特許第5945620号(P5945620)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5945620
(24)【登録日】2016年6月3日
(45)【発行日】2016年7月5日
(54)【発明の名称】ホイールアライメントの検査方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 17/007 20060101AFI20160621BHJP
【FI】
   G01M17/00 R
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-104434(P2015-104434)
(22)【出願日】2015年5月22日
【審査請求日】2015年7月16日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】515138757
【氏名又は名称】有限会社島田自動車工業
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】特許業務法人梶・須原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】島田 敏文
【審査官】 萩田 裕介
(56)【参考文献】
【文献】 特表2005−510411(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 17/00 − 17/10
B62D 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
右前輪をその切れ角がフルロックに対応する角度より小さい第1角度となるように左方及び右方の一方である第1方向に回転させた状態で測定される左前輪の切れ角を第1切れ角とし、
左前輪をその切れ角が前記第1角度となるように前記第1方向とは逆の第2方向に回転させた状態で測定される右前輪の切れ角を第2切れ角とし、
前輪をフルロックとなるように前記第1方向に回転させた状態で測定される左前輪の切れ角を第3切れ角、右前輪の切れ角を第4切れ角とし、
前輪をフルロックとなるように前記第2方向に回転させた状態で測定される右前輪の切れ角を第5切れ角、左前輪の切れ角を第6切れ角とするときに、
前記第1切れ角と前記第2切れ角の差と第1閾値の比較、及び、前記第3切れ角と前記第4切れ角の差(δ1)と、前記第5切れ角と前記第6切れ角の差(δ2)との差(δ1−δ2)と前記第1閾値より絶対値が大きい第2閾値との比較の両方に基づいて、ホイールアライメントに不具合が生じている原因を評価することを特徴とするホイールアライメントの検査方法。
【請求項2】
前輪をフルロックとなるように前記第1方向及び前記第2方向のいずれか一方に回転させた状態で測定される左前輪及び右前輪のいずれかにおける基準角度からのずれを導出する導出工程と、
前記原因としてのナックルアームの不良状態を判定する工程であって、
前記導出工程における、
前輪の回転方向、
前記基準角度からのずれが左前輪及び右前輪のいずれに関するずれであるか、及び、
前記基準角度からのずれの正負がいずれであるかに少なくとも基づいて、左右いずれのナックルアームが内側及び外側のいずれの方向に曲がっているかを判定する工程と
を備えていることを特徴とする請求項1に記載のホイールアライメントの検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホイールアライメントの検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などの四輪を有する車両においてホイールアライメントを調整することは、走行時の安定性を確保したりタイヤの偏摩耗を抑制したりするために重要である。特許文献1は、仮定上の後輪の向きに基づいて前輪の向きを調整しつつステアリングホイールを水平位置に位置決めしてステアリングシャフトに取り付け、その後、前輪及び後輪のトーを調整している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−122900号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者は、特許文献1のようにホイールアライメントを調整しても、走行時の安定性を確保できなかったり、タイヤの偏摩耗を有効に抑制できなかったりする場合があることに気付いた。そして、このようにホイールアライメントを適切に調整できないのは、ホイールアライメントに不具合を生じている原因を適切に把握できず、不具合の原因を適切に排除できないためであることに到達した。
