特許第5946510号(P5946510)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5946510メラニン生成抑制剤、化粧料、及びメラニン生成抑制剤の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5946510
(24)【登録日】2016年6月10日
(45)【発行日】2016年7月6日
(54)【発明の名称】メラニン生成抑制剤、化粧料、及びメラニン生成抑制剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/365 20060101AFI20160623BHJP
   A61K 8/97 20060101ALI20160623BHJP
   A61Q 19/02 20060101ALI20160623BHJP
   A61K 31/19 20060101ALI20160623BHJP
   A61K 31/7024 20060101ALI20160623BHJP
   A61K 36/12 20060101ALI20160623BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20160623BHJP
【FI】
   A61K8/365
   A61K8/97
   A61Q19/02
   A61K31/19
   A61K31/7024
   A61K36/12
   A61P17/00
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-234698(P2014-234698)
(22)【出願日】2014年11月19日
(65)【公開番号】特開2016-98188(P2016-98188A)
(43)【公開日】2016年5月30日
【審査請求日】2015年11月30日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】505314022
【氏名又は名称】国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000151966
【氏名又は名称】株式会社桃谷順天館
(74)【代理人】
【識別番号】100141586
【弁理士】
【氏名又は名称】沖中 仁
(74)【代理人】
【識別番号】100165685
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 信治
(72)【発明者】
【氏名】竹森 洋
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 彩子
(72)【発明者】
【氏名】賀川 舞
(72)【発明者】
【氏名】伊東 祐美
(72)【発明者】
【氏名】川原 信夫
(72)【発明者】
【氏名】渕野 裕之
(72)【発明者】
【氏名】杉村 康司
(72)【発明者】
【氏名】黒井 梓
【審査官】 池田 周士郎
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許出願公開第1508114(CN,A)
【文献】 特開2000−169357(JP,A)
【文献】 特開2000−247861(JP,A)
【文献】 特開平06−016581(JP,A)
【文献】 TANAKA, N. ET AL,Weitere Inhaltsstoffe von Pteris dispar Kunze,Chem Pharm Bull,1976年,Vol.24, No.8,pp.1965-1966
【文献】 MURAKAMI, T. ET AL,Chemische Untersuchungen der Inhaltsstoffe von Pteris dispar Kunze,Chem Pharm Bull,1976年,Vol.24, No.3,pp.549-551
【文献】 WANG, Fei ET AL,Pterisolic Acids A-F, New ent-Kaurane Diterpenoids from the Fern Pteris semipinnata,Chem Pharm Bull,2011年,Vol.59, No.4,pp.484-487
