(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
例えば、金属材料の被加工材同士を突き合せた接合線に対して円柱状のツール(ショルダ部の先端中央に突設するプローブを有するツール)を回転させながら押し付けて接合線方向に相対移動させることにより、発生する摩擦熱で被加工材を軟化させて接合する技術は、摩擦攪拌接合(FSW)として知られている。また、前記ツールを用いて、被加工材表面の強度及び硬さ等を向上させる摩擦攪拌プロセス(FSP)や、被加工材を点接合する摩擦攪拌点接合(FSJ)も行われ、これらFSW、FSP、FSJを総称して摩擦攪拌加工と称される。
【0003】
ところで、摩擦攪拌加工において被加工材の加工部を良好な品質に仕上げるには、ツールと被加工材との高さ位置関係、とりわけ、ツールのプローブの先端と被加工材の裏面との間隔S1やツールのショルダ部の被加工材への没入量S2を適正範囲に保つ必要がある(
図5参照)。
【0004】
従来の摩擦攪拌接合装置には、被加工材に対するツールの加圧力を略一定に保持させるようにツールを荷重制御するものがある(特許文献1)。具体的に、従来の摩擦攪拌接合装置は、
図8に示すように、ツール610を保持する加工ヘッド620がエアシリンダ640によって下方へと付勢されてツール610を被加工材660に押圧、接触させるとともに、エアシリンダ640によるツール610の被加工材660への付勢力を2次圧一定形の減圧弁650で略一定に保持するように制御する。この従来の摩擦攪拌接合装置によれば、エアシリンダ640の付勢力を略一定に保持することで被加工材660に対するツール610の加圧力が略一定に保持されるので、被加工材660の製作誤差による板厚変動や定盤670へのセッティング誤差、あるいは定盤670の表面の局部的変形等が存在しても、ツール610と被加工材660との前記高さ位置関係を略一定に保つことができ、従って、被加工材660の良好な接合品質が得られるとしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の摩擦攪拌接合装置では、ツール610を保持する加工ヘッド620がスライド機構を介して上下方向に移動可能にフレームに支持されており(特許文献1の段落0010等)、また、この加工ヘッド620には、ツール610を回転駆動するための重量物のモータ630が搭載されている。そのため、摩擦攪拌接合時には、エアシリンダ640による付勢力をツール610に加えると、ツール610の被加工材660への加圧力としてエアシリンダ640の付勢力とともに当該加工ヘッド620の重量も被加工材660に加わる。そうすると、加工ヘッド620の自重により被加工材660への加圧力の最小値が決まるので、加工ヘッド620の重量よりも小さい加圧力で被加工材660の摩擦攪拌加工を行うことが困難になる。そのため、従来の摩擦攪拌接合装置では、例えば、被加工材660が薄板の場合には、ツール610の加圧力が大きくてツール610と被加工材660との高さ位置関係を適正範囲に保つことが困難であった。すなわち、従来の摩擦攪拌接合装置におけるツール側での荷重制御では、加工ヘッド620の重量が被加工材660に加わるため、ツール610の加圧力を小さくするには限界がある。したがって、前記に例示した薄板の被加工材660や、あるいは軟質の被加工材660をツール610の小さい加圧力で摩擦攪拌加工するときは、それら専用の装置を製作する必要があり、一台の装置で幅広い板厚・材質の被加工材に対応できず、装置の汎用性に難があった。
【0007】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、被加工材が薄板であれ厚板であれ、また軟質であれ硬質であれ、被加工材の板厚や材質等を問わず、一台で良好な品質に摩擦攪拌加工することを可能とする摩擦攪拌加工装置及び摩擦攪拌加工方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る摩擦攪拌加工装置は、
