(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
透明なポリプロピレン樹脂シートの製造方法として、ダイスから押し出された溶融樹脂を急冷した後に、加熱処理を行なう方法が知られている。
例えば、冷却方法として水により溶融樹脂を急冷し、得られたシートの表裏を熱処理することによる透明ポリプロピレン樹脂シートの製造方法が提案されている(特許文献1,2,3参照)。実際にこのような水冷法によれば30m/min以上の高速度で高透明シートの製造が可能である。しかしながら、水冷後の熱処理段階においてシート表面に水滴が残留していると、部分的にシート表面の外観不良を引き起こし、商品価値を低下させるという問題がある。それ故、残留水滴の影響を避けるために、実用上は10m/min程度のシート搬送速度による運用を余儀なくされており、生産効率を向上させるという点で未だ改善の余地がある。
【0003】
一方、プラスチック製のシートやフィルム表面の水滴を除去する技術については種々提案されている。例えば、ゴム製の水切りロールや液切りロールなどが提案されている(特許文献4、5参照)。これらは、各種ゴムロールのピンチによりシート、フィルム上の水切りを行う方法である。
また、水滴除去用の吸水ロールを用いることも提案されている(特許文献6参照)。この技術では、ダイスから押し出された溶融樹脂を金属ベルトにより急冷するが、そのベルトの急冷方法として水滴をベルト裏面に噴霧冷却し、その水を除去するために吸水ロールを用いている。具体的には、多数の小孔を設けた中空の金属ロール表面に細目の不織布パッドを巻きつけた後、ベルト裏面に接触させ、中空部に真空ポンプを連結して能動的に吸水しようとするものである。
さらに、エンボスシートの製造方法として、バックアップロールに付着した水滴を除去するために減圧装置に接続された透過孔を有する中空の吸水ロールを用いることも提案されている(特許文献7参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献4、5の方法では、TD方向の絶対厚みのバラツキが大きいシート(例えば、シート厚が200μm以上)では厚み差が大きい部分での水抜けが起こってしまい、水滴を完全に除去できないばかりか、長時間運転に伴い、水分中の不純物や、シートからの溶出物がロールに堆積し、製品表面を傷つけたり、異物混入の原因になるといった問題点がある。また、特許文献6、7における吸水ロールでは、長時間運転すると、吸水した水中に含まれる不純物が細目の不織布内もしくは小孔の多数の穴に堆積し、吸水能力を低下させてしまい連続運転に不向きであるという欠点がある。さらに、樹脂を直接水冷する場合は、水中に樹脂からの溶出物が混在し、目詰まりを助長し吸水能力を低下させてしまうおそれもある。
その他、熱風乾燥炉、エアーノズル、接触式ポリウレタンスポンジロールによる水切りなども提案されているが、熱風乾燥炉は設備も大掛かりで高価となってしまい、エアーノズルやスポンジロールでは水滴が十分に除去できないという問題がある。
【0006】
そこで、本発明は、水滴が付着したシートから水滴を効率的に除去する工程を備えたシートの製造方法
、およびシートの製造方法を実施する製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、押し出されたシート状溶融樹脂を水冷してシートとするシートの製造方法であって、前記水冷後のシートは、前記シートの表面に対し、前記シートとの接触面が弾性変形可能な多孔質の吸水ロールを付勢する
工程と、前記吸水ロールにおける前記シートに付勢される位置より、前記吸水ロールの回転方向の下流側に位置して、前記吸水ロールの上部から当該吸水ロールに対し水を連続的に滴下する工程と、前記水を連続的に滴下する位置より、前記吸水ロールの回転方向の下流側に位置して、当該吸水ロールに含まれた水分を絞り出すための絞りロールを前記吸水ロールに付勢する工程と、を実施することを特徴とする。
本発明によれば、水冷後のシートの表面に対し、シートとの接触面が弾性変形可能な多孔質の吸水ロールを付勢するので、シート表面に付着した水滴を効率的に除去できる。
