特許第5946410号(P5946410)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ダイキン工業株式会社の特許一覧

特許59464102−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5946410
(24)【登録日】2016年6月10日
(45)【発行日】2016年7月6日
(54)【発明の名称】2−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 17/25 20060101AFI20160623BHJP
   C07B 61/00 20060101ALI20160623BHJP
   C07C 21/18 20060101ALI20160623BHJP
【FI】
   C07C17/25
   C07B61/00 300
   C07C21/18
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-538010(P2012-538010)
(86)(22)【出願日】2011年2月17日
(65)【公表番号】特表2013-519631(P2013-519631A)
(43)【公表日】2013年5月30日
(86)【国際出願番号】JP2011054055
(87)【国際公開番号】WO2011102538
(87)【国際公開日】20110825
【審査請求日】2012年8月16日
【審判番号】不服2014-18570(P2014-18570/J1)
【審判請求日】2014年9月17日
(31)【優先権主張番号】61/282,494
(32)【優先日】2010年2月19日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山下 恒雄
(72)【発明者】
【氏名】能勢 雅聡
(72)【発明者】
【氏名】勝川 健一
【合議体】
【審判長】 中田 とし子
【審判官】 瀬良 聡機
【審判官】 齊藤 真由美
(56)【参考文献】
【文献】 特表2005−504097(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/052064(WO,A2)
【文献】 特表2007−509942(JP,A)
【文献】 特表2011−517681(JP,A)
【文献】 特表2010−536881(JP,A)
【文献】 R.N.Haszeldine,Journal of the Chemical Society,1951年,p.2495−2504
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C CAPLUS REGISTRY STN
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
相関移動触媒及び非プロトン性溶媒からなる群から選ばれた少なくとも一種の触媒の存在下において、液体状態の1,2−ジクロロ−3,3,3−トリフルオロプロパンと、アルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類金属水酸化物からなる群から選ばれた少なくとも一種の金属水酸化物の水溶液とを混合して、該含フッ素アルカンの脱ハロゲン化水素反応を0℃〜30℃の範囲の温度で行うことを含む、化学式:CF3CCl=CH2で表される2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの製造方法において、生成した化学式:CF3CCl=CH2で表される含フッ素アルケンを蒸留によって採取しつつ、脱ハロゲン化水素反応を連続して行う方法。
【請求項3】
反応を14℃〜20℃の範囲の温度で行う請求項に記載の2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの製造方法。
【請求項4】
下記工程を含む2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの製造方法:
(i)請求項1〜のいずれかの方法で2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンを製造し、(ii)工程(i)で得られた反応溶液中に含まれる沈殿物を除去し、
(iii)該反応溶液に、1,2−ジクロロ−3,3,3−トリフルオロプロパンと、アルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類金属水酸化物からなる群から選ばれた少なくとも一種の金属水酸化物を添加し、
(iv)請求項1〜のいずれかの方法で該含フッ素アルカンの脱ハロゲン化水素反応を行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化学式:CF3CCl=CH2で表される2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233xf)は、各種フルオロカーボンを製造するための中間体として有用な化合物であり、また、各種の重合体におけるモノマー成分としても有用である。また発泡剤、噴射剤として利用できる可能性も示唆されている。
【0003】
HCFO-1233xfの製造方法としては、触媒の存在下に気相で無水フッ化水素(HF)と反応させる方法が知られている。例えば、下記特許文献1には、クロム系触媒の存在下に1,1,2,3-テトラクロロプロペン(HCO-1230xa, CCl2=CClCH2Cl)を気相フッ素化する方法が開示されており、下記特許文献2にも同じくクロム系触媒の存在下に1,1,2,3-テトラクロロプロペンを気相フッ素化する方法が報告されている。また、下記特許文献3には、触媒の劣化を抑制するために安定剤を用いることによって1,1,2,3-テトラクロロプロペン(HCO-1230xa)、1,1,1,2,3-ペンタクロロプロパン(HCC-240db)、2,3,3,3-テトラクロロプロペン(HCC-1230xf)等をフッ素化できることが記載されている。
【0004】
しかしながら、これらの文献に記載されている方法には各種の問題点がある。例えば、HCFO-1233xfの収率について更に改善が必要であり、触媒を用いることによってコストアップの問題があり、目的物であるHCFO-1233xf以外に多くの生成物が反応によって生じ、選択率が十分ではない。更に、反応の進行に伴って触媒活性が劣化し易く、触媒劣化の改善のために安定剤の使用等、多くの試みがなされてきた。
