(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ポリカーボネート系樹脂(A)とポリカーボネート系樹脂(A)とは異なるポリマー(B)と有機溶媒(C)とを溶解混合し、ポリカーボネート系樹脂(A)を主成分とする溶液相と、ポリマー(B)を主成分とする溶液相の2相に相分離する系において、エマルションを形成させた後、該エマルション1質量部に対して2〜10質量部のポリカーボネート系樹脂(A)の貧溶媒を80℃以上で接触させ、ポリカーボネート系樹脂(A)の微粒子を析出させることを特徴とするポリカーボネート系樹脂微粒子の製造方法。
ポリマー(B)が、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコールのいずれかであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載のポリカーボネート系樹脂微粒子の製造方法。
非プロトン性極性溶媒が、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、プロピレンカーボネートのいずれかであることを特徴とする請求項5記載のポリカーボネート系樹脂微粒子の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明につき詳細に説明する。
本発明の一実施態様に係る表面平滑な真球ポリカーボネート系樹脂微粒子は、ポリカーボネート系樹脂(A)とポリカーボネート系樹脂(A)とは異なるポリマー(B)と有機溶媒(C)とを溶解混合し、ポリカーボネート系樹脂(A)を主成分とする溶液相と、ポリマー(B)を主成分とする溶液相の2相に相分離する系において、エマルションを形成させた後、ポリカーボネート系樹脂(A)の貧溶媒との接触温度を80℃以上で、ポリカーボネート系樹脂(A)の微粒子を析出させることで製造する。
【0024】
本実施態様でいうポリカーボネート系樹脂(A)とは、カーボネート基を有したポリマーであり、脂肪族ポリカーボネート、芳香族ポリカーボネートなどが挙げられるが、例えば、下記一般式で代表される構造を有するものが挙げられる。
【0026】
ここで、R
1及びR
2は、各々独立に水素、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数5〜7のシクロアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、又はハロゲン基を示し、m及びnは各々独立に0〜4の整数を示し、Xは、直接結合、酸素、硫黄、SO、SO
2、CR
3R
4(ここでR
3及びR
4は、各々独立に水素、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基を示し、互いに同一でも異なっていても構わない。)、炭素数5〜11のシクロアルキリデン基、炭素数2〜10のアルキレン基、ポリジメチルシロキサン基、又はトリフルオロメチル基で示す構造で表される繰り返し単位である。
【0027】
置換基R
1及びR
2の具体例に関し、前記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、イソブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、sec−ペンチル基、tert−ペンチル基、ネオペンチル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、sec−ヘキシル基、tert−ヘキシル基、ネオヘキシル基、シクロペンチルメチル基などを挙げることができ、前記シクロアルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、メチルシクロペンチル基、シクロヘプチル基、メチルシクロヘキシル基、ジメチルシクロペンチル基、エチルシクロペンチル基などを挙げることができ、前記アリール基としては、例えば、フェニル基、メチルフェニル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、ジメチルフェニル基、トリメチルフェニル基、シクロヘキシルフェニル基、4−ビフェニル基、3−ビフェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、メチルナフチル基、ジメチルナフチル基、エチルナフチル基などを挙げることができ、前記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子を挙げることができる。
【0028】
XのCR
3R
4の内、R
3及びR
4の具体例に関し、水素原子、前記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、イソブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、sec−ペンチル基、tert−ペンチル基、ネオペンチル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、sec−ヘキシル基、tert−ヘキシル基、ネオヘキシル基、シクロペンチルメチル基などを挙げることができ、前記シクロアルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、メチルシクロペンチル基、シクロヘプチル基、メチルシクロヘキシル基、ジメチルシクロペンチル基、エチルシクロペンチル基などを挙げることができ、前記アリール基としては、例えば、フェニル基、メチルフェニル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、ジメチルフェニル基、トリメチルフェニル基、シクロヘキシルフェニル基、4−ビフェニル基、3−ビフェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、メチルナフチル基、ジメチルナフチル基、エチルナフチル基などを挙げることができる。
【0029】
入手の容易さ、コストの観点から、R
1及びR
2は、水素原子であることが好ましく、Xは、CR
3R
4の内、R
3及びR
4がメチル基、あるいは水素原子であることが好ましく、最も好ましくは、メチル基である。
【0030】
ポリカーボネート系樹脂(A)の分子量や分子量分布は、実質的に有機溶媒(C)に溶解可能であれば、特に限定されるものではないが、粒子構造を維持しやすく、耐加水分解性が向上するという点で、重量平均分子量としては、好ましくは1万以上、より好ましくは1万5千以上、さらに好ましくは2万以上、特に好ましくは5万以上、最も好ましくは10万以上であるのがよい。上限は特に制限されないが、100万以下である。ここでいう重量平均分子量とは、溶媒としてテトラヒドロフランを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したポリスチレン(PS)換算の重量平均分子量である。