そして、この構成の発明では、吸水ロール内に保持されていた水は、シートに対して吸水ロールが付勢され弾性変形したときに下方に排斥され、シートが吸水ロールから上方に離れ、変形した吸水ロールの形状が戻る時に吸水ロール内の孔が開放され吸水能力が回復してシート表面の水滴を除去する。それ故、シートの搬送速度を上げることができ、シートの生産性向上に大幅に寄与する。
さらに、この構成の発明では、絞りロールが吸水ロールに付勢されているので、吸水ロールが吸収した水を絞り出すことができる。それ故、吸水ロールが水を吸収する能力を向上させ、さらには、吸水力を一定以上の水準に保つことが可能となる。この絞りロールは回転可能であることが好ましく、例えばフリーロールであってもよい。
そして、溶融樹脂ウェブを冷却する水には不純物も含まれ、また、冷却されたシート表面から溶出する物質もあるので、シートの製造を長時間続けると吸水ロールの孔内に次第に汚染物質が堆積するようになる。そうなると、シートの製造をいったん停止して、吸水ロールを取り替え、あるいは洗浄する必要がある。
この構成の発明によれば、吸水ロールに対して絶えず水が滴下されるので、絞りロールにおいて、吸水ロール内部から常に水が外部に押し出されることになり、吸水ロールの洗浄が自動的に行われる。
【0008】
本発明では、前記吸水ロールが
一対であり、前記シートの表側表面および裏側表面に対して前記吸水ロールを各々付勢することが好ましい。
この構成の発明では、吸水ロールが一対あり、シートの表側表面および裏側表面に対して吸水ロールを各々付勢できるので、シートの両面から効率的に水滴を除去できる。
【0010】
本発明では、前記吸水ロールが、前記シートへの付勢時に前記シートの搬送速度と同じ周速度で回転することが好ましい。
シート厚みが薄くなるとシートに付加される若干の張力でシワや傷が発生しやすくなるが、この構成の発明では、吸水ロールの回転周速度がシートの搬送速度と同じであるので、回転負荷がシートの張力に影響を与えない。それ故、薄物シートであってもシワや傷が発生しにくい。
【0011】
本発明では、前記吸水ロールは、軸心の周りに構成された多孔質の弾性体からなり、前記弾性体が連続気泡を有する発泡体であることが好ましい。
この構成の発明によれば、吸水ロールが所定の発泡体からなるので、シート表面を傷付けずに効率的に水滴を除去できる。
【0012】
本発明では、前記多孔質の弾性体に形成される孔の平均径が130μm以下であり、前記孔が連続孔であることが好ましい。
この構成の発明によれば、多孔質の弾性体に形成される孔の平均径が130μm以下であるので、シート表面を傷付けにくい。また、吸水ロール通過後に若干残った水滴も微細化され直ちに気化されるレベルの大きさに制御される。
【0013】
本発明では、前記吸水ロールは、前記水冷後のシートを挟むように一対設けられていることが好ましい。
この構成の発明では、吸水ロールは、水冷後のシートを挟むように一対設けられているので、シートの両面に付着した水滴を同時に吸収・除去することができる。それ故、付着水の除去工程をコンパクトにできる。
【0014】
本発明では、前記吸水ロールの下部に、当該吸水ロールに含まれた水分を絞り出すための絞りロールが付勢されていることが好ましい。
この構成の発明では、絞りロールが吸水ロールの下部に付勢されているので、吸水ロールが吸収した水を絞り出すことができる。それ故、吸水ロールが水を吸収する能力を向上させ、さらには、吸水力を一定以上の水準に保つことが可能となる。この絞りロールは回転可能であることが好ましく、例えばフリーロールであってもよい。
【0015】
本発明では、前記吸水ロールの上部から当該吸水ロールに対し水を連続的に滴下することが好ましい。
溶融樹脂ウェブを冷却する水には不純物も含まれ、また、冷却されたシート表面から溶出する物質もあるので、シートの製造を長時間続けると吸水ロールの孔内に次第に汚染物質が堆積するようになる。そうなると、シートの製造をいったん停止して、吸水ロールを取り替え、あるいは洗浄する必要がある。
この構成の発明によれば、吸水ロールに対して絶えず水が滴下されるので、絞りロールにおいて、吸水ロール内部から常に水が外部に押し出されることになり、吸水ロールの洗浄が自動的に行われる。
