特許第5946314号(P5946314)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5946314
(24)【登録日】2016年6月10日
(45)【発行日】2016年7月6日
(54)【発明の名称】ベニヤ単板の脱水方法
(51)【国際特許分類】
   B27K 5/00 20060101AFI20160623BHJP
   B27D 1/00 20060101ALI20160623BHJP
【FI】
   B27K5/00 F
   B27D1/00 N
【請求項の数】2
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-94833(P2012-94833)
(22)【出願日】2012年4月18日
(65)【公開番号】特開2013-220624(P2013-220624A)
(43)【公開日】2013年10月28日
【審査請求日】2015年2月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000155182
【氏名又は名称】株式会社名南製作所
(72)【発明者】
【氏名】野澤 義興
(72)【発明者】
【氏名】坂本 晋一
【審査官】 竹中 靖典
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−048213(JP,A)
【文献】 特開昭57−056203(JP,A)
【文献】 特開2001−277204(JP,A)
【文献】 特開平10−244511(JP,A)
【文献】 特開2004−136596(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B27D 1/00
B27K 3/00−5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベニヤ単板の厚さよりも狭い間隔を隔てて対向し得るように対設して成り、且つ、対の少なくとも片方を駆動回転可能に備えて成る、一対のロールの間に、ベニヤ単板を繊維方向に通して、厚さ方向に圧縮することにより、ベニヤ単板の含有水分を機械的に脱水する脱水方法であって、
前記一対のロールの少なくとも片方を、他方のロールに対して離隔・接近作動可能に備えると共に、該作動可能に備えたロールを、他方のロールに対して、ベニヤ単板の厚さと同等以上の任意間隔を隔てた待機位置と、前記間隔を隔てた作動位置とへ交互に離隔・接近作動させる作動機構を備え、
少なくともベニヤ単板の前端側を、前記一対のロールの間に通す場合については、前記作動可能なロールを、前記待機位置に離隔させておき、ベニヤ単板の最前端から適宜距離だけ離れた部位が前記作動位置を通過する際、作動機構により、前記作動可能なロールを、前記作動位置に接近させ、圧縮を開始することを特徴とするベニヤ単板の脱水方法。
【請求項2】
ベニヤ単板の後端側が、前記一対のロールの間を通過する場合についても、ベニヤ単板の最後端から適宜距離隔てた部位が、前記作動位置を通過する際、作動機構により、作動可能なロールを、他方のロールに対して、少なくともベニヤ単板の厚さと同等以上の任意間隔隔てた待機位置まで離隔させることを特徴とする請求項1記載のベニヤ単板の脱水方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベニヤ単板の脱水方法の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、合板・単板積層材等の製造に使用されるベニヤ単板(以下、単に単板と称す)を乾燥する場合に、比較的厚い単板については、当初から、種々の加熱手段を用いて、単板を加熱乾燥することに主眼を置くと、膨大な加熱用エネルギが必要となり、コスト高となることから、例えば特許文献1・特許文献2等に開示される如く、単板の厚さよりも著しく狭い間隔を隔てて対設すると共に、対の少なくとも片方を駆動回転可能に備えて成る、一対のロールの間に、単板を通して、厚さ方向に圧縮することにより、単板の含有水分を機械的に脱水する技術が多数提案されている。
