(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ベルトの長手方向に延びる心線、この心線の少なくとも一部と接する心線支持層、この心線支持層の一方の面に形成された伸張ゴム層、及び前記心線支持層の他方の面に形成された圧縮ゴム層を備え、この圧縮ゴム層の内周面にベルトの長手方向に沿って所定の間隔をおいて複数のコグ部が形成され、かつ前記圧縮ゴム層の側面でプーリに摩擦係合する伝動用ベルトであって、
前記心線が、アラミド繊維で形成され、
前記圧縮ゴム層が、ゴム成分及びアラミド短繊維を含む加硫ゴム組成物で形成され、
前記アラミド短繊維が、前記加硫ゴム組成物中でベルト幅方向に配列して埋設され、
伝動用ベルトを幅方向に2.0N/mm2の応力で圧縮したときの歪が0.5〜0.8%であり、
伝動用ベルトを長さ方向に2kNの荷重で引っ張ったときの歪が0.35〜0.7%
である伝動用ベルト。
圧縮ゴム層が、温度160℃、圧力2.0MPaで20分間プレス加硫したとき、厚み方向の歪が10%となったときの曲げ応力が3.5〜6.0MPaである加硫ゴム組成物で形成されている請求項1〜4のいずれかの項に記載の伝動用ベルト。
平行に配設された2本の回転軸(A1)、回転軸にそれぞれ装着され、回転軸と一体に回転可能な固定シーブ(A2)、この固定シーブと対向することによりV字形の溝形状を形成し、かつ軸方向に移動可能な可動シーブ(A3)を有し、かつミスアライメントが発生する無段変速装置(A)と、2対のシーブ間で2本の回転軸に懸架した伝動用ベルト(B)とを備えたベルト変速装置であって、前記伝動用ベルト(B)が、請求項1〜5のいずれかに記載の伝動用ベルトであるベルト変速装置。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動2輪車やATV(四輪バギー)、スノーモービルなどの用途に用いられるCVT(無段変速)用のVベルトとしてコグドVベルトが用いられている。コグドVベルトは、屈曲性に優れるという利点を有しており、小プーリ径の変速装置に積極的に使用されているが、一段と耐側圧性、耐屈曲疲労性を高める必要があった。これらのコグドVベルトでは、ベルトの耐側圧性を向上させるため、圧縮ゴム層に補強剤として短繊維が配合されていることが多い。さらに、変速ベルトでは、変速操作に伴い、ミスアライメントが発生し、ベルト側面に大きな圧縮力が付加されるため、短繊維の配合だけでは、ベルトの耐久性は充分ではなかった。
【0003】
例えば、特公平5−63656号公報(特許文献1)には、コードが埋設された接着弾性体層と、この接着弾性体層の上下側に位置する保持弾性体層(圧縮ゴム層)とを備えたベルトにおいて、保持弾性体層が、クロロプレンゴム、補強性充填剤、金属酸化加硫剤、ビスマレイミド及びアラミド短繊維を含み、アラミド短繊維がベルトの幅方向に配列したコグ付きゴムVベルトが開示されている。この文献では、アラミド繊維の配列により、列理方向(短繊維の配向方向)の弾性率を高くして、耐側圧性を維持し、耐久性を向上させている。さらに、前記アラミド短繊維の配合量は、多すぎると、ベルト進行方向の屈曲疲労性(伸張疲労性)を著しく悪化させるため、13容量%以下が望ましいと記載されている。なお、この文献には、コード(心線)の詳細は記載されていない。
【0004】
特開2005−265106号公報(特許文献2)には、パラ系アラミド繊維製の心線の疲労が促進されることがなく、耐屈曲疲労性に優れるダブルコグドVベルトの作製を目的として、パラ系アラミド繊維製の心線を使用し、ベルト曲げ剛性が600〜1200N/mm
3であり、且つベルト幅方向の動的圧縮バネ定数が15000N/mm以上あるいはベルト幅方向の静的バネ定数が4000N/mm以上であるダブルコグドVベルトが開示されている。また、下コグ形成部(圧縮ゴム層)を形成するゴム組成物として、ゴム成分がクロロプレンゴムを主体とし且つ短繊維がパラ系アラミド繊維を用いることも開示されている。この文献の実施例では、クロロプレンゴムに対して、カーボンブラック、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、加硫促進剤、パラ系アラミド短繊維などが配合されているが、加硫促進剤の詳細は記載されていない。
【0005】
また、特許第3734915号公報(特許文献3)には、早期にクラックや各ゴム層及びコードのセパレーションが発生するのを防止しつつ、耐側圧性を向上させて高負荷伝動能力を向上させることを目的とし、伸張ゴム層及び圧縮ゴム層のゴム硬度がHs(JIS A)=90〜96°であり、接着ゴム層のゴム硬度がHs(JIS A)=83〜89°であるダブルコグドVベルトが開示されている。この文献には、このベルトの伸張ゴム層及び圧縮ゴム層がクロロプレンゴム100重量部と、補強性充填剤40〜60重量部と、酸化亜鉛、酸化マグネシウム及び酸化鉛の少なくとも1種類の金属酸化物加硫剤1〜20重量部と、ビスマレイミド2〜10重量部と、アラミド短繊維とがそれぞれ配合された短繊維入りゴムからなり、前記アラミド短繊維がベルト幅方向に配列されていることが記載されている。また、心線は、ナイロン、テトロン、ポリエステル又はアラミド繊維等どのようなものでもよいと記載されている。さらに、前記アラミド短繊維の配合量は、多すぎると、ベルト長手方向の屈曲疲労性(伸張疲労性)を著しく悪化させるので、13容量%以下が望ましいと記載されている。
【0006】
すなわち、これらの特許文献には、心線としてパラ系アラミド繊維を使用し、伸張及び圧縮ゴム層として、クロロプレンゴムに、ビスマレイミドとアラミド短繊維とがそれぞれ配合された短繊維入りゴム組成物を使用したコグドVベルトが開示されている。
【0007】
