(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5945790
(24)【登録日】2016年6月10日
(45)【発行日】2016年7月5日
(54)【発明の名称】CZTS系太陽電池用合金の作製方法
(51)【国際特許分類】
C01B 19/00 20060101AFI20160621BHJP
H01L 31/072 20120101ALI20160621BHJP
C01G 19/00 20060101ALI20160621BHJP
C23C 14/34 20060101ALI20160621BHJP
C23C 14/06 20060101ALI20160621BHJP
C22C 30/06 20060101ALN20160621BHJP
【FI】
C01B19/00 G
H01L31/06 400
C01G19/00 A
C23C14/34 A
C23C14/06 L
!C22C30/06
【請求項の数】11
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-502095(P2014-502095)
(86)(22)【出願日】2013年2月6日
(86)【国際出願番号】JP2013052700
(87)【国際公開番号】WO2013129045
(87)【国際公開日】20130906
【審査請求日】2015年1月20日
(31)【優先権主張番号】特願2012-40777(P2012-40777)
(32)【優先日】2012年2月27日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2012-40778(P2012-40778)
(32)【優先日】2012年2月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000153018
【氏名又は名称】株式会社日本マイクロニクス
(74)【代理人】
【識別番号】100158229
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 恒雄
(72)【発明者】
【氏名】吉野 賢二
(72)【発明者】
【氏名】永岡 章
【審査官】
壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−245238(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/016283(WO,A1)
【文献】
特開2012−172180(JP,A)
【文献】
海野貴洋ほか,化合物半導体の製造技術とデバイスへの応用 材料編 化合物太陽電池用スパッタターゲット,電子材料,2009年11月 1日,Vol.48, No.11,p.42-44
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C14/00−14/58
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅と硫化亜鉛と錫とイオウとを原材料としてアンプルに真空封印し、加熱による融液成長で結晶化することを特徴とする、太陽電池の光吸収層成膜に使用する太陽電池用合金の作製方法。
【請求項2】
請求項1に記載の太陽電池用合金の作製方法において、
銅と硫化亜鉛と錫とイオウに、さらにセレンを加えた組成とすること、
を特徴とする太陽電池用合金の作製方法。
【請求項3】
請求項1に記載の太陽電池用合金の作製方法において、
銅と硫化亜鉛と錫とイオウに、さらにセレンを加えてアンプルに真空封印し、加熱による融液成長で結晶化すること、
を特徴とする太陽電池用合金の作製方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の太陽電池用合金の作製方法において、
銅/(亜鉛+錫)の組成比が70〜100原子%であること、
を特徴とする太陽電池用合金の作製方法。
【請求項5】
請求項1又は3に記載の太陽電池用合金の作製方法において、
アンプルは石英アンプルであり、カーボンコートされていること、
を特徴とする太陽電池用合金の作製方法。
【請求項6】
請求項1又は3に記載の太陽電池用合金の作製方法において、
加熱温度は、第1温度ステップで200〜300℃として一定時間維持した後、第2温度ステップとして1000〜1100℃に一定時間維持すること、
を特徴とする太陽電池用合金の作製方法。
【請求項7】
請求項6に記載の太陽電池用合金の作製方法において、第1温度ステップで6時間以上、第2温度ステップで12時間以上温度状態を維持すること、
を特徴とする太陽電池用合金の作製方法。
【請求項8】
請求項1又は3に記載の太陽電池用合金の作製方法で作製された太陽電池用合金を、スパッタ装置へセッティングして、スパッタ法で太陽電池の光吸収層を形成するためのスパッタリングターゲットとするため、スライスすることを特徴とする太陽電池用スパッタリングターゲットの作製方法。
【請求項9】
請求項1又は3に記載の太陽電池用合金の作製方法で作製された太陽電池用合金を、スパッタ装置へセッティングして、スパッタ法で太陽電池の光吸収層を形成するための太陽電池用スパッタリングターゲットとするため、粉砕して粉末化し、プレス加工によりバルク化した後、スライスすることを特徴とする太陽電池用スパッタリングターゲットの作製方法。
