(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5946213
(24)【登録日】2016年6月10日
(45)【発行日】2016年7月5日
(54)【発明の名称】草本系バイオマスまたは木質系バイオマスから糖を製造する方法および生成された糖からエタノールを製造する方法
(51)【国際特許分類】
C12P 7/10 20060101AFI20160621BHJP
C13K 1/02 20060101ALI20160621BHJP
C12P 19/14 20060101ALI20160621BHJP
【FI】
C12P7/10
C13K1/02
C12P19/14 A
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-167049(P2012-167049)
(22)【出願日】2012年7月27日
(65)【公開番号】特開2014-23484(P2014-23484A)
(43)【公開日】2014年2月6日
【審査請求日】2014年12月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078031
【弁理士】
【氏名又は名称】大石 皓一
(72)【発明者】
【氏名】副島 敬道
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 祐二
(72)【発明者】
【氏名】山本 哲史
【審査官】
荒木 英則
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−043328(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/050223(WO,A1)
【文献】
特開2008−307047(JP,A)
【文献】
特表2009−528035(JP,A)
【文献】
特開2007−152184(JP,A)
【文献】
特開2009−235410(JP,A)
【文献】
敖日格勒ら,日本木材学会北海道支部講演集,1996年11月,(28),pp.55-58
【文献】
大成建設株式会社ら,ソフトセルロース利活用技術確立事業中間成果報告会資料,2010年10月18日,URL,http://www.pref.osaka.lg.jp/attach/9198/00045413/5ref2_taisei.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 7/00− 7/10
C12P 19/00−19/14
C13K 1/00− 1/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/WPIDS/BIOSIS(STN)
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(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
草本系バイオマスまたは木質系バイオマスを、アルカリ溶液を用いて、アルカリ処理し、アルカリ処理された溶液をアルカリ溶液と固形成分とに固液分離し、
分離された前記固形成分は、セルラーゼ分解に適したpH4〜5に調整して同時糖化発酵槽に供給し、糖化して発酵させ、
分離された前記アルカリ溶液は、アルカリ物質を補充して、アルカリ処理工程にリサイクルし、
所定回数にわたって前記アルカリ処理工程にリサイクルされたアルカリ溶液を前記アルカリ処理工程にリサイクルせずに、前記アルカリ溶液をpH6以下の酸性にして、リグニンを析出させて、分離し、前記アルカリ溶液中のオリゴ糖を回収し、
回収したオリゴ糖含有液分を酵素が供給される糖化槽に供給して、オリゴ糖を単糖化し、得られた単糖を酵母が供給される発酵槽に供給して、発酵させて、エタノールを生成する
ことを特徴とする草本系バイオマスまたは木質系バイオマスから糖またはエタノールを製造する方法。
【請求項2】
草本系バイオマスまたは木質系バイオマスを、アルカリ溶液を用いて、アルカリ処理し、アルカリ処理された溶液をアルカリ溶液と固形成分とに固液分離し、
分離された前記固形成分は、セルラーゼ分解に適したpH4〜5に調整して、同時糖化発酵槽に供給し、糖化して発行させ、
所定回数にわたって前記アルカリ処理工程にリサイクルされたアルカリ溶液を前記アルカリ処理工程にリサイクルせずに、前記アルカリ溶液をpH6以下の酸性にして、リグニンを析出させて、分離し、前記アルカリ溶液中のオリゴ糖を回収し、
析出したリグニンを系外へ搬出し、
