(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5946035
(24)【登録日】2016年6月10日
    
      
        (45)【発行日】2016年7月5日
      
    (54)【発明の名称】太陽光発電制御システム
(51)【国際特許分類】
   H02J   3/38        20060101AFI20160621BHJP        
   G05F   1/67        20060101ALI20160621BHJP        
【FI】
   H02J3/38 150
   G05F1/67 A
【請求項の数】1
【全頁数】7
      (21)【出願番号】特願2012-93373(P2012-93373)
(22)【出願日】2012年3月30日
    
      (65)【公開番号】特開2013-215075(P2013-215075A)
(43)【公開日】2013年10月17日
    【審査請求日】2015年2月12日
      
        
          (73)【特許権者】
【識別番号】391017540
【氏名又は名称】東芝ITコントロールシステム株式会社
        
      
      
        (72)【発明者】
          【氏名】高尾  賢二
              
            
        
      
    
      【審査官】
        稲葉  崇
      
    (56)【参考文献】
      
        【文献】
          特開2012−055036(JP,A)      
        
        【文献】
          特開2011−101455(JP,A)      
        
        【文献】
          特開2011−170835(JP,A)      
        
        【文献】
          特開2003−169482(JP,A)      
        
        【文献】
          特開2001−320834(JP,A)      
        
        【文献】
          特開2006−246650(JP,A)      
        
      
    (58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05F1/12−1/44,
G05F1/45−7/00,
H02J3/00−5/00,
H02M7/42−7/98
(57)【特許請求の範囲】
                        【請求項1】
                              太陽電池と、
  前記太陽電池が発電した直流電力を交流電力に変換し商用電源系統と系統連系する電力変換部と、
  前記太陽電池の出力電圧と出力電流の組を微小変化させながら前記太陽電池の最適動作点へと追従制御させる電力追従制御部と、
  前記商用電源系統の電圧を検出する電圧検出部と、
  前記電圧検出部が検出した電圧を基にして前記商用電源系統が瞬時電圧低下状態であるか否かを判定する系統状態判定部と、
  前記商用電源系統の電圧位相を検出する位相検出部と、
  前記電力変換部の出力交流電圧位相を前記商用電源系統の電圧位相へ同期させる位相同期部と、
  前記系統状態判定部により前記商用電源系統が瞬時電圧低下状態であると判定されたとき瞬時電圧低下直前の前記太陽電池が発電していた出力電流と出力電圧の組を記憶する動作記憶部とを備え、
  前記系統状態判定部により前記商用電源系統が復帰状態にあると判定されたとき、前記商用電源系統の瞬時電圧低下復帰後、最初に検出した電圧位相におけるゼロクロスのタイミングで前記電力変換部の電圧位相をプリセットして、前記商用電源系統の電圧位相に同期させ、さらに前記動作記憶部が記憶した瞬時電圧低下直前の前記太陽電池の出力電圧と出力電流の組を用いて前記太陽電池の最適動作点へと追従制御させることを特徴とする太陽光発電制御システム。
                        
                    【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
  本発明は、太陽電池で発電した電力を商用電源系統に系統連系して動作する太陽光発電制御システムに関する。
 
【背景技術】
【0002】
  太陽電池で発電した電力を商用電源系統と系統連系し、その上、商用電源系統側に電力を逆潮流させる技術については社団法人日本電気協会から発行されている「系統連系規程」に定められている条件で行わればならない。このため、「系統連系規程」に沿った太陽光発電制御システムの開発が進められている。
【0003】
  太陽電池の発電能力は太陽電池に照射する太陽光の量と、太陽電池が動作する温度に影響を受ける。日々天候が変わる環境下で、太陽電池の発電能力を常に最適化する方法として、最大電力点追尾(MPPT:Maximum  Power  Point  Tracking)制御が知られている。(特許文献1参照)
【0004】
  太陽光発電制御システムと系統連系している商用電源系統の電圧が低下した時及び周波数が変動した時に、太陽光発電システムが発電する電力の品質を確保するため、「系統連系規程」では事故時運転継続要件(FRT要件(FRT:Fault  Ride  Through))を満たす事が要求されている。(非特許文献1参照)
 
