特許第5946435号(P5946435)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5946435
(24)【登録日】2016年6月10日
(45)【発行日】2016年7月6日
(54)【発明の名称】塗料組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 123/00 20060101AFI20160623BHJP
   C09D 7/12 20060101ALI20160623BHJP
   B05D 3/10 20060101ALI20160623BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20160623BHJP
   C23C 18/30 20060101ALI20160623BHJP
【FI】
   C09D123/00
   C09D7/12
   B05D3/10 D
   B05D7/24 302G
   C23C18/30
【請求項の数】8
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2013-200293(P2013-200293)
(22)【出願日】2013年9月26日
(65)【公開番号】特開2015-67624(P2015-67624A)
(43)【公開日】2015年4月13日
【審査請求日】2015年6月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】504137554
【氏名又は名称】株式会社イオックス
(73)【特許権者】
【識別番号】000157083
【氏名又は名称】トヨタ自動車東日本株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中辻 達也
(72)【発明者】
【氏名】梶原 康一
(72)【発明者】
【氏名】中村 克弘
(72)【発明者】
【氏名】田中 卓実
【審査官】 増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−001955(JP,A)
【文献】 特開2013−129877(JP,A)
【文献】 特開2009−293085(JP,A)
【文献】 特開2008−007849(JP,A)
【文献】 特開2004−323555(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0148676(US,A1)
【文献】 特開2009−140880(JP,A)
【文献】 特開2006−225712(JP,A)
【文献】 特開平11−076800(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 123/00
B05D 3/10
B05D 7/24
C09D 7/12
C23C 18/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン樹脂を含む物品に対して無電解めっきを施すための塗料組成物であって、以下の(1)〜(3):
(1)パラジウム粒子と分散剤との複合体、
(2)水及び/又は非プロトン性極性溶媒、並びに
(3)オレフィン系樹脂、
を含有することを特徴とする、無電解めっき用塗料組成物。
【請求項2】
前記(1)複合体は、分散剤の存在下、パラジウムイオンを還元することによって得られる、請求項1に記載の塗料組成物。
【請求項3】
前記非プロトン性極性溶媒が、N−メチルピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド及びN,N-ジメチルアセトアミドからなる群から選ばれた少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の塗料組成物。
【請求項4】
ポリプロピレン樹脂を含む物品に対して無電解めっきを施すための塗料組成物の製造方法であって、
(2)水及び/又は非プロトン性極性溶媒、並びに(3)オレフィン系樹脂を含有する無電解めっき用塗料組成物の製造方法であり、
以下の(i)並びに(ii):
(i) (2)水及び/又は非プロトン性極性溶媒中に、パラジウムイオン及び分散剤を存在させる工程1、並びに
(ii) 前記パラジウムイオンと還元剤とを反応させることにより、前記パラジウムイオン
を還元する工程2、
を順に含むことを特徴とする、塗料組成物の製造方法。
【請求項5】
前記非プロトン性極性溶媒が、N−メチルピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド及びN,N-ジメチルアセトアミドからなる群から選ばれた少なくとも1種である、請求項4に記載の塗料組成物の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれかに記載の塗料組成物をポリプロピレン樹脂を含む物品に対して塗布した後、無電解めっきを施すことによって得られる、被めっき物。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれかに記載の無電解めっき用塗料組成物を、ポリプロピレン樹脂を含む物品に塗布して塗膜を形成した後、無電解めっき液と接触させることにより、無電解めっき皮膜を形成する方法。
【請求項8】
前記塗布が、グラビアオフセット印刷方式又はフレキソ印刷方式による塗布である、請求項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレン樹脂(以下、PP樹脂又はPPともいう)を含む物品に対して金属めっき(以下、単にめっきともいう)を形成する技術は、自動車部品、家電製品等に対して意匠性を付与する目的で、広く利用されている。
【0003】
一般的に、PP樹脂にめっきを形成することは難しい。そのため、PP樹脂にめっきを形成するためには、(i)PP樹脂を含む物品表面に対してエッチングを行う(粗化する)ことによりアンカー効果(投錨効果)を付与するか、または(ii)PP樹脂を含む物品表面に対してめっきと密着性のよい下地層を形成すること、等が検討されている(特許文献1〜4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−59587号公報
【特許文献2】特開2001−81396号公報
【特許文献3】特開2005−113236号公報
【特許文献4】特開2009−293085号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1及び2では、エッチング方法としてクロム酸を含有するエッチング液を使用する。かかるクロム酸は有害物質であるため、環境負荷が高いという問題がある。
