(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記制御部は、曲線半径が小さいカーブの走行時は、曲線半径が大きいカーブの走行時よりも、前記閾値となるスリップ値を小さくする、請求項1に記載のトラクション制御システム。
前記制御部は、曲線半径が小さいカーブの走行時は、曲線半径が大きいカーブの走行時よりも、前記駆動力の抑制量を大きくする、請求項6に記載のトラクション制御システム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、自動二輪車のバンク角が小さい場合は、許容できるスリップ値が大きいため、乗員の操作負荷が比較的小さい。このため、スリップ値がある程度の大きさになるまではトラクション制御を行って乗員の操作負荷を減らす要請は低い。一方、自動二輪車のバンク角が大きい場合は、許容できるスリップ値が小さいため、乗員の操作負荷は大きくなる。このため、スリップ値が小さい段階でトラクション制御を行って乗員の操作負荷を減らす要請が高い。
【0006】
しかしながら、本願発明者の鋭意研究の結果、単純に、トラクション制御を開始する閾値となるスリップ値を、バンク角が大きいときは小さくし、バンク角が小さいときは大きくするだけであると、乗員の操作負荷を十分に低減できない場合があることが分かった。すなわち、カーブ走行時のバンク角の大きさは、カーブの曲線半径Rの大きさによらずに、どのカーブも同程度である。しかし、カーブの曲線半径Rの大きさによって、カーブの後半でのアクセルの開け方が相違し、スリップが発生した場合のスリップの上昇率が異なる。スリップの上昇率が高い場合には、トラクション制御を開始し易くした方が望ましい。このため、カーブの曲線半径Rの大きさに応じてトラクション制御の開始し易さを変化させることで、乗員の操作負荷をさらに低減させる余地があることを本願発明者は見出した。
【0007】
本発明は、カーブ走行時の乗員の操作負荷をより低減することができるトラクション制御システム、およびそれを備えた鞍乗り型車両を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のある実施形態に係るトラクション制御システムは、鞍乗り型車両のヨーレートを検出するヨーレート検出部と、前記検出したヨーレートに基づいてトラクション制御を行う制御部とを備える。
【0009】
ある実施形態によれば、前記制御部は、前記検出したヨーレートに基づいて、前記トラクション制御のオン/オフの閾値となるスリップ値を変更してもよい。
【0010】
ある実施形態によれば、前記制御部は、前記検出したヨーレートが大きいときは小さいときよりも、前記閾値となるスリップ値を小さくしてもよい。
【0011】
ある実施形態によれば、前記制御部は、前記鞍乗り型車両の後輪のスリップ値を検出し、前記制御部は、前記検出した後輪のスリップ値が、前記閾値となるスリップ値以上となった場合、前記トラクション制御を開始してもよい。
【0012】
ある実施形態によれば、前記トラクション制御システムは、前記鞍乗り型車両のアクセル開度を検出するアクセル開度検出部をさらに備え、前記制御部は、前記検出したアクセル開度にさらに基づいて、前記トラクション制御のオン/オフの閾値となるスリップ値を変更してもよい。
【0013】
ある実施形態によれば、前記制御部は、前記検出したアクセル開度が大きいときは小さいときよりも、前記閾値となるスリップ値を大きくしてもよい。
【0014】
ある実施形態によれば、前記制御部は、前記検出したヨーレートに基づいて、前記トラクション制御における駆動力の抑制量を変更してもよい。
【0015】
ある実施形態によれば、前記制御部は、前記検出したヨーレートが大きいときは小さいときよりも、前記駆動力の抑制量を大きくしてもよい。
【0016】
ある実施形態によれば、前記制御部は、前記鞍乗り型車両の後輪のスリップ値を検出し、前記制御部は、前記検出した後輪のスリップ値にさらに基づいて、前記トラクション制御における駆動力の抑制量を変更してもよい。
【0017】
ある実施形態によれば、前記制御部は、前記検出した後輪のスリップ値が大きいときは小さいときよりも、前記駆動力の抑制量を大きくしてもよい。
【0018】