【0016】
本発明では、前記吸水ロールにおける弾性体部分の厚み(D1)と、前記吸水ロールを前記シートの表面に付勢したときの当該弾性体部分の厚み(D2)との関係を下記式(1)で表した場合に、その値(圧縮率)が1%以上50%以下であることが好ましい。
((D1−D2)/D1)×100% (1)
この構成の発明によれば、吸水ロールをシートに付勢するときの弾性体部分の厚みを、元の厚みに対して所定の割合になるように吸水ロールの弾性体部分を変形させるので、効率よくシート表面に付着した水滴を除去できる。上記式の値が1%より小さいと、吸水効果を十分に発揮できないおそれがある。一方、上記式の値が50%より大きいと、吸水ロールの弾性体が硬くなってシート表面を傷付けたり、弾性体の弾性回復力が低下して吸水力が低下するおそれがある。
【0017】
本発明では、前記吸水ロールによる水滴の除去後に、前記シートの両面に向けて配設した水切りノズルにより空気を前記シートの両面に吹き付け、前記シートの両面に残存する水滴を除去することが好ましい。
この構成の発明によれば、吸水ロールによる水滴の除去後に、さらにシートの両面に向けて配設した水切りノズルにより空気を前記シートの両面に吹き付けるので、シートの両面に残存する水滴を極めて効率よく除去することができる。
【0018】
本発明では、前記シート表面に付着した水滴を除去した後に加熱した無端ベルトにより前記シートを熱処理することが好ましい。
この構成の発明によれば、シート表面に付着した水滴を除去した後に加熱した無端ベルトにより前記シートを熱処理するので、水滴に起因する不良現象のない熱処理シートが得られる。
【0021】
本発明は、溶融樹脂ウェブを水冷してシートとするシートの製造装置であって、
前記水冷後のシートは、下方から上方に搬送され、水冷後のシートを前記シートの表面に対して接触して回転する弾性変形可能な多孔質の吸水ロール
と、前記吸水ロールにおける前記シートに付勢される位置より、前記吸水ロールの回転方向の下流側に位置して、前記吸水ロールの上部から当該吸水ロールに対し水を連続的に滴下する給水装置と、前記給水装置により水を滴下する位置より、前記吸水ロールの回転方向の下流側に位置して、前記吸水ロールに付勢され当該吸水ロールに含まれた水分を絞り出す絞りロールと、を有する水滴除去装置を備えたことを特徴とする。
本発明のシートの製造装置によれば、水冷後のシートの表面に対して接触して回転する弾性変形可能な多孔質の吸水ロールにより、シート表面に付着した水滴を効率的に除去できる。
そして、この構成の発明では、吸水ロール内に保持されていた水は、シートに対して吸水ロールが付勢され弾性変形したときに下方に排斥され、シートが吸水ロールから上方に離れ、変形した吸水ロールの形状が戻る時に吸水ロール内の孔が開放され吸水能力が回復してシート表面の水滴を除去する。それ故、シートの搬送速度を上げることができ、シートの生産性向上に大幅に寄与する。
さらに、この構成の発明では、絞りロールが吸水ロールに付勢されているので、吸水ロールが吸収した水を絞り出すことができる。それ故、吸水ロールが水を吸収する能力を向上させ、さらには、吸水力を一定以上の水準に保つことが可能となる。この絞りロールは回転可能であることが好ましく、例えばフリーロールであってもよい。
また、この構成の発明によれば、吸水ロールに対して絶えず水が滴下されるので、絞りロールにおいて、吸水ロール内部から常に水が外部に押し出されることになり、吸水ロールの洗浄が自動的に行われる。
【0022】
本発明では、前記吸水ロールが一対であり、前記シートの表側表面および裏側表面に対して付勢することが好ましい。
この構成の発明では、吸水ロールが一対あり、シートの表側表面および裏側表面に対して吸水ロールを各々付勢できるので、シートの両面から効率的に水滴を除去できる。
【0024】
本発明では、前記水滴除去装置が、前記シートの搬送速度と同じになるように前記吸水ロールの周速度を制御する制御装置を備えることが好ましい。