前記オリゴ糖を含む液分は、先に分離された固形分を発酵させる前記同時糖化発酵槽に供給して、糖化し、発酵させて、エタノールを生成すること
を特徴とする木質系バイオマスから糖またはエタノールを製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、草本系バイオマスまたは木質系バイオマス中のセルロースまたはヘミセルロースを原料として、低コストで、糖を製造する方法および製造された糖から、低コストで、エタノールを製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、化石資源に依存しないカーボンニュートラルな液体燃料としてバイオエタノールが注目されており、様々なバイオマスを対象としたエタノールの製造技術が提案されている。
【0003】
バイオマス中のセルロースからエタノールを製造する際には、バイオマスに含まれるセルロースやヘミセルロースを加水分解して、単糖やオリゴ糖に糖化する。
【0004】
草本系・木質系バイオマスに含まれるセルロースやヘミセルロースの糖化方法としては、酵素法が知られている。酵素法においては、草本系・木質系バイオマスに含まれるセルロースやヘミセルロースに対して、酵素が効果的に作用されるようにする必要があり、酵素が効果的に作用されるようにするために、酵素による加水分解に先立って、草本系・木質系バイオマスにアルカリ処理が施すことが知られている。
【0005】
たとえば、特開2012‐85544号公報(特許文献1)には、稲わらなどの草本系バイオマスをペレット化し、アルカリ溶液量に対する草本系バイオマスのペレット量が5%ないし20%となるように、ペレット化された草本系バイオマスを水酸化ナトリウムなどのアルカリ溶液と混合して、アルカリ処理を施し、所定時間経過後に、草本系バイオマスを含むアルカリ溶液に、硫酸などの酸を添加して中和し、中和した草本系バイオマスにセルラーゼ酵素処理を施すことにより、草本系バイオマス中のセルロースをセルラーゼにより単糖まで分解し、得られた糖を原料として、エタノール発酵を行い、エタノールを製造するように構成されたバイオマスを原料として、糖を製造し、エタノールを製造する方法が開示されている。
【0006】
特開2012‐85544号公報(特許文献1)には、さらに、アルカリ溶液の酸による中和に先立って、アルカリ溶液を固液分離して、固体成分を回収し、その後、固体成分を酸性溶液に浸漬して、草本系バイオマスに含浸したアルカリを中和してもよいこと、および、アルカリ処理後の草本系バイオマスを原料として、セルラーゼ生成菌とエタノール発酵菌の同時発酵を行い、エタノールを生成してもよいということが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012‐85544号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特開2012‐85544号公報(特許文献1)に記載されるように、糖化処理に先立って、水酸化ナトリムを用いて、草本系バイオマスをアルカリ処理する場合には、多くの水酸化ナトリウムが必要で、必然的にコストが高くなるという問題がある。
【0009】
加えて、アルカリ処理後に、アルカリ溶液を固液分離して、固体成分を回収する場合には、アルカリ溶液中に燃料にできるリグニンやエタノールの製造に使用できるオリゴ糖などの有用物質が溶出しているため、別途、アルカリ溶液からリグニンやオリゴ糖などを回収場合、リグニンを回収するには溶液の濃縮が必要となり、オリゴ糖の回収には膜分離する等コストの高い方法が必要なり、製造コストがアップするという問題があった。
【0010】
木質系バイオマスにおいても同様の問題があった。
【0011】
したがって、本発明は、草本系バイオマスまたは木質系バイオマス中のセルロースまたはヘミセルロースを原料として、低コストで、糖を製造する方法および製造された糖から、低コストで、エタノールを製造する方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のかかる目的は、草本系バイオマスまたは木質系バイオマスを、アルカリ溶液を用いて、アルカリ処理し、アルカリ処理された溶液をアルカリ溶液と固形成分とに固液分離し、
分離された
前記固形成分は、セルラーゼ分解に適したpH4〜5に調整して
同時糖化発酵槽に供給し、糖化して発酵させ、
分離された
前記アルカリ溶液は、アルカリ物質を補充して、アルカリ処理工程にリサイクルし、
所定回数にわたって前記アルカリ処理工程にリサイクルされたアルカリ溶液を前記アルカリ処理工程にリサイクルせずに、前記アルカリ溶液をpH6以下の酸性にして、リグニンを析出させて、分離し、前記アルカリ溶液中のオリゴ糖を回収し、