【0005】
本発明の目的は、ホイールアライメントに不具合を生じている原因を適切に検査できるホイールアライメントの検査方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、ホイールアライメントに不具合を生じる原因を適切に把握できない理由を追求した。ホイールアライメントを検査する方法として、例えば、フルロック時の前輪の切れ角を測定し、当該車両における設定基準値と比較する方法が考えられる。切れ角が設定基準値からある程度ずれている場合、ホイールアライメントに不具合が生じ、切れ角にずれが生じていることになる。一方、フルロック時の切れ角を測定するのみでは、切れ角にずれをもたらす何らかの原因があることは分かっても、その原因が何であるかまでは分からない。
【0007】
そこで、本発明者は、切れ角にずれが生じる原因について鋭意研究した結果、以下の事実を発見した。切れ角のずれの原因としては、ステアリング機構におけるラックの位置ずれや、サイドメンバー、サスペンションメンバーの位置ずれ、ナックルアームの曲がりなど、種々の要因が疑われることが分かった。しかしながら、フルロック時の切れ角を測定するのみでは、これらの原因を区別できない。
【0008】
一方、本発明者は、上記要因のうち、ナックルアームの曲がりが原因である場合とラックの位置ずれ等が原因である場合とを区別する以下の知見に到達した。それは、ラックの位置ずれ等が原因でホイールアライメントに不具合が生じている場合には、フルロック時の切れ角に正常時の角度からのずれが生じる一方、フルロックでない時の切れ角にかかるずれが生じにくい。これに対し、ナックルアームの曲がりが原因でホイールアライメントに不具合が生じている場合には、フルロック時及びフルロックでない時のいずれの切れ角にも正常時の角度からのずれが生じやすいことである。
【0009】
以上の知見に基づき、本発明者は以下の発明に到達した。本発明の第1の観点におけるホイールアライメントの検査方法は、右前輪をその切れ角がフルロックに対応する角度より小さい第1角度となるように左方及び右方の一方である第1方向に回転させた状態で測定される左前輪の切れ角を第1切れ角とし、左前輪をその切れ角が前記第1角度となるように前記第1方向とは逆の第2方向に回転させた状態で測定される右前輪の切れ角を第2切れ角とし、前輪をフルロックとなるように前記第1方向に回転させた状態で測定される左前輪の切れ角を第3切れ角、右前輪の切れ角を第4切れ角とし、前輪をフルロックとなるように前記第2方向に回転させた状態で測定される右前輪の切れ角を第5切れ角、左前輪の切れ角を第6切れ角とするときに、前記第1切れ角と前記第2切れ角の差と第1閾値の比較、及び、前記第3切れ角と前記第4切れ角の差(δ1)と、前記第5切れ角と前記第6切れ角の差(δ2)との差(δ1−δ2)と前記第1閾値より絶対値が大きい第2閾値との比較の両方に基づいて、ホイールアライメントに不具合が生じている原因を評価する。
【0010】
本発明によると、例えば、フルロック時に測定された第3切れ角〜第6切れ角により、フルロック時の切れ角のずれ状況を評価できる。これにより、ホイールアライメントに不具合があるか否かを検査できる。一方、第3切れ角〜第6切れ角に基づくのみではホイールアライメントの不具合の原因がラックの位置ずれ等にあるのかナックルアームの曲がりにあるのかまでは区別できないおそれがある。このため、第1切れ角及び第2切れ角に基づき、フルロックより小さい第1角度の切れ角における切れ角のずれ状況をさらに評価する。例えば、フルロック時の切れ角のずれはある程度大きいが、第1角度の切れ角における切れ角のずれがそれほど大きくない場合にはラックの位置ずれ等が原因であると評価できる。また、フルロック時においても第1角度の切れ角においても、いずれの切れ角のずれもある程度大きい場合にはナックルアームの曲がりが原因であると評価できる。このように、フルロック時の切れ角のずれ状況と第1角度の切れ角における切れ角のずれ状況との両方を考慮することで、ラックの位置ずれ等が原因であるかナックルアームの曲がりが原因であるかを区別しやすい。
【0011】