ショルダ面にプローブを突設して金属材料からなる被加工材を摩擦攪拌加工するためのツールと、
ツールを保持し、且つ、回転させながら被加工材に押し付けて加工方向に相対移動可能な加工ヘッドと、
被加工材を保持する支持テーブルとを備える摩擦攪拌加工装置であって、
前記ツールの前記被加工材への没入量が一定範囲となるように前記加工ヘッドを移動させて前記ツールを前記被加工材に対して予め設定された高さ位置に設定するためのツール高さ設定手段と、
前記摩擦攪拌加工装置の本体フレームに対してガイド部材を介して上下動自在に設置されている前記支持テーブルを支持するとともに当該支持テーブルをツール側へ付勢するための
空気圧シリンダと、
前記
空気圧シリンダの付勢力を一定に保つように制御することにより前記ツールが前記被加工材を押し付ける加圧力を一定に保持させる荷重制御手段とを備え
、
ツール側において前記ツール高さ設定手段により設定されたツール高さにて、支持テーブル側において前記荷重制御手段によりツールの加圧力を一定に保持させた状態にして、回転するツールを被加工材に対して相対移動させて摩擦攪拌加工を行う構成としたものである。
【0009】
前記構成より、前記
空気圧シリンダは、支持テーブルを支持するので、ツールが被加工材を押し付けていない状態(ツールが被加工材に接触した状態も含む。)では、前記
空気圧シリンダには支持テーブルを支える力、すなわち支持テーブルの重量(支持テーブルに取り付けた付属品の重量も含む。)と支持テーブルに保持された被加工材の重量とが加わるが、ツールの加工ヘッドの重量が加わることはない。そして、ツールが被加工材を押し付けるように接触した状態では、前記
空気圧シリンダの付勢力において、支持テーブル及び被加工材の重量相当の付勢力(最低付勢力)に加えて、さらに増圧する付勢力(加算付勢力)が被加工材に対するツールの加圧力に相当する。すなわち、摩擦攪拌加工時に、
空気圧シリンダの付勢力を前記最低付勢力にした状態に保てば、ツールの被加工材に対する加圧力が0(ゼロ)に設定され、これより
空気圧シリンダを増圧する前記加算付勢力がツールの被加工材に対する加圧力となる。従って、前記荷重制御手段により前記
空気圧シリンダの付勢力(加算付勢力)を所定の値に設定することにより、ツールの被加工材への加圧力を最小値を0(ゼロ)から制御することが可能となる。よって、ツールの被加工材への加圧力を小さい加圧力から大きい加圧力まで広範に設定することができる。例えば、被加工材が厚板又は硬質等の場合はツールの加圧力を大きく保って摩擦攪拌加工できることはもちろんのこと、さらに被加工材が薄板又は軟質等の場合はツールの加圧力を小さく保つように荷重制御して摩擦攪拌加工することができる。
【0010】
このように、被加工材が薄板であれ厚板であれ、また軟質であれ硬質であれ、被加工材の板厚や材質等に応じて、その被加工材に対する適切なツールの加圧力を設定するとともに一定に保持して、ツールと被加工材との高さ位置関係を適正範囲に保つことができる。
【0011】
そして、前記ツールの前記被加工材への没入量が一定範囲となるように前記加工ヘッドを移動させて前記ツールを前記被加工材に対して予め設定された高さ位置に設定するためのツール高さ設定手段を備え
る。
これにより、摩擦攪拌加工時に、まずツールを被加工材へ当接させるときに前記ツール高さ設定手段によりツールと被加工材との高さ位置関係が適正範囲に設定されるようにツール高さを位置制御することができる。従って、ツールと被加工材との高さ位置関係が適正範囲に位置制御された状態を、前記
空気圧シリンダで支持テーブルを一定の付勢力でもってツール側へ付勢して荷重制御することにより摩擦攪拌加工中も一定に保持することができる。
【0012】
前記
空気圧シリンダは、前記支持テーブルの被加工材の加工方向に対してバランスさせるように配設されていることが望ましい。
これにより、
