特許第5946668号(P5946668)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5946668
(24)【登録日】2016年6月10日
(45)【発行日】2016年7月6日
(54)【発明の名称】エポキシ樹脂系塗り床材
(51)【国際特許分類】
   E04F 15/12 20060101AFI20160623BHJP
   C09D 5/24 20060101ALI20160623BHJP
   C09D 7/12 20060101ALI20160623BHJP
   C09D 163/00 20060101ALI20160623BHJP
   C09K 3/16 20060101ALI20160623BHJP
【FI】
   E04F15/12 M
   C09D5/24
   C09D7/12
   C09D163/00
   C09K3/16 105A
   C09K3/16 104D
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-68112(P2012-68112)
(22)【出願日】2012年3月23日
(65)【公開番号】特開2013-199758(P2013-199758A)
(43)【公開日】2013年10月3日
【審査請求日】2014年10月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】598108412
【氏名又は名称】株式会社エービーシー建材研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】竹本 喜昭
(72)【発明者】
【氏名】野瀬 貴弘
【審査官】 油原 博
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−249849(JP,A)
【文献】 特開2008−207356(JP,A)
【文献】 特開2007−070370(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04F 15/00−15/22
C09D 1/00−10/00
C09D 101/00−201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂と、脂環式アミン系イオン液体と、脂肪族アミン系イオン液体とを含み、
前記脂環式アミン系イオン液体と前記脂肪族アミン系イオン液体との重量比が、30:70〜90:10であり、
前記脂環式系イオン液体と前記脂肪族系イオン液体の合計含有量が、前記エポキシ樹脂に対して、3質量%〜10質量%であることを特徴とするエポキシ樹脂系塗り床材。
【請求項2】
請求項1記載のエポキシ樹脂系塗り床材において、
温度23℃、相対湿度30%、印加電圧10V〜1000Vでの電気抵抗値が、10^10Ω未満であることを特徴とするエポキシ樹脂系塗り床材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の床に塗布するためのエポキシ樹脂系塗り床材に関し、より詳細には、帯電防止性能を有するエポキシ樹脂系塗り床材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、帯電防止性能を持たない一般的なエポキシ樹脂系塗り床材が多くの建物の床に採用されている。この塗り床材は、10^11Ω〜10^12Ω程度の電気抵抗値を持つことから、冬場等の相対湿度が低下する季節では、床上を動作する人体に静電気が発生し、そのまま人体に帯電することになる。
【0003】
人が痛いと感じる人体帯電電位は約2500V以上といわれている(図7参照。静電気安全指針2007より抜粋、独立行政法人労働安全衛生総合研究所発行)。一般的なエポキシ樹脂系塗り床材のような抵抗値の高い床上では、図8に示すように、人体帯電電位が2500V以上、場合によっては3000V〜5000Vに達することがあり、この状態でドアノブ等の金属に触れると、痛みを伴う静電気放電が発生する。
【0004】
また、製薬工場のように粉塵の発生を嫌う工場等の改修工事においては、はつり工事ができないため、既存の塗り床の上から新規の塗り床を重ねる場合がある。この場合、床の樹脂層が厚くなることで抵抗値が高くなり、人体への顕著な静電気帯電が発生することがある。顕著な静電気放電が見られた場合は、例えば、床帯電防止ワックスを床に塗布することで静電気放電の問題を解消することができるが、この方法は、コストが高く、定期的なメンテナンスが必要となるため敬遠されることがある。