回収したオリゴ糖含有液分を酵素が供給される糖化槽に供給して、オリゴ糖を単糖化し、得られた単糖を酵母が供給される発酵槽に供給して、発酵させて、エタノールを生成する
ことを特徴とする草本系バイオマスまたは木質系バイオマスから糖またはエタノールを製造する方法によって達成される。
本発明の前記目的はまた、草本系バイオマスまたは木質系バイオマスを、アルカリ溶液を用いて、アルカリ処理し、アルカリ処理された溶液をアルカリ溶液と固形成分とに固液分離し、
分離された
前記固形成分は、セルラーゼ分解に適したpH4〜5に調整して、
同時糖化発酵槽に供給し、糖化して発行させ、
所定回数にわたって前記アルカリ処理工程にリサイクルされたアルカリ溶液を前記アルカリ処理工程にリサイクルせずに、前記アルカリ溶液をpH6以下の酸性にして、リグニンを析出させて、分離し、前記アルカリ溶液中のオリゴ糖を回収し、
析出したリグニンを系外へ搬出し、
前記オリゴ糖を含む液分は、先に分離された固形分を発酵させる前記同時糖化発酵槽に供給して、糖化し、発酵させて、エタノールを生成すること
を特徴とする木質系バイオマスから糖またはエタノールを製造する方法によって達成される。
【0013】
本発明によれば、分離されたアルカリ溶液にアルカリ物質を補充して、繰り返し、草本系バイオマスまたは木質系バイオマスのアルカリ処理に用いるように構成されているので、アルカリ物質の使用量を大幅に低減することができ、草本系バイオマスまたは木質系バイオマスから糖またはエタノールを製造するためのコストを大幅に低減することが可能になる。
【0014】
また、本発明によれば、アルカリ処理に使用したアルカリ物質を固液分離し、繰り返し、アルカリ処理に用いるため、固液分離された固体成分を中和するために用いる酸の使用量を少なくすることができ、草本系バイオマスまたは木質系バイオマスから糖またはエタノールを製造するためのコストを低減することが可能になる。
【0016】
草本系バイオマスまたは木質系バイオマスのアルカリ処理に用いたアルカリ溶液にはリグニンやオリゴ糖などが溶出しており、アルカリ溶液をアルカリ処理にリサイクルする回数が多いほど、アルカリ溶液中のリグニンやオリゴ糖などの濃度が高くなる。リグニンは燃料としての利用が可能であり、オリゴ糖は単糖に分解することで酵母などの微生物によりエタノール製造の原料として利用できる。しかるに、リグニンが存在すると、セルラーゼによりオリゴ糖を酵母などの微生物が利用しやすい単糖に分解することができないが、
本発明によれば、アルカリ処理工程にリサイクルして、草本系バイオマスまたは木質系バイオマスのアルカリ処理に所定回数にわたって用いたアルカリ溶液に酸を添加してpHを6以下にし、酸不溶性のリグニンを析出させて分離し、リグニンを回収するように構成されている。
【0018】
本発明において、アルカリ物質はとくに限定されるものではなく、たとえば、水酸化ナトリム、水酸化カルシウムなどの他のアルカリ物質を用いることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、草本系・木質系バイオマス中のセルロースまたはヘミセルロースを原料として、低コストで、糖を製造する方法および製造された糖から、低コストで、エタノールを製造する方法を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、本発明の好ましい実施態様にかかる草本系・木質系バイオマスを原料として、エタノールを製造する方法の工程を示す概略図である。
【
図2】
図2は、本発明の別の好ましい実施態様にかかる草本系・木質系バイオマスを原料として、エタノールを製造する方法の工程を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1に示されるように、草本系バイオマスを原料として、エタノールを製造する本発明の好ましい実施態様にかかるエタノール製造方法においては、水酸化ナトリウム溶液が収容されているアルカリ処理槽1に、稲わらなどの草木系バイオマスが加えられ、水酸化ナトリウム溶液に浸漬される。この際、特開2012‐85544号公報(特許文献1)に開示されているように、稲わらなどの草木系バイオマスをペレット化して、水酸化ナトリウム溶液に浸漬するようにしてもよい。
【0022】
水酸化ナトリウム溶液のpHは、pH9.5〜13.5、好ましくはpH10〜13、より好ましくはpH11〜12.5である。
【0023】
水酸化ナトリウム溶液によるアルカリ処理は、常温以上で160℃以下、好ましくは常温以上で120℃以下の温度条件で行われる。
【0024】