ある実施形態によれば、前記トラクション制御システムは、前記鞍乗り型車両のバンク角を検出するバンク角検出部をさらに備え、前記制御部は、前記検出したバンク角に基づいて、前記トラクション制御における駆動力の抑制量を変更してもよい。
【0019】
ある実施形態によれば、前記制御部は、前記検出したバンク角が大きいときは小さいときよりも、前記駆動力の抑制量を大きくしてもよい。
【0020】
本発明のある実施形態に係る鞍乗り型車両は、上記に記載のトラクション制御システムを備える。
【0021】
本発明のある実施形態に係るコンピュータプログラムは、鞍乗り型車両のトラクション制御をコンピュータに実行させるコンピュータプログラムであって、前記コンピュータプログラムは、前記鞍乗り型車両のヨーレートを検出するステップと、前記検出したヨーレートに応じたトラクション制御を行うステップとを前記コンピュータに実行させる。
【0022】
本発明のある実施形態に係るトラクション制御システムによれば、鞍乗り型車両のヨーレートを検出し、検出したヨーレートに基づいてトラクション制御を行う。これにより、カーブの曲線半径Rの大きさに応じた適切なトラクション制御を行うことができる。
【0023】
例えば、検出したヨーレートに基づいて、トラクション制御のオン/オフの閾値となるスリップ値を変更する。これにより、カーブの曲線半径Rの大きさに応じた適切なタイミングでトラクション制御を開始することができる。
【0024】
例えば、検出したヨーレートが大きいときは小さいときよりも、閾値となるスリップ値を小さくする。曲線半径Rの小さいカーブではスリップが発生した場合にスリップの上昇率が高くなり易い。このため、曲線半径Rの小さいカーブを走行するときは、基準スリップ値を小さくしてトラクション制御を実行しやすくすることにより、低速ギアの状態で車両を素早く起こすとともにアクセルも急速に開けた場合でも、スリップの上昇率が高くなることを抑制することができる。
【0025】
例えば、鞍乗り型車両の後輪のスリップ値を検出し、検出した後輪のスリップ値が、閾値となるスリップ値以上となった場合、トラクション制御を開始する。ヨーレートに基づいて設定した閾値となるスリップ値を用いることにより、カーブの曲線半径Rの大きさに応じた適切なタイミングでトラクション制御を開始することができる。
【0026】
例えば、検出したアクセル開度にさらに基づいて、トラクション制御のオン/オフの閾値となるスリップ値を変更する。これにより、後輪をスライドさせながら走行させたい等の乗員の要求を満たしたトラクション制御を行うことができる。
【0027】
例えば、検出したアクセル開度が大きいときは小さいときよりも、閾値となるスリップ値を大きくする。これにより、後輪をスライドさせながら走行させたい等の乗員の要求を満たしたトラクション制御を行うことができる。
【0028】
例えば、検出したヨーレートに基づいて、トラクション制御における駆動力の抑制量を変更する。これにより、カーブの曲線半径Rの大きさに応じた適切なトラクション制御を行うことができる。
【0029】
例えば、検出したヨーレートが大きいときは小さいときよりも、駆動力の抑制量を大きくする。曲線半径Rの小さいカーブではスリップが発生した場合にスリップの上昇率が高くなり易い。このため、曲線半径Rの小さいカーブを走行するときは、駆動力の抑制量を大きくすることで、実際のスリップ値が基準スリップ値に早く近づくようにすることができる。
【0030】
例えば、検出したヨーレートおよび後輪のスリップ値に基づいて、トラクション制御における駆動力の抑制量を変更する。これにより、カーブの曲線半径Rの大きさに応じた適切なトラクション制御を行うことができる。
【0031】
例えば、検出した後輪のスリップ値が大きいときは小さいときよりも、駆動力の抑制量を大きくする。これにより、実際のスリップ値が基準スリップ値に早く近づくようにすることができる。
【0032】
例えば、トラクション制御システムは、鞍乗り型車両のバンク角を検出するバンク角検出部をさらに備え、検出したバンク角に基づいて、トラクション制御における駆動力の抑制量を変更する。これにより、バンク角に応じた適切なトラクション制御を行うことができる。
【0033】
