特許第5946658号(P5946658)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5946658
(24)【登録日】2016年6月10日
(45)【発行日】2016年7月6日
(54)【発明の名称】放射能除染システム及び放射能除染方法
(51)【国際特許分類】
   G21F 9/06 20060101AFI20160623BHJP
   G21F 9/12 20060101ALI20160623BHJP
【FI】
   G21F9/06 501Z
   G21F9/12 501Z
   G21F9/12 511Z
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-52365(P2012-52365)
(22)【出願日】2012年3月8日
(65)【公開番号】特開2013-186011(P2013-186011A)
(43)【公開日】2013年9月19日
【審査請求日】2015年3月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000198307
【氏名又は名称】株式会社IHI建材工業
(74)【代理人】
【識別番号】100118267
【弁理士】
【氏名又は名称】越前 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】上原 正勝
(72)【発明者】
【氏名】小野辺 良一
(72)【発明者】
【氏名】池田 孝行
【審査官】 藤原 伸二
(56)【参考文献】
【文献】 特開平02−197628(JP,A)
【文献】 特開平03−151424(JP,A)
【文献】 特開2003−193552(JP,A)
【文献】 特開平10−221491(JP,A)
【文献】 特開2013−083616(JP,A)
【文献】 特開2013−174538(JP,A)
【文献】 石井慶造,水洗浄による放射性セシウム汚染土壌の除染方法について,第34回原子力委員会定例会議資料第1号,2011年 9月 6日,p.1-p.47
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 9/06
G21F 9/28
G21F 9/12
G21F 9/04
C02F 1/00
C02F 1/28
E03F 1/00
E02B 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自然環境における放射能汚染を除去又は低減する放射能除染システムであって、
放射性物質が溜まり易い箇所に形成されるとともに土砂層を備えたせき止め池と、
雨水が流れ易い箇所に形成されるせき止め壁と、
道路及び前記せき止め壁に沿って形成される側溝と、
該側溝に流入した汚染水を集約する水路と、
該水路に接続された汚染水浄化装置と、を有し、
前記側溝に流入した汚染水は、前記汚染水浄化装置で除染されるとともに、前記せき止め池の前記土砂層に蓄積された放射性物質は、前記土砂層の土砂を交換することによって回収される、ことを特徴とする放射能除染システム。
【請求項2】
前記せき止め池は、地面に形成された窪みの上に配置された粘土層と、該粘土層の上に配置された土砂層と、前記せき止め池内で雨水の流れる下流側に配置された壁部材と、を有することを特徴とする請求項1に記載の放射能除染システム。
【請求項3】
砂防ダムに隣接して形成された貯水池を有し、該貯水池は前記水路に接続されている、ことを特徴とする請求項1に記載の放射能除染システム。
【請求項4】
前記汚染水浄化装置は、前記汚染水から泥を沈殿除去する泥分離槽と、該泥分離槽を通過した一次処理水から放射性物質を吸着除去する放射能除染フィルターと、該放射能除染フィルターを通過した二次処理水から不純物を取り除く沈殿分離槽と、該沈殿分離槽を通過した三次処理水を貯める貯水槽と、該貯水槽に配置された放射能検出器と、を有し、前記放射能検出器の測定値が所定の閾値以下の場合に、前記貯水槽から前記三次処理水を自然環境中に排水する、ことを特徴とする請求項1に記載の放射能除染システム。
【請求項5】
自然環境における放射能汚染を除去又は低減する放射能除染方法であって、
