特許第5945597号(P5945597)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ボード オブ スーパーバイザーズ オブ ルイジアナ ステイト ユニバーシティ アンド アグリカルチュラル アンド メカニカル カレッジの特許一覧

<>
  • 特許5945597-癌細胞の標的浸透圧溶解 図000006
  • 特許5945597-癌細胞の標的浸透圧溶解 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5945597
(24)【登録日】2016年6月3日
(45)【発行日】2016年7月5日
(54)【発明の名称】癌細胞の標的浸透圧溶解
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20160621BHJP
   A61K 45/06 20060101ALI20160621BHJP
   A61K 31/7048 20060101ALI20160621BHJP
   A61K 31/704 20060101ALI20160621BHJP
   A61K 31/4375 20060101ALI20160621BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20160621BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20160621BHJP
   C12N 9/99 20060101ALN20160621BHJP
【FI】
   A61K45/00ZMD
   A61K45/06
   A61K31/7048
   A61K31/704
   A61K31/4375
   A61P35/00
   A61P43/00 105
   A61P43/00 111
   A61P43/00 121
   !C12N9/99
【請求項の数】10
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-521754(P2014-521754)
(86)(22)【出願日】2012年7月19日
(65)【公表番号】特表2014-520890(P2014-520890A)
(43)【公表日】2014年8月25日
(86)【国際出願番号】US2012047312
(87)【国際公開番号】WO2013012997
(87)【国際公開日】20130124
【審査請求日】2015年7月3日
(31)【優先権主張番号】61/510,258
(32)【優先日】2011年7月21日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504027130
【氏名又は名称】ボード オブ スーパーバイザーズ オブ ルイジアナ ステイト ユニバーシティ アンド アグリカルチュラル アンド メカニカル カレッジ
【氏名又は名称原語表記】BOARD OF SUPERVISORS OF LOUISIANA STATE UNIVERSITY AND AGRICULTURAL AND MECHANICAL COLLEGE
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】ポール、デニス ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】グールド、ハリー ジェイ.
【審査官】 鳥居 福代
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2009/0018088(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0105790(US,A1)
【文献】 特表2002−536415(JP,A)
【文献】 Current pharmaceutical design,2006年,Vol.12, No.28,p.3681-3695
【文献】 Biol. Pharm. Bull.,2008年,Vol.31, No.6,p.1131-1140
【文献】 The prostate,2010年,Vol.70, No.5,p.529-539
【文献】 World J. Clin. Oncol.,2011年 1月,Vol.2, No.1,p.8-27
【文献】 Bioelectromagnetics,1996年,Vol.17, No.5,p.358-363
【文献】 J. Natl. Cancer Inst.,1972年,Vol.49, No.6,1659-1665
【文献】 Electromagn. Biol. Med.,2006年,Vol.25, No.2,p.113-126
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 45/00
A61K 31/4375
A61K 31/704
A61K 31/7048
A61K 45/06
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象体の電圧依存性ナトリウムチャネルを過剰発現する癌性腫瘍の大きさを減少させるための薬剤であって、
前記薬剤は、ナトリウム−カリウム−アデノシントリホスファターゼの活性又は発現を減少させる薬剤化合物を含有し、
前記薬剤は、前記電圧依存性ナトリウムチャネルの活性を増加させるために腫瘍細胞を刺激する工程と組み合わせて用いられ、