この発明によれば、水滴除去装置が、前記シートの搬送速度と同じになるように前記吸水ロールの周速度を制御する制御装置を備えているので、シートに対して吸水ロールの回転の負荷を与えることがない。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、本発明の実施形態を、透明ポリプロピレン樹脂シートの製造方法およびその製造装置として説明する。なお、水冷方式による透明ポリプロピレン樹脂シートの製造例としては、WO05/092593号に記載がある。
【0027】
[ポリプロピレン樹脂]
ポリプロピレン樹脂としては、アイソタクチック分率が0.85から0.99まで、好ましくは、0.88から0.99までの高結晶性のポリプロピレン樹脂が好ましい。アイソタクチック分率がかかる範囲内であれば、結晶性に優れ、引張特性や耐衝撃性に優れるシートを形成できるとともに、透明性とのバランスも良好である。その一方、アイソタクチックペンタッド分率が0.85より小さいと、引張弾性率などが低下する場合があり、また、アイソタクチックペンタッド分率が0.99を超えると、急冷工程での内部ヘイズが悪くなり、透明ポリプロピレン系シートとしての使用が困難になる場合があるため好ましくない。
【0028】
[透明ポリプロピレン樹脂シートの製造装置]
図1に、本実施形態に係る透明ポリプロピレン樹脂シートの製造装置1を示す。
この製造装置1は、原料である樹脂組成物を溶融混練してシート状溶融樹脂20aとして押し出す押出装置11と、押し出されたシート状溶融樹脂20aを水で冷却固化する第1の冷却装置12と、水滴が付着したシート状物(シート20)から水滴を除去する水滴除去装置16と、水滴が除去された後のシート20を再加熱する予熱装置13と、シート20を熱処理して透明ポリプロピレン樹脂シート21とする熱処理装置14と、熱処理後の当該シートの冷却を行う第2の冷却装置15とを備えている。
【0029】
押出装置11は、例えば、単軸押出機或いは多軸押出機などの既存の押出機111を備え、また、押出機111の先端にはシート成形用のTダイ112を備えている。
第1の冷却装置12は、大型水槽120と、大型水槽120内で対向配置されて溶融押出されたシート状溶融樹脂20aを挟み込む第1のロール121および第2のロール122と、これらのロール121、122よりも大型水槽120の底面寄りに設置された第3のロール123と、予熱装置13側の大型水槽120周縁近傍に設けられた第4のロール124と、大型水槽120の上側に配置された小型水槽125とにより構成されている。
【0030】
このような構成により、押出装置11で押し出されたシート状溶融樹脂20aは、小型水槽125に絶えず供給されている冷却水とともに、スリットを通って流下して、その後、ロール121、122、123の回転に伴って大型水槽120内に導入され、冷却固化されてシート20とされる。
【0031】
ロール124を通って排出されるシート20の両面には、大量の水滴が付着しており、このまま熱処理を行うと種々の不良現象を引き起こすため、水滴除去装置16によりシート20の両面から水滴を除去する必要がある。
図2において、水滴除去装置16は、ロール161、162を通ってきたシート20に対しその表裏から回転可能に付勢する一対の吸水ロール163A、Bを備えている。
吸水ロール163A、Bは、弾性変形可能な多孔質弾性体からなり、回転中心部には、中空軸心163A1、B1を備えている。この多孔質弾性体は、連続孔を多数有するスポンジ状の弾性体であるが、微細な孔を有する点で特にPVF(ポリビニルホルマール)発泡体が好ましい。
この吸水ロール163A、Bは、シート20の搬送速度と同じ周速度となるように駆動を制御されている。ただし、吸水ロール163A、Bの負荷があまりなく、シート20の搬送速度と同じ周速度で回転できるのであれば、フリーロールであってもよい。
多孔質弾性体に形成される孔は連続孔であり、その平均径は130μm以下であることが好ましく、60μm以下であることがより好ましい。
【0032】
吸水ロール163A、Bの下部には、当該吸水ロールに含まれた水分を絞り出すための絞りロール164A、Bが付勢されている。この絞りロール164A、Bは回転可能であることが好ましく、吸水ロール163A、Bの周速度に同期させて同じ周速度となるように制御してもよいが、フリーロールであってもよい。