また、特許文献3では、エッチング方法の代替としてUV処理やオゾン処理等を行うので、上記クロム酸を使用する必要がない。しかしながら、引用文献3では、上記UV処理やオゾン処理をするために、UV照射器、オゾン発生器等の大規模な機器を導入することを必要とし、設備投資が甚大となる問題がある。しかも、引用文献3では、処理工程数が多いので、工程が煩雑化するという問題もある。
また、特許文献4では、特許文献3と同様上記クロム酸を使用する必要はないが、密着性を付与するための前処理工程と、無電解めっき工程との間に、触媒金属を付与する工程(例えば、パラジウムイオンを基材に付着させた後に当該パラジウムイオンを金属化することによって、触媒となるパラジウム金属とする工程)及び触媒金属を活性化する工程が必要である。そのため、特許文献4は全体としての工程数が多く、工程が煩雑化するという問題がある。
【0006】
従って、PP樹脂を含む物品に対して簡単に無電解めっき処理を行うことを可能にする塗料組成物であって、環境に対する悪影響が少なく、安全性が高いとともに、優れためっき密着性を付与することができる塗料組成物の開発が望まれている。
【0007】
本発明は、PP樹脂を含む物品に対して簡単に無電解めっき処理を行うことを可能にする分散性に優れた塗料組成物であって、環境に対する悪影響が少なく、安全性が高いとともに、優れためっき密着性及び外観皮膜を付与することができる塗料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、特定の成分を使用することによって、上記目的を達成し得る塗料組成物が得られることを見出し、ここに本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、下記の塗料組成物及びその製造方法に関する。
1. ポリプロピレン樹脂を含む物品に対して無電解めっきを施すための塗料組成物であって、以下の(1)〜(3):
(1)パラジウム粒子と分散剤との複合体、
(2)水及び/又は非プロトン性極性溶媒、並びに
(3)オレフィン系樹脂、
を含有することを特徴とする、無電解めっき用塗料組成物。
2. 前記(1)複合体は、分散剤の存在下、パラジウムイオンを還元することによって得られる、上記項1に記載の塗料組成物。
3. 前記非プロトン性極性溶媒が、N−メチルピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド及びN,N-ジメチルアセトアミドからなる群から選ばれた少なくとも1種である、上記項1又は2に記載の塗料組成物。
4. ポリプロピレン樹脂を含む物品に対して無電解めっきを施すための塗料組成物の製造方法であって、
(2)水及び/又は非プロトン性極性溶媒、並びに(3)オレフィン系樹脂を含有する無電解めっき用塗料組成物の製造方法であり、
以下の(i)並びに(ii):
(i) (2)水及び/又は非プロトン性極性溶媒中に、パラジウムイオン及び分散剤を存在させる工程1、並びに
(ii) 前記パラジウムイオンと還元剤とを反応させることにより、前記パラジウムイオン
を還元する工程2、
を順に含むことを特徴とする、塗料組成物の製造方法。
5. 前記非プロトン性極性溶媒が、N−メチルピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド及びN,N-ジメチルアセトアミドからなる群から選ばれた少なくとも1種である、上記項4に記載の塗料組成物の製造方法。
6. 上記項1〜3のいずれかに記載の塗料組成物をポリプロピレン樹脂を含む物品に対して塗布した後、無電解めっきを施すことによって得られる、被めっき物。
7. 前記塗布が、グラビアオフセット印刷方式又はフレキソ印刷方式による塗布である、上記項6に記載の被めっき物。
8. 上記項1〜3のいずれかに記載の無電解めっき用塗料組成物を、ポリプロピレン樹脂を含む物品に塗布して塗膜を形成した後、無電解めっき液と接触させることにより、無電解めっき皮膜を形成する方法。
9. 前記塗布が、グラビアオフセット印刷方式又はフレキソ印刷方式による塗布である、上記項8に記載の方法。
【0010】
以下、本発明の塗料組成物について、詳細に説明する。
【0011】
≪本発明の塗料組成物≫
本発明の塗料組成物は、
以下の(1)〜(3):
(1)パラジウム粒子と分散剤との複合体、
(2)水及び/又は非プロトン性極性溶媒、並びに
(3)オレフィン系樹脂、
を含有することを特徴とする、ポリプロピレン樹脂を含む物品に対して無電解めっきを施すための塗料組成物である。即ち、本発明の塗料組成物は、PP樹脂を含む物品に対して無電解めっきを施すという特定の用途に用いられるものである。本発明の無電解めっき用塗料組成物(以下、単に本発明の塗料組成物ともいう)は、分散性に優れており、従来の方法よりも簡便にかつ効率的に、PP樹脂を含む物品に対して無電解めっき用塗膜を形成することが可能であり、しかも環境に対する悪影響が少なく、安全性が高い。また、上記無電解めっき用塗膜は、密着性及び外観皮膜に優れた無電解めっき皮膜を形成することができ、当該無電解めっき皮膜の析出速度にも優れる。
【0012】
以下、本発明の塗料組成物の各成分について説明する。なお、本発明では、部、%等の表示を使用するが、特に断りがない限り、質量部又は質量%(wt%)を表す。
【0013】
(1)パラジウム粒子と分散剤との複合体
本発明の塗料組成物は、パラジウム粒子(Pd粒子)と、分散剤との複合体を含有する(以下、この複合体をPd複合体ともいう)。
【0014】
Pd複合体は、例えば、溶媒中に分散剤及びパラジウムイオン(Pdイオン)を存在させた後、当該パラジウムイオンを還元することにより得ることができる。
【0015】
分散剤としては、Pd複合体の形状が、(i)分散剤が互いに絡み合った外観を呈し、(ii)少なくとも一部の分散剤どうしの接点で両者が接合している、という条件を満たすものが好ましい。例えば、ポリカルボン酸アンモニウム塩、ポリカルボン酸ナトリウム塩、ポリカルボン酸トリエチルアミン塩、ポリカルボン酸トリエタノールアミン塩等のポリカルボン酸系高分子分散剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩、アルキルヒドロキシエーテルカルボン酸塩等のヒドロキシル基を有するブロック共重合体型高分子分散剤;アクリル酸−マレイン酸共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、アクリル酸−スルホン酸共重合体等のカルボキシル基を有するブロック共重合体型高分子分散剤;などを使用することができる。分散剤は、1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。分散剤の中でも、ヒドロキシル基及び/又はカルボキシル基を有するブロック共重合体型高分子分散剤が好ましい。
