0057】
図9は比較動作例を示す説明図である。同図(a)は上下温度差ΔT0が大きい場合でのタイムチャートを示し、同図(b)は上下温度差ΔT0が小さい場合でのタイムチャートを示している。また同図の印刷速度Vprnは低速の場合VL(=50mm/s)とする。以下、比較動作例を詳細に説明する。
【0058】
図中Aは、温度検知部103での検知結果である定着ローラ64の表面温度を示す。オフセット限界とは、前記印刷可能温度範囲の下限温度T1(例えば175℃)である。設定温度とは、前記印刷可能温度範囲の上限温度T2(例えば205℃)である。図中Bは、速度設定部102での定着器モータ21の回転速度V(設定値としての印刷速度Vprn)を示す。図中Cは、加熱制御部104での定着ローラ64への投入熱量Pを示す。図中Dは、定着ローラ64の蓄熱量Qを示す。図中Eは、書出しセンサ8の検知結果をもとに算出した定着器6での通紙状態を示す。そして、図中Fは、書出しセンサ8の検知結果を示す。
【0059】
同図において期間ST00及びST10は、印刷制御部100が印刷要求の有無を検知している状態(これを待機状態とする)を示し、
図5のフローチャートにおけるステップ101に該当する。このとき定着器モータ21は停止し、各センサの出力も用紙M無し状態であり、定着器6も非通紙状態である。
【0060】
次に印刷制御部100が印刷要求を受信すると、印刷制御部100は定着ローラ64を印刷速度Vprnで回転させる。定着ローラ64が回転開始すると、定着ローラ64のAの表面温度が低下する。定着ローラサーミスタ62がこれを検知し、Cの投入熱量が大になり、Dの蓄熱量が上昇する。よって、印刷制御部100は定着ローラ64の温度を設定温度に制御し、その後、用紙Mが定着器6へ到達すると通紙して定着処理を行う。
【0061】
同図(a)に示す上下温度差ΔT0が大きい場合では、Bの回転速度Vが低速の場合でも上下温度差によって回転後の温度低下が大きくなる。定着ローラ64のAの表面温度はオフセット限界を下回るので、Cの投入熱量が大きくなる(期間ST01)。そのため通紙開始時には必要十分なDの蓄熱量が得られ、通紙後のAの表面温度は低下が少なく、印刷可能温度範囲内である。従って、定着不良の発生もない(期間ST02)。
【0062】
しかし、同図(b)に示す上下温度差T0が小さい場合では、回転後のAの表面温度の低下(温度差大の時より低下しない)が小さいために、Cの投入熱量が小さくなる(期間ST11)。そのため通紙開始時にCの投入熱量は「大」に変化しDの蓄熱量は上昇するが、蓄熱量が少なかったのでCの投入熱量による供給が追いつかない。よって、必要なDの蓄熱量が得られず、そのため通紙後の定着ローラ64のAの表面温度の低下が大きくなる。その結果、印刷可能温度範囲のオフセット限界を急激に下回る。従って、定着不良が発生していた(期間ST12)。
【0063】
次に
図10を用いて本実施の形態の動作例を説明する。
図10は第1の実施の形態に関する動作例を示す説明図である。図中Aの表面温度、オフセット限界、設定温度、Bの回転速度V、Cの投入熱量、Dの蓄熱量、Eの通紙状態及びFの書出しセンサ8の検知結果については、
図9と同じであるので説明を省略する。期間ST20では、
図9に示す前記期間ST00及びST10と同様に待機状態である。
【0064】
次に印刷制御部100が印刷要求を受信すると、温度検知部103に対し定着ローラ64及び加圧ローラ63の温度を検知するよう指示する。
図10に示すように温度検知部103により検知される温度が定着可能温度であるので、温度差計算部106はこの指示を受けて上下温度差ΔT0を算出する。印刷制御部100は定着器モータ21の回転速度Vの変更を行う必要があるか判断するための回転速度変更判定温度差ΔTth[Vprn]を選択する。
【0065】
回転速度Vを変更する必要があると判断すると、速度設定部102はその結果と印刷速度に応じて最適通紙前回転速度VAを算出する。印刷制御部100は速度設定部102に対し、定着ローラ64を第1回転速度としてのBの印刷速度Vprnで回転させる。かつ印刷制御部100は加熱制御部104に対し、定着ローラ64のAの表面温度を設定温度としての印刷可能温度範囲内に加熱制御するために、ヒータ電源16を制御させる。