【請求項10】
請求項8又は9に記載の太陽電池用スパッタリングターゲットの作製方法により作製されたスパッタリングターゲットを使用して、スパッタリング装置により、ガラス基板上に積層された下部電極上にスパッタリングして光吸収層用の薄膜を成膜する光吸収層作製工程を備えた、太陽電池の作製方法。
【請求項11】
請求項1又は3に記載の太陽電池用合金の作製方法で作製された太陽電池用合金を使用して、真空蒸着装置により、ガラス基板上に積層された下部電極上に蒸着して光吸収層用の薄膜を成膜する光吸収層作製工程を備えた太陽電池の作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光吸収層に化合物半導体を用いた太陽電池の製造に使用される、銅、亜鉛,スズ、イオウを原材料とするCZTS4元系合金、及びCZTS4元系合金にセレンを加えたCZTSSe5元系合金の作製方法、及び、これらの合金から作製したスパッタリングターゲットを使用した太陽電池の作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池は、太陽の光エネルギーを電力に変換する素子である。pn接合された半導体界面に当たった太陽光により、内部光電効果による光電子が発生し、pn接合による整流作用で一定の方向に光電子が移動するために、電極を取り付けて電流を外部に取りだすことで電池として機能することができる。
【0003】
p型半導体とn型半導体を接合すると、接合界面では拡散電流により伝導電子と正孔がお互いに拡散して結びつき、伝導電子と正孔が打ち消し合い、その結果、接合界面付近に伝導電子と正孔の少ない領域(空乏層)が形成される。伝導電子と正孔が相互に引きあうことから内部に電界が発生する。太陽光をpn接合部に照射し、接合領域で内部の電界よりも大きなエネルギーを持った光電子はn型半導体側に移動し、電子がn型半導体に蓄積されると、正孔がp型半導体に移動する。この光起電力による電子と正孔の移動は、n型半導体とp型半導体に電極を取り付けると、n型半導体側が負極、p型半導体側が正極となって、外部に取り出すことができる。
【0004】
太陽電池は、概略シリコン系・化合物系・有機系の3つに分類され、最も広く用いられているのがシリコン系であるが、最近では化合物系の太陽電池が、薄くて経年変化が少なく光電変換効率が高くなると期待されて開発が進んでいる。化合物系は、光吸収層の材料として、シリコンの代わりに、銅(以下Cuという)、インジウム(以下Inという)、ガリウム(以下Gaという)、セレン(以下Seという)、イオウ(以下Sという)などから成るカルコパイライト系と呼ばれるI−III−VI
2族化合物を用いる。代表的なものは二セレン化銅インジウムCuInSe
2(以下CISという)、二セレン化銅インジウム・ガリウムCu(In,Ga)Se
2(以下CIGSという)や、二セレン・イオウ化銅インジウム・ガリウムCu(In,Ga)(S,Se)
2(以下CIGSSという)がある(特許文献1等参照)。
【0005】
しかしながら、構成元素であるGa及びInは希少金属であること、Seは人体に有害であることから、コスト的にも安定供給の面からもGa、InやSeを使用しないp型化合物半導体の開発が行われている(特許文献2等参照)。
【0006】
Ga、InやSeに代わる材料としては亜鉛,錫やイオウが注目され、銅Cu,亜鉛Zn,錫SnとイオウSを成分とするCu
2ZnSnS
4(以下CZTSという。)は、現状での変換効率はCIGS太陽電池に比べて劣るものの、禁制帯幅が太陽光に対して最適な1.45〜1.6eVであること、光の吸収係数が10
4cm
−1と大きいこと、特に、安価で豊富な材料を使用した組成であることから、太陽電池用の光吸収層の材料として期待されている。
【0007】
一方、CZTSは、禁制帯幅が太陽光に対して最適な1.45〜1.6eVであり、特に、安価で豊富な材料を使用した組成である。このため、太陽電池用の光吸収層の材料として期待されているが、光の吸収係数が10
4cm
−1と大きいことから変換効率はCIGS太陽電池に比べて劣るのが現状である。
【0008】
太陽電池の変換効率は、pn接合における半導体の禁制帯幅に依存し、光エネルギーが半導体の禁制帯幅より小さい場合、光は半導体で吸収されず、光エネルギーの方が大きい場合、光は半導体に吸収され、電子と正孔との対が生成される。したがって、半導体に吸収される太陽光の最低のエネルギーは、半導体の禁制帯幅によって決定され、最適な禁制帯幅は1.45〜1.6eVとなっている。
【0009】
光吸収の程度を表す量としての吸収係数は、物質中を進む光強度の吸収を示し、吸収が強く起こる物質では光は急に弱くなるため、吸収係数は小さくなる。従って、変換効率を上げようとすると、光吸収係数を小さくするために、CZTSの成分であるSを、Seと混合した材料であるCu
2ZnSn(S
xSe
1−x)
4(以下CZTSSeという。)、ここで0<x<1、とする必要がある。
【0010】
太陽電池の光吸収層となるCZTS膜の作製方法としては、例えば化学析出法(以下CBD法という。)がある。酢酸カドミウム、硫黄源、及び、硫化物合成助剤を含むCZTS系半導体用CBD溶液に、CZTS系半導体層が形成された基板を浸漬し、CZTS系半導体層の表面に硫化カドミウム(以下CdSという。)膜を形成し、CdS膜を200℃以下で熱処理する(特許文献3参照)。
