(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5945950
(24)【登録日】2016年6月10日
(45)【発行日】2016年7月5日
(54)【発明の名称】硬質皮膜被覆切削工具
(51)【国際特許分類】
B23B 51/00 20060101AFI20160621BHJP
B23C 5/16 20060101ALI20160621BHJP
B23B 27/14 20060101ALI20160621BHJP
C23C 14/06 20060101ALI20160621BHJP
【FI】
B23B51/00 J
B23C5/16
B23B27/14 A
C23C14/06 A
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-196866(P2012-196866)
(22)【出願日】2012年9月7日
(65)【公開番号】特開2014-50916(P2014-50916A)
(43)【公開日】2014年3月20日
【審査請求日】2015年6月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005197
【氏名又は名称】株式会社不二越
(74)【代理人】
【識別番号】100192614
【弁理士】
【氏名又は名称】梅本 幸作
(74)【代理人】
【識別番号】100158355
【弁理士】
【氏名又は名称】岡島 明子
(72)【発明者】
【氏名】北島 和男
【審査官】
村上 哲
(56)【参考文献】
【文献】
独国特許発明第19738098(DE,C1)
【文献】
特開平8−257808(JP,A)
【文献】
特開2013−233652(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2008/0273933(US,A1)
【文献】
特開2006−150583(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2002/0051885(US,A1)
【文献】
特表2008−517860(JP,A)
【文献】
特開平10−273778(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 51/00
B23B 27/14
B23C 5/16
C23C 14/00−14/58
C23C 16/00−16/56
WPI
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Tiの窒化物からなる第1および第3の硬質皮膜と、Tiの炭窒化物からなる第2の硬質皮膜と、が被覆されている硬質皮膜被覆切削工具であって、前記第1ないし第3の硬質皮膜が、前記硬質皮膜被覆切削工具の母材側から前記第1の硬質皮膜、前記第2の硬質皮膜、前記第3の硬質皮膜の順に被覆されており、前記第2の硬質皮膜は、X線回折時の(111)結晶面のピーク強度をh(111)、(200)結晶面のピーク強度をh(200)と表して、前記各ピーク強度の比であるh(111)/h(200)をHとした時に、20≦H≦50の関係式を満たす硬質皮膜であることを特徴とする硬質皮膜被覆切削工具。
【請求項2】
前記第1の硬質皮膜はTiNであり、前記第3の硬質皮膜はTi2Nであることを特徴とする請求項1に記載の硬質皮膜被覆切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Ti(チタン)の窒化物および炭窒化物からなる硬質皮膜を被覆した切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的にドリルやエンドミルに代表される切削工具には、耐摩耗性や靱性を高めるためにDLC(ダイヤモンドライクカーボン)やチタン化合物など種々の硬質皮膜が被覆されている。これらの硬質皮膜の選定に関しては、切削工具の材種(高速度工具鋼や超硬合金等)との密着性や多層膜の場合には安定した積層ができるか否か等の種々の観点から決定される。
【0003】