前記薬剤は、前記腫瘍細胞を刺激する工程の前に投与され
前記電圧依存性ナトリウムチャネルの活性の増加、及び前記ナトリウム−カリウム−アデノシントリホスファターゼの活性又は発現の減少が、前記腫瘍細胞の溶解を引き起こすことを特徴とする、薬剤。
【請求項2】
前記対象体が哺乳動物である、請求項1に記載の薬剤
【請求項3】
記癌性腫瘍が、乳癌、前立腺癌、肺小細胞癌、非小細胞肺癌、リンパ腫、中皮腫、神経芽腫、神経膠腫、神経腫、肝癌、卵巣癌、膀胱癌、膵臓癌、甲状腺癌、脾臓癌、胃癌、子宮頚癌、皮膚癌、精巣癌、腎癌、口腔癌、及び子宮頚癌からなる群から選択される、請求項1又は2に記載の薬剤
【請求項4】
前記癌性腫瘍が乳癌、前立腺癌、結腸癌、肺小細胞癌、及び非小細胞肺癌からなる群から選択される、請求項1又は2に記載の薬剤
【請求項5】
前記ナトリウム−カリウム−アデノシントリホスファターゼの活性又は発現を減少させる薬剤化合物が、ジゴキシン、ジギトキシン、ジギタリス、ウアバイン、オレアンドリン、ジヒドロウアバイン、ウアバイン八水和物、ウアバゲニン、アセチルジギトキシン、アセチルジゴキシン、ラナトシドC、デスラノシド、メチルジゴキシン、ギトホルマート、オレアンドリゲニン、ブホトキシン、ブホタリン、マリノブファゲニン、パリトキシン;オリゴマイシン、ルタマイシン、ルタマイシンB、ストロファンチン、k−β−ストロファンチン、ストロファンチジン、k−ストロファントシド、シマリン、エリシモシド(カルデノリド)、ヘルベチコシド、ペルボシド、視床下部ナトリウム−カリウム−アデノシントリホスファターゼ阻害因子(HIF)、HIFのアグリコン、アレノブファギン、シノブファギン、マリノブファギン、プロスシラリジン、シリロシド、及びダイグレモンチアニンからなる群から選択される1つ又は複数の薬剤化合物である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の薬剤
【請求項6】
前記ナトリウム−カリウム−アデノシントリホスファターゼの活性又は発現を減少させる薬剤化合物がウアバイン又はジギトキシンである、請求項に記載の薬剤
【請求項7】
前記腫瘍細胞を刺激する工程が、前記電圧依存性ナトリウムチャネルの活性を刺激する薬剤(以降「刺激薬剤」という)を投与することからなる、請求項1〜6のいずれか一項に記載の薬剤
【請求項8】
前記刺激薬剤が、ベラトリジン、ベラセビン、アンチラトキシン(ATX)、ATX II、バトラコトキシン、アコニチン、グラヤノトックス、グラヤノトキシンIIIヘミ(酢酸エチル)、アンチラトキシン、ナイジェリシン、グラミシジン、α−ポンピリドトキシン、β−ポンピリドトキシン、ホイアミドA、ブレベトキシン(PbTx−2)、シグアトキシン、サソリ神経毒、シペルメトリン、アルファメトリン、及びパリトキシンからなる群から選択される1つ又は複数の薬剤である、請求項に記載の薬剤
【請求項9】
前記腫瘍細胞を刺激する工程が、前記腫瘍細胞電流、超音波、または磁場を適用することからなる、請求項1〜6のいずれか一項に記載の薬剤
【請求項10】
対象体の電圧依存性ナトリウムチャネルを過剰発現する癌性腫瘍の大きさを減少させるための薬剤の製造における、ナトリウム−カリウム−アデノシントリホスファターゼの活性又は発現を減少させる薬剤化合物の使用であって、
前記薬剤は、前記電圧依存性ナトリウムチャネルの活性を増加させるために腫瘍細胞を刺激する工程と組み合わせて用いられ、
前記薬剤は、前記腫瘍細胞を刺激する工程の前に投与され、
前記電圧依存性ナトリウムチャネルの活性の増加、及び前記ナトリウム−カリウム−アデノシントリホスファターゼの活性又は発現の減少が、前記腫瘍細胞の溶解を引き起こすことを特徴とする、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電圧依存性ナトリウムチャネル(VGSC又は「ナトリウムチャネル」)を過剰発現する癌細胞を標的とし、ナトリウム−カリウム−アデノシントリホスファターゼ(Na−K−ATPase又は「ナトリウムポンプ」)を最初に遮断し、その後VGSCを刺激してナトリウム及び水を癌細胞に進入させることにより、それら癌細胞の浸透圧溶解を引き起こす方法に関する。
【背景技術】
【0002】
転移癌の化学療法及び放射線療法は、正常組織及び異常組織の両方に毒性であるため、臨床医は、患者を死亡させる前に新生物疾患を死滅させようとする困難な課題;治療と救命とのバランスに直面する。従来の癌治療には全て、治療期間をはるかに超えて続く場合がある毒性、病的状態の増大、及び生活の質の低下が伴う。現在の抗新生物治療の主な関心は、癌細胞の標的治療であり、例えば、癌細胞により発現又は過剰発現されるが、正常組織ではされないタンパク質を標的とすることである。
【0003】
多くの浸潤癌細胞タイプは、電圧依存性ナトリウムチャネル(VGSC;又は「ナトリウムチャネル」)を、正常細胞の1000倍を超えて過剰発現する(1、2、7)。VGSCを過剰発現する癌細胞は、高度浸潤性乳癌(4、10、13、27)、前立腺癌(2、6、7、8、18、19、20、21、22、26)、肺小細胞癌(3、23)、非小細胞肺癌(28)、リンパ腫(9)、神経芽腫(25)、及び子宮頚癌(5)を含むがこれらに限定されない上皮癌である。上皮癌には分類されない中皮腫も、VGSCを過剰発現することが知られている(12)。これらのナトリウムチャネルが活性化されると、Naは、細胞内へと誘導される。これらの癌では、転移の程度は、VGSCの発現増加と直接的に関連している(1、7;特許文献1も参照されたい)。生理学的に、これら癌細胞は、ニューロン及び心筋細胞等の正常興奮性細胞と、ある細胞特性を共有する(例えば、活動電位の伝導)。特許文献1には、乳癌を含む癌の治療として、VGSCの阻害剤の使用が開示されている。
