【実施例】
【0031】
本発明のメラニン生成抑制剤について、メラニン生成を抑制する作用を評価する試験を実施した。試験結果を以下に示す。
【0032】
<アマクサシダ抽出液の評価>
アマクサシダは、種子島で採取した葉を、換気・循環型乾燥用恒温器(株式会社いすゞ製作所製、型番EPFH−343−2T)を用いて50℃で2日間温風乾燥した。乾燥した葉は、卓上粉砕機(株式会社東京ユニコム、型番T−351)を用いて粉末化した。アマクサシダの粉末50gを、500mlのブチレングリコールに浸漬し、23℃で、72時間抽出を行った。その後、フィルター濾過を行い、450mlのアマクサシダ抽出液を回収した。回収したアマクサシダ抽出液について、メラニン生成抑制を評価した。アマクサシダ抽出液を評価するために、メラニン産生細胞であるB16メラノーマ細胞を使用し、培養後のB16メラノーマ細胞のメラニン生成量を目視観察により行った。
【0033】
(B16メラノーマ細胞の培養)
メラニン生成量の評価を行うために、メラニン産生細胞であるB16メラノーマ細胞の培養を行った。以下にB16メラノーマ細胞の培養方法を示す。
(1)6穴−ディッシュに、メラニン産成細胞であるB16メラノーマ細胞(JCRB細胞バンク、細胞番号:JCRB0202)を1×10
4細胞(1ml/ウェル)となるように播種し、1mlの前培養培地を添加後、37℃、5%二酸化炭素気流下で1日間培養した。
前培養培地:10%FCS(ウシ胎児血清)含有DMEM High Glucose培地(抗生物質MIX(和光純薬工業株式会社製)を終濃度が1Xになるように添加)を使用した。
(2)(1)で培養したB16メラノーマ細胞の前培養培地を除去した後、2mlのB16メラノーマ細胞の処理用培地を添加して72時間培養した。
(3)(2)で培養したB16メラノーマ細胞を、リン酸緩衝溶液(PBS)で洗浄し、1.5mlのエッペンドルフチューブに回収して、細胞の色を目視により比較した。
処理用培地:前培養と同じ培地に、アマクサシダ抽出液を300倍希釈及び1000倍希釈となるように添加した(容量比)。各試験サンプルには、ホルスコリン(FSK)を20μM(最終濃度)、DMSOを0.2%(最終濃度)となるように添加した。FSKは、B16メラノーマ細胞のαメラニン細胞刺激ホルモン(αMSH)と同様にシグナル誘導を生じさせ、メラニン合成を促進させる物質である。
コントロール用処理用培地:上記処理用培地にアマクサシダ抽出液を無添加とした。
ブランク用処理用培地:上記処理用培地にアマクサシダ抽出液及びFSKを無添加とした。
【0034】
図1は、アマクサシダ抽出液のメラニン生成抑制効果を示す図であり、アマクサシダのブチレングリコール抽出液の濃度とメラニン生成抑制効果との関係を示すものである。アマクサシダ抽出液を1000倍に希釈しても、メラニン生成抑制効果が確認された。
【0035】
<アマクサシダからのメラニン生成抑制剤の抽出及び精製>
<アマクサシダ抽出液の評価>の項で説明した同じ方法で得たアマクサシダの粉末50gを、500mlのエタノールに浸漬し、23℃で、72時間抽出を行い、その後、2000rpm、10分間で遠心分離し、450mlのアマクサシダ抽出液を回収した。アマクサシダ抽出液をエバポレーターにかけてエタノールを揮発させ、10mlに濃縮した。濃縮液にクロロホルム500mlを添加し、1週間放置してクロロホルムに溶解させてクロロホルム溶解液を調製した。クロロホルム溶解液をフィルターでろ過し、ろ液をエバポレーターにかけて5mlに濃縮した。次いで、濃縮液を20gのシリカゲル(型番:30721、ナカライテスク株式会社製)を詰めたカラムを用いて分画した。濃縮したクロロホルム溶解液90mlをシリカゲルカラムにアプライし、メタノールをそれぞれ2.5容量%、5容量%、7.5容量%、10容量%、12.5容量%、15容量%、17.5容量%、20容量%に調整したメタノール/クロロホルムの溶出液90mlを用いて順次溶出させ、19画分を得た。(B16メラノーマ細胞の培養)の項で説明した同じ方法により、各画分のメラニン生成抑制効果を確認したところ、画分(16)、画分(17)、及び画分(18)の3画分に強いメラニン生成抑制の活性が存在した。当該3画分を1本にまとめて乾燥し、1mlのクロロホルムを添加した。このクロロホルム添加物を、クロロホルムに溶解する画分と、クロロホルムに溶解しない画分とに分離した。何れの画分にもメラニン生成抑制効果を確認した。クロロホルムに溶解しない画分を硫酸(最終濃度1%)により100℃、30分で加水分解した。当該加水分解物を、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて下記条件で分析し、メインピークを回収した。回収溶液を減圧乾燥して化合物1(11ベータ−ヒドロキシ−15−オキソ−エント−カウラ−16−エン−19−オイクアシッド)の精製物を得た。クロロホルムに溶解する画分も同様にHPLCを用いてメインピークを回収すると、同じ化合物1が得られた。化合物1は、アマクサシダの粉末50gから約10mg得られた。また、質量分析により、加水分解前のクロロホルム非溶解画分は、化合物1のグルコース配糖体であることが確認された。