【0005】
また、下記非特許文献1には、密閉容器を用いて、アルカリ溶液中で1,2−ジクロロ−3,3,3−トリフルオロプロパン(HCFC-243db)の脱塩化水素反応によって、HCFO-1233xfを製造する方法が記載されている。しかしながら、この方法では、反応に長時間が必要であり、しかも収率は50%程度に過ぎず、製造効率が悪いという問題点がある。
【0006】
また、1,1,1,2,3-テトラクロロプロパン(HCC-240db)を原料として用い、アルカリ金属水酸化物水溶液とアルコールを含む溶液中で脱塩化水素反応によって、1,1,1,2-トリクロロプロペンとした後、得られた1,1,1,2-トリクロロプロペンをSbF3を用いてフッ素化する方法も報告されている(非特許文献2参照)。しかしながら、この方法では、フッ素化剤として腐食性の高いSbF3を用いるために、特殊な反応装置が必要であり、更に、HCFO-1233xfに対して等当量のSbF3を用いるために、副生成物としてSbCl3が大量に発生する。このため、SbCl3をSbF3として再利用するためにフッ化水素によるフッ素化処理が必要であり、作業が繁雑となり、工業スケールの製法としては不向きである。
【0007】
以上の通り、現状では、経済性に適合するように、簡便かつ高収率でHCFO-1233xfを製造できる方法が確立するには至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】WO 2007/079431 A2
【特許文献2】WO 2008/054781 A1
【特許文献3】WO 2009/015317 A1
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】J.C.S., Haszeldine, R.N., 2495-2504 , (1951)
【非特許文献2】J.C.S., Haszeldine, R.N.,3371-3378 , (1953)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記した従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、工業的に有利な条件下において、高収率で2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233xf)を製造できる、新規な方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、特定の一般式で表される含フッ素アルカンを原料として用い、アルカリ金属水酸化物又はアルカリ土類水酸化物を含む水溶液と液相で混合して、触媒の存在下に脱ハロゲン化水素反応を行う場合には、比較的低温で反応が進行して、非常に高い収率で目的とする2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233xf)を得ることができ、工業的に非常に有利な方法となることを見出し、ここに本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明は、下記の2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの製造方法を提供するものである。
1. 触媒の存在下において、液体状態の一般式:CF3CHClCH2X(式中、Xはハロゲン原子である。)で表される含フッ素アルカンと、アルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類金属水酸化物からなる群から選ばれた少なくとも一種の金属水酸化物の水溶液とを混合して、該含フッ素アルカンの脱ハロゲン化水素反応を行うことを含む、化学式:CF3CCl=CH2で表される2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの製造方法。
2. 触媒が、相関移動触媒及び非プロトン性溶媒からなる群から選ばれた少なくとも一種である上記項1に記載の2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの製造方法。
3. 反応を0℃〜30℃の範囲の温度で行う、上記項1又は2に記載の2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの製造方法。
4. 上記項1〜3のいずれかに記載の2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの製造方法において、
生成した化学式:CF3CCl=CH2で表される含フッ素アルケンを蒸留によって採取しつつ、脱ハロゲン化反応を連続して行う方法。
5.下記工程を含む2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの製造方法:
(i)上記項1〜4のいずれかの方法で2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンを製造し、
(ii)工程(i)で得られた反応溶液中に含まれる沈殿物を除去し、
(iii)該反応溶液に、一般式:CF3CHClCH2X (式中、Xはハロゲン原子である。)で表される含フッ素アルカンと、アルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類金属水酸化物からなる群から選ばれた少なくとも一種の金属水酸化物を添加し、
(iv)上記項1〜4のいずれかの方法で該含フッ素アルカンの脱ハロゲン化水素反応を行う。
【0013】
以下、本発明の製造方法について詳細に説明する。
【0014】
原料化合物
本発明では、原料化合物としては、一般式:CF3CHClCH2X(式中、Xはハロゲン原子である。)で表される含フッ素アルカンを用いる。この含フッ素アルカンは、容易に入手できる公知化合物である。上記一般式において、ハロゲン原子としては、F、Cl、Br、I等を例示できる。
【0015】
反応方法