中でも、Tiの窒化物や炭窒化物からなる硬質皮膜は広範な材種に被覆することができて、かつ比較的容易に多層膜を被覆できる点から種々の切削工具に多用されている。例えば、特許文献1では、超硬合金製の基体上にTiを含む窒化物、炭窒化物の内の1種以上で構成される硬質皮膜を少なくとも1層以上被覆した切削工具であって、この硬質皮膜中には0.01質量%〜1質量%の不活性ガスが含有されており、X線回折法で検出されたピークのうち、硬質皮膜の(111)結晶面のピーク強度Aと(200)結晶面のピーク強度Bとの比である(A/B)が、1.1<(A/B)<10.0の関係を満たす切削工具が開示されている。この切削工具は、硬質皮膜の付着力を低下させることなく、高硬度を得ることができて、耐摩耗性を向上できるという特徴を有している。
【0004】
また、特許文献2では、超硬合金(母材)の表面から近い順にTiN(窒化チタン)層、TiCN(炭窒化チタン)層、TiN層を被覆した切削工具であって、X線回折法でTiN層の最大のピーク強度である結晶面を(hkl)結晶面とし、TiCN層の(hkl)結晶面のピーク強度I(hkl)と、(422)結晶面のピーク強度I(422)との比であるI(422)/I(hkl)をRとするとき、切削工具のTiCN層における最表面側のRが(TiCN層における)TiN層側のRよりも大きくする切削工具が開示されている。この切削工具は断続切削においては硬質皮膜の剥離が発生せず、長寿命で耐欠損性および耐チッピング性を兼ね備えているという特徴を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−150583号公報
【特許文献2】特開2006−297583号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された切削工具は、仮に1.1<A/B<10.0の関係を満足する条件でドリルを作製した場合、結晶歪みが大きく軟質化した皮膜ではドリルの連続切削に対して皮膜の靱性が切削加工に耐えうることが出来ず、寿命低下に陥るという問題があった。
【0007】
また、特許文献2に示す切削工具には、TiCN層におけるピーク強度の比(I(422)/I(hkl))について、実施例に開示されている事例はI(hkl)がI(111)の場合で、I(111)のピークが最大であり、かつI(111)と他の結晶面に現れるピーク強度の比は、包括的には10より小さい事が望ましいと述べている。しかし、この点については前述の特許文献1の場合と同様に連続切削加工に対する被覆として、また加工毎に著しい衝撃が加わる工具に対する被覆としては結晶配向比率が適していない。その結果、この被覆の持つ靱性は加工現象に対する耐性に乏しく、早期摩耗や折損を引き起こしやすいという問題があった。
【0008】
そこで、本発明においては、連続切削加工において長寿命の硬質皮膜被覆切削工具を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述した課題を解決するために、本発明者はTiの窒化物および炭窒化物からなる硬質皮膜を被覆した切削工具に着目し、特に最下層(第1の硬質皮膜)、中間層(第2の硬質皮膜)および最表層(第3の硬質皮膜)の3層からなる硬質皮膜の場合、中間層(第2の硬質皮膜)がTiの炭窒化物である硬質膜について鋭意研究した。その結果、Tiの炭窒化物の硬質膜のX線回折時の複数の結晶面のピーク強度比が特定の関係である場合に切刃の耐摩耗性が向上することを見出した。
【0010】
そこで、本発明においては、Tiの窒化物からなる第1および第3の硬質皮膜と、Tiの炭窒化物からなる第2の硬質皮膜と、を被覆している硬質皮膜被覆切削工具であって、硬質皮膜は工具の母材側から第1の硬質皮膜、第2の硬質皮膜、第3の硬質皮膜の順に被覆しており、第2の硬質皮膜はX線回折時の(111)結晶面のピーク強度をh(111)、(200)結晶面のピーク強度をh(200)と表して、各ピーク強度の比であるh(111)/h(200)をHとした時、20≦H≦50の関係式を満たす硬質皮膜である硬質皮膜被覆切削工具とした。本発明に係る硬質皮膜被覆切削工具とすることにより、硬質皮膜の耐摩耗性が向上する。