例えば、検出したバンク角が大きいときは小さいときよりも、駆動力の抑制量を大きくする。バンク角に応じてトラクション制御の開始タイミングを変化させることにより、スリップを抑制することはできる。しかし、バンク角が大きい場合と小さい場合とで制御ゲインが同じであると、バンク角が大きい場合は抑制量が足りなくなり、バンク角が小さい場合は抑制量が過剰になる場合がある。そのため、バンク角が大きい場合は制御ゲインを大きくし、バンク角が小さい場合は制御ゲインを小さくすることにより、走行状態に応じたトラクション制御を行うことができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、鞍乗り型車両のヨーレートを検出し、検出したヨーレートに基づいてトラクション制御を行う。これにより、カーブの曲線半径Rの大きさに応じた適切なトラクション制御を行うことができる。従って、カーブ走行時の乗員の操作負荷をより低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0036】
自動二輪車は様々な大きさのカーブを走行するが、カーブ走行時のバンク角の大きさは、カーブの曲線半径Rの大きさによって大差はなく、どのカーブも同程度のバンク角で旋回している。曲線半径Rの大きいカーブ(高速コーナー等)の後半では、中速ギアの状態で、バンク角が大きい段階からアクセルを穏やかに開けて加速していく。アクセルの開け方が穏やかであるため、スリップが発生した場合にスリップの上昇率が高くなり難い。
【0037】
一方、曲線半径Rの小さいカーブ(ヘアピンコーナー等の低速コーナー)の後半では、低速ギアの状態で、車両を素早く起こすとともにアクセルも急速に開けるため、スリップが発生した場合にスリップの上昇率が高くなり易い。このため、曲線半径Rの小さいカーブを走行するときには、バンク角が小さい状態でも、トラクション制御を開始する閾値となるスリップ値を小さくして、トラクション制御を開始しやすくすることが望ましい。
【0038】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係るトラクション制御システムおよびそれを備えた鞍乗り型車両を、自動二輪車を例に挙げて説明する。
【0039】
以下において説明する自動二輪車は、駆動源としてエンジンを備え、1つの後輪を駆動する。また、後輪の回転速度を低下させる制動装置としてブレーキを備える。自動二輪車の1つの前輪は従輪であり、駆動力は伝達されない。鞍乗り型車両は、少なくとも1つの駆動輪および少なくとも1つの前輪を備えている。駆動源はエンジンに限られず、モータ等の他の後輪を回転駆動させる回転動力装置であってもよい。また、以下の説明において、前後および左右とは自動二輪車の前進する方向を基準としている。
【0040】
図1は、本発明の実施形態に係る自動二輪車1の構成を概略的に示す側面図である。自動二輪車1はメインフレーム2を備えている。メインフレーム2の前端上部にはヘッドパイプ3が設けられている。ヘッドパイプ3にはステアリングシャフト4が挿通されている。ステアリングシャフト4の上端部にはハンドル5が連結されている。ハンドル5の右側には、ブレーキレバー(図示省略)が配置されている。
【0041】
ステアリングシャフト4の下端部には一対の伸縮可能なフロントフォーク7が連結されている。これより、ハンドル5の回転操作によってフロントフォーク7が揺動する。フロントフォーク7の下端部には前輪8が回転可能に取り付けられている。フロントフォーク7の伸縮により前輪8の振動が吸収される。また、フロントフォーク7の下端部には前輪ブレーキ10が取り付けられ、ブレーキレバーの操作により前輪8の回転を制動する。前輪8の回転速度を検出して出力する前輪車速センサ35もフロントフォーク7の下端部近傍に設けられている。前輪8の上部には、前輪カバー11がフロントフォーク7に固定されている。
【0042】
メインフレーム2の上部には、燃料タンク15とシート16とが前後に並んで保持されている。燃料タンク15の下方には、エンジン17と変速機18とがメインフレーム2に保持されている。エンジン17には、点火プラグ39、燃料噴射装置40およびスロットルアクチュエータ41が設けられている。また、電子制御スロットルバルブ(ETV)の位置を検出して出力するスロットルセンサ37、エンジンの回転速度を検出して出力する駆動源回転速度センサ42も設けられている。
【0043】
