(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5946488
(24)【登録日】2016年6月10日
(45)【発行日】2016年7月6日
(54)【発明の名称】ギ酸分解用装置における触媒活性診断方法
(51)【国際特許分類】
G01N 31/10 20060101AFI20160623BHJP
B01J 23/42 20060101ALI20160623BHJP
B01D 53/86 20060101ALI20160623BHJP
G01N 25/28 20060101ALI20160623BHJP
【FI】
G01N31/10
B01J23/42 AZAB
B01D53/36 G
G01N25/28
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-80638(P2014-80638)
(22)【出願日】2014年4月10日
(62)【分割の表示】特願2013-204287(P2013-204287)の分割
【原出願日】2013年9月30日
(65)【公開番号】特開2015-68827(P2015-68827A)
(43)【公開日】2015年4月13日
【審査請求日】2015年6月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000103976
【氏名又は名称】オリジン電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115440
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 光子
(72)【発明者】
【氏名】小澤 直人
【審査官】
三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−067864(JP,A)
【文献】
国際公開第2007/116874(WO,A1)
【文献】
特開昭60−147226(JP,A)
【文献】
特開2006−281166(JP,A)
【文献】
特開平07−096135(JP,A)
【文献】
特開2001−244618(JP,A)
【文献】
特開2002−210555(JP,A)
【文献】
特開2003−287526(JP,A)
【文献】
特開2011−060856(JP,A)
【文献】
特開2007−125578(JP,A)
【文献】
特開2015−085379(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 31/10
B01J 23/42
G01N 25/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
担体(炭素材を除く)に白金族金属を担持させたギ酸分解用触媒を充填したギ酸分解部と、ギ酸分解部に半田付け装置からギ酸を含むガスを導入するガス導入管と、ギ酸分解部に酸素あるいは酸素を含むガスを導入するガス導入機構と、を備え、表面酸化膜をギ酸で還元処理した半田付け装置から排出される排気ガスに含まれるギ酸を、水と二酸化炭素に分解するギ酸分解用装置における触媒活性診断方法であって、
ギ酸を含むガスと酸素あるいは酸素を含むガスとをギ酸分解部に導入し、ギ酸の分解反応時の発熱による触媒温度の変化を、ギ酸分解部の少なくとも上流部1箇所に設けた熱電対により測定し、上昇した触媒温度の変化量の大きさから触媒の活性度を判定することを特徴とする触媒活性診断方法。
【請求項2】
担体(炭素材を除く)に白金族金属を担持させたギ酸分解用触媒を充填したギ酸分解部と、ギ酸分解部に半田付け装置からギ酸を含むガスを導入するガス導入管と、ギ酸分解部に酸素あるいは酸素を含むガスを導入するガス導入機構と、を備え、表面酸化膜をギ酸で還元処理した半田付け装置から排出される排気ガスに含まれるギ酸を、水と二酸化炭素に分解するギ酸分解用装置における触媒活性診断方法であって、
