特許第5946351号(P5946351)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5946351
(24)【登録日】2016年6月10日
(45)【発行日】2016年7月6日
(54)【発明の名称】電動負圧ポンプ搭載車
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/40 20060101AFI20160623BHJP
   B60T 8/17 20060101ALI20160623BHJP
   B60T 13/565 20060101ALI20160623BHJP
   B60T 13/567 20060101ALI20160623BHJP
   B60T 17/02 20060101ALI20160623BHJP
【FI】
   B60T8/40 B
   B60T8/17 C
   B60T13/565
   B60T13/567
   B60T17/02
【請求項の数】1
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-165676(P2012-165676)
(22)【出願日】2012年7月26日
(65)【公開番号】特開2014-24433(P2014-24433A)
(43)【公開日】2014年2月6日
【審査請求日】2015年5月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129643
【弁理士】
【氏名又は名称】皆川 祐一
(72)【発明者】
【氏名】坂東 正樹
【審査官】 中尾 麗
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−027875(JP,A)
【文献】 特開2012−101773(JP,A)
【文献】 特開平03−270602(JP,A)
【文献】 特開2012−001195(JP,A)
【文献】 実開平01−098769(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12− 8/96
B60T 13/00−13/74
B60T 17/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキペダルと、
マスタシリンダと、
前記マスタシリンダが発生する油圧により、車輪に摩擦制動力を付与する摩擦ブレーキと、
ブレーキブースタと、
前記ブレーキブースタに供給される負圧を発生する電動負圧ポンプと、
前記ブレーキブースタの負圧室内の負圧を検出する負圧検出手段と、
前記負圧検出手段によって検出される負圧がオン閾値以下に低下したことに応答して、前記電動負圧ポンプを駆動し、前記負圧検出手段によって検出される負圧がオフ閾値以上に上昇したことに応答して、前記電動負圧ポンプを停止させるポンプ制御手段と、
前記車輪の回転を電力に回生し、前記車輪に付与される回生制動力を発生する発電機と、
前記ブレーキペダルの操作を検出するブレーキ操作検出手段と、
前記ブレーキ操作検出手段によって前記ブレーキペダルの操作が検出されたことに応答して、前記発電機による回生動作を開始させる回生制御手段と、
前記発電機が回生する電力によって充電される二次電池と、
前記二次電池の充電率を検出する充電率検出手段と、
前記充電率検出手段によって検出される充電率が所定の第1充電率以下であるときに、前記オン閾値および前記オフ閾値をそれぞれ第1オン負圧値および第1オフ負圧値に設定し、前記充電率検出手段によって検出される充電率が前記第1充電率よりも大きな所定の第2充電率以上であるときに、前記オン閾値および前記オフ閾値をそれぞれ前記第1オン負圧値よりも大きな第2オン負圧値および前記第1オフ負圧値よりも大きな第2オフ負圧値に設定する閾値設定手段とを含み、