空気圧シリンダを加工方向に対してバランスさせるように配置したことにより、被加工材の加工距離が長くなったり加工位置が離れている等の場合でも、ツールの被加工材への加圧力が加工方向に沿ってバラつくことがない。従って、被加工材の加工距離が長くなっても全長にわたってツールと被加工材との高さ位置関係を適正範囲に保ち続けることができ、また加工位置が遠く離れていても各加工位置でのツールと被加工材との高さ位置関係を適正範囲に保つことができる。
【0013】
また、本発明に係る摩擦攪拌加工方法は、
ツールを回転させながら金属材料からなる被加工材に対して押し付けて発生する摩擦熱により被加工材を軟化させて加工する摩擦攪拌加工方法であって、
前記被加工材を保持する支持テーブルが摩擦攪拌加工装置の本体フレームに対してガイド部材を介して上下動自在に設置されており、
摩擦攪拌加工時に、まず
ツール側において前記ツールの前記被加工材への没入量が一定範囲となるように前記ツールを保持する加工ヘッドを移動させて前記ツールを被加工材に対して予め設定された高さ位置に設定し、その後は
支持テーブル側において当該支持テーブルをツール側へ付勢するための
空気圧シリンダの付勢力を一定に保つように制御することにより前記ツールが前記被加工材を押し付ける加圧力を一定に保持させ
た状態にして、回転するツールを被加工材に対して相対移動させて摩擦攪拌加工を行うものである。
この摩擦攪拌加工方法によれば、前記摩擦攪拌加工装置と同様の作用が発揮される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ツールの被加工材への加圧力を比較的大きい値だけでなく極小さい値にも設定して一定に保持するように制御することができるので、被加工材の板厚や材質等に応じて、その被加工材に対する適切なツールの加圧力を設定するとともに一定に保持して、ツールと被加工材との高さ位置関係を適正範囲に保つことができる。従って、被加工材の板厚や材質等が異なっても、良好な品質に摩擦攪拌加工することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、摩擦攪拌加工装置の一実施形態として、金属材料の被加工材となる板材(以下、適宜「ワーク」)を摩擦攪拌接合するための摩擦攪拌接合装置を例に挙げて説明する。
図1、
図2、
図3を参照して、摩擦攪拌接合装置1は、摩擦攪拌加工用のツール20を取り付けた加工機構2と、ワークW1,W2を保持する支持テーブル3と、加工機構2の動作を制御する制御装置5と、支持テーブル3の下面に取り付けた空気圧シリンダ(シリンダ装置)6とを備える。
【0017】
加工機構2は、上下移動自在な支持テーブル3上のワークW1,W2に対して摩擦攪拌接合を行う。すなわち、支持テーブル3上のワークW1,W2を突き合せた接合線Lに対して加工機構2のツール20を回転させながら押し付けて接合線L方向に相対移動させることにより、発生する摩擦熱でワークW1,W2の突き合わせ部分を軟化させて接合する。なお、支持テーブル3は、前後左右にも移動自在に構成されていてもよい。
【0018】
支持テーブル3上には、2枚の平板状のワークW1,W2を配置する冶具31が設けられ、冶具31には、ワークW1,W2の裏面に配置される裏当て材32が取り付けられている。ワークW1,W2は、冶具31に設けたワーク押さえ33により互いの端面を突き合わせた接合線Lが裏当て材32の中央に位置するように固定される。裏当て材32の材質は、ワークW1,W2がアルミ系合金の板材であれば、鉄系合金を選択し、ワークW1,W2が鉄系合金の板材であれば、耐熱性があり板材の裏面側からの放熱を遮断できる熱伝導率の小さい材質(例えば、Si
3N
4)を選択することが可能である。なお、裏当て材32は、平板部材や棒状部材等で形成することができる。
【0019】
加工機構2は、摩擦攪拌加工用のツール20と、このツール20を保持する加工ヘッド7と、ツール20を回転させるための回転用モータ81と、加工ヘッド7を昇降させるための昇降用モータ82と、加工ヘッド7を横方向に移動させるための移送用モータ83とを備える。
【0020】