【0016】
分散剤は、市販品を使用することができる。ポリカルボン酸系高分子分散剤は、サンノプコ(株)製ノプコサントK,R,RFA, ノプコスパース44-C, SNディスパーサント5020,5027,5029,5034,5045,5468 、花王(株)製デモールP,EP, ポイズ520,521,530,532A,等として販売されている。カルボキシル基を有するブロック共重合体型高分子分散剤は、ビックケミー・ジャパン(株) DISPERBYK180,187,191,194、 (株)日本触媒製アクアリックTL,GL,LSとして販売されている。また、ヒドロキシル基を有するブロック共重合体型高分子分散剤は、ビックケミー・ジャパン(株)製DISPERBYK190,2010等として販売されている。
【0017】
パラジウムイオンを供給する化合物としては、塩化パラジウム、硫酸パラジウム、硝酸パラジウム、酢酸パラジウム、安息香酸パラジウム、サリチル酸パラジウム、パラトルエンスルホン酸パラジウム、過塩素酸パラジウム、ベンゼンスルホン酸パラジウム等が挙げられる。パラジウムイオンを供給する化合物は、1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0018】
Pdイオンを還元する方法としては、溶媒中に分散剤及びPdイオンを存在させた後、還元剤を前記溶媒中に加える方法が挙げられる。これによりPdイオンと還元剤とが接触し、反応する。還元剤としては、ヒドラジンヒドラート(ヒドラジン1水和物)、水素化ホウ素ナトリウム、N,Nジメチルエタノールアミン、ジエタノールアミンなどの2級又は3級アミン類が挙げられる。
【0019】
還元する際に使用される溶媒(分散剤及びPdイオンを存在させるための溶媒)は、以下の(2)で説明される水及び/又は非プロトン性極性溶媒(以下、(2)の溶媒ともいう)を使用することができる。溶媒は、1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0020】
Pd複合体の形状は、図2のように、(i)分散剤が互いに絡み合った外観を呈し、(ii)少なくとも一部の分散剤どうしの接点で両者が接合しており、(iii)前記分散剤にPd粒子が付着している、という構造であると考えられる。具体的に、Pd複合体の形状は、ランダムコイル状、密集した球状又は球形構造のいずれであってもよい。
【0021】
Pd粒子の多くは、分散剤の外側に付着していると考えられる。例えば、Pd複合体の形状(分散剤全体の形状)が密集した球状である場合、Pd粒子の多くは当該球状の表面側(外側)に付着していると考えられる。
【0022】
Pd複合体中のPd粒子と分散剤との質量比は、Pd粒子:分散剤=50:50〜95:5程度であり、Pd粒子:分散剤=65:35〜85:15が好ましい。
【0023】
Pd粒子単独の平均粒子径は、特に限定されないが、2〜10nmが好ましい。なお、本明細書では、Pd粒子の粒子径は、後述する透過型電子顕微鏡で測定している。また、本明細書では、Pd粒子の平均粒子径は、Pd粒子をランダムに10点選択し、そのPd粒子の粒子径を上記透過型電子顕微鏡で測定して、個数平均することで算出される(個数基準平均径)。
【0024】
一方、Pd複合体の平均粒子径は、特に限定されないが、全体としては平均粒子径20〜300nm程度の球形状(本明細書図2)の構造を有していることが好ましい。本明細書において、Pd複合体の平均粒子径は、粒径アナライザー(大塚電子株式会社、FPAR−1000)で測定されたものである(質量基準平均径)。
【0025】
本発明の無電解めっき用塗膜が、密着性及び外観皮膜に優れた無電解めっき皮膜を形成することができ、当該無電解めっき皮膜の析出速度にも優れる理由は、以下のような原理によるものと考えられる。
(原理) Pd複合体が形成する構造の内部は、(2)の溶媒を吸着するように包含している。このPd複合体の内部の(2)の溶媒は、本発明の塗料組成物中の(2)の溶媒よりも、乾燥速度が小さい。そのため、本発明の塗料組成物をPP樹脂を含む物品に塗布すると、まず塗料組成物中の(2)の溶媒が乾燥することにより塗膜全体が形成され、その後に塗膜中に存在するPd複合体の内部の(2)の溶媒が乾燥することにより塗膜表面にクレーター状の凹凸を形成する。これにより、無電解めっき用塗膜(以下、単に塗膜ともいう)が形成される。この凹凸表面には、Pd粒子が多く存在する。このような原理で前記塗膜は形成されるため、以下の(a)〜(c):
(a) Pd粒子が塗膜表面に密集するように多く存在しているため、当該塗膜表面と無電解めっき液との反応性に優れ、
(b) 塗膜表面には前記凹凸が形成されているため、めっき皮膜と当該塗膜との間のアンカー効果に優れ、
(c) 前記凹凸は非常に微細であり塗膜表面の平滑性が保持されているため、光沢度の高い(外観皮膜に優れた)めっき皮膜が得られる、
という効果が奏されているものと考えられる。
【0026】
(2)水及び/又は非プロトン性極性溶媒
本発明の塗料組成物は、(2)の水及び/又は非プロトン性極性溶媒((2)の溶媒)を含有する。当該(2)の溶媒は、Pd複合体やオレフィン系樹脂との親和性に優れており、Pd複合体及びオレフィン系樹脂を分散させる溶媒(又は分散媒)としての機能を有する。
【0027】
非プロトン性極性溶媒としては、N-メチルピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)等の>N−C(=O)−という原子団(または基若しくは結合)を有する非プロトン性極性溶媒;ジメチルスルホキシド;γ―ブチロラクトンなどが挙げられる。非プロトン性極性溶媒の中でも、>N−C(=O)−原子団を有する非プロトン性極性溶媒が好ましく、NMP、DMF及びDMAcからなる群から選ばれた少なくとも1種がより好ましい。なお、(2)の溶媒は1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0028】
(2)の溶媒は、パラジウムイオンの還元反応後に変換(例えば、溶媒を水からNMPに変換)することが可能である。
【0029】
(2)の溶媒の含有量は、(1)Pd複合体100質量部に対して、102〜106質量部程度が好ましい。(2)の溶媒が水のみである場合は、(1)Pd複合体100質量部に対して5×103〜3×105質量部が好ましく、104〜2×105質量部がより好ましい。(2)の溶媒が非プロトン性極性溶媒のみである場合は、(1)Pd複合体100質量部に対して5×102〜5×103質量部が好ましく、103〜2×103質量部がより好ましい。
【0030】
(3)オレフィン系樹脂