前記ブレーキブースタは、前記ブレーキペダルと連動し、前記マスタシリンダを押圧するプッシュロッドと、前記負圧室内の負圧が前記第1オン負圧値以下であるときに、前記プッシュロッドと前記マスタシリンダとの間隔が相対的に大きくなり、前記負圧室内の負圧が前記第2オン負圧値以上であるときに、前記プッシュロッドと前記マスタシリンダとの間隔が相対的に小さくなるように変形するシェルとを備える、電動負圧ポンプ搭載車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動負圧ポンプを搭載した車両に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車やハイブリッドカーなどの車両では、制動時に、走行用モータが発電機として機能することにより、運動エネルギが電気エネルギに変換されて回収される。このとき、走行用モータが抵抗となり、その抵抗が制動力として車輪に付与される(回生制動)。
【0003】
この回生制動は、油圧ブレーキによる制動(摩擦制動)と併用される。摩擦制動では、油圧ブレーキから車輪に摩擦制動力が付与され、このとき、車両の運動エネルギが熱エネルギ(摩擦熱)に変換されることによって消費される。そのため、車両の制動時には、運動エネルギの一部が電気エネルギとして回収されるに過ぎず、運動エネルギの大部分は、熱エネルギに変換されて無駄に消費されている。
【0004】
エネルギ回収効率の向上を図るための種々の提案がなされている。たとえば、ブレーキペダルと連動するプッシュロッドのストローク量が所定の無効ストローク量を超えるまでは、油圧ブレーキによる油圧制動力を発生させず、回生制動力のみを発生させることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−55588号公報
【特許文献2】特開2003−284202号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
走行用モータで発生する電気エネルギ(電力)は、バッテリで吸収(バッテリに充電)しなければならない。ところが、バッテリが満充電状態になると、バッテリによる回生エネルギーの吸収が不可能となる。この場合、走行用モータによる回生を制限せざるを得ず、回生制動力を車輪に付与することができない。そのため、無効ストローク量を大きく設定することができず、前述の構成では、エネルギ回収効率の向上の効果が小さい。
【0007】
本発明の目的は、エネルギ回収効率の向上を図ることができる、電動負圧ポンプ搭載車を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するため、本発明に係る電動負圧ポンプ搭載車は、ブレーキペダルと、マスタシリンダと、前記マスタシリンダが発生する油圧により、車輪に摩擦制動力を付与する摩擦ブレーキと、ブレーキブースタと、前記ブレーキブースタに供給される負圧を発生する電動負圧ポンプと、前記ブレーキブースタの負圧室内の負圧を検出する負圧検出手段と、前記負圧検出手段によって検出される負圧がオン閾値以下に低下したことに応答して、前記電動負圧ポンプを駆動し、前記負圧検出手段によって検出される負圧がオフ閾値以上に上昇したことに応答して、前記電動負圧ポンプを停止させるポンプ制御手段と、前記車輪の回転を電力に回生し、前記車輪に付与される回生制動力を発生する発電機と、前記ブレーキペダルの操作を検出するブレーキ操作検出手段と、前記ブレーキ操作検出手段によって前記ブレーキペダルの操作が検出されたことに応答して、前記発電機による回生動作を開始させる回生制御手段と、前記発電機が回生する電力によって充電される二次電池と、前記二次電池の充電率を検出する充電率検出手段と、前記充電率検出手段によって検出される充電率が所定の第1充電率以下であるときに、前記オン閾値および前記オフ閾値をそれぞれ第1オン負圧値および第1オフ負圧値に設定し、前記充電率検出手段によって検出される充電率が前記第1充電率よりも大きな所定の第2充電率以上であるときに、前記オン閾値および前記オフ閾値をそれぞれ前記第1オン負圧値よりも大きな第2オン負圧値および前記第1オフ負圧値よりも大きな第2オフ負圧値に設定する閾値設定手段とを含む。そして、前記ブレーキブースタは、前記ブレーキペダルと連動し、前記マスタシリンダを押圧するプッシュロッドと、前記負圧室内の負圧が前記第1オン負圧値以下であるときに、前記プッシュロッドと前記マスタシリンダとの間隔が相対的に大きくなり、前記負圧室内の負圧が前記第2オン負圧値以上であるときに、前記プッシュロッドと前記マスタシリンダとの間隔が相対的に小さくなるように変形するシェルとを備える。
【0009】
