(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5946276
(24)【登録日】2016年6月10日
(45)【発行日】2016年7月6日
(54)【発明の名称】管内走行装置
(51)【国際特許分類】
B61B 13/10 20060101AFI20160623BHJP
【FI】
B61B13/10
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-7451(P2012-7451)
(22)【出願日】2012年1月17日
(65)【公開番号】特開2013-147078(P2013-147078A)
(43)【公開日】2013年8月1日
【審査請求日】2015年1月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】503132280
【氏名又は名称】特定非営利活動法人 国際レスキューシステム研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100107308
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 修一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100120352
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100128901
【弁理士】
【氏名又は名称】東 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】田村 至
(72)【発明者】
【氏名】大須賀 公一
(72)【発明者】
【氏名】西原 崇志
【審査官】
畔津 圭介
(56)【参考文献】
【文献】
特開平09−142297(JP,A)
【文献】
特開平07−232639(JP,A)
【文献】
特開平02−057974(JP,A)
【文献】
米国特許第05971404(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61B 13/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行すべき管の管軸方向に可撓連結体によって連結された第1の走行台車と第2の走行台車とからなる管内走行装置において、
前記第1の走行台車及び前記第2の走行台車の夫々は、前後軸心を有する基体部と、前記基体部から径方向に延びる構成を有するとともに周方向で互いに間隔をあけて放射状に配置された複数の走行モジュールからなる走行ユニットとを備え、
前記走行モジュールは、駆動輪と当該駆動輪との間で前記管の内周面側に共通接線を有するように当該駆動輪を挟んで前記基体部の前後軸心に沿って設けられた少なくとも2つの従動輪とを有する車輪ユニットと、車輪ユニットと前記基体部との間の径方向の間隔が変化するように変位するとともに前記変位時に前記共通接線と前記基体部の前後軸心との平行が維持されるように前記車輪ユニットと前記基体部とを連結する変位機構とを含み、
かつ
前記車輪ユニットが前記管の内周面を押し付けるように前記変位機構を付勢する付勢機構が備えられている管内走行装置。
【請求項2】
前記走行ユニットは、第1の走行ユニットと第2の走行ユニットとを備え、前記第1の走行ユニットと前記第2の走行ユニットとが前記基体部の前後軸心に沿って間隔をあけて前記基体部に設けられている請求項1に記載の管内走行装置。
【請求項3】
前記変位機構は平行リンク機構であり、前記第1の走行ユニットの変位機構と前記第2の走行ユニットの変位機構とは互いに前後軸心方向で向き合う方向での変位により前記車輪ユニットを前記管の内周面に押し付けるように配置され、前記付勢機構は前記第1の走行ユニットの変位機構と前記第2の走行ユニットの変位機構とに連結された引っ張りばねである請求項2に記載の管内走行装置。
【請求項4】
