(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
≪実施形態≫
図1は、本実施形態に係る異常予兆診断システム1の構成図である。
異常予兆診断システム1は、機械設備2に設置されたセンサ(図示せず)の検出値を含むセンサデータに基づいて、機械設備2の異常予兆の有無を診断するシステムである。前記した「異常予兆」とは、機械設備2の異常が発生する前触れであり、「異常予兆診断」とは、異常予兆の有無を診断することである。
【0014】
以下では、異常予兆診断システム1の説明に先立って、機械設備2について簡単に説明する。機械設備2は、例えば、化学プラントであり、図示はしないが、反応器や、この反応器に化学物質を投入する装置を備えている。そして、機械設備2において所定の「運転プロセス」が繰り返されることで、各工程において所定の化学物質が生成されるようになっている。なお、機械設備2の種類はこれに限定されず、製薬プラント、生産ライン、ガスエンジン、ガスタービン、発電設備、医療設備、通信設備等であってもよい。
【0015】
機械設備2には、図示はしないが、所定の物理量(温度、圧力、流量、電流、電圧等)を検出するセンサが設置されている。センサによって検出された物理量は、センサデータとして、ネットワークNを介して異常予兆診断システム1に送信される。なお、センサデータには、センサの検出値、物理量を検出した日付・時刻の他に、機械設備2の識別情報、センサの識別情報、機械設備2において繰り返される「運転プロセス」の開始・終了を示す信号も含まれる。
【0016】
以下では、一例として、機械設備2に設置されている複数のセンサのうち、機械設備2の異常予兆が敏感に反映される1つのセンサの検出値に基づいて、機械設備2の異常予兆の有無を診断する構成について説明する。
【0017】
図2は、センサの検出値の変化を示す波形図である。なお、
図2の横軸は時刻であり、縦軸は、機械設備2に設置されているセンサ(図示せず)の検出値である。
図2に示す例では、時刻t01から時刻t02の時間帯で、機械設備2において1回目の運転プロセスが実行され、時刻t02から時刻t03の時間帯で2回目の運転プロセスが実行されている。このように所定の運転プロセスが繰り返されるため、機械設備2が正常であれば、各運転プロセスにおいてセンサの検出値が同様の(つまり、非常に似通った)波形になる。
【0018】
本実施形態では、機械設備2が正常であることが既知である所定の学習期間(
図2参照)に取得したセンサデータに基づき、センサデータの時系列的な波形(運転プロセスごとの波形)を正常モデルとして学習し、この正常モデルに基づいて、機械設備2の異常予兆の有無を判定するようにしている。なお、正常モデルの詳細については後記する。
【0019】
<異常予兆診断システムの構成>
図1に示すように、異常予兆診断システム1は、通信手段11と、センサデータ取得手段12と、センサデータ記憶手段13と、データマイニング手段14と、診断結果記憶手段15と、表示制御手段16と、表示手段17と、を備えている。
【0020】
通信手段11は、機械設備2からネットワークNを介して、センサデータを含む情報を受信するものである。通信手段11として、例えば、TCP/IPの通信プロトコルに従って情報を受信するルータを用いることができる。
【0021】
センサデータ取得手段12は、ネットワークNを介して通信手段11が受信した情報に含まれるセンサデータを取得し、取得したセンサデータをセンサデータ記憶手段13に格納する。
センサデータ記憶手段13には、センサデータ取得手段12によって取得されたセンサデータが、例えば、データベースとして格納されている。なお、センサデータ記憶手段13として、磁気ディスク装置、光ディスク装置、半導体記憶装置等を用いることができる。
【0022】
データマイニング手段14は、統計的なデータ分類手法であるデータマイニングによって、センサの検出値の波形の正常モデルを学習し、この正常モデルに基づいて、機械設備2の異常予兆の有無を診断する。なお、データマイニング手段14の詳細については後記する。
【0023】
診断結果記憶手段15には、データマイニング手段14による診断結果が格納されている。この診断結果には、機械設備2の識別情報、及び異常予兆の有無が含まれる。
