(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来の一般的なパワーモジュールとしては、例えば
図8に記載のものが知られている。同図に示すように、従来のパワーモジュール100は、基板101と、該基板101表面の金属配線層102に半田接続された複数の半導体チップ103(一例として、IGBT103a、ダイオード103b)と、基板101の裏面側に設けられた放熱フィン108と、基板101を収容するハウジングとしての樹脂ケース104を備えている。
【0003】
各半導体チップ103の表面電極は、金属配線層102の電極部105、他の半導体チップ103の表面電極または樹脂ケース104に設けられた電極部106にアルミニウムワイヤ(ALワイヤ)でボンディングされている。樹脂ケース104にはリードがインサート成形されており、これにより樹脂ケース104の電極部106が外部に引き出されている。また、樹脂ケース104内は、硬化した後も柔軟な充填樹脂107(例えば、シリコンゲル)が充填されている。充填樹脂107を充填するのは、耐環境性能を高めるためである。充填樹脂107の充填は、上記ALワイヤボンディングの後に行われる。
【0004】
ところで、このパワーモジュール100では、主に放熱フィン108により半導体チップ103の放熱が行われるが、半導体チップ103と放熱フィン108の間には基板101が存在しているため放熱効率が悪いという問題があった。なお、半導体チップ103の放熱はALワイヤを介しても行われるが、その放熱量は微量である。
【0005】
また、このパワーモジュール100では、ボンディング性を考慮して線径100〜500μmのALワイヤが用いられるが、該ALワイヤの許容電流条件を満たし、かつ半導体チップ103に必要な電流を供給するためには、1電極あたりのワイヤ本数を複数本にしなければならず、生産性が低いという問題もあった。
【0006】
そこで、
図9に示すように、特許文献1に記載のパワーモジュール200は、第1の基板201と、第1の基板201に対向する第2の基板202と、第1の基板201上に接続された半導体チップ204と、半導体チップ204の表面電極と第2の基板202に設けられた回路パターンとを接続する球状の接続導体203と、第1の基板201および第2の基板202の間に充填されたゲル状絶縁耐熱性充填材(不図示)とを備えている。
【0007】
このパワーモジュール200によれば、複数本のALワイヤをボンディングしなくても接続導体203を通じて十分な電流を供給することができるので、生産性を向上させることができる。また、このパワーモジュール200によれば、第1の基板201および第2の基板202の両方に放熱フィンを取り付けることにより、放熱効率を高めることもできる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、パワーモジュール200では、当該パワーモジュール200を構成する部材の熱膨張係数の違い、より具体的には、基板201、202、半導体チップ204および充填樹脂(不図示)の熱膨張係数の違いにより、半導体チップ204と第2の基板202とを接続する接続導体203に応力が集中し、クラック等の異常が発生することがしばしば問題になる。また、近年では、上記接続導体203が接続される半導体チップ204上の電極(例えば、AL−1.2%Siパッド)が熱疲労により損傷し、半導体チップ204の機能が損なわれることも問題視され始めている。
【0010】
この点、従来のパワーモジュール200では、接続導体203に可撓性をもたせることで、1つ目の問題である接続導体203におけるクラックの発生を防いでいる。しかしながら、2つ目の問題である電極の損傷に対しては、別途対策が必要とされているが、これについて有効な対策が講じられている状況とはいえなかった。したがって、従来のパワーモジュール200では、電極に熱疲労が蓄積した結果、半導体チップ204が損傷するおそれがあった。