加工ヘッド7は、上部に回転用モータ81を搭載し、下部にツール20を着脱自在に取り付けるツールホルダー71を備える。ツールホルダー71は、回転用モータ81と連結されており、この回転用モータ81の駆動によりツールホルダー71とともにツール20が回転される。加工ヘッド7は、本体フレーム10に備え付けたスライダー14に対してボールネジ15(
図2参照)により昇降自在に取り付けられており、スライダー14に設ける昇降用モータ82により支持テーブル3に対して上下に移動され、これにより、ツール20をワークW1,W2に押し付けるように接触させるツール高さが設定される。
【0021】
また、加工ヘッド7は、スライダー14に対して回動自在に取り付けられており、ツール20を所定の前進角θ(ツール20の先端を移送方向側へ傾けたときの垂直線に対する傾き。
図5参照)に設定できるようになっている。スライダー14は、一対のガイドレール12とボールネジ13とを備える直動機構11に取り付けられており、移送用モータ83の駆動により支持テーブル3に平行に移動される。これにより、スライダー14に取り付けた加工ヘッド7が移動されるので、加工ヘッド7に保持するツール20がワークW1,W2の加工方向となる接合線Lに沿って移動される。
【0022】
図4に示すように、ツール20は、円柱状のショルダ部21と、ショルダ部21より大径で側面にカット面25が形成された円柱状の取付部24とを有する。ツール20の取付部24をツールホルダー71に装填してボルト72(
図2参照)を取付部24のカット面25に当てるように締め付けることで、ツール20がツールホルダー71に着脱自在に取り付けられる。ショルダ部21の先端面は、平面状のショルダ面22と、ショルダ面22の中心部に突設された球面状のプローブ23とを有する。そして、ツール20は、ワークW1,W2を摩擦攪拌加工する際、回転しながらショルダ面22及びプローブ23をワークW1,W2に押し付けて摩擦熱を発生させるようにする。なお、ツール20の形状は、
図4のものに限らず、ショルダ部21と取付部24との間にフランジを形成したものでもよいし、取付部24は多角形形状であってもよい。また、ショルダ面22も、平面形状に限らず、プローブ23を中心としてやや凸又はやや凹となった曲面状に形成されてもよい。さらに、プローブ23は、球面形状に限らず、円柱状、円錐台状等であってもよいし、また、ねじが切ってあってもよい。
【0023】
ツール20は、工具鋼、超硬合金やセラミックス等の種々の材質から形成できるが、例えば、ワークW1,W2がSUS430のような鉄系高融点材料の場合には、Ni基2重複相金属間化合物合金からなるものが好ましい。これにより、ツール20の耐熱及び耐摩耗性が向上され、加工時の摩擦熱による高温下でもツール20が必要な硬さを発揮することができ、ワークW1,W2がアルミニウム合金等に比べて高融点材料である鉄系合金等であっても確実に且つ良好な接合を行うことができる。
【0024】
再び、
図2を参照して、制御装置5は、シーケンサやプログラムコントローラ等で実現することができ、その構成は、入力部51と、記憶部52と、演算部53と、指令部54とを備える。入力部51は、作業者等より入力される接合条件(ツール高さ、ツール回転数、ツール送り速度等)を含む各種の入力情報を記憶部52に与える。記憶部52は、例えば、RAMやROM等の記憶回路によって実現され、摩擦攪拌接合の動作手順を実行するためのコンピュータプログラム、入力部51からの入力情報及び演算部53の演算結果を記憶する。演算部53は、例えば、CPU等の演算処理回路によって実現され、記憶部52に記憶されるプログラムを実行して、記憶部52に記憶された接合条件に基づいて、摩擦攪拌接合の動作手順を実行し、回転用モータ81、昇降用モータ82及び移送用モータ83のそれぞれの制御指令を生成する。そして、演算部53は、生成した各制御指令を指令部54に与える。
【0025】
