(54)【発明の名称】水系におけるシリカ系スケールの防止方法及びスケール防止剤、並びにシリカ系スケールを抑制するとともに金属の腐食を抑制する水処理方法及び水処理剤
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記の分子量が200〜800のポリエチレングリコール及び/又は分子量が200〜800のポリエチレングリコールモノメチルエーテルと、水溶性亜鉛化合物に加えて、スルホン酸基含有ポリマーを添加することを特徴とする請求項5記載の水処理方法。
前記の分子量が200〜800のポリエチレングリコール及び/又は分子量が200〜800のポリエチレングリコールモノメチルエーテルと、水溶性亜鉛化合物に加えて、スルホン酸基含有ポリマーを含有することを特徴とする請求項7記載の水処理剤。
【背景技術】
【0002】
冷却水系、ボイラ水系、地熱発電水系などにおける水と接触する伝熱面や配管内は、スケール障害が発生し易い。特に、開放循環式冷却水系では、省資源、省エネルギーの観点から、冷却水の廃棄量(ブロー量)を制限して高濃縮運転を行う場合があり、水中に溶解している塩類が濃縮されて難溶性の塩を形成しスケール化する。スケールは、熱交換器や配管において熱効率の低下、閉塞など装置の運転に重大な障害を引き起こすことから、その対策が重要視されている。
【0003】
生成するスケール種としては、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、亜硫酸カルシウム、リン酸カルシウム、水酸化マグネシウム、リン酸亜鉛、水酸化亜鉛等が挙げられる。これらの一般的なスケールに対しては、アクリル酸やマレイン酸系の水溶性ポリマーやヒドロキシエチリデンジホスホン酸、ホスホノブタントリカルボン酸等の有機ホスホン酸等を水系に添加することによって問題を解決することが可能であり、これらのスケール防止剤が広く一般的に使用されている。
【0004】
しかしながら、近年の冷却水の高濃縮化に伴ってシリカ系スケールが問題となってきている。シリカ系スケールには、無定形シリカとケイ酸塩スケールが含まれる。ここで無定形シリカとは、シリカ単独でその溶解度を超えたときに析出する非晶質のシリカスケールである。またケイ酸塩スケールとは、水中に含まれるシリカがカルシウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン等の金属イオンと結合し、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウム等の難溶性ケイ酸塩スケールとなり、場合によってはさらにこれらケイ酸塩類と無定形シリカ、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム等の難溶性無機化合物との複合物となり、金属表面等に付着したスケール状物をいう。一般的にシリカは溶解度が低く、冷却水系でシリカ濃度が100〜150mg/L程度でもスケール化する性質を持っており、冷却水中のシリカ濃度により濃縮度の上限を設定しているのが現状である。
【0005】
また、水中にアルミニウムや鉄や亜鉛が存在するとシリカの沈殿を促進することが知られており、このような冷却水系ではシリカ濃度を更に低く、かつ精密に管理する必要がある。シリカ系スケールは、その性質上一旦生成するとその洗浄除去が非常に困難であるため、スケールの生成を事前に抑えることが重要である。
【0006】
シリカ系スケールに対するスケール防止剤としていくつかの提案があるが、どのスケール防止剤も効果が十分ではない。例えば、アクリルアミド系重合体とアクリル酸系重合体を含むスケール防止剤(特許文献1参照)は、シリカ濃度が低い場合にはある程度の効果を示すが、シリカ濃度が150mg/Lを超えるようなシリカ濃度が高い水系に対しては効果が十分でない。また、4級アンモニウム塩を使用する方法(特許文献2参照)、ポリエチレンイミンにアルキレンオキサイドを付加して得られる高分子非イオン活性剤を使用する方法(特許文献3参照)は、水質条件によっては共存イオンの影響を受けて抑制剤自身が配管や熱交の壁面に析出、沈着する傾向があり、実用上問題がある。
【0007】
また、一般的な非イオン性界面活性剤である、ポリアルキレングリコールのアルキル(炭素数12〜18)もしくはアルケニル(炭素数12〜18)エーテルまたはエステルを含むシリカスケール防止剤(特許文献4参照)や、分子量1000〜100000のポリエチレングリコールとホスホン酸および/または分子量100000以下のカルボン酸ポリマーを含有するスケール防止剤(特許文献5参照)は、シリカの沈殿が促進される、上記のアルミニウムや鉄や亜鉛を含む厳しい条件の水系においては、十分なスケール抑制効果を示さなかった。