エンジン17と変速機18との間には、クラッチ13が配置されている。変速機18は、エンジン17で発生した動力を出力するドライブ軸19を備えている。ドライブ軸19にはドライブスプロケット20が連結されている。エンジン17で発生した動力のドライブ軸19への出力は、クラッチ13により接続または切断される。また、変速機18は、複数のギアを含み、複数の変速比から選択される1つで、エンジン17から伝達された回転の回転数を変化させてドライブ軸19を回転駆動する。
【0044】
メインフレーム2の下部後側にはスイングアーム21が揺動可能に支持されている。スイングアーム21の後端部には、ドリブンスプロケット22および後輪23が回転可能に支持されている。後輪23の回転速度を検出して出力する後輪車速センサ36がドリブンスプロケット22近傍に設けられている。後輪23には、ペダルブレーキ(図示省略)により作動する後輪ブレーキ26が設けられている。ドライブスプロケット20とドリブンスプロケット22との間には、チェーン24が懸架されている。エンジン17で発生した駆動力は、クラッチ13、変速機18、ドライブ軸19、ドライブスプロケット20、チェーン24およびドリブンスプロケット22を介して後輪23に伝達される。
【0045】
シート16の下部には、ブレーキモジュレータ38および自動二輪車1の各部の動作を制御するECU(Electronic Control Unit;電子制御ユニット)31が設けられている。ECU31は、マイクロコンピュータと、自動二輪車1の各部の動作を制御するための手順を規定したプログラムを格納しているメモリなどによって構成される。
【0046】
ブレーキモジュレータ38は、前輪ブレーキ10および後輪ブレーキ26へのブレーキ圧力、つまり制動力の量を検出するとともに、ブレーキレバーおよびブレーキペダルの操作に応じて前輪ブレーキ10および後輪ブレーキ26のブレーキ圧力を調整する。
【0047】
自動二輪車1は、ジャイロスコープ33および加速度センサ34をさらに備え、これらを用いて車両のバンク角を検出する。また、自動二輪車1は、ジャイロスコープ33および加速度センサ34として、例えば6軸慣性計測ユニットを備えていてもよい。
【0048】
図2は、トラクション制御を行うECU31の機能ブロック図を示している。本実施形態のトラクション制御では、後輪のスリップ量(後輪の回転速度−前輪の回転速度[km/h])を演算するとともに、駆動力抑制制御を開始する閾値となる基準スリップ量を演算し、それらに基づいてトラクション制御のオン/オフおよび駆動力の抑制量を決定する。
【0049】
ECU31は、スリップ演算部51と、基準スリップ演算部52と、バンク角検出部53と、基本目標開度演算部54と、抑制量演算部55を備える。これらの各構成要素の機能は、メモリに記憶されたプログラムをマイクロコンピュータが読み出し、実行することにより実現する。ECU31は、これらの構成以外に、自動二輪車1の各部を制御するための機能を有していてもよい。また、上記のECU31の構成要素の少なくとも一部は、ECU31とは別の制御ユニット等に含まれていてもよい。
【0050】
前輪車速センサ35は、前輪8の回転速度を検出してスリップ演算部51および基準スリップ演算部52へ出力する。後輪車速センサ36は、後輪23の回転速度を検出してスリップ演算部51へ出力する。
【0051】
加速度センサ34は、自動二輪車1に作用する加速度を検出し、バンク角検出部53へ出力する。ジャイロスコープ33は、自動二輪車1の角速度およびヨーレートを検出し、バンク角検出部53、基準スリップ演算部52および抑制量演算部55へ出力する。バンク角検出部53は、加速度および角速度に基づいて自動二輪車1のバンク角を検出する。加速度および/または角速度からバンク角を得る方法としては公知の方法を用いることができ、ここでは詳細な説明は省略する。また、バンク角を得ることができるのであれば、加速度および角速度以外のパラメータを用いて算出してもよい。バンク角検出部53は、検出したバンク角をスリップ演算部51、基準スリップ演算部52および抑制量演算部55へ出力する。
【0052】