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00− 8/99
A61Q 1/00−90/00
A61K 31/33−31/80
A61K 36/00−36/9068
A61P 17/00−17/18
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I):
【化1】
[式中、R、Rは、それぞれH、OH、又はCHであるか、R及びRが一緒になってCHになり、
及びRは、H又はOHであるとともに、少なくとも何れかがOHであり、
は、H又はOHであり、
は、H、グルコース基、ガラクトース基、キシロース基、又はマンノース基である。]
で示される化合物又はその塩を有効成分とするメラニン生成抑制剤。
【請求項2】
、Rは、一緒になってCHであり、
は、OHであり、
、Rは、それぞれHであり、
は、H又はグルコース基である請求項1に記載のメラニン生成抑制剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のメラニン生成抑制剤を含有する化粧料。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のメラニン生成抑制剤を製造する方法であって、
アマクサシダ(Pteris dispar Kunze)乾燥物をメタノール、エタノール、ブチレングリコール、メタノール水溶液、エタノール水溶液、ブチレングリコール水溶液、ヘキサン、及び酢酸エチルからなる群から選択される少なくとも1種類の溶媒に浸漬してアマクサシダ抽出液を抽出する抽出工程
を包含するメラニン生成抑制剤の製造方法。
【請求項5】
前記アマクサシダ抽出液を、液液分配法、吸着クロマトグラフィー、及び分配クロマトグラフィーからなる群から選択される少なくとも1種類の処理法を用いてメラニン生成抑制剤を得る精製工程
をさらに包含する請求項4に記載のメラニン生成抑制剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メラニン生成抑制剤、当該メラニン生成抑制剤を用いた化粧料及び医薬組成物、並びに当該メラニン生成抑制剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シミ、ソバカス等の色素沈着は、太陽光等による紫外線の曝露、ホルモンバランスの異常等により、皮膚内に存在するメラニン細胞(メラノサイト)内において、メラニンが過剰生産されることにより生じることが知られている。メラニンは、チロシナーゼの作用により、必須アミノ酸であるチロシンからドーパキノンを合成し、このドーパキノンが酸化、重合して合成される。このメラニン合成経路をターゲットとしたメラニン生成抑制剤のスクリーニングが精力的に行われている。
【0003】
メラニン生成抑制効果を示す化合物としては、植物等の抽出物を用いるものが多く報告されている。例えば、トウセンダン、ソウカ、セネシオグラシリス、及びコクリロの抽出物が、チロシナーゼ活性の抑制作用を備え、美白作用に有効であることが報告されている(特許文献1)。また、カカオニブ、カカオマス、ココア、及びこれらの抽出物が、メラニンの生成抑制作用を備え、シミ、ソバカス等の色素沈着の予防や治療に有効であることが報告されている(特許文献2)。
【0004】
メラニン生成抑制効果を安定的に発揮させるためには、植物等の抽出物に含まれるメラニン生成抑制効果の有効成分を特定し、当該成分の最適な条件で使用することが望まれる。しかしながら、植物等に含まれるメラニン生成抑制効果を奏する有効成分は、特定されているものが少なく、ガジュツ(Curcuma zedoaria Roscoe)から単離されたゼデロン類化合物や(特許文献3)、ジャトバ(Hymenaea courbaril)から単離されたタンニン型物質(特許文献4)等が報告されている程度である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−195732号公報
【特許文献2】特開2007−15943号公報
【特許文献3】特許第5514739号公報
