【実施例】
【0192】
実施例1:化合物(I)の小規模合成
【0193】
【化2】
以下に記載する予備合成は、US20060160800A1に示されていたものである。この手順は、小規模反応、例えば、50gまでの生成物を得る反応に有用である。
【0194】
以下の合成では、特に記載のない限り、試薬と溶媒は、市販の供給元から受領したままの状態で使用した。プロトンおよびカーボン核磁気共鳴スペクトルは、Bruker AC 300またはBruker AV 300スペクトロメータにおいて、プロトンでは300MHzおよびカーボンでは75MHzで取得した。スペクトルは単位ppm(δ)で示し、結合定数Jは単位ヘルツで報告する。テトラメチルシランをプロトンスペクトルの内部標準として使用し、溶媒ピークをカーボンスペクトルの参照ピークとして使用した。質量スペクトルおよびLC−MS質量データは、Perkin Elmer Sciex 100大気圧イオン化(APCI)質量スペクトル測定装置にて取得した。LC−MS解析は、Luna C8(2)Column(100×4.6mm,Phenomenex)を使用し、標準的な溶媒勾配プログラム(方法B)を用いた254nmでのUV検出により行なった。薄層クロマトグラフィー(TLC)は、Analtechシリカゲルプレートを用いて行ない、紫外(UV)光、ヨウ素または20wt%リンモリブデン酸含有エタノールによって可視化した。HPLC解析は、Prevail C18カラム(53×7mm,Alltech)を使用し、標準的な溶媒勾配プログラム(方法AまたはB)を用いた254nmでのUV検出により行なった。
【0195】
【表4】
N−ベンジル−2−(5−ブロモピリジン−2−イル)アセトアミドの合成:
【0196】
【化3】
フラスコに、5−(5−ブロモピリジン−2(1H)−イリデン)−2,2−ジメチル−1,3−ジオキサン−4,6−ジオン(1.039g,3.46mmol)、ベンジルアミン(0.50mL,4.58mmol)、およびトルエン(20mL)を仕込んだ。反応液を窒素下で18時間還流し、次いで冷却し、低温度になるまで冷凍庫内に入れた。生成物を濾過によって回収し、ヘキサンで洗浄すると、明るい白色の結晶塊(1.018g,96%)が得られた。
【0197】
4−(2−(4−(4,4,5,5−テトラメチル[1,3,2]ジオキサボロラン−2−イル)−フェノキシ)エチル)モルホリンの合成:
【0198】
【化4】
4−(4,4,5,5−テトラメチル[1,3,2]ジオキサボロラン−2−イル)−フェノール(2.55g,11.58mmol)、2−モルホリン−4−イルエタノール(1.60mL,1.73g,13.2mmol)およびトリフェニルホスフィン(3.64g,13.9mmol)の塩化メチレン(60mL)攪拌溶液に0℃で、DIAD(2.82g,13.9mmol)を滴下した。反応液を室温まで昇温させ、一晩攪拌した。18時間後、さらに一部のトリフェニルホスフィン(1.51g,5.8mmol)、2−モルホリン−4−イルエタノール(0.70mL,5.8mmol)、およびDIAD(1.17g,5.8mmol)を添加した。室温でさらに2時間攪拌後、反応液を濃縮し、残渣をフラッシュクロマトグラフィーによって精製すると(5%〜25%EtOAc含有CHCl
3)、生成物が白色固形物として得られた(2.855g,74%)。
【0199】
2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)−N−ベンジルアセトアミド化合物(I)の合成
【0200】
【化5-1】
セプタム閉鎖部および攪拌バーを備えた10mL容反応チューブに、N−ベンジル−2−(5−ブロモピリジン−2−イル)アセトアミド(123mg,0.403mmol)、4−(2−(4−(4,4,5,5−テトラメチル[l,3,2]ジオキサボロラン−2−イル)−フェノキシ)エチル)モルホリン(171mg,0.513mmol)、およびFibreCat 1007
1(30mg,0.015mmol)を仕込んだ。エタノール(3mL)を添加した後、炭酸カリウム水溶液(0.60mL,1.0M、0.60mmol)を添加した。チューブを密封し、マイクロ波条件下、150℃で10分間加熱した。反応液を冷却し、濃縮して大部分のエタノールを除去し、次いで10mLの酢酸エチル中に溶解させ、水と飽和塩化ナトリウム溶液で逐次洗浄した。有機層をMgSO
4で乾燥させ、濾過し、濃縮して白色固形物とした。この白色固形物を、エチルエーテルを用いて摩砕すると、化合物(I)が白色固形物として得られた(137mg,79%):mp 135〜137℃;
【0201】
【化5-2】
1 ポリマー結合ジ(アセタト)ジシクロヘキシルフェニルホスフィンパラジウム(II)、Johnson Matthey,Inc.製でAldrichから入手可能(カタログ番号590231)。
【0202】
実施例2:化合物(I)二塩酸塩の中規模合成
この実施例に概要を示す合成は、中規模反応において使用され得る。少なくとも50gのバッチの化合物(I)の二塩酸塩の調製をスキーム1に示す。この線形合成は6工程からなり、第7の工程は、試薬の1つである6−フルオロピリジン−3−イルボロン酸(これは、市販もされている)の調製とした。このシーケンスの全収率は35%であり、平均収率は83%、最低収率工程では68%であった。この7つの工程のうち、1工程のみ、クロマトグラフィーが必要であった。以下に示す手順は70g規模にて行なった。
【0203】
【化6】
第1工程は、K
2CO
3粉末(3〜3.5当量)を塩基として使用し、アセトニトリルを溶媒とした、4−ブロモフェノール(131g)とN−クロロエチルモルホリン(HCl塩としての1;141g)間のWilliamsonエーテル合成である。成分を混合し、還流下で一晩攪拌すると、高度に変換された(96.3〜99.1%)。ジクロロメタンとヘプタンで希釈後、反応混合物を濾過し、エバポレートすると、所望の生成物2が本質的に定量的収率(216g)で得られた。類似した基質(例えば、4−ブロモ−3−フルオロフェノール)を使用した場合、変換率は(充分な加熱を行なっても)、常にこのように高いとは限らないことに注意されたい(例えば、59.9〜98.3%)。塩化アルキルおよびK
2CO
3はともに、好ましくはAldrichから購入されるものである。加熱を継続しても反応の終了が推進されない場合、未反応ブロモフェノールは、粗反応混合物を4部のトルエンに溶解させ、フェノールを4部の15%NaOH水溶液で洗い流すことにより、容易に除去され得る。
【0204】
第2工程(スズキカップリング)に必要な試薬の1つは、6−フルオロピリジン−3−イルボロン酸(4)であった。市販されているが、この試薬は、TBME中、低温(<−60℃)でのn−ブチルリチウム(1.2当量)との5−ブロモ−2−フルオロピリジン(3,102g)の臭化リチウム交換後、トリイソプロピルボレート(1.65当量)の添加によって容易に調製されるものであった。両反応段階とも短時間であり、全反応時間(添加時間を含む)は約3時間である。クエンチングは24%NaOH水溶液を用いて行ない、また、これにより生成物も抽出され、有機層中に不純物が残留する。水層を取り出し、次いで、これをHClで中和し、EtOAcで抽出する。有機層を乾燥させ、少量のヘプタンで希釈した後、濃縮により生成物の析出/晶出がもたらされる。濾過により、ボロン酸4が比較的高純度(96.4%AUC)および良好な収率(69g,79〜90%;実験セクションの収率の推定に関する注釈を参照のこと)で得られ、これは、さらに精製せずに使用され得る。
【0205】
この線形シーケンスの第2反応工程(スズキカップリング)は、設定するのが簡単な反応である;すべての試薬[2(111g)、Na
2CO
3水溶液、DME、およびPd(PPh
3)
4(0.04当量)]を反応フラスコに仕込み、混合物を還流下で加熱した;反応混合物を酸素を除去するために脱気したことに注意のこと。反応が終了したら(7時間以内)、処理に、フラスコの側面上(目に見える水層はなかった)での有機塩からの反応溶液のデカンテーション(または吸引除去)を含めフラスコをすすぎ、乾燥させ、合わせた有機層から溶媒を除去した。イソプロパノール/ヘプタンからの粗製5の晶出により、粗製物と比べて純度が改善されたが、それでも、充分な純度(>98%)の物質を得るためにクロマトグラフィー(粗製物に対するシリカゲルの比は約8.5:1であった)が必要である物質が得られた;収率は68%(79.5g)であった。清浄な5の使用により、次の工程、フッ素原子のアセトニトリル置換でのクロマトグラフィーの必要性が回避された。
【0206】
アセトニトリルでのフッ化物の置換もまた単純な反応であり、単純な室温での粗製生成物の晶出によって、清浄な6が高い収率および純度で得られた。この反応は、最初にカリウムヘキサメチルジシランKHMDS(8当量)/THFを−10℃で用いてアセトニトリル(6.5当量)から「エノレート」を形成した直後、フッ化物5(79g)の添加を伴うものであった。反応は高速であり、1時間後、飽和ブラインでクエンチングを行なった。有機層の乾燥および溶媒のエバポレーション後、得られた粗製混合物は2種類のみの成分、所望の生成物と、見かけ上アセトニトリルの自己縮合による非常に少量の極性生成物からなるものであった。この粗製混合物をイソプロパノール/ヘプタン中で旋回させ、一晩放置すると生成物の完全な晶出がもたらされ、該生成物を濾別し、洗浄すると高純度の6(99.3%AUC)が良好な収率で得られた(64g,76%)。
【0207】
6(64g)のメタノール分解を、反応が終了するまで(25時間)40%H
2SO
4(MeOH中)中で加熱することにより行なった。次いで反応液を冷却し、MgSO
4とともに攪拌して微量の加水分解生成物(ArCH
2−CO
2Me)を生成物に変換し戻し、次いで冷却K
2CO
3水溶液に添加し、同時にジクロロメタン中での抽出を行なった。乾燥および大部分のDCMのエバポレーション後、5%EtOAc(ヘプタン中)の添加およびさらなる濃縮により、生成物の晶出がもたらされた。固形物の濾過および洗浄により、高純度(98.9%AUC)の7が良好な収率(82%)で得られ、さらに高純度の生成物(4g)が母液から得られ、総収量は61.7g(87%)となった。
【0208】
また、アミド化工程は、反応槽への成分(7(61g)、ベンジルアミン(3当量)、および高沸点アニソール)の仕込み、次いで、反応が終了するまでの還流下での加熱を伴うものであった。反応混合物の冷却により、高純度(98.9%)および良好な収率(81%)での目的化合物の完全な晶出がもたらされた。
【0209】
最終工程は、目的化合物の二塩酸塩の形成であった。両塩基性部位の完全なプロトン化を確実にするため、反応を、二塩酸塩が溶けやすい無水エタノール中で行なった。ほぼ乾固するまでエバポレーション後、反応混合物をエタノールで2回「チェイス(chase)」し、過剰の塩化水素を除去した。得られた粘性の油状物をエタノール(2部)に溶解させ、次いで高速攪拌しながら、大容量(20部)のEtOAc(酢酸エチル)に添加した。濾過、酢酸エチル(ヘプタンなし)での洗浄および真空乾燥により、化合物(I)の二塩酸塩が乳白色粉末として得られた。合計68g(収率97%)の最終塩が高純度(99.6%AUC)で得られ、これには、微量のEtOAc(4.8%w/w)、EtOH(0.3%w/w)、およびヘプタン(0.6%w/w;真空乾燥前のヘプタンでの最終洗浄によるもの)が含まれていた。また、この塩を(上記の析出方法ではなく)高温EtOH/EtOAcから晶出させると結晶性ビーズ状物が得られ、これは、ずっと少ない捕捉溶媒レベル(わずか0.26%w/wのEtOAcおよび0.45%w/wのEtOH)を有しており、自由流動性であった。
【0210】
【化7-1】
4−(2−(4−ブロモフェノキシ)エチル)モルホリン(2)の調製:
機械的攪拌子、アダプターを有する温度計、冷却器、および窒素供給口(冷却器の上部)を取り付けた5L容の三ツ口丸底フラスコに、1(140.7g,0.756mol)、4−ブロモフェノール(130.6g,0.755mol)、無水K
2CO
3粉末(367.6g,2.66mol,3.5当量)、およびアセトニトリル(1.3L)を仕込んだ。混合物を、80℃で(一晩)激しく攪拌した(羽根がフラスコ底面に接触)後、DCM(500mL)とヘプタン(200mL)で希釈し、セライトに通して濾過した。蒸発乾固(回転式エバポレーション、次いで高真空)により、2が淡黄色油状物として得られた(216.00g,収率100%、96.3%AUC、3.7%の未反応ブロモフェノールを含有)。この物質を、さらに精製せずに成功裡に使用された。
【0211】
【化7-2】
ブロモフェノールが容易に除去され得ることは、2gの試料において、最初に試料をトルエン(8g)に溶解させ、8gの15%NaOH水溶液で洗浄することにより示された;液体クロマトグラフィーでは、回収された生成物(1.97g;98.5%回収率)中に未反応ブロモフェノールの痕跡は示されなかった。
【0212】
【化8】
6−フルオロピリジン−3−イルボロン酸(4)の調製:
攪拌冷却(ドライアイス−アセトン浴)無水[TBME]
(620mL;機械的攪拌子、アダプターを有する温度プローブ、および窒素供給口を取り付けた3L容の三ツ口丸底フラスコ内)に、2MのBuLi(352mL,0.704mol,1.2当量)を添加した(シリンジによって)。この高速攪拌冷却(<−75℃)混合物に、3(102.2g,0.581mol)の無水TBME(100mL)溶液を13分間かけて添加し、この間、内部温度は−62℃に上昇した。反応液をさらに45分間攪拌した(温度は−62℃〜−80℃に維持した)後、トリイソプロピルボレートを4分割して(合計180g,0.957mol,1.65当量)速やかに連続的に添加した。添加終了時、内部温度は−33℃に上昇していた。冷却浴でさらに45分間攪拌後(内部温度は−33℃から−65℃に低下した)、冷却浴を除き、攪拌混合物それ自体で50分間かけて−22℃まで昇温した。15分間かけて6℃まで昇温後(水浴によって)、攪拌反応混合物を氷水浴内に入れ、次いで、NaOH(160g)の冷却水(500mL)溶液で、窒素下にてクエンチングした。添加が終了すると、内部温度は20℃となった。この混合物を室温で1.5時間攪拌した。水層を取り出し、約350mLの濃HClでpH7に中和し、次いでEtOAc(3×1L)で抽出した。このときpHが8〜9となったため、水層を、約15mLの濃HClを用いてpH7に調整し、酢酸エチル(2×1L)でさらに抽出した。合わせたEtOAc抽出物を乾燥させ(Na
2SO
4)、濾過し、約150mLの容量に濃縮した。この濃縮物を旋回させながら、ヘプタンを分割して添加すると(総容量300mL)、生成物の析出/晶出がもたらされた。濾過、ヘプタン(100mL,300mL,次いでさらに300mL)での固形物の洗浄、および風乾により、標題生成物がオフホワイト色固形物で得られ(68.6g,収率79〜90%*;LC純度96.4%、NMRにより推定5.5%w/wのヘプタンが示された)、これは、さらに精製せずに成功裡に使用された。LC/MSにより、これは、下記の2種類の存在体の混合物であることが示され、高分子量の存在体の強度の方が大きかった(*注:反応の収率は、ボロン酸が唯一の構成成分であると仮定した場合では79%であり、環状ボレートが唯一の構成成分であると仮定した場合は90%である):
【0213】
【化9】
【0214】
【化10】
4−(2−(4−(6−フルオロピリジン−3−イル)フェノキシ)エチル)モルホリン(5)の調製:
機械的攪拌子、温度計とアダプター、冷却器、および窒素供給口(冷却器の上部)を取り付けた2L容の三ツ口丸底フラスコに、2(110.7g,0.387mol)、4(71.05g,0.477mol,1.23当量)およびDME(700mL)を仕込んだ。得られた攪拌溶液を、この攪拌溶液中に高速窒素流を5分間かけて通すことによって脱気した後、Na
2CO
3(121.06g,1.142mol,3当量)のH
2O(250mL)脱気溶液を添加し、また、固形Pd(PPh
3)
4(19.8g,0.044当量)も添加した。最後の添加直後、反応混合物上部のヘッドスペースに窒素をパージし、次いで、混合物を80〜85℃(内部温度)で7時間攪拌した後、室温まで冷却した。水層がないため、上清みをデカンテーションすると、無機塩(吸着水を有する)が残留した。この無機塩が入った反応フラスコを50%ジクロロメタン/酢酸エチル(2×250mL)で洗浄し、洗浄液をデカンテーションした上清みに添加した。合わせたこの有機層を乾燥させ(Na
2SO
4)、濾過し、蒸発乾固させると暗褐色油(148g)となった。この油状物に、150gの50%ヘプタン/イソプロピルアルコール(IPA)を添加し、旋回および冷却(氷水浴によって)すると、晶出が始まった。さらにヘプタン(50g)を添加し、得られた固形物を濾過し、洗浄し、風乾させると、48gの淡褐色固形物が得られた。濾液の蒸発乾固後、得られた混合物を100mLの50%ヘプタン/IPA中で旋回させた後、さらにヘプタン(約100mL)を添加し、栓をし、晶出のために冷凍庫内に入れた。得られた固形物を濾過し、ヘプタンで洗浄し、風乾させると61gのゴム状固形物が得られた。得られた濾液のエバポレーションにより油状物(34g)が得られ、これは、含有された極性不純物(例えば、Ph
3P=O)が有意に少なく、そのため、2N HCl(240mL)とEtOAc(220mL)間に分配した。底部の水層を取り出し、次いで、K
2CO
3でpH7〜8に中和しながらEtOAcとともに攪拌した。EtOAc層を乾燥させ、濾過し、蒸発乾固させた(22g)。48g、61gおよび22gに分割したものを、DCM中に充填したシリカゲル(1.1Kg)でクロマトグラフィー処理した。DCM(400mL)、50%DCM/EtOAc(5L)、次いで、漸増量のMeOH/Et