【0011】
また、スパッタ法、真空蒸着法、パルスレーザー堆積(PLD)法等を用いて、基板上にCu、Sn、及びZnSが所定の順序で積層された前駆体を形成し、この前駆体を硫化水素H
2S存在雰囲気下(例えば、5〜20%H
2S+N
2雰囲気下)で500〜600℃程度の温度で硫化させて製造する方法の提案もある(特許文献4参照)。
【0012】
光吸収層を1プロセスで形成するスパッタリングによる方法では、スパッタリングターゲットとしてCu,Zn,Sn及びイオウ粉末を使用した場合は、Sの沸点が445℃と低く、スパッタ時にプラズマの影響でSが選択的に蒸発してしまう。このため、第二硫化銅、硫化亜鉛及び硫化錫の粉末を混合した後に、ホットプレス法により10MPa以上の圧力下で、700℃以上の温度で1時間以上加熱して硫化物焼結体ターゲットを製作する提案もされている(特許文献5参照)。
【0013】
CZTSSeを成膜する製造方法については報告された例はほとんどなく、このCZTSSeの製造方法としては、基板上に、Cu,Zn,SnとSeをスパッタ法、真空蒸着法、パルスレーザー堆積(PLD)法等で前駆体を形成し、この前駆体を硫化水素H
2S存在雰囲気下で硫化させる。また、基板上に、Cu,Zn,Snの積層膜を形成し、その積層膜を基板温度400〜550℃で、アルゴンArにより希釈されたセレン化水素(H
2Se)を含有するガス中で数時間処理し、さらに硫化することもできる。
【0014】
光吸収層をスパッタリングによる方法で作製する場合は、スパッタリングターゲットとしてCu,Zn,Sn及びSe使用した後、硫化水素H
2S存在雰囲気下で硫化させる(特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開平10−135498号公報
【特許文献2】特開2009−135316号公報
【特許文献3】特開2011−146595号公報
【特許文献4】特開2009−26891号公報
【特許文献5】特開2010−245238号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
真空蒸着やスパッタリングにより光吸収層としてのCZTS薄膜又はCZTSSe薄膜の成膜においてはSを使用するが、Sは融点が122℃で沸点が445℃と低いことに起因する製造上の困難さがある。他の金属元素については、Cuの融点は1085℃で沸点は2562℃、Znの融点は420℃で沸点は907℃、Snの融点は232℃で沸点は2602℃である。このために、蒸着法やスパッタ法による原材料として用いるのは困難な材料であり、蒸発したSが装置内壁に凝着し、成膜雰囲気中における反応ガスとしての滞在を困難にしている。
【0017】
また、硫化水素(H
2S)ガスを用いて前駆体を硫化するためには、H
2Sガスが有毒であり安全上の配慮を必要とするばかりか、温度が500〜600℃と高温であり、樹脂基材等の使用が制限され、酸化亜鉛系などの透明導電膜は光透過率が低下する問題がある。さらにセレン化法を用いる場合には、H
2Seガスも人体に有害であり、さらなる安全上の配慮を要求される。
【0018】
1プロセスでのCZTS膜を形成するスパッタ法を使用する場合には、特許文献5にも記載されているように以下の問題点がある。
【0019】
Sの蒸発を抑えるために、CZTSスパッタリングターゲットとしてS元素単体での使用はできず、例えば硫化第二銅Cu
2S,硫化亜鉛ZnSと硫化第二錫SnSを用いることが考えられるが、プラズマの影響によりCu
2SのSが分解して蒸発する。
【0020】
粉末材料を化学量論的組成比(Cu:Zn:Sn:S=2:1:1:4)になるように調合したものを真空中で、温度1050℃で48時間加熱した後、室温まで冷却し、これを粉末化してスパッタターゲットとしてCZTS膜を成膜する場合は、組成比を調整することが基本的にできない問題がある。CZTS膜をp型半導体として調製するためには、銅の組成比を化学両論的組成比よりも積極的に少なくすることにより、CZTS結晶中に銅空孔を形成する手段が有効であるが、この手段を使えないため、光電変換装置に必要なpn接合特性を十分に発現させることが困難である。
【0021】
CZTS膜用のスパッタリングターゲットとして銅、亜鉛、錫の各金属粉末と硫黄粉末を化学量論比で調合したものを用いると、スパッタ時にプラズマの影響により融点および沸点が低い硫黄が選択的に蒸発するため、所望の組成比の膜を得ることは極めて困難である。
【0022】
硫化第二銅、硫化亜鉛、硫化第二錫を用いた場合は、プラズマの影響により硫化第二銅が220℃以上で硫化第一銅と硫黄に分解し、硫黄が選択的に蒸発してしまう。これに対し、融点が1000度以上ある硫化第一銅(Cu
2S)を用いると熱的には安定させることができるが、銅に対して不足する硫黄を硫黄粉末で補うと、やはりプラズマの熱により硫黄が選択的に蒸発してしまう。また、硫黄粉末の替わりに硫化第一錫(SnS)の一部または全てを硫化第二錫(SnS
2)に替えて硫黄を補うとしても、硫化第二錫が600度付近で硫化第一錫と硫黄に分解するため、安定にスパッタは行えない。
【0023】
このため、Cu
