特許第5946083号(P5946083)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5946083
(24)【登録日】2016年6月10日
(45)【発行日】2016年7月5日
(54)【発明の名称】船びき網
(51)【国際特許分類】
   A01K 73/00 20060101AFI20160621BHJP
【FI】
   A01K73/00
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-2116(P2012-2116)
(22)【出願日】2012年1月10日
(65)【公開番号】特開2013-141426(P2013-141426A)
(43)【公開日】2013年7月22日
【審査請求日】2015年1月9日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成23年7月25日 村田覚が大阪湾海域において「新規魚網を用いたイカナゴ及びちりめんの漁獲試験」を行う
(73)【特許権者】
【識別番号】512006815
【氏名又は名称】神戸魚網株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134669
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 道彰
(72)【発明者】
【氏名】宇津 修二
【審査官】 門 良成
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭48−079786(JP,U)
【文献】 特開昭54−091493(JP,A)
【文献】 実開昭58−073460(JP,U)
【文献】 実開昭58−125976(JP,U)
【文献】 特開2005−110633(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 73/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
海中又は海底に棲息する海洋動物を漁獲するための船びき網であって、
袖網部分と魚取り袋部分との間に設けられ、網目の大きさが漁獲対象となる前記海洋動物よりも細かい網目である胴網部分において、
前記袖網との連結部となる入口開口部と、前記魚取り袋部分との連結部となる出口開口部と、前記入口開口部と前記出口開口部との間の胴部と、前記胴部の一部において連結部を介して浮力を与えるために取り付けた浮力体と、
前記胴部の側面の一部に設けた、網目が他の部分の網目よりも粗い網目であり、船びきの際に、前記胴網部分に生じる抵抗を小さくする潮抜き部を備え、
前記浮力体を、前記胴部において前記潮抜き部が設けられている箇所に設けることにより、船びきの際に、前記胴網部分の途中にある前記潮抜き部を設けた箇所に浮力を与え、前記船びき網中の前記胴網部分の抵抗の小さい箇所の海中姿勢を上方に調整できることを特徴とする船びき網。
【請求項2】
前記浮力体を、前記胴部において前記潮抜き部の先端付近と後端付近に設けたことを特徴とする請求項1項に記載の船びき網。
【請求項3】
前記連結部に網体を取り付けた構成とし、船びきの速度が速くなるほど前記連結部の網体に生じる抵抗が大きく浮力が大きくなることを特徴とする請求項1または2に記載の船びき網。
【請求項4】
前記胴網部分の前記出口開口部の前方部分に内袋を設けて二重構造とした排出部を備え、前記排出部の内袋の網目を前記胴網部分の網目よりも大きくかつ漁獲対象となる前記海洋動物よりも大きな網目とし、前記排出部の内袋の出口を前記胴網部分の前記胴部の外へ導くように取り付けることにより、前記漁獲対象となる前記海洋動物は前記排出部の内袋の網目を通過して前記胴網部分の前記出口開口部に導かれ、不要海洋生物または雑物は前記排出部の内袋の網目を通過せずに前記胴部の外へ導かれて排出される構造としたことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の船びき網。
【請求項5】
前記魚取り袋部分内に内袋を設けて二重構造とした魚種選別部を設け、前記魚種選別部の網目を通過しない魚種は前記魚種選別部に溜まり、前記魚種選別部の網目を通過する魚種は前記魚種選別部の後方の前記魚取り袋部分に溜まる構造としたことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の船びき網。
【請求項6】