【0008】
一方、冷却水系では、スケールの問題とともに水と接触する金属の腐食も重要な問題であり、一般に炭素鋼に対する腐食抑制剤として亜鉛塩が非常に有効であることが知られているが、循環水中のシリカ濃度が100〜150mg/Lを超えるようなシリカ濃度が高い水系では、亜鉛塩がシリカ系スケールの析出を促進するため、このような水系では腐食抑制に十分な量の亜鉛塩を添加することができず、そのため該水系においても十分な腐食抑制効果が得られる水処理方法及び水処理剤が求められている。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明が対象とする水系は、冷却水系、ボイラ水系、地熱発電水系等のシリカ濃度の高い水系、特に、シリカ濃度が高く、水中にシリカの沈殿を促進するアルミニウム、鉄、亜鉛等を含んでいる厳しい条件の水系である。これらの水中に含まれるアルミニウム、鉄、亜鉛等の金属には、イオン状、及び水酸化物や酸化物からなる水中に懸濁しているコロイド状の金属が含まれる。
【0023】
アルミニウムは、一般に補給水中や循環水中の縣濁成分を除去するための凝集剤として添加されており、未反応のアルミニウムが補給水中や循環水中に残留すると、水系におけるシリカ系スケールを促進する。ここでアルミニウムを含む凝集剤は、一般に塩化アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、アルミン酸ナトリウム、電解アルミニウムなどの形態で使用されている。鉄は、補給水中に微量ながら含まれるが、主に水と接触する鉄系材質の腐食反応により水系で生成したものである。亜鉛は、水と接触する亜鉛を含む材質の腐食反応により生成したもの、腐食抑制剤として添加したもの、亜鉛の犠牲陽極から溶出したものが含まれる。
【0024】
本発明におけるシリカ系スケールとは、一般に水中のシリカが単独で無定形シリカとして析出する一般的なシリカスケールと、水中のシリカと多価金属イオンが反応して多価金属のケイ酸塩として析出するケイ酸塩スケールを含む。ここでケイ酸塩とは、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸鉄、ケイ酸亜鉛など、あらゆる種類の多価金属のケイ酸塩を含む。
【0025】
本発明で使用されるポリエチレングリコール及びポリエチレングリコールモノメチルエーテルは、分子量が200〜800の範囲であるが、より好ましくは300〜500の範囲である。分子量が200〜800であるポリエチレングリコール及び/又は分子量が200〜800であるポリエチレングリコールモノメチルエーテルの有効量を対象水系に添加することができれば、その他に分子量が200未満や800を超えるポリエチレングリコールやポリエチレングリコールモノメチルエーテルを含む混合物であっても本発明に用いることができる。ここで分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)、逆相クロマトグラフィー、飛行時間型質量分析法等の公知の方法により測定される。
【0026】
本発明のポリエチレングリコール及びポリエチレングリコールモノメチルエーテルは、一般に市販されているもので本発明の分子量に該当するものがそのまま使用できる。
【0027】
本発明のポリエチレングリコール及び/又はポリエチレングリコールモノメチルエーテルの水系における合計の添加濃度は、通常1.5〜500mg/Lの範囲であるが、好ましくは2〜50mg/Lの範囲である。1.5mg/L未満の添加量では、シリカ系スケールの付着防止効果が十分でなく、500mg/L以上の添加ではこれ以上のスケール効果の向上が見込めず経済的でなく、さらには排水中のCODが高くなる。
【0028】
本発明のポリエチレングリコール及び/又はポリエチレングリコールモノメチルエーテルは対象水系の撹拌の良い個所に添加する。その添加方法は、水系水中の有効濃度が確保されれば、間欠添加でも連続添加でも良いが、薬注ポンプを用いた連続添加であれば、水中の濃度の変動が小さくなるため安定したスケール防止効果が得られ、また、経済的にも有利であるので好ましい。薬注ポンプの能力に合わせて、本発明のポリエチレングリコール及び/又はポリエチレングリコールモノメチルエーテルを水等の適切な溶媒で希釈して使用することも可能である。
【0029】