【0031】
これらのポリカーボネート系樹脂は、公知の製造方法から製造することができ、例えば、界面重合法、溶融エステル交換法、固相エステル交換法、環状カーボネート化合物の開環重合法などを挙げることができる。公知の製造方法に使用される、ポリカーボネート系樹脂の原料としては、二価フェノールとホスゲンあるいはジフェニルカーボネートなどが挙げられる。
【0032】
二価フェノールの具体例としては、例えば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、4,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1−ジフェニルメタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2−(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)−2−(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、4,4′−ジヒドロキシビフェニル、2,2−ビス(2−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(2−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ブタン、1,1−ビス(2−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)エタン、1,1−ビス(2−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(2−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ブタン、1,1−ビス(2−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)イソブタン、1,1−ビス(2−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ヘプタン、1,1−ビス(2−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−1−フェニルメタン、1,1−ビス(2−tert−アミル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ブタン、ビス(3−クロロ−4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)メタン、2,2−ビス(3−クロロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−フルオロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−ブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジフルオロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−ブロモ−4−ヒドロキシ−5−クロロフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)ブタン、1−フェニル−1,1−ビス(3−フルオロ−4−ヒドロキシフェニル)エタン、ビス(3−フルオロ−4−ヒドロキシフェニル)エーテル、3,3′−ジフルオロ−4,4′−ジヒドロキシビフェニル、1,1−ビス(3−シクロヘキシル−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホキシド、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,1−ビス(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、ビス(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)スルホン、4,4′−(3,3,5−トリメチルシクロヘキシリデン)ジフェノール、両末端フェノールポリジメチルシロキサンなどが挙げられ、これらは、1種または2種以上使用しても構わない。また、本発明を損なわない範囲で、他の成分を共重合しても構わない。
【0033】
本実施態様に使用するポリカーボネート系樹脂(A)とは異なるポリマー(B)としては、ポリカーボネート系樹脂(A)とは異なるポリマー(B)のうち、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂が挙げられるが、有機溶媒(C)に溶解しやすいという観点から、熱可塑性樹脂が好ましい。
【0034】
具体的には、ポリ(ビニルアルコール)(完全ケン化型や部分ケン化型のポリ(ビニルアルコール)であってもよい)、ポリ(ビニルアルコールーエチレン)共重合体(完全ケン化型や部分ケン化型のポリ(ビニルアルコールーエチレン)共重合体であってもよい)、ポリビニルピロリドン、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(エチレンオキサイド)、ショ糖脂肪酸エステル、ポリ(オキシエチレン脂肪酸エステル)、ポリ(オキシエチレンラウリン脂肪酸エステル)、ポリ(オキシエチレングリコールモノ脂肪酸エステル)、ポリ(オキシエチレンアルキルフェニルエーテル)、ポリ(オキシアルキルエーテル)、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸ナトリウム、ポリスチレンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム、ポリビニルピロリジニウムクロライド、ポリ(スチレン−マレイン酸)共重合体、アミノポリ(アクリルアミド)、ポリ(パラビニルフェノール)、ポリアリルアミン、ポリビニルエーテル、ポリビニルホルマール、ポリ(アクリルアミド)、ポリ(メタクリルアミド)、ポリ(オキシエチレンアミン)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(ビニルピリジン)、ポリアミノスルホン、ポリエチレンイミン等の合成樹脂、マルトース、セルビオース、ラクトース、スクロースなどの二糖類、セルロース、キトサン、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、エチルヒドロキシセルロース、カルボキシメチルエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、セルロースエステル等のセルロース誘導体、アミロースおよびその誘導体、デンプンおよびその誘導体、デキストリン、シクロデキストリン、アルギン酸ナトリウムおよびその誘導体等の多糖類またはその誘導体、ゼラチン、カゼイン、コラーゲン、アルブミン、フィブロイン、ケラチン、フィブリン、カラギーナン、コンドロイチン硫酸、アラビアゴム、寒天、たんぱく質等が挙げられる。