3N(1.5%MeOH/1%Et
3Nで開始し、5%MeOH/3%Et
3Nで終了)を含有する50%DCM/EtOAc(8L)での溶出により、77.68gの粘性油状物が得られ(純度98.0%)、これをヘプタン(300mL)中で旋回すると、すぐに結晶化した。濾過、ヘプタンでの洗浄および風乾により、75.55g(98.7%AUC)の固形物5が得られた。さらなる純粋な5(合計3.9g,98.6〜99.3%AUC)が、Ph
3P=Oを含有する最初の方のクロマトグラフィー画分から、上記の34gの試料で行なったようにして、清浄化した後、エバポレーション晶出により得られた。5の総収量は79.5g(68%)であった。
【0215】
【化11】
2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)アセトニトリル(6)の調製:
3L容の三ツ口丸底フラスコに、機械的攪拌子、温度計とアダプター、滴下漏斗、および窒素供給口(滴下漏斗の上部、バブラーによる正圧)を取り付けた。バブラーによって高速窒素流を流しながら、栓を外し、フラスコにKHMDS(415.8g,2.08mol)、次いで無水THF(1L)を仕込んだ。この攪拌冷却KHMDS/THF溶液(氷/メタノール浴、溶液の内部温度は−8℃であった)に、MeCN(70g)のTHF(110mL)溶液を22分間かけて滴下した直後、比較的高速(4分間)で、5(79.06g,0.262mol)のTHF(400mL)溶液を添加し、この間の後、反応混合物の内部温度は10℃に達した。冷却を継続すると(1時間)、内部温度は−6℃になり、TLCによると、反応は終了したようであった。さらに30分後(内部温度-3℃)、反応混合物を飽和ブライン(1L)でクエンチングし、EtOAc(500mL)で希釈した。水層を除去し、有機溶液を乾燥させ(Na
2SO
4)、濾過し、蒸発乾固させた(油状物になった)後、IPA(150mL)に完全に溶解させ、ヘプタン(300mL)で希釈し、種晶(約100mgの粗製油をIPA(約150mg)に溶解させ、ヘプタン(約2.5mL)で希釈することによって調製)を添加し、一晩放置した。この結晶性の固形物を攪拌して分解させた後、固形物を濾過し、250mLの2:1ヘプタン/IPAで洗浄し、次いでヘプタンで多数回洗浄し、風乾させると、64.38g(収率76%)の標題生成物6が結晶性の黄褐色固形物として得られた(LC純度99.3%)。さらに5.88gの低純度の物質が濾液から得られた。
【0216】
【化12】
2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)酢酸メチル(7)の調製:
2L容の一ッ口丸底フラスコに、6(64.00g,0.198mol)およびMeOH(360g)を仕込んだ後、H
2SO
4(240g)をゆっくりと注意深く滴下し、得られた均一な溶液を還流下で、反応が終了するまで(25時間、0.8%の未反応出発材料を有した)3.5%ArCH
2CO
2Hとともに攪拌した(115℃油浴)。短時間冷却後、MgSO
4(75g)を添加し、混合物を旋回させ、さらに45分間放置した(このとき、組成は、96.3%の生成物、0.8%の未反応出発材料、および2.5%のArCH
2CO
2H)。次いで反応混合物を、DCM(2L)とK
2CO
3(450g)のH
2O(600mL)溶液との高速攪拌冷却(氷水浴)混合物にゆっくりと添加した。得られた乳濁液を一晩放置した。有機溶液の透明な部分を吸引除去し、残りの部分を水とDCMで繰り返し処理し、透明な有機溶液部分を吸引除去した元の部分と合わせた。合わせた有機溶液部分を乾燥させ(Na
2SO
4)、濾過し、約1.2Lの容量に濃縮した後、300mLの5%EtOAc(ヘプタン中)、次いでヘプタン(300mL)を添加し、混合物を再度濃縮して(加熱を伴う回転式エバポレーション)DCMを除去した。この時点で、15mLのEtOAcを添加し、この高温混合物を晶出が始まるまで旋回させ、晶出がほぼ完了するまで旋回を継続し、次いで、完全な晶出のために放置して室温まで冷却させた。次いで、この固形物を濾過し、300mLの5%EtOAc(ヘプタン中)およびヘプタン(100mL)で洗浄し、次いで、充分に風乾させると、57.74g(収率82%)の7が淡黄色固形物として得られた(98.9%AUC)。さらに3.94gの清浄な生成物(97.9%AUC)が濾液から得られた(総収量87%)。
【0217】
【化13】
2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)−N−ベンジルアセトアミド(化合物(I)遊離塩基)の調製
1L容の一ッ口丸底フラスコに、7(61.4g,0.172mol)、ベンジルアミン(55.6g,0.519mol,3当量)、および無水アニソール(300g)を仕込み、次いで、反応が本質的に終了するまで還流下で攪拌し(23時間、165℃油浴温度;内部温度は147℃であった)、次いで、ほぼ室温まで放冷した。反応混合物の一部(1mL)をトルエン(1mL)で希釈すると、該部分の完全な晶出がもたらされた。次いで、この種晶を反応混合物に添加し、全反応混合物が晶出して単一の塊になるまで放置した。トルエン(150mL)を添加し、混合物を旋回させて固形物を分解させた。ヘプタン/トルエン(1:1、100mL)を添加し、固形混合物をさらに分解させた。最後に、ヘプタン(50mL,次いで25mL)を添加し、混合物をまたさらに分解させ、さらに30分間放置した後、固形物を濾過した。固形物の濾過、2:1トルエン/ヘプタン(300mL)、1:2トルエン/ヘプタン(300mL)で、次いでヘプタン(2×300mL)での洗浄、次いで乾燥(風乾、次いで高真空)により、60.16g(収率81%)の標題生成物が白色固形物として得られた(≧98.9%AUC)。さらに2.5gの低純度(97.4%)の物質が母液から得られた。
【0218】
【化14-1】
4−(2−(4−(6−(2−(ベンジルアミノ)−2−オキソエチル)ピリジニウム−3−イル)フェノキシ)エチル)−モルホリン−4−イウムクロリド(化合物(I)、二HCl塩)の調製
化合物(I)(遊離塩基、60.00g)の無水EtOH(600mL)攪拌懸濁液に、170mLの2.5M HCl(エタノール中)を添加し、25mLのEtOHをフラスコの側面を洗い流すように添加した。得られた均一な溶液を室温で(20分間)攪拌し、次いで、ほぼ乾固するまで(起泡するまで)エバポレートした。EtOH(2×150mL)でチェイスした後、残渣を再度EtOH(150mL)に溶解させた後、次いで、混合物が飽和したと思われるまでヘプタンをゆっくりと添加した(混濁したままとなるのに33mLが必要であった)。一晩攪拌後、2層が形成された。さらなるヘプタン(250mL)を添加後、依然として晶出は誘導され得ず、そのため反応混合物を約200mLの容量に濃縮し、この時点で混合物は均一であった。この高粘度の均一な溶液を、非常に高速で攪拌下の(機械的)EtOAc(2L)に滴下した。添加終了後、元のフラスコと滴下漏斗の25mLのEtOHすすぎ液を、この高速攪拌混合物に添加した。高速攪拌をさらに約1時間継続し、次いで混合物を濾過し、固形物(一部ゴム状)をEtOAc(300mL)で、次いでヘプタンで洗浄した。ヘプタン洗浄を開始するとすぐ、固形物はさらにゴム状となった。ガラス製ブフナー漏斗およびその内容物を被覆し(ペーパータオル/輪ゴム)、直ちに真空炉内に入れた。約45℃で一晩真空後、窒素下で真空を解除し、生成物(泡状固形物)の入ったブフナー漏斗を、直ちにジップロック内に入れ戻し、次いで、窒素下で(グローブバッグ)、瓶に移し、泡状固形物を粉末に分解した(へら)。高真空下(約45℃)で第二夜に、わずかに1.3gのさらなる重量減少がもたらされた。定重量は、本質的に高真空(約45℃)で第三夜に得られ、このとき、わずかに0.2g重量が減少していた。物質は、最終重量が68.05gであり(収率97%)、0.29当量(4.8%w/w)のEtOAc、0.035当量(0.3%w/w)のEtOH、および0.03当量(0.6%w/w)のヘプタンを含有していた。純度は99.6%であった。
【0219】
【化14-2】
元素分析(C
26H
29N
3O
3・2HCl・0.035EtOH・0.29EtOAc・0.03ヘプタン・0.8H
2Oの場合):
a.計算値(%):C、60.03;H、6.54;N、7.65;Cl、12.91
b.観測値(%):C、59.85/59.97;H、6.54/6.47;N、7.67/7.67;Cl、13.10/13.24
計算値FW:534.63(
1H NMRでは、H
2Oの形跡が示されないため、おそらく、この非常に吸湿性のある粉末の取り扱い中に生じた0.8H
2Oを考慮していない)。
【0220】
この物質の塩化エチルレベルを測定すると、98ppmであることがわかった。また、試料を解析すると、5,800ppmのヘプタンを含むことがわかった。
【0221】
この試料の別の一部分の分析により、以下の結果:99.6%のAUC、1640ppmのエタノール、41,480ppmの酢酸エチル、5600ppmのヘプタン、アニソールは未検出、および120ppmの塩化エチルが得られた。
【0222】
また、上記の乾燥塩を使用し、塩の再結晶のための手順を開発した。この手順は、HCl塩形成性反応混合物の濃縮によって得られる非常に純粋な粗製塩(残留EtOH含有)に対しても、同様に良好に(just was well)有効であり得る。
【0223】
塩(575mg)を2倍質量の無水EtOH(1.157g)に溶解させ、次いで窒素下で加熱した。この高温溶液(攪拌)に、1.6gの25%EtOH(EtOAc中)を添加した後、EtOAc(0.25mL)を添加すると、混濁したままとなった。この混濁高温溶液を室温まで放冷し、この間に晶出が起こった。晶出が終了後(2時間)、結晶性固形物を濾過し、無水EtOAc(約40mL)で洗浄し、真空乾燥させると、わずかに0.05当量(0.45%w/w)のEtOHおよび0.015当量(0.26%w/w)のEtOAcを含有する424mgの化合物(I)の二塩酸塩が自由流動性固形物として得られた(小ビーズ、99.8%AUC)。イソプロパノール/EtOAcを使用すると、わずかに良好な回収率(586mgから460mg)が得られたが、溶媒捕捉レベルは高くなった[0.085当量(1.0%w/w)のイソプロパノールおよび0.023当量(0.4%w/w)のEtOAc]。
【0224】
実施例3:化合物(I)二HClの大規模合成
試薬と溶媒は、市販の供給元から受領したままの状態で使用した。反応の進行は、HPLC、GC/MS、または
1H NMRによってモニターした。薄層クロマトグラフィー(TLC)は、Analtech製シリカゲルプレートを用いて行ない、UV光(254nm)によって可視化した。高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)は、Agilent 1100 Series装置にて行なった。プロトンおよびカーボン核磁気共鳴スペクトルは、Bruker AV 300を使用し、プロトンでは300MHzおよびカーボンでは75MHzで取得した。溶媒ピークは、プロトンおよびカーボンのスペクトルの参照ピークとして使用した。
【0225】
4−(2−(4−ブロモフェノキシ)エチル)モルホリン(2)の調製
還流冷却器と温度プローブを取り付けた50L容のジャケット付き反応器に、4−(3−クロロプロピル)モルホリン(2.44kg,0.54mol)、4−ブロモフェノール(2.27kg,0.54mol,1.0当量)、粉末化炭酸カリウム(6.331kg,1.88mol,3.50当量)、およびDMF(12.2L)を仕込み、攪拌した。次いで反応混合物を60〜65℃まで加熱し、一晩攪拌した。17.5時間後、反応混合物を20〜25℃まで冷却した。反応混合物を、処理のためのボトムバルブを取り付けた別の反応器に仕込んだ。温度を20〜30℃に維持しながら、DI水(48.7L)を反応器に仕込んだ。相分離が起こった。水層をMTBE(3×24.4L)で抽出した。合わせた有機層に、DI水(18.3L)、次いで、6M水酸化ナトリウム(18.2L)を添加した。混合物を2〜5分間攪拌すると、相分離が起こった。有機相を水(24.4L)とブライン(24.4L)で洗浄し、硫酸マグネシウム上で乾燥させ、濾過し、濃縮すると、3370gの黄色油状物が得られた(89%粗収率、HPLCにより99.4%AUC)。
【0226】
6−フルオロピリジン−3−イルボロン酸(4)の調製
72L容反応器に、還流冷却器と温度プローブを取り付けた。この反応器に、5−ブロモ−2−フルオロピリジン(1.17L,0.568mol)、トルエン(18.2L)、およびトリイソプロピルボレート(3.13L,0.68mol,1.2当量)を仕込み、攪拌した。テトラヒドロフラン(4.4L)を反応器に添加し、反応混合物を-35〜−50℃まで冷却した。温度を−35〜−45℃に維持しながら、n−ブチルリチウム(2.5Mのヘキサン溶液、5.44L,0.68mol,1.2当量)を、反応器に注意深く添加した。5時間後、反応が終了したとみなし、反応混合物を−15〜−20℃に昇温させた。温度を−15℃〜0℃に維持しながら、反応器の反応液に、2M HCl(11.80L)を添加した。反応混合物を18〜23℃で16時間攪拌すると、相分離が起こった。次いで、有機相を6M水酸化ナトリウム(6.0L)で抽出した。酸性で非塩基性の水相を反応器内で混合し、pH7.5になるまで6M HCl(2.5L)を添加した。次いで、塩化ナトリウム(6.0kg)を水相に添加した。次いで水相をTHF(3×20L)で抽出した。合わせた有機相を硫酸マグネシウムで乾燥させ、濃縮すると、1300gの黄褐色固形物が得られた(81%粗収率)。
【0227】
4−(2−(4−(6−フルオロピリジン−3−イル)フェノキシ)エチル)モルホリン(5)の調製
還流冷却器、スパージチューブ、バブラー、および温度プローブを取り付けた72L容反応器に、6−フルオロピリジン−3−イルホウ酸(2.84kg,1.24当量)、4−(2−(4−ブロモフェノキシ)エチル)モルホリン(4.27kg,1.0当量)、およびDME(27L)を仕込んだ。攪拌を開始し、次いで、炭酸ナトリウム(4.74kg,3.0当量)をDI水(17.1L)溶液として反応混合物に仕込んだ。アルゴンを反応混合物中で50分間起泡させた。アルゴン雰囲気下、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(750g,0.04当量)を、DME(1.0L)中のスラリーとしての反応混合物に添加した。反応混合物を75〜85℃まで加熱し、一晩攪拌した(17時間)。反応混合物を18〜22℃まで冷却した。DI水(26.681kg)およびMTBE(26.681L)を反応器に仕込み、5分間攪拌した。相分離が起こり、水相をMTBE(2×26.7L)で抽出した。合わせた有機相を2M HCl(1×15.0L,3×21.8L)で抽出した。次いで水相を反応器に仕込んで戻し、酢酸エチルを添加した(26.7L)。温度を15〜25℃に維持しながら、6M水酸化ナトリウム(26.7L)を用いてpHを6.2に調整した。相分離が起こり、水相を酢酸エチル(2×26.7L)で抽出した。合わせた有機相を硫酸マグネシウムで乾燥させ、濃縮すると、4555gの残渣が得られた(101%粗収率、HPLCにより67.1%AUC)。
【0228】
4−(2−(4−(6−フルオロピリジン−3−イル)フェノキシ)エチル)モルホリン(5)の精製
粗製生成物(575g)をシリカゲルクロマトグラフィーによって、メタノール/酢酸エチル/ヘプタン(30%酢酸エチル/ヘプタン、50%酢酸エチル/ヘプタン、75%酢酸エチル/ヘプタン、100%酢酸エチル、および5%メタノール/酢酸エチル)で溶出することにより精製した。純粋な画分をTLC(10%メタノール/ジクロロメタン、R
f=0.3)によって濃縮することにより、420gの淡褐色固形物が得られた(73%回収率、HPLCにより>99.9%AUC)。
【0229】
2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)アセトニトリル(6)の調製
1MのNaHMDS(2.0L,5.0当量)のTHF溶液を、5L容フラスコに仕込み、−20〜−15℃まで冷却した。温度を−10℃未満に維持しながら、フッ化物(119.7g、1.0当量)含有THF(500mL)を、このフラスコに20分間かけて仕込んだ。アセトニトリル(82.5mL,4.0当量)含有THF(170mL)を、このフラスコに20分間かけて添加し、この間、温度を-10℃未満に維持した。次いで反応混合物を1時間攪拌した。この反応液にブライン(1.5L,12.6容量)を、温度が10℃未満に維持されるような速度で添加した。次いで溶液を室温まで昇温させ、層分離させた。混合物をセライト上で濾過し、THF(1×200mL,1×100mL)で洗浄した。水相をトルエン(750mL)で抽出した。合わせた有機相を硫酸マグネシウムで乾燥させ、濾過し、トルエン(2×250mL)で洗浄し、濃縮乾固した。トルエン(1L)を添加し、溶液を再度濃縮乾固すると、169.8gの油状物が得られた。MTBE(1190mL,7容量)を、この油状物に50℃で添加し、15分間攪拌した。ヘプタン(850mL,5容量)を50℃で10分間かけて添加した。次いで混合物を室温まで1.5時間かけて冷却し、2時間攪拌した。このスラリーを濾過し、1:4 MBTE/ヘプタン(2×100mL)で洗浄し、炉内で一晩45℃にて乾燥させると、102.3gのオフホワイト色固形物が得られた(80%収率、HPLCにより98.8%AUC)。