本発明で使用されるスルホン酸基含有ポリマーは、モノエチレン性不飽和スルホン酸単量体を重合したポリマーであるが、好ましくはモノエチレン性不飽和スルホン酸単量体とモノエチレン性不飽和カルボン酸単量体の共重合体、あるいはモノエチレン性不飽和スルホン酸単量体とモノエチレン性不飽和カルボン酸単量体と他の共重合可能なモノエチレン性不飽和単量体との共重合体である。
【0030】
モノエチレン性不飽和スルホン酸として、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、3−アリロキシ−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸、ブタジエンスルホン酸やイソプレンスルホン酸等の共役ジエンスルホン化物、スチレンスルホン酸、スルホアルキル(メタ)アクリレートエステル、スルホアルキル(メタ)アリルエーテル、スルホフェノ(メタ)アリルエーテル、(メタ)アリルスルホン酸などがあげられ、その1種または2種以上が用いられる。
【0031】
モノエチレン性不飽和カルボン酸として、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水イタコン酸などの1種以上が用いられる。
【0032】
他の共重合可能なモノエチレン性不飽和単量体として、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシルアルキルエステルなどの(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリルアミド、N−アルキル置換(メタ)アクリルアミドなどの(メタ)アクリルアミド;エチレン、プロピレン、イソプロピレン、ブチレン、イソブチレン、ヘキセン、2−エチルヘキセン、ペンテン、イソペンテン、オクテン、イソオクテンなどの炭素数2〜8のオレフィン;ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテルなどのビニルアルキルエーテル;マレイン酸アルキルエステルなどがあげられ、その1種または2種以上が用いられる。
【0033】
本発明で使用されるスルホン酸基含有ポリマーは、より好ましくは2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸と(メタ)アクリル酸の共重合体、3−アリロキシ−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸と(メタ)アクリル酸の共重合体、及び共役ジエンスルホン化物と(メタ)アクリル酸の共重合体である。ここで共役ジエンスルホン化物は、ブタジエン、イソプレン、シクロオクタンジエン、シクロペンタンジエン等のスルホン化物があげられる。
【0034】
スルホン酸基含有ポリマーの分子量は、重量平均分子量として1,000〜100,000が好ましいが、より好ましくは4,000〜20,000である。
【0035】
本発明で使用されるスルホン酸基含有ポリマーの添加濃度は、通常は水系に対して1〜100mg/Lの濃度になるように添加されるが、好ましくは2〜30mg/Lである。
【0036】
本発明で使用されるスルホン酸基含有ポリマーは対象水系の撹拌の良い個所に添加する。その添加方法は、水系水中の有効濃度が確保されれば、間欠添加でも連続添加でも良いが、薬注ポンプを用いた連続添加であれば、水中の濃度の変動が小さくなるため安定したスケール防止効果が得られ、また、経済的にも有利であるので好ましい。薬注ポンプの能力に合わせて、スルホン酸基含有ポリマーを水等の適切な溶媒で希釈して使用することも可能である。
【0037】
本発明で使用されるスルホン酸基含有ポリマーは、本発明のポリエチレングリコール及び/又はポリエチレングリコールモノメチルエーテルと併用するが、2つの成分をそれぞれ別個に添加してもよく、また、2つの成分を含む組成物であるスケール防止剤として添加しても良い。
【0038】
ポリエチレングリコール及び/又はポリエチレングリコールモノメチルエーテルとスルホン酸基含有ポリマーと併用する場合の、添加比率は(ポリエチレングリコール及び/又はポリエチレングリコールモノメチルエーテル):(スルホン酸基含有ポリマー)の重量比として通常は90:10〜10:90であるが、好ましくは80:20〜20:80の範囲である。
【0039】
本発明で使用される水溶性亜鉛化合物は、水に溶解して亜鉛イオンを放出するものであれば何でも良いが、塩化亜鉛、硫酸亜鉛、硝酸亜鉛、ホスホン酸亜鉛、リン酸亜鉛、スルファミン酸亜鉛、及び臭化亜鉛などが挙げられる。
