特許第5945871号(P5945871)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5945871電動アクチュエータ、および車両用ブレーキシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5945871
(24)【登録日】2016年6月10日
(45)【発行日】2016年7月5日
(54)【発明の名称】電動アクチュエータ、および車両用ブレーキシステム
(51)【国際特許分類】
   F16H 25/24 20060101AFI20160621BHJP
   B60T 13/74 20060101ALI20160621BHJP
   B60T 8/42 20060101ALI20160621BHJP
   F16H 25/20 20060101ALI20160621BHJP
【FI】
   F16H25/24 B
   B60T13/74 Z
   B60T8/42
   F16H25/24 A
   F16H25/24 D
   F16H25/20 E
【請求項の数】8
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2014-6953(P2014-6953)
(22)【出願日】2014年1月17日
(65)【公開番号】特開2015-135159(P2015-135159A)
(43)【公開日】2015年7月27日
【審査請求日】2015年4月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000226677
【氏名又は名称】日信工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064414
【弁理士】
【氏名又は名称】磯野 道造
(74)【代理人】
【識別番号】100111545
【弁理士】
【氏名又は名称】多田 悦夫
(74)【代理人】
【識別番号】100129067
【弁理士】
【氏名又は名称】町田 能章
(72)【発明者】
【氏名】酒井 恒司
(72)【発明者】
【氏名】小林 伸之
【審査官】 稲葉 大紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−310800(JP,A)
【文献】 特開2013−148108(JP,A)
【文献】 米国特許第05667283(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12− 8/1769
8/32− 8/96
13/00−13/74
F16H19/00−37/16
49/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動アクチュエータを有する液圧発生装置を備えた車両用ブレーキシステムであって、
前記電動アクチュエータは、
外周に螺旋状の凹溝が形成された軸部材と、
前記軸部材に外嵌されるナット部材と、
前記ナット部材の内周と前記凹溝の間に配置される動力伝達部材と、
前記軸部材の直進運動をガイドするガイド部と、を備え、
前記ナット部材が電動機の回転駆動力で前記軸部材の周りを回転して前記軸部材を直進運動させる電動アクチュエータであって、
前記ガイド部は、前記軸部材が直進運動する際に当該軸部材を軸線まわりに回転させる回転機構部を有しており、
前記液圧発生装置は、
ブレーキ操作子の操作量に応じて前記電動機を駆動して前記軸部材を変位させ、前記軸部材の変位にともなってシリンダ本体内で変位するスレーブピストンでブレーキ液を圧縮してブレーキ液圧を発生するものであって、
前記ナット部材の回転速度に対する前記スレーブピストンの変位速度が可変であり、
前記電動アクチュエータの前記ガイド部は、
前記液圧発生装置にブレーキ液圧が発生していない状態で前記電動機が始動したときに、前記ナット部材の回転方向と逆方向に前記軸部材を回転させ、
その後、前記軸部材がさらに変位するときに、前記回転方向と同方向に前記軸部材を回転させるように形成されていることを特徴とする車両用ブレーキシステム。
【請求項2】
前記軸部材の外周に突起部が突設され、
前記ガイド部には、前記突起部と係合して前記軸部材の直進運動をガイドするとともに前記回転機構部を構成するガイド溝が設けられ、
前記回転機構部は、前記軸線の方向に対して偏向する偏向部を有することを特徴とする請求項1に記載の電動アクチュエータ。
【請求項3】
前記動力伝達部材は、
前記ナット部材の回転にともなって前記凹溝で転動するボールであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電動アクチュエータ。
【請求項4】
前記ガイド部は、
前記軸部材を収容する基体と別部材に形成されていることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の電動アクチュエータ。
【請求項5】
前記ガイド部は、
直進運動している前記軸部材を、前記ナット部材の回転方向と逆方向に回転させる逆回転部を有することを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の電動アクチュエータ。
【請求項6】
前記ガイド部は、
直進運動している前記軸部材を、前記ナット部材の回転方向と同方向に回転させる正回転部を有することを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の電動アクチュエータ。
【請求項7】
前記ガイド部は、
前記軸部材を回転させることなく直進運動させる直線部を有することを特徴とする請求項5または請求項6に記載の電動アクチュエータ。
【請求項8】
ブレーキ操作子の操作量に応じて電動機を駆動してブレーキ液圧を発生する液圧発生装置を備える車両用ブレーキシステムであって、
前記液圧発生装置は、
前記電動機の回転駆動力で回転するナット部材の回転運動を軸部材の直進運動に変換する電動アクチュエータと、
直進運動する前記軸部材の変位にともなってシリンダ本体内で変位してブレーキ液を圧縮し、前記ブレーキ液圧を発生するスレーブピストンと、を備え、
前記ナット部材の回転速度に対する前記スレーブピストンの変位速度が可変であり、
前記電動アクチュエータは、
前記軸部材の直進運動をガイドするガイド部を備え、
前記ガイド部は、
前記液圧発生装置にブレーキ液圧が発生していない状態で前記電動機が始動したときに、前記ナット部材の回転方向と逆方向に前記軸部材を回転させ、