前記第1の走行台車に、当該第1の走行台車に設けられた前記走行モジュール毎の変位機構の変位が同期されるように当該変位機構同士と連結している同期機構が備えられているとともに、前記第2の走行台車に、当該第2の走行台車に設けられた前記走行モジュール毎の変位機構の変位が同期されるように当該変位機構同士と連結している同期機構が備えられている請求項1から3のいずれか一項に記載の管内走行装置。
【請求項5】
前記同期機構は、前記変位機構の変位を前記基体部の前後軸心方向の摺動変位に変換する変換リンクと、少なくとも2つの前記変換リンクと連結されている摺動体を含む請求項4に記載の管内走行装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行すべき管の管軸方向に可撓連結体によって連結された複数の走行台車からなる管内走行装置に関する。
【背景技術】
【0002】
地下に埋設されているガス配管の検査は、地面を掘削し配管を露出して検査を行うことができるが、その配管の量が膨大であることや、建造物の地下など人の進入が困難な場所に埋設されている配管も多く存在することなどから、それらの作業は容易ではない。また、埋設配管を露出する際の経済的コスト、検査効率など、対象配管上の地面全体を掘削する手法には多くの面で課題が残されている。そこで、地面を掘削せずに配管検査を実施するために管内走行装置が必要となっている。その際、曲管部での走行性と、走行台車重量と駆動力のバランスなどを考慮して、自走可能な複数の走行台車を可撓連結体によって連結した管内走行装置が注目されている。
【0003】
そのような管内走行装置として、特許文献1には、管内を走行する駆動機構を備えた駆動台車と、駆動台車の進行方向前方に連結器により連結された連結台車とから構成され、連結器は屈曲自在な弾性部材と、弾性部材に直列接続され少なくとも二方向に屈曲する屈曲手段とを備えている管内走行装置が記載されている。この管内走行装置では、連結台車は連結器により連結された駆動機構を備えた駆動台車により後方から押されることにより前進し、この連結台車が配管の曲管部に入ると連結器の弾性部材が屈曲することで連結台車は曲管部の管形状に沿って走行する。しかしながら、この管内走行装置は、管径の異なる管を連続的に走行するように設計されていない。また、先頭台車である連結台車は自走できず、駆動台車によって後押しされるかまた引きずられるだけなので、直線走行時において走行抵抗にバラツキが生じると連結器の弾性部材によってその走行がギクシャクする可能性が高い。
【0004】
また、特許文献2には、複数のユニットが屈曲可能に連結体によって連結された管内走行装置が記載されており、管内走行装置の前端と後端の連結ユニットには、周方向の均等4方向に放射状の配置で、管内面に接する少なくとも一対の駆動輪と一対の従動輪を備えており、その駆動輪にギヤ伝動で動力を伝達する走行モータと、その駆動輪の走行方向を転換する操舵モータも備えられている。前端と後端の連結ユニット以外は、周方向の均等4方向に放射状の配置で、管内面に接する従動輪だけが備えられている。駆動輪の支持部には、配管の製作誤差や変形、或いは異物の付着等に原因する管内径の変化を吸収して安定な走行を円滑に行うための復元バネを装着したサスペンション機構が設けられ、従動輪の支持部には、従動輪を管壁へ押し付けるためにバネ等による弾性的なサスペンション機構が設けられている。この管内走行装置では、先頭側と後尾側の連結ユニットは駆動輪を備えているので、走行抵抗にばらつきがあっても比較的安定した直線走行が期待される。しかしながら、曲管部走行時など各連結ユニットの駆動輪間で速度差が生じる場合は遅い方の駆動輪は走行抵抗となってしまう。また、そのサスペンション機構はピストン式に径方向の変位を許すようなものであり、大きな管径差に追従させることは構造的に困難である。
【0005】