【0230】
2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)酢酸メチル(7)の調製
ニトリル6(101g)およびメタノール(1.01L,10容量)を、攪拌バーと熱電対を取り付けた3L容フラスコに仕込んだ。濃H
2SO
4(175mL,10.0当量)をこの溶液に15分間かけて滴下し、この間、温度を60℃未満に維持した。続いて、30%発煙硫酸(124mL)をこの溶液に滴下し、この間、温度を60℃未満に維持した。次いで溶液を加熱マントルを用いて還流加熱し、一晩攪拌した。反応が終了したとみなされたら、20℃まで冷却した。第2のフラスコ(22L)に、飽和重炭酸ナトリウム(10.7L)とジクロロメタン(1.1L)を仕込み、15℃まで冷却した。温度を20℃未満に維持しながら、反応混合物を重炭酸ナトリウム/ジクロロメタン混合物に添加した。クエンチ液を15分間攪拌すると、相分離が起こった。水相をジクロロメタン(1×550mL,1×300mL)で抽出した。合わせた有機相を硫酸マグネシウムで乾燥させ、濃縮乾固すると、105gの橙色の固形物が得られた(94%粗収率、HPLCにより97.7%AUC)。
【0231】
2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)−N−ベンジルアセトアミド(化合物(I))の調製
エステル7(103g)、アニソール(513mL,5容量)、およびベンジルアミン(94mL,3.0当量)を、熱電対とオーバーヘッドスターラーを取り付けた3L容フラスコに仕込んだ。次いで反応混合物を142℃まで加熱し、2日間攪拌した。反応混合物を45〜50℃まで冷却し、2時間攪拌した。この混合物に、n−ヘプタン(1.5L)を1時間かけて滴下した。溶液を室温まで3時間かけて冷却し、次いで一晩攪拌した。得られたスラリーを濾過し、4:1アニソール/n−ヘプタン(200mL)とn−ヘプタン(3×100mL)で洗浄した。炉内で一晩乾燥させると、得られた生成物は、112.1gの黄褐色固形物であった(90%収率、HPLCにより99.6%AUC)。残留溶媒を充分に定量するのに、ヘプタンの単一の異性体の使用は不可欠であった。
【0232】
2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)−N−ベンジルアセトアミド二塩酸塩(化合物(I)・2HCl)の調製
EtOH(1.0L)を2L容フラスコに仕込み、塩化アセチル(62.5mL、3.0当量)をこのフラスコにゆっくりと添加し、40分間攪拌した。得られた溶液を、化合物(I)(100g)に30分間かけて添加し、この間、30℃の温度を維持した。溶液を270gの質量まで濃縮した。この濃縮溶液を酢酸エチル(2L)に、高速攪拌しながら20分間かけて添加した。混合物を一晩攪拌し、次いで窒素下で濾過すると、黄褐色固形物(73.5g)とより暗色の固形物(42.2g)の2種類の相違する固形生成物が得られた。これらの固形物をドライブレンドすると、99%の総収率が得られた。HPLC解析により99.0%純度(AUC)が示された。
【0233】
解析により、2530ppmのエタノール、48,110ppmの酢酸エチル、170ppmの塩化エチルが存在していることが示され、ヘプタンおよびアニソールは検出されなかった。パラジウム含有量を3回アッセイすると、29ppm、2ppm、および1ppm未満と測定された。
【0234】
化合物(I)・2HClの晶出試験
以下の表に示した実験は、化合物(I)・2HClの種々の晶出条件および析出条件を検討するために行なった。
【0235】
【表5-1】
【0236】
【表5-2】
析出は、化合物(I)・2HClのエタノール濃縮溶液を大容量の高速攪拌酢酸エチルに逆添加することによって行なった。この析出手順は、デモンストレーションバッチで実施し、2種類の相違する型の固形物の形成がもたらされた。この2種類の相違する型の固形物を物理的に分離し、個々に濾過した。濃密性が低い方の黄褐色固形物(ロット02BP111E、74g,HPLCにより99.1%AUC)を最初に濾過した後、濃密性が高い方のより暗色の固形物(ロット02BP111F、43g,HPLCにより99.1%AUC)を濾過した。真空炉内で乾燥後、この2種類の固形物をブレンドする前に、各々の試料を解析用に確保した。この2つの試料のHPLCデータは同等であったが、DSCおよびXRPDは異なっていた。
【0237】
両方のHPLC調製物とも、純度は99.0%より高く(面積%による)、ロット02BP111E試料では、およそ198℃で単一の吸熱事象が示されたが、ロット02BP111F試料では、117℃および189℃で2つの吸熱事象が示された。また、2つの試料のXRPDデータも異なっており、ロット02BP111E試料は結晶性のようであったが、ロット02BP111F試料は非晶質のようであった。HPLCデータ、XRPDデータおよびDSCデータにより、2つの試料が同じ物質の異なる形態であることが裏付けられる。
【0238】
化合物(I)・2HClの2つのロット(ロット02BP111Eおよび02BP111F)をドライブレンドし、化合物(I)・2HClの新たなロット(ロット02BP111G)を得た。化合物(I)・2HCl(ロット02BP111G)170ppmの塩化エチルを含んでいた。
【0239】
実施例4:2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)−N−ベンジルアセトアミドメシル酸塩(化合物(I)・MSA)の調製
2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)アセトニトリル(6)の調製
丸底反応器1に、ナトリウムビス(トリメチルジシリル)アミド(THF中1.0M、23.2L)を仕込み、溶液を≦−10℃まで52分間かけて冷却した。ガラス製カーボイに、窒素下で、化合物5(1400g,1重量)およびTHF(7.0L,無水、5容量))を仕込んだ。バッチを、窒素下で空気攪拌器で攪拌した。バッチは完全に溶解せず、濁った溶液であった。この化合物5の溶液を反応器1に、5L容滴下漏斗によって41分間かけて添加した。アセトニトリル(965mL,無水、0.69容量)のTHF(2.0L,無水、1.43容量)溶液を調製し、反応器1に≦−10℃で48分間かけて、同じ滴下漏斗によって(少量の黄色固形物が反応器壁上に存在していた)添加した。≦−10℃で45分間熟成後、バッチから解析用に試料採取すると、化合物5は変換により0.03%であった(仕様≦変換により1.5%)。試料採取から1時間24分後、ブライン(17.6L,12.6容量)を反応器1に52分間かけて添加し、不充分な攪拌バッチ(外観は乳濁液)を得た。珪藻土パッドを24インチポリプロピレン製漏斗上に作製した(1026gのセライト545を3.3Lの水中でスラリー状態にし、濾液は廃棄)。パッドを介してバッチを吸引濾過し、反応器をTHF(1.75L,1.25容量)ですすぎ、すすぎ液をケークに移した。このケークを2回目の一部のTHF(1.75L,1.25容量)ですすぎ、総濾過時間は1時間17分であった。濾液を反応器2に移すと、相分離が起こり、一晩放置した(バッチは窒素下で反応器内に保持した)。有機相(およそ34.5L)を廃棄し、水相をトルエン(8.1L,5.8容量)で抽出し、16分間攪拌し、12分間かけて沈降させた。トルエン抽出を省略し、分離後、有機相に直接トルエンを単に添加することも可能である。水相(およそ19L)を除去し、有機相を反応器2内で合わせて、硫酸マグネシウム(1400g,1重量、無水)で55分間かけて乾燥させた。このバッチを、ガラス製カーボイ内にインラインフィルターを取り付けた24インチポリプロピレン製漏斗を介して濾過した。バッチをアルゴンでガスシールし、濃縮状態のまま冷所(2〜8℃)で保存した。翌日、バッチを濃縮して残渣とし、トルエン(11.8L,8.4容量)ですすぎ、次に、これを濃縮した(水浴50±5℃)。トルエン添加の時点でバッチは橙色のスラリーであり、濃縮後もそのままであった。総濃縮時間は5時間3分であった。
【0240】
反応器3にMTBE(13.9L,9.9容量,ACS)を仕込み、次いで、これを45±5℃まで加熱した。MTBEを廃棄し、およそ2LのMTBEを使用し、ガラス球のバッチを反応器3内にスラリー状にした。バッチを45±5℃に維持しながら残留MTBEを反応器3に添加し、次いで、バッチをこの温度範囲で33分間熟成させた。次いで、バッチを45±5℃に維持しながら、n−ヘプタン(10L,7.1容量,99%)を反応器3に39分間かけて添加した。熱源のスイッチを切り、バッチを、4時間5分かけて25±5℃まで冷却し、この温度範囲で27時間4分熟成させた。次いで、24インチポリプロピレン製漏斗(PTFE布)を介してバッチを吸引濾過し、窒素下で被覆および吸引乾燥させた。総濾過時間は20分間であった。この橙色のバッチ(正味湿潤重量1322g)を45±5℃に設定した真空炉内で定重量まで48時間3分かけて乾燥させた。バッチを2つの80オンス容琥珀色ガラスビン(閉鎖部の内側はTeflon処理)に移し、アルゴンでガスシールした(1217gの6、理論量の81%)。
【0241】
2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)酢酸メチル(7)の調製
22L容反応器に、化合物6(900g,2.78mol)およびメタノール(9.0L,10容量,無水)を仕込んだ。硫酸(1115mL,発煙)を、この懸濁液に2時間11分かけて添加すると、暗色溶液が得られた。最大温度は65.5℃であった(目標<65℃)。硫酸(1565mL,1.74容量,濃硫酸)を、このバッチに1時間49分かけて添加し、次いで、バッチを18分間かけて可視還流加熱した(74℃)。バッチをこの温度に16時間57分維持した。この穏やかな可視還流によって非存在が認められたため、次いで、再度バッチを79〜80℃で2時間15分かけて還流加熱した。バッチをこの温度(80±5℃)に10時間57分維持し、次いで熱源のスイッチを切った。26時間4分後、さらにメタノール(0.75L,0.8容量,無水)を仕込み、失われた溶媒容量を補給した。2.5〜3.3Lの溶媒がエバポレーションによって失われたと推定された。還流から42時間31分後のHPLC解析により、化合物6のレベルは変換により0.6%(仕様≦1.0%)であることが示された。反応器1および2のそれぞれに、塩化メチレン(4.8L,5.3容量)と炭酸水素ナトリウム溶液(48L,53.3容量,飽和)を仕込んだ。炭酸水素ナトリウム溶液を一晩2〜8℃で保存し、翌朝取り出した。22L容反応器から半量のバッチを各反応器に、それぞれ、47分間および44分間かけて分割して添加した(バッチ温度は、それぞれ、12〜13および14〜15℃であった)。二酸化炭素の放出(ボルテックスで激しく)によってクエンチングを行なった。次いで、各反応器のバッチを200L容反応器に移し、バッチを16分間攪拌し、次いで25分間かけて沈降させ、有機相を分離した。水相を2回分の塩化メチレン(5L,5.6容量および2.7L,3容量)で逐次抽出した。各抽出は、攪拌しながら15分間かけて行ない、それぞれ、6分間および9分間かけて沈降させた。合わせた有機相を反応器3に移し、硫酸マグネシウム(900g,1重量,無水)で35分間かけて乾燥させた。次いで、サメ皮膚布を装着し、インラインフィルター(10ミクロン、Pall P/N 12077)を取り付けた24インチポリプロピレン製漏斗を介してバッチを吸引濾過した。濾液を回転式エバポレータ上で、合計2時間18分間かけて40±5℃(水浴温度)で濃縮した。54分後、バッチは固化し、球状体が形成された。これを分解させ、濃縮を継続した。次いで、バッチ(微細な固形の脆性塊状物の混合物)をさらに摩砕し、ガラス球に戻し、濃縮を継続した。バッチを80オンス容琥珀色のビン(蓋の内側はTeflon処理)に移し、アルゴンでガスシールすると、化合物7が得られた(871g,理論量の88%)。
【0242】
2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)−N−ベンジルアセトアミド(化合物(I))の調製
22L容反応器に、化合物7(650g,1.82mol)、アニソール(3.25L、5容量,無水)およびベンジルアミン(600mL,0.92容量,3当量)を仕込んだ。バッチ(およそ18℃)を142±5℃まで1時間44分かけて加熱し、溶解は30℃で起こった。バッチを142±5℃に69時間30分維持し、この時点で、HPLC解析により、化合物7は変換により0.9%(仕様≦変換により1.7%)であることが示された。バッチを45〜50℃まで5時間12分かけて冷却した(冷却を補助するため、バッチがおよそ72℃になったら、窒素流を多くした)。この温度範囲では、バッチの攪拌は不充分であり、混合すると、バッチ温度は52℃まで上昇した。≦15分の間、>50℃であった。最初に<50℃になったときに、バッチを2時間2分熟成させ、次いで、バッチ温度を45〜50℃に維持しながら、n−ヘプタン(9.75L,15容量,99%)をバッチに1時間56分かけて添加した。次いで、加熱を中止し、バッチを25℃まで10時間32分かけて冷却し、次いで、およそ20℃まで20分間かけて冷却した。バッチを≦25℃に維持した総時間は、4時間50分間(2時間47分間はおよそ20℃)であった。24インチポリプロピレンフィルター漏斗(PTFE布を装着)を介してバッチを吸引濾過し、反応器をアニソール/n−ヘプタン(1.3L,4:1)ですすぎ、すすぎ液をケークに移した。次いで、ケークを2回分のn−ヘプタン(1.3L,0.65L)で逐次洗浄した。総濾過時間は39分間であった。バッチ(正味湿潤重量1004gのKX2391)を3つのガラストレイに移し、50℃に設定した真空炉内に入れ、定重量まで96時間26分かけて乾燥させた。
【0243】
2−(5−(4−(2−モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2−イル)−N−ベンジルアセトアミドメシル酸塩(化合物(I)・MSA)の調製
化合物(I)(520g,1.21mol)を、移送を容易にするためにアセトン(41.6容量,80容量,ACS)を使用して反応器1に移した。バッチを50±5℃まで33分間かけて加熱し、溶解は30℃で起こった。インラインフィルター(Pall P/N 12077、10ミクロン)を装着した移送ポンプによって、バッチを第2の反応器内に清澄化し、46℃から50±5℃まで再加熱した。メタンスルホン酸(121.4g,1.05当量,99%超純粋)を、この薄黄色バッチに12分間かけて添加し、次いで加熱を中止した。14分後、白色固形物が観察され、その数は増加し、59分後に白色懸濁液となった。バッチは、7時間51分後に25±5℃の範囲となり、さらに19時間21分間熟成させた(10時間30分間は≦27℃)。24インチポリプロピレンフィルター(PTFE布)を介してバッチを吸引濾過し、反応器をアセトン(2.0L,清澄化、ACS)ですすぎ、すすぎ液をケークに移した。ケークをステンレス鋼製カバーで覆い、窒素流下で吸引乾燥した。総濾過時間は21分間であった。バッチ(正味湿潤重量764g)を3つのガラス製乾燥用トレイに移し、真空炉内で定重量まで、25±5℃にて21時間54分間かけて乾燥させた(565g,理論量の89%)。解析用に試料を取り出し、バッチを真空下に25±5℃で維持した。次いで、バッチを2つの80オンス容琥珀色ガラス瓶(ポリプロピレン栓の内側はTeflon処理)に移し、アルゴンでガスシールし、−10〜−20℃で保存した。
【0244】
実施例5:単回用量漸増(RSD)および反復用量漸増(RMD)試験のための用量決定
開始用量は、イヌおよびラットでの28日間の毒性試験の結果に基づいて選択した。これらの試験において、イヌの方が敏感な種であることがわかった。最低毒性レベルは、経口強制投与による0.5mg/kg/用量BIDであった。このレベルでは、臨床徴候、体重の変化または肉眼による所見は観察されなかった。試験物関連かもしれないと考えられる唯一の所見は、アラニンアミノトランスフェラーゼの軽微ないし軽度の増加であった。多くの顕微鏡検査所見が、0.5mg/kg/用量BIDを与えた動物において認められたが、これらは、高用量群よりも重症度が低く、罹患した動物も少なく、なんら臨床徴候と関連していなかった。FDAの手引きに基づき、開始用量を、1平方メートルあたり齧歯類の10%に対して重度に毒性である(STD10)用量の10分の1、すなわち2mgとして計算した。
【0245】
RSDの部では3つの用量レベルを選択して化合物(I)の単回用量経口薬物動態を調べ、試験のRMDの部での投与スケジュールを支持または精緻化した。試験のRSDの部で選択した化合物(I)用量レベルは、2、5および10mg(遊離塩基当量)であり、経口溶液として投与する。
【0246】
RMDの部での用量レベルは、迅速かつ注意深く化合物(I)の最大耐用量に達するように選択した。高用量レベルでの毒性を見越して、80mg用量レベルの後は、用量を40mgずつ増加する。1日2回の投与を、イヌでの経口投与で観察された5〜8時間の半減期範囲によって補助する。試験のRMDの部で選択した化合物(I)用量レベルは、2、5、10、20、40、80、120、160mgまたはそれ以上(40mgずつ増加)であり、安全性と耐容性に応じて、経口溶液として1日2回投与する。用量および投与頻度はともに、化合物(I)の単回用量薬物動態および安全性に応じて変更してもよい。
【0247】
実施例6:単回用量漸増(RSD)および反復用量漸増(RMD)試験