また、上記観点においては、前記第1切れ角と前記第2切れ角の差と第1閾値の比較、及び、前記第3切れ角と前記第4切れ角の差(δ1)と、前記第5切れ角と前記第6切れ角の差(δ2)との差(δ1−δ2)と前記第1閾値より絶対値が大きい第2閾値との比較の両方に基づいて前記原因を評価することにより、閾値との比較によって客観的に原因を評価できる。また、本発明者は、ナックルアームに曲がりが生じている場合には、切れ角が大きくなるほど切れ角のずれも大きくなることを知見した。この知見に基づく上記構成によると、切れ角の差の基準となる第1閾値より第2閾値を大きくすることで、ナックルアームの曲がりを適切に把握できる。
【0012】
また、本発明においては、前輪をフルロックとなるように前記第1方向及び前記第2方向のいずれか一方に回転させた状態で測定される左前輪及び右前輪のいずれかの切れ角における基準角度からのずれを導出する導出工程と、前記原因としてのナックルアームの不良状態を判定する工程であって、前記導出工程における、前輪の回転方向、前記基準角度からのずれが左前輪及び右前輪のいずれに関するずれであるか、及び、前記基準角度からのずれの正負がいずれであるかに少なくとも基づいて、左右いずれのナックルアームが内側及び外側のいずれの方向に曲がっているかを判定する工程とを備えていることが好ましい。これによると、ナックルアームの不良状態を詳細に把握することができる。
【0014】
第1の観点においてはフルロック時の切れ角のずれ状況を評価しているが、第2の観点では、フルロック時より小さい第1角度とフルロック時に限らない第2角度とにおける切れ角のずれの変化を評価することにより、ホイールアライメントを検査する。ナックルアームに曲がりが生じている場合には切れ角が大きくなるほど切れ角のずれも大きくなる、との上記知見に基づくと、切れ角を変えた際のずれの変化を評価することでナックルアームに曲がりが生じているかどうかを把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態に係るホイールアライメントの検査方法の検査対象となる自動車の概略構成図である。
図2】本ホイールアライメントの検査方法の流れを示すフロー図である。
図3図1の自動車のステアリング機構の概略構成図であって、図3(a)はハンドルを左に切った場合を、図3(b)はハンドルを右に切った場合を示す。
図4図1の自動車のステアリング機構の概略構成図であって、図4(a)は左ナックルアームに内曲がりが生じている場合を、図4(b)は左ナックルアームに外曲がりが生じている場合を示す。
図5図1の自動車のステアリング機構の概略構成図であって、ラックに位置ずれが生じている場合を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一実施形態に係るホイールアライメント検査方法(以下、本検査方法とする。)について図1図5を参照しつつ説明する。図1は、本検査方法の対象となる自動車1の概略構成を示す。自動車1は、前輪2L(左前輪)及び2R(右前輪)、後輪3L及び3R、並びに、ステアリング機構10を有している。ステアリング機構10は、ハンドル20、ラック11、タイロッド12L及び12R、並びに、ナックルアーム13L及び13Rを有している。運転者がハンドル20を操作すると、ハンドル20の回転動作が図示しないピニオンギアを介してラック11に伝達され、ラック11が左右方向に移動する。ラック11の移動は、タイロッド12L及び12Rを通じてナックルアーム13L及び13Rに伝達され、ナックルアーム13L及び13Rが回転する。これにより、前輪2L及び2Rが回転する(図3(a)及び図3(b)参照)。自動車1にはエンジン、エンジンの駆動力を後輪3L及び3Rに伝達する伝達機構、ハンドル20以外の操作部など、運転者が自動車1を運転するための種々の構成が設けられている。
【0017】
以下、フルロックとは、ハンドル20を左方及び右方のいずれかに最大限に切ること、又は切った状態を意味するものとする。外側前輪又は内側前輪とは、前輪2L及び2Rのうち、自動車1の走行中にハンドル20を左右いずれかに切った場合に生じる自動車1の旋回運動において外側又は内側に配置される前輪を意味するものとする。前輪の切れ角とは、図1に示す直進状態を基準にした前輪の回転角度を意味するものとする。例えば、前輪の切れ角は、図3(a)又は図3(b)のα又はβが示す角度を示す。図3(a)のαは、前輪を左方に切った場合の外側前輪(前輪2R)の切れ角を示す。図3(a)のβは、前輪を左方に切った場合の内側前輪(前輪2L)の切れ角を示す。図3(b)のαは、前輪を右方に切った場合の外側前輪(前輪2L)の切れ角を示す。図3(b)のβは、前輪を右方に切った場合の内側前輪(前輪2R)の切れ角を示す。なお、以下においては、αnは内側前輪の切れ角を、βnは外側前輪の切れ角を示すものとする。