本発明の塗料組成物は、オレフィン系樹脂を含有する。本発明でオレフィン系樹脂を使用することにより、PP樹脂を含む物品上に無電解めっき用塗膜をより強固に密着させることができる。オレフィン系樹脂は、無電解めっき用塗膜を構成する高分子母材(マトリックス樹脂)となる。
【0031】
本明細書において、オレフィン系樹脂は、オレフィンの重合体(ポリオレフィン又はオレフィン樹脂)、オレフィンと他のモノマーとの共重合体(オレフィン共重合体)のいずれも包含する。また、本明細書において、オレフィン系樹脂は、(i)各種変性されたオレフィン系樹脂、(ii)部分的に塩素化されたオレフィン系樹脂、(iii)極性基をもったオレフィン系樹脂等も包含する。
【0032】
オレフィン系樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、エチレン−プロピレン共重合体、プロピレン−ブテン共重合体、プロピレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ブテン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体等が挙げられる。変性されたオレフィン系樹脂(変性オレフィン系樹脂)としては、上述のオレフィン系樹脂に、アクリル変性、メタクリル変性、アミノ変性、カルボン酸変性、エポキシ変性、マレイン酸変性、エマルション変性等で変性された樹脂等が挙げられる。前述の極性基としては、-CONH-、-NH-、-C(=O)-O-、-O-、-S-S-、-NCO、-CN、-COOH、-COOR(Rはアルキル基)、-NO2、-Cl、-NH2、-OH、
【0033】
【化1】
等が挙げられる。
【0034】
オレフィン系樹脂は、各種市販品を使用することができる。例えば、オレフィン系樹脂として、三菱化学(株)製AOTOLOK BW-5550,サーフレンP-1000; 東洋紡(株)製ハードレンMD-15B,NS-2002,NA-3002,NZ-1001,UV-D20,UV-C、;ユニチカ(株)製、アローベースSA-1200,SB-1200,SE-1200,SB-1010,SB-1230N; 住化ケムテックス(株)製スミフィットH1301-S03,B1401-S03,Z9901-E101;等の市販されている商品を使用することができる。また、変性オレフィン系樹脂としては、例えば、三菱化学(株)製モディックH511,L502,M142,A543,P502,P553A,P565,F502,F532,F534A,P908,ポリテールH; 東洋紡(株)製トーヨータックM-100,M-312,PMA-H1100P,PMA-M; 住化ケムテックス(株)スミフィットCK1D等の市販されている商品を使用することができる。また、塩素化オレフィン系樹脂としては、例えば、東洋紡(株)製ハードレン13-LP,13-LLP,14-LWP,15-LP,15-LLP,16-LP,DX-526P,EH-801,EW-5303,5504,5313,8511,EZ-1000,2000; 日本製紙(株)製スーパークロンC,L-206,813A,803M,803MW,803LT,1026,803L,814HS,390S,B.BX,A,E-415,E-480T,E-604、アウローレン100S,150S,200S,250S,350S,351S,353S,359S,AE-202,AE-301;等の市販されている商品を使用することができる。また、変性塩素化オレフィン系樹脂としては、例えば、東洋紡(株)製ハードレンCY-9122P,9142P,HM-21P,M-28P,F-2P,F-6P,CY-1132,P-5528,EY-4075,4011,6011; 日本製紙(株)製スーパークロン822,892L,930,842LM,851L,3228S,3221S,2319S,224H,223M,240M,260F; 等の市販されている商品を使用することができる。
【0035】
オレフィン系樹脂の中でも、PP樹脂を含む物品に対する密着性の観点から、ポリプロピレン系樹脂が好ましく、上記密着性及びPd複合体の分散性の観点からアクリル変性塩素化ポリプロピレンがより好ましい。なお、オレフィン系樹脂は、1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0036】
前記オレフィン系樹脂の含有量は、Pd複合体100質量部に対して、102〜104質量部が好ましく、100〜2000質量部がより好ましい。
【0037】
本発明の塗料組成物は、本発明の効果が奏される範囲内で、上記(2)溶媒に分散又は溶解する樹脂(以下、バインダー樹脂ともいう)を使用することができる。具体的なバインダー樹脂としては、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、シェラック樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、等が挙げられる。バインダー樹脂は、1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。なお、4−アルキル−3−カルボン酸エステルポリピロールは、めっき皮膜の密着性の低下、耐水性の低下、耐候性の低下等の観点から、バインダー樹脂として含有しないことが好ましい。
【0038】
また、(2)の溶媒の他、本発明の効果が奏される範囲内で、希釈溶媒を使用することができる。希釈溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール(IPA)等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、シクロヘキサノン、ジアセトンアルコール等のケトン類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、tert-ブチルセロソルブ等のグリコールエーテル類;安息香酸メチル、安息香酸エチル、サリチル酸メチル等の芳香族カルボン酸エステル類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、メチルカルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)等のグリコールエーテルエステル類;酢酸エチル、酢酸ブチル等のアルカノールエステル類;等を含有してもよい。中でも、Pd複合体やオレフィン系樹脂との親和性、塗装性能等の観点から、ケトン類が好ましい。
【0039】
これらの希釈溶媒を使用する場合、その含有量は、(1)Pd複合体100質量部に対して、0〜2×104質量部とすることが好ましく、20〜2×104質量部がより好ましい。希釈溶媒は、1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0040】
≪本発明の塗料組成物の製造方法≫