この構成によれば、ブレーキペダルが操作されると、ブレーキブースタのプッシュロッドがブレーキペダルと連動し、プッシュロッドでマスタシリンダが押圧されて、マスタシリンダが油圧を発生する。このマスタシリンダが発生する油圧により、摩擦ブレーキから車輪に摩擦制動力が付与される。
【0010】
負圧検出手段により、ブレーキブースタの負圧室内の負圧が検出される。負圧室内の負圧がオン閾値以下に低下すると、電動負圧ポンプが駆動され、負圧室内の負圧がオフ閾値以上に上昇すると、電動負圧ポンプが停止される。電動負圧ポンプの駆動により、負圧が発生し、その負圧がブレーキブースタの負圧室に供給される。
【0011】
また、ブレーキペダルが操作されると、ブレーキ操作検出手段により、そのブレーキペダルの操作が検出される。これに応答して、発電機による回生動作が開始され、車輪の回転が電力に回生されるとともに、車輪に回生制動力が付与される。発電機が回生する電力は、二次電池に充電される。
【0012】
充電率検出手段により、二次電池の充電率が検出される。二次電池の充電率が所定の第1充電率以下であるときには、オン閾値およびオフ閾値がそれぞれ第1オン負圧値および第1オフ負圧値に設定される。二次電池の充電率が第1充電率よりも大きな第2充電率以上であるときには、オン閾値およびオフ閾値がそれぞれ第1オン負圧値よりも大きな第2オン負圧値および第1オフ負圧値よりも大きな第2オフ負圧値に設定される。
【0013】
そのため、二次電池の充電率が相対的に小さく、回生可能な電力量(回生可能量)が多い状況下では、電動負圧ポンプの駆動が抑制されて、発電機による電力の回生が確保される。一方、二次電池の充電率が相対的に大きく、回生可能量が少ない状況下では、ブレーキブースタの負圧室内の負圧が大きな値に維持されて、摩擦ブレーキから車輪に十分な摩擦制動力が付与される。
【0014】
また、ブレーキブースタのシェルは、負圧室内の負圧が第1オン負圧値であるときに、プッシュロッドとマスタシリンダとの間隔が相対的に大きくなり、負圧室内の負圧が第2オン負圧値であるときに、プッシュロッドとマスタシリンダとの間隔が相対的に小さくなるように変形する。
【0015】
そのため、二次電池の充電率が相対的に小さく、回生可能量が多い状況下では、ブレーキペダルが操作されてないときのプッシュロッドの位置からプッシュロッドがマスタシリンダに当接するまでのプッシュロッドのストローク量である無効ストローク量を大きく確保することができる。これにより、ブレーキペダルの操作開始からプッシュロッドのストローク量が無効ストローク量に達するまでの比較的長い時間、発電機で電力を回生することができ、それに伴って、車輪に回生制動力を付与することができる。一方、二次電池の充電率が相対的に大きく、回生可能量が少ない状況下では、無効ストローク量が小さいので、ブレーキペダルの操作開始から比較的短い時間で、車輪に摩擦制動力を付与することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、回生可能量が多い状況下では、電動負圧ポンプの駆動を抑制することができ、発電機による電力の回生を積極的に行わせることができる。よって、エネルギ回収効率の向上を図ることができる。一方、回生可能量が少ない状況下では、ブレーキペダルの操作に応答して、十分な摩擦制動力を車輪に速やかに付与することができ、良好な制動性能を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る電動負圧ポンプ搭載車の要部の構成を図解的に示す図である。
図2図2は、モータジェネレータによる電力の回生の開始タイミングを規定するフローチャートである。
図3図3は、電動負圧ポンプの駆動制御の流れを示すフローチャートである。
図4図4は、オン閾値およびオフ閾値の設定例を示すグラフである。
図5A図5Aは、ブレーキブースタの図解的な断面図であり、プッシュロッドの先端部とマスタシリンダのピストンとの間隔が相対的に小さい状態を示す。
図5B図5Bは、ブレーキブースタの図解的な断面図であり、プッシュロッドの先端部とマスタシリンダのピストンとの間隔が相対的に大きい状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下では、本発明の実施の形態について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0019】
<車両の構成>
【0020】