【0005】
一方、市販されている帯電防止塗り床材は、ベース樹脂に導電性フィラーを混ぜることで導電性を確保したものが一般的である(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−32092号公報
【特許文献2】特開2007−303094号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の帯電防止塗り床材は、エポキシ樹脂に導電フィラーを混入することで、導電性を得る構造となっているが、フィラーとフィラーは極めて薄いエポキシ樹脂の間に分散しているため、ある程度の電圧を印加しないと電気が通らない。図10に示すように、従来の帯電防止塗り床は、500Vを印加すると、電気が通るように配合されているが、500V印加でも塗り床の厚さのばらつきやフィラー分散のばらつき等の要因によって、電気が通ったり通らなかったりする等、測定位置によって差がある。そのため、印加電圧1000Vでは、確実に電気が通る。この問題を解決するには、エポキシ樹脂に対するフィラーの量を増やせばよいが、フィラーは高価であるため直接コストアップにつながる。また、フィラーの量を増やし過ぎると、硬化前の樹脂の流動性が失われたり、樹脂が十分に硬化しない等の問題が発生する可能性があり、塗り床としての必要な耐摩耗性や平滑性が失われることになる。
【0008】
本発明は、上記従来の問題を考慮してなされたものであり、低コストであっても十分な帯電防止性能を得られるエポキシ樹脂系塗り床材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るエポキシ樹脂系塗り床材は、エポキシ樹脂と、脂環式系イオン液体と、脂肪族系イオン液体とを含むことを特徴とする。
【0010】
このような構成によれば、エポキシ樹脂に脂環式系イオン液体と脂肪族系イオン液体とを配合することで、帯電防止性能を持ったエポキシ樹脂系塗り床材を生成することができるため、樹脂材料に導電性フィラーを多量に混入させて生成していた従来の一般的な帯電防止塗り床材に比べて、材料コストや製造コストを低減することができる。
【0011】
前記脂環式系イオン液体は、脂環式アミン系イオン液体であり、前記脂肪族系イオン液体は、脂肪族アミン系イオン液体であると、エポキシ樹脂の塗膜物性をほとんど低下させることなく帯電防止性能を付与することができる。
【0012】
この場合、前記脂環式アミン系イオン液体と前記脂肪族アミン系イオン液体との重量比が、30:70〜90:10であると、十分な導電性を有しつつ、当該エポキシ樹脂系塗り床材の塗膜性状への影響を一層少なくすることができる。
【0013】
前記脂環式系イオン液体と前記脂肪族系イオン液体の合計含有量が、前記エポキシ樹脂に対して、3質量%〜10質量%であるとよい。そうすると、エポキシ樹脂系塗り床材として高い耐久性や製品品質を有しつつ、十分な帯電防止性能を得ることができる。
【0014】
また、エポキシ樹脂系塗り床材は、温度23℃、相対湿度30%、印加電圧10V〜1000Vでの電気抵抗値が、10^10Ω未満であるように構成すれば、人が痛みを感じる静電気放電を有効に抑えることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、エポキシ樹脂に脂環式系イオン液体と脂肪族系イオン液体とを配合することで、帯電防止性能を持ったエポキシ樹脂系塗り床材を低コストで生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、エポキシ樹脂に対するイオン液体の配合量と、生成されるエポキシ樹脂系塗り床材の抵抗値と、の関係を示す表である。
図2図2は、本発明の一実施形態に係るエポキシ樹脂系塗り床材における印加電圧と抵抗値との関係を示すグラフである。
図3図3は、脂環式系イオン液体と脂肪族系イオン液体の混合比と、このイオン液体の混合物を無溶剤型エポキシ樹脂系塗り床材に5質量%で配合して生成されるエポキシ樹脂系塗り床材の抵抗値と、の関係を示す表である。
図4図4は、エポキシ樹脂系塗り床材の床基盤上に施工した状態の一構造例を示す断面説明図である。
図5図5は、実施例に係るエポキシ樹脂系塗り床材を塗布した塗り床で通常の作業靴を着用した場合の人体帯電電位の測定結果である。