本発明の塗料組成物の製造方法は、特に限定されないが、以下の(i)並びに(ii):
(i) (2)水及び/又は非プロトン性極性溶媒中に、パラジウムイオン及び分散剤を存在させる工程1、並びに
(ii) 前記パラジウムイオンと還元剤とを反応させることにより、前記パラジウムイオンを還元する工程2、
を含む製造方法により製造することが好ましい。前記製造方法によれば、PP樹脂を含む物品に対して無電解めっき用塗膜を形成することが可能である塗料組成物を、環境に対する悪影響が少なく簡便にかつ効率的に製造することができる。当該塗料組成物は、分散性に優れ、かつ、従来の方法よりも簡便で効率的にPP樹脂を含む物品に対して無電解めっき用塗膜を形成することが可能であり、しかも環境に対する悪影響が少なく、安全性が高い。上記無電解めっき用塗膜は、密着性及び外観皮膜に優れた無電解めっき皮膜を形成することができ、当該無電解めっき皮膜の析出速度にも優れる。
【0041】
工程1において、パラジウムイオンと分散剤とを溶媒中に存在させる。パラジウムイオンは、供給源として前述のパラジウムイオンを供給する化合物を使用することができる。分散剤としては、前述の分散剤を使用することができる。
【0042】
工程1におけるパラジウムイオンと分散剤の使用比率(質量比)は、パラジウムイオン100質量部に対して、分散剤は通常、10〜200質量部程度である。パラジウムイオン100質量部に対して、分散剤は30〜150質量部が好ましく、さらに好ましくは50〜100質量部である。
【0043】
工程1で使用する溶媒としては、上記(2)の溶媒と同様の溶媒を使用することができる。当該溶媒の使用量は、パラジウムイオンと分散剤を均一に存在させることができれば特に限定されないが、パラジウムイオン100質量部に対して104〜3×105質量部が好ましく、104〜105質量部がより好ましい。
【0044】
工程2では、パラジウムイオンと還元剤とを反応させることにより、パラジウムイオンが還元剤によって還元される。即ち、工程2ではパラジウムイオンの還元反応が生じ、結果として前述の(1)のPd複合体を得ることができる。工程2における還元剤としては、前述の(1)のPd複合体を作製するために使用される還元剤を使用することができる。還元剤の使用量は、特に限定されないが、パラジウムイオン100質量部に対して、100〜800質量部程度であり、200〜600質量部が好ましい。
【0045】
工程2に関して、反応温度は35〜45℃程度であり、50〜60℃程度まで昇温する。反応時間は、特に限定されないが、1〜5時間程度とすればよい。反応の際の圧力及び雰囲気は、特に限定されず、大気圧下かつ大気(空気)雰囲気下で行えばよい。反応はビーカーなどの開放系で行うことができ、反応方法としてはパラジウムイオン、分散剤及び還元剤を含有する溶液を羽根付き撹拌棒で撹拌すればよい。
【0046】
本発明の塗料組成物は、工程1及び工程2のみの手順でも得られるが、工程2の後に、例えば、(2)の溶媒、(3)オレフィン系樹脂、その他成分等の含有(添加);Pd複合体含有液の分離;などのその他の操作を行ってもよい。この点について、以下説明する。
【0047】
工程2の後では、前述の(2)の溶媒及び/又は(3)オレフィン系樹脂を含有することができる。なお、パラジウムイオンの還元反応後に溶媒を変換する(例えば、工程1の溶媒として水を使用し、工程2の後で上記水をNMPに変換することにより、NMPを溶媒とする無電解めっき塗料組成物とする)ことも可能である。
【0048】
工程2の後に、工程2で得られたPd複合体含有液を限外濾過による分離を行うことができる。この操作により、Pd複合体含有液に含まれる無機塩や過剰の分散剤等を除去することができる。より具体的には、Pd複合体含有液に対して濾過操作及び水、溶媒等(特に水)の補填操作を繰り返すことができる。
【0049】
≪本発明の被めっき物≫
本発明の被めっき物は、本発明の塗料組成物をPP樹脂を含む物品に塗布した後、無電解めっきを行って無電解めっき皮膜を形成することにより得られる。被めっき物に形成される無電解めっき皮膜は、密着性に優れる。
【0050】
本明細書において、PP樹脂を含む物品とは、少なくとも無電解めっきが施される表面部の主成分がPP樹脂である(即ち、少なくとも無電解めっきが施される表面部がPP樹脂を50質量%以上含有する)物品を指すものとする。即ち、PP樹脂を含む物品は、無電解めっきが施される表面部の材質がPP樹脂のみからなる必要はなく、当該表面部の材質がPP樹脂以外の成分を含有していてもよい。当該表面部に含まれるPP樹脂以外の成分としては、粘土鉱物(例えばタルク、マイカ等)、無機充填剤(例えばカーボン、炭酸カルシウム、酸化チタン等)、ゴム(例えばエチレン−プロピレン共重合体)などである。
【0051】
また、本明細書において、PP樹脂を含む物品は、無電解めっきが施される表面部以外の部位については、PP樹脂を含有していなくてもよい。例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)からなるフィルム上にPP樹脂層が形成された基材(即ち、2層の樹脂層からなる基材)は、本発明におけるPP樹脂を含む物品に包含される。また、例えば、PETフィルムの全ての面上にPP樹脂が覆うように形成された基材もまた、本発明におけるPP樹脂を含む物品に包含される。
【0052】
PP樹脂を含む物品として、耐衝撃性、剛性、耐熱性等の観点から、無電解めっきが施される表面部が50〜70質量%のPP樹脂、10〜30質量%のエチレン−プロピレン共重合体、10〜30質量%の粘土鉱物、1〜5質量%の無機充填剤のみからなる物品がより好ましい。
【0053】
PP樹脂を含む物品としては、例えば、冷蔵庫の野菜ケース、洗濯機等の筐体;バンパー、グリル、フォグランプベゼル、インストルメントパネル(ダッシュボード)、コンソールボックス等の自動車用部品;などが挙げられる。また、PP樹脂を含む物品として、糸状の物品を使用し、これに無電解めっきを施してもよい。この場合、得られる物品は、導電性繊維として使用することができる。
【0054】
PP樹脂を含む物品に対して上記塗料組成物を塗布する方法としては、特に限定されず、例えば、バーコーター、グラビア印刷機(グラビアオフセット)、フレキソ印刷機、インクジェット印刷機、ディッピング、スプレー、スピンコーター、ロールコーター、リバースコーター、スクリーン印刷機等を用いて、印刷またはコーティングすることができる。また、塗料組成物に対して当該物品を浸漬させてもよい。中でも、グラビアオフセット印刷又はフレキソ印刷による塗布が好ましい。
【0055】
本発明の塗料組成物を塗布した後では、乾燥処理を行うことができる。当該乾燥工程によって、無電解めっきを行う際に不必要な溶媒を効率的に除去するとともに、無電解めっき用塗膜とPP樹脂を含む物品との密着性、及び当該塗膜の表面強度を向上させることができる。