【0004】
米国では、毎年160万人が上皮細胞癌を罹患し、そのうち40%が、「高度浸潤性」であり、VGSCを過剰発現するとみなされている(10)。悪性/転移性癌と診察された患者は、現在、外科手術、化学療法、及び/又は放射線で治療されるが、それらは大がかりで外観を損なうことが多い。米国では、毎年400,000人を超える人々が上皮細胞癌で死亡しており、全世界では、その10倍の人々が死亡していると推定されている。加えて、浸潤癌と診察された別の1,200,000人の米国患者が、従来の手術、化学療法、及び/又は放射線での治療に成功している。乳房細胞癌は、高度浸潤癌の一例である。米国では、毎年40,000人を超える人々が乳房細胞癌で死亡しており、全世界では、465,000人が死亡している。これら死亡の90%超は、原発腫瘍の転移による。加えて、浸潤性乳癌と診察された別の170,000人の米国患者が、従来の乳房切除、乳腺腫瘍摘出、化学療法、及び/又は放射線での治療に成功している。毎年207,000人が乳癌を罹患し、そのうち40%が、「高浸潤性」であり、VGSCを過剰発現すると考えられている(10)。
【0005】
「電圧依存性ナトリウムチャネル」と呼ばれるナトリウムチャネルのファミリーは、細胞膜内外の電位勾配のわずかな変化(>40mV)に感受性であるため、そのように命名されている。また、それらは、多くの形態の刺激:膜の機械的異常、超音波(29)、磁場(29)、及び幾つかの薬剤により活性化されることが示されている。VGSCファミリーには9つのメンバーが存在し、アイソフォームの多くの変異体が存在する。それらは、Na1.Xと命名されており、Xは、1〜9である。サブタイプは、文字a、b等で指定される。
【0006】
Na−K−ATPaseは、動物細胞中の遍在性膜貫通型タンパク質であり、より多くの荷電イオン、主にナトリウムイオンが、細胞内よりも細胞外に位置している、細胞膜内外のイオン不均衡を維持するように機能する。これにより、恒常性のバランスの取れた電気化学的勾配が生じる。イオン不均衡が電圧変化の存在下で変化すると、活動電位が発生し、浸透圧を一時的に細胞内高浸透圧状態へと変化させる。ナトリウム不均衡の回復は、Na−K−ATPaseにより行われる必須機能である。Na−K−ATPaseが適切に機能しないと、浸透圧バランスを回復するために、ナトリウムに続いて水が細胞に進入し、それにより細胞容積が増加する。正常細胞では、この細胞容積の変化は、膜に伸展性があるため許容される。Na−K−ATPase機能を遮断すると、細胞興奮性の喪失及び細胞容積の増加に結び付く場合がある。強心配糖体を含む、多くの阻害剤が知られている。アイソザイムは、強心配糖体薬の各々に対する感受性が異なる。30個を超える薬剤が、ナトリウムポンプ活性を阻害することが示されている。それらには、ウアバイン、ジギタリス、及びその活性成分であるジゴキシン及びジギトキシンが含まれる。
【0007】
特許文献2には、細胞アポトーシスを引き起こすことにより膵臓癌を治療するための、単独で又は他の標準的癌治療剤と併用した強心配糖体(例えば、ウアバイン及びプロスシラリジン)の使用が開示されている。
【0008】
特許文献3には、癌治療として細胞アポトーシスを誘導するための、ジゴキシン及びウアバインを含む強心配糖体の使用が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第7,393,657号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2007/0105790号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2009/0018088号明細書
【発明の概要】
【0010】
本発明者らは、過剰なVGSCを発現する癌細胞にて、Na−K−ATPase(ナトリウムポンプ)を遮断し、その後VGSCを活性化させると、細胞は溶解し、死滅することを発見した。VGSCが活性化されると、Naが細胞内に誘導されるが、ナトリウムポンプが阻害されているため、Naを細胞外に汲み出すことができない。Na勾配に基づいて水が細胞内に流れ込むため、細胞に流れ込む水は、膜伸展性を超過すると、Naチャネルを過剰発現する(つまり、より多くのNaが細胞に入ることが可能になる)細胞を膨潤及び破裂させる。VGSCを過剰発現しない正常細胞に進入するNaはより少量であるため、正常組織は膨潤又は溶解しない。本発明者らは、この2段階治療を「標的浸透圧溶解」(TOL;Targeted Osmotic Lysis)と呼び、この治療が、高度浸潤癌細胞の治療に有効であることを示した。加えて、本発明者らは、幾つかの高度浸潤癌細胞が、Na−K−ATPase(ナトリウムポンプ)を過剰発現し、過剰発現したVGSCによるNa流入の増加を補償することを示した(未発表;データ非表示)。例えば、MCF−7乳癌細胞は、Na−K−ATPaseを8〜10倍過剰発現するが、MDA−MB−231乳癌細胞は、Na−K−ATPaseを2倍しか過剰発現しない。
【0011】