化合物(I)の単回用量薬物動態(PK)を調べるため、単回用量漸増(RSD)試験を行なう。3例の患者の連続コホートを用量漸増コホートに登録する。登録された各患者に、単回経口投与で化合物(I)溶液を2、5または10mgで与え(投与前および投与後に少なくとも2時間の絶食が必要である)、少なくとも7日間観察する。毒性の発現(以下に定義)がなければ、患者は、試験のRMDの部で、化合物(I)の1日2回投与のスケジュールを2サイクル続ける。
【0248】
多数の悪性腫瘍を有する患者に反復経口溶液として投与したときの化合物(I)の最大耐用量(MTD)を調べるため、反復用量漸増試験を行なう。試験のRMDの部の実施は以下のとおりである。
【0249】
第1サイクル
3例の患者の連続コホートに、化合物(I)を経口溶液として2、5、10、20、40、80、120、160mgまたはそれ以上(40mgずつ増加)で、1日2回(約10時間あける;投与前および投与後に少なくとも2時間の絶食が必要である)21日間与え、長期PK試料採取の都合で第22日の午前中に、さらなる用量を与える。第1サイクルのみ、22日の投与期間を有する。その後のサイクルはすべて、21日の投与期間を有する。
【0250】
投与スケジュールは、現状のPK所見および安全性の懸念に基づいて変更されることがあり得る。
【0251】
試験の第1部または第2部の際にコホート内で臨床的に有意なグレード2の毒性(以下に定義)が発生した場合、有害事象が明白に疾患の進行の結果である場合を除き、用量増大を減速させる。次の投与コホートの用量増分を少なくする。
3例の患者のうち1例が用量限界毒性(DLT、以下に定義)を発現した場合、コホートを3例から6例の患者に拡大する。拡大したコホートの6例の患者のうち1例がDLTを発現した場合、またはいずれも発現しなかった場合、用量増大を次のレベルに進める(セクション6.3.1参照)。拡大したコホートの3例または6例の患者のうち≧2例がDLTを発現した場合、その用量レベルでの処置を中止する。3例の患者の別のコホートに、低減した用量を1日2回与える。このプロセスを、MTDが決定されるまで継続する。MTDは、6例の患者のうち1例以下がDLTを発現する最高用量レベルと定義する。さらに10例の患者にMTDで投与し、化合物(I)の安全性薬物動態と生物学的効果をさらに充分に特性評価する。もしDLTが生じた患者の数が>33%になったときは、投与を中止する。このレベルよりもごくわずかに少ない用量をMTDとみなし、10例のさらなる患者を、このレベルに登録する。
【0252】
第2サイクル
コホートの患者は、DLTなしで第1サイクルの洗い流し期間を終えたら、21日の投与期間と7日間の洗い流しの第2サイクルに進める。2サイクルの投与後、化合物(I)に耐容性を有し、疾患が進行しなかった患者に、さらなるサイクルで化合物(I)を与える(21日間投与および7日間休止)。
【0253】
毒性は、場合によっては、おそらく、または明確に治験処置に関連していることに原因を有する有害事象と定義する。
【0254】
用量限界毒性(DLT)は、第1処置サイクル中に評価し、
・有害事象共通用語規準(CTCAE)バージョン3.0による≧グレード3の任意の非血液学的毒性。吐気、嘔吐、下痢および電解質平衡異常は、これらが、充分な支持的ケアにもかかわらず≧グレード3である場合のみ、DLTとみなす;
・グレード4の好中球減少の持続が≧5日間;
・熱性好中球減少(絶対好中球数[ANC]<1.0×109/Lおよび≧38.5℃の発熱と定義)またはANC<1.0×l09/Lを伴うグレード>3の感染の記録;
・グレード4の血小板減少または血小板輸血が必要とされる血小板減少;
・毒性による第2サイクルでの投与の>14日間の遅延と定義する。
【0255】
試験期間
上記の試験は、患者1例あたり、スクリーニングから始まってRSDの終了およびRMD投与の最初の2サイクルまでの14週間で最大18日間の予定された来院日数を含む。試験のRMDの部のみに登録されたコホートは、必要とされる来院日数が少ない。来院日数は、試験のエンドポイントの評価に使用される。2サイクルの投与で7つの用量レベルを評価し、試験は約12ヶ月間続ける。RMDの最初の2サイクルの終了後、化合物(I)に耐容性を有し、疾患が進行しなかった患者には、さらなるサイクルの投与が許可される。
【0256】
試験のエンドポイント
試験のエンドポイントは以下に記載のようにして評価される。安全性は、有害事象ならびに検査評価(すなわち、血液検査、血清化学分析および尿検査)によって評価される。
【0257】
薬物動態学は、以下のようにして評価される。有効なLC/MS/MS生物学的解析法を使用し、化合物(I)の血漿レベルを解析する。尿を採取し、解析して排出と代謝の半定量的評価を得る。生物学的効果は、以下のようにして測定する。試料を採取して血管内皮増殖因子(VEGF)の血漿レベルを測定する。また、ホスホ−Src Tyr419のレベルおよび選択した基質のトランスリン酸化のレベルを、末梢血単核細胞および腫瘍生検材料において評価する。生検材料での生物学的効果の解析は、MTDの化合物(I)を受けた患者、および採取可能な腫瘍を有する患者のサブセットで行なう。安全性パラメータは、第1サイクルの最後に評価して用量増大を許容する。最初の2サイクルで収集した上記のすべてのパラメータを、試験のエンドポイントとして試験の最後に解析する。
【0258】
患者の選択
以下は、患者を試験に登録させるための組み入れ(inclusiont)基準要件である。
1.書面のインフォームドコンセントに署名済
2.年齢18歳より上の成人
3.転移性または切除不可能であり得、標準的な治癒手段または待機手段が存在しないか、またはもはや有効でない進行した充実性腫瘍またはリンパ腫が確認されている;脳処置部または眼内転移を有する患者もまた適格である
4.ECOGパフォーマンスステータスが0〜2
5.余命が少なくとも14週間
6.絶対好中球数(ANC)≧1.5×109/L、血小板数(PLT)≧100×109/Lまたはヘモグロビン(Hgb)≧10g/Lによって示される充分な骨髄が保持されている
7.血清ビリルビン、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)、アスパラギン酸トランスアミナーゼ(AST)およびアルカリホスファターゼ(ALP)≦2.5×正常値の上限(ULN)によって示される充分な肝臓機能
8.充分な腎機能(血清クレアチニン≦1.5×ULNまたはクレアチニンクリアランスの計算値が>60ml/分)
9.腫瘍生検に同意した人について、該処置前の1週間以内は正常な凝固プロフィール(PT/INRおよびaPTTが施設内正常範囲内)
10.好ましくは投与の第1日以前の1週間以内に行われるスクリーニング時、妊娠試験で陰性の女性(両方の卵巣摘出および/または子宮摘出を受けた患者に対しては適用不可能)
11.投与の第1日以前の28日間および最後の投与後6ヶ月間、性生活または避妊具の装着の自制に同意した患者
12.MTDで投与を受ける採取可能な腫瘍を有するさらに10例の被検体について、腫瘍生検に対する書面のインフォームドコンセントに署名済
以下は、試験参加からの患者の除外基準である。
1.以前の抗癌処置剤または治験薬に由来する重症度グレード1より高い未解決の毒性
2.治験薬または全身性抗癌剤を投与の第1日目の14日までの間に受けているか、もしくは受けていた、または該薬剤を28日間受けて排出半減期が未知である、または半減期が50時間より長い
3.長期間放射線療法を、例えば胸骨、骨盤、肩甲骨、椎骨もしくは頭蓋に、≦4週間受けた、または試験薬物の開始前に、低用量の緩和放射線療法を四肢限定で<1週間受けた、またはかかる治療法の副作用から回復していない
4.現在ホルモン剤(すなわち、エストロゲン避妊薬、ホルモン補充、抗エストロゲン)、抗血小板薬剤または抗凝固薬、例えばクーマディンを服用中(静脈内カテーテルの留置のために予防用量の抗凝固薬を受けている人を除く)
5.投与の第1日目の前の2週間または5半減期および試験時に、シトクロムP450 3A4酵素の強力なインヒビターまたはインデューサを使用
6.妊娠中または授乳期
7.投与の第1日目より前の4週間以内に大きな手術
8.上部消化管に大きな手術、または炎症性腸疾患、吸収不良症候群または経口吸収の妨げとなり得る他の状態
9.終末器不全、癌以外の主要な慢性の疾病、または治験担当医の意見で、被検体を試験に参加させるのは望ましくないとされるか、もしくはプロトコルのコンプライアンスに適合し得ない任意の重度の合併症の徴候または症状
10.狭心症、冠動脈疾患または脳血管障害の既往歴、薬物治療が必要とされる一過性の虚血性発作または不整脈
11.B型またはC型肝炎、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染、凝固障害、または溶血性の状態、例えば、鎌状赤血球貧血の証拠
試験手順
以下の手順を、予定された患者の来院日に行なう。
【0259】
インフォームドコンセントおよび病歴の記入
インフォームドコンセントおよび病歴の記入をスクリーニング時に行う。
【0260】
RSD薬物動態学(PK)試料採取
血液試料を薬物動態解析用に:
第1日の0時間目(投与前)、ならびに投与後1、2、3、4、6、9、11、24(第2日)、48(第3日)、96時間目(第5日)および168時間目(第8日)に採取する(12例の試料)。尿を薬物動態解析用に:第1日の0時間目(投与前)、0〜6時間、6〜12時間、12〜24時間および24〜48時間に採取する(5例の試料)。
【0261】
血漿試料の採取および調製は、以下のとおりとする:血液試料(およそ2.0mL)を留置カテーテルから、または直接静脈穿刺によって、Vacutainer収集チューブ内(抗凝固薬として、EDTAカリウム(K3)(サイズ約3mL)を入れている)に抜き取り、遠心分離まで氷上で維持する。採取から30分以内に試料を遠心分離する(約2,000rpm、4℃で10分間)。直ぐに、ポリプロピレン製トランスファーピペットを用いて血漿を回収し、この血漿を、ほぼ等容量(約400マイクロリットル)で、プレラベルポリプロピレン製トランスポートチューブ内に2つに分ける。得られた血漿試料にキャップし、直ちに冷凍庫内(−70℃に維持)に入れる。
【0262】
尿試料の採取および調製は、以下のとおりとする:尿を採尿バッグ内に、指定した各時間の間に採取する。採尿バッグは、採取期間が終了するまで約4℃(冷蔵または氷上)で保存する。採取後、各尿試料を振とうすることにより充分混合する。各採取時間の最後に容量を測定し、CRFに記録する。尿検査のため、約2mLの尿アリコートをトランスファーピペットによって採取し、ディップスティックによって試験する。PK測定のため、各採取物から約5mLの尿アリコートを、2つのプレラベルポリプロピレン製トランスポートチューブのそれぞれに移す。採取した尿試料にキャップし、直ちに冷凍庫内(−70℃に維持)に入れる。
【0263】
RMD薬物動態学的試料採取
血液試料を薬物動態解析用に採取する(上記のようにして):
第1サイクル(2、5および10mgで投与した患者からは20例の試料を採取;>10mgで投与した患者からは25例の試料を採取):第1日の0時間目(最初の午前中の投与前)、および1、2、3、4、6、10(午後の投与前)、11時間目(午後の投与の1時間後);第2日の0時間目(午前中の投与前)、1時間後;第3日の0時間目(午前中の投与前)、1時間後;第8日の0時間目(午前中の投与前)、1時間後;第15日の0時間目(午前中の投与前)、1時間後;第22日の0時間目(午前中の投与前、すなわち最後の投与)、および1、2、3、4、6、9、11、24時間目(第23日)、ならびに48時間目(第24日)。
【0264】
RSDを受けた最初の3つのコホート(すなわち、2、5または10mg)の患者からは、第1日目に以下のとおり:第1日の0時間目(午前中の投与前)、および11時間(午後の投与の1時間後)にPK試料採取を行なう。
【0265】
第2サイクル(5例の試料):第29日の0時間目(午前中の投与前);第36日の0時間目(午前中の投与前);第43日の0時間目(午前中の投与前);第50日;ならびに第57日。さらなる投与に耐容性であり得、疾患が進行せず、最初の2サイクル後、投与サイクルの継続に選出された患者からは、後続の各サイクルで、投与開始の直前および投与終了時(最後の投与の2時間後)にPK試料採取を行なう。
【0266】
生命徴候(RSDおよびRMD)
脈拍数、収縮期および拡張期の血圧、呼吸、ならびに体温を、スクリーニング時;RSDおよびRMD:第1日の0時間目(投与前)、投与の2時間後および8時間後;クリニックへの各来院日に測定する。
【0267】
脈拍数は、患者が安静な状態(座ったままで少なくとも5分間)で得、脈を30秒間計測し、2倍し、心拍数/分で記録する。収縮期/拡張期の血圧は、血圧計を使用し、患者が安静な状態(背筋をまっすぐにして座ったまま少なくとも5分間)で測定する(毎回、同じアームを使用)。血圧は単位:mmHgで記録する。呼吸は、患者が安静な状態(座ったままで少なくとも5分間)で得、呼吸回数を30秒間計測し、2倍し、呼吸数/分で記録する。体温は、経口または耳式体温計を使用し、患者が安静な状態(背筋をまっすぐにして座ったまま少なくとも5分間)で得る。
【0268】
体重および身長
患者の体重(キログラム)と身長(インチ)は、スクリーニング時;RMD:第1、22、29、50および57日目に得る。
【0269】
安全性の検査評価
血液検査、血清化学分析および尿検査のための血液を、スクリーニング時;RSD:第2、3および8日目;RMD:第2、3、8、15、22、29、36、43、50および57日目に採取する。最初の2サイクル後のさらなるサイクル下の患者を、安全性について、後続の各サイクルで、投与開始直前および投与終了時に検査評価する。PT/INRおよびaPTT用の血液を、該手順より前の1週間以内に腫瘍生検材を受けた患者において試験する。
【0270】
身体検査
精密な身体検査をスクリーニング時に行なう。変化があれば更新するための部分的身体検査を、RSD:第1日目および第8日目;RMD:第1、22、29、50および57日目に行う。
【0271】
ECG試験
12リード型ECGおよびlong Lead IIを、スクリーニング時;RSD:第1日目の投与1時間後および4時間後ならびに第8日目;RMD:第1日目の投与1時間後および4時間後、ならびに第8、22、50および57日目に行なう。RSDを受けた最初の3つのコホート(すなわち、2、5または10mg)の患者は、RMDの部の第8、22、50および57日目のみにECGを行なう。
【0272】
妊娠試験
血清妊娠試験用の血液を、スクリーニング時に女性患者から、好ましくは投与の第1日目より前の1週間以内に採取する(両方の卵巣摘出および/または子宮摘出を受けた患者に対しては適用不可能)。
【0273】
有害事象
有害事象は、試験全体を通してモニターする。各来院日に、治験担当医は、各患者に「前回の来院日以来、気分は如何ですか?」などの一般的な非指示的な質問を行なうことにより、有害事象についての質問を開始する。指示的な質問および検査は、適宜行なう。
【0274】
併用薬物適用
各来院日に、処方箋または店頭販売品の併用薬物適用の使用があれば、それを、該薬物適用が行われた理由とともに記録する。
【0275】
生物学的効果の評価
血液を、血漿中のVEGFの測定のために採取する;Srcおよび選択した基質のリン酸化を、RMDの第1、22および50日目にPBMCにおいて評価する。
【0276】
生検の基準を満たす患者に対し、投与前生検を、投与の第1日目より前の4週間以内に行ない、投与後生検を第−20日目〜第22日目に行なう。生検のときと同時に、生物学的効果の測定用に血液を採取する。また、生物学的効果の解析用に、血液を第50日に採取する。
【0277】
併用療法
患者は、シトクロムP450 3A4または凝固の強力なインヒビターまたはインデューサの慢性的併用薬物適用の使用はいずれも許可されない。例えば、以下のCYP3A4モジュレーターの全身性使用は、投与の第1日目より前の14日以内または5半減期(いずれか長い方)および試験全体を通して禁止される。
【0278】
CYP3A4インデューサ:バルビツレート、カルバマゼピン、エファビレンツ、グルココルチコイド、モダフィニル ネビラピン、フェノバルビタール、フェニトイン、リファンピン、セントジョーンズワート、トログリタゾン、オキシカルバゼピン、ピオグリタゾン、リファブチン
CYP3A4インヒビター:アミオダロン、アプレピタント、クロラムフェニコール、シメチジン、クラリスロマイシン、ジエチル−ジチオカルバメート、ジルチアゼム、エリスロマイシン、フルコナゾール、フルボキサミン、ゲストデン、グレープフルーツ果汁、イマチニブ、イトラコナゾール、ケトコナゾール、ミフェプリストン、ネファゾドン、ノルフロキサシン、ノルフルオキセチン、ミベフラジル、スターフルーツ、ベラパミル、ボリコナゾール
静脈内の斑またはカテーテルの開存性を維持するための控えめな抗凝固薬の使用は許可される。ホルモン剤(すなわち、エストロゲン避妊薬、ホルモン補充、抗エストロゲン)の併用的使用は禁止される(下記参照、洗い流し期間)。
【0279】
洗い流し期間
RSDにて単回用量投与後、洗い流しまたは観察期間を少なくとも7日間設ける。RMDの部の第1サイクル後の洗い流し期間は6日間である。他のサイクルはすべて、2つの連続するサイクル間に7日間の洗い流し期間を有する。
【0280】
処置コンプライアンス