前記漁獲対象となる前記海洋動物がイカナゴ、シラスのいずれかである請求項1から5のいずれかに記載の船びき網。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船びき網に関し、特にイカナゴ、シラスなどの小型魚種の海洋動物を効率的に漁獲することができる船びき網の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
イカナゴやシラスなどの小型魚種の海洋動物を効率的に漁獲する漁法として船びき網漁業が知られている。
船曳網漁業は、網船と呼ばれる2隻の漁船が対になって1つの網を引き、運搬船と呼ばれる1隻の漁船が魚群を探して網船を誘導するとともに漁獲物を取り上げて港まで運搬する。このように3隻の漁船で操業する。
【0003】
運搬船は魚群探知機の反応状況から網船の誘導とともにイカナゴやシラスが網に溜まっている具合を判断し、網の交換時期を決定する。
イカナゴやシラスはその日の天候や海域の複雑な潮流によって回遊場所や回遊水深が異なるので、運搬船船長の経験とカンに基づいた網船の誘導がその日の漁獲量を左右するカギを握っていると言われている。なお、イカナゴやシラスは上層近くにいることが多いため、魚網を引く水深を浅く調整すると漁獲が増える。
大阪湾や播磨灘における船びき網漁業は,4月中旬まで“イカナゴ”漁が操業され、4月中旬〜6月上旬、9月下旬〜12月上旬まで“シラス”漁が行われる。
【0004】
船びき網は、袖網、袋網(胴網、魚取り)、曳綱で構成される。袖網は、袋網の口から左右両側に袖状に取り付けられ、魚群を中央に寄せ袋網に追い込む役割を担っている。袖網の上縁には浮子綱と浮子が、下縁には沈子が取り付けられ、網口が上下に開くよう工夫されている。袋網の網目の大きさは奥部ほど細かくなっており、一例としては、最細の網目は2mm程度のもじ網となっており、袋網の長さは約80mに及ぶ。袋網の末端から約20mを魚取りと呼び、チャックで脱着できるものとなっている。袖網には浮子がロープを通じて連結されており、当該ロープの伸縮や曳綱の長さを変えることにより、袖網水深を調節することができる。両船は全速で曳綱を張りながら展開し、漁具が所定の水深に沈むのを確認の後曳網を開始する。
【0005】
図10は船びき網漁法の操船の例を簡単に示している。曳網中の2隻の間隔は約50m、曳網時間は魚群の状況にもよるが、概ね30分から1時間程度で、曳網速度は約2ノットで操船する。
入網したイカナゴやシラスの回収は、網全体を巻き取らずに袋網のみを運搬船のウインチで吊り上げ、魚取り部のチャックを開いて回収する。漁獲物回収後、袋網を再度投入し、曳網を継続する。
【0006】
なお、イカナゴとシラスにおいて網目の大きさと長さの違いはあるものの魚網の構成、袖網の浮子などは同じである。シラス漁の仕掛けの方が魚網全体が長く、その長さは500メートルに達する場合もある。
【0007】
【非特許文献1】神戸地方海難審判庁『近畿の漁法と安全運航』
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記従来技術の魚網には以下の問題がある。
従来の船びき網漁法では、2そうの漁船が並走して曳綱と袖網を引くが、魚網の開口を大きく広げるため、また、安全走行のため、漁船はある程度の距離(例えば50m程度)は離れて操船する。曳網、袖網は幅広く開口し(例えば50m)、上下方向にも広く開口させるため、袖口の上方に浮子、下方に沈子が設けられ、袋網の開口も大きく開口(例えば20数m程度)している。一方、船びき網の最後段の魚取り部の幅は1〜2m程度であるため、大きな抵抗を受けつつ周囲方向に網目の間から海水を抜きながら船びきすることとなる。そのため、船びき網の中心部分が通過する水深が効率よくイカナゴやシラスが回遊する水深となるように調整することが重要である。
【0009】
船びき網は海水から大きな抵抗を受ける上、時期によりクラゲなどの浮遊物も多く網にかかるため網がさらに重くなる。船びき網は200m以上の長さになることが多く、船びき網の中心部分が通過する水深を調整することは難しい。
イカナゴ漁やシラス漁は対象魚種が小さいため魚網の網目が他の漁よりも細かく、その船びき操船には魚網に対して海水の大きな抵抗が発生し、船びきの速度が上がりにくいが、やはり、速い速度で操船することは経済性、他の漁船との競争の上では極めて重要であり如何に速い速度で船びきできるかが大きな課題である。速い速度で操船すればするほど魚網に対して海水の抵抗が大きくなり、さらに船びき網の中心部分が通過する水深を調整することは難しくなる。