粒子径分布が狭くなることから、好ましくは、ポリ(ビニルアルコール)(完全ケン化型や部分ケン化型のポリ(ビニルアルコール)であってもよい)、ポリ(ビニルアルコールーエチレン)共重合体(完全ケン化型や部分ケン化型のポリ(ビニルアルコールーエチレン)共重合体であってよい)、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(エチレンオキサイド)、ショ糖脂肪酸エステル、ポリ(オキシエチレンアルキルフェニルエーテル)、ポリ(オキシアルキルエーテル)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メタクリル酸)、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、エチルヒドロキシセルロース、カルボキシメチルエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、セルロースエステル等のセルロース誘導体、ポリビニルピロリドンであり、より好ましくは、ポリ(ビニルアルコール)(完全ケン化型や部分ケン化型のポリ(ビニルアルコール)であってよい)、ポリ(ビニルアルコールーエチレン)共重合体(完全ケン化型や部分ケン化型のポリ(ビニルアルコールーエチレン)共重合体)、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(エチレンオキサイド)、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、エチルヒドロキシセルロース、カルボキシメチルエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、セルロースエステル等のセルロース誘導体、ポリビニルピロリドンであり、特に好ましくは、ポリ(ビニルアルコール)(完全ケン化型や部分ケン化型のポリ(ビニルアルコール)であってよい)、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(エチレンオキサイド)、ヒドロキシプロピルセルロースである。
【0035】
ポリカーボネート系樹脂(A)とは異なるポリマー(B)の分子量は、好ましくは、重量平均分子量で、1,000〜100,000,000、より好ましくは、1,000〜10,000,000、さらに好ましくは、5,000〜1,000,000であり、特に好ましくは、10,000〜500,000の範囲であり、最も好ましい範囲は、10,000〜100,000の範囲である。
【0036】
ここでいう重量平均分子量とは、溶媒として水を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定し、ポリエチレングリコールで換算した重量平均分子量を指す。
【0037】
水で測定できない場合においては、ジメチルホルムアミドを用い、それでも測定できない場合においては、テトラヒドロフランを用い、さらに測定できない場合においては、ヘキサフルオロイソプロパノールを用いる。
【0038】
本実施態様に使用する有機溶媒(C)とは、ポリカーボネート系樹脂(A)、及びポリカーボネート系樹脂(A)とは異なるポリマー(B)を溶解する溶媒である。
【0039】
このような有機溶媒(C)としては、具体的には、酢酸エチル、酢酸メチル等のエステル系溶媒、クロロホルム、ブロモホルム、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、クロロベンゼン、2,6−ジクロロトルエン等のハロゲン化炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルブチルケトン等のケトン系溶媒、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、プロピレンカーボネート、トリメチルリン酸、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、スルホラン、アセトニトリル等の非プロトン性極性溶媒、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、乳酸等のカルボン酸溶媒、アニソール、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル、ジオキサン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジメトキシエタン等のエーテル系溶媒、あるいはこれらの混合物が挙げられる。好ましくは、芳香族炭化水素系溶媒、脂肪族炭化水素系溶媒、ハロゲン化炭化水素系溶媒、アルコール系溶媒、エーテル系溶媒、非プロトン性極性溶媒、カルボン酸溶媒であり、さらに好ましいものとしては、水溶性溶媒であるアルコール系溶媒、非プロトン性極性溶媒、カルボン酸溶媒であり、著しく好ましいのは、非プロトン性極性溶媒である。非プロトン性極性溶媒の中で、取り扱い性が容易であることから、好ましくはN−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、プロピレンカーボネートなどであり、特に好ましくは、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、最も好ましくは、N−メチル−2−ピロリドンである。これらの溶媒は、複数種用いても単独で用いてもかまわない。
【0040】
「ポリカーボネート系樹脂(A)とポリカーボネート系樹脂(A)とは異なるポリマー(B)と有機溶媒(C)を溶解混合させ、ポリカーボネート系樹脂(A)を主成分とする溶液相と、ポリカーボネート系樹脂(A)とは異なるポリマー(B)を主成分とする溶液相の2相に相分離する系」とは、ポリカーボネート系樹脂(A)とポリカーボネート系樹脂(A)とは異なるポリマー(B)と有機溶媒(C)を混合したときに、ポリカーボネート系樹脂(A)を主として含む溶液相と、ポリカーボネート系樹脂(A)とは異なるポリマー(B)を主として含む溶液相の2相に分かれる系をいう。
【0041】
このような相分離をする系を用いることにより、相分離する条件下で混合して、乳化させ、エマルションを形成させることができる。
【0042】