プロトコル指定の基準から大きく外れ、不注意で登録されたことがわかった患者は、試験を中止する。患者を、投与スケジュールに対する忠実性について評価する。彼らには、自宅で投与を進め、試験日程を終了するよう指示する。予定された毎週の来院日に、患者に、この日程表を、すべての使用および未使用の投与瓶とともに当該外来診療所(1つまたは複数)に持参させる。これらを、患者に試験薬物の新たな供給が不要となるまで、診療所の担当者が点検する。治験担当医は、各再来院日に患者に、前回の来院日数以降、何らかの併用薬物適用を行なったかどうかを尋ね、かかる使用がプロトコル違反かどうかを判定し、データおよび結論を記録する。
【0281】
試験薬物適用
化合物(I)は、この試験において、遊離塩基N−ベンジル−2−{5−[4−(2−モルホリン−4−イル−エトキシ)−フェニル]−ピリジン−2−イル}−アセトアミドのメシル酸塩として提供する。治験用量は、溶液中の遊離塩基の重量として計算する。化合物(I)メシル酸塩は白色の結晶性の粉末であり、実験式はC
26H
29N
3O
3・HO
3SCH
3および分子量は527.63ダルトンである。遊離塩基の分子量は431.53ダルトンである。
【0282】
化合物(I)メシル酸塩粉末を、コホート毎に、用量:2、5、10、20、40、80、120、160mgまたはそれ以上(遊離塩基当量)に対応する異なる量の試験薬物が入った単位用量瓶で与える。また、安全性に関して修正した用量レベルも単位用量瓶として調製し、外来診療所(1つまたは複数)に届ける。溶解させると、得られる化合物(I)メシル酸塩溶液は透明になり、患者に対して、単位用量瓶にて、0.2〜4.0mg/mL(遊離塩基当量)の範囲の濃度で施薬する。
【0283】
投薬量および投薬レジメン
化合物(I)メシル酸塩は、患者の用量コホートに従って、すなわち、RSD:2、5または10mg;RMD:2、5、10、20、40、80、120、160mg(遊離塩基当量)またはそれ以上(40mgずつ増加)で経口投与する。RMDの部では、化合物(I)を1日2回(約10時間空ける、少なくとも2時間の絶食後に投与した後、2時間の絶食)で21日間投与した後、サイクル毎に7日間の洗い流しを行なう。唯一の例外は第1サイクルであり、この場合では、長期PK試料採取を容易にするために、さらなる用量を第22日目に投与する。このサイクルでは、洗い流しは6日間である。試験薬物に耐容性を有し、疾患が進行しなかった患者は、最初の2回のRMDサイクル後のさらなるサイクルの投与を受ける患者に選出され得る。
【0284】
一定容量の滅菌水を化合物(I)メシル酸塩の単位用量瓶に添加し、透明な液が得られるまでよく振る(およそ10回反転させる)。
【0285】
【表6】
少なくとも2時間の絶食後に化合物(I)を摂取する。水の摂取はいつでも可能とする。現場管理下、初回用量の投与では、患者が自身で単位用量瓶の全量を投与する。20mLアリコートの滅菌水を瓶に入れて濯ぎ、内容物を初回用量の残部として経口摂取する。このプロセスを繰り返す。その後2時間まで食事をとらない。
【0286】
RMDでは、7日間分の化合物(I)溶液の供給物を調製し、現場薬局で患者に分配する。患者は、使用済みの瓶を戻すために第8、15、22、36、43および50日目に毎週戻る。第8、15、36および43日目、患者は、新たな7日分の供給物を得る。
【0287】
用量の修正
用量増加の遅延
グレード2の毒性が生じたら、用量増大を遅らせてもよい。次の用量レベルコホートは、以下のとおりに増分を少なくする。
【0288】
【表7】
増大用量レベルでグレード2以下またはグレード2より高い毒性が生じた場合、最初の用量増大スケジュールを再使用してもよい。
【0289】
DLTでの用量修正
コホート内の3例または6例の患者のうち≧2例にDLTが生じた場合、用量増大を止める。次のコホートにおける低減用量でのさらなる投与は、以下のとおりとする。
【0290】
【表8】
薬物動態学的解析
ノンコンパートメント薬物動態解析を、個々の血漿化合物(I)濃度−時間データに対して、WinNonlin Professional(Pharsight Corp.,Mountain View,CA バージョン4.1)または他の適当なソフトウェアを用いて行なう。個々の患者のデータを解析することができない場合は、平均血漿化合物(I)濃度−時間データを使用し、薬物動態パラメータを計算する。以下の薬物動態パラメータ:Cmax(最大血清濃度)、tmax(最大濃度に達するまでの時間)、AUC
T(時間点ゼロから最後の測定可能濃度(CT)である時間点Tまでの濃度−時間曲線下面積、AUC
0〜∞(時間点ゼロから無限大までの濃度−時間曲線下面積)、t
1/2(末期半減期)、Ae(尿中に排出された薬物の量)を血漿濃度から計算する。薬物動態データの説明および解釈に適切とみなされるさらなるパラメータを、試験薬物動態学者の裁量で測定する。
【0291】
生物学的効果の評価
血管内皮増殖因子(VEGF)の血漿レベルは、ELISAによって測定する。ホスホ−Src Tyr419および選択した基質のトランスリン酸化のレベルは、末梢血単核細胞において測定する。MTDでの処置の前と後に腫瘍生検を行なう目的は、腫瘍増殖に関与している可能性があるSrcキナーゼのリン酸化の阻害における化合物(I)の生物学的効果を調べることである。対比較生検を、MTDの拡大コホートの10例の患者において行なう。組織を半分に分け、一方の部分は常套的な病理検査によって評価し、他方の半分は、ホスホ−Src Tyr419および選択した基質のトランスリン酸化のレベルについて評価する。
【0292】
疾患進行の評価
測定可能な疾患について、腫瘍の応答を、RECIST基準に従って評価する(Therasse,P.ら、New Guidelines to Evaluate the Response to Treatment in Solid Tumors.J Nat Can Inst.2000,92(3),p.205−216)。測定値は、ベースラインおよびその後、隔サイクル(2サイクル)毎に取得する。全応答患者(完全応答群および一部応答群)では、応答が、ベースライン測定と同じ測定方法を用いて応答の最初の記録の4週間後に確認されたはずであった。測定不可能な疾患を有する患者では、応答は、臨床的に表示されるとおりに評価する(腫瘍マーカー、X線撮影による測定、超音波など)。骨転移が疾患部位のみである場合、WHOの骨における疾患応答評価基準(Criteria for Assessment of Disease Response in Bone)を用いて応答を評価する。他の測定不可能な疾患の進行は、毎月の測定で2回連続して腫瘍マーカーが25%上昇、または有意なX線撮影による疾患の進行と定義する。腫瘍の応答の再評価は、ベースライン腫瘍測定値の確立に使用した同じ方法で行なう。腫瘍の応答の評価は、以下のとおりとする。
【0293】
対象病変
・完全応答(CR):すべての対象病変の消失
・一部応答(PR):ベースラインの最も長い直径(LD)の和を参照としたとき、対象病変のLDの和の少なくとも30%の減少
・進行性疾患:処置開始以降に記録された最も小さいLDの和を参照としたとき、対象病変のLDの和の少なくとも20%の増加、または1つ以上の新たな病変の出現
・安定な疾患:処置開始以降で最も小さいLDの和を参照としたとき、一部応答とみなすのに充分な減少もなく、進行性疾患とみなすのに充分な増加もない
非対象病変
・完全応答:すべての非対象病変の消失
・不完全応答/安定な疾患:1つ以上の非対象病変の持続
・進行性疾患:1つ以上の新たな病変の出現または既に存在している非対象病変の明確な進行または両方
非対象病変のみの明白な進行は例外とする。しかしながら、治験担当医が、非対象病変のみの進行が起こったと考えた場合、この進行を、4週間後に確証的CTスキャンによって検証する。腫瘍の応答≧PRは、ベースライン評価と同じ測定方法を用いて、4週間後に確認される。
【0294】
対象および非対象病変における腫瘍の応答の考えられ得るすべての組合せについて、全般的な臨床応答を下記の表に従って調べる。
【0295】
【表9】
実施例7:細胞増殖阻害
対照試料と比べて正味の細胞増殖を50%ブロックするのに必要とされる薬物濃度をGI
50として測定する。化合物(I)のGI
50を本明細書に記載のようにしてアッセイした。
【0296】
HT29細胞株は、NCI標準ヒト結腸癌腫細胞株である。HT−29細胞を、ATCCから125回継代時のものを入手し、126〜151回継代時のものを阻害試験に使用した。HT29細胞を、ウシ胎仔血清(1.5%v/v)およびL−グルタミン(2mM)を補給したMcCoy 5A培地中で常套的に培養した。
【0297】
c−Src 3T3は、ヒトc−Srcの点変異型(チロシン527がフェニルアラニンに変換されている)でトランスフェクトされたマウス線維芽細胞NIH 3T3正常細胞株である。この変異により、チロシン527におけるリン酸化によって、自身のSH2ドメインにおいてフォールディングによって元に戻ることによりSrcの自己阻害がもたらされるため、「構成的に活性な」c−Srcがもたらされる。ここにPheが存在すると、このリン酸化は起こり得ず、したがって自己阻害は起こり得ない。したがって、常に充分に活性な変異型Srcは、次いで、正常なマウス線維芽細胞を急速増殖性の腫瘍細胞に変換させる。過剰反応性のSrcは、このような細胞の増殖を駆動するの主要な因子であるため(特に、低血清増殖条件下で培養した場合)、この増殖のブロックに活性な化合物は、Srcシグナル伝達をブロックするすることにより奏功すると考えられる(例えば、直接的なSrcキナーゼインヒビターとして、またはSrcシグナル伝達カスケード内のどこか他の個所で作用するインヒビターとして)。細胞は、ウシ胎仔血清(2.0%v/V)、L−グルタミン(2mM)およびピルビン酸ナトリウム(1mM)を補給したDMEM中で常套的に培養した。
【0298】
細胞増殖阻害のBrdUアッセイにおいて、細胞増殖の定量は、DNA合成中のBrdU取込みの測定に基づいて行なった。Cell Proliferation ELISA BrdUアッセイキット(比色分析用)をRoche Applied Scienceから入手し、供給元の使用説明書のとおりに実施した。
【0299】
増殖阻害をGI
50で示した。ここで、GI
50は細胞増殖の50%が阻害される試料の用量である。増殖阻害(GI)は、式GI=(T
0−T
n×100/T
0−CON
n)から求められ、式中、T
0は、時間点「0」における未処理細胞でのBrdU増加であり、T
nは、第「n」日目における処理細胞でのBrdU増加であり、CON
nは、第「n」日目における対照細胞の対象BrdU増加である。GI
50を外挿し、XL−Fit 4.0ソフトウェアを用いてデータをプロットした。
【0300】
活発に増殖中の培養物をトリプシン処理し、細胞を、96ウェル培養プレートの各ウェル内で、1.05%FBSを補給した190μLの適切な培養培地中に再懸濁させた(1000個のHT−29細胞;2500個のc−Src 3T3細胞)。96ウェル培養プレート実験では、c−Src 3T3培地に10mMのHEPESバッファーを補給した。HT−29細胞を標準的な組織培養96ウェルプレートに播種し、c−Src 3T3細胞は、ポリ−D−リシンでコートした96ウェルプレート(BIOCOAT
TM)に播種した。CO
2拡散を増大させるため、c−Src 3T3の96ウェルプレートは、滅菌ラバーキャップの使用により蓋を約2mm上げてインキュベートした。
【0301】
播種した96ウェルプレートを、一晩18〜24時間、HT−29では37℃および5%CO
2、またはc−Src 3T3では37℃でおよび10%CO
2のいずれかで付着を行なわせた。播種のほぼ18〜24時間後、初期細胞増殖(T
0)を、未処理細胞でBrdUアッセイを用いて調べた。試料をDMSO中20mMで再構成し、10%FBS含有DMEMを用いて中間希釈物を作製した。最終アッセイ濃度は、FBSでは1.5%、DMSOでは0.05%とした。試料を10μLアリコートとして3連で添加し、プレートを上記のようにして約72時間インキュベートした。陰性(ビヒクル)および陽性対照(例えば、AZ28(KX2−328))を含めた。プレートをBrdUについてアッセイし、データを、GI
50について上記のようにして解析した。
【0302】
結果を下記の表に示す。この表では、データを対照と比べた増殖%で示しているため、表示濃度の数値が小さいほど、該腫瘍細胞株の増殖のブロックにおける該化合物の効力が大きいことを示す。化合物はすべて、まず20mMのDMSOストック溶液として調製し、次いで、バッファー中でインビトロ腫瘍増殖アッセイ用に希釈した。NGは、対照を超える細胞増殖がないことを意味し、Tは、薬物処理ウェル内の細胞の数が対照のものより少なかったこと(すなわち、正味細胞減少)を意味する。NTは、試験を行なわなかったことを示す。化合物AZ28(KX2−328)は、Pleら、J.Med.Chem,47:871−887(2004)に記載のATP競合的チロシンキナーゼインヒビターである。
【0303】
下記の表に示すように、GI
50は、他の細胞株における化合物(I)について得た。これらのGI50は、上記のHT29細胞株で詳細に記載したものと同様の標準的な腫瘍増殖阻害アッセイ、ならびに以下の細胞株:結腸腫瘍細胞株KM12、肺癌細胞株H460および肺癌細胞株A549(すべてNCI標準腫瘍細胞株)を用いて測定した。
【0304】
【表10】
下記の表は、Src駆動型腫瘍細胞増殖の化合物(I)による阻害を、現在臨床試験中のATP競合的Srcインヒビターとの比較において示す。
【0305】
【表11】
下記の表は、脳腫瘍細胞株での化合物(I)による阻害を示す。これらのGI
50は、この実施例7で詳細に記載したものと同様の標準的な腫瘍増殖阻害アッセイを用いて測定した。
【0306】
【表12】
下記の表は、
腎臓腫瘍細胞株における化合物(I)による阻害を示す。
これらのGI
50は、本実施例のセクションで詳細に記載したものと同様の標準的な腫瘍増殖阻害アッセイを用いて測定した。
【0307】
【表13】
下記の表は、5種類の肝細胞癌細胞株における化合物(I)による阻害の結果のまとめを示す。下記の表に、肝細胞癌細胞株(8.0×103細胞/ウェル,1.5%FBS)(78時間目)の化合物(I)のメシル酸塩とダサチニブのIC
50およびIC
80を示す;標準化した応答データの結果:
【0308】
【表14】
試験化合物の試料を100%DMSO中にて製剤化し、20mMストック溶液を得た;4℃で保存。IC
50およびIC
80を、下記のようにして測定した。Huh7、WRL−68、PLC/PRF/5、Hep 3B、およびHep G2ヒトの癌細胞株を常套的に培養し、2%FBSを含有する基礎培地中に37℃、5%CO
2で維持した。細胞を、96ウェルプレートのウェル1つあたり4.0×10
3/190μlおよび8.0×10
3/190μlで播種した。アッセイ培地は基礎培地/1.5%FBSとした。細胞を一晩96ウェルプレート内で、37℃、5%CO
2で培養した後、化合物(I)のメシル酸塩(化合物(I)・MSA)およびダサチニブを添加した。試験物の希釈液を以下のようにして調製した:20mMストック溶液試料を基礎培地/1.5%FBS中で、1:3 希釈度を用いて連続希釈し、20×濃度;131μM〜0.24nMの範囲を得た。10μLの20×希釈液を190μLの癌細胞株を入れた適切なウェル(n=3)に添加した;6561nM〜0.012nMの範囲の終濃度。ビヒクル対照は、細胞を含み、試料なしのものとした。培地対照は、細胞を含み、試料なしで、0.03%のDMSO(試料中に存在させる最高DMSO濃度)を含むものとした。処理細胞を37℃、5%CO
2で72時間インキュベートした。第3日目、10μLのMTT(5mg/mL)を各ウェルに添加した。細胞をMTTの存在下、37℃、5%CO
2で4時間インキュベートした。90μLの10%SDS(+HC1)を各ウェルに添加して細胞を溶解し、ホルマザンを可溶化させた。次いで、細胞を37°、5%CO
2で一晩インキュベートした。BioTek Synergy HTマルチプラットフォーム・マイクロプレート・リーダーを使用し、OD
57Oの測定を行なった。増殖阻害曲線のIC
50およびIC
80は、GraphPad Prism 5統計ソフトウェアを用いて測定した。
【0309】
実施例8:単離型キナーゼの阻害
細胞外部と細胞内部とでは、Srcのコンホメーションは、細胞内部ではSrcが多タンパク質シグナル伝達複合体内に包埋されているため、著しく異なると考えられる。したがって、単離型Srcではペプチド基質結合部位が充分形成されていないため(Srcのx線構造によって示される)、ペプチド基質結合インヒビターの単離型Srcに対する活性は弱いであろうと考えられる。この部位に対する結合には、孤立型酵素アッセイにおいて、該インヒビターが、細胞内部に存在するものと同じコンホメーションである非常に少数割合の全Srcタンパク質を捕捉することが必要とされる。これには、アッセイにおいて触媒サイクルから相当な量の酵素を排出するための大過剰の該インヒビターが必要とされる。
【0310】
しかしながら、細胞内部では、SH2およびSH3ドメイン結合タンパク質が、既に、Srcコンホメーションにシフトしており、そのため、ペプチド基質結合部位が充分に形成されるため、このような大過剰のインヒビターは必要とされない。そこで、すべての酵素が強力結合性コンホメーションであるため、低濃度でのインヒビターによって酵素が触媒サイクルから除去され得る。
【0311】
KX2−328は、AstraZeneca社によって公表されたATP競合性Srcインヒビター(AZ28)であり、これは、本明細書に記載の多くの実験で陽性対照として使用している。KX2−328は構造:
【0312】
【化15】