【0018】
本検査方法では、まず、図2のS1に示すように、自動車1に前調整を施す。前調整は、自動車1をアライメントテスター装置に設置する工程や、自動車1のスラストラインがその幾何学的中心線に一致するように後輪3L及び3Rのトー等を調整する工程を含んでいる。また、本検査方法では、ハンドル20がセンターにあるときに前輪2L及び2Rが図1に示す直進状態を取ることを想定している。このため、本検査前にハンドル20がセンターにあるときに前輪2L及び2Rが直進状態を取らない場合には、前調整において、ハンドル20がセンターにあるときに前輪2L及び2Rが直進状態を取るようにタイロッド12L及び12Rの長さを調整してもよい。
【0019】
本実施形態において使用されるアライメントテスター装置(以下、テスターという。)は、ハンドル20をフルロックとしたとき及び外側前輪の切れ角20°の状態としたときの前輪2L及び2Rのそれぞれの切れ角を計測可能である。外側前輪の切れ角20°の状態とは、外側前輪の切れ角が20°(第1角度)になった状態をいう。なお、アライメントテスター装置が、ハンドル20を内側前輪の切れ角20°の状態としたときの前輪2L及び2Rのそれぞれの切れ角を計測可能であってもよい。この場合、以下においてハンドル20を外側前輪の切れ角20°の状態としたときの前輪2L又は2Rの切れ角は、ハンドル20を内側前輪の切れ角20°の状態としたときの切れ角に代えてもよい。
【0020】
次に、ハンドル20を外側前輪の切れ角20°の状態になるように左方(第1方向)に切った状態における外側前輪(前輪2R)及び内側前輪(前輪2L)のそれぞれの角度をテスターによって測定する(S2)。そして、このときの内側前輪の切れ角β1(第1切れ角)と外側前輪の切れ角α0(=20°)の差β1―α0を算出する(S3)。次に、ハンドル20を外側前輪の切れ角20°の状態になるように右方(第2方向)に切った状態における外側前輪(前輪2L)及び内側前輪(前輪2R)のそれぞれの角度をテスターによって測定する(S4)。そして、このときの内側前輪の切れ角β2(第2切れ角)と外側前輪の切れ角α0(=20°)の差β2―α0を算出する(S5)。
【0021】
次に、ハンドル20をフルロックとなるように左方に切った状態における外側前輪(前輪2R)及び内側前輪(前輪2L)のそれぞれの角度をテスターによって測定する(S6)。そして、このときの内側前輪の切れ角β3(第1の観点における第3切れ角)と外側前輪の切れ角α1(第1の観点における第4切れ角)の差β3―α1(=δ1)を算出する(S7)。次に、ハンドル20をフルロックとなるように右方に切った状態における外側前輪(前輪2L)及び内側前輪(前輪2R)のそれぞれの角度をテスターによって測定する(S8)。そして、このときの内側前輪の切れ角β4(第1の観点における第5切れ角)と外側前輪の切れ角α2(第1の観点における第6切れ角)の差β4―α2(=δ2)を算出する(S9)。
【0022】
次に、S1〜S9において測定及び算出した値に基づき、ホイールアライメントに不具合が生じているか否か、及び、不具合が生じている場合にはその原因を判定する(S10)。
【0023】
S10の判定方法について詳細に説明する。この判定には、外側前輪の切れ角20°の状態で測定された切れ角に関する内外差の左右差Δ1の絶対値と、フルロックの状態で測定された切れ角に関する内外差の左右差Δ2の絶対値とを利用する。内外差とは、内側前輪での測定値と外側前輪での測定値との差を意味する。左右差とは、ハンドル20を左方に切ったときの値と右方に切ったときの値との差を意味する。つまり、S3の算出結果とS5の算出結果との差の絶対値|Δ1|=|β1−β2|と、S7の算出結果とS9の算出結果との差の絶対値|Δ2|=|α1−α2−β3+β4|とを用いる。|Δ2|が1°(第2閾値)未満である場合にはホイールアライメントが正常な範囲と判定し、|Δ2|が1°以上である場合にはホイールアライメントが正常でない範囲(ホイールアライメントに不具合がある)と判定する。そして、ホイールアライメントが正常でない範囲と判定した場合には、さらにその原因を以下のように判定する。
【0024】