指令部54は、ツール回転数指令部55と、ツール高さ指令部(ツール高さ設定手段)56と、ツール送り速度指令部57とを備える。ツール回転数指令部55は、演算部53からの制御指令に基づいてツール回転数の指令信号を回転用モータ81に出力する。すると、回転用モータ81は、ツール20が指令されたツール回転数で回転されるように回転駆動する。ツール高さ指令部56は、演算部53からの制御指令に基づいてツール高さの指令信号を昇降用モータ82に出力する。すると、昇降用モータ82は、ツール20が指令されたツール高さに設定されるように回転駆動する。これにより、ツール20をワークW1,W2へ押し付けるように当接させた状態でのツール20の高さが位置制御されて、ツール20とワークW1,W2との高さ位置関係が適正範囲に設定される。ツール送り速度指令部57は、演算部53からの制御指令に基づいてツール送り速度の指令信号を移送用モータ83に出力する。すると、移送用モータ83は、ツール20が指令された送り速度で加工方向へ移動するように回転駆動する。
【0026】
前記ツール高さ指令部56は、摩擦攪拌接合時におけるツール高さの位置制御として、ツール20をワークW1,W2に対して予め設定された高さ位置に設定するためのツール高さ設定手段を構成する。すなわち、ツール高さ指令部56によりツール高さ指令信号が与えられた昇降用モータ82は、所定の回転量になるまで駆動する。すると、ボールネジ15により加工ヘッド7が所定位置まで下降され、ツール20は、ワークW1,W2の表面を押し付けて接触する所定のツール高さに設定される。このツール高さは、ワークW1,W2の板厚や材質、ツール20の材質や形状等やツール回転数やツール送り速度等の接合条件などに基づいて、ワークW1,W2の接合を良好な品質に仕上げることができる高さ位置を予め実験等により求め、これを制御装置5の入力部51より記憶部52へ記憶させるようにしている。
【0027】
このツール20のツール高さは、具体的には、
図5に示すように、ツール20のプローブ23の先端とワークW1,W2の裏面との間隔S1が一定範囲になり、且つツール20のショルダ面22のワークW1,W2への没入量S2が一定範囲になる位置に設定される。このツール20のプローブ23の先端とワークW1,W2の裏面との間隔S1は、例えば、0.1〜0.2mm程度に設定されるのが好ましい。ツール20のショルダ面22のワークW1,W2への没入量S2は、ツール20のショルダ面22とワーク表面との間で必要な接触面積、例えば、プローブ23を除くショルダ面22の面積の70%以上がワークW1,W2に接触されるような没入量S2に設定されるのが好ましい。ツール20とワークW1,W2との高さ位置関係が前記ツール高さに設定されることにより、ツール20による摩擦熱の発熱量を過不足なく適正に発生させることができ、接合部での欠陥の発生が抑制され、良好な接合品質が得られる。
【0028】
図3を参照して、空気圧シリンダ6は、角型シリンダであって支持テーブル3の下面にワークW1,W2の加工方向に沿って左右端にそれぞれ1本ずつ配置されて、合計2本設置されている。各空気圧シリンダ6は、本体フレーム10上にL型フレーム92を介して設置され、各L型フレーム92は、支持テーブル3に垂設する垂直フレーム91に対して上下にスライド自在なガイド部材93を介して連結されている。従って、支持テーブル3は、ガイド部材93を介してL型フレーム92に上下動自在に設置されている。また、空気圧シリンダ6に空気を供給する配管には、2次圧を一定に保持可能な圧力制御弁(荷重制御手段)61が設けられ、この圧力制御弁61によって各空気圧シリンダ6の付勢力を一定に保持するように構成されている。そして、各空気圧シリンダ6によって支持テーブル3を上方へ一定の付勢力で付勢し、これにより、ツール20がワークW1,W2を一定の加圧力で押し付けるように荷重制御される。なお、支持テーブル3の下面に設置する空気圧シリンダ6は、支持テーブル3の重心部に1本設けるだけでもよいし、また、支持テーブル3を支えるように3本以上設けるようにしてもよい。さらには、シリンダ装置として、空気圧シリンダ6に代えて、油圧シリンダを用いてもよい。
【0029】
