(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
建物本体の上下方向に延長するように設けられ、上部開口が建物本体の屋上と連通し、かつ、下部開口が連通路を介して建物本体の下部の回りと連通した構成のボイドを建物本体の内側に備えるとともに、建物本体の屋上より上方に突出するボイド内換気制御構造体を備えた建物であって、
前記ボイド内換気制御構造体は、建物本体の屋上の周囲を取り囲むように屋上の周縁部から上方に立ち上がるように設けられた囲み壁により構成されるか、又は、建物本体の屋上の周囲を取り囲むように屋上の周縁部から上方に立ち上がるように設けられた壁面と当該壁面の上端とボイドの上部開口縁とを繋ぐ傾斜面とを備えて構成され、
囲み壁、又は、壁面は、屋上の各辺縁より平板が垂直に立ち上がるように設けられて互いに隣り合う平板の側端部同士が連結されることで、各平板の上端縁が同一水平面上に位置するように構成され、かつ、囲み壁の高さ、又は、壁面の高さが建物本体の2階層分以上とされたことを特徴とする建物。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ボイド内の換気を良好とするためには、ボイドの下部からボイドの上部に向けて空気がスムーズに流れるようにすることが好ましい。そして、ボイドの下部からボイドの上部に向けて空気がスムーズに流れるようにするためには、ボイド内の上部側がボイド内の下部側よりも風圧係数が小さい状態であること(以下、条件1という)、及び、建物下部の建物回りの空気がボイド内に流れ込みやすいようにボイド内の風圧係数がより小さい状態であること(以下、条件2という)が必要であると考えられる。
しかしながら、後述するように、上記特許文献1に開示された構成の建物の外壁面に風圧が作用した場合にボイド内での圧力分布がどのようになるかを数値シミュレーションで求めた所、上記条件1;条件2に関して満足な結果が得られなかった。
本発明は、上述した従来の建物と比べて上記条件1;条件2に関して良好な結果が得られ、ボイドの下部からボイドの上部に向けて空気がスムーズに流れてボイド内の換気を良好にできる建物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る建物は、建物本体の上下方向に延長するように設けられ、上部開口が建物本体の屋上と連通し、かつ、下部開口が連通路を介して建物本体の下部の回りと連通した構成のボイドを建物本体の内側に備えるとともに、建物本体の屋上より上方に突出するボイド内換気制御構造体を備えた建物であって、前記ボイド内換気制御構造体は、建物本体の屋上の周囲を取り囲むように屋上の周縁部から上方に立ち上がるように設けられた囲み壁により構成されるか、又は、建物本体の屋上の周囲を取り囲むように屋上の周縁部から上方に立ち上がるように設けられた壁面と当該壁面の上端とボイドの上部開口縁とを繋ぐ傾斜面とを備えて構成され
、囲み壁、又は、壁面は、屋上の各辺縁より平板が垂直に立ち上がるように設けられて互いに隣り合う平板の側端部同士が連結されることで、各平板の上端縁が同一水平面上に位置するように構成され、かつ、囲み壁の高さ、又は、壁面の高さが建物本体の2階層分以上とされたので、条件1;条件2に関して良好な結果が得られ、ボイドの下部からボイドの上部に向けて空気がスムーズに流れてボイド内の換気を良好にできる建物が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】建物の斜視図、平面図、垂直断面図、及び建物のボイド内での圧力分布を数値シミュレーションで求めた結果を示す図(実施形態1)。
【
図2】建物の斜視図、平面図、垂直断面図、及び建物のボイド内での圧力分布を数値シミュレーションで求めた結果を示す図(実施形態1)。
【
図3】建物の斜視図、平面図、垂直断面図、及び建物のボイド内での圧力分布を数値シミュレーションで求めた結果を示す図(実施形態1)。
【
図4】建物の斜視図、平面図、垂直断面図、及び建物のボイド内での圧力分布を数値シミュレーションで求めた結果を示す図(実施形態2)。