【特許文献4】特許第3650245号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1〜4に記載の化合物及び植物の抽出物には、メラニン生成を抑制する作用があることが開示され、一部の食品、化粧品、医薬品等の各種製品に配合されて実用化されているものもある。しかしながら、メラニン生成抑制効果、及びその安定性については、必ずしも満足のいくものではなかった。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、シミやソバカス等の色素沈着を効果的に予防、治療することができるメラニン生成抑制剤を提供することを目的とする。また、当該メラニン生成抑制剤を用いた化粧料、及び医薬組成物を提供することを目的とする。さらに、当該メラニン生成抑制剤の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
即ち、本発明は以下の発明を含む。
[発明1]
下記式(I):
【化1】
[式中、R、Rは、それぞれH、OH、又はCHであるか、R及びRが一緒になってCHになり、
及びRは、H又はOHであるとともに、少なくとも何れかがOHであり、
は、H又はOHであり、
は、H、グルコース基、ガラクトース基、キシロース基、又はマンノース基である。]
で示される化合物又はその塩を有効成分とするメラニン生成抑制剤。
[発明2]
、Rは、一緒になってCHであり、
は、OHであり、
、Rは、それぞれHであり、
は、H又はグルコース基である発明1に記載のメラニン生成抑制剤。
[発明3]
発明1又は2に記載のメラニン生成抑制剤を含有する化粧料
[発明4]
発明1又は2に記載のメラニン生成抑制剤を製造する方法であって、
アマクサシダ(Pteris dispar Kunze)乾燥物をメタノール、エタノール、ブチレングリコール、メタノール水溶液、エタノール水溶液、ブチレングリコール水溶液、ヘキサン、及び酢酸エチルからなる群から選択される少なくとも1種類の溶媒に浸漬してアマクサシダ抽出液を抽出する抽出工程
を包含するメラニン生成抑制剤の製造方法。
[発明5]
前記アマクサシダ抽出液を、液液分配法、吸着クロマトグラフィー、及び分配クロマトグラフィーからなる群から選択される少なくとも1種類の処理法を用いてメラニン生成抑制剤を得る精製工程
をさらに包含する発明4に記載のメラニン生成抑制剤の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本構成のメラニン生成抑制剤は、メラニンの生成抑制に優れた効力を提供することができ、単離された当該成分を、配合することにより、安定性に優れ、且つ高い美白効果を有する化粧料及び医薬組成物を提供することができる。また、本構成のメラニン生成抑制剤の製造方法は、当該メラニン生成抑制剤を、簡単な方法で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、アマクサシダ抽出液のメラニン生成抑制効果を示す図である。
図2図2は、本発明に係るメラニン生成抑制剤のメラニン生成抑制効果を示したグラフである。
図3図3は、本発明に係るメラニン生成抑制剤のメラニン生成抑制効果を示す図である。
図4図4は、本発明に係るメラニン生成抑制剤のメラニン生成抑制効果を示す図である。
図5図5は、本発明に係るメラニン生成抑制剤における毒性の評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明者らは、鋭意検討を行った結果、ある種のカウレン類の化合物にメラニン生成抑制効果が存在することを見出し、本発明を完成させた。カウレン類の化合物は、代表的なジテルペンであり、抗菌活性、抗腫瘍活性、抗炎症活性等を備えることが知られているが、カウレン類の化合物にメラニン生成抑制効果があることは、これまで、知られていない。
【0012】
本発明に係るメラニン生成抑制剤は、下記式(I)で示される化合物又はその塩を有効成分とする。
【化2】
【0013】
式中、R、RはそれぞれH、OH、又はCHであるか、R及びRが一緒になってCHになり、
及びRは、H又はOHであるとともに、少なくとも何れかがOHであり、
は、H又はOHであり、
は、H、グルコース基、ガラクトース基、キシロース基、又はマンノース基である。
【0014】
本発明の好ましい化合物としては、以下の化合物が挙げられる。