しかし、これらの特許文献では、ミスアライメントに適用できる伝動ベルトについて言及されておらず、心線の機械的特性を制御することは想定されていない。特に、心線は、ベルトの長さ方向の伸びを小さくするように埋設され、伸張性を付与してミスアライメントを制御することは想定されていない。また、前記ミスアライメントとベルトの耐久性との関係について想定されていないためか、これらのコグドVベルトでは、パラ系アラミド繊維製の心線の疲労が促進されることがなく、かつ耐屈曲疲労性を改善するために、ベルト曲げ剛性とベルト幅方向の動的圧縮バネ定数又はベルト幅方向の静的バネ定数を特定している。また、早期にクラックや各ゴム層及びコードのセパレーションが発生するのを防止しつつ、耐側圧性を向上させて高負荷伝動能力を向上させるために、伸張ゴム層及び圧縮ゴム層のゴム硬度と接着ゴム層のゴム硬度を特定している。即ち、これらの特許文献では、耐屈曲疲労性を改善し、あるいは耐側圧性(ベルト幅方向の剛性)を向上させて高負荷伝動能力を向上させることを目的としている。このように高負荷伝動に対応するためには、ベルトの幅方向の剛性やベルトの長手方向の引張弾性率を高める必要があったが、過度な剛性や引張弾性率を高めることは、変速時に大きなミスアライメントが発生すると、ベルトがプーリから大きな側圧を受けてもベルト幅方向へ変形して圧縮応力を吸収することが困難になり、この結果、心線がベルト本体から飛び出すポップアウトが発生するまでの走行時間が短く、ベルト寿命の短縮につながっていた。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[伝動用ベルト]
本発明の伝動用ベルトは、ベルトの長手方向に延びる心線、この心線の少なくとも一部と接する心線支持層(接着ゴム層)、この心線支持層の一方の面に形成された伸張ゴム層、及び前記心線支持層の他方の面に形成された圧縮ゴム層を備えている。この圧縮ゴム層の内周面にはベルトの長手方向に沿って所定の間隔をおいて複数の凸部(コグ部)が形成され、前記圧縮ゴム層の側面でプーリに摩擦係合する。このような伝動用ベルトには、圧縮ゴム層にのみ前記コグ部が形成されたコグドベルト、圧縮ゴム層に加えて、伸張ゴム層の外周面にも同様のコグ部が形成されたダブルコグドベルトが含まれる。コグドベルトは、圧縮ゴム層の側面がプーリと接するVベルト(特に、ベルト走行中に変速比が無段階で変わる変速機に使用される変速ベルト)が好ましい。コグドVベルトとしては、例えば、ローエッジコグドVベルト、ローエッジダブルコグドVベルトなどが挙げられる。
【0016】
図1は、本発明の伝動用Vベルト(ローエッジコグドVベルト)の一例を示す概略断面図である。この例では、伝動用Vベルトは、心線支持層1内に心線2が埋設されており、心線支持層1の一方の表面には圧縮ゴム層3が積層され、心線支持層1の他方の表面には伸張ゴム層4が積層されている。なお、心線2は上下一対の心線支持層用ゴムシートに挟持された形態で一体に埋設され、ベルトの長手方向に平行に所定のピッチで並列的に配設されている。さらに、圧縮ゴム層3には補強布5が積層され、コグ付き成形型によりコグ部6が形成されている。各コグ部6のベルト長手方向における断面形状は山形状(略半円状)又は台形状である。すなわち、各コグ部6は、ベルト厚み方向において、コグ底部から断面山形状又は台形状に突出している。圧縮ゴム層3と補強布5との積層体は、補強布と圧縮ゴム層用シート(未加硫ゴムシート)との積層体を加硫することにより一体に形成されている。なお、ベルト幅方向における断面形状は、ベルト外周側から内周側に向かってベルト幅が小さくなる台形状である。
【0017】
図2は、ダブルコグドVベルトの一例を示す概略斜視図である。ダブルコグドVベルトでは、心線12を埋設した心線支持層11の両面に、それぞれ圧縮ゴム層13及び伸張ゴム層14が形成されたローエッジコグドVベルトにおいて、圧縮ゴム層13及び伸張ゴム層14のいずれにも、それぞれコグ部16,17が形成されている。尚、図示していないが、このベルトでは、補強布を伸張ゴム層14及び圧縮ゴム層13の表面に装着している。
【0018】
コグ部の高さやピッチは、慣用のコグドVベルトと同様である。圧縮ゴム層では、コグ部の高さは、圧縮ゴム層全体の厚みに対して50〜95%(特に60〜80%)程度であってもよく、コグ部のピッチ(隣接するコグ部の中央部同士の距離)は、コグ部の高さに対して50〜250%(特に80〜200%)程度であってもよい。伸張ゴム層にコグ部を形成する場合も同様である。
【0019】
(心線)
心線は、少なくともその一部が心線支持層(接着ゴム層)と接していればよく、心線支持層が心線を埋設する形態に限定されず、心線支持層と伸張ゴム層との間に心線を埋設する形態、心線支持層と圧縮ゴム層との間に心線を埋設する形態であってもよい。これらのうち、ポップアウトを抑制できる点から、心線支持層が心線を埋設する形態が好ましい。
【0020】
心線は、ベルト長手方向の引張弾性率に影響を与え、アラミド繊維で形成されている。アラミド繊維としては、芳香族ジアミンと芳香族ジカルボン酸とから得られる全芳香族ポリアミド系繊維が好ましい。
【0021】
芳香族ジアミンとしては、例えば、フェニレンジアミン、ジアミノトルエン、キシリレンジアミン、1,4−ナフタレンジアミン、ビフェニレンジアミンなどのアリーレンジアミン、ビス(4−アミノフェニル)エーテル、3,4′−ジアミノ−ジフェニルエーテルなどのビス(アミノアリール)エーテル、ビス(4−アミノフェニル)ケトンなどのビス(アミノアリール)ケトン、ビス(4−アミノフェニル)スルホンなどのビス(アミノアリール)スルホン、ジアミノジフェニルメタン、ビス(4−アミノ−3−エチルフェニル)メタン、ビス(4−アミノ−3−メチルフェニル)メタン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパンなどのビス(アミノアリール)アルカンなどが挙げられる。これらの芳香族ジアミンは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、パラフェニレンジアミンなどのアミノ基が対称位置に位置する対称型ジアミンが好ましい。
【0022】
芳香族ジカルボン酸としては、例えば、フタル酸、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸(2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,6−ナフタレンジカルボン酸など)などのアレーンジカルボン酸又はその酸無水物、4,4’−ビフェニルジカルボン酸などのビアレーンジカルボン酸などが挙げられる。これらの芳香族ジカルボン酸は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、テレフタル酸などのカルボキシル基が対称位置に位置する対称型ジカルボン酸が好ましい。
【0023】
アラミド繊維は、適度な伸張性を有し、伝動用ベルトを長さ方向に所定荷重で引っ張ったときの歪を適度な範囲に調整できる点から、パラ系アラミド繊維が好ましく、ポリパラフェニレンテレフタルアミド系繊維が特に好ましい。
