(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5946140
(24)【登録日】2016年6月10日
(45)【発行日】2016年7月5日
(54)【発明の名称】多層気密バリアおよび関連構造および気密封止方法
(51)【国際特許分類】
B32B 9/00 20060101AFI20160621BHJP
B32B 17/10 20060101ALI20160621BHJP
【FI】
B32B9/00 A
B32B17/10
【請求項の数】19
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-506179(P2013-506179)
(86)(22)【出願日】2011年4月14日
(65)【公表番号】特表2013-525146(P2013-525146A)
(43)【公表日】2013年6月20日
(86)【国際出願番号】US2011032389
(87)【国際公開番号】WO2011133373
(87)【国際公開日】20111027
【審査請求日】2014年4月11日
(31)【優先権主張番号】12/763,541
(32)【優先日】2010年4月20日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】397068274
【氏名又は名称】コーニング インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100090468
【弁理士】
【氏名又は名称】佐久間 剛
(72)【発明者】
【氏名】エドワーズ,ヴィクトリア アン
(72)【発明者】
【氏名】ジロウクス,シンシア ベイカー
(72)【発明者】
【氏名】コヴァル,シャリ エリザベス
(72)【発明者】
【氏名】ケサダ,マーク アレジャンドロ
(72)【発明者】
【氏名】ワルクザック,ワンダ ジャニナ
【審査官】
加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−165512(JP,A)
【文献】
特表2002−543563(JP,A)
【文献】
特開2006−289627(JP,A)
【文献】
特開2004−244606(JP,A)
【文献】
特開2000−357811(JP,A)
【文献】
特表2005−516369(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多層気密シートにおいて、
第1のキャリアフイルム、
対向する第1と第2の主面を有する無機薄膜、および
第2のキャリアフイルム、
を備え、前記無機薄膜の第1の主面が前記第1のキャリアフイルムの表面上に物理的に直接接触して形成され、前記第2のキャリアフイルムが前記無機薄膜の第2の主面上に物理的に直接接触して形成され、前記無機薄膜が低溶融温度ガラス組成物を含んでいることを特徴とする気密シート。
【請求項2】
自立形であることを特徴とする請求項1記載の気密シート。
【請求項3】
前記無機薄膜が前記気密シートの中立応力面に配置されていることを特徴とする請求項1記載の気密シート。
【請求項4】
前記無機薄膜が前記気密シートの圧縮応力面に配置されていることを特徴とする請求項1記載の気密シート。
【請求項5】
前記第1のキャリアフイルムがポリエチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレートまたはポリジメチルシロキサンからなり、前記第2のキャリアフイルムがポリエチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレートまたはポリジメチルシロキサンからなることを特徴とする請求項1記載の気密シート。
【請求項6】
加工製品を被包する方法において、
基体上に加工製品を支持する工程、
多層気密シートであって、
第1のキャリアフイルムと、
対向する第1と第2の主面を有し低溶融温度ガラス組成物を含む無機薄膜と、
第2のキャリアフイルムと、
を備え、前記無機薄膜の第1の主面は前記第1のキャリアフイルムの表面上に物理的に直接接触して形成されており、前記第2のキャリアフイルムは前記無機薄膜の第2の主面上に物理的に直接接触して形成されている、多層気密シートを形成する工程、および