まず、|Δ1|が30′(第1閾値)以上であるか否かを判定する。|Δ1|が30′未満である場合には、ホイールアライメントに不具合がある原因がナックルアーム13L及び13R以外にあると判定する。例えば、その原因は、ラック11の位置ずれやサイドメンバー、サスペンションメンバーの位置ずれ等、ナックルアーム13L及び13R以外のいずれかにあると考えられる。一方、|Δ1|が30′以上である場合、つまり、|Δ1|≧30′且つ|Δ2|≧1°のときには、ナックルアーム13L又は13Rに曲がりが生じている蓋然性が高いと判定する。
【0025】
そこで、|Δ1|≧30′且つ|Δ2|≧1°となる場合には、さらに、S6及びS8において取得したα1、α2、β3及びβ4の少なくともいずれか1つに基づいて、ナックルアーム13L及び13Rの不良状態を表1に示すように判定する。また、ナックルアーム13L又は13Rの不良によって前輪の切れ角にずれが生じている場合、タイヤに偏摩耗が生じやすくなる。そこで、α1、α2、β3及びβ4の値に応じて表1に示すようにタイヤの偏摩耗を判定する。
【0026】
【表1】
【0027】
【表2】
【0028】
表1の1列目におけるLi及びLoは、ハンドル20をフルロックとなるように左方に切った状態における当該車両の内側前輪(前輪2L)の切れ角の基準値及び外側前輪(前輪2R)の切れ角の基準値である。Ri及びRoは、ハンドル20をフルロックとなるように右方に切った状態における当該車両の内側前輪(前輪2R)の切れ角の基準値及び外側前輪(前輪2L)の切れ角の基準値である。かかる基準値は、例えば、製造時の設定値として、自動車1のメーカーによって提供される。
【0029】
表1の1列目は、フルロック時の切れ角のずれ状況に関する条件を示す。例えば、「β4−Ri≧2°」との条件は、「ハンドル20を前輪がフルロックになるまで右方に切った場合の内側前輪(前輪2R)の切れ角における基準値からのずれが正、具体的には2°以上である」という条件に対応する。また、「α1−Lo≦−2°」との条件は、「ハンドル20を前輪がフルロックになるまで左方に切った場合の外側前輪(前輪2R)の切れ角における基準値からのずれが負、具体的には−2°以下である」という条件に対応する。このように、表1の1列目の条件は、切れ角のずれを測定した際における前輪の回転方向が左右どちらであるか、測定されたずれが前輪2L及び2Rのいずれに関するずれであるか、ずれの正負がどちらであるか、及び、ずれの大きさがある程度以上であるかに関する。
【0030】
表1の2列目は、ナックルアーム13L(左)又は13R(右)のいずれに不良(曲がり)があるかを示す。3列目は、不良のあるナックルアームにおいて内側向き及び外側向きのいずれの曲がりが生じているかを示す。図4(a)は、ナックルアーム13Lに内側向きの曲がりが生じている場合の一例である。ナックルアーム13Lの後部が内側(図中右方)に折れ曲がっている。図4(b)は、ナックルアーム13Lに外側向きの曲がりが生じている場合の一例である。ナックルアーム13Lの後部が外側(図中左方)に折れ曲がっている。これらの図に示すように、ナックルアーム13Lに曲がりが生じている場合には、ハンドル20がセンターにあるときに前輪2L及び2Rが正しく直進状態を向くように、タイロッド12Lの長さが調整される。これにより、図4におけるタイロッド12L及び12Rの少なくともいずれかの長さが、図1における長さと一致しなくなっている。なお、ナックルアーム13Rに曲がりが生じているときも上記と同様である。この場合、内外と左右の関係がナックルアーム13Lの場合から逆転する。表1の4列目及び5列目は、左右いずれのタイヤの内側及び外側いずれに偏摩耗が生じやすいかを示す。表2は各変数の内容を示す。
【0031】
表1に基づく判定の一例は以下のとおりである。前輪を右方にフルロックまで回転させた際に測定される内側前輪(前輪2R)の切れ角から基準角度を引いた差β4−Riが負であって、且つ、−2°以下である場合には、右側にあるナックルアーム13Rに外側への曲がりが生じている蓋然性が高い。この場合、右タイヤの外側に編摩耗が生じやすい。また、前輪を右方にフルロックまで回転させた際に測定される左(外側)前輪の切れ角から基準角度を引いた差α2−Roが正であって、且つ、2°以上である場合には、左側にあるナックルアーム13Lに外側への曲がりが生じている蓋然性が高い。この場合、右タイヤの外側に編摩耗が生じやすい。
【0032】