【0010】
船びき操船の速度をある程度維持するため、魚網の最後部は対象魚種であるイカナゴやシラスを確実に捉える網目の細かさとしなければならないが、魚網の前方はある程度潮が抜けやすいように網目を粗いものとする必要がある。
発明者宇津修二は長年にわたり魚網の製作を行う中、魚網各部の網目の大きさ、網目から抜ける潮抜き、操船速度と抵抗も含めた魚網の重さ、魚網の海中での姿勢などの関係を研究する中、操船可能な速度で船びきした場合の魚網の海中姿勢において胴部の魚網の水深位置の調整が必要であることが分かった。
【0011】
上記問題点に鑑み、本発明は、簡単な構造により、船びき網の中心部分が通過する水深を調整し、速い速度で船びき操船を可能とする魚網を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明の船びき網は、海中又は海底に棲息する海洋動物を漁獲するための船びき網であって、袖網部分と魚取り袋部分との間に設けられ、網目の大きさが漁獲対象となる前記海洋動物よりも細かい網目である胴網部分において、前記袖網との連結部となる入口開口部と、前記魚取り袋部分との連結部となる出口開口部と、前記入口開口部と前記出口開口部との間の胴部と、前記胴部の一部において連結部を介して浮力を与えるために取り付けた浮力体と、 前記胴部の側面の一部に設けた、網目が他の部分の網目よりも粗い網目であり、船びきの際に、前記胴網部分に生じる抵抗を小さくする潮抜き部を備え、前記浮力体を、前記胴部において前記潮抜き部が設けられている箇所に設けることにより、船びきの際に、前記胴網部分の途中にある前記潮抜き部を設けた箇所に浮力を与え、前記船びき網中の前記胴網部分の抵抗の小さい箇所の海中姿勢を上方に調整できることを特徴とする船びき網である。
【0013】
胴網部分が、前部、中部、後部から構成され、前部は入口開口部から連結部が設けられる箇所までの部分とし、中部が当該連結部が設けられる箇所から側面潮抜き部の終端箇所までの部分とし、後部が側面潮抜き部の終端箇所からクラゲ抜きまでの部分とすると、浮力体を中部の連結部、つまり、側面潮抜き部が設けられている箇所に取り付ける。潮抜き部を設けることにより、船びきの際に、胴網部分の潮抜き部を設けた箇所の生じる抵抗が小さくなるため、側面潮抜き部が設けられている箇所に浮力体を設けるものである。
なお、上記構成において、前記連結部に網体を取り付けた構成とし、船びきの速度が速くなるほど前記連結部の網体に生じる抵抗が大きく浮力が大きくなるようにすることが好ましい。
つまり、船びきの速度が速くなると船びき網全体に海中からかかる抵抗が大きくなるが、入口開口付近と浮力体との間の連結部にも抵抗が大きくなり、入口開口付近に得られる浮力も大きくなる。いわゆる空中の“凧の原理”と同じく網体に浮力が発生する。
【0014】
また、上記構成において、胴網部分の複数個所において、前記浮力体を取り付けた構成とすることが好ましい。
特に、前記浮力体を、前記胴部において前記潮抜き部の先端付近と後端付近に設けた構成とすることが好ましい。
このように、船びき網の仕掛けの規模により海中からかかる抵抗に合わせて胴網部分に取り付ける浮力体の数や位置を調整することにより魚網の海中での姿勢や水深を調整する。
【0016】
次に、本発明の魚網は、対象魚種とは異なるクラゲなど混獲してしまった大型の不要な海洋生物が魚取り部に達しないように胴網から放逐できる構造とする。そこで、上記構成において、前記胴網部分の前記出口開口部の前方部分に内袋を設けて二重構造とした排出部を備え、前記排出部の内袋の網目を前記胴網部分の網目よりも大きくかつ漁獲対象となる前記海洋動物よりも大きな網目とし、前記排出部の内袋の出口を前記胴網部分の前記胴部の外へ導くように取り付けることにより、前記漁獲対象となる前記海洋動物は前記排出部の内袋の網目を通過して前記胴網部分の前記出口開口部に導かれ、不要海洋生物または雑物は前記排出部の内袋の網目を通過せずに前記胴部の外へ導かれて排出される構造とする。
【0017】