前記気密シートを前記加工製品上に配置して、被包された加工製品を形成する工程、
を有してなる方法。
【請求項7】
前記第1のキャリアフイルム、前記第2のキャリアフイルム、および前記無機薄膜の1つ以上の外側の縁表面に気密接触する縁シールを、前記基体上であって、前記多層気密シートの周囲に形成する工程をさらに含む、請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記縁シールが、乾燥剤と樹脂との混合物を含む、請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記多層気密シートの露出された表面上に保護フイルムを形成する工程をさらに含む、請求項6記載の方法。
【請求項10】
前記基体上に乾燥剤を支持する工程、および前記加工製品および該乾燥剤の上に前記気密シートを配置して、被包された加工製品を形成する工程をさらに含む、請求項6記載の方法。
【請求項11】
多層封止アセンブリにより封止された気密封止加工製品であって、該多層封止アセンブリが、
キャリアフイルムの表面上に物理的に直接接触して形成された第1の無機薄膜を含む多層気密シート、および
ガスケット部材、
を含み、
前記加工製品が基体の表面上に形成されており、
前記ガスケット部材が、前記加工製品の周囲で前記基体の表面上に配置されており、
前記多層気密シートが、前記加工製品上に、前記ガスケット部材と気密接触して配置されており、
前記無機薄膜が、低溶融温度ガラス組成物を含んでいる、
気密封止加工製品。
【請求項12】
前記第1の無機薄膜が前記ガスケット部材と気密接触している、請求項11記載の加工製品。
【請求項13】
前記ガスケット部材が前記基体と気密接触している、請求項11記載の加工製品。
【請求項14】
前記ガスケット部材の表面上に第2の無機薄膜が形成されている、請求項11記載の加工製品。
【請求項15】
前記第1の無機薄膜が前記第2の無機薄膜と気密接触している、請求項14記載の加工製品。
【請求項16】
前記多層気密シートが、前記第1の無機薄膜の表面上に形成された第2のキャリアフイルムをさらに含む、請求項11記載の加工製品。
【請求項17】
前記第1の無機薄膜が前記気密封止加工製品の中立応力面に配置されている、請求項11記載の加工製品。
【請求項18】
前記第1の無機薄膜が前記気密封止加工製品の圧縮応力面に配置されている、請求項11記載の加工製品。
【請求項19】
積層封止アセンブリにより封止された気密封止加工製品において、該積層封止アセンブリが、
各々が対向する第1と第2の主面を有する、1つ以上キャリアフイルムおよび1つ以上の無機薄膜を含む積層気密シートであって、ある無機薄膜の第1の主面があるキャリアフイルムの表面上に物理的に直接接触して形成されている積層気密シート、および
ガスケット部材、
を含み、
前記加工製品が基体の表面上に形成されており、
前記ガスケット部材が、前記加工製品の周囲で前記基体の表面上に配置されており、
前記積層気密シートが、前記加工製品上に、前記ガスケット部材と気密接触して配置されており、
前記1つ以上の無機薄膜が、低溶融温度ガラス組成物を含んでいる、
気密封止加工製品。
【発明の詳細な説明】
【0001】
本出願は、2010年4月20日に出願された米国特許出願第12/763541号の恩恵を主張するものである。この文献の内容と、ここに述べられた刊行物、特許および特許文献の全開示が参照により包含される。
【技術分野】
【0002】
本開示は、広く、気密バリア層に関し、より詳しくは、自立形多層気密シート、関連構造、および気密シールを形成する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
多種多様の液体と気体への有害な暴露から敏感な材料を保護するために、気密バリア層を使用することができる。ここに用いたように、「気密」とは、特に水や空気の漏れまたは進入に対して、完全にまたは実質的に封止されている状態を称するが、他の液体および気体への暴露も考えられる。
【0004】
