【実施例1】
【0011】
図1において方向Iは接点Sにおける電流の流れる方向であり、方向NSは永久磁石の磁性方向であり、方向Rは接点Sのアークに作用するローレンツ力の方向である。ここでは、方向Iは固定接点2に対する可動接点3の接離方向に一致する。
【0012】
接点Sは、方向Iに相互に対向しながら並列する円柱状の固定接点2と可動接点3とによって構成される。永久磁石4は磁性方向である方向NSが方向I及び方向Rに垂直となるように、接点Sの側方に配置される。平板状の金属板5(非磁性体)は、方向NSと方向Iの双方に垂直な方向Rに対して垂直に、接点Sの側方に配置される。
【0013】
つまり、本実施例1の電磁継電器1は、固定接点2と、固定接点2に対応する接離方向に変位可能な可動接点3とからなる接点Sと、接点Sの外周側に配置された接離方向と垂直をなす極性方向を有する永久磁石4と、接点Xに通電される直流電流において、永久磁石4に基づいて作用するローレンツ力の指向方向に対向する金属板5(非磁性体)を含んで構成されている。
図1においては、接点Sを構成する固定接点2から可動接点3に電流が流れる場合を示している。
【0014】
つまり、
図2に示すように、接点Sの+極を構成する固定接点2と、−極を構成する可動接点3を並列させた状態で、永久磁石4の磁性方向NSのN極側から視ると、アーク放電AIは可動接点3から固定接点2に糸を引く円弧状に形成される。
【0015】
なお、アーク放電AI(単にアークとも言う)とは固定接点2と可動接点3の間に
図2に示すように電源Eと適宜の抵抗R1に接続され閉回路とされて電気的な負荷がかけられている状態において、固定接点2の表面と可動接点3の表面間の空隙すなわちギャップを通して電流が流れ始める時に始まるものであり、接点表面とアーク放電AIとの境界部分すなわち陽極足と陰極足部分において、接点表面が加熱される。陽極足部分は電子衝撃、陰極足部分はイオン衝撃によって加熱される。陽極及び陰極はともにアーク放電AIからの熱伝導及び放射によっても加熱される。このように陽極と陰極の双方においての加熱が陽極及び陰極を構成する材料を蒸発させることを招き、固定接点2及び可動接点3の双方の消耗が増大する。
【0016】
このため本実施例1の電磁継電器1では、接点Sの耐久性向上と遮断性能の向上の双方の観点から、発生したアーク放電AIをより効果的に消弧することを非磁性体と永久磁石の適宜の配置により実現する。
【0017】
なお、本実施例1の電磁継電器1の全体構成は
図3に示すように、プランジャタイプであり軸芯に対して接点が一対存在するワンフロムエックスタイプである。つまり、電磁継電器1は、
図3に示すように、左右一対の接点Sを有している。本実施例1では
図3中左側の接点Sの固定接点2がプラス端子6に接続され、右側の接点Sの固定接点2がマイナス端子7に接続されている。なお、
図2においてカッコ外は
図3における左側の接点Sにおける陽極と陰極の組合せを示し、カッコ内は
図3における右側の接点Sにおける陽極と陰極の組合せを示す。
【0018】
左右一対の接点Sのそれぞれの可動接点3は直方体状の可動部8の左右端部に配置されており、可動部8は軸芯9に接圧バネ10を介して連結されている。軸芯9の
図3中上側の上端部はプラス端子6及びマイナス端子7を固定するハウジング11に復帰バネ12及びEリング13を介して連結されており、軸芯9の下端部は可動鉄心14の有する有底孔部に軸芯9の軸方向に摺動自在に連結されている。
【0019】
可動鉄心14の外周側には円環状のヨーク15が配置され、ヨーク15の外周側にはコイル電線16が巻回され配置される。コイル電線16の外周側には電磁遮蔽を目的とするバリア17が配置され、ヨーク15の
図3中下端部とコイル電線16の双方を支持し外包して、ハウジング11に適宜接合される底蓋状のヨーク18が配置される。
【0020】
金属板5は、例えば、銅、アルミニウム、ステンレス、銀等の強磁性体ではない非磁性体のいずれかによりまたはいずれかを主成分として構成される。なお金属板5の形状は
図1、
図2の概念図に示すように平板状とすることもできるが、ローレンツ力により吹き飛ばされるアーク放電AIが金属板5の表面上で引き延ばされることを考慮して、
図4(a)に示すように、接点Sの接触面を接離方向の径方向から外覆する外覆形態とすることが好ましい。
図4(a)ではこの外覆形態の一例としてU字柱状形態が選択されている。ハウジング11はこのU字柱状の金属板5が収納され圧入固定可能な一対の凹部11aを備えている。凹部11aは接点Sの外周側に位置して、U字柱状の金属板5を接離方向から圧入可能な形態を具備している。一対の金属板5は対応する凹部11aに