以上のようにホイールアライメントの不具合の原因を判定できる理由について説明する。当該判定は右の知見に基づいている:ラック11の位置ずれ等が原因でホイールアライメントに不具合が生じている場合には、フルロック時の切れ角にずれが生じやすい一方、フルロックでない時の切れ角にずれが生じにくい。これに対し、ナックルアーム13L又は13Rの曲がりが原因でホイールアライメントに不具合が生じている場合には、フルロック時及びフルロックでない時のいずれの切れ角にもずれが生じやすい。
【0033】
例えば、車体に対するラック11の設置位置にずれがあることで、ラック11に左右方向に関する位置ずれが生じているとする。この場合、上記のとおり、ハンドル20がセンターにあるときに前輪が直進方向に正しく向くように、タイロッド12L及び12Rの長さが調節されることになる。図5は、一例としてラック11が右にずれている場合において、タイロッド12L及び12Rの長さを調節することにより、ナックルアーム2L及び2R並びに左前輪2L及び右前輪2Rが直進方向を向いている状態を示す。この状態からハンドル20を左右いずれかに切っていくと、ラック11の移動に応じ、タイロッド12L及び12Rを介してナックルアーム13L及び13Rが回転する。ナックルアーム12L及び12Rに異常がない場合には、ラック11の移動に伴ってほぼ正常にナックルアーム12L及び12Rが回転していく。このため、例えば、前輪がフルロック近くに至るまでのいずれかの切れ角にあるときには、前輪の切れ角に正常な角度からのずれが生じにくい。しかしながら、前輪がフルロックになるまでハンドル20を回転させると、ラック11の当初位置にずれがあることから、このずれの分、フルロックのときのラック11の位置も正常位置からずれることになる。したがって、前輪がフルロック近くにあるときは切れ角が正常な角度からずれやすい。
【0034】
これに対し、ナックルアーム13L又は13Rに図4に示すような曲がりが生じている場合には、ラック11の所定量の移動に対するナックルアーム13L又は13Rの回転量(回転角の変化量)に、ナックルアームが正常である場合の回転量からのずれが生じる。そして、この回転量のずれは、ハンドル20を切り始める当初から生じると共に、前輪がフルロックの状態に近づくほど大きくなっていく。したがって、ナックルアーム13L又は13Rに曲がりが生じている場合には、前輪2L又は2Rの切れ角におけるナックルアームが正常である場合からのずれが、ハンドル20を切り始めてから前輪がフルロックになるまでの途中の切れ角、例えば、20°切れ角のときにもある程度大きい。そして、前輪の切れ角が大きくなるほどそのずれは大きくなる。
【0035】
また、ナックルアーム13L又は13Rに曲がりが生じている場合には、上記のとおり、前輪がフルロック近くに至るまでの途中の切れ角にあるときにも切れ角のずれが大きい。したがって、前輪2L又は2Rが正常な切れ角からずれていることにより、自動車1がカーブを走行するときなどに前輪のタイヤに掛かる荷重は正常な場合より内側又は外側にずれやすい。このため、タイヤには内側寄りの偏摩耗(いわゆる内減り)又は外側寄りの偏摩耗(いわゆる外減り)が生じやすい。
【0036】
以上説明した本実施形態によると、|Δ1|の算出により外側前輪の切れ角20°の状態における切れ角のずれ状況を評価でき、|Δ2|の算出によりフルロック時の切れ角のずれ状況を評価できる。例えば、フルロック時の切れ角のずれ状況を|Δ2|≧1°を満たすか否かによって評価する。これにより、ホイールアライメントに不具合があるかどうかの評価が可能である。一方、|Δ2|による評価のみでは、ホイールアライメントの不具合の原因がラック11の位置ずれ等にあるのかナックルアーム13L又は13Rの曲がりにあるのかまで区別できないおそれがある。そこで、|Δ2|≧1°を満たすか否かのみならず、|Δ1|≧30′を満たすか否かによって外側前輪の切れ角20°の状態における切れ角のずれ状況をさらに評価する。これにより、ナックルアーム13L又は13Rに曲がりが生じている蓋然性の高さを評価する。つまり、Δ1及びΔ2の両方の評価により、ラックの位置ずれ等が原因であるかナックルアームの曲がりが原因であるかを区別することができる。
【0037】
さらに、表1の条件、つまり、前輪の回転方向、測定されたずれが前輪2L及び2Rのいずれに関するずれであるか、及び、ずれの正負がいずれであるかに関する条件に基づいて、ナックルアーム13L及び13Rのいずれにどのような曲がりが生じているかを評価する。したがって、ナックルアーム13L又は13Rの不良状態を詳細に判定することができる。
【0038】