アルカリ処理において、酸化剤として過酸化水素を注入してもよい。なお、酸化剤としては、過酸化水素の他に、例えば過硫酸塩、過炭酸塩、過酢酸塩、オゾン、過酸化ナトリウムなどを用いることができる。
【0025】
アルカリ処理が完了すると、草本系バイオマスを含む水酸化ナトリウム溶液は第一の固液分離装置2に送られ、液体成分である水酸化ナトリウム溶液と固形成分とに分離される。
【0026】
固形成分から分離された水酸化ナトリウム溶液は第一のリサイクルパイプ3に導かれ、第一のリサイクルパイプ3によって、アルカリ処理槽1にリサイクルされる。固液分離装置2によって固液分離された水酸化ナトリウム溶液の濃度は、アルカリ処理槽1においてアルカリ処理を行うために必要な水酸化ナトリウム溶液の濃度よりも低く、また固形成分に含まれる量のみなのでアルカリ量そのものが少ない。水酸化ナトリウム溶液が所定の濃度及び量になるように、第一のリサイクルパイプ3を流れる水酸化ナトリウム溶液に水酸化ナトリウム及び水を補充するアルカリ補充部4が設けられている。
【0027】
本実施態様においては、アルカリ補充部4によって、第一の固液分離装置2によって分離されたアルカリ処理に用いられた後の水酸化ナトリウム溶液に、アルカリ処理槽1にリサイクルされる水酸化ナトリウムの濃度及び量がアルカリ処理槽1においてアルカリ処理を行うために必要な水酸化ナトリウムの濃度及び量と等しくなるように、水酸化ナトリウムが補充されるように構成されている。
【0028】
このように、本実施態様においては、アルカリ処理に用いられた水酸化ナトリウム溶液が、第一の固液分離装置2によって固形成分と分離されて、アルカリ処理槽1にリサイクルされ、その際、アルカリ処理槽1に必要な水酸化ナトリウムの濃度及び量に満たない分のみの水酸化ナトリウム及び水をアルカリ補充部4で補充すればよく、したがって、水酸化ナトリウムの消費量を大幅に低減させることができ、製造コストの大幅な低減を実現することが可能になる。
【0029】
一方、第一の固液分離装置2によって固液分離された固形成分はpH調整槽5に送られる。
【0030】
pH調整槽5においては、固形成分に硫酸と補充用の水とが加えられ、溶液のpHが調整される。本実施態様においては、第一の固液分離装置2によって固液分離された水酸化ナトリウム溶液が第一のリサイクルパイプ3を介して、アルカリ処理槽1にリサイクルされるので、pH調整槽5に送られるのは、第一の固液分離装置2によって水酸化ナトリウム溶液の大部分が分離された固形成分であり、したがって、pH調整槽5に送られる水酸化ナトリウムの量は、従来に比して少ないので、pH調整槽5に供給する硫酸の量を低減させることが可能になる。ここに、セルラーゼの分解に最も適したpHは4.6であるので、pH調整槽5によって固形成分のpHを4.6に調整することが好ましい。pHは4〜5の範囲にあってもよい。
【0031】
pH調整槽5によってpHが、たとえば、4.6に調整された溶液は、第二の固液分離装置6に送られる。
【0032】
第二の固液分離装置6によって固液分離された液体成分は第二のリサイクルパイプ7を介して、pH調整槽5にリサイクルされる。
【0033】
第二の固液分離装置6によって固液分離された固形成分は、同時糖化発酵槽8に送られる。
【0034】
同時糖化発酵槽8に送られた固形成分には、酵素として、たとえば、エンドグルカナーゼ、セロビオハイドラーゼ、ベータグルコシダーゼの少なくとも1つを含むセルラーゼが供給され、酵母として、たとえば、Saccharomyces cerevisiaeが供給されて、草木系バイオマスが糖化され、エタノールが生成される。
【0035】
これにより、草本系バイオマスを原料にした糖およびエタノールの製造コストを低減することが可能になる。
【0036】
図2に示されるように、本発明の別の好ましい実施態様にかかる草本系・木質系バイオマスを原料として、エタノールを製造する方法においては、
図1に示された本発明の好ましい実施態様と同様に、アルカリ処理槽1によってアルカリ処理が施された草本系バイオマスを含む水酸化ナトリウム溶液は第一の固液分離装置2に送られ、固形成分と固液分離された水酸化ナトリウム溶液は第一のリサイクルパイプ3に導かれ、アルカリ補充部4によって、水酸化ナトリウム及び水が補充されて、アルカリ処理槽1にリサイクルされる。
【0037】
図2に示されるように、本実施態様においては、アルカリ補充部4の上流側で、第一のリサイクルパイプ3からバイパスパイプ10が分岐し、pH調整槽11に接続されている。第一のリサイクルパイプ3のバイパスパイプ10の分岐部には、第一のゲート部材12が設けられており、固液分離装置2によって固形成分と固液分離された水酸化ナトリウム溶液を選択的にアルカリ処理槽1またはバイパスパイプ10を介して、pH調整槽11に送ることができるように構成されている。