気密バリア層を形成する手法としては、スパッタリングまたは蒸着などの物理的気相成長(PVD)法、または気密バリア層を、保護すべきデバイスまたは材料に直接形成できるプラズマ支援CVD(PECVD)などの化学的気相成長(CVD)法が挙げられる。一例として、反応性と非反応性の両方のスパッタリングを使用して、例えば、室温または高温の加工条件下で、気密バリア層を形成することができる。反応性スパッタリングは、酸素や窒素などの反応性ガスと併せて行われ、これにより、対応する化合物バリア層(すなわち、酸化物または窒化物)が形成される。非反応性スパッタリングは、類似のまたは関連する組成を有するバリア層を形成するために、所望の組成を有する酸化物または窒化物標的を使用して行うことができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非反応性スパッタリングとは対照的に、反応性スパッタリングまたはCVDは、比較的速い堆積速度のために、経済的に有益であり得る。しかしながら、反応性スパッタリングによりスループットを増加させることができるが、その特有の反応性は、一般に、保護を必要とする敏感なデバイスまたは材料には適合できない。
【0006】
上述したことに鑑みて、デバイス、物品または原材料などの敏感な加工製品を、酸素、水、熱または他の汚染物質への望ましくない暴露から保護できる、経済的かつデバイス適合性の気密バリア層が極めて望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の1つの態様によれば、気密バリア層の形成が、保護すべき加工製品への施用とは分離されている気密バリア層が提供される。気密バリア層自体の形成(例えば、物理的または化学的気相成長法)は、酸素、水、溶媒、高温、イオン衝撃などを含んでもよい。第1の工程において気密バリア層を形成し、次いで、その後の工程において加工製品に気密バリア層を施すことによって、気密バリア層を施す作業中に、加工製品を攻撃的なまたは他に有害なプロセスに暴露せずに済む。
【0008】
本開示は、酸素、水分、熱、または他の汚染物質による劣化に対して敏感なデバイス、物品または材料を少なくともある程度被包するように構成できる自立形多層気密バリアを記載する。自立形多層気密シートは、積層構造に交互に構成された、1つ以上の無機薄膜および1つ以上の柔軟性キャリアフイルムを含む。特に、1つの実施の形態による自立形多層気密シートは、第1のキャリアフイルム、対向する第1と第2の主面を有する無機薄膜、および第2のキャリアフイルムを備え、無機薄膜の第1の主面は第1のキャリアフイルムの表面上に形成されており、第2のキャリアフイルムは無機薄膜の第2の主面上に形成されている。さらに別の実施の形態において、多層ガスケットは、適切なガスケット部材上に形成された無機薄膜を含む。この無機薄膜は、様々なガラス組成物を含む1種類以上の酸化物または窒化物を含んでよいのに対し、キャリアフイルムおよびガスケット部材は、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリエチレンナフタレート(PEN)またはポリエチレンテレフタレート(PET)などの柔軟性高分子材料を含み得る。
【0009】
加工製品を気密封止する方法は、基体上に加工製品を支持する工程、多層気密シートを形成する工程、および気密シー
トを加工製品上に、加工製品の周囲の基体の領域において基体と直接的または間接的いずれかで気密接触して配置することによって、加工製品を被包する工程を有してなる。
【0010】
基体の表面上に最初に形成されたデバイスは、多層気密シートおよび多層気密ガスケットを含む多層封止アセンブリを使用して、気密封止することができる。多層気密ガスケットがデバイスの周囲の基体の表面上に配置され、多層気密シートが、デバイスを覆って、ガスケットと気密接触して配置される。
【0011】
本発明の追加の特徴および利点は、以下の詳細な説明に述べられておりり、一部は、その記載から当業者には容易に明らかとなるか、または以下の詳細な説明、特許請求の範囲、並びに添付の図面を含む、ここに記載された発明を実施することによって認識されるであろう。
【0012】