を有する化合物である。化合物(I)は、細胞外部ではペプチド結合部位が充分に形成されていないが、細胞全体の内部では非常に強力な活性を有するため、孤立型キナーゼに対しては弱い活性を有することに注意のこと。理論に拘束されることを望まないが、この活性の違いは、多タンパク質シグナル伝達複合体では孤立型キナーゼアッセイと比べて、結合タンパク質パートナーのアロステリック効果のため、細胞でペプチド結合部位が充分に形成されることによるものと考えられる。
【0313】
下記の表に、対照(未処理)孤立型キナーゼに対するAstraZeneca ATP競合性インヒビター(KX2−328、AZ28)または化合物(I)の存在下での孤立型キナーゼの活性割合を示す。
【0314】
【表15】
AstraZeneca ATP競合的インヒビターは、Abl、EGFRTK、Fyn、Lck、LynおよびYesの強力な阻害によって示されるように、ATP競合性インヒビターに対して典型的なオフターゲットキナーゼ阻害活性、不充分な選択性を示す。対照的に、化合物(I)では、このようなオフターゲットキナーゼの不充分な阻害が見られる。
【0315】
しかしながら、化合物(I)は、上記の実施例に記載のようにしてアッセイすると、Src駆動型細胞増殖に対してより強力なインヒビターである。c−Src/NIH−3T3操作細胞株では、AZ28のGI
50が99nMであるのに対して化合物(I)では13nmであり、NCIヒト結腸癌細胞株HT29では、AZ28のGI
50が794nMであるのに対して化合物(I)では23nmである。
【0316】
別の実施例では、滴定データにより、AZ28が単離型Srcの強力なインヒビターであることが示されている(IC
50=8nM)。FAKでの滴定データは、AZ28が、単離型FAKに対して効力が少なくとも約100倍低いことを示す(IC50>500nM)。一方、滴定データは、化合物(I)が単離型Srcに対して効力が低いインヒビターであることを示す(IC50=46μM)。FAKでの滴定データでは、化合物(I)が単離型FAKに対して同様に強力であることが示される(IC
50>48μM)。
【0317】
AZ28は、単離型Srcよりも細胞増殖に対して10〜100倍効力が低いことに注意。これは、競合ATPの濃度が、孤立型酵素アッセイよりも細胞全体においての方がずっと高いため、ATP競合的インヒビターに典型的である。化合物IはcSrcに対してIC
50=46mMを示した。
【0318】
実施例9:細胞内リン酸化レベルに対する効果
HT29(結腸癌)およびc−Src527F/NIH−3T3(Src形質転換)細胞株を、化合物(I)またはAstraZenecaのATP競合的SrcインヒビターAZ28で処理した。AZ28は、有効なSrcインヒビターが、このようなアッセイにおいてどのような挙動を示すはずであるかを示す陽性比較物質として供される。化合物で処理後、細胞を溶解させ、PAGEに供し、一連の抗体を用いてプローブ結合させた。抗体は、該化合物によって既知のSrc基質のリン酸化の変化が引き起こされるかどうかが判定されるように選択した。また、オフターゲットタンパク質のリン酸化も調べた。さらに、アポトーシスの誘導をカスパーゼ3切断によって評価した。薬物濃度の漸増に応答した傾向が最も信頼性のある活性のインジケータであるため、各化合物を複数用量で試験した。
【0319】
1×濃度での該2種類の各細胞株におけるこの化合物のGI50を使用し、化合物(I)の用量応答曲線を作成した。また、薬物なしの対照「C」に加えて、GI50の0.2倍、5倍および25倍の3つのさらなる用量も試験した。Src−Y416自己リン酸化について、
図1の同じ倍数範囲の予測された用量応答が、両方の細胞株においておよび両方の化合物の場合で得られた。このデータは、化合物(I)が細胞内部でSrcインヒビターであることを示す。
【0320】
図2は、細胞内の既知のSrcトランスリン酸化基質であるFAK Tyr 925のリン酸化を示す。化合物(I)およびAZ28はSrcトランスリン酸化を阻害した。このデータは、化合物(I)が細胞内部のSrcインヒビターであることを示す。
【0321】
図3は、細胞内の既知のSrcトランスリン酸化基質であるShc Y239/240のリン酸化を示す。化合物(I)およびAZ28はSrc トランスリン酸化を阻害した。このデータは、化合物(I)が細胞内部のSrcインヒビターであることを示す。
【0322】
図4は、細胞内の既知のSrcトランスリン酸化基質であるパキシリンY−31のリン酸化を示す。化合物(I)およびAZ28はSrc トランスリン酸化を阻害した。このデータは、化合物(I)が細胞内部のSrcインヒビターであることを示す。注:パキシリンY−31は、薬物の添加ありでもなしでも、HT29細胞において検出されなかった。
【0323】
カスパーゼ−3の切断は、アポトーシスの誘導の良好な尺度である。AZ28は、HT29(結腸癌)およびc−Src527F/NIH−3T3(Src形質転換)細胞株におけるアポトーシスの誘導に有効でないことがわかっている。対照的に、
図5に示されるように、化合物(I)はアポトーシスの誘導に非常に有効である。
【0324】
Src活性は、HT29(結腸癌)細胞株およびc−Src527F/NIH−3T3(Src形質転換)細胞株の両方において非常に高いため、Src活性が阻害されると、総ホスホチロシンレベルの低下がみられることが予測され得る。
図6は、このことが、AZ28と化合物(I)の両方に当てはまることを示す。このデータは、化合物(I)が細胞内部のSrcインヒビターであることを示す。
【0325】
PDGF受容体型チロシンキナーゼは、Y572/574に対して自己リン酸化する。これは、細胞内で直接的なSrc基質ではないと考えられる。AZ28は、単離型PDGF受容体型チロシンキナーゼの強力なインヒビターではないことがわかっている(実施例8の表参照)。それでもなお、
図7に示されるように、AZ28では、PDGF受容体自己リン酸化の用量応答の低減がみられる。これは、その間接的な効果を示唆する。化合物(I)では、ある程度の効果はみられるが、いくぶん効力は低い。したがって、化合物(I)はAZ28よりも、間接的PDGF自己リン酸化阻害に対する活性が低い。PDGF受容体型チロシンキナーゼY572/574は、薬物添加しなかった場合(薬物添加した場合も)HT29細胞において検出されなかった。
【0326】
FAK Y397は、主にFAKの自己リン酸化部位であり、不充分なわずかなSrcのトランスリン酸化部位である。AZ28は、強力なFAKインヒビターではない(実施例8の単独酵素のデータ参照)。それでもなお、AZ28によりc−Src527F/NIH3T3細胞においてFAK自己リン酸化のある程度の阻害が
図8に示されている。しかしながら、化合物(I)では、c−Src527F/NIH3T3細胞においてFAK自己リン酸化の阻害はみられない。NCIヒト結腸癌細胞株HT29では反対のことがいえる。
【0327】
実施例8で示された単独酵素のデータにより、AZ28が強力なEGFRチロシンキナーゼインヒビターであることが示された。このことと整合して、
図9の腫瘍細胞データは、AZ28が、EGFRチロシンキナーゼ自己リン酸化を強力に阻害することを示す。この部位は、直接的なSrcリン酸化部位ではない。また、
図9の腫瘍細胞データは、化合物(I)のEGFRTKのオフターゲット自己リン酸化に対する活性が低いことを示す。
【0328】
自己リン酸化の阻害は、化合物(I)のGI
50と相関している。
図10Aおよび10Bは、c−Src527F/NIH−3T3細胞およびHT−29細胞における、AZ28と比較したときの化合物(I)によるSrc自己リン酸化(Y416)の阻害を示す。また、トランスリン酸化の阻害も化合物(I)のGI
50と相関している。
図10Cおよび10Dは、c−Src527F/NIH−3T3細胞およびHT−29細胞における、AZ28と比較したときの化合物(I)によるShc Y239/240のSrcトランスリン酸化の阻害を示す。
【0329】
化合物(I)は、全細胞アッセイにおいて非常に高いプロテインチロシンキナーゼ選択性を示す。例えば、
図11は、ダサチニブとの比較において、プロテインチロシンキナーゼに対する化合物(I)の選択性を示す。
【0330】
実施例10:
騒音性難聴の防御
チンチラ(N=6)を騒音性難聴の試験に使用する。動物の聴力感度は、実験操作の前に、標準的な電気物理学的手法を用いて測定する。特に、聴力閾値は、標準的な実験手順に従い、下丘内に慢性的に埋め込んだ導出電極からの誘発電位によって測定される。動物に麻酔し、鼓胞を切開し、左と右の蝸牛を露出させる。蝸牛の鼓室階に至る正円窓を、薬物適用のためのアクセスポイントとして使用した。動物を化合物(I)またはKX2−328(AstraZeneca製の非ATP競合的インヒビター、KX2−238)で処理し、DMSO含有1000mM生理食塩水溶液中で乳化させ、これを一方の耳の正円窓に入れる。
【0331】
対照溶液である3mMのDMSO含有1000mM生理食塩水溶液を他方の耳を正円窓に入れる。この溶液を正円窓に30分間置き、次いで、鼓胞を閉鎖する。続いて、動物を4kHz帯域の105dB SPLの騒音に4時間曝露する。騒音への曝露後、動物の聴力を第1日、第7日、および第21日に試験し、誘発電位の閾値シフトを調べる。永続的な閾値シフトは第21日であると評価される。
【0332】
実施例11:シスプラチン誘導性難聴の防御
高レベルの騒音の影響と、シスプラチンまたはアミノグリコシド類などの耳毒性薬物の影響は、内耳において、いくつかの共通の特徴を共有している。第1に、騒音および/または該薬物は、蝸牛(内耳)内のフリーラジカル/抗酸化物質レベルを変化させる。フリーラジカルの増加は、感覚細胞のアポトーシス死の原因因子であることが示されている。モルモット(例えば、N=7)を、シスプラチン誘導性難聴の試験に使用する。動物の聴力感度は、実験操作の前に、標準的な電気物理学的手法を用いて測定する。特に、聴力閾値は、標準的な実験手順に従い、下丘内に慢性的に埋め込んだ導出電極からの誘発電位によって測定される。動物に麻酔し、シスプラチンで処理する。続いて、動物の聴力を試験し、誘発電位の閾値シフトを調べる。
【0333】
実施例12: 破骨細胞の形成に対する効果
破骨細胞の形成に対する化合物(I)の効果を調べるため、化合物を、脾臓細胞由来の破骨細胞前駆細胞に添加する。脾臓由来破骨細胞の生成のため、破骨細胞前駆細胞を含む脾臓細胞を、ラパマイシン、化合物(I)またはKX2−328(AstraZeneca製化合物)で5日間、核性因子−κBリガンド(RANKL)の受容体活性化因子とマクロファージコロニー刺激因子(M−CSF)の存在下で処理する。インビトロのマウスまたはヒト破骨細胞モデルにおいて、可溶性RANKLにより、M−CSFの存在下での破骨細胞前駆細胞の分化が可能になる(Quinnら;1998,Endocrinology,139,4424−4427;Jimiら;1999,J.Immunol,163,434−442)。未処理の対照細胞は、RANKLおよびM−CSF単独の存在下でインキュベートした。ラパマイシンは、破骨細胞の形成の阻害の陽性対照として使用する。
【0334】
実施例13:破骨細胞の生存に対する効果
破骨細胞の生存に対する化合物(I)の効果を調べるため、破骨細胞を、ラパマイシン、化合物(I)またはKX2−328で48時間、RANKLとM−CSFの存在下で処理する。未処理の対照細胞は、RANKLおよびM−CSF単独の存在下でインキュベートする。ラパマイシンは、破骨細胞の生存の阻害の陽性対照として使用する。
【0335】
実施例14:インビトロでの骨吸収に対する効果
骨薄片上での破骨細胞の形成に対する化合物(I)の効果を調べるため、骨薄片を、漸増濃度、例えば、0.1nM、1nMまたは10nMのラパマイシン、化合物(I)またはKX2−328で処理する。骨薄片上の破骨細胞の数を計数する。
【0336】
骨吸収の際、吸収小窩で破骨細胞が形成される。骨薄片上での吸収小窩形成に対する化合物(I)の効果を調べるため、骨薄片を、上記のようにしてラパマイシン、化合物(I)またはKX2−328で処理する。骨薄片上の吸収小窩の数を測定する。
【0337】
骨薄片を上記のようにして処理し、次いでTRAPで染色する。TRAP陽性破骨細胞の数を測定する。
【0338】
骨薄片を上記のようにして処理し、次いでトルイジンブルーで染色し、破骨細胞媒介性骨吸収のインジケータである吸収小窩を顕現させる。
【0339】
実施例15:骨芽細胞に対する効果
酵素アルカリホスファターゼは、リン酸塩を骨の石灰化に利用可能にすることに関与しているため、これを骨芽細胞活性のインジケータとして使用した。骨芽細胞活性に対する化合物(I)の効果を調べるため、骨芽細胞を、漸増濃度の化合物(I)またはKX2−328で処理し、アルカリホスファターゼの発現を測定する(nMアルカリホスファターゼ/μgタンパク質/分)。対照として、骨芽細胞を、培地単独、ジメチルスルホキシド(DMSO)または骨形成タンパク質−2(BMP2)で処理する。BMPは、骨外部位内に移植すると骨形成を誘導する能力によって骨誘導性であると規定されており、未分化間葉細胞が骨生成性骨芽細胞に変換されるのを媒介していると考えられている。
【0340】
骨芽細胞活性およびタンパク質発現に対する化合物(I)の効果を調べるため、骨芽細胞を、培地、DMSO、BMP2、化合物(I)またはKX2−328で、上記のようにして処理する。細胞溶解物中のタンパク質濃度を測定する。
【0341】
実施例16:肥満に対する効果
以下の実験は、化合物(I)が肥満の処置に使用され得ることを示す。化合物(I)を、既報の方法を用いて試験する(Minet−Ringuetら;2006,Psychopharmacology,出版前に電子公開,引用により本明細書に組み込まれる)。30匹の雄Sprague−Dawleyラット(初期重量175〜200g)を、24±1℃および55±5%湿度に維持され、人工的12:12時間明暗サイクル(08:00時間に点灯)の室内で、個々のPlexiglasケージに収容する。飼料と水は、終始、随意に摂取可能にする。ラットにはすべて、140g/kgの全乳タンパク質、538.1g/kgのコーンスターチ、87.6g/kgのスクロース、および137g/kgのダイズ油で構成された中脂肪飼料(代謝エネルギー17.50kJ/g)を与え、この飼料には、ミネラル分とビタミン類(ミネラル塩類35g/kg、ビタミン類10g/kg、セルロース50g/kg、およびコリン2.3g/kg)を補給する。この飼料は、P14−Lと称し、通常のヒトの食事(14%タンパク質、31%脂質、および54%炭水化物)と類似しており、実験室で粉末形態で調製したものである。
【0342】
対照溶液に加え、いくつかの用量:0.01、0.1、0.5、および2mg/kgの化合物(I)を試験する。化合物を水中に可溶化させ、次いで飼料中に組み込む。馴化期間中に基礎飼料摂取量を記録し、飼料中に組み込む本発明の化合物1日量を決定するのに使用する。化合物は飼料中に実験室で混合する。1週間の実験条件への馴化後、ラットを、体重が均質な5つの群(n=6/群)に分け、本発明の化合物を飼料にて6週間与える。体重を週に3回記録する。体組成を試験の最後に、解剖ならびに主要な器官および組織の重量計測によって測定する。簡単には、ラットを、過剰用量の麻酔薬(ペントバルビタールナトリウム48mg/kg)の腹腔内注射によって深く麻酔し、ヘパリン投与する(100Uのヘパリン/100g体重)。大静脈および腹大動脈を切開することにより採血を行ない(組織中での凝固が回避されるように)、その後、主要な新鮮器官(肝臓、脾臓、腎臓、および膵臓)ならびに組織(腎臓周囲および肩甲部の褐色脂肪組織、精巣上体、腹膜後、内臓、および皮下の白色脂肪組織(WAT)、および筋肉と骨格によって規定される屠体)を取り出して重量計測を行なう。
【0343】
実施例17:3T3−L1脂肪細胞におけるインスリン誘導性GLUT4トランスロケーションに対する効果
以下の実施例は、化合物(I)が糖尿病の処置に使用され得ることを示す。化合物(I)を、既報の方法を用いて試験する(Nakashimaら;2000,J.Biol.Chem.,275,12889−12895)。対照IgGまたは本発明の化合物のいずれかを、カバーガラス上で分化3T3−L1脂肪細胞の核内に注入する。グルタチオンS‐トランスフェラーゼ融合タンパク質を各々、検出目的のために5mg/mlのヒツジIgGとコンジュゲートさせる。染色の前に、細胞を1時間回復させる。細胞を、無血清培地中で2時間飢餓状態にし、インスリン(0.5nMまたは17nM)あり、またはなしで20分間刺激し、固定する。
【0344】
免疫染色を、ウサギポリクローナル抗GLUT4(F349)(1μg/ml)を用いて行なう。マイクロインジェクションした各フルオレセインイソチオシアネート陽性細胞を、原形質膜結合GLUT4の染色の存在について評価する。対照細胞には、予備免疫ヒツジIgGを注入し、次いで、実験注入細胞と同様にして処理する。免疫蛍光GLUT4染色によって定量されるように、インスリンにより、原形質膜へのGLUT4のトランスロケーションの増大がもたらされる。細胞を、対照としてのワートマニンとともにインキュベートし、基礎およびインスリン誘導性GLUT4トランスロケーションをブロックする。本発明の化合物は、インスリン誘導性GLUT4トランスロケーションを刺激し得るものであり、このことは、本発明の化合物の投与によってキナーゼ活性(例えば、PTEN機能)が阻害されて、細胞内ホスファチジルイノシトール3,4,5−三リン酸レベルの増大がもたらされ、これにより、GLUT4トランスロケーションが刺激されることを示し得る。
【0345】
実施例18: 腎新生血管形成に対する効果