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−101455号公報
 
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「系統連系規程  Grid−interconnection  Code    JEAC  9701−2010[2011年追補版(その1)]、社団法人日本電気協会  系統連系専門部会
 
 
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
  系統連系する商用電源系統電圧の位相(周波数)を以降外部周波数、太陽光発電制御システムの電力変換器が出力する交流電力の位相を以降内部周波数と称す。太陽電池が発電した電力を商用電源系統に系統連系する場合、外部周波数と内部周波数の位相を同期させることが「系統連系規程」で求められている。従来方式の位相同期制御を
図3に示す。(a)の様に内部周波数と外部周波数の位相が同期していない場合、内部周波数が外部周波数に比較してどれぐらい位相差があるか検出する。位相差を検出後(b)の様に位相差を用いて内部周波数に対してPI制御を行う。(c)のように内部周波数が外部周波数に同期するまで(a)、(b)の動作を繰り返していた。この方法では、内部周波数と外部周波数が同期するまでに外部周波数5周期分ほどの時間を要するため、より早い同期方法が求められている。
【0008】
  また、太陽電池の発電能力を最適化するためのMPPT制御において、特許文献1では商用電源系統が停電する直前に記憶していた電圧を起点としてMPPT制御を始める方法について記述しているが、商用電源系統から交流周波数を取得できない状態を伴う電圧低下から復旧した場合に、内部周波数を外部周波数に同期させ、太陽光発電システムから最適な交流電力を速やかに得る方法については言及していない。
【0009】
  本発明の目的は、太陽光発電システムが発電する電力の品質を確保するためのFRT要件を満たし、電力変換器の出力する電力が、電力低下から有効電力まで回復する時間を短縮する太陽光発電制御システムを提供することである。
 
【課題を解決するための手段】
【0010】
  上記目的を達成するために、本発明による太陽光発電制御システムは、太陽電池と、前記太陽電池が発電した直流電力を交流電力に変換し商用電源系統と系統連系する電力変換部と、前記太陽電池の出力電圧と出力電流の組を微小変化させながら前記太陽電池の最適動作点へと追従制御させる電力追従制御部と、前記商用
電源系統の電圧を検出する電圧検出部と、前記電圧検出部が検出した電圧を基にして前記商用電源系統が瞬時電圧低下状態であるか否かを判定する系統状態判定部と、前記商用電源系統の電圧位相を検出する位相検出部と、前記電力変換部の出力交流電圧位相を前記商用電源系統の電圧位相へ同期させる位相同期部と、前記系統状態判定部により前記商用電源系統が瞬時電圧低下状態であると判定されたとき瞬時電圧低下直前の前記太陽電池が発電していた出力電流と出力電圧の組を記憶する動作記憶部とを備え、前記系統状態判定部により前記商用電源系統が復帰状態にあると判定されたとき、前記商用電源系統の瞬時電圧低下復帰後、最初に検出した電圧位相におけるゼロクロスのタイミングで前記電力変換部の電圧位相をプリセットして、前記商用電源系統の電圧位相に同期させ、さらに前記動作記憶部が記憶した瞬時電圧低下直前の前記太陽電池の出力電圧と出力電流の組を起点として前記太陽電池の最適動作点へと追従制御させることを特徴とする。
 
【発明の効果】
【0011】
  本発明によれば、商用電源系統側の瞬時電圧低下からの復帰後、外部周波数と内部周波数の位相が同期するまでの時間短縮が可能となることに加え、位相同期によりMPPT制御を開始するタイミングが早くなるので、FRT要件で求められている出力電力の回復時間をより短縮する事が可能となる。
 