化合物1:
【化3】
【0015】
化合物2:
【化4】
【0016】
化合物3:
【化5】
【0017】
化合物4:
【化6】
【0018】
化合物5:
【化7】
【0019】
化合物6:
【化8】
【0020】
上記に挙げた化合物のうち、より好ましい化合物は、化合物1(11ベータ−ヒドロキシ−15−オキソ−エント−カウラ−16−エン−19−オイクアシッド:11β−Hydroxy−15−oxo−ent−kaur−16−en−19−oic Acid)及び化合物4(プテリソリックアシッドD:Pterisolic acidD)であり、さらに好ましい化合物は、化合物1である。また、上記化合物1〜6のグルコース基、ガラクトース基、キシロース基、又はマンノース基の配糖体も好ましい例として挙げられ、特にグルコース基の配糖体が好ましい。
【0021】
本発明のメラニン生成抑制剤は、アマクサシダ(Pteris dispar Kunze)から効率よく抽出、精製することができる。アマクサシダは、イノモトソウ科(Pteridaceae)に属し、千葉以西の本州、四国、九州、沖縄、台湾、中国等に広く分布するシダ植物である。アマクサシダの使用される部位は、特に限定されるものではないが、おもに葉が用いられる。
【0022】
本発明のメラニン生成抑制剤は、アマクサシダの乾燥物を粉砕した粉砕物から有機溶媒により抽出される(抽出工程)。抽出に使用する有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、ブチルアルコール等の低級アルコール類;ブチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン等の多価アルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類等が挙げられる。上記有機溶媒には、水を加水して含水有機溶媒としてもよい。好ましい有機溶媒は、メタノール、エタノール、ブチレングリコール、ヘキサン、及び酢酸エチルであり、好ましい含水溶媒は、メタノール水溶液、エタノール水溶液、ブチレングリコール水溶液である。より好ましい有機溶媒は、エタノール、ブチレングリコールであり、より好ましい含水溶媒は、エタノール水溶液、ブチレングリコール水溶液である。有機溶媒は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。含水有機溶媒を調製する場合、有機溶剤の割合は、好ましくは30質量%以上であり、さらに好ましくは50〜99質量%であり、特に好ましくは70〜99質量%である。
【0023】
アマクサシダを有機溶媒で抽出する方法は、特に限定されないが、例えば、アマクサシダの乾燥粉末1質量部に対して、上記有機溶媒又は含水有機溶媒を1〜50質量部、好ましくは5〜20質量部添加し、抽出温度を5〜60℃、好ましくは10〜40℃で、抽出時間を5〜120時間、好ましくは8〜72時間で、静置又は撹拌しながらアマクサシダのエキス分を抽出した後、遠心分離機等で固形分を除去する方法等が挙げられる。得られたアマクサシダ抽出物は、メラニン生成抑制剤を比較的高い濃度(0.2質量%以上)で含有しているため、当該アマクサシダ抽出物をそのままメラニン生成抑制剤として使用することも可能である。
【0024】
得られたアマクサシダの抽出液を液液分配法、吸着クロマトグラフィー、又は分配クロマトグラフィー等により精製を行うことができる(精製工程)。吸着クロマトグラフィーの担体としてはスチレン−ジビニルベンゼン系合成吸着材(例えば、HP−20、三菱化学株式会社製)を、分配クロマトグラフィーの担体としてはシリカゲルを好適に用いることができる。抽出液は、一種の抽出法で精製してもよく、二種以上の抽出法を組み合わせて精製してもよい。
【0025】
本発明のメラニン生成抑制剤は、化粧料として許容される各種の基材や担体と組み合わせて提供される。化粧料には、必要に応じて、賦形剤、被膜剤、結合剤、増量剤、崩壊剤、滑沢剤、希釈剤、浸透圧調整剤、pH調整剤、乳化剤、分散剤、安定剤、酸化防止剤、界面活性剤、防腐剤、紫外線吸収剤、保湿剤、着色剤、香料、増粘剤、殺菌剤、細胞賦活剤、抗炎症剤等の添加剤を適宜配合することもできる。
【0026】