なお、上記において、ポリマーが溶解するかどうかについては、本発明を実施する温度、即ちポリカーボネート系樹脂(A)とポリカーボネート系樹脂(A)とは異なるポリマー(B)を溶解混合して、2相分離させる際の温度において、有機溶媒(C)に対し1質量%超溶解するかどうかで判別する。
【0043】
このエマルションは、ポリカーボネート系樹脂(A)の溶液相が分散相に、ポリカーボネート系樹脂(A)とは異なるポリマー(B)の溶液相が連続相になり、そしてこのエマルションに対し、ポリカーボネート系樹脂(A)の貧溶媒を接触させることにより、エマルション中のポリカーボネート系樹脂(A)の溶液相から、ポリカーボネート系樹脂(A)の微粒子が析出し、ポリカーボネート系樹脂(A)で構成されるポリマー微粒子を得ることが出来る。
【0044】
本実施態様におけるポリカーボネート系樹脂(A)の貧溶媒とは、ポリカーボネート系樹脂(A)を溶解させない溶媒のことをいう。溶媒に溶解させないとは、ポリカーボネート系樹脂(A)の貧溶媒に対する溶解度が1質量%以下のものであり、溶解度は、より好ましくは0.5質量%以下であり、さらに好ましくは0.1質量%以下である。
【0045】
本実施態様の製造方法において、ポリカーボネート系樹脂(A)の貧溶媒を用いるが、かかる貧溶媒としてはポリカーボネート系樹脂(A)の貧溶媒でありかつ、ポリカーボネート系樹脂(A)とは異なるポリマー(B)を溶解する溶媒であることが好ましい。これにより、ポリカーボネート系樹脂(A)で構成されるポリカーボネート系樹脂(A)の微粒子を効率よく析出させることができる。また、ポリカーボネート系樹脂(A)およびポリカーボネート系樹脂(A)とは異なるポリマー(B)を溶解させる溶媒とポリカーボネート系樹脂(A)の貧溶媒とは均一に混合する溶媒であることが好ましい。
【0046】
本実施態様における貧溶媒としては、用いるポリカーボネート系樹脂(A)の種類、望ましくは用いるポリカーボネート系樹脂(A)とポリカーボネート系樹脂(A)とは異なるポリマー(B)の両方の種類によるが、具体的に例示するならば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、n−デカン、n−ドデカン、n−トリデカン、シクロヘキサン、シクロペンタン等の脂肪族炭化水素系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール等のアルコール系溶媒、水の中から少なくとも1種類から選ばれる溶媒などが挙げられる。
【0047】
ポリカーボネート系樹脂(A)を効率的に粒子化させる観点から、ポリカーボネート系樹脂(A)の貧溶媒は、好ましくは芳香族炭化水素系溶媒、脂肪族炭化水素系溶媒、アルコール系溶媒、水であり、より好ましいのはアルコール系溶媒、水であり、最も好ましくは水である。
【0048】
本実施態様において、ポリカーボネート系樹脂(A)、ポリカーボネート系樹脂(A)とは異なるポリマー(B)、これらを溶解する有機溶媒(C)およびポリカーボネート系樹脂(A)の貧溶媒を適切に選択して組み合わせることにより、効率的にポリカーボネート系樹脂(A)を析出させてポリマー微粒子を得ることが出来る。
【0049】
ポリカーボネート系樹脂(A)、ポリカーボネート系樹脂(A)とは異なるポリマー(B)、これらを溶解する有機溶媒(C)を混合溶解させた液は、ポリカーボネート系樹脂(A)を主成分とする溶液相と、ポリカーボネート系樹脂(A)とは異なるポリマー(B)を主成分とする溶液相の2相に相分離することが必要である。この際、ポリカーボネート系樹脂(A)を主成分とする溶液相の有機溶媒(C)と、ポリカーボネート系樹脂(A)とは異なるポリマー(B)を主成分とする有機溶媒(C)とは、同一でも異なっていても良いが、実質的に同じ溶媒であることが好ましい。
【0050】
2相分離の状態を生成する条件は、ポリカーボネート系樹脂(A)またはポリカーボネート系樹脂(A)とは異なるポリマー(B)の種類、ポリカーボネート系樹脂(A)またはポリカーボネート系樹脂(A)とは異なるポリマー(B)の分子量、有機溶媒(C)の種類、ポリカーボネート系樹脂(A)またはポリカーボネート系樹脂(A)とは異なるポリマー(B)の濃度、発明を実施しようとする温度、圧力によって異なってくる。
【0051】
相分離状態になりやすい条件を得るためには、ポリカーボネート系樹脂(A)とポリカーボネート系樹脂(A)とは異なるポリマー(B)の溶解度パラメーター(以下、SP値と称することもある)の差が離れていた方が好ましい。
【0052】
この際、SP値の差としては1(J/cm
3)
1/2以上、より好ましくは2(J/cm
3)
1/2以上、さらに好ましくは3(J/cm
3)
1/2以上、特に好ましくは5(J/cm
3)
1/2以上、最も好ましくは8(J/cm
3)
1/2以上である。SP値がこの範囲であれば、容易に相分離しやすくなり、また相分離がしやすくなることから、よりポリカーボネート系樹脂成分の含有率の高いポリカーボネート系樹脂微粒子を得ることができる。ポリカーボネート系樹脂(A)とポリカーボネート系樹脂(A)とは異なるポリマー(B)の両者が有機溶媒(C)に溶けるのであれば、特に制限はないが、SP値の差の上限として好ましくは20(J/cm
3)
1/2以下、より好ましくは、15(J/cm
3)
1/2以下であり、さらに好ましくは10(J/cm
3)
1/2以下である。尚、ここでいう、SP値とは、Fedorの推算法に基づき計算されるものであり、凝集エネルギー密度とモル分子容を基に計算されるもの(以下、計算法と称することもある。)である(「SP値 基礎・応用と計算方法」 山本秀樹著、株式会社情報機構、平成17年 3月 31日発行)。本方法により、計算できない場合においては、溶解度パラメーターが既知の溶媒に対し溶解するか否かの判定による、実験法によりSP値を算出(以下、実験法と称することもある。)し、それを代用する(「ポリマーハンドブック 第4版(Polymer Handbook Fourth Edition)」 ジェー・ブランド(J.Brand)著、ワイリー(Wiley)社1998年発行)。
【0053】
相分離状態になる条件を選択するためには、ポリカーボネート系樹脂(A)、ポリカーボネート系樹脂(A)とは異なるポリマー(B)およびこれらを溶解する有機溶媒(C)の3成分の比率を変化させた状態の観察による簡単な予備実験で作成できる、3成分相図で判別が出来る。
【0054】
相図の作成は、ポリカーボネート系樹脂(A)、ポリカーボネート系樹脂(A)とは異なるポリマー(B)および有機溶媒(C)を任意の割合で混合溶解させ、静置を行った際に、界面が生じるか否かの判定を少なくとも3点以上、好ましくは5点以上、より好ましくは10点以上の点で実施し、2相に分離する領域および1相になる領域を峻別することで、相分離状態になる条件を見極めることが出来るようになる。