【0011】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、その課題とするところは、接続導体にクラック等の異常が発生するのを防ぐだけでなく、熱疲労による半導体チップの損傷をも防ぐことができるパワーモジュールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明に係るパワーモジュールは、第1金属配線層が表面に設けられ、セラミック材料からなる第1基板と、第1金属配線層に対向配置された第2金属配線層が表面に設けられ、セラミック材料からなる第2基板と、表面側電極が第2金属配線層に半田接続され、かつ裏面側電極が第1金属配線層に半田接続された半導体チップとを備え、第1基板と第2基板との間にエポキシ樹脂が充填されて
おり、かつ、エポキシ樹脂の熱膨張係数をαC、エポキシ樹脂の弾性率をEC、第1基板および第2基板の熱膨張係数をαAとし、エポキシ樹脂に対するフィラーの添加量を変えたときの熱膨張係数αCおよび弾性率ECの関係式が“EC=−AαC+B”であるとき、エポキシ樹脂の熱膨張係数αCが、“αA/2+B/2A−3”以上、かつ“αA/2+B/2A+3”以下であることを特徴とする。
【0013】
この構成では、半導体チップの裏面側電極が第1基板(セラミック基板)の表面に形成された第1金属配線層に半田接続され、半導体チップの表面側電極が第2基板(セラミック基板)の表面に形成された第2金属配線層に半田接続されている。このため、半導体チップからの発熱を表裏面から第1および第2基板に効率良く放熱させることができる。一方、このように半導体チップの表裏面を基板(第1および第2基板)に半田接続した場合には、特に「発明が解決しようとする課題」の項に記載したように熱疲労により半導体チップが損傷するおそれがある。これに対し、本発明によれば、第1基板と第2基板との間に充填する充填樹脂として、エポキシ樹脂を使用している。通常、エポキシ樹脂は、パワーモジュールの充填樹脂として多用されているシリコン系樹脂よりも弾性率が高く、また、半導体チップ、第1基板および第2基板を構成するセラミック材料よりも熱膨張係数が大きい。したがって、この構成によれば、高温時における半導体チップの膨張をエポキシ樹脂の膨張によって抑え込み(押し戻し)、半導体チップにおける応力を低減することができる。すなわち、この構成によれば、半導体チップに応力がかかることによって起こる、半導体チップの損傷を防ぐことができる。
また、この構成によれば、半導体チップにおける応力がほぼ最小化されるので、昇降温を1万回繰り返しても半導体チップが損傷することはない。
【0014】
上記パワーモジュールは、第1基板および第2基板の裏面に金属層が設けられていること、および、金属層を介して第1基板の裏面および第2基板の裏面にそれぞれ放熱フィンが設けられていることが好ましい。
【0015】
この構成によれば、半導体チップから発せられた熱を金属層によって素早く面内方向に拡散させ、放熱フィンによって効率的に放熱させることができる。
【0018】
また、上記パワーモジュールは、エポキシ樹脂の熱膨張係数α
Cが“α
A/2+B/2A”であることが特に好ましい。
【0019】
この構成によれば、半導体チップにおける応力が最小化されるので、半導体チップの損傷をより確実に防ぐことができる。
【0020】
なお、本明細書で使用する用語「エポキシ樹脂」は、弾性率が1[GPa]以上である一般的なエポキシ樹脂を意味する。弾性率が1[GPa]を下回るような特殊なものは本発明で使用する「エポキシ樹脂」に含まれないので注意されたい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、接続導体にクラック等の異常が発生するのを防ぐだけでなく、熱疲労による半導体チップの損傷をも防ぐことができるパワーモジュールを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付図面を参照しながら、本発明に係るパワーモジュールの実施形態について説明する。
【0025】
図1(A)に本発明の一実施形態に係るパワーモジュールの平面図、
図1(B)に断面図を示す。ただし、
図1(A)では理解を容易にするために一部の部材(後述する第2基板4、第2金属配線層5、第2放熱フィン9、金属層16)を省略している。また、
