(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5945952
(24)【登録日】2016年6月10日
(45)【発行日】2016年7月5日
(54)【発明の名称】シェービングカッタ
(51)【国際特許分類】
B23F 21/28 20060101AFI20160621BHJP
【FI】
B23F21/28
【請求項の数】2
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2012-215928(P2012-215928)
(22)【出願日】2012年9月28日
(65)【公開番号】特開2014-69259(P2014-69259A)
(43)【公開日】2014年4月21日
【審査請求日】2015年6月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005197
【氏名又は名称】株式会社不二越
(74)【代理人】
【識別番号】100192614
【弁理士】
【氏名又は名称】梅本 幸作
(74)【代理人】
【識別番号】100158355
【弁理士】
【氏名又は名称】岡島 明子
(72)【発明者】
【氏名】小林 慶紀
【審査官】
齊藤 彬
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭60−039023(JP,A)
【文献】
特開平04−183522(JP,A)
【文献】
特開昭53−091492(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23F 21/28
WPI
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カッタ歯のセレーションピッチが全て同一である一組のカッタ歯群を複数組有しているシェービングカッタであって、
前記一組のカッタ歯群と他の一組のカッタ歯群のセレーションピッチが各々異なることを特徴とするシェービングカッタ。
【請求項2】
前記カッタ歯群を偶数組有していることを特徴とする請求項1に記載のシェービングカッタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯車の歯面仕上げ工程に用いられるシェービング加工の中でも、特にプランジカットシェービング加工に用いるシェービングカッタに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、歯車の要求精度が向上していることに伴い、歯切工具による高精度加工が要求されるようになってきた。これは、歯車の仕上げ加工であるシェービング加工においても同様であり、高い歯形・歯筋精度が要求され、特に歯形・歯筋のうねりが問題視されるようになってきた。
【0003】
中でも、歯車の歯面仕上げ工程で行われるプランジカットシェービング加工は、被削歯車が1回転する毎にセレーションの切刃の位置が歯筋方向に等しいズレ量で移動して、作用する各切刃により切削を行う加工である。このとき、歯車の1回転毎におけるシェービングカッタの切刃の歯面に対する切込み量は一般的に1μm以下の微少量である。
【0004】
この様なシェービングカッタとしては、例えば特許文献1に1つの切刃において正転側と逆転側で各々切刃のセレーションピッチを異なるものとするシェービングカッタが開示されている。このようなシェービングカッタの構成にすることで、被削歯車の左右歯面の切削量を均一にして、歯車の歯強度の向上を図っている。
【0005】
しかし、特許文献1に開示されているシェービングカッタでは被削歯車の左右各歯面の切削時には左右各歯面に同じような歯形・歯筋のうねりが生じる可能性がある。これは、被削歯車における歯形・歯筋のうねりが発生する要因として、加工機によるものと加工法によるものとの2つの要因が考えられるためである。
【0006】
すなわち、加工機による要因とは、シェービング加工は被削歯車とシェービングカッタとの連れ回り(共回り)であり、シェービング加工時に用いる加工機の固有振動が被削歯車にも伝播するためであると考えられる。また、加工法の要因とはシェービング加工は被削歯車の歯面に対して微小量の切り込みを繰り返す加工であり、切り込みによる1回当たりの加工量が一般的に1μm以下と微小である。そのため、被削歯車が1回転する毎に「切削する加工」と「切削されない加工(切削されずに歯車の歯面上を滑るだけ)」が生じる。その結果、「切削された部分」と「切削されなかった部分」とが歯形・歯筋のうねりとなって現れると考えられる。
【0007】