さらに、中央に配置される円筒ケーシングと、この円筒ケーシングの外周部から半径方向外側に向けて突出する3つの平行リンク機構と、各平行リンク機構の半径方向外側に設けられた前後対となる全方向移動車輪とを備えた測定台車からなる管内走行装置が、特許文献3に記載されている。平行リンク機構は、円筒ケーシングの前後の一方側に固定配置された固定リングと、円筒ケーシングの前後の他方側に前後軸心方向に移動可能に配置された摺動リングと、固定リング及び摺動リングにそれぞれ基部が回動自在に連結されたクロスアームと、各クロスアームの先側に設けられ、前後両側にそれぞれ全方向移動車輪が設けられたリンクプレートとから構成されている。ここで、スプリングにより摺動リングを固定リングの方向に付勢することで管内走行時の測定台車はその円筒ケーシングの軸心を管軸に維持することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−232639号公報(段落番号〔0008−0019〕、
図2)
【特許文献2】特開2000−52282号公報(段落番号〔0010−0022〕、
図1)
【特許文献3】特開2011−158392号公報(段落番号〔0006−0024〕、
図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の管内走行装置が走行上苦手とする管形態は、大径管と小径管との移行管であるレジューサ部や曲管部であり、この領域では、周方向または軸方向で異なる位置で管内面と接触している駆動輪に要求される速度(周速)が異なる。例えば、レジューサ部では、傾斜面と接触している駆動輪の速度は直線面と接触している駆動輪の速度より速くする必要がある。また、曲管部では、外側内面と接触している駆動輪の速度は内側内面と接触している駆動輪の速度より速くする必要がある。しかしながら、各駆動輪の速度を可変とすると製作コストや制御コストが大きくなる。
上記実情に鑑み、本発明の目的は、直線経路のみならず大径管と小径管との移行管であるレジューサ部や曲管部などの経路も良好に走行可能な管内走行装置を簡単な構成で提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明による管内走行装置は、走行すべき管の管軸方向に可撓連結体によって連結された第1の走行台車と第2の走行台車とからなる。前記
第1の走行台車及び前記第2の走行台車
の夫々は、前後軸心を有する基体部と、前記基体部から径方向に延びる構成を有するとともに周方向で互いに間隔をあけて放射状に配置された複数の走行モジュールからなる走行ユニットとを備える。前記走行モジュールは、駆動輪と当該駆動輪との間で前記管の内周面側に共通接線を有するように当該駆動輪を挟んで前記基体部の前後軸心に沿って設けられた少なくとも2つの従動輪とを有する車輪ユニットと、車輪ユニットと前記基体部との間の径方向の間隔が変化するように変位するとともに前記変位時に前記共通接線と前記基体部の前後軸心との平行が維持されるように前記車輪ユニットと前記基体部とを連結する変位機構とを含む。さらに、前記車輪ユニットが前記管の内周面を押し付けるように前記変位機構を付勢する付勢機構が備えられている。本願に関わる管内走行装置は少なくとも第1の走行台車と第2の走行台車を有していればよい。
【0009】
この構成では、2つの従動輪と当該従動輪に挟まれた駆動輪とをそれらの共通接線が作り出されるように走行方向で一直線上に連設させた各車輪ユニットを走行対象となる管の管軸の周方向に分布するように配置することができる。その際、各車輪ユニットにおいて定義されている共通接線が走行対象となる管の管軸と平行関係を維持する状態で、各車輪ユニットは変位機構によって管内面に押し付けられる。この構造原理によって、車輪ユニットのレジューサ部や曲管部の走行時は、いずれかの従動輪のみが管内面に接当し、他の車輪は浮いた状態となり、駆動輪は空転する。これにより、レジューサ部または曲管部を走行している走行台車(第1または第2の走行台車)は従動輪による案内台車となり、直線部を走行している他の走行台車(第2または第1の走行台車)による牽引または押進によりレジューサ部または曲管部を通過する。したがって、レジューサ部または曲管部を通過する走行台車の駆動輪が走行抵抗となることが回避される。その結果、簡単な構造にもかかわらず、直線経路のみならずレジューサ部や曲管部などの経路も良好に走行可能となる。
【0010】