図1(B)は
図1(A)のA−A’断面図である。
【0026】
図1に示すように、本実施形態に係るパワーモジュール1は、表面に第1金属配線層3が形成された第1基板2と、表面に第2金属配線層5が形成された第2基板4と、表面側電極が第2金属配線層5に半田接続され、かつ裏面側電極が第1金属配線層3に半田接続された複数の半導体チップ6と、第1基板2および第2基板4を収容するハウジングとしての樹脂ケース7と、金属層15を介して第1基板2の裏面に取り付けられた第1放熱フィン8と、金属層16を介して第2基板4の裏面に取り付けられた第2放熱フィン9と備えている。
【0027】
半導体チップ6は、IGBT6aおよびダイオード6bを含んでいる。このうち、IGBT6aは、表面側電極としてのエミッタ端子およびゲート端子が第2金属配線層5に接続され、裏面側電極としてのコレクタ端子が第1金属配線層3に接続されている。また、ダイオード6bは、表面側電極としてのアノード端子が第2金属配線層5に接続され、裏面側電極としてのカソード端子が第1金属配線層3に接続されている。半導体チップ6としては、この他、MOSFET等を使用することができる。使用する半導体チップ6の種別は、パワーモジュール1の特性等に応じて適宜決定される。
【0028】
第1基板2および第2基板4は、例えば、アルミナ系セラミック、窒化アルミニウム、窒化珪素等のセラミック材料からなり、平面視矩形状を有している。樹脂ケース7との接続部を設けるために、第2基板4は第1基板2より長辺寸法が大きくなっている。
【0029】
第1金属配線層3は、第1基板2の表面に銅、アルミニウム等の金属をメタライズすることにより形成したもので、その最表面には、半田に対する濡れ性を向上させるためのNiめっきまたはAuめっきが施されている。また、第1金属配線層3には、IGBT6aを接続するための電極パッド3a、ダイオード6bを接続するための電極パッド3b、金属球10を接続するための第1電極パッド3cおよび各電極パッドを相互に接続する配線部(不図示)が含まれている。
【0030】
第2金属配線層5は、第1金属配線層3と同様に形成される。また、第2金属配線層5には、IGBT6aを接続するための電極パッド5a、ダイオード6bを接続するための電極パッド5b、金属球10を接続するための第2電極パッド5c、各電極パッドを相互に接続する配線部(不図示)、および外部引出パッド5dが含まれている。このうち、第2電極パッド5cは第1電極パッド3cに対向した位置に設けられ、その形状および寸法は第1電極パッド3cの形状および寸法と同一である。
【0031】
第1基板2および第2基板4の間には、充填樹脂11が充填されている。本実施形態に係るパワーモジュール1では、フィラーを添加することにより熱膨張係数α
Cが調整されたエポキシ樹脂を充填樹脂11とした。エポキシ樹脂の熱膨張係数α
Cについては、後で詳細に説明する。
【0032】
樹脂ケース7は、外部接続リード12を一体成型したインサートケースとなっており、
図1(B)に示すように、樹脂ケース7の内側に設けられた内部接続端子13(外部接続リード12の一端)および第2基板4に形成された外部引出パッド5dは、屈曲部を有する接続ダンパリード14により接続されている。また、接続ダンパリード14周辺には、エポキシ樹脂ではなく柔軟性の高いシリコン樹脂が充填されている。屈曲部を有する接続ダンパリード14で接続を行ったのは、樹脂ケース7とセラミック材料からなる第1基板2および第2基板4の熱膨張係数差に起因する応力を吸収させるためである。
【0033】
第1放熱フィン8および第2放熱フィン9は、放熱接着剤により第1基板2および第2基板4の裏面に形成された金属層15、16にそれぞれ接続されている。第1放熱フィン8および第2放熱フィン9の材料は、AL系合金、銅系合金、セラミック系合金から適宜選択することができる。特に、セラミック系合金を選択した場合は、第1基板2および第2基板4との熱膨張係数差が少なく、接続部にかかる応力が低くなるという利点がある。放熱接着剤としてはシリコングリースを使用するのが一般的であるが、これには限定されない。
【0034】