また、本発明の魚網は、対象魚種とは異なる海洋生物であるがシャコなど経済性のある海洋生物についてはクラゲなどのように放逐せずに魚取り部の中で大きさ別に選別できれば便利である。そこで、上記構成において、前記魚取り袋部分内に内袋を設けて二重構造とした魚種選別部を設け、前記魚種選別部の網目を通過しない魚種は前記魚種選別部に溜まり、前記魚種選別部の網目を通過する魚種は前記魚種選別部の後方の前記魚取り袋部分に溜まる構造とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明にかかる船びき網によれば、簡単な構造により、船びき網の中心部分が通過する水深を調整し、速い速度で船びき操船が可能となる。また、入口開口付近と浮力体との間の連結部に網体を取り付けた構成とし、船びきの速度が速くなるほど連結部の網体に生じる抵抗が大きくなり、いわゆる空中の“凧の原理”と同じく網体に浮力を大きくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の船びき網の実施例を説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0020】
以下、本発明に係る船びき網の構成例を、図面を参照しながら説明する。
実施例1は、シラス漁向けの魚網について説明する。
図1および図2は、実施例1にかかる本発明のシラス漁向けの船びき網を示す図である。
図1は平面図、図2は右側面図である。
【0021】
図1および図2に示すように、本発明シラス漁向けの船びき網100は、袖網部分110、胴網部分120、浮力体130、魚取り袋部分140を備えた構成となっている。曳網は図示を省略している。
【0022】
袖網部分110は、漁船に引かれる曳網につながる網である。本来は、漁獲対象となるシラスよりも細かい網目とすることは好ましいが、袖網110以降全体の網目をすべて細かくするとあまりに抵抗が大きく重くなってしまい操船が不能となる場合もあるため、袖網110の網目は大きくして抵抗を小さくすることにより、操船スピードを上げることが好ましい。
【0023】
胴網部分120は、袖網部分110と魚取り袋部分140との間に設けられた網部分であり、網目の大きさが漁獲対象となるシラスよりも細かい網目である。
図1および図2の例では、胴網部分120は、入口開口部121、前部122、中部123、後部124、側面潮抜き部125、クラゲ抜き126、中吊り127、クラゲ抜き出口128、出口開口部129の各部分から構成されている。
また、図3図4図5は、胴網部分120のうち、特に、入口開口部121、前部122、中部123、後部124、側面潮抜き部125までを分かりやすくしたように取り出して示した図である。図3は右側面図、図4は平面図、図5は正面図である。
【0024】
入口開口部121は、袖網110との連結部となる入口である。
前部122、前部122、中部123は、筒状の網体であり、その区別は便宜上のものである。この構成例では以下のように分けている。
前部122は、入口開口部121から後述する連結部131が設けられる箇所までの部分である。
中部123は、後述する連結部131が設けられる箇所から後述する側面潮抜き部125の終端箇所までの部分である。
後部124は、側面潮抜き部125の終端箇所から後述するクラゲ抜き126までの部分である。
【0025】
側面潮抜き部125は、胴部120の側面の一部において網目が他の部分の網目よりも粗い網目となっている部分であり、船びきの際に、胴網部分120に生じる抵抗を小さくするものである。この構成例では中部123の側面部分に設けられる。
【0026】
クラゲ抜き126は、胴網部分120の後段部分で出口開口部129の前に設けられたものであり、胴網部分120内に内袋を設けて二重構造とした排出部分である。その網目は胴網部分120の網目よりも大きく、かつ漁獲対象となるシラスよりも大きな網目となっている。クラゲ抜き出口128は胴網部分120の外へ導くように側面に取り付けられており、漁獲対象となるシラスはクラゲ抜きの内袋の網目を通過してそのまま胴網部分120の出口開口部129に導かれ、さらに後述する魚取り部140に入ってゆくが、クラゲなどの不要海洋生物または雑物はクラゲ抜き126の内袋の網目を通過せずにクラゲ抜き出口128から胴網部分120の外へ導かれて排出される構造となっている。
【0027】
中吊り127は、運搬船が適宜、魚取り部140に溜まったシラスを回収するために海中に没している魚取り部140を運搬船上に引き上げるための構造物であり、運搬船上からフックなどで引っかける治具などが取り付けられている。
【0028】
出口開口部129は、後述する魚取り袋部分140との連結部となる出口である。
【0029】
浮力体130は、浮子など海水よりも比重の軽い物体であり、海水などにより腐植しにくいプラスチックや発泡体などで良い。浮力体の大きさ、つまり浮力の大きさは船びき網100全体の規模や海域に浮遊しているクラゲや不要物の多寡に応じて調整可能である。胴部120の一部において連結部131を介して浮力を与える
【0030】