放射性物質が溜まり易い箇所に土砂層を備えたせき止め池を形成し、
雨水が流れ易い箇所にせき止め壁を形成し、
道路及び前記せき止め壁に沿って側溝を形成し、
該側溝に流入した汚染水を集約して除染するとともに、前記せき止め池の前記土砂層の土砂を交換することによって前記土砂層に蓄積された放射性物質を回収するようにした、
ことを特徴とする放射能除染方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射能除染システム及び放射能除染方法に関し、特に、山、森林、高原、里山等の広大な自然環境における放射能汚染の除去及び低減に適した放射能除染システム及び放射能除染方法に関する。
【背景技術】
【0002】
山、森林、高原、里山等の広大な自然環境における放射能汚染は、一般に薄く広がり易いことから低線量汚染に区別することができる。しかしながら、広大な領域の全体の線量を集計すれば膨大な線量となること、放射線塵埃の降下時における気象条件によってホットスポット(局所的に放射線量が高い場所)が発生すること、雨等の自然浄化によって下流域で天然濃縮されたホットスポットが発生すること等に鑑みれば、山、森林、高原、里山等の広大な自然環境における放射能汚染を放置しておくことは好ましくない。
【0003】
特に、広大な自然環境の放射性物質を放置した場合、雨や雪によって自然浄化を期待できるものの、放射性物質を含む汚染水が河川や地下水に流れ込み、海洋汚染や人体汚染を引き起こす可能性がある。
【0004】
ところで、建物やホットスポット等の狭小な範囲における放射能除染は、一般に、汚染物質の回収や高圧水洗浄等によって処理されるが、広大な自然環境の全体を除染し得る方法は今のところ見当たらない。例えば、特許文献1には、散水装置により空中に霧状の水を散布して空気中に滞溜する浮遊粒子等を地表に落下させ、地表に落下した浮遊粒子成分を含んだ汚染水を集合して浄化処理することが記載されているが、かかる散水装置を広大な領域を埋め尽くすように配置することは現実的ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−191922号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、放射能汚染の領域が広大である場合に、例えば、人の出入りが多い場所、住宅近傍、農地等を緊急除染対象として放射能除染することも考えられる。しかしながら、山、森林、高原、里山等の自然環境に隣接した場所では、気象条件や自然濃縮等によって再び放射線量が上昇する可能性がある。
【0007】
また、山、森林、高原、里山等の自然環境において、汚染土壌の回収や汚染植物の伐採を実行した場合には、回収物の保管場所の確保、土砂災害の発生、焼却設備等の減容化処理の必要性等の問題が生じることとなる。
【0008】
本発明は、上述した問題点に鑑み創案されたものであり、広大な自然環境の放射能汚染を除去及び低減することができ、下流域における放射能汚染を抑制することができる、放射能除染システム及び放射能除染方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、自然環境における放射能汚染を除去又は低減する放射能除染システムであって、放射性物質が溜まり易い箇所に形成されるとともに土砂層を備えたせき止め池と、雨水が流れ易い箇所に形成されるせき止め壁と、道路及び前記せき止め壁に沿って形成される側溝と、該側溝に流入した汚染水を集約する水路と、該水路に接続された汚染水浄化装置と、を有し、前記側溝に流入した汚染水は、前記汚染水浄化装置で除染されるとともに、前記せき止め池の前記土砂層に蓄積された放射性物質は、前記土砂層を交換することによって回収される、ことを特徴とする放射能除染システムが提供される。
【0010】
前記せき止め池は、地面に形成された窪みの上に配置された粘土層と、該粘土層の上に配置された土砂層と、前記せき止め池内で雨水の流れる下流側に配置された壁部材と、を有していてもよい。また、砂防ダムに隣接して形成された貯水池を有し、該貯水池は前記水路に接続されていてもよい。
【0011】