そこで、特許文献2では、被削歯車の加工時において歯車の同一歯に対して加工回数毎にズレ量を変化させるシェービングカッタが開示されている。このシェービングカッタは歯車の加工精度を向上することを特徴としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭63−57118号公報
【特許文献2】特開2009−255276号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、一般的な歯切工具の寿命は被削歯車の加工精度の低下を以って判断されることが多い。例えば、歯車加工の開始から所定個数を加工すれば、歯切工具が摩耗し、切削能力が低下する。そのため歯車加工が進むにつれて被削歯車の加工精度は低下していき、最終的には被削歯車の加工精度が目標値から外れたことを以って歯車加工の終了と判断される。つまり、加工開始から加工終了までの実加工数が歯切工具の(使用)寿命となる。
【0010】
また、シェービングカッタの切刃の摩耗形態には、高硬度材の被削歯車を切削することによる摩耗と、被削歯車に対する切削順序に起因する擦り(摩擦)摩耗とがある。特に、この擦り摩耗に関しては、前述したシェービングカッタによる歯車加工が微小切削であることに起因して発生していると考えられる。すなわち、被削歯車の加工位置が連続的に重なるように加工されている場合には、被削歯車の1つの歯面に対して「切削する加工」と「切削しない加工」の工程を繰り返すことで歯車加工が進む場合がある。この「切削しない加工」の工程では、被削歯車の1つの歯面にシェービングカッタの切刃を押し付け、擦っている状態になり、結果としてシェービングカッタの切刃に対し擦り摩耗が発生すると考えられる。
【0011】
この点について、前述した特許文献2のシェービングカッタについてみると、同文献の
図7に示すように、被削歯車の加工時において歯車の同一歯に対して加工回数毎にズレ量を変化させている。しかし、ズレ量の大小に関わらず被削歯車の加工位置は連続的に重なるように加工されている。また、シェービングカッタによる1回当たりの切り込み量も一般的な1μm以下の微小量であることから、被削歯車の1つの歯面に対して、「切削する加工」と「切削しない加工」の工程を繰り返す歯車加工を行う。そのため、同文献2に示すシェービングカッタには(シェービングカッタの)切刃において擦り(摩擦)摩耗が進行して、工具寿命が短くなるという問題があった。
【0012】
そこで、本発明においては被削歯車の安定した加工精度を保ちながら、工具寿命の長いシェービングカッタを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前述した課題を解決するために、本発明においては、カッタ歯のセレーションピッチが全て同一である一組のカッタ歯群を複数組有しているシェービングカッタであって、一組のカッタ歯群と他の一組のカッタ歯群のセレーションピッチが各々異なるシェービングカッタとした。このシェービングカッタを用いることで、シェービングカッタの切刃による被削歯車への加工位置が(重ならずに)分散される。すなわち、被削歯車の同一歯面に着目した場合、シェービングカッタの切刃と被削歯車の歯面とが不規則に接触することで歯車加工が行われる。
【0014】
また、第2の発明については、カッタ歯群を偶数組有しているシェービングカッタとした(請求項2)。例えば、2種類のセレーションピッチを有するカッタ歯群により構成されるシェービングカッタである場合には、カッタ歯群を複数組とすることで2種類のセレーションピッチを有するカッタ歯群の組数を均等にすることができる。
【発明の効果】
【0015】
以上述べたように、本発明に係るシェービングカッタを用いることで、シェービングカッタの切刃による被削歯車への加工位置が(重ならずに)分散されるので、被削歯車の安定した加工精度を保ちながら、工具寿命が長くなるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施の形態の一例を示すシェービングカッタ1を構成するカッタ歯3の斜視図である。
【
図2】カッタ歯3のセレーションピッチ4(4a、4b)が各々異なるカッタ歯群5(5a、5b)を有するシェービングカッタ1の模式部分展開図である。
【
図3】2種類の異なるセレーションピッチ4a、4bを有するカッタ歯群5a、5bから構成される場合のシェービングカッタ1の模式側面図である。
【
図4】従来のシェービングカッタおよび本発明品を用いて、切削加工の際に被削歯車の歯面に対して1μmずつ切り込むように送りを与えた場合の被削歯車の歯面の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施の形態の一例について、図面を参照して説明する。