先の一般的な説明および以下の詳細な説明は、本発明の実施の形態を提示するものであり、特許請求の範囲に記載された本発明の性質および特徴を理解するための概要または骨子を提供することが意図されているのが理解されよう。添付の図面は、本発明をさらに理解するために含まれ、本明細書に包含され、その一部を構成する。図面は、本発明の様々な実施の形態を示し、説明と共に、本発明の原理および動作を説明するように働く。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】1つの実施の形態による多層気密シートの説明図
【
図2】多層気密シートを使用した気密封止されたデバイスの説明図
【
図3】気密薄膜および気密バリアガスケットを使用してデバイスを気密封止する方法の説明図
【
図4】四層気密シートを使用してデバイスを気密封止する方法の説明図
【発明を実施するための形態】
【0014】
多層気密シートは、少なくとも1つのキャリアフイルムおよびこのキャリアフイルム上に形成された少なくとも1つの無機薄膜を含む。気密シートは、二層シート、三層シート、または4つ以上の層を有する積層シートを含んでよい。様々な実施の形態による例示の多層気密シートとしては、二層の酸化物/PDMS気密シートおよび三層のPEN/酸化物/PDMS気密シートが挙げられる。
【0015】
1つの実施の形態による多層気密シートが
図1に示されている。多層気密シート100は、第1のキャリアフイルム110、第1のキャリアフイルム110上に形成された気密無機薄膜120、および気密無機薄膜120上に形成された第2のキャリアフイルム130を含む。図示されたこの実施の形態において、無機薄膜120は、それぞれのキャリアフイルム110,130の間に挟まれている。随意的な第2のキャリアフイルム130は、無機薄膜120を保護することができ、無機薄膜120を中立面に、またはわずかに多層気密シートの圧縮領域に位置付けるように適用されてもよい。
【0016】
キャリアフイルムは、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリエチレンナフタレート(PEN)またはポリエチレンテレフタレート(PET)などの柔順な(すなわち、柔軟な)高分子を含むプラスチック、高分子、または複合体からなっていても差し支えないが、他の材料が適しているかもしれない。第1と第2のキャリアフイルムを含む、多層気密シートに組み込まれる複数のキャリアフイルムは、同じ高分子材料または異なる高分子材料からなっていてもよい。ある実施の形態において、無機酸化物薄膜は、PENからなる第1のキャリアフイルム上に形成され、PDMSの第2のキャリアフイルムが、この無機酸化物の露出された主面上に形成される。
【0017】
気密無機薄膜は、約39.6モル%のSnF
2、約38.7モル%のSnO、約19.9モル%のP
2O
5および約1.8モル%のNb
2O
5からなるニオブ添加酸化スズ/フルオロリン酸スズ/五酸化リンガラスである、870CHMなどのガラス組成物を含む酸化物または窒化物材料を含んで差し支えない。無機薄膜に適したガラス組成物が、同一出願人による米国特許第5089446号および米国特許出願公開第2008/0149924号、同第2007/0252526号および同第2007/0040501号の各明細書に開示されており、その開示をここに全て引用する。
【0018】
実施の形態において、多層気密シートは、自立形である、すなわち、基体により支持されていなくて差し支えない。多層気密シートの全体の寸法は、用途により様々であるが、例示の全体の厚さおよび面積は、それぞれ、約30から1000マイクロメートルおよび約1cm
2から10m
2以上に及び得る。実施の形態において、個々のキャリアフイルムの厚さは、約15から500マイクロメートル(例えば、15、25、40、100、150、200、400または500マイクロメートル)に及んで差し支えなく、一方で、気密無機薄膜の厚さは、約0.5から10マイクロメートル(例えば、0.5、1、2、4、6、8または10マイクロメートル)に及んで差し支えない。使用前(例えば、出荷中または貯蔵中)に多層気密シートを保護するために、シートの気密完全性を維持するのに適した容器内に1つ以上のシートを包装することもできる。適切な容器は、使い捨てであってもなくてもよく、気密シートを機械的損傷から保護することに加え、無菌貯蔵および放射線損傷からの保護を提供してもよい。