【0003】
而して、前記一対のロールの具体的な形態の概要について述べる。
先ず、ロールの材質に係る態様としては、双方共に総金属製である態様、或は、一方が総金属製であり、他方が金属製の軸部の外周に適宜厚さのゴムを円筒様に被覆して成る複合体である態様、或は、双方共に金属製の軸部の外周に適宜厚さのゴムを円筒様に被覆して成る複合体である態様等が代表的な例として挙げられる。
また、ロールの周面の形状に係る態様としては、少なくともいずれか片方のロールの周面を、凹凸を全く有しない滑らかな面状として成る態様、或は、少なくともいずれか片方のロールの周面に、適宜形状(楔状・角錐状・断面が三角形のリング状等)の金属製の突起体を、分散状又は軸芯方向の適宜間隔毎に周長方向に連なる複数の列状又は不連続なネジ山状等に配設して成る態様、或は、少なくともいずれか片方の複合体ロールの周面に、単板への圧接に伴うゴムの局部的変形を許容する細溝を、軸芯方向の適宜間隔毎に周長方向に連なる複数の列状に穿設して成る態様等が代表的な例として挙げられる。
更に、ロールの支持方式に係る態様としては、少なくともいずれか片方のロールを、両端部のみに於て回転自在に支持する態様、或は、少なくともいずれか片方のロールの中間部に、周長方向に連なる支持部材用の溝を設けると共に、該支持部材用の溝に中間支持部材を介在させて、両端部と中間部とで支持する態様、或は、本出願人の直近の出願(特願2012−85531号)による最新技術の如く、対のいずれか片方のロールを、複数の小幅ロールに分割すると共に、分割した各小幅ロールを、軸受、支持ピン、支持部材、保持部材等を具備する支持機構を介して、各別に回転可能に、且つ、対の他方側の駆動ロールに対して離隔・接近可能に備え、更に、流体シリンダ等から成る作動機構を用いて、各小幅ロールを、適宜の押圧力を以って、各別に駆動ロールに向けて押圧する態様等が代表的な例として挙げられる。
いずれにせよ、公知の通り、単板は、顕著な組織構造の異方性を有する特異な材料であるから、一対のロールの間に単板を通す際の態様としては、幅方向(繊維方向と直交方向)に通す態様に比べて、繊維方向に通す態様の方が、細胞組織の配列性からして、脱水には適している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3790311号公報
【特許文献2】特許第4859307号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、単板の厚さよりも著しく狭い間隔を隔てて対設した一対のロールの間に、単板を、長さ方向に通す態様によると、単板の前端が、一対のロールの間に挟み込まれ、厚さ方向に圧縮されるのに伴って、単板の前端付近が、異方性に応じて、幅方向に伸びる現象が発生する。
即ち、幅方向の結合強度が極めて軟弱である単板特有の異方性が、伸びの誘因であり、より詳細には、単板の前端が、ロールの軸芯方向に対して略平行な状態で挟み込まれた場合には、主として単板前端側の左右の側部近辺が、幅方向に伸ばされ易く、伸び量は比較的少ない傾向がある。
また、単板の前端が、ロールの軸芯方向に対して幾分斜めの状態で挟み込まれた場合には、先に挟み込まれた側から、後から挟み込まれる側に向かって、伸びが順送りされるので、単板の前端側が全体的に、幅方向に伸ばされ易く、伸び量も比較的多くなる傾向となる。
いずれにしても、斯様に、当初から、単板の前端側に、幅方向に伸びる現象が発生すると、例えば伸びに起因する微細な割れが、単板前端側の左右の側部近辺乃至は単板前端側の全幅に亘って発生したり、或は、例えば単板の厚さ方向の圧縮率が、単板前端側の左右の側部近辺乃至は単板前端側の全幅に亘って減少したりする不具合が誘発されることになる。
しかも、一旦、単板の前端部に、幅方向の伸びが発生すると、発生した伸び自体が、二次的な誘因として加わることにより、前端部に続く部分にも、継続して同様の伸びが発生し易くなるので、微細な割れの発生や、厚さ方向の圧縮率が減少するなどの不具合も、単板の全長に亘って波及的に誘発される結果となる。
【0006】
斯様に単板の全長に亘って微細な割れが発生すると、単板を圧縮して脱水すべき水分が、微細な割れの部分に流れ込み易くなるので、脱水効果が少なからず低減される不都合が生じる。
