(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5946232
(24)【登録日】2016年6月10日
(45)【発行日】2016年7月5日
(54)【発明の名称】シクロオキシゲナーゼ−2阻害剤及び化粧料
(51)【国際特許分類】
A61K 8/35 20060101AFI20160621BHJP
A61K 8/49 20060101ALI20160621BHJP
A61K 31/122 20060101ALI20160621BHJP
A61K 31/352 20060101ALI20160621BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20160621BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20160621BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20160621BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20160621BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20160621BHJP
A61Q 1/04 20060101ALI20160621BHJP
【FI】
A61K8/35
A61K8/49
A61K31/122
A61K31/352
A61P17/02
A61P19/02
A61P25/28
A61P29/00
A61P29/00 101
A61P43/00 111
A61Q1/04
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2008-314808(P2008-314808)
(22)【出願日】2008年12月10日
(65)【公開番号】特開2010-138095(P2010-138095A)
(43)【公開日】2010年6月24日
【審査請求日】2011年8月5日
【審判番号】不服2014-16052(P2014-16052/J1)
【審判請求日】2014年8月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】397057289
【氏名又は名称】モアコスメティックス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000125347
【氏名又は名称】学校法人近畿大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 三雄
(72)【発明者】
【氏名】河田 純一
(72)【発明者】
【氏名】亀田 宗一
【合議体】
【審判長】
大熊 幸治
【審判官】
齊藤 光子
【審判官】
小川 慶子
(56)【参考文献】
【文献】
特開平8−268851(JP,A)
【文献】
特開2003−95985(JP,A)
【文献】
特開2000−290163(JP,A)
【文献】
特開2000−143487(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2001/0005727(US,A1)
【文献】
特開2007−326828(JP,A)
【文献】
機能性化粧品II、株式会社シーエムシー発行、1996年8月30日、第238頁〜第243頁
【文献】
機能性化粧品素材の効能・効果・作用 第2巻、株式会社シーエムシー発行、1993年7月20日、第229頁〜第230頁
【文献】
医学のあゆみ、2000年2月26日、Vol.192、No.9、第911頁
【文献】
香りの百科、日本香料協会編、株式会社朝倉書店発行、2001年3月20日、第303頁〜第305頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K8/00-8/99
A61Q1/00-90/00
JSTPlus・JMEDPlus・JST7580(JDreamIII)
CAPlus・MEDLINE・BIOSIS・EMBASE・KOSMET(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メントン及び1,4-シネオールからなる群から選択される少なくとも1種からなるシクロオキシゲナーゼ−2(COX-2)阻害剤。
【請求項2】
メントン及び1,4-シネオールからなる群から選択される少なくとも1種からなる皮膚又は口唇用抗炎症剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シクロオキシゲナーゼ(COX)−2阻害剤及びそれを含む化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
炎症は、創傷に対する組織の反応である。炎症反応は、創傷治癒、慢性関節リウマチ、及びアルツハイマー病や脳卒中などの神経変性疾患を含む病理学的及び病体生理学的過程の基礎を形成する。その反応は種々のシグナルや酵素経路によって仲介されるが、シクロオキシゲナーゼ経路が主要なものの一つである。COXはアラキドン酸からプロスタグランジンとトロンボキサンの形成に導く最初の段階を触媒する。COX-1は多くの組織で恒常的に発現され、例えば胃粘膜や腎臓では優勢である。COX-1の阻害は、胃での細胞保護的なPGE
2とPGI
2の基礎量の生産を減少させ、胃の潰瘍形成に寄与するかもしれない。他のシクロオキシゲナーゼ阻害剤アイソフォームCOX-2は、通常ほとんどの細胞又は組織で発現されていないが、上昇したレベルが炎症中に観察される。それ故、COX-2の選択的阻害が一般的に非ステロイド抗炎症剤(NSAIDs)の抗炎症効果のメカニズムとして考えられている。
【0003】
特許文献1には、硬紫根からの揮発油がCOX-2をインビトロで阻害することについて記載されている。
【非特許文献1】Kawata J, Kameda M, Miyazawa M(2008) Cyclooxygenase-2 inhibitory effects and composition of the volatile oil from the dried roots of Lithospermum erythrorhizon. J Nat Med 62:239-243
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、シクロオキシゲナーゼ−2阻害剤及びそれを含む化粧料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、メントール、ネオメントール、イソプレゴール、メントン、プレゴン、イソピレリテノン及び1,4-シネオールは、COX-2を阻害できるという知見を得た。本発明は、これら知見に基づき、更に検討を重ねて完成されたものであり、次のCOX-2阻害剤及び化粧料を提供するものである。