以下の実験は、化合物(I)が、眼疾患、例えば、黄斑変性、網膜症および黄斑浮腫の処置に使用され得ることを示す。腎新生血管形成に対する化合物(I)の効果は、腎新生血管形成モデルを用いて既報のようにして測定される(Aielloら;1995,Proc.Natl.Acad.Sci.,92,10457−10461)。簡単には、C57B1/6Jマウスを生後第7日(P7)からP12まで、母獣とともに75%O
2に曝露する。P12に、マウスを室内大気に戻す。P12および場合によってはP14に、以下に記載するようにして眼内注射を行なう。P17に、マウスを、4%パラホルムアルデヒド含有リン酸緩衝生理食塩水の心臓灌流によって致死させ、眼球を摘出し、4%パラホルムアルデヒド中で一晩4℃で固定した後、パラフィン包埋する。
【0346】
マウスは、すべての手順で、トリブロモエタノールにより深く麻酔する。瞼裂を切開し(例えば、11番のメスの刃を使用)、目を突出させた。硝子体内注射は、まず、左目の後縁にEthicon TG140−8縫合針を進入させることにより行なう。32ゲージのHamilton針とシリンジを使用し、Alcon平衡塩溶液中で希釈した本発明の化合物を、既にある進入部位から送達する。次いで、この目を元の位置に戻し、瞼を角膜上に近づける。2日間後、先の非操作縁部分から反復注射を行なう。対照として、等量の生理食塩水を右目に注入する。
【0347】
視神経先端から始めて50枚を超える連続6μmパラフィン包埋軸位切片を得る。過ヨウ素酸/シッフ試薬およびヘマトキシリンで染色後(Pierceら;1995,Proc.Natl.Acad.Sci.USA.,92,905−909;Smithら;1994,Invest.Ophthal.Vis.Sci.35,101−111)、各々30μm離れた等しい長さの10枚のインタクトな切片を、300μmにわたって評価する。網膜剥離または眼内炎を示す目は、評価から除外する。内部境界膜前のすべての網膜血管細胞核を、各切片において、完全にマスクされたプロトコルによって計数する。計数された10枚すべての切片の平均により、平均血管新生細胞核/6μm切片/目を得る。内部境界膜前の血管細胞核は、正常な非操作動物では観察されない(Smithら;1994,Invest.Ophthal.Vis.Sci.,35,101−111)。生理食塩水対照群の目と比較した場合、該化合物で処理した目では、新生血管形成の低減が観察され得る。
【0348】
実施例19:脳卒中と関連しているキナーゼシグナル伝達カスケードのモジュレーション
脳卒中の多くの動物モデルが開発され、特性評価されている。例えば,Andaluzら、Neurosurg.Clin.North Am.,第13巻:385−393(2002);Ashwal,S.およびW.J.Pearce.,Curr.Opin.Pediatr.,vol 13:506−516(2001);De Lecinanaら、Cerebrovasc.Dis.,第11巻(Suppl.1):20−30(2001);GinsbergおよびBusto,Stroke,第20巻:1627−1642(1989);Linら、J.Neurosci.Methods,第123巻:89−97(2003);Macrae,I.M.,Br.J.Clin.Pharmacol.,第34巻:302−308(1992);McAuley,M.A.,Cerebrovasc.Brain Metab.Rev.,第7巻:153−180(1995);Megyesiら、Neurosurgery,第46巻:448−460(2000);Stefanovich,V.(編).,Stroke:animal models.Pergamon Press,Oxford(1983);ならびにTraystman,R.J.,ILAR J.44:85−95(2003)(各々は、引用によりその全体が本明細書に組み込まれる)を参照のこと。限局性(脳卒中)および総体性(心停止)脳虚血の動物モデル概説については、例えば、Traystman,ILAR J.,第44巻(2):85−95(2003)およびCarmichael,NeuroRx(登録商標):The Journal of the American Society for Experimental NeuroTherapeutics,第2巻:396−409(2005)(各々は、引用によりその全体が本明細書に組み込まれる)を参照のこと。
【0349】
脳卒中における細胞死をモジュレートする化合物は、当該技術分野で認知された任意の脳卒中モデルを用いて同定される。本明細書に記載の試験では、MCAoとして知られる処置である内頸動脈経由の中大脳動脈(MCA)動脈内縫合糸閉塞を、脳卒中における細胞死のモデルとして使用する。対照および試験群のラットにおいて、外頸動脈を離断し、総頸動脈を結紮し、次いで、外頸動脈を内頸動脈経由で縫合糸を通すための経路として使用する。ここで、縫合糸は、前大脳動脈と中大脳動脈の接合部で留める。クモ膜下出血および早期再灌流の低減のため、縫合糸は、好ましくはシリコーンなどの薬剤でコーティングする。縫合糸は、MCAを例えば60、90または120分の間閉塞するため、およびMCAを永続的に閉塞するために使用する。
【0350】
試験群では、ラットに化合物(I)を、縫合糸でのMCAの閉塞前、閉塞時および閉塞後のさまざまな時点で投与する。試験群に対する化合物の効果を対照群で観察された効果と、例えば、各MCAo群における細胞死の程度を測定することにより比較する。典型的には、対照群では、細胞死のパターンは、線条内の初期梗塞から線条を覆う背外側皮質内の遅延型梗塞への進行に従う。線条体は、ほとんどが壊死性となり、急速に発生する。試験群の細胞死のパターンを対照群のものと比較し、脳卒中における細胞死をモジュレートする化合物を同定する。
【0351】
実施例20:アテローム性動脈硬化と関連しているキナーゼシグナル伝達カスケードのモジュレーション
アテローム性動脈硬化の多くの動物モデルが開発され、特性評価されている。アテローム性動脈硬化、再狭窄および血管内移植片の研究の動物モデルの概説については、例えば、Narayanaswamyら、JVIR、第11巻(1):5−17(2000)(これは、引用によりその全体が本明細書に組み込まれる)を参照のこと。アテローム性動脈硬化は、適当な動物モデルにおいて、高脂肪/高コレステロール(HFHC)飼料を用いて誘導される。試験動物は、コレステロールエステルトランスフェラーゼを含む動物(ウサギまたはブタ)である。HFHC飼料は、例えば、脂肪分を補給した市販の餌を用いて作製される。コレステロール摂取量は、飼料の0.5〜2.0%とする。試験群の動物(例えば、ウサギまたはブタ)には化合物(I)を与える。試験化合物の効果を、未処置対照群の動物におけるアテローム性動脈硬化の効果と比較する。比較対象の効果としては、例えば、斑形成の程度、各動物群で観察された心筋梗塞の回数および/または頻度、ならびに冠動脈組織内に示された心筋梗塞に続発性の組織損傷の程度が挙げられる。
【0352】
心筋梗塞は、ラットおよびマウスなどのさまざまな動物モデルを用いて研究されている。心筋梗塞のほとんどは、冠動脈内に既に存在しているアテローム硬化性斑の急性トランスボティック(transbotic)閉塞に起因しており、これは、例えばラットおよびマウスの左冠動脈結紮によって、動物モデルにおいて模倣される。心筋梗塞は、心室リモデリングと称される過程である心室構造の総体的変化を誘発する。梗塞が生じた心臓は進行的に拡張し、心室機能不全という損傷を加速させ、これにより最終的に心不全になる。
【0353】
心筋虚血は、試験群および対照群の動物(例えば、マウスまたはラット)において、左前下行冠動脈を結紮することにより誘導される。罹患心臓組織を化合物(I)またはその薬学的に許容され得る塩と、例えば、腹腔内(i.p.)注射によって虚血の誘導後に接触させる。高解像度磁気共鳴画像法(MRI)、乾燥重量測定、梗塞の大きさ、心臓容積、およびリスク領域を、施術24時間後に測定する。化合物(I)またはその薬学的に許容され得る塩の注射を受けたラットにおいて、生存率の測定と心エコー検査を術後の種々の時点で行なう。試験化合物の他の効果を対照群のラットと比較する。例えば、左心室の形態と機能の変化を、心エコー検査を用いて特性評価し、拡張末期の直径、相対壁厚、および短縮画分の割合を比較する。切除した心臓で梗塞の大きさを計算し、左心室の表面積に対する割合で示す。
【0354】
実施例21:神経因性疼痛と関連しているキナーゼシグナル伝達カスケードのモジュレーション
慢性神経因性疼痛などの神経因性疼痛の多くの動物モデルが開発され、特性評価されている。例えば、Bennett & Xie,Pain,第33巻、87−107(1988);Seltzerら、Pain,第43巻、205−18(1990);Kim & Chung,Pain,第50巻、355−63(1992);Malmberg & Basbaum,Pain,第76巻、215−22(1998);Sungら、Neurosci Lett.,第246巻、117−9(1998);Leeら、Neuroreport,第11巻、657−61(2000);Decosterd & Woolf,Pain,第87巻、149−58(2000);Vadakkanら、J Pain,第6巻、747−56(2005)(各々は、引用によりその全体が本明細書に組み込まれる)を参照のこと。神経因性疼痛に使用される動物モデルの概説については、例えば、Eaton,J.Rehabilitation Research and Development,第40巻(4増刊)41−54(2003)(これらの内容は、引用によりその全体が本明細書に組み込まれる)を参照のこと。
【0355】
神経因性疼痛をモジュレートする化合物は、当該技術分野で認知された任意の神経因性疼痛モデルを用いて同定される。例えば、神経因性疼痛のモデルは、一般的には、坐骨神経に対する損傷を伴うものであるが、損傷の誘導に使用される方法は種々である。例えば、坐骨神経は、該神経の部分狭窄、完全な離断、凍結、および該神経に対する代謝性、化学的または免疫性の傷害により損傷される。このような型の神経損傷を有する動物は、神経因性疼痛患者で報告されているものと同様の異常痛覚が生じることが示されている。本明細書に記載の試験では、試験群および対照群の被検体(マウスなど)の坐骨神経を損傷させる。試験群では、被検体に化合物(I)を、坐骨神経に対する損傷の前、損傷時および損傷後のさまざまな時点で投与する。試験群に対する化合物の効果を対照群で観察された効果と、例えば、被検体の身体の観察および検査によって比較する。例えば、マウスでは、被検体の後足を使用し、非有毒性刺激(触覚刺激など)に対する応答を試験するか、または通常の出来事の過程で有害となり得る刺激(例えば、後足に送達された輻射熱)に対する被検体の応答を試験する。試験被検体における異痛症(通常は痛みのない刺激によって痛みが誘発される状態)または痛覚過敏(痛みに対する過剰な過敏性もしくは感受性)の徴候は、試験化合物によって試験被検体の神経因性疼痛が有効にモジュレートされていないことを示す。
【0356】
実施例22:B型肝炎と関連しているキナーゼシグナル伝達カスケードのモジュレーション
B型肝炎の多くの動物モデルが開発され、特性評価されている。B型肝炎の動物モデルの概説については、例えば、Guhaら、Lab Animal,第33巻(7):37−46(2004)(これは、引用によりその全体が本明細書に組み込まれる)を参照のこと。好適な動物モデルとしては、例えば、チンパンジー、ツパイ(霊長類と系統発生的に近縁の非齧歯類の小動物、Walterら、Hepatology,第24巻(1):1−5(1996)(これは、引用によりその全体が本明細書に組み込まれる)参照)、ウッドチャック、アヒルおよびジリスなどの代用モデル(例えば、TennantおよびGerin,ILAR Journal,第42巻(2):89−102(2001)(これは、引用によりその全体が本明細書に組み込まれる)参照)が挙げられる。
【0357】
例えば、一次肝細胞をツパイ種tupaia belangeriの肝臓から単離し、HBVに感染させる。インビトロ感染により、肝細胞内でのウイルスDNAおよびRNAの合成、ならびに培養培地中へのB型肝炎表面抗原(HBsAg)およびB型肝炎e抗原(HBeAg)の分泌がもたらされる。また、TupaiasをインビボでHBVに感染させると、tupaiaの肝臓内でウイルスDNAの複製および遺伝子発現がもたらされ得る。ヒトにおける急性自己制限B型肝炎と同様、HbsAgは血清から速やかに除去された後、抗HBeおよび抗HBsへのセロコンバージョンが起こる。
【0358】
B型肝炎をモジュレートする化合物は、当該技術分野で認知された任意のB型肝炎モデルを用いて同定される。本明細書に記載の試験では、試験群および対照群の動物(例えば、チンパンジーまたはツパイ)をHBVに感染させる。試験群では、被検体に化合物(I)を、HBVへの曝露の前、曝露時および曝露後のさまざまな時点で投与する。試験群に対する化合物の効果を対照群で観察された効果と、例えば、被検体の身体の観察および検査によって、ならびに血液または血清の分析によって比較し、どの時点で感染が被検体から消失するかを調べる。例えば、B型肝炎ウイルス表面抗原と称されるおよびその断片の存在および/または量を検出するためのアッセイを実施する。あるいはまたさらに、被検体の肝臓を解析する。肝臓機能試験により、特定のタンパク質および酵素、例えば、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST、以前は、血清グルタミン酸‐オキサロ酢酸トランスアミナーゼ(SGOT))およびアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT、以前は、血清グルタミン酸‐ピルビン酸トランスアミナーゼ(SGPT))などのレベルを解析する。
【0359】
実施例23:チロシンキナーゼ阻害に対する効果
以下の実験は、化合物(I)が自己免疫疾患の処置に使用され得ることを示す。化合物(I)を、既報の方法を用いて試験する(Goldbergら;2003,J.Med.Chem.,46,1337−1349)。キナーゼ活性は、DELFIA(解離増強型ランタニド フルオロイムノアッセイ)を用いて測定される。これは、ユーロピウムキレート標識抗ホスホチロシン抗体を用いて、ランダムポリマーであるポリ−Glu4−Tyrl(PGTYR)へのリン酸塩転移を検出するものである。キナーゼアッセイは、ニュートラビジンコート96ウェル白色プレートにおいて、キナーゼアッセイバッファー(50mM HEPES,pH7.0,25mM MgC12,5mM MnC12,50mM KCl,100μM Na3VO4,0.2%BSA,0.01%CHAPS)中で行なう。最初にDMSO中に1mg/mLで溶解させた試験試料(化合物(I))を、用量応答(1μg/mLの終濃度から始めて1〜3.5の連続希釈した10種の用量)のためにアッセイバッファーで予備希釈する。この希釈試料の25μLアリコートおよび希釈酵素(lck)(0.8nM終濃度)の25μLアリコートを、各ウェルに逐次添加する。反応を、50μL/ウェルの基質混合物(2μM ATP(最終ATP濃度は1μMである)および7.2ng/μL PGTYR−ビオチン含有キナーゼバッファー)により開始させる。バックグラウンドウェルをバッファーおよび基質のみとともにインキュベートする。室温で45分間のインキュベーション後、アッセイプレートを300μL/ウェルのDELFIA洗浄バッファーで3回洗浄する。100μL/ウェルのユーロピウム標識抗ホスホチロシン(Eu
3+−PT66,1nM,Wallac CR04−100)のアリコート(DELFIAアッセイバッファー中で希釈したもの)を各ウェルに添加し、室温で30分間インキュベートする。インキュベーションが終了したら、プレートを300μL/ウェルの洗浄バッファーおよび100μL/ウェルのDELFIA洗浄バッファーで4回洗浄する。増強溶液(Wallac)を各ウェルに添加する。15分後、LJLの分析担当者が250μsの遅延時間後の時間分解蛍光を測定する(360nmで励起、620nmで発光、EU 400光二色性ミラー)。本発明の化合物はlckのキナーゼ活性を阻害するものであり得、これは、この化合物が被検体の自己免疫疾患を処置するために使用され得ることを示す。
【0360】
実施例24:ダサチニブ耐性細胞株における化合物(I)およびダサチニブのIC
50;各細胞株において12種類の濃度のインヒビター
現在、文献においてダサチニブ耐性であると報告されている癌細胞株(すなわち、COLO−320DM、H460、H226、and HCT−116)を、細胞増殖阻害に対する化合物(I)の効果を調べるために、化合物(I)Srcインヒビターまたはダサチニブ対照の存在下で培養した。細胞増殖/増殖阻害は、MTT比色分析アッセイを用いて評価した。また、化合物(I)とダサチニブ対照の両方のIC
50を調べた。下記の表は、この増殖阻害試験で使用した細胞株の一覧を示す。
【0361】
【表16】
COLO−320DM、H460、H226、およびHCT−116ヒト癌細胞株を常套的に培養し、2%のFBSを含有する基礎培地中に37℃、5%CO
2で維持した。実験では、細胞を、96ウェルプレート内の基礎培地/1.5%FBS中に4.0×10
3/190μLおよび8.0×10
3/190μL/ウェルで播種する。細胞の培養は、化合物(I)およびダサチニブの添加前に、適切なCO
2条件下、37℃で96ウェルプレート内にて一晩(16時間)で行なう。
【0362】
化合物(I)およびダサチニブ(BMS354825)の希釈のため、20mMストック溶液試料を1:3の希釈度を用いて基礎培地/1.5%FBS中で連続希釈し、131μM〜0.74nMの範囲の20×濃度を得た。次いで、10μLの20×希釈液を、190μL癌細胞株を入れた適切なウェル(n=3)に添加し、終濃度を6561nM〜0.037nMの範囲とする。以下の対照:細胞のビヒクル対照、試料なし;細胞の培地対照、試料なし、および0.03%DMSO(試料中に存在させる最高DMSO濃度;結果は報告せず)を使用した。