【0055】
この際、相分離状態であるかどうかを判定するためには、本発明を実施しようとする温度、圧力にて、ポリカーボネート系樹脂(A)、ポリカーボネート系樹脂(A)とは異なるポリマー(B)および有機溶媒(C)を任意の比に調整した後に、ポリカーボネート系樹脂(A)、ポリカーボネート系樹脂(A)とは異なるポリマー(B)を、完全に溶解させ、溶解させた後に、十分な攪拌を行い、3日放置し、巨視的に相分離をするかどうかを確認する。しかし、十分に安定なエマルジョンになる場合においては、3日放置しても巨視的な相分離をしない場合がある。その場合は、光学顕微鏡・位相差顕微鏡などを用い、微視的に相分離しているかどうかで、相分離を判別する。
【0056】
相分離は、有機溶媒(C)中でポリカーボネート系樹脂(A)を主成分とするポリカーボネート系樹脂(A)の溶液相と、ポリカーボネート系樹脂(A)とは異なるポリマー(B)を主成分とするポリマー(B)の溶液相に分離することによって形成される。この際、ポリカーボネート系樹脂(A)の溶液相は、ポリカーボネート系樹脂(A)が主として分配された相であり、ポリマー(B)の溶液相はポリカーボネート系樹脂(A)とは異なるポリマー(B)が主として分配された相である。この際、ポリカーボネート系樹脂(A)の溶液相とポリマー(B)の溶液相は、ポリカーボネート系樹脂(A)、ポリカーボネート系樹脂(A)とは異なるポリマー(B)の種類と使用量に応じた体積比を有するようである。
【0057】
相分離の状態が得られ、且つ工業的に実施可能な濃度として、有機溶媒(C)に対するポリカーボネート系樹脂(A)、ポリカーボネート系樹脂(A)とは異なるポリマー(B)の濃度は、有機溶媒(C)に溶解する可能な限りの範囲内であることが前提であるが、全質量に対して好ましくは、それぞれその下限は1質量%超であり、より好ましくは2質量%であり、さらに好ましくは3質量%であり、より好ましくは5質量%である。また、それぞれの上限は、50質量%が好ましく、より好ましくは30質量%であり、さらに好ましくは、20質量%である。
【0058】
本実施態様における、ポリカーボネート系樹脂(A)の溶液相とポリマー(B)の溶液相の2相間の界面張力は、両相とも有機溶媒であることから、その界面張力が小さく、その性質により、生成するエマルジョンが安定に維持できることから、粒子径分布が小さくなるようである。
【0059】
本実施態様における2相間の界面張力は、界面張力が小さすぎることから、通常用いられる溶液に異種の溶液を加えて測定する懸滴法などでは直接測定することは出来ないが、各相の空気との表面張力から推算することにより、界面張力を見積もることが出来る。各相の空気との表面張力をr
1、r
2とした際、その界面張力r
1/2は、r
1/2=r
1−r
2の絶対値で推算することができる。
【0060】
この際、このr
1/2の好ましい範囲は、その上限は10mN/mであり、より好ましくは5mN/mであり、さらに好ましくは、3mN/mであり、特に好ましくは、2mN/mである。また、その下限は0mN/m超である。
【0061】
本実施態様における2相間の粘度は、平均粒子径および粒子径分布に影響を与え、粘度比が小さい方が、粒子径分布が小さくなる傾向にある。
【0062】
本実施態様における2相間の粘度比の好ましい範囲としては、その下限としては0.1以上が好ましく、より好ましくは0.2以上であり、さらに好ましくは0.3以上であり、より好ましくは0.5以上であり、著しく好ましいのは0.8以上である。またその上限としては10以下が好ましく、より好ましくは5以下であり、さらに好ましくは、3以下であり、特に好ましくは、1.5以下であり、著しく好ましくは、1.2以下である。ただし、ここでいう2相間の粘度比は、本発明を実施しようとする温度条件下での、ポリカーボネート系樹脂(A)の溶液相/ポリカーボネート系樹脂(A)とは異なるポリマー(B)の溶液相と定義することとする。
【0063】
このようにして得られた相分離する系を用い、相分離した液相を混合させ、エマルション化させたのち、ポリマー微粒子を製造する。
【0064】
微粒子化を行うには、通常の反応槽でエマルション形成および微粒子化工程が実施される。本実施態様において、工業的な実現性の観点からエマルション形成および微粒子化工程を実施する温度は0℃以上であり、上限としてはポリカーボネート系樹脂(A)、ポリカーボネート系樹脂(A)とは異なるポリマー(B)が溶解し、相分離する温度であって、所望の微粒子が得られるならば特に制限はないが、その下限は通常0℃以上であり、好ましくは10℃以上であり、より好ましくは20℃以上である。また、その上限は、好ましくは300℃以下であり、さらに好ましくは、200℃以下であり、より好ましくは、160℃以下であり、特に好ましくは、140℃以下の範囲であり、著しく好ましくは100℃以下である。
【0065】
本発明を実施するにふさわしい圧力は、工業的な実現性の観点から、常圧状態から10気圧の範囲である。好ましい下限としては、1気圧である。好ましい上限としては、5気圧であり、さらに好ましくは、3気圧であり、より好ましくは、2気圧である。
【0066】
また、反応槽は不活性ガスを使用することが好ましい。具体的には、窒素、ヘリウム、アルゴン、二酸化炭素であり、好ましくは、窒素、アルゴンである。
【0067】
このような条件下にて、相分離系状態を混合することにより、エマルションを形成させる。すなわち上記で得られた相分離溶液に、剪断力を加えることにより、エマルションを生成させる。
【0068】
エマルションの形成に際しては、ポリカーボネート系樹脂(A)の溶液相が粒子状の液滴になるようにエマルションを形成させるが、一般に相分離させた際、ポリカーボネート系樹脂(A)とは異なるポリマー(B)の溶液相の体積がポリカーボネート系樹脂(A)の溶液相の体積より大きい場合に、このような形態のエマルションを形成させやすい傾向にあり、特にポリカーボネート系樹脂(A)の溶液相の体積比が両相の合計体積1に対して0.5未満であることが好ましく、0.4〜0.1の間にあることが好ましい。
【0069】
上記相図を作成する際に、各成分の濃度における体積比を同時に測定しておくことにより、適切な範囲を設定することが可能である。
【0070】
本製造法で得られる微粒子は、粒子径分布の小さい微粒子になるが、これは、エマルション形成の段階において、非常に均一なエマルションが得られるからである。この傾向はポリカーボネート系樹脂(A)、ポリカーボネート系樹脂(A)とは異なるポリマー(B)の両方を溶解する単一溶媒を用いる際に顕著である。このため、エマルションを形成させるに十分な剪断力を得るためには、従前公知の方法による攪拌を用いれば十分であり、攪拌羽による液相攪拌法、連続2軸混合機による攪拌法、ホモジナイザーによる混合法、超音波照射等通常公知の方法で混合することが出来る。