【0056】
乾燥処理の温度は、好ましくは60〜180℃程度である。さらに好ましくは80〜130℃である。乾燥時間は、乾燥温度にもよるが、通常10分〜90分程度である。さらに好ましくは30〜60分程度である。
【0057】
無電解めっき用塗膜には、Pd複合体が含まれる。Pd複合体は、塗膜に対して均一に分散された状態で存在する。そのため、当該塗膜上に対して、より効率的に無電解めっきを行うことができる。
【0058】
乾燥前における塗膜の厚みは、使用用途によって適宜選択することができる。乾燥前では通常1〜30μm程度であり、2〜20μmが好ましい。
【0059】
乾燥後における塗膜の厚みは、通常0.05〜3μm程度であり、0.1〜1μmが好ましい。乾燥後における塗膜の厚みが上記範囲内であれば、PP樹脂を含む物品と塗膜との密着性、および無電解めっき皮膜(金属皮膜)と塗膜との密着性のいずれにおいて特に優れる。
【0060】
前記の方法によって塗膜が形成されたPP樹脂を含む物品は、金属を析出させるためのめっき液と接触し、これにより無電解めっき皮膜が形成される。無電解めっきは反応性がよく、得られた無電解めっき皮膜はむらがなく、密着性及び外観皮膜に優れる。
【0061】
めっき液としては、通常、無電解めっきに使用されるめっき液であれば特に限定されず、例えば、銅、金、銀、ニッケル、クロム等が挙げられる。特に、本発明の塗料組成物によって形成された塗膜との関係から、銅又はニッケルが好ましい。これらのめっき条件については、常法に従えばよい。
【0062】
例えば、無電解めっき処理温度に関して、無電解銅めっき浴では通常25〜45℃程度であり、処理時間は10〜20分程度で、0.3〜0.4μm程度の析出膜厚となる。また、無電解ニッケルボロン浴では、処理温度は55〜70℃程度であり、析出速度は通常5μm/hr(60℃)程度である。無電解ニッケルりん浴では通常85〜95℃程度であり、析出速度は通常20μm/hr(90℃)程度である。
【0063】
被めっき物は、上述の電化製品の筐体、自動車用部品などの各種用途で使用することができる。また、上記被めっき物が糸状の導電性繊維である場合は、衣類や電線に使用することができる。
【発明の効果】
【0064】
本発明の塗料組成物は、分散性に優れており、従来の方法よりも簡便にかつ効率的にPP樹脂を含む物品に対して無電解めっき用塗膜を形成することが可能であり、しかも環境に対する悪影響が少なく、安全性が高い。また、上記無電解めっき用塗膜は、密着性及び外観皮膜に優れた無電解めっき皮膜を形成することができ、当該無電解めっき皮膜の析出速度にも優れる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
図1】本発明の塗料組成物の概略図である。
図2】本発明のPd複合体の概略図である。
図3】本発明の被めっき物の概略図である。
図4】本発明で使用する無電解めっき用塗膜のSEM像を示す。なお、SEMは、JSM6390(日本電子株式会社製)を使用している。
図5】本発明で使用するPd複合体のTEM像を示す。なお、TEMは、JEM3010(日本電子株式会社製)を使用している。
図6】本願実施例1の塗料組成物中のPd複合体の粒子径分布を示す。当該粒子径分布は、粒径アナライザー(大塚電子株式会社、FPAR−1000)で測定している。
【発明を実施するための形態】
【0066】
以下に実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明する。但し、本発明は実施例に限定されない。
【0067】
製造例1:Pd複合体含有液Aの作製
3リットルフラスコにイオン交換水944.5gを入れ、当該イオン交換水に硝酸パラジウム5.0gを加えて、撹拌した。これにより、硝酸パラジウムを水に溶解させた。当該水溶液に、カルボキシル基を有するブロック共重合体型高分子分散剤(DISPERBYK194、ビックケミー・ジャパン社製、不揮発分53wt%)3.8gをさらに加えて、当該水溶液に溶解させた。この溶液を42℃になるまで加熱した後、撹拌しながらヒドラジン1水和物10.0gを加えた。この後、当該溶液を、室温下(23℃)で1時間撹拌した。溶液の温度は、ヒドラジン1水和物の添加後に53℃まで上昇したが、1時間撹拌した後の溶液の温度は40℃であった。この操作により、水溶液中のパラジウムイオンが還元された。この溶液を限外濾過フィルターAHP-1010(旭化成株式会社製)にて、還元されたPd複合体含有液と、無機塩含有液とを分離した。この操作により得られたPd複合体含有液に対して、上記分離した無機塩含有液と同じ質量分のイオン交換水を加えて、再度限外濾過フィルターで分離操作を行った。このイオン交換水補填操作及び分離操作を5回繰り返した。当該操作後に得られたPd複合体含有液の電気伝導率(導電率)は、28μS・cm-1であった。即ち、当該電気伝導率は30μS・cm-1以下であったので、この結果によって当該Pd複合体含有液から無機塩を除去できたことを確認した。なお、得られたPd複合体含有液に関して、TG/DTA分析でPd複合体含有率を調べたところ、550℃での残固形分から、Pd複合体含有率は1.2wt%であることがわかった。また、Pd粒子の平均粒子径は2〜10nmの範囲内であり、Pd複合体中のPd粒子と分散剤との質量比は、Pd粒子:分散剤=75:25であった。
【0068】
製造例2:Pd複合体含有液Bの作製
DISPERBYK194に代えて、ヒドロキシル基を有するブロック共重合体型高分子分散剤DISPERBYK2010(ビックケミー・ジャパン社製、不揮発分40wt%)を用いた以外は上記製造例1と同様にして、Pd複合体含有液Bを得た。なお、Pd複合体含有液BのPd複合体含有率は1.4wt%であった。また、Pd粒子の平均粒子径は2〜10nmの範囲内であり、Pd複合体中のPd粒子と分散剤との質量比は、Pd粒子:分散剤=75:25であった。
【0069】
製造例3:Pd複合体含有液Cの作製
上記Pd複合体含有液Aを遠心分離機にて、16時間、13000G荷重のかかる回転速度で回転させ、固形分を沈降させた。上澄み液をデカンテーションで除去した後、当該除去した上澄み液と同じ質量分のN-メチルピロリドンを加えた。この後、当該N-メチルピロリドン含有液を撹拌して、円沈管底部に溶け残りがないように、Pd複合体を分散させた。この液を遠心分離機にて、16時間、13000G荷重のかかる回転速度で回転させた。この操作により、固形分を沈降させるとともに、上澄み液を除去した。この操作を4回行った。この後、カールフィッシャー法にて、上記沈降させた固形分の含水率が1wt%以下になったことを確認した後、当該固形分に対してN-メチルピロリドンを加えることにより、Pd複合体含有率8wt%のPd複合体含有液C(分散媒:N-メチルピロリドン(NMP))を得た。また、Pd粒子の平均粒子径は2〜10nmの範囲内であり、Pd複合体中のPd粒子と分散剤との質量比は、Pd粒子:分散剤=80:20であった。
