特許第5946471号(P5946471)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5946471
(24)【登録日】2016年6月10日
(45)【発行日】2016年7月6日
(54)【発明の名称】磁電気センサによる磁場測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 33/02 20060101AFI20160623BHJP
【FI】
   G01R33/02 H
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-549713(P2013-549713)
(86)(22)【出願日】2012年1月13日
(65)【公表番号】特表2014-508287(P2014-508287A)
(43)【公表日】2014年4月3日
(86)【国際出願番号】DE2012000029
(87)【国際公開番号】WO2012097796
(87)【国際公開日】20120726
【審査請求日】2014年11月21日
(31)【優先権主張番号】102011008866.0
(32)【優先日】2011年1月18日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】513181698
【氏名又は名称】クリスティアン−アルブレヒツ−ウニヴェアズィテート ツー キール
【氏名又は名称原語表記】Christian−Albrechts−Universitaet zu Kiel
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】ローベアト ヤーンス
(72)【発明者】
【氏名】ラインハート クネヒェル
(72)【発明者】
【氏名】エックハート クヴァント
【審査官】 續山 浩二
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/133097(WO,A1)
【文献】 特表2007−506112(JP,A)
【文献】 国際公開第2004/070408(WO,A1)
【文献】 特開2005−156182(JP,A)
【文献】 特開昭58−052582(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0030001(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0015918(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 33/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械的な共振周波数fRを有する磁電気センサにより、時間的に変化する磁場を測定する方法であって、
前記磁場は、求めるべき測定振幅Hmess0と、既知の周波数区間fmin<fmess<fmax内の求めるべき測定周波数fmessとを備えた調和的な時間依存性を有する少なくとも1つの成分を有する、磁場を測定する方法において、
a. 選択可能な変調周波数および既知の変調振幅Hmod0を備えた調的な時間依存性を有する変調磁場と、前記磁場とを前記センサにおいて重畳するステップと、
b. 既知の区間境界fmin,fmaxおよび前記センサの前記共振周波数fRによって決定される相補的な周波数区間にわたって前記変調周波数を変化させるステップと、
c. 選択した変調周波数毎に前記センサ信号を測定するステップと、
d. 前記センサの前記機械的な共振時にセンサ信号を生じさせる少なくとも1つの変調周波数fmodをサーチするステップと、
e. 前に求めた前記変調周波数fmodと、前記センサの共振周波数fRとから周波数測定信号fmessを計算するステップと、
f. 変調周波数fmodにおける前記センサ信号を前記重畳された磁場振幅Hsupに変換するステップと、
g. 前記重畳された磁場振幅Hsupと前記変調振幅Hmod0とから測定信号振幅Hmess0を計算するステップとを有する、
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、
前記センサの磁歪特性曲線における動作点を、その電圧応答が主要項において前記磁場強度の2乗に依存するように決定する、