要約すると、本発明者らは、浸潤癌のin vitro及びin vivoモデルの両方で、TOLの効力を実証した。本発明者らは、TOLの誘導には、癌細胞の電気的刺激及び薬学的刺激の両方が有用であることを示した。本発明者らは、TOLが、4つの異なる組織タイプに由来する7つの細胞株に有効であることを実証した。正常組織と比較してナトリウムチャネル発現が100倍増加しているだけで、TOL治療に対する感受性を付与するのに十分であるが、溶解するまでの時間は、ナトリウムチャネル発現の度合いに反比例する。本発明者らは、比較的高濃度のナトリウムチャネルを正常に発現する正常な組織でさえ、TOLが、これらの組織に影響しないことをin vivoで実証した。最終的に、本発明者らは、ナトリウムポンプを遮断する任意の薬剤又は方法を使用して、TOLを誘導することができることを実証した。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】対照、並びにウアバイン(ナトリウムポンプ遮断剤)のみによる処理、ベラトリジン(ナトリウムチャネル刺激因子)のみによる処理、及びウアバイン及びベラトリジンの組み合わせによる処理(標的浸透圧溶解)の、培養乳癌細胞の細胞生存率に対する効果を示す図である。
図2】0日目に、生理食塩水及び無電気刺激(生理食塩水−無刺激)、生理食塩水及び電気刺激(生理食塩水−刺激)、ウアバイン及び無刺激(ウアバイン−無刺激)、又はウアバイン及び電気刺激(ウアバイン−刺激)で単回処理した後のマウス乳癌異種移植片の経時的な腫瘍容積の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者らは、Na−K−ATPaseを遮断する薬剤と、例えば電気刺激、磁気的刺激、超音波刺激(29)、又は薬学的刺激によるその後のVGSC活性化との併用療法による、VGSCを過剰発現する腫瘍細胞の標的浸透圧溶解(TOL)を開発した。VGSCの活性化により、非癌細胞よりもはるかに多量のナトリウムが癌細胞内に誘導される。このナトリウム勾配に続いて水が癌細胞内に入り、膨潤及び溶解を引き起こす。非癌性細胞は、VGSCを過剰発現しないため、正常細胞に進入するナトリウム及び水はより少量であり、細胞は溶解しないであろう。
【0014】
この方法は、VGSCを過剰発現する全ての癌細胞に適用可能である。VGSCを過剰発現する癌は、文献により、又は当技術分野で公知の方法(例えば、米国特許出願公開第2009/0074665号)で癌細胞のVGSCをアッセイすることにより、特定することができる。例えば、現在までアッセイされた上皮癌細胞は全て、VGSCを過剰発現することが示されており、そうした上皮癌細胞には、高浸潤性乳癌(4、10、13、27)、前立腺癌(2、6、7、8、18、19、20、21、22、26)、肺小細胞癌(3、23)、非小細胞肺癌(28)、リンパ腫(9)、神経芽腫(25)、及び子宮頚癌(5)が含まれるがこれらに限定されない。上皮癌には分類されない中皮腫も、VGSCを過剰発現することが知られている(12)。現在まで研究された上皮癌は全て、VGSCを過剰発現することが示されているため、神経膠腫、神経腫、肝癌、卵巣癌、膀胱癌、膵臓癌、甲状腺癌、脾臓癌、胃癌、子宮頚癌、皮膚癌、精巣癌、腎癌、及び口腔癌を含むが、それらに限定されない、上皮細胞癌と分類される他の癌は、VGSCを過剰発現することが予想される。
【0015】
Na−K−ATPase遮断剤は、直接投与により又は静脈内投与により単一腫瘍に、静脈内投与又は腔内投与により単一器官又は領域に、又は静脈内投与、皮下投与、筋肉内投与、若しくは経口投与により全身に送達することができる。ナトリウムチャネルの電気的又は薬学的刺激は、単一腫瘍、単一器官、身体の区画、又は全身に送達することができる。理論的には、全てのタイプ及びサブタイプのVGSCファミリーは、等しくこの技術に感受性であるはずである。現在までに試験された細胞株は、Na1.5、Na1.5a、及びNa1.7を過剰発現し、それらは全て標的溶解をもたらした。
【0016】
Na−K−ATPaseを遮断するために使用することができる医薬化合物の例は多数存在する。例えば、米国特許出願公開第2007/0105790号及び第2009/0018088号を参照されたい。そのような化合物には、以下のものが含まれるがこれらに限定されない:ウアバイン(g−ストロファンチン);ジヒドロウアバイン;ウアバイン八水和物;ウアバゲニン;ジゴキシン;ジギトキシン;ジギタリス;アセチルジギトキシン;アセチルジゴキシン;ラナトシドC;デスラノシド;メチルジゴキシン;ギトホルマート;オレアンデリン(oleanderin);オレアンドリゲニン;ブホトキシン;ブホタリン;マリノブファゲニン(3,5−ジヒドロキシ−14,15−エポキシブホジエノリド(bufodienolide);パリトキシン;オリゴマイシンA、B、C、E、F、及びG;ルタマイシン(オリゴマイシンD);ルタマイシンB;ストロファンチン(g−ストロファンチン、アコカンテリン);k−β−ストロファンチン;ストロファンチジン;k−ストロファントシド;シマリン;エリシモシド(カルデノリド);ヘルベチコシド;ペルボシド;視床下部Na.,K.−ATPase阻害因子(HIF);HIFのアグリコン;アレノブファギン;シノブファギン;マリノブファギン;プロスシラリジン;シリロシド;ダイグレモンチアニン;及びNa−K−ATPaseの他の全ての阻害剤、各々の組み合わせ及び誘導体。
【0017】