その後、前記軸部材がさらに変位するときに、前記回転方向と同方向に前記軸部材を回転させるように形成されていることを特徴とする車両用ブレーキシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動アクチュエータと、その電動アクチュエータを備える車両用ブレーキシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載される電動ブレーキ装置(車両用ブレーキシステム)には、電動モータの駆動力でブレーキ液圧を発生するモータシリンダ装置(液圧発生装置)が備わっている。このモータシリンダ装置は、電動モータの回転駆動をボールねじ構造体(電動アクチュエータ)でスレーブピストンの直進運動に変換し、スレーブピストンでブレーキ液を圧縮してブレーキ液圧を発生するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−214118号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されるボールねじ構造体は、電動モータが出力する回転駆動力でボールねじ軸(軸部材)を直進運動させる。また、モータシリンダ装置は、直進運動するボールねじ軸がスレーブピストンを変位させてブレーキ液圧を発生する。したがって、例えば、電動モータが始動してから所定の回転速度に達するまでの間(モータの始動初期)はボールねじ軸が直進運動する速度が遅くなり、これにともなって、スレーブピストンが変位する速度も遅くなる。このため、モータシリンダ装置に速やかにブレーキ液圧が発生せず、モータシリンダ装置で発生するブレーキ液圧の立ち上がりが遅くなる。
モータシリンダ装置におけるブレーキ液圧の立ち上がりを速くするために、出力の大きな電動モータを使用したり、電動モータが出力する回転駆動力をボールねじ構造体に伝達するギヤ比を大きくすることも可能である。しかしながら、この場合には大幅なコストアップになる。
【0005】
そこで、本発明は、ブレーキ液圧の立ち上がりが遅くなることを抑制できる車両用ブレーキシステムと、電動アクチュエータを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため本発明は、電動アクチュエータを有する液圧発生装置を備えた車両用ブレーキシステムであって、前記電動アクチュエータは、外周に螺旋状の凹溝が形成された軸部材と、前記軸部材に外嵌されるナット部材と、前記ナット部材の内周と前記凹溝の間に配置される動力伝達部材と、前記軸部材の直進運動をガイドするガイド部と、を備え、前記ナット部材が電動機の回転駆動力で前記軸部材の周りを回転して前記軸部材を直進運動させる電動アクチュエータである。前記ガイド部は、前記軸部材が直進運動する際に当該軸部材を軸線まわりに回転させる回転機構部を有している。前記液圧発生装置は、ブレーキ操作子の操作量に応じて前記電動機を駆動して前記軸部材を変位させ、前記軸部材の変位にともなってシリンダ本体内で変位するスレーブピストンでブレーキ液を圧縮してブレーキ液圧を発生するものである。前記液圧発生装置は、前記ナット部材の回転速度に対する前記スレーブピストンの変位速度が可変である。前記電動アクチュエータの前記ガイド部は、前記液圧発生装置にブレーキ液圧が発生していない状態で前記電動機が始動したときに、前記ナット部材の回転方向と逆方向に前記軸部材を回転させ、その後、前記軸部材がさらに変位するときに、前記回転方向と同方向に前記軸部材を回転させるように形成されている。
【0007】
本発明によると、ナット部材の回転で直進運動する軸部材を、軸線の回りに回転させながら直進運動させることができる。したがって、軸部材の回転速度に対するナット部材の相対的な回転速度を変えることができ、ナット部材の回転駆動力を軸部材に伝達するギヤ比(軸部材の回転に対する相対的なナット部材の回転の比)を変化させたのと同等の効果を得ることができる。これによって、電動機が出力する回転駆動力を軸部材に伝達するギヤ比を変化させたのと同等の効果を得ることができる。また、電動機が出力する回転駆動力をナット部材に伝達する機構の変更を伴うことなく、電動機と軸部材の間のギヤ比を変化させることができる。これによって、電動機が出力する回転駆動力を軸部材に伝達するギヤ比を変化させることができ、大幅にコストアップすることなくギヤ比を可変な構造とすることができる。
電動アクチュエータに備わる軸部材は、電動機が出力する回転駆動力で回転するナット部材によって直進運動するものである。軸部材は、自身が回転しながら直進運動するものであり、軸部材に対するナット部材の相対的な回転速度が適宜変化する。これによって、電動機が出力する回転駆動力を軸部材に伝達するギヤ比を変化させるのと同等の効果を得ることができる。そして、例えば、電動機と軸部材の間のギヤ比を低くして軸部材の直進運動の速度を高くすることも可能になる。このようにすれば、液圧発生装置のスレーブピストンがシリンダ本体内を変位する変位速度を高くすることができ、ひいては、ブレーキ液圧の立ち上がりが遅くなることを抑制できる。
また、ナット部材の回転速度に対するスレーブピストンの変位速度が可変であるので、ナット部材の回転速度を変えることなく、スレーブピストンの変位速度を変化させることができる。つまり、ナット部材が一定の回転速度で回転する構造であってもスレーブピストンの変位速度を容易に変えることができる。
また、本発明では、液圧発生装置にブレーキ液圧が発生していない状態のときに電動機が始動すると、軸部材がナット部材と逆方向に回転する。したがって、軸部材に対するナット部材の相対的な速度が高くなるので、軸部材の変位速度を高めることができ、ひいては、スレーブピストンの変位速度を高めることができる。これによって、液圧発生装置で速やかにブレーキ液圧を立ち上げることができる。また、軸部材がナット部材と逆方向に回転する状態の後で、軸部材が回転することなく直進運動する構成とすることもできる。軸部材が回転しないとナット部材の回転運動を効率よく軸部材の直進運動に変換できる。そして、さらに軸部材が変位するときには軸部材がナット部材と同方向に回転する。したがって、電動機が出力する回転駆動力を軸部材に伝達するときのギヤ比を高くしたのと同等の効果を得ることができ、軸部材が変位するときの推進力を高めることができる。
【0008】
また、本発明は、前記軸部材の外周に突起部が突設され、前記ガイド部には、前記突起部と係合して前記軸部材の直進運動をガイドするとともに前記回転機構部を構成するガイド溝が設けられ、前記回転機構部は、前記軸線の方向に対して偏向する偏向部を有することを特徴とする。
【0009】
本発明によると、軸部材の直進運動をガイドするガイド部に、軸線の方向に対して偏向する偏向部を有するガイド溝を形成するだけで、直進運動する軸部材を軸線の回りに回転させることができる。
【0010】
また、本発明の前記動力伝達部材は、前記ナット部材の回転にともなって前記凹溝で転動するボールであることを特徴とする。
【0011】
本発明によると、電動アクチュエータを、ナット部材の回転駆動力をボールで軸部材に伝達するボールねじ構造体とすることができる。
【0012】
また、本発明の前記ガイド部は、前記軸部材を収容する基体と別部材に形成されていることを特徴とする。
【0013】
本発明によると、ガイド部を単独で生産および加工できるため、生産性や加工性が向上する。また、ガイド部を取り替えることによって、軸部材の直進運動量に対する回転量の比率など、電動アクチュエータの特性を容易に変更することができる。
【0014】
また、本発明の前記ガイド部は、直進運動している前記軸部材を、前記ナット部材の回転方向と逆方向に回転させる逆回転部を有することを特徴とする。