図4(b)に示すように、圧入固定される。また、
図4(a)に示すように、ハウジング11は一対の平板状の永久磁石4が収納され圧入固定可能な凹部11bも具備している。一対の永久磁石4はそれぞれ対応する凹部11bに圧入固定される。さらに箱部品であるハウジング11内部の空間には真空化もしくはガス注入を施さない。
【0021】
コイル電線16は
図3中においては図示しない端子部を備えており、この端子部に励磁電流が印加されない状態において、復帰バネ12の付勢力に基づいて軸芯9及び可動鉄心14が
図3中下方に付勢されて、固定接点2と可動接点3より構成される接点Sの開状態への遷移又は維持がなされる。端子部に励磁電流が印加されると、コイル電線16及びヨーク15及びヨーク18の発生する可動鉄心14を
図3中上方に吸引する力により、軸芯9及び可動部8が上方に移動させられて、可動接点3は固定接点2に接触されて閉状態とされる。
【0022】
なお
図2に示した閉回路上における電圧Vと電流Iを接点Sの遮断前後において測定すると
図7に示す波形を示す。遮断の初期において電流Iはステップ状に下がった後、2ミリ秒程度漸減して、その後急激に低下し、電圧Vはステップ状に上がった後、2ミリ秒程度漸増して、その後急激に上昇して既定値に到達する。
【0023】
電磁継電器1の接点Sにおけるアーク遮断時間Tは電流Iがステップ状に下がってから、電圧Vが最終的に既定値に到達するまでの時間である。このアーク遮断時間Tが短いほど、アーク放電AIの消弧に要する時間が短いことを示している。ここで、接点Sを構成する固定接点2と可動接点3の金属板5との
図5中のアーク放電AIが吹き飛ばされる方向における距離Dとアーク遮断時間Tとの関係は
図8に示すように、Dの増大に対してTが漸減する形態をなす。
【0024】
ローレンツ力により吹き飛ばされるアーク放電AIをより効果的に金属板5に衝突させるにあたっては、距離Dが短い方が衝突エネルギーを大きく確保できる。ただし、距離Dを小さく設定しすぎると、アーク放電AIの固定接点2の側面又は可動接点3の側面と金属板5との間において、
図5に示すような逆Ω字型にアーク放電AIを引き延ばすにあたって必要な隙間が確保できなることを招く。加えて、固定接点2の側面が実質的にはプラス端子6又はマイナス端子7であって端子部分に例えば鉄系統の強磁性体が含まれる場合にはアーク放電AIが端子部分に進入してしまうことも招く。
【0025】
この場合、金属板5の表面に沿わせたアーク放電AIの接点Sと金属板5との間における引き延ばしが十分にできないことを招いてしまうため、本実施例1の電磁継電器1において
図8に示す特性が実験又はシミュレーションにより得られる場合には、距離Dを最小値1mmよりも大きい値例えば1.5mm程度(所定範囲)に設定する。
【0026】
本実施例1の電磁継電器1によれば、上述した所定の位置関係を有する永久磁石4と非磁性体の金属板5を、接点S近傍に具備することによって、以下のような作用効果を得ることができる。
【0027】
すなわち、接点Sの開閉に伴って、固定接点2と可動接点3との間のギャップに発生するアーク放電AIがローレンツ力により吹き飛ばされるにあたり、金属板5にローレンツ力の作用する方向に対向配置しているので、円弧状のアーク放電AIを
図5に示すように、金属板5の表面に沿って引き延ばすことができる。なお、
図5では図示の便宜上金属板5は平板状としている。
【0028】
つまり本実施例1の電磁継電器1においては、固定接点2と可動接点3との間に離隔時に発生するアーク放電AIを、永久磁石4の発生する磁束とアーク放電AIとにより発生する、フレミングの左手の法則に基づく電磁力(ローレンツ力)により接点Sから離隔する方向に偏向させて吹き飛ばすととともに、金属板5(非磁性体)に対して吹き飛ばされたアーク放電AIを衝突させることができる。この衝突によりアーク放電AIを金属板5の面方向に引き延ばして、アーク放電AIの熱エネルギーを非磁性体に吸収させかつアーク放電AIの固定接点2と可動接点3との間の延在距離をなるべく長くすることで、より迅速にアーク放電AIを消弧することができる。
【0029】
つまりローレンツ力によるアーク放電AIが吹き飛ばされる方向に金属板5が設置されない場合においては、
図6(a)に示すようにアーク放電AIは円弧状をなして径方向に単に膨張する形態をなすが、非磁性体である金属板5が設置されることによって、