本発明の製造方法は、上記一般式で表される含フッ素アルカンを液体状態で原料化合物として用いる。本発明方法は、該含フッ素アルカンを、アルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類水酸化物からなる群から選ばれた少なくとも一種の金属水酸化物を含む水溶液と混合して、二相系の液相反応によって、該原料化合物の脱ハロゲン化水素反応を行ことを含む方法である。
【0016】
本発明の製造方法では、アルカリ金属水酸化物としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化セシウム等を用いることができる。また、アルカリ土類金属水酸化物としては、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化バリウム、水酸化ストロンチウム等を用いることができる。これらのアルカリ金属水酸化物とアルカリ土類水酸化物は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
【0017】
アルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類水酸化物からなる群から選ばれた少なくとも一種の金属水酸化物を含む水溶液における金属水酸化物の濃度については特に限定はないが、通常、5重量%程度〜飽和濃度までの水溶液として用いることができる。特に、20〜50重量%程度の濃度の水溶液を用いる場合には、原料とする含フッ素アルカンの比重に近い比重となり、相互の分散性が良好となって、効率良く反応を進行させることができ、後述する触媒の使用量を減少させることが可能となる。
【0018】
金属水酸化物を含む水溶液の使用量については、該水溶液に含まれる金属成分の量が、原料とする一般式:CF3CHClCH2Xで表される含フッ素アルカン1当量に対して1当量から1.5当量程度となる量とすればよい。即ち、金属水酸化物として一価金属であるアルカリ金属の水酸化物を用いる場合には、アルカリ金属水酸化物を含む水溶液は、一般式:CF3CHClCH2Xで表される含フッ素アルカン1モルに対して、アルカリ金属水酸化物を1〜1.5モル程度含有すればよい。金属水酸化物として二価金属であるアルカリ土類金属の水酸化物を用いる場合には、アルカリ土類金属水酸化物を含む水溶液は、一般式:CF3CHClCH2Xで表される含フッ素アルカン1モルに対して、アルカリ土類金属水酸化物を0.5〜0.75モル程度含有すればよい。
【0019】
本発明の製造方法では、触媒の存在下において、上記した一般式:CF3CHClCH2Xで表される含フッ素アルカンと、アルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類水酸化物からなる群から選ばれた少なくとも一種の金属水酸化物を含む水溶液とを混合すればよい。これにより、該含フッ素アルカン相と金属水酸化物を含む水相との界面において、該含フッ素アルカンの脱ハロゲン化水素反応が進行して、目的とする2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233xf)を得ることができる。
【0020】
触媒としては、脱ハロゲン化水素反応に対して活性のある触媒であればよいが、特に、相間移動触媒及び非プロトン性極性溶媒からなる群から選ばれた少なくとも一種の触媒を用いることが好ましい。この様な触媒の存在下に、上記した脱ハロゲン化水素反応を行うことによって、液相反応によって、比較的低い反応温度で、短時間で高い収率で目的とする2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233xf)を得ることができる。
【0021】
相間移動触媒としては、特に限定はないが、例えば、テトラブチルアンモニウムブロマイド(TBAB)、トリメチルベンジルアンモニウムブロマイド、トリエチルベンジルアンモニウムブロマイド、トリオクチルメチルアンモニウムクロライド(TOMAC)などの第四級アンモニウム塩;テトラブチルホスホニウムクロライド(TBPC)などのホスホニウム塩;15−クラウン5、18−クラウン6などのクラウンエーテル類等を挙げることができる。
【0022】
非プロトン性極性溶媒としては、活性なプロトンを有しない極性を有する溶媒であれば良く、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、プロピレンカーボネート、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ビス(2−メトキシエチル)エーテル、1,4−ジオキサン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等を例示できる。
【0023】
これらの触媒は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。これらの内で、特に、相関移動触媒であるトリオクチルメチルアンモニウムクロライド(TOMAC)が好ましい。
触媒の使用量については、特に限定的ではないが、一般式:CF3CHClCH2Xで表される含フッ素アルカン100重量部に対して、相関移動触媒については、0.3〜5重量部程度使用することが好ましく、非プロトン性極性溶媒については10〜50重量部程度使用することが好ましい。
【0024】
本発明の製造方法では、アルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類水酸化物からなる群から選ばれた少なくとも一種の金属水酸化物を含む水溶液、一般式:CF3CHClCH2Xで表される含フッ素アルカン、並びに触媒を混合することによって、該含フッ素アルカンの脱ハロゲン化水素反応を進行させることができる。これらの各成分の添加順序は任意である。また、撹拌方法についても限定はなく、各成分を均一に混合できる方法を適宜選択すればよい。例えば、金属水酸化物と触媒を含む水溶液を十分に機械撹拌し、その水溶液中に、一般式:CF3CHClCH2Xで表される含フッ素アルカンを滴下することによって、反応を進行させることができる。
【0025】
反応温度は、金属水酸化物と含フッ素アルカンがいずれも液体として存在できる温度範囲であればよく、通常は、0〜30℃程度とすればよい。本発明によれば、この様な比較的低い反応温度において、高い収率で目的とする2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233xf)を得ることができる。
【0026】
