(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5945542
(24)【登録日】2016年6月3日
(45)【発行日】2016年7月5日
(54)【発明の名称】複合材料用のヒンジ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
E05D 1/02 20060101AFI20160621BHJP
【FI】
E05D1/02 H
【請求項の数】21
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-528800(P2013-528800)
(86)(22)【出願日】2011年9月7日
(65)【公表番号】特表2013-538308(P2013-538308A)
(43)【公表日】2013年10月10日
(86)【国際出願番号】IB2011053908
(87)【国際公開番号】WO2012035465
(87)【国際公開日】20120322
【審査請求日】2014年3月18日
(31)【優先権主張番号】MI2010A001693
(32)【優先日】2010年9月17日
(33)【優先権主張国】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】399016318
【氏名又は名称】オートモビリ ランボルギーニ ソチエタ ペル アツイオニ
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ニコロ・パシーニ
(72)【発明者】
【氏名】アッティリオ・マシーニ
(72)【発明者】
【氏名】ルイージ・デ・サリオ
【審査官】
仲野 一秀
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭60−143863(JP,U)
【文献】
欧州特許出願公開第1738895(EP,A1)
【文献】
特開2001−271548(JP,A)
【文献】
塩ビ樹脂の配合・加工方法,日本,塩ビ工業・環境協会,2010年 6月26日,URL,https://web.archive.org/web/20100626152155/http://www.vec.gr.jp/enbi/enbi1_4.html
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E05D 1/00−9/00
B60R 7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合材料用の樹脂による接着に適合する可撓性の材料の少なくとも1つの基板(1;8;10;13)の2つの反対端夫々の上及び/又は下に配置されたファイバーの層(3,3’;9,9’;11,11’;14,14’)の少なくとも2つのグループを備え、前記基板(1;8;10;13)の中央部(4)がこれらの層(3,3’;9,9’;11,11’;14,14’)により被覆されず、前記基板(1;8;10;13)及び前記層(3,3’;9,9’;11,11’;14,14’)が前記基板(1;8;10;13)の中央部(4)上を延びる可撓性硬化樹脂(6)に包含され、前記可撓性硬化樹脂(6)が前記ファイバーの層(3,3’;9,9’;11,11’;14,14’)の各グループの直上と前記基板(1;8;10;13)の中央部(4)の直上の間を連続的に延びることを特徴とする、ヒンジ。
【請求項2】
前記基板(1;8;10;13)の前記中央部(4)の平均幅が、1〜25mmであることを特徴とする請求項1に記載のヒンジ。
【請求項3】
前記基板(1;8;10;13)の前記中央部(4)の平均幅が、前記基板(1;8;10;13)の平均幅の2.5%〜30%の比にあることを特徴とする請求項1又は2に記載のヒンジ。
【請求項4】
前記層(3,3’;9,9’;11,11’;14,14’)により被覆された前記基板(1;8;10;13)の端部の部分の幅が、5〜40mmであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のヒンジ。
【請求項5】
前記ヒンジが曲げられる時、前記ヒンジが曲げられない時の前記基板(1;8;10;13)の前記中央部(4)の平均幅の4.5%を超える曲率半径(R)を有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のヒンジ。
【請求項6】
前記ヒンジが曲げられる時、2mmを超える曲率半径(R)を有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載のヒンジ。
【請求項7】
前記樹脂(6)は、硬化されると、2.8〜6.5MPaのヤング率、0.7〜1.3MPaの極限の引張強度、及び/又は21〜39%の破壊点での伸長を有することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載のヒンジ。