表示制御手段16は、データマイニング手段14の診断結果を表示するための制御信号を表示手段17に出力する。例えば、表示制御手段16は、各機械設備2の名称を行とし、診断日の日付を列として、診断結果をマトリクス形式で表示手段17に表示する。
表示手段17は、例えば、液晶ディスプレイであり、表示制御手段16から入力される制御信号に従って診断結果を表示する。
【0024】
図3は、異常予兆診断システム1が備えるデータマイニング手段14の構成図である。
図3に示すように、データマイニング手段14は、学習手段141と、診断手段142と、を備えている。
学習手段141は、統計的なデータ分類手法の一つであるクラスタリングによって、センサの検出値の波形の正常モデルであるクラスタを生成(学習)する。前記したクラスタとは、多次元ベクトル空間においてクラスタ中心c(
図6参照)及びクラスタ半径r(
図6参照)で特定される領域であり、機械設備2が正常である学習期間(
図2参照)に取得したセンサデータに基づいて学習される。
【0025】
図3に示すように、学習手段141は、学習対象データ取得部141aと、特徴点抽出部141bと、特徴点記憶部141cと、クラスタ学習部141dと、学習結果記憶部141eと、を備えている。
学習対象データ取得部141aは、学習対象のセンサデータ(つまり、学習対象データ)を、センサデータ記憶手段13から取得する。すなわち、学習対象データ取得部141aは、機械設備2が正常であることが既知である学習期間(
図2参照)に取得されたセンサデータを、機械設備2で繰り返される運転プロセスごとに取得する。
【0026】
特徴点抽出部141bは、センサデータの時系列的な波形の「特徴点」を抽出する。前記した「特徴点」には、センサデータの時系列的な波形の極大点・極小点の他に、運転プロセスの開始時・終了時の点も含まれる。なお、極大点・極小点をまとめて「極値点」ともいう。
【0027】
図4は、センサデータの波形の特徴点に関する説明図である。なお、
図4では、
図2に示す1回目の運転プロセスにおけるセンサの検出値を図示している。
特徴点抽出部141b(
図3参照)は、検出値の波形の極大点M1,M2及び極小点mを特定するとともに、1回目の運転プロセスの開始時である始点s、及び1回目の運転プロセスの終了時である終点eを特定する。そして、特徴点抽出部141bは、始点s・極大点M1・極小点m・極大点M2・終点eのそれぞれについて、センサの検出値、及び運転プロセスが開始された時刻t01からの経過時間を特定する。つまり、特徴点抽出部141bは、
図4に示す検出値p1〜p5、及び経過時間Δt1〜Δt5を特定する。
【0028】
前記したように、センサデータには、運転プロセスの開始・終了を示す信号も含まれているため、この信号に基づいて始点s及び終点eが特定される。また、極大点M1,M2及び極小点mは、時々刻々と変化する検出値の変化速度に基づいて特定される。つまり、センサの検出値の変化速度が正から負に転じた箇所を極大点とし、負から正に転じた箇所を極小点とすればよい。
【0029】
特徴点抽出部141bは、
図3に示す5つの特徴点の検出値p1〜p5及び経過時間Δt1〜Δt5を特徴点記憶部141cに格納する。同様にして、特徴点抽出部141bは、学習期間(
図2参照)に含まれる2回目〜n回目の運転プロセスについても特徴点を抽出し、特徴点のデータ(センサの検出値、運転プロセスの開始時からの経過時間)を特徴点記憶部141cに格納する。
【0030】
図5は、特徴点記憶部141cに格納されているデータの説明図である。なお、
図5では、運転プロセスの始点s(
図4参照)を「第1の特徴点」としている。また、極大点M1・極小点m・極大点M2・終点eについても同様に、「第2の特徴点」・「第3の特徴点」・「第4の特徴点」・「第5の特徴点」としている。
【0031】
特徴点記憶部141cには、特徴点抽出部141bによって抽出された特徴点の情報がデータベースとして格納されている。1回目の運転プロセス(
図5:左端の列を参照)における特徴点のデータは、検出値p1〜p5(
図4参照)及び経過時間Δt1〜Δt5(
図4参照)を含んで構成される。2回目〜n回目についても同様である。これらのデータは、次に説明するクラスタ学習部141d(