【0036】
カラム:COSMOSIL(登録商標) 5C
18−MS−II(ナカライテスク株式会社製)
移動相:アセトニトリル:水=10:90から60:40(グラジュエント溶出)
流速:2ml/分
検出波長:245nm
【0037】
構造決定は、
1H−NMR及び
13C−NMRに基づいて行った。以下に、
1H−NMR及び
13C−NMRスペクトルのシグナルを示す。
1H−NMR(CDCl
3+CD
3OD):0.85(3H,s),1.14(3H,s),2.29(1H,d,J=12.0Hz),2.95(1H,broads),3.93(1H,d,J=4.6Hz),5.16(1H,s),5.73(1H,s)
13C−NMR(CDCl
3+CD
3OD):40.5(C−1),18.7(C−2),37.8(C−3),43.4(C−4),55.8(C−5),19.8(C−6),33.7(C−7),50.6(C−8),62.8(C−9),38.8(C−10),65.7(C−11),65.7(C−12),36.8(C−13),36.4(C−14),210.7(C−15),150.3(C−16),112.7(C−17),28.8(C−18),180.4(C−19),15.4(C−20)
【0038】
<B16メラノーマ細胞を用いたメラニン生成抑制の評価>
メラニン生成抑制の試験化合物としてアマクサシダから精製した化合物1、アマクサシダから精製した化合物1のグルコース基の配糖体、化合物4(プテリソリックアシッドD:Pterisolic acidD、ChemFaces社製)、比較化合物1(11,15−ジヒドロキシ−エント−カウラ−16−エン−19−オイクアシッド、ChemFaces社製)、及び比較化合物2(プテリソリックアシッドA:Pterisolic acid A、ChemFaces社製)について、メラニン生成抑制を評価した。これら試験化合物を評価するために、メラニン産生細胞であるB16メラノーマ細胞を使用した。B16メラノーマ細胞の培養は、(B16メラノーマ細胞の培養)の項で説明した同じ方法により培養した。評価は、試験化合物(最終濃度:10μM)を添加したB16メラノーマ細胞について、培養後の各B16メラノーマ細胞のメラニン生成量の目視観察及び定量分析により行った。以下、メラニンの定量法について説明する。
【0039】
(メラニンの定量)
回収した各B16メラノーマ細胞からメラニンを抽出した。メラニンの抽出方法を以下に示す。
(1)タンパク質量を合わせた各試験サンプルからPBSを除去し、300μlの1N NaOHを加え、細胞の破片が見えなくなるまでホモジナイズした。
(2)各試験サンプルを45℃、2時間でインキュベートした。
(3)各試験サンプルにメタノール:クロロホルム(1:2)混合溶液を100μl加え、撹拌し、メラニンを抽出した。
(4)1200rpm、10分で遠心分離し、上清を回収し、メラニン抽出液を得た。
(5)メラニン抽出液100μlを、96穴プレートに分注し、405nmの吸光度を測定した。
(6)メラニン標準溶液の吸光度から検量線を作成し、各試験サンプルのメラニン量の濃度を算出した。メラニン標準溶液は、メラニンの濃度が0μg/ml,6.25μg/ml,12.5μg/ml,25μg/ml,50μg/ml,100μg/mlとなるように、メラニンを、1N NaOH水溶液に溶解して調製した。メラニン標準溶液の300μl(n=3)を1.5mlエッペンドルフチューブに加え、上記(3)〜(5)と同じ方法でメラニンを測定し、検量線を作成した。
メラニン生成抑制効果は、各試験サンプルのタンパク質量を測定し、タンパク質1mg当たりのメラニンの生成量(μg)で示した。
【0040】
図2は、本発明に係るメラニン生成抑制剤のメラニン生成抑制効果を示したグラフである。コントロールと比較すると、アマクサシダから抽出された化合物1及び化合物1のグルコース配糖体に非常に強いメラニン生成抑制効果が確認された。また、化合物4にもメラニン生成抑制効果が認められた。これに対して、同じカウレン類の化合物の中でも、カウレン骨格の15位の炭素に酸素の二重結合を有さない比較化合物1、及び9位及び11位の炭素の何れにも水酸基を有さない比較化合物2には、メラニン生成抑制効果が認められなかった。
【0041】
<メラニン生成抑制剤の濃度とメラニン生成抑制効果>
図3は、本発明に係るメラニン生成抑制剤のメラニン生成抑制効果を示す図であり、本発明に係るメラニン生成抑制剤の濃度とメラニン生成抑制効果との関係を示すものである。メラニン生成抑制効果が認められた化合物1及び化合物4を使用して、メラニン生成抑制剤の濃度とメラニン生成抑制効果との関係を評価した。評価方法としては、化合物1及び化合物4の濃度を3μM、10μM、及び30μMに調整した試験サンプルを用いて、(B16メラノーマ細胞の培養)の項で説明した同じ方法により、B16メラノーマ細胞を培養後、目視観察により比較した。