【0040】
本発明で使用される水溶性亜鉛化合物の添加濃度は、通常は水系に対して亜鉛イオン濃度として1〜5mg/Lの濃度になるように添加される。
【0041】
本発明で使用される水溶性亜鉛化合物は、通常は水で溶解した水溶液として対象水系の撹拌の良い個所に添加する。その添加方法は、水系水中の有効濃度が確保されれば、間欠添加でも連続添加でも良いが、薬注ポンプを用いた連続添加であれば、水中の濃度の変動が小さくなるため安定した腐食抑制効果が得られ、また、経済的にも有利であるので好ましい。薬注ポンプの能力に合わせて、水溶性亜鉛化合物の水溶液を適宜希釈して使用することも可能である。
【0042】
本発明で使用される水溶性亜鉛化合物は、本発明のポリエチレングリコール及び/又はポリエチレングリコールモノメチルエーテルと併用し、更にスルホン酸基含有ポリマーを併用する場合もあるが、これら2つの成分、又は3つの成分をそれぞれ別個に添加してもよく、また、2つの成分、又は3つの成分を含む組成物である水処理剤として添加しても良い。
【0043】
本発明のスケール防止剤の第一の形態は、分子量が200〜800のポリエチレングリコール及び/又は分子量が200〜800のポリエチレングリコールモノメチルエーテルを含有し、その調製方法は、通常、撹拌下に、水等の適切な親水性溶媒に該ポリエチレングリコール及び/又はポリエチレングリコールモノメチルエーテルを加えて均一溶液を得る。添加順序が逆でも構わない。また、水溶液とする場合、該ポリエチレングリコール及び/又はポリエチレングリコールモノメチルエーテルは任意の割合で水と混合するので、適用個所の状況に合わせて適切な配合を選択できる。
【0044】
本発明のスケール防止剤の第二の形態は、分子量が200〜800のポリエチレングリコール及び/又は分子量が200〜800のポリエチレングリコールモノメチルエーテルに加えて、スルホン酸基含有ポリマーを含有する。その調製方法は、通常、撹拌下に、水等の適切な親水性溶媒に該ポリエチレングリコール及び/又はポリエチレングリコールモノメチルエーテルとスルホン酸基含有ポリマーを加えて均一溶液を得る。ポリエチレングリコール及び/又はポリエチレングリコールモノメチルエーテルとスルホン酸基含有ポリマーの添加順序は特に指定は無い。
【0045】
本発明のスケール防止剤における、前記ポリエチレングリコール及び/又はポリエチレングリコールモノメチルエーテルと前記スルホン酸基含有ポリマーの配合比は(ポリエチレングリコール及び/又はポリエチレングリコールモノメチルエーテル):(スルホン酸基含有ポリマー)の重量比として通常は90:10〜10:90であるが、好ましくは80:20〜20:80の範囲である。
【0046】
本発明の水処理剤の第一の形態は、分子量が200〜800のポリエチレングリコール及び/又は分子量が200〜800のポリエチレングリコールモノメチルエーテルと水溶性亜鉛化合物を含有し、その調製方法は、通常、撹拌下に、水に水溶性亜鉛化合物を溶解し、次いで、該ポリエチレングリコール及び/又はポリエチレングリコールモノメチルエーテルを加え、更に適当な酸(例えば硫酸)で水処理剤のpHを2以下とした均一溶液を得る。
【0047】
本発明の水処理剤における、前記ポリエチレングリコール及び/又はポリエチレングリコールモノメチルエーテルと前記水溶性亜鉛化合物の配合比は(ポリエチレングリコール及び/又はポリエチレングリコールモノメチルエーテル):(水溶性亜鉛化合物)の重量比として通常は50:50〜98:2の範囲である。
【0048】
本発明の
水処理剤の第二の形態は、分子量が200〜800のポリエチレングリコール及び/又は分子量が200〜800のポリエチレングリコールモノメチルエーテルと水溶性亜鉛化合物に加えて、スルホン酸基含有ポリマーを含有する。その調製方法は、通常、撹拌下に、水に水溶性亜鉛化合物を溶解し、次いで、該ポリエチレングリコール及び/又はポリエチレングリコールモノメチルエーテルとスルホン酸基含有ポリマーを加え、更に適当な酸(例えば硫酸)で処理剤のpHを2以下とした均一溶液を得る。
【0049】
本発明の水処理剤における、前記ポリエチレングリコール及び/又はポリエチレングリコールモノメチルエーテルと前記水溶性亜鉛化合物と前記スルホン酸基含有ポリマーの配合比は(ポリエチレングリコール及び/又はポリエチレングリコールモノメチルエーテル):(水溶性亜鉛化合物):(スルホン酸基含有ポリマー)の重量比として好ましくは(1〜30):(0.1〜10):(1〜30)の範囲であり、水を溶媒として用いることが一般的である。