化粧料として、具体的には、乳液、クリーム、クレンジング、パック、オイルリキッド、マッサージ料、美容液、洗浄剤、脱臭剤、ハンドクリーム、リップクリーム等のスキンケア化粧料;メイクアップ下地、白粉、リキッドファンデーション、油性ファンデーション、頬紅、アイシャドウ、マスカラ、アイライナー、アイブロウ、口紅等のメイクアップ化粧料;制汗剤、日焼け止め乳液や日焼け止めクリーム等の紫外線防御化粧料、皮膚外用剤等が挙げられ、医薬部外品として使用されるものも含まれる。
【0027】
化粧料におけるメラニン生成抑制剤の配合割合は、その有効量や、化粧料の形態等に応じて適宜設定されるが、例えば、化粧料の総量に対して、0.001〜10質量%であり、好ましくは0.001〜1質量%であり、さらに好ましくは0.001〜0.1質量%である。
【0028】
医薬組成物は本発明のメラニン生成抑制剤を有効成分とし、薬学的に許容される基材や担体と組み合わせて提供される。医薬組成物には、薬学的に許容される限度において、賦形剤、被膜剤、結合剤、増量剤、崩壊剤、滑沢剤、希釈剤、浸透圧調整剤、pH調整剤、乳化剤、分散剤、安定剤、酸化防止剤、界面活性剤、防腐剤、紫外線吸収剤、保湿剤、着色剤、香料、増粘剤、殺菌剤、細胞賦活剤、抗炎症剤等の添加剤を適宜配合することもできる。
【0029】
医薬組成物としては、医薬品又は医薬部外品を含み、本発明のメラニン生成抑制剤を有効成分として含有する。当該医薬組成物は、経口又は非経口のいずれで適用される剤型であってもよい。経口投与で投与される医薬組成物の剤型としては、例えば、丸剤、散剤、錠剤、顆粒剤、カプセル剤、シロップ剤、液剤等が挙げられる。非経口で投与される医薬組成物の剤型としては、例えば、外用剤、経皮剤、経鼻剤、液剤、貼付剤、皮膚外用剤等が挙げられる。
【0030】
医薬組成物における本発明のメラニン生成抑制剤の配合割合は、その有効量や、医薬組成物の剤形や、投与形態等に応じて適宜設定されるが、例えば、医薬組成物の総量に対して、0.001〜10質量%であり、好ましくは0.001〜1質量%であり、さらに好ましくは0.001〜0.1質量%である。
【実施例】
【0031】
本発明のメラニン生成抑制剤について、メラニン生成を抑制する作用を評価する試験を実施した。試験結果を以下に示す。
【0032】
<アマクサシダ抽出液の評価>
アマクサシダは、種子島で採取した葉を、換気・循環型乾燥用恒温器(株式会社いすゞ製作所製、型番EPFH−343−2T)を用いて50℃で2日間温風乾燥した。乾燥した葉は、卓上粉砕機(株式会社東京ユニコム、型番T−351)を用いて粉末化した。アマクサシダの粉末50gを、500mlのブチレングリコールに浸漬し、23℃で、72時間抽出を行った。その後、フィルター濾過を行い、450mlのアマクサシダ抽出液を回収した。回収したアマクサシダ抽出液について、メラニン生成抑制を評価した。アマクサシダ抽出液を評価するために、メラニン産生細胞であるB16メラノーマ細胞を使用し、培養後のB16メラノーマ細胞のメラニン生成量を目視観察により行った。
【0033】
(B16メラノーマ細胞の培養)
メラニン生成量の評価を行うために、メラニン産生細胞であるB16メラノーマ細胞の培養を行った。以下にB16メラノーマ細胞の培養方法を示す。
(1)6穴−ディッシュに、メラニン産成細胞であるB16メラノーマ細胞(JCRB細胞バンク、細胞番号:JCRB0202)を1×10細胞(1ml/ウェル)となるように播種し、1mlの前培養培地を添加後、37℃、5%二酸化炭素気流下で1日間培養した。
前培養培地:10%FCS(ウシ胎児血清)含有DMEM High Glucose培地(抗生物質MIX(和光純薬工業株式会社製)を終濃度が1Xになるように添加)を使用した。
(2)(1)で培養したB16メラノーマ細胞の前培養培地を除去した後、2mlのB16メラノーマ細胞の処理用培地を添加して72時間培養した。
(3)(2)で培養したB16メラノーマ細胞を、リン酸緩衝溶液(PBS)で洗浄し、1.5mlのエッペンドルフチューブに回収して、細胞の色を目視により比較した。
処理用培地:前培養と同じ培地に、アマクサシダ抽出液を300倍希釈及び1000倍希釈となるように添加した(容量比)。各試験サンプルには、ホルスコリン(FSK)を20μM(最終濃度)、DMSOを0.2%(最終濃度)となるように添加した。FSKは、B16メラノーマ細胞のαメラニン細胞刺激ホルモン(αMSH)と同様にシグナル誘導を生じさせ、メラニン合成を促進させる物質である。