図3参照)において、クラスタを学習する際に用いられる。
【0032】
図3に示すクラスタ学習部141dは、特徴点抽出部141bによって抽出された特徴点のそれぞれについて、クラスタを個別で学習する。例えば、機械設備2の各運転プロセスにおいて、それぞれ、始点s・極大点M1・極小点m・極大点M2・終点e(
図4参照)が特徴点として抽出された場合、クラスタ学習部141dは、5つの特徴点について、それぞれ、クラスタを学習する。
【0033】
図6は、クラスタ学習部141dによって学習されるクラスタの説明図である。なお、
図6に示す軸αは、センサの検出値の正規化後の値を示す軸であり、軸βは、運転プロセスが開始されてからの経過時間の正規化後の値を示す軸である。
一回の運転プロセスにおけるセンサの検出値の波形は、2次元のベクトル空間上で、センサの検出値及び経過時間に正規化処理を施した値を成分とする特徴ベクトルで表される。ここで「正規化処理」とは、センサの検出値及び経過時間を代表値(平均値、標準偏差等)で除算するなどして無次元量化して、互いに比較可能とする処理である。
【0034】
図6に示す●印のひとつひとつが、センサの検出値の波形に含まれる特徴点を表している。機械設備2では所定の運転プロセスが繰り返されるため、前記したように、各運転プロセスにおいて、センサの検出値の波形が似通ったものになる(
図2参照)。したがって、機械設備2が正常であれば、波形を表す特徴ベクトルが密集することが多い。
【0035】
クラスタ学習部141d(
図3参照)は、(特徴点の個数)×(運転プロセスの回数)個の特徴ベクトルについて、類似する特徴ベクトルごとに複数のクラスタに分類する。以下では、一例として、非階層的クラスタリングであるk平均法を用いてクラスタを学習する場合について説明する。クラスタ学習部141dは、まず、各特徴ベクトルに対してランダムにクラスタを割り振り、割り振ったデータに基づいて各クラスタの中心(クラスタ中心c:
図6参照)を算出する。クラスタ中心cは、例えば、クラスタに属する複数の特徴ベクトルの重心である。
【0036】
次に、クラスタ学習部141dは、所定の特徴ベクトルと各クラスタ中心cとの距離を求め、この距離が最も小さくなるクラスタに当該特徴ベクトルを割り当て直す。クラスタ学習部141dは、このような処理を全ての特徴ベクトルについて実行する。そして、クラスタ学習部141dは、クラスタの割り当てが変化しなかった場合にはクラスタの生成処理を終了し、それ以外の場合には、新しく割り振られたクラスタからクラスタ中心cを再計算する。
【0037】
さらに、クラスタ学習部141dは、各クラスタについてクラスタ中心c(
図6参照)の座標値と、クラスタ半径r(
図6参照)と、を算出する。クラスタ半径rは、例えば、クラスタ中心cと、そのクラスタに属する特徴ベクトルと、の距離の平均値である。なお、クラスタ半径rの算出方法はこれに限定されない。例えば、クラスタに属する特徴ベクトルのうちクラスタ中心cから最も離れている特徴ベクトルを特定し、この特徴ベクトルとクラスタ中心cとの距離をクラスタ半径rとしてもよい。このようにしてクラスタ学習部141dは、センサの検出値の波形を表す正常モデルとして、クラスタを学習する。
【0038】
ちなみに、
図6では、一つのクラスタJを図示しているが、次に説明するように、センサの検出値の正常な波形に5つの特徴点が含まれている場合、少なくとも5つのクラスタが生成される。
【0039】
図7は、特徴点とクラスタとの関係を示す説明図である。なお、破線は、機械設備2が正常に稼動していることが既知である学習期間(1回分の運転プロセス)に取得されたセンサデータである。実線は、学習期間が終了した後の診断期間(1回分の運転プロセス)に取得されたセンサデータである。
図7に示す例では、始点・2つの極大点・極小点・終点を含む5つの特徴点が抽出され、2次元ベクトル空間上でクラスタJ1〜J5が学習されている。なお、特徴点とクラスタとが1対1で対応している必要はなく、一つの特徴点について複数個のクラスタが学習されることもある。
【0040】
図3に示す学習結果記憶部141eには、前記したクラスタに関するクラスタ情報(クラスタ中心c、クラスタ半径r)が、例えば、データベースとして格納されている。