【0050】
本発明の水系におけるシリカ系スケールの防止方法やシリカ系スケールを抑制するとともに金属の腐食を抑制する水処理方法に、公知のスケール防止剤、腐食防止剤、微生物障害抑制剤、消泡剤などの化合物を併用しても良い。これらの化合物は、それぞれ別個に対象水系に添加してもよいが、本発明のスケール防止剤や水処理剤とこれらの化合物を含む一液の組成物として添加しても良い。
【0051】
併用されるスケール防止剤ならびに腐食防止剤の例として、有機ホスホン酸、ホスホノカルボン酸、ホスフィノポリカルボン酸、マレイン酸重合体ならびに共重合体、イタコン酸重合体ならびに共重合体、マレイン酸−イタコン酸共重合体、アクリル酸重合体ならびに共重合体などが挙げられる。
【0052】
併用が好ましい有機ホスホン酸は、分子中に1個以上のホスホノ基を有する有機化合物であり、具体的には1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、アミノトリメチレンホスホン酸、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸、ジエチレントリアミンペンタメチレンホスホン酸、ヘキサメチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸などが挙げられ、好ましくは1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸である。
【0053】
併用が好ましいホスホノカルボン酸は、分子中に1個以上のホスホノ基と1個以上のカルボキシル基を有する有機化合物であり、具体的には2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸、ヒドロキシホスホノ酢酸、ホスホノポリマレイン酸、ホスホンコハク酸などが挙げられ、好ましくは2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸、ホスホノポリマレイン酸である。ここで、ホスホノカルボン酸はローディア社からBRICORR288の商品名、またBWA社からBELCOR585の商品名で市販されている。ホスホノカルボン酸は、例えば、中性〜アルカリ性の水性溶媒中で亜リン酸とモノエチレン性不飽和カルボン酸とを遊離ラジカル開始剤の存在下で加熱することにより製造することができる(例えば特開平4−334392号公報)。また、ホスホノカルボン酸は、次亜リン酸とカルボニル化合物やイミン化合物との反応物を反応開始剤の存在下で不飽和カルボン酸と反応させることにより得ることができる(特許第3284318号公報)。
【0054】
併用が好ましいホスフィノポリカルボン酸は、分子中に1個以上のホスフィノ基と2個以上のカルボキシル基を有する化合物であり、具体的にはアクリル酸と次亜リン酸を反応させて得られるビス−ポリ(2−カルボキシエチル)ホスフィン酸、マレイン酸と次亜リン酸を反応させて得られるビス−ポリ(1,2−ジカルボキシエチル)ホスフィン酸、マレイン酸とアクリル酸と次亜リン酸を反応させて得られるポリ(2−カルボキシエチル)(1,2−ジカルボキシエチル)ホスフィン酸、イタコン酸と次亜リン酸を反応させて得られるビス−ポリ[2−カルボキシ−(2−カルボキシメチル)エチル]ホスフィン酸、アクリル酸と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸と次亜リン酸の反応物などが挙げられ、好ましくはアクリル酸とマレイン酸と次亜リン酸の反応物、及びイタコン酸とマレイン酸と次亜リン酸の反応物である。ホスフィノポリカルボン酸の調製は、通常、水性溶媒中で次亜リン酸とモノエチレン性不飽和カルボン酸とを遊離ラジカル開始剤の存在下で加熱することにより行なわれ、例えば特公昭54−29316号公報、特公平5−57992号公報、特公平6−47113号公報などに開示されている。また、ホスフィノポリカルボン酸は、バイオ・ラボ社よりBELCLENE500、BELSPERSE164、BELCLENE400などの商品名で市販されている。
【0055】
併用される腐食防止剤の例として、ベンゾトリアゾール類、重合リン酸塩、オルトリン酸、モリブデン酸塩、タングステン酸塩、亜硝酸塩などが挙げられる。ベンゾトリアゾール類は、銅や銅合金に対する腐食防止に有効であり、例えば1,2,3−ベンゾトリアゾール、1,2,3−メチルベンゾトリアゾール、アルキル置換−1,2,3−ベンゾトリアゾール、ハロ置換−1,2,3−ベンゾトリアゾール誘導体、ハロ置換−1,2,3−メチルベンゾトリアゾール等が挙げられる。