【0015】
本発明によると、ガイド部に、ナット部材の回転方向と逆方向に軸部材を回転させる逆回転部が設けられる。そして、逆回転部においてナット部材の回転速度を相対的に高めることができ、軸部材が変位する変位速度を高めることができる。
【0016】
また、本発明の前記ガイド部は、直進運動している前記軸部材を、前記ナット部材の回転方向と同方向に回転させる正回転部を有することを特徴とする。
【0017】
本発明によると、ガイド部に、ナット部材の回転方向と同方向に軸部材を回転させる正回転部が設けられる。そして、正回転部においてナット部材の回転速度を相対的に低くすることができる。これによって、ナット部材と軸部材の間のギヤ比を高くしたのと同等の効果を得ることができる。そして、電動機が出力する回転駆動力を軸部材に伝達するときのギヤ比を高くしたのと同等の効果を得ることができる。これによって、電動機が出力する回転駆動力で軸部材が変位するときの推進力を高めることができる。
【0018】
また、本発明の前記ガイド部は、前記軸部材を回転させることなく直進運動させる直線部を有することを特徴とする。
【0019】
本発明によると、軸部材が回転することなく直進運動する領域を設けることができる。軸部材が回転しないと、ナット部材の回転運動を効率よく軸部材の直進運動に変換することができるため、軸部材を効率よく変位させることができる。
【0026】
また、本発明は、ブレーキ操作子の操作量に応じて電動機を駆動してブレーキ液圧を発生する液圧発生装置を備える車両用ブレーキシステムとする。そして、前記液圧発生装置は、前記電動機の回転駆動力で回転するナット部材の回転運動を軸部材の直進運動に変換する電動アクチュエータと、直進運動する前記軸部材の変位にともなってシリンダ本体内で変位してブレーキ液を圧縮し、前記ブレーキ液圧を発生するスレーブピストンと、を備え、前記ナット部材の回転速度に対する前記スレーブピストンの変位速度が可変である。前記電動アクチュエータは、前記軸部材の直進運動をガイドするガイド部を備えている。前記ガイド部は、前記液圧発生装置にブレーキ液圧が発生していない状態で前記電動機が始動したときに、前記ナット部材の回転方向と逆方向に前記軸部材を回転させ、その後、前記軸部材がさらに変位するときに、前記回転方向と同方向に前記軸部材を回転させるように形成されていることを特徴とする。
【0027】
本発明に係る車両用ブレーキシステムは、ナット部材の回転運動を軸部材の直進運動に変換し、かつ、変位する軸部材にともなって変位するスレーブピストンでブレーキ液圧を発生する液圧発生装置が備わる。この液圧発生装置は、ナット部材の回転速度を変えることなくスレーブピストンの変位速度を変化させることができる。したがって、この液圧発生装置は、スレーブピストンの変位速度を容易に変えることができる。そして、スレーブピストンがシリンダ本体内を変位する変位速度を高くすることができ、ブレーキ液圧の立ち上がりが遅くなることが抑制される。
また、本発明では、液圧発生装置にブレーキ液圧が発生していない状態のときに電動機が始動すると、軸部材がナット部材と逆方向に回転する。したがって、軸部材に対するナット部材の相対的な速度が高くなるので、軸部材の変位速度を高めることができ、ひいては、スレーブピストンの変位速度を高めることができる。これによって、液圧発生装置で速やかにブレーキ液圧を立ち上げることができる。また、軸部材がナット部材と逆方向に回転する状態の後で、軸部材が回転することなく直進運動する構成とすることもできる。軸部材が回転しないとナット部材の回転運動を効率よく軸部材の直進運動に変換できる。そして、さらに軸部材が変位するときには軸部材がナット部材と同方向に回転する。したがって、電動機が出力する回転駆動力を軸部材に伝達するときのギヤ比を高くしたのと同等の効果を得ることができ、軸部材が変位するときの推進力を高めることができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によると、ブレーキ液圧の立ち上がりが遅くなることを抑制できる車両用ブレーキシステムと、電動アクチュエータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の第1実施例に係る車両用ブレーキシステムの概略構成図である。
図2】モータシリンダ装置の構造を示す図である。
図3】ボールねじ軸に嵌め込まれるエンドキャップを示す斜視図である。
図4】エンドキャップに形成されるスリットの形状を示す図である。
図5】モータシリンダ装置に発生するブレーキ液圧の変化を、電動モータの始動初期からの時間経過にしたがって示したグラフである。
図6】第2実施例に係るエンドキャップの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、適宜図面を参照しながら、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0031】
《第1実施例》
図1に示す車両用ブレーキシステムAは、原動機(エンジンやモータ等)の起動時に作動するバイ・ワイヤ(By Wire)式のブレーキシステムと、原動機の停止時などに作動する油圧式のブレーキシステムがともに機能するように構成されている。車両用ブレーキシステムAは、マスタシリンダ1と、ストロークシミュレータ2と、液圧発生装置(モータシリンダ装置20)と、ビークルスタビリティアシスト装置30(以下「液圧制御装置30」という。)と、を含んで構成されている。そして、マスタシリンダ1と、ストロークシミュレータ2と、モータシリンダ装置20と、液圧制御装置30は、外部配管を介して連通している。
【0032】
マスタシリンダ1には、常開型遮断弁(電磁弁)4,5と圧力センサ7,8が備わる一対のメイン液圧路9a,9bが接続されている。また、一方のメイン液圧路9aからは、連絡液圧路9cと分岐液圧路9eが分岐し、他方のメイン液圧路9bからは連絡液圧路9dが分岐している。
【0033】
マスタシリンダ1はタンデム式であり、2つのマスタピストン(第一マスタピストン1a,第二マスタピストン1b)を有する。この2つのマスタピストンは、シリンダ本体(第一シリンダ穴11a)に収容され、直列に配置されている。
2つのマスタピストンのうち、第二マスタピストン1bは、ブレーキ操作子(ブレーキペダルP)が接続されるプッシュロッドRに連結される。また、第一マスタピストン1aは、第二リターンスプリング1dを介して第二マスタピストン1bと連結される。さらに、第一シリンダ穴11aの底部と第一マスタピストン1aの間に第一リターンスプリング1cが配設される。
また、第一シリンダ穴11aには、底部と第一マスタピストン1aの間に第一圧力室1eが形成され、第一マスタピストン1aと第二マスタピストン1bの間に第二圧力室1fが形成される。
【0034】
第二マスタピストン1bには、ブレーキペダルPの踏力がプッシュロッドRを介して入力される。そして、ブレーキペダルPに対して踏み込み操作がなされると、第二マスタピストン1bが変位する。さらに、第二マスタピストン1bに入力された踏力は第一マスタピストン1aに入力され、第一マスタピストン1aも変位する。