【
図5】建物の斜視図、平面図、垂直断面図、及び建物のボイド内での圧力分布を数値シミュレーションで求めた結果を示す図(比較例)。
【
図6】特許文献1に開示された建物のボイド内での圧力分布を数値シミュレーションで求めた結果を示す図(従来例)。
【
図7】特許文献1に開示された建物のボイド内での圧力分布を数値シミュレーションで求めた結果を示す図(従来例)。
【発明を実施するための形態】
【0007】
実施形態1
図1に示すように、建物1は、建物本体2と、建物本体2の屋上3より上方に突出するボイド内換気制御構造体4とを備える。
建物本体2は、内側にボイド5を備える。ボイド5は、建物本体2の上下方向に延長し、上端部6が開口し、かつ、下端部7が図外の廊下やダクト等の連通路8を介して建物本体2の下部の回りと連通する構成である。
ボイド内換気制御構造体4は、建物本体2の屋上3の周囲を取り囲むように屋上3の周縁部31から上方に立ち上がるように設けられた囲み壁40により構成される。囲み壁40は、例えば板面が垂直面となるように建物本体2の屋上3に設置された平板により構成される。
例えば、建物本体2における屋上3までの建物形状が正四角柱状である場合、正四角形の屋上3の各辺縁より平板が垂直に立ち上がるように設けられて互いに隣り合う平板の側端部同士が連結されることで、各平板の上端縁が同一水平面上に位置する上部開口縁41を形成する四角筒枠状の囲み壁40が建物本体2の屋上3に構築され、かつ、囲み壁40で囲まれた上部開口の四角柱状の上部開放の柱状空間42が形成される。
図1に示す数値シミュレーションの対象とした建物1は、囲み壁40の高さが建物本体2の3階層分の高さである。尚、1階層は3mとした。
【0008】
図1(a)に示す建物1の建物本体2の外壁面21(下部に連通路8が形成された外壁面)に白抜矢印Aで示した方向(外壁面21と直交する方向)から風が吹き、風圧が建物に作用した場合にボイド5内での圧力分布がどのようになるかを数値シミュレーションで求めた結果を
図1(d)に示す。
尚、
図1及び後述する各
図2乃至
図5において、図(a)は数値シミュレーションの対象とした建物の斜視図、図(b)は数値シミュレーションにおける建物の外壁面に対する風向きを示す平面図、図(c)は数値シミュレーションの対象とした建物の垂直断面図、図(d)は当該建物の外壁面21に風圧が作用した場合にボイド5内での圧力分布を数値シミュレーションで求めた結果を示した図である。図(d)において建物1の最も左側の外壁面が図(a);図(b)の外壁面21に相当する。
図(d)における等圧線Fに付した数字は風圧係数であり、等圧線Fの1間隔は、風圧係数0.05間隔である。風圧係数Cpは、風が吹くことによって建物1の外表面に作用する圧力pを建物頂部高さHにおける速度圧qHで除した値(Cp=p/qH)である。風圧係数は、+の場合は面を押す力を示し、−の場合は面を引く力を示す。尚、数値シミュレーションで求めた結果を示した図である各
図2乃至
図5の図(d)、
図5;
図6においては、できるだけ数値シミュレーション結果のみが明確に図示されるように、
図1(d)と
図4(d)にだけ最小限必要な符号を付した。尚、
図1(d)乃至
図5(d)では、
図1(b)乃至
図5(b)の垂直断面切断位置Pにおける状態を示した。
【0009】
図1からわかるように、建物1によれば、ボイド5内の上部側の風圧係数は−0.70程度であり、ボイド5内の下部側の風圧係数は−0.65程度であるので、ボイド5内の上部側がボイド5内の下部側よりも風圧係数が小さい状態になっており、ボイド5内の上部側がボイド5内の下部側よりも風圧係数が小さい状態であることという条件1を満たす。さらに、ボイド5内の風圧係数は−0.65〜−0.70であり、ボイド5内の風圧係数がより小さい状態であることという条件2を満たす。
【0010】
一方、特許文献1の公開特許公報の
図1に示された建物の外壁面に風圧が作用した場合にボイド内での圧力分布がどのようになるかを数値シミュレーションで求めた結果を
図6に示す。
図6からわかるように、特許文献1の公開特許公報の