前記汚染水浄化装置は、前記汚染水から泥を沈殿除去する泥分離槽と、該泥分離槽を通過した一次処理水から放射性物質を吸着除去する放射能除染フィルターと、該放射能除染フィルターを通過した二次処理水から不純物を取り除く沈殿分離槽と、該沈殿分離槽を通過した三次処理水を貯める貯水槽と、該貯水槽に配置された放射能検出器と、を有し、前記放射能検出器の測定値が所定の閾値以下の場合に、前記貯水槽から三次処理水を自然環境中に排水するようにしてもよい。
【0012】
また、本発明によれば、自然環境における放射能汚染を除去又は低減する放射能除染方法であって、放射性物質が溜まり易い箇所に土砂層を備えたせき止め池を形成し、雨水が流れ易い箇所にせき止め壁を形成し、道路及び前記せき止め壁に沿って側溝を形成し、該側溝に流入した汚染水を集約して除染するとともに、前記せき止め池の前記土砂層を交換することによって前記土砂層に蓄積された放射性物質を回収するようにした、ことを特徴とする放射能除染方法が提供される。
【発明の効果】
【0013】
上述した本発明に係る放射能除染システム及び放射能除染方法によれば、放射能が溜まり易い箇所(いわゆる、ホットスポット)に土砂を回収可能なせき止め池を配置し、雨水が流れ易い箇所にせき止め壁及び側溝を配置したことにより、特定の箇所に留まり易い放射性物質を容易に回収することができるとともに、雨水によって流され易い放射性物質を集約して容易に除染することができる。したがって、山、森林、高原、里山等の広大な自然環境に本発明に係る放射能除染システム及び放射能除染方法を適用することによって、広大な自然環境の放射能汚染を除去及び低減することができ、下流域における放射能汚染を効果的に抑制することができる。
【0014】
特に、広大な自然環境の上流側で放射性物質を回収することができることから、下流側に拡散する放射性物質の量を低減することができ、人里に近い箇所におけるホットスポットの発生、地下水の放射能汚染並びに河川及び海洋の放射能汚染を効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態に係る放射能除染システムを示す全体構成図である。
図2図1に示したせき止め池の詳細説明図であり、(A)は断面図、(B)は平面図、を示している。
図3図1に示したせき止め壁の詳細説明図であり、(A)は断面図、(B)は配置方法を示す平面図、を示している。
図4図1に示した放射能浄化装置の詳細説明図であり、(A)は全体構成図、(B)は汚染水処理系統図、を示している。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る放射能除染システム及び放射能除染方法の実施形態について、図1図4を用いて説明する。ここで、図1は、本発明の実施形態に係る放射能除染システムを示す全体構成図である。
【0017】
本発明の実施形態に係る放射能除染システムは、図1に示したように、自然環境における放射能汚染を除去又は低減する放射能除染システムであって、放射性物質が溜まり易い箇所に形成されるとともに土砂層13を備えたせき止め池1と、雨水が流れ易い箇所に形成されるせき止め壁2と、道路3a及びせき止め壁2に沿って形成される側溝3と、側溝3に流入した汚染水を集約する水路4と、水路4に接続された汚染水浄化装置5と、を有し、側溝3に流入した汚染水は、汚染水浄化装置5で除染されるとともに、せき止め池1の土砂層13に吸収された放射性物質は、土砂層13を交換することによって回収される。
【0018】
また、図1に示した放射能除染システムは、砂防ダム6に隣接して形成された貯水池7を有し、貯水池7は水路4に接続されている。なお、貯水池7の下流側には、河川8が流れているものとする。
【0019】
上述した放射能除染システムは、山、森林、高原、里山等の広大な自然環境における放射能汚染を除去及び低減しようとするものである。したがって、山、森林、高原、里山等の広大な自然環境において、せき止め池1、せき止め壁2及び側溝3は、自然環境領域の広さ、放射能汚染レベル、自然環境の地理や地形等に応じて複数配置される。
【0020】