 
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施の形態に係る太陽光発電制御システムの構成図。
 
【
図2】交流電源系統電圧とマイコン内カウンタの関係図。
 
 
【発明を実施するための形態】
【0013】
  以下、本発明の実施の形態について説明する。
図1は本発明の実施の形態に係る太陽光発電制御システムの構成図である。太陽電池1で発電した直流は、DC/DCコンバータ2とDC/ACインバータ3などを含む機器で構成された電力変換器4内で電圧調整を受けた後交流に変換され、交流電源系統5に系統連系される。
 
【0014】
  系統電源電圧検出器9は系統状態判定装置10に商用電源系統5の電圧を送信し、系統状態判定装置10では商用電源系統5が瞬時電圧低下状態にあるか否かを判定する。系統電源位相検出器12は商用電源系統5の電圧位相を検出し、位相同期装置13に送信する。位相同期装置13は電力変換器4と商用電源系統5の電圧位相を常に同期(PLL:Phase  Locked  Loop)制御をして、商用電源系統5との系統連系を可能にしている
 
【0015】
  ここで、PLL制御について概略を説明する。商用電力系統の瞬時電圧低下にて、例えば、0%まで電圧低下した場合は、商用電源系統5の電圧位相が系統電源位相検出器12で検出出来なくなるので、PLL制御が止まる。商用電源系統5が瞬時電圧低下から復旧すると、電力変換器5の出力電圧位相と商用電源系統の電圧位相とを系統連系させる為に、PLL制御が始まる。PLL制御をする際、
図2のように商用電源系統電圧の一周期0[rad]〜2π[rad]を例えば0[cnt]〜3,000,000[cnt]のようなカウンタ値として扱い、このカウント数を用いて
図3の様に、(a)内部周波数と外部周波数の位相差を検出し、このときの位相差はカウント数となる。(b)内部周波数に対し位相差のカウント数を用いてPI制御を実施し、(a)と(b)の操作を繰り返すことにより徐々に内部周波数と外部周波数の位相差が小さくなり、最終的に(c)内部周波数と外部周波数の同期が行われる。
 
【0016】
  図3に示す操作により、電力変換器4の出力電力と商用電源系統5の電力が逆潮流可能となる、ある一定範囲内に電圧位相が同期した時の状態を、PLLロックと称する。このPLLロック状態に導く制御方法をPLL制御と言う。
 
【0017】
  本実施形態のPLL制御では
図1のように系統電源位相検出器12が停電から復帰した商用電源系統5の周波数(外部周波数)を検出し位相同期装置13に入力する。位相同期装置13は
図4(a)の様に外部周波数が停電から復帰して最初のゼロクロスになった場合、電力変換器4にDC/ACインバータの周波数(内部周波数)をプリセットして(b)の様に内部周波数と外部周波数の位相を同期(PLLロック)させる。よって、位相同期により電力変換器4の出力電力と商用電源系統5が系統連系可能となる。
 
【0018】
  上述のようにPLLロックを終えたことにより、電力変換器4で商用電源系統4の周波数をPWM制御の基準正弦波として用いることが出来るので、太陽電池1に対するMPPT制御を開始することが出来る。MPPT制御とは電圧検出器6で検出された電圧(VDC)、電流検出器7で検出された電流(IDC)を電力追従制御装置8に入力し、太陽電池1の発電能力を最適化する方法である。
 
【0019】
  ここで、MPPT制御について概略を説明する。前述したように太陽電池1の出力電力P(P=I×V)の特性は、太陽電池1に照射する太陽光の量と、太陽電池1が動作する温度によって変化し、概ね
図5の様な曲線を描くことが知られている。これを通称「I−V特性曲線」と言う。よって太陽電池の最大出力を得るためには、
図5に示す斜線で示された面積(I×V)が最大となる「I−V特性曲線」上のImaxとVmaxの組み合わせを探せばよい。
 
【0020】
  ImaxとVmaxの組み合わせを探すため、IとVの組み合わせを微小変化させてその組み合わせを電力追従制御装置8に入力する。電力追従装置では入力されたIとVの組み合わせから太陽電池1の出力電力を計算の上、電力の増減を判定し、ImaxとVmaxの組み合わせに近づけるように「I−V特性曲線」上で微小変化を繰り返す。この制御方法がMPPT制御である。
 