【0019】
気密封止されたデバイスの説明図が
図2に示されている。有機発光ダイオード(OLED)または薄膜太陽電池などのデバイス270が、ガラス基板などの気密基板280上に形成されている。第1と第2のキャリアフイルム210,230の間に形成された無機薄膜220からなる多層気密シート200が、デバイス上に配置されている。分配されて硬化した乾燥剤充填エポキシなどの随意的な縁シール240を、気密シート200の周囲に形成しても差し支えない。この縁シールは、基板上に形成され、気体または液体の横方向の拡散を妨げるために(例えば、第1のキャリアフイルム210を通じて)、第1のキャリアフイルム210、第2のキャリアフイルム230、および無機薄膜220の1つ以上の外側の縁に隣接する。
【0020】
多層気密シート200を機械的磨耗、引裂きなどから保護するために、随意的な保護フイルムまたはシート250を、構造全体を覆って形成してもよい。その保護フイルム250は、多層シート200の機械的シールドを提供することに加え、脆弱層(すなわち、無機薄膜220)が中立面にあるまたはパッケージ全体の圧縮領域内にあるように構成することもできる。そのような構成により、シートがロールツーロール法において取り扱われる実施の形態におけるように、パッケージの曲げ中に無機薄膜への引張応力を最少にすることができる。
【0021】
多層気密シートを予め形成された加工製品に施すプロセスは、被包層をその場で同時に、形成し、堆積させるプロセスよりも速くなり得る。多層シートは、真空加工の必要なく、室温で不活性環境においてデバイスまたは材料に直接施すことができる。例えば、水分または酸素に敏感なデバイスは、真空槽内で最初に製造し、真空槽から取り出し、不活性環境に置き、次いで、永久的または一時的に保護することができる。標準的な温度および圧力の条件下で多層シートを施す能力により、短いターンアラウンド・サイクル・タイム(TACT)が可能になり、これは、対費用効果的な加工に寄与する。
【0022】
前述したことに加え、多層シートの形成を加工製品への施用から分離することによって、封止作業は、高温または酸素への暴露に耐えられない有機発光ダイオード(OLED)または銅インジウムガリウムセレン化物光起電装置などのプロセスに敏感なデバイスに適合できる。プロセスを分離することによって、ゾルゲル、ナノ複合体の層毎の組立て、シリカナノ粒子の室温焼結、溶射、塗装、ロール塗布などの非真空系コーティングプロセスを使用することができる。他の可能になるプロセスとしては、低溶融温度ガラスの耐熱性プラスチック基板へのホットプレス法、および低溶融温度ガラスフリットの耐熱性プラスチック基板へのテープ成形が挙げられる。気密多層シートは、施用後焼結工程の有無にかかわらずに、標的に加工製品に施すことができる。
【0023】
多層気密シートは、平面または非平面形状を有する加工製品を封止するために使用できる。気密シートが、段状特徴または微粒子を含む表面などのテキスチャー付き(例えば、非平坦)表面に適合できることが都合よい。多層シートを構成するフイルムの適切な組合せを選択することによって、様々な表面形状の気密被覆を達成することができる。
【0024】
非平面の表面に適合する能力に加え、多層気密シートは、一度加工製品に施されたら、機械的に柔軟性であり得る。機械的に柔軟な気密シートは、曲がる、撓むまたは他に湾曲させ、その気密特性を維持することができる。これにより、柔軟な加工製品を気密封止することができる。実施の形態によれば、多層気密シートは、デバイスパッケージが曲げられたときに、無機薄膜が経験する応力を最少にするために、封止されたデバイスの中立面に配置することができる。あるいは、デバイスが、一方向にしか曲げられない、または平にしか置かれない場合、多層シートは、組み立てられた構造の圧縮領域に配置しても差し支えない。
【0025】
