【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、特定の成分を使用することによって、上記目的を達成し得る塗料組成物が得られることを見出し、ここに本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、下記の塗料組成物及びその製造方法に関する。
1. ポリプロピレン樹脂を含む物品に対して無電解めっきを施すための塗料組成物であって、以下の(1)〜(3):
(1)パラジウム粒子と分散剤との複合体、
(2)水及び/又は非プロトン性極性溶媒、並びに
(3)オレフィン系樹脂、
を含有することを特徴とする、無電解めっき用塗料組成物。
2. 前記(1)複合体は、分散剤の存在下、パラジウムイオンを還元することによって得られる、上記項1に記載の塗料組成物。
3. 前記非プロトン性極性溶媒が、N−メチルピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド及びN,N-ジメチルアセトアミドからなる群から選ばれた少なくとも1種である、上記項1又は2に記載の塗料組成物。
4. ポリプロピレン樹脂を含む物品に対して無電解めっきを施すための塗料組成物の製造方法であって、
(2)水及び/又は非プロトン性極性溶媒、並びに(3)オレフィン系樹脂を含有する無電解めっき用塗料組成物の製造方法であり、
以下の(i)並びに(ii):
(i) (2)水及び/又は非プロトン性極性溶媒中に、パラジウムイオン及び分散剤を存在させる工程1、並びに
(ii) 前記パラジウムイオンと還元剤とを反応させることにより、前記パラジウムイオン
を還元する工程2、
を順に含むことを特徴とする、塗料組成物の製造方法。
5. 前記非プロトン性極性溶媒が、N−メチルピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド及びN,N-ジメチルアセトアミドからなる群から選ばれた少なくとも1種である、上記項4に記載の塗料組成物の製造方法。
6. 上記項1〜3のいずれかに記載の塗料組成物をポリプロピレン樹脂を含む物品に対して塗布した後、無電解めっきを施すことによって得られる、被めっき物。
7. 前記塗布が、グラビアオフセット印刷方式又はフレキソ印刷方式による塗布である、上記項6に記載の被めっき物。
8. 上記項1〜3のいずれかに記載の無電解めっき用塗料組成物を、ポリプロピレン樹脂を含む物品に塗布して塗膜を形成した後、無電解めっき液と接触させることにより、無電解めっき皮膜を形成する方法。
9. 前記塗布が、グラビアオフセット印刷方式又はフレキソ印刷方式による塗布である、上記項8に記載の方法。
【0010】
以下、本発明の塗料組成物について、詳細に説明する。
【0011】
≪本発明の塗料組成物≫
本発明の塗料組成物は、
以下の(1)〜(3):
(1)パラジウム粒子と分散剤との複合体、
(2)水及び/又は非プロトン性極性溶媒、並びに
(3)オレフィン系樹脂、
を含有することを特徴とする、ポリプロピレン樹脂を含む物品に対して無電解めっきを施すための塗料組成物である。即ち、本発明の塗料組成物は、PP樹脂を含む物品に対して無電解めっきを施すという特定の用途に用いられるものである。本発明の無電解めっき用塗料組成物(以下、単に本発明の塗料組成物ともいう)は、分散性に優れており、従来の方法よりも簡便にかつ効率的に、PP樹脂を含む物品に対して無電解めっき用塗膜を形成することが可能であり、しかも環境に対する悪影響が少なく、安全性が高い。また、上記無電解めっき用塗膜は、密着性及び外観皮膜に優れた無電解めっき皮膜を形成することができ、当該無電解めっき皮膜の析出速度にも優れる。
【0012】
以下、本発明の塗料組成物の各成分について説明する。なお、本発明では、部、%等の表示を使用するが、特に断りがない限り、質量部又は質量%(wt%)を表す。
【0013】
(1)パラジウム粒子と分散剤との複合体
本発明の塗料組成物は、パラジウム粒子(Pd粒子)と、分散剤との複合体を含有する(以下、この複合体をPd複合体ともいう)。
【0014】
Pd複合体は、例えば、溶媒中に分散剤及びパラジウムイオン(Pdイオン)を存在させた後、当該パラジウムイオンを還元することにより得ることができる。
【0015】