そして、第一マスタピストン1aおよび第二マスタピストン1bの変位によって第一圧力室1eおよび第二圧力室1fでブレーキ液が加圧されて、ブレーキ液にブレーキ液圧が発生する。
第一圧力室1eで発生したブレーキ液圧はメイン液圧路9aから出力され、第二圧力室1fで発生したブレーキ液圧はメイン液圧路9bから出力される。
【0035】
このように、マスタシリンダ1は、2つのマスタピストン(第一マスタピストン1a,第二マスタピストン1b)の変位によって、ブレーキペダルPの踏み込み操作量に応じたブレーキ液圧を発生する装置である。
【0036】
ストロークシミュレータ2は、踏み込み操作されたブレーキペダルPに擬似的な操作反力を発生させる装置である。ストロークシミュレータ2は、シリンダ本体(第二シリンダ穴11b)内を摺動するピストン2aと、ピストン2aを付勢する2つのリターンスプリング(第一シミュレータスプリング2b,第二シミュレータスプリング2c)を備えている。
第一シミュレータスプリング2bは、第二シミュレータスプリング2cよりもバネ定数、軸系(コイルスプリングの直径)、および線径(構成する線材の直径)が大きい。ストロークシミュレータ2には、ピストン2a、第二シミュレータスプリング2c、第一シミュレータスプリング2bの順に直列に配設されている。
【0037】
また、ストロークシミュレータ2の第二シリンダ穴11bは、メイン液圧路9aおよび分岐液圧路9eを介して第一圧力室1eに通じており、第一圧力室1eで発生したブレーキ液圧で作動する。
マスタシリンダ1の第一圧力室1eで発生したブレーキ液圧がストロークシミュレータ2の第二シリンダ穴11bに入力されるとピストン2aが変位する。このとき、ブレーキ液圧の大きさに応じて第二シミュレータスプリング2c、第一シミュレータスプリング2bの順に圧縮されてピストン2aに反力を発生する。そして、ピストン2aに発生した反力が、分岐液圧路9e、メイン液圧路9aを介してマスタシリンダ1に入力される。マスタシリンダ1に入力された反力がブレーキペダルPに付与されて操作反力になる。
【0038】
マスタシリンダ1には、リザーバ3が備わっている。リザーバ3は、ブレーキ液を貯溜する容器であり、マスタシリンダ1に接続される給油口3a,3bと、メインリザーバ(図示せず)から延びるホースが接続される管接続口3cと、を備えている。
【0039】
常開型遮断弁4,5は、メイン液圧路9a,9bを開閉するものであり、いずれもノーマルオープンタイプの電磁弁からなる。一方の常開型遮断弁4は、メイン液圧路9aと分岐液圧路9eとの分岐点からメイン液圧路9aと連絡液圧路9cとの分岐点に至る区間においてメイン液圧路9aを開閉する。他方の常開型遮断弁5は、メイン液圧路9bと連絡液圧路9dとの分岐点よりも上流側においてメイン液圧路9bを開閉する。
【0040】
常閉型遮断弁6は、分岐液圧路9eを開閉するものであり、ノーマルクローズタイプの電磁弁からなる。
【0041】
圧力センサ7,8は、マスタシリンダ1で発生するブレーキ液圧を検出するセンサであり、メイン液圧路9a,9bに通じるセンサ装着穴(図示せず)に装着されている。一方の圧力センサ7は、常開型遮断弁4よりも下流側に配置されており、常開型遮断弁4が閉じられた状態(=メイン液圧路9aが遮断された状態)にあるときには、モータシリンダ装置20でブレーキ液に発生するブレーキ液圧を検出可能に構成されている。他方の圧力センサ8は、常開型遮断弁5よりも上流側に配置されており、常開型遮断弁5が閉じられた状態(=メイン液圧路9bが遮断された状態)にあるときに、マスタシリンダ1で発生したブレーキ液圧を検出する。圧力センサ7,8で検出された液圧は検出信号に変換されて、図示しない電子制御ユニット(ECU)に入力される。
【0042】
メイン液圧路9a,9bは、マスタシリンダ1を起点とする液圧路である。一方のメイン液圧路9aは第一圧力室1eに接続され、他方のメイン液圧路9bは第二圧力室1fに接続される。また、メイン液圧路9a,9bは、それぞれ液圧制御装置30と接続されている。連絡液圧路9c,9dは、メイン液圧路9a,9bから分岐する液圧路であり、それぞれモータシリンダ装置20と接続されている。
【0043】
分岐液圧路9eは、一方のメイン液圧路9aから分岐し、ストロークシミュレータ2に至る液圧路である。
【0044】
マスタシリンダ1は、メイン液圧路9a,9bを介して液圧制御装置30に連通している。そして、常開型遮断弁4,5が開弁状態にあるときにマスタシリンダ1で発生したブレーキ液圧は、メイン液圧路9a,9bを介して液圧制御装置30に入力される。
【0045】
モータシリンダ装置20は、図2に示すように、規制ピン202で接続された2つのスレーブピストン(第一スレーブピストン201a,第二スレーブピストン201b)を有する。第一スレーブピストン201aおよび第二スレーブピストン201bは、基体となるシリンダ本体200の内部に直列に配置されている。そして、規制ピン202によって、第一スレーブピストン201aと第二スレーブピストン201bの最大変位が規制される。
第一スレーブピストン201aと第二スレーブピストン201bの間には、第二リターンスプリング203bが配設される。また、シリンダ本体200の底部200aと第一スレーブピストン201aの間には、第一リターンスプリング203aが配設される。
第一スレーブピストン201aと第二スレーブピストン201bの間に第二液圧室207bが形成される。また、シリンダ本体200の底部200aと第一スレーブピストン201aの間に第一液圧室207aが形成される。
【0046】
モータシリンダ装置20には、第一スレーブピストン201aの可動範囲を規制するストッパピン210が備わっている。第一スレーブピストン201aには扁平状の貫通孔210aが形成されており、ストッパピン210は貫通孔210aを貫通するように配設されてシリンダ本体200に固定される。そして、貫通孔210aの底部200a側の端部は、第一スレーブピストン201aの後退限を規定する。また、貫通孔210aの第二スレーブピストン201b側の端部は、第一スレーブピストン201aの前進限を規定する。
【0047】
シリンダ本体200の内部には、ボールねじ構造体205が備わっている。ボールねじ構造体205は電動アクチュエータであり、電動機(電動モータ204)の回転軸204aの回転運動を直進運動に変換する。
ボールねじ構造体205は、軸部材(ボールねじ軸205a)と、ナット部材(ボールねじナット205b)と、複数の動力伝達部材(ボール205c)と、エンドキャップ205dと、を含んで構成されている。
【0048】
ボールねじ軸205aは、第二スレーブピストン201bに連結される軸部材である。第1実施例では、ボールねじ軸205aの端部が、第二スレーブピストン201bの端面に当接している。また、ボールねじ軸205aの外周には、螺旋状の凹溝25が形成されている。ボールねじ軸205aは、自身が軸線方向(中心線CLに沿った方向)に直進運動(変位)して第二スレーブピストン201bをシリンダ本体200の軸線方向に変位させる。