図1に示された建物におけるボイド内の上部側の風圧係数及びボイド内の下部側の風圧係数はいずれも−0.60近辺であって、ボイド内の上部側がボイド内の下部側よりも風圧係数が小さい状態であることという上記条件1が満たされておらず、また、ボイド内の風圧係数の状態も後述する本発明の建物と比べて低く(大気圧に近い)、ボイド内の風圧係数がより小さい状態であることという上記条件2についても良好な結果は得られなかった。
【0011】
さらに、特許文献1の公開特許公報の
図2に示された建物の外壁面に風圧が作用した場合にボイド内での圧力分布がどのようになるかを数値シミュレーションで求めた結果を
図7に示す。
図7からわかるように、特許文献1の公開特許公報の
図2に示された建物におけるボイド内の上部側の風圧係数及びボイド内の下部側の風圧係数はいずれも−0.65近辺であって、ボイド内の上部側がボイド5内の下部側よりも風圧係数が小さい状態であることという上記条件1が満たされなかった。
【0012】
以上のように、
図1に示す建物1によれば、特許文献1で開示された建物と比べて上記条件1;条件2に関して良好な結果が得られ、特許文献1で開示された建物と比べて、ボイド5の下部からボイド5の上部に向けて空気がスムーズに流れてボイド5内の換気を良好にできる建物となる。
【0013】
また、囲み壁40の高さを建物本体2の2階層分の高さにした建物1の外壁面21に風圧が作用した場合にボイド5内での圧力分布がどのようになるかを数値シミュレーションで求めた結果を
図2に示す。
図2からわかるように、当該建物1であっても、ボイド5内の上部側の風圧係数は−0.70程度であり、ボイド5内の下部側の風圧係数は−0.65程度であるので、ボイド5内の上部側がボイド5内の下部側よりも風圧係数が小さい状態になっており、ボイド5内の上部側がボイド5内の下部側よりも風圧係数が小さい状態であることという条件1を満たす。さらに、ボイド5内の風圧係数は−0.65〜−0.70であり、ボイド5内の風圧係数がより小さい状態であることという条件2を満たす。即ち、
図2に示す建物1によれば、特許文献1で開示された建物と比べて上記条件1、条件2に関して良好な結果が得られ、特許文献1で開示された建物と比べて、ボイド5の下部からボイド5の上部に向けて空気がスムーズに流れてボイド5内の換気を良好にできる。
【0014】
さらに、囲み壁40の高さを建物本体2の1階層分の高さにした建物1の外壁面21に風圧が作用した場合にボイド5内での圧力分布がどのようになるかを数値シミュレーションで求めた結果を
図3に示す。
図3からわかるように、当該建物1では、ボイド5内の上部側の風圧係数は−0.65程度であり、ボイド5内の下部側の風圧係数は−0.60程度であるので、ボイド5内の上部側がボイド5内の下部側よりも風圧係数が小さい状態になっており、条件1を満たす。さらに、ボイド5内の風圧係数がより小さい状態であることという条件2については、特許文献1の公開特許公報の
図2に示された建物と同等の結果となった。即ち、当該建物1によれば、特許文献1で開示された建物と比べて上記条件1に関して良好な結果が得られ、条件2に関しても特許文献1の公開特許公報の
図2に示された建物と同等な結果が得られたことから、特許文献1で開示された建物と比べて、下部からボイド5の上部に向けて空気がスムーズに流れてボイド5内の換気を良好にできる。
【0015】
図1乃至
図3に示した結果からわかることは、建物本体2の屋上3の周囲を取り囲むように屋上3の周縁部31から上方に立ち上がるように設けられた囲み壁40を備えた建物1においては、囲み壁40高さを建物本体2の2階層分以上とすることで、上記条件1、条件2に関する結果が良好となり、ボイド5の下部からボイド5の上部に向けて空気がスムーズに流れてボイド5内の換気を良好にできる建物1が得られることがわかった。また、囲み壁40の高さが建物本体2の1階層分以下であっても、上記条件1に関する結果が良好となり、ボイド5の下部からボイド5の上部に向けて空気がスムーズに流れてボイド5内の換気を良好にできる建物1が得られることがわかった。