第1基板2と第1放熱フィン8の間に金属層15を配置したのは、半導体チップ6から発せられた熱を面内方向に素早く拡散させるためである。第2基板4と第2放熱フィン9の間に金属層16を配置したのも同じ理由からである。
【0035】
第1電極パッド3cおよび第2電極パッド5cの間には、双方に接する金属球10が備えられている。パワーモジュール1は、この金属球10を備えたことにより、第1電極パッド3cと第2電極パッド5cとの間で数10Aオーダーの大電流を通流させることが可能である。
【0036】
本実施形態では、大電流を通流させた際の発熱を抑えるために、電気伝導率が高い銅を金属球10の主材料としたが、金属球10を構成する金属は、銀(Ag)または高純度アルミニウムを主材料としたものであってもよい。なお、金属球10は、半田との濡れ性を向上させるための表面処理がなされていることが好ましい。このような表面処理としては、例えば、Sn系メッキ、Ag系メッキ等がある。
【0037】
第1電極パッド3cおよび第2電極パッド5cは半田でも接続されており、
図1(B)に示すように、金属球10はこの半田の内部に収容されている。
【0038】
[熱膨張係数α
Cの決定方法]
上記の通り、本実施形態に係るパワーモジュール1では、充填樹脂11として、フィラーを添加することにより熱膨張係数α
Cが調整されたエポキシ樹脂が使用される。また、本実施形態に係るパワーモジュール1では、高温時における半導体チップ6の膨張をエポキシ樹脂11の膨張によって抑え込むことにより、半導体チップ6における応力を低減し、半導体チップ6の損傷が防がれる。すなわち、本発明においては、エポキシ樹脂11の熱膨張係数α
Cをどのような値にするのかが非常に重要である。以下、熱膨張係数α
Cの決定方法について、順を追って説明する。
【0039】
まず、
図2を参照して、エポキシ樹脂11の熱膨張係数α
Cが半導体チップ6の膨張にどのように影響するのかについて説明する。
【0040】
図2(B)は、
図2(A)に示されているパワーモジュール1の一部分を抽象化した図である。
図2(B)に示すように、パワーモジュール1は、第1基板2および第2基板4に相当する2つの基板部Aと、半導体チップ6に相当する半導体チップ部Bと、エポキシ樹脂11に相当するエポキシ樹脂部Cとに分かれている。
【0041】
図2(C)は、エポキシ樹脂部Cが存在しないと仮定した場合の図である。この場合、半導体チップ部Bにおける応力(以下、チップ応力という)σ
Bは、次式で表される。
σ
B[MPa]=E
B・(α
B−α
A)・ΔT ・・・(1)
ここで、E
Bは半導体チップ部Bの弾性率、α
Aは基板部Aの熱膨張係数(通常、5〜8[ppm/℃])、α
Bは半導体チップ部Bの熱膨張係数(通常、2〜4[ppm/℃])である。
【0042】
基板部Aの熱膨張係数α
Aは、半導体チップ部Bの熱膨張係数α
Bよりも大きい。したがって、高温になると、半導体チップ部Bは基板部Aによって強制的に引っ張られ、横方向に延びる。これにより、半導体チップ部Bに上記チップ応力σ
Bが発生する。
【0043】
高温になると、エポキシ樹脂部Cにも応力が発生する。すなわち、半導体チップ部Bが存在しないと仮定すると(
図2(D)参照)、エポキシ樹脂部Cには、次式で表される応力(以下、樹脂応力という)σ
Cが発生する。
σ
C[MPa]=E
C・(α
C−α
A)・ΔT ・・・(2)
ここで、E
Cはエポキシ樹脂部Cの弾性率、α
Aは基板部Aの熱膨張係数(通常、5〜8[ppm/℃])、α
Cはエポキシ樹脂部Cの熱膨張係数(通常、10〜20[ppm/℃])である。
【0044】
基板部Aの熱膨張係数α
Aは、エポキシ樹脂部Cの熱膨張係数α
Cよりも小さい。したがって、高温になると、エポキシ樹脂部Cは基板部Aによって膨張が制限される。これにより、エポキシ樹脂部Cに上記樹脂応力σ
Cが発生する。
【0045】
なお、半導体チップ部Bおよびエポキシ樹脂部Cは、第1基板2に相当する基板部Aと第2基板4に相当する基板部Aとによって挟み込まれているので、上下方向にはほとんど延びない。すなわち、本発明では、横方向への延びだけを考慮すればよい。
【0046】