アクセル開度センサ43は、乗員のアクセル操作に伴うアクセル開度を検出して、基本目標開度演算部54および基準スリップ演算部52へ出力する。駆動源回転速度センサ42は、エンジン17の回転速度を検出して、基本目標開度演算部54へ出力する。基本目標開度演算部54は、アクセル開度とエンジン17の回転速度とに基づいて、アクセル開度に対するスロットル開度の変化の特性であるアクセル−スロットル特性を設定する。基本目標開度演算部54が設定するアクセル−スロットル特性は、例えば、自動二輪車1が直進状態(直立状態)にあるときの特性である。
【0053】
スリップ演算部51は、前後輪の速度差およびバンク角に基づいて、現在の後輪23のスリップ量を演算する。基準スリップ演算部52は、前輪8の回転速度、バンク角、ヨーレート、アクセル開度に基づいて、トラクション制御のオン/オフの閾値となる基準スリップ値を演算する。例えば、バンク角が大きいときは、許容できるスリップ量が小さいため、閾値となるスリップ値を低く設定し、トラクション制御を実行しやすくする。バンク角が小さいときは、許容できるスリップ量が大きいため、閾値となるスリップ値を高く設定し、トラクション制御を実行しにくくする。また、例えば、ヨーレートが大きいときは、許容できるスリップ量が小さいため、基準スリップ値を低く設定し、トラクション制御を実行しやすくする。ヨーレートが小さいときは、許容できるスリップ量が大きいため、閾値となるスリップ値を高く設定し、トラクション制御を実行しにくくする。ヨーレートに基づいて基準スリップ値を変更する処理の詳細は後述する。
【0054】
抑制量演算部55は、現在の後輪23のスリップ値および閾値となる基準スリップ値とを比較し、現在の後輪23のスリップ値が基準スリップ値以上である場合は、トラクション制御を開始する。このとき、後輪23のスリップ値が大きいほど、駆動力の抑制量を大きくする。例えば、現在の後輪23のスリップ値が基準スリップ値を大きく超えている場合は、抑制量を大きくする。現在の後輪23のスリップ量が基準スリップ値未満である場合は、トラクション制御は行わない。また、例えば、ヨーレートが大きいときは、駆動力の抑制量を大きくし、ヨーレートが小さいときは、駆動力の抑制量を小さくする。ヨーレートに基づく抑制量を変更する処理の詳細は後述する。
【0055】
トラクション制御を行うとき、抑制量演算部55は、例えば、点火プラグ39の点火の遅角量を制御することにより、駆動力の抑制量を制御する。また、例えば、燃料噴射装置40の噴射量を制御することにより、駆動力の抑制量を制御する。また、例えば、後輪のブレーキを用いて駆動力の抑制量を制御してもよい。また、例えば、スロットルアクチュエータ41のスロットル開度を制御することにより、駆動力の抑制量を制御する。このとき、基本目標開度演算部54が出力したアクセル−スロットル特性を基準として、アクセル−スロットル特性を変化させ、スロットルアクチュエータ41の制御を行う。
【0056】
次に、ヨーレートに基づいて基準スリップ値および駆動力の抑制量を変更する処理の詳細を説明する。
【0057】
図3は、ヨーレートに基づいて基準スリップ値および駆動力の抑制量を変更する処理を示すフローチャートである。
図4から
図6は、ヨーレートに基づいて基準スリップ値を変更する処理を示す図である。
図7および
図8は、ヨーレートに基づいて駆動力を抑制する処理を示す図である。
【0058】
図4(a)は、カーブの曲線半径Rとヨーレートとの関係を示す図であり、
図4(b)は、ヨーレートに基づいて基準スリップ値を変更する処理を示す図である。
図5(a)は、曲線半径Rの小さいカーブを走行しているときのバンク角61、ヨーレート63、アクセル開度65を示す図であり、
図5(b)は、曲線半径Rの大きいカーブを走行しているときのバンク角61、ヨーレート63、アクセル開度65を示す図である。
図6(a)は、曲線半径Rの小さいカーブを走行しているときの基準スリップ値71、73および実際のスリップ値75を示す図であり、
図6(b)は、曲線半径Rの大きいカーブを走行しているときの基準スリップ値71、73および実際のスリップ値75を示す図である。
【0059】
ジャイロスコープ33は、自動二輪車1のヨーレートを検出し、基準スリップ演算部52に出力する(
図3のステップS11)。
図4および