ことを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法において、
前記相補的な周波数区間をfR−fmax<fmod<fR−fminまたはfR+fmin<fmod<fR+fmaxによって決定し、調和的な時間依存性を有する前記磁場の前記少なくとも1つの成分をfmess=|fR−fmod|およびHmess0=Hsup/Hmod0によって計算する、
ことを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法において、
前記磁場は、区間fmin<fmess<fmaxの種々異なる磁場成分周波数および/または種々異なる磁場成分振幅を備えた調和的な時間依存性を有する複数の成分を有しており、
前記センサを前記機械的に共振させる、相補的な周波数区間における複数の変調周波数を求め、
求めた各変調周波数にちょうど1つの磁場成分周波数を対応付け、共振時に測定した各磁場強度にちょうど1つの磁場成分振幅を対応付ける、
ことを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法において、
前記変調振幅Hmod0の絶対値を、磁場強度HBの絶対値よりも小さいか等しく設定し、
前記センサの前記磁歪特性曲線は、磁場強度±HBにおいて変曲点を有する、
ことを特徴とする方法。
【請求項6】
N個の磁電気センサを含む装置によって磁場を測定する方法であって、
前記センサは、既知の機械的な共振周波数fR(i),i=1,…,Nを有しており、
前記磁場は、既知の周波数fMを備えた調和的な時間依存性を有している、方法において、
周波数fmod=fR(i)+fMまたはfmod=fR(i)−fMを有する変調磁場と、前記磁場とを重畳することにより、前記磁場を検出するための、インデックスiで示されるセンサを決定する、
ことを特徴とする方法。
【請求項7】
既知の周波数fMを備えた調和的な時間的な依存関係を有する磁場に対して請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法を実行する装置において、
該装置はアレイを有しており、
該アレイは、既知の機械的な共振周波数fR(i),i=1,…,Nを有するN個の磁電気センサ、および、変更可能な周波数fmod=fR(i)+fMまたはfmod=fR(i)−fMを有する変調磁場と、前記磁場とを重畳するためのユニットとを有しており、該ユニットより、インデックスiで示される前記磁場を検出するためのセンサを決定する、
ことを特徴とする装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁電気センサによって時間的に変化する磁場を測定する方法に関する。
【0002】
磁電気(ME)センサは、例えば、生物内の電流によって生じる、殊に小さな時間的に変化する磁場を検出するのに適している。上記のセンサは、超伝導に基づきかつこのために持続的かつ極めて強い冷却が必要ないわゆるSQUIDSを代替するための有望な候補と考えられている。MEセンサは、殊に生物磁気インタフェースの開発の点からアクチュアルな研究の対象であり、生物磁気インタフェースは第一に医療診断(例えばMEG,MCG)に使用可能であり、またもしかすれば将来的には人工機能補完器具制御にも使用可能であり、またはコンピュータおよび機械の「思考による制御」にさえも使用可能である。
【0003】
すべてのMEセンサの動作の基本コンセプトは、磁歪および圧電式材料の機械的な力結合にある。
【0004】
磁歪材料(例えば強磁性遷移金属(Fe,Ni,Co)およびこれらの合金、希土類Tb,Dy,Smと強磁性遷移金属との化合物(例えばTbFe2,SmFe2)、または強磁性ガラス(主に元素の鉄、コバルト、ホウ素またはケイ素を種々異なる割合で含む))は、これらに作用する磁場の方向に、可逆的に長さが変化する。この長さの変化は、外部磁場に沿った分子磁石の配向に起因するものであり、現在の知識によれば、室温において2.5 mm/m=2500 ppmまでの値を取り得る。
【0005】
圧電体(例えばチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、窒化アルミニウム(AlN))に磁歪材料を機械的に固定して結合すると、上記の磁歪による膨張は、圧電体における構造的な電荷移動(分極)に結び付く力を及ぼし、この分極そのものは、測定可能なピエゾ電圧になる。この電圧は、磁場強度に対する尺度として電子式に検出かつ評価可能である。