図1は、本発明の一実施形態に係る電動負圧ポンプ搭載車の要部の構成を図解的に示す図である。
【0021】
電動負圧ポンプ搭載車1は、モータジェネレータ2を走行用駆動源とする電気自動車である。電動負圧ポンプ搭載車1には、前輪3FL,3FRおよび後輪3RL,3RRが備えられている。
【0022】
また、電動負圧ポンプ搭載車1は、後輪駆動車である。左右の後輪3RL,3RRには、それぞれディファレンシャルギヤ4から左右に延びるドライブシャフト5RL,5RRが連結されている。モータジェネレータ2の出力軸は、変速機などを介して、ディファレンシャルギヤ4に連結されている。
【0023】
電動負圧ポンプ搭載車1の加速時には、モータジェネレータ2がモータとして機能する。モータジェネレータ2が発生する駆動力は、変速機およびディファレンシャルギヤ4を介して、ドライブシャフト5RL,5RRに伝達される。これにより、ドライブシャフト5RL,5RRが回転し、ドライブシャフト5RL,5RRとともに、後輪3RL,3RRが回転する。
【0024】
電動負圧ポンプ搭載車1の制動時には、モータジェネレータ2が発電機として機能する。ドライブシャフト5RL,5RRの回転がモータジェネレータ2の出力軸に伝達され、モータジェネレータ2の出力軸の回転が電力に回生される。このとき、モータジェネレータ2が抵抗となり、その抵抗が後輪3RL,3RRに回生制動力として付与される。
【0025】
モータジェネレータ2には、インバータ(INV)6が接続されている。
【0026】
インバータ6には、モータジェネレータ2に供給される電力を蓄えておくための二次電池7が接続されている。
【0027】
モータジェネレータ2の駆動時には、二次電池7が出力する直流電力がインバータ6に供給される。そして、その直流電力がインバータ6で交流電力に変換され、その変換後の交流電力がインバータ6からモータジェネレータ2に供給される。一方、モータジェネレータ2の発電時には、モータジェネレータ2が出力する交流電力がインバータ6で直流電力に変換され、その変換後の直流電力により、二次電池7が充電される。
【0028】
左右の前輪3FL,3FRおよび左右の後輪3RL,3RRには、それぞれ摩擦ブレーキ8FL,8FR,8RL,8RRが設けられている。摩擦ブレーキ8FL,8FR,8RL,8RRを作動させるために、電動負圧ポンプ搭載車1には、マスタシリンダ9、ブレーキブースタ10、電動負圧ポンプ11およびABSアクチュエータ12が設けられている。
【0029】
電動負圧ポンプ搭載車1の車室内の運転席の前方には、運転者の足で操作されるブレーキペダル13が設けられている。ブレーキペダル13が操作されると(踏まれると)、ブレーキペダル13に入力された踏力がブレーキブースタ10の負圧33(図5A参照)内の負圧によって増幅され、その増幅された力がマスタシリンダ9に入力される。ブレーキブースタ10の負圧室33内の負圧は、電動負圧ポンプ11から供給される。マスタシリンダ9では、ブレーキブースタ10から入力される力に応じた油圧が発生する。マスタシリンダ9の油圧は、ABSアクチュエータ12などを介して、各摩擦ブレーキ8FL,8FR,8RL,8RRに設けられたホイールシリンダに伝達される。そして、ホイールシリンダの液圧により、摩擦ブレーキ8FL,8FR,8RL,8RRからそれぞれ前輪3FL,3FRおよび後輪3RL,3RRに摩擦制動力が付与される。
【0030】
電動負圧ポンプ搭載車1には、CPUおよびメモリを含む構成のECU(電子制御ユニット)21が備えられている。
【0031】
ECU21には、ストップランプスイッチ(STPSW)22が接続されている。ブレーキペダル13が踏まれている間、ストップランプスイッチ22がオンになり、ブレーキペダル13から足が放されると、ストップランプスイッチ22がオフになる。ストップランプスイッチ22がオンになっている間、電動負圧ポンプ搭載車1の後部に配置されたストップランプ(ブレーキランプ)が点灯される。
【0032】
また、ECU21には、電動負圧ポンプ搭載車1に設けられた各種センサが接続されている。各種センサには、ブレーキブースタ10の負圧室33内の負圧を検出するブレーキ負圧センサ23と、二次電池7に入出力される電流を検出する電流センサ24とが含まれる。
【0033】