【0024】
ポリパラフェニレンテレフタルアミド系繊維を構成するポリパラフェニレンテレフタルアミド系樹脂には、パラフェニレンテレフタルアミド単位を主成分として、例えば、50モル%以上、好ましくは80〜100モル%、さらに好ましくは90〜100モル%(特に95〜100モル%)の割合で含むホモ又はコポリエステルが含まれる。コポリエステルを構成する共重合性単量体には、芳香族ジアミン(3,4′−ジアミノ−ジフェニルエーテルなど)や芳香族ジカルボン酸(イソフタル酸など)などが含まれる。ポリパラフェニレンテレフタルアミド系繊維としては、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(例えば、帝人(株)製「トワロン(登録商標)」、東レ・デュポン(株)製「ケブラー(登録商標)」など)、ポリパラフェニレンテレフタルアミドと3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドとの共重合体繊維(例えば、帝人(株)製「テクノーラ(登録商標)」など)などが市販されている。これらのうち、伝動用ベルトを長さ方向に所定荷重で引っ張ったときの歪を適度な範囲に調整できる点から、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(標準モジュラスタイプ)が特に好ましい。
【0025】
アラミド繊維(アラミド心線)の原糸としては、伝動用ベルトの走行に耐えうる強度を有していればよく、例えば、アラミド繊維のモノフィラメント糸を含むマルチフィラメント糸(アラミド系マルチフィラメント糸)などが例示できる。
【0026】
アラミド系マルチフィラメント糸は、複数のモノフィラメント糸を含んでいればよく、伝動用ベルトの耐久性の点から、例えば、100〜5,000本、好ましくは500〜4,000本、さらに好ましくは1,000〜3,000本程度のモノフィラメント糸を含んでいてもよい。
【0027】
モノフィラメント糸の平均繊度は、例えば、1〜10dtex、好ましくは1.2〜8dtex、さらに好ましくは1.5〜5dtex程度であってもよい。
【0028】
アラミド系マルチフィラメント糸は、モノフィラメント糸同士を集束させることなく(例えば、無撚りで)使用してもよく、複数のモノフィラメント糸を集束手段(例えば、加撚、交絡、結束など)により集束して使用してもよい。
【0029】
撚糸(又はコード)は、複数のモノフィラメント糸を単糸として、少なくとも1本の単糸を右撚り(S撚り)又は左撚り(Z撚り)した方撚糸であってもよい。単糸は、強度の点から、例えば、10〜2,000本、好ましくは100〜1,800本、さらに好ましくは500〜1,500本程度のモノフィラメント糸を含んでいてもよい。単糸の平均繊度は、例えば、500〜3,000dtex、好ましくは1,000〜2,500dtex、さらに好ましくは1,500〜2,000dtex程度であってもよい。
【0030】
方撚糸は、通常、1〜6本、好ましくは1〜4本、さらに好ましくは1〜3本(例えば、1〜2本)程度の単糸を含んでいる場合が多い。なお、方撚糸が複数の単糸を含む場合、複数の単糸を束ねて(引き揃えて)加撚されている場合が多い。
【0031】
方撚糸は、例えば、甘撚糸又は中撚糸(特に、甘撚糸)であってもよい。方撚糸の撚り数は、例えば、20〜50回/m、好ましくは25〜45回/m、さらに好ましくは30〜40回/m程度であってもよい。方撚糸において、下記式(1)で表される撚り係数(T.F.)は、例えば、0.01〜1、好ましくは0.1〜0.8程度であってもよい。
撚り係数=[撚り数(回/m)×√トータル繊度(tex)]/960 (1)
【0032】
撚糸は、さらに強度を向上させる点から、複数の方撚糸を下撚り糸として上撚りした糸(例えば、諸撚糸、駒撚糸、ラング撚糸など)が好ましく、方撚糸と単糸とを下撚り糸として上撚りした撚糸(例えば、壁撚糸など)であってもよい。これらの撚糸を構成する下撚り糸の数は、例えば、2〜5本、好ましくは2〜4本、さらに好ましくは2〜3本程度であってもよい。また、方撚り方向(下撚り方向)と上撚り方向とは、同一方向及び逆方向のいずれであってもよく、耐屈曲疲労性の点から、同一方向(ラング撚り)が好ましい。
【0033】
上撚りの撚り数は、ベルトを長さ方向に2kNの荷重で引っ張ったときの歪を調節する上で重要になる。上撚りの撚り数は、例えば、50〜200回/m、好ましくは80〜180回/m、さらに好ましくは100〜150回/m程度であってもよい。上撚りにおいて、式(1)で表される撚り係数は、例えば、0.5〜6.5、好ましくは0.8〜5、さらに好ましくは1〜4程度であってもよい。
【0034】
アラミド心線の原糸の平均径は、例えば、0.2〜2.5mm、好ましくは0.4〜2mm、さらに好ましくは0.5〜1.5mm程度であってもよい。
【0035】
ゴム成分との接着性を改善するため、心線は、種々の接着処理、例えば、フェノール類とホルマリンとの初期縮合物(ノボラック又はレゾール型フェノール樹脂のプレポリマーなど)を含む処理液、ゴム成分(又はラテックス)を含む処理液、前記初期縮合物とゴム成分(ラテックス)とを含む処理液、シランカップリング剤、エポキシ化合物(エポキシ樹脂など)、イソシアネート化合物などの反応性化合物(接着性化合物)を含む処理液などで処理することができる。好ましい接着処理では、心線は、前記初期縮合物とゴム成分(ラテックス)とを含む処理液、特に、少なくともレゾルシン−ホルマリン−ラテックス(RFL)液で接着処理してもよい。接着処理では、一般的に、繊維をRFL液に浸漬後、加熱乾燥して表面に均一に接着層を形成することが行うことができる。RFL液のラテックスとしては、例えば、クロロプレンゴム、スチレン−ブタジエン−ビニルピリジン三元共重合体、水素化ニトリルゴム(H−NBR)、ニトリルゴム(NBR)などが例示できる。このような処理液は組み合わせて使用してもよく、例えば、心線を、慣用の接着性成分、例えば、エポキシ化合物(エポキシ樹脂など)、イソシアネート化合物などの反応性化合物(接着性化合物)で前処理(プレディップ)や、RFL処理後にゴム糊処理(オーバーコーティング)などの接着処理した後、RFL液で処理してもよい。
【0036】
(圧縮ゴム層及び伸張ゴム層)
(1)ゴム成分