また後の加熱乾燥工程に於ける乾燥収縮等に起因して、微細な割れが拡大され、単板の品質や歩留りを劣化させる虞が多くなり、また、たとえ微細な割れが発生しなくても、単板の少なくとも一部が幅方向に伸びることによって、単板の厚さ方向の圧縮率が減少すれば、該当する部分の脱水効果が低減する不都合が生じる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記従来技術の問題点を解決すべく開発したものである。
即ち、単板の厚さよりも狭い間隔を隔てて対向し得るように対設して成り、且つ、対の少なくとも片方を駆動回転可能に備えて成る、一対のロールの間に、単板を繊維方向に通して、厚さ方向に圧縮することにより、単板の含有水分を機械的に脱水する脱水方法であって、
前記一対のロールの少なくとも片方を、他方のロールに対して離隔・接近作動可能に備えると共に、該作動可能に備えたロールを、他方のロールに対して、単板の厚さと同等以上の任意間隔を隔てた待機位置と、前記間隔を隔てた作動位置とへ交互に離隔・接近作動させる作動機構を備え、少なくとも単板の前端側を、前記一対のロールの間に通す場合については、前記作動可能なロールを、前記待機位置に離隔させておき、単板の最前端から適宜距離だけ離れた部位が前記作動位置を通過する際、作動機構により、前記作動可能なロールを、前記作動位置に接近させ、圧縮を開始することを特徴とする単板の脱水方法を基本構成として提案する。
【発明の効果】
【0008】
前記請求項1に係る脱水方法によれば、単板の最前端から圧縮開始部位に至るまでの範囲にあっては、一対のロールによる圧縮がされないので、幅方向に伸びる現象が発生せず、単板前端部のいずれの箇所に於ても、伸びに起因する微細な割れや、厚さ方向の圧縮率が減少するなどの問題が、解消されることになる。
そして、単板の最前端から圧縮開始部位までの伸びの発生が抑止されれば、その直後に、前記部位に後続する部分への一対のロールによる圧縮が開始されても、圧縮に起因する新たな伸びの発生と併せて、発生した伸び自体を二次的な誘因とする新たな伸びの発生が、抑止乃至は大幅に抑制される。
そのため、微細な割れの発生や、厚さ方向の圧縮率が減少するなどの問題が、単板の概ね全長に亘って、解消乃至は大幅に削減されることになり、当然ながら、脱水効果が低減される不都合や、微細な割れの拡大に伴う、単板の品質や歩留りの劣化などの不都合も、解消乃至は大幅に削減されることになる。
【0009】
因に、述上の如き脱水方法によると、単板前端部については、所望通りの脱水処理が行われないので、単板前端部の含水率が、他の部分の含水率よりも多いことになる。
しかし、単板の端部(特に繊維方向の端部)は、加熱方式に拘わりなく、加熱に伴って発生する蒸気の主要な通路の出口に該当することや、熱風加熱式の場合には、受熱面積が多いことなどによって、最も早く乾燥される。
そのため乾燥前の含水率が、他の部分の含水率より高くても、他の部分に比べて、乾燥が遅れることが無い。
また、含水率が比較的低い単板でも、単板前端部の初期乾燥を、他の部分の初期乾燥よりも遅らせることによって、最終的に、単板後端部を除いた残りの全体が概ね均等な乾燥状態となることもあるので、単板前端部の含水率を、意図的に、他の部分の含水率よりも多く残すことも有効である。
更には、単板前端部を含む単板の四周近辺は、最終製品に仕上げられる工程に於て、全部又は大部分が切除されることになる部位でもあるので、少々の乾燥状態の差異は支障とならないなど、いずれにしても、乾燥後に、問題とならない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施に用いる脱水装置の概略側面説明図である。
図2】本発明に係る脱水方法の実施例の側面工程説明図である。
図3】本発明に係る脱水方法の実施例の側面工程説明図である。
図4】本発明の実施に用いる脱水装置の変更例の概略側面説明図である。
図5】本発明の実施に用いる脱水装置の更に別の変更例の概略側面説明図である。
図6】本発明に係る脱水方法の異なる実施例の側面工程説明図である。