ギ酸を含むガスと酸素あるいは酸素を含むガスとをギ酸分解部に導入し、ギ酸の分解反応時の発熱による触媒温度の変化を、ギ酸分解部の上流部と下流部の少なくとも2箇所に設けた熱電対により測定し、上昇した触媒温度の変化量の大きさから触媒の活性度を判定することを特徴とする触媒活性診断方法。
【請求項3】
前記触媒温度の変化量が設定値以上のときには、触媒活性が保持されていると判定し、前記触媒温度の変化量が設定値より小さいときには、触媒活性が低下していると判定する請求項1または2記載の触媒活性診断方法。
【請求項4】
前記ギ酸分解部が、触媒加熱用ヒーターを備えている請求項1または2記載の触媒活性診断方法。
【請求項5】
前記ギ酸を含むガスが、ギ酸、二酸化炭素、水を含有する不活性ガスである請求項1または2記載の触媒活性診断方法。
【請求項6】
前記酸素を含むガスが、空気である請求項1または2記載の触媒活性診断方法。
【請求項7】
前記ギ酸分解用装置が、前記半田付け装置に接続して使用される装置である請求項1または2記載の触媒活性診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ギ酸分解用装置における触媒活性診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体チップ上に半田バンプを形成する際には、パッド上に半田を付着させ、次いで、マッシュルーム形状から半球体形状へ半田バンプの形状を変化させ、次いで、リフローさせて半田接合する。従来の半田付け方法では、均一な半田バンプを形成するために、フラックスを用いて半田の表面酸化膜を除去し、半田バンプ表面を清浄化していた。
【0003】
しかしながら、フラックスを用いた半田付けでは、フラックスの分解によって、小さな空隙(ボイド)が半田バンプ中に形成されることがある。これらの空隙は、形成された半田接合の電気的及び機械的性質を低下させるだけでなく、半田バンプ付き半導体の平坦性を破壊し、かつ以降の半導体接合工程に影響を及ぼすこともある。分解したフラックスの揮発性物質がリフロー処理装置(半田付け装置)内を汚染する場合もあり、それによってメンテナンスコストが増大することもある。加えて、フラックス残留物がしばしば半導体基板上に残り、金属の腐食を引き起こし、アセンブリの性能を低下させることがある。さらに、リフロー後にフラックス残留物を洗浄除去する方法では、後洗浄という新たな処理工程が加わることで、半田付けに要する時間が増加する。
【0004】
このため、フラックスを用いない半田付け方法として、半田及び被接合部材である基板や電極等を、ギ酸を用いて還元する方法が知られている(特許文献1〜3等参照)。かかる還元方法では、半田部材が搭載された基板が所定温度に達したとき、半田部材を、ギ酸を含む還元性ガスに晒して表面の酸化膜を除去する還元処理を行った後、溶融処理する。
【0005】
しかしながら、ギ酸はチャンバー材を腐食させ、腐食物が金属性異物としてチャンバー内の汚染源になり、基板や基板上に搭載された電子部品などに飛散、付着することがあるため、還元処理終了後にギ酸をチャンバー内から除去する必要がある。また、ギ酸は刺激性があるため、チャンバーから回収したギ酸は安全に処理されることが望ましい。
【0006】
特許文献1に記載された半田付け装置では、加熱室内でギ酸を加熱して気化させ、以下のように分解して水素ガスおよび一酸化炭素ガスを生成し、生成ガスを半田付け装置に供給して酸化膜を還元している。
HCOOH → H
2O + CO
HCOOH → H
2 + CO
2
【0007】
特許文献2に記載された半田付け装置では、リフロー完了後に、シールド材やチャンバー材に付着したギ酸雰囲気ガスを、内壁面を覆うように設置したギ酸分解ヒーターで分解処理している。
【0008】
特許文献3に記載された半田付け装置では、半田付け装置の排気口に、排気ポンプとギ酸回収機構を設置し、排出したギ酸を水またはアルコールに溶解させて回収している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2011−060856号公報(段落[0016])