【0071】
特に、攪拌羽による攪拌の場合、攪拌羽の形状にもよるが、攪拌速度は、好ましくは50rpm〜1,200rpm、より好ましくは、100rpm〜1,000rpm、さらに好ましくは、200rpm〜800rpm、特に好ましくは、300〜600rpmである。
【0072】
攪拌羽としては、具体的には、プロペラ型、パドル型、フラットパドル型、タービン型、ダブルコーン型、シングルコーン型、シングルリボン型、ダブルリボン型、スクリュー型、ヘリカルリボン型などが挙げられるが、系に対して十分に剪断力をかけられるものであれば、これらに特に限定されるものではない。また、効率的な攪拌を行うために、槽内に邪魔板等を設置してもよい。
【0073】
また、エマルションを発生させるためには、必ずしも、攪拌機だけでなく、乳化機、分散機など広く一般に知られている装置を用いてもよい。具体的に例示するならば、ホモジナイザー(IKA社製)、ポリトロン(キネマティカ社製)、TKオートホモミキサー(特殊機化工業社製)等のバッチ式乳化機、エバラマイルダー(荏原製作所社製)、TKフィルミックス、TKパイプラインホモミキサー(特殊機化工業社製)、コロイドミル(神鋼パンテック社製)、スラッシャー、トリゴナル湿式微粉砕機(三井三池化工機社製)、超音波ホモジナイザー、スタティックミキサーなどが挙げられる。
【0074】
このようにして得られたエマルションは、引き続き微粒子を析出させる工程に供する。
【0075】
ポリカーボネート系樹脂(A)の微粒子を得るためには、ポリカーボネート系樹脂(A)に対する貧溶媒を、前記工程で製造したエマルションに接触させることでエマルション径に応じた径で、微粒子を析出させる。
【0076】
本発明は、特に、ポリカーボネート系樹脂(A)に対する貧溶媒の接触温度を80℃以上とすることによって、初めてポリカーボネート系樹脂(A)の微粒子を真球で表面平滑な形態にできたことに、大きな特徴を有する。
【0077】
本実施態様において、貧溶媒を接触させる際の温度は、ポリカーボネート系樹脂(A)の微粒子が真球で表面平滑な微粒子形態で析出する範囲であり、好ましい貧溶媒の接触温度は、80℃以上であり、より真球粒子の割合が増加することから、さらに好ましくは、85℃以上であり、最も好ましくは、90℃以上である。その上限値は、ポリカーボネート系樹脂(A)が分解しない300℃以下である。
【0078】
貧溶媒とエマルションの接触方法は、貧溶媒にエマルションを入れる方法でも良いし、エマルションに貧溶媒を入れる方法でも良いが、エマルションに貧溶媒を入れる方法が好ましい。
【0079】
この際、貧溶媒を投入する方法としては、本実施態様で製造するポリマー微粒子が得られる限り特に制限はなく、連続滴下法、分割添加法、一括添加法のいずれでも良いが、貧溶媒添加時にエマルションが凝集・融着・合一し、粒子径分布が大きくなり、1000μmを超える塊状物が生成しやすくならないようにするために、好ましくは連続滴下法、分割滴下法であり、工業的に効率的に実施するためには、最も好ましいのは、連続滴下法である。
【0080】
貧溶媒を加える時間としては、10分以上50時間以内であり、より好ましくは、15分以上10時間以内であり、さらに好ましくは30分以上5時間以内である。
【0081】
この範囲よりも短い時間で実施すると、エマルションの凝集・融着・合一に伴い、粒子径分布が大きくなったり、塊状物が生成したりする場合がある。また、これ以上長い時間で実施する場合は、工業的な実施を考えた場合、非現実的である。
【0082】
この時間の範囲内で行うことにより、エマルションからポリマー微粒子に転換する際に、粒子間の凝集を抑制することができ、粒子径分布の小さいポリマー微粒子を得ることができる。
【0083】
加える貧溶媒の量は、エマルションの状態にもよるが、通常0.1質量部から10質量部である。貧溶媒の接触温度が80℃以上であるため、ポリカーボネート系樹脂(A)の析出に多量の水が必要となる傾向のため、貧溶媒の好ましい量は、1質量部以上、より好ましくは、2質量部以上、最も好ましくは、3質量部以上である。
【0084】
貧溶媒とエマルションとの接触時間は、微粒子が析出するのに十分な時間であればよいが、十分な析出を引き起こしかつ効率的な生産性を得るためには、貧溶媒添加終了後5分から50時間であり、より好ましくは、5分以上10時間以内であり、さらに好ましくは10分以上5時間以内であり、特に好ましくは、20分以上4時間以内であり、最も好ましくは、30分以上3時間以内である。
【0085】
このようにして作られたポリカーボネート系微粒子分散液は、ろ過、減圧濾過、加圧ろ過、遠心分離、遠心ろ過、スプレードライ等の通常公知の方法で固液分離することにより、微粒子粉体を回収することが出来る。
【0086】
固液分離したポリマー微粒子は、必要に応じて、溶媒等で洗浄を行うことにより、付着または含有している不純物等の除去を行い、精製を行う。
【0087】
本実施態様の方法においては、微粒子粉体を得る際に行った固液分離工程で分離された有機溶媒(C)及びポリカーボネート系樹脂(A)とは異なるポリマー(B)を再度活用するリサイクル化を行うことが可能である。
【0088】
固液分離で得た溶媒は、ポリカーボネート系樹脂(A)とは異なるポリマー(B)、有機溶媒(C)および貧溶媒の混合物である。この溶媒から、貧溶媒を除去することにより、エマルション形成用の溶媒として再利用することが出来る。貧溶媒を除去する方法としては、通常公知の方法で行われ、具体的には、単蒸留、減圧蒸留、精密蒸留、薄膜蒸留、抽出、膜分離などが挙げられるが、好ましくは単蒸留、減圧蒸留、精密蒸留による方法である。
【0089】
単蒸留、減圧蒸留等の蒸留操作を行う際は、ポリマー微粒子製造時と同様、系に熱がかかり、ポリカーボネート系樹脂(A)とは異なるポリマー(B)や有機溶媒(C)の熱分解を促進する可能性があることから、極力酸素のない状態で行うことが好ましく、より好ましくは、不活性雰囲気下で行う。具体的には、窒素、ヘリウム、アルゴン、二酸化炭素条件下で実施することが好ましい。また、酸化防止剤としてフェノール系化合物を再添加しても良い。
【0090】
リサイクルする際、貧溶媒は、極力除くことが好ましいが、具体的には、貧溶媒の残存量が、リサイクルする有機溶媒(C)及びポリカーボネート系樹脂(A)とは異なるポリマー(B)の合計量に対して、10質量%以下、好ましくは5質量%以下、より好ましくは、3質量%以下、特に好ましくは、1質量%以下である。この範囲よりも超える場合には、微粒子の粒子径分布が大きくなったり、粒子が凝集したりするので、好ましくない。
【0091】
リサイクルで使用する溶媒中の貧溶媒の量は、通常公知の方法で測定でき、ガスクロマトグラフィー法、カールフィッシャー法などで測定できる。
【0092】