さらに別の実施の形態において、多層気密シートは必要に応じて透明であってよく、これにより、パッケージを開けずにその内容物を見られることが都合よい、例えば、食品、医療用具、および医薬材料を被包するのに適する。光学的透明性も、光透過率に依存する、ディスプレイおよび光起電装置などの光電子デバイスの封止に有用であろう。実施の形態において、多層気密シートは、90%超の光透過率(例えば、90、92、94、96または98%超)により特徴付けられる光透過率を有する。
【0026】
さらに別の実施の形態において、多層気密シートは、液体または気体を含有する加工製品を被包するために使用できる。例示の加工製品としては、色素増感太陽電池(DSSC)、エレクトロウェッティング方式ディスプレイ、および電気泳動ディスプレイが挙げられる。多層気密シートは、加工製品の空気および/または水分への暴露を実質的に防ぐことができ、これにより、酸化、水和、吸収または吸着などの望ましくない物理反応および/または化学反応、並びに腐敗、劣化、膨潤、機能性の低下などを含む、そのような反応に付随する徴候を都合よく防ぐことができる。
【0027】
多層シートの気密性のために、保護された加工製品の寿命を、従来の気密バリア層を使用して達成できる寿命を超えて延ばすことができる。
【0028】
様々な実施の形態によれば、自立形多層気密シートを形成する一方法は、金属標的を、例えば、スパッタリングガス(例えば、Ar)に加えられる効果的な量の酸素ガスで反応性スパッタリングして、高分子基体上に気密酸化物薄膜を生成する工程を含む。
【0029】
多層気密シートを形成するさらに別の方法は、870CHMガラスをPENフイルム上に非反応性スパッタリングし、次いで、ガラスの暴露表面上にポリジメチルシロキサン(PDMS)のフイルムを配置する各工程を含む。このPDMSの厚さは、多層シートの中立面にガラスフイルムを配置するように選択することができる。PDMSは、多層シートを非平面のすなわち他の不規則な表面上に従うように施すことのできる柔順担体として働く。2つ以上の異なるキャリアフイルムを有する多層シートについて、いずれのキャリアフイルムが加工製品に面(例えば、接触)しても差し支えない。
【0030】
担体上に無機薄膜を形成するのに適した追加のプロセスとしては、化学的気相成長法、プラズマ支援化学的気相成長法、HIPIMSなどの高速スパッタリング、および蒸着プロセスが挙げられる。その後、追加のキャリアフイルムを気密無機薄膜上に形成しても差し支えない。さらに別の層を、積層構造に個別にまたは積層集合体として加えても差し支えない。
【0031】
多層バリア層は、例えば、
図1および2を参照して、先に記載されたような気密シートの形状をとってもよい。代わりのまたは補完的な実施の形態によれば、多層バリア層は、Oリングまたは平らなガスケットの形状をとってもよい。さらに詳しく以下に開示するように、多層バリアガスケットは、気密無機薄膜により被覆されたガスケット部材を含む。
【0032】
加工製品を気密封止する方法は、必要であれば、多層シートのキャリアフイルムを通る水分またはガスの侵入を防ぐために、周囲シールを施す工程を含んでもよい。
図3は、基板380と協働して、その基板上に形成されたデバイス370を被包する多層気密シート300および多層気密ガスケット315を含む気密封止構成を示している。
図1におけるように、多層気密シート300は、デバイス370上に配置されるように構成されている。デバイス370を気密シート300で覆う前に、多層気密バリアガスケット315が、デバイスを取り囲んで(すなわち、その周囲に)基板380上に配置される。多層バリアガスケット315は、気密無機薄膜322により被覆されたガスケット部材332からなる別個の構成部材である。このガスケット部材は、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリエチレンナフタレート(PEN)またはポリエチレンテレフタレート(PET)などの柔順な高分子を含むプラスチック、高分子、または複合フイルムを含んで差し支えないが、Vitron(登録商標)またはBuna−N(ニトリル)Oリングなどの他の一般に使用されるガスケット部材材料も適しているであろう。
【0033】
さらに