分散剤としては、Pd複合体の形状が、(i)分散剤が互いに絡み合った外観を呈し、(ii)少なくとも一部の分散剤どうしの接点で両者が接合している、という条件を満たすものが好ましい。例えば、ポリカルボン酸アンモニウム塩、ポリカルボン酸ナトリウム塩、ポリカルボン酸トリエチルアミン塩、ポリカルボン酸トリエタノールアミン塩等のポリカルボン酸系高分子分散剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩、アルキルヒドロキシエーテルカルボン酸塩等のヒドロキシル基を有するブロック共重合体型高分子分散剤;アクリル酸−マレイン酸共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、アクリル酸−スルホン酸共重合体等のカルボキシル基を有するブロック共重合体型高分子分散剤;などを使用することができる。分散剤は、1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。分散剤の中でも、ヒドロキシル基及び/又はカルボキシル基を有するブロック共重合体型高分子分散剤が好ましい。
【0016】
分散剤は、市販品を使用することができる。ポリカルボン酸系高分子分散剤は、サンノプコ(株)製ノプコサントK,R,RFA, ノプコスパース44-C, SNディスパーサント5020,5027,5029,5034,5045,5468 、花王(株)製デモールP,EP, ポイズ520,521,530,532A,等として販売されている。カルボキシル基を有するブロック共重合体型高分子分散剤は、ビックケミー・ジャパン(株) DISPERBYK180,187,191,194、 (株)日本触媒製アクアリックTL,GL,LSとして販売されている。また、ヒドロキシル基を有するブロック共重合体型高分子分散剤は、ビックケミー・ジャパン(株)製DISPERBYK190,2010等として販売されている。
【0017】
パラジウムイオンを供給する化合物としては、塩化パラジウム、硫酸パラジウム、硝酸パラジウム、酢酸パラジウム、安息香酸パラジウム、サリチル酸パラジウム、パラトルエンスルホン酸パラジウム、過塩素酸パラジウム、ベンゼンスルホン酸パラジウム等が挙げられる。パラジウムイオンを供給する化合物は、1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0018】
Pdイオンを還元する方法としては、溶媒中に分散剤及びPdイオンを存在させた後、還元剤を前記溶媒中に加える方法が挙げられる。これによりPdイオンと還元剤とが接触し、反応する。還元剤としては、ヒドラジンヒドラート(ヒドラジン1水和物)、水素化ホウ素ナトリウム、N,Nジメチルエタノールアミン、ジエタノールアミンなどの2級又は3級アミン類が挙げられる。
【0019】
還元する際に使用される溶媒(分散剤及びPdイオンを存在させるための溶媒)は、以下の(2)で説明される水及び/又は非プロトン性極性溶媒(以下、(2)の溶媒ともいう)を使用することができる。溶媒は、1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0020】
Pd複合体の形状は、
図2のように、(i)分散剤が互いに絡み合った外観を呈し、(ii)少なくとも一部の分散剤どうしの接点で両者が接合しており、(iii)前記分散剤にPd粒子が付着している、という構造であると考えられる。具体的に、Pd複合体の形状は、ランダムコイル状、密集した球状又は球形構造のいずれであってもよい。
【0021】
Pd粒子の多くは、分散剤の外側に付着していると考えられる。例えば、Pd複合体の形状(分散剤全体の形状)が密集した球状である場合、Pd粒子の多くは当該球状の表面側(外側)に付着していると考えられる。
【0022】
Pd複合体中のPd粒子と分散剤との質量比は、Pd粒子:分散剤=50:50〜95:5程度であり、Pd粒子:分散剤=65:35〜85:15が好ましい。
【0023】
Pd粒子単独の平均粒子径は、特に限定されないが、2〜10nmが好ましい。なお、本明細書では、Pd粒子の粒子径は、後述する透過型電子顕微鏡で測定している。また、本明細書では、Pd粒子の平均粒子径は、Pd粒子をランダムに10点選択し、そのPd粒子の粒子径を上記透過型電子顕微鏡で測定して、個数平均することで算出される(個数基準平均径)。
【0024】
一方、Pd複合体の平均粒子径は、特に限定されないが、全体としては平均粒子径20〜300nm程度の球形状(本明細書
図2)の構造を有していることが好ましい。本明細書において、Pd複合体の平均粒子径は、粒径アナライザー(大塚電子株式会社、FPAR−1000)で測定されたものである(質量基準平均径)。
【0025】
本発明の無電解めっき用塗膜が、密着性及び外観皮膜に優れた無電解めっき皮膜を形成することができ、当該無電解めっき皮膜の析出速度にも優れる理由は、以下のような原理によるものと考えられる。