ECU21は、ストップランプスイッチ22および各種センサから入力される検出信号などに基づいて、モータジェネレータ2および電動負圧ポンプ11を制御する。
【0034】
<回生制御>
【0035】
図2は、モータジェネレータによる電力の回生の開始タイミングを規定するフローチャートである。
【0036】
電動負圧ポンプ搭載車1の走行中は、ECU21により、ストップランプスイッチ22がオンになっているか否かが繰り返し調べられる(ステップS1)。
【0037】
ブレーキペダル13が踏まれて、ストップランプスイッチ22がオンになると(ステップS1のYES)、インバータ6が制御されて、モータジェネレータ2による電力の回生が開始される(ステップS2)。
【0038】
電力の回生が開始されると、モータジェネレータ2が抵抗となり、その抵抗が後輪3RL,3RRに回生制動力として付与される。
【0039】
一方、前述したように、ブレーキペダル13が踏まれると、摩擦ブレーキ8FL,8FR,8RL,8RRからそれぞれ前輪3FL,3FRおよび後輪3RL,3RRに摩擦制動力が付与される。
【0040】
よって、電動負圧ポンプ搭載車1では、ブレーキペダル13が踏まれると、回生制動力による回生制動と摩擦制動力による摩擦制動とが機能する。
【0041】
<電動負圧ポンプの駆動制御>
【0042】
図3は、電動負圧ポンプの駆動制御の流れを示すフローチャートである。
【0043】
電動負圧ポンプ搭載車1のスタートスイッチ(イグニッションキースイッチ)がオンされている間、ECU21により、ブレーキ負圧センサ23の検出信号が参照されて、ブレーキブースタ10の負圧が常に監視されている。
【0044】
そして、ブレーキ負圧センサ23によって検出される負圧(たとえば、真空を0とする絶対圧)の絶対値がオン閾値以下であるか否かが判断される(ステップS11)。
【0045】
ブレーキ負圧センサ23によって検出される負圧の絶対値がオン閾値よりも大きい間は(ステップS11のNO)、電動負圧ポンプ11が駆動されずに停止している。
【0046】
ブレーキペダル13が踏まれ、ブレーキブースタ10の負圧がその踏力の増幅に使われると、ブレーキブースタ10の負圧が低下する(真空度が下がる)。ブレーキ負圧センサ23によって検出される負圧の絶対値がオン閾値に低下すると(ステップS11のYES)、電動負圧ポンプ11が駆動される(ステップS12)。
【0047】
電動負圧ポンプ11が駆動されると、電動負圧ポンプ11で発生した負圧がブレーキブースタ10に伝達され、ブレーキブースタ10の負圧が上昇する(真空度が上がる)。ブレーキブースタ10の負圧の絶対値がオフ閾値に達すると(ステップS13のYES)、電動負圧ポンプ11の駆動が停止される(ステップS14)。
【0048】
<オン閾値およびオフ閾値の設定>
【0049】
図4は、オン閾値およびオフ閾値の設定例を示すグラフである。
【0050】
オン閾値およびオフ閾値は、二次電池7が空の状態を0とする二次電池7の充電率であるSOC(State Of Charge)に応じて設定される。SOCは、ECU21により、電流センサ24から入力される検出信号に基づいて演算される。
【0051】
SOCが第1充電率S1以下であるときには、オン閾値およびオフ閾値がそれぞれ第1オン負圧値P1ONおよび第1オフ負圧値P1OFFに設定される。
【0052】
SOCが第1充電率S1よりも大きい第2充電率S2以上であるときには、オン閾値およびオフ閾値がそれぞれ第2オン負圧値P2ONおよび第2オフ負圧値P2OFFに設定される。
【0053】
SOCが第1充電率S1よりも大きく、第2充電率S2よりも小さい範囲では、オン閾値は、第1オン負圧値P1ONよりも大きく、第2オン負圧値P2ONよりも小さい範囲で、SOCが大きいほど大きな値に設定される。また、オフ閾値は、第1オフ負圧値P1OFFよりも大きく、第2オフ負圧値P2OFFよりも小さい範囲で、SOCが大きいほど大きな値に設定される。
【0054】
<ブレーキブースタの構成>
【0055】
図5Aおよび図5Bは、ブレーキブースタの図解的な断面図である。
【0056】
ブレーキブースタ10は、ペダル側シェル31およびシリンダ側シェル32を備えている。ペダル側シェル31およびシリンダ側シェル32は、互いに結合されており、それらの間に負圧室33を提供する。また、ブレーキブースタ10は、ブレーキペダル13に連動して、ペダル側シェル31とシリンダ側シェル32との対向方向に移動するプッシュロッド34を備えている。