2S、ZnSとSnSの微粉末をホットプレス法にて焼結し、CZTS焼結体ターゲットを作製しているが、さらに高品質な結晶化が望まれている。
【0024】
本発明は、これらの問題を解決し、太陽電池の光吸収層をスパッタリングで作製するためのスパッタリングターゲットとしてCZTS4元系合金及びCZTSSe5元系合金の製造方法と、これらの合金からスパッタリングターゲットを作製し、太陽電池の光吸収層を、H
2SガスやH
2Seガスを使用しないで成膜するための太陽電池の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0025】
スパッタリングによる太陽電池の光吸収層形成のためには、スパッタリングに使用する太陽電池用合金からスパッタリングターゲットを作製して使用する。本発明が対象とする太陽電池用合金は、CZTS系合金であるCZTS4元系合金とCZTSSe5元系合金が結晶化されている必要があり、単に、CZTS4元系合金及びCZTSSe5元系合金の組成を構成する原材料、すなわち銅と亜鉛と錫とイオウとセレンを混合して作製しても所望のCZTS系合金の結晶は得られず、このため、どの様な原材料を使用するかは重要課題となっている。
【0026】
本発明による太陽電池用合金は、銅と硫化亜鉛と錫とイオウとを結晶化することによりCZTSの多結晶、すなわちCZTS4元系合金を作製している。
【0027】
CZTS4元系合金は、銅と硫化亜鉛と錫とイオウをアンプルに真空封印して、加熱溶融して結晶を成長させる溶液成長法によっている。
【0028】
また、本発明による太陽電池用合金は、銅と硫化亜鉛と錫とイオウとセレンを結晶化することによりCZTSSeの多結晶、すなわちCZTSSe5元系合金を作製している。
【0029】
CZTSSe5元系合金は、銅と硫化亜鉛と錫とイオウとセレンをアンプルに真空封印して、加熱溶融して結晶を成長させる溶液成長法によっている。
【0030】
太陽電池用合金の作製方法において、銅/(亜鉛+錫)の組成比は70〜100原子%とし、加熱溶融に使用するアンプルはカーボンコートされた石英アンプルを使用する。
【0031】
原材料を真空封入した石英アンプルの加熱温度は、第1温度ステップで200〜300℃として一定時間維持した後、第2温度ステップとして1000〜1100℃に一定時間維持して原材料を結晶化する。加熱時間は、第1温度ステップで6時間以上、第2温度ステップで12時間以上である。
【0032】
結晶化された太陽電池用合金は、スパッタ装置へセッティングして、スパッタ法で太陽電池の光吸収層を形成するためのスパッタリングターゲットとするため、スライスして太陽電池用スパッタリングターゲットを作製する。また、結晶化された太陽電池用合金を粉砕して粉末化し、プレス加工によりバルク化した後スライスしてもよい。
【0033】
太陽電池の作製方法は、太陽電池用スパッタリングターゲットの作製方法により作製されたスパッタリングターゲットを使用して、スパッタリング装置により、ガラス基板上に積層された下部電極上にスパッタリングして光吸収層用の薄膜を成膜する光吸収層作製工程を備えて作製される。
【0034】
また、太陽電池用合金を使用して、真空蒸着装置により、ガラス基板上に積層された下部電極上に蒸着して光吸収層用の薄膜を成膜する光吸収層作製工程を備えた太陽電池の作製方法として太陽電池を作製してもよい。
【発明の効果】
【0035】
本発明の太陽電池用合金の作製方法によれば、高品質のCZTS多結晶及びCZTSSe多結晶が得られる。得られた、太陽電池用合金からスパッタリングターゲットを作製し、スパッタリング装置により太陽電池の光吸収層を1プロセスで形成することができる。さらに、人体に有害なSeや希少金属であるGa、Inを成分として使用せず、低コストで安全性の高い方法で作製できる。作製されたCZTS4元系合金は高品質の多結晶であるため、太陽電池の重要な機能を果たす光吸収層の高性能化に効果がある。
【0036】
本発明の太陽電池用合金は、CZTSスパッタリングターゲット及びCZTSSeスパッタリングターゲットとしてスパッタ装置に使用し、光吸収層を形成するばかりでなく、真空蒸着装置に使用して、真空蒸着による1プロセスでの光吸収層が形成できる。本発明の太陽電池用合金は高品質の多結晶であるために、太陽電池の光吸収層成膜においてイオウの蒸発が抑えられ、さらに人体に有害なH
2SガスやH
2Seガスを使用しないで成膜できるため、装置も簡略化できる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】本発明によるCZTS4元系合金作製方法の概略を示したフローチャート。
【
図2】CZTS4元系合金製造方法を示したフローチャート。
【
図4】本発明によるCZTS4元系合金作製工程の温度制御状態を示した図。
【
図5】イオウとセレンの比率を変えた場合のEPMA評価結果
【
図6】XRDによるCZTS4元系合金のXRD回析結果を示す図。
【
図7】イオウとセレンの比率を変えた場合のXRD評価結果
【
図8】イオウとセレンの比率を変えた場合の格子定数評価結果
【
図9】イオウとセレンの比率を変えた場合の抵抗率評価結果
【
図10】イオウとセレンの比率を変えた場合のラマンスペクトル評価結果
【
図12】CZTSスパッタリングターゲットを使用した光吸収層の1プロセス形成の概念図。