【請求項8】
前記層(3,3’;9,9’;11,11’;14,14’)が、上限10重量%の樹脂量で結合されたファイバーを備えることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載のヒンジ。
【請求項9】
前記層(3,3’;9,9’;11,11’;14,14’)が、炭素繊維を含むことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載のヒンジ。
【請求項10】
前記基板(10)が、少なくとも前記ファイバーの層(11,11’)の全体長の幅を延びることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか一項に記載のヒンジ。
【請求項11】
ファイバーの追加層(12)が、少なくとも部分的に基板(13)の一面を被覆し、この追加層(12)のファイバーが、ヒンジの回転軸、及び/又はファイバー(14,14’)により被覆された基板(13)の端部に実質的に平行であることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか一項に記載のヒンジ。
【請求項12】
前記基板(1;8;10;13)がマイクロファイバーから成る、請求項1乃至11のいずれか一項に記載のヒンジ。
【請求項13】
前記基板(1;8;10;13)が天然皮革から成る、請求項1乃至11のいずれか一項に記載のヒンジ。
【請求項14】
金型(2)の機能面上において、複合材料用の樹脂による接着に適合する可撓性の材料の少なくとも1つの基板(1;8;10;13)の2つの反対端夫々の上及び/又は下にファイバーの層(3,3’;9,9’;11,11’;14,14’)の少なくとも2つのグループを配置し、ここで、前記基板(1;8;10;13)の中央部(4)がこれらの層(3,3’;9,9’;11,11’;14,14’)により被覆されず、
硬化時に可撓性を有する樹脂(6)を前記金型(2)へ注入及び/又は減圧により引き込み、前記基板(1;8;10;13)及び前記層(3,3’;9,9’;11,11’;14,14’)を前記樹脂(6)で包含し、前記樹脂(6)が、前記基板(1;8;10;13)の中央部(4)上を延び、前記樹脂(6)が前記ファイバーの層(3,3’;9,9’;11,11’;14,14’)の各グループの直上と前記基板(1;8;10;13)の中央部(4)の直上の間を連続的に延び、
前記樹脂(6)を硬化する、各工程を含むことを特徴とするヒンジの製造方法。
【請求項15】
前記樹脂(6)は、硬化されると、2.8〜6.5MPaのヤング率、0.7〜1.3MPaの極限の引張強度、及び/又は21〜39%の破壊点での伸長を有することを特徴とする請求項14に記載のヒンジの製造方法。
【請求項16】
前記層(3,3’;9,9’;11,11’;14,14’)が、上限10重量%の樹脂量で結合されたファイバーを含むことを特徴とする請求項14又は15に記載のヒンジの製造方法。
【請求項17】
前記層(3,3’;9,9’;11,11’;14,14’)が、炭素繊維を含むことを特徴とする請求項14乃至16のいずれか一項に記載のヒンジの製造方法。
【請求項18】
前記基板(10)が、少なくとも前記ファイバーの前記層(11、11’)の全体長の幅を延びることを特徴とする請求項14乃至17のいずれか一項に記載のヒンジの製造方法。
【請求項19】
ファイバーの追加層(12)が、前記基板(13)の一面を少なくとも部分的に被覆し、この追加層(12)の前記ファイバーが、ヒンジの回転軸及び/又は前記ファイバー(14,14’)により被覆された前記基板(13)の端部に実質的に平行であることを特徴とする請求項14乃至18のいずれか一項に記載のヒンジの製造方法。
【請求項20】
前記基板(1;8;10;13)がマイクロファイバーから成ることを特徴とする請求項14乃至19のいずれか一項に記載のヒンジの製造方法。
【請求項21】
前記基板(1;8;10;13)が天然皮革から成ることを特徴とする請求項14乃至19のいずれか一項に記載のヒンジの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、複合材料用のヒンジ、端的には、回動可能な態様で相互連結する必要がある2つの複合材料部材に締結又は一体化可能であるヒンジに関する。本出願は、そのヒンジの製造方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
複合材料部材用の既知のヒンジが、各々に枢支され、かつボルト又は他のネジ部材の手段によりその部材へ締結され、かつ相互連結されるための穴が設けられた2つの金属板を含む。上述の既知のヒンジのための穴を複合材料部材に形成することが比較的困難であり、いずれにしても、複合材料の特定の物理的特性のため構造的弱さがそれによりこれらの部材に生じてしまい得る。上述の既知のヒンジは、被接着部材間の物理及び化学的特性が異なるため、複合材料部材に対して接着剤で固着することが比較的困難でもある。