(原理) Pd複合体が形成する構造の内部は、(2)の溶媒を吸着するように包含している。このPd複合体の内部の(2)の溶媒は、本発明の塗料組成物中の(2)の溶媒よりも、乾燥速度が小さい。そのため、本発明の塗料組成物をPP樹脂を含む物品に塗布すると、まず塗料組成物中の(2)の溶媒が乾燥することにより塗膜全体が形成され、その後に塗膜中に存在するPd複合体の内部の(2)の溶媒が乾燥することにより塗膜表面にクレーター状の凹凸を形成する。これにより、無電解めっき用塗膜(以下、単に塗膜ともいう)が形成される。この凹凸表面には、Pd粒子が多く存在する。このような原理で前記塗膜は形成されるため、以下の(a)〜(c):
(a) Pd粒子が塗膜表面に密集するように多く存在しているため、当該塗膜表面と無電解めっき液との反応性に優れ、
(b) 塗膜表面には前記凹凸が形成されているため、めっき皮膜と当該塗膜との間のアンカー効果に優れ、
(c) 前記凹凸は非常に微細であり塗膜表面の平滑性が保持されているため、光沢度の高い(外観皮膜に優れた)めっき皮膜が得られる、
という効果が奏されているものと考えられる。
【0026】
(2)水及び/又は非プロトン性極性溶媒
本発明の塗料組成物は、(2)の水及び/又は非プロトン性極性溶媒((2)の溶媒)を含有する。当該(2)の溶媒は、Pd複合体やオレフィン系樹脂との親和性に優れており、Pd複合体及びオレフィン系樹脂を分散させる溶媒(又は分散媒)としての機能を有する。
【0027】
非プロトン性極性溶媒としては、N-メチルピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)等の>N−C(=O)−という原子団(または基若しくは結合)を有する非プロトン性極性溶媒;ジメチルスルホキシド;γ―ブチロラクトンなどが挙げられる。非プロトン性極性溶媒の中でも、>N−C(=O)−原子団を有する非プロトン性極性溶媒が好ましく、NMP、DMF及びDMAcからなる群から選ばれた少なくとも1種がより好ましい。なお、(2)の溶媒は1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0028】
(2)の溶媒は、パラジウムイオンの還元反応後に変換(例えば、溶媒を水からNMPに変換)することが可能である。
【0029】
(2)の溶媒の含有量は、(1)Pd複合体100質量部に対して、10
2〜10
6質量部程度が好ましい。(2)の溶媒が水のみである場合は、(1)Pd複合体100質量部に対して5×10
3〜3×10
5質量部が好ましく、10
4〜2×10
5質量部がより好ましい。(2)の溶媒が非プロトン性極性溶媒のみである場合は、(1)Pd複合体100質量部に対して5×10
2〜5×10
3質量部が好ましく、10
3〜2×10
3質量部がより好ましい。
【0030】
(3)オレフィン系樹脂
本発明の塗料組成物は、オレフィン系樹脂を含有する。本発明でオレフィン系樹脂を使用することにより、PP樹脂を含む物品上に無電解めっき用塗膜をより強固に密着させることができる。オレフィン系樹脂は、無電解めっき用塗膜を構成する高分子母材(マトリックス樹脂)となる。
【0031】
本明細書において、オレフィン系樹脂は、オレフィンの重合体(ポリオレフィン又はオレフィン樹脂)、オレフィンと他のモノマーとの共重合体(オレフィン共重合体)のいずれも包含する。また、本明細書において、オレフィン系樹脂は、(i)各種変性されたオレフィン系樹脂、(ii)部分的に塩素化されたオレフィン系樹脂、(iii)極性基をもったオレフィン系樹脂等も包含する。
【0032】
オレフィン系樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、エチレン−プロピレン共重合体、プロピレン−ブテン共重合体、プロピレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ブテン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体等が挙げられる。変性されたオレフィン系樹脂(変性オレフィン系樹脂)としては、上述のオレフィン系樹脂に、アクリル変性、メタクリル変性、アミノ変性、カルボン酸変性、エポキシ変性、マレイン酸変性、エマルション変性等で変性された樹脂等が挙げられる。前述の極性基としては、-CONH-、-NH-、-C(=O)-O-、-O-、-S-S-、-NCO、-CN、-COOH、-COOR(Rはアルキル基)、-NO
2、-Cl、-NH
2、-OH、
【0033】
【化1】
等が挙げられる。
【0034】