【0041】
図3に示す診断手段142は、学習手段141によって学習されたクラスタ(正常モデル)と、診断対象のセンサデータの時系列的な波形と、の比較に基づいて、機械設備2の異常予兆の有無を診断する。
図3に示すように、診断手段142は、診断対象データ取得部142aと、検出値特定部142bと、異常測度算出部142cと、診断部142dと、を備えている。
【0042】
診断対象データ取得部142aは、診断対象のセンサデータ(つまり、診断対象データ)をセンサデータ記憶手段13から取得する。すなわち、診断対象データ取得部142aは、学習期間が終了した後の診断期間(
図2参照)に取得されたセンサデータを、機械設備2で繰り返される運転プロセスごとに取得する。
【0043】
検出値特定部142bは、前記した5つのクラスタJ1〜J5(
図7参照)のクラスタ中心を与える経過時間Δt1〜Δt5(
図7参照)に基づき、診断対象データにおいて、運転プロセスが開始されてから経過時間Δt1〜Δt5が経ったときの検出値をそれぞれ特定する。例えば、検出値特定部142bは、一つ目の極大点に対応するクラスタJ2(
図7参照)のクラスタ情報を読み出し、そのクラスタ中心を与える経過時間Δt2を取得する。そして、検出値特定部142bは、時系列的に変化する診断対象データの波形(実線)において、運転プロセスが開始されてから経過時間Δt2が経ったときの検出値p11を特定する。他のクラスタI1,J3〜J5についても同様にして、検出値特定部142bは、診断対象データの運転プロセスが開始されてから経過時間Δt1,Δt3〜Δt5が経ったときの検出値を特定する。
【0044】
図3に示す異常測度算出部142cは、検出値特定部142bによって特定された検出値に基づいて、診断対象データの異常測度uを算出する。その一例を挙げると、異常測度算出部142cは、運転プロセスが開始されてからの経過時間Δt2(
図7参照)、及び、経過時間Δt2における検出値p11(
図7参照)に正規化処理を施して、2次元の特徴ベクトルに変換する。そして、異常測度算出部142cは、この特徴ベクトルと、クラスタJ2(
図7参照)のクラスタ情報と、に基づき、診断対象データの異常測度uを算出する。
【0045】
より詳しく説明すると、異常測度算出部142cは、各クラスタのうち、診断対象データの特徴ベクトルに最も近いクラスタ中心c(
図6参照)を有するものを特定する。さらに、異常測度算出部142cは、特定したクラスタのクラスタ中心cと、診断対象データの特徴ベクトルと、の距離d(
図6参照)を求める。そして、異常測度算出部142cは、前記した距離dが、クラスタ半径r(特徴ベクトルに最も近いクラスタのクラスタ半径)に対して占める割合である異常測度uを、以下の(数式1)に基づいて算出する。
【0047】
異常測度算出部142cは、他のクラスタJ1,J3〜J5に基づく異常測度uについても同様に算出し、その算出結果を診断部142dに出力する。
【0048】
図3に示す診断部142dは、異常測度算出部142cによって算出された異常測度uに基づき、機械設備2の異常予兆の有無を診断する。例えば、クラスタJ1〜J5に基づく異常測度uがそれぞれ1以下である場合、診断対象データはクラスタJ1〜J5のうちいずれかの領域内(つまり、正常範囲内)に存在している。したがって、診断部142dは、機械設備2について「異常予兆なし」と診断する。また、例えば、異常測度u>1の診断対象データが少なくとも一つ存在する場合、その診断対象データはクラスタの領域外(つまり、正常範囲外)に存在している。したがって、診断部142dは、機械設備2について「異常予兆あり」と診断する。
【0049】
なお、機械設備2で繰り返される運転プロセスにおいて、異常測度uが所定閾値を超える運転プロセスが所定回数に達した場合、機械設備2に「異常予兆あり」と診断するようにしてもよい。
【0050】
図7に示す例では、経過時間Δt2における検出値p11が、クラスタJ2のクラスタ中心を与える検出値よりも大幅に小さくなっている。したがって、経過時間Δt2における検出値の異常測度uが1を超えて、「異常予兆あり」と診断される可能性が高い。診断部142dは、その診断結果を診断対象データに対応付けて、診断結果記憶手段15に格納する。