図7】本発明に係る脱水方法の異なる実施例の側面工程説明図である。
図8】本発明に係る脱水方法の異なる実施例の側面工程説明図である。
図9】本発明に係る脱水方法の更に別の実施例の側面工程説明図である。
図10】本発明に係る脱水方法の更に別の実施例の側面工程説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を図面に例示した実施の一例と共に更に詳述する。
本発明の実施に用いる脱水装置を構成する各機器類を作動させる作動機構、及び該作動機構の作動を制御する制御機構につては、格別特殊な構成は必要ないので、制御系統(制御回路)を含めて、図示を省略した。
【実施例】
【0012】
図1は、本発明の実施に用いる脱水装置の概略側面説明図であり、図2及び図3は、本発明に係る脱水方法の実施例の側面工程説明図である。
図中、1は、金属製の軸部1aの外周に適宜厚さのゴム1bを円筒様に固着して成る下部ロールであって、ベアリング等の軸受を内蔵した軸受箱2を介して、機台等に固定されている。
下部ロール1は、減速機付電動機等の駆動源(図示省略)を介して、常時(若しくは随時)、図示矢印方向に回転駆動され、後述する上部ロール3と協働して、単板5を、長さ方向(繊維方向と同方向)へ送る過程に於て、単板5を厚さ方向に圧縮し、単板5に含有される水分を、該単板5の表裏面、及び単板内部の空隙を介して後端面に搾り出す。
尚、必要に応じては、図示は省略したが、前記ゴムの部分に於ける軸芯方向の適宜間隔毎に、適宜深さと適宜幅とを有して周長方向に連なる環状の細溝を穿設し、該複数の列状の細溝によって、単板への圧接に伴うゴムの局部的変形を、容易に許容する機能を付加しても差支えない。
【0013】
3は、総金属製の上部ロールであって、ベアリング等の軸受を内蔵し、且つ、ガイド部4aを付設した軸受箱4を介して、上下方向に昇降し得るよう、フレーム6に嵌装されている。
この上部ロール3は、後述する作動機構8の作動により、適時、実線で示した待機位置と点線で示した作動位置との間を交互に昇降される。
待機位置に於ては、単板5を全く圧縮することなく、また、作動位置まで下降した際には、前記下部ロール1と協働して、上記のように単板5に含有される水分を搾り出す。
尚、必要に応じては、図示は省略したが、上部ロールの周面に、適宜形状(楔状・角錐状・断面が三角形のリング状等)の金属製の突起体を、分散状又は軸芯方向の適宜間隔毎に周長方向に連なる複数の列状又は不連続なネジ山状等に配設し、単板への圧接に伴う、前記突起体の突入によって、単板の幅方向への圧縮機能(局部的な圧縮機能)をも併有させ、脱水作用の助長を図っても差支えない。
【0014】
8は、前記軸受箱4を介して上部ロール3に間接的に連結した、流体シリンダ等から成る作動機構であって、フレーム6に固定されている。
作動機構8は、所望時に、前記軸受箱4を介して、上部ロール3を、図示矢印方向へ交互に昇降させる。
上部ロール3を、待機位置から作動位置へ下降させる場合には、上部ロール3と前記下部ロール1の間隔が、単板の厚さTよりも狭い間隔G1となるように、フレーム6にストッパ7を備えて規制する。
また、上部ロール3を、作動位置から待機位置へ上昇させる場合には、上部ロール3と前記下部ロール1の間隔が、単板の厚さTと同等以上の任意間隔Gと成るように、作動機構8の工程長さを調整する。
【0015】
尚、前記間隔G1の大きさは、脱水機能に大きく影響する因子である。
所要の脱水作用を得るためには、前記間隔G1の大きさを、単板の厚さTの70%以下でなければ、十分な脱水作用とならない。
単板の厚さTの60%以下とするのが実用的であり、単板の厚さTの50%以下なら脱水作用が一段と促進されることが、本発明の開発過程に於ける実験でも確認された。
本実施例でもこのような数値を採用するが、実験に基づいて定めるのが望ましい。
一方、前記任意間隔Gは、単板の厚さTと同等乃至単板の厚さTよりも極く僅か(例えば2mm以下程度、或は、例えば上部ロールの周面に突起体を配設した場合には、突起体が単板に浅く刺さって、上部ローが従動回転する程度)だけ広くするのが実用的である。