コントロール用処理用培地:上記処理用培地にアマクサシダ抽出液を無添加とした。
ブランク用処理用培地:上記処理用培地にアマクサシダ抽出液及びFSKを無添加とした。
【0034】
図1は、アマクサシダ抽出液のメラニン生成抑制効果を示す図であり、アマクサシダのブチレングリコール抽出液の濃度とメラニン生成抑制効果との関係を示すものである。アマクサシダ抽出液を1000倍に希釈しても、メラニン生成抑制効果が確認された。
【0035】
<アマクサシダからのメラニン生成抑制剤の抽出及び精製>
<アマクサシダ抽出液の評価>の項で説明した同じ方法で得たアマクサシダの粉末50gを、500mlのエタノールに浸漬し、23℃で、72時間抽出を行い、その後、2000rpm、10分間で遠心分離し、450mlのアマクサシダ抽出液を回収した。アマクサシダ抽出液をエバポレーターにかけてエタノールを揮発させ、10mlに濃縮した。濃縮液にクロロホルム500mlを添加し、1週間放置してクロロホルムに溶解させてクロロホルム溶解液を調製した。クロロホルム溶解液をフィルターでろ過し、ろ液をエバポレーターにかけて5mlに濃縮した。次いで、濃縮液を20gのシリカゲル(型番:30721、ナカライテスク株式会社製)を詰めたカラムを用いて分画した。濃縮したクロロホルム溶解液90mlをシリカゲルカラムにアプライし、メタノールをそれぞれ2.5容量%、5容量%、7.5容量%、10容量%、12.5容量%、15容量%、17.5容量%、20容量%に調整したメタノール/クロロホルムの溶出液90mlを用いて順次溶出させ、19画分を得た。(B16メラノーマ細胞の培養)の項で説明した同じ方法により、各画分のメラニン生成抑制効果を確認したところ、画分(16)、画分(17)、及び画分(18)の3画分に強いメラニン生成抑制の活性が存在した。当該3画分を1本にまとめて乾燥し、1mlのクロロホルムを添加した。このクロロホルム添加物を、クロロホルムに溶解する画分と、クロロホルムに溶解しない画分とに分離した。何れの画分にもメラニン生成抑制効果を確認した。クロロホルムに溶解しない画分を硫酸(最終濃度1%)により100℃、30分で加水分解した。当該加水分解物を、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて下記条件で分析し、メインピークを回収した。回収溶液を減圧乾燥して化合物1(11ベータ−ヒドロキシ−15−オキソ−エント−カウラ−16−エン−19−オイクアシッド)の精製物を得た。クロロホルムに溶解する画分も同様にHPLCを用いてメインピークを回収すると、同じ化合物1が得られた。化合物1は、アマクサシダの粉末50gから約10mg得られた。また、質量分析により、加水分解前のクロロホルム非溶解画分は、化合物1のグルコース配糖体であることが確認された。
【0036】
カラム:COSMOSIL(登録商標) 5C18−MS−II(ナカライテスク株式会社製)
移動相:アセトニトリル:水=10:90から60:40(グラジュエント溶出)
流速:2ml/分
検出波長:245nm
【0037】
構造決定は、H−NMR及び13C−NMRに基づいて行った。以下に、H−NMR及び13C−NMRスペクトルのシグナルを示す。
H−NMR(CDCl+CDOD):0.85(3H,s),1.14(3H,s),2.29(1H,d,J=12.0Hz),2.95(1H,broads),3.93(1H,d,J=4.6Hz),5.16(1H,s),5.73(1H,s)
13C−NMR(CDCl+CDOD):40.5(C−1),18.7(C−2),37.8(C−3),43.4(C−4),55.8(C−5),19.8(C−6),33.7(C−7),50.6(C−8),62.8(C−9),38.8(C−10),65.7(C−11),65.7(C−12),36.8(C−13),36.4(C−14),210.7(C−15),150.3(C−16),112.7(C−17),28.8(C−18),180.4(C−19),15.4(C−20)
【0038】
<B16メラノーマ細胞を用いたメラニン生成抑制の評価>