用紙Mが定着器6へ到達するまでの時間がTconst以下となった時点で、速度設定部102の設定に基づき、モータ制御部101は第2回転速度としての前記最適通紙前回転速度VAで定着器モータ21を回転させる。このときBの回転速度VAは十分に高速になるため、Cの投入熱量が大きくなってそのため通紙開始時には必要十分なDの蓄熱量が得られる(期間ST21)。
【0066】
その後、印刷制御部100が書出しセンサ8の検知結果をもとに定着器6へ用紙Mが到達したことを検知すると、速度設定部102はモータ制御部101へ指示し、定着器モータ21のBの回転速度Vを第1回転速度としての印刷速度Vprnに変更する。その結果、通紙開始時のDの蓄熱量Qは必要充分な量にできるので、通紙開始後に用紙Mの温度が低いために定着ローラ64から移動する熱量は増加しても、定着ローラ64の温度低下が抑えられる。従って、定着不良の発生も防止できる(期間ST22)。
以上のことから本実施の形態によれば、通紙開始直後の温度低下を抑えることができるため、上下ローラの温度差が小さい場合でも定着不良の発生を抑えることができる。
【0067】
(第2の実施の形態)
第2の実施の形態において、第1の実施の形態と同一構成要素は同一符号で示し、説明を省略する。
図11は第2の実施の形態に関する画像形成装置1のブロック図である。本実施の形態では速度設定方法が異なる印刷制御部200を備えることが第1の実施の形態と異なる。具体的には速度設定部202が第1の実施の形態の速度設定部102と異なる。更に、環境温度検知手段としての環境温度センサ210を備えることが第1の実施の形態と異なる。環境温度センサ210は画像形成装置1内部に設置され、印刷制御部200の温度検知部203と接続される。そして、環境温度センサ210は画像形成装置1内部の温度を検知する。温度検知部203は、定着ローラサーミスタ62と加圧ローラサーミスタ65から定着ローラ64及び加圧ローラ63の表面温度を検知するとともに、環境温度センサ210から画像形成装置1内部の温度を検知する。その他の構成は第1の実施の形態と同様である。
【0068】
図12は第2の実施の形態に関する動作を示すフローチャートである。本図を用いて第2の実施の形態に関する動作を説明する。ステップ201〜204は第1の実施の形態のステップ101〜104とそれぞれ同様であるため説明を省略する。
S205:印刷制御部200の温度検知部203は環境温度センサ210の検知結果としての環境温度Tenvを取得する。
【0069】
S206:次に印刷制御部200は、定着器モータ21の回転速度Vの変更を行う必要があるか判断するために、環境温度Tenvに応じた回転速度変更判定温度差ΔTthを選択する。
Tenv:高温の場合(例えばTenv≧30℃) ΔTth1[Vprn]
Tenv:常温の場合(例えば15≦Tenv<30℃) ΔTth2[Vprn]
Tenv:低温の場合(例えば15℃>Tenv)ΔTth3[Vprn]
【0070】
上記各回転速度変更判定温度差ΔTthは、実験で求められる値であり、例えば以下のようになる。
ΔTth1[200mm/s]=20℃、ΔTth1[125mm/s]=50℃、ΔTth1[50mm/s]=80℃
ΔTth2[200mm/s]=50℃、ΔTth2[125mm/s]=100℃、ΔTth2[50mm/s]=150℃、
ΔTth3[200mm/s]=90℃、ΔTth3[125mm/s]=150℃、ΔTth3[50mm/s]=210℃。
【0071】
ここで
図13、
図14を用いて前記回転速度変更判定温度差ΔTthについて説明する。
図13は第2の実施の形態に関する環境温度(≒用紙温度)毎の定着ローラ64の蓄熱量Qと通紙後の表面温度変化量との関係を示す説明図である。用紙Mが低温の場合と高温の場合とで比較すると、用紙Mが低温の場合ではニップ部にて定着ローラ64と接したときに定着ローラ64との温度差がより大きくなる。すると定着ローラ64から用紙Mへ単位時間当たりに移動する熱量が増加するため、定着ローラ64の温度がより減少しようとする。そのため、定着ローラ64の蓄熱量Qが同じ場合では、用紙Mが低温の方が定着ローラ64の表面温度変化量Dがより低下する。