9、9aは、前記一対の下部ロール1及び上部ロール3の入口側と出口側とに夫々配設した単板ガイドであって、単板5が、安定的に下部ロール1と上部ロール3の対向間隔内を通過し得るように案内する。
【0016】
本発明に係る脱水方法は、以上のような脱水装置を用いて実施することが可能である。
単板5を通す前には、作動機構8の作動により、予め上部ロール3を、図1に於て実線で示した待機位置に待機させておく。
そして、単板5を通し始め、単板5の最前端から適宜距離(図3に於て、符号Lで示した距離)隔てた部位(以下、圧縮開始部位と言う)が、作動位置を通過するまで、図2に示すように、上部ロール3を、待機位置に待機させたままにする。
次いで、前記圧縮開始部位が作動位置を通過する際、図3に示すように、作動機構8の作動により、上部ロール3を作動位置へ下降させる。
以後は、単板5の最後端が通過するまで、上部ロール3の作動位置への下降状態を維持して、単板5を所望通りに圧縮することにより、脱水処理を施す。
更に、単板5の最後端が通過したら、再び作動機構8の作動により、上部ロール3を図1に於て実線で示した待機位置へ上昇させる。
【0017】
以下、同様の動作の繰り返しによって、次々と単板5を通して脱水処理を施すことができる。
このような脱水方法によれば、単板5の最前端から圧縮開始部位に至るまでの範囲では、前記下部ロール1と上部ロール3とによる圧縮が行われない。
そのため、前記範囲では単板5が幅方向に伸びる現象が発生せず、伸びに起因する微細な割れや、厚さ方向の圧縮率が減少するなどの問題が解消される。
そして前記範囲で伸びの発生が無ければ、単板5の圧縮開始部位以降が、前下部ロール1と上部ロール3とにより圧縮されても、圧縮による伸びを二次的な誘因とする新たな伸びの発生が、抑止乃至は大幅に抑制される。
そのため微細な割れの発生や、厚さ方向の圧縮率が減少するなど問題が、単板5の概ね全長に亘って、大幅に削減され、当然ながら、脱水効果が低減される不都合や、割れの拡大に伴う、単板5の品質や歩留りの低下などの不都合も、大幅に削減されることになる。
【0018】
因に、図3に符号Lで示した、前記範囲の値には、単板の性状や、一対のロールの形態等に対応させるべく、実験に基づいて定めるのが望ましいが、一応の目安としては、1mm〜15mm程度が適当であり、3mm〜10mm程度がより好ましい。
仮に、単板の前端が、一対のロールの軸芯方向に対して幾分斜めの状態で挟み込まれる可能性がある場合には、通過が遅れた側の最前端からの距離を、前記値に合わせるのが好ましい。
【0019】
而して、述上の如く、単板5の最前端から圧縮開始部位を所要位置まで通した後に、上部ロール3を作動位置へ下降させ、前記各ロール1・3による単板5への圧縮を施し始めるという、一連の動作を適確に実施する為の、より具体的な手段の一例を説明する。
図示は省略したが、入口側の単板ガイド9の上面に、単板5を所要位置まで通した場合に於ける、単板5の最後端の位置を示す目印(例えば単板の幅方向に伸びる直線)を描いておくと共に、該目印と単板5の最後端とが一致する位置まで、人手によって、脱水装置に単板5を通した後に、例えばフットスイッチ等の起動スイッチを押して、前記作動機構8を作動させ、上部ロール3を作動位置へ下降させる手段が挙げられる。
また必要に応じては、脱水装置に単板前端部を通す期間に限って、下部ロール1の駆動を停止させ、上部ロール3の下降に併せて、再起動する構成を採っても差支えなく、更に、後述する如く、一連の動作を自動的に行う構成を採ることも可能である。
【0020】
即ち、例えば図4に示すように、前記各ロール1・3の前位に、少なくともいずれか片方を、前記下部ロール1の駆動速度と同速度にて駆動回転可能とした、一対の補助送りロール10・10aと、1個〜2個の単板検知器11(1個の場合は、単板の幅方向の中央部、2個の場合は、単板の幅方向の両端部近辺に配設するのが適当である)とを夫々配設する。
前記単板検知器11によって、単板5の最前端(2個の単板検知器を配設した場合には、通過が遅れた側の最前端が望ましい)の通過を検知すると共に、前記補助送りロール10・10aの駆動速度に対応させて、単板5の最前端が所要位置まで到達するに足る遅延時間だけ遅らせた後に、前記作動機構8を作動させ、上部ロール3を作動位置へ下降させる手段を採れば、一連の動作を自動的に行うことができる。