図3を参照すると、デバイスの周囲に熱および圧力を局部的に印加して(垂直の矢印により示されるように)、多層シート300およびガスケット315の間と、ガスケット315および基板380の間の両方に気密シールを形成することができる。それゆえ、第1の無機薄膜は、第2の無機薄膜と気密接触し得、第2の無機薄膜は基板と気密接触し得る。
【0034】
キャリアフイルムが透過性プラスチックである場合、多層気密シート300上の無機薄膜320がキャリアフイルム330全体を覆ってもよく、あるいは、キャリアフイルムが既に気密性(標準ガラスなど)である場合には、無機薄膜320は、デバイス領域を覆わないが、バリアガスケット315に封止するように、パターンが形成されていてもよい。別々に、多層気密シートと加工製品との間に直接の接触を避ける必要がある場合には、多層シートは、透明な縁封止ガスケットまたは外部封止エンベロープとして使用しても差し支えない。
【0035】
実施の形態において、ガスケット部材は、多層バリアガスケットを形成するように気密無機薄膜により被覆されている。しかしながら、そのガスケット部材が十分に気密性の材料からなる場合には、未被覆のガラスケット部材を使用して気密シールを形成することもできる。
【0036】
さらに別の実施の形態による多層気密シートが
図4に示されている。多層気密シート400は、第1のキャリアフイルム410および第2のキャリアフイルム430の間に形成された気密無機薄膜420aを含み、さらに、デバイス470の周囲の領域で基板480を気密接触するように構成された第2の無機薄膜420bを含む。気密シールは、垂直の矢印により示されるように、デバイスの周囲の領域で多層シート400に局所的な熱および圧力を印加することによって形成することができる。必要に応じて、図示しない実施の形態により説明されるように、基板が気密性ではない実施の形態において、基板上のデバイスを形成し、デバイスを気密シール400で被覆する前に、基板の表面上に追加の気密無機薄膜または多層気密シートを形成してもよい。
【0037】
加工製品を気密封止する方法は、加工製品を覆って、上に、または周りに多層気密シートを覆う、配置する、置く、積層させる、または接着する工程を含んでもよい。ここに用いたように、「多層気密シートで被包する」およびその変形は、多層気密シートを使用して、加工製品の周りに完全にまたは部分的に気密または液密バリアを形成することを意味する。
【0038】
加工製品は、必要に応じて、基体上に配置し、基体に対してまたは基体内に気密封止しても差し支えない。基体は、平面基体または非平面基体からなっても差し支えない。基体は、気密材料から形成されてもよく、保護すべき加工製品を部分的に囲んでも差し支えなく、例えば、加工製品を支持するように構成された凹部を含んでもよい。基体は、加工製品をそこに通過させられる注入口または分配口などの入口または出口を含んでもよい。実施の形態において、入口または出口は、基体の内部(並びにその内容物)が環境から気密に隔離されるように、積層気密シートを使用して封止することができる。例示の入口または出口はフランジを備えても差し支えない。例示の基体としては、ガラスまたは高分子シート、金属ホイル、シリンジ、アンプル、ボトル、および他の容器が挙げられる。多層気密シートは、そのような基体の表面に対して配置することができる。
【0039】
実施の形態において、乾燥剤を加工製品と一緒に封止してもよい。乾燥剤は、例えば、水を取り除くために使用してよい。さらに別の実施の形態において、基体は、封止される区域内の凹部などの、乾燥剤を貯蔵するための位置を含んでもよい。基板上に加工製品を支持することに加え、加工製品と乾燥剤の両方を覆って気密シートを配置して、被包された加工製品を形成する前に、乾燥剤を基体上に支持してもよい。
【0040】
本開示のさらに別の実施の形態は、多層気密シートおよび/または多層バリアガスケットにより保護される加工製品(例えば、材料、物品またはデバイス)に関する。保護される加工製品には、気密封止による長い寿命の利点、並びにより高速の被包TACTのために製造するのがそれほど高価ではないという利点がある。
【実施例】
【0041】
本発明を以下の実施例によりさらに明確にする。
【0042】
実施例1