【特許文献2】特開2007−125578号公報(段落[0042]〜[0044]、
図4)
【特許文献3】特開2001−244618号公報(段落[0090]〜[0092]、付記30、
図16)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に記載された方法は、酸化膜を水素と一酸化炭素で還元するため、水素の還元開始温度(約270℃)以下の融点をもつ鉛フリー半田に対して、半田溶融前に還元処理を行うことができないという問題点がある。
【0011】
この点、特許文献2、3に記載された方法は、ギ酸(還元開始温度;約150℃)を用いるため、比較的低融点の半田にも幅広く用いることができるという利点を有している。しかし、特許文献2の方法では、ギ酸分解後に半田付け装置内に残存する水を除去する必要があり、特許文献3の方法では、回収したギ酸をアルカリで処理しなければならず、いずれの方法もギ酸の処理工程が煩雑である。
【0012】
本発明は、前記の事情に鑑みてなされたものであり、ギ酸を安全かつ迅速に処理することが可能なギ酸分解用装置に充填した触媒の活性度を判定する触媒活性診断方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するため、本発明者等は鋭意検討を重ねた結果、ギ酸を含むガスを、ギ酸分解用触媒の存在下、酸素もしくは空気と反応させることにより、ギ酸を安全かつ迅速に無害化できることを見出し、本発明に到達した。
【0014】
(1)
担体(炭素材を除く)に白金族金属を担持させたギ酸分解用触媒を充填したギ酸分解部と、ギ酸分解部に
半田付け装置からギ酸を含むガスを導入するガス導入管と、ギ酸分解部に酸素あるいは酸素を含むガスを導入するガス導入機構と、を備え、表面酸化膜をギ酸で還元処理した半田付け装置から排出される排気ガスに含まれるギ酸を、水と二酸化炭素に分解するギ酸分解用装置における触媒活性診断方法であって、
ギ酸を含むガスと酸素あるいは酸素を含むガスとをギ酸分解部に導入し、ギ酸の分解反応時の発熱による触媒温度の変化を、ギ酸分解部の少なくとも上流部1箇所に設けた熱電対により測定し、上昇した触媒温度の変化量の大きさから触媒の活性度を判定することを特徴とする触媒活性診断方法。
(2)
担体(炭素材を除く)に白金族金属を担持させたギ酸分解用触媒を充填したギ酸分解部と、ギ酸分解部に
半田付け装置からギ酸を含むガスを導入するガス導入管と、ギ酸分解部に酸素あるいは酸素を含むガスを導入するガス導入機構と、を備え、表面酸化膜をギ酸で還元処理した半田付け装置から排出される排気ガスに含まれるギ酸を、水と二酸化炭素に分解するギ酸分解用装置における触媒活性診断方法であって、
ギ酸を含むガスと酸素あるいは酸素を含むガスとをギ酸分解部に導入し、ギ酸の分解反応時の発熱による触媒温度の変化を、ギ酸分解部の上流部と下流部の少なくとも2箇所に設けた熱電対により測定し、上昇した触媒温度の変化量の大きさから触媒の活性度を判定することを特徴とする触媒活性診断方法。
(3)前記触媒温度の変化量が設定値以上のときには、触媒活性が保持されていると判定し、前記触媒温度の変化量が設定値より小さいときには、触媒活性が低下していると判定する前記(1)または(2)記載の触媒活性診断方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の触媒活性診断方法は、リアルタイムで触媒の活性度を判定することができるので、未分解のギ酸が大気中に放出されるのを防止できる。2箇所以上に熱電対を設置することで、上流部と下流部の触媒の活性度の違いを判定し、触媒の寿命を予測することができる。さらに、触媒の交換時期を予測できるので、半田付け処理にともなう製品の生産効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】ギ酸分解用装置の構成図と半田付け装置への適用例を示す図である。
【
図4】ギ酸分解用装置の連続運転時の温度変化(触媒活性時)と触媒活性の判定法を説明する概念図である。
【