ボールねじナット205bは、ボールねじ軸205aに外嵌されて、ボールねじ軸205aの周り(外周)を回転するナット部材である。ボールねじナット205bの外周には、伝達ギヤ206に噛み合うギヤが形成されている。そして、電動モータ204の回転軸204aの回転が、複数の伝達ギヤ206を介してボールねじナット205bに伝達される。
また、ボール205cは、ボールねじ軸205aの凹溝25と、ボールねじナット205bの内周に設けられている雄ネジと、の間に配置されている。ボール205cは、ボールねじナット205bの回転にともなって凹溝25内で転動し、ボールねじ軸205aの外周を周回する。そして、転動しながら周回するボール205cが螺旋状の凹溝25を送り出し、これによってボールねじ軸205aが軸線方向に直進運動して変位する。
【0049】
このように、ボールねじ構造体205は、電動モータ204の回転駆動力でボールねじナット205bを回転してボールねじ軸205aを直進運動させる。また、直進運動して変位するボールねじ軸205aが第二スレーブピストン201bを直進運動させる(変位させる)。つまり、ボールねじ構造体205は、電動モータ204の回転駆動力で回転するボールねじナット205bの回転運動を、ボールねじ軸205aおよび第二スレーブピストン201bの直進運動に変換する機能を有する。
【0050】
また、複数の伝達ギヤ206によって減速機構が構成される。電動モータ204の回転軸204aの回転速度は減速機構で適宜減速されてボールねじナット205bに伝達される。複数の伝達ギヤ206で構成される減速機構の減速比(ギヤ比)は、電動モータ204の性能や、モータシリンダ装置20に要求される性能等にもとづいて適宜設定される。
【0051】
また、ボールねじ軸205aの端部(第二スレーブピストン201bと連結されない側の端部)には、エンドキャップ205d(第1実施例のガイド部)が被せられている。このエンドキャップ205dは、シリンダ本体200に回転不能に固定される。エンドキャップ205dには、軸線の方向に延伸するガイド溝(スリット251)が形成されている。スリット251には、ボールねじ軸205aの外周に突設される突起部(ガイドピン252)が係合する。
ガイドピン252は、スリット251に係合することによってボールねじ軸205aの軸線回りの回転(中心線CLを中心とする回転)を規制する。また、ボールねじ軸205aが軸線方向に変位するとき、ボールねじ軸205aとともに変位するガイドピン252がスリット251にガイドされる。
【0052】
なお、シリンダ本体200にはリザーバ208が備わり、シリンダ本体200に供給されるブレーキ液がリザーバ208に貯留されている。
【0053】
電動モータ204は、電子制御ユニット(図示せず)から入力される制御信号に基づいて駆動して回転軸204aを回転させる。回転軸204aの回転は複数の伝達ギヤ206を介してボールねじナット205bに伝達され、ボールねじナット205bをボールねじ軸205aの外周の周りで回転(周回)させる。ボールねじナット205bがボールねじ軸205aの周囲を回転するとボール205cが転動する。ボール205cは、ボールねじ軸205aの外周に螺旋状に刻設された凹溝25に沿って転動しながら循環してボールねじ軸205aを周回する。これによって、ボールねじ軸205aが軸線方向に変位する。
このように、電動モータ204が出力する回転駆動力でボールねじ構造体205のボールねじ軸205aが直進運動する。
【0054】
ボールねじ軸205aがシリンダ本体200の底部200aの方向に変位すると第二スレーブピストン201bが底部200aの方向に変位し、第二リターンスプリング203bが圧縮される。さらに、圧縮された第二リターンスプリング203bの反力で第一スレーブピストン201aが底部200aの方向に変位する。
そして、第一スレーブピストン201aおよび第二スレーブピストン201bの変位によって、第一液圧室207aおよび第二液圧室207bでブレーキ液が圧縮されてブレーキ液圧が発生する。第一液圧室207aで発生したブレーキ液圧は第一出力ポート209aから連絡液圧路9cに出力される。また、第二液圧室207bで発生したブレーキ液圧は第二出力ポート209bから連絡液圧路9dに出力される。
【0055】
モータシリンダ装置20の第一液圧室207aおよび第二液圧室207bで発生したブレーキ液圧は、連絡液圧路9c,9d、および図1に示すメイン液圧路9a,9bを介して液圧制御装置30に入力される。なお、リザーバ208には、リザーバ3(図1参照)から延びるホース(図示せず)が接続される。
【0056】
図2に示すように構成されるモータシリンダ装置20は、電動モータ204の駆動によって、ブレーキペダルP(図1参照)の踏み込み操作量に応じたブレーキ液圧を発生する。また、モータシリンダ装置20に備わるボールねじ構造体205は、電動モータ204が出力する回転駆動力でボールねじ軸205aを軸線方向に直進運動させる。
【0057】
図1に示す液圧制御装置30は、車輪のスリップを抑制するアンチロックブレーキ制御(ABS制御)、車両の挙動を安定化させる横滑り制御やトラクション制御などを実行し得るような構成を具備しており、管材を介してホイールシリンダW,W,…に接続されている。なお、図示は省略するが、液圧制御装置30は、電磁弁やポンプ等が設けられた液圧ユニット、ポンプを駆動するためのモータ、電磁弁やモータ等を制御するための電子制御ユニットなどを備えている。
【0058】
図3は、ボールねじ軸に嵌め込まれるエンドキャップを示す斜視図である。
エンドキャップ205dは、一端が開口した有底の筒状部材で、開口した側の開口部250aと、閉塞した側の閉塞部250bとを有する。そして、エンドキャップ205dの内側には、ボールねじ軸205aの端部(第二スレーブピストン201bと接続されない側の端部)が収容される。また、エンドキャップ205dには、周壁を貫通するようにスリット251(ガイド溝)が形成されている。
スリット251は、ボールねじ軸205aの外周に突設されるガイドピン252(突起部)と係合する。そして、スリット251は、ボールねじ軸205aが変位するときのガイドピン252の移動をガイドする。これによって、ボールねじ軸205aが変位するとき、ガイドピン252はスリット251の形状に沿って移動する。
【0059】
また、エンドキャップ205dは、シリンダ本体200(図2参照)に固定される。このような構成によって、エンドキャップ205dのスリット251と係合するガイドピン252は、ボールねじ軸205aの軸線回りの回転を規制する。
さらに、エンドキャップ205dのスリット251が、ガイドピン252をガイドすることによって、ボールねじ軸205aの直進運動がスリット251によってガイドされる。このように、エンドキャップ205dは、ボールねじ軸205aの直進運動をガイドするガイド部として機能する。
【0060】
なお、エンドキャップ205dには、外周で対峙する位置(つまり、中心線CLを中心として180度回転した位置)に2本のスリット251が形成されている。また、ガイドピン252は、2本のスリット251にそれぞれ係合するように一対設けられている。このようなガイドピン252,252は、ボールねじ軸205aを貫通するピン部材の両端部をボールねじ軸205aの外周から突出させることで形成される。