【0006】
種々異なって実施される多数のMEセンサが存在する。最も簡単な部類に入るのは、磁歪材料からなる少なくとも1つの層を含む多層の層システムであり、この層システムは、その上に直接配置された圧電層と、圧電材料上の電極としてのメタライゼーション層とを有する。この層システムはふつう、ストライプの形状を有しており、このストライプの少なくとも一方の端部が固定される。ストライプの長さ方向に沿って磁場が作用すると、材料の膨張率が異なることにより、このストライプは曲がり、これによって同時に曲げられる圧電材料は電気的に分極する。2つのストライプ面間の電位差は、測定電圧として取り出すことができる。
【0007】
磁歪(MS)および圧電(PE)材料層は、それ自体公知のコーティング技術によって重なり合って、および/またはあらかじめ設定した基板にデポジットすることができる。MEセンサの作製は、この限りではシリコン技術のプロセスと互換性があり、殊に集積型のMEセンサを例えばMEMS(Micro Electrical Mechanical Systems)構成法で作製可能である。しかしながらMSおよびPEシートを別々に形成し、引き続いて2つのシートを接着することによって1つのMEシートにすることも、上記の原理にしたがって動作する磁場センサを形成するのに適している。
【0008】
すべてのMEセンサは、機械的な共振器である。所定の周波数の周期的な磁場が作用すると、これらのセンサは、機械的な強制振動特性を示す。上記の励振が、MEセンサの機械的な共振周波数によって行われると、磁場強度が極めて小さい場合であっても極めて大きな測定電圧が発生する。
【0009】
生物学的に形成される磁場は一般的に、わずかに1Hzから約100Hzのオーダの周波数しか有しない。これに対して一般的に使用されるMEセンサの共振周波数はふつう、数100Hzから数100kHzまでである。例えばMEMSに組み込むことによってMEセンサをさらに小型化した場合、さらに一層高い共振周波数が予想される。
【0010】
MEセンサにおいて発生する電場強度振幅と、励起磁場強度との比は、ME係数αMEと称される。共振時の磁場の測定値と、共振からほど遠い磁場の測定値との間では、上記のME係数は一般的に2から3桁変化する。
【0011】
したがって望ましいのは、既知の周波数を有する小磁場を検出するために、整合する共振周波数を有するMEセンサをそれぞれ利用することである。実際に、例えば付加的な質量体を配置することにより、冒頭の述べたストライプ方式のMEセンサを一層低い共振周波数に調整するという取り組みがなされている。この場合であってもME係数は、一線を画した共振周波数の最大値を有するため、隣接する周波数により、格段に弱い信号しか供給されない。すべて相異なる共振周波数を有するMEセンサのアレイ(例えばUS 2010/0015918 A1に提案されているアレイ。これらのMEセンサは磁場搬送波の受信器と見なされ、アレイによって複数のデータチャネルが実現される)の場合であっても必ずしも、既知ではない信号を検出しようとしている周波数帯域を十分に密に走査できないのである。さらに数百ものMEセンサを有するアレイを実践的に集積マイクロシステムだけとして作製することになれば、複数のkHz発振器の機械的な共振周波数を、生物磁気的の帯域(<100Hz)に低減することは、まだまったく実施可能になってはいないのである。Alan S.Edelstein等による"Approach for sub pT, Room Temperatur Magnetic Sensors",Sensors,2010 IEEE,IEEE,Piscataway,米国、ニュージャージ、2010年11月1日、第620〜622頁には、磁電気センサによって時間的に変化する磁場を測定する方法が公知である。Greve,Henry等による"Giant magnetoelectric coefficients in (Fe90Co10)78Sil2B10-AlN thin film composites",Applied physics letters, AIP, America Institute of Physics, Melville, 米国、ニューヨーク、2010年5月3日、第182501〜182501号にはさらに薄膜磁電気複合材料が公知である。
【0012】