【0011】
また、請求項2に係る発明は第1の硬質皮膜をTiN、第3の硬質皮膜をTi
2Nとする硬質皮膜被覆切削工具とした。本発明に係る硬質皮膜被覆切削工具とすることにより、靱性に富んだ最下層(第1の硬質皮膜)上に、高硬度で耐摩耗性に優れた最表層(第3の硬質皮膜)が形成される。
【発明の効果】
【0012】
以上述べたように、本発明に係る硬質皮膜被覆切削工具とすることにより硬質皮膜の耐摩耗性が向上するので、連続切削加工においても長寿命であるという効果を奏する。また、第1の硬質皮膜をTiN、第3の硬質皮膜をTi
2Nとする硬質皮膜被覆切削工具とすることにより、靱性に富んだ最下層(第1の硬質皮膜)上に、高硬度で耐摩耗性に優れた最表層(第3の硬質皮膜)が形成されるので、切削加工時に切刃の摩耗の進行を抑制しつつ、刃先欠損等の突発的な寿命低下を防止できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係る硬質皮膜を被覆した切削工具表面の模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施の形態の一例について図面を参照して説明する。
図1は本発明に係る硬質皮膜を被覆した切削工具表面の模式断面図である。本発明に係る硬質皮膜被覆切削工具1は、
図1に示すように超硬合金製または高速度工具鋼製の母材(基材)2側から近い順に、最下層としてのTiの窒化物(第1の硬質皮膜3)、中間層としてのTiの炭窒化物(第2の硬質皮膜4)、最表層としてのTiの窒化物(第3の硬質皮膜5)からなる硬質皮膜10が被覆されている。以下、第1ないし第3の硬質皮膜について詳細に説明する。
【0015】
最下層としてのTiの窒化物(第1の硬質皮膜)は、切削工具の母材表面に直接被覆する硬質皮膜であり、アルゴンガスによりイオンボンバード処理がなされた母材表面に対して、Ti製ターゲットが設置された真空チャンバー内へ窒素ガスを導入することで被覆する。第1の硬質皮膜の膜厚は、第2および第3の皮膜を積層する点から0.3μm〜0.8μmの範囲とすることが好ましい。また、第1の硬質皮膜としては切削工具表面に直接被覆する点から窒化チタン(TiN)であることが好ましい。
【0016】
中間層としてのTiの炭窒化物(第2の硬質皮膜)は、第1の硬質皮膜上に直接被覆される硬質皮膜であり、Ti製ターゲットが設置された真空チャンバー内に窒素ガスとアセチレンなどの炭化水素系ガスを導入して形成される。第2の硬質皮膜の膜厚は、上下方向に第1および第3の硬質皮膜により挟まれた状態で積層する点から、2.0μm〜2.5μmの範囲とすることが好ましい。また、第2の硬質皮膜としては切削工具表面や被削材とは接することはなく、第1および第3の硬質皮膜をTiNとする場合には、TiNとの密着性向上の観点から炭窒化チタン(TiCN)とすることが好ましい。さらに、第2の硬質皮膜は成膜工程中に成膜室(チャンバー)内の減圧雰囲気やチタン製ターゲットへのバイアス電圧等の成膜条件を変更することで、炭窒化チタン(TiCN)を構成する炭素(C)と窒素(N)の構成比率が異なる多層膜にすることがより好ましい。
【0017】
また、第2の硬質皮膜については、銅製ターゲットを用いたX線回折時の(111)結晶面のピーク強度をh(111)、(200)結晶面のピーク強度をh(200)とした時の各ピーク強度の比であるh(111)/h(200)が、20≦h(111)/h(200)≦50の関係式を満たすことで、切削工具の逃げ面における耐摩耗性が向上する。また、長寿命と耐摩耗性向上とを両立する観点から、上記の関係式が30≦h(111)/h(200)≦50の関係を満たすことが好ましい。
【0018】
最表層としてのTiの窒化物(第3の硬質皮膜)は、第2の硬質皮膜上に直接被覆する硬質皮膜であり、第1の硬質皮膜の場合と同様にTi製ターゲットが設置された真空チャンバー内に窒素ガスを導入して形成される。第3の硬質皮膜の膜厚は、第2の硬質皮膜上に積層する点から0.1μm〜0.5μmの範囲とすることが好ましい。また、第3の硬質皮膜としては切削工具の最表層である点から窒化二チタン(Ti