【0061】
そして、ボールねじ軸205aは、シリンダ本体200の底部200a(図2参照)に近接する方向に変位するとエンドキャップ205dから退出する。また、ボールねじ軸205aは、底部200aから離反する方向に変位するとエンドキャップ205dに収容される。エンドキャップ205dから退出する方向(シリンダ本体200の底部200aに近接する方向)へ変位するときにボールねじ軸205aが進む方向(変位する方向)を送り方向FWとする。また、エンドキャップ205dに収容される方向(シリンダ本体200の底部200aから離反する方向)へ変位するときにボールねじ軸205aが進む方向(変位する方向)を戻り方向REVとする。
【0062】
つまり、モータシリンダ装置20(図2参照)は、ボールねじ軸205aが送り方向FWに変位するときに第二スレーブピストン201bと第一スレーブピストン201a(図2参照)が変位してブレーキ液圧が発生するように構成されている。
また、ボールねじ軸205aが、送り方向FWや戻り方向REVに変位するとき、ガイドピン252がスリット251にガイドされて移動する。よって、ボールねじ軸205aの直進運動がスリット251にガイドされる。
【0063】
また、ボールねじ軸205aは、ボールねじナット205bの回転方向が切り替わることによって、変位する方向(送り方向FW,戻り方向REV)が切り替わる。例えば、図3に示すように、エンドキャップ205dの側から見てボールねじナット205bが左方向(Rot1)に回転するときにボールねじ軸205aが送り方向FWに変位する。また、ボールねじナット205bが右方向(Rot2)に回転するときにボールねじ軸205aが戻り方向REVに変位する。
以下、ボールねじナット205bの回転方向は、エンドキャップ205dの側から見た回転方向とする。
【0064】
図4はエンドキャップに形成されるスリットの形状を示す図である。
図4に示すように、第1実施例のエンドキャップ205dには、閉塞部250bの側から開口部250aの側に至るスリット251が形成されている。
そして、第1実施例のスリット251は、開口部250aの側で軸線方向に対して偏向する第一偏向部R1と、閉塞部250bの側で軸線方向に対して偏向する第二偏向部R2と、に区分される。また、第一偏向部R1と第二偏向部R2の間には、ボールねじ軸205aの軸線方向に平行な直線状の直線部L1が形成される。
【0065】
第二偏向部R2は、閉塞部250b側の所定の始点P1と、始点P1よりも開口部250aの側に設けられる終点P2までの間に形成される。また、直線部L1は、第二偏向部R2の終点P2を始点とし、始点P2よりも開口部250aの側に設けられる終点P3までの間に形成される。また、第一偏向部R1は、直線部L1の終点P3を始点とし、開口部250aに設けられる終点P4までの間に形成される。
【0066】
第二偏向部R2の終点P2は始点P1に対して中心線CL周りに回転した位置になる。つまり、閉塞部250bの側から見て、第二偏向部R2の終点P2は始点P1に対して中心線CLの周りに所定の角度だけ回転した位置にある。
また、第一偏向部R1の終点P4は始点P3に対して中心線CL周りに回転した位置になる。つまり、閉塞部250bの側から見て、第一偏向部R1の終点P4は始点P3に対して中心線CLの周りに所定の角度だけ回転した位置にある。
そして、第二偏向部R2の始点P1から終点P2に向かう回転の方向と、第一偏向部R1の始点P3から終点P4に向かう回転の方向と、が逆方向になる。このように、第1実施例のエンドキャップ205dには、ボールねじ軸205aの軸線方向に対して蛇行した山形を呈する形状のスリット251が形成されている。
【0067】
第二偏向部R2は、ボールねじ軸205aが送り方向FWに変位するときに、閉塞部250bの側から見て、中心線CL周りの右回りにガイドピン252を回動させるように形成される。また、第一偏向部R1は、ボールねじ軸205aが送り方向FWに変位するときに、閉塞部250bの側から見て、中心線CL周りの左回りにガイドピン252を回動させるように形成される。これによって、ボールねじ軸205aは、送り方向FWに変位するときに、ガイドピン252が第二偏向部R2でガイドされるときにはエンドキャップ205dの側から見て軸線回りに右回転する。また、ガイドピン252が第一偏向部R1でガイドされるときにはエンドキャップ205dの側から見て軸線回りに左回転する。以下、ボールねじ軸205aの軸線回りの回転方向は、エンドキャップ205dの側から見た回転方向とする。
【0068】
つまり、第1実施例のスリット251は、第一偏向部R1と第二偏向部R2を有する。第一偏向部R1と第二偏向部R2は、ボールねじ軸205aが直進運動する際(送り方向FWに変位する際)に、ボールねじ軸205aを軸線周りに回転させる回転機構部となる。換言すると、直進運動するボールねじ軸205aを軸線周りに回転させる回転機構部がスリット251で構成される。
【0069】
スリット251が図4に示すように形成されると、ボールねじナット205b(図3参照)の左方向Rot1への回転(左回転)にともなって送り方向FWに変位するボールねじ軸205aは、下記(1)〜(3)のように回転する。
(1)ガイドピン252が第二偏向部R2でガイドされるとき、ボールねじ軸205aは右回転し、ボールねじナット205bとボールねじ軸205aは逆方向に回転する。
(2)ガイドピン252が直線部L1でガイドされるとき、ボールねじ軸205aは回転しない。
(3)ガイドピン252が第一偏向部R1でガイドされるとき、ボールねじ軸205aは左回転し、ボールねじナット205bとボールねじ軸205aは同方向に回転する。
なお、ボールねじナット205bの回転速度はボールねじ軸205aの回転速度よりも速い。つまり、ボールねじナット205bが一回転してもボールねじ軸205aは一回転しない。
【0070】
また、第二偏向部R2は、送り方向FWに変位するボールねじ軸205aをボールねじナット205b(図3参照)と逆方向に回転させる逆回転部となる。さらに、第一偏向部R1は、送り方向FWに変位するボールねじ軸205aをボールねじナット205bと同方向に回転させる正回転部となる。
【0071】
このように、エンドキャップ205d(スリット251)は、直進運動するボールねじ軸205aを軸線の回りに回転させる。
【0072】
モータシリンダ装置20(図2参照)は、ボールねじ軸205a(図3参照)が、戻り方向REVの終点位置まで変位した状態(この状態を「初期状態」とする)のときにブレーキ液圧を発生しない。よって、初期状態は、ボールねじ軸205aが変位していない状態であり、モータシリンダ装置20にブレーキ液圧が発生しない状態になる。さらに、モータシリンダ装置20が初期状態のとき、ボールねじ軸205aのガイドピン252(図3参照)は、スリット251の第二偏向部R2(図4参照)の位置にある。
また、モータシリンダ装置20は、電動モータ204(図2参照)が駆動してボールねじ軸205aが送り方向FWに変位したときにブレーキ液圧を発生する。