オレフィン系樹脂は、各種市販品を使用することができる。例えば、オレフィン系樹脂として、三菱化学(株)製AOTOLOK BW-5550,サーフレンP-1000; 東洋紡(株)製ハードレンMD-15B,NS-2002,NA-3002,NZ-1001,UV-D20,UV-C、;ユニチカ(株)製、アローベースSA-1200,SB-1200,SE-1200,SB-1010,SB-1230N; 住化ケムテックス(株)製スミフィットH1301-S03,B1401-S03,Z9901-E101;等の市販されている商品を使用することができる。また、変性オレフィン系樹脂としては、例えば、三菱化学(株)製モディックH511,L502,M142,A543,P502,P553A,P565,F502,F532,F534A,P908,ポリテールH; 東洋紡(株)製トーヨータックM-100,M-312,PMA-H1100P,PMA-M; 住化ケムテックス(株)スミフィットCK1D等の市販されている商品を使用することができる。また、塩素化オレフィン系樹脂としては、例えば、東洋紡(株)製ハードレン13-LP,13-LLP,14-LWP,15-LP,15-LLP,16-LP,DX-526P,EH-801,EW-5303,5504,5313,8511,EZ-1000,2000; 日本製紙(株)製スーパークロンC,L-206,813A,803M,803MW,803LT,1026,803L,814HS,390S,B.BX,A,E-415,E-480T,E-604、アウローレン100S,150S,200S,250S,350S,351S,353S,359S,AE-202,AE-301;等の市販されている商品を使用することができる。また、変性塩素化オレフィン系樹脂としては、例えば、東洋紡(株)製ハードレンCY-9122P,9142P,HM-21P,M-28P,F-2P,F-6P,CY-1132,P-5528,EY-4075,4011,6011; 日本製紙(株)製スーパークロン822,892L,930,842LM,851L,3228S,3221S,2319S,224H,223M,240M,260F; 等の市販されている商品を使用することができる。
【0035】
オレフィン系樹脂の中でも、PP樹脂を含む物品に対する密着性の観点から、ポリプロピレン系樹脂が好ましく、上記密着性及びPd複合体の分散性の観点からアクリル変性塩素化ポリプロピレンがより好ましい。なお、オレフィン系樹脂は、1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0036】
前記オレフィン系樹脂の含有量は、Pd複合体100質量部に対して、10
2〜10
4質量部が好ましく、100〜2000質量部がより好ましい。
【0037】
本発明の塗料組成物は、本発明の効果が奏される範囲内で、上記(2)溶媒に分散又は溶解する樹脂(以下、バインダー樹脂ともいう)を使用することができる。具体的なバインダー樹脂としては、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、シェラック樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、等が挙げられる。バインダー樹脂は、1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。なお、4−アルキル−3−カルボン酸エステルポリピロールは、めっき皮膜の密着性の低下、耐水性の低下、耐候性の低下等の観点から、バインダー樹脂として含有しないことが好ましい。
【0038】
また、(2)の溶媒の他、本発明の効果が奏される範囲内で、希釈溶媒を使用することができる。希釈溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール(IPA)等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、シクロヘキサノン、ジアセトンアルコール等のケトン類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、tert-ブチルセロソルブ等のグリコールエーテル類;安息香酸メチル、安息香酸エチル、サリチル酸メチル等の芳香族カルボン酸エステル類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、メチルカルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)等のグリコールエーテルエステル類;酢酸エチル、酢酸ブチル等のアルカノールエステル類;等を含有してもよい。中でも、Pd複合体やオレフィン系樹脂との親和性、塗装性能等の観点から、ケトン類が好ましい。
【0039】
これらの希釈溶媒を使用する場合、その含有量は、(1)Pd複合体100質量部に対して、0〜2×10