図1に示すように、シェービングカッタ1は複数の切刃2を備えるカッタ歯3が複数枚有することで構成されている。特に、切刃2のセレーションピッチ4が同一であるカッタ歯3が複数枚集まって一群のカッタ歯群5を形成している。
【0018】
また、
図2に示すように、本発明のシェービングカッタ1には2種類の異なるセレーションピッチ4a、4bを形成する複数のカッタ歯3が集まって構成されるカッタ歯群5(5a、5b)が存在しており、それらのカッタ歯群5a、5bは互いに隣接している。
【0019】
例えば、
図3に示すように本発明に係るシェービングカッタ1がセレーションピッチ4aを有するカッタ歯群5aと、セレーションピッチ4bを有するカッタ歯群5bから構成される場合、シェービングカッタ1全体を構成するカッタ歯群5は、カッタ歯群5aとカッタ歯群5bとが互いに隣接するように形成される。
【0020】
次に、従来のシェービングカッタおよび本発明に係るシェービングカッタを用いた切削加工時における加工形態の相違について
図4を用いて説明する。
図4は、従来のシェービングカッタおよび本発明品を用いて、切削加工の際に被削歯車の歯面に対して1μmずつ切り込むように送りを与えた場合の被削歯車の歯面の模式図である。切削加工時の加工順序は
図4に示す(I)、(II)、(III)、(IV)、(V)の順序で切削加工が進むものとする。
図4の左側に示すように、従来のシェービングカッタを用いた被削歯車への加工形態は、例えば加工順序(II)では加工順序(I)で被削歯車の歯面から1μmの深さで加工された部分と一部重複するように、更に1μmの深さで加工される。すなわち、従来のシェービングカッタを用いた切削加工は前回の加工位置と常に一部重複する形で切削加工が進み、その加工量(加工深さ)は前回の加工量との差が一定になる(
図4の場合は1μm)。
【0021】
これに対して、本発明に係るシェービングカッタを用いた切削加工時における加工形態は、
図4の右側に示すように例えば加工順序(II)では加工順序(I)で加工された部分と重複しないように、被削歯車の歯面から新たに2μmの深さで加工される。すなわち、本発明のシェービングカッタを用いた切削加工はセレーションピッチがカッタ歯群毎に異なるので、必ずしも前回の加工位置と一部重複する形で切削加工が進むものではなく、不規則的に被削歯車に対して切削加工が行われる。
【実施例】
【0022】
本発明に係るシェービングカッタ(以下、本発明品という)および比較材としての従来のシェービングカッタ(以下、従来品という)の両方を用いて切削加工試験を行い、寿命に至るまでの被削歯車の加工個数を比較した。本発明品の諸元は、モジュール2.45、ねじれ角17°、カッタ歯数89、セレーションピッチ2.0mmおよび2.1mmの混在形態とした。異なるセレーションピッチの具体的な混在形態としては、
図3に示すようにセレーションピッチ2.0mmのカッタ歯群(
図3のカッタ歯群5aに相当)と、セレーションピッチ2.1mmのカッタ歯群(
図3のカッタ歯群5bに相当)とが互いに隣接する形態とした。これに対して、従来品の諸元はモジュール2.45、ねじれ角17°、カッタ歯数89、セレーションピッチ2.0mmとした。また、被削歯車の諸元はモジュール2.45、圧力角20°、ねじれ角32.2°、歯数15とした。
【0023】
切削加工試験は、本発明品および従来品ともにカッタ回転数170rpm、プランジ送り速度0.7mm/minの試験条件でシェービング加工を行った。なお、ここでシェービングカッタの寿命(工具寿命)は、被削歯車の加工精度が目標値から外れたか否か、または被削歯車の歯面において歯形や歯筋に関する周期的なバラつきが発生しているか否かを以って判断した。
【0024】
本発明品を用いた場合の切削加工試験の結果は、工具寿命に至るまでに加工できた個数は3572個であった。これに対して、従来品を用いた切削加工試験の結果は、工具寿命に至るまでに加工できた個数は3100個であった。また、第1番目に加工を行った被削歯車(初品)を構成する歯の内、等分4ヶ所の歯を選んで、歯面のうねり量を測定した。その結果、本発明品を用いて切削加工した初品の最大うねり量は2μmであり、これに対して従来品を用いて切削加工した初品の最大うねり量は1.5μmであった。この測定結果から、本発明品は(被削)歯車の安定した加工精度を従来品と同程度に保ちながら、従来品よりも(工具)寿命を延ばすという効果を得ることができた。
【符号の説明】
【0025】
1 シェービングカッタ
2 切刃
3 カッタ歯
4、4a、4b セレーションピッチ
5 カッタ歯群
5a 一組のカッタ歯群
5b 他の一組のカッタ歯群