MEセンサをその機械的な共振周波数外で動作させることも一般的に行われている。関心の中心は、可能な限りに大きな測定動的特性、可能な限りに大きなSN比、および測定すべき磁気交番場に対する電圧応答の線形性にあるため、MEセンサに対し、磁歪特性曲線の線形領域における動作点を選択する(図1)。この特性曲線λ(H)は、磁場Hの作用時におけるMS材料の長手方向の延びλを表しており、2つの磁場方向はこの材料に対して同じ作用を有するため、その経過はつねに対称である。関数λ(H)は、磁場がない場合、まず放物線状に増大するが、同時に上側が制限されている(磁化飽和に達した場合)。したがって関数λ(H)は変曲点HBを有しており、この変曲点では、λのテーラー展開の一次の項がH=HBの周りで優勢であり、同時に最大の傾きを有する。上記のMEセンサをこの有利な動作点で動作させるため、有利には、導体および永久磁石を適当に配置することによって強さHBの一定のバイアス磁場を加える。
【0013】
しかしながらこのようなバイアス磁場は、実際の適用において問題がない訳ではない。複数のMEセンサが互いに接近している場合にはまさにこれら複数の磁気バイアス場の相互作用が発生することがある。殊に、これらの場がビオ・サバールの法則にしたがって形成され、電流が上記の線路を介して導かれる場合には相互作用が発生するのである。永久磁石式バイアス場はエネルギ的に一層適切であるが、適切な場の強度を得るためにはそれなりに十分な量の磁気材料を配置する必要がある。したがってMEセンサに対し、可能限りに小さい磁気バイアス場強度によって上記の動作点に移動させることの可能な、磁歪および圧電性材料からなる層システムおよび積層体を開発するために極めて大きな努力が払われているのである。例えば、このような層システムは、Zhai等による著作"Giant magnetoelectric effect in Metglas/polyvinylidene-fluoride laminares", APPLIED PHYSICS LETTERS 89, 083507 (2006)およびUS 7,023,206 B2に記載されている。それにもかかわらずなお、数エルステッドのバイアス場(磁場強度の旧式のcgs単位:1テスラ=μ0×10,000エルステッド)が必要なのである。
【0014】
一定のバイアス場を完全に省略でき、殊にMEセンサ製造中または測定動作中に適切な調整のための準備をもはや行う必要がなくなることが望ましい。
【0015】
本発明の課題は、自由に選択可能な周波数帯域にわたって、殊に生物磁気の周波数帯域にわたって、周波数に依存しない極めて高いセンサ感度を有する任意のMEセンサによって磁場を測定する方法を提供することである。
【0016】
この課題は、独立請求項に記載した特徴的構成を有する方法によって解決される。従属請求項にはこの方法の有利な実施形態が記載されている。別の独立請求項は、MEセンサのアレイによって磁場を測定することに関する。
【0017】
本発明による方法は、MEセンサの機械的な共振と、H=0の周囲における、すなわちバイアス磁場がない場合の磁歪特性λ(H)≒aH2+O(H4)の2次の経過とを利用する。ここで比例定数aは、与えられたMEセンサ毎に既知であるかまたは直接測定することも可能である。
【0018】
時間tに対する調和的な依存性を有する任意の測定すべき信号
(1) Hmess(t)=Hmess0×cos(2πfmesst)
は、本発明により、付加的に形成した調和変調信号
(2) Hmod(t)=Hmod0×cos(2πfmodt)
とMEセンサにおいて重畳される。ここで上記の変調信号の振幅Hmod0および周波数fmodは、ユーザには既知である。この変調信号は、周波数発生器によって形成され、有利にはアンテナを介し、電磁波として上記のMEセンサに入射する。択一的にはこの変調磁場をMEセンサの周りのコイルによって形成することも可能である。未知のHmess0およびfmessは、上記の測定信号の振幅および周波数として求められる。
【0019】
MEセンサは、
(3) λ(t)≒
a(Hmess(t))2+a(Hmod(t))2+2aHmess(t)×Hmod(t)+O(H4)
の形の磁歪材料の長さ変化によって和信号Hmess(t)+Hmod(t)を検出する。
【0020】
式(3)の第3項は、重要な主要混変調項であり、
(4) 2aHmess(t)×Hmod(t)=aHmess0×