以下、上述の実施形態の変形例について説明する。上述の実施形態では、|Δ1|≧30′を満たすか否かと|Δ2|≧1°を満たすか否かにより、外側前輪の切れ角20°の状態における切れ角のずれ状況とフルロック時の切れ角のずれ状況を評価している。しかし、切れ角のずれ状況の評価はその他の条件に基づいて行われてもよい。例えば、30′や1°以外の数値が用いられてもよい。また、Δ1やΔ2を用いず、α1、α2、β1〜β4が所定の条件を満たすか否かによって評価してもよい。一例として、α1やβ2をそれぞれに関する基準値と比較することで基準値からのずれとして切れ角のずれ状況を評価してもよい。要は、外側前輪の切れ角20°の状態における切れ角にずれがどの程度生じているかと、フルロック時の切れ角にずれがどの程度生じているかとをそれぞれ評価できる方法であれば、どのような方法が採用されてもよい。
【0039】
また、上述の実施形態では、外側前輪の切れ角20°の状態における内側前輪の切れ角をα1及びα2として測定している。しかし、内側前輪の切れ角20°の状態における外側前輪の切れ角を測定してもよい。また、切れ角を20°とせず、フルロック時の角度より小さいその他の角度としてもよい。
【0040】
また、上述の実施形態では、外側前輪の切れ角20°の状態で測定された各前輪の切れ角とフルロックの状態で測定された各前輪の切れ角とに基づいてホイールアライメントの不具合の原因を判定している。しかし、外側前輪の切れ角θ1(θ1<フルロック時の角度)の状態で測定された各前輪の切れ角と外側前輪の切れ角θ2(θ2>θ1)の状態で測定された各前輪の切れ角とに基づいてホイールアライメントの不具合の原因を判定してもよい。
【0041】
例えば、切れ角θ1(第1角度)まで左前輪を右方(第1方向)に回転させた状態で測定された右前輪の切れ角(第1切れ角)と、切れ角θ1まで右前輪を左方(第2方向)に回転させた状態で測定された左前輪の切れ角(第2切れ角)との差Δaを算出する。また、切れ角θ2(第2角度)まで左前輪を右方に回転させた状態で測定された右前輪の切れ角(第2の観点における第3切れ角)と、切れ角θ2まで右前輪を左方に回転させた状態で測定された左前輪の切れ角(第2の観点における第4切れ角)との差Δbを算出する。θ2はθ1より大きいが、フルロックの状態の切れ角であるか否かは問わない。そして、Δaの絶対値が第1閾値より大きく、且つ、Δbの絶対値が第1閾値より大きい第2閾値より大きい場合には、ナックルアーム13L又は13Rに曲がりが生じている蓋然性が高いと判定する。このように、切れ角が変わった場合における切れ角のずれの変化を評価することで、ナックルアーム13L又は13Rに曲がりが生じていると判定してもよい。さらに、表1に基づく上述の実施形態と同様の方法で、前輪の切れ角が基準角度からどのようにずれているかに基づき、ナックルアーム13L及び13Rのいずれにどのような曲がりが生じているかをより詳細に把握することも可能である。
【0042】
当該変形例においても、ΔaやΔbを用いず、切れ角の測定値が所定の条件を満たすか否かを直接判定することによって評価してもよい。一例として、切れ角θ1まで右前輪を左方に回転させた状態で測定された左前輪の切れ角を基準値と比較することで、切れ角が基準値からのどの程度ずれているかをずれ状況として評価してもよい。要は、外側前輪の切れ角θ1の状態における切れ角にずれがどの程度生じているか、外側前輪の切れ角θ2の状態における切れ角にずれがどの程度生じているかをそれぞれ評価できる方法であれば、どのような方法が採用されてもよい。
【符号の説明】
【0043】
2L,2R 前輪
3L,3R 後輪
10 ステアリング機構
11 ラック
12L,12R タイロッド
13L,13R ナックルアーム
【要約】
【課題】ホイールアライメントに不具合を生じている原因を適切に検査できる。
【解決手段】外側前輪が切れ角20°となるようにハンドルを左に切った状態における外側前輪及び内側前輪の切れ角を測定する(S2)。次に、外側前輪が切れ角20°となるようにハンドルを右に切った状態における外側前輪及び内側前輪の切れ角を測定する(S4)。次に、前輪がフルロックとなるようにハンドルを左に切った状態における外側前輪及び内側前輪の切れ角を測定する(S6)。次に、前輪がフルロックとなるようにハンドルを右に切った状態における外側前輪及び内側前輪の切れ角を測定する(S8)。S2〜S8の切れ角の測定結果に基づいてホイールアライメントの不具合の原因を判定する(S10)。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5