【0073】
モータシリンダ装置20(図2参照)が初期状態のとき、ガイドピン252(図3参照)は、スリット251の第二偏向部R2(図4参照)の位置にある。したがって、モータシリンダ装置20が初期状態のときに電動モータ204(図2参照)が始動してボールねじ軸205a(図3参照)が送り方向FWへの変位を開始した時点(電動モータ204の始動初期)で、ガイドピン252(図3参照)は第二偏向部R2でガイドされる。このため、電動モータ204の始動初期に、左方向Rot1に回転するボールねじナット205b(図3参照)の回転方向と、ボールねじ軸205aの回転方向(右回転)は異なる。つまり、電動モータ204の始動初期でボールねじ軸205aはボールねじナット205bと逆方向に回転する。
【0074】
第二偏向部R2は、ボールねじ軸205aが初期状態から所定量変位するまでガイドピン252(図3参照)をガイドする。そして、第1実施例においては、第二偏向部R2が形成されている範囲(ボールねじ軸205aが初期位置から所定量変位するまで)を初期変位とする。初期変位の長さ(つまり、初期状態から変位の所定量)は、モータシリンダ装置20(図2参照)に要求される性能等にもとづいて適宜設定されることが好ましい。
【0075】
ボールねじ軸205a(図3参照)がボールねじナット205b(図3参照)と逆方向に回転すると、ボールねじ軸205aが回転しない場合よりも、ボールねじナット205bに対するボールねじ軸205aの相対的な回転速度が高まる。これによって、ボールねじナット205bの回転速度が高まるのと同等の効果が生じる。
したがって、ボールねじ軸205aが回転しない場合よりも、ボールねじ軸205aが送り方向FWに変位する変位速度が高まる。そして、第二スレーブピストン201bおよび第一スレーブピストン201a(図2参照)の変位速度が高くなる。
【0076】
つまり、ボールねじ軸205a(図3参照)は、初期状態からの初期変位においてボールねじナット205b(図3参照)と逆方向に回転し、送り方向FWに変位する変位速度が高まる。
【0077】
なお、ボールねじナット205bに対するボールねじ軸205aの相対的な回転速度が高まることは、ボールねじナット205bとボールねじ軸205aの間のギヤ比が低くなることと同等である。換言すると、電動モータ204(図2参照)が出力する回転駆動力がボールねじ軸205aに伝達されるときのギヤ比が低くなることと同等の効果が生じる。
【0078】
また、ボールねじ軸205a(図3参照)が送り方向FWに変位してガイドピン252(図3参照)がスリット251の第一偏向部R1(図4参照)でガイドされるとき、ボールねじ軸205aは左回転する。したがって、左方向Rot1に回転するボールねじナット205bの回転方向と、ボールねじ軸205aの回転方向(左回転)が一致する。つまり、ボールねじ軸205aはボールねじナット205bと同方向に回転する。
これによって、ボールねじ軸205aが回転しない場合よりも、ボールねじ軸205aが送り方向FWに変位する変位速度は低くなる。つまり、第二スレーブピストン201bおよび第一スレーブピストン201aの変位速度が低くなる。
【0079】
なお、エンドキャップ205dの第一偏向部R1(図4参照)は、ボールねじ軸205aが、あらかじめ設定される所定の基準量を超えて送り方向FWに変位する範囲に設けられることが好ましい。さらに、第一偏向部R1を設定するためのボールねじ軸205aの変位の基準量は、モータシリンダ装置20(図2参照)に要求される性能等にもとづいて適宜設定されることが好ましい。
【0080】
ボールねじ軸205a(図3参照)がボールねじナット205b(図3参照)と同方向に回転すると、ボールねじ軸205aが回転しない場合よりも、ボールねじナット205bに対するボールねじ軸205aの相対的な回転速度が低くなる。これによって、ボールねじナット205bとボールねじ軸205aの間のギヤ比が高くなったのと同等の効果が生じる。換言すると、電動モータ204(図2参照)が出力する回転駆動力がボールねじ軸205aに伝達されるときのギヤ比が高くなることと同等の効果が生じる。
【0081】
ボールねじナット205bとボールねじ軸205aの間のギヤ比が高くなると、ボールねじ軸205aの変位速度は低くなるがボールねじナット205bからボールねじ軸205aに伝達されるトルクが高くなる。そして、ボールねじ軸205aが送り方向FWに変位する推進力が高くなる。したがって、第二スレーブピストン201bおよび第一スレーブピストン201a(図2参照)の変位速度は低くなるが、第二スレーブピストン201bおよび第一スレーブピストン201aが変位するときの推進力が高くなる。
【0082】
このように、図1に示す第1実施例の車両用ブレーキシステムA(モータシリンダ装置20)は、図2に示すボールねじナット205bの回転速度に対するスレーブピストン(第一スレーブピストン201a,第二スレーブピストン201b)の変位速度が可変となるように構成されている。
【0083】
次に、図1に示す車両用ブレーキシステムAの動作について概略説明する。
車両用ブレーキシステムAが正常に機能する正常時に運転者がブレーキペダルPを踏み込み操作すると、常開型遮断弁4,5が弁閉状態となり、常閉型遮断弁6が弁開状態となる。そして、マスタシリンダ1で発生したブレーキ液圧は、ホイールシリンダWに伝達されずにストロークシミュレータ2に伝達され、ピストン2aが変位することにより、ブレーキペダルPのストロークが許容されるとともに、擬似的な操作反力がブレーキペダルPに付与される。
【0084】
また、図示しないストロークセンサ等によってブレーキペダルPの踏み込みが検知されると、モータシリンダ装置20の電動モータ204(図2参照)が駆動されてシリンダ本体200(図2参照)にブレーキ液圧が発生する。
電子制御ユニット(図示せず)は、ブレーキペダルPの踏み込み操作量に応じた適切なブレーキ液圧(目標液圧)を算出するとともに、モータシリンダ装置20から出力されるブレーキ液圧(圧力センサ7で検出されるブレーキ液圧)が、算出した目標液圧となるようにモータシリンダ装置20(電動モータ204)を制御する。
【0085】
モータシリンダ装置20で発生したブレーキ液圧は、液圧制御装置30を介してホイールシリンダW,W,…に伝達され、各ホイールシリンダWが作動することにより各車輪に制動力が付与される。
【0086】
なお、モータシリンダ装置20が作動しない状況(例えば、電力が得られない場合や非常時など)においては、常開型遮断弁4,5がいずれも弁開状態となり、常閉型遮断弁6が弁閉状態となるので、マスタシリンダ1で発生したブレーキ液圧は、ホイールシリンダW,W,…に伝達される。
【0087】
図5は、モータシリンダ装置に発生するブレーキ液圧の変化を、電動モータの始動初期からの時間経過にしたがって示したグラフである。図5のグラフの横軸は時間を示し、縦軸はブレーキ液圧を示す。
【0088】