【0033】
また、吸水ロール163A、Bの上方には当該吸水ロールに対し水を連続的に滴下することができる給水装置165A、Bが設けられている。
吸水ロール163A、Bの下には、絞りロール164A、Bにより押し出された水を受ける、水受けトレー166A、Bが設けられている。
水滴を除去されたシート20は、ロール167を通って排出される。
【0034】
予熱装置13は、略同じ高さに平行に設けられた第1と第3の予熱ロール131、133と、予熱ロール131、133の間に挟まれる位置にやや下方にずらして設置された第2の予熱ロール132と、第3の予熱ロール133に周面が圧接転動されてシート20を上下から挟み込む圧接補助ロール134とにより構成されている。
これらにより、冷却固化されたシート20は、予熱ロール131、132、133の周面に密着され、予熱されるようになっている。
【0035】
熱処理装置14は、第1、第2、第3の加熱ロール141、142、143と、冷却ロール144と、エンドレスベルト145と、圧接補助ロール146と、引き剥がしロール147とで構成されている。第1、第2の加熱ロール141,142および冷却ロール144は、略同じ高さに平行に設けられており、第3の加熱ロール143は、加熱ロール142の直下に平行に設けられている。
【0036】
これら第1から第3までの加熱ロール141、142、143の周面は、電熱ヒータやスチームなどにより、ポリプロピレン樹脂の融点以下(例えば、約100℃から160℃まで)に加熱できるようになっている。一方、冷却ロール144は、冷却水等が循環するような構造になっており、所望の温度に冷却されている。
【0037】
エンドレスベルト145は、第1および第3の加熱ロール141,143と、冷却ロール144が内側に配置されるようにしてこれらの周囲に巻装されている。これにより、エンドレスベルト145は、第2の加熱ロール142により外側から内側へ押し込まれた状態に張られている。
圧接補助ロール146は、前記した第1の加熱ロール141の上方から周面に圧接転動されている。また、引き剥がしロール147は、エンドレスベルト145からシート20を引き剥がすものであり、冷却ロール144近傍に所定間隔をあけて設けられている。
【0038】
第2の冷却装置15は、略同じ高さに平行に設けられてそれぞれに冷却された第1、第2、第3の冷却ロール151、152、153と、第3の冷却ロール153に圧接転動されてシート20を挟み込む圧接補助ロール154とで構成されている。
【0039】
[透明ポリプロピレン樹脂シートの製造方法]
(溶融押出工程)
上述した製造装置1により、透明ポリプロピレン樹脂シート21を製造するが、まず、押出装置11により、Tダイ112から、原料の樹脂組成物をシート状に溶融押し出ししてシート状溶融樹脂20aとする。
【0040】
(第1冷却工程)
次に、シート状溶融樹脂20aは、第1の冷却装置12へ導入され、冷却固化される。すなわち、溶融押出されたシート状樹脂組成物20aは、小型水槽125に絶えず供給されている冷却水とともに流下し、その後、大型水槽120内へ導かれ、第1のロール121と第2のロール122の間に挟み込まれて第3のロール123へ送られ、第4のロール124により大型水槽120外へ導かれ、シート状物(シート20)となる。
【0041】
(水滴除去工程)
次に、シート20は水滴除去装置16に導入される(
図2参照)。すなわち、シート20は、ロール161、162を経て、その搬送速度と同じ周速度を持つ一対の吸水ロール163A、Bに挟み込まれ(付勢され)、シート20の両面に存在する水滴Wが除去される。また、吸水ロール163A、Bの下部に付勢されている絞りロール164A、Bにより、吸水ロール163A、Bの内部に吸収された水が押し出され、水受けトレー166A、Bに滴下する。
このときに、吸水ロール163A、Bにおける弾性体部分の厚み(D1)と、吸水ロール163A、Bをシート20の表面に付勢したときの当該弾性体部分の厚み(D2)との関係を下記式(1)で表した場合に、その値(圧縮率)が1%以上50%以下、好ましくは5%以上30%以下であるような付勢条件下で水滴除去を行う。