【0038】
pH調整槽11はリグニン分離槽13に接続され、リグニン分離槽13はさらに第二のゲート部材14によって、同時糖化発酵槽8と多糖分解槽15とに選択的に接続されている。多糖分解槽15にはエンドグルカナーゼ、セロビオハイドラーゼ、ベータグルコシダーゼの少なくとも1つを含むセルラーゼが供給されるように構成され同時糖化発酵槽8には、酵素として、たとえば、エンドグルカナーゼ、セロビオハイドラーゼ、ベータグルコシダーゼの少なくとも1つを含むセルラーゼが供給され、酵母として、たとえば、Saccharomyces cerevisiaeが供給されるように構成されている。
【0039】
ここに、水酸化ナトリウム溶液には、リグニンやオリゴ糖などが溶出しており、水酸化ナトリウム溶液中のリグニンおよびオリゴ糖の濃度は、第一の固液分離装置2によって固液分離された水酸化ナトリウム溶液のリサイクル数が多くなるほど高くなる。オリゴ糖は酵素により酵母などの微生物が利用しやすい単糖に分解し、エタノール生成の原料として用いることができるが、リグニンが存在していると、多糖であるオリゴ糖を酵母などの微生物が利用しやすい単糖に分解することも、エタノール生成の原料として用いることもできない。一方、リグニンは燃料として使用可能であり、アルカリ溶解性であるが、酸には溶解しない性質を有している。
【0040】
そこで、本実施態様においては、第一の固液分離装置2によって、固形成分から分離された水酸化ナトリウム溶液のアルカリ処理槽1へのリサイクル回数がN回、たとえば、10回に達すると、ゲート部材15によって、第一の固液分離装置2によって固形成分と固液分離された水酸化ナトリウム溶液がpH調整槽11に送られ、硫酸などの酸がpH調整槽11に供給されて、pH調整槽11に送られた水酸化ナトリウム溶液が酸性に、たとえば、そのpHがセルラーゼの分解に適したpHである4.6に調整される。
【0041】
その結果、水酸化ナトリウム溶液に溶解していたリグニンが析出する。析出したリグニンを含む溶液はリグニン分離槽13に送られ、図示しないフィルターろ過や遠心分離によって、リグニンが溶液から分離される。溶液から分離されたリグニンは乾燥し、あるいは、そのまま燃料として使用される。
【0042】
一方、リグニンが分離除去された溶液は、ゲート部材14によって、同時糖化発酵槽8または多糖分解槽15に選択的に送られる。リグニンが分離除去された溶液は高濃度のオリゴ糖を含んでいるので、同時糖化発酵槽8に供給して、第二の固液分離装置6によって固液分離された固形成分とともに、エタノールの原料とすることができ、また、酵素として、たとえば、エンドグルカナーゼ、セロビオハイドラーゼ、ベータグルコシダーゼの少なくとも1つを含むセルラーゼが供給される多糖分解槽15に供給して、酵母などの微生物が利用しやすい単糖に分解することができる。
【0043】
本実施態様によれば、
図1に示された実施態様と同様に、第一の固液分離装置2によって固形成分から分離された水酸化ナトリウム溶液は、第一のリサイクルパイプ3に導かれ、アルカリ補充部4によって水酸化ナトリウムが補充されて、アルカリ処理槽1にリサイクルされるから、草本系バイオマスを原料にした糖およびエタノールの製造コストを大幅に低減することが可能になる。
【0044】
さらに、本実施態様によれば、
図1に示された実施態様と同様に、第一の固液分離装置2によって固液分離された水酸化ナトリウム溶液が第一のリサイクルパイプ3を介して、アルカリ処理槽1にリサイクルされるから、pH調整槽5に送られるのは、第一の固液分離装置2によって水酸化ナトリウム溶液の大部分が分離された固形成分であり、したがって、pHを調整するために、pH調整槽5に供給する硫酸の量を低減させることが可能になる。
【0045】
さらに、第一の固液分離装置2によって固形成分から固液分離され、第一のリサイクルパイプ3に導かれた水酸化ナトリウム溶液中のリグニンおよびオリゴ糖の濃度は、第一の固液分離装置2によって固液分離された水酸化ナトリウム溶液のリサイクル数が多くなるほど高くなり、本実施態様においては、水酸化ナトリウム溶液のアルカリ処理槽1へのリサイクル回数がN回、たとえば、10回になると、第一のゲート部材12によって、水酸化ナトリウム水溶液は、バイパスパイプ10を介して、pH調整槽11に導かれる。ここに、水酸化ナトリウム溶液に溶出されているオリゴ糖は酵素により酵母などの微生物が利用しやすい単糖に分解し、あるいは、エタノール生成の原料として用いることができるが、リグニンが存在すると、多糖であるオリゴ糖を酵母などの微生物が利用しやすい単糖に分解することも、エタノール生成の原料として用いることもできない。