【0057】
マスタシリンダ9は、ブレーキブースタ10のシリンダ側シェル32に結合されている。マスタシリンダ9のピストン35の一端部は、負圧室33内に突出し、プッシュロッド34の中心軸線上に配置されている。
【0058】
ブレーキペダル13が踏まれると、ブレーキペダル13に連動して、プッシュロッド34がマスタシリンダ9側に移動する。プッシュロッド34の先端部がマスタシリンダ9のピストン35に当接した後、プッシュロッド34がマスタシリンダ9側にさらに移動すると、プッシュロッド34によってピストン35が押され、マスタシリンダ9で油圧が発生する。
【0059】
シリンダ側シェル32は、負圧室33内の負圧によって変形する。具体的には、シリンダ側シェル32は、負圧室33内の負圧が第2オン負圧値P2ON以上であるときには、図5Aに示されるように、ブレーキペダル13が踏まれていないときのプッシュロッド34の先端部とマスタシリンダ9のピストン35との間隔が相対的に小さくなり、負圧室33内の負圧が第1オン負圧値P1ON以下であるときには、図5Bに示されるように、ブレーキペダル13が踏まれていないときのプッシュロッド34の先端部とマスタシリンダ9のピストン35との間隔が相対的に大きくなるように変形する。
【0060】
これにより、負圧室33内の負圧が第1オン負圧値P1ON以下であるときには、ブレーキペダル13の踏み始めからプッシュロッド34の先端部がマスタシリンダ9のピストン35に当接するまでのプッシュロッド34のストローク量である無効ストローク量が大きく確保される。
【0061】
なお、負圧室33内の負圧に応じたシリンダ側シェル32の変形は、たとえば、シリンダ側シェル32の剛性を下げることで実現できる。具体的には、従来のブレーキブースタの構成では、シリンダ側シェルが変形をほぼ生じないような厚さ(板厚)に形成されているのに対し、ブレーキブースタ10では、シリンダ側シェル32の板厚がその厚さよりも小さくされることにより、負圧室33内の負圧に応じて、シリンダ側シェル32に前述の変形を生じさせることができる。また、マスタシリンダ9とシリンダ側シェル32との結合部分の近傍において、シリンダ側シェル32に形成される補強のためのリブや凹凸の数を削減することにより、負圧室33内の負圧に応じて、シリンダ側シェル32に前述の変形を生じさせることができる。
【0062】
<作用効果>
【0063】
以上のように、ブレーキペダル13が操作されると、ブレーキブースタ10のプッシュロッド34がブレーキペダル13と連動し、プッシュロッド34でマスタシリンダ9が押圧されて、マスタシリンダ9が油圧を発生する。このマスタシリンダ9が発生する油圧により、摩擦ブレーキ8FL,8FR,8RL,8RRからそれぞれ前輪3FL,3FRおよび後輪3RL,3RRに摩擦制動力が付与される。
【0064】
ブレーキ負圧センサ23により、ブレーキブースタ10の負圧室33内の負圧が検出される。負圧室33内の負圧がオン閾値以下に低下すると、電動負圧ポンプ11が駆動され、負圧室33内の負圧がオフ閾値以上に上昇すると、電動負圧ポンプ11が停止される。電動負圧ポンプ11の駆動により、負圧が発生し、その負圧がブレーキブースタ10の負圧室33に供給される。
【0065】
また、ブレーキペダル13が操作されると、ストップランプスイッチ22がオンになる。これに応答して、モータジェネレータ2による回生動作が開始され、車輪の回転が電力に回生されるとともに、車輪に回生制動力が付与される。モータジェネレータ2が回生する電力は、二次電池7に充電される。
【0066】
ECU21により、二次電池7の充電率であるSOCが検出される。二次電池7のSOCが所定の第1充電率S1以下であるときには、オン閾値およびオフ閾値がそれぞれ第1オン負圧値P1ONおよび第1オフ負圧値P1OFFに設定される。二次電池7のSOCが第1充電率S1よりも大きな第2充電率S2以上であるときには、オン閾値およびオフ閾値がそれぞれ第1オン負圧値P1ONよりも大きな第2オン負圧値P2ONおよび第1オフ負圧値P1OFFよりも大きな第2オフ負圧値P2OFFに設定される。
【0067】