【
図13】スパッタリング装置による光吸収層の作製状態を示した図。
【
図14】本発明によるCZTSスパッタリングターゲットを使用した太陽電池の作製方法のフローチャート。
【
図15】真空蒸着装置と、真空チャンバー内での光吸収層の蒸着による形成状態を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明は、人体に有害なSeや希少金属であるGa及びInを成分としないCZTS系の太陽電池用合金を作製し、スパッタリングターゲット化すると共に、そのスパッタリングターゲットを用いて1プロセスでの光吸収層を作製するCZTS系太陽電池に関するものである。
【0039】
本発明が対象とする太陽電池用合金は、CZTS4元系合金とCZTSSe5元系合金であり、まず、CZTS4元系合金とCZTSスパッタリングターゲットを作製する方法について説明する。
【0040】
図1は、CZTS4元系合金を作製してCZTSスパッタリングターゲットを作製するCZTSスパッタリングターゲット作製方法の概略を示すフローチャートである。ステップS1では、CZTS4元系合金の原材料として、Cu,ZnS粉末,SnとSを秤量して混合し、アンプルに真空封入する。ステップS2では、このアンプル内の原材料を加熱溶融して、融液成長により結晶化する。その後、ステップS3で温度を室温まで降温し、CZTS結晶をアンプルから取りだす。得られたCZTS結晶は、多結晶のCZTS4元系合金である。
【0041】
次にステップS4で、このCZTS結晶をスライスすることにより、CZTSスパッタリングターゲットが作製される。CZTS結晶からのCZTSスパッタリングターゲットの作製は、CZTS結晶を粉砕して粉末化し、鋳型等に充填してプレス加工によりバルク化した後、スライスして、CZTSスパッタリングターゲットとしてもよい。
【0042】
本発明によるCZTS4元系合金は、Cu,ZnS粉末,SnとSを原材料としており、Zn元素は、単体ではなくZnS粉末を使用していることに特徴がある。
【0043】
このCZTS4元系合金は、太陽電池の光吸収層の原材料となるカルコパイライト構造の多結晶であり、Cu,Zn,Sn及びSの原子数比が、2:1:1:4である。この原子数比は、単結晶構造を維持できる範囲であれば組成比がずれてもよく、厳密に化学量論組成比である必要は無い。またCZTS4元系合金は、太陽電池の光吸収層としてp型半導体であることが必要であるが、Cu,Zn,Sn及びSの組成比のずれにより影響が少ないことも特徴の一つである。
【0044】
また、太陽電池の効率は、Cu−poor、Zn−rich条件で効率が高くなることが知られている。これは、Cu−poor、Zn−rich条件ではCu空孔形成エネルギーが低くなるためである。なお、Cu空孔形成エネルギーは、CIS系太陽電池より大きいことから光変換効率が容易に向上しない要因となっていが、有害なガスの発生が無く、希少金属を使用しないため、安価で入手が容易であり実用化においては極めてメリットのある太陽電池となる。
【0045】
Cu,Zn,Sn及びSの組成比のずれによりp型半導体としての機能に影響が少ないこと、及びCu−poor、Zn−richの組成比とするために、CZTS単結晶は、Cu/(Zn+Sn)の組成比が100原子%以下で最小70原子%としている。組成比が70原子%以下、p型半導体としての特性が得にくくなる。好ましくは、Cu/(Zn+Sn)の組成比は、80原子%〜95原子%とする。
【0046】
図2は、CZTS4元系合金の詳細な作製方法を示すフローチャートである。まずステップS21ではCZTS4元系合金の原材料であるCu,ZnS粉末,SnとSを準備し、所望の組成比となるように各原料を秤量する。ステップS22で、CuとSnを塩酸で洗浄する。
【0047】
次にアンプルの準備を行う。使用するアンプルは石英アンプルである。ステップS23で、石英アンプルを洗浄のためにアセトンに浸して取り出す。さらに石英アンプルをカーボンコートするために、ステップS24ではバーナーで石英アンプルを熱してカーボンコートし、ステップS25で石英アンプルについた煤を取り、さらにアセトンを取り除くために真空でブローする。これにより、カーボンコートした石英アンプルが得られる。カーボンコートは、石英アンプルからの不純物の発生を防止し、高性能な結晶を作るためである。
【0048】
次に、ステップS26でカーボンコートした石英アンプルに、準備した多結晶用の原材料を入れ、3.0×10
−6Torr以下まで真空にし、バーナーでアンプルの先端を焼き切る。これにより原材料が真空封入される。ステップS27では、原材料が真空封入された石英アンプルを炉に入れ、ステップS28で、炉内温度を250℃まで昇温し、12時間維持する。次に、ステップS29でさらに1100℃まで昇温し、高温状態を24時間維持する。その後、ステップS30で室温まで徐々に温度を下げ、石英アンプルから結晶を取りだす。結晶の取り出しは、石英アンプルを破壊することにより行われる。ここにCZTS4元系合金が得られる。得られた結晶は、CZTS4元系合金の多結晶である。
【0049】
図3は、