mod0[cos(2π(fmess+fmod)t)+cos(2π(fmess−fmod)t)]
である。
【0021】
したがってユーザは、fmess+fmodまたはfmess−fmodが、MEセンサの共振周波数に丁度相応するようにfmodを調整することができる。上記の測定信号の所定の周波数帯域を検出しようとする場合、相応する相補的な周波数帯域においてfmodを変化させる(または周期的に変動させる)。
【0022】
MEセンサの共振周波数fRはつねに既知であると仮定することができる。疑わしい場合は、簡単な事前検査(例えば、測定信号がない場合には、対象とする周波領域にわたって上記の変調信号を入射させて周期的に変動させる)により、共振周波数の位置を迅速に求めることができる。
【0023】
したがって周波数帯域fmin≦fmess≦fmaxにおいて測定信号を検出したい場合、上記の変調信号を上記の2つの相補的な周波数範囲
(5) fR−fmax≦fmod≦fR−fmin または
(6) fR+fmin≦fmod≦fR+fmax
のうちの1つにわたって変化させ、これによってMEセンサをつねに共振的に励振させる。上記の変調信号との混合により、測定信号の周波数がセンサ共振周波数に移動する。
【0024】
上記のセンサ出力部の電圧信号は、振幅Hmess0×Hmod0を有する混変調項だけによって支配される。なぜならば、式(3)の残りの項は一般的にセンサの共振周波数から大きく離れた周波数を有しており、したがって上記の電圧に対するそれらの寄与は無視することができるからである。測定可能な電圧振幅は、磁場振幅に直接変換することができ、既知の値Hmod0によって除算することにより、求める値Hmess0が得られる。
【0025】
ここで殊に強調したいのは、本発明による方法が、いかなるバイアス磁場がなくても機能することである。この方法はむしろ、磁歪特性曲線の2次の成分が支配的なH=0において最良に機能するのである。
【0026】
上記の変調信号の振幅Hmod0は、ユーザが自由に選択可能なパラメタであるが、このパラメタによってユーザは測定の動的特性をさらに高めることができる。MEセンサの出力電圧は、変調振幅の増大と共に直線的に増加するが、これはおおよそ値Hmod0=HBまでだけである。従来技術の議論においてすでに述べたように磁場強度HBは、まさに磁歪特性曲線λ(H)の変曲点によって特徴付けられる。この磁場強度により、与えられたMEセンサによってその共振の外において最適な動作点で測定するために印加しなければならないバイアス磁場の強さが得られる。
【0027】
したがって従来技術のように動作時にMEセンサの磁気バイアス磁場強度に相応する振幅を有する変調信号を設定することは、本発明の有利な1つの実施形態である。上記の変調信号はセンサに入射させることができるため、有利にもセンサそのものにおいてまたはその作製時にさえ装置的な準備対策はまったく行われない。
【0028】
以下では実施例および図面に基づき、本発明を詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】磁歪特性曲線λ(H)の定性的な経過を示す線図である。
図2】実施例のセンサに対して求めたその機械的な共振曲線の経過を示す線図である。
図3】実施例のセンサに対する最適動作点ないしはバイアス磁場を求める予備調査の結果を示す線図である。
図4】測定信号fmessの周波数が上記のセンサの共振周波数に等しい場合にセンサ信号(ME電圧UME)の周波数を解析した結果を示す線図である。
図5】測定すべき磁場の周波数がfmess=15Hzである図4と同様の線図である。
図6】本発明による方法を用いてバイアス磁場なしに図5の信号(15Hz)を測定した結果を示す線図である。
【0030】
この実施例に対し、20×2mm2の面積を有するストライプ状のMEセンサを使用しており、このMEセンサは、ストライプの片側が固定してつながれている。このセンサの最も下側の層は、130μm厚のシリコン支持体からなり、この支持体上には、300nm厚のモリブデンシートが設けられている。その上にある層は、1800nm厚の圧電性の窒化アルミニウムからなる。その上には金属製ガラス(FeCoSiB)からなる1750nm厚の磁歪層が設けられている。ME電圧は、上記のモリブデンシートと磁歪層との間で取り出され、ロックインアンプないしスペクトルアナライザで測定される。変調場はセンサの周囲の空芯コイルによって形成され、上記の信号はヘルムホルツコイル対によって形成される。