本発明の製造方法では、特に、金属水酸化物を含む水溶液、含フッ素アルカン、及び触媒を混合する反応容器に蒸留塔を接合した反応装置を用いることが好ましい。この反応装置を用いる場合には、原料が液体として存在し、目的物である2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの沸点である約14℃を上回る温度範囲、例えば、14℃を上回る温度であって30℃以下の温度で脱ハロゲン化水素反応を行うことによって、生成した2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンを蒸留によって連続的に分離採取して、2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンを連続的に製造することが可能となる。この方法では、反応温度は特に14〜20℃程度であることが好ましい。反応温度が高すぎると、蒸留によって採取した生成物中に原料が混入しやすく、一方、反応温度が低すぎると、生成物が反応液中に溶け込んで反応が進行して、副生成物としてプロピン化合物等が生じ、これが、蒸留によって採取した生成物中に混入しやすいのでやはり好ましくない。
【0027】
上記した方法では、反応によって消費された含フッ素アルカンと金属酸化物を反応容器に適宜添加することによって、2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンを連続的に製造することができる。
【0028】
反応溶液の再利用
本発明の製造方法では、目的とする2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの他に、金属ハロゲン化物が副生するが、一般に、金属ハロゲン化物は、原料とする金属水酸化物と比較して溶解度が低いために、反応溶液中で沈殿が生じる。例えば、KOHの溶解度(20℃)は110g/100ccであるのに対して、KClの溶解度は34g/100ccである。
【0029】
本発明の製造方法では、生成したKCl等の金属ハロゲン化物の沈殿を濾過して反応溶液から分離した後、該反応溶液に原料とする含フッ素アルカンと金属水酸化物を添加してこれらの成分の濃度を再調整することによって、2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの製造を連続して行うことができる。これによって、反応溶液中に含まれる触媒を有効に利用することができ、廃液量を大きく減少させることができる。更に、濾取された金属ハロゲン化物の有効利用を図ることもできる。
【発明の効果】
【0030】
本発明の製造方法は、液相において、取り扱いの難しい触媒を用いることなく、比較的低温で実施できる方法であり、高い収率で目的とする2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンを得ることができる。
【0031】
このため、本発明方法は、2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの製造方法として、工業的に非常に有利な方法である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
実施例1
反応器温度計、精留トップ温度計、滴下漏斗、オルダーショウ精留塔(5段)、精留ヘッド、ドライアイスアセトンによるコールドフィンガートラップ、及び受器をセットした1リットル三つ口フラスコに、50wt%水酸化カリウム水溶液1000gと相間移動触媒であるAliquot336(商標名、Aldrich社製)(トリオクチルメチルアンモニウムクロライド(TOMAC))3.0gを加え、水浴にて10℃に冷却した。マグネチックスターラーにて撹拌しながら反応器内温度が20℃以下となるように滴下漏斗から1,2−ジクロロ−3,3,3−トリフルオロプロパン(HCFC−243db)700g(4.2モル)を滴下した。反応器内温が14℃以上になるとガスが発生した。全還流を精留トップ温度が13℃になった時点で還流比(戻り:留分)=2:1とし、精留トップ温度15℃までを採取することによって、目的とする2−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(HCFO−1233xf)を含む留分530g得た。ガスクロマトグラフィー分析による純度は99.2%であることから、この時の収率は97%であった。
【0033】
実施例2
1,2−ジクロロ−3,3,3−トリフルオロプロパン(HCFC−243db)220g(1.32モル)、60wt%水酸化ナトリウム水溶液95g及びAliquot336(Aldrich社製)1.0gを用いた以外は実施例1と同様に反応を行い、目的とする2−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(HCFO−1233xf)を含む留分を174g得た。ガスクロマトグラフィー分析による純度は99.1%であることからこの時の収率は96%であった。
【0034】
実施例3
1,2−ジクロロ−3,3,3−トリフルオロプロパン(HCFC−243db)180g(1.08モル)及び50wt%水酸化カリウム280gを用い、相間移動触媒に代えて、非プロトン性極性溶媒であるジメチルアセトアミド30.0gを用いた以外は実施例1と同様に反応を行い、2−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(HCFO−1233xf)を含む留分を108g得た。ガスクロマトグラフィー分析による純度は99.0%であることからこの時の収率は89%であった。
【0035】
実施例4
実施例1において反応後の三つ口フラスコ内の残留物を濃縮し析出したKClを減圧ろ過することにより分離した。この時の濾液の量は250gであり、相間移動触媒であるAliquot336は濾液中に残存した。
【0036】
この濾液に、60wt%KOH水溶液750gを加え水浴にて10℃に冷却し、1,2−ジクロロ−3,3,3−トリフルオロプロパン(HCFC−243db)700g(4.2モル)を用いて実施例1と同様に反応して目的とする2−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(HCFO−1233xf)を含む留分を525g得た。ガスクロマトグラフィー分析による純度は99.4%であることからこの時の収率は95.2%であった。