圧縮ゴム層及び伸張ゴム層を形成する加硫ゴム組成物に含まれるゴム成分としては、加硫又は架橋可能なゴム、例えば、ジエン系ゴム(天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、ブチルゴム、クロロプレンゴム、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(ニトリルゴム)、アクリロニトリル−クロロプレンゴム、水素化ニトリルゴムなど)、エチレン−α−オレフィンエラストマー、クロロスルフォン化ポリエチレンゴム、アルキル化クロロスルフォン化ポリエチレンゴム、エピクロルヒドリンゴム、アクリル系ゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、フッ素ゴムなどが例示できる。これらのゴム成分は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0037】
これらのうち、エチレン−α−オレフィンエラストマー(エチレン−プロピレンゴム(EPR)、エチレン−プロピレン−ジエンモノマー(EPDMなど)などのエチレン−α−オレフィン系ゴム)、クロロプレンゴムが好ましく、圧縮ゴム層のベルト幅方向の圧縮歪みを適度な範囲に調整し易い点から、クロロプレンゴムが特に好ましい。ゴム成分中において、クロロプレンゴムの割合は50質量%以上(特に80〜100質量%)程度であってもよい。クロロプレンゴムは、硫黄変性タイプであってもよく、非硫黄変性タイプであってもよい。
【0038】
(2)短繊維
圧縮ゴム層を形成する加硫ゴム組成物は、前記ゴム成分に加えて、短繊維を含んでおり、伸張ゴム層も短繊維を含むのが好ましい。短繊維としては、ベルト幅方向に剛直で高い強度、モジュラスを有する点から、アラミド短繊維が使用される。アラミド短繊維は、高い耐摩耗性も有している。
【0039】
圧縮ゴム層において、アラミド短繊維は、ベルト幅方向に配向されている。伸張ゴム層がアラミド短繊維を含む場合、該アラミド短繊維もベルト幅方向に配向されていることが好ましい。アラミド短繊維をベルト幅方向に配向させる方法としては、例えば、ロールにより圧延する方法が一般的である。
【0040】
アラミド短繊維としては、アラミド心線の項で例示されたアラミド繊維を利用でき、市販品としては、例えば、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(例えば、帝人(株)製「トワロン(登録商標)」、東レ・デュポン(株)製「ケブラー(登録商標)」など)、ポリパラフェニレンテレフタルアミドと3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドとの共重合体繊維(例えば、帝人(株)製「テクノーラ(登録商標)」)、メタ型であるポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維(例えば、帝人(株)製「コーネックス(登録商標)、デュポン(株)製「ノーメックス(登録商標)」など)などを利用できる。これらのうち、引張弾性率が小さく、ベルト幅方向の適度な剛性を維持できるとともに、ベルト幅方向の圧縮力を適度に吸収できる特性を有する点から、アラミド心線と同様のポリパラフェニレンテレフタルアミド系繊維が好ましく、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(標準モジュラスタイプ)が特に好ましい。
【0041】
アラミド短繊維の平均長さは、例えば、1〜20mm、好ましくは2〜15mm、さらに好ましくは3〜10mmであってもよく、平均繊維径は、例えば、5〜50μm、好ましくは7〜40μm、さらに好ましくは10〜35μm程度であってもよい。
【0042】
アラミド短繊維は、心線と同様の方法で接着処理(又は表面処理)されていてもよい。アラミド短繊維もアラミド心線と同様に、少なくともRFL液で接着処理するのが好ましい。
【0043】
アラミド短繊維の割合は、前記ゴム成分100質量部に対して、例えば、10〜40質量部、好ましくは15〜35質量部、さらに好ましくは20〜30質量部程度である。アラミド短繊維の割合が少なすぎると、ベルト幅方向の剛性が小さくなって、耐側圧性の低下により変形し易くなるため、ベルト寿命が短くなる。逆に、多すぎると、圧縮ゴム層及び伸張ゴム層(特に圧縮ゴム層)の屈曲疲労性が低下するため(圧縮ゴム層が硬くなり、曲げ応力が大きくなるため)、ベルト巻き付き径の小さい状態では屈曲による損失が大きくなり、省燃費性が低下する。
【0044】
アラミド短繊維の割合は、ベルトを幅方向に2.0N/mm
2の応力で圧縮したときの歪を0.5〜0.8%に調節する大きな要因になり、この要因により本発明の伝動用ベルトはベルト幅方向の剛性を維持するとともに、ベルト幅方向の圧縮力を吸収できる特性を有することになる。アラミド短繊維としてポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維を選定し、前記割合に調整すれば、前記ベルト特性を発現し易い。
【0045】
圧縮ゴム層及び伸張ゴム層を形成する加硫ゴム組成物は、アラミド短繊維に加えて、他の短繊維を含んでいてもよい。他の短繊維としては、ポリオレフィン系繊維(ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維など)、ポリアミド繊維(ポリアミド6繊維、ポリアミド66繊維、ポリアミド46繊維など)、ポリアルキレンアリレート系繊維[ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維、ポリエチレンナフタレート(PEN)繊維などのC
2−4アルキレンC
6−14アリレート系繊維など]、ビニロン繊維、ポリビニルアルコール系繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)繊維などの合成繊維;綿、麻、羊毛などの天然繊維;炭素繊維などの無機繊維が挙げられる。他の短繊維の平均長さ及び平均繊維径はアラミド短繊維と同様であってもよく、他の短繊維もアラミド短繊維と同様に接着処理されていてもよい。
【0046】
ゴム組成物が他の短繊維を含む場合、アラミド短繊維及び他の短繊維の総量は、前記ゴム成分100質量部に対して、例えば、15〜45質量部、好ましくは20〜40質量部、さらに好ましくは25〜35質量部程度である。短繊維の割合が多すぎると、ゴム組成物中における短繊維の分散性が低下して分散不良が生じ、その箇所を起点にして圧縮ゴム層や伸張ゴム層に亀裂が早期に発生する虞がある。