そのため、二次電池7のSOCが相対的に小さく、回生可能な電力量(回生可能量)が多い状況下では、電動負圧ポンプ11の駆動が抑制されて、モータジェネレータ2による電力の回生が確保される。一方、二次電池7のSOCが相対的に大きく、回生可能量が少ない状況下では、ブレーキブースタ10の負圧室33内の負圧が大きな値に維持されて、摩擦ブレーキ8FL,8FR,8RL,8RRからそれぞれ前輪3FL,3FRおよび後輪3RL,3RRに十分な摩擦制動力が付与される。
【0068】
また、ブレーキブースタ10のシリンダ側シェル32は、負圧室33内の負圧が第1オン負圧値P1ONであるときに、プッシュロッド34とマスタシリンダ9との間隔が相対的に大きくなり、負圧室33内の負圧が第2オン負圧値P2ONであるときに、プッシュロッド34とマスタシリンダ9との間隔が相対的に小さくなるように変形する。
【0069】
そのため、二次電池7のSOCが相対的に小さく、回生可能量が多い状況下では、ブレーキペダル13が操作されてないときのプッシュロッド34の位置からプッシュロッド34がマスタシリンダ9に当接するまでのプッシュロッド34のストローク量である無効ストローク量を大きく確保することができる。これにより、ブレーキペダル13の操作開始からプッシュロッド34のストローク量が無効ストローク量に達するまでの比較的長い時間、モータジェネレータ2で電力を回生することができ、それに伴って、後輪3RL,3RRに回生制動力を付与することができる。一方、二次電池7のSOCが相対的に大きく、回生可能量が少ない状況下では、無効ストローク量が小さいので、ブレーキペダル13の操作開始から比較的短い時間で、前輪3FL,3FRおよび後輪3RL,3RRに摩擦制動力を付与することができる。
【0070】
よって、回生可能量が多い状況下では、電動負圧ポンプ11の駆動を抑制することができ、モータジェネレータ2による電力の回生を積極的に行わせることができる。よって、エネルギ回収効率の向上を図ることができる。一方、回生可能量が少ない状況下では、ブレーキペダル13の操作に応答して、十分な摩擦制動力を前輪3FL,3FRおよび後輪3RL,3RRに速やかに付与することができ、良好な制動性能を発揮することができる。
【0071】
<変形例>
【0072】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、他の形態で実施することもできる。
【0073】
たとえば、第2充電率S2は、第1充電率S1よりも大きいとしたが、第1充電率S1と同値であってもよい。この場合、SOCが第1充電率S1以下であるときには、オン閾値およびオフ閾値がそれぞれ第1オン負圧値P1ONおよび第1オフ負圧値P1OFFに設定され、SOCが第1充電率S1(=第2充電率S2)よりも大きいときには、オン閾値およびオフ閾値がそれぞれ第2オン負圧値P2ONおよび第2オフ負圧値P2OFFに設定される。
【0074】
また、モータジェネレータ2の走行用駆動力が後輪3RL,3RRに伝達される構成、つまり後輪3RL,3RRを駆動輪とする後輪駆動車の構成を取り上げたが、電動負圧ポンプ搭載車1は、前輪3FL,3FRを駆動輪とする前輪駆動車であってもよい。
【0075】
また、電動負圧ポンプ搭載車1が電気自動車である場合を取り上げたが、本発明に係るブレーキシステムは、電気自動車に限らず、電動負圧ポンプを備える車両であれば、たとえば、エンジンおよびモータまたは電動発電機を走行用駆動源として搭載するハイブリッドカーに搭載することもできる。
【0076】
その他、前述の構成には、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0077】
1 電動負圧ポンプ搭載車
2 モータジェネレータ(発電機)
3FL 前輪(車輪)
3FR 前輪(車輪)
3RL 後輪(車輪)
3RR 後輪(車輪)
7 二次電池
8FL 摩擦ブレーキ
8FR 摩擦ブレーキ
8RL 摩擦ブレーキ
8RR 摩擦ブレーキ
9 マスタシリンダ
10 ブレーキブースタ
11 電動負圧ポンプ
13 ブレーキペダル
21 ECU(ポンプ制御手段、回生制御手段、充電率検出手段、閾値設定手段)
22 ストップランプスイッチ(ブレーキ操作検出手段)
23 ブレーキ負圧センサ(負圧検出手段)
32 シリンダ側シェル(シェル)
33 負圧室
34 プッシュロッド
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B