【0056】
併用される微生物障害抑制剤の例として、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウム、液化塩素、塩素化イソシアヌル酸類、塩素化ジメチルヒダントイン酸類等の水に溶解して次亜塩素酸及びまたは次亜臭素酸を生成する化合物;2−メチルイソチアゾリン−3−オン、2−メチル−4−クロロイソチアゾリン−3−オン、2−メチル−5−クロロイソチアゾリン−3−オン、2−メチル−4,5−ジクロロイソチアゾリン−3−オン、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−3(2H)イソチアゾリン等のイソチアゾリン化合物;2,2−ジブロモ−2−ニトロエタノール、2−ブロモ−2−ニトロプロパン−1,3−ジオール、2,2−ジブロモ−3−ニトリロプロピオンアミド等の有機ブロム化合物;メチレンビスチオシアネート、ビス−(1,4−ジブロムアセトキシ)−2−ブテン、ベンジルブロムアセテート、ソジウムブロマイド、α−ブロモシンナムアルデヒド、2−ピリジンチオール−1−オキシドナトリウム、ビス(2−ピリジンチオール−1−オキシド)亜鉛、2−(4−チアゾリル)ベンツイミダゾール、 ヘキサヒドロ−1,3,5−トリス−(2−ヒドロキシエチル)−S−トリアジン、ビス(トリクロルメチル)スルホン、ジチオカーバメート、3,5−ジメチルテトラヒドロ−1,3,5,2H−チアジアジン−2−チオン、ブロム酢酸エチルチオフェニルエステル、α−クロルベンゾアルドキシムアセテート、2,4,5,6−テトラクロロイソフタロニトリル、1,2−ジブロモ−2,4−ジシアノブタン、3−ヨード−2−プロペニルブチルカルバメート、サリチル酸、サリチル酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸エステル及びp−クロル−m−キシレノール等が挙げられる。
【0057】
本発明が対象とする水系の循環水中のシリカ濃度は、計算シリカにより管理するのが好ましい。ここで計算シリカ濃度(S
C:mg/L)とは、循環水系の濃縮度(N)と循環水系への補給水のシリカ濃度(S:mg/L)の積(N×S)で定義され、実質的に循環水系に含まれているシリカ濃度である。
【0058】
ここで、濃縮度(N)は、シリカ濃度以外から求めた補給水の濃縮度である。濃縮度(N)の算出方法は、循環水の電気伝導度(EC
R)と補給水の電気伝導度(EC
M)の比(EC
R/EC
M)を算出する方法、あるいは循環水と補給水のカルシウム硬度の濃度比から算出する方法がとられる。
【0059】
本発明のシリカ系スケールの抑制方法において、計算シリカは通常120〜400mg/Lの範囲に維持されるが、好ましくは150〜250mg/Lの範囲に維持される。
【0060】
更に、ステンレス鋼やチタン等の不動態化皮膜を形成する金属は、付着部における隙間腐食を起因とした孔食や応力腐食割れが発生し易いが、本発明のシリカ系スケールの抑制方法では、シリカの付着物を抑制することにより、炭素鋼、ステンレス鋼、銅合金、チタン等の金属の腐食を間接的に防止することができる。
【実施例】
【0061】
以下に本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0062】
(静的試験1)<スケール防止剤無添加時>
メタケイ酸ナトリウム5水和物を水に溶解して調製したシリカ500mg/L含む溶液を、H型強酸性イオン交換樹脂を充填したカラムに通水してオルトケイ酸溶液を得た。このオルトケイ酸溶液に、塩化カルシウム溶液、硫酸マグネシウム溶液、重炭酸ナトリウム溶液を加えて、カルシウム硬度150mgCaCO
3/L、マグネシウム硬度50mgCaCO
3/L、重炭酸イオン100mgCaCO
3/L、シリカ500mg/Lを含む溶液を調製した。更に、この溶液にポリ塩化アルミニウム、硝酸第二鉄、硫酸亜鉛、塩化カルシウム、硫酸マグネシウムのいずれかを表1の添加金属イオン濃度になるように加え、水酸化ナトリウム溶液でpHを8.0に調整して試験液とした。試験液を8℃または50℃で5日間静置した後、試験液を0.8μmのメンブランフィルターで濾過し、残留シリカ濃度を測定した。測定結果を表1に示す。尚、残留シリカ濃度は、以下の方法により測定した。
【0063】
[残留シリカ濃度測定方法]