各走行台車の前後軸心方向、つまり走行時の走行対象となる管の管軸方向での走行バランスを良好にするためには、管内面に対して管軸方向でできるだけ間隔をあけて複数接触することが好ましい。
このため、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記走行ユニット
は、
第1の走行ユニットと第2の走行ユニットとを備え、前記第1の走行ユニットと
前記第2の走行ユニットとが前記基体部の前後軸心に沿って間隔をあけて前記基体部に設けられている。
【0011】
本発明の好適な実施形態の1つでは、前記変位機構は平行リンク機構であり、前記第1の走行ユニットの変位機構と前記第2の走行ユニットの変位機構とは互いに前後軸心方向で向き合う方向での変位により前記車輪ユニットを前記管の内周面に押し付けるように配置され、前記付勢機構は前記第1の走行ユニットの変位機構と前記第2の走行ユニットの変位機構とに連結された引っ張りばねである。この構成では、基体部での前後軸心方向の取り付け幅より大きい、つまり基体部の前後長さより大きな間隔、例えば基体部の前後長さの2番程度の間隔をあけて車輪ユニットを管内面に押し付けることが可能となり、走行安定性の面から、ピストンシリンダ式の伸縮機構などに比べ、有利である。また、単一の引っ張りばねが前後軸心方向に変位機構の付勢機構として用いられるので、構成が簡単となる。
【0012】
本発明の管内走行装置では、基体部を胴体とし、この胴体から径方向で放射状に延びた変位機構を腕または足として管内面に車輪ユニットを押し付けながら走行する。しかしながら、このような構造の場合、実質的に同一の軸方向位置から延びているそれぞれの変位機構の変位量を同一にすることで安定した走行が可能となるとの知見が実験的に得られた。このため、本発明の好適な実施形態の1つでは、
前記第1の走行台車に、当該第1の走行台車に設けられた前記走行モジュール毎の変位機構の変位が同期されるように
当該変位機構同士と連結している同期機構が備えられている
とともに、前記第2の走行台車に、当該第2の走行台車に設けられた前記走行モジュール毎の変位機構の変位が同期されるように当該変位機構同士と連結している同期機構が備えられている。ここで「変位が同期される」とは、変位機構が同一タイミングで同一の変位量だけ拡径側あるいは縮径側に変位することを意味する。このような同期機構の好適な具体例の1つでは、前記変位機構の変位を前記基体部の前後軸心方向の摺動変位に変換する変換リンクと、少なくとも2つの前記変換リンクと連結されている摺動体から構成されている。この構成を採用すれば、摺動体を基体部の前後方向に沿って摺動させるように摺動レールを基体部の側面に取り付け、変位機構の大きく変位する部分の変位を変換リンクによって摺動体に伝達させることが可能となる。これにより、基体部と変位機構との間の空きスペースを有効に利用するとともに、スムーズな同期が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明による管内走行装置が曲管部を走行する際の基本原理を示す模式図である。
【
図2】本発明による管内走行装置がレジューサ部を走行する際の基本原理を示す模式図である。
【
図3】本発明による管内走行装置の実施形態の1つを示す側面図である。
【
図5】
図3による管内走行装置における1台の走行台車の斜視図である。
【
図7】管内走行装置における車輪ユニットの実施形態の1つを示す斜視図である。
【
図8】レジューサ部を走行する際の従動輪に働く力を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明による管内走行装置の具体的な実施形態を説明する前に、この管内走行装置の基本構造と管内走行の原理を
図1と
図2とを用いて説明する。図で示されている管内走行装置は同じものであり、管内に先行する第1の走行台車1Aと後続する第2の走行台車1Bとを備え、第1の走行台車1Aと第2の走行台車1Bとは可撓連結体9によって連結されている。なお以後、第1の走行台車1Aと後続する第2の走行台車1Bとを特に区別する必要がない場合には、単に走行台車1と表現する。
【0015】