【0047】
(3)他の添加剤
圧縮ゴム層及び伸張ゴム層を形成するための加硫ゴム組成物には、必要に応じて、加硫剤又は架橋剤(又は架橋剤系)、共架橋剤、加硫助剤、加硫促進剤(例えば、テトラメチルチウラム・ジスルフィド(TMTD)やジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド(DPTT)などのチウラム系促進剤、2−メルカプトベンゾチアゾ−ルなどのチアゾ−ル系促進剤、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド(CBS)などのスルフェンアミド系促進剤、グアニジン類、ウレア系又はチオウレア系促進剤など)、加硫遅延剤、金属酸化物(例えば、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化鉄、酸化銅、酸化チタン、酸化アルミニウムなど)、増強剤(カーボンブラック、含水シリカなどの酸化ケイ素など)、充填剤(クレー、炭酸カルシウム、タルク、マイカなど)、軟化剤(パラフィンオイル、ナフテン系オイルなどのオイル類など)、加工剤又は加工助剤(ステアリン酸、ステアリン酸金属塩、ワックス、パラフィンなど)、老化防止剤(酸化防止剤、熱老化防止剤、屈曲き裂防止材、オゾン劣化防止剤など)、着色剤、粘着付与剤、可塑剤、カップリング剤(シランカップリング剤など)、安定剤(紫外線吸収剤、熱安定剤など)、難燃剤、帯電防止剤などを含んでいてもよい。なお、金属酸化物は架橋剤として作用してもよい。
【0048】
加硫剤又は架橋剤としては、ゴム成分の種類に応じて慣用の成分を利用でき、ゴム成分がクロロプレンゴムである場合、加硫剤又は架橋剤として金属酸化物(酸化マグネシウム、酸化亜鉛など)を使用してもよい。なお、金属酸化物は他の加硫剤(硫黄系加硫剤など)と組合せて使用してもよく、金属酸化物及び/又は硫黄系加硫剤は単独で又は加硫促進剤と組み合わせて使用してもよい。加硫剤の割合は、加硫剤及びゴム成分の種類に応じて、ゴム成分100質量部に対して、1〜20質量部(特に3〜15質量部)程度の範囲から選択できる。
【0049】
共架橋剤(架橋助剤、又は共加硫剤co-agent)としては、公知の架橋助剤を利用でき、ゴム成分(例えば、クロロプレンゴム)に応じて、ビスマレイミド類(脂肪族ビスマレイミド、例えば、N,N’−1,2−エチレンビスマレイミドなどのアルカンビスマレイミド、1,6’−ビスマレイミド−(2,2,4−トリメチル)シクロヘキサンなどなどのシクロアルカンビスマレイミドなど;アレーンビスマレイミド又は芳香族ビスマレイミド、例えば、N−N’−m−フェニレンビスマレイミド、4−メチル−1,3−フェニレンビスマレイミドなどのアレーンビスマレイミド、4,4’−ジフェニルメタンビスマレイミドなどのジアリールアルカンビスマレイミド、2,2−ビス[4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパンなどのビス[(ジアリールオキシ)アレーンビスマレイミド]アルカン、4,4’−ジフェニルエーテルビスマレイミドなどのジアリールエーテルビスマレイミド、4,4’−ジフェニルスルフォンビスマレイミドなどのジアリールスルホンビスマレイミド、1,3−ビス(3−マレイミドフェノキシ)ベンゼンなどの(ジアリールオキシ)アレーンビスマレイミドなど)などが利用される。これらの架橋助剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、N,N’−m−フェニレンジマレイミドなどのアレーンビスマレイミド又は芳香族ビスマレイミドが好ましい。本発明では、共架橋剤(特にビスマレイミド類)の添加により架橋度を調節してベルト幅方向の剛性を調節できるとともに、粘着摩耗も防止できるため、共架橋剤の使用が好ましい。
【0050】
共架橋剤(特にビスマレイミド類)の割合は、固形分換算で、ゴム成分100質量部に対して、例えば、1〜15質量部、好ましくは1〜10質量部、さらに好ましくは2〜8質量部程度である。
【0051】
増強剤及び充填剤(特に、カーボンブラックなど増強剤)の割合は、ゴム成分100質量部に対して、例えば、1〜100質量部、好ましくは3〜80質量部、さらに好ましくは5〜50質量部程度である。
【0052】
軟化剤(ナフテン系オイルなどのオイル類)の割合は、ゴム成分100質量部に対して、例えば、1〜30質量部、好ましくは3〜20質量部、さらに好ましくは4〜10質量部程度である。
【0053】
圧縮ゴム層の厚みは、例えば、2〜25mm、好ましくは3〜16mm、さらに好ましくは4〜12mm程度である。伸張ゴム層の厚みは、例えば、0.8〜10mm、好ましくは1.2〜6.5mm、さらに好ましくは1.6〜5.2mm程度である。
【0054】
圧縮ゴム層を形成する加硫ゴム組成物は、温度160℃、圧力2.0MPaで20分間プレス加硫したとき、厚み方向の歪が10%となったときの曲げ応力が3.5〜6.0MPa(例えば、4〜5.5MPa)であることが好ましい。厚み方向の歪が10%となったときの曲げ応力が6.0MPaを超えると、ベルトが硬くなりすぎて変速時に発生するベルト幅方向の圧縮力とベルト長手方向の引張力を吸収することができず、ミスアライメントが発生し、心線がベルト本体から飛び出すポップアウト現象が発生しやすくなる。一方、厚み方向の歪が10%となったときの曲げ応力が3.5MPa未満であると、ベルトが柔らかくなりすぎて変形しやすく、ポップアウトが発生しやすくなる。
【0055】
(心線支持層)
心線支持層(接着ゴム層)にも前記圧縮ゴム層及び伸張ゴム層と同様の加硫ゴム組成物(クロロプレンゴムなどのゴム成分を含むゴム組成物)などが使用できる。心線支持層の加硫ゴム組成物において、ゴム成分としては、前記圧縮ゴム層の加硫ゴム組成物のゴム成分と同系統又は同種のゴムを使用する場合が多い。心線支持層を形成するための加硫ゴム組成物は、前記圧縮ゴム層及び伸張ゴム層と同様の添加剤を含んでいてもよく、例えば、加硫剤又は架橋剤(酸化マグネシウム、酸化亜鉛などの金属酸化物、硫黄などの硫黄系加硫剤など)、共架橋剤又は架橋助剤(N,N’−m−フェニレンジマレイミドなどのマレイミド系架橋剤など)、加硫促進剤(TMTD、DPTT、CBSなど)、増強剤(カーボンブラック、シリカなど)、軟化剤(ナフテン系オイルなどのオイル類など)、加工剤又は加工助剤(ステアリン酸、ステアリン酸金属塩、ワックス、パラフィンなど)、老化防止剤、接着性改善剤(レゾルシン−ホルムアルデヒド共縮合物、アミノ樹脂など)、充填剤(クレー、炭酸カルシウム、タルク、マイカなど)、着色剤、粘着付与剤、可塑剤などを含んでいてもよい。また、加硫剤又は架橋剤、共架橋剤又は架橋助剤の割合は、それぞれ、前記圧縮ゴム層及び伸張ゴム層の加硫ゴム組成物と同様の範囲から選択できる。