図6図6は、実施例に係るエポキシ樹脂系塗り床材を塗布した塗り床で静電靴を着用した場合の人体帯電電位の測定結果である。
図7図7は、人体帯電電位と電撃の関係を示す表である。
図8図8は、比較例に係るイオン液体を添加していない一般的なエポキシ樹脂系塗り床材を塗布した塗り床で通常の作業靴を着用した場合の人体帯電電位の測定結果である。
図9図9は、比較例に係るイオン液体を添加していない一般的なエポキシ樹脂系塗り床材を塗布した塗り床で静電靴を着用した場合の人体帯電電位の測定結果である。
図10図10は、従来のエポキシ樹脂系塗り床材における印加電圧と抵抗値との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係るエポキシ樹脂系塗り床材について好適な実施の形態を挙げて詳細に説明する。
【0018】
本発明の一実施形態に係るエポキシ樹脂系塗り床材は、エポキシ樹脂と、脂環式系イオン液体(脂環式系イオン性液体)と、脂肪族系イオン液体(脂肪族系イオン性液体)とを含む帯電防止塗り床材であり、生産施設等の各種建物に設けられるコンクリートや木材等の床基盤上に塗布されることで帯電防止塗り床を形成するためのものである。
【0019】
本実施形態に係るエポキシ樹脂系塗り床材(エポキシ樹脂系帯電防止塗り床材)は、例えば、従来より一般的に用いられている帯電防止性能を持たないエポキシ樹脂系塗り床材をベースとし、これに脂環式系イオン液体と脂肪族系イオン液体の混合物を配合した組成物である。
【0020】
エポキシ樹脂としては、特に限定されないが、一般的に用いられるエポキシ樹脂系塗り床材と同様なものを用いればよく、分子内にエポキシ基を有する化合物であって、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型等の公知のエポキシ樹脂を用いればよい。
【0021】
イオン液体とは、イオンのみから構成される塩、特に液体化合物をいい、支持電解質を加えなくても電流を流すことができて広い電位窓を示すものである。イオン液体の中でも、脂環式系イオン液体と脂肪族系イオン液体が好ましい。イオン液体には、アミン系、ピリジン系、ハロゲン系、ホウ素系、リン系等があるが、特にアミン系のもの(脂環式アミン系イオン液体、脂肪族アミン系イオン液体)は、エポキシ樹脂の塗膜物性(例えば、製品強度や耐久性)を低下させにくいため本実施形態に係るエポキシ樹脂系塗り床材に好適に用いることができる。
【0022】
脂環式アミン系イオン液体としては、特に限定されないが、例えば、N−メチル−N−プロピルピペリジニウムブロマイド、N−メチル−N−プロピルピペリジニウムクロライド、N−メチル−N−プロピルピペリジニウムテトラフルオロボレート、N−メチル−N−プロピルピペリジニウムヘキサフルオロホスフェート、N−メチル−N−プロピルピペリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、N−メチル−N−プロピルピロリジニウムブロマイド、N−メチル−N−プロピルピロリジニウムクロライド、N−メチル−N−プロピルピロリジニウムテトラフルオロボレート、N−メチルーN−プロピルピロリジニウムヘキサフルオロホスフェート、N−メチル−N−プロピルピロリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、N−メチル−N−ブチルピロリジニウムブロマイド、N−メチル−N−ブチルピロリジニウムクロライド、N−メチルーN−ブチルピロリジニウムテトラフルオロボレート、N−メチル−N−ブチルピロリジニウムヘキサフルオロホスフェート、N−メチル−N−ブチルピロリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、等、またこれら脂環式アミンの混合物等が挙げられる。
【0023】
脂肪族アミン系イオン液体としては、特に限定されないが、例えば、N,N,N−トリメチル−N−プロピルアンモニウムブロマイド、N,N,N−トリメチルーN−プロピルアンモニウムクロライド、N,N,N−トリメチルーN−プロピルアンモニウムテトラフルオロボレート、N,N,N−トリメチルーN−プロピルアンモニウムヘキサフルオロホスフェート、N,N,N−トリメチルーN−プロピルアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、ヘキシルトリメチルビスアミド等、またこれら脂肪族アミンの混合物等が挙げられる。