走行台車1は、前後軸心Xaを有する基体部6と、走行ユニット2とからなる。ここでは、1台の走行台車1につき2セットの走行ユニット2が装備されている。つまり、基体部6の前後方向に間隔をあけて、第1の走行ユニット(前側走行ユニット)2Aと第2の走行ユニット(後側走行ユニット)2Bとが基体部6に配置されている。なお以後、第1の走行ユニット2Aと第2の走行ユニット2Bとを特に区別する必要がない場合には、単に走行ユニット2と表現する。各走行ユニット2は、基体部6から周方向で互いに間隔(円周角で120度間隔)をあけて径方向に延びる複数の走行モジュール20を有する。走行モジュール20は、車輪ユニット21とこの車輪ユニット21と基体部6とを連結する変位機構30とを有する。車輪ユニット21は、駆動輪22と当該駆動輪22との間で管内面側に共通接線CLを有するように当該駆動輪を挟んで前後軸心Xaに沿って設けられた少なくとも2つの従動輪23とを有する。この変位機構30は図では平行4点リンク機構であるが、これに限定されない。重要なことは、車輪ユニット21と基体部6との間の径方向の間隔が変化するように変位するとともにこの変位時に上記の共通接線CLと基体部6の前後軸心との平行Xaが維持されることである。さらに、車輪ユニット21の両端の車輪、つまり従動輪23の1つ、または全て車輪(駆動輪22と従動輪23)を常に管内面を押し付けるように変位機構30を付勢する付勢機構5が設けられている。ここでは、第1の走行ユニット2Aと第2の走行ユニット2Bとが鏡対称に取り付けられているので、付勢機構5は互いの平行4点リンク機構(変位機構30)のリンク同士を引き付ける引っ張りばねで構成されている。
【0016】
上述した本発明の特徴的な基本構成により、例えば、この管内走行装置が曲管部を通過する際には次のような挙動ステップとなる。
(1−1)曲管部に進入する前では、第1の走行台車1Aと第2の走行台車1Bはともに同じ内径の直管を走行しているので、全ての車輪ユニット21の駆動輪22が管内面に押し付けられ、この管内走行装置の走行駆動に貢献する。
(1−2)第1の走行台車1Aが曲管部を走行し、第2の走行台車1Bはまだ直管を走行している(
図1(a))参照。この段階では、第1の走行台車1Aの車輪ユニット21における車輪共通接線CLは、軸方向断面が曲線となる曲管部の内面と一致しない。このため、第1の走行台車1Aにおける前側走行ユニット2Aの車輪ユニット21では前側の従動輪23だけが曲管部内面に接当し、第1の走行台車1Aにおける後側走行ユニット2Bの車輪ユニット21では後側の従動輪23だけが曲管部内面に接当している。これに対して、第2の走行台車1Bでは、全ての車輪ユニット21の駆動輪22が管内面に押し付けられている。その結果、第1の走行台車1Aは駆動台車としては機能せず、自由台車として機能し、第2の走行台車1Bが駆動台車として機能して第1の走行台車1Aを押進する。曲管部を通過する第1の走行台車1Aが自由台車となり、その駆動輪22が空転していることで、曲管部での駆動輪22の駆動力による力バランスの崩れなどの不都合が抑制される。
(1−3)第1の走行台車1Aが曲管部を通り抜け直管を走行し始めるのに対して、第2の走行台車1Bが曲管部に進入している(
図1(b))参照。この段階では、第2の走行台車1Bの車輪ユニット21における車輪共通接線CLは、軸方向断面が曲線である曲管部の内面と一致しない。このため、第2の走行台車1Bにおける前側走行ユニット2Aの車輪ユニット21では前側の従動輪23だけが曲管部内面に接当し、第1の走行台車1Aにおける後側走行ユニット2Bの車輪ユニット21では後側の従動輪23だけが曲管部内面に接当している。これに対して、第1の走行台車1Aでは、全ての車輪ユニット21の駆動輪22が管内面に押し付けられている。その結果、第2の走行台車1Bは駆動台車としては機能せず、自由台車として機能し、第1の走行台車1Aが駆動台車として機能して第2の走行台車1Bを牽引する。
(1−4)第1の走行台車1Aと第2の走行台車1Bがともに曲管部に通り過ぎた後では、全ての車輪ユニット21の駆動輪22が管内面に押し付けられ、この管内走行装置の走行駆動に貢献する。