図5】ギ酸分解用装置の連続運転時の温度変化を測定した実施例1の結果を示す図である。
【
図6】実施例1で測定した温度変化をまとめたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係るギ酸分解用装置及びギ酸分解方法について、詳細に説明する。
図1は、本発明のギ酸分解用装置の一例を示す構成図であり、該ギ酸分解用装置を半田付け装置に適用した例を示す図である。
図1において、1はギ酸分解用装置、2はギ酸分解用触媒を充填したギ酸分解部、3はギ酸分解部にギ酸を含むガスを導入するガス導入管、4はギ酸分解部にギ酸分解用の酸素あるいは酸素を含むガスを導入するガス導入機構、5はギ酸を含むガスの導入口、6はギ酸分解物の排出口である。ガス導入管3は、流量計8、流量調整弁を有していることが好ましい。
【0018】
図1に示すギ酸分解用装置1では、ギ酸分解部2内に、ギ酸分解用触媒が充填された触媒層7が形成され、該触媒層7内には、温度測定用の熱電対Tが備えられている。ガス導入管3から導入されたギ酸を含むガスは、ガス導入機構4から導入した酸素あるいは酸素を含むガスとともに、ギ酸分解部2に導入され、触媒と接触することで反応し、水と二酸化炭素に分解する。反応式は以下に示され、当該反応は発熱反応である。
HCOOH + 1/2O
2 → H
2O + CO
2
【0019】
発熱反応であるが故に、
図2に示すように、触媒以外の反応条件を等しくしたとき、触媒の活性が高い場合は反応速度が速くなり、単位時間当りに発生する反応熱が多くなることで触媒温度が上昇し、触媒の活性が低い場合は、単位時間当りに発生する反応熱が少ないために触媒温度の上昇の程度が小さくなる。
【0020】
ギ酸分解部2に充填する触媒としては、ギ酸を分解できるものであれば公知の触媒を制限なく用いることができ、その種類は特に限定されない。例えば、パラジウム、白金、ルテニウム、ロジウム、イリジウム等の白金族触媒;銅、ニッケルなどの金属触媒;モリブデン、バナジウム、鉄、クロムなどの酸化物触媒;等を挙げることができる。
【0021】
白金族の触媒としては、パラジウム、白金、ルテニウム、ロジウム、イリジウム等の金属を
、シリカ、アルミナ、シリカアルミナ、ゼオライト等の担体に対して、1.8g/L〜3g/L担持した触媒が好ましい。
【0022】
触媒層は、粉状、粒状、顆粒状など任意の形状の触媒を充填する、あるいは、上記の担体をハニカム状、コルゲート状など任意の形状に成形した成形体に白金族触媒を担持させたものを充填することにより、形成することができる。成形体は、分解効率が良く反応速度が大きいうえに、耐久性に優れており、触媒の交換が容易といった利点がある。成形体は、比表面積が大きい多孔質体とすることが好ましく、ギ酸を迅速かつ確実に分解するためには、成形体の比表面積が200cm
2/g以上であることが好ましい。
【0023】
ギ酸が分解反応を開始する前の触媒の温度は、特に限定されないが、温度が高い方が分解速度は速くなる。ただし、高温になると装置が大型化し、500℃を超えると触媒が劣化する可能性があるため、好ましくは20〜200℃の範囲、より好ましくは50〜100℃の範囲とし、一定の温度に調整しておくのが良い。
【0024】
また、ギ酸と、酸素あるいは酸素を含むガスとの反応は、常圧下で十分であるが加圧下あるいは減圧下で行っても良い。ギ酸と酸素のモル比(酸素/ギ酸)は1.5以上が好ましく、使用される触媒の種類、反応条件、コストなどを勘案して適宜選択され、上限はない。なお、ギ酸と、酸素あるいは酸素を含むガスとの反応は、回分式、半回分式あるいは連続式のいずれの方法であっても良い。
【0025】
本発明のギ酸分解用装置は、ギ酸を還元剤として用いる半田付け装置(以下、チャンバーという。)10におけるギ酸処理装置として、好ましく用いることができる。この場合、
図1に示すように、チャンバー10内で、半田や被接合部材の表面酸化膜をギ酸で還元処理した後に排出される排気ガス(HCOOH,CO
2,H