図2で説明した作製工程で使用した電気炉による作製状態30を具体的に示した図である。電気炉32内には加熱用のヒーター34があり、ヒーター34は、外部からの通電により発熱して炉内温度を上昇させる。電気炉32の内部に、原材料36を真空封入した石英アンブル38を入れている。炉内温度は、外部からの制御装置(図示せず。)によりコントロールされている。
【0050】
図4は、CZTS4元系合金の作製プロセスにおける電気炉内の温度制御状態40を示している。まず室温で、炉内にCu,ZnS粉末,SnとSの原料を真空封入した石英アンブルを入れ、ヒーターに通電して炉内温度を上昇させる。第1温度ステップとしては250℃に、そして第2温度ステップで1100℃に上昇させる。この場合に、例えば、2時間で250℃まで上げ、12時間維持し、次に1100℃まで6時間かけて上昇させる。この高温状態を24時間一定に維持する。
【0051】
この維持する時間は自由度が大きく、第1温度ステップの250℃は6時間以上、第2温度ステップの1100℃は12時間以上であればよく、厳密な時間管理は要求されない。次に、ヒーターへの通電を停止して炉内温度を下げるが、急冷させる必要は無く、例えばヒーターへの通電を停止した後、室温近くになるまで放置し、自然冷却させる。
【0052】
CZTSSe5元系合金とCZTSSeスパッタリングターゲットの作製方法も、
図1及び2に示したCZTS4元系合金とCZTSスパッタリングターゲットの作製方法と同様のフローチャートで作製でき、CZTSSeの原材料として、Cu,ZnS粉末,Sn,SとSeを秤量して混合し、アンプルに真空封入する。
【0053】
CZTSSe5元系合金は、カルコパイライト構造の多結晶であり、Cu,Zn,Sn及び(S+Se)の原子数比が、2:1:1:4である。この原子数比は、単結晶構造を維持できる範囲であれば組成比はずれてもよく、厳密に化学量論組成比である必要は無い。
【0054】
Cu,Zn,Sn及びSの組成比のずれによりp型半導体としての機能に影響が少ないこと、及びCu−poor、Zn−richの組成比とするために、CZTSSe単結晶は、Cu/(Zn+Sn)の組成比が100原子%以下で最小70原子%としている。組成比が70原子%以下、p型半導体としての特性が得にくくなる。好ましくは、Cu/(Zn+Sn)の組成比は、80原子%〜95原子%とする。
【0055】
作製したCZTS4元系合金及びCZTSSe5元系合金は、XRDにより評価した。XRDでは、一定波長のX線を分析試料に照射して、物質の原子・分子の配列状態によって散乱したX線の回折パターンから結晶性を評価できる。
【0056】
図5は、EPMA評価結果42を示している。Se=0の場合のCZTS4元系合金では、Cuは19〜23原子%、Sは50〜53原子%と、Cu−poor、S−richの結果が得られている。また、全ての合金においてCu−poor、Zn−rich、VI族―richの結果が得られ、Cu空孔が形成されやすく、p型伝導に支配的であることが明らかとなった。
【0057】
図6はCZTS4元系合金のXRD回析43の結果を示している。CZTS4元系合金のX線回折パターンは、2θが約27.5°、47.5°、56.6°、77°にピークが存在している。これは、
図6に同時に示したICDDのCZTSデータ(#00−026−0575)の基準パターンと一致している。強度も鋭いピークとなっており、良好なCZTS結晶が得られていることが分かる。
【0058】
CZTSSe5元系合金に関しては、CZTSSe5元系合金を融液成長法で作製した例は無く、分子式Cu
2ZnSn(S
xSe
1−X)
4、(ここで、0<x<1)で表わされるCZTSSe5元系合金を評価するために、SとSeの割合xを変化させたバルクのCZTSSe5元系合金を用いて、XRD(X−ray Diffraction)、EPMA(Electron Probe MicroAnalyser)、ホール測定、ラマンスペクトルから正確なCZTSSe5元系合金の評価を行った。なお、Se=0の場合はCZTS4元系合金となり、同時に結果を示している。
【0059】
図7は、SとSeの割合xを変化させたサンプルでのXRD評価結果44を示している。CZTSとCZTSeのパターンはICDDdata #00−026−0575と#00−052−0868とそれぞれよく一致した。2元系化合物の異相は確認できなかった。各組成における(112)ピークにおける半値幅FWHMについてみると、CZTSとCZTSeは0.08、0.09を示し、X=0.2、0.5、0.8においても全て0.2以下の値を示し、本発明におけるCZTSSe5元系合金は良い結晶性を示していることが分かる。
【0060】
図8は、XRDピークより算出した全ての合金のaとcの各軸の格子定数46を示す。格子定数は次の式から算出した。
【数1】
(1)
【0061】
ここに、dは原子格子間距離、h,k,lは、結晶のミラー指数、aとcは各軸の格子定数である。
【0062】
CZTS4元系合金ではa=5.443Å,c=10.879Å、CZTSe4元系合金ではa=5.692Å,c=11.434Åを示し、従来報告されている値であるCZTS4元系合金のa=5.430Å,c=10.830Å、CZTSe4元系合金のa=5.693Å、c=11.333Åと良い一致を示した。格子定数の精度は1%以下である。a軸、c軸ともにベガード則にしたがってきれいに組成xに従って比例変化している。
【0063】