【0017】
また、この管内走行装置が、互いに異なる内径を有する直管を傾斜管によって接続するレジューサ部を通過する際には次のような挙動ステップとなる。
図2は、大径直管から小径直管への走行を例示している。
(2−1)傾斜管に進入する前では、第1の走行台車1Aと第2の走行台車1Bはともに同じ内径の直管を走行しているので、全ての車輪ユニット21の駆動輪22が管内面に押し付けられ、この管内走行装置の走行駆動に貢献する。
(2−2)第1の走行台車1Aの前側走行ユニット2Aが傾斜管を走行し、第1の走行台車1Aの後側走行ユニット2B及び第2の走行台車1Bはまだ大径直管を走行している(
図2(a)参照)。この段階では、第1の走行台車1Aの前側走行ユニット2Aの車輪ユニット21における車輪共通接線CLは、軸方向断面が軸心X0に対して角度をつけている傾斜線となる傾斜管の内面と一致しない。このため、第1の走行台車1Aにおける前側走行ユニット2Aの車輪ユニット21では前側の従動輪23だけが傾斜管内面に接当する。これに対して、第1の走行台車1Aにおける後側走行ユニット2B及び第2の走行台車1Bでは、全ての車輪ユニット21の駆動輪22が管内面に押し付けられている。その結果、第1の走行台車1Aの前側走行ユニット2Aは駆動ユニットとしては機能せず、自由ユニットとして機能し、第1の走行台車1Aの前側走行ユニット2A及び第2の走行台車1Bの両走行ユニット2が駆動ユニットとして機能して走行する。ついで、図示されていないが、第1の走行台車1Aは駆動台車としては機能せず、自由台車として機能し、第2の走行台車1Bが駆動台車として機能して第1の走行台車1Aを押進する状態となる。
(2−3)第1の走行台車1Aの両走行ユニット2が傾斜管を通り抜け小径直管を走行し、第2の走行台車1Aの前側走行ユニット2Aが傾斜管を走行し、第2の走行台車1Bの後側走行ユニット2Bはまだ大径直管を走行している(
図2(b)参照)。
この段階では、第1の走行台車1A及び第2の走行台車1Bの後側走行ユニット2Bにおける全ての車輪ユニット21の駆動輪22が管内面に押し付けられている。しかしながら、第2の走行台車1Bの前側走行ユニット2Aの車輪共通接線CLは、軸方向断面が軸心X0に対して角度をつけている傾斜線となる傾斜管の内面と一致しないので、前側の従動輪23だけが管内面に押し付けられている。その結果、第2の走行台車1Bの前側走行ユニット2Aは駆動ユニットとしては機能せず、自由ユニットとして機能し、それ以外の走行ユニット2は駆動ユニットとして機能している。やがて、この自由ユニットとして機能する走行ユニット2は、第2の走行台車1Bの前側走行ユニット2Aから走行ユニット2は、第2の走行台車1Bの後側走行ユニット2Bに移行する。
(2−4)第1の走行台車1Aと第2の走行台車1Bがともに傾斜管を通り過ぎた後では、全ての車輪ユニット21の駆動輪22が管内面に押し付けられ、走行駆動に貢献する。
【0018】
つまり、本発明による管内走行装置では、複数の走行台車1を可撓連結体9によって連結し、直管を走行している走行台車1または走行ユニット2だけが駆動台車または駆動走行ユニットとして機能するという簡単な構成で、直線経路のみならず大径管と小径管との移行管であるレジューサ部や曲管部などの経路も良好に走行可能となる。
【0019】
以下、本発明の走行装置の実施の形態を図面に示された具体例に基づいて説明する。この管内走行装置は、第1の走行台車1Aと第2の走行台車1Bとの2台連結構成であり、
図3はその側面図で、
図4はその正面図である。
図5は管内走行装置から取り出した1台の走行台車の斜視図で、
図6は2台連結された走行台車の斜視図である。
第1の走行台車1Aと第2の走行台車1Bは可撓連結体9によって連結されており、可撓連結体9の各走行台車1に隣接する位置にバッテリを内装したバッテリコンテナ70が装着されている。可撓連結体9自体は公知のものであり、自由関節を介して数センチ長さ筒体90を連結することで曲がり易い構造を有する。
【0020】