図5に示すように、曲線半径Rの大きいカーブ(高速コーナー等)を旋回する自動二輪車1の向きは穏やかに変化するため、検出されるヨーレート63は小さくなる。一方、曲線半径Rの小さいカーブ(ヘアピンコーナー等の低速コーナー)を旋回する自動二輪車1の向きは速く変化するため、検出されるヨーレート63は大きくなる。すなわち、ヨーレートを検出することにより、自動二輪車1が走行するカーブの曲線半径Rを把握することができる。
【0060】
曲線半径Rの大きいカーブでは、中速ギアの状態で、バンク角61が大きい段階からアクセルを穏やかに開けて加速していく。アクセル開度65の変化が穏やかであるため、スリップが発生した場合にスリップの上昇率が高くなり難い。そのため、ヨーレート63が小さい場合は、基準スリップ演算部52は、ヨーレート以外の要素により決定した基準スリップ値73を設定する。一方、曲線半径Rの小さいカーブでは、低速ギアの状態で、車両を素早く起こすとともにアクセルも急速に開けるため、スリップが発生した場合にスリップの上昇率が高くなり易い。このため、曲線半径Rの小さいカーブを走行するときには、バンク角が小さい状態でも、トラクション制御を開始する閾値となるスリップ値を小さくして、トラクション制御を開始しやすくすることが望ましい。そのため、ヨーレート63が大きい場合、基準スリップ演算部52は、そのヨーレート63の大きさに応じて、基準スリップ値73よりも小さい値の基準スリップ値71を設定する(ステップS12、S13)。例えば、
図4および
図6に示すように、ヨーレート63が所定値77以上になった場合は基準スリップ値を徐々に下げ、カーブ走行の終了に伴って基準スリップ値を元の値に戻す。
【0061】
抑制量演算部55は、現在の後輪23の実際のスリップ値75と、設定された基準スリップ値とを比較し、実際のスリップ値75が基準スリップ値以上である場合は、トラクション制御を開始する(ステップS14、S15)。実際のスリップ値75が基準スリップ値未満である場合は、トラクション制御は開始せず、ヨーレートの検出および基準スリップ値の設定の処理を続ける。
【0062】
図5に示すように、カーブ走行時のバンク角61の大きさは、カーブの曲線半径Rの大きさによって大差はなく、どのカーブも同程度のバンク角61で旋回することになる。そのため、基準スリップ値を、単純にバンク角が大きいときは小さくし、バンク角が小さいときは大きくした場合は、上述したように曲線半径Rの小さいカーブではスリップが発生した場合にスリップの上昇率が高くなり易い。本実施形態では、曲線半径Rの小さいカーブを走行するときは、基準スリップ値を小さくしてトラクション制御を実行しやすくすることにより、低速ギアの状態で車両を素早く起こすとともにアクセルも急速に開けた場合でも、スリップの上昇率が高くなることを抑制することができる。
【0063】
なお、
図4(b)の例では、曲線半径Rの大きいカーブの走行時は基準スリップ値73を設定していたが、
図6(b)に示すように、値を小さくした基準スリップ値71を設定してもよい。この場合も、
図6(a)および
図6(b)に示すように、曲線半径Rが小さい時の基準スリップ値71を、曲線半径Rが大きい時の基準スリップ値71よりも小さく設定することにより、スリップの上昇率が高くなることを抑制することができる。
【0064】
次に、ヨーレートに基づいて制御ゲイン(駆動力の抑制量)を変更する処理を行う。
図7は、トラクション制御を行う期間T
1を示す図であり、
図8は、トラクション制御を行う期間T
1において、駆動力を抑制する処理を示す図である。
【0065】
上述した基準スリップ値は、トラクション制御の開始タイミングを決めている。制御タイミングを早くすれば、スリップの抑制を強くすることができる。また、乗員の技量によって、トラクション制御を始めて欲しいスリップの大きさは異なるため、基準スリップ値を調整することでそのような乗員の要望に対応することができる。制御ゲインは、基準スリップ値を超えたスリップに対して、どの程度の制御(駆動力の抑制)を行うかを決める。制御ゲインを大きくすれば、実際のスリップ値は基準スリップ値に収束しやすくなるし、制御ゲインを小さくすれば、トラクション制御の介入感が穏やかになる。基準スリップも制御ゲインも走行状態によって乗員からの要求は変化し、この要求に沿うためには、基準スリップだけでなく、制御ゲインに対してもバンク角および/またはヨーレートに基づいて補正を行うことが望ましい。
【0066】
トラクション制御は、