【0051】
<異常予兆診断システムの動作>
図8は、異常予兆診断システム1の処理を示すフローチャートである。
ステップS101において異常予兆診断システム1は、学習手段141(
図3参照)によって、学習処理を実行する。
【0052】
図9は、学習手段141が実行する学習処理のフローチャートである。
ステップS1011において学習手段141は、学習対象データ取得部141aによって、センサデータ記憶手段13から学習対象データを取得する。つまり、学習手段141は、機械設備2が正常に稼動していることが既知である所定の学習期間(
図2参照)に取得されたセンサデータのうち、1回目の運転プロセスのセンサデータを学習対象として取得する。
【0053】
ステップS1012において学習手段141は、特徴点抽出部141bによって、学習対象データの時系列的な波形の特徴点を抽出する。つまり、学習手段141は、各特徴点(
図4に示す始点s・極大点M1・極小点m・極大点M2・終点e)における検出値p1〜p5及び経過時間Δt1〜Δt5を特定する。これらの検出値p1〜p5及び経過時間Δt1〜Δt5が、センサデータの正常な波形を表すデータである。
【0054】
ステップS1013において学習手段141は、ステップS1012で抽出した特徴点の情報を特徴点記憶部141cに格納する。
ステップS1014において学習手段141は、学習期間(
図2参照)において、特徴点が抽出されていない他の運転プロセスが存在するか否かを判定する。特徴点が抽出されていない他の運転プロセスが存在する場合(S1014:Yes)、学習手段141の処理はステップS1011に戻る。一方、学習期間に含まれる運転プロセスの全てについて特徴点を抽出した場合(S1014:No)、学習手段141の処理はステップS1015に進む。
【0055】
ステップS1015において学習手段141は、クラスタ学習部141dによって、それぞれの特徴点についてクラスタJ1〜J5(
図7参照)を個別で学習する。つまり、学習手段141は、学習対象データの特徴点における検出値及び経過時間に基づき、2次元の特徴ベクトルを生成し、それぞれの特徴点についてクラスタJ1〜J5を生成する。
ステップS1016において学習手段141は、学習結果であるクラスタ情報(クラスタ中心c、クラスタ半径r)を学習結果記憶部141eに格納し、一連の学習処理を終了する(END)。
【0056】
図8に示すステップS101の学習処理を行ったのち、ステップS102において異常予兆診断システム1は、診断手段142(
図3参照)によって、診断処理を実行する。
【0057】
図10は、診断手段142が実行する診断処理のフローチャートである。
ステップS1021において診断手段142は、診断対象データ取得部142aによって、センサデータ記憶手段13から診断対象データを取得する。つまり、診断手段142は、学習期間が終了した後の診断期間(
図2参照)に取得されたセンサデータのうち、1回目の運転プロセスのセンサデータを診断対象として取得する。
【0058】
ステップS1022において診断手段142は、学習結果記憶部141eに格納されているクラスタ情報を参照し、複数のクラスタうち一つを選択する。例えば、診断手段142は、
図7に示す5つのクラスタJ1〜J5のうち、波形の始点に対応するクラスタJ1を選択する。
【0059】
ステップS1023において診断手段142は、ステップS1022で選択したクラスタのクラスタ中心を与える経過時間Δt(
図7参照)を、学習結果記憶部141eから読み出す。例えば、診断手段142は、
図7に示すクラスタJ1のクラスタ中心を与える経過時間Δt1を学習結果記憶部141eから読み出す。
【0060】
ステップS1024において診断手段142は、検出値特定部142bによって、ステップS1023で読み出した経過時間Δtにおける診断対象データの検出値を特定する。例えば、診断手段142は、
図7の実線で示す診断対象データについて、経過時間Δt1における検出値を特定する。
【0061】
ステップS1025において診断手段142は、異常測度算出部142cによって、診断対象データの異常測度uを算出する。つまり、診断手段142は、ステップS1023で読み出した経過時間Δt、及びステップS1024で特定した検出値を正規化して2次元の特徴ベクトルを生成し、学習結果記憶部141eに格納されているクラスタ情報に基づいて異常測度uを算出する。