2Oを含む混合ガス)を、ギ酸分解用装置のガス導入口5からガス導入管3内に導入し、酸素あるいは酸素を含むガスとともに、ギ酸分解部2に導入し、ギ酸分解部2を通過させながら反応させた後、排気口6から排出するだけで良い。チャンバー10から排出される排気ガスは、ギ酸、二酸化炭素、水を含む不活性ガスが好ましい。不活性ガスとしては、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガスなどが挙げられるが、入手のし易さでは窒素ガスが好ましい。
【0026】
排気ガスの温度は、還元処理に用いる半田の種類など還元処理条件によって異なるが、一般的には、150℃以上、半田融点以下である。本発明では、排気ガスを特に加熱することなくギ酸分解部2に導入するのが良い。半田は、鉛半田、鉛フリー半田のいずれでも良い。
【0027】
ガス導入機構4は、酸素あるいは酸素を含むガス(コスト、供給面で空気が好ましい)の導入口、流量調整弁、流量計などを備えたものが好ましく用いられる。流量調整弁および流量計により、チャンバー10から真空ポンプ11を介してギ酸分解用装置1内に導入する排気ガス量に応じて、酸素のモル比を調整するのが良い。
【0028】
本発明のギ酸の分解方法では、ギ酸を含むガスと、酸素あるいは酸素を含むガスとを、ギ酸分解用触媒の存在下で反応させることにより、ギ酸を水と二酸化炭素に分解することができる。ギ酸を含むガスとギ酸分解用の酸素あるいは酸素を含むガス(空気など)は、別々にギ酸分解部に導入することも可能であるが、両者を混合した後、混合ガスとしてギ酸分解部に導入する方が、反応の均一性を高めることができ、ガスの流量調整も容易であることから好ましい。
【0029】
また、触媒は未加熱でも反応は進行するが、加熱触媒を用いることが好ましい。触媒を加熱することにより、ギ酸を確実に二酸化炭素と水に分解することができるとともに、副生する水を蒸発させてガス化できるため、排気口6を介して、確実に装置外へ排出することができる。
【0030】
ギ酸を含むガスおよび酸素あるいは酸素を含むガスの導入量は、分解反応に供するギ酸の濃度、使用される触媒の種類、反応温度などを勘案して適宜選択されれば良く、特に制限はない。分解速度を良好な状態に維持するには、これらのガスの導入量に応じて触媒量を変えることが望ましい。また、ギ酸を含むガス中のギ酸量は、特に限定されない。
【0031】
本発明のギ酸分解用装置は、ギ酸を還元剤として用いる半田付け装置に接続して用いることができ、この場合のギ酸分解処理は、回分式、半回分式、連続式のいずれであっても良い。ただし、経時で触媒活性が低下することがある。
【0032】
そのため、本発明の触媒活性診断方法では、ギ酸分解用触媒を充填したギ酸分解部と、前記ギ酸分解部にギ酸を含むガスを導入するガス導入管と、前記ギ酸分解部に酸素あるいは酸素を含むガスを導入するガス導入機構と、を備えたギ酸分解用装置の触媒活性診断方法であって、ギ酸を含むガスと酸素あるいは酸素を含むガスとをギ酸分解部に導入し、ギ酸の分解反応時の発熱による触媒温度の変化を熱電対により測定し、上昇した温度変化量の大きさから、触媒の活性度を判定する。つまり、
図2に示すように、ギ酸を含むガスの導入開始から導入終了までの温度を測定し、触媒温度の変化量(ΔT)を求めることにより、触媒の活性度を判定する。
【0033】
したがって、熱電対を少なくとも触媒層の上流部1箇所に設け、触媒温度の変化量(ΔT)を求めることで、触媒の活性度を判定することができる。また、触媒層の上流部と下流部の少なくとも2箇所に設け、各熱電対で測定した触媒温度の変化量(ΔT)を対比することで、触媒層全体の触媒の活性度を判定することができる。
【0034】
触媒温度の変化量(ΔT)は、導入されるギ酸量および触媒活性と相関するので、導入するガスのギ酸含有量が多い程大きく、また、触媒活性が高い程大きくなる傾向がある。
ガス中のギ酸含有量が同じであっても、ガスの流量によって、触媒温度の変化量(ΔT)は影響されるので、触媒の活性度の判定精度を高めるためには、触媒層を通過するガスの流量(ギ酸を含むガスと酸素あるいは酸素を含むガスの合計量)の変動幅が0.2L/min以内になるよう調整することが好ましい。