【0070】
製造例4:Pd複合体含有液Dの作製
N-メチルピロリドンに代えてN,N-ジメチルアセトアミドを使用する以外は、製造例3と同様の方法により、Pd複合体含有率8wt%のPd複合体含有液D(分散媒:N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc))を得た。また、Pd粒子の平均粒子径は2〜10nmの範囲内であり、Pd複合体中のPd粒子と分散剤との質量比は、Pd粒子:分散剤=80:20であった。
【0071】
製造例5:Pd複合体含有液Eの作製
N-メチルピロリドンに代えてN,N-ジメチルホルムアミドを使用する以外は、製造例3と同様の方法により、Pd複合体含有率8wt%のPd複合体含有液E(分散媒:N,N-ジメチルホルムアミド(DMF))を得た。また、Pd粒子の平均粒子径は2〜10nmの範囲内であり、Pd複合体中のPd粒子と分散剤との質量比は、Pd粒子:分散剤=80:20であった。
【0072】
製造例6:Pd複合体含有液Fの作製
N-メチルピロリドンに代えてエタノールを使用する以外は、製造例3と同様の方法により、Pd複合体含有率8wt%のPd複合体含有液F(分散媒:エタノール)を得た。
【0073】
製造例7:Pdイオン水溶液Gの作製
3リットルフラスコにイオン交換水936.8gを入れ、当該イオン交換水に硝酸パラジウム21.6gを加えて、撹拌した。これにより、硝酸パラジウムを水に溶解させた。当該水溶液に、DISPERBYK194(ビックケミー・ジャパン社製、不揮発分53wt%)40.0gを加えて、当該水溶液に溶解させた。この水溶液に対して、pH=9となるように水酸化ナトリウムを1.6g添加した。これにより、Pdイオン水溶液Gが得られた。なお、Pdイオンの濃度は1wt%であった。
【0074】
実施例1
Pd複合体含有液A41.67wt%、ポリプロピレン樹脂水溶液(スミフィットZ9901-E101、固形分30.8wt%、住化ケムテックス株式会社製)3.25wt%、及びイオン交換水55.08wt%を混合して塗料組成物aを作製した。当該塗料組成物aをPP基板(住友ノーブレン、住友化学株式会社製)上に、バーコーター#4を用いて塗布し、乾燥用オーブン内で90℃、30分間乾燥させた。これにより、実施例1の無電解めっき用塗膜が形成されたPP基板を得た。
【0075】
実施例2
Pd複合体含有液B35.71wt%、エマルション変性ポリエチレン樹脂水溶液(アローベースSB-1230N、固形分26.2wt%、ユニチカ株式会社製)3.82wt%、及びイオン交換水60.47wt%を混合して塗料組成物bを作製した。その後、上記塗料組成物aに代えて、当該塗料組成物bを使用する以外は、上記実施例1と同様にして、実施例2の無電解めっき用塗膜が形成されたPP基板を得た。
【0076】
実施例3
実施例1と同様にして、塗料組成物aを作製した。インクジェットプリンター(PX-A550、セイコーエプソン株式会社製)の黒インク用カートリッジから当該黒インクを抜き取り、洗浄した後、上記塗料組成物aを充填した。この塗料組成物aを充填したカートリッジを上記プリンター(PX-A550)にセットして、PP基板(プライムポリプロF113G、株式会社プライムポリマー製)上に、ラインアンドスペース300μm/300μmのパターンを印刷した。この後、60℃で60分乾燥させることにより、実施例3の無電解めっき用塗膜が形成されたPP基板を得た。
【0077】
実施例4
Pd複合体含有液C6.25wt%、マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂溶液(サーフレンP-1000、三菱化学株式会社製、固形分20wt%)5.00wt%及びシクロヘキサノン88.75wt%を混合して塗料組成物cを作製した。当該塗料組成物cをPP基板(ノバテックPP,MA3 日本ポリプロ株式会社製)上に、バーコーター#4を用いて塗布し、乾燥用オーブン内で80℃、10分間乾燥させた。これにより、実施例4の無電解めっき用塗膜が形成されたPP基板を得た。
【0078】
実施例5
Pd複合体含有液C6.25wt%、マレイン酸変性塩素化ポリプロピレン樹脂溶液(スーパークロン930、日本製紙株式会社製、固形分20wt%)25.00wt%、ジアセトンアルコール68.75wt%を混合して塗料組成物dを作製した。当該塗料組成物dを、ドクターブレードを用いて、100μmピッチで形成されたグラビア印刷用凹版の細孔内に充填した。当該塗料組成物dを充填した部分の上に、転写用ブランケットゴムロール(A(0.6)SP11-1、株式会社金陽社製)を密着させて、当該塗料組成物dをロール上に転写した。この後、このブランケットゴムロールをPP基板(ファンクスターLR21V、日本ポリプロ株式会社製)に密着させることにより、当該塗料組成物dをPP基板上に転写した。これにより、実施例5の無電解めっき用塗膜が形成されたPP基板を得た。
【0079】
実施例6
Pd複合体含有液C6.25wt%、アクリル変性塩素化ポリプロピレン樹脂溶液(スーパークロン260F、日本製紙株式会社、固形分35wt%)5.72wt%、及びシクロヘキサノン88.03wt%を混合して塗料組成物eを作製した。当該塗料組成物eをPP基板 (ノバテックPP,MA3 日本ポリプロ株式会社製)上に、バーコーター#4を用いて塗布し、乾燥用オーブン内で110℃、30分間乾燥させた。これにより、実施例6の無電解めっき用塗膜が形成されたPP基板を得た。
【0080】
実施例7
Pd複合体含有液D6.25wt%、アクリル変性塩素化ポリプロピレン樹脂溶液(スーパークロン260F、日本製紙株式会社、固形分35wt%)5.72wt%、及びシクロヘキサノン88.03wt%を混合して塗料組成物fを作製した。その後、上記塗料組成物eに代えて、当該塗料組成物fを使用する以外は、上記実施例6と同様にして、実施例7の無電解めっき用塗膜が形成されたPP基板を得た。
【0081】
実施例8
Pd複合体含有液E6.25wt%、アクリル変性塩素化ポリプロピレン樹脂溶液(スーパークロン260F、日本製紙株式会社、固形分35wt%)5.72wt%、及びシクロヘキサノン88.03wt%を混合して塗料組成物gを作製した。その後、上記塗料組成物eに代えて、当該塗料組成物gを使用する以外は、上記実施例6と同様にして、実施例8の無電解めっき用塗膜が形成されたPP基板を得た。
実施例9
実施例6と同様にして、塗料組成物eを作製した。その後、当該塗料組成物eにPP基板(ノバテックPP,MA3 日本ポリプロ株式会社製)を10秒間浸漬し、乾燥用オーブン内で110℃、30分間乾燥させた。これにより、実施例9の無電解めっき用塗膜が形成されたPP基板を得た。