【0072】
図14は第2の実施の形態に関する上下温度差ΔT0、回転後の表面温度変化量D、投入熱量P、通紙開始時蓄熱量Qの関係から回転速度変更判定温度差ΔTthを示す説明図である。同図は、前述の第1の実施の形態の
図7において、用紙Mの温度差によって必要とされる定着ローラ64の蓄熱量Qが異なることを示す。
図7は用紙Mが常温の場合の必要となる最適蓄熱量QAを表したものであり、
図14は、
図7に対して用紙Mが高温の場合QA1と低温の場合QA3とでそれぞれ必要となる蓄熱量Qを追記したものである。
【0073】
通紙後の温度変化を同一にするためには、用紙Mが低温の場合はより多くの蓄熱量Qが必要である(QA1<QA3)。その結果、回転速度変更判定温度差ΔTthも異なっている。
図14の例では、H1=ΔTth1[VH]<H2=ΔTth2[VH]<H3=ΔTth3[VH]<M2=ΔTth2[VM]<L2=ΔTth2[VL]であり、印刷速度Vによってその値が異なる。以上のようにして、印刷速度(回転速度)に応じた回転速度変更判定温度差ΔTth[Vprn]を求めることができる。
【0074】
S207:印刷制御部200は比較部105に対し、温度差計算部106が算出した上下温度差ΔT0と、印刷制御部200が選択した回転速度変更判定温度差ΔTthとを比較するよう指示する。比較の結果が、
ΔT0≦ΔTprn[Vprn、Tenv]である場合は、回転速度を変更する(ステップ208以降へ)。
ΔT0>ΔTprn[Vprn、Tenv]である場合は、通紙前の回転速度Vを変更しない(ステップ214)。
【0075】
S208:印刷制御部200は、環境温度Tenvに応じて、最適な速度算出係数A、Bを選択する。速度設定部202は、その結果から以下の算出式を用いて最適通紙前回転速度VAを算出する(ステップ209)。環境温度に応じて最適通紙前回転速度VA1、VA2又はVA3を算出する式を選択する。
【0076】
環境温度が高温の場合 VA1=A1×ΔT0+B1
環境温度が常温の場合 VA2=A2×ΔT0+B2
環境温度が低温の場合 VA3=A3×ΔT0+B3
速度算出係数A1、B1、A2、B2、A3及びB3は実験から求められる値であり、例えばA1=−2.5、B1=250、A2=−1.5、B2=200、A3=−1.25及びB3=312.5となる。
ステップ209〜214は第1の実施の形態のステップ107〜112とそれぞれ同様であるため説明を省略する。
【0077】
図15は第2の実施の形態に関する環境温度毎に最適通紙前回転速度VA1、VA2又はVA3を算出する方法を示す説明図である。本図は環境温度毎の最適蓄熱量QA1、QA2及びQA3が得られる条件での、上下温度差ΔT0と最適通紙前回転速度VA1、VA2及びVA3との関係を示す説明図である。これは
図14において回転後表面温度変化量DA1、DA2又はDA3となる上下温度差ΔT0を速度毎に求め、上下温度差ΔT0と前記速度の関係を表しており、この関係を数式化したものである。その他の処理は第1の実施の形態と同様であるため説明を省略する。同図より、環境温度センサ210が検出した画像形成装置1内部の温度が低いほど通紙前回転速度VAが高速となることが明らかとなる。
【0078】
次に
図16を用いて第2の実施の形態の動作例を説明する。
図16は第2の実施の形態に関する動作例を示す説明図である。同図(a)は低温環境(LL環境時)でのタイムチャートを示し、同図(b)は高温環境(HH環境時)でのタイムチャートを示す。各項目は第1の実施の形態の
図10と同様であり、説明を省略する。
期間ST50、ST60は、印刷制御部200が印刷要求の有無を検知している状態(待機状態)であり、
図12のフローチャートのステップ201を示す。次に、印刷制御部200が印刷要求を受信すると、印刷制御部200は温度検知部203に対し、定着ローラ64及び加圧ローラ63の温度を検知するよう指示する。
図16に示すように、温度検知部203により検知される温度が定着可能温度であるので、温度差計算部106はこの指示を受けて上下温度差ΔT0を算出する。印刷制御部200が回転速度変更判定温度差ΔTth[Vprn]を選択して回転速度Vを変更する必要があると判断する。速度設定部202は、その結果と印刷速度に応じて最適通紙前回転速度VAを算出する。