連結部131は、浮力体130を取り付ける部分である。この構成例では連結部131に網体を取り付けた構成となっており、この構成例では、図5に示すように網体が三角形をしている。このように浮力体130を取り付ける連結部が網体であるため、後述するように操船により船びき網を引いて前進すると連結部131に抵抗が生じ、船びきの速度が速くなるほど連結部131の網体に生じる抵抗が大きく浮力が大きくなる構造となっている。
船びきの際に、胴網部分120の一部に浮力を与え、船びき網中の胴網部分120の海中姿勢を上方に調整できることを特徴とする。
【0031】
魚取り部140は、船びき網100により捕獲した海洋動物を捉えて蓄積する部分である。この構成例では、シャコ取り141、魚取り142、魚巻き143を備えた構成となっている。魚取り部140全体はチャックなどで分離できる構造となっており、運搬船が中吊り127をフックなどで引っかけて引き上げ、魚取り140のチャックを外して魚取り部140のみを引き揚げて回収することができる仕組みとなっている。
【0032】
シャコ取り141は、魚取り部140の袋部分内に内袋を設けて二重構造とした魚種選別部であり、この網目を通過しない魚種はここに溜まり、この網目を通過する魚種は魚取りの袋部分に溜まる構造としたものである。この構成例では網目の大きさをシラスは通過するがシャコは通過しない大きさとすれば良い。なお、シャコよりも大きなクラゲや海洋不要物などの浮遊物はクラゲ抜きを通過できず、クラゲ抜き出口128より排出されており、シャコ抜き141には概ねシャコやシラスよりも少し大きな小魚などが溜まることとなる。
【0033】
魚取り142は、シャコ取り141の後段にあり、シャコ取り141を通過した魚種が最終的に溜まる部分であり、この構成例では捕獲対象魚種であるシラスが溜まることとなる。
魚巻き143は魚取り142の最後段を締めている部分である。魚巻き143が開閉可能な構造であれば、運搬船上で魚巻き143を開放してシラスを取り出すことができる。
【0034】
図6は、船びき網100を船びきした際の海中での姿勢を簡単に示す図であり、特に、胴網部分120の前部122、中部123、後部124、側面潮抜き部125、浮力体130、連結部131を取り出して示した図となっている。
図6に示すように、船びき網100が前方に船びきされると、相対的に海水は後方へ流れてゆく。その際に、船びき網100の胴網部分120の内部にも海水が通り、各部の網体との間で抵抗が生じるが、連結部131にも相対的に海水が当たり抵抗が生じる。連結部132の形状や角度にもよるが、抵抗を受けると連結部131の上方に浮力体130が取り付けられていることも相俟って、あたかも“凧上げ”のような効果が生じ、胴網部分120を引き上げる浮力が増すこととなる。
【0035】
この“凧上げ”のような効果は、船びきの速度が速くなるほど連結部131の網体に生じる抵抗が大きくなって浮力が大きくなる。船びきの速度が速くなれば船びき網100の抵抗が大きくなりその姿勢を調整することが難しくなるが、連結部131の網体に生じる浮力が大きくなり浮きやすくなり、船びき網100全体の姿勢の制御が行いやすくなる。
【実施例2】
【0036】
実施例2は、実施例1と同様、シラス漁向けの魚網であるが、連結部131の形状が異なるものである。
図7は、実施例2にかかる船びき網100aのうち、胴網部分120の特に入口開口部121、前部122、中部123、後部124、側面潮抜き部125、浮力体130、連結部131までを分かりやすくしたように取り出したものの正面図である。
【0037】
図7に示すように、連結部131は1本の紐体となっている。この構成例では、船びき網100を船びきした際の海水から受ける連結部131の浮力が実施例1に比べて大きくは発生しない。
しかし、この連結部131の長さによって、浮力体130が海中に没したまま船びきされるように調整することにより浮力体130が海中に没した状態で船びき網100aを船びきすることができる。浮力体130にはある程度の大きさがあり、浮力体130が海中に没した状態で船びきすることにより、浮力体130自身のもつ大きさにより海中から受ける抵抗が増すとともに“凧上げ”のような効果が生じ、胴網部分120を引き上げる浮力が増すこととなる。
【0038】
船びきの速度が速くなれば船びき網100の抵抗が大きくなりその姿勢を調整することが難しくなるが、連結部131の網体に生じる浮力が大きくなり浮きやすくなり、船びき網100全体の姿勢の制御が行いやすくなる。
【実施例3】
【0039】