【0003】
EP1738895は、エポキシ樹脂で含侵された炭素繊維の層の2つのグループを含むヒンジを開示し、ポリウレタン樹脂で含侵されたアラミドファイバーの基板の上及び下に層が配置される。層及び基板が樹脂注入を伴うこと無く一緒に硬化され、その後、断面V又はU形の溝が両方の層に形成され、これにより基板の中央部がその層により被覆されず、またこれにより屈曲線が形成される。
【0004】
しかしながら、上述の既知のヒンジは、ドライファイバーよりも高価なプリプレグなる名称でも知られる事前含侵ファイバーの層が要求されるため、製造が複雑かつ高価である。更に、外層は、硬化により硬くなり、溝形成のための精密な機械加工が要求され、適正な屈曲とするためにそれが完全に平行である必要がある。増大する製造コストや時間と共に、上述の機械加工は、基板表面を未被覆にすること無くその硬い層の全体厚を除去しなければならないため、基板の損傷リスクを包含する。上述のリスクを低減するために、EP1738895は、断面V形の溝が好ましいと説明するが、これらの溝は溝の頂角以下の角度での屈曲のみを許容し、従って、180°を超える角度で回転する必要があるヒンジには用いることができない。溝のためヒンジ全体よりも基板が相当に薄く、屈曲線に沿って破断する帰結のリスクがある。他方、基板は、ヒンジの残余部分の如く大よそ厚ければ、その化学−物理的構成のため硬すぎてしまう。
【0005】
層と基板に異なる樹脂を用いることは、接着問題を更に包含し、EP1738895は、基板を粗化する追加作業を通じて低減すると説明する。
【0006】
上述の既知のヒンジは、アラミド及び/又は基板用の織製ファイバーのため、比較的高価かつ繊細でもある。後者の欠点を低減するために、EP1738895は、屈曲線に交差及び/又は直角のファイバーの幾つかの層から成る基板を採用すると説明するが、製造コストの増加に帰結する。概して、EP1738895は、お互いに同様のファイバーの基板と層を用いると説明し、ここで、層と基板に含侵する異なる樹脂に主に依存して層に対する基板の硬さが異なる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】EP1738895
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本出願の目的は、従って、上述の不利益を伴わないヒンジを提供することにある。上述の目的は、各々、請求項1及び7に主な特徴が開示されたヒンジと製造方法により達成され、その他の請求項には他の特徴が開示される。
【発明の効果】
【0009】
その特有の物理的及び化学的特徴のおかげで、本出願に係るヒンジは、複合材料部材に相互に固着するための接着剤又は他の既知の方式によっても複合材料部材に簡単に締結できるのみではなく、RTM(樹脂トランスファー成形)、簡易RTM、VARTM(真空補助樹脂トランスファー成形)プロセス及び/又はイタリア特許出願MI2010A001072に開示のプロセスのこれらの一環に簡単に組み込むこともできる。
【0010】
更に述べれば、その特有の製造方法のおかげで、その終わりにおいて、基板と層の両方が可撓性硬化樹脂に包含され、ヒンジが、簡単、迅速、及び経済的な態様で製造でき、これにより、相互に2つの部材を連結するため、また複合材料から成る2つの部材を必要的に連結するためのみではない様々な用途に用いることができる。例えば、ヒンジは、それがホルダーとして用いられるようにサイズ及び形状出しされるように製造可能である。
【0011】
本出願に係るヒンジは、配置交差を簡単に吸収可能であり、なぜなら、そこにピンが設けられていなく、従って、回転されるべき部材の相対位置に回転軸の位置を適合可能のためである。更に、その減じられた厚みのおかげで、それがそこに接着されるとき、ヒンジによりA級構成材(ニス塗りされた又はニス塗りされていないカーボン)にマーキングが生じない。
【0012】
特に、外側層が、天然皮革、マイクロファイバー、及び/又はヒンジの回動によりこの層がダメージを受けないように実質的に回転軸に平行のファイバーらを有する材料から成る時、ヒンジは、心地よい美的外観も呈する。
【0013】
とりわけヤング率が2.8〜6.5MPa、極限の引張強度が0.7〜1.3MPa、及び/又は破壊点での伸長が21〜39%の特別樹脂を用いるとき、本出願に係るヒンジが特段の摩耗耐性を呈する。
【0014】
本出願に係るヒンジや方法の更なる利点や特徴は、当業者には、添付図面の参照によりその幾つかの実施形態の詳細かつ非限定的な次の記載から明らかになるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本方法の第1工程の過程のヒンジの第1実施形態の上面図を示す。
【
図3】
図3は、本方法の第2工程の過程の
図2のヒンジを示す。
【
図6】
図6は、本方法の第1工程の過程のヒンジの第2実施形態の断面図を示す。
【
図7】