図9は、ホール測定で、Van der Pauw法により求めた抵抗率48を示す。CZTSSe5元系合金のS組成が増えるに従って直線的に増加していった。CZTS4元系合金は10
2Ω・cm以上、CZTSe4元系合金は10
1Ω・cm以下を示し、従来報告されている値と同じ結果を示した。全てのサンプルにおいてホール係数は正の値を示したことでp型伝導であることが分かった。これはサーモプローブ測定においても同様の結果を示した。
【0064】
図10は、ラマンス分光法によるラマンシフトの結果49を示している。
図10において、CZTSのAモード振動とCZTSeのAモード振動に対応するピークを直線で示している。CZTSSe5元系合金は、Sの割合が多くなる従い、CZTSのAモード振動の強度が強くなり、逆にCZTSeのAモード振動の強度が弱くなっている。また、ラマンシフトの強度ピーク値は、Sの割合が多くなる従い、値が大きくなっている。
【0065】
以上の評価結果から、本発明による製造方法で作製したCZTS4元系合金とCZTSSe5元系合金の製造方法の有効性が確認され、1プロセスでのスパッタリングによる太陽電池の光吸収層の形成が可能であることが示された。
【0066】
CZTS4元系合金とCZTSSe5元系合金は、太陽電池の光吸収層の成膜材料として使用されるが、スパッタリング装置で使用するために、これらの合金をスライスするか、粉砕した後バルク化してスライスするかにより、スパッタリングターゲットとしている。バルク化は、鋳型等の型形状により、任意の外形を有するスパッタリングターゲットをすることができるため、スパッタ装置に適合したスパッタリングターゲットが得られる。
【0067】
この様にして製造されたCZTSスパッタリングターゲットまたはCZTSSeスパッタリングターゲットを原材料としてCZTS太陽電池またはCZTSSe太陽電池の光吸収層の成膜を行うことができる。
【0068】
図11は、CZTS太陽電池の構造50を示した図である。ガラス基板52は青板ガラスを用い、下部電極54として、Mo(モリブデン)が使用されている。光吸収層56は、CZTS薄膜で構成されている。光吸収層56であるp型半導体としてのCZTS薄膜に対して、n型のバッファ層58を形成して太陽電池として機能させる。バッファ層58には例えばCdS(硫化カドミウム)使用されている。最上部にはZnO(酸化亜鉛)等により表面電極60が形成されている。さらに、取り出し用の電極を設けてもよい。
【0069】
CZTSSe太陽電池の構造は、
図11で示したCZTS太陽電池の光吸収層56の組成が、Cu,Zn,Sn,SにSeを加えた組成であり、その他の構造はCZTS太陽電池の構造と同様である。
【0070】
以下、CZTSスパッタリングターゲットを用いたCZTS太陽電池とその作製方法について説明する。
【0071】
図12は、本発明により作製されたCZTSスパッタリングターゲットを用いた、スパッタリングによる光吸収層の1プロセス形成64の概念図を示している。裏面電極54上に、CZTSスパタリングターゲットからスパッタ原子を飛ばして付着させて、光吸収層56となるCZTS薄膜を形成する。
【0072】
図13は、スパッタリング装置による光吸収層の作製状態70を説明するための図である。スパッタリング装置72は、真空吸引74を行う開口部と、Ar(アルゴン)ガス76を注入する開口部と、冷却水82を注入する開口部とが設けられている。試料台84には、ガラス基板にMoで裏面電極が形成されたMo基板86を載せる。スパッタリング装置72の上部には、電極78に付着したスパッタリングターゲット80を設置している。電極78と試料台84には、試料台84をプラスとして直流電源92が接続されている。
【0073】
直流電源92により高電圧をかけてArガス76をイオン化し、CZTSスパッタリングターゲット80にイオン化されたAr元素88を衝突させると、CZTSスパッタリングターゲット80表面の弾き飛ばされたスパッタ原子90がMo基板86に到達し、CZTS薄膜が1プロセスで形成される。
【0074】
本発明によるCZTSスパッタリングターゲットは、原材料をCuとZnS粉末とSnとSとして作製した高品質な多結晶である、スパッタリングにおけるAr等のプラズマにさらされてもS等の融点の低い原子が選択的に揮発するといったことが無く、熱的に安定なスパッタリングが行える。
【0075】
また、CZTS4元系合金の固体スパッタリングターゲットであるため、粉体等に比べて取り扱い易く、固体であるがために熱伝導率がよく、スパッタリングされる物質のスパッタ面裏側から冷却することで、CZTSスパッタリングターゲットの表面までの冷却が容易となり、熱的なSの蒸発を抑止する効果も得られる。
【0076】
図14は、CZTSスパッタリングターゲットを使用して1プロセスでのCZTS薄膜形成を可能とした、太陽電池の作製方法96の一例を示すフローチャートである。
【0077】
ステップS41では、青板ガラス基板にMoをスパッタ法により成膜する。ステップS42では、各セルの直列接続のため裏面電極を削ってパターンニングする。そして、ステップS43で、上記に説明した様に、CZTS光吸収層をスパッタリン装置により1プロセスで形成する。スパッタリングの条件は、出力40W,Ar圧力1.0Paで流量10cm
3/minとし、スパッタリングの時間は100minである。この条件で作製したCZTS薄膜の厚さは約0.2〜1μmである。