従来、ボールねじ軸205a(図4参照)は軸線回り(中心線CLの回り)に回転しないように構成されている。このため、電動モータ204(図2参照)の始動初期で電動モータ204の回転軸204a(図2参照)の回転速度が遅いとき、ブレーキ液の液損の影響によって、第一スレーブピストン201aと第二スレーブピストン201b(図2参照)の動作で発生するブレーキ液圧がホイールシリンダW(図1参照)に伝達するまでに時間的な遅れが生じる場合がある。また、ホイールシリンダWに伝達されるブレーキ液圧が高いときには、モータ負荷が大きくなってトルク負けが発生し、第一スレーブピストン201aと第二スレーブピストン201bの変位速度が遅くなる。
【0089】
このため、従来は、電動モータ204(図2参照)の始動初期(t0→t1)においてブレーキ液圧の立ち上がりが遅くなる。また、ブレーキ液圧が高い状態では、ブレーキ液圧の上昇が鈍くなる。
【0090】
これに対し、第1実施例のボールねじ軸205a(図3参照)は、電動モータ204(図2参照)の始動初期にボールねじナット205b(図3参照)と逆方向に回転する(ギヤ比が低いのと同じ状態になる)。したがって、電動モータ204の回転軸204a(図2参照)の回転速度が遅くてもボールねじ軸205aが速やかに送り側FWに変位する。そして、これにともなって、第一スレーブピストン201aと第二スレーブピストン201b(図2参照)が速やかに変位する。このため、実線で示すように、モータシリンダ装置20に発生するブレーキ液圧は速やかに上昇し、ブレーキ液圧の立ち上がりが速くなる(t0→t1)。因みに、時刻t0から時刻t1の間がボールねじ軸205aの初期変位になる。
【0091】
その後、電動モータ204が所定の回転速度で駆動するとモータシリンダ装置20(図2参照)に発生するブレーキ液圧は規定通りに上昇する(t1→t2)。
さらに、ボールねじ軸205a(図3参照)が送り方向FWに変位して、ガイドピン252(図3参照)が第一偏向部R1でガイドされる状態になると、ボールねじ軸205aがボールねじナット205b(図3参照)と同方向に回転する(ギヤ比が高いのと同じ状態になる)。これによって、ボールねじナット205bからボールねじ軸205aに伝達されるトルクが高くなり、ボールねじ軸205aが送り方向FWに変位する推進力が高くなる。
【0092】
そして、第一スレーブピストン201aおよび第二スレーブピストン201b(図2参照)が変位するときの推進力が高くなる。したがって、シリンダ本体200(図2参照)におけるブレーキ液圧が高くなっても、第一スレーブピストン201aと第二スレーブピストン201bが速やかに変位する。したがって、ブレーキ液圧の速やかな上昇が継続される(t2→t3)。
【0093】
このように、第1実施例のモータシリンダ装置20(図2参照)は、電動モータ204(図2参照)の始動初期(t0→t1)において、ブレーキ液圧が速やかに立ち上がる。また、ブレーキ液圧が高い状態でも、ブレーキ液圧の速やかな上昇が継続される(t2→t3)。
【0094】
《第2実施例》
図6は第2実施例に係るエンドキャップの断面図である。
第2実施例は、エンドキャップ205dの形状が第1実施例のエンドキャップ205d(図3参照)の形状と異なっている。
例えば、第2実施例のエンドキャップ205dは、図6に示すように、開口部250aの側から、第一螺旋部R10、連結部L10、第二螺旋部R20が形成されている。第一螺旋部R10と第二螺旋部R20は、螺旋状に内壁を周回する凹溝251aからなる。そして、第一螺旋部R10と第二螺旋部R20は逆方向に周回している。また、連結部L10は、内壁に形成される中心線CLに沿った直線状の凹溝251aからなる。さらに、第一螺旋部R10と第二螺旋部R20が連結部L10で連通される。そして、ボールねじ軸205aのガイドピン252(図3参照)が、第一螺旋部R10、連結部L10、および第二螺旋部R20でガイドされる。
なお、エンドキャップ205dの第一螺旋部R10は開口部250aの側からピッチが漸増する(開口部250aの側からピッチが徐々に広がる)。
【0095】
第二螺旋部R20は、送り方向FWに変位するボールねじ軸205a(図3参照)を、閉塞部250bの側から見て軸線回りに右回転させる凹溝251aからなる。また、第一螺旋部R10は、送り方向FWに変位するボールねじ軸205aを、閉塞部250bの側から見て軸線回りに左回転させる凹溝251aからなる。
【0096】
このような形状のエンドキャップ205dであっても、電動モータ204(図2参照)の始動初期に、ボールねじ軸205a(図3参照)をボールねじナット205b(図3参照)と逆方向に回転させることが可能になる。さらに、ブレーキ液圧が高い状態で、ボールねじ軸205aをボールねじナット205bと同方向に回転させることが可能になる。
【0097】
なお、本発明は、前記した実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜設計変更が可能である。
【0098】
例えば、図4に示すスリット251は、エンドキャップ205dの周壁を貫通するように構成されている。しかしながら、スリット251と同形状の内溝(図示せず)がエンドキャップ205dの内壁に形成され、ボールねじ軸205aのガイドピン252が、この内溝にガイドされる構成であってもよい。
【0099】
また、基体となるシリンダ本体200(図2参照)でボールねじ軸205a(図2参照)の端部が収容される部位に、ガイドピン252をガイドする内溝(図示せず)が形成される構成であってもよい。そして、この内溝が、図4に示すスリット251と同じ形状であってもよい。この構成であれば、図3に示すエンドキャップ205dが不要になる。したがって、モータシリンダ装置20(図2参照)の部品点数を削減できる。
【0100】
また、第1実施例,第2実施例の電動アクチュエータには、ボールねじ構造体205(図2参照)が備わり、ボールねじナット205b(図2参照)とボールねじ軸205a(図2参照)の間に、動力伝達部材としてのボール205cが配置される。このような動力伝達部材は、ボール205cに限定されるものではない。例えば、ボールねじナット205bの回転に応じて転動するコロ部材(図示せず)が動力伝達部材として備わる構成であってもよい。
【符号の説明】
【0101】
1 マスタシリンダ
1a 第一マスタピストン(マスタピストン)
1b 第二マスタピストン(マスタピストン)
20 モータシリンダ装置(液圧発生装置)
200 シリンダ本体(基体)
201a 第一スレーブピストン(スレーブピストン)
201b 第二スレーブピストン(スレーブピストン)
204 電動モータ(電動機)
205 ボールねじ構造体(電動アクチュエータ)
205a ボールねじ軸(軸部材)
205b ボールねじナット(ナット部材)
205c ボール(動力伝達部材)
205d エンドキャップ(ガイド部)
251 スリット(ガイド溝)
252 ガイドピン(突起部)
A 車両用ブレーキシステム
CL 中心線(軸線)
L1 直線部
P ブレーキペダル(ブレーキ操作子)
R1 第一偏向部(正回転部,回転機構部)
R2 第二偏向部(逆回転部,回転機構部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6