メラニン生成抑制の試験化合物としてアマクサシダから精製した化合物1、アマクサシダから精製した化合物1のグルコース基の配糖体、化合物4(プテリソリックアシッドD:Pterisolic acidD、ChemFaces社製)、比較化合物1(11,15−ジヒドロキシ−エント−カウラ−16−エン−19−オイクアシッド、ChemFaces社製)、及び比較化合物2(プテリソリックアシッドA:Pterisolic acid A、ChemFaces社製)について、メラニン生成抑制を評価した。これら試験化合物を評価するために、メラニン産生細胞であるB16メラノーマ細胞を使用した。B16メラノーマ細胞の培養は、(B16メラノーマ細胞の培養)の項で説明した同じ方法により培養した。評価は、試験化合物(最終濃度:10μM)を添加したB16メラノーマ細胞について、培養後の各B16メラノーマ細胞のメラニン生成量の目視観察及び定量分析により行った。以下、メラニンの定量法について説明する。
【0039】
(メラニンの定量)
回収した各B16メラノーマ細胞からメラニンを抽出した。メラニンの抽出方法を以下に示す。
(1)タンパク質量を合わせた各試験サンプルからPBSを除去し、300μlの1N NaOHを加え、細胞の破片が見えなくなるまでホモジナイズした。
(2)各試験サンプルを45℃、2時間でインキュベートした。
(3)各試験サンプルにメタノール:クロロホルム(1:2)混合溶液を100μl加え、撹拌し、メラニンを抽出した。
(4)1200rpm、10分で遠心分離し、上清を回収し、メラニン抽出液を得た。
(5)メラニン抽出液100μlを、96穴プレートに分注し、405nmの吸光度を測定した。
(6)メラニン標準溶液の吸光度から検量線を作成し、各試験サンプルのメラニン量の濃度を算出した。メラニン標準溶液は、メラニンの濃度が0μg/ml,6.25μg/ml,12.5μg/ml,25μg/ml,50μg/ml,100μg/mlとなるように、メラニンを、1N NaOH水溶液に溶解して調製した。メラニン標準溶液の300μl(n=3)を1.5mlエッペンドルフチューブに加え、上記(3)〜(5)と同じ方法でメラニンを測定し、検量線を作成した。
メラニン生成抑制効果は、各試験サンプルのタンパク質量を測定し、タンパク質1mg当たりのメラニンの生成量(μg)で示した。
【0040】
図2は、本発明に係るメラニン生成抑制剤のメラニン生成抑制効果を示したグラフである。コントロールと比較すると、アマクサシダから抽出された化合物1及び化合物1のグルコース配糖体に非常に強いメラニン生成抑制効果が確認された。また、化合物4にもメラニン生成抑制効果が認められた。これに対して、同じカウレン類の化合物の中でも、カウレン骨格の15位の炭素に酸素の二重結合を有さない比較化合物1、及び9位及び11位の炭素の何れにも水酸基を有さない比較化合物2には、メラニン生成抑制効果が認められなかった。
【0041】
<メラニン生成抑制剤の濃度とメラニン生成抑制効果>
図3は、本発明に係るメラニン生成抑制剤のメラニン生成抑制効果を示す図であり、本発明に係るメラニン生成抑制剤の濃度とメラニン生成抑制効果との関係を示すものである。メラニン生成抑制効果が認められた化合物1及び化合物4を使用して、メラニン生成抑制剤の濃度とメラニン生成抑制効果との関係を評価した。評価方法としては、化合物1及び化合物4の濃度を3μM、10μM、及び30μMに調整した試験サンプルを用いて、(B16メラノーマ細胞の培養)の項で説明した同じ方法により、B16メラノーマ細胞を培養後、目視観察により比較した。
【0042】
図3の写真から、化合物1は、3μMの低濃度でも、十分なメラニン生成抑制効果が認められた。また、化合物4についても、30μMの濃度において、メラニン生成抑制効果が認められた。
【0043】
<三次元培養皮膚モデルを用いたメラニン生成抑制の評価>