前記せき止め池1は、ホットスポットのように、放射性物質が溜まり易い箇所における放射能汚染を除去又は低減するための機能を有する。ホットスポットにおける放射性物質は、その場に滞留することから、雨水等の自然浄化によって徐々に濃縮され、高濃度の汚染領域を形成する。そこで、本発明では、ホットスポットを形成し易い箇所に予めせき止め池1を形成しておき、積極的に放射性物質を集積させ、蓄積した放射性物質を土砂と一緒に回収するようにしている。せき止め池1を形成する箇所は、放射線測定器(ガイガーカウンター)によって発見されたホットスポットであってもよいし、地理的又は地形的に放射性物質が溜まり易いであろうと思われるスポットであってもよいし、積極的に放射性物質が溜まり易い箇所を意図的に形成したいスポットであってもよい。
【0021】
ここで、図2は、図1に示したせき止め池の詳細説明図であり、(a)は断面図、(b)は平面図、を示している。図2(A)及び(B)に示したように、せき止め池1は、例えば、地面に形成された窪み11の上に配置された粘土層12と、粘土層12の上に配置された土砂層13と、雨水の流れる下流側に配置された壁部材14と、を有している。なお、せき止め池1の外周には、立ち入り禁止区域であることを明確にするために、支柱15に掛け渡されたロープ16が配置されていてもよい。
【0022】
窪み11は、例えば、雨水が流れる上流側を滑らかに湾曲させた傾斜部11aを有しており、下流側には壁部材14が配置される。粘土層12は、窪み11の上に難透水性の層を形成して、地下への放射性物質を含む汚染水の浸透を抑制する機能を有する。土砂層13は、透水性を有する層であって、流入した汚染水を引き留めて放射性物質の拡散を抑制する機能を有する。壁部材14は、例えば、粘土層12上に積層される横木14aと、横木14aを支持する杭14bと、により構成される。かかる壁部材14によって土砂層13の土砂の流出を抑制することができる。
【0023】
かかるせき止め池1を自然環境に形成することにより、土砂層13に放射性物質を蓄積することができ、土砂層13の土砂を交換するだけで放射性物質を容易に回収することができ、自然環境から放射性物質を除去することができる。土砂の交換は、例えば、放射線測定器(ガイガーカウンター)による放射線量の測定値が所定の閾値を超えた場合に行うようにしてもよいし、数日又は数週間おきに定期的に交換するようにしてもよい。回収した土砂は、例えば、放射線を遮蔽可能な放射性廃棄物収納容器に収容して保管するようにしてもよいし、除染処理を施して放射性物質を除去するようにしてもよいし、焼却して減容処理してから保管するようにしてもよい。
【0024】
前記せき止め壁2は、雨水によって流される放射性物質を引き留めて、下流域への放射能汚染の拡散を抑制するための機能を有する。一般に、地面、木々、建物等に付着した放射性物質は、雨や雪等によって自然浄化され下流域に拡散しようとする。山、森林、高原、里山等の自然環境では、雨水は通り易い箇所を選んで下流側に流れることから、雨水の通り道は地形的に特定され易い。そこで、この雨水の通り道を遮断し、放射性物質を含む汚染水の下流域への拡散を抑制するために、せき止め壁2が配置される。
【0025】
ここで、図3は、図1に示したせき止め壁の詳細説明図であり、(A)は断面図、(B)は配置方法を示す平面図、を示している。図3(A)及び(B)に示したように、せき止め壁2は、雨水の通り道2a上の地中に埋設されて地上に延びるコンクリート製の壁部材によって構成される。せき止め壁2は、鋼製であってもよいが、腐食等を考慮すればコンクリート製の方が好ましい。せき止め壁2は、施工上の観点から、例えば、地上高さ1〜2m以下、壁長さ5〜10m以下程度の大きさに形成される。
【0026】
また、せき止め壁2の上流側には側溝3が形成されている。側溝3は、例えば、地中に埋設されるコンクリート製の溝部材31と、溝部材31上に配置される開口部を有する蓋部材32と、溝部材31に流入した水を水路4に供給する排水管33と、を有している。このように、雨水の通り道2a上にせき止め壁2及び側溝3を配置することにより、雨水の通り道2aを通って下る汚染水をせき止め壁2で食い止めることができ、流れが遮断された汚染水(放射性物質を含む雨水)は側溝3に流入することとなる。側溝3に流入した汚染水は水路4に供給され自然環境から除去される。