【0062】
ステップS1026において診断手段142は、ステップS1025で算出した異常測度uを、ステップS1022で選択したクラスタに対応付けて記憶する。
ステップS1027において診断手段142は、1回分の運転プロセスで、診断に用いていないクラスタが他に存在するか否を判定する。診断に用いていないクラスタが他に存在する場合(S1027:Yes)、診断手段142の処理はステップS1022に戻る。一方、診断に用いていないクラスタが存在しない場合(S1027:No)、診断手段142の処理はステップS1028に進む。
【0063】
ステップS1028において診断手段142は、診断部142dによって、機械設備2の異常予兆の有無を診断する。つまり、診断手段142は、前記したように、ステップS1025で算出した複数の異常測度uに基づいて、機械設備2の異常予兆の有無を診断する。
ステップS1029において診断手段142は、ステップS1028の診断結果を診断結果記憶手段15に格納し、一連の診断処理を終了する(END)。
なお、診断結果記憶手段15に格納された情報は、表示制御手段16(
図1参照)によって、表示手段17(
図1参照)に表示される。
【0064】
<効果>
本実施形態によれば、繰り返される運転プロセスについて、始点・極大点・極小点・終点を含む特徴点を抽出し、各特徴点において個別でクラスタを生成することで、センサの検出値の正常な波形を学習できる。また、診断対象データにおいて、クラスタ中心cを与える経過時間でのセンサの検出値に基づき、その波形が異常であるか否か(つまり、機械設備2に異常予兆が発生しているか否か)を高精度で診断できる。
【0065】
さらに、診断対象データの異常測度が所定閾値を超えている場合、その診断に用いられたクラスタを特定することで、異常予兆が発生したタイミングを特定できるとともに、正常時を基準とする位相ずれの時間も特定できる。
【0066】
≪変形例≫
以上、本発明に係る異常予兆診断システム1について実施形態により説明したが、本発明はこれらの記載に限定されるものではなく、種々の変更を行うことができる。
例えば、実施形態で説明した構成に、センサデータの時系列的な波形に含まれる高調波を減衰させるフィルタ(図示せず)を追加してもよい。このような構成において、学習対象データの波形に含まれる高調波をフィルタによって減衰させ、減衰後の波形に基づき、学習手段141によってクラスタ(正常モデル)が学習される。そして、診断対象データの波形に含まれる高調波をフィルタによって減衰させ、減衰後の波形に基づき、機械設備2の異常予兆の有無が診断される。これによって、特徴点抽出部141bにおいて、徒に多くの特徴点が抽出されることを抑制できる。
【0067】
また、例えば、特徴点抽出部141bによって、学習対象データの時系列的な波形に含まれる極値点のうち、当該極値点におけるセンサの検出値と、当該極値点を与える時刻よりも所定時間前(又は、所定時間後)におけるセンサの検出値と、の差分の絶対値が所定閾値以上であるものを特徴点として抽出するようにしてもよい。これによって、細かく変動する波形から抽出される特徴点の個数を適度に抑えることができる。
さらに、前記したフィルタ(図示せず)を併用し、フィルタによって高調波を減衰させた後の波形から極大点・極小点等を特定し、さらに、前記した絶対値に基づいて特徴点を抽出するようにしてもよい。
【0068】
図11(a)は、機械設備2の正常時・異常予兆発生時におけるセンサの検出値の時系列的な変化を示す実験データである。なお、
図11(a)の横軸は時刻であり、縦軸は、機械設備2(ガスエンジン:図示せず)に設置されている冷却水温度センサ(図示せず)の検出値である。また、
図11(a)の破線は、機械設備2の正常時におけるセンサデータであり、実線は、機械設備2の異常予兆発生時におけるセンサデータである。
【0069】
図11(a)の破線の丸印X1〜X7は、センサの検出値の波形の特徴点を示している。なお、実際には、波形に含まれる高調波をフィルタ(図示せず)によって減衰させ、減衰後の波形に含まれる多数の極値点のうち、その極値点を与える時刻よりも所定時間前のセンサデータと、当該極値点のセンサデータと、の差分の絶対値が所定閾値以上であるものを特徴点として抽出している(後記する