【0042】
図3の写真から、化合物1は、3μMの低濃度でも、十分なメラニン生成抑制効果が認められた。また、化合物4についても、30μMの濃度において、メラニン生成抑制効果が認められた。
【0043】
<三次元培養皮膚モデルを用いたメラニン生成抑制の評価>
図4は、本発明に係るメラニン生成抑制剤のメラニン生成抑制効果を示す図であり、本発明に係るメラニン生成抑制剤の三次元培養皮膚モデルを用いたメラニン生成抑制効果を示すものである。化合物1を使用して、三次元培養皮膚モデルによるメラニン生成抑制試験を行った。メラニン生成抑制試験は、市販されている三次元培養皮膚モデル(MEL-300キットAsian donor:倉敷紡績株式会社製)を用いて行った。キットの使用方法に従い、MEL-300皮膚モデルカップを6ウエルプレートの各ウエルにセットし、37℃インキュベーターで温めたキット用維持培地(EPI−100:培地添加時にSCFを最終濃度10ng/mLになるように添加した)を皮膚モデルカップに無菌的に5mLずつ入れた。皮膚モデルカップに化合物1を300μMとなるように添加し、皮膚モデルカップの入った6ウエルプレートをインキュベーター(37℃、5%CO
2)に入れ、14日間培養した。培地交換は、3日に一度行った。コントロール及び化合物1を添加した試験サンプルには、UVを30mJ/cm
2となるように照射し、ブランクは、UVを照射しなかった。培養後、各サンプルの黒色度を測定し、メラニン生成抑制効果を評価した。画像処理ソフトであるImageJ(無料ソフトウエアー)を用いて階調を測定し、ブランクを1.0として、黒色度を比較した。
【0044】
図4の写真から、化合物1は、UVを照射しないブランクと黒色度において略同じ値となり、三次元培養皮膚モデルにおいても、メラニンの生成が抑制されることが確認された。
【0045】
<三次元培養皮膚モデルを用いた毒性評価>
図5は、本発明に係るメラニン生成抑制剤における毒性の評価結果を示すグラフである。化合物1を使用して、三次元培養皮膚モデルによるメラニン生成抑制剤の毒性試験を行った。メラニン生成抑制剤の毒性試験では、化合物1の添加量を、30μM、100μM、及び300μMに調整し、上記三次元培養皮膚モデルの試験と同じ方法により培養を行った。MEL-300皮膚モデルを培養後、1/10容量の細胞毒性試験試薬を直接培地に添加し、30分間さらに培養した。その後、培地を回収し、光学密度(OD)を、マイクロプレート分光光度計(680型、バイオ・ラッド社製)を用いて450nmで測定した。細胞毒性試験試薬は、WST−8[2−(2−メトキシ−4−ニトロフェニル)−3−(4−ニトロフェニル)−5−(2,4−ジスルホフェニル)−2H−テトラゾリウム、モノナトリウム塩](Cell−Counting Kit−8(登録商標)、株式会社同仁化学研究所製)を用いて判定した。
【0046】
図5のグラフから、化合物1は、ブランクと略同じ値となり、300μMの濃度でも、三次元培養皮膚モデルにおいて毒性を示さないことが確認された。なお、化合物1は、三次元培養皮膚モデルにおいて900μMの濃度でも毒性を示さないことが確認されている(データ示さず)。
【0047】
<安全性試験>
ヒトに対する安全性試験として皮膚パッチテストを行った。精製したアマクサシダ抽出物の粉末(化合物1)を0.01質量%、0.05質量%、0.1質量%となるように白色ワセリン(日本薬局方、和光純薬工業株式会社製)に練りこみ、フィンチャンバー(株式会社スマートプラクティスジャパン社製)を用いて、クローズドパッチテストを実施した。敏感肌が2名、やや敏感肌が2名、普通肌が2名の成人男女6人で行った。試験サンプル5点(ブランク2点、濃度の異なる化合物1のサンプル3点)を塗布したフィンチャンバーを、上腕内側に貼り付けてから24時間後に剥離し、その1時間後及び24時間後に判定を行った。
皮膚に異常がなかった場合を0ポイント、軽度の赤みのみの場合を1ポイント、赤みや腫れ等の異常が見られた場合を3ポイントとし、6名の合計ポイントを計算して、試験サンプルを19段階(0〜18ポイント)で評価した。判定は合計5ポイント以上で不合格とした。化合物1を含まないブランクについては、同じ試験を二回繰り返した。以下、試験結果を示す。
【0048】
【表1】
【0049】
化合物1を含むサンプル及びブランクは、何れも合格判定であったが、化合物1を含むサンプルはブランクよりも合計ポイントが低く、より良好な結果が得られることが判明した。従って、本発明のメラニン生成抑制剤は、ヒトの皮膚に対して使用することに問題はなく、安全性が高いため、化粧品や医薬組成物等の製品に適用できることが示唆された。