【0056】
心線支持層の厚みは、ベルトの種類に応じて適宜選択でき、例えば、0.4〜3.0mm、好ましくは0.6〜2.2mm、さらに好ましくは0.8〜1.4mm程度であってもよい。
【0057】
(補強布)
伝動用Vベルトにおいて、補強布を使用する場合、圧縮ゴム層の表面に補強布を積層する形態に限定されず、例えば、伸張ゴム層の表面(心線支持層との接触面に対して反対側の面)に補強布を積層してもよく、圧縮ゴム層及び/又は伸張ゴム層に補強層を埋設する形態であってもよい。補強布は、例えば、織布、広角度帆布、編布、不織布などの布材(好ましくは織布)などで形成でき、必要であれば、前記接着処理、例えば、RFL液で処理(浸漬処理など)したり、心線支持層用ゴムを前記布材にすり込むフリクションや、前記心線支持層用ゴムシートと前記布材とを積層(コーティング)した後、圧縮ゴム層及び/又は伸張ゴム層の表面に積層してもよい。
【0058】
なお、本明細書では、圧縮ゴム層又は伸張ゴム層の表面に補強布が積層された場合、補強布も含めた形態で(すなわち、圧縮ゴム層又は伸張ゴム層と補強布との積層体を)、圧縮ゴム層又は伸張ゴム層と称する場合がある。
【0059】
[伝動用ベルトの製造方法]
本発明の伝動用ベルトの製造方法は、特に限定されず、各層の積層工程(ベルトスリーブの製造方法)に関しては、慣用の方法を利用できる。
【0060】
例えば、
図2に示すダブルコグドVベルトの製造方法の一例として、補強布(下布)と圧縮ゴム層用シート(未加硫ゴム)からなる積層体を、前記補強布を下にして歯部と溝部とを交互に配した平坦なコグ付き型に設置し、温度60〜100℃(特に70〜80℃)程度でプレス加圧することによってコグ部を型付けしたコグパッド(完全には加硫しておらず、半加硫状態にあるパッド)を作製した後、このコグパッドの両端をコグ山部の頂部から垂直に切断してもよい。さらに、円筒状の金型に歯部と溝部とを交互に配した加硫ゴム製の内母型を被せ、この歯部と溝部に係合させてコグパッドを巻き付けてコグ山部の頂部でジョイントし、この巻き付けたコグパッドの上に第1の心線支持層用ゴムシート(下部心線支持層用ゴム:未加硫ゴム)を積層した後、心線を螺旋状にスピニングし、この上に第2の心線支持層用ゴムシート(上部心線支持層用ゴム:前記下部心線支持層用ゴムシートと同じ)、伸張ゴム層用シート(未加硫ゴム)、補強布(上布)を順次巻き付けて成形体を作製してもよい。その後、加硫ゴム製のジャケットを被せて金型を加硫缶に設置し、温度120〜200℃(特に150〜180℃)程度で加硫してベルトスリーブを調製した後、カッターなどを用いて、V状に切断加工してもよい。
【0061】
[伝動用ベルトの特性]
得られた本発明の伝動用ベルトの特性は、ベルトを幅方向に2.0N/mm
2の応力で圧縮したときの歪(ベルト幅方向の剛性)とベルトを長さ方向に2kNの荷重で引張ったときの歪が以下の特性を有している。
【0062】
すなわち、ベルト幅方向の剛性は、ベルトを幅方向に2.0N/mm
2の応力で圧縮したときの歪が0.5〜0.8%であり、好ましくは0.52〜0.75%、さらに好ましくは0.53〜0.7%(特に0.55〜0.65%)程度である。この範囲内では、平行に配設された2本の回転軸にそれぞれ装着され、回転軸と一体に回転可能な固定シーブと、この固定シーブと対向することによりV字形の溝形状を形成する可動シーブよりなる無段変速装置の2対のシーブ(プーリ)間に伝動用ベルトを装着して走行させた場合、変速時に大きなミスアライメントが発生し、ベルトがシーブから大きな側圧を受けても、ベルト幅方向へ変形して圧縮応力を吸収し、ポップアウトが発生するまでの走行時間が延長される。ベルト幅方向の前記圧縮歪が0.8%を超えると、心線と心線支持層との界面において内部歪が大きくなって、心線が剥離しやすくなる可能性があり、短い走行時間でポップアウトが発生し易くなる。一方、前記圧縮歪が0.5%未満では、ベルト幅方向への圧縮応力を吸収できなくなって、短い走行時間でポップアウトが発生し易くなる。
【0063】
なお、ベルトを幅方向に2.0N/mm
2の応力で圧縮したときの歪は、後述する実施例に記載の方法で測定できる。
【0064】
また、ベルト長さ方向の剛性は、ベルトを長さ方向に2kNの荷重で引張ったときの歪が0.35〜0.7%(例えば、0.40〜0.69%)であり、好ましくは0.5〜0.68%(例えば、0.55〜0.68%)、さらに好ましくは0.6〜0.65%程度である。この範囲内では、前記無段変速装置の2対のシーブ(プーリ)間に伝動用ベルトを装着して走行させた場合、変速時に大きなミスアライメントが発生し、ベルトがシーブから大きな側圧を受けても、ベルト長さ方向へ変形して引張力を吸収し、ポップアウトが発生するまでの走行時間が延長される。ベルト長さ方向の引張歪が0.7%を超えると、心線と心線支持層との界面において内部歪が大きくなって、心線が剥離しやすくなる可能性があり、短い走行時間でポップアウトが発生し易くなる。一方、前記引張歪が0.35%未満では、ベルト長さ方向への引張力を吸収できなくなって、短い走行時間でポップアウトが発生し易くなる。
【0065】
なお、ベルトを長さ方向に2kNの荷重で引張ったときの歪は、後述する実施例に記載の方法で測定できる。
【0066】
[ベルト変速装置]
本発明のベルト変速装置は、平行に配設された2本の回転軸、回転軸にそれぞれ装着され、回転軸と一体に回転可能な固定シーブ、この固定シーブと対向することによりV字形の溝形状を形成し、かつ軸方向に移動可能な可動シーブを有し、かつミスアライメントが発生する無段変速装置と、2対のシーブ間に捲きかけた伝動用ベルトとを備えている。
【0067】