((D1−D2)/D1)×100% (1)
また、吸水ロール163A、Bの上方に設けられた給水装置165A、Bからは、水が連続的に吸水ロール163A、Bに滴下される。
吸水ロール163A、Bにより両面についた水滴Wを除去されたシート20はロール167を通って排出される。
さらに、水滴を除去されたシート20は、図示しない水切りノズル(エアーノズル)により、両面にエアーが吹き付けられ、残存する水滴が除去される。
【0042】
(予熱工程)
次に、水滴が除去されたシート20は予熱装置13へ導入され、所定温度に予熱される。すなわち、シート20は、第4のロール124から第1の予熱ロール131の上方の周面に導かれ、第2の予熱ロール132の下方の周面を介して第3の予熱ロール133の上方の周面に送られ、圧接補助ロール134により挟まれて送り出される。
【0043】
(熱処理工程)。
次に、予熱されたシート20は熱処理装置14へ導入され、熱処理されると共に、表面が平滑になる。すなわち、シート20は、予熱ロール133から第1の加熱ロール141の上方の周面に導かれ、圧接補助ロール146により、エンドレスベルト145とともに挟まれて圧接され、エンドレスベルト145に密着される。シート20は、エンドレスベルト145とともに第2の加熱ロール142の下方の周面に導かれ、第2の加熱ロール142により、再びエンドレスベルト145に圧接される。
【0044】
引き続き、シート20は、エンドレスベルト145とともに冷却ロール144の上方に送られ、冷却ロール144により冷却され、引き剥がしロール147に導かれてエンドレスベルト145から剥離される。これらの手段により、シート20は、ポリプロピレン樹脂の融点以下に加熱された状態で鏡面加工されたエンドレスベルト145およびロール142に充分に圧接され、圧接された面が鏡面転写され平滑化されたシートとなる。
【0045】
(第2冷却工程)
次に、熱処理を施されたシート20は、第2の冷却装置15へ導入され、所定温度まで冷却される。すなわち、シート20は、引き剥がしロール147から第1の冷却ロール151の上方の周面に導かれ、第2の冷却ロール152の下方の周面を介して、第3の冷却ロール153に送られて圧接補助ロール154により圧接される。
以上の工程により、本実施形態の透明ポリプロピレン樹脂シート21が得られることとなる。
【0046】
上述した実施形態によれば以下の効果が得られる。
(1)水滴が付着したシート20を下方から上方に搬送し、さらにこのシート20の表面に対し、シート20の搬送速度と同じ周速度を有する吸水ロール163A、Bを付勢するので、シート20の表面に付着した水滴を効率的に除去できる。すなわち、吸水ロール163A、B内に保持されていた水は、シート20に対して吸水ロール163A、Bが付勢され弾性変形したときに下方に排斥され、シート20が吸水ロール163A、Bから上方に離れ、変形した吸水ロール163A、Bの形状が戻る時に吸水ロール163A、B内の孔が開放され吸水能力が回復してシート20の表面の水滴を除去する。それ故、シート20の搬送速度を上げることができ、結果として透明ポリプロピレン樹脂シート21の生産性向上に大幅に寄与する。特に、シート厚みが薄くなると水滴の付着によりシワが発生しやすくなるが、本実施形態では、吸水ロール163A、Bの回転周速度がシート20の搬送速度と同じに制御されているので、回転負荷がシートの張力に影響を与えない。それ故、シート20が薄物であってもシワが発生しにくく、長期間の連続運転が可能となる。そして、シート20表面に付着した水滴を除去した後に加熱したエンドレスベルト145によりシート20を熱処理するので、水滴に起因する不良現象のない透明ポリプロピレン樹脂シート21が得られる。
【0047】
(2)また、吸水ロール163A、Bにおける弾性体部分の厚み(D1)と、前記吸水ロールを前記シートの表面に付勢したときの当該弾性体部分の厚み(D2)が所定の範囲にあるので、効率よくシート20表面に付着した水滴を除去できる。上記式の値が1%より小さいと、吸水口かを十分に発揮できないおそれがある。一方、上記式の値が50%より大きいと、吸水ロールの弾性体が硬くなってシート表面を傷付けたり、弾性体の弾性回復力が低下して吸水力が低下するおそれがある。