【0027】
図3(A)において、排水管33は、せき止め壁2を貫通するように形成しているが、かかる構成に限定されるものではなく、例えば、側溝3が一定の距離を有する場合には、その下流側の端部に排水管33を接続するようにしてもよい。また、図3(B)に示したように、せき止め壁2及び側溝3は、雨水の通り道2aごとに分散して配置するようにしてもよいし、複数の雨水の通り道2aを遮断可能なように配置するようにしてもよい。ただし、せき止め壁2を長く形成すると、施工が難しく費用も嵩むことから、側溝3を長く配置した場合であっても、せき止め壁2は必要な箇所に部分的に配置するようにしてもよい。
【0028】
ところで、側溝3は、上述したせき止め壁2の上流側に配置されるだけでなく、図1に示したように、既設又は新設の道路3aに沿って側溝3を配置するようにしてもよい。この場合、図示したように、道路3aの少なくとも下流側に側溝3を配置することが好ましく、道路3aの両側に側溝3を配置するようにしてもよい。側溝3の構成については、図3(A)に示したものと同じ構成であることから、ここでは詳細な説明を省略する。
【0029】
また、山等の急勾配を有する自然環境では、砂防ダム6が形成されていることがある。この砂防ダム6から越流する雨水は、砂防ダム6の下流側に配置された貯水池7によって回収され水路4に供給される。砂防ダム6が形成されていない急勾配を有する箇所には、砂防ダム6及び貯水池7を新設するようにしてもよい。砂防ダム6は、せき止め壁2を大型化したものと言うこともできる。
【0030】
側溝3及び貯水池7に回収された汚染水(放射性物質を含む雨水)は、水路4によって汚染水浄化装置5に搬送される。ここで、図4は、図1に示した放射能浄化装置の詳細説明図であり、(A)は全体構成図、(B)は汚染水処理系統図、を示している。
【0031】
図4(A)に示したように、汚染水浄化装置5は、汚染水から泥を沈殿除去する泥分離槽51と、泥分離槽51を通過した一次処理水から放射性物質を吸着除去する放射能除染フィルター52と、放射能除染フィルター52を通過した二次処理水から不純物を取り除く沈殿分離槽53と、沈殿分離槽53を通過した三次処理水を貯める貯水槽54と、貯水槽54に配置された放射能検出器55と、を有し、放射能検出器55の測定値が所定の閾値以下の場合に、貯水槽54から三次処理水を自然環境中に排水するように構成されている。
【0032】
図4(B)に示したように、水路4は、自然環境中に配置された側溝3や貯水池7と接続された複数の分岐水路41と、分岐水路41が集約される主水路42と、主水路42から汚染水浄化装置5に接続される給水路43と、を有する。分岐水路41は、地下に埋設されて張り巡らされており、周囲の排水系統(側溝3や貯水池7等)に接続されている。主水路42は、全ての排水系統を統合する大型のトンネル水路である。また、ゲリラ豪雨等によって一時的に排水量が増大したような場合には、主水路42に搬送された排水を貯留する貯水槽を配置するようにしてもよい。
【0033】
また、水路4には、複数の汚染水浄化装置5が給水路43を介して接続されており、主水路42に搬送された汚染水(放射性物質を含む雨水)は、逐次、汚染水浄化装置5に供給され、除染処理が施される。除染処理された水(三次処理水)は、最終的に排水管56から河川等の自然環境中に放出される。なお、水路4の分岐水路41や給水路43には、必要に応じて流量制御弁を配置するようにしてもよい。
【0034】
汚染水浄化装置5に供給された汚染水(放射性物質を含む雨水)は、最初に泥分離槽51に投入される。上述した側溝3や貯水池7からの排水は、泥、落ち葉、ゴミ等の不純物を多数含んでいる。そこで、泥分離槽51では、主として比重の重い泥等の不純物を沈殿させて排水から分離する。沈殿物には、放射性物質が含まれる可能性があることから、沈殿物は定期的に回収し、保管、焼却、除染等の処理が施される。なお、落ち葉、ゴミ等の軽い不純物は、排水を泥分離槽51に投入する前に金網等のフィルターを通過させることによって除去するようにしてもよい。これらの回収物にも放射性物質が含まれる可能性があることから、沈殿物は定期的に回収し、保管、焼却、除染等の処理が施される。