図3は、本発明のベルト(無段)変速装置の模式図である。この変速装置は、互いに平行な2つのプーリ軸(回転軸)31,32と、各プーリ軸上に配置された駆動側変速(プライマリ)プーリ33と従動側変速(セカンダリ)プーリ34と、駆動側変速プーリと従動側変速プーリに巻き掛けられた変速ベルト35とを備えている。
【0068】
駆動側変速プーリ33は、それぞれが対向する円錐面を有し、この円錐面間に変速ベルト35を挟持すべくプーリ軸31に軸線方向不動に固定された固定シーブ36aと、円錐面を軸線方向可動に支持された可動シーブ36bとを有し、同様に従動側変速プーリ34は、それぞれが対向する円錐面を有し、この円錐面間に変速ベルト35を挟持すべくプーリ軸32に軸線方向不動に固定された固定シーブ37aと、円錐面を軸線方向可動に支持された可動シーブ37bとを有し、駆動側変速プーリ33の固定シーブ36aと従動側変速プーリ34の固定シーブ37aが、変速ベルト35に対して軸線方向反対側に位置するように配置されている。
【0069】
このようなベルト変速装置は、駆動側変速プーリ33側において可動シーブ36bの円錐面を後退させることで両シーブ36a,36bの円錐面間距離を増加させ、従動側変速プーリ34側においては可動シーブ37bの円錐面を前進させることで両シーブ37a,37bの円錐面間距離を減少させる。これにより、ベルト挟持空間の幅が調整され、駆動側変速プーリ33側のピッチ円半径を小さくし、従動側変速プーリ34側のピッチ円半径を大きくすることでプーリ比が1より大きな動力伝達を行う。
【0070】
また、これとは逆に、駆動側変速プーリ33側において円錐面間距離を減少させ、従動側変速プーリ34側において円錐面間距離を増加させることで、それら円錐面間に画定されるベルト挟持空間の幅が調整され、駆動側変速プーリ33側のピッチ円半径を大きく、従動側変速プーリ34側のピッチ円半径を小さくすることでプーリ比が1より小さな動力伝達を行う。
【0071】
このような変速操作に伴い、ある特定のプーリ比のところでベルト挟持空間の軸線方向位置を整合させてミスアライメントを無くしても、他のプーリ比の位置ではミスアライメント(C)が必ず発生する。このときに、駆動側変速プーリ33での可動シーブ36bの側圧によって、これに当接する側のベルト側面は大きな圧縮力を受けることになる。
【0072】
即ち、駆動側変速プーリ33の固定シーブ36a及び可動シーブ36bのシーブ面間の中心位置と、従動側変速プーリ34の固定シーブ37a及び可動シーブ37bのシーブ面間の中心位置との軸方向距離をミスアライメント(C)とし、平行な2つのプーリ軸31,32の中心線の軸間における距離を軸間距離(L)としたとき、スアライメント量(角度θ)はtanθ=C/Lで求められる。この角度θは最大1.0°(例えば、0.1〜1.0°)になる。
【実施例】
【0073】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。各物性における測定方法、評価方法、及び実施例に用いた原料を以下に示す。なお、特に断りのない限り、「部」及び「%」は質量基準である。
【0074】
[ゴムシート厚み方向の歪10%時の曲げ応力]
圧縮ゴム層用未加硫ゴムシートを温度160℃、時間20分でプレス加硫し、加硫ゴム成形体(長さ60mm、幅25mm、厚み6.5mm)を作製した。短繊維は、加硫ゴム成形体の長さと平行方向(ベルトの幅方向に相当する)に配向させた。
図4に示すように、この加硫ゴム成形体41を、20mmの間隔を空けて、回転可能な一対のロール(6mmφ)42a,42b上に置いて支持し、加硫ゴム成形体の上面中央部において短繊維の配向方向に対して直交する方向に金属製の押さえ部材43を載せた。押さえ部材43の先端部は、10mmφの半円状の形状を有しており、その先端部で加硫ゴム成形体41をスムーズに押圧可能である。また、押圧時には加硫ゴム成形体41の圧縮変形に伴って、加硫ゴム成形体41の下面とロール42a,42bとの間に摩擦力が作用するが、ロール42a,42bを回転可能とすることにより、摩擦による影響を小さくしている。押さえ部材43の先端部が加硫ゴム成形体41の上面に接触し、かつ押圧していない状態を「0」とし、この状態から押さえ部材43を下方に100mm/分の速度で加硫ゴム成形体41の上面を押圧し、加硫ゴム成形体41の厚み方向の歪が10%となったときの応力を曲げ応力として測定した。
【0075】
[ベルトを幅方向に2.0N/mm
2の応力で圧縮したときの歪]
試作した伝動用ベルトを長さ10mmしたカットしたベルトサンプル50を、
図5に示すように、ベルト側面が2枚の金属製の治具51a,51bに接するように、これらの治具51a,51bで上下に挟み込む。この場合、ベルトサンプル50が治具で押圧されていない挟み込み状態で、上側の治具51aの位置を初期位置とする。オートグラフを用いて上側の治具51aを10mm/分の速度でベルトサンプル50に押圧してベルトサンプル50を1%歪ませ、この状態で1秒間保持した後、上側の治具51aを上方に初期位置まで戻した(予備圧縮)。この予備圧縮を3回繰り返した後、4回目の圧縮試験(条件は予備圧縮と同じ)で測定される応力−歪み曲線より、ベルトサンプル50を幅方向に2.0N/mm
2の応力で圧縮したときの歪を求めた。
【0076】
[ベルトを長さ方向に2kNの荷重で引張ったときの歪]
引張試験機((株)島津製作所製「オートグラフAG−5000A」)を用いて、ベルトサンプルを250mmのチャック間に設置し、室温で引張速度50mm/分で引張試験を行い、2kN時の伸びを測定し、伸び率(歪)を求めた。
【0077】
[ポップアウト寿命]
前記試作ベルトを固定シーブと可動シーブからなる駆動プーリ(プーリ径90mm)と同様に固定シーブと可動シーブからなる従動プーリ(プーリ径190mm)からなる2軸の変速試験機に懸架し、従動プーリに荷重1.5kNをかけ、そして駆動プーリの回転を6,000rpm、駆動トルクとして負荷55Nmを掛けて走行させた。また、雰囲気温度は110℃であった。この場合、駆動プーリと従動プーリ間で1.0°のミスアライメントを設定した。走行後、ポップアウトが発生した時間を測定した。
【0078】
[原料]
(短繊維)
アラミド短繊維(トワロン):帝人(株)製「トワロン」、カット糸、平均繊維長3mm、平均繊維径12μm
アラミド短繊維(テクノーラ):帝人(株)製「テクノーラ」、カット糸、平均繊維長3mm、平均繊維径12μm
PBO(ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール)繊維:東洋紡績(株)製「ザイロン」、カット糸、平均繊維長3mm、平均繊維径12μm