したがって、本実施態様においては、pH調整槽11に導かれたリグニンとオリゴ糖が溶出された溶液に硫酸が供給されて、酸性に、たとえば、そのpHがセルラーゼの分解に適したpHである4.6に調整され、その結果、酸不溶性のリグニンが析出し、オリゴ糖とリグニンを分離することによって、オリゴ糖を高濃度で含まれた溶液を生成し、同時糖化発酵槽8に供給して、第二の固液分離装置6によって固液分離された固形成分とともに、エタノールの原料とすることができ、あるいは、酵素として、たとえば、エンドグルカナーゼ、セロビオハイドラーゼ、ベータグルコシダーゼの少なくとも1つを含むセルラーゼが供給される多糖分解槽15に供給して、酵母などの微生物が利用しやすい単糖に分解することができる。したがって、本実施態様によれば、第一の固液分離装置2によって固形成分から分離され水酸化ナトリウム溶液から、エタノールを生成し、あるいは、酵母などの微生物が利用しやすい単糖に分解することができるオリゴ糖を回収し、糖あるいはエタノールを製造する原料として用いているから、低コストで、糖を製造し、エタノールを製造することが可能になる。
【0046】
また、本実施態様によれば、オリゴ糖を原料にして、単糖やエタノールを生成することを妨害するリグニンを、pH調整槽11に硫酸を供給して、pH調整槽11内の溶液のpHを4.6に調整することによって析出させて、燃料として分離するように構成されているから、地球資源の消費を抑制することが可能になる。
【0047】
本発明は、以上の実施態様に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【0048】
たとえば、前記実施態様においては、草本系バイオマスにつき説明が加えられているが、バイオマスが草本系であることは必ずしも必要でなく、木質系バイオマスを用いて、同様にして、糖やエタノールを製造することもできる。
【0049】
また、前記実施態様においては、pH処理槽5において、pHが調整された溶液を第二の固液分離装置6によって固液を分離して、液体成分を第二のリサイクルパイプ7を介して、pH処理槽5にリサイクルするように構成されているが、pHが調整された溶液を固液分離し、液体成分をpH処理槽5にリサイクルすることは必ずしも必要でなく、pH処理槽5において、pHが調整された溶液を直接に同時糖化発酵槽8に供給するようにしてもよい。
【0050】
さらに、
図1に示された実施態様においては、第二の固液分離装置6によって液体成分が分離された固形成分は、酵素として、たとえば、エンドグルカナーゼ、セロビオハイドラーゼ、ベータグルコシダーゼの少なくとも1つを含むセルラーゼが供給され、酵母として、たとえば、Saccharomyces cerevisiaeが供給される同時糖化発酵槽8に供給されて、糖化され、得られた糖からエタノールが生成されるように構成されているが、第二の固液分離装置6によって液体成分が分離された固形成分を、同時糖化発酵槽8に代えて、酵素が供給される糖化槽に供給して、糖化し、得られた糖を酵母が供給される発酵槽に供給して、エタノールを生成するようにしてもよい。同様に、
図2に示された実施態様においては、pHが調整され、リグニンが分離された溶液を、酵素が供給される糖化槽15に供給して、糖化し、あるいは、酵素および酵母が供給される同時糖化発酵槽8に供給して、糖化し、得られた糖を発酵させて、エタノールを生成するように構成されているが、同時糖化発酵槽8に代えて、酵母が供給される発酵槽を設け、糖化槽15において生成された糖を発酵槽に送って、発酵させて、エタノールを生成するように構成してもよい。
【0051】
また、前記実施態様においては、アルカリ物質として、水酸化ナトリウムを用いているが、水酸化ナトリウムを用いていることは必ずしも必要でなく、水酸化ナトリウムに代えて、水酸化カルシウムなどの他のアルカリ物質を用いることができる。
【0052】
さらに、前記実施態様においては、酸として硫酸が用いられているが、硫酸を用いることは必ずしも必要ではなく、硫酸に代えて、他の酸を用いるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0053】
1 アルカリ処理槽
2 第一の固液分離装置
3 第一のリサイクルパイプ
4 アルカリ補充部
5 pH調整槽5
6 第二の固液分離装置
7 第二のリサイクルパイプ
8 同時糖化発酵槽
10 バイパスパイプ
11 pH調整槽
12 第一のゲート部材
13 リグニン分離槽
14 第二のゲート部材
15 多糖分解槽