第1の走行台車1Aと第2の走行台車1Bとは同じ構造と有する。走行台車1の基体部6は、6つの側壁からなる、前後軸心Xaを有する正六角形断面の筒状枠体として形成されており、1つおきの側壁の中央に取り付けられたチャック状芯出し固定具によって前後軸芯Xaに沿ってその内部空間を貫通する可撓連結体9の筒体90を固定している。芯出し固定具61は前後軸心Xa方向にも間隔をあけて複数取り付けられている。
【0021】
基体部6は走行台車1の胴体部として機能するが、走行台車1の手足として機能するのが、基体部6の前後方向の前側に配置された第1の走行ユニット2Aと前側に配置された第2の走行ユニット2Bである。第1の走行ユニット2Aと第2の走行ユニット2Bは基体部6の前後方向中心に対して鏡対称となるように取り付けられており、実質的にその構造は同じである。
【0022】
第1の走行ユニット2Aと第2の走行ユニット2Bは、それぞれ基体部6の外壁面に円周角で120度の等間隔で配置された3つの走行モジュール20からなる。走行モジュール20は、基端部を基体部6の外壁面に固定された平行四点リンク機構30と、平行四点リンク機構30の先端部に固定された車輪ユニット21とを備えている。平行四点リンク機構30の揺動軸心は基体部6の前後軸心Xaの横断方向に延びているので、この平行四点リンク機構30は基体部6の前方向に揺動することで車輪ユニット21の基体部6からの高さを変えている。第1の走行ユニット2Aにおける平行四点リンク機構30の後側揺動リンクと、第2の走行ユニット2Bにおける平行四点リンク機構30の前側揺動リンクとにわたって付勢機構5としての引っ張りばね50が張設されている。この引っ張りばね50により、第1の走行ユニット2Aの平行四点リンク機構30は斜め前方から上方への変位となるように付勢され、第2の走行ユニット2Bの平行四点リンク機構30は斜め後方から上方への変位となるように付勢されている。
【0023】
この実施形態では、
図3、5、6に示すように、第1の走行ユニット2Aにおける3つの走行モジュール20における平行四点リンク機構30の変位を同期する第1の同期機構4Aと、第2の走行ユニット2Bにおける3つの走行モジュール20における平行四点リンク機構30の変位を同期する第2の同期機構4Bが備えられている。第1の同期機構4Aと第2の同期機構4Bとは実質的に同じ構造である。この同期機構4は、途中で枢支ピンによる屈曲点を有する変換リンク41と摺動体42と摺動レール43を含む。
【0024】
摺動レール43は、六角筒である基体部6の1つおきの外壁に前後軸心Xaに沿って外壁の全長にわたって延設されている。摺動体42は摺動レール43を自由に摺動するように形成されている。中折れ式の変換リンク41はその一端が平行四点リンク機構30の揺動リンク(縦リンク)32に枢支連結され、他端が摺動体42に連結されている。同じ摺動体42には隣接する平行四点リンク機構30の揺動リンク32に枢支連結された変換リンク41も連結されている。つまり、隣り合う平行四点リンク機構30の向き合った揺動リンクに枢支連結された変換リンク41が1つの摺動体42に連結されているので、結果的に1つの平行四点リンク機構30の変位が他の2つの平行四点リンク機構30の変位を導く。同様な同期機構4は、第1の走行ユニット2Aと第2の走行ユニット2Bの両方に備えられており、摺動レール43だけが共有されており、1つの摺動レール43に2つの摺動体42が装着されている。
【0025】
平行四点リンク機構30の先端部に固定された車輪ユニット21は、
図7で示されているように、上方に開口したコの字形のハウジング26に駆動輪22と2つの従動輪23とモータ24とギヤ式の減速機25を設けている。駆動輪22は2つの従動輪23に基体部6の前後方向(前後軸心Xaの延び方向)で挟まれるようにかつ、駆動輪22と2つの従動輪23の3つの車輪の共通接線CLが外側に作り出されるように配置されている。ここで、基体部6、車輪ユニット21、駆動輪22、従動輪23における前後方向は、全て同一の方向である。また、この共通接線CLが基体部6の前後軸心Xaと平行になるように組みつけられている。この構成から、直管を走行中は、共通接線CLが実質的に管内面に一致するので、駆動輪22と2つの従動輪23が管内面に接当する。