【0048】
(3)吸水ロール163A、Bは、親水性のPVFの連続気泡発泡体からなるので、シート20の表面を傷付けずに効率的に水滴を除去できる。また、この発泡体に形成される孔の平均径が130μm以下であるので、シート20の表面をより傷付けにくいという効果もある。
【0049】
(4)吸水ロール163A、Bは、水冷後のシート20を挟むように一対設けられているので、シート20の両面に付着した水滴を同時に吸収・除去することができる。それ故、付着水の除去工程をコンパクトにできる。
【0050】
(5)絞りロール164A、Bが吸水ロール163A、Bの下部に付勢されているので、吸水ロール163A、Bが吸収した水を絞り出すことができる。それ故、吸水ロール163A、Bが水を吸収する能力を向上させ、さらには、吸水力を一定以上の水準に保つことが可能となる。この絞りロール164A、Bは回転可能であることが好ましく、例えばフリーロールであってもよい。
【0051】
(6)溶融樹脂シート20aを冷却する水には不純物も含まれ、また、冷却されたシート20の表面から溶出する物質もあるので、シートの製造を長時間続けると吸水ロール163A、Bの孔内に次第に汚染物質が堆積するようになる。そうなると、シートの製造をいったん停止して、吸水ロール163A、Bを取り替え、あるいは洗浄する必要がある。本実施形態では、給水装置165A、Bにより、吸水ロール163A、Bに対して絶えず水が滴下されるので、絞りロール164A、Bにより、吸水ロール内部から常に水が外部に押し出されることになり、吸水ロール163A、Bの洗浄が自動的に行われる。
【0052】
(7)本実施形態では、水滴除去装置16の後には、シート20の両面に対して設けられた一対の水切りノズルにより空気をシート20の両面に吹き付けるので、シート20の両面に残存する水滴をさらによく除去することができる。
【0053】
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
前記実施形態における水滴除去装置16では、一対の吸水ロール163A、Bを用いたが、必ずしも水冷後のシートに対し、一対のロールにより同一箇所の水滴を同時に除去する必要はない。例えば、
図3のように、シート20の一方の面側には吸水ロール163Cを、反対側には金属もしくはゴム製のガイドロール167A、B、Cを設けてシート20を挟む形態でもよい。ガイドロールの形状や個数には特に制限はない。この工程後に、吸水ロールとガイドロールの位置を逆にした同様の工程を設けてることで上述の実施形態と同様の効果を奏することができる。
吸水ロール163A、B、Cの材質は、架橋PVA発泡体に限らず、吸水性能が高く、孔が微細であれば熱可塑性樹脂や熱可塑性エラストマー等の発泡体でもよい。
本実施形態では、水滴除去装置16の後に、シート20の両面に対して一対の水切りノズルを設けているが、水滴の除去が十分であれば必ずしも設ける必要はない。また、水切り能力をより向上させるために、PU(ポリウレタン)等のスポンジロールを水滴除去装置16の後に設けてもよい。
【実施例】
【0054】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれにより何ら限定されるものではない。具体的には、
図1に示す製造装置1を用いて各条件下でポリプロピレン樹脂シートを製造し、各種の評価を行った。なお、本実施例における製造装置1のうち、水滴除去装置16を除く部分はWO05/092593号に記載されたポリプロピレン樹脂シートの製造装置に準拠したものである。
【0055】
〔実施例1〜5〕
原料:(株)プライムポリマー製 ポリプロピレン樹脂(ホモタイプ、E103WA)
目標シート厚み:300μm
吸水ロール(一対):
ロール径:130mmφ
材質:PVF(ポリビニルホルマール)発泡体(連続気泡)
発泡体厚み:20mm
発泡体の平均孔径:60μm
圧縮率(%):3、5、15、30、50
給水器:吸水ロールに連続的に給水