【0082】
比較例1
Pdイオン水溶液G50.00wt%、ポリプロピレン樹脂水溶液(スミフィットZ9901-E101、固形分30.8wt%、住化ケムテックス株式会社製)3.25wt%、及びイオン交換水46.75wt%を混合して塗料組成物hを作製した。その後、上記塗料組成物eに代えて、当該塗料組成物hを使用する以外は、上記実施例6と同様にして、比較例1の塗膜が形成されたPP基板を得た。
【0083】
比較例2
Pd複合体含有液A41.67wt%、ポリエステル樹脂水溶液(RZ-570、固形分25wt%、互応化学工業株式会社製)4.00wt%、及びイオン交換水54.33wt%を混合して無電解めっき用塗料組成物iを作製した。その後、上記塗料組成物eに代えて、当該塗料組成物iを使用する以外は、上記実施例6と同様にして、比較例2の塗膜が形成されたPP基板を得た。
【0084】
比較例3
Pd複合体含有液C6.25wt%、ポリウレタン樹脂溶液(ユリアーノ12548、固形分30wt%、荒川化学工業株式会社製)3.33wt%、及びシクロヘキサノン90.42wt%を混合して無電解めっき用塗料組成物jを作製した。その後、上記塗料組成物eに代えて、当該塗料組成物jを使用する以外は、上記実施例6と同様にして、比較例3の塗膜が形成されたPP基板を得た。
【0085】
比較例4
実施例6と同様にして、塗料組成物eを作製した。当該塗料組成物eをPETフィルム(SL-50、帝人株式会社製)上に、バーコーター#4を用いて塗布し、乾燥用オーブン内で110℃、30分間乾燥させた。これにより、比較例4の塗膜が形成されたPETフィルム(基板)を得た。
【0086】
比較例5
Pd複合体含有液F6.25wt%、アクリル変性塩素化ポリプロピレン樹脂溶液(スーパークロン260F、日本製紙株式会社、固形分35wt%)5.72wt%、及びシクロヘキサノン88.03wt%を混合して塗料組成物kを作製した。その後、上記塗料組成物eに代えて、当該塗料組成物kを使用する以外は、上記実施例6と同様にして、比較例5の塗膜が形成されたPP基板を得た。
【0087】
評価試験1:塗料組成物の分散性試験
上記実施例1〜9及び比較例1〜5で得られた塗料組成物a〜kについて、分散性を評価した。具体的には、上記塗料組成物a〜kを作製した後に24時間静置させ、当該静置後の当該塗料組成物a〜kを目視にて評価した。分散性の評価基準は、以下の通りとした。
○:(1)Pd複合体及び(3)オレフィン系樹脂が均一に分散していた。
×:(1)Pd複合体(若しくはパラジウム粒子)又は(3)オレフィン系樹脂が均一に分散されずに一部又は全部が沈殿していた。
【0088】
評価試験2:無電解めっき性試験
上記得られた実施例1〜9及び比較例1〜5の各基板を無電解めっき浴に浸漬させることにより、無電解めっき性を評価した。無電解銅めっき浴としては、上村工業株式会社製 スルカップPSY(初期Cu濃度2.5g/l、浴容積 500ml 30℃)を使用し、無電解ニッケルめっき浴としては、上村工業株式会社製BEL801(初期Ni濃度6g/l、浴容積 500ml 65℃)を用いた。無電解めっき浴への浸漬は、15分間行った。無電解めっき性の評価基準は、以下の通りとした。
◎:光沢のあるめっき皮膜が得られ、かつ剥離が見られなかった。
○:当該◎評価ほど光沢はないが、製品として十分許容できる程度に光沢のあるめっき皮膜が得られ、かつ剥離が見られなかった。
△:めっき皮膜が得られたものの、めっき皮膜の剥離が見られた。
×:めっき皮膜が得られなかった。
【0089】
評価試験3:密着性試験(ピール強度)
無電解めっき皮膜の密着性を確認するために、実施例1、2及び4〜9並びに比較例2〜4で得られた各基板の無電解めっき用塗膜上に対して、電解(電気)銅めっき処理を行った。この電解銅めっき皮膜にカッターナイフを用いて10mm幅の切れ込みを入れ、ピール強度試験機(デジタルフォースゲージZTA-DPU、株式会社IMADA社製)によりピール強度(N/cm)を測定した。電気銅めっき浴は、硫酸銅80g/L、硫酸150g/L、株式会社JCU社製Cu-brite 5ml/L、
めっき条件は、25℃、1A/dm2×3分、4A/dm2×27分で、25μmの銅めっき皮膜を形成した。なお、ピール強度試験はめっき皮膜の厚みが20μm程度以上必要であるのに対して、無電解めっき皮膜では上述の厚膜化が難しい。そこで、無電解めっき皮膜のピール強度の代替として、電解めっき皮膜のピール強度を測定している。電解めっき皮膜のピール強度は、無電解めっき皮膜の密着性と相関がある。
【0090】
評価試験4:密着性試験(クロスカット試験評価)
無電解めっき皮膜の密着性を確認するために、以下の試験を行った。実施例1〜9並びに比較例2〜4の各基板に対して上記評価試験2と同様にして、銅またはニッケルめっき皮膜を得た。当該銅またはニッケルめっき皮膜上に、JIS K 5600(クロスカット法)に基づいて1mm間隔で25マスの切込みを入れた。その上にセロハンテープ(セロテープ(登録商標)、ニチバン株式会社製)を貼り、テープを剥離したときの剥がれなかったマス目の数を測定した。一例として、表中、25/25は25マス全てにおいて剥離していないことを示し、2/25は23マス剥離したことを示す。
【0091】
評価試験5:外観皮膜試験(シート抵抗値)
無電解めっき皮膜の外観皮膜の状態を確認するために、以下の試験を行った。実施例1〜9並びに比較例1〜5の各基板に対して上記評価試験2と同様にして、銅またはニッケルめっき皮膜を得た。当該銅またはニッケルめっき皮膜の任意の4点のシート抵抗値(Ω/□)を測定した。シート抵抗値の測定は、低抵抗率計(Loresta-GP、株式会社三菱化学アナリテック社製)を用いて行われた。なお、シート抵抗値の目安として、銅めっき皮膜では1Ω/□以下が○評価であり、ニッケルめっき皮膜では10Ω/□以下が○評価である。
【0092】
結果を以下の表1〜3に示す。なお、表中の上段は、各塗料組成物中の各成分の質量%(wt%)を示し、表中の下段は基板(基材)の材質、塗布方法及び評価試験の結果を示す。表中、IPAはイソプロピルアルコール、Bはバーコーター、Iはインクジェット、Gはグラビアオフセット、Dは浸漬(ディッピング)を意味する。また、表中、*は無電解めっき用塗料組成物を塗布したライン上にのみめっき皮膜が析出し、導電性パターンが形成できたことを意味する。
【0093】
【表1】
【0094】
【表2】
【0095】
【表3】
【符号の説明】
【0096】
1.Pd複合体
2.水及び/又は非プロトン性極性溶媒、並びにオレフィン系樹脂
3.Pd粒子
4.分散剤
5.基材(PP樹脂を含む物品)
6.無電解めっき用塗膜
7.無電解めっき皮膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6