また、平行四点リンク機構30の変位特性から、平行四点リンク機構30が車輪ユニット21を管内面に追従させるため、車輪ユニット21と基体部6との間の径方向の間隔が変化するように変位した場合でも、共通接線CLと前後軸心Xaとの平行関係は維持される。駆動輪22の駆動力が確実に管内面に伝わるように、従動輪23を駆動輪22よりわずかに下げておくことと好都合であり、ここでは、このような位置関係においても、3つの車輪の共通接線CLが前後軸心Xaと平行であるとみなす。バッテリコンテナ70に装備された非図示のコントロールユニットから、給電線91を介して送られる駆動電流に基づいてモータ24が回転すると、その回転力は減速機25を介して駆動輪22に伝達される。
【0026】
車輪ユニット21が曲管部やレジューサ部を通過する際には、どちらかの従動輪23だけが管内面に接当し、他の車輪は管内面から離れ、特に駆動輪22は空転することになる。レジューサ部の走行時に、引っ張りばね50によって管内面に接当している従動輪23に発生する力が
図8に示されている。ここで、レジューサ部の壁面の傾斜角をα、接当している従動輪23における、壁からの垂直抗力をN、この垂直抗力の径方向成分と軸方向成分をそれぞれNrとNl、さらに引っ張りばね50に基づく管軸X0に直交する方向に力を(この力は従動輪23を管内面に押し付ける付勢力である)Fとすると、
F・cosα=N、N・sinα=Nlから
Nl=F・cosα・sinαとなる。
これは走行モジュール20がレジューサ部を通過する際にかかる進行方向と逆向きの力であるので、1つの走行ユニット2の駆動輪22が空転しているような場合では、残りの走行ユニット2による駆動力(推進力)が3・Nlを越えることでレジューサ部を進入することができる。
【0027】
〔別実施形態〕
(1)上記実施形態においては、2台の走行台車1が可撓連結体9で連結された連結構造であったが、3台以上の走行台車1を連結した連結構造であってもよい。
(2)上記実施形態においては、1台の走行台車1には、2つの走行ユニット2が設けられていたが、3つ以上の走行ユニット2を前後方向に並設してもよい。
(3)上記実施形態においては、1つの走行ユニット2には、3つの走行モジュール20が放射状に配置されていたが、4つ以上の走行モジュール20を配置してもよい。
(4)上記実施形態においては、1台の走行台車1の基体部6に設けられた2台の走行ユニット2は、それぞれの走行モジュール20の周方向における取り付け位相が同一であったが、第1の走行ユニット2Aと第2の走行ユニット2Bの走行モジュール20の取り付け位相をずらせてもよい。特に、正面視において、第1の走行ユニット2Aにおける走行モジュール20の間の中央位置に第2の走行ユニット2Bの走行モジュール20が位置するように配置することで、より高い安定走行性が期待できる。
(5)上記実施形態においては、車輪ユニット21には、1つの駆動輪21と2つの従動輪23が備えられていたが、両端に従動輪23を配置すれば、駆動輪21及び追加の従動輪23や駆動輪21の配置は自由である。
(6)バッテリコンテナ70を省略し、バッテリやコントロールユニットを基体部6の内部または外部あるいはその両方に装備してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、直管のみでなく曲管部やレジューサ部が存在する管の内部を走行する管内走行装置に適用可能である。
【符号の説明】
【0029】
1 走行台車
1A 第1の走行台車
1B 第2の走行台車
2 走行ユニット
2A 第1の走行ユニット
2B 第2の走行ユニット
20 走行モジュール
21 車輪ユニット
22 駆動輪
23 従動輪
24 モータ
26 ハウジング
30 変位機構(平行四点リンク機構)
30A 第1変位機構
30B 第2変位機構
4 同期機構(摺動リンク機構)
4A 第1の同期機構
4B 第2の同期機構
41 変換リンク
42 摺動体
43 摺動レール
5 付勢機構
50 引っ張りばね
6 基体部
9 可撓連結体
Xa 前後軸心
X0 管軸
CL 共通接線