貧溶媒を除去する操作において、現実的には、有機溶媒(C)、ポリカーボネート系樹脂(A)とは異なるポリマー(B)などをロスすることもあるので、適宜、初期の組成比に調整し直すのが好ましい。
【0093】
次に本実施態様の製造方法から得られる、表面平滑な真球ポリカーボネート系樹脂微粒子について詳細に説明する。
【0094】
本実施態様における表面平滑なポリカーボネート系樹脂微粒子は、平均真球度80以上であることが特徴である。微粒子の流動性が向上し、化粧品、フィルムなど各用途に好適であることから、85以上が好ましく、90以上がより好ましく、95以上がさらに好ましく、最も好ましくは、98以上である。またその上限値は、100である。
【0095】
尚、平均真球度とは、走査型電子顕微鏡にて、無作為に選択した粒子30個の真球度の平均であり、下記式に従い算出する。真球度とは、個々の粒子の短径と長径の比であり、下記式に従い算出する。
【0097】
尚、S:真球度、n:測定数(=30)、D
S:粒子個々の短径、D
L:粒子個々の長径とする。
【0098】
本実施態様における表面平滑なポリカーボネート系樹脂微粒子は、真球度80以上の微粒子が、60%以上含有される。微粒子の流動性がより向上し、化粧品、フィルム用途に好適であることから、真球度80以上の微粒子の含有される割合が、70%以上が好ましく、80%以上がより好ましく、85%以上がさらに好ましく、90%以上が特に好ましく、95%以上が最も好ましい。上限としては100%、即ち、全ての微粒子が、真球度80以上で占められることである。
【0099】
尚、真球度80以上の微粒子の含有される割合は、走査型電子顕微鏡写真から100μm×100μmの範囲の面積を無作為に選択し、真球度80以上の微粒子の占める面積、及び真球度が80より小さい形態のポリマーの占める面積から、下記式より算出される。
【0101】
尚、P
80:真球度80以上の微粒子の含有される割合、n
≧80:真球度80以上の微粒子の測定数、n
<80:真球度80より小さい形態のポリマーの測定数、S
≧80:真球度80以上の微粒子の占める面積、S
<80:真球度が80より小さい形態のポリマーの占める面積とする。
【0102】
本実施態様における表面平滑なポリカーボネート系樹脂微粒子の数平均粒子径は、通常100μm以下、好ましい態様によれば、50μm以下であり、より好ましい態様によれば、30μm以下、特に好ましくは、20μm以下であり、最も好ましくは10μm以下であるが、化粧品、フィルムなどの用途によって適正な粒子径の範囲が決定される。
【0103】
下限としては、トナーなどに使用した場合、粒子同士の凝集が起こりやすくなるため、0.1μm以上であり、1μm以上が好ましく、1μm超がより好ましく、2μm以上がさらに好ましく、3μm以上が特に好ましく、最も好ましくは、5μm以上である。
【0104】
本実施態様における表面平滑なポリカーボネート系樹脂微粒子の粒子径分布を示す粒子径分布指数としては、3以下であり、化粧品、フィルム用途などにおいて、より微粒子の流動性が向上し好適であることから、粒子径分布指数は、2以下が好ましく、1.5以下がより好ましく、1.3以下がさらに好ましく、1.2以下が最も好ましい。またその下限値は、理論上1である。
【0105】
なお、ここでいう表面平滑なポリカーボネート系樹脂微粒子の数平均粒子径は、走査型電子顕微鏡写真から無作為に100個の粒子直径を特定し、その算術平均を求めることにより算出することが出来る。上記写真において、真円状でない場合、即ち楕円状のような場合は、粒子の最大径をその粒子径とする。粒子径を正確に測定するためには、少なくとも1000倍以上、好ましくは、5000倍以上の倍率で測定する。
【0106】
また、粒子径分布指数は、上記で得られた粒子直径の値を、下記数値変換式に基づき、決定される。
【0108】
尚、Ri:粒子個々の粒子径、n:測定数100、Dn:数平均粒子径、Dv:体積平均粒子径、PDI:粒子径分布指数とする。
【0109】
本実施態様により得られた真球ポリカーボネート系樹脂微粒子は、平滑な表面の粒子であることから、良好な滑り性を有し、それに加え、ポリカーボネート系樹脂の高耐熱性、高屈折率性、高耐候性を併せ持った高機能微粒子であることから、ファンデーション、口紅、男性化粧品用スクラブ剤などの化粧品用材料および添加剤、スラッシュ成形用材料、ラピッドプロトタイピング・ラピッドマニュファクチャリング用材料、プラスティックゾル用ペーストレジン、粉ブロッキング材、塗料用添加剤、プラスティックフィルム・シートの滑り性向上剤、ブロッキング防止剤、光沢調節剤、つや消し仕上げ剤、光拡散剤、表面高硬度向上剤、靭性向上材等の各種改質剤、液晶表示装置用スペーサー、クロマトグラフィー用充填材、マイクロカプセル用助剤、ドラッグデリバリーシステム・診断薬などの医療用材料、香料・農薬の保持剤、化学反応用触媒およびその担持体、ガス吸着剤、セラミック加工用焼結材、測定・分析用の標準粒子、食品工業分野用の粒子、粉体塗料用材料、電子写真現像用トナー、導電性粒子のコア粒子、金属の造孔材用の粒子などに好適に使用することができる。
【実施例】
【0110】
以下、本発明を実施例に基づき説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0111】
(1)重量平均分子量
(i)ポリカーボネート系樹脂の分子量測定
重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法を用い、ポリメチルメタクリレート(PMMA)による校正曲線と対比させて分子量を算出した。
【0112】
装置:株式会社島津製作所社製 LC−10Aシリーズ
カラム:昭和電工株式会社製 KF−806L × 2本
移動相:テトラヒドロフラン
流速:1.0ml/min
検出:示差屈折率計
カラム温度:30℃
【0113】
(ii)ポリカーボネート系樹脂とは異なるポリマーの分子量測定
重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法を用い、ポリエチレングリコール(PEG)による校正曲線と対比させて分子量を算出した。
【0114】
装置:株式会社島津製作所製 LC−10Aシリーズ
カラム:昭和電工株式会社製 GF−7MHQ × 2本
移動相:10mmol/L 臭化リチウム水溶液
流速:1.0ml/min
検出:示差屈折率計
カラム温度:40℃
【0115】
(2)ポリカーボネート系樹脂のガラス転移点の測定
セイコーインスツル株式会社製ロボットDSC RDC220を使用し、窒素ガス雰囲気下、30℃から10℃/分の速度で180℃まで昇温、1分間保持し、10℃/分の速度で30℃まで降温し、1分間保持した後、10℃/分の速度で180℃まで昇温した時のガラス転移点を測定した。
【0116】
(3)平均粒子径および粒子径分布測定方法