【0021】
また、一対のロールによる圧縮に伴う、単板前端部に於ける幅方向の伸びの発生を、安定的に予防するには、前記図2図3に例示した実施例の如く、単板の最前端から圧縮開始部位に至るまでの範囲の圧縮を、完全に休止するのが有効であるが、後述する如く、単板前端部に於ける圧縮を完全には休止せず、圧縮を暫時軽減させるようにしても、相応に有効である。
【0022】
即ち、図5に示すように、図4に示した脱水装置に於ける実線で示した待機位置に代えて、下部ロール1と上部ロール3との間隔が、先記所望間隔G1よりは広く、且つ、単板の厚さTよりは若干狭い所定間隔G2となる位置に、上部ロール3の上昇限度位置が定まるよう、別のストッパ13を作動機構8に付設して、脱水装置を構成する。
尚、前記所定間隔G2は、単板前端部の幅方向への伸びの発生抑止に直接関与する間隔であるから、単板の厚さTより若干狭ければ差支えなく、実験によれば、単板の厚さTの85%以下であると、単板前端部の幅方向への伸びが発生し易くなる傾向があるので、85%を下回るのは不適切であり、単板の厚さTの90%以上とするのが実用的である。
【0023】
而して、前記図5に示した脱水装置に、単板5を通す際には、作動機構8の作動により、予め上部ロール3を、図5に於て実線で示した上昇限度位置に待機させておき、図6に示すように、単板5の最前端が、下部ロール1と上部ロール3に挟み込まれる時点から、軽度の圧縮を開始させる。
そして、図7に示すように、上部ロール3を、単板5の最前端から前記圧縮開始部位に相当する位置(図8に於て、符号L1で示した距離)が通過するまで、前記上昇限度位置に待機させたままにする。
前記相当する位置まで単板5を通したら、図8に示すように、作動機構8の作動により、上部ロール3を、作動位置へ下降させて圧縮を強化し、その後は、単板5の最後端が通過するまで、上部ロール3の作動位置への下降状態を維持して、単板5を所望通りに圧縮する。
このことにより脱水処理を施し、更に、単板5の最後端が通過したら、再び作動機構8の作動により、上部ロール3を図5に於て実線で示した上昇限度位置へ上昇させる。
以下、同様の動作の繰り返しによって、次々と単板5を通して脱水処理を施すことができる。
【0024】
以上のような脱水方法によると、単板5の最前端から圧縮開始部位に至るまでの範囲では、下部ロール1と上部ロール3による軽度の圧縮が施されることになるが、単板前端部に幅方向への伸びは発生しにくくなる。
また当然ながら、一対のロールによる圧縮が開始された後の、単板前端部に後続する部分についても、伸びが発生し難くなるので、単板の概ね全長に亘る、微細な割れの発生予防や、脱水効果の低減予防等には、相応に効果的である。
【0025】
また、図8に於て符号L1で示した、単板前端部への圧縮を軽減する距離の推奨値については、単板の性状や、一対のロールの形態、或は、前記所定間隔G2の採用値等に対応させるべく、実験に基づいて定めるのが望ましい。
一応の目安としては、3mm〜15mm程度が適当であり、仮に、単板の前端が、一対のロールの軸芯方向に対して幾分斜めの状態で挟み込まれる可能性がある場合には、通過が遅れた側の最前端からの距離を、3mm以上とすれば差支えない。
また、本発明に係る脱水方法よれば、先端部に節が在る単板のように、一対のロールに、先端部が送り込み難い単板であっても、常に確実な送り込みが行い得る。
【0026】
また、前記いずれかの脱水方法を実施するに際しては、図4を用いて説明したような装置は有効である。
しかし用い得る脱水装置としては、図示は省略したが、単板の最後端の位置を検出する単板検出器を、前記単板検知器(11)に代えて、先記入口側の単板ガイド(9)の上方などに備え、該単板検出器によって、単板の最後端の通過を検出して、作動機構を作動させ、上部ロールを作動位置へ下降させる構成であっても、述上の如き脱水方法を極めて容易に実施することができる。
【0027】