絞りロール(フリーロール):吸水ロールに対して付勢
PU(ポリウレタン)スポンジロール:吸水ロールの後に設置
水切りエアー(水切りノズル):前記PUスポンジロールの後に設置
シート搬送速度(m/min):18、20、20以上、20以上、16
【0056】
〔実施例6〕
実施例3において、絞りロールを設けず、吸水ロールを駆動しない以外は同様にして実施した。
【0057】
〔実施例7〕
実施例3において、吸水ロールに給水しない以外は同様にして実施した。
【0058】
〔実施例8〕
実施例3において、吸水ロールの発泡体の平均孔径を130μmとした以外は同様にして実施した。
【0059】
〔実施例9〕
実施例3において、PUスポンジロールを設けず、吸水ロールの発泡体の平均孔径を130μmとした以外は同様にして実施した。
【0060】
〔比較例1〕
実施例1において、吸水ロール、水切りエアー、およびPUスポンジロールを設けず、シート搬送速度を10m/minとした以外は、同様にして実施した。
【0061】
〔比較例2〕
比較例1において、水切りエアー、およびPUスポンジロールを設けた以外は、同様にして実施した。
【0062】
〔比較例3〕
比較例2において、シート搬送速度を13m/minとした以外は、同様にして実施した。
【0063】
〔比較例4〕
比較例2において、シート搬送速度を15m/minとした以外は、同様にして実施した。
【0064】
〔比較例5〕
実施例3において、吸水ロールを駆動せず(フリーロール)、シート搬送速度を15m/minとした以外は、同様にして実施した。なお、この場合、絞りロールが負荷となり、吸水ロールの周速度がシートの搬送速度よりも低下した。
【0065】
〔評価項目・評価方法〕
以下の各項目について評価を行い、その結果を表1〜3に示した。
【0066】
【表1】
【0067】
【表2】
【0068】
【表3】
【0069】
(1)シートの外観
最終的に得られたシートについて、シートに残存した水滴に起因する外観の不良を目視で計測した。
評価基準は以下の通りである。ただし、表には、実際に観察した外観不良の数を記載した。
・シート1m
2当たり0.5mm
2未満の外観不良の数
5以下:OK
6以上:NG
・シート1m
2当たり0.5mm
2以上の大きさの外観不良の数
0:OK
1以上:NG
【0070】
(2)シート表面の傷
最終的に得られたシートについて、表面についた傷(個/m
2)の数を目視で計測し、以下の基準で評価した。
A:なし。
B:極薄い微細な傷が数点認められる。
C:0.5mm
2以下の傷が5個以下認められる。
D:0.5mm
2以下の傷が6個以上、もしくは0.5mm
2を超える傷が認められる。
(3)シート製造時におけるシワ
以下の基準で評価した。
A:なし。
B:若干のタルミがある。
C:タルミはあるが製造可能。
D:シワが発生し、製造不可。
(4)連続運転日数
上記した「シートの外観」が評価基準で「OK」である製品を連続で安定的に生産できる日数を記載した。連続運転日数が1日に満たなかった場合はNGとした。
【0071】
〔評価結果〕
表1の結果より、各実施例の製造方法(製造装置)では、いずれも所定の吸水ロールを備え、かつシート搬送速度と同じ周速度になるように吸水ロールの駆動が制御されているので、水滴除去工程以降での問題が生じず、長期間の連続運転が可能であることがわかる。特に、吸水ロール上部に水滴を給水することで90日間以上の連続運転も可能となる。
一方、比較例1では、吸水ロールを用いておらず、水切りエアーやPUスポンジロールも設置していないので、シートの外観が悪く、連続運転もほとんど不可能である。また、比較例2では、水切りエアーとPUスポンジロールを設置して、シート搬送速度を10m/minという低速にすることでようやく長期間の運転が可能となる。実施例のような高速運転は不可能である。比較例2よりもシートの搬送速度を上げた比較例3、4では、連続運転性能やシートの外観が悪化している。比較例5は、実施例3で吸水ロールの駆動をやめた場合であるが、絞りロールが吸水ロールの回転負荷となりシートにシワが発生した。また、連続運転もほとんど不可能であった。