図7に示すような実際のスリップ値75が基準スリップ値71以上である期間T
1において行われる。
図8のドットで示す領域は、後輪23のグリップ力が高い領域を示している。乗員の技量等によりどの程度のスリップに抑えたいかは変わってくるが、効率的に加速することを考えると、グリップ力の高い領域で走行するのが望ましい。そのため、基準スリップ値71は、グリップ力が高い領域内に設定し、その領域内のスリップ値を維持するように駆動力を抑制することが望ましい。
【0067】
上述したように、曲線半径Rの大きいカーブでは、中速ギアの状態で、バンク角が大きい段階からアクセルを穏やかに開けて加速していくため、スリップが発生した場合にスリップの上昇率が高くなり難い。そのため、ヨーレートが小さい(所定値未満)場合は、抑制量演算部55は、ヨーレート以外の要素により決定した制御ゲイン81を設定する。一方、曲線半径Rの小さいカーブでは、低速ギアの状態で、車両を素早く起こすとともにアクセルも急速に開けるため、スリップが発生した場合にスリップの上昇率が高くなり易い。このため、ヨーレートが大きい(所定値以上)場合、抑制量演算部55は、制御ゲイン81を大きくし、実際のスリップ値75が早く基準スリップ値71に近づくようにする(ステップS16、S17)。
【0068】
なお、ここで、実際のスリップ値75が基準スリップ値71よりも大きいほど、制御ゲインを大きくすることにより、実際のスリップ値75が早く基準スリップ値71に近づくようにすることもできる。
【0069】
また、自動二輪車1のバンク角に応じて許容できるスリップ値が変化するため、バンク角に応じて制御ゲインを変更することが望ましい。バンク角に応じてトラクション制御の開始タイミングを変化させることにより、スリップを抑制することはできる。しかし、バンク角が大きい場合と小さい場合とで制御ゲインが同じであると、バンク角が大きい場合は抑制量が足りなくなり、バンク角が小さい場合は抑制量が過剰になる場合がある。そのため、バンク角が大きい場合は制御ゲインを大きくし、バンク角が小さい場合は制御ゲインを小さくすることにより、走行状態に応じたトラクション制御を行うことができる。
【0070】
次に、アクセル開度に応じて基準スリップ値を変更する処理を説明する。
図9は、アクセル開度に応じて基準スリップ値を変更する処理を示す図である。トラクション制御によってスリップを抑制することにより、一定量以上のスリップは発生しなくなる。しかし、乗員が後輪23をスライドさせながら走行させることを望む場合は、フィーリング不良となる。また、アクセルを開けても加速が遅い等のフィーリング不良も発生し得る。そのような乗員からの要求を満たしてフィーリング不良を解消するために、この例ではアクセル開度に応じて基準スリップ値を変更する。
【0071】
基準スリップ演算部52は、まず、基準スリップ値71を設定し、トラクション制御によってスリップを抑制するが、アクセル開度65が大きくなると、それに応じて基準スリップ値71よりも大きな値の基準スリップ値91を設定する。また、アクセル開度65が大きくなるにつれて、基準スリップ値91を大きくしていってもよい。このように、アクセル開度に応じて基準スリップ値を変更することで、後輪23をスライドさせながら走行させたい等の乗員の要求を満たしたトラクション制御を行うことができる。
【0072】
なお、上記実施形態の説明で示した制御動作は、ハードウエアによって実現されてもよいしソフトウエアによって実現されてもよいし、それらの組み合わせによって実現されてもよい。そのような動作を実行させるコンピュータプログラムは、例えばECU31に設けられたメモリに記憶され、ECU31(コンピュータ)によって動作が実行される。また、そのようなコンピュータプログラムは、それが記録された記録媒体(半導体メモリ、光ディスク等)から自動二輪車1へインストールしてもよいし、インターネット等の電気通信回線を介してダウンロードしてもよい。また、無線通信を介してそのようなコンピュータプログラムを自動二輪車1へインストールしてもよい。
【0073】
上述したトラクション制御では、スリップ量を用いたが、スリップ率(後輪の回転速度/前輪の回転速度−1×100[%])を用いてもよい。また、エンジンの駆動力の抑制には、燃料噴射装置40の噴射量を制御する他、後輪のブレーキを使用してもよい。