また一方、先記図4図5に示した脱水装置と同様に、一対の補助送りロールと、1個〜2個の単板検知器とを夫々配設して成る脱水装置を用いれば、後述する如く、単板の後端側に於ける幅方向への伸びの発生を抑止して、伸びに起因する割れの発生を防止する脱水方法を極めて容易に実施することができるので至便である。
【0028】
即ち、例えば図9に示すように、図4に示した脱水装置と同様に、一対の補助送りロール10・10aと、1個〜2個の単板検知器11とを夫々配設し、更に、少なくともいずれか片方を、下部ロール1の駆動速度と同速度にて駆動回転可能とした、一対の補助送りロール12・12aを、必要に応じて、付加的に配設して、脱水装置を構成する。
【0029】
而して、図9示すように構成した脱水装置に、単板5を通して、先記いずれかの脱水方法を実施することにより、単板5に脱水処理を施す工程中に、単板検知器11によって、単板5の最後端の通過を検知する。
前記最後端から適宜距離L2隔てた部位が、上下一対の下部ロール1と上部ロール3とによって圧接される時期に至ったら、図10に示すように、作動機構8の作動により、上部ロール3を待機位置(又は上昇限度位置)へ上昇させる。
このことにより、最後端から適宜距離L2隔てた部位から、最後端に至るまでの、単板後端部については、上下一対の下部ロール1と上部ロール3とによる圧縮を休止、或は、軽減させる脱水方法を、実施することができる。
尚、上下一対の下部ロール1と上部ロール3とによる圧縮を休止する構成を採る場合であって、而も、補助送りロール12・12aを、付加的に配設しない場合には、下部ロール1と上部ロール3とによる圧縮を休止した後に、人手によって、単板5を引き出すようにすれば足りる。
【0030】
既述した如く、従来方法に於ても、単板の前端側にあっては、一対のロールによる圧縮に伴って、幅方向の伸びが発生する際に、未だ圧縮されていない後続する単板の部分が、伸びの発生を抑制する作用を成すので、仮に、割れが発生しても微細である。
また、後端側に於ては、伸びの発生を抑制する後続部分が無くなるので、発生する割れの長さや広がりが大きくなる傾向があり、後の加熱乾燥工程に於て、割れが拡大する確率や、人手による取扱いによって、割れが拡大する確率が高くなり、単板の品質や歩留りに悪影響を及ぼす虞が多い。
しかし、上記脱水方法によれば、最後端から圧縮開始部位から、最後端に至るまでの、単板後端部については、圧縮を休止、或は、軽減するので、幅方向の伸びの発生が抑止又は大幅に抑制され、幅方向の伸びに起因する割れの発生も抑止されるので、一段と有効である。
【0031】
因に、述上の如き脱水方法によると、単板後端部についても、所望通りの脱水処理が行われないので、単板後端部の含水率が、単板前端部を除いた他の部分の含水率よりも多いことになるが、種々の要因からして、最終的に、乾燥後に於て、実用的に支障となるほどの乾燥状態の差異が生じる虞のないことは、既述した通りである。
【0032】
また、後端側に於ける軽度の圧縮の実施は、それ以前の所望通りの圧縮によって、単板の表裏面及び単板内部の空隙(仮道管等)に搾り出した水分を、単板の最後端まで押し出し続ける作用を成すので、それ以前に搾り出した水分の水切り効果が、大いに期待でき、圧縮を休止させる場合に比べて好ましい。
しかし仮に、後端側の圧縮を休止させる場合であっても、先記任意間隔(G)を、単板の厚さ(T)と同等に設定しておけば、単板の表裏面に搾り出した水分については、多少なりとも水切り効果が期待できるので有益である。
【0033】
尚、図9に於て符号L2で示した、単板後端部への圧縮を休止、或は、軽減する距離の推奨値については、単板の性状や、一対のロールの形態、前記所定間隔(G2)の具体値等に対応させるべく、実験に基づいて定めるのが望ましい。
一応の目安としては、既述した、単板前端部への圧縮を休止、或は、軽減する距離の推奨値と、同等以上の距離とするのが適当であり、単板前端部に於ける推奨値よりも若干長くするのも一策である。
【0034】
勿論、述上の如き脱水方法の実施に用い得る脱水装置としては、図9に示した構成の脱水装置に限るものではない。