腫瘍組織を電気的に刺激する方法は、当技術分野で周知である(例えば、米国特許第7,742,811号を参照)。幾つかの例には、以下のものが含まれるがこれらに限定されない:直流又は交流(DC又はAC)の使用;腫瘍に対する電極の直接的適用の使用;複数転移を有する器官に対する電極の直接的適用の使用;深部筋肉刺激装置を使用した経皮的電気刺激;経皮的電気神経刺激(「TENS」)ユニット又は類似のもの;並びに40mV以上及び好ましくは約1Vの電圧での全身電気刺激。加えて、神経組織及びナトリウムポンプ(29)を刺激するために、磁場及び超音波が使用されている。
【0018】
VGSCの活性を増加させることが知られている医薬化合物の例は、当技術分野で公知である。例には、以下のものが含まれるがこれらに限定されない:ベラトリジン;ベラセビン;アンチラトキシン(ATX);ATX II;バトラコトキシン;アコニチン;グラヤノトックス(grayanotox);グラヤノトキシンIIIヘミ(酢酸エチル);アンチラトキシン;ナイジェリシン;グラミシジン;α−ポンピリドトキシン;β−ポンピリドトキシン;ホイアミドA;ブレベトキシン(PbTx−2);シグアトキシン;サソリ神経毒;BDF9148;DPI201−106;TC0101029(SCNM1);シペルメトリン;アルファメトリン;パリトキシン;並びに上記の各々の全ての組み合わせ及び自明な誘導体。
【0019】
本発明者らは、標的浸透圧溶解技術が、(1)高度浸潤性腫瘍を有する患者の生存率を増加させ;(2)乳癌患者の定型的乳房切除及び乳腺腫瘍摘出の数を減らし;(3)治療により病的状態の程度を低減し;(4)治療からの回復時間を低減し;及び(5)VGSCを過剰発現する全ての癌に適用可能であると予想する。
【0020】
本発明者らは、下述のin vivo TOL試験にて、乳癌マウスモデルでは生存率が30〜40%であったこと示しており、このin vitro実験により、パラメータが最適化されれば、成功率はより高くなることが示唆されている。in vivo TOLの制限要因は、ナトリウムポンプ阻害剤の腫瘍細胞への送達効率である。初期の試験的研究では、高度に血管新生され、したがって阻害剤の送達がより効率的であった腫瘍は、TOL処理後に溶解された。対照的に、ほとんど血管新生されていない腫瘍は、依然として生存可能であった。薬剤送達が更に向上すれば、VGSCを過剰発現するほぼ全て癌(例えば、全乳癌の40%)が、TOLで治療可能になると考えられ、乳癌の場合には、乳房切除及び乳腺腫瘍摘出は、最大40%低減されるはずである。これは、再建手術の必要性も低減するであろう。
【0021】
標的浸透圧溶解は、従来の癌治療よりも多くの利点を有することが予想される。化学療法は、典型的には、癌性組織だけでなく健康組織にも損傷を引き起こし、回復の長期化及び病的状態の慢性化に結び付く。それと比較して、TOLは、VGSCを過剰発現する細胞のみを破壊することになる。したがって、より選択的な疾患組織の損傷が予想される。これは、治療の長期的有害効果がより少なくなることに寄与するであろう。放射線療法は、典型的には、癌性組織周囲の健康組織を死滅させることになる。これは、化学療法と同様に、回復の長期化及び病的状態の慢性化に結び付くことが多い。TOLは、VGSCを過剰発現する細胞に対して選択性であるために、腫瘍周辺の損傷がほとんどない。
【0022】
化学療法及び放射線療法(「RT」)の有害効果はよく知られており、治療遵守が問題であることが多い。本発明者らは、癌のTOLは、最適化されれば、わずか1回又は2回の治療しか必要とせず、各治療は数時間しか続かず、各治療からの回復は2〜5週間であると考える。治療の有害効果が、従来療法と比較して最小限であると予想されるため、治療遵守は、従来療法よりも向上すると予想される。
【0023】
化学療法及び放射線療法(RT)に関して現在問題となっている別の問題は、これら治療に起因する長期的又は恒久的損傷である。化学療法は、壊死性及び脱髄性神経障害、記憶の変化、性的及び受精能変化を生じさせることが知られている。RTの長期的な有害効果は、治療に応じて大きく異なるが、脳全体を照射する場合、種々の神経障害及び慢性的疼痛、運動障害、及び認識障害を生じさせることが知られている。TOLでは、慢性的有害効果はより少ないことが予想され、生活の質は、従来治療と比較して、ほとんどの患者で向上するであろう。
【0024】
化学療法及び/又は放射線療法からの回復は、典型的には数か月間かかる。TOL治療からの回復には、死細胞の吸収が伴うことになり、発熱及び他のインフルエンザ様症状を呈するであろう。発熱及び他の症状の程度は、腫瘍の転移及び大きさの程度に応じて様々であろう。発熱及び関節痛は、一般的な鎮痛解熱治療で緩和することができる(アセトアミノフェン、NSAID等)。したがって、治療直後の生活の質は、従来治療の場合よりも高くなると考えられる。
【0025】
TOLの2つの考え得る有害反応が生じる場合がある。ラットでは、後根神経節におけるNa1.7 VGSCの過剰発現は、炎症に関連している(15、16、17)。したがって、関節リウマチ、クローン病、又は感染症等の主要な炎症疾患を有する患者では、TOLは、潜在的に末梢神経系に対する障害を生じさせる場合がある。有害反応の第2の可能性は、細胞が溶解すると共に放出されるタンパク質に対する自己免疫反応の発生であることが考えられる。癌細胞が溶解すると共に、T細胞により患者由来でないと認識される異常なタンパク質が放出される可能性がある。この副作用は、細胞の非特異的溶解を引き起こす化学療法剤及び放射線治療で知られている。