2種類の異なる多層気密シートを、約2マイクロメートルの870CHM材料で被覆された約125マイクロメートル厚のポリエチレンナフタレート(PEN)プラスチックから調製した。サンプル1は、堆積されたままのCHM被覆PENプラスチックからなるのに対し、サンプル2は、2時間に亘り140℃で焼結されたCHM被覆PENプラスチックからなった。比較用のサンプル3は未被覆のPENプラスチックからなった。
【0043】
そのようなシートを2枚一緒に積層し、シールを形成するのに効果的な温度に設定されたインパルス・シーラーを使用して周囲を封止することによって、試験パケット(test packets)を形成した。シートを互いに完全に封止する前に、Drierite(商標)材料(硫酸カルシウム)を、青色からピンク色に「Drierite」の色変化を誘発するのに十分な水分がパケット中に拡散した時の指示薬として、各パケットに挿入した。周囲湿度に90時間配置した後、比較用サンプル3内の「Drierite」はピンク色であり、水分がパケットに侵入したことを示した。他方で、サンプル1とサンプル2の両方の中身は青色であり、効果的な気密バリアが「Drierite」を被包したことを示す。
【0044】
保護されている加工製品と、被包バリアを形成し堆積させるプロセスとの適合性を維持する必要なく、デバイスまたは物品を気密封止するための新規の製品およびプロセスが開示されている。開示された自立形多層気密バリアおよび付随する被包方法は、製造中にデバイスを保護するために使用してもよい。また、それらのバリアおよび方法は、デバイスを、その使用中に一時的または永久的に保護するために使用してもよい。
【0045】
ここに用いたように、単数形は、その内容がそうではないと明らかに示していない限り、複数の対象を含む。それゆえ、例えば、「シート」の参照は、その内容がそうではないと明らかに示していない限り、そのような「シート」を2枚以上有する例を含む。
【0046】
範囲は、「約」ある特定の値から、および/または「約」別の特定の値まで、とここに表現することができる。そのような範囲が表現された場合、実施例は、ある特定の値から、および/または他の特定の値までを含む。同様に、先行詞「約」の使用により、値が近似として表現されている場合、特定の値は別の態様を形成することが理解されよう。範囲の各端点は、他の端点に関してと、他の端点とは独立しての両方で有意であることもさらに理解されよう。
【0047】
別記しない限り、ここに述べたどの方法も、その工程を特定の順序で行う必要があると解釈することは決して意図されていない。したがって、方法の請求項が、工程がしたがうべき順序を実際に列挙していな場合、または工程を特定の順序に制限すべきことが、請求項または説明に具体的に述べられていない場合、どのような特定の順序も推測されることは決して意図されていない。
【0048】
ここでの列挙は、構成部材が、特定の方法で機能するように「構成された」または「適合された」ことも留意されたい。この点に関して、そのような構成部材は、特定の性質を具体化するように、または特定の様式で機能するように「構成され」または「適合され」ており、そのような列挙は、意図する使用の列挙とは反対に構造の列挙である。より詳しくは、構成部材が「構成された」または「適合された」様式のここでの言及は、その構成部材の既存の物理的条件を示し、それゆえ、その構成部材の構造的特徴の明確な列挙と解釈すべきである。
【0049】
本発明の精神および範囲から逸脱せずに、本発明に様々な改変および変更を行っても差し支えないことが当業者には明白であろう。本発明の精神および実体を包含する開示の実施の形態の改変、組合せ、下位の組合せおよび変形が当業者に想起されるであろうから、本発明は、添付の特許請求の範囲およびその同等物の範囲内に全てを含むと解釈すべきである。
【符号の説明】
【0050】
100,200,300,400 多層気密シート
110,210,410 第1のキャリアフイルム
120,220 無機薄膜
130,230,430 第2のキャリアフイルム
240 縁シール
250 保護フイルム
270,370,470 デバイス
315 多層気密ガスケット
322,420a,420b 気密無機薄膜
330 キャリアフイルム
332 ガスケット部材
380 基板