【0079】
印刷制御部200は速度設定部202に対し、定着ローラ64を印刷速度Vprnで回転させる。かつ印刷制御部200は加熱制御部104に対し、定着ローラ64のAの表面温度を設定温度としての印刷可能温度範囲内に加熱制御するために、ヒータ電源16を制御させる。用紙Mが定着器6へ到達するまでの時間がTconst以下となった時点で、速度設定部202の設定に基づき、モータ制御部101は前記最適通紙前回転速度VAで定着器モータ21を回転させる。
【0080】
このときBの回転速度VA3は十分に高速になるため、回転後の温度差が大きくなって投入熱量が増える。(期間ST51、ST61)。ここで、(a)低温環境の場合では、(b)高温環境の場合と比較してより多くの蓄熱量が必要となるため、変更する最適通紙前回転速度VAはより高速となり、そのため投入熱量が高温環境の場合よりも多くなる。
その後、印刷制御部200が書出しセンサ8の検知結果をもとに、用紙Mが定着器6へ到達したことを検知すると、速度設定部202はモータ制御部101へ指示し、定着器モータ21のBの回転速度Vを印刷速度Vprnに変更する。そして通紙を開始する。
【0081】
ここで(a)低温環境の場合では、(b)高温環境の場合よりも蓄熱量が多くなっており、用紙Mの温度がより低いために定着ローラ64から移動する熱量は増加しても、蓄熱量に応じてより多くの熱量が供給されるために定着ローラ64の温度低下は同一とできる。その結果通紙開始後の温度低下が抑えられ、定着不良の発生も防止できる。本実施の形態はその構成に制限されることがないことは第1の実施の形態と同様である。
【0082】
(変形例1)
本実施の形態においては、環境温度=用紙温度に応じて最適な蓄熱量Qを変えて、その結果、変更する回転速度Vを変えることを説明した。これに対し、印刷される用紙Mの厚みが変化することに対応して最適な蓄熱量Q、回転速度Vを変えることも、定着不良防止のためには有効である。以下環境温度を一定として説明する。
【0083】
図17は変形例1に関する画像形成装置1のブロック図である。本変形例1に関する画像形成装置1は、印刷される用紙Mの厚みを設定する用紙厚設定手段としての用紙厚設定部211を備え、前記用紙厚設定部211は印刷制御部300へ接続される。用紙厚設定部211は、操作者が入力可能な操作入力部を有し、当該操作入力部には図示しない厚紙ボタン及び薄紙ボタンを設ける。操作者が用紙厚設定部211の厚紙ボタン又は薄紙ボタンのいずれかを押下することにより、手動にて印刷される用紙Mの厚みを設定する。又は図示しない上位コントローラからの印刷要求の中に用紙厚さの指定が含まれているとき、当該用紙厚設定部211は、用紙厚検知部として印刷制御部300に内蔵し、用紙厚検知部が印刷要求から用紙Mの厚さを検知するようにしてもよい。或いは用紙厚設定部211は、用紙厚検知部として図示しない一対のローラ間に搬送された用紙Mの厚さを自動的に検知するように構成してもよい。
【0084】
また印刷制御部300へ内蔵される速度設定部302も第2の実施の形態と異なる。
図18に示すようにその用紙厚に応じて最適な蓄熱量Qが変化することに対応して、印刷速度を変更する。これにより、用紙厚に関わらず通紙後の温度低下を一定に制御することができる。これは、用紙Mが厚くなることで用紙Mの体積が増える(用紙Mの面積はA4サイズなど同一であるため)ので、体積に比例する熱容量が増える。熱容量が増えると用紙Mが奪う熱量が増加するため定着ローラ64の温度はより低下することになる。
そこで本変形例では、用紙厚に対応して増加される回転速度Vを変更することとする。具体的には、用紙Mが厚いほど同じ温度差でも回転速度Vを高速とすることで、通紙開始時の蓄熱量を増やし、通紙後の温度低下を抑えている。
【0085】
図18は変形例1に関する上下温度差ΔT0、回転後の表面温度変化量D、投入熱量P、通紙開始時蓄熱量Qの関係から回転速度変更判定温度差ΔTthを示す説明図である。同図は、前述の第1の実施の形態の
図7において、用紙厚によって必要とされる定着ローラ64の蓄熱量Qが異なることを示す。
図7は用紙Mが常温の場合の必要となる最適蓄熱量QAを表したものであり、