【0026】
この技術の1つの実施形態は、非腫瘍細胞で見られるものよりもVGSCの発現が増加している転移性腫瘍細胞を溶解する方法であって、以下の2つのステップを含む方法である:ステップ1は、Na−K−ATPaseの活性を阻害する化合物を腫瘍細胞に投与することであり、ステップ2は、VGSCの活性を増加させる化合物を腫瘍細胞に投与することである。これらの2ステップの組み合わせは、腫瘍細胞に過剰なナトリウムを取り込ませることになり、これにより、次いで細胞に水を流入させることになる。腫瘍細胞は、過剰な水により膨潤し、最終的には溶解することになる。
【0027】
この技術の第2の実施形態は、非腫瘍細胞で見られる活性よりも、VGSCの発現が増加している転移性腫瘍細胞を溶解する方法であって、以下のステップを含む方法である:ステップ1は、Na−K−ATPaseの活性を阻害する化合物を腫瘍細胞に投与することであり、ステップ2は、VGSCの活性を増加させる電気刺激を腫瘍細胞に与えることである。ここでも、上記と同様に、腫瘍細胞は、過剰なナトリウムを取り込んで、細胞に水を流入させることになり、膨潤し、最終的には溶解することになる。
【0028】
この技術の第3の実施形態は、非腫瘍細胞で見られる活性よりも、VGSCの発現が増加している転移性腫瘍細胞を溶解する方法であって、以下のステップを含む方法である:ステップ1は、Na−K−ATPaseの活性を阻害する化合物を腫瘍細胞に投与することであり、ステップ2は、VGSCの活性を増加させる磁気刺激を腫瘍細胞に与えることである。
【0029】
この技術の第4の実施形態は、非腫瘍細胞で見られる活性よりも、VGSCの発現が増加している転移性腫瘍細胞を溶解する方法であって、以下のステップを含む方法である:ステップ1は、Na−K−ATPaseの活性を阻害する化合物を腫瘍細胞に投与することであり、ステップ2は、VGSCの活性を増加させる超音波刺激を腫瘍細胞に与えることである。
【0030】
第5の実施形態は、上記実施形態により溶解される可能性のある転移性腫瘍細胞を特定するための方法であって、VGSCの発現度合いについて腫瘍細胞をアッセイし、その発現度合いを正常な非腫瘍細胞の発現度合いと比較することを含み、上記の方法を使用して溶解される可能性のある転移性腫瘍細胞は、VGSCをより高度に発現する腫瘍細胞であるとする方法である。
【0031】
実施例1
(乳癌細胞の標的浸透圧溶解)
TOLの有効性を、乳癌のin vitroモデルを使用して試験した。MDA−MB−231乳癌細胞を、96ウェルプレートで完全培養密度まで培養した。これらの乳癌細胞は、VGSCを1400倍過剰発現することが知られている。これらの細胞を、ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)、又はDMEMに溶解させた強心配糖体薬剤(公知のナトリウムポンプ阻害剤)ウアバイン(10pM〜100nM;Sigma Chemical Co.社、ミズーリ州セントルイス)若しくはジギトキシン(100pM〜1μM;Sigma社)と30分間接触させた。ナトリウムポンプ阻害剤に接触させた後、各ウェルの底部に接触するように配置された陽極及び陰極、又はプレート底部のプリント回路を使用して、細胞に電流(0V、100mV、又は1V DC)を流した。電流は、Grass社製SD9型刺激装置(Grass Instruments社、マサチューセッツ州クィンシー)を使用し、白金線電極を介して発生させた。細胞を、1nM以上のウアバイン又は10nM以上のジゴキシンと接触させ、100mV又は1Vの電流と接触させた24ウェルのうちの6ウェルでは、全ての癌細胞が死滅した(データ非表示)。
【0032】
実施例2
(癌のin vivoモデルを使用した標的浸透圧溶解)
癌のin vivoモデルとして、MDA−MB−231細胞をマトリゲルに懸濁し、5匹のヌードマウス(J−NU)の背中に皮下注射した。各マウスには、0.75〜1.2cmの腫瘍が3〜5週間で発生した。その後、10mg/kgのウアバイン又は生理食塩水をマウスに皮下注射した。30分後、4%イソフルランでマウスに麻酔をかけ、皮膚の小さな切開部から腫瘍を露出させた。陽極及び陰極を各腫瘍に挿入し、120回の連続1V DCパルス(10ミリ秒、2Hzで1分間)を、上記で説明されているように陽極及び陰極を介して送達した。合計11個の腫瘍を試験した。3個の腫瘍は、ウアバインで処理され、電気的に刺激されたマウス(O−ES実験)由来であった。残りのうち、2個は、生理食塩水で処理され、電気的に刺激されなかったマウス(S−NS対照)に由来し、3個は、ウアバインで処理されたが、電気的に刺激されなかったマウス(O−NS対照)に由来し、3個は、生理食塩水で処理され、電気的に刺激されたマウス(S−ES対照)に由来した。電気刺激は、15分後及び30分後に繰り返した。1日後、マウスを、Na−ペントバルビタールの過量投与で屠殺し、4%緩衝パラホルムアルデヒドで灌流し、腫瘍を摘出した。腫瘍を5μmに切片化し、ヘマトキシリン及びエオジンで染色した。実験群(O−ES群)の3個の腫瘍のうち、1匹のマウスに由来する腫瘍は、処理後に80%の細胞死を示した。しかしながら、同じマウスの腫瘍の底部から採取した正常筋肉は、細胞死の徴候を示さなかった。O−ES群の他の2匹のマウスは、高度には血管新生されていない腫瘍を有していたため、ウアバインは効果的に腫瘍細胞に分布することができなかった。結果的に、溶解は、これら2匹のマウスの腫瘍では見られなかった。他の3つの処理群の腫瘍は、いずれも細胞溶解の徴候を一切示さなかった。