【0024】
なお、一般に、脂肪族系イオン液体は脂環式系イオン液体を含む概念として用いられるが、本発明では、互いに混合される脂肪族系イオン液体と脂環式系イオン液体とを区別するため、脂肪族系イオン液体は脂環式イオン液体を含まず、鎖状の脂肪族系イオン液体を示すものとする。
【0025】
当該エポキシ樹脂系塗り床材は、必要に応じて、硬化剤や充填材等をさらに含有してもよい。硬化剤としては、例えば、アミン化合物等の一般に知られているエポキシ樹脂用の硬化剤を用いるとよい。充填材としては、例えば、シリカ粉等の無機充填材を用いるとよく、さらに顔料等を混合してもよい。
【0026】
また、当該エポキシ樹脂系塗り床材は、硬化剤を含んだ1液型であってもよく、硬化剤を含まないエポキシ樹脂系塗り床材と硬化剤との2液型であってもよい。
【0027】
当該エポキシ樹脂系塗り床材では、脂環式系イオン液体(例えば、脂環式アミン系イオン液体)と脂肪族系イオン液体(例えば、脂肪族アミン系イオン液体)との混合物の合計含有量が、無溶剤型エポキシ樹脂に対して、3質量%〜10質量%、好ましくは、5質量%となるように配合することが好ましい。この配合量とすることで、高い耐久性や製品品質を有しつつ、十分な帯電防止性能を有するエポキシ樹脂系塗り床材を生成することができる。イオン液体の合計配合量が3質量%より低いと、導電性が低くなり十分な帯電防止性能を得ることができないことがあり、また、イオン液体の合計配合量が10質量%より高いと、塗り床材としての塗膜物性が低下して耐久性等に問題を生じることがある。
【0028】
ここで、このようなエポキシ樹脂に対するイオン液体の配合量を変化させた場合におけるエポキシ樹脂系塗り床材の特性について図1の実験結果に基づき説明する。図1は、エポキシ樹脂に対するイオン液体の配合量(添加量)と、生成されるエポキシ樹脂系塗り床材の抵抗値(接地抵抗)と、の関係(実験結果)を示す表である。この実験は、JIS C 61340−4−1、に規定された測定方法に基づき行っており、温度(室温)23℃、相対湿度30%にて、無溶剤型エポキシ樹脂系塗り床材に対して、イオン液体(脂環式アミン系イオン液体:脂肪族系イオン液体=45:55。重量比)の配合量を0質量%(ブランク)から13質量%まで1質量%刻みで変化させて抵抗値(MΩ)を測定したものである。抵抗値は、2点間表面抵抗(接地抵抗。分銅間30cm、印加電圧100V)によって測定した。
【0029】
図1に示すように、無溶剤型エポキシ樹脂系塗り床材に対するイオン液体の配合量が0質量%〜2質量%では、抵抗値が1000MΩを超える値となり、導電性が低すぎて十分な帯電防止性能を得ることができない。一方、配合量が3質量%〜10質量%では、十分な導電性(例えば、抵抗値が500MΩ以下)を備えた帯電防止エポキシ樹脂系塗り床材を得ることができた。
【0030】
当該エポキシ樹脂系塗り床材は、図2に示すように、印加電圧10V〜1000V(室温23℃、相対湿度30%)での抵抗値(電気抵抗値)を、10^9Ωオーダー、すなわち10^10Ω未満となるようにするとよい。イオン液体を配合した後のエポキシ樹脂系塗り床材の電気抵抗値が、上記条件下で10^10Ω未満となるようにすると、人が痛みを感じる静電気放電を抑えることができるため好ましい。この10^10Ω未満の抵抗値を実現するためには、例えば、無溶剤型エポキシ樹脂系塗り床材に対して、3質量%〜10質量%となるように、脂環式系イオン液体と脂肪族系イオン液体を配合するとよい。
【0031】
脂環式系イオン液体と脂肪族系イオン液体との混合比としては、その重量比(脂環式系イオン液体:脂肪族系イオン液体。例えば、脂環式アミン系イオン液体:脂肪族アミン系イオン液体)が、30:70〜90:10程度、好ましくは、45:55であると、当該エポキシ樹脂系塗り床材の塗膜性状や導電性への影響を少なくすることができる。脂環式系イオン液体の脂肪族系イオン液体に対する重量比が30:70より低いと(例えば、20:70)、塗膜の強度低下、導電性の低下を生じることがあり、重量比が90:10より高いと(例えば、95:5)、導電性が低くなり十分な帯電防止性能を得ることができないことがある。
【0032】