図7は、本方法の第1工程の過程のヒンジの第3実施形態の断面図を示す。
【
図8】
図8は、本方法の第1工程の過程のヒンジの第4実施形態の断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1及び2を参照すると、本方法の第1工程において、端的には矩形であり、可撓性、かつ複合材料用の樹脂による接着に適合する材料、端的には、マイクロファイバー、又は天然皮革、好適にはセーム皮革から成る少なくとも1つの基板1が、複合材料のための金型2の機能面上に配置される。基板1の平均厚みが、1〜4.5mmである。ファイバー層3、3’、端的には炭素繊維の少なくとも2つのグループが、基板1の2つの反対端上に積層配置され、基板1の中央部4が層3、3’により被覆されない。層3、3’のファイバーは、好適にはドライ、つまり、0〜10重量%、好ましくは上限5重量%の樹脂量に結合される。基板1の中央部4の平均幅は、好適には1〜25mmであり、端的には基板1の平均幅の2.5%〜30%の比にある。基板1の端部の層3、3’により被覆される部分の幅は、好適には5〜40mmである。いずれのグループの層3、3’も、隣接の層においてお互いに実質的に直交する配向で積層配置されたTW(あや織り)2×2ファイバー、基本重量200g/m
2、の4層である。別の実施形態においては、ファイバー層の2つのグループが、基板の2つの反対端の下に積層配置され得る。
【0017】
図3が第2工程を示し、ここで、基板1と層3、3’が、含侵可能及び除去可能な保護シート、プラスチック材料から成る注入用ネット(網:net)、及び真空バッグ5で被覆され、その後、全体が、真空、つまりは0.01bar以下の圧力で約60℃まで昇温され、真空バッグ5及び金型2の間に樹脂6が約60℃のとき形成され、基板1と層3、3’を被覆し、注入及び/又は減圧によりこの中間空間へ引かれる。全体が毎分2/3℃で約90℃まで更に昇温され、次に少なくとも1時間に亘り約90℃で放置され、そして少なくとも室温まで降温される。
【0018】
図4は、真空バッグ5から抜き出され、金型2、保護シート、及び注入用ネットから分離され、また端部に沿って縁取りされた後の完成ヒンジを示す。完成ヒンジが、樹脂6に包含された、基板1と2つのグループ7、7’で互いに結合したファイバー層3、3’を含む。樹脂6は、一度硬化すると、可撓性であり、ヤング率が2.8〜6.5MPa、極限の引張強度が0.7〜1.3MPa、及び/又は破壊点での伸長が21〜39%を有する。これを達成するため、Huntsman Advanced Materialsの樹脂LME 10184/10185が特に有効であると判明した。
【0019】
図5を参照すると、本出願に係るヒンジの基板1は、ヒンジが曲げられる時、ヒンジが曲げられない時の基板1の中央部4の平均幅の4.5%を超える曲率半径Rを有する。曲率半径Rは、ヒンジが曲げられた時、2mmを超える。
【0020】
図6は、第1実施形態と同様のヒンジの第2実施形態を示し、ここで、基板8の反対端の一方又は両方が、ファイバー層9、9’、端的には、基板8の端部の両面上の隣接層にてお互いに実質的に直交する配向の2つのファイバー層9又は9’の間に設けられる。
【0021】
図7は、いつものように第1実施形態に同様のヒンジの第3実施形態を示し、ここで、基板10が、少なくともファイバー層11、11’の全体長だけの長さを延び、これにより、後者が金型2に接触することが無い。
【0022】
図8は、いつものように第1実施形態に同様のヒンジの第4実施形態を示し、ここで、ヒンジの回転軸に実質的に平行なファイバーの追加層12が、基板13の一面とファイバー層14、14’の2つのグループの第1層の一面を少なくとも部分的に被覆し、これにより、追加層12が、基板13と層2の間、かつ第1ファイバー層14、14’と金型2の間に配置される。追加層12のファイバーは、ファイバー14、14’により被覆される基板13の端部に実質的に平行である。他の実施形態においては、追加層12が、金型2に反対の基板13の面上及び/又は層14、14’のグループの2つのファイバー層の間に配置可能である。
【0023】
次に、第2、第3、及び第4実施形態に係るヒンジの製造方法は、実質的に第1実施形態の製造方法に同一である。いずれにしても、例えば、RTM(樹脂トランスファー成形)、簡易RTM、VARTM(真空補助樹脂トランスファー成形)プロセス及び/又はイタリア特許出願MI2010A001072に開示のプロセスに従って金型や樹脂注入を活用することにより、代替の実施形態において他の樹脂成形プロセスを使用可能である。
【0024】
次の請求項のスコープの範囲内から逸脱する事無く、上述の本明細書に開示及び説明した実施形態に対して適用可能な修正及び/又は追加が当業者に為され得る。端的には、発明の更なる実施形態は、明細書に開示及び/又は図面に図示の単一又は任意の相互の組み合わせによる1以上の技術的特徴の追加が為された次の請求項の一つの技術的特徴を包含し得る。