【0033】
実施例3
(複数細胞株の癌のin vitro標的浸透圧溶解)
最初に、MDA−MB−231(ATCC、バージニア州マナッサス、カタログ番号 HTB−26)乳癌細胞を、完全培養密度まで96ウェルプレートで培養した。これら細胞は、VGSCを100倍過剰発現する。これらの細胞を、ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM;Invitrogen社、ニューヨーク州グランドアイランド)、又はDMEMに溶解させた強心配糖体薬剤ウアバイン(10pM〜100nM)若しくはジゴキシン(100pM〜1μM)と30分間接触させた。実施例1と同様に、各ウェルの底部に接触するように配置された陽極及び陰極により、細胞に電流(0V、100mV、又は1V DC)を流した。1nM以上のウアバイン又は10nM以上のジゴキシンと接触させた24ウェルのうちの6ウェルでは、全ての癌細胞が死滅した。これらの6つのウェルのうち、1つのウェルは10nMウアバイン及び1V DCに接触させたものであり、1つは100nMウアバイン及び100mV DCで処理したものであり、1つは100nMウアバイン及び1V DCで処理したものであり、2つは100nMジゴキシン及び1V DCで処理したものであり、1つは1μMジゴキシン及び100mV DCで処理したものであった。
【0034】
また、本発明者らは、現在FDAにより臨床での使用が認可されている2つの強心配糖体薬剤ウアバイン及びジゴキシンを、複数の癌株のin vitro溶解に使用した。TOLが、VGSCを過剰発現するあらゆる癌に有効であり、任意のナトリウムポンプ遮断剤を使用することができることを実証するために、本発明者らは、最も一般的な致死性癌の4つを代表する組織タイプに由来する7つの癌細胞株を培養した。細胞株は、以下の通りであった:MDA−MB−231(乳癌);MCF−7(乳癌;ATCC# HTB−22);LNCaP(前立腺癌;ATCC# CRL−1740);DU145(前立腺癌;ATCC# HTB−81);MCA−38(結腸癌;オーガスト・オチョア(Augusto Ochoa)博士提供);A549(非小細胞肺癌;ATCC# CCL−185);及び3LL(非小細胞肺癌;オーガスト・オチョア博士提供、ルイジアナ州立大学、ルイジアナ州ニューオーリンズ)。細胞を、35mm径培養皿中の、4mM L−グルタミン、1mMピルビン酸ナトリウム、及び10μMインスリンで補完されたダルベッコ変法イーグル培地(DMEM、Gibco社)に18〜24時間播種した。その後、細胞を、100nMウアバイン、1μMジゴキシン、又は無薬剤中で15〜45分間インキュベートした。Grass社製SD9型刺激装置(Grass Instruments社、マサチューセッツ州クィンシー)を使用し、David Kopf Instrument社製マイクロマニピュレータ(カリフォルニア州ターザナ)で適所に保持された白金線電極を介して、1秒当たり200パルスの2V DC電流を個々の細胞に流し、溶解するまでの時間を測定した。代表的な実験の映像記録を、ライカ社製DM IL顕微鏡に取り付けられたキヤノン社製Vixia HFM400カメラをデジタルで使用して録画した。映像は請求に応じて入手可能である。各細胞種及び各薬剤についての溶解までの平均時間(±SEM)は、表1に示されており、単位は秒で表されている。表1に示されるように、対照はいずれも、5分間の時間制限内に溶解しなかった。癌細胞は全て溶解し、溶解するまでの時間は、VGSCの発現が最大であることが知られている細胞の場合に、より迅速であった。
【0035】
【表1】
実施例4
(VGSCの薬学的刺激を使用した乳癌のin vitro TOL)
培養したMDA−MB−231及びMCF−7乳癌細胞の生存率に対する、ウアバイン(ナトリウムポンプ阻害剤)及びベラトリジン(ナトリウムポンプ刺激因子)の組み合わせの効果を評価した。前者の細胞は、VGSCを1000倍超過剰発現するのに対し、後者の細胞は、VGSCを100倍過剰発現する(24)。MDA−MB−231細胞はDMEMで培養し、MCF−7細胞はDMEM+10μMインスリンで培養した。遠心した後、両細胞株をDMEM+10μMインスリンに再懸濁して、Na−K−ATPaseが正常に機能することを確実にし、100μl容積のおよそ5000個の細胞を、96ウェルプレートの各ウェルに添加した。18時間後、培地を吸引し、細胞を、100μlのDMEM+10μMインスリン(「培地」)のみ、培地+100nMウアバイン、培地+30μMベラトリジン、又は培地+100nMウアバイン+30μMベラトリジンで処理した。1時間後、10μlのアラマーブルーを各ウェルに添加し、この添加の4時間後に細胞生存率を決定した。決定は全て4重重複で取得し、実験は3回繰り返した。結果は、図1に示されている。MDA−MB−231細胞では、ウアバイン単独は、培地単独対照と比較して、細胞生存率の減少を生じさせなかった。ベラトリジン単独は、培地単独処理細胞と比較して、MDL−MB−231細胞生存率を15%低減させた(図1)。この初期実験では、ベラトリジン及びウアバインの併用は、細胞生存率を30%低減させた。MCF−7細胞では、この処理はいずれも細胞生存率に効果を及ぼさなかった(データ非表示)。画像の録画のため、この実験は、上記のように、35mmペトリ皿で繰り返した。
【0036】
実施例5
(乳癌異種移植片のin vivo標的浸透圧溶解)