【0035】
そして、触媒温度の変化量(ΔT)が設定値より大きいときには触媒活性が保持されていると判定し、触媒温度の変化量(ΔT)が設定値より小さいときには触媒活性が低下していると判定する。触媒活性が低下したと判定された時には、装置アラームが作動するように設定しておけば、触媒温度の変化量(ΔT)を絶えず監視しなくても触媒の交換時期を知ることができる。
【0036】
本発明のギ酸分解用装置には、本発明の触媒活性診断方法を適用することが好ましい。
図3は、本発明の触媒活性診断方法を適用するのに好適なギ酸分解用装置のギ酸分解部2周辺の概略構成図である。
図3において、T1、T2、T3はギ酸分解部2内の触媒層7内に挿入される熱電対であり、T1は触媒層7の上流部、T2は触媒層7の中程、T3は触媒層7の下流部に、それぞれ設置される。
【0037】
熱電対Tを触媒層の上流部と下流部の少なくとも2箇所に設置した場合は、ギ酸を含むガスと酸素もしくは酸素を含むガスが、ギ酸分解部2に流入すると、先ず上流部の触媒に接触した後、下流部の触媒に接触するので、上流部の触媒はギ酸と酸素の反応熱によって温度上昇が生じる。次いで、中程の触媒から下流部の触媒へとガスが流入していくに連れて、ギ酸量が減少し、その結果反応熱が小さくなるため、触媒温度の上昇幅は減少する。このように、上流部の触媒の触媒活性と下流部の触媒の触媒活性とを対比することができるため、例えば上流部では触媒活性が低下していても、下流部では触媒活性が低下していないことなどを簡単に判定できる。尚、熱電対T2は、必須ではないが、設置することにより触媒活性の測定点が増え、より緻密に触媒活性を判定できる。熱電対は、必要に応じて3個以上設置しても構わない。
【0038】
熱電対による温度測定値は、入力値としてデータ処理装置に送られた後、該データ処理装置において、各測定点の触媒温度の変化量(ΔT)が算出される。触媒温度の変化量(ΔT)が設定値以上のときには、触媒活性が保持されていると判定し、触媒温度の変化量(ΔT)が設定値より小さいときには、触媒活性が落ちている(装置アラーム)と判定する。設定値は、処理対象となるガス中のギ酸濃度、ガスの流量、コスト、酸素流量、触媒層の加熱温度、触媒層の構造、触媒の種類などを勘案して、適宜設定することができる。
【0039】
以上は、熱電対による触媒温度の変化量を判定する診断方法の一例であるが、熱電対を用いて、反応熱量を測定することで触媒活性度を判定することも可能である。また、ギ酸を含むガスには、窒素ガスなどの不活性ガスやギ酸以外に、アルデヒド等のガス類が含まれていても構わない。
【実施例】
【0040】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例にのみ限定されるものではない。
【0041】
(試験方法)
図1に示す装置で、チャンバー10の容量が20L、ギ酸分解部2に1Lの触媒を充填した装置を用いて試験を行った。なお、ギ酸分解部2には、
図3に示すように、触媒層の上流、中間、下流の3箇所に熱電対T1、T2、T3を設置した。触媒としては、粒状のアルミナにPtを1.8g/L担持したPt/アルミナ触媒を用いた。触媒活性を判定するために、活性を低下させた触媒も一部併用して試験を行った。
【0042】
試験方法は以下の通りである。バルブ20およびバルブ21を閉じた状態で、真空ポンプ11を稼働させ、分解用エアーを導入機構4を介して流すとともに、ギ酸分解部2の触媒をヒーター(図示せず)で100℃まで加熱して試験準備を完了する。そして、バルブ20を開き、流量計22を介して、ギ酸を含むガスを20L/分の流速でチャンバー10に導入する。チャンバー10内にギ酸を含むガスが導入され次第、バルブ20を閉じ、バルブ21を開いて、真空ポンプ11によりチャンバー10内のギ酸を含むガスを排気し、ギ酸分解部2にギ酸を含むガスと分解用エアーを流通させてギ酸を分解し、この間の触媒層の上流、中間および下流の温度を、それぞれ熱電対T1、T2およびT3で測定する。チャンバー10内のガスが全て排気されたらバルブ21を閉じて1サイクルの試験を終了し、当該サイクルを繰り返しながら、熱電対T1、T2およびT3で温度を測定する。