【0021】
  動作記憶装置11は商用電源系統が停電になった場合、電力追従制御装置8から受け取った直流電流(IDC)と直流電圧(VDC)を記憶保持する。また、停電から復帰した場合、記憶保持していた直流電流(IDC)と直流電圧(VDC)を電力追従制御装置8に入力する。
 
【0022】
  ここで、電力変換器4の出力電力を商用電源系統5へ系統連系している状態とする。この状態で商用電源系統5が瞬間的な電圧低下を起こした場合、電力変換器4では商用電源系統5の電圧波形を用いてDC/ACインバータ3に対してPWM制御を行うので、商用電源系統5の電圧低下に伴いDC/ACインバータ3の出力電圧が低下してしまう。この状態でDC/DCコンバータ2からDC/ACインバータ3に入力される電圧は、DC/ACインバータ3には高すぎる電圧となってしまう。よって太陽電池1の出力を絞るとともにDC/DCコンバータ2の出力電圧も絞る必要が生じる。太陽電池1の出力を1度絞ると元の出力に戻すまでにMPPT制御を初期状態から行う必要があるので、太陽電池1の出力が元に戻るのに時間を要してしまう。
 
【0023】
  この時間を短縮するための方法を以下に示す。系統状態判定装置10は系統電源監視装置9からの交流電源監視信号を基に商用電源系統5の停電を検知する。停電を検知すると系統状態判定装置10は電力追従制御装置8に停電信号を発信する。電力追従制御装置8では停電信号を受信すると、停電直前の直流電圧(VDC)、直流電流(IDC)を動作記憶装置11に記憶させる。系統状態判定装置10が商用電源系統5の復電を検知した場合、電源位相検出器12は復電後、外部周波数の最初のゼロクロスを検出した際、位相同期装置13に電圧位相(VRN)を入力し、
図4のように、内部周波数の位相角をプリセットする。この動作を行うことにより外部周波数と内部周波数の位相が同期し、PLLロック状態となるまでの時間が短縮できる。
 
【0024】
  また、系統状態判定装置10は電力追従制御装置8に復電信号を発信する。電力追従制御装置8は動作記憶装置11に記憶していた直流電圧(VDC)と直流電流(IDC)を出力するように指示する。動作記憶装置11が出力した直流電圧(VDC)と直流電流(IDC)は電力追従制御装置8へ入力される。電力追従制御装置8は入力された直流電圧(VDC)と直流電流(IDC)を用いてMPPT制御を開始することが出来る。
 
【0025】
  このように動作する本実施形態の太陽光発電制御システムにおいては、交流電源が瞬間的な停電から復電した場合、DC/ACインバータ3の出力電圧の位相を、商用電源系統5のゼロクロス点でプリセットするので、従来方法では商用電源系統の周波数が5周期ほどして位相同期が完了していたところ、本実施形態では最大でも商用電源系統の半周期で位相同期が完了するので位相同期の時間が短縮できる。
 
【0026】
  さらに、DC/ACインバータ3の出力電圧と商用電源系統5の電圧位相が同期した状態で、瞬間的な停電時に記憶した直流電源(VDC)、直流電流(IDC)を用いてMPPT制御を再開できるので、太陽電池1の発電が最適化されるまでの時間も短縮できる。
 
【0027】
  よって、商用電源系統5が瞬間的な停電から復帰したとき、太陽光発電制御システムと商用電源系統5との系統連系可能となるまでの時間が短縮されるので、FRT要件を満たすことが出来る。
 
 
【符号の説明】
【0028】
1  太陽電池
2  DC/DCコンバータ
3  DC/ACインバータ
4  電力変換器
5  商用電源系統
6  電圧検出器
7  電流検出器
8  電力追従制御装置
9  系統電源電圧検出器
10  系統状態判定装置
11  動作記憶装置
12  系統電源位相検出器
13  位相同期装置