実施例3は、実施例1と同様、シラス漁向けの魚網であるが、胴網部分120の複数個所に浮力体130a、130bが取り付けられている構成例である。
図8は、実施例3にかかる船びき網100bのうち、胴網部分120の特に入口開口部121、前部122、中部123、後部124、側面潮抜き部125、浮力体130、連結部131までを分かりやすくしたように取り出したものの右側面図である。
【0040】
この例では、胴網部分120の複数個所に浮力体130a、130bが取り付けられている。また、側面潮抜き部125の形状が実施例1の形状とは異なっている。
なお、胴網部分120の複数個所に浮力体130a、130bを取り付けることにより、胴網部分120の海中姿勢が安定した状態となる。
【実施例4】
【0041】
実施例4は、イカナゴ漁向けの魚網である。
図9は、実施例4にかかる船びき網100cのうち、胴網部分120の特に入口開口部121、前部122、中部123(中部123a、123b、123c)、後部124、浮力体130、連結部131までを分かりやすくしたように取り出したものの右側面図である。
【0042】
図9に示すように、イカナゴ漁向けの船びき網100bでは、側面潮抜き部125に相当するものが設けられていない。シラスに比べイカナゴの魚体が少し大きいため、シラス漁向けの船びき網100や船びき網100aに比べ、網の目の大きさが大きくても良く、その分、シラス漁向けの船びき網100や船びき網100aにより生じる抵抗よりも小さくて済む。そこで、シラス漁向けの船びき網100、船びき網100aでは少しでも潮を抜くために側面に設けた側面潮抜き部125に相当するものを設ける必要性が低く、製作の手間を省力化することができる。
【0043】
次に、イカナゴ漁向けの船びき網100bでは、胴網部分120の中部123が長くなっており、ここでは便宜上、中部123a、中部123b、中部123cの3段構成となっている。
側面潮抜き部125に相当するものが設けられていない点、中部が長く多段に設けられている点を除けば、他の構成要素は同じで良い。
【0044】
以上、本発明の船びき網の構成例における好ましい実施形態を図示して説明してきたが、本発明の技術的範囲を逸脱することなく種々の変更が可能であることは理解されるであろう。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の船びき網は、シラス漁、イカナゴ漁の船びき網などに広く適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
図1】実施例1にかかる本発明のシラス漁向けの船びき網を示す図(平面図)である。
図2】実施例1にかかる本発明のシラス漁向けの船びき網を示す図(右側面図)である。
図3】胴網部分120のうち、特に、入口開口部121、前部122、中部123、後部124、側面潮抜き部125までを示した図(右側面図)である。
図4】胴網部分120のうち、特に、入口開口部121、前部122、中部123、後部124、側面潮抜き部125までを示した図(平面図)である。
図5】胴網部分120のうち、特に、入口開口部121、前部122、中部123、後部124、側面潮抜き部125までを示した図(正面図)である。
図6】船びき網100を船びきした際の海中での姿勢を簡単に示す図である。
図7】実施例2にかかる船びき網100aのうち、胴網部分120の特に入口開口部121、前部122、中部123、後部124、側面潮抜き部125、浮力体130、連結部131までを示した図(正面図)である。
図8】実施例3にかかる船びき網100bのうち、胴網部分120の特に入口開口部121、前部122、中部123、後部124、側面潮抜き部125、浮力体130、連結部131までを示した図(右側面図)である。
図9】実施例4にかかる船びき網100cのうち、胴網部分120の特に入口開口部121、前部122、中部123、後部124、浮力体130、連結部131までを示した図(右側面図)である。
図10】従来の船びき網漁法の操船の例を簡単に示している図である。
【符号の説明】
【0047】
100 船びき網
110 袖網部
120 胴網部分
121 入口開口部
122 前部
123 中部
124 後部
125 側面潮抜き部
126 クラゲ抜き
127 中吊り
128 クラゲ抜き出口
129 出口開口部
130 浮力体
131 連結部
140 魚取り部
141 シャコ取り
142 魚取り
143 魚巻き
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10