以上の構成を備える本実施形態による摩擦攪拌接合装置1によれば、支持テーブル3上のワークW1,W2を突き合せた接合線Lに対して加工ヘッド7のツール20を回転させながら押し付けて接合線L方向に相対移動させることにより、発生する摩擦熱でワークW1,W2の突き合わせ部分を軟化させて接合する。
【0030】
この摩擦攪拌接合に際して、回転するツール20をワークW1,W2へ当接させるときにツール高さ指令部56からの指令信号により昇降用モータ82を駆動して、ツール20をワークW1,W2に対して予め設定された高さ位置になるように加工ヘッド7を下降させる。これにより、ツール20がワークW1,W2を押し付けるように接触するとともに、このときのツール20とワークW1,W2との高さ位置関係が適正範囲(
図5参照)になるようにツール高さの位置制御が行われる。
【0031】
また、ワークW1,W2を保持する支持テーブル3は、圧力制御弁61による設定圧力に基づいて各空気圧シリンダ6によって上方へ一定の付勢力で付勢されている。この支持テーブル3を上方へ付勢する付勢力において、支持テーブル3を支える重量(支持テーブル3の重量及びワークW1,W2の重量等を含む。)に相当する付勢力(最低付勢力)を除いた付勢力(加算付勢力)は、ワークW1,W2がツール20を下から押し上げる力となるが、その反力としてツール20がワークW1,W2を押し付ける加圧力となる。従って、各空気圧シリンダ6によって上方へ一定の付勢力を一定に保つことによりツール20がワークW1,W2を押し付ける加圧力を一定に保持させるように荷重制御が行われる。
【0032】
このような状態で、回転するツール20をワークW1,W2の接合線Lに沿って走行させてワークW1,W2を摩擦攪拌接合することにより、板厚や材質等が異なる各種のワークW1,W2に対しても、良好な品質に摩擦攪拌接合することができる。
【0033】
すなわち、空気圧シリンダ6は、支持テーブル3を支持するので、ツール20がワークW1,W2を押し付けていない状態(ツール20がワークW1,W2に接触した状態も含む。)では、空気圧シリンダ6には支持テーブル3を支える力、すなわち支持テーブル3の重量(支持テーブル3に取り付けた冶具31、裏当て材32等の付属品の重量も含む。)と支持テーブル3に保持したワークW1,W2の重量とが加わるが、ツール20の加工ヘッド7の重量が加わることはない。そして、ツール20がワークW1,W2を押し付けるように接触した状態では、空気圧シリンダ6の付勢力において、支持テーブル3及びワークW1,W2の重量相当の付勢力(最低付勢力)に加えて、さらに増圧する付勢力(加算付勢力)がワークW1,W2に対するツール20の加圧力に相当する。すなわち、摩擦攪拌接合時に、空気圧シリンダ6の付勢力を前記最低付勢力にした状態に保てば、ツール20のワークW1,W2に対する加圧力が0(ゼロ)に設定され、これより空気圧シリンダ6を増圧する前記加算付勢力がツール20のワークW1,W2に対する加圧力となる。従って、空気圧シリンダ6の付勢力(加算付勢力)を所定の値に設定することにより、ツール20のワークW1,W2への加圧力を最小値として0(ゼロ)から制御することが可能となる。よって、ツール20のワークW1,W2への加圧力を小さい加圧力から大きい加圧力まで広範に設定することができる。例えば、ワークW1,W2が厚板又は硬質等の場合はツール20の加圧力を大きく保って摩擦攪拌接合できることはもちろんのこと、さらにワークW1,W2が薄板又は軟質等の場合はツール20の加圧力を小さく保つように荷重制御して摩擦攪拌接合することができる。このように、ワークW1,W2が薄板であれ厚板であれ、また軟質であれ硬質であれ、ワークW1,W2の板厚や材質等に応じて、そのワークW1,W2に対する適切なツール20の加圧力を設定するとともに一定に保持して、ツール20とワークW1,W2との高さ位置関係を適正範囲に保つことができる。
【0034】