図2(A)に示す、2つの基板部Aの間に半導体チップ部Bおよびエポキシ樹脂部Cが挟み込まれている実際のモデルにおいては、半導体チップ部Bおよびエポキシ樹脂部Cが互いに影響を及ぼし合うので、チップ応力σ
Bは(1)式の通りにはならない。すなわち、
図2(A)に示す実際のモデルでは、基板部Aに引っ張られることによる半導体チップ部Bの延びがエポキシ樹脂部Cの膨張によって抑え込まれ(押し戻され)、その結果、実際のチップ応力σ
B’は、(1)式に示すσ
Bよりも小さくなる。
【0047】
次に、実際のチップ応力σ
B’を最小化するための条件について検討する。
【0048】
実際のチップ応力σ
B’を最小化するためには、(2)式に含まれる“E
C・(α
C−α
A)”を最大にする必要があると考えられる。この部分には、エポキシ樹脂部Cの弾性率E
C、エポキシ樹脂部Cの熱膨張係数α
Cおよび基板部Aの熱膨張係数α
Aが含まれているが、このうち、基板部Aの熱膨張係数α
Aは選定した基板の材料によって決定されるので、結局、実際のチップ応力σ
B’を最小化するためには、エポキシ樹脂部Cの弾性率E
Cおよび熱膨張係数α
Cを大きくする必要がある。ここで、熱膨張係数α
Cは大きければよいという訳でなく、エポキシ樹脂部Cの弾性率E
Cとの兼ね合いの中で最適化することが必要となる。
【0049】
エポキシ樹脂部Cの弾性率E
Cおよび熱膨張係数α
Cは、フィラーの添加量によって調整することができる。しかしながら、
図3に示すように、熱膨張係数α
Cおよび弾性率E
Cはトレードオフの関係にあり、フィラーの添加量を減らして熱膨張係数α
Cを大きくすると弾性率E
Cが下がり、反対に、フィラーの添加量を増やして弾性率E
Cを大きくすると熱膨張係数α
Cが下がってしまう。したがって、実際のチップ応力σ
B’を最小化するためには、最適な熱膨張係数α
C(および弾性率E
C)を見つけ出さなければならない。
【0050】
最適な熱膨張係数α
Cは、以下のステップにより求めることができる。
【0051】
まず、熱膨張係数α
Cと弾性率E
Cの関係を表す一次の関係式を求める。例えば、
図3に示すグラフからは、次の関係式が求められる。
E
C[MPa]=−1075.8・α
C+33588 ・・・(3)
上式を定数A、Bを用いて書き換えると、次式となる。
E
C[MPa]=−A・α
C+B ・・・(4)
【0052】
次に、(4)式を“E
C・(α
C−α
A)”に代入し、次式を得る。
E
C・(α
C−α
A)
=(−A・α
C+B)・(α
C−α
A)
=−A・α
C2+(B+α
A・A)・α
C−α
A・B ・・・(5)
【0053】
(5)式が最大値をとるのは、(5)式を微分したものが“0”になるときである。すなわち、次式が成立するときである。
−2A・α
C+B+α
A・A=0 ・・・(6)
これを、エポキシ樹脂部Cの熱膨張係数α
Cについて解くと、次式が得られる。
α
C=α
A/2+B/2A ・・・(7)
すなわち、エポキシ樹脂部Cの熱膨張係数α
Cが“α
A/2+B/2A”であるとき、実際のチップ応力σ
B’は最小となる。
【0054】
具体的には、基板部Aの熱膨張係数α
Aが5[ppm/℃]である場合は、定数A=1075.8、定数B=33588なので、エポキシ樹脂部Cの最適な熱膨張係数α
Cは、18.1[ppm/℃]となる。一方、基板部Aの熱膨張係数α
Aが8[ppm/℃]である場合は、熱膨張係数α
Cの最適値は19.6[ppm/℃]となる。
【0055】
続いて、上記方法で決定した熱膨張係数α
Cにより、実際のチップ応力σ
B’を最小化することができるのかについて検証した結果について説明する。なお、以下の検証では、有限要素法によるCAE解析を用いた。また、基板部Aの熱膨張係数α
Aは5[ppm/℃]とした。
【0056】
図4に、エポキシ樹脂部Cの熱膨張係数α
Cを8〜21[ppm/℃]まで変化させたときのチップ応力σ
B’の検証結果を示す。同図に示すように、横軸である“E
C・(α
C−α
A)”が最大となるところでチップ応力σ
B’は最小に近い値を示し、エポキシ樹脂部Cの熱膨張係数α
Cをさらに大きくしていくと、チップ応力σ
B’が増大していくことが分かる。すなわち、チップ応力σ