2N)であることが好ましい。
【実施例1】
【0019】
ドリルの母材表面から近い順に第1の硬質皮膜としてTiN(膜厚:0.5μm)、第2の硬質皮膜としてTiCN(膜厚:2.0μm)、第3の硬質皮膜としてTi
2N(膜厚:0.3μm)の各硬質皮膜(総膜厚:2.8μm)を、種々の異なる成膜条件(真空チャンバー内圧力:0.5〜0.6Pa、バイアス電圧:50〜150V)で被覆したドリルNo.1〜12(計12本)を用いて、穴加工試験(以下、本試験という)を行った。その結果について表1を用いて説明する。表1は、異なる成膜条件(全12水準)にて硬質皮膜を被覆したドリルを用いて本試験を行った場合の使用ドリルの硬質皮膜(第2の硬質皮膜)のピーク強度比H、硬質皮膜の硬度(単位:ビッカース硬さHv)およびドリルの二番面摩耗幅(単位:μm)をそれぞれ示す。また、本試験は以下の試験条件により行った。
・使用工具:高速度工具鋼製ドリル(ドリル径6.0mm)
・被削材:炭素鋼S50C(ブリネル硬さ:180HB)
・切削速度:40m/min
・送り量:0.18mm/rev
・回転数:2100min
−1
・加工穴数:100穴
【0020】
【表1】
【0021】
表1に示すように、硬質皮膜(第2の硬質皮膜)のピーク強度比Hの値が2.2〜14.6の範囲にあるドリルNo.1〜6およびピーク強度比Hが55.6であるドリルNo.12を用いた各ドリルの二番面の摩耗幅は、25.3μm〜43.9μmの範囲であった。これに対して、本発明である硬質皮膜(第2の硬質皮膜)のピーク強度比Hの値が22.3〜48.7の範囲にあるドリルNo.7〜11の各ドリルの二番面の摩耗幅は、11.7μm〜21.8μmの範囲であった。以上の結果より、本発明である硬質皮膜(第2の硬質皮膜)のピーク強度比Hが20以上50以下であるドリルを用いることで、ドリルの二番面の摩耗幅を低減することができた。
【実施例2】
【0022】
次に、実施例1と同様にエンドミルの母材表面から近い順に第1の硬質皮膜としてTiN(膜厚:0.5μm)、第2の硬質皮膜としてTiCN(膜厚:2.1μm)、第3の硬質皮膜としてTi
2N(膜厚:0.3μm)の各硬質皮膜(総膜厚:2.9μm)を、種々の異なる成膜条件(真空チャンバー内圧力:0.5〜0.6Pa、バイアス電圧:50〜150V)で被覆したエンドミルNo.1〜12(計12本)を用いて、切削加工試験(以下、本試験という)を行った。その結果について表2を用いて説明する。表2は、異なる成膜条件(全12水準)にて硬質皮膜を被覆したエンドミルを用いて本試験を行った場合のエンドミルの硬質皮膜(第2の硬質皮膜)のピーク強度比H、硬質皮膜の硬度(単位:ビッカース硬さHv)およびエンドミルの逃げ面摩耗幅(単位:μm)をそれぞれ示す。また、本試験は以下の試験条件により行った。
・使用工具:高速度工具鋼製2枚刃エンドミル(エンドミル径10.0mm)
・被削材:炭素鋼S50C(ブリネル硬さ:180HB)
・切削速度:41m/min
・送り量:0.065mm/rev
・切り込み量(aa×ae):15mm×2.5mm
・総切削長:5m
【0023】
【表2】
【0024】
表2に示すように、硬質皮膜(第2の硬質皮膜)のピーク強度比Hの値が3.9〜16.6の範囲にあるエンドミルNo.1〜6およびピーク強度比Hが57.9であるエンドミルNo.12を用いた各エンドミルの逃げ面の摩耗幅は、150μm〜189μmの範囲であった。これに対して、本発明である硬質皮膜(第2の硬質皮膜)のピーク強度比Hの値が23.8〜46.9の範囲にあるエンドミルNo.7〜11の各エンドミルの逃げ面の摩耗幅は、130μm〜139μmの範囲であった。以上の結果より、本発明である硬質皮膜(第2の硬質皮膜)のピーク強度比Hの値が20以上50以下であるエンドミルを用いることで、エンドミルの逃げ面の摩耗幅を低減することができた。
【符号の説明】
【0025】
1 硬質皮膜被覆切削工具
2 (硬質皮膜被覆切削工具の)母材
3 第1の硬質皮膜
4 第2の硬質皮膜
5 第3の硬質皮膜
10 硬質皮膜