4質量部とすることが好ましく、20〜2×10
4質量部がより好ましい。希釈溶媒は、1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0040】
≪本発明の塗料組成物の製造方法≫
本発明の塗料組成物の製造方法は、特に限定されないが、以下の(i)並びに(ii):
(i) (2)水及び/又は非プロトン性極性溶媒中に、パラジウムイオン及び分散剤を存在させる工程1、並びに
(ii) 前記パラジウムイオンと還元剤とを反応させることにより、前記パラジウムイオンを還元する工程2、
を含む製造方法により製造することが好ましい。前記製造方法によれば、PP樹脂を含む物品に対して無電解めっき用塗膜を形成することが可能である塗料組成物を、環境に対する悪影響が少なく簡便にかつ効率的に製造することができる。当該塗料組成物は、分散性に優れ、かつ、従来の方法よりも簡便で効率的にPP樹脂を含む物品に対して無電解めっき用塗膜を形成することが可能であり、しかも環境に対する悪影響が少なく、安全性が高い。上記無電解めっき用塗膜は、密着性及び外観皮膜に優れた無電解めっき皮膜を形成することができ、当該無電解めっき皮膜の析出速度にも優れる。
【0041】
工程1において、パラジウムイオンと分散剤とを溶媒中に存在させる。パラジウムイオンは、供給源として前述のパラジウムイオンを供給する化合物を使用することができる。分散剤としては、前述の分散剤を使用することができる。
【0042】
工程1におけるパラジウムイオンと分散剤の使用比率(質量比)は、パラジウムイオン100質量部に対して、分散剤は通常、10〜200質量部程度である。パラジウムイオン100質量部に対して、分散剤は30〜150質量部が好ましく、さらに好ましくは50〜100質量部である。
【0043】
工程1で使用する溶媒としては、上記(2)の溶媒と同様の溶媒を使用することができる。当該溶媒の使用量は、パラジウムイオンと分散剤を均一に存在させることができれば特に限定されないが、パラジウムイオン100質量部に対して10
4〜3×10
5質量部が好ましく、10
4〜10
5質量部がより好ましい。
【0044】
工程2では、パラジウムイオンと還元剤とを反応させることにより、パラジウムイオンが還元剤によって還元される。即ち、工程2ではパラジウムイオンの還元反応が生じ、結果として前述の(1)のPd複合体を得ることができる。工程2における還元剤としては、前述の(1)のPd複合体を作製するために使用される還元剤を使用することができる。還元剤の使用量は、特に限定されないが、パラジウムイオン100質量部に対して、100〜800質量部程度であり、200〜600質量部が好ましい。
【0045】
工程2に関して、反応温度は35〜45℃程度であり、50〜60℃程度まで昇温する。反応時間は、特に限定されないが、1〜5時間程度とすればよい。反応の際の圧力及び雰囲気は、特に限定されず、大気圧下かつ大気(空気)雰囲気下で行えばよい。反応はビーカーなどの開放系で行うことができ、反応方法としてはパラジウムイオン、分散剤及び還元剤を含有する溶液を羽根付き撹拌棒で撹拌すればよい。
【0046】
本発明の塗料組成物は、工程1及び工程2のみの手順でも得られるが、工程2の後に、例えば、(2)の溶媒、(3)オレフィン系樹脂、その他成分等の含有(添加);Pd複合体含有液の分離;などのその他の操作を行ってもよい。この点について、以下説明する。
【0047】
工程2の後では、前述の(2)の溶媒及び/又は(3)オレフィン系樹脂を含有することができる。なお、パラジウムイオンの還元反応後に溶媒を変換する(例えば、工程1の溶媒として水を使用し、工程2の後で上記水をNMPに変換することにより、NMPを溶媒とする無電解めっき塗料組成物とする)ことも可能である。
【0048】
工程2の後に、工程2で得られたPd複合体含有液を限外濾過による分離を行うことができる。この操作により、Pd複合体含有液に含まれる無機塩や過剰の分散剤等を除去することができる。より具体的には、Pd複合体含有液に対して濾過操作及び水、溶媒等(特に水)の補填操作を繰り返すことができる。
【0049】
≪本発明の被めっき物≫
本発明の被めっき物は、本発明の塗料組成物をPP樹脂を含む物品に塗布した後、無電解めっきを行って無電解めっき皮膜を形成することにより得られる。被めっき物に形成される無電解めっき皮膜は、密着性に優れる。
【0050】