微粒子の個々の粒子径は、走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製走査型電子顕微鏡JSM−6301NF)にて、微粒子を1000倍で観察し、測長した。尚、粒子が真円でない場合は、長径をその粒子径として測定した。
【0117】
平均粒子径は、写真から無作為に100個の粒子直径を測長し、その算術平均を求めることにより算出した。
【0118】
粒子径分布を示す粒子径分布指数は、上記で得られた個々の粒子直径の値を、下記数値変換式に基づき算出した。
【0119】
【数4】
【0120】
尚、Ri:粒子個々の粒子直径、n:測定数100、Dn:数平均粒子径、Dv:体積平均粒子径、PDI:粒子径分布指数とする。
【0121】
(4)平均真球度の測定
平均真球度は、走査型電子顕微鏡にて、無作為に選択した粒子30個の真球度の平均であり、下記式に従い算出する。真球度は、個々の粒子の短径と長径の比であり、下記式に従い算出する。
【0122】
【数5】
【0123】
尚、S:真球度、n:測定数(=30)、D
S:粒子個々の短径、D
L:粒子個々の長径とする。
【0124】
(5)真球度80以上の微粒子含有率の算出方法
真球度80以上の微粒子の含有される割合は、走査型電子顕微鏡写真から100μm×100μmの範囲の面積を無作為に選択し、真球度80以上の微粒子の占める面積、及び真球度が80より小さい形態のポリマーの占める面積から、下記式より算出される。
【0125】
【数6】
【0126】
尚、P
80:真球度80以上の微粒子の含有される割合、n
≧80:真球度80以上の微粒子の測定数、n
<80:真球度80より小さい形態のポリマーの測定数、S
≧80:真球度80以上の微粒子の占める面積、S
<80:真球度が80より小さい形態のポリマーの占める面積とする。
【0127】
[実施例1]
100mLの4口フラスコの中に、ポリマー(A)としてポリカーボネート(出光興産株式会社製‘タフロン(登録商標)’A2200、重量平均分子量55,000、ガラス転移温度150℃)5.0g、有機溶媒(C)としてN−メチル−2−ピロリドン 40g、ポリマー(B)としてポリビニルアルコール(日本合成化学株式会社製‘ゴーセノール(登録商標)’GL−05、重量平均分子量13,000)5.0gを加え、80℃に加熱し、ポリマーが溶解するまで攪拌を行った。系の温度を80℃に維持したまま、450rpmで攪拌しながら、貧溶媒として100gのイオン交換水を、送液ポンプを経由して、1.64g/分のスピードで滴下した。得られた懸濁液をろ過し、イオン交換水100gで洗浄し、濾別したものを、10時間、凍結乾燥を行い、4.7gの白色固体を得た。得られた粉体を走査型電子にて観察したところ、表面平滑の真球形状であり、数平均粒子径は、8.1μm、粒子径分布指数は、1.10、平均真球度は、90であった。真球度80以上の微粒子は、80%であった。得られたポリカーボネート系樹脂微粒子の走査型電子顕微鏡写真を
図1に示す。
【0128】
[実施例2]
100mLの4口フラスコの中に、ポリマー(A)としてポリカーボネート(出光興産株式会社製‘タフロン(登録商標)’A2200、重量平均分子量55,000、ガラス転移温度150℃)5.0g、有機溶媒(C)としてN−メチル−2−ピロリドン 40g、ポリマー(B)としてポリビニルアルコール(日本合成化学株式会社製‘ゴーセノール(登録商標)’GL−05、重量平均分子量13,000)5.0gを加え、90℃に加熱し、ポリマーが溶解するまで攪拌を行った。系の温度を90℃に維持したまま、450rpmで攪拌しながら、貧溶媒として150gのイオン交換水を、送液ポンプを経由して、2.05g/分のスピードで滴下した。得られた懸濁液をろ過し、イオン交換水100gで洗浄し、濾別したものを、10時間、凍結乾燥を行い、4.2gの白色固体を得た。得られた粉体を走査型電子にて観察したところ、表面平滑の真球形状であり、数平均粒子径は、9.1μm、粒子径分布指数は、1.28、平均真球度は、95であった。真球度80以上の微粒子は、88%であった。得られたポリカーボネート系樹脂微粒子の走査型電子顕微鏡写真を
図2に示す。
【0129】
[実施例3]
有機溶媒(C)としてN−メチル−2−ピロリドン 41.5g、ポリマー(B)としてポリビニルアルコール(日本合成化学株式会社製‘ゴーセノール(登録商標)’GL−05、重量平均分子量13,000)3.5g以外、実施例2と同様の方法で実験したところ、4.1gの白色固体を得た。得られた粉体の数平均粒子径は、18.4μm、粒子径分布指数は、1.35、平均真球度は、92であった。
【0130】
[実施例4]
有機溶媒(C)としてN−メチル−2−ピロリドン 38.5g、ポリマー(B)としてポリビニルアルコール(日本合成化学株式会社製‘ゴーセノール(登録商標)’GL−05、重量平均分子量13,000)6.5g以外、実施例2と同様の方法で実験したところ、4.1gの白色固体を得た。得られた粉体の数平均粒子径は、5.6μm、粒子径分布指数は、1.20、平均真球度は、93であった。
【0131】
[比較例1]
100mLの4口フラスコの中に、ポリマー(A)としてポリカーボネート(三菱エンジニアリングプラスチック株式会社製‘ユーピロン(登録商標)’E2200、重量平均分子量45,000、ガラス転移温度150℃)2.5g、有機溶媒(C)としてN−メチル−2−ピロリドン 45g、ポリマー(B)としてポリビニルアルコール(日本合成化学株式会社製‘ゴーセノール(登録商標)’GL−05、重量平均分子量13,000)2.5gを加え、80℃に加熱し、ポリマーが溶解するまで攪拌を行った。系の温度を室温に戻した後に、450rpmで攪拌しながら、貧溶媒として50gのイオン交換水を、送液ポンプを経由して、0.41g/分のスピードで滴下した。得られた懸濁液をろ過し、イオン交換水100gで洗浄し、濾別したものを、80℃ 10時間真空乾燥を行い、2.2gの白色固体を得た。得られた粉体を走査型電子にて観察したところ、表面に凹凸のある多孔質形状であり、数平均粒子径は、9.6μm、粒子径分布指数は、1.12、平均真球度は、72であった。真球度80以上の微粒子は、52%であった。得られたポリカーボネート系樹脂微粒子の走査型電子顕微鏡写真を
図3に示す。
【0132】
[比較例2]
貧溶媒として50gのイオン交換水を、送液ポンプを経由して、0.41g/分のスピードで滴下する以外、実施例2と同様の方法で実施したところ、得られた懸濁液のろ過時に、微粒子同士が凝集してしまい、濾別することができなかった。
【0133】
[比較例3]
参考文献4(特開2001−213970号公報)、実施例1記載の方法で得られたポリカーボネート粒子の走査型電子顕微鏡写真、
図3から平均真球度を算出したところ、48であった。真球度80以上の微粒子を算出したところ、43%であった。
【0134】
【表1】