【0035】
泥分離槽51から越流する一次処理水は、隣接して配置された放射能除染フィルター52を通過させることによって一次処理水中に含まれる放射性物質を吸着させて除去する。放射能除染フィルター52は、例えば、セシウム等の放射性物質を吸着可能なフィルターであって、市販されているものを使用することができる。放射能除染フィルター52は、定期的に交換され、使用済みの放射能除染フィルター52は、例えば、焼却後に放射性廃棄物収納容器等に収容されて保管される。一次処理水を積極的に放射能除染フィルター52に通過させるために、放射能除染フィルター52と同じ水槽内に循環ポンプ(図示せず)を配置するようにしてもよい。
【0036】
沈殿分離槽53は、放射能除染フィルター52により放射性物質が除去された二次処理水をさらに精製する工程であり、図示したように、多段に配置されることが多い。沈殿分離槽53のそれぞれにおいて、壁面部(堰)を越流する水のみを下流側に供給し、各槽において比重の重い物質を沈殿させて分離する。沈殿物には、放射性物質が含まれる可能性があることから、沈殿物は定期的に回収し、保管、焼却、除染等の処理が施される。
【0037】
沈殿分離槽53を通過した排水は、例えば、汲み上げポンプ53a等を介して貯水槽54に供給される。貯水槽54には、排水ポンプ56a及び流量制御弁56bを有する排水管56が接続されている。また、貯水槽54には、放射能検出器55が配置されており、貯水槽54の放射線量を常時又は定期的に監視している。そして、放射能検出器55の測定値が所定の閾値以下の場合には、流量制御弁56bを開放し、排水ポンプ56aを作動させ、貯水槽54から三次処理水を自然環境中に放出させる。なお、放射能検出器55の閾値は、例えば、年間被曝量1mSv以下から換算される一時間当たりの空間線量率である0.23μSv/h以下に設定される。
【0038】
上述した放射能除染システムによれば、放射性物質が溜まり易い箇所に土砂層13を備えたせき止め池1を形成し、雨水が流れ易い箇所にせき止め壁2を形成し、道路3a及びせき止め壁2に沿って側溝3を形成し、側溝3に流入した汚染水を集約して除染するとともに、せき止め池1の土砂層13を定期的に交換することによって土砂層13に蓄積された放射性物質を回収するようにした放射能除染方法を容易に実施することができる。
【0039】
上述した本実施形態に係る放射能除染システム及び放射能除染方法によれば、放射能が溜まり易い箇所(いわゆる、ホットスポット)に土砂を回収可能なせき止め池1を配置し、雨水が流れ易い箇所にせき止め壁2及び側溝3を配置したことにより、特定の箇所に留まり易い放射性物質を容易に回収することができるとともに、雨水によって流され易い放射性物質を集約して容易に除染することができる。したがって、山、森林、高原、里山等の広大な自然環境に上述した放射能除染システム及び放射能除染方法を適用することによって、広大な自然環境の放射能汚染を除去及び低減することができ、下流域における放射能汚染を効果的に抑制することができる。
【0040】
特に、広大な自然環境の上流側で放射性物質を回収することができることから、下流側に拡散する放射性物質の量を低減することができ、人里に近い箇所におけるホットスポットの発生、地下水の放射能汚染並びに河川及び海洋の放射能汚染を効果的に抑制することができる。
【0041】
本発明は上述した実施形態に限定されず、山、森林、高原、里山等の広大な自然環境において適宜適用することができる等、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0042】
1 せき止め池
2 せき止め壁
2a 通り道
3 側溝
3a 道路
4 水路
5 汚染水浄化装置
6 砂防ダム
7 貯水池
8 河川
11a 傾斜部
12 粘土層
13 土砂層
14 壁部材
14a 横木
14b 杭
15 支柱
16 ロープ
31 溝部材
32 蓋部材
33 排水管
41 分岐水路
42 主水路
43 給水路
51 泥分離槽
52 放射能除染フィルター
53 沈殿分離槽
53a 汲み上げポンプ
54 貯水槽
55 放射能検出器
56 排水管
56a 排水ポンプ
56b 流量制御弁
図1
図2
図3
図4