図4は、本発明に係るメラニン生成抑制剤のメラニン生成抑制効果を示す図であり、本発明に係るメラニン生成抑制剤の三次元培養皮膚モデルを用いたメラニン生成抑制効果を示すものである。化合物1を使用して、三次元培養皮膚モデルによるメラニン生成抑制試験を行った。メラニン生成抑制試験は、市販されている三次元培養皮膚モデル(MEL-300キットAsian donor:倉敷紡績株式会社製)を用いて行った。キットの使用方法に従い、MEL-300皮膚モデルカップを6ウエルプレートの各ウエルにセットし、37℃インキュベーターで温めたキット用維持培地(EPI−100:培地添加時にSCFを最終濃度10ng/mLになるように添加した)を皮膚モデルカップに無菌的に5mLずつ入れた。皮膚モデルカップに化合物1を300μMとなるように添加し、皮膚モデルカップの入った6ウエルプレートをインキュベーター(37℃、5%CO)に入れ、14日間培養した。培地交換は、3日に一度行った。コントロール及び化合物1を添加した試験サンプルには、UVを30mJ/cmとなるように照射し、ブランクは、UVを照射しなかった。培養後、各サンプルの黒色度を測定し、メラニン生成抑制効果を評価した。画像処理ソフトであるImageJ(無料ソフトウエアー)を用いて階調を測定し、ブランクを1.0として、黒色度を比較した。
【0044】
図4の写真から、化合物1は、UVを照射しないブランクと黒色度において略同じ値となり、三次元培養皮膚モデルにおいても、メラニンの生成が抑制されることが確認された。
【0045】
<三次元培養皮膚モデルを用いた毒性評価>
図5は、本発明に係るメラニン生成抑制剤における毒性の評価結果を示すグラフである。化合物1を使用して、三次元培養皮膚モデルによるメラニン生成抑制剤の毒性試験を行った。メラニン生成抑制剤の毒性試験では、化合物1の添加量を、30μM、100μM、及び300μMに調整し、上記三次元培養皮膚モデルの試験と同じ方法により培養を行った。MEL-300皮膚モデルを培養後、1/10容量の細胞毒性試験試薬を直接培地に添加し、30分間さらに培養した。その後、培地を回収し、光学密度(OD)を、マイクロプレート分光光度計(680型、バイオ・ラッド社製)を用いて450nmで測定した。細胞毒性試験試薬は、WST−8[2−(2−メトキシ−4−ニトロフェニル)−3−(4−ニトロフェニル)−5−(2,4−ジスルホフェニル)−2H−テトラゾリウム、モノナトリウム塩](Cell−Counting Kit−8(登録商標)、株式会社同仁化学研究所製)を用いて判定した。
【0046】
図5のグラフから、化合物1は、ブランクと略同じ値となり、300μMの濃度でも、三次元培養皮膚モデルにおいて毒性を示さないことが確認された。なお、化合物1は、三次元培養皮膚モデルにおいて900μMの濃度でも毒性を示さないことが確認されている(データ示さず)。
【0047】
<安全性試験>
ヒトに対する安全性試験として皮膚パッチテストを行った。精製したアマクサシダ抽出物の粉末(化合物1)を0.01質量%、0.05質量%、0.1質量%となるように白色ワセリン(日本薬局方、和光純薬工業株式会社製)に練りこみ、フィンチャンバー(株式会社スマートプラクティスジャパン社製)を用いて、クローズドパッチテストを実施した。敏感肌が2名、やや敏感肌が2名、普通肌が2名の成人男女6人で行った。試験サンプル5点(ブランク2点、濃度の異なる化合物1のサンプル3点)を塗布したフィンチャンバーを、上腕内側に貼り付けてから24時間後に剥離し、その1時間後及び24時間後に判定を行った。
皮膚に異常がなかった場合を0ポイント、軽度の赤みのみの場合を1ポイント、赤みや腫れ等の異常が見られた場合を3ポイントとし、6名の合計ポイントを計算して、試験サンプルを19段階(0〜18ポイント)で評価した。判定は合計5ポイント以上で不合格とした。化合物1を含まないブランクについては、同じ試験を二回繰り返した。以下、試験結果を示す。
【0048】
【表1】
【0049】
化合物1を含むサンプル及びブランクは、何れも合格判定であったが、化合物1を含むサンプルはブランクよりも合計ポイントが低く、より良好な結果が得られることが判明した。従って、本発明のメラニン生成抑制剤は、ヒトの皮膚に対して使用することに問題はなく、安全性が高いため、化粧品や医薬組成物等の製品に適用できることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明に係るメラニン生成抑制剤、当該メラニン生成抑制剤を用いた化粧料及び医薬組成物、並びに当該メラニン生成抑制剤の製造方法は、例えば、食品分野、化粧品分野、及び医薬品分野に利用することができる。
図2
図5
図1
図3
図4