図18は、
図7に対して用紙Mが薄紙の場合QA12と厚紙の場合QA32とでそれぞれ必要となる蓄熱量Qを示したものである。
【0086】
通紙後の温度変化を同一にするためには、用紙Mが厚紙の場合はより多くの蓄熱量Qが必要である(QA12<QA32)。その結果、回転速度変更判定温度差ΔTthも異なっている。
図18の例では、H12=ΔTth12[VH]<H22=ΔTth22[VH]<H32=ΔTth32[VH]<M22=ΔTth22[VM]<L22=ΔTth22[VL]であり、印刷速度Vによってその値が異なる。以上のようにして、印刷速度(回転速度)に応じた回転速度変更判定温度差ΔTth[Vprn]を求めることができる。
【0087】
(変形例2)
変形例1と同様にして、印刷される用紙Mの枚数に応じて最適な蓄熱量Q、変更する回転速度Vを変えることも、定着不良防止のためには有効である。以下環境温度及び用紙Mの厚さを一定として説明する。
【0088】
図19は変形例2に関する画像形成装置1のブロック図である。印刷要求のある印刷の枚数を検知する用紙枚数検知手段としての印刷枚数検知部212を備え、前記印刷枚数検知部212は印刷制御部400に内蔵される。印刷枚数検知部212は、図示しない上位コントローラからの印刷要求の中に印刷枚数の指定が含まれているとき、当該印刷枚数検知部212は、印刷要求から印刷枚数を検知する。又は印刷枚数検知部212は、操作者が入力可能な操作入力部を有し、当該操作入力部には図示しない印刷枚数指定ボタンを設ける。操作者が印刷枚数検知部212の印刷枚数指定ボタンを押下することにより、手動にて印刷される印刷枚数を設定するようにしてもよい。
【0089】
また印刷制御部400へ内蔵される速度設定部402第2の実施の形態と異なる。
図20に示すように印刷枚数に応じて最適な蓄熱量が変化することに対応して、印刷速度制御を行うことで、印刷枚数に関わらず通紙後の温度低下を一定に制御することができる。これは印刷枚数が多くなることで一度の印刷中で用紙Mが連続的に奪う熱量が増加するので、印刷枚数に応じて必要となる熱量が増加する。また前述のように熱伝達遅れがありその遅れのほうが複数枚印刷にかかる時間と同等以上のため、定着ローラ64の温度はより低下しようとする。
【0090】
そこで本変形例では連続的に印刷する枚数に応じて回転速度Vを変更すること、具体的には印刷枚数が多いほど同じ温度差でも高速に回転させることで、通紙開始時の蓄熱量を増やし、通紙後の温度低下を抑えている。
【0091】
図20は変形例2に関する上下温度差ΔT0、回転後の表面温度変化量D、投入熱量P、通紙開始時蓄熱量Qの関係から回転速度変更判定温度差ΔTthを示す説明図である。同図は、前述の第1の実施の形態の
図7において、印刷枚数によって必要とされる定着ローラ64の蓄熱量Qが異なることを示す。
図7は用紙Mが常温の場合の必要となる最適蓄熱量QAを表したものであり、
図20は、
図7に対して印刷枚数1枚の場合QA13と印刷枚数10枚以上の場合QA33とでそれぞれ必要となる蓄熱量Qを示したものである。
【0092】
通紙後の温度変化を同一にするためには、印刷枚数10枚以上の場合はより多くの蓄熱量Qが必要である(QA13<QA33)。その結果、回転速度変更判定温度差ΔTthも異なっている。
図20の例では、H13=ΔTth1[VH]<H23=ΔTth2[VH]<H33=ΔTth3[VH]<M23=ΔTth2[VM]<L23=ΔTth2[VL]であり、印刷速度Vによってその値が異なる。以上のようにして、印刷速度(回転速度)に応じた回転速度変更判定温度差ΔTth[Vprn]を求めることができる。
【0093】
以上のことから第2の実施の形態によれば、回転速度Vを高速とすることで、通紙開始時の蓄熱量を増やし、環境の温度変動(用紙Mの温度変動)によって発生する通紙後の低下温度を考慮して、通紙開始直後の温度低下を抑えることができる。このため、環境温度が変動した場合で上下ローラの温度差が小さい場合でも定着不良の発生を抑えることができる。
以上の実施の形態の説明では、実施の形態に関する画像形成装置1をプリンタとして説明したが、MFPやファクシミリ、複写装置にも本発明を適用可能である。