【0363】
処理した癌細胞を、適切なCO
2条件下、37℃で3日間(78時間)インキュベートした。第3日目、10μLのMTT(5mg/mL)を各ウェルに添加した。次いで、細胞をMTTの存在下で、適切なCO
2条件下、37℃で4時間インキュベートした。このインキュベーション期間後、90μLの10%SDS(+HC1)を、各ウェルに添加して細胞を溶解させ、ホルマザンを可溶化させた。次いで、細胞を適切なCO
2条件下、37℃で一晩インキュベートした。
【0364】
マイクロプレートリーダーを用いてOD
57Oを測定した。増殖阻害曲線およびEC
50/IC
50を、GraphPad Prism 4統計ソフトウェアを用いて測定した。データを標準化し、最大応答に対する割合を示した。
【0365】
下記の表は、78時間の時点での癌細胞株(8.0×10
3細胞/ウェル、1.5%FBS)における化合物(I)およびダサチニブのIC
50を示す(標準化した応答データの結果)。
【0366】
【表17】
実施例25:ダサチニブおよびイマチニブ耐性白血病細胞に対する化合物(I)の効果
Ba/F3細胞(例えば、Palaciosら、Nature 309:126−131(1984);Palaciosら、Cell 41:727−734(1985)参照)を、96ウェルプレート内の完全培地+IL−3中で培養した。また、Ba/F3細胞の培養物を、野生型(WT)Bcr−Abl、Bcr−AblのE255K変異、またはBcr−AblのT315I変異を発現するようにトランスフェクトし、96ウェルプレート内のIL−3無含有完全培地中で培養した。Ba/F3細胞株は、Bcr/AblチロシンキナーゼE225Kに変異が存在する場合、グリーベック耐性となる。Ba/F3細胞株は、Bcr/AblチロシンキナーゼT315I変異が存在する場合、グリーベックとダサチニブの両方に耐性となる。次いで、各群の細胞を10倍希釈液中で、薬物なし、0.1〜10,000nMのダサチニブ、または0.1〜10,000nMの化合物(I)で96時間処理した。MTTアッセイを行なった(プレートは570nMで読み取る)。アッセイはすべて3連で行なう。
【0367】
この試験の結果(
図12〜13および以下の表にまとめる)は、化合物(I)がGI
50=35でBCR−AblのT315I変異型を阻害するが、ダサチニブは10,000nMでも阻害しないことを示す。さらに、ダサチニブは、Ba/F3細胞のIL−3誘導性増殖を阻害しないが、化合物(I)は強力なインヒビターである(GI
50=3.5nM)。
【0368】
【表18】
実施例26:化合物(I)およびBMS354825を用いた5つの細胞株におけるGI
50s/BrdUアッセイ
化合物(I)およびBMS354825を使用し、5つの細胞株(SKO V−3、K562、HT−29、A549およびMDA−MB−231)のGI50の評価を、BrdUを用いてT=0およびT=72においてアッセイした。
この実験では、細胞株1つあたり2つの96ウェルプレートに、細胞を、以下に表示した細胞数で200μLの1.5%FBS含有増殖培地中に播種した。評価対象の細胞株は:SKOV−2、K562、HT−29、A549、およびMDA231である。HT−29(2000細胞)およびMDA MB 231(5000細胞)以外はすべて1000細胞/ウェルで播種した。37℃+5%CO
2で播種後、プレートを24時間インキュベートした。MDA231は別とし、この細胞株は37℃および0%CO
2で培養する。
【0369】
播種の24時間後、化合物(I)およびBMS354825を、128nM、64nM、32nM、16nM、8nM、4nM、2nM、および1nMで、各細胞株(n=3)のプレートの1つに添加した。化合物(I)およびBMS354825で処理した細胞株プレートの組を、37℃+5%CO
2で72時間インキュベートした。MDA231は別とし、この細胞株は37℃および0%CO
2で培養する。BrduアッセイをT=0およびT=72に行なった。
【0370】
増殖阻害。BrdUデータを使用し、式:
GI=[CT
1−T
0)/(Con−T
0)]×100
(式中、T
0=時間点0での細胞の蛍光;T
1=時間点xでの処理細胞の蛍光;Con=時間点xでの対照細胞の蛍光)を用いて、各試料濃度での%増殖阻害を求めた。T
1値≦T
0値をT、細胞傷害と表示した。GI
50は、T
1値≦T
0値(細胞傷害)を除外し、XLFitを用いて推定した。この試験の結果を
図14〜18および以下の表にまとめる。
【0371】
【表19】
実施例27:
BrdUアッセイを用いた、L3.6pl細胞株における、ジェムザール(登録商標)および化合物(I)の併合GI
50
この試験は、BrdU Assay(Roche:カタログ番号11647229001)を使用し、T=0およびT=72にアッセイしたL3.6pl細胞株におけるジェムザール(登録商標)±化合物(I)のGI
50の評価を伴うものであった。ヒト膵臓癌細胞株であるL3.6pl細胞を、3つの96ウェルプレートに、190μLの1.5%FBS含有増殖培地中のL3.6plに対して2000細胞/ウェルで播種した。L3.6pl細胞は、Trevinoら、Am J Pathol.2006年3月;168(3):962−72(引用によりその全体が本明細書に組み込まれる)に既報のものである。細胞を37℃+5%CO
2で播種後、18〜24時間インキュベートした。24時間後、ジェムザール(登録商標)+化合物(I)、ジェムザール(登録商標)、および化合物(I)をL3.6pl細胞(n=3)に添加した。ジェムザール(登録商標)を、8nM、4nM、2nM、1nM、0.5nM、0.25nM、0.125nM、0.063nMの濃度で評価した。化合物(I)は、100nM、50nM、25nM、12.5nM、6.25nM、3.125nM、1.56nM、および0.78nMの濃度で評価した。各試料で処理したプレートを、37℃+5%CO
2で72時間インキュベートした。BrdUアッセイをT=0に、および72時間のインキュベーション後のT=72に再度行なった。試験の結果を
図19と20に示す。下記の表は、ジェムザール(登録商標)±化合物(I)の計算値GI
50のまとめを示す。
【0372】
【表20】
実施例28:インビボ転移を調べるための正所性前立腺モデル
Nu/Nuマウス(8〜12週齢)の前立腺にPC3−MM2前立腺癌細胞を、Pettawayら、Clin Cancer Res 1996,2:1627−1636(引用によりその全体が本明細書に組み込まれる)に既報のようにして注射した。PC3−MM2細胞の正所性注射の14日後、マウスを無作為に4つの群:ダサチニブ(15mg/kg/日)処置;化合物(I)(5mg/kg/日)処置;化合物(I)(10mg/kg/日)処置;および対照(ビヒクル)に分けた。ダサチニブ、化合物(I)およびビヒクルは、経口強制投与によって投与した。マウスはすべて、ほぼ第42日目に頸部脱臼によって致死させた。腫瘍体積(カリパスによって測定)、重量および限局性(腹腔または大動脈傍の)リンパ節転移の発生を記録した。実験の結果を以下の表に報告し、
図21と22に示す。
【0373】
【表21】
実施例29:HBV一次アッセイ
開発したHBV一次アッセイを、ウイルスDNAの検出および定量を改善し、単純化した(Korbaら、Antiviral Res.19:55−70(1992))こと以外は、Korbaら(Antiviral Res.15:217−228(1991)およびAntiviral Res.19:55−70(1992))に記載のものと同様にして行なった。
【0374】
化合物(I)を抗HBV活性の可能性について、標準化されたHepG2−2.2.15抗ウイルスアッセイにおいて、単一の高試験濃度の化合物を用いて評価した。HepG2−2.2.15は、高レベルのHBV野生型aywl株を産生する安定な細胞株である。簡単には、HepG2−2.2.15細胞を96ウェルプレート内で平板培養した。細胞培養中に観察される「エッジ効果」が低減されるように、ウェルの内側のみを使用した。ウェルの外側は、完全培地で満たし、試料の蒸発の最小化を補助する。翌日、コンフルエントなHepG2−2.2.15細胞の単層を洗浄し、培地を、試験濃度の試験物を含有する完全培地と交換した(3連)。3TCを陽性対照として使用し、一方、未処理対照としては培地単独を細胞に添加した。3日間後、培養培地を、適切に希釈した試験化合物を含有する新鮮培地と交換した。試験化合物の最初の投与の6日後、細胞培養上清みを回収し、プロナーゼとDNAseで処理し、次いで、HBV DNAコピー数の直接測定のためのリアルタイム定量的TaqMan PCRアッセイにおいて使用した(ABI Prism 7900配列検出システム(Applied Biosystems,Foster City,CA)を使用)。
【0375】
各試験化合物の抗ウイルスの活性を、そのHBV DNAコピー数を未処理対照細胞(100%)のものと比較して阻害レベル割合を得ることにより計算した。上清みを除去し、残留細胞をCellTiter 96 Aqueous One(Promega,Madison,WI)溶液細胞増殖アッセイ(MTS−based)に供し、細胞バイアビリティを測定した。化合物の細胞傷害性を、その細胞バイアビリティを未処理対照細胞のものと比較し、対照細胞に対する割合を得ることにより調べた。この試験の結果を以下の表および
図23に示す。
【0376】
【表22】
実施例30:細胞全体におけるSrcキナーゼ活性の阻害
化合物(I)は、
図10A、10B、10Cおよび10Dに示されるように、細胞全体におけるSrcキナーゼ活性を阻害する。
図10Aは、c−Src/NIH−3T3細胞におけるSrc自己リン酸化に対する化合物(I)の効果を示すグラフである;
図10Bは、HT−29細胞におけるSrc自己リン酸化に対する化合物(I)の効果を示すグラフである;
図10Cは、c−Src/NIH−3T3細胞におけるSrcトランスリン酸化に対する化合物(I)の効果を示すグラフである;および
図10Dは、HT−29細胞におけるSrc自己リン酸化に対する化合物(I)の効果を示すグラフである。化合物(I)は、細胞全体におけるSrcキナーゼ活性の強力なインヒビターである。
図10A〜10Dに示されるように、化合物(I)は、細胞全体におけるSrcキナーゼ活性の強力なインヒビターである。特に、化合物(I)は、種々の細胞株において、Src自己リン酸化(
図10Aおよび10B)とSrcトランスリン酸化(
図10Cおよび10D)の強力なインヒビターであった。さらなるトランスリン酸化の基質、すなわち、FAK Y925およびパキシリンY31で、細胞全体阻害の同様の結果が得られた。PDGF Y572/574、EGF Y845、JAK1 Y1022/1023 & JAK2 Y1007/1008、Lck Y405 & ZAP70 Y319のリン酸化は、細胞全体において阻害されなかった。Lyn Y416およびBcr/Abl&245は、低度に強力に阻害された。
【0377】
実施例31:細胞全体におけるプロテインチロシンキナーゼに対する選択性
化合物(I)は、プロテインチロシンキナーゼ(PTK)に対して選択的である。
図11は、現在臨床試験中のATP競合性Srcインヒビターであるダサチニブと比較したときの、細胞全体におけるプロテインチロシンキナーゼ(PTK)に対する化合物(I)の選択性を示す図解である。SYF細胞は、Srcキナーゼファミリー構成員Src、YesおよびFynが欠損しているマウス線維芽細胞である。化合物(I)は、ダサチニブと比較した場合、細胞全体において非常に高いPTK選択性を示した。
【0378】
実施例32:経口効力
化合物(I)は高い経口効力を示す。例えば、
図24は、ダサチニブとの比較における化合物(I)の経口効力を示す。経口効力は、病期分類されたHT29(ヒト結腸癌)マウス異種移植片を使用し、28日の処置期間にわたって調べた。化合物(I)は2.0および4mg/kg bidで試験した。ダサチニブは25mg/kg bidで試験した。第5日目、体重減少のため、ダサチニブ用量を15mg/kg bidに減らした。
【0379】
実施例33:HCV一次アッセイ
化合物(I)はHCVの処置に使用され得る。化合物(I)を、Pietschmann,T.ら J.Virol.76:4008−4021の方法を用いて試験する。ET細胞(call)株は、HCV RNAレプリコン(geno型 Ib)を有し、安定なルシフェラーゼ(Luc)レポーターおよび3つの細胞培養適応変異を有するヒトヘパトーム細胞株Huh−7である。この細胞を、37℃の5%CO
2インキュベータ内で、ダルベッコ改変必須培地(DMEM)、10%ウシ胎仔血清(FBS)、1%ペニシリン−ストレプトマイシン(pen−strep)、1%グルタミン、5mg/ml G418中で培養する。細胞培養試薬はすべて、例えば、Mediatech(Herndon,VA)製のものである。
【0380】
実施例34:血漿および脳内曝露
化合物(I)は、良好な血漿/脳内曝露を示す。例えば、化合物(I)の血漿および脳内曝露は以下のように説明される。経口投与後、マウスの血漿濃度を測定した。用量はすべて、精製水中で配合した。雄CD−1マウスに一晩絶食後、投与を行ない、投与後4時間で餌を与えた。投与は以下のとおりとした。
【0381】
【表23】
タンパク質を、血漿では0.25mLのアセトニトリル、脳では0.25mLにより沈降させた。遠心分離後、上清みをLC/MSシステム内に直接注入した。定量限界は、血漿50μLアリコートおよび脳50μLアリコートの使用で1ng/mLであった。標準曲線は、血漿および脳の両方に対して1〜1,000ng/mLとした。HPLC条件は以下のとおりとした。
【0382】
HPLCシステム:Shimadzu SCL−10 System
分析カラム:Aquasil C18 5μm 100×2mmカラム
カラム温度:周囲温度
自動試料採取装置の温度:周囲温度
移動相 A)10mMギ酸アンモニウム含有水(pH4)。
【0383】
B)アセトニトリル
流速:0.6mL/分
インジェクション容量:2μL
勾配:
【0384】
【表24】
質量分析条件は以下のとおりとした。
【0385】
装置:ABI Sciex API 4000
モード:ESI+
実験:MRM(反復反応モニタリング)
遷移:化合物(I):m/z 432.4→114.2(Rt=3.11分)
真下の4つの表は、10mg/kgおよび50mg/kgの用量の化合物(I)の単回経口投与後の血漿濃度および脳内濃度を示す。
【0386】
【表25】
【0387】
【表26】
【0388】
【表27】
【0389】
【表28】
10mg/kgの化合物(I)の単回投与後のマウス(第1群)における脳内および血漿中の薬物動態パラメータは以下のとおりである。
【0390】
【表29】
AUClast脳/AUClast血漿比は0.42である。
【0391】
50mg/kgの化合物(I)の単回投与後のマウス(第2群)における脳内および血漿中の薬物動態パラメータは以下のとおりである。
【0392】
【表30】
AUClast脳/AUClast血漿比は0.39である。
【0393】
実施例35:神経膠腫生存試験
脳腫瘍マウス異種移植片試験を、化合物(I)をテモダール(登録商標)と比較して行なった。試験は、C57BL/6マウスにおいて行なった。GL261神経膠腫細胞(5μlのDMEM中1×10
5)を頭蓋内座標:ブレグマ側方2.0mm、前方1.2mm、3.0mm深度の硬膜内に移植した。処置は、移植3日後に開始した。群は以下のとおりとした(用量はすべて100μlのH
2O中)。
【0394】
【表31】
下記の表は、結果のまとめを示す。メジアン生存範囲およびログランク(Mantel−Cox)統計学的検定の結果を、試料の生存分布と比較している。
【0395】
【表32】
図24および25A〜Dは、異なる処置群の各C57BL/6マウスの体重増加を示す。各処置群のエンドポイントでの平均重量を以下の表に示す。
図26は、各処置群の40日間にわたる平均重量を示すグラフである。
【0396】
【表33】
実施例36.併用による相乗的細胞増殖阻害
化合物(I)とタモキシフェンの併用を、MCF−7 乳癌細胞においてインビトロで試験し、併用による細胞増殖阻害能を調べた。ある範囲の濃度をMTTアッセイにより、以下に示すようにして試験した。最初のカラムは化合物(I)の濃度に相当する。
【0397】
【表34】
MTT細胞増殖のデータを、CalcuSynソフトウェア(Biosoft)によって解析した。このプログラムでは、メジアン効果原則(77)を使用し、2つの薬物間の相互作用が示される。各用量の組合せについて、このプログラムにより組合せ指数(CI)が作成される。<1、1または>の組合せ指数(CI)は、それぞれ相乗作用、相加作用または拮抗作用を表す。
図27は、100nMタモキシフェン+75nM化合物(I)での相乗的増殖阻害効果を示す。この組合せのCI値は0.505であると算出された。
【0398】
他の実施形態
本発明を、その詳細説明とともに説明したが、前述の説明は説明を意図し、本発明の範囲を限定するものではない。本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲の範囲によって規定される。他の態様、利点および変形例は、以下の特許請求の範囲の範囲に含まれる。当業者には、添付の特許請求の範囲に包含される本発明の範囲を逸脱することなく、本明細書において形態および詳細において種々の変更がなされ得ることが理解されよう。