図11(b)についても同様)。
【0070】
図11(a)に示す例では、丸印X3,X4,X6の特徴点において、実線で示すセンサの検出値が、破線で示す正常時よりも大きくなっている。そして、実施形態で説明した方法に基づいて異常測度uを算出した結果、実線で示すセンサデータについて(つまり、機械設備2であるガスエンジンにおいて)、「異常予兆あり」の診断結果が出力された。
【0071】
図11(b)は、機械設備2の正常時・異常予兆発生時におけるセンサの検出値の時系列的な変化を示す別の実験データである。
図11(b)の破線は、機械設備2の正常時におけるセンサデータであり、実線は、機械設備2の異常予兆発生時におけるセンサデータである。
図11(b)の破線の丸印X11〜X17は、センサの検出値の波形の特徴点を示している。
図11(b)に示す例では、実線で示すセンサデータにおいて、丸印X13の特徴点を与える時刻が、破線で示す正常時よりも時間Δt
Aだけ早くなっている(つまり、運転プロセスが開始された時刻t11からの経過時間が短い)。また、実線で示すセンサデータにおいて、丸印X17の特徴点を与える時刻が、破線で示す正常時よりも時間Δt
Bだけ遅くなっている(つまり、時刻t11からの経過時間が長い)。このようなセンサデータについても、実施形態で説明した方法に基づき、「異常予兆あり」の診断結果が出力された。
【0072】
また、実施形態では、一つのセンサ(図示せず)から得られるセンサデータにおいて、センサの検出値、及び運転プロセスが開始されてからの経過時間に基づいて、2次元の特徴ベクトルを生成する場合について説明したが、これに限らない。例えば、機械設備2に設置されている複数のセンサ(図示せず)から取得されるセンサデータに基づいて、機械設備2の異常予兆の有無を診断してもよい。この場合には、例えば、事前の実験に基づいて、特徴点を抽出しやすい一つのセンサをユーザが選定しておく。そして、前記したセンサから取得されるセンサデータに基づいて、学習手段141によって複数の特徴点を抽出し、これらの特徴点を与える経過時間Δt(運転プロセスの開始時からの経過時間)をそれぞれ特定する。
そして、学習手段141は、前記した経過時間Δtにおける各センサの検出値に基づいて多次元の特徴ベクトル(その次元数は、センサの個数に等しい。)を生成し、各特徴ベクトルをクラスタリングする。つまり、学習手段141は、特徴点を与える複数の経過時間Δtごとにクラスタを学習する。そして、学習手段141は、学習結果であるクラスタの情報を、経過時間Δtに対応付けて学習結果記憶部141eに格納する。
【0073】
そして、クラスタの学習後、診断手段142は、複数の経過時間Δtのうち一つを学習結果記憶部141eから読み出す。前記したように、複数の経過時間Δtは、それぞれ、センサの検出値の正常な波形の特徴点に対応している。診断手段142は、診断対象データについて、経過時間Δtにおける検出値を各センサについて特定し、それらの検出値を正規化して多次元の特徴ベクトル(その次元数は、センサの個数に等しい。)に変換する。そして、診断手段142は、変換後の特徴ベクトルと、前記した経過時間Δtに対応するクラスタと、に基づいて異常測度uを算出し、機械設備2の異常予兆の有無を診断する。なお、異常測度uの算出方法や、異常予兆の有無の診断方法については、実施形態と同様である。このように複数のセンサを用いることで、機械設備2のどの箇所にどのような異常が発生したのかをユーザが把握できる。
【0074】
また、特徴点を抽出しやすいセンサをユーザが事前に選定することなく、学習期間における1回分の運転プロセスにおいて特徴点の個数が最も多いセンサを学習手段141によって特定し、当該センサを用いて経過時間を設定し、また、当該センサから取得されるセンサデータの特徴点に基づいてクラスタを学習するようにしてもよい。これによって、診断対象データの検出値が正常範囲から外れているか否かを、診断対象データの波形上の多数の点において判定できる。したがって、機械設備2の異常予兆の有無を高精度で診断できる。
【0075】