試験液1mLをフッ素樹脂製丸底試験管に入れ、1規定の水酸化ナトリウムを2mL加えた後、110℃に加温したホットブロックで20分間加熱した。次いで、1規定塩酸を2mL加え、試験管を20℃まで冷却後、JIS K0101−1998のモリブデン黄吸光光度法よりシリカ濃度を測定した。ここで測定される残留シリカはオルトケイ酸、オルトケイ酸イオン、ポリケイ酸イオン等の溶解性シリカとコロイダルシリカの合計濃度である。
【0064】
【表1】
【0065】
表1の結果より、カルシウムイオンやマグネシウムイオンは、該イオンを高濃度添加しても残留シリカ度は殆ど変化せず、コロイダルシリカの沈殿に殆ど影響しなかった。一方、アルミニウムイオン、鉄イオン、亜鉛イオンのいずれかを0.5mg/L以上添加すると、残留シリカ濃度は急激に低下した。以上の結果より、アルミニウムイオン、鉄イオン、亜鉛イオンはシリカの沈殿を促進する作用が強いことが確認された。また、温度が上昇するとこれらの金属イオンによるシリカの沈殿作用が促進された。
【0066】
(静的試験2)<スケール防止剤添加時>
ポリ塩化アルミニウム、硝酸第二鉄、硫酸亜鉛、塩化カルシウム、硫酸マグネシウムのいずれかを表2の添加金属イオン濃度になるように添加する前に、表2に示す、適用化合物を25mg/L加えた。それ以外は、静的試験1と同様にして試験し、試験温度は50℃であった。残留シリカ濃度の測定結果を表2に示す。
【0067】
尚、表2の「有効成分の添加量」とは、25mg/L加えた適用化合物中に含まれる、分子量が200〜800のポリエチレングリコール又は分子量が200〜800のポリエチレングリコールモノメチルエーテルの割合から、該ポリエチレングリコール又は該ポリエチレングリコールモノメチルエーテル換算として算出した添加量である。例えば、平均分子量200のポリエチレングリコールは、分子量200付近を中心とする分子量分布を有しているが、その中で分子量200〜800のポリエチレングリコールは60重量%含まれているため、上記の「有効成分の添加量」は25mg/L×0.6=15mg/Lとなるのである。
【0068】
【表2】
【0069】
表2の結果より、アルミニウムイオンが10mg/L存在する場合、鉄イオンが10mg/L存在する場合、あるいは亜鉛イオンが5mg/L存在する場合においても、分子量が200〜800のポリエチレングリコール又は分子量が200〜800のポリエチレングリコールモノメチルエーテルを添加した実施例の残留シリカ濃度が高く、特に分子量300〜400のポリエチレングリコールを添加した実施例の残留シリカ濃度が最も高かった。一方、分子量が200〜800のポリエチレングリコール又は分子量が200〜800のポリエチレングリコールモノメチルエーテルが添加されない、もしくは添加された場合でもその添加量が1mg/L以下では残留シリカ濃度は低かった。このことから、本発明の適用が水中のシリカの析出・沈殿の防止に高い効果を示すことが明らかである。
【0070】
尚、公知技術であるところの、一般的な非イオン性界面活性剤である、ポリアルキレングリコールのラウリル(炭素数12)、セチル(炭素数16)及びステアリル(炭素数18)エーテル、ならびに、ステアリル(炭素数18)エステルの添加や、平均分子量1000のポリエチレングリコールとHEDPの重量比1:1の併用添加では、アルミニウムイオン、鉄イオン、亜鉛イオンのいずれかが存在すると、十分なシリカスケールの抑制効果を示さなかった。
【0071】
(動的試験1)
本発明の抑制剤を、動的試験により評価するために用いた試験装置ならびに試験方法は、JIS G0593−2002「水処理剤の腐食及びスケール防止評価試験方法」のオンサイト試験法に準拠した。試験装置の概略を
図1に示す。伝熱管として外径12.7mm、長さ510mmのステンレス鋼管SUS304(JIS G3448)を用いた。
【0072】
水槽2及び配管を含む系全体の水容量は62Lとし、水槽2の水温は35℃になるように水温制御装置9で制御した。試験用伝熱管評価部の線流速0.3m/sに相当する流量210L/hとなるように流量調整バルブ5で制御しながら循環ポンプ3で通水し、熱交換器7の熱流束は35kW/m
2とした。冷却塔1は冷却能力1.8冷却トンの誘引通風向流接触型のものを使用した。冷却塔入口・出口の循環水の温度差は15℃、蒸発水量は4.1L/hであった。
【0073】
循環水の電気伝導度は電気伝導度測定セル4で連続的に測定され、電気伝導度の入力信号より電気伝導度制御装置11を用いて設定された計算シリカ濃度に相当する電気伝導度になるようにブローダウンポンプ10を制御した。ブローダウンポンプ10と連動して、水処理剤注入装置13を同時に作動させて、図示されない水処理剤タンクから所定の水処理剤を所定濃度で調製した水溶液を吸入して水槽2に添加した。