ここで、このような脂環式系イオン液体と脂肪族系イオン液体の混合比を変化させた場合におけるエポキシ樹脂系塗り床材の特性について図3の実験結果に基づき説明する。図3は、脂環式系イオン液体と脂肪族系イオン液体の混合比(重量比)と、このイオン液体の混合物を無溶剤型エポキシ樹脂系塗り床材に5質量%で配合して生成されるエポキシ樹脂系塗り床材の抵抗値(接地抵抗)と、の関係(実験結果)を示す表である。この実験は、JIS C 61340−4−1、に規定された測定方法に基づき行っており、温度(室温)23℃、相対湿度30%にて、無溶剤型エポキシ樹脂系塗り床材に対して5質量%で配合する脂環式アミン系イオン液体と脂肪族アミン系イオン液体との重量比を0:0(ブランク)から95:5まで変化させて抵抗値(MΩ)を測定したものである。抵抗値は、2点間表面抵抗(接地抵抗。分銅間30cm、印加電圧100V)によって測定した。
【0033】
図3に示すように、脂環式系イオン液体の脂肪族系イオン液体に対する重量比が0:0〜20:80、95:5では、抵抗値が1000MΩを超える値となる場合があり、導電性が低すぎて十分な帯電防止性能を得ることができず、また塗膜強度も低下する傾向にある。一方、重量比が30:70〜90:10では、十分な導電性(例えば、抵抗値が500MΩ以下)を備えた帯電防止エポキシ樹脂系塗り床材を得ることができ、特に重量比が30:70〜70:30の範囲で導電性が良好な値を示した。なお、重量比が20:80のものは、抵抗値が820MΩとなり、1000MΩ未満であることから、当該エポキシ樹脂系塗り床材の使用対象(例えば、床面の性状や種類、使用される建物の使用環境等)によっては、帯電防止エポキシ樹脂系塗り床材として十分に利用可能であると言える。
【0034】
本実施形態に係るエポキシ樹脂系塗り床材は、公知のエポキシ樹脂系塗り床材をベースとし、これに脂環式系イオン液体と脂肪族系イオン液体との混合物を配合するとよく、例えば、環式アミン系イオン液体と脂肪族アミン系イオン液体とを混合したイオン液体を、ベースとなるエポキシ樹脂系塗り床材に対して均一となるように混合するとよい。
【0035】
本実施形態に係るエポキシ樹脂系塗り床材の床基盤上への塗布方法としては、従来のエポキシ樹脂系塗り床材の塗布方法と同様に、例えば、所定量を床基盤上に塗布した後、乾燥・硬化させればよい。この場合、当該エポキシ樹脂系塗り床材の床基盤上への塗布量は、特に限定されないが、例えば、乾燥・硬化後(施工完了後)の塗布厚みが0.5mm〜2mm程度、好ましくは、1mm程度となるようにするとよい。塗布方法としては、例えば金ゴテによる流し延べ工法等、通常の塗り床材と同様の施工方法でよく、一般的な使用量としては0.8〜1.2Kg/m^2程度となる。
【0036】
以上のように、本実施形態に係るエポキシ樹脂系塗り床材によれば、エポキシ樹脂と、脂環式系イオン液体と、脂肪族系イオン液体とを含むことにより、印加電圧10V〜1000Vでの電気抵抗値が10^10Ω未満となり、十分な帯電防止性能を実現することができる。このため、通常の作業靴を着用した場合であっても痛みを伴う静電気放電(人体帯電電位2500V以上)の発生を抑えることができ、さらに、静電靴を着用すれば人体帯電電位が200V程度となり、高い帯電防止性能を得ることができる。
【0037】
従来の一般的な帯電防止塗り床材では、樹脂材料に金属粉やカーボン等の導電性フィラーを多量に混入させることで目標とする抵抗値を得ていたが、本実施形態に係るエポキシ樹脂系塗り床材では、従来より用いられている一般的なエポキシ樹脂系塗り床材に対して、脂環式系イオン液体と脂肪族系イオン液体の混合物を配合するだけで簡単に生成でき、材料コストや製造コストを低減することができる。
【0038】
すなわち、本実施形態に係るエポキシ樹脂系塗り床材は、帯電防止性能を持たない一般的なエポキシ樹脂系塗り床材と同等の材料コストで生成することができる。また、その塗布構造は、単層構造でよいため、床基盤上への施工方法も一般的なエポキシ樹脂系塗り床材と変わらず容易であって施工コストも同等となる。勿論、当該エポキシ樹脂系塗り床材に対しても、金属粉やカーボン等の導電性フィラーを混入させ、抵抗値をより低くして帯電防止性能を高めることができるが、この場合にも、導電性フィラーの混入量は少量でよく、原料コストや製造コストを抑制できる。
【0039】
例えば、図4に示すように、床基盤10の表面上に、従来のエポキシ樹脂系塗り床材の場合と同様、下地となるカーボン層12を施工し、その上にトップコート層として、本実施形態に係るエポキシ樹脂系塗り床材に導電性フィラーを混入した帯電防止エポキシ樹脂系塗り床材14を施工する。カーボン層12は、従来のエポキシ樹脂系塗り床材の使用時と同様に、抵抗値が10^6Ωオーダーのものを用いればよい。このように、床基盤10上に、カーボン層12と、トップコート層である帯電防止エポキシ樹脂系塗り床材14を施工して、2層構造とすることにより、例えば、印加電圧が10V〜500V未満では抵抗値が10^9Ωオーダーであり、印加電圧が500V以上では抵抗値が10^6Ωオーダーとなり、高い帯電防止性能を実現することができ、またコストも従来のエポキシ樹脂系塗り床材と同等に抑えることができる。