また、実施形態では、クラスタ学習部141dが非階層的クラスタリングとしてk平均法を用いてクラスタリングを行う場合について説明したが、これに限らない。すなわち、クラスタ学習部141dによる学習処理として、非階層的クラスタリングとしてファジィクラスタリングや混合密度分布法等を用いてもよい。
【0076】
また、実施形態では、学習手段141が、それぞれの特徴点について、経過時間及び検出値で特定される2次元の特徴ベクトルを生成する場合について説明したが、これに限らない。すなわち、それぞれの特徴点を与える経過時間を記憶するとともに、検出値で特定される1次元の特徴ベクトル(センサが複数存在する場合には、多次元の特徴ベクトル)を生成してもよい。この場合において、特徴ベクトルに基づくクラスタ情報が、前記した経過時間に対応付けて記憶される。そして、クラスタ中心を与える経過時間での診断対象データの検出値に基づき、診断手段142によって、機械設備2の異常予兆の有無が判定される。
【0077】
また、各実施形態では、機械設備2の運転プロセスが間断なく繰り返される場合について説明したが、これに限らない。すなわち、機械設備2の運転プロセスの開始・終了が把握できればよく、所定の休止時間を挟んで運転プロセスを行うようにしてもよい。
【0078】
また、実施形態では、「特徴点」として始点・極大点・極小点・終点を抽出する場合について説明したが、これらのうち少なくとも一つ(例えば、極大点及び極小点)を特徴点として抽出してもよい。
【0079】
また、実施形態では、学習したクラスタをその後も保持(記憶)する構成について説明したが、これに限らない。すなわち、診断部142dによって「異常予兆なし」と診断されたセンサデータを学習対象データとして追加し、追加後の学習対象データに基づいてクラスタ中心c及びクラスタ半径rを再計算する(つまり、クラスタを再学習する)ようにしてもよい。このようにクラスタを再学習することで、機械設備2の正常状態に関する情報を徐々に増加させ、クラスタ中心c及びクラスタ半径rをより適切な値に更新できる。
また、前記したように、学習対象データを追加するたびに、既存の学習対象データのうち最も古いものを学習対象から除外するようにしてもよい。これによって、季節変化等に伴って機械設備2が経時的に変化した場合でも、この変化に追従してクラスタを更新することができ、ひいては異常予兆の診断精度を高めることができる。
【0080】
なお、本発明は、各実施形態で説明した全ての構成を備えるものに限定されない。また、一の実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、一の実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成を追加・削除・置換することも可能である。
【0081】
また、
図1、
図3に示す各構成は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、前記の各構成は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テープ、ファイル等の情報は、メモリや、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記録装置、又は、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に格納することができる。また、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。
【解決手段】異常予兆診断システム1は、センサデータを取得するセンサデータ取得手段12と、機械設備2が正常であることが既知である期間のセンサデータの時系列的な波形の極値点を特徴点として抽出し、特徴点におけるセンサの検出値と、特徴点のそれぞれに対応する運転プロセスの開始時からの経過時間と、に基づいて、波形の正常モデルを特徴点ごとに学習する学習手段と、診断対象のセンサデータにおいて、運転プロセスの開始時から、正常モデルの特徴点を与える経過時間が経ったときのセンサの検出値を特定し、当該検出値と、経過時間に対応する正常モデルと、の比較に基づいて、機械設備2の異常予兆の有無を診断する診断手段と、を備える。