【0031】
例示的なセンサの磁歪特性曲線λ(H)は、定性的には図1に示したように経過する。磁場がない場合(バイアスなし、H=0)の放物線状の経過と、H=±HBにおける2つの変曲点とが良好に識別できる。図1の曲線は、図3の測定曲線の不定積分として計算可能である。
【0032】
MEセンサの機械的な共振を求めるため、共振周波数が存在するはずである周波数領域にわたって測定信号の周波数を変化させる。磁場強度は、ここではHmess0=0.125Oeである。ME電圧は、図2に示したようにfR=844Hzにおいて尖った最大値を示している。これによれば、共振時に従来のME係数に対し、
【数1】
が得られ、上記の電場強度は、平板間隔Lを有する平板コンデンサ(センサの圧電層の厚さ=1.8μm)の電場強度に相応する。
【0033】
MEセンサがHmess0=0.125Oeおよびfmess=844Hzの測定信号によって機械的な共振に励振されるのに対して、従来技術にしたがって最適動作点を求めるため、このセンサの磁歪層に沿ってバイアス磁場を励磁して変化させることができる。図3からわかるのは、最大のセンサ電圧UMEが磁場強度HB=±7.36Oeにおいて得られることである。
【0034】
図4から6には、スペクトルアナライザを用いて、周波数にしたがって分解した測定センサ電圧UMEがそれぞれ示されている。縦座標が対数目盛であることに注意されたい。図4には、Hmess0=0.125Oeおよびfmess=844Hzを有する測定信号に対し、HB=7.36Oeのバイアス磁場を同時に印加した際に得られるME電圧の周波数成分が示されている。明瞭に識別されるのは、MEセンサの機械的な共振周波数における顕著な最大値および50Hzの商用電源周波数の倍数における3つの小さな副極大である。
【0035】
図5では同じバイアス磁場HB=7.36Oeが印加されており、また同様にHmess0=0.125Oeであるが、ここでは測定周波数だけがfmess=15Hzに低減されている。15Hzおよび商用電源周波数におけるME電圧の大きさは、10μVの周りの領域において類似しており、ノイズは1桁小さい。
【0036】
図5の測定信号は最終的に本発明の手段によって検出され、その結果は図6に示されている。センサにはバイアス磁場は印加されていない。本発明による変調信号は、Hmod0=6.72Oeおよびfmod=829Hzによって表され、上記のセンサにおける測定信号に重畳される。Hmod0はここでは例示的に丁度最適値HB=7.36Oe以下に選択される。その他の点においてHmod0の正確な値は重要ではなく、単にこの値が既知であればよい。
【0037】
図6にはME電圧の3つの極大値が示されており、これらの極大値のうちの1つの(829Hzにおける)極大値は、情報のない、既知の変調信号に起因する。この極大値は、評価の際に既知の手段によって抑圧することができる。別の2つの極大値は、829Hz−15Hz=814Hzおよび829Hz+15Hz=844Hz=fRにあり、最後の極大値のME電圧は、他方の極大値を1桁上回っている。
【0038】
829Hzの周りの領域で変調周波数を変化させることにより、844Hzにおいて上で示した値と同じ大きさまたは上で示した値よりも大きい値をとるME電圧が得られることはない。859Hzの周囲になってはじめてこれが再度可能になる。fRの上下の周波数領域(相補的な周波数領域)にわたってfmodを周期的に変動させることにより、重畳された磁場においてセンサの共振時を一意に識別することができ、ひいてはfmessの値も識別することができる。
【0039】
測定可能なME電圧の共振成分は、図6の例において13.3mVにあり、すなわち従来技術による測定を示す図5の例における同じ測定信号の測定値UMEを3桁上回っている。例えば較正曲線を介してUMEを磁場振幅Hsupに変換すると、Hmess0=Hsup/Hmod0が得られ、上記の測定の課題が達成される。
【0040】
本発明に記載した方法による直接的に得られるのは、格段に大きなSN比と、一定のバイアス場を省略できることである。さらに上記のMEセンサは、任意の機械的な共振周波数を有することができ、この周波数は1回だけ求めるだけよい。
【0041】