【0078】
さらにステップS44で、形成されたCZTS光吸収層を強アルカリ性水溶液に浸して、溶液成長法によりバッファ層を性膜する。続いてステップS45で、CZTS光吸収層及びバッファ層を削ってパターンを形成する。ステップS46では、バッファ層の上に、例えばMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)装置により、ZnO等により透明な導電膜層を成膜する。ステップS47では、再び導電膜層を削ってパターンニングし、ステップS48で、アルミニウム等によるバスター電極を裏面電極に半田付けし、ガラス基板上に積層されている層をカバーガラスで封止して太陽電池が完成する。
【0079】
本発明によるCZTS4元系合金によるスパッタリングターゲットを使用した太陽電池の製造方法を説明したが、本発明によるCZTS4元系合金は、スパッタ法による光吸収層の成膜だけでなく、真空蒸着法による光吸収層の成膜にも利用できる。
【0080】
図15は、本発明によるCZTS4元系合金による真空蒸着法での光吸収層の作製状態を説明する図である。
図10(A)は、真空蒸着装置100の平面図であり、真空チャンバー102、拡散ポンプ104、メカニカルブースターポンプ106と油回転ポンプ108で構成されている。
【0081】
真空チャンバー102では、本発明によるCZTS4元系合金118を使用して光吸収層の成膜が行われる。拡散ポンプ104と油回転ポンプ108により、真空チャンバー102の内部の空気を排気して真空にする。メカニカルブースターポンプ106はケーシング内にある2個のマユ型ロータが、その軸端の駆動ギアに入り互いに反対方向に同期回転するようになっている。吸気口から入った気体はケーシングとロータ間の空間に閉じ込められ、ロータの回転で排気口側から大気中に放出される。このため、メカニカルブースターポンプ106を、拡散ポンプ104と油回転ポンプ108と組み合わせることにより、排気速度を大幅にアップさせることができる。
【0082】
図10(B)は、真空蒸着装置100の真空チャンバー102において、CZTS4元系合金118からの蒸着によりMo基板86に光吸収層を成膜している状態を示している。真空チャンバー102は、Mo基板86とCZTS4元系合金118が搭載されたタングステンボード110、ヒーター112とがある。さらに光吸収層の膜厚が所定の厚さになった時に成膜を停止するシャッター116が備えられている。
【0083】
まず蒸着試料としてのCZTS4元系合金118をタングステンボート110に入れ、その後、拡散ポンプ104、油回転ポンプ108とメカニカルブースターポンプ106を回転させて真空排気を行い、例えば3×10
−3Pa以下まで真空排気する。真空排気により高真空状態となったら、ヒーター電源114を入れて、ヒーター112に電流を流して加熱する。CZTS4元系合金118の温度が蒸発温度に達したらシャッター104を開ける。これにより、CZTS4元系合金118からの蒸着材料がMo基板86に蒸着を開始し成膜する。膜厚が所定の値、例えば300μmとなったらシャッター116を閉め蒸着を終了する。
【0084】
この様に、本発明によるCZTS4元系合金は、真空蒸着装置による真空蒸着法によっても光吸収層の形成が可能である。
【0085】
CZTSSe太陽電池の作製方法についても、CZTSSeスパッタリングターゲットを用いることにより、
図14で示したCZTS太陽電池の作製方法のフローチャートで示したと同様のスパッタリング方法で作製できる。また、真空蒸着法によるCZTSSe太陽電池の作製方法についても、CZTSSe5元系合金を用いて、
図15に示したCZTS4元系合金による真空蒸着法と同様な方法で作製できる。
【0086】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明はその目的と利点を損なうことのない適宜の変形を含み、更に、上記の実施形態による限定は受けない。
【符号の説明】
【0087】
10 CZTSスパッタリングターゲット作製方法の概略を示すフローチャート
20 CZTS4元系合金の作製方法フローチャート
30 電気炉による製造状態詳細を
32 電気炉
34 ヒーター
36 原料
38 石英アンブル
40 温度制御状態
42 EPMA評価結果
43 CZTS4元系合金のXRD回析
44 CZTSSe5元系合金のXRD回析
46 格子定数
48 抵抗率
49 ラマンスペクトル
50 CZTS太陽電池の構造
52 ガラス基板
54 裏面電極
56 光吸収層
58 バッファ層
60 表面電極
64 スパッタリングによる光吸収層の1プロセス形成
70 スパッタリング装置による光吸収層の作製状態
72 スパッタリング装置
74 真空吸引
76 Arガス
78 電極
80 スパッタリングターゲット
82 冷却水
84 試料台
86 Mo基板
88 Ar元素
90 スパッタ原子
92 直流電源
96 CZTSスパッタリングターゲットを使用した太陽電池の作製方法
100 真空蒸着装置
102 真空チャンバー
104 拡散ポンプ
106 メカニカルブースターポンプ
108 油回転ポンプ
110 タングステンボード
112 ヒーター
114 ヒーター電源
116 シャッター
118 CZTS4元系合金