【0043】
ギ酸を含むガスとしては、ギ酸ガスに窒素ガスを混合し、混合ガス中のギ酸濃度が3%になるように調整した混合ガスを用いた。分解用エアーとしては空気を使用した。
【0044】
真空ポンプ11の排気量は120L/分、分解用エアーの流量は30L/分に設定して試験を行った。したがって、ギ酸分解部2を流通するギ酸の量は3.6L/分、分解用エアー中の酸素の量は6.3L/分(空気中の酸素濃度21%として)であり、酸素とギ酸のモル比は、酸素/ギ酸=1.75であった。
【0045】
(触媒活性の判定方法)
図4に示すように、熱電対T1、T2およびT3で測定した触媒温度の状況より触媒活性の判定を行う。
図4は、触媒温度の変化を示す概念図であり、ギ酸分解部2に導入されたギ酸は、触媒層の上流部で大部分が分解され、上流部の熱電対T1で測定した触媒温度はギ酸ガスの導入とともに大きく上昇し、ギ酸ガスの通過が終了すると分解用エアーで冷却されることになる。触媒層の上流部で大部分のギ酸が分解されるため、触媒層の中間部に到達するギ酸の量は上流部に比べて少ないため、熱電対T2で測定される触媒温度の上昇の程度は小さい。そして、触媒層の下流部にはギ酸はほとんど到達しないため、熱電対3で測定される触媒の温度はほとんど変化しないことがわかる。そして、触媒の温度変化量(
図4におけるΔT)が、予め設定した値を下回った場合には、触媒活性が低下したと判定する。
【0046】
(実施例1)
触媒として、粒状アルミナにPtを1.8g/L担持したPt/アルミナ触媒を使用した。新しく調製した触媒1Lをギ酸分解部2に充填して触媒層を調製し、前記試験法にしたがって試験を行った(試験(a)とする)。
【0047】
次に、一部触媒活性が低下した触媒330mlを準備し、ギ酸分解部2の上部1/3の部分に充填し(下部2/3は試験(a)に用いた新しく調製した触媒を充填)、前記試験法にしたがって試験を行った(試験(b)とする)。
【0048】
さらに、触媒活性が完全に失われた触媒330mlを準備し、ギ酸分解部2の上部1/3の部分に充填し(下部2/3は試験(a)に用いた新しく調製した触媒を充填)、前記試験法にしたがって試験を行った(試験(c)とする)。
【0049】
試験(a)、試験(b)および試験(c)において、熱電対T1、T2およびT3で測定した触媒層の上流部、中間部および下流部の温度の変化を
図5に示す。なお、
図5では、4サイクル目までの結果を示している。
【0050】
また、
図5に示す温度の測定結果から求めた触媒温度の変化量(ΔT)の値を
図6にまとめた。
図6において、T1と記載したグラフは、触媒層の上流部の各試験(a)、(b)、(c)での触媒温度の変化量を表す。同じく、T2と記載したグラフは触媒層の中間部、T3と記載したグラフは触媒層の下流部での各試験(a)、(b)、(c)の触媒温度の変化量を表している。
【0051】
図5あるいは
図6より、十分な触媒活性を有する新品の触媒を用いた試験(a)の場合には、ギ酸分解部2に導入されたギ酸は触媒層の上流部でほぼ分解され、触媒層の中間部以降には到達しないことがわかる。触媒層の上流部に、一部活性が低下した触媒を用いた試験(b)の場合には、触媒層の上流部ではギ酸は完全には分解できず、一部が中間部に到達することがわかる。そして、触媒層の上流部に、活性が完全に失われた触媒を用いた試験(c)の場合には、触媒層の上流部ではギ酸の分解は殆ど起こらず、ギ酸は触媒層の中間部で分解されることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明によるギ酸分解用装置およびギ酸分解方法は、半導体装置の半田付け工程で用いた還元性ガスの処理装置および処理方法として、好適に利用できる。
【符号の説明】
【0053】
1 ギ酸分解用装置
2 ギ酸分解部
3 ガス導入管
4 ガス導入機構
5 ガス導入口
6 排気口
7 触媒層
8 流量計
10 チャンバー
11 真空ポンプ
20、21 バルブ
22、流量計