図6(b)に示すように金属板5内部にアーク放電AIが進入することなく表面上で引き延ばすことができるので、より広い範囲で金属板5によりアーク放電AIの熱エネルギーが吸収され、かつ、アーク放電AIの空間内での延在距離を長くして、アーク放電AIの消弧をより効果的に行うことができる。
【0030】
さらに本実施例1の金属板5は、アーク放電AIのハウジング11への衝突を防止する機能も有しており、ハウジング11がアーク放電AIにより損傷を受けることを防止することができるとともに、このハウジング11を構成する樹脂の損傷の防止に伴うガスの発生も防止して、接点Sの接触特性の劣化を防止できる。また箱部品としてのハウジング11の損傷を防止してガス発生を防止できるため、内部の空間には真空化もしくはガス注入を施さないこととしてコストダウンと図ることもできる。
【0031】
加えてアーク放電AIを引き延ばして熱エネルギーを下げて遮断性能を確保するにあたって必要な空間を、金属板5の設置により必要最低限のものとして、ハウジング11ひいては電磁継電器1全体のダウンサイジングを図ることができる。換言すれば外形寸法にかかわらずに遮断性能を高めることができる。
【0032】
本実施例1の電磁継電器1においては、外殻をなす箱部品としてのハウジング11に実施例3で示した固定の形態に換えて、永久磁石4及び金属板5の双方を圧入によりハウジング11に固定する形態としているが、永久磁石4と金属板5がハウジング11にインサートモールド成型にて予め埋設され一体的に固定されるものとしてもよい。
【0033】
後者の成型手法を採用することにより、永久磁石4と金属板5のハウジング11への固定をインサートモールド成型により一工程で行うことができ、組立容易性と製造容易性を高めることができる。
【実施例2】
【0034】
上述した実施例1の電磁継電器1は、本発明をプランジャタイプのリレーに適用する形態について述べたが、本発明はプランジャタイプへの適用の他、アームタイプ(ヒンジタイプ)のリレーに適用することももちろん可能である。以下、それについての実施例2について述べる。
図9(a)は本実施例2の電磁継電器21の概観を示し、
図9(b)は電磁継電器21の本発明に関連する部分のみを拡大して示す。
【0035】
図9(a)に示すように、実施例2の電磁継電器21は、アームタイプかつワンフロムエータイプのリレーに本発明を適用した形態を示している。
図9(b)に示すように、接点Sを構成する固定接点22と可動接点23は接離方向において相互に対向し、永久磁石24は可動接点23を支持する可動アーム23Aの支点から端点に向かう方向に対向する位置に配置される。非磁性体の金属板25は、接離方向に流れるアーク放電AIに永久磁石24の磁性力によりローレンツ力が作用して吹き飛ばされる方向に対向する位置に配置され、ここでは永久磁石24よりも可動アーム23Aの支点側に配置される。可動アーム23Aはプラス端子26に接続され、固定接点22はマイナス端子27に接続される。
【0036】
なお、電磁継電器21を構成する外殻をなす箱部品としてのハウジングや、可動アーム23Aを駆動するコイル電線やヨークにより構成される駆動部については、実施例1のプランジャタイプと機能的には同等の構造であるため詳細構造についての説明は割愛する。本実施例2の電磁継電器21はアームタイプであり、接点Sについて接離方向を中心として外覆する形態に金属板25を配置することは可動アーム23aの揺動に必要なスペースを確保する観点で適切でないため、金属板25は平板状としている。
【0037】
本実施例2の電磁継電器21においても、固定接点22と可動接点23との間に離隔時に発生するアーク放電AIを、永久磁石24の発生する磁束とアーク放電AIとにより発生する、フレミングの左手の法則に基づくローレンツ力により接点Sから離隔する方向に偏向させて吹き飛ばすととともに、金属板25に対して吹き飛ばされたアーク放電AIを衝突させることができる。この衝突に基づいて、実施例1と同様にアーク放電AIを金属板25の面方向に引き延ばして、アーク放電AIの熱エネルギーを非磁性体に吸収させてアーク放電AIを弱め、アーク放電AIの固定接点22と可動接点23との間の延在距離をなるべく長くすることで熱エネルギーを減らして、より迅速にアーク放電AIを消弧することができる。ハウジングの保護効果、ダウンサイジング効果についても実施例1と同様に実施例2についても得ることができる。
【0038】
以上本発明の好ましい実施例について詳細に説明したが、本発明は上述した実施例に制限されることなく、本発明の範囲を逸脱することなく、上述した実施例に種々の変形および置換を加えることができる。