【0074】
補給水12の水質は、pH:7.2、電気伝導度:14.8mS/m、Ca硬度:27mg−CaCO3/L、Mg硬度:17mg−CaCO3/L、Mアルカリ度:38mg−CaCO3/L、 塩化物イオン:5mg/L、硫酸イオン:9mg/L、シリカ:45mg/Lであった。循環水の濃縮度は5.4倍、計算シリカ濃度は243mg/Lとした。
【0075】
循環水中のアルミニウムの添加濃度が2mg/Lになるようにポリ塩化アルミニウムを添加した。また、循環水中の亜鉛の添加濃度が1.5mg/Lになるように硫酸亜鉛を添加した。鉄イオンは特に添加しなかったが、炭素鋼製試験チューブの腐食により循環水中に0.2〜1.0mg/Lの鉄が検出された。
【0076】
水槽2に補給水を張り、表3に示す適用化合物を30mg/L添加して、循環ポンプ3を作動させた後、熱交換器7の熱負荷を開始した。尚、2種の化合物を適用する例では、各化合物をそれぞれ15mg/L(合計30mg/L)添加した。また、表3の「有効成分の添加量」は上記「静的試験2」に記した換算方法にて算出し、更にスルホン酸基含有ポリマーの添加濃度も「有効成分の添加量」として表示した。
【0077】
所定の計算シリカ濃度に達した段階で、ブローダウンを開始して所定の計算シリカ濃度を240mg/Lに維持した。ブローダウン開始と同時に、ブローダウン量に対して所定濃度の適用化合物を水処理剤注入装置13により添加した。試験期間は、規定濃縮度到達後より30日間とした。試験終了後、ステンレス鋼管表面の付着物量を測定し、また蛍光X線分析法により付着物中のシリカ含量を測定して、シリカ付着物量を次式により計算して求めた。
シリカ付着物量(mg)=全付着物量(mg)×付着物中のシリカ含量(%)/100
結果を表3に示す。
【0078】
【表3】
【0079】
適用したスルホン酸基含有ポリマーA〜Cは以下の通りである。
(1)スルホン酸基含有ポリマーA:アクリル酸と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸の共重合体〔共重合比(重量)60:40、重量平均分子量10,000〕
(2)スルホン酸基含有ポリマーB:アクリル酸と3−アリロキシ−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸の共重合体〔共重合比(重量)50:50、重量平均分子量5,000〕
(3)スルホン酸基含有ポリマーC:アクリル酸とイソプロピルスルホン酸の共重合体〔共重合比(重量)50:50、重量平均分子量10,000〕
【0080】
表3の結果より、アルミニウムイオン、亜鉛イオン、及び鉄イオンが存在する水系においても、分子量が200〜800のポリエチレングリコールを適用した例ではシリカ付着量が少なく、また、該ポリエチレングリコールに各種のスルホン酸基含有ポリマーを併用した例では両者の相乗効果により、シリカ付着量がより少なくなることが明らかである。一方、分子量200〜800のポリエチレングリコールの添加量が1.2mg/Lである例、スルホン酸基含有ポリマー単独の適用例、及びポリエチレングリコールとスルホン酸基含有ポリマーの併用例ではあるが分子量200〜800のポリエチレングリコールの添加量が0.6mg/Lである例ではシリカ付着量が多いことが示された。以上のことから、本発明の適用が水系におけるシリカ系スケールの付着防止に対して高い効果を有することが示された。
【0081】
(動的試験2)
伝熱管としてステンレス鋼管SUS304(JIS G3448)とともに外径12.7mm、長さ510mmの炭素鋼鋼管STKM11A(JIS G3445)を用いて、表4に示す水処理剤を100mg/Lの添加濃度で評価に用いた以外は、動的試験1と同様にして試験した。結果を表5に示す。
【0082】
【表4】
【0083】
尚、水処理剤A〜FのpHは、塩化亜鉛配合においては塩酸、硫酸亜鉛配合においては硫酸でpH2以下に調整した。ここで、スルホン酸基含有ポリマーA〜Cは動的試験1で用いたものと同じ化合物である。
【0084】
【表5】
【0085】
本発明の水処理剤A〜Cは、アルミニウムイオン、鉄イオン存在下においても炭素鋼管の腐食とシリカスケールを有効に抑制できた。一方、本発明のポリエチレングリコールを用いていない水処理剤D〜Fは、腐食抑制剤として亜鉛塩を添加しても炭素鋼管の腐食を有効に抑制できず、シリカスケールの抑制効果も劣っていた。