癌のin vivoモデルとして、マトリゲルに懸濁した4百万個のMDA−MB−231細胞を、5匹のヌードマウス(J−NU)の背中に皮下注射した。各マウスには、0.75〜1.2cmの腫瘍が3〜5週間で発生した。マウスに、10mg/kgのウアバイン又は生理食塩水を皮下注射し、30分後に4%イソフルランで麻酔をかけた。皮膚の小さな切開部からマウスの腫瘍を露出させた。陽極及び陰極を各腫瘍に挿入し、Grass社製SD9刺激装置を使用して、120回の連続1V DCパルス(10ミリ秒、1秒間当たり2回のパルスで1分間)を、銅製陽極及び陰極を介して送達した。幾つかの対照は刺激を受けなかった。合計11個の腫瘍を試験した。3個の腫瘍は、10mg/kgの皮下投与ウアバインで処理され、電気的に刺激されたマウス(O−ES実験)に由来した。残りのうち、2個の腫瘍は、生理食塩水で処理され、電気的に刺激されなかったマウス(S−NS対照)に由来し、3個は、10mg/kgの皮下投与ウアバインで処理されたが、電気的に刺激されなかったマウス(O−NS対照)に由来し、3個は、生理食塩水で処理され、電気的に刺激されたマウス(S−ES対照)に由来した。電気刺激は、15分後及び30分後に繰り返した。1日後、マウスを、Na−ペントバルビタールの過量投与で屠殺し、4%緩衝パラホルムアルデヒドで灌流し、腫瘍を摘出した。腫瘍を5μmに切片化し、ヘマトキシリン及びエオジンで染色した。実験群(O−ES群)の3個の腫瘍のうち、1匹のマウスに由来する腫瘍は、処理後に80%の細胞死を示した。しかしながら、同じマウスの腫瘍の基部から採取した正常筋肉は、細胞死の徴候を示さなかった(画像は未表示)。O−ES群の他の2匹のマウスは、高度には血管新生されていない腫瘍を有していたため、ウアバインは効果的に腫瘍細胞に分布することができなかった。結果的に、溶解は、これら2匹のマウスの腫瘍では見られなかった。3つの対照処理群の腫瘍は、いずれも細胞溶解の徴候を一切示さなかった。
【0037】
この実験を、10匹のマウスを使用して繰り返した(1対照群当たり2匹及び実験群では4匹)。50%マトリゲルに懸濁した400万個のMDA−MB−231細胞を、J/Nuマウスに皮下注射し、明白に血管新生される(外観が赤みがかる)まで腫瘍を成長させた。刺激パラメータは、10V DC、200パルス/秒で1ミリ秒のパルスであった。薬剤処理は、ここでも10mg/kgの皮下投与ウアバインであった。1日後、動物を屠殺し、灌流し、腫瘍を摘出し、ヘマトキシリン及びエオジン染色用に調製した。腫瘍の各々に由来する染色切片は、訓練された組織学者が評価した。試験的実験と同様に、対照はいずれも、溶解のいかなる徴候も示さなかった。1つの対照腫瘍は中心壊死を示した。これは急速に増殖している腫瘍に一般的である。ウアバイン及び電気刺激で処理された腫瘍の4つは全て、合計腫瘍容積の50%〜80%の細胞溶解面積を示した。
【0038】
健康な非癌性細胞に対してTOL治療が影響を及ぼさないことを実証するために、J/Nuマウスに10mg/kgのウアバインを皮下注射した。30分後、筋肉、末梢神経、心臓、及び脳を、以前の実験のパラメータで電気的に刺激した。これらの組織を選択した理由は、VGSCの通常の発現が最も高く、したがって、健康細胞の溶解に最も感受性であると予想されるためである。1日後、動物を、ペントバルビタールの過剰投与で屠殺し、ヘマトキシリン及びエオジン染色用に処理した。これら組織はいずれも、溶解の徴候を示さなかった。
【0039】
実施例6
(単回TOL治療後の腫瘍成長:)
治療後生存率に対する効果を実証するために、20匹のJ/Nuマウスを、以前の試験と同様に、MDA−MB−231細胞で処理した。腫瘍の血管新生が明白になったら、マウスを4処理群:生理食塩水−無刺激;生理食塩水−刺激(2×1分間の電気刺激);ウアバイン(10mg/kg)−無刺激;及びウアバイン(10mg/kg)−刺激(2×1分間の電気刺激)に分割した。図2の0日目の各処理群に、一回のみの処理を施した。その後、腫瘍断面積を、ノギスを用いて3週間隔日で測定した。腫瘍成長を、処理前の大きさに対するパーセントとして表し、時間に対してプロットした。図2には、4群全ての結果が示されている。図2に示されているように、ウアバイン及び電気刺激で処理したマウスの腫瘍は、他の3群の腫瘍よりも70%小さかった(p<0.01)。
【0040】
要約すると、本発明者らは、浸潤癌のin vitro及びin vivoモデルの両方で、TOLの効力を実証した。本発明者らは、TOLの誘導には、癌細胞の電気的刺激及び薬学的刺激が両方ともが有用であることを示した。本発明者らは、4つの異なる組織タイプに由来する7つの細胞株で、TOLを実証した。正常組織と比較してナトリウムチャネル発現が100倍増加しているだけで、TOL治療に対する感受性を付与するのに十分であるが、溶解するまでの時間は、ナトリウムチャネル発現の度合いに反比例する。本発明者らは、比較的高濃度のナトリウムチャネルを正常に発現する正常な組織でさえ、TOLが、これらの組織に影響しないことをin vivoで実証した。最終的に、本発明者らは、ナトリウムポンプを遮断する任意の薬剤又は方法を使用して、TOLを誘導することができることを実証した。
【0041】
参考文献
【0042】
【表2】
本明細書で引用された全ての参考文献の完全な開示は、参照により本明細書に組み込まれる。優先権書類である米国特許仮出願第61/510,258号の完全な開示も、参照により組み込まれる。
図1
図2