ここまで説明した本発明は、周波数の低い測定信号(fmess≒数ヘルツ)を検出する場合、困難にぶつかる。この場合、上記の変調信号に対して周波数fmod≒fRを設定し、これにより、情報のない変調信号が、上記のセンサ電圧に対して最大の寄与を提供することになる。
【0042】
実際にfmodはつねにfRに対して所定の間隔を維持しなければならない。H=H(f)を有する共振曲線UME(H)(図2)は、磁場Hが一定の振幅で変化する周波数についてのローレンツ経過を示している。Δf>0が、この曲線の半値幅を表す場合、少なくとも
(8) |fmod−fR|>Δf
を保証しなければならない。したがって|fmess|<Δfの測定信号は、はじめのうちは得られないのである。
【0043】
幸運なことに、この状況においてバイアス場のコンセプトに戻ることができ、MEセンサの別の動作点を選択することができる。このバイアス場は、2次よりも高い次数は、上記の動作点において上記の磁歪特性極線の経過を(ここではHWと記される)を支配し、すなわち、例えば
(9) λ(H=HW)≒c1(HW+dH)+c2(HW+dH)2+c3(HW+dH)3
であり、ただしc1,c2≪c3であり、dHは、時間的に変化する磁場成分である。ここでも、測定すべき変化する磁場と、上記のMEセンサにおける上記の変調磁場とを重畳させると、fmodを選択することにより、発生する複数の混合周波数(2fmess+fmod),(2fmess−fmod),(fmess+2fmod)または(fmess−2fmod)のうちの1つと、センサ共振周波数とを一致させることができる。殊に式(8)に注意して、Δf/2<|fmess|<Δfの範囲に測定信号を検出することできる。ユーザにとってこれがまだ十分でない場合、ユーザはさらに、λ(H)のより次数の高い主要項の別の動作点HWをサーチすることができる。ここで予想されるのは、ユーザが、HW>HB(すなわち変曲点を向こう側)だけに対してこのような動作点を見つけることである。
【0044】
上記の議論は、上記のセンサ共振曲線の半値幅よりも低い周波数の測定信号を検出しようとする場合かつこの場合にだけ、本発明にしたがってセンサ共振に周波数を移動すると共にバイアス磁場を使用する際に当てはまるものである。他のすべての測定応用において(これがふつうである)バイアス磁場は完全に省略可能である。
【0045】
すでにこのことだけで、MEセンサアレイの作製が、殊にマイクロシステム技術における例えばチップとしての作製が、格段に容易になる。その上に上記のアレイの個々のMEセンサの共振周波数には特別な要求が課されることもない。上記のアレイによって空間分解的な測定を行いたい場合、当然のことながら有利になり得るのは、すべてのセンサが同じ共振特性を示しかつ上記の変調場によって同時に励起できる場合である。センサ間に作製に起因する違いがある場合であっても、上記の選択したすべて周期的な変動帯域幅によって上記の共振周波数に合わせることができる場合には、上記の違いは、上記の変調磁場を周期的に変動させる際に無関係である(ないしは上記の評価において識別可能であり、したがって補償可能である)。
【0046】
また(冒頭に挙げたデータ伝送を目的としたUS 2010/0015918 A1において想定されるような)上記のアレイにおいて共振周波数が一層大きく異なる場合であっても、あらかじめ設定された時点にこのアレイの所定のセンサだけによって信号を検出することが関心の対象である場合には有利になり得る。例えば、(例えばUS 2010/0015918 A1における振幅変調の)任意の情報を有しかつ所定の周波数を有する磁気交番場は、あらかじめ定めたセンサ(ここではデータチャネル)に、ここで説明している発明を適用することによって導くこともできる。この場合に別のデータチャネルへの交代は、(場合によって変調振幅を適合させて)変調周波数を変更することによって簡単に行うことができる。
【0047】
有利には、N個の磁電気センサを有する装置によって上記の磁場測定方法を実行することができ、ここでこれらのセンサは、既知の機械的な共振周波数fR(i),i=1,…,Nを有し、上記の磁場は、既知の周波数fを備えた調和的な時間依存性を有しており、上記の磁場と、周波数fmod=fR(i)+fΜまたはfmod=fR(i)−fMを有する変調磁場とを重畳することにより、上記の磁場を検出するための、インデックスiで示されるセンサが決定される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6