B’は、エポキシ樹脂部Cの熱膨張係数α
Cの増加に伴って初めのうちは減少していくが、“E
C・(α
C−α
A)”がほぼ最大となるあるポイント(変曲点)を境に増大に転じることが明らかになった。また、チップ応力σ
B’が最小となるとき、エポキシ樹脂11の熱膨張係数α
Cは約18[ppm/℃]であり、上記計算の結果とほぼ一致した。
【0057】
図5(B)は、エポキシ樹脂部Cの熱膨張係数α
Cを18.1[ppm/℃]に設定し、125℃まで昇温させたときの応力マップである。この応力マップでは、応力の高い部分が白っぽく表され、反対に、応力の低い部分が黒っぽく表されている。同図に示すように、第1基板2、第2基板4およびエポキシ樹脂11は白っぽい部分が多く、応力が高いが、半導体チップ6は黒っぽい部分が多く、応力が低かった。これは、エポキシ樹脂部Cの熱膨張係数α
Cを上記方法で最適化したことにより、半導体チップ6における実際のチップ応力σ
B’が低減されたことを示している。一方、熱膨張係数α
Cを18.1[ppm/℃]よりも小さくした場合(
図5(A)参照)および大きくした場合(
図5(C)参照)は、
図5(B)に比べて半導体チップ6が白っぽくなった。これは、半導体チップ6における実際のチップ応力σ
B’が、熱膨張係数α
Cを18.1[ppm/℃]に設定した場合よりも高いことを示している。
【0058】
最後に、エポキシ樹脂部Cの熱膨張係数α
Cの好適な範囲について検討する。
【0059】
図6は、岡山理科大学工学部の金谷輝人氏らが作成した、半導体チップ6の電極に使用されるAL−1.2%SiのS−N曲線である(「AL−1.2%合金の時効処理による粒界近傍の組織変化と疲労強度」、軽金属、巻50、号12、頁650−654より引用)。この曲線は、温度サイクル(横軸)と限界応力σ
MAX(縦軸)の関係を示している。熱疲労による半導体チップ6の電極の損傷を防ぐためには、実際のチップ応力σ
B’がこの曲線で示されている限界応力σ
MAXを超えないようする必要がある。一般に、半導体機器では、−40℃〜125℃の温度サイクルを想定した場合、1千回の温度サイクルに耐え得ることが求められている。しかし、本発明のようなパワーモジュールの場合、さらに上限温度が175℃までの過酷な環境が要求され、コフィン・マンソンの寿命予測式からは、−40℃〜175℃の1千回の温度サイクルは、−40℃〜125℃の1万回の温度サイクルに相当する。このため、上限温度175℃の使用環境を想定した場合は、−40℃〜125℃で1万回の温度サイクルに耐え得ることが求められる。したがって、本実施形態に係るパワーモジュール1では、実際のチップ応力σ
B’が48[MPa]を超えないようにしなければならない。
【0060】
図7は、
図4に48[MPa]を示すラインを書き加えたものである。上記の通り、実際のチップ応力σ
B’が最も低くなる熱膨張係数α
Cの最適値は約18[ppm/℃]であるが、
図7に示すように、この値に±3[ppm/℃]を加えた15〜21[ppm/℃]の範囲内であれば、実際のチップ応力σ
B’が48[MPa]を超えるのを防ぐことができる。すなわち、エポキシ樹脂部Cの熱膨張係数α
Cが“α
A/2+B/2A−3”以上、かつ“α
A/2+B/2A+3”以下であれば、熱疲労による半導体チップ6の損傷を防ぐことができる。
【0061】
[変形例]
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこの構成に限定されるものではない。
【0062】
例えば、上記実施形態では、金属層15、16を介して第1基板2および第2基板4の裏面に第1放熱フィン8および第2放熱フィン9を備えたが、金属層15、16および放熱フィン8、9は適宜省略することができる。また、上記実施形態では、第1基板2および第2基板4を金属球10で接続したが、これも適宜省略することができる。
【0063】
この他、上記実施形態では、熱膨張係数と弾性率に
図3に示す関係があるエポキシ樹脂、すなわち、定数Aが1075.8であり、かつ定数Bが33588であるエポキシ樹脂を用いたが、定数Aと定数Bの値はこれに限定されない。