なお、短繊維は、RFL液(レゾルシン及びホルムアルデヒドと、ラテックスとしてのビニルピリジン−スチレン−ブタジエンゴムラテックスとを含有)で接着処理し、固形分の付着率6質量%の短繊維を用いた。RFL液として、レゾルシン2.6質量部、37%ホルマリン1.4質量部、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス(日本ゼオン(株)製)17.2質量部、水78.8質量部を用いた。
【0079】
(他の添加剤)
エーテルエステル系オイル:(株)ADEKA製「RS700」
カーボンブラック:東海カーボン(株)製「シースト3」
老化防止剤:精工化学(株)製「ノンフレックスOD3」
シリカ:東ソー・シリカ(株)製「Nipsil VN3」
加硫促進剤:テトラメチルチウラム・ジスルフィド(TMTD)
【0080】
(心線1)
1,670dtex(フィラメント数1,000本)のアラミド繊維(帝人(株)製「テクノーラ(登録商標)」)からなる無撚りでリボン状に引き揃えたアラミド繊維フィラメントの束(アラミド繊維単糸という)2本を、下撚り数を3.7回/10cmで下撚り(Z撚り)し、この下撚り糸を3本束ね、上撚り数を13.1回/10cmで下撚りと同じ方向に上撚り(Z撚り)して2×3の撚り構成とし、トータルデニール10,020の未処理コードを準備した。次いで、この未処理コードをウレタンプレポリマー(日本ポリウレタン工業(株)製「ミリオネートMR−200」)をトルエンに混合し、室温で10分攪拌して得られた処理液でプレディップした後、約170〜180℃で乾燥し、RFL液に浸漬した後、200〜240°Cで延伸熱固定処理を行い処理コードにした。
【0081】
(心線2)
1,670dtex(フィラメント数1,000本)のアラミド繊維(帝人(株)製「トワロン登録商標)」標準モジュラスタイプ)からなる無撚りでリボン状に引き揃えたアラミド繊維フィラメントの束(アラミド繊維単糸という)2本を、下撚り数15.8回/10cmで下撚り(Z撚り)し、この下撚り糸を3本束ね、上撚り数を19.7回/10cmで下撚りと同じ方向に上撚り(Z撚り)して2×3の撚り構成とし、トータルデニール10,020の未処理コードを準備した。次いで、この未処理コードをウレタンプレポリマー(日本ポリウレタン工業(株)製「ミリオネートMR−200」)をトルエンに混合し、室温で10分攪拌して得られた処理液でプレディップした後、約170〜180°Cで乾燥し、RFL液に浸漬した後、200〜240℃で延伸熱固定処理を行い処理コードにした。
【0082】
実施例1〜5及び比較例1〜2
(ゴム層の形成)
表1(圧縮ゴム層及び伸張ゴム層)及び表2(心線支持層)のゴム組成物は、それぞれ、バンバリーミキサーなどの公知の方法を用いてゴム練りを行い、この練りゴムをカレンダーロールに通して圧延ゴムシート(圧縮ゴム層用シート、伸張ゴム層用シート、心線支持層用シート)を作製した。
【0083】
【表1】
【0084】
【表2】
【0085】
(伝動用ベルトの製造)
モールドに装着したコグ形状のついた加硫ゴム製の内母型の表面に、予め所定厚みの補強布(ポリエステル繊維とアラミド繊維との混紡帆布)、短繊維が幅方向に配向した圧縮ゴム層用シートにコグ部を型付け成形したシート状のコグパッドを巻き付けてジョイントした後、下部心線支持層用ゴムシート、心線、上部心線支持層用ゴムシート、そして平坦な伸張ゴム層を順次巻き付けて成形体を作製した。続いて、成形体の表面に、コグ形状のついた加硫ゴム製の外母型とジャケットを被せてモールドを加硫缶に設置し、温度160℃、時間40分、0.9MPaで加硫してベルトスリーブを得た。尚、加硫条件は未加硫の心線支持層用ゴムシート、圧縮ゴム層用シート及び伸張ゴム層用シートの加硫に類似する条件を選択した。このスリーブをカッターによってV状に切断して変速ベルトに仕上げた。すなわち、
図2に示す構造のダブルコグドVベルトを作製した。詳しくは、心線12を埋設した心線支持層11の両面に、それぞれ圧縮ゴム層13及び伸張ゴム層14が形成されたローエッジコグドVベルトにおいて、圧縮ゴム層13及び伸張ゴム層14のいずれにも、それぞれコグ部16,17が形成され、補強布を伸張ゴム層14及び圧縮ゴム層13の表面に装着しているベルト(サイズ:上幅37.1mm、厚さ16.7mm、外周長1188mm、圧縮ゴム層のコグ部16の高さ6.8mm及びピッチ10.5mm、伸張ゴム層のコグ部17の高さ3.8mm及びピッチ9.9mm)を作製した。
実施例及び比較例で得られたベルトの評価結果を表3に示す。
【0086】
【表3】
【0087】
この結果、実施例1〜5における(1)ベルトを幅方向に2.0N/mm
2の応力で圧縮したときの歪は、比較例1と同等かそれ以上であり、また実施例1〜5における(2)ベルトを長さ方向に2kNの荷重で引張ったときの歪は、比較例1に比べて大きくなっている。これにより、ミスアライメント設定でのポップアウト寿命が改善されていることが判る。
【0088】
これは、(1)ベルトを幅方向に2.0N/mm
2の応力で圧縮したときの歪を比較例1に比べて同等かそれ以上及び(2)ベルトを長さ方向に2kN荷重で引っ張ったときの歪を比較例1に比べて大きく設定し、ベルト幅方向に圧縮変形し易く、かつベルト長手方向に伸び易くすることで、ベルトが変速時に発生するベルト幅方向とベルト長手方向の応力を吸収してミスアライメントに対応できるようにしている。これにより、心線がベルト本体から飛び出すポップアウト現象が発生するまでの走行時間が延長し、ベルト寿命が向上したものと思われる。
【0089】
比較例2では、(1)ベルトを幅方向に2.0N/mm
2の応力で圧縮したときの歪及び(2)ベルトを長さ方向に2kN荷重で引張ったときの歪が、実施例1〜5に比べていずれも大きくなり、ベルト幅方向に圧縮変形し易く、かつベルト長手方向に伸び易くなり、このためポップアウト寿命が比較例1より改善されているが、実施例1〜5に比べて低下している。より詳細には、比較例2のベルトでは、圧縮ゴム層を構成するゴム組成物にアラミド短繊維が含まれておらず、ベルト幅方向に2.0N/mm
2の応力で圧縮したときの歪が0.9%と大きい。従って、心線と心線支持層との界面において内部歪が大きくなって、心線剥離が発生しやすく、短い走行時間でポップアウトが発生しやすくなったものと思われる。