【0040】
本実施形態に係るエポキシ樹脂系塗り床材は、一般的なエポキシ樹脂系塗り床材と同様に施工することができるため、例えば、はつり工事が困難な工場等において、既存の塗り床の上から塗り重ねるような改修工事についても有効に用いることができ、これによっても痛みを伴う静電気放電の発生を抑制することができるようになる。なお、このように既存の塗り床の上から塗り重ねる施工の場合において、より確実に帯電防止性能を発揮させたい場合には、当該エポキシ樹脂系塗り床材を塗布した塗り床表面を導線等で接地するとよい。
【0041】
本実施形態に係るエポキシ樹脂系塗り床材では、脂環式系イオン液体として脂環式アミン系イオン液体を用い、脂肪族系イオン液体として脂肪族アミン系イオン液体を用いることにより、その塗膜物性を低下させることを防止でき、より均一な塗布が可能となり、また、塗布後の塗り床の耐久性を向上させることができる。
【実施例】
【0042】
次に、本実施形態に係るエポキシ樹脂系塗り床材の帯電防止性能実験の結果について説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものでないことは勿論である。
【0043】
実験は、脂環式アミン系イオン液体(例えば、N−メチル−N−プロピルピペリジニウムビスイミドを含む脂環式アミンの混合物)と脂肪族アミン系イオン液体(例えば、ヘキシルトリメチルビスアミドを含む脂肪族式アミンの混合物)とを重量比5:2で混合した混合物(イオン液体)の含有量が、ベースとなるエポキシ樹脂系塗り床材A(商品名「ケミクリートE」:株式会社エービーシー商会製)の全体量に対して、5質量%となるように、室温10〜30℃で容器内で混合し、エポキシ樹脂系塗り床材Bを調整した。
【0044】
そして、上記のエポキシ樹脂系塗り床材Bを、スレート板の床基盤上に、硬化後の塗布厚みが1mmとなるように塗布して硬化させた。その後、特別に帯電防止機能を持たない通常の作業靴を着用した場合と、帯電防止機能を持つ静電靴とを着用した場合とについて、それぞれ人体帯電電位を測定した。
【0045】
図5に、イオン液体を添加したエポキシ樹脂系塗り床材Bを塗布した塗り床で通常の作業靴を着用した場合の人体帯電電位の測定結果を示し、図6に、イオン液体を添加したエポキシ樹脂系塗り床材Bを塗布した塗り床で静電靴を着用した場合の人体帯電電位の測定結果を示し、これらの測定環境条件は、室温22.4℃、相対湿度36%である。
【0046】
また、比較例として、図8に、イオン液体を添加していない一般的(帯電防止性能を持たない)なエポキシ樹脂系塗り床材Aを塗布した塗り床で通常の作業靴を着用した場合の人体帯電電位の測定結果を示し、図9に、イオン液体を添加していない一般的(帯電防止性能を持たない)なエポキシ樹脂系塗り床材Aを塗布した塗り床で静電靴を着用した場合の人体帯電電位の測定結果を示し、これらの測定環境条件は、室温23℃、相対湿度40%であった。
【0047】
先ず、エポキシ樹脂系塗り床材Aを塗布した塗り床において、通常靴を着用した場合には、人体帯電電位は2000V以下となっており(図5参照)、人が痛みを感じる静電気放電(人体帯電電位2500V以上。図7参照)の発生を抑えることができた。一方、従来の一般的なエポキシ樹脂系塗り床材を塗布した塗り床では、人体帯電電位は2500V以上となっており(図8参照)、人が痛みを感じる静電気放電が発生する。
【0048】
次に、エポキシ樹脂系塗り床材Aを塗布した塗り床において、静電靴を着用した場合には、人体帯電電位は200V程度となっており(図6参照)、高い帯電防止性能を得ることができた。一方、従来の一般的なエポキシ樹脂系塗り床材を塗布した塗り床では、人体帯電電位は1000V以上となっており(図9参照)、静電靴を着用した場合であっても、ある程度の帯電防止性能を得ることしかできなかった。
【符号の説明】
【0049】
10 床基盤
12 カーボン層
14 帯電防止エポキシ樹脂系塗り床材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10