このようにして、本実施形態では、ツール20をワークW1,W2に対して予め設定された高さ位置に設定するようにして、ツール20側においてツール高さが位置制御され、一方、ワークW1,W2を保持する支持テーブル3を上方へ付勢する各空気圧シリンダ6の付勢力を一定に保持するようにして、支持テーブル3側においてツール20のワークW1,W2に対する加圧力が荷重制御される。これにより、ツール20とワークW1,W2との高さ位置関係が適正範囲に位置制御された状態を、各空気圧シリンダ6で支持テーブル3を一定の付勢力でもってツール20側へ付勢して荷重制御することにより摩擦攪拌接合中も一定に保持することができる。
【0035】
以上のように、本実施形態によれば、ツール20のワークW1,W2への加圧力を比較的大きい値だけでなく極小さい値にも設定して一定に保持するように制御することができるので、ワークW1,W2の板厚や材質等に応じて、そのワークW1,W2に対する適切なツール20の加圧力を設定するとともに一定に保持して、ツール20とワークW1,W2との高さ位置関係を適正範囲に保つことができる。従って、ワークW1,W2の板厚や材質等が異なっても、良好な品質に摩擦攪拌接合することができる。
【0036】
なお、本発明は、前記実施形態のみに限定されず、本発明の要旨の範囲内で種々の変更を施すことが可能である。例えば、本発明は、実施形態のような摩擦攪拌接合(FSW)に限らず、摩擦攪拌プロセス(FSP)や摩擦攪拌点接合(FSJ)等にも適用することができる。
【実施例】
【0037】
(実施例)
実施例として、
図1〜
図3に示した摩擦攪拌接合装置1を用いて鉄系材料からなる2枚の平板材のワークW1,W2を突き合わせて摩擦攪拌接合を行った。
ワークW1,W2は、材質がSUS430であり、厚さ0.93mm、サイズ75mm×300mmの平板材である。ツール20は、
図4に示す形状を有し、材質がNi基2重複相金属間化合物合金であり、ショルダ径(ショルダ面22の直径)12mm、プローブ径(プローブ23の直径)4mm、プローブ長(ショルダ面22からのプローブ23の突出高さ)0.3mmのものを用いた。裏当て材32は、材質が窒化珪素(Si
3N
4)であり、30×30mm角、長さ100mmの角材を接合方向に3本並べて使用した。
摩擦攪拌加工装置1での摩擦攪拌加工の接合条件は、前進角を3度に設定し、ツール回転数2000rpmでツール20を回転させながら2枚のワークW1,W2を突き合せた接合線上に押し付け、摩擦熱によりツール20がオレンジ色に発光した後、接合速度(ツール送り速度)900mm/minで直線状に250mm移動させて摩擦攪拌接合を行った。この摩擦攪拌接合時における空気圧シリンダ6の付勢力は、圧力制御弁(荷重制御手段)61によって、ツール20によるワークW1,W2の押し付け加圧力が0.85tonに設定されるように一定に保持させた。
この実施例の摩擦攪拌加工により突き合せ接合したワークW1,W2の接合部の写真を
図6に示す。
【0038】
(比較例)
比較例の摩擦攪拌接合装置は、上記の空気圧シリンダ6及び圧力制御弁61を有さず、支持テーブル31が所定位置に固定されたものを用いた。つまり、比較例の摩擦攪拌接合装置は、初期のツール高さを設定するだけであり、ツール20によるワークW1,W2の押し付け加圧力を一定に保持させる機構を有しない。そして、ツール20の高さをショルダ面22の端部がワークW1,W2の表面に接触してから0.2mm下降させた高さ位置に設定して摩擦攪拌接合を行った。その他の条件は、実施例と同様である。
この比較例の摩擦攪拌加工により突き合せ接合したワークW1,W2の接合部の写真を
図7に示す。
【0039】
(施工状態)
摩擦攪拌加工の施工状態は、
図7に示す比較例では接合部には摩擦攪拌不足が原因と思われる施工ムラが見られ良好な接合ができなかったが、
図6に示す実施例では接合部には比較例のような施工ムラの無い良好な接合品質に仕上がった。
以上の実施例及び比較例により、ワークW1,W2に対するツール20の加圧力を適切に設定し、摩擦攪拌加工の間はこの加圧力を一定に保持することで、接合部の施工状態が綺麗で良好な品質に摩擦攪拌接合できることが確かめられた。