項1.メントール、ネオメントール、イソプレゴール、メントン、プレゴン、イソピレリテノン及び1,4-シネオールからなる群から選択される少なくとも1種を有効成分として含むシクロオキシゲナーゼ−2(COX-2)阻害剤。
項2.項1に記載のCOX-2阻害剤を含み、前記有効成分の含有量が0.001〜5重量%である化粧料。
【発明の効果】
【0006】
メントール、ネオメントール、イソプレゴール、メントン、プレゴン、イソピレリテノン及び1,4-シネオールからなる群から選択される少なくとも1種を有効成分として含むCOX-2阻害剤は、COX-2を阻害することができる。さらに、このCOX-2阻害剤は、COX-1の阻害と比べて、COX-2の阻害が優勢であり、COX-2を選択的に阻害できる。
【0007】
また、このCOX-2阻害剤を含有する化粧料は、COX-2阻害剤に起因する抗炎症作用の効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
COX-2阻害剤
本発明のCOX-2阻害剤は、メントール、ネオメントール、イソプレゴール、メントン、プレゴン、イソピレリテノン及び1,4-シネオールからなる群から選択される少なくとも1種を有効成分として含む。
【0009】
パラメンタン骨格を有するモノテルペノイドであるこれらのメントール、ネオメントール、イソプレゴール、メントン、プレゴン、イソピレリテノン及び1,4-シネオールは、COX-2を阻害するという効果を有するため、COX-2阻害剤として使用できる。さらに、本発明のCOX-2阻害剤は、COX-1の阻害と比較してCOX-2の阻害の方が優勢であり、COX-2を選択的に阻害するという効果を有する。この中でも特に好ましいのは、メントン、プレゴン及び1,4-シネオールである。
【0010】
本発明のCOX-2阻害剤は、例えば、化粧料等の分野で好適に使用することができる。
【0011】
本発明のCOX-2阻害剤における上記有効成分の含量は、化粧料等に含有されたときの最終的な上記有効成分の含量が重要であるため特に限定されないが、通常、0.01〜100重量%程度、好ましくは0.1〜100重量%程度である。
【0012】
化粧料
本発明の化粧料は、上記COX-2阻害剤を含み、化粧料におけるCOX-2阻害剤の含量は、下記に示す化粧料における上記有効成分の含量を満足するような範囲であることが望ましい。
【0013】
本発明の化粧料には、上記COX-2阻害剤に加え、必要に応じて、粉末、顔料、油脂類、保湿剤、界面活性剤、酸化防止剤、増粘剤、洗浄剤、賦形剤、乳化剤、可塑剤、防腐剤、防黴剤、pH調整剤、紫外線吸収剤、アミノ酸、香料等の通常の化粧料に用いられる成分を本発明の効果を損わない範囲で適当に配合することができる。
【0014】
本発明の化粧料の剤型は任意であり、溶液系、可溶化系、乳化系、粉末分散系、水−油二層系、水−油−粉末三層系等のような剤型であり得る。皮膚への安全性の点からpH4〜8程度に調整されることが好ましい。
【0015】
化粧料としては、皮膚、顔皮、口唇等に適用されるあらゆる化粧料が含まれ、本発明の化粧料の用途は、例えば、化粧水、乳液、クリーム、美容液、パック、ファンデーション、口紅、リップケア、アイシャドー、ボディーローション、ボディークリーム、クレンジングフォーム、洗顔料、ハンドソープ、ボディーソープ等に用いることができる。
【0016】
本発明の化粧料における上記有効成分の含量は、化粧料の使用目的、剤型、組成、設定される使用期限、設定される保存状態、共存する成分等によって異なるが、0.001〜5重量%、好ましくは0.05〜1重量%、より好ましくは0.1〜1重量%である。
【0017】
本発明の化粧料は、上記化合物のCOX-2阻害作用により、抗炎症効果を奏し得る。
【実施例】
【0018】
COX活性阻害試験方法
COXの阻害は、COX(羊由来)スクリーニングアッセイキット(Cayman Chemical, USA)を使用して比色分析で評価した。COX-1又はCOX-2(10 μl)、阻害剤(10 μl)(EtOHに各物質の最終濃度が1, 2, 3又は5 mMになるように調整した阻害溶液)、及びヘム(10 μl)がウェル中で混合されアッセイバッファー(150 μl)が添加された。混合液は5分間25℃で前保温された。比色基質溶液(20 μl)が混合液に加えられ、反応はアラキドン酸(20 μl)を添加することによって開始された。それから、混合液は25℃で15分間保温された。590 nmの吸光度がマイクロプレートプレートリーダー(MTP-800Lab, コロナ電機株式会社製)で測定され、すべての試験とコントロールアッセイはブランクを用いた非酵素的加水分解で補正された。各アッセイは少なくとも3回行われた。COX活性は次の式によって求められた。
【0019】
COX活性(%)=[(A-B)/(C
p-C
n)]×100
ここでAは試験サンプルの吸光度(COX、EtOH中の阻害剤、ヘム、比色基質溶液、アッセイバッファー、及びアラキドン酸)、Bは試験ブランクサンプルの吸光度(EtOH中の阻害剤、ヘム、比色基質溶液、アッセイバッファー、及びアラキドン酸)、C
pはポジティブコントロールの吸光度(COX、EtOH、ヘム、比色基質溶液、アッセイバッファー、及びアラキドン酸)、そしてC
nはネガティブコントロールの吸光度(EtOH、ヘム、比色基質溶液、アッセイバッファー、及びアラキドン酸)である。当該試験方法について
図1に示す。
【0020】
メントール、ネオメントール、イソプレゴール、メントン、プレゴン、イソピレリテノン及び1,4-シネオールについて当該試験方法により得た結果を以下の表1及び2に示す。
【0021】
【表1】
【0022】
【表2】
【0023】
考察
7種のp-メンタン骨格を有するモノテルペノイドの5 mMでのCOX阻害活性について検討を行ったところ、それぞれ表1に示すような結果となった。いずれの化合物においてもCOX-2選択阻害活性を示し、特にメントン、プレゴン及び1,4-シネオールにおいて強い活性が見られた。そこで、その3種のモノテルペノイド及び比較標準物質として非ステロイド系抗炎症剤であるアスピリンについてIC
50値(mM)の検討を行った。その結果、メントン、プレゴン及び1,4-シネオールの副作用の原因となるCOX-1阻害活性においては、アスピリンと比較しても非常に優位な結果であり、副作用のリスクが低いものと考えられた。
【0024】
化粧料の配合例
以下、本発明の化粧料の配合例を示す。
【0025】
配合例1 (クリーム)
【0026】
【表3】
【0027】
配合例2 (リップワックス)
【0028】
【表4】
【0029】
配合例3 (リップワックス)
【0030】
【表5】
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】シクロオキシゲナーゼ阻害試験方法を示す図である。