本明細書において、PP樹脂を含む物品とは、少なくとも無電解めっきが施される表面部の主成分がPP樹脂である(即ち、少なくとも無電解めっきが施される表面部がPP樹脂を50質量%以上含有する)物品を指すものとする。即ち、PP樹脂を含む物品は、無電解めっきが施される表面部の材質がPP樹脂のみからなる必要はなく、当該表面部の材質がPP樹脂以外の成分を含有していてもよい。当該表面部に含まれるPP樹脂以外の成分としては、粘土鉱物(例えばタルク、マイカ等)、無機充填剤(例えばカーボン、炭酸カルシウム、酸化チタン等)、ゴム(例えばエチレン−プロピレン共重合体)などである。
【0051】
また、本明細書において、PP樹脂を含む物品は、無電解めっきが施される表面部以外の部位については、PP樹脂を含有していなくてもよい。例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)からなるフィルム上にPP樹脂層が形成された基材(即ち、2層の樹脂層からなる基材)は、本発明におけるPP樹脂を含む物品に包含される。また、例えば、PETフィルムの全ての面上にPP樹脂が覆うように形成された基材もまた、本発明におけるPP樹脂を含む物品に包含される。
【0052】
PP樹脂を含む物品として、耐衝撃性、剛性、耐熱性等の観点から、無電解めっきが施される表面部が50〜70質量%のPP樹脂、10〜30質量%のエチレン−プロピレン共重合体、10〜30質量%の粘土鉱物、1〜5質量%の無機充填剤のみからなる物品がより好ましい。
【0053】
PP樹脂を含む物品としては、例えば、冷蔵庫の野菜ケース、洗濯機等の筐体;バンパー、グリル、フォグランプベゼル、インストルメントパネル(ダッシュボード)、コンソールボックス等の自動車用部品;などが挙げられる。また、PP樹脂を含む物品として、糸状の物品を使用し、これに無電解めっきを施してもよい。この場合、得られる物品は、導電性繊維として使用することができる。
【0054】
PP樹脂を含む物品に対して上記塗料組成物を塗布する方法としては、特に限定されず、例えば、バーコーター、グラビア印刷機(グラビアオフセット)、フレキソ印刷機、インクジェット印刷機、ディッピング、スプレー、スピンコーター、ロールコーター、リバースコーター、スクリーン印刷機等を用いて、印刷またはコーティングすることができる。また、塗料組成物に対して当該物品を浸漬させてもよい。中でも、グラビアオフセット印刷又はフレキソ印刷による塗布が好ましい。
【0055】
本発明の塗料組成物を塗布した後では、乾燥処理を行うことができる。当該乾燥工程によって、無電解めっきを行う際に不必要な溶媒を効率的に除去するとともに、無電解めっき用塗膜とPP樹脂を含む物品との密着性、及び当該塗膜の表面強度を向上させることができる。
【0056】
乾燥処理の温度は、好ましくは60〜180℃程度である。さらに好ましくは80〜130℃である。乾燥時間は、乾燥温度にもよるが、通常10分〜90分程度である。さらに好ましくは30〜60分程度である。
【0057】
無電解めっき用塗膜には、Pd複合体が含まれる。Pd複合体は、塗膜に対して均一に分散された状態で存在する。そのため、当該塗膜上に対して、より効率的に無電解めっきを行うことができる。
【0058】
乾燥前における塗膜の厚みは、使用用途によって適宜選択することができる。乾燥前では通常1〜30μm程度であり、2〜20μmが好ましい。
【0059】
乾燥後における塗膜の厚みは、通常0.05〜3μm程度であり、0.1〜1μmが好ましい。乾燥後における塗膜の厚みが上記範囲内であれば、PP樹脂を含む物品と塗膜との密着性、および無電解めっき皮膜(金属皮膜)と塗膜との密着性のいずれにおいて特に優れる。
【0060】
前記の方法によって塗膜が形成されたPP樹脂を含む物品は、金属を析出させるためのめっき液と接触し、これにより無電解めっき皮膜が形成される。無電解めっきは反応性がよく、得られた無電解めっき皮膜はむらがなく、密着性及び外観皮膜に優れる。
【0061】
めっき液としては、通常、無電解めっきに使用されるめっき液であれば特に限定されず、例えば、銅、金、銀、ニッケル、クロム等が挙げられる。特に、本発明の塗料組成物によって形成された塗膜との関係から、銅又はニッケルが好ましい。これらのめっき条件については、常法に従えばよい。
【0062】
例えば、無電解めっき処理温度に関して、無電解銅めっき浴では通常25〜45℃程度であり、処理時間は10〜20分程度で、0.3〜0.4μm程度の析出膜厚となる。また、無電解ニッケルボロン浴では、処理温度は55〜70℃程度であり、析出速度は通常5μm/hr(60℃)程度である。無電解ニッケルりん浴では通常85〜95℃程度であり、析出速度は通常20μm/hr(90℃)程度である。
【0063】
被めっき物は、上述の電化製品の筐体、自動車用部品などの各種用途で使用することができる。また、上記被めっき物が糸状の導電性繊維である場合は、衣類や電線に使用することができる。