即ち、図示は省略したが、例えば最後端から圧縮開始部位以降の単板後端部への、上下一対のロールによる圧接を休止、或は、軽減するべき時期に至った際の、単板の最前端の位置を検出する単板検出器を、先記出口側の単板ガイド(9a)の上方などに別途に備え、該単板検出器によって、単板の最前端の到来を検出して、作動機構を作動させ、上部ロールを待機位置(又は上昇限度位置)へ上昇させる構成であっても、述上の如き脱水方法を極めて容易に実施することができる。
【0035】
而して、前記いずれの脱水方法の実施に用いるにせよ、脱水装置を構成する一対のロールの離隔・接近態様ついては、図示した実施例の如く、片方のロールのみを、他方のロールに対して離隔・接近させ得る構成を採れば足りる。
また必要に応じては、図示は省略したが、双方のロールを、他方のロールに対して離隔・接近させ得る構成を採っても差支えない。
該構成を採る場合には、双方のロールを一緒に作動させる作動態様の外に、例えば各ロール毎に作動距離を異ならせるように設定し、前端側に於ては、作動距離を多く設定した一方のロールのみを作動させることによって、圧縮を完全に休止させ、また、後端側に於ては、作動距離を少なく設定した他方のロールのみを作動させることによって、圧縮を暫時軽減させるような作動態様も、簡便に実施可能である。
【0036】
また、脱水装置を構成する一対のロールの形態については、格別な制約はなく、既述した材質に係る態様、周面の形状に係る態様、支持方式に係る態様等を含めて、従来公知の種々の形態を採用して差支えない。
先記本出願人の出願(特願2012−85531号)に係る最新技術の如く、対のいずれか片方のロールを、複数の小幅ロールに分割すると共に、分割した各小幅ロールを、軸受、支持ピン、支持部材、保持部材等を具備する支持機構を介して、各別に回転可能に、且つ、対の他方側の駆動ロールに対して離隔・接近可能に備え、更に、流体シリンダ等から成る作動機構を用いて、各小幅ロールを、適宜の押圧力を以って、各別に駆動ロールに向けて押圧する支持態様も、当然に採用可能である。
【0037】
また、図示実施例に於ては、流体シリンダを用いて、作動機構を構成しており、当該流体シリンダは、構造が比較的単純であって、操作性も比較的良いので至便ではあるが、作動機構を構成する機器としては、流体シリンダに限るものではなく、図示は省略したが、例えば各種のカム機構、リンク機構等々、従来公知の種々の作動要素(機器)を用いて、作動機構を構成して差支えない。
【0038】
次に、必要に応じて、本発明に係る脱水方法の実施に用い得る脱水装置に付加的に配設し得る構成の形態について若干言及する。
図示は省略したが、例えば主として各ロールの溝部分に対応する単板の表裏面に搾り出された水分を、圧縮空気の噴射によって、単板の搬出側から搬入側へ吹き飛ばす、ノズル状の噴射部材を、単板の搬出側に配設して成る噴射機構を併設する形態、或は、例えば単板の表裏面に搾り出された水分を吸引する、角漏斗状の吸引部材を、単板の搬入側に配設して成る吸引機構を併設する形態、前記噴射機構と吸引機構とを併設する形態等が代表的な例として挙げられるが、要は、本発明に係る脱水方法の実施に支障のない構成であれば、必要に応じて、種々の構成を付加的に配設して差支えない。
【産業上の利用可能性】
【0039】
以上明らかな如く、本発明は、従来の脱水処理方法の問題点であった、単板の幅方向への伸びの発生を抑制し、伸びの発生に起因する割れの発生予防や、脱水効果の低減予防等に貢献する技術であって、単板の含有水分を機械的に脱水する脱水方法の実用化の促進に極めて有効であり、省エネルギが渇望されている今日に於て、斯界に於ける実施効果は著大である。
【符号の説明】
【0040】
1 :下部ロール
2、4 :軸受箱
3 :上部ロール
5 :単板
6 :フレーム
7、13 :ストッパ
8 :作動機構
9、9a :単板ガイド
10、10a、12、12a :補助送りロール
11 :単板検知器
G :単板の厚さと同等以上の任意間隔
G1 :単板の厚さよりも著しく狭い所望間隔
G2 :単板の厚さよりは若干狭い所定間隔
L :単板前端部への圧縮が休止される距離
L1 :単板前端部への圧縮を軽減させる距離
L2 :単板後端部への圧縮を休止、或は、軽減する距離
T :単板の厚さ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10