【0016】
実施形態2
図4に示すように、ボイド内換気制御構造体4が、建物本体2の屋上3の周囲を取り囲むように屋上3の周縁部31から上方に立ち上がるように設けられた壁面45と当該壁面45の上端49とボイド5の上部開口縁51とを繋ぐ傾斜面46とを備えた構成の建物1とした。尚、
図4において、実施形態1の
図1乃至
図3と同一部分については同一符号を付してその説明を省略する。
例えば、図に示すように、建物本体2における屋上3までの建物形状が正四角柱状である場合、正四角形の屋上3の各辺縁より平板が垂直に立ち上がるように設けられて互いに隣り合う平板の側端部同士が連結されることで、各平板の上端縁が同一水平面上に位置する上部開口縁47を形成する四角筒枠状の囲み壁48が建物本体2の屋上に構築され、かつ、囲み壁48を構成する各平板の各上端49とボイド5の上部開口縁51の各一辺とがそれぞれ平板により連結されて各傾斜面46が形成されたことにより、ボイド5の上部開口縁51から上方に延長する上部開放の逆四角錐柱状のような逆錐形状空間50が形成された構成である。
図4に示す数値シミュレーションの対象とした建物1は、ボイド内換気制御構造体4の高さが建物本体2の3階層分の高さである。
【0017】
図4(a)に示す建物1のボイド5内での圧力分布がどのようになるかを数値シミュレーションで求めた結果を
図4(d)に示す。
図4からわかるように、建物1によれば、ボイド5内の上部側の風圧係数は−0.70程度であり、ボイド5内の下部側の風圧係数は−0.65程度であるので、上記条件1を満たす。さらに、ボイド5内の風圧係数は−0.65〜−0.70であり、上記条件2を満たす。即ち、建物1によれば、特許文献1で開示された建物と比べて上記条件1、条件2に関する結果が良好となり、特許文献1で開示された建物と比べて、ボイド5の下部からボイド5の上部に向けて空気がスムーズに流れてボイド5内の換気を良好にできる建物1が得られる。
即ち、
図4に示す実施形態2の建物1によれば、
図1に示す実施形態1の建物1と同様にボイド5内の換気を良好にできる建物が得られることがわかった。
【0018】
比較例
尚、
図5(a)に示すように、建物本体2のボイド5の上部開口縁51の各辺縁より平板が垂直に立ち上がるように設けられて互いに隣り合う平板の側端部同士が連結され筒体60が上部開口縁51より連続して立ち上がるように設けられた構成、言い換えれば、ボイド5の上部開口の開口径に対応した筒径を有した筒体60の筒の中心線とボイド5の筒空間の筒の中心線とが同一となるようにボイド5の上部開口縁51の上部に筒体60が設けられて、ボイド5の筒空間と筒体60の筒空間とが連結されて1つの筒空間を形成した構成の建物1について、ボイド5内での圧力分布がどのようになるかを数値シミュレーションで求めた結果を
図5(d)に示す。筒体60の高さは3階層分とした。
図5からわかるように、当該建物によれば、ボイド5内の上部側の風圧係数は−0.60程度、ボイド5内の下部側の風圧係数は−0.60程度となり、ボイド5内の上部側がボイド5内の下部側よりも風圧係数が小さい状態であることという上記条件1を満たさない。さらに、ボイド5内の風圧係数は−0.60〜−0.50であり、上記条件2に関しても良好な結果は得られなかった。即ち、当該構成によれば、上記条件1、条件2を満足せず、ボイド5の下部からボイド5の上部に向けて空気がスムーズに流れてボイド5内の換気を良好にできる建物は得られないということがわかった。
【0019】
実施形態1;2と比較例との結果から、ボイド内換気制御構造体4として、建物本体2のボイド5の上部開口縁51の上方に、屋上3の周縁部31から上方に立ち上がるように設けられた囲み壁40で囲まれた上部開放の柱状空間42、あるいは、建物本体2のボイド5の上部開口縁51の上方に、上方に行くに従ってボイド5の中心線を中心として拡径していく上部開放の逆錐形状空間50を形成するものを備えれば、上記条件1、条件2に関して良好な結果が得られ、ボイド5の下部からボイド5の上部に向けて空気がスムーズに流れてボイド5内の換気を良好にできる建物を得られることがわかった。